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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart78【創作】
0001作者の都合により名無しです
垢版 |
2014/06/30(月) 23:40:51.77ID:Ksw3mKJQ0
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の作品は>>2以降テンプレで。

前スレ
http://nozomi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1402054089/
まとめサイト(バレ氏)
ttp://ss-master.saku@ra.ne.jp/baki/index.htm(ジャンプの際は@削除)
WIKIまとめ(ゴート氏)
ttp://www25.atwiki.jp/bakiss
0002作者の都合により名無しです
垢版 |
2014/07/01(火) 00:58:09.63ID:60y/iyhJ0
●児童福祉法違反容疑で男逮捕
少女とみだらな行為をしたとして、県警少年捜査課と横浜水上署は8日、
運転代行会社社長の山根健一(44)=横浜市南区永田みなみ台=と
社員の若林秀夫(77)=同市瀬谷区宮沢2丁目=の両容疑者をそれぞれ
児童福祉法違反と県青少年保護育成条例違反の疑いで逮捕した。
山根容疑者の逮捕容疑は、2013年の5月22日、23日の両日、自宅に泊めていた
少女(16)=同市旭区=にみだらな行為をした、としている。若林容疑者の
逮捕容疑は、同22日、山根容疑者の自宅で、この少女にみだらな行為をした、としている。
同書によると、少女は交際していた男性(30)を通じて山根容疑者と知り合った。
少女は同月、夜間外出で同署に補導され、児童相談所に保護されたが、
抜け出して山根容疑者宅に住み着いたという。
(神奈川新聞2014年1月9日)
http://i.imgur.com/5p3Dfd3.jpg

http://www.police.pref.kanagawa.jp/ps/44ps/44mes/44mes004.htm
検挙状況
平成26年1月8日に昨年5月22日の深夜、
家出中の児童を淫行した容疑で40歳代男性を児童福祉法違反(自己に淫行させる行為)、
70歳代男性を神奈川県青少年保護育成条例違反(みだらな性行為)で逮捕した。
0003ふら〜り
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2014/07/01(火) 21:15:19.33ID:13RwWULo0
スレ立て、おつ華麗さまです!

最近、時々、バキスレ初期の自他の作品を読み返したりしてます。
無限大トーナメントに魔界編、今見ても凄い作品ですよねぇ。

私も私で、自分の当時の作品を見て一人で恥ずかしくなったり、
今の私には枯れてるんじゃないかと思える部分があったりで。

>>スターダストさん
根来の最後のアレ! 読者にも背中向けてる図ですよね! これで、戦士たちの中ではダントツに
深い因縁ができた! 無銘との繋がりもあるし、今後の活躍に期待! で、蝶久々のパピ。つまり
びっきーは「初めての女性(ひと)」ですね彼にとって。これは原作にも繋がる、安定の二人。
0004永遠の扉
垢版 |
2014/07/01(火) 22:15:31.68ID:mMl6NyQl0
 戦いは数時間に及んだ。

「往け! 黒死の蝶!!」
 火柱が2m近い男を飲み干し……焼き尽くした。
「ガハッ!」
 過剰な運動の反動か、血を吐くパピヨンだが仮面の下の眼光は鋭いままだ。
(これまで通りだとすると、恐らく……!)
 研究室のある一角にプラズマが集中し、荘厳なる貴族服の男が現れた。
(やはり!! 殺しても殺しても湧いてくる)
 ムーフェイスと戦部を足して2で割ったような相手だった。リヴォルハインという男は、必ず1体しか現れないが、その代わり
どれほどニアデスハピネスの炎の螺鈿で彩ろうと新たな彼が登場し、攻撃する。
「養護施設にいる及公はヒラの及公である。ここの及公との併存……可能なのである」
 飛びかかってくる貴族服をひらりと避けフラスコの裏に隠れる。
(節約しつつ戦ってきたが、マズいな。黒色火薬……残り4割というところか)
 敵の攻撃は徒手空拳。攻撃力は一般的なホムンクルスにやや劣るという所だ。戦部の十文字槍や爆爵のチャフに比べ
ればさほど恐ろしくない。ましてカズキの突撃槍とは比べるまでも、だ。
(だが奴には鷲尾たちを斃した技がある。毒? 酸? それとも別の何か……?)
 念のため風上──先日ヴィクトリアが取り付けた換気装置により空気の流れがある──を取りつつ、リヴォルハインの
通った場所をニアデスハピネスで焼いているが、長引けば蝕まれる恐れがある。持久力もまたない。
(どうする? もう1つの調整体。あれを持って逃げるか……?)
 冷静な部分はそう告げるが、鷲尾たちの残渣、もはや溶けてシミになった彼らを見ると感情が収まらない。
 目的を果たせないならただの役立たずだ、
 嘗てそう評したはずの彼らの実りなき死去に胸が燃えて仕方ない。
(逃げる? 俺を、俺の作品を虚仮にした男を前に一矢も報いずに?)
 弱かった頃は、人間だった頃は、寄宿舎から蝶野邸へと逃げ延びた。
 だが生まれ変わってからはあらゆる敵に立ち向かい、打破してきた。
(絶対無敵の能力など有り得ん! 何か、何か必ず糸口がある筈だ!!)
「ところで演劇は少し前に終わった」
 リヴォルハインはゆっくりと歩み寄りながら呟いた。
「パピヨンは発表身損ねたが、概ね大丈夫である」
 意外な話題に一瞬思考が止まる。
「部員達は、パピヨン不在でも……存分に戦っていたのである。心配無用!」

