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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart79【創作】
0001作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/05/05(土) 16:11:07.20ID:Cg4doURR
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の作品は>>2以降テンプレで。

前スレ
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/ymag/1404139251/
まとめサイト(バレ氏)
ttp://ss-master.saku@ra.ne.jp/baki/index.htm(ジャンプの際は@削除)
WIKIまとめ(ゴート氏)
ttp://www25.atwiki.jp/bakiss
0068永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:20:47.99ID:+1rFHYEW
第107話 「緒戦の終わりに」

 振動が覚醒を促す。呻きと共に取り払った深淵の向こうに細道が広がった。頬に当たる冷えた微風の心地よさにしばし
前のめりのまま、ぼうっと所在無げに正面を眺めていた『彼』は「えッ!?」と鋭く叫び上体を起こす。その拍子に転がり落
ちそうになってようやく彼は自分が何かに乗せられ運ばれているのに気付いた。

「フ。気付いたか」

『彼』の覚醒を決定的にしたのは、やや前方で振り向く長い金髪の男だ。(確か……音楽隊の、総角……!) そう思った
『彼』が反射的に左右を見渡したのは、激闘の映像が怒涛の如くフラッシュバックしたからだ。

 敵は、いない。面食らった様子で振り返ると森はもう100mほど後方に遠ざかっている。乗っている『何か』は主婦の乗る
スクーターぐらいなら追い抜けそうな速度だ。勘案すると森を出てまだ間もないらしい。

(あれから何が……? いや! そもそも!!)

『彼』はただただ愕然とした。何しろ生きて森を遠ざかるコトなど絶対ないと思っていたのだ。頚動脈を自ら切り、その出血
すら枯渇によって停止したのを確かに覚えている。

「なのになんでボクは生きてる! 答えろ! 総角!!」

『彼』……犬飼倫太郎はたまぎるような悲鳴を上げた。(ま、まさか死後の世界だったり……? コイツともどもやられた……?)
という益体もない考えが浮かんだが、果たして有り得るのかと思う。自分ならともかく、仮にも音楽隊の首魁が、あらゆる武装錬金
を操り、剣腕においても早坂秋水と互角以上の男が殺されるコトなど有り得るかと聞かれれば否だろう。

(だってさっき、根来だってあの場に……)

 そもそも犬飼は辛うじて生きているという感じでもない。連休の中日(なかび)の、たっぷりした睡眠から目覚めた朝のよう
に精気が満ちている。(だいたい、血が……)とひらひら何度も翻した掌も、ふっくらした血色に彩られている。普通なら絶対
ありえない現象に、「まま、まさか、死ぬ直前の夢だったりしないよな!? 目覚めたらイオイソゴに喰われているとか嫌だぞ!」
と救いを求めるよう総角に叫ぶと、彼はやや表情を引き攣らせたがすぐ悠然と

「フ。現世であり現実さ。お前が生きているのはだな」
「衛生兵の武装錬金よ」

 艶やかな声に右を向くと、何かに跨っている円山円が居た。(えッ!!) 犬飼の顔面は崩れた。言葉の意味より彼が健在
であるのが意外だったのだ。先ほど左右を見たとき認識できなかったのは意識のどこかにまだ靄がかかっていたせいか。

「お、お前、無事だったのか!? 木星の幹部の錐が直撃しかけてたよな!? どうやって避けた!?」
「あー、そっちは」
 ニアデスハピネスさ。得意気に告げる総角の説明は、自画自賛と勿体つけに塗れていたが、要約するとこうだった。

「イオイソゴに九頭龍閃を見舞う直前、俺はニアデスハピネスを飛ばしておいた。森の出口で風船スーツを割ったあの錐の
目指す先が気になったんでな。あとは円山の気配とか、錐の殺意の向かう先とかを探って」
「本当直撃寸前だったけど、何とかあの錐の爆破が間に合い難を逃れたって訳」

 で、ハズオブラブだったかしら、総角が金星の幹部からパクってた衛生兵の武装錬金で完全回復。ぴかぴかツヤツヤの
状態で嫣然と微笑む円山に(そういえば盟主の特性合一で負わされた傷も……)治っていると犬飼は呻く。

「で、そいつでお前も治したんだが、フ、実をいうと相当危なくはあった。何しろ頚動脈を切ったんだからな」
「…………」
「ハズオブラブ。本家は蘇生能力すらあるが、俺のこれが治せるのはせいぜい24時間以内に負った傷ぐらい……」
「総角の見立てじゃ、あと10秒施術が遅かったら死んでたそうよ」
 でもまあ、助かって良かったわね。からかいの中にどこか嬉しさを混ぜて声を弾ませる円山だが、犬飼はみるみると蔭を
濃くした。
「…………ざけるな」
「ん?」
 幽鬼のような声をさすがに聞き逃したらしい金髪の美丈夫が目をパチクリしたのが呼び水、怒声が大地をつんざいた。
0069永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:21:07.54ID:+1rFHYEW
「フザけるな!! どうして助けた!!? どうしてあのまま死なせなかった!!!」
 なぜコイツは怒ってるんだという顔をする総角。円山は「……あ、そういえば」と何かに気付く。
 2人の反応に犬飼はいよいよ声を荒げる。
「『また』だ!! またボクは! 怪物の手で!! 怪物なんかの……手で…………!!!」
 生き延びてしまった、生き延びさせられて……しまった。そうザラつく声は次第に涙声へ変じていく。
「大戦士長だって……殺されたんだぞ……! 生首になっていましたとどうして報告できる……! 合流できたとして……
どうして…………!」
 ボクにはもう先なんてないのに、どうして…………! 洟をすする音に怨恨すら混じる。
(……なるほど、そういう理屈か)
 戦団と共闘する都合上、総角だって奥多摩の一件は知っている。円山に到っては直前の現場に居た。
(ヴィクターV武藤カズキに情けをかけられ生き延びてしまったのを恥じた犬飼ちゃんは、”だからこそ”木星の幹部との
戦いであれほど命を賭けられた。『生首』に行く末を悟り……当てつけるように、死に場所を捜すように……)
 その、結果が……ッ! 握った拳の内側から血の筋が何条も垂れるのも構わず、犬飼はなおも力を込める。
「あれだけやった結果が……、また……だぞ!! また怪物に……音楽隊のホムンクルスに……助けられて終わりとか
やっと得られそうだった恩賞すら取り消しの状態で……生き続けろとか…………フザけるな。フザけるな…………!!!」
 いつしか彼は大粒の涙を流している。臆面もなく俯いて、眼鏡に裏側から熱い水滴を落としている。無念と慙愧の戦慄き
は子供じみてすらいる喉の痙攣となって大気を鼓(こ)す。

(こういう時、なんていってあげればいいのかしらね……)

 円山は珍しく斟酌する方向で思案する。これまでからかってきた犬飼だが、先ほどの戦いで見せた策謀と気骨ですっかり
見直しているのだ。”それ”を伝えても、”それ”が怪物に助けられた命を散らす一念から出たものである以上、奥多摩の
二の轍となってしまったこの結末の中では到底なぐさめには成り得ないだろう。

「フ」

 総角は、笑う。

「犬飼……だったな。そこに不満を抱くのはな、結局、お前がまだ、どうしようもなく弱いからさ」
(ちょっとソレ言う!!?
 円山はムっとした。実際この発言で犬飼の目が憎悪に黒く燃えるのも目撃した。
(ああもうこれじゃ繰り返しになるでしょ!! ヴィクターVに抱いていた怒りの対象が今度はアナタに移るだけで!!!
そしたらまたどっかで犬飼ちゃんがヤケ起こしてああいう無謀な戦いを……!!)
 人間とは不思議な物で、自分が軽く扱っている存在が、さほど親交のない者に嘲弄されると『いやいやそれは言いすぎ
でしょ』と擁護したくなる。だいたい犬飼が──屈折した思いの末とはいえ──自分を逃がすため命を張っているのをずっと
感じてきた円山だ。男性的な側面では仁義があるし、女性的な側面では胸キュンがある。
(それを最後ちょっと出てきておいしい所かっさらったアナタが馬鹿にする!!? 冗談じゃないわ縮めてやるわ!)
 もっとオブラートに包んだ言い方もあるだろうとバブルケイジを飛ばしかけたその時、金髪の美丈夫は軽く目で制し……

「フ。未熟さ未熟さ、ああ未熟」

 ボルテージを高める犬飼に構わず、顎で、しゃくった。彼を乗せている『それ』の頭部を。

「自分が何に乗っているかさえ気付かないうちは……フ、まだまだ未熟と知るがいい」

 何を……と総角の視線を手繰った卑屈な青年の動きが固まる。

『何かに乗っている』という感覚から彼は無意識のうちに自分がキラーレイビーズに揺られていると思っていた。何故ならば
追撃戦の最中ずっとだったからだ。

(けど……)

 考えてみれば4頭の軍用犬は総て自爆したではないか。しかも犬飼は直後に気絶……。再発動のしようはない。

 ならば、である。

 犬飼倫太郎を背に乗せていた武装錬金は……『何だったのか』?

 ……正体を見極めた彼は運命の数奇を痛感した。
0070永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:21:33.21ID:+1rFHYEW
「これは……じいちゃんの…………」

 犬飼の祖父の、探査犬の武装錬金、バーバリアンハウンドだった。

「ば、馬鹿な!! なんでここにある!!? じいちゃんはとっくに死んだんだぞ!! 核鉄だって戦団に返した!! 現存
している筈が……!!」
 はあ。円山は嘆息した。
「ニブいわねえ。さっきまであれだけ鋭かったのに……」
「いや分かってるなら説明しろよ円山! どういうコ……あ!!!」

 犬飼は、気付いた。創造者本人が死んだとしてもその武装錬金を『複製』しうる存在がすぐ間近に居るコトに。

「フ。御名答。10年前コピーしていたのさ。そしてやはり孫だったようだな」

 音楽隊リーダー、総角主税はしてやったりと微笑する。そんないかにも挫折しらずな態度が、落ちこぼれの怒りをます
ます誘う。

「コピーしたって……いったいどうやって!!?」

 本人からの提供さ。美丈夫は歌うように答える。

「話すと長くなるが『持っていた方が役立つ』だろうと見せてもらった。軽くだがハンドラーの講習も受けたぞ?」
「……だ! だから何だっていうんだ!!? ボクがまた怪物に無理やり命を拾わされたという事実に変わりは──…」
「ある」
「はあ!!? なんでだよ!!」
「バーバリアウンドハウンドだからだ。俺をお前の元まで導いたのが、お前の祖父の、バーバリアンハウンドだからだ」
「…………!!」
「フ」

 唇を綻ばせながらも少し真顔になった剣客は、口調を一転、諭すように話し始める。

「紆余曲折を経て銀成からこの付近へ転移した俺は、他の戦士と合流すべくバーバリアンハウンドを展開していた。錬金術
の産物を嗅ぎ分けるこの武装錬金なら、既に現着している戦士たちをたちどころに見つけられる……そう考えてな」
「……」
「で、しばらく進んだ所で、お前たちの戦っている現場に導かれた訳だが……」
「……」
「バーバリアンハウンドはな、犬飼、迷うコトなくお前を向いた。すぐ傍にイオイソゴが居たにも関わらず、お前の方を」
「……そんなの、たまたまじゃ…………」
「かも知れないな。だが俺は符合を感じた。犬飼戦士長から孫の話……聞いてたからな。じゃあもしかすると、彼の魂が、
お前を助けろとそう言っているのかなと、思った」
 だから助けた。ハズオブラブで回復させた。それだけさと告げる総角に、らしくもない感傷が漂っているのを円山は見た。
「……俺自身、バーバリアンハウンドにはな、結構……助けられていたりするんだよ。戦団に26個もの核鉄を献上できた
のだって、それで処刑を免れたのだって、元はといえばこの武装錬金のお蔭だし……。貴信や香美のような、絶体絶命の
場所にいた連中を見つけたコトだって一度や二度じゃない」
 みるまにキザったらしさが抜けていく口調は、『素』のものであるのかしらとも円山は思う。
「…………」
「だからな。お前の祖父に助けられていた俺という命が、お前という孫を見捨てるというのは……できなかったんだよ。そ
れで不快な思いさせたつうなら謝るけどだな、でもお前、死ぬっつうのは本来イヤなコトだぞ? 本人がどれだけ満足して
ようが、遺された方は絶対に後味悪い思いをする。なぜ助けられなかった、なぜ助けようともしなかったと……」
「……。じゃあお前は、怪物(おまえ)の満足のためにボクに屈辱的な生き方しろっていうのか…………?」
「そこさ」
「は?」
「そーいう物の考え方自体が既に弱者だと思うがな」。やや従前の、スカした眼差しに戻った美丈夫は得意気に片頬を釣り
上げた。「怪物に生かされる』……? フ、そんなもの、しみったれた隷属根性だろ?」
 言わせておけば……凶相で歯軋りする青年から飛び散る殺意の輻射をしかし涼しげに受け流した総角は犬飼の額に人
差し指を突きつける。先ほどまでキラーレイビーズで先行していた筈の彼が距離を詰めているのは、鮮やかな軍用犬捌き
でスルスルと、瞬く間に接近したからである。
(クソ……! もう使いこなしてやがる……!!) 総角に武装錬金を複製された者なら必ず一度は催す器用さへの怒りに
眉も頬も強張らせる犬飼。その額の皮膚を人差し指の爪で以って軽くへこませながら総角は、告げる。
0071永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:21:50.10ID:+1rFHYEW
「覚えておけ」

 奇妙な符牒がある。

 同刻。

 どこかの、暗い一室に放り込まれた戦部厳至は、去り行く盟主の後姿を獰猛なる狩人の笑みで見送っていた。

「覚えておけ。強者は怪物に生かされようが何の屈辱も感じない。『ラッキー、次は殺す』とせせら笑ってハイ終わり。世界は
自分を生かして当然なのだと付け上がる。それができないのは要するに諦めているからさ。気まぐれで自分を生かしやがっ
た奴を絶対斃せないと無意識にそう決め付けてしまっているから……命を支配された気分になって、だから……恨む」
(…………!)
「だいたいだな、お前はヴィクターV武藤カズキを怪物怪物と恨んでいるようだが、冷静に考えてみたらどうだ? 奥多摩で
出逢ったころの彼はまだ、心身ともに完全には怪物にはなりきっていなかった……だろ?」
 くっ。犬飼は致命的な衝撃に顔を歪ませた。
(うんまあ、そうではあるわね。再殺対象ってコトで私たちみんな追い立てていたけど、戦団の予測では、カレのヴィクター
化完了は夏休みが終わる頃。で、私と犬飼ちゃんがカレと遭遇したのは夏休み序盤)
 じっさい武藤カズキの肌はヴィクターのような赤銅色ではなかったし、エナジードレインだって常時ダダ漏れではなかった。
「進行はしていた。されど進行に到るきっかけは彼自身が望んで引き寄せたものではない。いわば……被害者だろヴィクターV
は。そりゃ犬飼よ、お前の憤りは分かる。俺だって捻じ伏せられたあげく上から目線の説教をトドメ代わりに叩きつけられた
ら快くは思わんさ」
 けどな。よーく考えてみろ。総角は、説いた。
「お互い様って感じはしないか?」
「は?」
「だから、腹の立つコトを相手に仕掛けたのはお前だって同じだぞ? だってヴィクターVは被害者……だからな。正しい
心でただ戦士として頑張っていただけなのに、ある日トツゼン化物認定されて追われる破目になった。それでも人間に戻る
ための手がかりを掴みたいから、そのために人を傷つけたら本当に怪物になってしまうから、だから道を開けてくれと、戦
う前に頼んだであろうにだ」

「お前、問答無用で殺しにかかっただろ?」

 犬飼は黙った。ひたすらに黙った。ひたすらに黙って、空気のカタマリを半ばで留めた首をば軽く伸ばし──…

 当時の自分の振る舞いを反芻した。


──「遊びなら帰れだと? ハイそうですかって訳にはいかないね!」

──「貴様を斃して手柄を挙げておけば、次はもっと楽しいヴィクター退治が待ってるんだよ」

──「降参しても許さないッ。女戦士と三人一緒に、逝 け !!」

 嫌な汗がダラダラ流れ始める。理詰めで自分の罪を完膚なきまでに叩きつけられとき特有の、足元が崩れそうなヒリついた
浮遊感が全身を支配する。

「フ。そうさ。お前だって、ヴィクターVに大概なコトしたよな? 追われるっていうドン底の状態で、なおも正しいコトしようと
足掻いてるだけの少年の、未来とでも呼ぶべきものをお前は刈り取ろうとしてたんだからな?」

 それは犬飼の相手に対する怒りの根源とほぼ同形だった。

(揺らいでる揺らいでる)

 円山は犬飼を楽しげに見た。

「なのにお前……『助けられた』からな?  見殺しにされても仕方ないコトしたのに、救われた……からな? なのに恨むっ
てどうなんだ? 明治時代にアームストロング砲で牛鍋屋ふっとばした幕府方でさえ最後には武士の誇りを取り戻して命救
われたコト復讐相手に感謝したのに、お前は今のままで本当にいいのか?」

 ホ、ホムンクルスなんかに説教される謂れ……犬飼は声を張り上げようとするが、意気はいまいち上がらない。
0072永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:22:11.00ID:+1rFHYEW
「フ。つまらぬ怒りに支配されるのは自信がないせいさ」
 フキダシが犬飼の左胸を貫通した。小言は更に続き、その総てのフキダシはプスプスプスプス犬飼の全身を穿った。

「っの! 言わせておけば……!」

 逆上し、拳を振り上げかける犬飼だが、

「フ。そろそろ自信と言う奴を持ってみたらどうだ? お前はあのイオイソゴと知略で渡り合ったんだぞ? 生きて研鑽を積みさえ
すれば今は無理でも1年後2年後は強者になれるかも知れないのに……今日その切符を得たというのに、お前はまだ、死に
たいのか? 可能性を捨てる姿勢(ほう)にしがみつくのか? 以前の、嫌いで、不活発だった頃の自分を保ちたいのか?」

 思わぬ言葉に殺意が萎む。

「『祖父の救った奴が人を救う』……それに憧れ命を捨てたがってる風に見えるお前なら、強者の理念で割り切ればいいさ。
『間接的にとはいえじいちゃんに助けられた音楽隊首魁がその恩義を自分に捧げた、救命という形で献上した』……とな。
フ。どうだ円山この理論。これなら怪物ではなく人間に救われたというコトになるだろう」
「ならないわよ。詭弁もいいトコ」
 円山は微苦笑するほかない。
「そうだ。そんな理屈で…………納得できる訳……ないだろ」
 俯く犬飼の震えはもっともだ。彼にとって総角など、人生にポっと出てきただけの男ではないか。ホムンクルスでもある。
そんな男の言葉に感銘を受けられるほど素直なら、そもそも『ヴィクターV』にあれほどイラついたりしなかった。
 という機微を朋輩ゆえ分かる円山が先ほどから掛けるべき言葉を模索しつつも手詰まり感の前に沈黙せざるを得なかっ
た……というのは前述の通りだが、彼は、ふと、気付いた。
(総角いま、さらっと大事なコト言ったわね)

『祖父の救った奴が人を救う』……それに憧れ命を捨てたがってる風に見えるお前。

 この初耳のアイデンティティ、今まで犬飼が、からかわれるのが嫌で決して話さなかったであろうこの秘密を円山は衝く。

「でもさあ犬飼ちゃん」
「……。なんだよ」
「あなたに続く人って……生まれた?」
「何の話だよ! よってたかってエラそうに説教しやがって──…」
「聞いて」
 らしくもなく円山が真剣な眼差しで制すると、青年は、黙った。凛然たる視線に気圧されたらしい。
「あのね犬飼ちゃん。さっきの戦いで思い通り死ねていたとしても……、それでもやっぱり悪く言う人はいたんじゃないかしら。
犬飼ちゃんは、落とし前さえつければ、残った戦士全員、自分を肯定して、二度とあざ笑ったりしなくなると思っていたかも
知れないけど、でもほらニンゲンって、そこの怪物より残酷よ?」
 と顎でしゃくったのはもちろん総角だ。彼は「まぁ、な」と片目つむり肩を竦めた。辛酸嘗め尽くしているむきがあった。
「フ。人の本質の1つだろうな。見下している相手に、自分より大きな戦果を上げられたら……不愉快になりこそすれ、祝福
などしないというのは
 犬飼の表情は強張る。総角のセリフに気付かされた……訳ではない。左様な簡単なコトなど無意識の中ではとっくに気
付いていたのだ。なぜなら犬飼自身そういう類型ではないか。地球を救ったヴィクターVが戦団内において英雄視されつつ
あるのを確かに認識しながらも、助命された怒りのせいで、アイツは怪物だという蔑視のせいで、賞嘆できない……いや、
賞嘆したくないという心理境地に夏からずっと陥っているではないか。
 なのに──命を捨てても、自分が期待したほど周囲は評価を改めてくれないだろうというのを薄々気付きながらも──
一方では、イオイソゴとの戦いで死に向かう自分が必ず総ての戦士から見直されると信じ込んでいたのはつまるところ卑屈
ゆえに長年培ってきた自己愛のせいだろう。『このボクがこれだけやっているんだ、褒められて当然だ』という、人間なら大な
り小なり有している期待感が、人の本性を露にするとよく言われる生死の切所において地金を覗かせるほどに、犬飼の人間
への認識は、甘かった。さんざん見下されてきた癖に……というなかれ。不思議な話だが、さんざん見下されてきた者ほど
『大きなコトをやりさえすれば認められる』といった認識が甘く大きくなる傾向にあるのだ。

「じゃあ……どうすりゃいいんだよ。大戦士長は殺された。ボクは怪物に永らえさせられた」

 私には分からないけど……と前置きした円山は云う。

「人に認めさせるっていうのは、人を動かすってコト……よね?」
「……ああ」
0073永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:24:42.92ID:+1rFHYEW
「じゃあアナタが犬飼戦士長にあれだけ動かされていたのは……どうして? 彼が捨て鉢だったから? あの人の何が、
アナタの心をあれほどまでに捉えていたのか…………」
 私は人の心を洞察するガラじゃないけど、さっき戦部がアナタの心とか、セリフを、そっくりそのまま返すコトで……結果
的にだけれどアナタの考えをまとめるきっかけを作ったでしょ、だから私も似たようなコトをすると麗人は続け、
「いまアナタがどうしようもない状況になっているのは分かるわよ。大戦士長が首だけにされて、なのに一番戦犯にされや
すいアナタは生き延びてしまって、素直に報告しても、しなくても、得られる筈だった栄誉は遅かれ早かれ喪ってしまう……
確かに辛い状況よ。ドン底ね。私が犬飼ちゃんの立場ならやっぱりね、死んでいた方がマシって思うわよ」
「…………」
「じゃあどうすればいいか……なんて答えは簡単に出せない。出す方が無責任よ。それでもね、考えをまとめるコトだけは
できる。覚悟を固めるコトはできる。要領なんてイオイソゴと戦っていた時と同じでしょ。何が大事で、何を優先するべきかを
ただ整理して順番に実行していくだけでいい。そして犬飼ちゃん、さっきまでソレ、できてたでしょ?」
「…………」
「だったら今度はどうすれば人を動かせるか……人に認めさせられるか……ドン底の中から探っていくコトだって可能……
そんな気には……まだ、なれない?」
「……そうしてきたつもりだよボクは」
 犬飼の口吻には諦観と倦怠が満ちている。正しい道にいけるよう自分なりにあがいてきたつもりなのに、いつだって返って
くるのは心なき言葉……そんな経験則にどっぷり染まってしまっている口調だった。今からまたやり直したいと思っているの
に、大戦士長落命という衝撃事実の咎総てこれから自分から背負わされるのが分かってしまっているから、その辛さが今ま
での比ではないと予想できてしまっているから、だから暗澹にしか振る舞えない……極めて人間らしい失意の底に彼は在る。
「でも……アナタだって、人を動かせるから」
 円山にはもう計算はない。思ったままをただ告げて……笑いかける。いつもやっている見下しの笑いではない。好意の
たっぷり詰まった微笑である。らしくもない表情にきょとんとする犬飼に、重ねて麗人……宣告した。
「私を逃がすため、あの木星の幹部に1人立ち向かっている時の犬飼ちゃんは……カッコよかったわよ? おかげで私は
救われた。命をあの恐ろしいイオイソゴから守ってもらったから、だから私はこれから先、何があっても犬飼ちゃんの味方を
する。約束する。誰かがヒドい言葉を投げかけた時、私はさっきの戦いを語り弁護する。ね? だから……ソレって、動かさ
れてるってコトじゃない? 犬飼ちゃんの一生懸命な戦いは、人を動かす魅力があるって、そんな感じがしてこない?」
 犬飼は無言で頬をつねった。さもあらん、円山円とは斯様な台詞を吐く者であったか。
「……失礼ね」
 彼は……そう、『彼』は唇と双眸を尖らせて抗議する。そのくせ頬だけはほんのり紅い。「あー」ときまりが悪そうにボヤいた
のは総角だ。キザったらしい彼でさえ一瞬迷うほどの色香が散ったのだ、円山から。
「いくら私でも、命を救われたら最低限の礼儀ぐらい尽くすわよ。だいいち今まで通りじゃ痛い目見るってこの夏学習したのは
犬飼ちゃんだけじゃないし……!」
「……だったなあ。お前も、津村斗貴子に、なあ」
 縮めて鳥カゴで飼おうとしたら体内から胃を裂かれた……そんな経験が若干ながら改心を誘っているらしい。
 ただ円山の妙なしおらしさには犬飼ならずとも戸惑うだろう。だいたい妙に艶かしい表情には(こいつ男だからな、男……
だからな)と、余計な葛藤さえ生まれてしまう。
 が、人として、ちゃんと向き直られると、落ちこぼれの弱味、誠実に向き直らずに居られないのが犬飼だ。
「まず断っておくけど、ボクがお前を救おうとしたのは個人的な好意じゃないからな? あくまでバブルケイジの特性が伝令
向きだから、こっちが足止め引き受けて、結果守るカタチになったってだけで、だから、なんだ、暖かな感情で守ろうとした
訳じゃない……ってのは理解した上での話だよな、味方の件は」
「ええ」
「あと……総角が来なかったら死んでたってのも織り込み済みか? 白状するけど、最後のアレだけはもう、ボクではどう
しようもなかったからな?」
0074永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:25:10.16ID:+1rFHYEW
「ええ。承知してるわ。でも総角が到着するまで、大木とか、鋭い枝とかから守られていたのもまた事実でしょ? 動機は
どうあれ守られたのは事実。なのに伝令の役目が終わったら犬飼ちゃんを馬鹿にする側へ回るとか……最低でしょ?」
 だから私はアナタの味方をする。それでイイじゃない。うんうんと円山は1人かってに納得して頷きまくった。
 が、犬飼はまだ納得した様子ではない。(やっぱホントは死後の世界だったりするんじゃ……)とか、(実はイオイソゴの
奴に忍法ナンタラで乗っ取られているとかそんなオチがあったりは……)とか色々不安げに瞳を泳がせる。

「私じゃ……不足……?」

 円山は双眸を潤ませた。可憐な少女のような、たおやかな問いだった。

「わああ!! やめろそういう表情やめろ!! 分かったから!! み! 味方してくれるならそれに越したコトないし、感
謝もするから!! だから女っぽいカオだきゃするな頼むから!!」

 奇妙な友誼(?)が結ばれた。

「フ。イイ感じのところ恐れ入るが、犬飼に円山よ、俺はどう扱う? いちおう命の恩人だと思うが?


「どうせレティクルが片付いたら次は音楽隊……だろ?」
 涙の塩分を除きたいのだろう、眼鏡を取った犬飼は睨み据えながら宣告する。
「倒すよいつか。さっき言った色々……許しちゃおけない」
 などといいつつ笑みを浮かべ、総角も呼応するから円山は分からない。
(英雄じみてしまったヴィクターVよりかは復讐しやすいってコトなんでしょうけど……言葉の割りに爽やかねえ。もしかして
満更でもない? 総角のコト)

 よく、分からないが。
 いつか倒すの”いつか”まで生きるコトにしたのは……確かだろう。『ヴィクターV』の後よりも一歩先に、ようやく踏み出せ
たらしい。

「…………」

 涙まみれの眼鏡をどこからともなく取り出したハンカチで拭く犬飼の表情は、長年の強張りの溶けた、安らかなものだった。

(…………悪いコトをしたんだな、ボクも、ヴィクターV……いや、武藤カズキに…………)

 認めたくないコトだが、それを認めて強さを得られたのが後にタングステン0307と呼ばれる追撃戦だから

(……もし再びヤツに逢える日が来たのなら、復讐よりも、まず──…)

「フ。という訳で、お前の武装錬金、これから使わせてもらうからな」
「い? あ゛! お前!! そういや乗ってるのレイビーズじゃないか!!」

 驚きのあまりレンズが割れ、叫びは更に跳ね上がる。

「なに許諾取った感じになってるんだよ! というかさっきからずっと乗ってたよな!? ボクが目覚める前から無断で使って
たよなソレ!!」
「フ。報酬として割り切ってもらおう」
「何が報酬だ! 命助けたのはじいちゃんへの義理って感じな話の流れだったろ!!」
「それはそれ、これはこれ。フ、お前の、救われたコトに対するわだかまりを溶くための、説法の料金って奴さ」
「だから!! 完全に割り切ってないし!! ああもう使うな! 解除しろよ!!」
「諦めなさい犬飼ちゃん……。私だってバブルケイジ……盗まれちゃったのよ……」
「フ、こっちは治療代。ついでにいうと激戦もな」
「ハア!? 待ちなさいよアナタ激戦は見てないでしょ!? 戦部のDNAだってこの辺には……」
「いやあった。円山(オマエ)の服に戦部の血が付いててラッキーだった」
「えなんで私のに……あ!! 真っ二つになった時! 盟主の一撃から私庇ったとき飛んだ血!?」
「だろうな。もしやと思ってさりげなく採取したら思わぬ超絶レアで俺もビビった」
「ビビったじゃない! お前どこまでパクるつもりだ!! ああもう倒す!! 絶対倒すからな!!!」

 瞳を三角にして怒鳴る犬飼に、「フ、いまや激戦とシルバースキン併用できる俺をか?」と線目で耳ほじりつつ応じる総角。
0075永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:34:13.56ID:+1rFHYEW
 ともかくも犬飼倫太郎、円山円、総角主税……合流地点へ!

 更に総角主税、【キラーレイビーズ】【バブルケイジ】【バブルケイジAT】【激戦】……ゲット!


「あ」

 犬飼は気付いた。肝腎なコトを聞きそびれていると。

「……オイ総角。根来は……どこだ? それからイオソイゴも……」

 あの恐るべき木星の幹部が追撃してこないというコトは……犬飼の心に期待が灯る。

「フ。それは──…」
0076永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:34:29.62ID:+1rFHYEW
 右肺が、肋骨ごと断ち割られた。回避運動も空しく、その刃は致命的なまでに直撃した。

 折れた刀を振りぬいたまま、5m前方で磔刑される敵を嗤笑(ししょう)にて見据えていたのは──…


 イオイソゴ=キシャク。


「被弾!? 根来が!!?」

 犬飼にとっては有り得ない局面だった。

「なんでだよ! ボクが最後に見たアイツはイオイソゴの章印を貫く正にその寸前だった!! 向こうだってお前らの連撃で
混乱状態! 盛り返せる訳がないだろ!!」

 責任は、私よ。
 名乗り出たのは……円山。
0077永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:34:47.54ID:+1rFHYEW
「?? な、なんでお前のせいで……!?」

 順を追って話そう。総角の声もまた痛嘆に満ちている。


 根来はゆく。千歳から光を奪った木星のもとへ
 恐るべき怒りと、殺意に、ただでさえ峻険と釣り上がっている瞳をいよいよ魔王の如く尖らせて──…

 犬飼決死の攻撃で、磁性流体化が解除されている章印へと!

 刃を、進める!!!

(もはや回避は不能……!? いや!!!)

 イオイソゴにはまだ切り札があった。
0078永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:35:11.03ID:+1rFHYEW
「忍法山彦。──」

 はてな。だがこの技は『心臓を貫かれたダメージを根来たち3人に返し全員即死』のため温存していたのではなかったか。
当時のイオイソゴはもうレイビーズの爪から抜け出ている。更に剥き出しになった章印を守ろうとする修復作業の余波で、
心臓の穴も埋まっているからとても根来必倒の忍法とはいえぬ状態ではあった。

 だが。

(ひひっ! 即死ばかりが忍法山彦の芸ではない!!)

 イオイソゴ=キシャクはダメージを転写した!! 何のダメージを? 直前のレイビーズCDの自爆のそれ? いや違う!!

(転写、すべきは……!!)

 根来の体の到るところがボコボコと膨れ上がり……爆ぜた。それでも彼は表情1つ変えず特攻を続行したが、やんぬる
かな、破裂の『空気を噴く作用』が姿勢を……崩す。


「ま、まさか、根来に転写したダメージっていうのは……」

 犬飼は蒼褪める。せっかく治癒し血液の戻った面頬が蒼褪めるほどに動揺した。

「そう」
0079永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:35:45.44ID:+1rFHYEW
(ばぶるけいじあなざーたいぷ!! 章印を露出させるため犬飼めが打ち込んだ円山の、無限増殖する風船爆弾の”だめえ
じ”を! 異物感ともども転写完了!!!)

 恐るべき逆利用! 犬飼は震慄した!  ああ! ただの痛覚であれば冷徹なる根来は黙殺し邁進できた! だが! 
『体内で弾ける風船爆弾』というダメージを転写された根来は、その空気を噴くアポジモーターのような作用を体内から強制
的に植えつけられ……斬撃の軌道を逸らされた!!

「イオイソゴから直接見えない場所に飛んでいたのが……災いしたわ」

 血管に墨を流されたような苦渋の顔色で円山が呻くのは、次の理由だ。

「つまりそれは私からもあの場の状況が見えなかったというコト……。もしカウンターの発動に合わせてバブルケイジを解除
できていれば……根来は勝てていたかも……知れないのに」
「……いや、どの道ムリだったさ。体内爆破がなくなれば復活……してたからな磁性流体化」

 或いはそういう二者択一も兼ねたカウンターだったかも知れない、お前に非はないさと告げる犬飼に「……そ? ありがと」
と円山はほんのり赤くなって頷いた。

(やめてそういう反応やめて)、総角は微妙な表情をしたが話を戻す。

「あとは躍り上がって刃を避けたイオイソゴが、幾つもの忍法で牽制しつつ退却へ移行。もちろん俺は根来に加勢したから、
一時はあの場で決着というところまで漕ぎ付けはした」

 しかし。

 胴拍子や弓矢の散らばる戦場で、根来や総角ともども息せき切っていたイオイソゴは再び『形見』……いや、牢の御剣
(みつるぎ)を使用。対する金髪剣士は凌いだあと再び九頭龍閃に移行すべくシルバースキンを発動、忍びは完全回避の
ため亜空間に没した。

「あの刀だ。……あの刀が、俺たちの予想を遥かに超えた威力で…………戦局を、覆した」

 牢の御剣。名称こそ物々しいが、風貌たるやまるで落ち武者の武器だった。まず鍔がない。刀身も柄から30cmばかり
の地点で折れている。総角の乱入直後に犬飼が目撃した牢の御剣の残影があたかも短剣のそれだったのは、つまり折れ
ているからだ。

 その短い刀を、イオイソゴは振った。根来との距離はそのとき彼が現空間を離脱していたため不明だが、総角からはざっ
と10mは離れていた。

 なのに。

 イオイソゴが舞うように一回転した瞬間──…

 地に落ちていた牢の御剣の影が突如として伸びた!! 10m先の総角の影に届くほど、伸びた!!

「その瞬間、シルバースキンの絶対防御を無視した斬撃が俺を薙ぎ」

 犬飼は後ろからだが気付いた。総角が腹部を押さえているのを。赤い水滴さえ乗騎たるレイビーズに点在している。

「そして根来が……被弾した」


 右肺が、肋骨ごと断ち割られた。回避運動も空しく、その刃は致命的なまでに直撃した。

 折れた刀を振りぬいたまま、5m前方で磔刑される敵を嗤笑(ししょう)にて見据えていたのは──…


 イオイソゴ=キシャク。
0080永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:36:29.15ID:+1rFHYEW
「あの刀はどうやら、武装錬金の防御特性を無視できるようだ。恐らくだが、握っているイオイソゴの、磁性流体と化した肉
体から伝播する錬金術的な電磁気力が本来の忍法にはない特性をあの斬撃に与えているのだろう」
「だから『亜空間』という根来の絶対防御陣も突破された……?」

 奇妙な話だが、根来の影はその時どういう訳か……透明な飛沫を吹いた。牢の御剣も、また。

 が、それに構わず彼は真・鶉隠れを敢行! 九頭龍閃で突っ込み辛いんだがと困惑する総角に横目でサインを送る。

「……? そうか! 奴の肉片を」
「回収しろと言いたかったのだろう。そうすれば俺が耆著を使えるようになるからな」 

 総角がコピーの条件はどれか1つ。武装錬金を見るか、創造者のDNAを手に入れるか。前者は当然知悉済みのイオイソ
ゴだから耆著の乱射は総角登場以降ひかえていた。

「ひひっ! じゃからわしの肉片からハッピーアイスクリームを複製させよう……などというのはこの場で勝てぬと認めたが
ゆえの消極的戦法よ!!」

 荒れ狂う忍者刀を物ともせず大股で踏み込むイオイソゴが再び牢の御剣を繰り出したのは、撤退に移行しつつある方針
と一見矛盾するよう思えるがしかし違う。こやつは多少叩いた程度では必ず追ってくる、わしが盟主さまたちの元へと戻る
道中道すがら必ず妨害してきよるから、しばらく行動不能にしておくべき……と考えたが故。
 同時に被弾の衝撃か、根来は亜空間から現空間へ落下した。牢の御剣はその影を狙う、影の刃が、狙う! 通常ならば
避けるべき一撃! だが根来は跪いたまま意外な行動に出る! 左から右にスススと動かした右掌を、地を這う刃の幻影に
なすりつけた! 「あ!」と呻いたのは彼の掌に銀色の分泌液が満ち満ちているのを目撃したイオイソゴ!!

「忍法。──」

 謡うようにささやく根来の手が打ったのは! やがて訪れる共闘における『秘鍵』! 対木星の……切り札!!

「そうか! 総角にDNAを取らせようとした素振りは」
「誘い水だったようね、イオイソゴを攻め込ませるための」

 幻妖も幻妖! 根来は刃の影に怪しげなる銀の斑を施した!! その場に、ではない! 影そのものに! それが証拠
に見よ! 影が動いても銀の斑は刀身の同じ場所にある!

「忍法。濡れぐるま。──」
(虫籠と筏の合作……? ち、ちがう! 根来めは伊賀忍法を使わん! ぐるま? 根来忍法で……『ぐるま』?」

「忍法百夜(ももよ)ぐるま。伊賀にもあるが根来にもある。影に作用する忍法」

 と根来が組み合わせたのは『忍法濡れ桜』! 本来なれば女体に施すべき魔技を根来は影に施した!

「ちい!!」

 イオイソゴが歯噛みしたのは、

(『先ほど自分がやられた合作を』さっそく応用しよったか!! 『忍びの水月の塗り方で』!)

 この局面で新たな忍法を創出されたからだが、しかし牢の御剣そのものは標的との距離を狂気の如く縮め。

 根来、再び被弾。面妖にも影ならびに牢の御剣、今またしぶく──…


「そこで更に牢の御剣の追撃に移りかけたイオイソゴだが、どういう訳か突然、熱に浮かされたような表情になり──…」

 踵を返し撤退。同時に根来も……

「………………」

 出血に蒼白となりながらもチラと振り返り、視線の先、いまだ伏せる犬飼に無言の、されど賞嘆の笑みを浮かべてから。
0081永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:36:59.13ID:+1rFHYEW
 斬りつけた地面へ稲光をば炸(はじ)きつつ埋没。姿を、消した。

「……なんでボクを見て笑ったんだよ…………」
「そりゃ暴いたからでしょ。時よどみとか山彦とかの初見じゃ対応不可の忍法を犬飼ちゃんが暴いてくれたからこそ」

 強烈無比なる牢の御剣に辛うじてだが対処できた、だから礼のような微笑を送った──…

「ね? 犬飼ちゃんが人を動かせるって論拠……分かったでしょ?」
「……”あの”根来ですら、なら確かにそうだけど…………でも全ッ然アイツらしくないよな本当か……?」

 俄かには信じられないという顔でハシハシと瞬きする犬飼。

「フ。どうかな」。総角は肩まである双鬢(そうびん)を揺すった。「そもそもお前たちを捨て駒にしなかったのだって、もしやっ
てそれで勝てたとしても楯山千歳は決して喜ばないから……だろうし」。

「……そーいう仏心みたいなのは外人墓地で見せて欲しかったケド」

 身代わりにされた円山円がイタズラっぽくギョロっと目を剥くのもむべなるかな。

「フ。人は変わっていくものさ。非情だった根来も戦友を得て人間らしい方向へ……」
「つうかお前、逃げる木星の幹部どうして追わなかったんだよ」
 スルーかい。イイ感じで陶酔してまとめかけていたのを犬飼に遮られた総角はちょっと情けなく表情筋を取り崩したが。

「俺も考えたが、奴のいる場所を視て諦めた」
「『視る』? ……まさか」

 そうさ。颯爽と笑う剣客。「俺は九頭龍閃の時あいつの顔を見た」。である以上、総角はイオイソゴがどこに逃げようが一瞬
で捕捉できる。

「なるほどヘルメスドライブ……! にも関わらず根来との戦いで弱っている彼女をワープで追撃しなかったのは、つまり!!」

 イオイソゴは、地中20mを、進んでいた。

 服を含む全身と、牢の御剣と、それから照星の生首を総て総て磁性流体化した状態で、水が流れるが如く土粒の疎をす
り抜けて進んでいく。

「さすがに転移先が土や石の中だと……な、転移したらどうなるか察して頂けるとありがたい。転移後すぐ鐶の短剣で周り
の土の年齢をゼロにする……てのもイチバチなのさ。フ、一帯の年齢が不明だし、判明したところで埋まりながらの斬撃だ
からな、ひとなぎで年齢総て吸収できるかどうか怪しい。バルスカで掘ってもすぐ上から土落ちてくるだろうし……」
(激戦やシルバースキンを装備した状態で行くのなら……ダメね、結局身動きが取れない)

 これでもシークレットトレイルの亜空間に潜む→ヘルメスドライブのワープ で、対象の近くの「亜空間側」への転移が可能
かどうかも検証した身上だが、転移するのはあくまで現空間側だった、だからモグラの如く地中深くをいくイオイソゴの傍には
跳べないと総角は無念そうに語る。

「さっき逢ったのはどうせ任意車あたりの分身だろうとは分かっている。しかし討てればこの世に一振りしかない牢の御剣を
奪えたのも確か……。だからこそイオイソゴは地中に逃げ込んだ訳だ。捕捉されても奇襲されぬ安全地帯へ……」
「……認めたくないがやはり重鎮、か」

 向こうは土中に何がしかのワープ対策の罠を仕掛けているのだろう……と思うのは干戈を交えた犬飼なればこそ。

「負け惜しみになるが、どうせイソゴの行く先は盟主の下……。お前たち伝令を戦士たちと合流させれば自然に追撃する形
になるから、フ、こうやってお前らふたり送ってる訳だな」
「……? 盟主の所在うんぬんが出るってコトは……円山。こっちの事情ぜんぶ話したのか?」
「そりゃま犬飼ちゃんが気絶してる間にね。あとイオイソゴとか根来の忍法の名前もひととおり」
「ちなみにイソゴの使う『折れた刀』は……牢の御剣。かの後醍醐天皇の六男たる『大塔の宮』が殺されつつも噛み折った、
凄まじい由来がある」
 はー、だからこの世に一振りなのね、円山は頷いた。
「フ。そうさ。影を斬れるのは大塔の宮の怨念あらばこそ……。ま、太平記好きにはお馴染みの話ではあるが」
「剣客のお前が詳しいのは分かるけど……なんで忍法まで…………?」
0082永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:37:24.59ID:+1rFHYEW
「そりゃ部下を教育するためさ。フ。全28作の長編と12冊の短編集、俺は全部買い与えたさ」
 何をだよと犬飼と円山は訝しんだ。
「犬型だったっけ? 忍者なのは」
「そ。だから犬飼にも親近感がな、フ、ある」
「馴れ馴れしくしようが倒すからな本当……」
 こりゃつれないと半眼の青年をからかうように眺めていた剣客だが──…

 気になるのは。フと不意に、声を沈める。

「根来の影が飛沫を吹いたコトだ。俺が斬られた時はなかったあの現象もまた何らかの忍法とみるべき。遅効性かつ……
使用回数に制限がある類だろうな、俺にはかけなかったところを見ると。付記すると俺の『フォースクラム』のような、合体型
の気配がする」
「いやそもそも合体とかできるのか忍法」
「フ。できるぞ。任意車って奴と濡れ桜ってのが混ぜられた実績がある。ほおずき灯篭とびるしゃな如来を混用した忍びに
到っては、あの明智光秀に本能寺のきっかけを植えつけたし、ああ、桜花とか有情の特殊空間も合体の一種かもな、総て
の術を無効化する瞳と、総ての術を相手に返す瞳が見詰め合うと特殊な場が出来上がって、死者読んだり知り合いたちと
テレパシーで交信できるようになる」
「用語の意味がさっぱりだ。忍者がムチャクチャだとだけ……」
「桜花……? あ、信奉者のあのコじゃなくて、フィールドの名前ね。ややこしいわ」

 ともかく、根来が牢の御剣の影に仕掛けたのも合体忍法の一種であるらしい。

「影に干渉したってコトは、基盤(ベース)の1つは円山を影縫いにしたアレだろうな。もう1つは……」



「忍法精水波」

 単身盟主の下へ戻る最中のイオイソゴは1人ごちた

「5人の女の愛液を”こぉてぃんぐ”された男を必ず死に至らしめる忍法……! 牢の御剣に順々に浸しておいた愛液を
任意で、百夜ぐるまの応用で、対象に与える……ひひっ、荒唐無稽も極まるわが秘技よ。根来本体ではなくその影に施す
がゆえ、”しぃくれっととれいる”で亜空間に潜り込んでも排除不能……!」

 そしてレティクルエレメンツは恐るべき符合を有している! 10人の幹部のうち女性はちょうど……5人!

 すなわち!!

 クライマックス=アーマード。

 リバース=イングラム。

 デッド=クラスター。

 グレイズィング=メディック。

 イオイソゴ=キシャク。

(ひひっ。今回付与したのは”くらいまっくす”と”りばあす”の愛液よ! ま、まあ、ぐれいじんぐ以外の連中は採取のため
随分と往生したし(特にりばあす)、わ、わしも……恥ずかしい……のじゃが、根来を斃すやこれしかない!! のじゃが……)

 やられたと牢の御剣を見る。磁性流体化でドロドロで、しかも真暗な地中なのに……『影』の一部が銀光りしている。

(く。精水波の要たる牢の御剣の影に『濡れ桜』を施すとは……!!)

 濡れ桜とは如何なる忍法か? 施された肉体の部位の感度を、陰核細胞並みに引き上げる恐るべきわざだ。だがそれを
剣の影にかける? 一見ムチャクチャだがイオイソゴの振るう牢の御剣においてはその限りではない。彼女は耆著の発する
電磁気力を剣と、その影に通すコトで武装錬金の防御特性を無視した斬撃を繰り出せる。そのとき彼女は、剣と、精神具現
たる電磁気力の通脈で1つになっている。剣やその影と一種の神経接続をしていると考えてもいい。で、あるから、影に施
された忍法濡れ桜の淫猥ともいえる感度を甘受してしまうのだ。
0083永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 20:37:55.37ID:+1rFHYEW
(っ……)

 鼻にかかった甘い吐息を漏らすイオイソゴ。分身はいざしらず本体は清爽きわまる少女であるから、影からの感度は刺激
が強い。強すぎる。

(影を攻められると……隙が……できる……。迂闊には……使えなく…………なった)

 頬を桜色に染め、あえやかな息を弾ませつつ牢の御剣を体内奥ふかくに仕舞い込む。ゲル状の体が影さえもすっぽり覆い、
それでようやくイオイソゴは甘美なる刺激から解放された。

 牢の御剣に制限をかけた根来。その影に忍法精水波を2つまでかけたイオイソゴ。

 先ほどの忍法勝負はどちらが勝ったとも言いがたい。

(なにより……あやつは)

 撤退した理由は牢の御剣の一件だけではない。

 地中に逃げ込む寸前。

 磁性流体化であらゆる打撃斬撃を受け付けぬはずの体のあちこちに、淡紅色の発疹が現れていた。
 果肉を薄く塗りこめたような愛らしい唇がj硬結していたのはその少し前までのコト、この時は端が爛れ、乳白色の汁が染
み出していた。

(唐瘡(梅毒)!! やられた、真・鶉隠れの忍者刀に根来め何か仕込んでおったな!!)

 むろん本来ならどんなに早くとも3年の経過を要する症状の進行だが、奇怪根来忍法! わずか1分足らずでここまで
来た! これぞかの家康の寵臣本多佐渡守を葬った術技とはイオイソゴぞのみ知る事実だが、

(倥(ぬか)ったわ!! 病が病ゆえ、せ、性こ……いかがわしい行為のみで発動すると思っておったのに……しぃくれっと
とれいるに仕込むか普通!!? だいいち”うぃるす”由来だとすればどうやって亜空間に弾かれることなく持ち込んで……
ええい! 考えている場合ではない! ぐれいじんぐの元へ! 早く治さねばこちらのわしが病死する!)

 もう片方のイオイソゴが盟主の傍に居る以上、病死しても魂魄や記憶はそちらに転送されるが、しかし牢の御剣は死亡地点
に落としてしまう。平易な言い方をすれば、『死ねばその時点での所持アイテムが散らばる』ゲームをやっている我々のような
焦燥をイオイソゴは抱いている。リスポーン地点(=盟主のそば)から急いで駆けつけねば伝説の武具が誰かに、それこそ
根来に、奪われかねないと、焦っているから目指すのだ。

(どっちみち盟主さまがそこに居られる以上、向かわざるをえんしな!!)

 速度を、あげる。

 もう1人の自分の気配が目に見えて濃くなり始めた。
 安堵しかけた自分を引き締めつつ、チラと思ったコトは。

 総角の疑念と、一致していた。

(奇妙なのは……俺が銀成から不可解な転移で辿り着いた座標が……『犬飼たちが最後の攻防に移っていた』場所から
……近かったというコト……だな)
(そうじゃ。普通ならあの局面で総角が乱入するというコトは確率的にいって『ありえない』)
 きゃつは銀成でうぃる坊の時日結界に囚われた。それは時空改竄者である『かの黝髪(ゆうはつ)の青年』と『法衣の女』
ですら脱出できなかった鞏固磐石なる物、じゃから総角が盟主さまの移し身ゆえに使える”わだち”で破壊できるか否かが
まず一か八、よしんば破壊できたとしても戻るのは元の場所、つまり銀成市の一点である筈じゃ……とイオイソゴ。
0084永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:39:06.04ID:+1rFHYEW
(それがどうして銀成から遠く離れた救出作戦のこの舞台に来ていた……? いや、きゃつが”へるめすどらいぶ”の瞬間
移動能力を有しておるのは知っている。じゃが翔べるのはあくまで『顔見知り』の傍。原理的にいえば総角は津村斗貴子
たち銀成組の傍……つまりは墜落前のヘリ内か、その墜落地点⇔合流地点のどこかに転移してしかるべき。なのに現れ
たのはそちらとはちょうど正反対の方角、合流地点付近の森の中……。百歩譲って犬飼たちと面識があったとしても……
顔見知りの傍に必ず転移するという制約的な特性から、奴は出現を、かの2人に気付かれた筈。言い換えれば奇襲のため
隠れているということは……両者の心理面戦術面から不可能。普通に合流し護衛を務めるか、或いは”ばぶるけいじ”で
犬飼と円山を縮め、へるめすどらいぶの質量制限100きろぐらむを”くりあ”。3名同時に津村斗貴子たちの傍へ翔べば
良かったのじゃから)
 つまり……銀成からここまでの移動手段はヘルメスドライブでは……ない? イオイソゴの推測の確度は高い。ここで
やっと彼女は総角と同じ前提を有した。
(要するに奴は、時日結界の突破の余波でこの近傍に飛ばされた……? じゃとすればやはり……『おかしい』。時間と空間
が本質的には同じものとよく言われる。じゃからわだちの特性破壊で無理やり時をば破獄すれば、空間座標に若干の乱れ
が生じ元の場所とは別のところへ飛ばされる……ということは、有り得るとしよう。そういえば確か奴が飲まれたのは”びく
とりあ”の作る避難壕の亜空間じゃし、総角が戻ってきたころ解除され現空間に回帰しておったから、そのあたりの空間的
な位相の”ずれ”が別軸への移動を促した可能性も、ひひ、なくはないと、譲歩しよう)
 じゃが……”ぴぽん”、”ぴぽん”……”ぴぃんぽいんと”? で犬飼たちの傍……いや、『奴らが逃げたすえ辿り着くその
場所の』、すぐ近くにそんな都合よく飛ばされるものか……? 木星の幹部は訝しんだ。

(誰か……何かしておらんか……?)

 奇妙な糸引きが背後にある気がしてならない。

(そもそも犬飼めが『盟主さまの出奔』『根来の潜伏』といった戦略的要件に恵まれておったコトも変じゃ。天運というには
……できすぎておる……)

 犬飼があれほど健闘できたのは、戦略的な前提に恵まれていたからだ。一方のイオイソゴは、『根来を挑発した以上、
決戦の最終盤まで篭城を決め込み、安全な迎撃態勢を保持する』という戦略構想を盟主の出奔で潰された上に、『円山を
逃がさず、根来も警戒しなくてはならない』という普通なら一兎も得ずな複雑な戦略目的を背負い込む破目になっていた。
 が、犬飼はただ『一秒でも長くイオイソゴを足止めすればいい』。かといってそんな彼の撃破を優先すれば、円山に逃げら
れるし根来の付け入る隙さえ生んでしまう。

 ……と、犬飼への攻撃に過剰なほど慎重になっていた己の機微もまたおかしいと老獪な忍びは思う。

(何がおかしいかというと、その自重がわしの死亡回避にも繋がっておるというコト……。だってそうじゃろ、総角が近くに
おったというのはまったく予想外の出来事。その状態で──…)

 犬飼に手を出せば根来が出た。根来が出ればイオイソゴは彼に全神経を傾けなければならない。その状態で総角の奇
襲を受けていたらどうなっていたか分からない。
 先ほど、彼の奇襲におののきながらも根来に対応できたのはあくまで、『根来が居る』と戦闘の最初期から警戒していた
からだ。いわば本命、最後の不安要素。だが、である。だからこそ『本命かつ最後の不安要素』たる根来が出尽くした後の、
一種安心した、虚脱の状態で、……総角という、元マレフィックでイオイソゴと同格同列なる大駒の奇襲を受けていれば……
さしものイオイソゴでも対応できていたかどうか断言できない。

(最悪こちらのわしが死亡。牢の御剣も奪われた。たとえ虎口を脱したとしても、肉片や血液は飛ばした……じゃろうな。
総角がわしの耆著を複製するに必要な、肉片や血液を…………)

 つまり今以上に悪い事態を招いておったと汗みずくで断定するイオイソゴの。

 磁性流体化の肌の電磁気力が、一帯に充満する『何か』と反応しチリチリする。

 総角はそこまで明確に察知できていないが……心当たりは、ある。

(そう。こういった『調整的』なコトをする奴を俺は、俺の前世は何人か識っている……)

 1人は、小柄な黒ジャージの魔神的な少女。いま1人は──…
0085永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:39:58.66ID:+1rFHYEW
「なっ」


 盟主の下へ戻り、治療を経てもう1人の己と合一したイオイソゴは目を剥いた。

「盟主さま……! い、いまなんと……!?」

 ふためく忍びを面白がるようにメルスティーン=ブレイドは告げた。

「ふ。だから、撤退してあげるよ。君たちの当初の予定に付き合って、最後の最後まで退屈なる魔王城の玉座に、基本的
には鎮座してあげようじゃないか」

 さしもの老嬢も目を白黒させざるを得ない。そうではないか。そもそも盟主は戦団相手の斬り死にしたさに出奔した身では
ないか。決死の制止をする8人の幹部に、グレイズィング不在なら再起不能まちがいなしの大破を負わせてまでアジトを脱け
出てきたのに……。

(撤退!!? いや所在握る伝令どもが駆け込んだであろう今わしとしては問題ないが、しかし何があった!? 貴様か、
貴様が説諭したのかぐれいじんぐ!?)
0086永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:40:14.72ID:+1rFHYEW
 と銅色巻き毛の同輩を見るのは、もう1人の自分が傍に居た筈のイオイソゴにしては奇妙な話だが、しかしそうせざるを
得ぬ事情がある。ほとんど切っていたのだ、同期を。さしものイオイソゴも離れた場所に存在する自分と自分を同時に操作
するのは困難だから、ある程度まではめいめい自律、情報のやり取りは切っていた。追撃戦のさなか犬飼または円山が、
『イオイソゴは2人の自分を同時操作している』と思っていたが、その弱点はあらかじめ殆どツブしていたのだ。
 だから元に戻っても、近習イオイソゴの記憶が追撃イオイソゴと合一するまで若干の時間を要したから、そのあたりの混濁
のせいで、『貴様が説諭したのかぐれいじんぐ』と視線を向けてしまった訳である。

 いえ、ワタクシも何も……。グレイズィングも困惑したように応える。

「アナタは合流してすぐ分裂して犬飼たちを追ったから知らないでしょうけど、その辺りからでしてよ。盟主さまが撤退どうこう
言い出したのは……」

 べっとりとした花粉が漂っているような淫猥きわまる女医が珍しく嫣然としていないのにイオイソゴはただただ面食らった。
0087永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:40:30.62ID:+1rFHYEW
「つれないねえ。ぼくは一度戦部を『あの場所』に置いてからわざわざ戻ってきたんだよ? 追撃戦から戻ってくるイソゴは
どうせ同期を切っているだろうと踏んだから、わざわざ元の場所で待っていてあげたのに……」
(……や? あ! そ、そういえば戦部! おらん! 盟主さまのもとへわしらが来た時はおったのに……)
「で、引くのかい、引かないのかい? ぼくは別に迫ってくる戦士ども相手に大暴れしても構わないけど?」
「ひ! 引きます! 」

 急かすように笑う盟主に直立不動で叫びながら先導で駆け出す木星の幹部は……

 付近の茂みに、足跡を認める。女医ではまず気に留めない、忍びのアンテナにしかかからぬほど幽かなものだった。

(……。盟主さまと合流した時は追撃の手立てを考えるのに忙しく、ゆえに見逃してしまったが……『誰』のじゃ? 『いつ来た』?
 サイズからすると……おなご。じゃが円山ではないな。へこみ方が、伝え聞くきゃつの体重と合わん。『軽い』のではない。
『重い』。なんというか、力士体型の者が乗ったというより、そう、何か……非常に重い武器を構えていたような……そんな足
跡の沈み方じゃ)
0088永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:40:47.62ID:+1rFHYEW
 そして……新しい。昨日おととい付近に来たという感じでもない。

(……つまり、何者かが……盟主さまと逢っていた? そやつが撤退を……促した……?)

 だとしてもおかしな話だと思う。武力を超究した8人の幹部にすら説得されなかった盟主に針路を変えさせるなど…………
並みの芸当ではない。そもそも誰が現れたのか。レティクル側の人間だとすればイオイソゴに連絡がないのがおかしいし、
そもそも出奔前に引き止められた筈なのだ。あの戦いに参加しなかったリヴォルハインかムーンフェイスの密やかなる指嗾?

(いや。仮にそうじゃとしても足跡とは合わん。かといってその主が戦士なら、連中との斬り合いを望む盟主さまが捨て置く
理由はない。……敢えて伝令させるため見逃した……のなら、撤退とは矛盾じゃし……。一般人だの登山者だのというオチ
は……ひひっ、まあないわな)

 なぜなら足跡が、盟主めがけまっすぐ進んでいるからだ。普通ありえない。戦部敗北からイソゴ・グレイズィング合流まで
の僅かの間についたとすれば、そのとき現場は『血だまり』『倒れている大男』『やたら長い刀を持った隻腕の男』といった、
命の危険を喚起するコト余りある情景だったろう。なのに迷わず近づいてくるというコトは……
0089永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:42:04.54ID:+1rFHYEW
(かたぎでは、ない)

 つまりレティクルでも、戦士でもない人物。『第三勢力』。

(そやつ……なのか? 追撃戦にさまざまなる不可思議を与えよったのは……)

 重い武器を有する、戦士ではない、女性。イオイソゴの脳裏をサッと掠めたるは──…

.

..

 時間はやや戻る。盟主が、戦部厳至を倒したその直後に。


 さぁて殺さぬよう止血でも……と戦部に近づき始めた盟主が振り返ったのは、背後で足音がしたからだ。

「ほう」。意外そうに目を丸くした金髪の剣士は笑う、にこやかに。

「これはまた、珍客……」
.

(イオイソゴとグレイズィングがぼくのもとに辿り着く、少し前の話さ)

 盟主は思い返す。茂みから現れた『部下ではない、女性を』。

 磨き上げられた、輝くような美貌だった。
 絹糸を溶融する金で泳がせたような艶やかで眩い金髪の先の房を、メタリックな7つの色に染めている妙齢の少女は、
法衣を衣擦れさせつつ……構えた。決して小柄ではないほっそりした体より、更に長く、そして軍事的な造詣の……銃を。

 黒光りする銃口と、眼鏡の奥の絶対的な殺意を、しかし盟主は涼やかに受け流しながら……呼ばう。

「始めましての方がいいかい? それとも久しぶりと言った方が昂ぶるかい? 羸砲(るいづつ)……ヌヌ行」
「どちらでも。……やれやれ。我輩はむしろ『影からいろいろ操る』方が得意なのだけれど……見つけてしまった以上やる
しかない、か」

 かつて武藤ソウヤをパピヨンパークに送った時空形武装錬金の使い手の……転生。
 彼女もまた、救出作戦の、陰にあった。

 目的はただ1つ!!

 大戦士長坂口照星誘拐時の戦闘でレティクルに囚われ怪物と化した武藤ソウヤを……元に戻す!!

 そのために盟主と演じた『戦い』が戦団全体に波及をもたらしつつあるとは……さすがのイオイソゴでさえ知りえない!
.