 それは──…

 ディプレスやイオイソゴがしたような挑発ではなかった。

 ただの世間話だった。劇の裏で暗躍していたリヴォルハインの、単なる劇の感想だった。


 だが……結果としてそれが。

 戦闘を終局に導く起爆剤と化した。

 劇。部活などしたコトのないパピヨンにとって、演劇部は、青年らしい普通の喜びを味わえる場所だった。
 高校に5年通ってようやく手に入れた、学校生活らしい学校生活。

 その初めての発表を見る邪魔をした男が。

 パピヨン不在でも問題ないと……言った。

 存在を、透明視した。

「俺抜きで回る……? それがどうした……。あんなものはただの戯れ。ただの戯れだ…………!!」

 瞳が濁る。表情が陰鬱に彩られる。未練を力づくで引き剥がす生々しい痛みが心に走った。

「結局俺を救いうるのは戯れじゃあない! 俺の名を呼んだ男ただ1人だ!!」

 残量の計算などリヴォルハインごと吹き飛んでいた。ただ激越の赴くまま紅蓮の波濤で焦がしつくした。
0005永遠の扉
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2014/07/01(火) 22:16:16.75ID:mMl6NyQl0
 だが……敵は再び出現する。叫びの反動にむせて血を吐きつつ愚痴る」

「クソ! 一体どういうカラクリだ。戦部ともムーンフェイスとも違う……」
「高速自動修復? 分身? 違うのである!!」

 新たなリヴォルハインは、攻撃もせず溌剌と語る。

「パピヨンは会社を知っているのであるか。及公が機構はまさにそれであらせられるのだ!!」
「な……に……」
 急速に世界が冷えていく。感情的な問題ではない。体内で深刻な事態が進行しているような……。

「及公は社長!! 社長が職務遂行上死んだとしてもすぐさま次代が就任する! 会社という組織が滅びない限り……何度
でも!!」

「そして我が武装錬金、リルカズフューネラルはこの地球上に存在するあらゆる菌に巣食い……会社組織を構成している!!
端的にいえばここら一帯の細菌ウィルス総て滅したとしても……及公は菌の中から再び蘇る!! 2代目3代目の社長が
次々と生まれ職務承継! ここに来る!!」

「及公を斃す手段はたった2つ! この地球上に存在する総ての菌を根絶するか……量子化し半ば次元の狭間にあるネッ
トワーク……我が民間軍事会社を倒産させるか! いずれか、である!!」
「ぬかせ!!」
 なおも黒色火薬を撃たんとしたパピヨン。その身の色彩が暗転し巨大な鼓動に打ち震えた。
「がっ!!!」
 口から夥しい血を吐き身を丸める彼を、リヴォルハインは涼しげに眺めた。
「忘れてはならんのである。及公は細菌型……傍にいるだけで少しずつだが吸引しているというコトに」
「貴様! 何を……!!」。問い掛けるパピヨンに彼はゆっくり歩み寄る。
「安心するのである。特異かつ悪辣なる病原菌は一切用いられていない。及公はここに来られる際、あらゆる痛烈な菌を
肉体構成から省かれた」
 しかし。呟きながらリヴォルハインはパピヨンの頭を撫で、緩やかに語る。
「病気。パピヨンの抱えた病気は、免疫力を極限まで奪っているようだな」
「……」
「日和見菌でさえない、人類と共存可能な菌たち。ただ及公が感染し、ただ少しだけ脳髄のリソースを借りる程度の、些細
な活動を行う菌たちにさえ…………パピヨンの体は蝕まれてしまうようだ」
 パピヨンの身が湿った音を立てた。血溜まりに倒れた……そう気付いたのは赤い雫が何珠も舞っているのを見た瞬間だ。
 目が、眩む。意識が遠のく。
 リヴォルハインが、白い核鉄のデバイスに歩み寄り、基盤(ベース)たる「もう1つの調整体」へ手を伸ばすのを目の当た
りにしておきながら……体は、動かない。

「これがもう1つの調整体。マレフィックアース召還の1ピースにして及公が望みを叶える『霊魂』の産物」


「フフフ……ハハハハ!!! これでまた一歩、真なる救済に……近づいた!!!」


 かつて戦士と音楽隊が奪い合った黄色い核鉄。それはレティクルエレメンツ土星の幹部の手に渡った。

「貴様の秘蔵、貰い受けるがトドメは刺さない。よもやそこまで及公に耐性がないとは思いもしなかった。にも関わらず勝つ
のは不意打ちのようで……つまらん。強者との戦いは互い備えた上でやるのが原則、それぞ敬意なのである!!」

 爆裂音。青白い渦の前で土星の幹部は薄い光沢のあるネープルスイエローの六角形を弄びながら、ゆっくりと振り返り、
得意気に笑った。

「取り戻したくば及公を追え。及公も貴様も救いを求めている。その純度は真向堂々の勝負によってのみ向上する!」

 待て。掠れた声で手を伸ばす。届かない。巨躯の男はそのまま渦に呑まれそれごと消滅した。
0006永遠の扉
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2014/07/01(火) 22:17:15.85ID:mMl6NyQl0
ここまで098話。


次から099話。
0007永遠の扉
垢版 |
2014/07/01(火) 22:17:41.26ID:mMl6NyQl0
第099話 「見上げた空へとあなたの描く未来がこの願いが飛び立つよ」

「……かり。しっかりして」

 何分倒れていただろう。ぬくもりと振動の中、パピヨンはゆっくりと目を開いた。
 薄ボンヤリとした視界いちめんに広がっていたのはヴィクトリアだ。釣り上がった瞳に涙を湛え懸命に名前を呼んでいる。
パピヨンという、仮初の名を。涙腺から迸る液体が頬に落ち……熱い。そんな経験は初めてだった。臨死から復調した時
見た看護師は、いつだって事務的な無表情だった。『今回は』凌いだ、そんな顔で所定どおりの加療を行い、忙しそうに
他の患者の下へ飛んでいく。そんな忙しなさすら幸福の内だと気付いたのは、寄宿舎の一室でただ1人暮らし始めた頃
だ。毎晩毎晩、境界線の向こう側から必死の思いで──生の執着を失くせば『必』ず『死』ぬという思いでずっと心臓の
鼓動を握り締めていた──狂いそうなほど激しく息せき転がり戻ってきたとき、視界の先には闇しかなかった。ホムン
クルスを作るようになってからは、鷲尾や花房といった忠誠心熱い連中が看護を手がけたが……信用はできなかった。
彼らは結局、創造主の意のままになる人形なのだ。『そう作った』から、少なくてもパピヨンの目からすれば、自分の、自分
に対する愛以上の意味は見出せなかった。動植物型が、道具が、手駒が、天才と自負する創造主の想像を超えるコトな
ど絶対にないと…………信じていた。道具として、手駒として、完璧に仕上げたという自負が高まれば高まるほど……
彼らの涙に熱を感じなくなった。自分のプログラムどおりの規定行動としか思えなかった。

 ヴィクトリアの涙は……熱い。手を握り、膝枕をし、瞳に献身的な光を湛えて見下ろしてくる彼女の涙に熱さを、感じた。

「良かった。気がついた」
 涙も拭かずくしゃくしゃと笑うヴィクトリア。母親が危篤から回復したときもこういう表情をしたのだろうな……普段とはまるで
違う様子にふと思う。
「あ……」
 膝枕についてどう弁明していいか分からなくなったのだろう。それでもパピヨンの頭は特に動かさず、決まりが悪そうに頬
を赤らめ視線を逸らした。
「たっ、他意はないのよ。ででででもココの床固いし、なのに枕の貸し出しはしてないっていうし、でもそのまま寝かせておいたら
どうせアナタ頭が痛いととか起きたあと文句いうでしょ。だ、だから仕方なく、その……私の体の中で一番柔らかい部分を
クッション代わりにしたっていうか、そそっ、それだけ、それだけなんだからっ!!」
 何をこの女は焦っているのだろう。まだ回復しない思考でボンヤリ思っていると、ヴィクトリアの紺碧の瞳が優しく細まった。
「演劇……。みんなアナタのコト、待ってたのよ。私も頑張ってみたけど、駄目ね。やっぱりアナタが監督じゃないと、締まら
ない。一応勝ったけど、お眼鏡に叶うかしらね。発表ね、ビデオに撮っておいたわよ。回復したらみんな一緒に見たいって
言ってるけど……どうする?」
 母親のような優しい声音で呼びかけながら、さりげなく髪を撫でるヴィクトリア。(体が自由なら即座に跳ね除けるのに……)
などと不貞腐れながらパピヨンは、「見る。どれほど拙いか駄目出ししてやる」とだけ答えた。彼女の言葉の1つ1つがリヴォル
ハインに刺された棘を抜いていくようだった。

 やがてパピヨンは景色の変貌に気付く。屋根が研究室とは違っていた。その点を聞くとヴィクトリアは、「病院よ。戦団御用達の」
と答えた。説明によれば、研究室に何人かの戦士が急行し、倒れているパピヨンを回収。鷲尾たち動物型の異様な痕跡、
死んで溶けたコトによるドス黒い染みに細菌感染を疑った彼らは急遽聖サンジェルマン病院から除染車を借り受け、パピヨ
ンともども洗浄措置を受けつつ病院に戻った。
 普通除染車といえば車外の汚染物質を取り除くものだが、聖サンジェルマン病院のそれは錬金術災害を想定したもので、
一種のハイグレードな救急車なのだ。バイオハザードの被害者をも救いうるクオリティなのだ。演劇のとき使わなかったのは、
敵が細菌兵器の使い手だとは知らなかったためだ。更に使うとなると庭につけざるを得なくなり、舞台との行き帰りのとき、
当時は「虫のようなもの」とされていた物質に再び乗り移られる危険があった。ゆえに根来のシークレットトレイルに頼った。

「今私達がいるのは洗浄室よ。特別なルートで入ってきたから、他の人への感染はない」
 俺を運んだ戦士どもは? 別室。簡単な答えが帰ってきた。

「ところで敵はどんな能力だったの? いまのアナタを見れば……だいたい察しはつくけど」
「一言でいえば……『病気』だ」
0008永遠の扉
垢版 |
2014/07/01(火) 22:18:07.22ID:mMl6NyQl0
 そしてパピヨンは語る。リヴォルハインという男を。


「あらゆる菌に寄生して会社組織を作り……どちらかが壊滅しない限り何度でも蘇る男」
 唖然と呟くヴィクトリア。今のままではどう足掻いても勝ち目がない……そう言いたそうだ。