「ともかく合流地点……新月村到着ね」
「はあ……」

 村に踏み入れるなり青い顔で俯いた犬飼に「やっぱり気が重い?」と円山は微苦笑した。
(ま、そりゃ青くもなるな。何しろ救出作戦冒頭で、救出対象たる坂口照星どのが生首になってましたと、そう報告せねば
ならん訳だ。誰だって気が重い。追跡の遅れという、分かりやすい失点のある犬飼ならなおさら)
 フと笑ったのはむろん総角。円山の笑いはいよいよカラカラする。
「いっそ伏せちゃう? 大戦士長のコト」
「できるか!」 眼鏡の青年は短く叫んだ。「隠蔽とか最悪だろ。キッチリ言う。それが落とし前だ!」。
 肩を怒らせのっしのっしと人の気配のある方へ歩いていく犬飼に、円山の視線はますます好意を増す。
0090永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:43:10.72ID:+1rFHYEW
「だからやめろってソレ……。犬飼が大した奴だとは分かるけど」
 ちょっとだけ彼の耳がピクっとした。落ちこぼれだから、賞賛には、弱い。
「何しろアイツ、報告相手が”あの”火渡戦士長だって分かった上で向かってるんだからな。フ。大したものさ」
 ピキッ。歩いていた犬飼が石化した。
「いま気付いたみたいね……」
「フ。イソゴ戦の鋭さどこへやら、か」
 青年はもう、後ろからでも分かるぐらい、ブルブル震えている。インフルエンザにかかったような震え具合だ。
 人を喰う怪物よりも、人を守る戦士の方が怖いというのも妙な話だが、イオイソゴはえげつないながらに、見た目は小さな
女のコで、なんだかんだよく笑うタイプだった。卑屈な青年が一種の理想像にしがちな類型ではあるし、何より戦略上の都合で
犬飼本人は直接攻撃を、痛い目を、加えなかったから、恐怖感があまりないのは当然だと円山は思う。
 一方の火渡は凶悪なご面相が看板で、「殺すぞ」が口癖なのを見ればお察しだ。美とエロスを孕むホラー映画の美少女
型クリーチャーと、残虐指定で18禁を喰らったバイオレンス映画の若頭では、どちらとお話したいか考えるまでもないだろう。
0091永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:43:27.08ID:+1rFHYEW
 よろめいた彼は木の棒にもたれかかる。角材にくくりつけられた丸い棒に。奇妙なオブジェだがそれもそのはず、明治11
年のとある時機、『村から逃げた警視庁の密偵』の、両親の死骸を吊るすため設計されたのだから仕方ない。誰がどういう
意図で遺したのか、風雨も1000では収まらないだろうに奇跡的に現存するその丸い棒に犬飼は寄りかかった。

(いやいやいや、さっき頚動脈切っただろ! ああ、あれに比べれば多少殴られても痛くない筈だ大丈夫だ。あああでもでも
ああした理由の1つって実は火渡戦士長にどやされるのが怖くて怖くて耐えられないからなんだよなあ……。じ、自分でも情
けないけど、失敗を怒鳴り声で突きつけられるのって本当怖い、自分がやっぱり駄目な奴だって認識させられるようで怖いし
火渡戦士長のそれはとびきりだし……。あああ怖い怖い嫌だ嫌だ話したくない助けてじっちゃんお願いだ……)

「めっちゃ動揺してるな犬飼……」
「不祥事で糾弾されるの怖くて飛び降りやったのに助かって、退院後すぐ鬼部長に呼び出された会社員じゃないんだから……」

 歯の根をガチガチと鳴らす青年は、高慢な総角すら(なんとかしてやらにゃ可哀想すぎだろ……)と憐憫催すほどの姿だった。
0092永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:43:43.09ID:+1rFHYEW
(何か策ない?)
(……フ。ある)
(さすが小細工の達人)
(いやいやお前ほどでも……)
(……)
(……)

 キャーキャー。

 円山と総角が両目不等号でグッグッと拳を突きつけあって意気投合したのは犬飼いじりの一点に於いてである。
 ほどよく見込みがあり、ほどよくヘタレで、ほどよく知恵の貸し甲斐とからかい甲斐のある青年が無性に可愛く思えてきたのだ。

 総角、円山に何やら耳打ち。犬飼が気付かなかったのは背中を向けていたせいもあるが、懊悩で頭を掻き毟っていたからだ。

(まあアイツ俺が言うと逆らうからな)
(なるほど。私が言うのね。味方してもオーケーって言われた私が)
0093永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:43:59.01ID:+1rFHYEW
 苦い意見をお母さん的な存在にやんわりと伝えさせる総角の慣れた手管は無銘少年を育てたが故か。

 ともかくパっと歩みを進めた円山は、犬飼の肩から顔を覗かせそして言う。

「丸く収まる、いいおまじないあるけど、聞く?」

.

 そして。

.
0094永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:44:32.75ID:+1rFHYEW
 合流地点の廃村で、津村斗貴子は眦が裂けんばかりに目を見開いていた。

「馬鹿な……! どうしてお前が…………!」

 火渡赤馬は凶笑しながら炎を出し──…

 合流していた鐶光は、感傷を以って来訪者を、眺めた。

 一同の視線を集めたのはもちろん総角主税である。

 斗貴子の驚きは、『銀成で消えた筈のお前がどうして』というものであり、火渡の凶笑は7年前人生に致命的な損傷を与え
た存在と同属たるモノが来たコトに対する反射的なものであり、且つ、それと同行している犬飼と円山が、どうやらアジト付近
から逃げてきたあげく、ホムンクルスに助けられたらしいと察したからだ。

 鐶の感傷は、しばらく行方不明だった上司との思わぬ再会に対する安堵であり……感泣。

「いろいろありますが」

 と前に出たのは……犬飼。持ち場勝手に離れやがってと怒鳴りかけた火渡だが、『負け犬』の眼光に微妙な変化を認めた
彼は「……なんだよ」とぶっきらぼうに告げるに留まる。

「火渡戦士長、お話があります」

 重大事と察したらしい。火渡は手近な廃屋を指で示した。

「そこで聞く。聞く奴も限定」

 結果廃屋内に招かれたのは犬飼と円山、火渡を除けば──…

 毒島。(火渡の秘書)

 斗貴子、剛太、桜花。(銀成組代表)

 総角、鐶(音楽隊トップ2)

 の他、天辺星さま&奏定や『師範チメジュディゲダール』、艦長といった各部隊のリーダー級7〜8人。


「犬飼の報告を公開するかどうか首脳部で検討したいのは分かるけど、なの」

 廃屋の周囲をめぐりながら、天候の具象化のようなファンシーな少女がぼやく。

「見張りとか不満、なの。私は斗貴子さんとお話したい、なの」
「まーまーここ一時的にとはいえ司令部だし。攻撃力のドラちゃんに防御力の殺陣師サンが固めておけば安心でしょ」
『レティクルが来るかも、だからな!』
「しゃー! あんたら盗み聞きしにきたらダメじゃん!!」

 何が行われているのだろうと詰め掛ける戦士たちを威嚇し追い払う香美であった。


 屋内でやや震えを帯びた犬飼は話す。盟主の急襲を受けたコト、戦部が足止めで残ったコト。イオイソゴに追撃され、抵抗
空しく総角に助けられたコト……などなど起こった事実の総てをつぶさに報告した。


「だ、大戦士長が……」
「殺された……ですって……?」

 蒼褪めて呻くのは剛太と桜花。毒島は気死寸前といったようすでフラつき、天辺星さまに到ってはワーワーギャーギャー
騒ぎ始めたのを奏定に塞がれる始末である。他の面々もざわつきだす。
0095永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:45:40.39ID:+1rFHYEW
「ほんとうか……?」
「クローンか何かなんじゃ……」

 斗貴子も平然とはしていられなかったが、しかし……気付く。

(火渡戦士長が激昂していない……? 大戦士長の教え子のはずなのに……)

「騒ぐこたぁねえよ」

 大型肉食獣顔負けの野太い牙を剥き出して彼は破笑(わら)った。

「け! けど! 救出すべき対象が木星の幹部に……首、首を刎ねられたんスよ!? そりゃ確かに向こうには死者だって
蘇生できるグレイズィングが居ますけど、生き返らせてくれるかどうか……!」

 剛太がワーっと行ったのは頭が回るくせに軽躁だからだ。その口火に何人かの戦士が雷同し、大丈夫なのかと口々に
問いかける。
 そこにクローン説を支持する層が反論するからたまらない。むしろその層は楽観的が故に温和な物言いだが、理性ゆえ
大戦士長殺害に恐慌ぎみな理性派層は、一種の生真面目さも相まって語調がややキツくなる。そうなるといわれた方も人
間だから、激昂とまではいかないもののちょっと甲走った声になり、それが理性派層を余計に刺激するから場の空気は
若干だが悪くなる。「うー。中、うっさいし」……外で耳のいい香美が顔をしかめるほどの声が二つ三つ飛び始めた。

「問題ねえつってんだろ……?」

 ざわめきが気に障ったらしく声を低くし凶相に皺よせる火渡。彼が一座をねめつけるだけであらゆる声が静まった。

(話の通じなそうな人だけど……)
(だからこそ紛糾している時のまとめ役にはピッタリですね……)

 桜花と毒島は火渡の威圧にこの時ばかりは感嘆した。

「いいか」。立っていた火渡は、傍の、破れて黄色いウレタンが剥き出しのソファーのホコリを腰を沈め押し出した。のみな
らず足さえ組んだ彼は、山賊か反政府ゲリラの首魁のような形相でニヤリと笑う。タバコの先で爆ぜ続ける火花だけが照明
だった。

「あの老頭児をブッ殺すのがレティクルの連中の目的だってんなら攫ったその日にやってるさ」
「ワ、ワタシたち誘き寄せるためって線だってチョーチョーあるでしょ! で、みんなチョーチョー集まったからハイ用済みで
始末したってセンもモガガ」
「だから黙ってくれないかなあ天辺星さま。後でどやされるの私なんだけどなあ……」
 なんで天辺星さままで呼んだんだろ、奏定だけで充分なのに……といった視線が2人に刺さる中、「だったらよォ」と火渡は
頬杖ついて真顔になる。
「だったら何で木星の野郎はあの老頭児の首回収した? オイそうだよな負け犬。あの野郎、テメーらに投げたあと、した
んだよな回収」
「は、はい」。犬飼はやや上ずった声でビシィっと直立した。「アイツずっと持ってました! 持っていたらボクのレイビーズで
所在を嗅ぎつけられるっていうのに、リスク覚悟でどういう訳か!!」。
 あああホント怖い火渡戦士長、円山のいったおまじないとか本当に聞くんだろうなとヘタレな青年ブルブル震えるが、火渡
はさほど気にした様子もなく、
「つーコトはだ」
 俺らがココに集結した後でなお、生首を持っていたなら、根来の忍法で蘇生されるのを防ぎたがってたつーんなら……ギ
シギシとソファーを揺すりながら、火渡は分析する。ああ、世にこれほど恐ろしげな安楽椅子探偵があったろうか。
「老頭児は俺ら誘き寄せるためのエサじゃねえ。後に控える、『他の目的』の為だ」
(……確かに連中は、ただ私たちを殲滅できればいいという様子ではなかった)
 斗貴子も頷く。
(『マレフィックアースの器』。何らかの強大なエネルギーを降ろす寄り代を彼らは探しているようだった。問題はそれがこの
戦いや大戦士長とどう結びつくかだが)
 鋭い斗貴子ではあるが、レティクルの目論見は皆目見当もつかないのが実情だ。銀成市で劇を妨害し、即興劇の興奮
にかこつけて武装錬金を発動させたかと思えば、戦団に対しては大戦士長を誘拐するといったとんでもない狼藉を働いて
いる。それらに一貫性や関連性がないから、だから斗貴子には分からない。
(これらが『器』とやらにどう関わってくるんだ……? ただの人体実験でも済むのに……いや、人体実験じたい許せない
ものだが、少なくても秘密裏には行える筈。なのになぜ大戦士長誘拐なんてする? どうしてコトを荒立てる……?)
0096永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:46:05.29ID:+1rFHYEW
 事件当初はよくある共同体の悪行程度にしか思っていなかった斗貴子だが、銀成におけるレティクルとの接触で目的
の一端を知った後では、照星誘拐への見方は変わらざるを得ない。

(殺してなお、蘇生したがる理由は──…)

 桜花の脳裏に浮かぶはただ1つの武装錬金。元同輩の、武装錬金。

「ヘッ。何を企んでいようが関係ねえさ」

 火渡は笑う。考えるのを放棄した笑いではない。想到を斗貴子と同じ領域にまで到らせた上での、破城槌的な決断の
笑みだ。

「要は連中全員ブッ殺せばいいだけだろ。そうしたら老頭児の生死だの器だのゴチャゴチャしたコトも片付いて仕舞いだ」

 単純明快な意見だがそれだけに浸透しやすい。楽観組の戦意は目に見えて上がった。理性組も「……現に各部隊が
襲撃受けてるし、仕方ない、か」と不承不承ながら同意する。

「だからメンバーを選抜次第、所在の割れた盟主に一斉攻撃を仕掛けに行くつもりだが……」

 火渡の次の行動を制止できたものはいなかった。気付いた時にはもう奔流が人物を薙いでいた。炎(も)える投網が
犬飼倫太郎の上半身をすっぽりと包み込んでいたのだ。
 前触れもない、思わぬ突然の焼殺行為に戦士一同が(粛清……!?)(確かに追跡自体は前半遅れていたっていう
けど)(焼き殺すほどか!?)(大戦士長の落命との因果関係だって未検証なのに……!!)唖然とする中、

「へ」

 火渡は凄絶な微笑を浮かべた。

「やるじゃねえか」

 喉首を噛み破られる寸前の、体勢で。

「キ、キラーレイビーズ!!」

 剛太が唖然とするのもむべなるかな。いつの間にやら軍用犬が、横倒しの鼻先を火渡の襟先に潜り込ませている!!
そして鋭い牙の羅列を首の両側スレスレに……這わせている!!

「待てなんで無事だ!? 木星相手に自爆したんだよな! だったら核鉄はボロボロのはず! こんなキレイな状態で発動
できる訳が」
「フ。俺が治したに決まってるだろう新米戦士。我がハズオブラブは錬金術の産物も癒せる。核鉄も、な」
「実際……銀成市で…………私に両断されたソードサムライXの……核鉄だって……リーダーの衛生兵で修復され……
その後の剣戟に活用され……ましたし……」

 ハイハイ犬飼たちの治療ついでに治したのねと呻く剛太へと、「ついでに精神力の方も満タンになったから、私も犬飼ちゃ
んも万全の状態で使えるわよ武装錬金」と答えた円山の、視線の先で。

「え!! ええッ!!?」

 一番たまぎるような悲鳴を上げたのは……犬飼当人だ。燃焼の膜(ブレーン)がはらりと解けた彼は、己の武装錬金の
仕出かしている乱行に心底驚いた様子で武装解除し何度も何度も頭を下げた。

「……こっちも無事だし…………。戦団最強の攻撃力を前に服すら焦げてないとか……どうなってんだよ…………」

 ガマガエルのような声をあげるエンゼル御前に「斬り裂いたんだ」と答えたのは斗貴子。

「炎が放たれた瞬間犬飼は無音無動作でキラーレイビーズを発動。その牙や爪で向かってくる業火を切り裂いたんだ」
「なるほど。秋水クンよろしく剣圧のようなもので炎を押しのけた、と。燃え盛っているようにこそ見えたけど中は空洞、
犬飼とその周囲だけは燃焼を免れていた……って訳ね」
「ンな芸当ができるんだったらさあ、なんでアイツ奥多摩でカズキンゴーチンに負けたんだよ?」
0097永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:46:46.40ID:+1rFHYEW
「……成長……したの、です。イオイソゴさんとの戦いで、レベルアップしたの……です! レベル差がありすぎると……
補正で……ダメージ与えるだけで……経験値たくさんに、なるの……です……!!」
(マジかボク強くなったのか!) 喜ぶ犬飼の心を穿ったのは斗貴子の「いやそこまで速くなってないぞ」という半眼での
指摘。
「奥多摩では……まあ、私は円山に専念していたから、背後で暴れるレイビーズを直接じっくり見た訳ではないが、彼が
突然私を狙ってきた場合に備え気配で向きや速度を探ってはいたのだが……」
「あら。じゃあその時からあまり速くなってない……?」
「増してはいる。けど……測定しないコトには断言できないが、私の見たところではせいぜい10%から15%ぐらいだぞ?
確かに”あの”木星の幹部と基本的にはわずか2名で戦って生き延びた以上、成長はしているようだが」
 いきなり常時あの時のセーフティ解除状態なるとかそんなムチャクチャな成長ある訳ないだろと、極めて冷静に斗貴子
は言う。
(ク、クソ。低く見やがって……!)
 毒づく犬飼だが、ユーモラスな泣き顔にしかなれない。白玉のような瞳から滝を流すのが精一杯。
「……いやでも劇的な成長してないなら、逆におかしくない津村さん」
「そうだぜ。さほどレベルアップしてないってなら、どうして火渡の炎切り裂けたんだよ」
 精神の問題だな。部活動の副部長然とした凛呼たる少女は答えて曰く。
「犬飼は、火渡戦士長が炎を発したその瞬間ほぼ同時にキラーレイビーズを発動していた。その爪牙が炎を切り裂けた
のはひとえに初動が速かったからだ。炎が最高速に達する前に軍用犬の最高速が犬飼の遠間で迎撃を始めたから、
火渡戦士長の攻撃を、裁ち切りバサミに当てられた動く緋毛氈の如く捌けたんだ」
 武装錬金のスペックより、人間の境地が物を言ったわけね。桜花が納得するのは剣客の弟を持つがゆえか。
「だな。正に境地の問題。普通なら……今までの犬飼ならまずできなかった芸当だ。なにせ”あの”火渡戦士長の攻撃なんだ。
まず起こりを察知するコト自体困難だし、察知できてもその余りの威力に迷う。迎撃するべきか、避けるべきか……と」
「でも犬飼は迷わず前者を選んだ……?」
「私は7年戦士をやっているが、それだけの境地に到っているかどうか断言できない。戦部や、防人戦士長のような、相当な
場数を踏んでいないと今の犬飼並みの察知は不可能。火渡戦士長の業火を迷わず迎撃するなど不可能」
「そういった意味では……イオイソゴさんとの戦いの……経験値が……経験値が……」
 虚ろな目でエヘエヘ笑いながら斗貴子の袖を引く鐶だったが、ぷいっと解かれたので「えうー……です」と軽く泣いた。
「ちなみに」 鐶を鬱陶しそうに垂れ目へ収めながら、手を挙げたのは剛太。
「何でキラーレイビーズ……火渡戦士長の喉元にまで突っ込んでしまってるんスか? いくら成長したつっても、犬飼ですよ?
いきなり火渡戦士長を殺しにかかるなんてそんな度胸……」
「ん? ソレって遠回りに自分を売り込んでるの?」
 指摘は思わぬ方角から来た。円山がそちらに居ると知った剛太は眉を顰める。
「売り込む? なんで俺が?」
「だってアナタだって火渡戦士長の喉首斬ったじゃない。私たち再殺部隊6人が集結したあの雨の朝」
 思い返した剛太はしばらく呆然としていたが、急にボっと紅くなる。
「ちちち、違います、ああああの時はただ必死だっただけで!! せせ先輩のため戦うコトを決意した俺並みの境地に
そう簡単になれる奴がいないって主張するため犬飼どうこう言った訳じゃなくてですね」
 キミが何を慌ててるのかよく分からんが……肩を掴んで騒ぐ後輩を心底不思議そうに見た斗貴子は(いやそこは気付いて
あげて津村さん)と可愛らしくむくれる深窓の桜花の気配にも気付かぬまま、
「キラーレイビーズが火渡戦士長の喉首で止まったのは、不慣れな炎の切り裂きに、勢い余って突っ込んでしまったのだけ
だろう。何しろ炎の発生源があの人だ、軌道的に突っ込んでしまうのは仕方ない」
「そそそそうなんです! だから攻撃するつもりは……!!」
 慌しくレイビーズを解除した犬飼は、五指同士を曲げて絡めあった拝み手を上下し必死に弁明する。
「テメェ確か予定じゃ、見張り終わり次第後方へ下がる……だったな?」
「は、はい……」
 なよっとした肩に節くれだった熱い手を乗せられた犬飼は笛を吹くような声を漏らす。火渡の顔は、近い。めらめらっと
跳ねるくわえタバコの炎はただでさえ恐ろしげな凶相の陰影をよりドス黒く彩るからたまらない。
0098永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:47:17.56ID:+1rFHYEW
 あまりの威圧感に(あ、ああ、やっぱお払い箱、そうだよな追跡トロかったし大戦士長救えなかったしその上いま攻撃した
し……!)と犬飼は半ば戦力外通告じみた後方転属の辞令を覚悟する。

「取り消しだ。死ぬまで戦え」

 くるりと踵を返した火渡の言葉の意味を犬飼は、「オイ円山。てめえもだ。傷も精神力も回復してるつったよな」というドス
まみれの指図を聞いてもなお掴みかねた。

「え!? ざ、残留していいんですか前線に……? この、ボクが……」
「嫌ならこの場でブッ殺すだけだ。核鉄待ちの予備役なんざ幾らでもいるって知ってるよな……?」

 振り返って睨みつける火渡に「い、いえ、頑張ります。はい。頑張り……ます!」と犬飼は直立不動で声を張り上げた。

「えーと。どういうコト? レイビーズよりもっと強い武装錬金あるだろうに、なんで核鉄預けたままにすんの?」

 呟く御前を撫でながら「馬鹿ねぇ」と桜花、自問自答の一種を演ずる。

「さっきの攻撃で彼が成長したって判断したのよ。スペックや境地が以前とは違うから、残しておこうって」
「大戦士長が生首にされていた件の保留でもあるな。ここに居る部隊長クラスの戦士たちに示したんだろう。自分が残留を
許可した以上、追跡の遅れうんぬんで責め立てて騒ぐなと」
「……ソレ、普通にやったらエコヒイキってますます反感買わないスか先輩」
 いえ、大丈夫、の、ようです……と戦士たちを指差したのは鐶光。

「さっきの犬飼チョーチョー凄かった!! だいたいあのイオイソゴさんに追跡されて生き残ってたんだからチョーチョー
強い! 戦って挽回できる人なら居た方がいいチョーチョーいい!!」
「……まあ、失敗してもやり直せるって…………いいしね。フフ……。そもそも私のように直接無辜の人が死ぬきっかけ
を作った訳でもないからね犬飼は……。フ、ウフフ。それに比べて私は……私は……」

 わーわー景気よく叫ぶ金髪サイドポニーの少女の傍で、しょうゆ顔でイケメンだが、薄幸オーラが物凄い青年が自嘲めい
た呻きをもらしているのに気付いた剛太は「あー」と片頬引き攣らせる。

「チーム天辺星のトップ2人……相変わらず対照的だな…………」
「というか奏定(かなさだ)……だっけ? あの副隊長むかし何やらかしたんだよ……」
 御前の問いに促され奏定を見た総角主税はちょっと息を呑んでから、「あー」と珍しく崩れた顔をした。
「その、そっとしておいてやってくれ。冤罪の人を間違って……からの、悲劇の連鎖をだな、彼は起こしていて……」
「……? 待て。なんで戦士でもないお前が奏定副隊長の前歴を知っている? ウワサですら聞いたコトないぞ私は」
 斗貴子が怪訝な顔をすると、その声で奏定が見てきた。彼は総角と視線が合うと驚いたり察したりしたあと、
「…………。ハハハ。お久しぶりなのかどうか、微妙だね…………」
「あ、ああ。俺の方は初対面、なんだろうが…………」
 また微妙なやり取りをした。
「だからキミたちの間に何があったんだ……?」
 斗貴子の問いに直接答える者はいなかった。

(フフッ。まさか総角が、知り合いの分身の、転生した姿だなんて、いえない、からねえ)

 護衛が増えた廃屋の周りで、そう思ったのは果たして誰か。

 ともかく小屋の内部では。

「……というかその、総角君…………だったよね。たぶん、あとで……私なんかよりずっとヒドいサプライズが、だね……」
「フ。もう大概のことじゃ驚かないさ」

 という、「前言撤回驚きました」の前フリでしかない会話や、

「はへー?」
 奏定に見られた天辺星さまが、心底気の抜けた表情でコッキリンと首を45度に傾ける情景や、
0099永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:47:58.84ID:+1rFHYEW
 それから先ほどからの犬飼がらみの流れを汲んだ、うんまあ確かに無意識にとはいえ火渡戦士長に一矢報いたのは凄
いし、とか、円山から聞いたけど落とし前で頚動脈切った状態で物凄い策の数々を連発したらしいぞ犬飼、とか、べ、別にあ
んな落ちこぼれのコト認めた訳じゃないんだからねっ、で、でもちょっとは凄いかなあなんて……え、わた、わたし何も言っ
てないし!! とかいった意見が戦士の間で交差し始めている。

「フ。イソゴ戦で成長した犬飼の、今のありようを見せたのが大きいな」
 大儀そうに片目をつむりながら、腕組みして微笑する総角。

(ああ。円山の根回しが効いてる……。今まで嫌な奴だと思ってたけど人に助けてもらえるって、認めてもらえるって
いいなあ。火渡戦士長も案外優しかったし……)

「だがLII(52)の核鉄だきゃあ没収だ」
「えッ!! ああ!!」

 左ポケットに入れていた剣持真希士の核鉄……LII(52)が、首だけ捻じ曲げ犬飼を見る火渡の、肩の上に差し伸べら
れた右手に握られているのを見た犬飼はギョっとした。

「これを銀成からわざわざ取り寄せてやったのはテメエが老頭児の追跡に手間取っていたせいだからな。成長したっつーん
なら核鉄1つで戦いぬいて見せろ。第一老頭児の首1つ持って帰って来れなかった奴に何のペナルティもねえってのは我慢
ならねえ」
「ああ、熱っ! アレ時間差! 時間差で服が……!! 水、誰か水プリーーズ!!!」
 焦げた煙を左ポケットから上げながら走り回る犬飼に、

(……なるほど。まったく見えなかったが……犬飼に炎を向けた時、解除していたらしい。腕の一部を火炎同化からな)
(レイビーズに切り裂かれながらも、腕だけは左ポケットに潜り込ませていたんですね)
(で、焼いたと。あらあらお灸にしてはやりすぎね)
(…………犬飼さんは、面白い……です)

 斗貴子が感嘆し剛太が頷き、桜花が言葉ほどには同情を見せず、鐶がニヘラーと饅頭のように頬を緩ませる中、

(あああ、でも良かった、円山のいう”おまじない”が効いた……)

 犬飼が、思うのは。


──「LII(52)の核鉄、左ポケットに入れておいた方がいいわよ」

──「なんでだよ? てかボクの自前の方もそうしなきゃダメか?」

──「あ、そっちは大丈夫っていうか、必ず右ポケットに……あ、そもそも犬飼ちゃん、右利きよね? 基本的に犬笛右手
で持ってるから……右利きよね?」

──「そうだけど」

──「じゃあLII(52)の核鉄、左ポケットね」


 新月村到着後おこなわれたその問答は、火渡の決定的な不興の回避に繋がった。


(なぜなら火渡戦士長はたぶん最初からLII(52)の核鉄を取り上げるつもりだったから! で、ボクが右ポケットからレイビー
ズを発動した瞬間、核鉄の擦れる音の有無──右に2つ入れていたら、咄嗟に手を突っ込んだとき、金属同士の触れる音
がしただろうね──とか、服全体の微妙な重心のズレとかから、左ポケットにLII(52)があると判断して、火炎同化を部分解
除したその腕で抜き取った訳だけど)

 これが右ポケットにあったのなら、つまりLII(52)でレイビーズを発動していたのなら、火渡にゆくのは犬飼のXCII(92)に
なってしまう。
0100永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:48:20.99ID:+1rFHYEW
(そうなった場合絶対ボクは殴られた。だって火渡戦士長が欲しいのはLII(52)だからね。LII(52)じゃないとダメな理由がある)

 防人と火渡の微妙な関係ぐらい犬飼だって知っている。で、LII(52)の核鉄の持ち主は剣持真希士。今は亡き、防人の部下だ。
いわばLII(52)は『火渡の親友の部下の形見』だから、この場で回収したいのは人情といえよう。


「なぜなら防人戦士長が、あの火星の幹部に挑むかも知れないから……ですよね」

 屋外に出て喫煙する火渡の背後にスっと現れた毒島が、言う。全体会議が終わった直後の話である。

「火星の幹部・ディプレス=シンカヒアの分解能力は絶対防御のシルバースキンすら突破する代物ですから……火渡様は
……お渡したいんですね。LII(52)の核鉄を、剣持サンの形見を、防人戦士長にお渡しして……少しでも助けにと」
「……いちいち言うんじゃねえ。殺すぞ」
 ごくごくわずかだが不快そうに目を閉じ答える火渡。毒島は心得たもので、「その時は私も……助力しますから」とだけ
添えた。


 と、同時に。

 轟音がし、地面が揺れた。

 敵襲を疑うべき状況だが、火渡はたっぷりとタバコを味わい、毒島もちょっと首を伸ばして音のした方向を見るに留まる。

「アレも想定の内ですね?」
「当然! わざわざ恵んでやったんだ、これで貸し借りなしだろうさ」




 総角主税、【ブレイズオブグローリー】……ゲット!


 剛太、斗貴子、桜花、御前……呻く。

「だよなあ。さっき見せちゃったもんなあ」
「DNA経由でないぶん完全再現とは行かないが……」
「あらやだ。お互い天才気取りだから相性いいようで」
「見ただけで結構な威力かよ…………」

 焼かれたのは合流地点に押し寄せてきたクライマックスの自動人形で、それは広めの四つ辻に出来上がった直径8mの
クレーター周りでじゅるじゅると炎に冶金され消えていく。

「フ。LII(52)の核鉄の修繕費としては過分も過分。今のは試射ゆえ加減したが全力でいけば半径200m以上はカタい」
「だからコイツ誰か止めろよ!! 共闘するたびパクってくぞ!!?」

 絶叫したのは犬飼倫太郎。

「……確かになあ」
「よく考えたら最悪なのよね総角クン。見るだけで人の武装錬金パクれるし、態度でかいし……」
「茹でガエルだな……。私としたコトがすっかり慣れきっていた。疑問に思わなくなっていた……。奴の態度のデカさすら……」
「いや、俺らん時はまだ被害軽かったですからね。自分の使われたら腹立ちますけど、それでもエンゼル御前もバルスカ
もモーターギアも、火力じたいは低かったんですから……。態度は大きいですけど……」

 それが今度はとうとう、戦団最強の攻撃力と目されるブレイズオブグローリーを手にしてしまった。
 まだ影からコソっと盗んだのなら腹も立つが、どうやら火渡、何としても防人に渡したいLII(52)の核鉄の修繕費代わり
として先ほどの犬飼への攻撃時”わざと”総角に見せたらしい。いわば本人公認だから逆にタチが悪い。
0101永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:56:36.73ID:+1rFHYEW
「本人は自分こそ本家だから捻じ伏せられるって思っているんだろうが……」
「俺らにコレ向けられたらどうすんだ……。どうしたらいいんだ……」
「しかも円山から聞いたけど、激戦まで使えるらしいわよ今の総角クン」
「チクショー。シルバースキンだけでも大概だったのに……」

 こ の 野 郎 。

 総角に向く、銀成組の目は、苦い。

(……。俺、やりすぎているのか鐶)
(フル改造の参式にオルゴンクラウドHとガードとGサークルブラスターと『エースボーナス、気力170以上で敵ユニットとの
交戦後、ド根性がかかる(撃墜時も含む)』を積むようなもの、です。アホ、です……!)
 ぼかっ。頭を襲った妙な衝撃に振り返った総角が見たのは「なんとなく、じゃん!!」と拳かため鼻息ふく香美であった。

(ああ。これが能力の報いなのか。小札……部下すら冷たいから慰めてくれ……)
0102永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:56:52.97ID:+1rFHYEW
 自業自得では、ある。

(これでイオイソゴの耆著も複製できていたらなら風向きも違っただろうに! でも彼女は結局、血も肉片も落としていかな
かったしなあ! 耆著の使用自体も総角(もりもり)さん来てからは控えてたし……!!)