「だろうな。人間の皮を脱ぎ捨てたとはいえ、俺の病はちっとも治っちゃいないのさ。免疫力は以前低いまま……些細なコトで
血を吐く始末だ」
「だったら……アナタが今言ったような正に『病気』そのものな幹部、あらゆる細菌に感染して操れるリヴォルハインとかいう
男に勝ち目なんかないんじゃ……」
 そういう物言いをするとパピヨンの自尊心が傷つき燃え上がる……そう分かっていながら、ヴィクトリアは言わざるを得ない
ようだ。
「だって、今回はアイツ、無害な菌しか使っていないんでしょ? もしもっと破壊力のある菌を使ってきたら……エボラ出血熱
や日本脳炎といった病気を操ってきたら…………アナタ……絶対に…………死ぬのよ……?」
 分かっているのか、そういうお節介な声にパピヨンはウンザリしつつも笑う。
「負けっ放しは嫌いなんでね。だいたい奴からヒイヒヒクソジジイの遺品(もう1つの調整体)を取り戻さない限り、俺は武藤を
取り戻せない」
「でも……」
「貴様の望みとやらも叶わない」
 え……。意外そうに目を見開くヴィクトリアは、しかしすぐに嬉しそうにはにかんだ。
「叶えて、くれるんだ……。私のも……」
「勘違いするな。ヒキコモリ風情にせっつかれるのが気にくわんだけだ」
「はいはい。片意地でも何でも叶えてくれるならそれで結構」
 トントンと仮面の傍の側頭部を穏やかに叩きながら彼女は瞑目し……静かに笑う。劇発表をやって何か変わったらしい。
成長が、感じられた。
(…………)
 パピヨンは少し当惑した。ヴィクトリアに対する認識もまた、変わりつつあるようで。でも席は1つしかなくて。
 なければ作り出す。選択肢なんてのは他人に与えられるのではなく、自ら作り出していくものだ! ……かつてそういった
パピヨンなのに、席という選択肢は、簡単には作りだせないようだった。
「でも、このままじゃアナタ、土星の幹部に返り討ちよ? 分かってるわよね。病気を治さない限り、絶対に勝てないって」
「フン。俺を誰だと思っている。脆弱な人間の身でさえ死の病に打ち克ってきた男だ。奴が病原菌を操るというなら総て焼
き尽くせばいいだけのコト」
「でもさっきソレできなかったじゃない」
「黙れ!! 今度はしくじらん! 絶対にやる!!」
 駄々っ子か。呆れ混じりにヴィクトリアは呟いた。
「仮に全部焼けたとしても、菌か会社がある限り、幾らでも蘇るんでしょアイツ。全世界の菌類ひとりで焼き尽くすつもり?
言っておくけど菌は生物の体の中にも居るのよ。深海にだってアマゾンの森の奥にだって。増殖もする。アナタが日本
の菌を全滅させても、他のところへ向かっている最中に別の国から増殖したものが日本に侵攻して元の木阿弥って
コトもあるわ」
 黙りこむ。非情に不愉快だった。パピヨンはギリギリと歯軋りをした。できるだけの怖いカオをしてやったのに、ヴィクト
リアは全然怯えたり黙ったりしてくれないのだ。そこがたまらなく不愉快だった。
「(子供か)。何か方策を練らない限り勝ち目は──…」
「方策なら、ありますよ」
 不意の声。ヴィクトリアと2人してそちらを見る。
 異様な生物がそこにいた。
 白い肉にダブついた、二頭身の怪物。
 黒目がやたら大きく、手足は短い。エンゼル御前を更に不細工にしたような生物にパピヨンは一瞬だが呆気に取られた。
「なんだ。できる夫じゃない」
(知り合い!?)
 パピヨンはギョっとした。世の中の夫は時たま妻の人脈に愕然とするものだが、心境的にはだいたいそんな感じだった。
「私のバイト先に来てた人よ。これでも一応、バイクメーカーの2代目社長候補」
 サボリ癖があるけど。その一文でパピヨンの彼に対する感情は決定した。怠け者は……嫌いだ。あとヴィクトリアが知らない
輩と知らないうちに交友を持っているのもなんだか無性に気に入らなかった。
 できる夫氏──専務らしい──は片眉を顰めながらヤレヤレとばかり両手を広げた。
「もりもりさんのお陰でちょっとだけ復調した羸砲さん……、法衣の女といった方が分かりやすいですかね。とにかく彼女から
切り札を預かってきました」
「法衣の女? フン。どこの馬の骨か知らんが、切り札とやら、どうせ大した物じゃないんだろう」
0009永遠の扉
垢版 |
2014/07/01(火) 22:19:17.70ID:mMl6NyQl0
「黒い核鉄と白い核鉄です」
「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「ちょ、アナタ、血! 吐血!! 大丈夫!!?」
 血相を変えたヴィクトリアがタオルを手にアワアワした。その混乱は、できる夫専務の両手に1つずつ乗っている核鉄の
色に気付くやますます拡大した。
「え!? 黒い核鉄に白い核鉄!!? 色塗った偽者じゃ……ないわね。この色と輝き、私が100年地下で見続けてきた
物と全く同……っていうか黒い核鉄のシリアルナンバー!! III(3)!? そんな! 武藤カズキの胸内にある物が一体
どうして!!?」
 まさか奴を……! 最悪の想像に身を焦がし声を荒げるパピヨンを、できる夫専務はまあまあと宥めた。
「大丈夫です。いまこの時の時系列のカズキさんは、ちゃんと月で生きています。黒い核鉄も胸にありますよ」
「じゃあなぜIII(3)の黒い核鉄がココにある!!」
 話せば長くなりますが。できる夫専務が語ったのはだいたい次のようなあらましだ。