 と思ったのは貴信で、

「でも逆にいえば犬飼ちゃん、幹部の武装錬金さえコピーできれば総角って切り札になると思わない?」
「そりゃ……例えば耆著が複製できれば、磁力反発で章印を剥き出しに出来るかもっては認める。ボクたちが苦労して
やったコトですら、耆著コピー済みの総角なら簡単にできるかもってのは……」
「あ、でも、相手がホムンクルスだから、DNA採取って実質不可能よね? だって斬り飛ばしたらすぐ消えちゃうもの」
「そこを……解決する…………手段が、あり、ます!」
「のわわあ!?」と犬飼が手足をバタつかせ横方向へ飛びのいたのは、円山との間にポヤーとした少女の顔が前触れ
もなく生えていたからだ。鐶光。瞳同様、うつろで、儚げな雰囲気はしかし突如として視界に入ると魔霊の如きおぞましさ
もまた与えるらしい。
「採取は……コレを、使い…………ます!」
0103永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:57:21.32ID:+1rFHYEW
 白いもみじのような可憐な掌に乗っていたのは、透明な樹脂で形成されたとおぼしき長さ5〜6cmの細身だが無骨なカ
プセルだ。
「今回の作戦での……リーダーからの伝達事項その1は……私たち……音楽隊が…………これに……お姉ちゃんたち
……マレフィックの…………DNAを採取して保存して…………リーダーに渡すコト……です」
「なるほど。うまくいけば幹部を幹部の武装錬金で斃せるって訳ね」
 と呟く円山の前で「けどなあ」と犬飼、盛大な溜息をついた。

「幹部の武装錬金全部コピーしたアイツが戦団に敵対したらどうすんだよ……? シルバースキンすら分解する能力だって
あるんだぞ……」

「消す、絶対消す」。ニヤニヤと笑う火渡が遠くから見ているのが分かってしまう総角の顔色は、冴えない。

(ア、アレ? 俺もしかしてレティクル倒したあとそんなには生きられない感じ……?)
0104永遠の扉
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2018/06/22(金) 20:59:31.65ID:+1rFHYEW
「てかみんなチョーチョーダラダラくっちゃべっていていいの? 盟主んとこへカチ込むんじゃないの奏定」
「……また偉い人の話聞いてませんね天辺星さま……」
「はい?」
「いま部隊分けの最中です。盟主を追撃する部隊と、アジトに乗り込み大戦士長を保護する部隊と、それからここに残る
部隊の大きく分けて3つに戦士たちを振り分けている最中です」
「……? そんなの作戦前にチョーチョー決めるべきコトじゃないの?」
「盟主が単独行動してるってのは予想外でしたからそれを加味した再編成です。てか天辺星さま? これ全部毒島君が
説明してくれたコトだからね? 恥ずかしがりなあのコが人前で一生懸命やってた説明聞いてないとか失礼だからね?」
「だって説明聞いてる奏定の顔がチョーチョーカッコよくて……見とれてたし」

 サイドポニーの少女の傍で、コンバットスーツに若手刑事風コートを羽織った青年は少しだけ紅くなった。
0105永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:00:11.92ID:+1rFHYEW
.

..

 銀成市。サンジェルマン病院

「救出作戦の進行状況をばご報告っ!!!」

 会議室のホワイトボードをバンと勢いよく叩いたのはタキシードにお下げを垂らした小柄な少女・小札零。

 その前では長い机が4つガッツリ組んで正方形を作っている。黒い木目の目立つブラウンの、折りたたみ可能でいかにも
事務的な机のうち、小札の右手側のパイプ椅子に胴着姿の青年が1人、その向かい側に全身コート姿の男が1人。更に
その机同士を結ぶ、奥側に、瞑目こそしているが匂い立つような色香を放っている妙齢の、ショートカットの女性が1人。

 一座を見渡した濡れ羽立つ栗色の髪の少女は、やたら双眸をキラっキラさせながら横隔膜のぷるぷるしているハイトーン
ボイスで怒涛の如くまくし立てる。

「まずはご挨拶!! 本日はお忙しいなか不肖小札零の講演会場にご足労いただき真に感謝申し上げる所存であります!!
状況報告は実況とやや趣をば異としますがそこはナマの情報臨場感!! あたかも幕営におりますようなめまぐるしきお
気持ちになれれば幸いかと存じる次第っ!!」

「えーと。報告書じゃダメなのか……? 君のノリはなんていうか俺には合わないんだが」
「ブラボーじゃないぞ戦士・秋水。戦士・千歳はいま文字が読めない状態なんだ。全員小札の声で聞く方が効率的にもブラ
ボーだ」
「そうなんですが……」
「それとも武藤まひろに頼むか?」

 覆面をしている癖にややニヤついた様子が窺える防人に秋水は「……いや、武藤さんだと、ノリはともかく、要領が……」
つかめないと、清爽たる顔を引き攣らせる。

「ノリは合うのか。惚気か貴様」

 浅黒い少年が傍で呆れたように目を細めるのもなんのその、彼の携帯から漏れるかそやかな声をフムフムと聞き取る
小札は「うおー! うおおお!」といった名状しがたい気炎を上げて聞いたままを口でつんざく。もはや小札、ハゲヅラが
ごとき一大飛び道具の感がある。

「ともかく大部分の戦士の方々ほぼ合流!! いまは各部隊の見聞をば盟主どの急襲までの再編成のあいだ情報交換
まっさいちゅう!!!」
「……それ鐶からの電話だと思うが…………スピーカーに繋いで彼女から聞くというのはダメなのか……?」
「我も貴様と同じ提案をしたのだが、きゃつ、それは恥ずかしいと拒絶したのだ……」
 一体どうして? 小首を傾げる美丈夫に、忍び少年。
「鐶は……報告をさし急ぐと伊予弁に…………なるのだ…………」
「素の口調を聞かれるのが恥ずかしいのね。微妙な乙女心ね。分かるわ」
「とにかくブラボーだ小札!! いいぞ! もっとだ!! もっと燃えろ!!」
「ぬおー!! ぬおおおおー、お゛っ!?! ……け、けほけほ」
(津村……。いなくなって初めてキミの有り難さが分かる……)
 パワーのあるツッコミ役がこの場には居ないと初めて知り愕然とした秋水はもう小札に抗えない。
「まず犬飼どの!! 盟主どのについては所在のみならず特性合一の実態をもご報告!! 『特性による攻撃』にて受け
たるダメージを特性そのものと合一するコトで回避アンド斬撃にて返すという恐るべき秘奥の存在を! 広めたのです!!」
(……特性で、か)
 つまり自分の剣技や防人の体術であればダメージを負わせられる訳か……。この時は軽く思ったに過ぎない秋水だが、
後に知る。この条件がどれほど自分の命運を左右したかを。
「さあさハテと気になりまするは盟主どのとの交戦時!! 恐るべき奇襲に負けてなるかドヤアと雄渾、十文字槍にて盟主
どのをば手近な木に磔られましたるは納得も納得信頼と安定の撃破数1位・戦部どの!!」
(死闘感!)
「されど追撃加えたる犬飼どのムムムと唸らせたるは抵抗の軽さ!! ムムムおかしいホムンクルス調整体にして盟主で
ありますところの盟主どのの抵抗がどうにも軽い軽すぎる! ムムムまさか人間なのかいやまさか、そも盟主どのは100
年前からおられる身上、人間であられる筈がない!!」
0106永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:00:29.94ID:+1rFHYEW
(……盟主の扱いが軽い。小札(きみ)の兄の仇なのに…………)
「私情は私情! 実況は実況!!」
(変なところでマジメ!!)
「果たしてこの謎いったい何なのでありましょうや!!」
(ありましょうや!?)
 戦士・秋水の反応が面白いな……と、防人は楽しそうだ。
「盟主どのでありながら低き膂力は隠されし欠陥ゆえかはたまた恐るべき最悪の前触れなのか!!! 第一節盟主どのの
謎・完!!」
(これをいつまで続けろと!?)
 無言で目を剥く秋水をよそに、「ああ、母上の実況、よいなあ」と目を細めぽわぽわしているのは鳩尾無銘。

 ともかく小札はぴょこぴょこ跳ね回ったり、胸の前で拳を固めたり、実況に夢中になるあまりホワイトボードで顔面強打して
両目バッテンでブッ倒れたりしながら報告をまとめた。

「第三十八節、東里アヤカどのの妹御、斗貴子さんどのに逢う・完!」

『7年前』にまつわる思わぬ名前に防人と千歳が無言で身を乗り出した時、秋水はグッタリした様子で机に付していた。美男
子で鳴らしている彼であるが、いまは白目を剥いている。ツッコミで疲れたのだ。いつぞやの毒島を発生源とするガス騒ぎ
で気絶した時の桜花のような形相で気死していた。

 えと、えと。ロッドの武装錬金を一振りした小札は、毛布を出すとタラちゃんのような足音で秋水に駆け寄り、掛けた。優しく
愛らしい仕草だが、拷問サイコが被害者に輸血と点滴をするようなおぞましさもまたある。

 なお三十八節というが時間的にはまだ報告が始まって4分も経っていない。秋水が危殆に瀕するのもむべなるかな、知恵
の果汁の恐るべき魔濃縮にほとほと脳髄をやられてしまったとみえる。

「そして……どえええ! え!! リリリっ、リウシン!!?」
「っ!!?」

 鳩尾無銘が目を剥いたのは、

「ミ、ミッドナイトが…………別人に委譲されたリウシンの中で……生きていた……だと!?」

 オリジンと言うべき雨の夜の記憶が蘇ったせいであろう。

「次に土星の幹部どの操るゾンビらしき方々について!! ここ銀成における演劇でも見受けられた介入はあったのです、
新月村付近であったのです!! 蒼き顔でフガー! 理性を失くしフガー!! 被害者Kさんこと貴信どのは語ります!!
パピヨンどのさえ倒した病原菌の術技は武装錬金特性ではないのではないか、香美どのの素早さとか不肖の四足形態
のような『ナントカ型』固有のナントカをナントカたらしめる『特徴部分』の行使に過ぎないのではないかとのご指摘!!」
 声に起こされ周囲を見た秋水は、やっと逃れたはずの地獄に再び引き戻された亡者のような、諦めきった微笑を浮かべ
……さらさらと、塩になって、散った。
「あ、あの……」
 無銘は何か言いたそうに彼を指差すが
「ふむ。つまりパピヨンが『特徴部分』に致命的なダメージを負わされたのは人間時代から続く免疫機構の欠落ゆえ、か」
「だから常人なら、リヴォルハインの一部が体内に入っても、そのまますぐゾンビのような状態にはならないけれど、彼の武
装錬金の特性の『何らかの条件』を満たしてしまった場合は、操られてしまう……そう報告してきた訳ね栴檀貴信は」
「その通りなのです!! そしてそれは不肖たちも例外ではないのかも知れませぬ!」
「だから、あの……」
 秋水の座っていた席にうずたかく積まれている塩の山に人差し指を向ける少年忍者の困惑きわまれり。毛布などとっくに
落ちている。

「そして敵襲!!! 幹部マレフィックどの2名どの合流地点へ現れ戦闘開始とのコト!!!」

 どうなりますやら!! 溌剌とマイク当てたまま煌びやかな汗を散らした小札に。

 防人も千歳も、無銘も、黙り。
0107永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:00:55.22ID:+1rFHYEW
 黙り。

 黙り。

 黙り……。

「「「────────────────────────────!!!?」」」

 驚駭。

「ふぇ!? ててて敵襲でありますか鐶どの!!?」

 小札すらノリツッコミ的に慌てふためくなか、

(つまり先手を取られた! 盟主を追撃する前に…………!!)

 塩から復帰した秋水は更に思う。

(しかし『2人』……? いったい誰と誰だ…………?)

.

 左コメカミから右の顎関節を結ぶラインをスッパリと斬り飛ばされたその歩哨は決して油断していた訳ではない。
 村の外周に配されていた彼女は、何度目かとなるクライマックスの自動人形の散発的な襲撃を、慣れ親しんだチームメイト
たちとの連携で退けた直後すぐその銃剣でもってほとんど反射的に背後を殴りつけられるほどあたりを警戒していた。

(盟主追撃の体勢を整えるまでの隙は僅かではあるけれど! それだけに盲点!! 敵は絶対に衝いてくる!)

 ひりついていた緊張感は背後に殺意の影が降ってわいた瞬間爆発。肩口で散った冗談のように巨大な火花は銃剣先と
敵の獲物が掠れ合った印と歩哨が思う頃にはもう左コメカミから右の顎関節を結ぶラインに絹糸を引いたような傷が開いて
いた! 断崖の古城の螺旋の壁のような鋭利な切り口を刻んだ頭蓋骨も眼下遥か、門松の先端もかくやと尖る顔が飛ぶ。
 ぽつ、ぽつ、ぽつ。血と脳漿のにわか雨が渇ききった大地を潤す。凄まじい音を立て転がる死体を見落ろす影が微笑し
たのは声もあげさせず倒した己を誇負するが故ではない。

 どこに持っていたのか。墓場の手桶をそのまま青銅でコーティングしたような物体が、中空でもんどりうちながら、ぐわぁん、
ぐわあんと同心円状の赤黒い輻射を何十層と放っている。

 警鐘の武装錬金・ストライプデリンジャー! 特性は敵襲急報! 創造者のバイタルの急変または周囲50m圏内における
(1)1名以上の生体反応消失 (2)高熱源体 (3)高速飛翔体 のうちいずれかが検知された場合自動(オート)で異常ある
現場の座標を半径2km圏内に存在する総ての『味方』に転送する能力だ。(なお、『味方』の登録要項はヘルメスドライブ
のそれとほぼ同じであるが、写真による記憶もまた有効である)。

「……フ?」
「あ、あれ……? 急に、頭の中に……地図と…………赤い点、が……?」
『なな、なにさこれご主人! なにさ!!』

 騒ぐ音楽隊を尻目に、

「……これ自体は敵の能力じゃなさそう、だけど……」
「そうか。キミたち音楽隊と元信奉者組は知らないんだったな」
「味方の歩哨からの連絡の一種。俺も最初はビビったけどそのうち慣れる。急襲してきた敵が死ぬか、もしくは……俺らと逢
うかで消えるし」

 桜花と斗貴子と剛太はやがて熱汗をまぶす。

(……やってきたのは木星の幹部か、それとも…………)
0108永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:01:20.28ID:+1rFHYEW
 ひとすじの銀閃に砕かれた警鐘は深いヒビを刻んだ核鉄となって落下したが、なんという歩哨の執念、戦士一同の脳内
から地図と点は消えなかった。戦士全体への連絡をまさに殺害されている最中に開始し落命してなお続けた歩哨の勇猛も
また戦後の追悼式典において叙される。謎めいた影の笑いもまた賞嘆ゆえ……。

 本陣への急行を促すような手つきの影の眼前でバタバタと倒れたのはむろん歩哨のチームメイト。全員顔面や胴体を
蓮の実よろしく穿たれている。影への道に折り重なる死骸たちの僅かな隙間を通ったのは、ロングスカートに通された細い
足。

 死者7名。重傷者13名。軽傷者多数。新月村辺縁から中央部、仮の司令部へのルートを無音で疾駆する影たちに
遭逢するところ戦士たちは断たれ穿たれ黒血を飛ばした。もし歩哨が連絡よりも自己の生存を優先していたなら被害は
もっと大きくなっていただろう。戦士たちは奇襲の連絡とほぼ同時に司令部への集結を命じられていた。死傷者はあく
まで離脱が遅れた──つまり運悪く新月村辺縁に居た──だけであり、血気に逸った結果ではない。


 司令部付近。戦士たちが襲撃する間にもう敵意は魔群の風の如く接近(ちか)づいていた。

 曲がり角の小屋の死角から言語に絶する妖気を漂わせながらいよいよ全貌を現した影を。

 それは。

 豪壮なるハルバードに似合わぬひょろりとした青年と。

 2丁のサブマシンガンを構えたまま、ピクニックでもしているような足取りの清楚可憐な少女。

(……っ! 演技の神様……いや! ブレイク=ハルベルドと……!)
(光ちゃんのお姉ちゃん……リバース=イングラム!!!)

 斗貴子と桜花が内心呻かずには居られぬ天王星と海王星であった。

.

「なるほど。こいつらが例の」

 呟いたのは戦部厳至。薄暗い空間で拘束されている彼の眼前3メートルで茫漠たる光を放つモニターは、いかな中継
機構を有しているのか、微笑で佇むブレイクとリバースを映している。ノイズにこそ時々乱れるが、表情が窺える程度に
は鮮明だ。

「そう。10年前貴様が戦った”でぃぷれす”同様、相棒と組んでこそ真価を発揮する連中じゃよ」

 壁にもたれ両腕を颯爽と揉み捻るイオイソゴは、笑う。

「武技のみで早坂秋水を圧倒できる”ぶれいく”と、軽機関銃で精密射撃ができるほど卓越した”りばーす”。ひひっ。奴ら
めの『特性』の相性は最高にして最悪……このわしですら無策では挑みたくない”たっぐ”じゃよ」

 モニターの向こうで。

 両名ともニコニコと目を閉じ人好きのする笑みを浮かべているが……戦士に吹きつく血の匂いは、濃い。


「足止め……にしてはやや迅速すぎるな」

 予定のうちかと片目をつむり問いかける戦部に、「ほう。さすが」と軽く目を丸めた老嬢うなずく。

「そう。ハナからの予定よ。次の一手も込みで、な…………!」

 巨影が戦士たちを覆った。一斉に空を見上げた彼らはいちように、蒼然と引き攣った。犬飼に到っては喜色を交えつつ
も「馬鹿な!」と叫び、火渡は「ま、当然だわな」と短いタバコを弾き捨てた。

 仮の司令部だった廃屋をメチャクチャクに弾き飛ばしながら新月村に降り立ったのは白金色の……巨人。
0109永遠の扉
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2018/06/22(金) 21:01:39.87ID:+1rFHYEW
「く、くくく……」

 戦士たちが狂瀾怒涛の叫び声を上げ右に左に走り回るさなか、尻餅をついた犬飼が「くくく」と言ったのは笑いゆえでは
ない。再燃する怒りと、狡猾へのヘドと、ほんの僅かな安堵で舌が縺れたせいである。だがそれを意思で捻じ伏せ、叫ぶ。

「首を! 大戦士長の首を死守した理由がこれか! イオイソゴ=キシャク!!!」
(……やっぱりね。蘇生後すぐ、陣内のノイズィハーメルンみたいな武装錬金で操られてしまったとみるべき)

 と分析したのは桜花。

(じゃあこれが誘拐の真の目的…………? いえ、断定はまだできないわね)
(とにかくレティクルで照星氏を操れるのは! 思い当たるのは!!)

 栴檀貴信の脳髄を過ぎるは『操られ、ゾンビのようになってしまった村人たち』。

 バスターバロンのコクピットには照星以外もう1人いた。身長2m超の貴族服の男である。

「我が民間軍事会社に対し『条件』を満たしてしまった者はいかなる戦士でも『社員』となり、社長たる乃公に行使される!
むろん武装錬金使いであれば、武装錬金をも!!」

 土星の幹部・リヴォルハイン=ピエムエスシーズに操られる破壊男爵が古びた木造建築を砕きながら、迫る、迫る、アリ
粒のような戦士たちを追いかけて、迫る。
(っ!! しまった! いまの騒ぎで……見失っ……いや!! 混乱に乗じて姿を消された!!)

 剛太は戦慄する。リバースとブレイクの姿が消えているのに気付き……戦慄とする。

(じょ、冗談じゃないぞ! 相手しろっていうのか!? バスターバロンが暴れている足元で!! バカ強い鐶すら恐れる
海王星の幹部と!! 妙な禁止能力を持っている天王星の幹部の! タッグを!! 身長57m、体重550トンの巨人が
暴れ狂っている地獄の中で……相手どれと……!!?)

 もうもうと立ち込め始めた土煙の向こうから聞こえるは、銃声と、斬撃と、恐怖の叫び。──。

(こーいうとき同士討ちを防ぐため反射的に身動き止める戦士の習性が……)

 アダだなとホルスターに手を掛ける西部劇の二丁拳銃使いのような姿勢のまま戦輪を回し始める剛太の背後の砂の膜で。
 きらりと小さな白いきらめきが灯った瞬間、斧と鎌と槍を組み合わせた悪夢のような超重武器が新米戦士の頭部めがけ
剛速球で伸びてきた。思わず顔だけ振り返る、彼。
「……ぎっ!?」
 砂塵を螺旋状に吹き飛ばす烈風の突きから剛太がからくも逃れたのは、残影も見せず横から飛び出てきた軍用犬あらば
こそ。アロハシャツの首ねっこを甘噛みしたキラーレイビーズが意図的に空中で姿勢を崩した瞬間、剛太はその落下と質量に
引かれる形で薙ぎ倒された。斧と鎌と槍……ハルバードは濛々たる煙の向こうに帰した。
「どうだい? 殺そうとしてた奴に助けられる気分は?」
「……礼はいうけど根に持ちすぎだろ奥多摩のコト…………」
 相も変わらず卑屈な笑みの犬飼に下唇を突き出し呆れを示す剛太。
(まあいい。ここはコイツの護衛! 視界が効かない今、嗅覚は重要……!)
(嗅ぎ当てるべきはレイビーズ! 今までこの場に居なかった『新しい匂い』だ! 戦士への不意打ちを妨害しろ!!)
 じゃないとまた火渡戦士長にどやされるからね、犬笛弄びくっくと笑う犬飼の表情は言葉とは裏腹に……明るい。

「第一、戦士が動かないって、コ・ト・は!」
「アヒ、アヒ:

 円山は無数の風船爆弾を敷設する。土煙発生前の戦士の位置を総て覚えているため誤爆による身長吹き飛ばしはない。

「銃撃に対するデコイ兼、移動妨害!!」

 銃声の間隔がやや広くなったのを確認した麗人は、唇にまっすぐな指2本を与えつつ艶然と笑う。

「ま、本命の測距が終わるまでの時間稼ぎだけどね」
「……なの」
0110永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:02:30.71ID:+1rFHYEW
 強烈な旋風が、立ち込めている砂塵を1粒残さず吹き飛ばした。

「ちょ、視界晴れたら見せ場が、レイビーズの見せ場がーーー!!」

 戦闘の前提が崩れてしまった衝撃事実にギョっと叫ぶ犬飼はともかく。

「風を、天気を、操るドラちゃんに土煙とか誤魔化しにもならない……なの」

 気象の妖精のようなフワフワもこもこした少女はホムンクルス撃破数3位。

「てやー」

 気の抜けた声と共に掌から放たれた野太い稲妻を全身に浴びたバスターバロンが後ろに向かってたたらを踏んだ。だが
雲を突かんばかりの鉄巨人の出来事である、たった数歩の後退で、鍛え抜かれた戦士たちですら立っていられないほどの
地響きが巻き起こる。捲れ上がる何枚もの岩盤は刺々しき氷山の如く峯を連ねる。
0111永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:02:48.05ID:+1rFHYEW
「ウォーミングアップでも5人は殺せると思ってやしたが」
『戦果ゼロ。軍用犬と風船爆弾にだいぶジャマされちゃったねブレイク君』

 そんな文章が弾痕で、比較的ぶじな地面に刻まれた次の瞬間。

 ひゅっと跳躍し、手近な廃屋の屋根で合流した幹部2人は戦士たちを睥睨する。

「……さすが救出作戦の大舞台に選ばれた方々。銀成の人たち以外にも強者は、へへ、いらっしゃるようで」

 天王星の幹部……ブレイクはやや猫背でしゃがみ込んだままエビス顔で話しかけ、額すら叩き、
 海王星の幹部……リバースは、二挺のサブマシンガンを腕ごとダラリと垂らしたまま、巍然と仁王立ち。

「どうでもいいわどうでもいいのよ光ちゃん以外の人間なんてキライキライ大嫌いやっと殺せるのよ戦士全員殺せるのよ
お父さんとお義母さんを殺した戦士の仲間なんだから殺す全員殺す光ちゃんと愛し合う邪魔しないで許さない」

 魔獄のような妖光を薄目から漏らしながら、ブツブツと早口で呟く。ノーブレスで陰麗たる嚇怒を紡いでいる癖に声音自
体は天女のように貞淑で清廉ときているから、却ってますます死霊めいて恐ろしい。
0112永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:03:15.21ID:+1rFHYEW
ゆるくウェーブのかかった、やや金属的な乳白色のショートボブ。それがリバースの髪型だ。雰囲気こそ大爆発寸前では
あるが、顔立ち自体は何人かの戦士が思わず吐息をついたほど。活発ではなさそうな、それでいて包容力はありそうな、
清純きわまる美姫の佇まいにしつらえたように四体は今にも折れそうなほど細い。なのに女王蜂のようなウェストのくびれの
上下は正に豊穣。首をすっぽり覆うサマーセーターの生地がはちきれんばかりに膨らんだ胸部。清楚なロングスカートの
上からでも分かるほどに肉付いた臀部。
(イオイソゴと並べば向こうが霞む……正統派美少女って奴だね)
 卑屈だからこそオタクを低く見る犬飼は、半ば揶揄を込めてリバースを評した。

(……先輩)
(ああ。増えているな。あの海王星の幹部の銃……銀成で戦った時より増えている)
(フ。ダブル武装錬金か。俺もやってはいるが、幹部にまでやられると、な)
0113永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:03:37.90ID:+1rFHYEW
 かつて総角は自分と鐶のタッグでも勝てないのがマレフィックと評したが、それは向こうが1つの武装錬金を使っている
という前提の上でだ。つまりダブル武装錬金をされると……勝利はいよいよ絶望的…………。

(どうにか武器を弾き飛ばすか……或いはどちらかの武装錬金をコピーするか……)

 颶風と共に濃さを増した影を後方への跳躍で躱わしながら、総角主税は嘆息した。

(フ。10年前といい今といい、大事なところで邪魔してくれる……」

 身長57mの巨人もまた敵なのだ。だがその敵は、武装錬金は『総角に姿を、見せている』。……つまり!!

.
0114永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:03:54.25ID:+1rFHYEW
(…………)

 火渡赤馬はバスターバロンの顔面を睨み据える。眼力で外装に穴を開け、搭乗者たる照星を曝け出そうとするように、
強く強く睨み据える。死の淵から無理やりに引き戻され傀儡と成り果てた師を……ひたすらにねめつける。
 構えていた戦士たちのうち何人かが偉容に満ちた追撃の数々に気圧され算を乱し逃げ始める。何もしなければ戦団は
遠からず総崩れの憂き目にあうだろう。そして今の火渡は照星の代行……戦団全体を収攬すべき立場にある。

(いっそ、俺の手で……)

 また心の中の雨音が……強くなる。

.
0115永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:04:28.41ID:+1rFHYEW
.

 終止符の先の世界で、羸砲ヌヌ行語りて曰く。

「そうだソウヤ君。きっかけだ。幕開けだ。音楽隊とレティクルの命が次々と喪われていく激闘が始まったのはここからだ」

「最初の死者は……1人」

「その名は──…」
0116永遠の扉
垢版 |
2018/06/22(金) 21:05:02.01ID:+1rFHYEW
.

..

【ヤーコプ=グリム・ヴィルヘルムグリム/作】

【関 敬悟・川端豊彦/訳】

【ブレーメン市の音楽隊】より】

.

..

 やがて村を逃げ出した者三匹は、ある屋敷のところを通りかかると、門の上に雄鶏がとまっていて、精一ぱいの声で鳴
いていた。「骨の髄までしみわたるような声だね」と、驢馬が言った、「どうしたってんだい」──「上天気だよって知らせたの
さ」と雄鶏が言った、「うれしい聖母マリアさまのお祭りで、マリアさまがキリスト坊ちゃまのかわいらしい肌着を洗濯なすって、
そいつをかわかそうって日だからな。ところがあしたは日曜で、客が大勢来るってんで、うちのおかみさんたら情け容赦もな
く、あすは俺をスープに入れて食っちまうんだって料理女に話してたのさ。そいで今晩、おいらは首をちょん切られるのさ。
だから、鳴けるうちに、思いっきり鳴いてるってわけさ」──「何を言ってるんだ、赤毛君」と、驢馬が言った、「それよか俺た
ちと一緒に逃げた方がいいや。俺たちはブレーメンへ行くんだ。死ぬより良いこたあ、どこへ行ったってあらあな。お前さん
はいい声してる。みんなで一緒に音楽をやったら、きっと面白えもんになるぜ」と、雄鶏は、これを聞くと、そいつは面白いと
思って、四匹そろって出かけた。


                          【参考文献:角川文庫 「完訳 グリム童話T さようなら魔法使いのお婆さん」】
.

..

(…………お姉ちゃん)

 廃屋の屋根で、目を閉じ微笑する姉を音楽隊副長・鐶光は見上げる。

 恐怖に震え、挫けそうになる体を支えているのは……1人の少年とのかけがえなき思い出。
 付近に浮かぶ龕灯は

(いよいよ……か)

 聖サンジェルマン病院にいる「1人の少年」の心をざわつかせる。.

..

 かつて両親を殺し、筆舌尽くしがたい虐待を行った義姉との決着が、

 旅の決着が、

 迫っている。
0118ネギま信者J
垢版 |
2018/06/24(日) 18:09:42.76ID:qY7uf13y
魔法先生ネギま!/UQホルダーのSSを
投下しようと思うんですが

このスレで投下してしまって
大丈夫でしょうか?
0119作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/07/01(日) 20:35:21.36ID:ZLPv28jZ
>>スターダストさん
屈辱感の中で、「復讐では挽回できない」と悟り、そこから前に進むのは、賢明で立派だと思います。
その根っこが「周囲が認めない」だというのもまたいい。それは功名心であり、同時に「自己満足ではない」
ですからね。と、かっこいいところを見せつつ円山にツンデレる犬飼。多方面に見せ場たっぷりでした。 

>>ネギま信者Jさん
おいでませ。題材に縛りはありませんので、ご自由にどうぞ!
私からのリクエストというか希望なんですが、私はその原作を未読ですので、
各種設定やキャラの外見など、説明を多めにして頂けると有難く。
0120永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:13:15.04ID:j2GJNLEY
第108話 「うばわれたバスターバロン」

 とにかく、分断である。急務といっていい。マレフィック2名と、バスターバロンの話である。戦士どもの立場になってみよ、
音楽隊の総角・鐶といった精強きわまるホムンクルスがタッグを組んでなお勝てぬと噂される幹部が、2名づれで現れた
時点ですでにもう大衝撃であるのに、何というコトであろう、戦団の護神であるべき鉄巨人までもが……寝返っている! 
誘拐され、戦士たちに救出されるべき坂口照星が、戦士たちに超質量の鉄拳を……向けている!!

(味方なら心強いけど)

 冷汗を頬いっぱいにまぶした剛太が呻く。

(身長57メートル、体重550トンのバスターバロンが敵に回るなんて……)

 最悪というほかない。

「ふはは……どうだ、真ゲッターを敵に回した気分は……的な…………」
「フザけてる場合か!!!」

 斗貴子が、爆散し木片を撒き散らす廃屋の前で飛びのきながら目を三角にし怒鳴るのも無理はない。鐶光。赤い三つ編
みのせいで一見清楚可憐な彼女だが中身はイイ性格で、しかも異星人めいた独特のマイペースをも孕んでいる。戦士たち
が怒号あるいは悲鳴を上げながら走り回っている中、藍鼠色の峯影よりも更に高くそびえる鉄の巨人にどこかエヘラエヘラ
した視線を向ける理由は(くそう、これだからロボットアニメ好きは……!)と歯噛みする斗貴子を見ればおおむね分かろう。

「……空が割れる……炎が舞う……巨大魔神見参…………?」

「マジメにやれ!」 さすがに斬りつけるよう叫ぶ。「今のままじゃお前だって……姉との決着どころじゃないんだぞ!」

 虚ろな瞳が揺らめき、繊婉たる眉も下がる。「わかって……います」。軽口はどうやら心機の平仄を合わせるためだった
らしい。音楽隊副長の口からまろびでるは搾り出すような、幽(かそ)けき声。

 会敵から1分足らずだが10名ばかりの戦士が面白いように討ち取られつつある。首を撃ち貫かれ息絶えた者、土煙の
向こうから伸びてきた斧槍に右側頭部を飯茶碗のように叩き割られ中身をこぼした者……。いずれも破壊は回避後おきた。
バスターバロンの足や拳を紙一重で避けたその硬直を狙われた。(土煙の向こうから、隠れて……!) 斗貴子がうすく血
が滲むほど拳を握るのも当然だ。卑劣というほかないし……だからこそ、向こうが負け筋を打っていないのも業腹だ。

(個々の力量では戦士(わたしたち)より幹部(マレフィック)が上……。にも関わらず奴らは理解している! 『長期戦になれ
ば結局は数の暴力で押し切られる』、と!)

 それは犬飼倫太郎に腐心していた頃の木星・イオイソゴ=キシャクの思惑と一致する。強さで劣る戦士といえど多様性で
立ち向かうコトはできる。1人くらいは、襲い来るリバースやブレイクといった者相手に相性で勝りうる……というのは決して
夢物語ではない。万が一そういったものがなかったとしても、複数人の能力の出し合いで、敵が特性を振るいづらい状況を
作り出すコトだって可能なのだ。

 だからこそ!

(奴らはまず着実に戦力を削ぐつもりだ! こちらの連携を……断つために!)

 あちこちで叫喚があがる。血しぶきも。戦士たちは土煙におぼろな影が零乱するたび味方勢力が確実に減じていくのを
直感するがどうしようもない。果敢にも単騎で助けに向かった者たちは数人に収まらなかったが……バスターバロンの着地
の巻き起こした砂塵にひとたび覆われたが最後である。耳を覆いたくなる絶叫に彩られた濛々たる膜ときたらまるで小鳥が
虫の甲殻や足でも吐きもどすように、耳や、目玉や、片腕をどしゃどしゃと透過させ大地に落とす。そうした光景が補助専門
の戦士たちの心機から攻勢をますます奪い……『狩られやすくする』悪循環。

 まったく鐶の義姉だと斗貴子は思う。銀成で、年齢操作という特性1つで、混雑という、奇襲に適した環境を作り出し真綿で
首を絞めるように戦士たちの年齢を削いでいった鐶のまさに義姉であると仮想上のリバースを睨む。

(それ単体でも最強クラスのバスターバロンを一見”たかが”の攪乱材料にするとはな……! 単に思考力が図抜けている
だけじゃない、自らの力量に絶対的な自信がなければまずできない発想! 同時に戦車と歩兵の関係でもある! 土煙と
地響きで戦士(わたしたち)を攪乱できる代わり小回りが効かないバスターバロンへの接近あるいは潜入を防ぐため、連射
力のあるサブマシンガンで牽制しているんだ)
0121永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:13:35.67ID:j2GJNLEY
 土煙から飛び出した死骸がひとつ、斗貴子の傍を通り過ぎた。若い男性だった。体の前面総てが蓮の目状にグズグズに
溶け裂けている。被弾で仰け反ったまま死後硬直を迎えたらしき手と足で「ヒ」の字を作りつつ後方へ流れていく彼に斗貴子
は見覚えがあった。親しくはなかったがこの7年の作戦行動の中で何度も顔を合わせた9歳上のバツイチで、酒にこそだら
しないが斗貴子の顔の傷をいい意味で気にしない親愛的な戦士だった。皮から中途半端に出たブドウのような右目と眼窩
の隙間から脳漿で割られた豚肉状の脳髄がとろとろと出ている社会死判定Aクラスのダメージを見損ねていたら、斗貴子は
彼めがけバルキリースカートを伸ばし救護していた。その程度には好感ある相手だ、摩擦で焼け焦げた無数の銃創から落
城の火の手のような黒血をたなびかせつつ手の届かぬ領域へ謝(さ)ってゆくありさまに斗貴子の面頬が哀惜に歪んだのは
ごくごく一瞬……すぐさま決然たる殺意へと塗り替えられた。

(桜花とは段違いの射撃系統だが……行くしかない! 私が!)

 因縁だけいえば鐶とブツけるのが得策ではある。何しろ鐶もホムンクルス、レティクルが片付いたあとの処理を考えれば
むしろここでリバースと食い合わせるほか無いとさえ言える。

 が、狙わないのだ、向こうはまったく。

 最も因縁深い鐶を放置しているのは「2人だけで、ゆっくり」という訳だろう。ベストだ。心情的にも、戦略的にも。水入らず
での決着は因縁かかえる者なら誰だって大望だし、銀成市で6人もの戦士を相手に大立ち回りを演じた音楽隊副長に加勢
する戦士(もの)あっては勝ち目も薄れる。最愛の義妹を倒れるまで愛でるには1人にするのがまずよろしい。

「先輩!」

 甲走った剛太の叫びが斗貴子を思慮から現実へ引き戻す。「最悪だ」、すくたれた犬飼の呟きも今ばかりは蔑(なみ)せ
ない。照星はもう戦士たちを捉えている。550トンの凶弾を放っている。山より巨大な巨人が組んだ拳を機首にして鋸刃め
いた加速の波濤を漂わせているのを見た斗貴子の想う「フザけるな」にらしからぬ恐怖が色濃く混じっていたのもむべなる
かな、ガンザックオープン、人間に使うは特急をブツけるに等しい。
 超質量を超速度で衝突させるその単純さをヒトが生身で直撃(うけ)たが最後、粉砕どころか血の霧になって消えうせる。
回避できても着弾点が地面の場合、破片の散弾が恐ろしい。砲弾の何十倍もの質量が軽機関銃による十字砲火数百ダ
ース分ふき荒れるのだ。とあるホムンクルスの集落に敢行された時は決して小規模ではない建物を29棟全壊させ、129体
の頑健なるホムンクルスの四肢のいずれかをバッタの足でももぐように吹き飛ばしたという。

 それが、バスターバロン最強の技が戦士たちを狙っている。軌道から察するに着弾点は恐らく偏在する戦士団のほぼ中心……
とまで読んだからこその「フザけるな」である、斗貴子は。

(冗談じゃない! ホムンクルスな鐶たち音楽隊と違って私たち戦士は人間……! 今すぐバスターバロンを撃墜できなけ
れば着弾だけで壊滅的な被害を蒙る……!!)

 そうなった場合、立て直しはもう効かぬ。誰が暴悪ふるうマレフィック2名を止められるというのか──…

 という、斗貴子と同様の思いを浮かべた無数の戦士たちがめいめいの武装錬金を構えた瞬間、それは来た。

「やはり下も下なら上も上、か」

 あっと息を呑めた者はごく少数。最高速に乗った破壊男爵の、十字に切り拓かれた兜(ヘルム)の前に突如として現れて
いた漆黒の影は比すれば雲霞の如き粒だろう。幻怪なる舵が切られた。指の骨節の高らかなる音が緑黄まだらな峡谷に
響いた瞬間バスターバロンの推進軸は爆光ふくれあがるバックパックの左ブースターに支配された。逆方向に巨体がかし
いだのは爆発の”押し上げ”がそれほど強烈だったのだろう。

「囚われるどころか洗脳とはねェ」

 乱気流に飲まれたように上下しながら行きすぎていく男爵の横顔を一顧だにせぬまま、ねばりついた冷笑を浮かべる影
はいよいよ石炭でも食んだようにドス黒くなったブースターの煙に飲まれ……まるで溶け混じったように姿を消した。

 直前かろうじてだが影を目撃した斗貴子、唸る。

(あの影……まさか!)
0122永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:13:51.84ID:j2GJNLEY
 戦士たちがこの奇怪ごとにただ呆然たちつくすだけの連中であったならバスターバロンは即座の転針を以って予定通り
の着弾を行えていただろう。だが阻止はただ反射的な便乗によって成された。100個しか存在しえぬ核鉄をして無尽蔵の
ホムンクルスを殲滅せねばならぬ構造的な忙しさはしばしばヴィクターの一件のような誤りも生むが、偶発的な勝機に対す
るほとんど芸術的と言っていい反応速度もまた生む。今回は、後者であった。バスターバロンが突如として推進部から火を
噴いた意外ごとに目を白黒とさせながらも投擲・射出に属する武装錬金の持ち主たちは突撃を決定的に妨げるべくほぼほ
ぼ脊椎反射的に機械巨人を攻撃した。

 モーターギアやエンゼル御前は言うに及ばず、ミサイルやHEAT、アサルトライフルといった実体弾その他の武器の小爆発
にバスターバロンはどんどんと軌道を逸らされた。決定打を催したのは熱疲労。火渡の炎にねぶられたバックパックはサップ
ドーラーの放つ雪嵐によって匙に叩かれたゆで卵の如く面白いように亀裂を広げ弾け割れた。

「……やる!」
「大戦士長救出に選抜される程度には全員強い。むしろこの程度の連携……できん方がおかしい」

 モニターの前で感嘆するイオイソゴに対し戦部は無感動に呟く。こともなげな瞑目だが、それだけに却ってこの大舞台の
キャストたちに対する絶大なる信頼が見てとれた。

「じゃが」

 すみれ色のポニテ少女は腕組みのまま指立て……きゅっと片頬を吊り上げる。

「こちらとてただ操っている訳ではないよ」

 怯みつつ、しかしなお前進せんとするバスターバロン! どよめく戦士! 悟った! 前進が単に巨大質量の慣性による
ものでないと! おお見よ、鉄巨人を見よ! 暗紫の陽炎を総身から噴き上げながら、無数の武装錬金の猛攻をものとも
せず戦士たちに殺到する御姿(みすがた)は慣性以上の凶念を纏っている!!

「強化、か。なるほど。読めてきたぞ。大戦士長を操っている武装錬金(カラクリ)が」

 呟く戦部に老嬢は「ひひっ」と幼き肩を揺する。

「そう! りぼ坊じゃよ。いまや照星めは我らが土星の忍奴……!」

 五指を天衝かんばかり広げた丸顔の童女はしかし黒々と八重歯をむきだし、笑う。

「民間軍事会社の武装錬金『りるかずふゅーねらる』の特性は特定条件下における完全支配!! 支配を享けたものは
代わりに能力を引き上げられる!!」
(……艦長どもがとある山で遭遇したという村人どものアレか。あちらは人の身のままホムンクルスの姿形と能力を得て
いたというが)
「ひひっ。そしてこちらも貴様は毒島から聞いているじゃろうが、銀成学園の連中めが演劇終盤武装錬金を発動した原因
もまた我らが土星の仕儀!! 持たざる者に与えることに比ぶれば既に存在する物を強化するなど……実に容易い!!」

 いかに戦士どもが強かろうと強化された破壊男爵が相手では鎧袖一触……! 高らかに笑うイオイソゴに戦部が野太い
唇をほころばせたのは、むろん迎合のためではない。

「それはどうかな?」

 猛進する鉄巨人の周囲にある物が吹き荒れた。イオイソゴは最初それが、火渡とほぼ互角の広範囲攻撃を持つサップ
ドーラーの、気象攻撃の一環かと思ったが、立ち込めるものが、金属的なギラつきを帯びているのを知ると軽く瞳を散大
させた。

「これは……」
「戦費の武装錬金!! ウォーエンドノーマネー!!」

 少女の言葉を継ぐような叫びがスピーカーから流れた刹那、ぐわんと凄まじい音たてバスターバロンが弾き返された。それ
も鈍器のスイングを受けたような調子ではない、生硬いゴムに衝突しバウンドする軟らかさだ。思わぬ抵抗に獰猛な唸りあげ
背部ブースターを炎(も)やす鉄巨人。彩度の高い青緑の噴炎で突っ切らんとした謎めいたギラつきはしかし奇怪、ふたたび
バスターバロンを押し戻す。

(硬貨……!!)
0123永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:14:08.46ID:j2GJNLEY
 重鎮イオイソゴが軽くだが瞠目したのもむべなるかな、一円玉もあれば五百円玉もある。原寸大だが微妙に錬金術的意匠
を施された硬貨群がそれ自身生命ある胞子のごとく漂っている。空中にある身長57mの前後左右をほぼほぼ隙間なく埋め
尽くしているといえばどれほどの量か知れるだろう。

「あの特性は条件を満たしたが最後、俺でも易々とは突破できん」

 現役戦士中最多のホムンクルス撃破数を誇る戦部が片目をつむりニンマリとする様にイオイソゴの目つきが変わる。驚く
少女らしさが一気になりを潜め、現れたのはただただ冷然と敵の能力を見極めせんとする一個のくノ一。

(ばすたーばろんを抑えられる以上、小札めの反射障壁とは恐らく原理からして違う筈……! そも忍びゆえ目ぼしい戦士
どもの能力はおおむね把握しておるわしが知らぬということ自体すでに強者の証……!!)

 真に強い能力とは知名度を得ぬものだ。そうではないか。ウワサされる数とは畢竟『仕留め損ねた回数』、使えば相手が
必ず死に、目撃者すら全員始末するほどの能力こそ、強い。でなければ研究される。特性を知られるイコール攻略法を練
られる。強さを保つのは秘匿。秘匿を保てる慎重さなき者かならず『百年目』……忍法という能力の世界に生きるイオイソゴ
ならではの持論だ。

 たすきがけに、一万円札が、生えた。さくりとめり込んだのはない。最大限の注視をしていたイオイソゴですら、突然巨大な
る紙幣が機械巨人の体表に生えたとしか見えなかった。

「最高額は、強い」

 戦部のしわがれた呟きと共にモニターから光が溢れ──…

 一拍遅れの爆発で反時計回りのタップ的な旋転を描いた激越の巨人はそのまま無数の山林をヘシ折りながら山肌に
雪崩れ込んだ。

(これで沈黙してくれたら楽なんだけど……)

 期待もむなしく立ち上がった破壊男爵の顔を見た犬飼は(……だろうね)と情けなく痙笑する。直立に戻った男爵は、
双眸に一瞬冷然たる毫光を灯し、ゆっくりと戦士たちを見渡した。見渡すたび顔面の圧威の煤が濃くなりつつあるよう
だった。

(…………)。一瞬たじろいだのは剛太。武装錬金の攻撃力の低さゆえ圧倒的巨体への畏怖は強いと見える。

(落ち着け。バックパックは確かにツブした。万が一レティクルの連中が再生能力とかつけてやがったとしても、しばらくは
突撃できない筈! ……つっても)

 7m級のスギやヒノキをマッチ棒で作った工作物よろしく薙ぎ倒して薙ぎ倒し前進する威容に新米戦士はもはや呆れぎみ
に蒼褪める。おばけブルドーザーでもこうも易々とはいかないだろう。

(歩き回られるだけで脅威なのは相変わらず! やっぱ部分破壊じゃ根本的な解決にならないって! バスターバロンの
恐ろしさは特性ではなくあの巨体!! 大戦士長の洗脳が解けないなら、完全破壊か武装解除しないとならねェってどうに
も!)

 回転する歯車(ギア)が導く『歩くコトすら阻止するにはどうすればいいか』……現状もっとも手っ取り早い手段には、早坂
桜花もまた……辿り着く。

(津村さん)
(ああ。分かっている)

 桜花の囁きに斗貴子がほとんど諦観の様子でやや苦々しく瞳を細めたのは結局決定権を有さぬからだ。幹部2人
とバスターバロンの分断を実行できるのはただ1人で、しかも”そいつ”は斗貴子の指示を受け付ける義務も義理も
有さない。

 機械的な咆哮を上げ、戦士たちめがけ歩き出す破壊男爵。どよりとした合唱をあげ後じさりかける戦士たち。

「フ」
0124永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:14:27.80ID:j2GJNLEY
 火花を散らしたのは踊りこんできた巨拳である。大ッぴらに首や胴体を揺らしながら倒れない程度に後退した『坂口
照星の』バスターバロンは無機質な眼差しを乱入者に向けた。

 居たのは──…

 身長57m、体重550トンの鉄巨人。いや厳密に言えばその全身は薄くそして輝かしいメタリックブルーに彩られているから
青銅巨人とでもいうべきか。ともかく2機目のバスターバロンがそこに居た。

「まさかダブル武装錬金!? 大戦士長が!?」
「いえ……あれは……」

 リーダーの……です。鐶が呟いたのとほぼ同時に、コックピット内の金髪剣士は片頬を自信たっぷりに吊りあげた。

「フ。巨体ゆえ観察に手間取ったが……こちらは俺が引き受けよう」

 マントをしていれば挙措と共に鳴っただろう。それほど典雅な動きだった。

 彼……音楽隊首魁・総角主税の武装錬金『ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ』は複製能力の認識票! 複製のため
満たすべき要項は以下のうちいずれか1つ!

(1) 対象の創造者のDNAを認識票に付着させる
(2) 対象の武装錬金を実際に目撃する。

「(2)を10年前の遠目で見た特性使用時の記憶と相まって満たした……ゆえに、5分なれど完全再現可能な(1)には劣る
複製ではあるが、サイズ的に抑えられるのは、フ、これしかないだろう」

「あー。総角のやつとうとうバスターバロンまでコピーしやがった……」

 ヒキガエルのような声でボヤいたのはエンゼル御前。ただでさえ先ほど、激戦やブレイズオブグローリーといった超強力な
物品を剽窃してのけた総角だ。このうえ戦団最大といっていい鉄巨人までもコレクションに加えられれば御前ならずとも腹が
立つだろう。

 果たして一見緩徐なる殴り合いを演じ始める巨人2体。

「気に入らないけどアイツじゃなきゃ押さえ込めないのは事実……」
 犬飼は苦慮の顔つきで唸ったが、ふと気付いた様子で一人ごちる。
「……サブコックピットのアレは再現できるのか? 乗せた奴の武装錬金を増幅して発動できるアレは……」
 可能ならば最悪だと犬飼が思った理由は次のとおりだ。

(アイツは……音楽隊のリーダーは複製能力者だからな。もう1個あるという認識票から発動したサテライト30の分身
をサブコクピットに乗せたら……あらゆる武装錬金を1人で増幅できるんじゃないのか……?)
「ってカオしてるけど」
 いやその推測違うわよと傍らに居た円山はジト目を犬飼に送る。
「総角のスロットは2つなんだから、バスターバロンとサテライト30で枠埋まっちゃったら他の武装錬金使えないわよ?
サテライト30で作った分身が使える武装錬金はあくまでサテライト30だけ。他のを発動したら、サブコックピットの分身
は消える。例えば私のバブルケイジを代わりに発動したのなら、総角は、メインのコックピットで風船爆弾を侍らすコト
になるから、そこの乗組員の武装錬金はブーストできないのがバスターバロンだから、だから結局、総角は、自分で
複製したバスターバロンについてはサブコックピットの特性を自分で使うコトはできない……筈」
 ムーンフェイスだって月牙は増えるけど分裂特性あるのは1つでしょ? 指たて呟く円山に、犬飼のメガネ、ズレる。
「……あ。…………。ん? 待て、じゃあ逆に考えると」

 四つ手を組んでいた2体の巨人の片方が、後頭部を殴られた。凄絶なる火花を散らしたのは背後からの鉄拳だ。

「フ」

 殴らせたのは、3体目のバスターバロンを生んだのは言わずと知れた総角主税。

「野郎! サブコクピットの自分で」
「増やしやがった……! バスターバロンをムーンフェイスの能力で増やしがった……!」
0125永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:15:34.63ID:j2GJNLEY
 まったくムチャクチャだとばかり目をむく剛太。続く呻きは犬飼のそれである。

《増やす、か。さすが盟主の移し身》

 エコーの掛かった涼やかな声はバスターバロン頭部から発せられた。

《考え方も似通ってくるものだな》
(『似通る』? ……まさか!)

 昂然と斗貴子が天空を仰ぐのを待っていたように蒼穹に開くは大小さまざまの黒丸。あざやかなまでの降下だった。黒丸
は足裏の影であり、地上との絶対距離を急速に削り取るにつれ戦士のはしばしから叱嗟のうめきが漏れ出でた。振り注い
でいるのは銀の柱。大気を削る圧倒的速度で甲冑の輪郭を溶けながしている柱。それらが大地に次々と着弾した。噴火の
予兆のように高々とした土煙が舞い上がり大玉の砂礫を湿り気味の小麦粉のように散らす。永劫かたり告がれる震災より
悪夢的な激しい揺れにもんどりうちそうになりつつも辛うじて直立を保った戦士たちは、見た。確かに……見た。

 20数体のバスターバロンを。
 それらは胸の前で交差していた両腕を解き、双眸に光やどしたのを合図に起動しつつある。動きつつ……ある。

(総角の複製……じゃない!!)

 斗貴子は気付く。いま降り注いできた男爵たちの、微妙なる形状の違いに。まず色が異なる。どこか錆びたような赤みを
真鍮色の体いっぱいに帯びている。形状も、本家の、マッシブながらヒロイックな輪郭線を刺々しく波打たせており全体的
に禍々しい。

「量産型バスターバロン! 完成していたの……!!? ……です」

 登場に目を輝かせるのは鐶光ただ1人。戦士たちの頬はみな一様に暗褐色、絶望、である。

《そう!! 量産型である!! 乃公たちマレフィックは囚われの坂口照星を幾度も幾度も拷問していたがそれはなにも過
去の遺恨を晴らすためではない!!》
(っ!! そうか!! 血!!)
(血を採取するための拷問という訳ね! 何しろレティクルの盟主は……!)
 剛太と桜花の気付きに応答するようバスターバロンから声が透る。
《そう! 気付いた者もいるであろう!! 我らが盟主・メルスティーンさまは卓越したクローン技術者……! かのヴィクトリア
めにも伝授したその技法を以ってすれば坂口照星から採取せし血液からクローンを作るなど造作もない!!》

 ……。
 かつて坂口照星は拷問途中、気付いた。

 己の流した血と膿に塗れた床一面を見た瞬間、息を呑んで。
 俄かに思考が高速回転を始める。緊急事態。それへ戦闘部門最高責任者として対処する時のように、脳細胞があらゆ
る情報をひっつかみ、速読する。

(まさか)               (100年前の彼の専門の1つは──…)   (残った幹部の内の1人)
          
      (いえ、でも、そうです)      (『赤い筒の渦』)   (アレキサンドリア。女学院の地下のあなたの源流も、確か)

(マズいです) (実利的な理由) (筒はとても強欲) (タイムスケジュール。計画。より大きな流れ) (回収) (核鉄は幾つ?)

 一見まったく体系をなしていない単語が脳内を掛け巡る。いよいよ40度に迫る熱の中、照星はただ、自らの一部の腐れ果ての
成れの果てに顔を叩きつけた。むっとする異臭の中、いよいよ遠のいていく意識の中で考えた、
0126永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:16:01.07ID:j2GJNLEY
大変、です)

               (この拷問は)

                            (私個人を狙ったものではなく)

                                                       (戦団全体への、害悪の……為)

 は──血液を、月の幹部の『媒介』特性応用で回収されたという点も含め──こんにちの量産型登場を予期したものである。

 斗貴子はそれを知らないが、流れる謎めいた声に呼応し、呻く。

「つまりいま現れたバスターバロンの創造者は総て大戦士長のクローンたち……? だったらそれだけの数の核鉄いった
いどうやって……いや、待て!!」
 斗貴子は気付く。演劇の最中、核鉄なしで武装錬金を発動していたまひろたち生徒の姿を。
「あの時の能力か!! あの時の能力を大戦士長のクローンどもに使わせて、量産型を……!!」
《御名答! さすがは名にしおう津村斗貴子! なれば乃公に勇気を示せ!! その、非力なる処刑鎌で乃公が配下20数機
に決然と挑む気概を……示せッ!!》

 動き出す男爵たち。たまぎるような声を上げつつも応戦すべく歩を進める戦士たち。

「フ」

 巨人を止めたのはまた巨人であった。20数機とほぼ同数の巨人が前から後ろから剛腕を回し動きを止めている。

「こっちも増殖!! 確かにサブコクピットにいる総角なら可能だけど……!」
「いよいよムチャクチャねえ……」

 60メートル近い巨人が合計40体以上……下手をすれば四捨五入で50体うごめいているさまに円山円は呆れるほか
ない。

(それに……)

 至極当然の考えが過ぎる。550トンもの質量を20数体も出してのけた総角は

(…………大丈夫なの、ガス欠。戦部のような補い方でもしない限りまず息が続かないと思うけど…………)

 心配もよそに彼は自らの機体のメインコックピットで綽々と笑う。

「フ。たかが20体、だろ? 未来(むかし)いた最強を見ろ。軽く1800体作っていた……」
「な、なんの話よ総角クン……」

 桜花は戸惑うがなんぞあらん、一見ホラかヨタかのコレが厳然たる事実とは!!

「というか増やすなら離れろ!! いま以上に混乱させてどうする!!」

 斗貴子の叫びは正論だ。1機でも足元への影響大なる機械巨人がさらに2機増えたのはマズかろう。事故現場で収容の
邪魔となる暴走トラックに怒りつつ逃げ回るしかない救急隊員に、自警団が『抑えにきた』とデコトラ2台で走り出したような
ものだ。戦士たちの表情(カオ)は救急隊員。

「そーよそーよ!! ばかもりもり!! そーゆうでっかいバチバチは街でやるじゃん!!」
『いや逆だからな香美!! テレビじゃないんだから!!』
「新ゲッターじゃない限り……主役機が……街の人……巻き添えとか……だめ、です…………! だめなの、です……!」

 わーわー騒ぐネコ少女とは逆に、虚ろな目の鐶は静かに囁くが、それは反対をゆるさぬ強い意思に満ちている。

「フ。しからば」

 照星とそのクローンのバスターバロンを、総角のそれが総て悉く両脇から押さえつけ……翔ぶ。彼方の山影めがけ。
0127永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:16:52.22ID:j2GJNLEY
 剛太の分析は、正しい。

(方や複製能力による模造品、方やクローン原産でしかも正規の核鉄(てじゅん)によらない発動方法な海賊版。総じてお
互いほぼ互角……ってコトか。唯一、総角が破られるとすれば)

 照星のバスターバロン。ひしめく男爵たちの純然たる始祖においてはまさに別格。果たして総角の勝敗や如何。

「これでこちらはマレフィックに専念──…」

 できると呟きかけた斗貴子が一瞬固まったのは斃すべき幹部たちが既に致命の間合いに居たから……ではない。視界
の上端の空を横切る影を見たからだ。
0128永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:17:16.20ID:j2GJNLEY
 それは、蝶、だった。蝶の覆面をつけ、蝶の翅を持つ……華奢かつ漆黒の青年だった。

(パピヨン!!? どうしてお前が!!?)

 斗貴子のおどろきはこういうコトだ。パピヨンは先刻、銀成市で土星の幹部に手痛い一敗を喫している。人間をやめてな
お免疫力喪失の死病がいまだ根底にある彼だから、細菌型という、病原を走狗とする土星の幹部に完膚なきまでやられて
しまったのは原理的にいってもはや仕方ない話であろう。それはともかく、パピヨンは敗北のち聖サンジェルマン病院に収
容されたというのが先ほどまでの斗貴子が彼に対し有していた最新情報だったから、いまだそちらで加療中と思っていたの
は当然だ。

(ダメージもあるが、そもそも……『ない』。戦団所属ではないアイツが大戦士長救出作戦に協力する義理はない)

 だからパピヨンの登場など予想もしていなかった斗貴子だが、同時に気付く。復讐。新月村一帯には照星と同じく、幹部
たちもまた居るのだ。だから復仇すべき土星の幹部を追ってきたとすれば動機の点では辻褄は合う。
0129永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:17:32.24ID:j2GJNLEY
 が、兵站面では齟齬。斗貴子の論理的な部分がパピヨン登場を排斡(はいあつ)していたのも次の齟齬ゆえ。

(伝え聞くところでは例のニアデスハピネス……使い切っていた筈。一度そうなれば補充までに数日かかる筈なのに)

 今しがた見たパピヨンは確かに蝶の翅を……黒色火薬の武装錬金を…………使っていた!

(どうやって補充したんだ…………!?)

「ま、奴なら自力で補えるさ」

 モニターで観戦中の戦部は愉快気に唇をくつろげた。(横浜での一件かい)。論拠に気付くイオイソゴ。カズキへの妄執
をして行った強制回復、それが今日も行われたのではないか……両名の見解は一致を見る。

「なあ桜花。さっきバスターバロンのバックパックを攻撃したのも……」
「パピヨンね」
「でもなんで攻撃したんだよ? アイツが大戦士長攻撃する必要ないし、助けるために無力するってのもキャラじゃないし……」
0130永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:17:48.76ID:j2GJNLEY
 エンゼル御前のぼやきに凛呼たる双眸を漆のように濡れ光らせながら桜花は答える。

「居るのよ」
「居るって何が?」
「土星の幹部が……たぶんコックピットの中に。さっきの声も、大戦士長を操っているのもきっとその幹部……」

 桜花の論拠はこうだ。まず彼女が銀成は養護施設で遭遇した幹部は、冥王星、天王星、海王星、金星、火星の5人。

 で、このうち『使われはしたが、直接は見れなかった』特性は天王星と金星の2つ。だが前者は弟の秋水とか、つかず離
れずの斗貴子とかが喰らったから談話の形で概ね知っている。金星については総角の複製品によって桜花自身、傷を治さ
れているからこれまた知悉しているといっていい。
 では残り5人の幹部の能力はどうか?
0131永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:18:04.58ID:j2GJNLEY
 太陽……盟主のものは先ほど木星の幹部の追撃から命からがら帰ってきた犬飼円山両名によって全戦士に通達済み。
 その情報に、追跡者たる木星のものが添えられていたのも経緯からしてまったく自然。
 月と水星の特性……は考えるまでもない。銀成で両方を喰らった総角が陣着しているのだから桜花はそこそこの親交に
かけて聞くとはなしだが聞いている。

 で、土星についてはどうかというと、パピヨンとの交戦記録オンリーでは細菌型であるというぐらいしか分からないから、桜
花が照星の洗脳と結びつけるのは突飛に思える。

「けど消去法よ。ホラ、演劇のとき、生徒たちが操られていたでしょ?」
「あー。書き割りとかヒョイヒョイ変えられててツジツマ合わせに苦労したアレか……」
「そ。で、陣内みたいなその能力がどの幹部のものか私ずっと考えていたんだけど、知っている他の9人の能力とはどうし
ても当てはまらない」
「分解とか無限増援とかじゃ無理っぽいもんなー。あれ? でも桜花、海王星の武装錬金特性ってまだ見てないよな?」
 先ほど『使われはしたが、直接は見れなかった特性』とまだるっこしい描き方をしたのはこのためだ。そう。そもそも海王
星……要するにいますぐ近くで暴れているリバース=イングラムの武装錬金特性は──…
0132作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:19:23.74ID:j2GJNLEY
「やり合ったとき結局だされずじまいだったから、厳密には不明だけど」
「だったらなんで大戦士長操っている犯人が土星って分かるんだよ?」
 それは簡単。桜花は照れ照れと人なつっこく笑った。
「海王星が足元でダブル武装錬金しているからよ。あれじゃ操作は無理でしょ?」
「あー。両手塞がっているならリモコン操作できないもんな……。脳波とかで、ってのも集中のいる銃撃で、大量の戦士捌
きながらじゃ無理だし」

 だから消去法で照星洗脳の黒幕は土星の幹部となる。そもそも予備情報として、貴信からの『村人たちがゾンビのような
有り様で操られていた』がある。桜花はそれを演劇の奇怪ごとと結びつけた。
0133作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:19:39.44ID:j2GJNLEY
 よって彼女は無意識的に、海王星は人を操れないと結論付けたのだが……ああ、なんたる運命の皮肉か。×ではないが
○でもない。完全操縦こそ不可能だが、使い方次第では対象はおろかその周囲(まわり)の人間さえも破滅めがけ誘導でき
る特性を実は海王星! 有している! それは特性じたいより海王星の幹部リバース=イングラムの悲運ゆえねじまがっ
た思考法に拠るところが大きいが……詳細は追って明かされるであろう!