 まずこの核鉄たちは未来から来た。

 その未来では、黒い核鉄も白い核鉄も、カズキ亡きあと、武藤家で家宝として大事に受け継がれていたが、『ある大戦』の
さなか、悪に奪われてしまった。
 そして紆余曲折の末、『ある女性』へと埋め込まれた。
 だがその新らしきヴィクターIIIは、とある戦いの後、消滅。
 そして残された黒と白の核鉄を、法衣の女が手に入れた……。

「そして僕に任された訳です。アナタたち2人に渡すように。本当はオヤジさんたち(やる夫社長たち)が来るべきなんですが、
お2人は忙しいですし、僕はいろいろサボってましたから、ヒマならやれとばかり押し付けられた訳です」
 法衣の女とは直接会っていない。突然傍に転移してきて渡すよう仰せつかった……とできる夫専務は締めくくった。

「とにかく、使い方は一任するというコトです。さあ終わった終わった。またゴルフか釣りでもしますか」

 オーロラの中に消えていく専務を呆然と見送るほかない2人だった。


「ブラボーとかいう戦士長や早坂桜花から聞いたけど」
 相変わらず膝枕を続けたままで、ヴィクトリアは問う。
「アナタ確か、パパと同じ体になるコトを望んでいたそうね」
「……」
 パピヨンは自らの言葉を思い出す。

──人間もホムンクルスも超える第三の存在か。
──人間型ホムンクルスが最上級────究極だとばかり思っていたけど
──まさかその上に更なる高みが在るとは。

──決めたぞ。

──オレはこの未完成の体を脱ぎ捨てて、更なる高みを目指して翔ぶ!!

 爆爵を……錬金術の世界にパピヨンを導いた偉大な先達を貫き、高々と掲げながら行った──…
 誓詞。

──人間・武藤カズキを、蝶・サイコーの俺が斃す。

──これが俺の望む決着だ。

 防人に告げ、桜花との同盟を後押しした宣告。

 それはもう容易く叶えられる場所にある。

 黒い核鉄。

 謎めいた専務が持ってきたそれを使えば、願いは馬鹿馬鹿しいほど呆気なく、簡単に叶うだろう。

(…………)
0010永遠の扉
垢版 |
2014/07/01(火) 22:19:48.09ID:mMl6NyQl0
 何の苦労もなく。

 あれほどヴィクトリアと苦心しながら目指していた白い核鉄も、いま洗浄室で無造作に転がっている。

 それをカズキに与え、自らも、施しを受けた黒い核鉄を胸に埋め込めば……決着はつくだろう。

(……………………)

 目標は、すぐにでも叶う。ヴィクター化すればリヴォルハインに対抗する手段もできるだろう。
 いやそもそも彼と争う必要性すら消え去ってしまう。

 もう1つの調整体は、白い核鉄の材料にすぎない。
 完成品が手元に来た以上、もはや無用の長物といえた。

 最善手だけ言えば奪還などやめ、降した相手も無視し、ただカズキを取り戻す手段だけ講じていけばいいのだ。

(労力は総て省かれた。なのに……どうしてだ。何故これほど空虚に思える)

 カズキの居ない街を見下ろしていた時の、索漠とした気持ちが蘇る。


「得体の知れない輩に与えられた物を差し出すのか……ってカオしてるわよ」
「……!」
 ヴィクトリアはニヤニヤと笑っていた。
「どうせ思っているんでしょ? 武藤に。武藤カズキに。ただ1人俺の名を呼んだ男に………………借り着のような物を、呉
れてやるのか? ……って」
「知ったような口を聞くな……!」
「あら。じゃあ違うのかしら? まあ、アナタは頭がいいから、転がり込んできたものは何でも利用するつもりでしょうね。
面倒くさい研究など、やらずに済むなら越したコトはない。正しいわよ。私との協同を放棄するというならそれも選択。尊重
するわ」
「……」
「でも、私は……例えアナタの助力が得られなくなっても、完遂する。白い核鉄の精製……やり遂げてみせる。手に入れる
コトが目的じゃないの。白い核鉄を作り上げられる自分になるのが……目的なのよ。錬金術って、本来そういう物でしょ?」
 黄金練成に挑む過程で、より高度な存在への到達を目指す。本義ではある。だが。
「貴様がそれを言うのか? 錬金術を嫌い、100年地下に引き篭もっていた輩が、したり顔で」
「ええそうね。偉そうにいう資格なんてない。けど……」

 白い核鉄の研究を始めた当初、ヴィクトリアはパピヨンとうまくやっていけるかどうか悩んでいた。
 何しろ突然激発して首を絞めた男だ。不安がる方が普通だろう。

 そんなとき、まひろの夢を見た。彼女が秋水絡みで、演劇部の先輩から的外れな叱責を受けている、回想的な夢を。
「なにアレ」的な、女友達ならよくやるすり寄りをしたヴィクトリアに対し、まひろは言った。


──「とにかく! 私が頑張るコトで他のみんなも演技上手くなるならそれでいいじゃない? ね? そしたら劇を見てくれる人
──だってもっと楽しんでくれる……って思うんだけど」