「…………」

 遠ざかるバスターバロンを見つめる火渡の、凶猛きわまる瞳に彼らしからぬ感傷が一瞬うかぶ。そうであろう。照星は
──火渡自身は否定するだろうが──彼にとっては師匠にあたる。”せんせい”といってもいい。それを総角なる、何の
馴染みもない余所者に一任してどうして平気で居られるだろう。
0134作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:20:09.63ID:j2GJNLEY
「指揮権のコトでしたら、有事の特例もあります。師範たち副指揮官級の方々に任せるという手も……」
「……うるせェよ」

 毒島の取り澄ました進言に軽く舌打ちすると煙草の先で火花が上がる。有事の特例とは要するに大戦士長代行ゆえ
に救出作戦の総指揮を執らねばならぬ火渡が、死亡または人後不省によってその責の継続が困難になった場合の話だ。
世間的には非公式かつ秘密結社の戦団とて軍事組織、いざというとき、大戦士長の代行の代行、救出作戦総指揮の代行
を誰にするかという定めぐらい当然ある。……あるが、濫用ではないか。照星をただ自分の手で救いたいという一念だけで
指揮の責務を放り出すなど濫用もいいところ。もちろん火渡はむしろ規則など破る方だが、ただ破ればいいという訳ではな
い。火渡が規則を破るのは任務の迅速な達成の妨げになると判断した場合の話だ。要するに、チンタラ守っていれば無辜
の人命が、尊厳が、不条理によって永遠に失われるケースにおいて堂々と破ってこそ火渡の天才性は満たされる。再殺
部隊を率いて好き勝手やっていたのもその一端。
 今回は違う。指揮より照星の救出を優先せんとするのは、火渡の思う『力も才能もない弱いヤツら』を守るコトに……繋が
りがたい。どちらかといえば防人に覚えていた、私人としての、外面からは想像もつかないナイーブな面の発した衝動である
と火渡は思い……同時に制御する動きもまた起こしている。『感傷で物事をやれば碌なコトにならない』。もう以前のように
戦えぬ防人は、火渡の炎の犠牲者だ。やろうと思ってそうした訳ではない。友誼を覚える男に過去を切り捨てさせようと発
した業火が回りまわってその男を……焼いた、戦えなくした。だいいち先ほど暴れ狂うバスターバロンに対し

──(いっそ、俺の手で……)

 と思ったではないか。身勝手なようでいて認めた者には厚く、熱い情誼を覚える火渡だ。だからもう照星が人心を取り戻
せない状況にあるなら、彼が戦士を殺す以外できなくなっているのなら、引導を渡すのは自分であるべきだと思っているの
に、同時に火傷だらけの体を包帯で覆っている防人の姿が強烈なるブレーキをかける。
 火渡は暴悪ともいえる不条理を撒き散らす男だ。だが心苦しさを覚えぬ男ではない。むしろ7年前の赤銅島の惨劇にどう
しようもない雨音を抱え続けているからこそ、二度と味わいたくないとばかり常軌を外れた速攻の解決策を理も火もなく高速
で打ち続けてきた。だが……その総決算が防人の重傷。心の中の雨音はまた一段と強く激しくなったのに、それでなお……
照星を? ……運ばれていくバスターバロンを反射的に追えなかった理由の1つは雨音といっていい。

 だが同時に感傷とは独立した、指揮官としての打ち筋もまたあった。これは才覚より剛腹の域であろう。先ほどから、機械
巨人まきちらす壊乱と、それに乗じた幹部2人の奇襲を眺めていた火渡は──強者大駒ゆえブレイクとリバースの『弱い方か
ら削る』の埒外に置かれていた戦略的背景もあって──戦士たちが混乱するなかしかし冷然と気付いた。その気付きを戦団
全体への理想的な──軍略の文法でというより、火渡個人のアーティスティックな感性にそぐうものという意味での──理想的
な指揮に落とし込むまで場を離れたくないという思いもまた確かにあった。感傷とは乖離しているが、だが特異なコトでもない
だろう。人間なんてものは、他者との関係でドン底だと思っていても、落ち込んでいても、己だけが成せると自負する職掌に
ひとたび没頭するや全く何事もなかったようなまっさらな気持ちで専念できるのだから。

 そんな人間としての当然な職業への目が火渡を喋らせる。

「……なんで他の幹部は仕掛けてこねェ?」
 え、あっ。毒島がやや狼狽ぎみな感嘆をあげたのは、一見冷然としているようでガスマスクを取ったが最後小動物のような
少女だから、いつリバースらの標的にされるか戦々恐々するあまり余事を考えられなかったからであろう。
「た、確かにバスターバロンに乗っているであろう土星を加えてもこの場にいる幹部はたった3名……!」
 幹部は全員で10名。なら残り7名もまたこの混乱に乗じるべきではないか。乗じてしまえば確実に、勝てるではないか。
0135作者の都合により名無しです
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2018/09/09(日) 22:20:27.95ID:j2GJNLEY
 ああ、だがどういう訳か! 少なくても木星の幹部イオイソゴ=キシャクは決戦場とは別の場所にいる! どこかは不明
だが戦部厳至と観戦に甘んじている! 先ほどまであれほど犬飼と円山を追い詰めていた彼女が! そして総角と根来の
思わぬ奇襲を受けてなお、傷に関してはさしたる物を受けなかった……否! 受けていたとしても金星の幹部・グレイズィン
グ=メディックの完全治癒によって再び万全の状態で出撃できるであろう彼女が! どういう訳か、いない! 決戦場に……
いないのだ!! 参戦すれば己が追撃の失敗に端を発す盟主急襲という、致命的な作戦行動を阻めるのに……そうせん
とするのが忍びとしての忠義上ただしい動きである筈なのに、なんたること、彼女は愚にもぐかぬ観戦行為に甘んじて、いる!

 何か動けぬ理由があるのか? いや、だとしても残り6名全員でかかれば……! いまの戦場において戦団をば覆滅する
のが目的であれば、最低でも、分解能力を有するディプレス=シンカヒアを投入すべきではないのか。

 といった趣旨の火渡の言葉を継ぐよう、イオイソゴは遠き地でごちる。

「ひひっ。ま、確かにそうじゃな。我らまれふぃっく、いずれもこの世のものならざる凄惨無比の魔人どもと誇負しておる。全
員投入すれば、ひひっ。ま、楽勝とはいかずとも結構な”だめえじ”を戦団に与えられる確証やある」

「なのにどいつも来ねえのはどういう訳だ?」

 ふつうに考えれば……足止めだろう。幹部3人と照星は、あくまで戦団の進軍を阻むため遣わされたと考えるのがごく
ごくふつうの推測だ。何しろ敵は犬飼決死の戦いによって盟主の位置を掴まれてしまっているのだ、安全圏に逃がすまで
首魁への電撃的奇襲を殿軍的単位で以って抑えんとしていると見なすのは決して荒唐無稽な思考ではない。参着してい
ない幹部総て盟主の護衛といえばだいたい誰もが納得しよう。

(だが本当にそうか?)

 火渡は狂暴だが決して愚鈍ではない。剛太に挑まれたときだって一見不可解な視界外からの攻撃の正体を即座に見抜
いた。ティーンエイジャーの頃からすでに才覚は頭角となっていたし、赤銅島で出し抜かれたが故の用心深さだって備わって
いるのだ。

 そういったものが火渡に考えさせる。『幹部3人の来襲、盟主を逃がすための足止めゆえか』と。

(……違うな)

 断定する。

(足止めなら冥王星の幹部の無限増援……自動人形の群れを使うだろ)

 現に先ほどまで火渡自身それで足止めを喰らっていた。幾ら焼いても無尽蔵に現れる自動人形たちはどうやらそのダメー
ジを創造者にフィードバックしない類のものらしいとも戦いの中で感得した。

(だったら使うだろ盟主の為にも。にも関わらずいま冥王星が洞ヶ峠を決め込んでんのは何故だ?)

 伏兵として潜んでいる? 否。最高のタイミングで伏兵を突っ込み戦団を総崩れにしたいのなら順番が逆、天王星たちの
あとでなく前に切るべき手札ではないか。まず自動人形の群れで『目減りしない足止め』という当然の手札を切っていると
そう戦士たちに納得させ、他の幹部は来ないと無意識に信じ込ませた上で、混線のなか他3名を投入して混乱させる方が
効果的だ。鐶が銀成市でやったような人混みに紛れての奇襲を、実力で遥か勝る幹部3名が混乱のなか密やかに密やか
に履行して1人ずつ確実に葬る……といった戦法なら、火渡という指揮系統の破壊さえ見込めるではないか。

(ガス欠だからできない……なんてのは無いさ)

 さすがに火渡は冥王星・クライマックスの原動力が『アニメや漫画への大ハシャギ』とは知らないが、「開戦早々あんだけ
の軍勢を繰り出しやがったんだ、何らかの補給技術ぐらいあんだろ。論拠は例の音楽隊ども動物型だ。本来人間型にしか
使えねえ武装錬金を音楽隊ども動物型に使わせるようにしたレティクルの技術力、そいつならクスリなり食い物なりで冥王星
を回復できるはず、無尽蔵の自動人形を継続して使えるよう細工しているはず」といった推論からエネルギー切れのセンは
完全否定の構えである。
0136作者の都合により名無しです
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2018/09/09(日) 22:20:44.88ID:j2GJNLEY
(つまり冥王星は『コンディション的には足止め可能だが、他の役割が与えられているため今は来れない』……って見るべき)

 そもそも幹部3名の来襲が、盟主を逃がすまでの足止めという仮説自体あやしいだろと火渡は頬をゆがめる。

(向こうにゃトリ型の……火星が居るんだ。盟主なんざ速攻で連れて帰れるだろうがアジトによ。木星なら負け犬追いかける
ときそういう段取りも整えられた)

 それでなお『足止め』を唱えてすぐ出てくるものといえば、『残りの幹部たちは、アジトで何事かを成し遂げるまで邪魔され
たくないのでは』といった、この時点で模糊とした論拠しか並べられない。火渡は、論破する。

(ねえだろンなコト。アジトでなにかチマチマ作りたいんですつうならそもそも老頭児(ロートル)なんざ攫わねえ。何か作って
やがるとしてもだ、完成前にてめえらから俺らにケンカ売っといて……完成まで来られたくたい? 足止めをする? ねえよ)

 だが、と気付かせたのは先ほど目撃した量産型のバスターバロン。

(逆なんじゃねえのか? 老頭児を攫ったから足止めをする必要が出てきたんじゃなく……『足止めをしたいから老頭児を
攫った』……んじゃねえのかレティクルは)

 身長57メートル体重550トンゆえに、ただ歩くだけで戦略級の兵器となり、大戦士長搭乗の武装錬金ゆえ戦士たちが必殺
の気魄では打ちかかれないバスターバロン。敵から奪った強い駒を打つのは最高だ。取られようが、壊されようが、痛痒なしだ。

(そのうえ盟主のクローン技術なら……さっき見たように増やせる)

 その監視役兼補助に回ったのがリバース以下3名の襲撃者(かんぶ)……とすれば筋は通るがここで課題は振り出しに戻る。

(だったらだ。どうしてレティクルの連中は老頭児攫ってきてまで足止めをしたい?)
「……『器』」

 あン? 刺々しい眼差しで問い返す火渡に毒島はきょどきょどとしながらも、火渡相手にそれを続けると怒鳴られると経験上
熟知しているから、務めて迅速に……告げた。

「マレフィックアース。正体は不明ですが超絶のエネルギー体を降ろす器を、寄り代を、敵は銀成市で探していたようです。そし
て……」
「なんだよ? 勿体つけずにいえよ」
「私は無銘サンたち音楽隊を戦団日本支部から銀成に引率するとき彼らの身の上ばなしを聞きましたが、それによると幹部
たちはどこか『火種』を撒きたがっていたようです」

 それはわざと義妹たる鐶光を逃がしたリバース=イングラムだったり。
 或いは貴信と香美が何年かのち自分を熱くさせる敵となるのを期して解放したディプレス=シンカヒアだったり。
 自分を兄の仇と狙う総角と小札に十年間いっさいの刺客を差し向けずに終わったメルスティーン=ブレイドだったり。

             ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・       
「木星の幹部にしても7年前の『とある事件』で無銘サンとほぼニアミスしていたそうですが」
「エサと狙うくせに捕獲しなかった、か……」

 つまり……火渡の顔に関心が浮かぶ。

「毒島。てめぇはつまりこう言いたいのか? ”奴らは、より高純度の闘争心を求めている”。そういった存在(もの)との戦いが
マレフィックアースとやらの覚醒を促すための、『器』に降ろすための最低条件、だと」
「足止めが”ふるい”と考えればある程度の説明はつきます。戦うに値しない戦士を……さほどのエネルギーを発しない戦士を
敵(こちら)から取った駒(バスターバロン)と、恐らく加入してまだ数年な天王星と海王星、土星の『外様』で抑えれば、マレフィッ
クアースのための闘争エネルギーの純度は保たれる……と、盟主は考えているのではないでしょうか?」

 そうなると敵の主眼とする舞台が変わってきますが……遠慮がちに囁く毒島に火渡はわずかに顔の筋肉を動かす。
0137作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:21:22.08ID:j2GJNLEY
「やはり狙いは銀成か?」

 さほど表情が波打たないのは予想していたからである。同様のコトを危惧する防人のもとに、幾つかの戦力を残してきた
のは、火渡自身、銀成という、錬金術との悪縁を以って響く街に対し『もしや』という思いがあったからだ。

「そもそも負け犬たちがここを突き止められた理由は例の地下空洞。老頭児の攫われた場所からここまで延々と線路が敷
き詰められていたというが列車の類はなかった……つうしな」

 その路線に銀成への直通ルートがあれば? 照星を捜して徘徊していた頃の犬飼たちに見つからぬよう、巧妙に隠されて
いたのなら?

「……冥王星の武装錬金の本体が『列車』ならこの場に無限増援を差し向けていねえ説明もつくな。発射準備に専念してい
るか、或いは既に射程外まで行ってやがるのか」
「足止めを喰らったいま盟主への奇襲はほぼ不可能ですが」

 毒島は、いう。

「どちらにしろアジトの強行偵察は必須。アジトからレティクルが脱出している気配があれば襲撃でしょう、銀成は」

 だがブレイクとリバースに対応しなければならぬのもまた事実! だから銀成に全軍は派兵できない! かといってまず
はブレイクたちに傾注とばかり全軍をかからせるのも経験上マズいと火渡は断じる。

(奴らの能力はまだ完全に解明された訳じゃねえが、数だきゃ多い戦団の真っ只中にわずか3騎で乗り込んできた以上、
単騎対多数、或いは少数対多数に特化したものとみるべき。で、そのテの連中は必ずといっていいほど持ってるもんさ。

一 斉 攻 撃 に 対 す る 厄 介 な カ ウ ン タ ー って奴をな!!)

 何しろそう思う火渡自身そのタイプだ。共同体に乗り込みわざと見つかり全員一箇所に集めてからの『周囲500メートル
瞬間最大5100度の炎』……これほどラクな手段もない。

 だからブレイクたちへの一気呵成はマズい。最悪たかが足止めにほぼ全壊というセンもある。されば残りの幹部が銀成を
破壊する。

(絶対回避だ)

 拳から血が溢れるほど握る。火炎同化を持つ火渡らしからぬ青い挙措だ。それほどに彼は銀成を思っている……としたら
経緯的におかしい話だし、じっさい火渡自身さほど思い入れる街でもない。『ヴィクターVが大事に思ってやがる所だ、戦団
全部がかかずらあって守れませんでしたってんなら……笑えるかもな』とどこかで思っているのは事実。
 だが銀成には防人がいる。火渡のせいでもう以前のように戦えなくなっている僚友がいる。ブレイクたちたった3人に全滅
したらマズいというのはそこだ。全滅したら防人はわずかな手勢で7人もの幹部に挑まざるを得なくなる。勝てる訳がないの
に防人は……”やる”だろう。7年前の惨劇を再び繰り返したくないのは火渡だって同じなのだ。だから防人が、破壊されゆく
街に、一人でも多くの人命を救うため留まるのは予想できるし、理解できる。止めようがないし、止めるつもりにも、なれない。
 なのにそんな防人に怒りが沸くのは、かれの殉職的な銀成残留に、自分とは別の理念が混じっているのが嫌というほど
分かるから……であろう。

(ヴィクターV)

 防人が銀成を強き思いで守ろうとするのは、教え子がそうしようとした街だからだ。教え子と共に守った街だからだ。そんな
心機を天才性ゆえに分かってしまう火渡だから……防人に苛立って仕方ない。再殺さわぎの頃から続いている気持ちだ。
長年の付き合いゆえ元の道に引き戻そうとしている火渡を袖にしてまで、3〜4ヶ月の交流しかない元怪物の少年の存在を
心の軸にしている防人のありように……まさに烈火のごとき腹立たしさを覚えるのだ。だというのに防人を、どうしても見殺し
にはしたくない。もちろん剛太が斗貴子に抱く健気さとは違う。「あいつより俺のがイイだろ」と強引に頭を掴み向き直らせる
ようなそんな乱暴な友誼である。天才ゆえの完璧主義は、唯一無二の親友が、相手の方でもこちらを唯一無二のものと思っ
ていなければ我慢ならぬ独占欲をも産むから困る。
0138作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:21:39.71ID:j2GJNLEY
 だが火渡がどう思おうと防人はもう……変わってしまった。7年前への未練はカズキとの対決によって別の方向へ昇華さ
れた。彼らを命がけで救ったのが何よりの証拠だ。そして戦線を離れてなお防人はその身命を『子供たち』のために使おう
としている。ありていにいえば──防人が千歳に語ったコトなど火渡は知らないが事実その通り──未来へと再び歩きだ
そうとしている。そう変えたのは……カズキなのだ。そして火渡は朋輩さえも変えられぬままここまで来た。朋輩が変わり
つつあるなかいまだ変われずにいた。赤銅島以前の才気と自信に溢れていた自分に戻りたいと願っている癖に、赤銅島以
後の、言ってしまえば西山という怪物に歪められてしまった”よくない”状態にしかし留まっている。
 結局、取り残されているのが気にいらないだけではないのか? 変わりゆく防人を、面白がっていないのは。

(……ケッ)

 半ば拗ねたような後姿を戦士の何人かが見た。彼らの恐れる後姿だ。火渡がどこか哀愁を帯びた背中を見せている時は
話しかけるだけで凄絶な不機嫌が返ってくると、みな、知っている。感傷とか、ナイーブといった繊細な言葉で例えられぬほど
こわい、怪物がやわこい逆鱗を無意識に曝け出しているときのような背後だ。毒島だけは細い胸をかき抱く。見るたび鼓動は
甘く不整だ。男が、後悔や、かけ違ってしまっている自分へのどうしようもない思いに浸っているのを、少女だけは分かるのだ。

 が、火渡の指揮は感傷に彩られたものではない。状況から考えられうるもののうちもっとも迅速で実効性たかき最善手を
押し出していくものである。

(敵の目当てが銀成であれどこであれ、ここに総ての幹部が来てねえ以上するしかねえな。アジトの……強行偵察!)

 よって火渡は戦団を2つに分けなくてはならない。戦略の分散じたいは先ほども考えていたが、敵巣窟に乗り込み照星を救出
といった分派はバスターバロンが操られているいま意味を成さない。いま求められているのは、

1.この場で天王星と海王星の撃破を目指しつつ、照星救出を目指す部隊
2.アジトの様子を伺い、銀成強襲が真ならば追撃へ、偽ならば突入ないしはその前工作を行う部隊

 に戦団を分けるコトだ。

 だができるのか。いや、火渡ならば才覚ゆえに班割りは出来るだろうが、出来たとして、マレフィックと戦闘中混乱中の戦士
全員にそれを伝える手段があるのか? 伝達は全員同時でなければならぬのは言うまでもない。何故ならば(2)の部隊に
選ばれた者は戦略上、この場から離脱する形になるが、1人2人がバラバラにそうしてみよ、足止めこそ本懐のマレフィッ
ク2名に各個撃破されるのは想像に難くない。よって分断のことは全員同時に報せねばならない。できれば(2)の部隊全員
たちが電撃的に離脱を始めるなか、(1)の部隊がそれを支援する段取りを整えておくべきだが──…

 大声でタイミングを指示すれば、当然敵に気取られる! かといって端末への送信は無意味! 戦闘中どうして読めよう!
 ……。
 連絡伝達の段階ですでに恐るべき難事。火渡の獰悪なりし面頬がねじくれる。

「伝単のヤロウ……火星なんぞに殺られやがって」
「合流前、後方支援の戦士たちがかなりの数ディプレスに殺されましたからね」

 有事の際の連絡手段を戦団は開戦前いくつも用意していたが、トップクラスのものは殆ど創造者ごと永遠に失われている。
偶然ではない。天候を操るサップドーラーにしてやられたハシビロコウの幹部はそのあと合流地点に向かって進軍中の部隊
を幾つも幾つも襲撃し、『戦闘能力でこそ劣るが、後方支援においてはスペシャリスト』の戦士の命を刈り取り、弄んだ。めぼ
しい能力の持ち主は忍びであるところの木星、イオイソゴによってビンゴブック化されていたという訳である。

 ちなみに伝単とはビラである。伝単の武装錬金、ウォーリージャーナルは『心清い者だけが受け取れるビラ』を撒く能力! 
創造者が指示などを念じて発動した真赤なビラは一見無地なれど、清き者に当たればスウと溶け込み……30行のノート換算
5ページまでであれば記載内容総てを一瞬で長期の完全記憶とする! ビラ自体は一般人に見えるが、外形上は無地かつ
ホムンクルスや信奉者を特性の対象外とするため、戦士側にだけ通じる連絡手段として米ソ冷戦時から重宝されていた!
0139永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:22:07.97ID:j2GJNLEY
 それに類する能力を更に幾つも幾つも幾つも、幾つも!! 火星の幹部ディプレス=シンカヒアは奪っている!! 絡め手
といえば聞こえはいいが、要は憂さ晴らしなのだ。サップドーラーにやられるだけやられ、逃げられた恥辱を、自分より弱い
者をいたぶり殺すコトで晴らしたのだ。弱い者をいたぶり殺すコトでしか、悦を、味わえないのだ。馬鹿くさくもある通り魔的
な犯行であるが、これが有益なる補助能力者を20名以上葬っているのだから始末が悪い。このさき戦団はもはや醜態と
いって過言ではないほどの後手かつ泥沼的な戦局を対レティクルの局面においてしばしば晒していくが、策謀と軍略の不
在はつまるところ緒戦におけるディプレス=シンカヒアの文官殺戮に端を発すものである。つまずきは、長くひびいた。

(難渋させやがって! 殺す!)

 ディプレス=シンカヒアの破滅は或いはこの時の火渡の情報検索から始まったのかも知れない。大戦士長代行が咄嗟に
求められた、残存する戦士、ジャンク的な能力からの、戦団全域に対する『二面作戦通達』を如何にして早期に実現するか
という、苦慮のさなか芽生えたのは、銀成に居るころは防人に助勢する行きがかりだけで戦うだろうとその程度にしか思って
居なかった火星の幹部への、具体的かつ濃厚な実害をひっかけられたという純然たる殺意(おもい)。殺された戦士の仇を
取ろうという思いはさらさらない。ただただ凶悪な天才として、手を煩わされたという激越きわまる怒りだけが、あった。

 が、それも数秒の思案のコト

「毒島。『コネクトアラート』は生きてるか?」
「ここに」

 毒島が裾をつかんで差し出したのは中肉中背の少年である。肌ツヤからすると15をやや過ぎたあたりであろうか。肌ツヤ
で年齢を弁別したのは顔が崩れているからだ。外傷性の崩れ方ではない。両目がバッテンの、戯画的な崩れ方だ。先ほど
の騒動のさなか足が縺れ自分でスッ転んで頭打ったようですという毒島の淡々とした、しかしどこか呆れ気味な報告に、火
渡は煙草の鬆(す)ごしに「ケッ」と煙を形成。指先には火を灯す。「出た火渡戦士長の得意技、ツメ気つけ!」「火傷しねえ
が熱くはある絶妙な火加減で目覚めるまでツメの先を炙り続けるってアレか!!」。ふつうに活いれろよ的なツッコミまじる
どよめきのなか、苦悶に頬波うたせ目覚めつつある少年戦士ながめつつ毒島は問う、火渡に。

「『図形』はそれぞれどうします?」
「それは──…」

 毒島から北北西約200m。水を注がれ尽くした味噌のように茫と晴れた砂塵が明らかにしたのは……まばらに転がる戦
士の死体と、背中合わせの若き男女。それらを活動可能な戦士たちは遠巻きにだが取り巻いている。棒立ちでただ眺めて
いるのではない。半径22.1mの重囲は無数の慎重なる摺り足によってジリジリと狭まりつつ、ある。

『さすがにそろそろ堅くなってきたね』

 とは少女の言葉だが……『声』ではない。では何か? それは、発する瞬間包囲網から爆発しそうな緊張感が漂った理由
ともども後述されるであろう。
 ともかくじっさい、『堅くなりつつ』ある。
 包囲網の最前列で片目や脇腹から生々しい血を流しつつもいまだ昂然と武器を構える戦士たちはいうまでもなくつい先
ほど迎撃の憂き目にあった者どもだが……しかし、生きている。「……」。少女は微笑の吐息を漏らしながら決して小さくは
ない二挺のサブマシンガンを人差し指でくるくるっと回す。”困ったなぁ、さっきまで楽に殺せてたのに……”という笑顔に邪気
はない。主観型かつ銃器を使うシューティングゲームを、ノーマル・モードからベリーハードに変えた時ていどのカオだ。予想
外の手応えに面食らいつつも”じゃあどうすればキッチリ全滅させられるかな? どうやればSランクとれるかな?”を少女は
本気で考えている。そう……現実的な無数の殺意と、今しがた傷つけたばかりの相手の恐怖と恐慌の眼差しをハッキリと
認識し総ての意味合いを理解した上で! ……少女は彼らをにっこりと見渡す。霍閃の手つきが流れた。ぴしゅうという間の
抜けた声に一拍遅れて何人かの戦士が額から血しぶきを上げ、或いは前のめりに沈み、或いは蛇腹の貯金箱を畳んだよう
に垂直に縮みつつふしまろんだ。圧縮空気の余波だろうか、トランプの絵札のように上下も左右も逆にかみ合った銃口から
それぞれ一穂(いっすい)の白煙が蛇の汀(みぎわ)よろしく揺れた。電光の神業だがやった方は愛らしい笑顔で「ぷくー」と
頬を膨らます。
0140永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:23:00.74ID:j2GJNLEY
『もー! 撃墜数4つぽっちじゃ光ちゃんに自慢できないでしょ! ガードしないでよ他の人! 堅くならないでー!!』
「へへ。バスターバロンの土煙が無くなりやしたからね。ええ。ええ。さすがにもう虚はつけないかと」

 文句に染まってなお笑顔で、純白の雪の粒子を纏っているようなその短髪少女と背中合わせになっているのは──…
 糸目で、人好きのする笑みを浮かべる若い男性。
0141永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:23:16.36ID:j2GJNLEY
 20代後半ぐらいであろうか。顔立ち自体は無個性だが、灰色の瞳はいつもどこか人の良いところを捜しているようで、
見てて何となくホっとするタイプといえよう。じっさい戦士のうち何人かは遭遇の瞬間、『新月村から迷い込んできた一般人
ではないか』と保護を考えたほどだ。もちろん彼らとて乱戦直前この青年のカオは見ている。見ていたにも関わらず、雰囲気
があまりに軟らかいため、土煙のなかで不意に遭遇するや最後『人のいい一般人』と思ってしまい……そして殺到してくる
ハルバードの先端にギョっとする。何しろ、斧と、槍だ。すんでのところで回避したそれが乾いたブラウンの樫の木をコーン
スナックでも相手にしているかの如き気安さで粉砕しどこか鉛筆めいた香りを撒き散らしたりしてようやく戦士たちは相手
どっているのが紛れもない敵の、悪の、幹部であると痛感する。

 ブレイク=ハルベルド。全色盲の槍使いである。長身かつひょろりとした体よりも更に長いハルバードを振り回すところ
妖霧の薔薇が戦士たちに乱れ咲く。
 事実かれの周囲を見よ! 顔、首、胸、腹、膝……場所こそ異なれど凄惨きわまる傷を一様に追った死体が点々と
転がっている! かれもまた悪意なくして人を殺せるのだ。戦士が一般人とみまごうたのもそのためだ。
0142永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:23:59.78ID:j2GJNLEY
 灰色の目を糸かというぐらい細めて笑う彼の、傍で。

『虚をつけないならもう動き回る必要ないもんね』

 ふふっと、やや桃色がかった紅色の唇を童女のようなニュアンスで緩めるはゆるふわパーマの女のコ。山間のこの戦場
には不釣り合いの、たっぷりとドレープの乗った薄青のロングスカートは人を選ぶデザインだが、彼女は見事着こなしてい
る。恐るべき清純さだ。恐るべき可憐さだ。乳白色の髪というが、くすんで枯れた白髪などではない。若々しい、まさに甘い
ミルクの匂いさえしそうなきらめくシルバーのケラチンだ、半透明したパールホワイトのキューティクルだ。まさに霜華(そうか)
とすら呼ぶべき幻影的光沢! 『光の淡き反射』! あたかも夢魔か妖精かのごとき儚げな美しさだ。
0143永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:30:01.37ID:j2GJNLEY
 ギャグのような衝突だと笑える戦士はいなかった。金属質なホムンクルスの衝突はそのままゲートルの戦士を胸のラインで
上下に分けた。剥き出しの肋骨の下に臓器や血管らしき”ぶらぶら”が見えたのも一瞬のコト、戦士の双眸がぐろんと上向くや
起こった一過性の下痢のような瞬間的な大出血に検閲よろしく塗りつぶされた。
 そして飛行機事故の二次災害において内装破片と双璧を成すは乗客。
 濁った青緑の眼球を剥き出し絶息したゲートルの戦士は結果として更に3名の戦士(なかま)の命を奪う。胸奥で一拍遅
れの爆発を起こした衝撃は下顎まで駆け上がった。同時に下顎小臼歯から下顎第二小臼歯に到る少なくない本数の歯が
左右問わず歯槽骨より脱臼、すぐ傍にいた30代のヒゲ面の荒くれの顔面を撃ち貫いた。トランプのダイヤのように鋭い
カルシウムの散弾で顔面を蓮にされながらも彼がが無表情を保っていたのは豪胆ゆえではない。とっくに後頭部を突き抜
け真紅の尾を引く無数の歯は、表情が代わるより速く脳のあらゆる部位をズタズタにしていた。要は、即死。
0144永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:30:17.05ID:j2GJNLEY
 おぞましい悲鳴はゲートルの戦士の”Bパーツ”の鋭く尖った背骨が腹腔に刺さったアラフィフのマダム戦士のものである。
彼女はこのあとの乱戦直前運よく後方に引き戻されたが、腹部大動脈が著しく損傷していたため4分24秒後に死亡。
 比較的健闘したのは3人目の荒くれであった。教鞭の武装錬金で飛来する骨片や血液を捌きコラテラルダメージまたはそれ
に準ずる体勢の崩れを防いでいたのはリーダー格ならではの反射であったが……

「にひっ」

 血いろの円弧が全身を行きすぎた瞬間かれはブレイクを睨み動きかけたが……血を吐き地面に倒れ付した。躯から溢れる
血は石榴がごとき斧傷より溢れる。ブレイクの仕業だ。敵がゲートルの戦士からの飛来物に気を取られているさなか、リバー
スによる強引なフルスイングからようやく我に返った彼は得たりとばかりハルバードを閃かせたのだ。

「俺っちが戦士さんの破片以下? よしてくださいよもー! こっちは好きで青っちにスイングされたんすから」

 くしゃっと笑い、目を細める。

 ここでやっと笑顔の少女は着地した。ブレイクは、背中合わせに。強制的に先行させられていた彼でこそあったが、攻撃
の余勢を長身のねじりによって後退へ転換し一足飛びに合流したと見える。
0145作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/09(日) 22:30:39.90ID:j2GJNLEY
「一瞬で……5人を……!!」
「ヴィクター戦で弱っていたとはいえ……全員手練れなのに……!」

 どよめく戦士たちを前にリバースは笑顔を崩さない。ブレイクも。こちらは少女のように含羞をふくんだ笑みではない。歓声
など浴びなれているといった──殺戮のあとに浮かべるには異常すぎる──ヘラリとした笑みだ。

「へぇへぇ、ありがとうございます、ありがとうございます:

 後頭部に手をあて、へこへこと礼さえする若い男にしかし言葉ほどの恐縮はない。「気をつけたほうがいいッスよ」。辞儀を
45度まで下げきった瞬間放った声はにこやかだが斬りつけるようなものだった。うごきかけた何人かの戦士がビタリと肩ふ
るわせ止ったところを見ると、牽制か。

「青っち、戦士さんにご両親を殺されたと、そーゆーコトになってるんで」
0146永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:30:55.65ID:j2GJNLEY
 辞儀のまま、顔だけを上げ戦士に見せるブレイク。笑みの形相は崩れていないが糸目だけは開いている。覗き込んだ戦士
たちのうちそう強くないものたちはヒっと息を呑んだ。いわゆる白目であるところの強膜がドス黒く染まっていたのだ。そして
小さな瞳孔は血の色で爛々と濡れ光る。

(っ! この目の色!!)

 一団に紛れていた犬飼は気付く。

(イオイソゴと同じ! 総角曰くの『時よどみ』を使った時の目と同じ……! もしかすると全員……なのか? 出力を最大に
するときはコレになる……とか)

『そう』

 閃光と白煙がなみいる戦士の前で蛇行した。攻撃かと身構えた彼らであったが無言の笑みでそこを指差すリバースに
よって気付く。斗貴子たち銀成での交戦組からの前情報もあったから……気付く。

『私はお父さんとお義母さんを戦士に殺された。光ちゃんに返してあげる予定だった2人を戦士に殺された』
0147永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:32:24.18ID:j2GJNLEY
 その言葉は声ではない。弾痕だ。連射される弾丸が大地に刻みし文字なのだ。一般的なサブマシンガンの秒間あたりの
弾数は10〜15と言われている。重機関銃ではミニガンことM134が70発/秒。
 ああだが、見よ。1秒も経たぬうち生産された『私は』から『殺された』までの文字を見よ! 秒間70連射程度では到底え
がけぬ! そう、海王星の武装錬金は形状こそサブマシンガンであるが実態は重機関銃以上の連射力……なのだ! だか
ら文字を描くという一見ばかげた曲芸は、恐るべき実態を示す示威的な行動でも、あろう。そう悟り、顔色を変える戦士を
しかしあやすように笑ったリバースは再び引き金を引く。

『あららビビらせちゃった感じー? じゃあちょっと柔らかい口調にするけどさ、でもお父さんお義母さんの殺害ってアレ、戦士
の誤爆なのよねー。イソゴちゃんの付き人してただけなのに事情も知らずに……ってソレひどくない? 似たような境遇の
デッドちゃんも激おこだったしさあ、じゃあ戦団って何のためにあんのって話よね? 会って話したコトないけどヴィクトリア
ちゃんもヒドいめ遭わされたっていうし、そのくせヴィクターとか私たちとか蜂起前に止める力ないし。被害増やしまくりだし』

 恐ろしく器用な芸当だった。彼女は二挺のサブマシンガンで文字を描くのだ。奇数番と偶数版の文字を交互に刻むだけで
はない。時には左の銃で上の行を、右の銃で下の行を、1文字目から、まったく同じ速度でタイプしていくという離れ業さえ
見せる。武装錬金の形状はイングラムM11だが、シカゴタイプライター顔負けだった。

 戦士たちがそんな大道芸を黙過しているのは飲まれたせいばかりでもない。一斉攻撃の隙を窺っているのもあるし、火渡
からの命を待っているのもある。全員内心では気付いているのだ。『たかが3人の幹部に全員かかりきりになるのはマズい』。
銀成どうこうを考えられている者は斗貴子たち以外ほぼいないにしても、いまだ姿見えぬほかの幹部たちの動向がハッキリ
しない限り局地(ココ)で勝っても戦略で敗北してしまうのではないかという現実的な不安は確かにあった。それが弾痕文字を
読むという、一見不毛な停止状態につながった。

『お父さんたち殺した鉤爪の戦士はイソゴちゃんに成敗されたけど、だからこそっていうのかしらね、私めの拳は振り下ろす
ところを失ったし、だいたいデッドちゃんヴィクトリアちゃんの前例から考えると戦団って誰得? ってのもあるし』

 本当に器用である。この2行、上は文頭……つまり左から左へと書かれ、下は文末……つまり右から右へと書かれた。
弾痕で文章を描けるというだけでも想像を絶した芸当である。筆記用具で文章を逆再生で描くのも。リバースはその両方を
同時に行うのだ。右から左からイリュージョンのように出来上がる文字列に見蕩れた戦士は決して1人や2人ではない。

「練習、しましたから」

 楽しんでもらうために……えへへと頬を桜色にして無邪気に笑うリバースは確かに己の声で喋っていた。幽(かそ)けし
声だった。線の細い、清純な昭和の正統派ヒロインの凛呼とした声だった。奥ゆかしい表情もまた文章とのギャップでひど
く魅惑的……と、弾痕芸当に魅了されつつあった戦士たちは心の臓を穿たれた。

(や、やっぱり、本当はいい子なんじゃ……)
(そりゃご両親殺されたら悪になるよな……)
(義理の妹を怪物にしたのだって実は誰かに脅されていたからとか、だよなっ!?)

『以上っ! 冥土の土産!!』

 ギンと目を見開いたリバースは発砲する。戦士たちめがけ、今しがた『楽しんでもらうため』といった戦士たちめがけ嵐
の如き銃弾をためらいもなく一斉射したのだ。

「なっ」

 同情的で良心的な、『どうすれば殺さず救えるのか』を考えていた何人もの戦士が血の花を咲かせバタバタと倒れた。
「野郎! なんてコト!!」 レイビーズの爪によってからくも無傷を勝ち取った犬飼の怒号が響く。「いや油断する方が悪い」。
犬飼とは逆の端、右翼やや前面にいた斗貴子を取り巻き林立するバルキリースカートはしかしはてな、銃撃を防いだはず
なのに銃弾1つ表面を滑っていない。剛太と桜花、呻く。周囲への周知も兼ねて。
0148永遠の扉
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2018/09/09(日) 22:32:51.81ID:j2GJNLEY
「圧搾空気!!」
「あの銃は空気を取り込んで銃弾にしているのよね……! 養護施設で戦った時から分かっているコトだけど……!」

「ゆえにリロードがなくゆえに休みなく連射できる私めの『マシーン(機械)』はしかもダブル武装錬金なのよ強力なのよこれ
で戦士たちを殺すのお父さんお義母さんを殺されたこの怒りを戦士たちで晴らすの晴らすのやっと晴らせるのあははうふふ」

 蓮歩というべきたおやかな足取りをしかし言葉同様高速ペースで行いながら戦士たちとの距離を詰め始めるリバース。
ゾっと凍りついた雰囲気が一帯を支配したのはほぼ無限に高速連射できるサブマシンガンに恐慌をきたしたのもあるが、そ
れ以上に接近しつつある少女の面頬の持つ根源的なおぞましさにヤられたからでもある。
 奈落の闇色に染まる強膜。血の色で発光する瞳孔。燦爛たる両目を三日月形に見開きながらしかし口元だけは相変わらず
笑みに、獰悪きわまる笑みに染めたまま……足早に近寄ってくる、近づいてくる少女に対し平静を保てる者は、少ない。怨霊
がいざり寄ってくるようなものだ。なまじ先ほどまで美しさ愛らしさを振りまいていたから尚さら落差が恐ろしい。射手(シューター)
が接近戦を挑むなど愚の骨頂といった正論など誰の脳からも消し飛んでいた。

「う、撃てー!!!」

 号令は指揮系統を無視した、他力本願的な後退要請だったが、それがなかったとしても次の一斉迎撃は行われただろう。
恐怖による、反射的な攻撃の合唱に、ブーメランやダイナマイトといった投擲武器の類が多かったのは、その持ち主たちが
銃撃されたが最後身を守る術がないと危惧したからである。圧搾空気による無限連射は同時に不可視でもある……戦士たち
がそう悟っていたのは、刀剣型武装錬金の使い手のうち銃弾を捌けるコトで名高い者たちが先ほどの一斉射撃で何人も葬
られた事実ゆえ。いかな動態視力あろうとも、見えぬものは、捌けぬ。斗貴子が捌けたのは元々高速機動の武装錬金かつ、
空気弾を用いるという事実を一度間近で見たという行幸が重なったからに過ぎない。犬飼についてはイオイソゴとの交戦に
よる飛躍的な上昇あらばこそ。他の、並みの戦士ではまず……無理であろう。

(だから俺たち投擲武器組は!)
(先の先で仕留めるほか無い!!)

 決死の全力を以って攻撃する戦士たちであるが、ああ! 効かぬ!! ブーメランがやわやかな頬に直撃し、ダイナマイト
の爆発が章印あるであろう右胸と密着状態で発生したというのに……リバースはそれらをものともせず早足で、来る!!

(っ! この光景!)
(光ちゃんの時と同じ!! どれだけ攻撃を入れようとも怯まなかった光ちゃんと……同じ!!)

「光ちゃんをあの強度にしたのは私めなのよその研究データを自分に応用していない訳ないじゃないいいえむしろ更に強力
に発展改良しているのよだって私めは光ちゃんのお姉ちゃんなんだから光ちゃんより強いのは当然でしょふふふ、ふふふふ
あーっはっはっはっは!!!」

 笑いながらマズルフラッシュを炊く笑顔の少女はまさに魔神の様相だ。爆発で煙が上がるなか、散乱し始めた戦士を追って
歩き始める。死角から飛び掛るものたちもいたが肩や膝を打ちぬかれ羽虫のごとく落ちていく……。

 ダイナマイトの戦士──この前日、ゆきつけのコンビニの可愛い女店員さんから連絡先を貰って舞い上がりつつも、釣り
とか悪徳商法の勧誘とかだったらどうしよう、でも前から気になっていたコだから嬉しいし、返事したいしと悩んでいる──
が後退をしなかったのは、武器が逃散しながら使える類のものではなかったからだ。

(だったらせめて場に留まって掩護! あの幹部を攻撃する他の人のため何がしかの隙ぐらい……)

 5本のダイナマイトの爆発がリバースを包み隠した。更なる追撃をと投擲の構えに移った戦士の耳をなでたのは風切り音。
同時に濛々たる土煙が……『切り裂かれた』。晴れたあとにリバースはいない。消失。まさか背後にと振り返りかけた戦士
の揺れる視界のその下から、目口が鉤と裂かれた笑顔の少女が踊り込む。「あ……く……」。2つの銃口はもう喉元。掩護
から消す、理に叶った行動だ。笑うリバース。絶望に引き攣る顔をだらだらと冷汗で濡らす戦士。白魚のような指がトリガー
にふれかけた瞬間、しかしダイナマイトの戦士は笑う。その顔と、リバースの顔の中間点に現れたのは特大のダイナマイト。
総ての精神力をこめたと見て間違いないラストアタックの権化である。一瞬きょとりと、普段の顔になるリバースをよそに導
火線は1ミリ残して燃え尽きて──…
0149永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:33:18.57ID:j2GJNLEY
 無惨な衝撃が戦士を揺るがし……1つの戦力が戦場から消える。

 リバースは吹き飛んだ。20人を下回らない戦士たちの一斉迎撃でもついぞ感じたコトのない鈍い痛みを体の深奥から
つくづくと味わった。湿潤な喘鳴をか細い声帯の奥から振り絞りながら、わずかにとはいえ吐血しつつ旋転で吹き飛んだ。

「なっ」

 もっとも驚いたのは……ダイナマイトの戦士である。爆発させるつもりだった武装が解除されている。

「自爆は……ダメ、です。自爆に追い込むのも、ダメ、です……」

 スライスしたソーセージのようなダイナマイトの上の切れ端をパシりと投げてよこしてきたのは白いバンダナに赤い三つ編
みを持つ少女である。右脚は異形。何か猛禽類の爪をロボット風味で巨大化している……としか形容できぬ戦士は、叫んだ。

「音楽隊副長! 鐶光! 爆発寸前導火線ごと斬り飛ばした!?」
「いまのうち……逃げて…………ください」

 ダイナマイトの戦士という1つの戦力が『この』戦場から離脱したのは、消えたのは、鐶の勧奨に基づく。

「……ふ、ふふふ。ふははは。あはははは」

 いつの間にやらうつ伏せで地に付していたリバースの全身が揺れたのも一瞬、彼女はがばりと立ち上がるや大声で哄笑
した。

「光ちゃん悪い子ひどい子お姉ちゃんを不意打ちで殴って吹き飛ばすなんて痛いわよ痛かったわよ酷い子ヒドい子非道い子
迷子になったとき何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
捜して助けてあげたお姉ちゃんを物もいわずに殴り飛ばすなんてひどいわね光ちゃんひどいわ恩知らずおませさん」

 からかうような、怒気の低い早口だが、たったそれだけで鐶の面頬が明らかに恐怖に波打った。が、無数の死骸に目を
止めた瞬間、恐怖以上の憐憫、親族の情愛に虚ろな瞳をやや垂れ気味になるほどゆがめ、涙ぐんで……懇願する。

「止まって……くだ、さい。もうやめて……ください」
「手遅れよいまさっきちょうどもう戦士何人か殺したのよもう許されないし許されてやるつもりないのよこんな奴ら!」

 姉と妹が終局に向かって対峙する中。別の場所では。

「この場を、離れろ」

 ブーメランを頭に乗せて座り込んでいた20代ぐらいの女性戦士は逆光のなか、見た。2mほど上で太陽を遮っている天
蓋の骨組みを。それは処刑鎌とハルバードの噛みあった物……とはつい一瞬前の奇襲に対する庇護的な掩護の作りし意
味記憶。

「さすがに、読めますか」
「ああ。海王星が混乱させている隙に接近戦特化の天王星(キサマ)が仕掛けてこない筈がない。弱い戦力から削ぐ……
まだ徹底するつもりとは趣味の悪い」

 そう。ブレイクは正面切って戦士たちに近づくリバースを囮に、静か密やかに彼らの背後へ回り込み混乱に紛れ暗殺を
働いていた。突如として姿を消した彼に「まさか」と心さざめかせた斗貴子は周囲を見渡すコトしばし、2人目が犠牲になっ
たあたりで音もなく戦士の隙間を抜ける怪しげな影を発見し、3人目……つまりブーメランの女戦士のあわやという所で防
いだ……という訳である。

「へへ。演劇の稽古ん時から注目してましたが洞察力はなかなか見事。ですが!」

 女戦士が遠ざかっていくなか、グッと踏み込むブレイク。たったそれだけで斗貴子は大きく軋み撓む可動肢たちの下で
小さな体を仰け反り気味に沈めてしまう。

「バルキリースカート……でしたっけその武装錬金! 形状からして力押しの相手に弱いとみやした!! 高出力の調整体
である俺っちの操る超重武器(ハルバード)相手に組み合うのは……へへ、人命救助のためとはいえいささか無謀じゃあ
ありませんか!」
0150永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:33:59.77ID:j2GJNLEY
 まくし立てるブレイクはしかし見た。無表情に、しかし凛然たる輝きを失わぬ斗貴子の眼差しを。

 天王星の幹部たるウルフカットの青年は後天的な全色盲である。稀有な症例だからこそそうなるに到った経緯は省く。
重要なのは『色』が人生の途中から分からなくなったというその一点。簡単な例は信号機、上下または左右の”どれ”が
危険を報せる部位か時々直感的に分からなくなる──特に車用のものしかない交差点では咄嗟に迷う──ので、しぜん
注意深くなる。色という直感的なツールが分からぬが故の機微だ。

 その機微が斗貴子の眼差しに働きそれはじっさい正解だった。優勢だったにも関わらずパっと後方へ飛びのいた彼の
つま先が冷然たる円錐の1つに掠り些少だが血液を飛ばした。

(接触した温度的に……『つらら』……?)

 先ほどまで自分がいた場所を貫いている何本もの”それ”をブレイクは糸目のまま不思議そうに見た。

「厳密にいえばつららじゃないけど……説明めんどいから省く、なの。でも気象、なの」

 雲のようにもこもこしたロングヘアーと、台風の渦のような瞳孔を持つ少女が言葉を発したのは、ブレイクが大岩ほどある
雹を飛んで躱わした瞬間だ。少女の顔はその上部にちょこりんと生えていた。

(気象サップドーラー! ディプレスの旦那と交戦されたっていう天候同化型の戦士さん、すか!)

 隕石の表面のようにごわごわした雹の一面を乱れ狂った閃光はむろんハルバードによる攻撃の成果。果たして一拍の
静寂ののち青白く輝く巨大なる氷塊は粉々のダイヤモンド・ダストにまで砕けた。

「どこまでダメージ通せるかの検証、乙、なの」

 凍てついた砕片は赤茶けた風になる。舞い飛んでいたサップドーラーの生首もまた。(フェーン現象……!?)。58度の
熱風に取り巻かれたブレイクは足首からさき全体で地を蹴り距離を取る。直接的なダメージこそ低いが、しかし近くには斗
貴子が居る。小技に怯むだけでも致命的であろう。

「……。やはり同化中の攻撃は、火渡っちでいうところの『酸欠(じゃくてん)』突かぬ限り…………」
「いぇす。完全無効化なのー♪」
 ビブラートの掛かった返事を、しかし低い音程低い音程へと伸ばすサップドーラーに「あ、このセンス、演劇の人材に欲し
いかも」と軽く呟いたブレイクは、更に指摘。
「で、補助と火力に長けたあなたが、攻撃力の低い斗貴子っちを補うと」
「誰が斗貴子っちだ! 変な呼び方するな!!」
「そうなの。斗貴子っちさんはお姉ちゃんの話を知ってる人だから、男なんかに殺させない、なの」
「だからやめろその呼び方! キミはキミで馴れ馴れしいぞ! さっき初めて会話したのに!!」
 目を三角にして怒鳴る斗貴子をよそに、ブレイクは、笑う。
(確かに一筋縄ではいかない援軍ですが)
 彼が公称する武装錬金特性は『禁止能力』! 攻撃や回避、果ては武装錬金そのものの使用を禁止するコトができる!
斗貴子や秋水、毒島、防人といった面々の記憶を一時的にとはいえ抹消したのも『思い出すコトを禁じる』という特性あらば
こそ! そしてその条件はハルバードを以って相手に『まぶしさ』を感じさせるコト! この『まぶしさ』は生体エネルギーその
ものの輝きでも可だが、ネオンカラー効果……色のついた線分を交差させ黒い線で以て延長すると……光が滲み出てるよ
うに見えるといった『錯視』の仕掛けでも構わないというから恐ろしい! あらゆるエネルギーを吸収できるソードサムライX擁
する秋水ですら攻撃を封じられた!

(あのとき使った斧内部の米字型交差、色つきの線分! これをサップドーラーっちに使えば天候同化など)
「無駄なの」

 あたりに虹が咲き誇った。同時に小型の雷雲がハルバードの周囲で激しく光を散らす。

「銀成の養護施設でタネ明かしたのはまずかったなプギャー、なの。仕組みさえ分かればドラちゃんの力で封印、なの」
 あーという顔をブレイクはした。斗貴子は、

(なるほど。『かがやき』を感じさせる仕組み総て、それら以上の色と光量で塗りつぶすと)

 頷いた。

「そしてドラちゃんの力を使えば……」
0151永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:34:16.21ID:j2GJNLEY
 遠くで、鐶に撃たれたリバースの空気弾が強風によって潰された。

「…………………………………………………………………………………………………………ぐすん」

 鬼面血笑だった少女が平生のしとやかなる笑みに戻るほどの衝撃だった。まなじりにユーモラスな涙さえ浮かんだ。

「…………いや、そんな力あるなら、お姉ちゃんがあんなコトする前に…………とめろや、です」

 静かな声だが、届いた。というより、耳と口の浮いた雲が鐶の傍に浮いていて、応答、した。

「速度が頭入ってないと、逆にこっちがやられる、なの。こちとら身ぃ削る能力だから、使いどころ慎重にならせろ、なの」

 鐶は露骨にイラっとした表情をした。具体的にはただでさえ虚ろな双眸を戯画的な漆黒に染めて、眉間に苛立たしげな
水平線を何本もまぶした。
 一方、斗貴子の傍にあるサップドーラーも、ファンシーな面頬をスーパーデフォルメしつつも鐶のいる方角を台風の渦中心
ににょっきり生えた四白眼で睨みすえる。怒りの漫符が純白の髪に浮かび、漂う怒りのオーラときたら腐ったわかめをまぶ
したよう。

「ケンカしてる場合か!! 敵は幹部2人だぞ!!」
 ああコイツら若干キャラ被ってるからそれコミでソリ合わないんだなと直感した斗貴子、怒号。

「お姉ちゃんと仲良かった斗貴子っちさんがそういうなら、天気相手にゃぐう無能のトリなぞ、ガマンする、なの」
「確かに……カップリングシステム的に……斗貴子さんとは仲良くしたい、ので……この野郎ごときには、構わない、です……!」

 また両者の目と目の間に火花が散った。50m以上離れているが、確かに散った。

「んなコトしてる場合か! 特に鐶! お前をそんな体にした義姉(あね)がすぐ傍にいるんだぞ、油断するな!」
「ああ、イラついてる光ちゃんも可愛い……」

 斗貴子があやうくコケそうになったのは、うっとりと頬に手をあて呟いている海王星の幹部を見たからだ。ノーブレスな
おどろおどろしい喋りもどこへやら。ぱしゃぱしゃと携帯電話で妹を取っては確認し、古い少女マンガのキラキラ瞳孔で
恍惚なる溜息つく繰り返しだ。

(あ、あれだけ殺しておいて……いや、殺したからこそこの反応は異常だ!)

 だったら天王星(ブレイク)の方もリバースにこういう反応するのか……? 悄然としながら向き直った彼は斗貴子の眼差し
を、すっかりデフォになりつつある糸目で見返してきたが、すぐ「ああ」と右のグーで左のパーを叩いて頷いた。

「あっちに寄せた方がツッコミ役としては嬉しいすかね? それとも俺っちだけマジメに応対しやしょうか?」
「ああキミはマトモなんだな……じゃなくて! そもそも戦え!」
 っていわれましてもねえ。ブレイクは後頭部を掻いてから、何を思ったか両腰に手をあて得意気に微笑んだ。
「どうせお気づきでしょうけど、俺っちたち足止めすからね! グダついたやり取りでも膠着してくれるなら、構いやせん!!」
(こいつは……)
 パパーという効果音と共に大漁旗の日の出模様めいた紅白を糸張る幹部に斗貴子はゲンナリした。
(クソ。こっちはこっちで悪意を隠すのがうまいからやり辛い……)
 現に何名もの戦士を殺害しているのは目の当たりにしているが、斗貴子の機微を見抜いた上で返し辛い返しをしてくる
のが厄介だ。或いは『西洋の槍使い』という一点においてカズキを無意識に思い出してしまうせいかも知れない。
「ま、戦えというなら戦いますがね」
 キツネ面のような細面に、影が差した。同時に遠くのリバースも妖艶にニンマリ笑い……

 両者は飛び上がり、木立の中へと消えた。

(っ。奴らはどこへ……? まさか!)
『アジト強行偵察組の抹殺なら後回しよ』
(!!)
 無音で足元に刻まれた文字に斗貴子の危慄が掻きたてられたのは不意に銃撃されたせいではない。知られている!
火渡の戦略が、知られている!!!

『ちょっと考えれば分かるコトよ』
0152永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:34:37.97ID:j2GJNLEY
 斗貴子の周囲で次々に文字が穿たれる。地面に、木の幹に、戦士の死体に、続々と。

『ダイナマイトの戦士やブーメランの戦士』

『あの人たちを光ちゃんや斗貴子さんが逃がしたのって』

『私たちから遠ざけるためだけじゃないでしょ?』

『詳細は不明だけど、何らかの武装錬金で指示が下った筈』

『タイミングは私めへの恐慌に基づく迎撃が始まったころ』

(……見抜かれている…………! やはり鐶の義姉……!!)

『だけど離脱した人たちを個々にツブすのは後回し』

『バスターバロンの土煙に紛れてある程度戦士を間引いた上で』

『離脱されたら』

『邪魔者はだいぶ減ったってコト』

『だから私めはそろそろ光ちゃんとの決着に移れるし』

『光ちゃんがいる限り、アジト強行偵察組の各個撃破は目論むたびツブされるから』

『殺るのは光ちゃんを倒したあと』

 その頃なら強行偵察組もヒトカタマリになっていて、潰しやすいでしょ? ……という文字を最後に弾痕は途切れた。

「そ! こっちの通常攻撃なら完封できるドラっちが、にひっ、残られるというなら頃合でしょう。俺っちと青っちの真のコンビ
ネーション! そいつで光っちとの決着ジャマする方々封じさせていただきますので! なにとぞお覚悟を!!」

 からりとした声のわずか2分56秒後。


「どうしろって……言うんだ…………!」

 燃え盛る森の中で、斗貴子は膝をつき戦慄いていた。かつてない地獄だった。銀成の寄宿舎のとある夜あじわった恐怖
の何千何万倍の震えが止まらない。暴動、だった。撃ち合ってはならない者たち同士が互いの血を流しあう、狂乱の舞台
だった。

「そんな……。あらゆる天気が、通じない、なの…………!?」

 戦士たちを襲う幻影に着弾した雷轟は付近の樹齢300年ほどの太い木をロールケーキのように引き裂く威力だったが、
しかし攻撃すべき本命は揺らぎさえせず戦士を襲い……そしてまた混乱は大きくなった。

「奴が叫ぶ。大地が鳴る」

 火の発災を催しつつある山あいの、うすく紅蓮が滲んだ蒼穹に巨人が踊る。遠ざかった筈のバスターバロンが徐々にだが
確実に斗貴子たちの戦場に近づきつつある。

「巨大魔神激突」

 笑顔の少女は歌い、踊る。その背後の空に、彼女の真名どおりの場所に、殴りあう真鍮の巨人、2体。

「ここまで来たらもうどこにも 逃げ場所はないー♪」

 なみなみとドレープの寄った可愛らしいスカートを体ごと一回転させた清純な美少女は、茶目っ気たっぷりにその裾を銃把ごと
ちょいと摘みつつ、もう片方……右手のサブマシンガンの銃口を義妹の額に、鳥型の章印(きゅうしょ)ある額に、密着させた。
0153永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:35:26.48ID:j2GJNLEY
 膝と、息をつく義妹は、血まみれだった。

(クロムクレイドルトゥグレイブに蓄積した年齢が……瀕死時の自動回復が……)

 尽きている。代償をつくづくと払わされたらしきリバースもまた全身朱に染まっているが、直立するだけの体力は、ある。

 また地響きがした。バスターバロンの巨影が一段と大きくなった。戦士たちは暴動している。ブレイクの特性をリバースの
特性で強めるコンビネーションの前で成す術なく『互いに攻撃しあっている』。

 そんな状況で。

(バスターバロンが来たら……開戦当時の土煙やコラテラルダメージが再来したら…………!)
0154永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:35:42.05ID:j2GJNLEY
 終わりだと鐶は思う。

「その通りよ、光ちゃん」

 ふふふと笑いながらリバースはしゃがみ込む。視線を義妹より下げるのは、懐かしささえ覚える優しい挙措だ。血がべっとり
ついた頬さえ彼女は撫でる。撫でながら、なのにどこか威圧的で、性欲さえも孕んだ打ち震える笑みの声を漏らすのだ。

「使ってちょうだい。ね? 例の……鳳凰形態。バスターバロンが来たとしてもそのときお姉ちゃんが戦闘不能になっていたら
……問題ないでしょ? そうしたら大丈夫。だって戦士さんたちの混乱はお姉ちゃんの武装錬金特性のせいなんだから。ブレ
イク君も手ごわいけど、お姉ちゃんが居なくなればこの場を離れるから、だからね、鳳凰形態に賭けてくれたら……嬉しいよ?」

 義姉の目論見など鐶には分かっていた。鳳凰形態。通常時は『脚→脚』のように、鳥の、対応する部位にしか変形できぬ
鐶の特異体質を『手→脚』といったふうに、どこでも、どの部位にも変形可能とするリミッター解除こそ……鳳凰形態。出力
そのものも底上げされるため、斗貴子をして『ほか5名の助力がなければ絶対に勝てなかった』と言わしめる超絶の切り札
だ。
 が、それだけにリスクもある。一度つかえば以降24時間は『通常時の特異体質をも』使用不能となる。だが幹部はたとえ
リバースを倒せたとしても残り……9名! 鐶の武装錬金は、とみに応用力たかい年齢吸収の短剣だが、その利便性と形状
ゆえに物理破壊力そのものは低い。物理に長けた特異体質、変形を欠いて勝てる幹部では……ない!
0155永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:36:21.02ID:j2GJNLEY
 ああしかし、それでも、しかし! 眼前の義姉を倒さねば次の幹部も何もない! 現に鐶はいま敗北の寸前にある!!
そもそも鳳凰形態を義姉以外ほかのどの幹部に使えというのか! 因縁ぶかき義姉によって植えつけられた能力である
なら因縁ぶかき義姉を裁くため使うのが筋であり、その領域は自分たち以外だれも批難の権利を有さぬ筈!