── びっきーはどう思う?
0011永遠の扉
垢版 |
2014/07/01(火) 22:20:15.00ID:mMl6NyQl0
 夢が覚めてから、思った。

──「頑張る方がいい? 馬鹿にしてくる奴上達させる方がいい?」

── ダブって見えた。
── まひろを叱っていた女先輩が、パピヨンと。
── 演劇が、錬金術と。

── 嫌いな錬金術と苦労して向き合い、嫌いな奴を利したところでどうなる……という考えもあるにはあった。
── 理屈さえつければパピヨンとの協力関係など幾らでも解消できる。尽くしても見返りがくる保証はない。
── ヴィクターが人間に戻れる保証など実はない。

── けれどそういう感情にだけ囚われていいか? と聞かれたら……ヴィクトリアは首を横に振りたい。
── そうしてきた100年間から得られたものなど何もなかった。
── そうしてきた100年間から引き上げてくれた者たちは、囚われていなかった。


──(錬金術が演劇みたいに人を喜ばす。そんなコト、あるのかしらね?)


 演劇は……成功した。運命のめぐり合わせでヒロインになったまひろは、持ち前の気質で無銘や秋水といった連中を見事
向上させ、予想以上の成果を得た。的外れな叱責をした先輩すら、終劇後はまひろを認め、頭を下げていた。


「……私は、向き合いたいと思っている。戦団もホムンクルスも簡単には好きになれないけど、どっちもそういう部分だけじゃ
ないっていうのは……最近少しだけ分かりかけてきたの。だから、私をこんな体にした錬金術にだって、演劇のような、悪く
ない部分だってある筈なの。実際、戦士も、音楽隊も、武装錬金も、私がかつて味わった惨めで、暗くて、絶望的な感情とは、
まったく逆のコトを、舞台の上からもたらしたの。私はそれを目指したい。そうできるコトを、できるようになる、今より少しだけ
マシな自分になりたいの。だから……白い核鉄を精製したい。手に入れるだけじゃ駄目なの。嫌いな錬金術と向き合って、
やり抜いて、自分の手で造り上げる所に意味があるの。
「………………」
 そこまで言われて「しかし俺は出来合いの代物を使う」などと言えよう筈もない。結局本心は先ほどヴィクトリアが言い当てた
通りなのだ。

(そうだ)

 空虚さの正体が分かった。そこに己がいないからだ。
 パピヨンはいつだって自分の力で困難を打破してきた。孤独で、誰も助けず、顧みるコトすらしなかったから──…

 独力で強引に行く手を開いてきた。
 誰もが歩める整備された道を楽に歩いてきた訳ではない。
 荊と毒虫の蔓延る地帯を、幾度も死にそうになりながらギリギリのところで競り勝ち、切り拓いた。

 誰も真似できない、自分だけの道を堂々と邁進してきた。

 その軌跡の最後を既存の道で締めくくるのか。否。拳が震えた。

(俺は、俺は武藤に……)

(挿れたい)

(俺が総てを込めた俺だけの白い核鉄を奴の胸に…………挿れたい!!)

 迷いは晴れた。いや、答えなどもう最初から出ていたのだ。
 挿れたい。パピヨンの白い核鉄を挿れたい。答えはそれで充分なのだ。

「ならば俺もそれなりの身支度を進めるべきだな」
「そうね。黒い核鉄を使えばいいじゃない。製法は失われて久しい。しかも敵は反則級……使ったところで恥じゃない」
0012永遠の扉
垢版 |
2014/07/01(火) 22:20:40.76ID:mMl6NyQl0
「いーや使わない!!」
「ええ。じゃあ早速胸に……って。え? 使わない!? なんで!?」
 笑いがこみ上げる。驚くヴィクトリア、予想を上回られた少女の顔は愉快だった。最近生活の中で調子に乗っている彼女
の度肝を抜けたのは非常なカタルシスだ。
「敵がなんであれ、横合いから投げられた武器を使って勝つのは趣味じゃないんでね。俺が望む蝶・サイコーの俺は、俺
だけの力で難事を打破する俺だ!!」
「ちょ、敵は病気そのものなのよ!? ちょっと叫ぶだけで血を吐く病弱なアナタが到底太刀打ちできる相手じゃ……!!」
「だから何だ! むしろ病気結構!! 今までさんざ俺を蝕み、人の身を捨ててなお克服できなかった代物……むしろチャン
スじゃないか!! あのリヴォルハインとかいう男を打破するコトそれ即ち最後の克服!!」
「無茶よ!! おとなしく黒い核鉄使いなさい!」
「だがNON! 武藤の前にまずは奴だ!! まずは長年俺を蝕んできた病気との決着をつける! この身になってなお
付き纏う人間の残滓を土星の幹部ごと吹き飛ばし!! 身奇麗になってやる!! 病をも屈服させた俺こそ俺の理想!
武藤カズキと決着をつけるに値する……蝶・サイコーの俺だ!!」


【セラピストの談話】

 多くの人々は、自分の潜在的な独自性を、最初から十分に発揮できていない。

 しかし、病気になった人々の多くが、病気をきっかけにはじめて自己実現の道を歩み始めている。

 自分の人生を歩んでいないことに気づくためには、身体が病気になる必要があったのである。


 おそらくガン(およびその他のあらゆる病気)は、より大きな人格をつくるための試みなのだろう。


 病気は、人格を存在の瀬戸際まで追いつめ、以前は意識していなかった自分の人生の意味と目的とをそこに集結させる。


                                                   ラッセル=ロックハート(ユング派)