 だが同時に鐶は分かる! 義妹だからこそ分かる! リバースが命と引き換えに『後』へ繋ごうとしているのが! 仲間
のために、やがて脅威となる鐶の鳳凰形態を、特異体質を、ここで封じておこうという目論見が分かってしまう!! だが
鳳凰形態をためらうのは姦計姦策の匂いを感じたからではない! 『お姉ちゃんは落とし前をつけようとしている』!
リバースは……鐶の手にかかって死にたい! だがただやられるだけでは仲間を裏切る形になる! だから1年と少し前
鐶を逃がしながらも自らはレティクルに留まり続けた! だがそのせいで直接間接問わず多くの命を……殺めた! 父親
と義母、無数の戦士! 女性にも関わらず、妊娠中の女性の腹部に蹴りが入るのを主導したコトさえ、ある! それら総て
の償いをリバースは鐶に殺められるコトで行おうとしている。極端な話、鐶に鳳凰形態を使わせた時点で生から離岸する!
音楽隊の副長、6人もの戦士を相手に五分の勝負を演じた鐶の戦力を、向こう24時間激減せしめられた時点で、リバー
スはレティクルへのケジメを……あらゆる命への償いを…………完了できる!
0156永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:36:37.55ID:j2GJNLEY
 だから鐶は鳳凰形態をためらう! だが使わなければ鐶自身が討たれる! されば戦士たちは内訌(ないこう)もたらす
リバースの特性を解除できぬままバスターバロンの混線に巻き込まれ……遠くないうちに壊乱、足止めを終えたリバース
たちがアジト強行偵察組の後背をつき、そちらも……という最悪のシナリオが分かっているのに……ためらう!!

(いったい、どうすれば…………)

 ……。
0157永遠の扉
垢版 |
2018/09/09(日) 22:36:58.60ID:j2GJNLEY
 始まりは。

 風の強い日だった。

 まだ活発だったころの鐶が……いや、『玉城光』が、マジンガーZのプラモを塗装し終えた後だった。

 だから運命の終局にふさわしい歌を義姉は、リバースは、『玉城青空』は……紡いだ。

【奴が叫ぶ。大地が鳴る】

【巨大魔神激突】

【ここまで来たらもうどこにも】

【逃げ場所はない】
0159作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/09/23(日) 22:27:20.28ID:iQN75UEY
>>スターダストさん
熱血で理知的で、大人で子供で。普通は矛盾する二方向を同時に持ち、そのどちらも並外れてる火渡の、
火渡らしさが良く出てました。そしてやっぱり凶悪なリバース。まず実力が充分あり、それを完全に
活かしきる残虐性もあり、少し語弊はありますが「色仕掛け」まで余裕でこなすんだから、タチ悪いですな。
0160永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:14:10.54ID:e8zyEbjk
第109話 「対『海王星』 其の壱 ──波若──」

【映画『波若(はにゃ)』のパンフレットより各所抜粋】

──────────────────────────────

 波若とは仏教で、『知恵』『最高の明智』。般若、とも。

──────────────────────────────

 大手証券会社に勤める野坂智也はある日帰宅途中、不注意から足の不自由な少女を撥ねてしまう。怖くなり、現場から
逃げた彼は翌日ニュースで少女が死んだことを知る。自首を考えた智也であったが、3歳になる息子・文也の心臓手術が
来月に控えており、更にさまざまな偶然から犯人として捕まった村松が過去猟奇殺人で三度訴えられながらも証拠不十
分で無罪になった男だったことから、結局名乗り出ないまま9ヶ月が過ぎ……2005年。
 スーパーにいた智也の目の前で文也が殺害された。憤る智也だったが逮捕された通り魔の供述が明らかになるたび、
徐々にだが追い詰められ始める。『足の不自由な妹が轢き逃げされた。足が不自由だったのは父親の暴力のせいだ。
あの子どもは父親と楽しそうに話していた。あの父親は子どもと楽しそうに話していた。許せない』。高校生……幸二の供述
によって一躍注目を浴びた轢き逃げ事件はやがて警察の自白強要が明らかになり……村松が釈放。『この手で必ず償わ
せる。真犯人に、償わせる』……彼がそう言い姿を消した直後から自白を強要した警察官が次々と変死を遂げ始める。
真犯人とは誰なのか……威信をかけ再捜査を始める警察。そんななか智也は信じられない報道を聞く。息子を殺した男・
幸二が脱獄したというのだ。『本当は父親も殺すつもりだった』。公開された手紙に戦慄しつつも父親としての復讐心から
逃走に踏み切れぬ智也。だが再捜査は確実に真実へと迫りつつあり……。

 大人気サスペンスホラー、衝撃の映画化! 三人の『波若』の復讐劇を巨匠・浦鬼ヒロシの暴力的な筆致が彩る!!

──────────────────────────────
0161永遠の扉
垢版 |
2018/09/24(月) 11:14:37.39ID:e8zyEbjk
 監督インタビュー。

──実際にあった事件ならではのご苦労などは?
浦鬼「そんなん原作の野洲川(やすかわ)先生に比べたら皆無ですよ(笑)。こっちは既にあるもん絵にしてるだけですから」
──智也視点で進むのは意外という評価が多いようですが、いかがお考えですか?
浦鬼「まあね。原作は群像劇で、幸二の生い立ちから始まってるけどね、ただあのままやっちゃうと俺の芸風には合わない
でしょ?」
──確かに。『ライオットパージ』や『猫⇔マグマ』といった前作前々作はいずれも主人公の追い詰められる描写が絶賛され
日本アカデミー賞に2作連続でノミネートされましたからね。
浦鬼「だから企画出したときプロデューサーが「またか」って嫌な顔したけど、でもしょうがないでしょ、俺こういうのしか撮れ
ないんだから」
──村松も幸二も、迫っていく、攻めていく側ですからね。
浦鬼「そうそう。アイツらどっちも復讐していい立場で、ちょっとヒーローしてるからね、だから気に入らない」
──こっちは実名になってしまいますが、玉城青空が出てくる案もあったとか。
浦鬼「そりゃまあ本当の黒幕っていうか元凶はレティ、レティ……なんだっけ? ほら20年ぐらい前あばれた」
──レティクルエレメンツ。
浦鬼「それそれ。それの幹部の青空が一番悪いだろってんで、そっちも倒そうってプロデューサーが言いやがったけど、
冗談じゃないよってね(笑) 3人の『波若』の、実際あったのが信じられんようなブッ飛んだ殺し合いだけで完結してんのが
原作なんだから、ヘタに余計なもん足したらこっちが客に怒られる」
──『波若』という、原作から大きく変わったタイトルも話題を呼びました。
浦鬼「これについちゃプロデューサーの野郎のワガママが通ったって感じだね。いや別にアイツに好き勝手やらす理由は
ないけどね、コッチが原作の『三叉の讐怨』まんまじゃおどろおどろしさに欠けるなァって愚痴ってたらあの野郎、これは
どうですっていまのタイトル持ってきやがって、おォ、お前にしちゃ上出来じゃねえかってんでコレにした」
──玉城青空の幹部としてのコードは『波』だそうですが
浦鬼「そ。あやかりやがったんだよプロデューサーの奴(笑) あの野郎おとなしそうな奴とボインにゃ目がねえから(笑)」
──彼女も波若、ですしね。どちらの意味でも。
浦鬼「いやァ怖い怖い。記録映像ちょぉっと残ってるけどね、人間時代と救出作戦当時じゃ本当別人。アタマいいらしくて
錬金術方面じゃかなりの研究残してて、一部はいまでも早老症とかの病気治療に役立ってるっていうけどね、やっちまった
ことといえば俺の映画なんて足元に及ばんね、あァ怖い怖い」
──前作で5万人の頭同時に爆発させたのに、ですか? (笑)
浦鬼「あんなのはシャレですよ。だいたい爆発したの全部悪党だし。そりゃ脳みその描写ねちっこくしちまったせいで、イカ
の塩辛喰えなくなったとかバカみてぇに抗議来て、オイ、2週間めだっけか、公開中止に追い込まれたの」
──1週間目です。
浦鬼「けっこうな賠償金払うハメにゃなったけど、こっちはそれぐらいの損害覚悟した上で撮りたいモン撮ったってだけでね、
リアルであんなんしろってね、言った覚えないからね一言も」
──実際、たった1週間の公開にも関わらず日本アカデミー賞にノミネート……ですからね。
浦鬼「受賞できた筈なんですよ(笑) でも相手がデッド=クラスターの映画だったから(笑) あんなギミックだらけのサスペ
ンス出されたら追い込まれ系しか取り柄ないコッチは負けるほかない(笑)」
──おととしの邦画部門興行収入3位、1月から11月までの超ロングランに、1週間で公開中止のライオットパージが対抗
できただけでもスゴい……という声もありますが。
浦鬼「支えてくれた人らには感謝ですよ、マジでね。俺の映画の本質がグロじゃなく勧善懲悪って分かって貰えるとホント助
かる。そうなんだよ。智也とかの小悪党追い詰めて苦しめてやんのはね、R15背伸びして見るようなオラつきどもに、ああ、
悪いことして償わずにいたら、あとでこれだけ苦しむんだなって、思わせるためのね、要するに、教育ですよ」
──現実の智也に当たる人物も、最後、とんでもない償い方をするハメになってましたしね。
浦鬼「ま、その頃にはレティクル壊滅してたからね。あ、奴らといえばいちおう連中の資料にも目を通してたけど」
──玉城青空は出さなかったのに?
浦鬼「あァた分かってないねえ。撮らない部分までちゃんと把握すんのが監督なの。レティクルもいちおうバックボーンの
1つなんだから研究しとくの当然でしょ」
0162永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:15:34.23ID:e8zyEbjk
──その割りには名前わすれていたような……。
浦鬼「ド忘れつうか舌が縺れたの。こっちゃ成人式前日に起こしちまった脳梗塞、5年後のいまなお軽く引きずってんだか
ら。で、月の幹部がドヤ顔で『ひき逃げの犯人わからない』とか言ってる記録見つけたんだけど、笑っちゃったよ。リアルの
方の村松が釈放後まだ行方をくらましてた頃の記述だねこりゃ。実際日付たしかめたら智也が償うのレティクルの決戦後だし
──あ。つまり、玉城青空の方も。
浦鬼「そ。予想もしてなかったろうね。自分のせいで家庭壊された奴が、妹ひき逃げした奴の子どもを殺したっての。まァ
子どもにゃ罪はないんだけど、手を出したとき幸一、さりげなく復讐遂げられていたっていうね、おっそろしい偶然を」
──知らないまま玉城青空、新月村でああいう『転機』を。
浦鬼「そんで智也と幸一と村松の三すくみの結末もね、良くも悪くも後に尾を引くやつだったんだってから、よくわからん
奴だね玉城青空。アイツに家庭壊されたからこそ、赤ん坊まもるために暴漢と刺し違えた高校生も居るし」
──本日はどうもありがとうございました。

.

..

 リバース=イングラム。本名玉城青空。彼女の声帯は生後11ヶ月目にしてその機能の大半を奪われた。実母の、せい
である。11ヶ月にしてなお首が据わらぬ我が子を悲観し……絞めたのだ。
 運よく帰宅した父親のおかげで一命こそ取り留めたが、ほとんど消え入りそうな声でしか離せなくなったリバースは……
いや『青空』は、子どもならば誰でも持ちえて当然の、同年代との交流を『聞こえない』という理由だけで拒まれるようになり
……長ずるにつれひどく内向的な少女へなっていった。

 父が再婚相手と授かった義妹の光は、活発な少女だった。青空が振り絞るなけなしの声を遮るほどの。

 ……。風の強い日だった。まだ小学校低学年だった光の、何の気のない挙措が、青空の運命を、希望を、粉々に打ち砕
いてしまったのは。
 始まりはアイドルの返事だった。青空が大好きなアイドルが、青空に向けて発した手紙だった。当時高校生だった青空は、
上記が如き身体的欠損によって将来を悲観し絶望に沈んでいた。そんななか家に来た返事は比喩なしで希望だった。その
文面を読みさえすれば自分は救われるのだと信じていた。到着時はあいにく所用で外出しており、だから配達の事実は、
憧れの義姉に少しでも速く……という、親切心に基づいた光によって携帯電話を介し伝えられた。
 その手紙が青空に読まれるより早く蒼穹の彼方に飛び去ってしまったのは不運な事故に過ぎない。当時部屋でマジンガー
Zのプラモに塗装を施していた光が、有機溶剤の匂いで雰囲気を台無しにしたら大好きな『お姉ちゃん』に申し訳ないと思って
窓を開けた瞬間……なだれこむ強風が悪霊のような手つきで手紙を掴み天空へ放り投げた。

 帰宅し、顛末を聞いた青空が初めて義妹をぶったコトをいったい誰が咎められよう。
 だが光の母は、青空にとっての継母は光景を目撃するなり青空をぶった。理由も、聞かずにだ。

 翌日より玉城青空は家から消える。1年後父親と継母を虐殺する血塗りの帰宅のその日まで。
 そして義妹を人ならざる者に変貌させたあげく凄絶な虐待を加え続けた。
 のみならず、見ず知らずの、幸福そうな家庭を何軒も何軒も、何人も何十人も……破滅させた。

 ただ銃殺したのではない。ただの銃殺であれば被害者またはその遺族は破壊前よりむしろ強固な絆でつながれただろう。
支えあい、励ましあい、正しいコトを成せただろう。理不尽な害悪を共有しうるという意識によって団結できただろう。

 だが青空が、リバース=イングラムが仕掛けた離間は斯様な修復を絶対かつ根源的に破壊する放射能だった。自分は
決して表に出るコトはなく、それでいて被害者の心身を両面から長期に渡ってじわじわと壊し、歪め、暴力を振るった方すら
理由が分からず、それでいて孤立を強要され、暴力を振るわれた方は青空が母親がされたような非常に重い後遺症を
終生ひきずり続けるような……およそ最悪といって差し支えない攻撃をリバースは無辜の家族たちにし続けてきた。

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0163永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:15:53.68ID:e8zyEbjk
《》内は津村斗貴子が『とある少年』に行った述懐。

《姿を消した海王星と天王星が見つかるまで……? 正確に計った訳じゃないが、30秒は超えてなかったと思う。このころ
最初廃村で起こった奴らとの戦闘はバスターバロンとのゴタゴタでいつの間にか山林方面に移っていたから、戦士たちの
大半は上を、ああそうだ、枝だ、折り重なるそれらの中に幹部どもが居ないか血眼になって捜していた。ん? 円山は地面
見ていたって? 初耳だが本人からか? 確かに直前コトを構えた木星の幹部は地下を逃げたからな、円山がそのセンを
疑ったのも仕方ないが、ともかく》

 よもやアジト強行偵察組を追撃しにいったのではないか。いやそう思わせて移動を始めた所を狙い打つつもりではないか。
 あれほど猛威を振るっていた2人の幹部の突如の喪失にさまざまな戦士のさまざまな疑惧が生まれ得体なき不安を高める。


(どこだ)
(奴らは……どこだ)

 音が凍りつきくぐもる静寂の索敵は、上方からの投下物によって粉々に打ち砕かれた。

《私は最初バスターバロンが着地したのかと思った。それだけ凄まじい轟音だった》

 余波だけで巨漢レスラーや、ヘビー級ボクサーに匹敵する頑健な体格の男たちが何人も受け身も何も無く後方へフッ飛
ばされるほどの衝撃はしかし人間サイズの物体によって行われたのだと戦士たちに知らしめたのは、活発な火口かとみま
ごうばかりにモクモクと脈打つ煙の膜にぼんやりとだが映る2つの……人影。よもやと凍りついた戦士はごくわずか、吹き
飛ばされていた重量系の男たちは、あるいは踵で踏ん張り、あるいは巨体に見合わぬ軽やかさでトと地面に手つき側転し
吹き飛ぶ力を前方への推進へと転化。

《8人がかりだった。全員生身の立会いならこの夏以前の戦士長にすら土を付けられる猛者だった》


   キュウリュウ
 八門穹窿斬姦陣!! 東西南北にその中間4つを加えた八方より飛び掛る必中必殺の陣である! まず通電可能なワ
イヤーネットの投擲により相手の身動きを封じる所からこの恐るべき武技地獄は始まるという! 何の武装錬金を使っ
ているのか、全身から硫酸の汗を噴き出す色黒スキンヘッドの男が居た! 右目の横から走る刀傷が上唇の中ほどと
端を大きくズラしているキュウリ顔のパンチパーマが不敵なる笑みと共に五指ツートップの輪にて左だけ”はだいた”縦縞の、
背広の内側にビッシリ固定されている注射器の1つが残る片手で引き抜かれた!! 瞳孔が真白で肌の色も恐ろしく白い
福耳の僧侶が数珠を一薙ぎするとショートケーキの添え物のブルーベリーぐらいしかなかったはずの一顆一顆の玉がオレ
ンジ色の光を帯びながらそれぞれスイカほどに拡大し、紐も伸び、土煙の影めがけ殺到。最もヒロイックだったのは三国志
の英傑そのままの長柄付きの大刀を颯爽たる笑みで横薙ぎした二十代半ばの苦みばしった男だろう。他にも3人、衣服も
はちきれんばかりの筋肉を持つ男どもが、そろえたつま先を先端にギュルギュルと旋転したり先端が高周波ブレードな関
節だらけの義手を荒れ狂う龍よろしく縦横無尽に伸ばしたり、口内から大砲の弾を吐いたり……いやはや総て命中すれば
確かに必殺であろう。

 土煙の中で瞬いた閃光が球体状に膨れ上がった!!

(禁止能力!!)
(馬鹿め!! 位置を変え、サップドーラーの虹から逃れたつもりだろうが!!)

 さすがは撃墜数3位! 虹は既に土煙を取り巻いている! 禁止能力をツブす虹が!!

「いかな海王星といえどこの間合い且つ八方同時の必殺攻撃はいなせまい!」
「終わりだ! 喰らえッ! 八門穹窿斬姦──…」
「『攻撃を、禁ずる』」

 声と共に起こった致命的事象は2つ! まず虹が土煙の向こうへ吸い込まれ柔らかなる緑1色になったコト! そしてそ
れと同時に8名の屈強な男どもの攻撃動作がにわかに止まり、全員ヘナヘナと地面に落ちたコト!!

「な!」
「馬鹿な! 禁止能力は封じたはz」呻く苦みばしった男の額にさくりとめり込んだのは斧の刃だ。周縁がカミソリのように鋭
いそれはナタ2枚分はある肉厚の内陸部を一気に戦士の脳内へと押し込んでそのまま離断をもたらした。更に反対方向で
は石突がキュウリ顔の堅そうな喉仏を、ふくらはぎをプニプニする指のような調子で押し込んでいる。淡々とした銃声の中で
盲目の僧侶と他3名は額から煙をあげ倒れ臥した。
0164永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:16:46.07ID:e8zyEbjk
 さきの光でワイヤーネットを取り落とし震えていた持ち主はそれでも再び動こうとするが……
 カチャ。スチャリ。
 後頭部は背後のブレイクの穂先に、下顎は眼前のリバースの銃口に、それぞれ押さえられ──…

 突かれ、撃たれる。

 土煙を完全に晴らしたのは凄まじい音を立て転がる死体だった。

《全貌を明らかにした2人の幹部から私は理解した。私たちは理解した。およそ30秒まえ奴らが姿を消したのは、決して
伊達や酔狂ではなかったと》

 彼らの姿は。

 僅かだが、決定的に。

 変わっていた。

 リバースにはツノが生えていた。羊のものだ。くるっとしたそれは耳の後ろから、いかにも柔らかげなゆるふわショート
ウェーブをかき分けニョッキりと生えていた。

《変形だ。奴らが約30秒姿を消していたのは……変形の時を稼ぐためだ》

 そしてリバースに随伴していたブレイクの形相は──…

 ぐ ろ ん

 笑ったまま膨張し、ひどく歪んだ。

「!?」

 斗貴子は我が目を疑った。しかし慌てて目をこすり再び見た彼は昆虫様の触覚を額やや上の髪の間から生やしている
以外、いつもどおりのエビス顔、身体に目立った変化はない。

(なんだ今のは……!? 邪気が顔つきを歪めて見せた? いやそれにしては余りにも……)

 傍らのサップドーラーが袖を引く。向いた彼女の双眸にも戸惑いがあり、それで斗貴子は先ほどの『歪み』が自分の見間違
いでなかったコトを知る。事実周囲の戦士からチラホラと『さっきのは一体……』といった周章があがっても、いた。

 ブレイク。触覚以外はさほど変化はない。強いて斗貴子の目を引いたのは髪や肌の『ツヤ』であろうか。栄養状態が改善
されたというレベルではない。どこか金属めいたキラめきが感じられた。そしてそういった敵がかつて居たという既視感に囚
われかけたが、咄嗟には『誰と類似するか』思い出せなかった。

《キミは鷲尾を……忘れられる訳もないか。ああ。ソレだ。キミも見たとおり鷲尾は腕の先だけ翼へと変えていただろう。
原理は同じだ、2人の幹部と。何しろアイツらはホムンクルス調整体……だからな。鷲尾よろしく基盤(ベース)となった生物
の体に、一部分だけ変形するコトも可能……ん? なんだ? …………調整体ってみんな三角頭のアレじゃないかって?
いやまあ確かに銀成学園でキミと私が斃したのはそうだが、あれはバラフライが真似ただけのいわば劣化品だ。ゴメン?
いや……説明してない私こそ悪いというか…………。コホン。いいか》

 さまざまな生物を複合させ作る調整体! それはDr.バタフライ独自の技法ではない! かれ曰くかれ独自の技法は、
ヴィクターを治した修復フラスコただ1つ! つまり! 調整体については『既存の、使いまわし』!

《その大元こそが、100年前の例の争乱のさいメルスティーンが持ち出した物だ。……ヴィクトリアのクローン技術はキミ
も見ただろう。ああ。女学院のな。記憶までもが継承されるあの卓越した技術はメルスティーンの伝授したものだ。言い換
えればそれほどのクローニングが可能な手腕でも無ければ、まったく異なる生物同士を1つの体に押し込め、共存させるの
は……高度な調整体を作るのは、不可能……というコトだ》

 だがブレイクとリバースを調整体にしたのは盟主メルスティーン=ブレイド!!
0165永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:17:45.38ID:e8zyEbjk
《奴らの真に恐ろしかったところは、生物の相互作用が二乗三乗にする身体能力そのものではない。『形質』だ。ただでさ
え強力な武装錬金特性を、生物の、さまざまな特徴でより強めようとする……特化させんとする……執念と思考……だった》

《カズキ。私もキミと一緒だ。『たかが調整体だろう』……どこかで2人の幹部を舐めていた》

《だがその考えは一変した。この戦いで……つくづくと、思い知らされた》

 瞬く間に斃された戦士8人の死骸に戦士一同の士気が沮喪したのもむべなるかな。悟ったのだ、全員。『迂闊に飛び込め
ば動きが封じられる』と。無抵抗の状態で、超重のハルバードや電瞬のサブマシンガンに食い破られる、と。

 機微を悟ったのだろう。愛らしく、そして何より満足げに微笑したリバースは右手のサブマシンガンを揚々と掲げ──…

「破断塵還剣!!!」

 横薙ぎの光輝く大剣の前に霞み果て……消失! 戦士の視界より、消失!!

(鐶!!?)

 目を剥く斗貴子は釘付けだ!! 半透明にくゆりながら色彩と形象を具現化しゆく鐶に!! 位置は先ほどまでリバースが
居た場所の……やや背後!! その場所で彼女は振りぬいたのだ、熱波が奔流する刃渡り3m強の電撃的聖剣を!!
 それはサイバーな虫の羽音も鍔鳴りに振りぬかれた! 怒涛! 小爆発を幾つもまぶした軌跡の跡に立つ者はいなかった!
そう、斬りかかられたリバースはまるで爆散したかの如く消えていた!

(演劇のとき鳩尾無銘と開発した大技を)
「透明化からの奇襲に使う……すか」

 いまだ中空にある鐶の更に2mほどの枝が揺れた。「天王星だ!」。戦士(だれか)が叫び指差した。リバースの傍らにあっ
たブレイク、からくも塵還剣を跳びよけたとみえる。

「イイ手段すけど……甘いすね」

 微かな反応と共に腕を翼に変じ飛び立つ鐶。羽撃(はばた)きの風に木の葉舞う『直前までの座標』! そいつを不可視
なる銃弾雨が穿つに穿つ! 天から垂直に降り注ぐ空気弾のスコールが踊り狂う木の葉の端々をクッキー早食いの超高速
再生の如く粉々に砕く! 圧倒的空気噴射の破壊痕、それは吹断(すいだん)! 
 逃れていた! リバースもまた塵還剣のなか、姿が『霞み果て』るほど早く万朶の枝の中へ跳んでいた!!

(馬鹿な!! どうやって察知した! 鐶の……光学迷彩だぞ!!? 私ですらいつ消えたか分からなかったのに)

 いったいどうやって察した……熱汗さえ頬にまぶし驚倒する斗貴子の細指を取ったのは天気少女。

「指が、ヘビなの」
「は?」
「塵還剣直撃の寸前、消された虹の断片を目にしてあいつら間近で……見てた、なの」

「そのときあの海王星の指ゼンブ……蛇だった……なの。透明化察知したのは……熱察知器官……なの」
(察知したリバースでブレイクも察した……のか?)

(お姉ちゃん……)

 リバースはまだ人間だった頃の鐶に凄まじい虐待を加えた張本人だ。ホムンクルスに改造すらしている。鐶光の双眸か
ら名前と同じきらめきが一切無いのはそのせいだ。無邪気な小学校2年生が眼前で両親を殺害されたあげく監禁され、
虐待され、人外に無理やりさせられたすえ実験と称しておぞましい怪物どもとの殺し合いを強制させられたから、だから彼女
は瞳から輝きを失った。

 果たして鐶、頭上から落ちてくる『見覚えある人影』に限りない恐怖を浮かべ細い肢体を熱病の如く振るわせたが

──「本当に姉を愛しているのならば止めて見せろ! これ以上の魔道に貶めてやるな!!!」
0166永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:18:03.33ID:e8zyEbjk
 去来する言葉になけなしの勇気を振り絞る。人影は旋転し、両手を伸ばす。ピンと張った肘の先で空気銃の性質上ありえ
ない筈のマズルフラッシュが2つダダダっと瞬いた頃にはもう発動していた高速機動(マニューバ)は射撃軌道に遺伝子構造
の形で纏わりつきながら遡行し──…

「カウンターシェイド……!!」

 生やした! あっという間に交差して後ろに流れた義姉の体から無数の鋭利なる羽を!

(早坂秋水を倒した技!!)

 瞠目する斗貴子の傍でサップドーラーも呻く。

「すれ違う瞬間、年齢を与えられた羽が一気に膨張するのが見えた……なの。羽根の元となる『羽芽』、ほんの
ツブ程度しかない大きさのそれを敵めがけ投げつつ『年齢のやり取り』の短剣で斬り……相手の零距離射程で
実に30近くの羽根を同時に巨大化させる技って感じだから……いかなる海王星でも『何もなければ』よけられない
筈……なの」
(タイミングは……完璧…………でした……! 以前なら10本前後が最高記録だったのを…………演劇前の、
特訓の日々で……30本近くまでに伸ばしたのは総て……お姉ちゃんたちマレフィックたちに備えての……コト……
ですから…………倒せてなかったとしても……それなりの手傷は幾つか……)

 息を呑み、姉の動静を窺う鐶の頬の傍を、

『無駄よ光ちゃん』

 そう書かれた羽根が通り過ぎた。同時に鳴り響いた空気の抜けるような音は、2挺あるサブマシンガンの銃身が発した
ものだ。推進、だった。アポジモーターといってもいい。中空にある翼なきリバースは、しかしサブマシンガンの、『空気を
取り込み銃弾とする』形質の、その経路と流れを逆にするコトで、サブマシンガンそのものを推進装置にできるようだった。
 宙をたおやかに旋転し自身に向き直る義姉に鐶はかつての憧憬を、お姫様のように綺麗で優しかった頃の最愛の家族
を思い出し、それだけで泣きそうになった。だが感傷をゆるされる状況では、なかった。全身を絶望の慟哭が貫いた。無傷、
だった。30もの羽根を確かに零距離で膨張延伸させた筈なのに、そのどれもが、1本たりともが……着弾していないのだ。
かすり傷すらない。どころか衣服の破れすら。

(……。いくらお姉ちゃんの射撃でも、『それだけ』では間近で膨張する30の羽の同時撃墜は不可能……! だって、背後
や……足裏といった死角にも配置していました……!)

 それらを純粋な射撃だけで、反射神経だけで視認し迎撃しえるか。答えはノーだ。いかに人外を極める調整体だとしても、
2つしかないサブマシンガンで15倍もの戦力の全包囲攻撃に一瞬で対応するのは根源物理的に……不可能!!

(でも……現に成している……! まさかこれがあのサブマシンガンの……)
『特性では……ないわよ?』

 目を横向きに覆うよう跳んできた羽根は速かったが回避できないレベルではない。だが顔をねじ曲げいなしたわずかな間に
……消えていた! 先ほどまで前方下ナナメ下9mほどの地点を浮遊していたはずのリバースが! 
 脅威を見失うほど恐ろしいものはない。燃えるような緋色の三つ編みを揺らめかしながら右顧左眄するバンダナ少女・鐶。

「下だッ!!」

 斬りつけるような斗貴子の叫びが、記憶の位置より遥か近いコトに驚くヒマもあらばこそ! 鐶は直下から噴き上げる熱烈
な衝撃波に我を取り戻した。斗貴子! その処刑鎌はサブマシンガンを横なぎに押さえている!! 切断を目論んだがむなしく
もいなされた……と音楽隊副長が気付いたのはしばらくあと、この当時はいつの間にやら足元に潜行していた義姉にただただ
ゾっとした。相変わらず目を閉じたままニコニコしている彼女だが、義妹の、ミニスカートから覗くなよなかな足に対しどこか
粘っこい視線を這わしている雰囲気があり、それが鐶を当惑させ、恐れさせた。ファーストキスの相手はリバースなのだ。浴室
で強引に押し倒され、奪われたのだ。それまで凄まじい暴力で屈服させ続けてきた彼女をいったいどうして拒めたか。
0167永遠の扉
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2018/09/24(月) 11:45:49.27ID:e8zyEbjk
「臓物(ハラワタ)を……」

 空中でいったん処刑鎌を引き必殺の乱舞に移りかける斗貴子!! 発動前にツブすとばかり銃を構えるリバース!! 
だが!!

「ブリザード……なの!!」

 リバースだけをピンポイントに狙った非常に強い勢力の氷嵐が行動を阻む! 1つ! リバース自身の移動制限! 翼なき
彼女は風の監獄に囚われ逃げられない! 2つ! 空気弾製造の妨害! 銃口各所に設えられた吸気用のスリットは、大気
中であれば当然存在している水蒸気がブリザードによる急激な温度低下によってみるみる凍ったコトにより……塞がれた!!
3つ! 調整体ゆえの弱点!!
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