 無茶よ。ヴィクトリアは叫んだ。
「やめなさい! アナタ死ぬわよ!!? どう考えても黒色火薬1つで斃せる相手じゃないのよ!?」
「だからいいんじゃないか。そーいうのを打破してこそ俺は向上できる」
「打破できなかったじゃない! 負けたじゃない!! なのに黒い核鉄も使わないなんてどうかしてるわ!」
「ギャーギャーとうるさい女だな。あと叫んだ拍子に足がズレたぞ。もっとふんわり受け止めろ」
 あ、ゴメン。申し訳なさそうに太ももの位置を変えパピヨンの枕心地を調整したヴィクトリアはハっと叫ぶ。
「じゃなくて!! こんなに体調悪くなるほど惨敗したのに何でそんな大口叩けるのよ!?」
「白い核鉄を目指しておいてよく言う。貴様だって人生において既に惨敗してるだろうに」
「アナタそれ自分のコト棚に上げてるわよね!? 今年で二十歳の高校生も充分負けてるわよね!?」
 黒く嗤う。
「だからこそさ。貴様が興味津々な錬金術は、ただ1度の敗北で総て諦めろと告げるものじゃあ決してない」
「そうだけど……」
「錬金術を言うなら、勝敗さだかならずとも立ち向かうコトこそまず肝要。振り返れば善きにつけ悪しきにつけ俺の人生の
根幹に居座りつづけてきた忌まわしき病。それを克服せんと足掻くコトこそ俺を高め蝶・サイコーに導く!」
「…………」
「病がなければ俺はホムンクルスにはならなかった。武藤とも出逢わなかった。錬金術というなんとも面白そうな世界すら
知れずに終わっただろう。忌々しくもあるが、ある意味ではご先祖様以上の先達じゃないか。ならばそれを武藤と決着を
つける前に……超える! ヴィクター化などという既製服など今の俺には窮屈すぎる! 俺だけの一張羅を造り上げる! 
俺の往くべき道のため、リヴォルハインとかいう輩を斃す!! 斃してもう1つの調整体を取り戻す!」

「だあもう本当話を聞かないわね!! 私はアナタの体のコト心配で──…」
 言葉半ばで慌てて口を噤む。本心だからこそ聞かれたくないのだ。

「……」
 パピヨンはちょっとだけ目の色を変えたが、すぐ熱ぼったい毒舌を降らす。
0013スターダスト ◆C.B5VSJlKU
垢版 |
2014/07/01(火) 22:21:15.46ID:mMl6NyQl0
「そもそも俺はヴィクターの限界などとうに見抜いている! 他の生物からエナジードレインしなければ生存できない脆弱な
服など不要だ! 貴様をホムンクルスにされた怒りで戦団に刃向かっておきながら瀕死に追い込まれ、ご先祖様の力を借
りる始末だ。そうして100年眠りこけようやく目覚めたにも関わらず、何故か戦団の主要施設には目も呉れず世界を周遊
する煮え切れなさ! 半端な男だ!! 第三の存在とか偉ぶっておきながら、第三段階とかいう大層な変化を遂げながら、
中村とかいう新米の、みみっちい武装錬金に腕を切断される程度の存在が! この俺の晴れ舞台を飾る衣装になろう筈
がない!!」
 よってヴィクター化など論外! 断言するとヴィクトリアは非常に不愉快な顔になった。(でも膝枕は続ける)。
「パパを馬鹿にすると、いくらアナタでも許さな──…」
「そんな哀れな男、とっとと相応の立場に引き落としてやらなければ気がすまない」
「え?」
「貴様が少し周りを見るだけで、肩書きだけの哀れな奴の消滅速度が速まるだろうさ」

 ヴィクトリアは周りを見た。
 まず白い核鉄が目に入ったが、ヴィクトリアは前述の通り使うつもりはない。
 自分で作り、自分で母の遺志を完遂するところに意味があるのだ。既存品は使いたくない。
 白い核鉄は黒い核鉄のカウンターデバイスだ。
 製造には当然、後者のデータが必要となる。……製法が失われて久しい幻の一品の、データが。

(基盤(ベース)にするコトもできるけど、できれば一から作りたい……)

 思いながら周りを見続ける。黒い核鉄もまた転がっていた。

 それは。

 パピヨンに埋め込まれなかった場合どうなるか?

 ヴィクトリアの白い核鉄精製の参考資料となるであろう。


「………………馬鹿ね」


 ヴィクトリアは慎ましい胸に手を当て、ちょっと涙ぐんだ。
 パピヨンの機微、言った所で本人は否定するだろうが……嬉しかった。

「フン」
 鼻を鳴らしそっぽを向くパピヨン。つくづくと難物だが、距離は以前よりもっと縮まった気がした。



「ところで太ももの位置……どうなのよ」
「まあまあだ」


 リヴォルハインへの対策はまだまったくない。

 それでも彼ならば、きっと…………ヴィクトリアは信じている。



以上ここまで。
0014ふら〜り
垢版 |
2014/07/03(木) 21:15:30.38ID:cWJWukyJ0
>>スターダストさん
私が愛してやまぬ膝枕を、よくぞここまで、たっぷりねっとりと描いてくれました! 二人とも、
一歩も動かず会話してるだけなのに、実に男の子らしい意地と、女の子らしい可愛らしさがよく
出てて素晴らしい! 本作終了後に原作へ繋がることを考えても、この二人は安心して見てられます。 
0015永遠の扉
垢版 |
2014/07/03(木) 21:24:09.47ID:i/vUI9gr0
「45分後、救出作戦に従事する者は病院屋上のヘリポートから発つ」

 メンバーは。

 火渡赤馬。
 毒島華花。
 殺陣師盥。
 津村斗貴子。
 中村剛太。
 早坂桜花。
 鈴木震洋。
 栴檀貴信。
 栴檀香美。
 鐶光。

「先輩と同行できるのは嬉しいスけど、予定と違いませんか」
 恐る恐る手を挙げて問い掛ける剛太を火渡はギロリと睨みつけた。
「るせェ。根来が消えて千歳が失明しちまったのはテメエらのせいだろうが。穴埋めぐらいキチっとしやがれ」
「……すまないな火渡。俺たちが呼ばなければ2人とも救出作戦に参加できたのに」
 頭を下げる防人。フンとそっぽを向く火渡。
(相変わらず関係良好と言い難いな)
(というより火渡戦士長が一方的に突っぱねてる感じね)
 桜花はやれやれと困ったように笑った。御前経由で逃避行を見ていたから知っている。火渡は、結果からいえば防人に
回復不能の火傷を負わせたが、しかしそれはあくまで事故のようなものだと。


──「割り切れ!! でねェとガキ共を死なせねェうんぬんの以前に」
──「てめェが死ぬぞ!!」

──「俺より強いはずの男がいつまでもくすぶってるんじゃねェよ」


 そういってカズキたちをブレイズオブグローリーで焼殺せんとした結果、割って入った防人が……。という流れだ。


(決して戦士長を憎んでいる訳じゃない。むしろ逆だ。逆なんだが……)
 何やら過去のコトを持ち出し、防人を指差し詰め寄りがなり立てる彼を見て斗貴子も溜息。
(認めてはいる。7年前のコトから立ち直って欲しいとも願っている。だがその気持ちの表し方が……荒々しすぎる)

 かつて防人が炎に消えたとき、もっとも驚愕したのは他ならぬ火渡自身である。

 そして激昂したカズキの特攻に

──「うるせェよ。てめえがとっとと死んでりゃあ防人は……!!」

 逆上した。
 つまり彼にとって防人とは、掛け替えのない友人であり好敵手なのだろう。
 それが腑抜けているから、色々と我慢ができず、極端な行動に走り、衝突する。

 斗貴子は上司を見る。いろいろ激しい言葉を投げられているのに、慣れた様子で笑って流している。
(戦士長の方が幾分大人だな)
 もっとも当人は大人になりすぎた故の底冷えをずっと抱えていて、だからこそ火渡に噛み付かれているのだが。

(それでもムーンフェイスが脱獄した時、護衛の戦力をすぐ派遣してくれたし、大事には思っているようね)
 桜花はくすりと笑って火渡を見る。態度こそ剣呑だが、彼は彼なりに防人を焼いてしまったコトを悔いているようだ。

「しかしねごっちーの野郎、一体どこへ行ったんだ?」
「……。すっかり定着していますねその呼び方。彼なら大丈夫と思いたいですが」
 どうなんでしょう。元同僚の毒島は肩を落とした。
0016永遠の扉
垢版 |
2014/07/03(木) 21:25:15.40ID:i/vUI9gr0
「彼にしては仲がいい戦士・千歳をああいう目に遭わされたんです。穏やかな防人戦士長でさえかなりお怒りのご様子でしたし」

 毒島は思い出す。シルバースキンを参考に作られた合金製の扉……かつて特急列車を食事目当てで真正面から殴りぬいて
一歩も引かずに8両編成の外装総て粉々にした元ボクサー(ヘビー級チャピオン)のホムンクルスを死刑執行当日まで見事
閉じ込めた監獄の壁とまったく同じ材質の防火扉を、一撃で雑多な破片の嵐に作り変えた憤怒に悶える防人の顔を。

 イオイソゴへの憤りもあるが、千歳を守れなかった自分への激情の方が大きいようだった。
 病室で頭を下げる彼と、笑って許す千歳の姿が印象的だ。(防火扉は責任を以て治すコトになった)。

「ねごっちーの野郎も、それに負けず劣らずのすげーカオだったしなぁ」
 目だけでも修羅というに充分だった。あの冷静な彼をそこまで怒らせる原動力は何だろう。考えると思い当たった。
「……あ。そうか」
「なんですか?」
 排気筒がもそっと動き剛太に向く。
「結局さ、アイツにとって千歳さんって、アレか? 戦友って……奴なのか?」
 かつて剛太は根来と戦ったとき、聞いた。「お前、戦友はいるか」と。
「あの時は、「最初から不要」って言ってた。一人で充分戦えるともな」
「ですが、幾つかの任務を共にこなすうち、戦友と思えるように、ですか?」
 そればかりは本人に聞かない限り分からない。

 確かなのは、千歳の失明を知るや速攻で姿を消したというコト。
 彼女が掛けられたのは「忍法、七夜盲もどき」。耆著を打ち込まれた2つの眼球が磁性流体と化している。
 よって術者を殺すか、力づくで解除させるかすれば千歳は光を取り戻すのだが──…

(相手はイオイソゴ。正規作戦行動に従っていては到底叶わない。だから根来は抜け忍となった。何にも縛られず、何をも
遠慮せず、ただ相手を屠るためだけ戦団を抜けた)
 同じ忍びだからこそ無銘は分かるのだ。もとより根来は奇兵。勝つためなら味方など一切顧みない。シークレットトレイルの
特性もまた単騎での戦いに特化している。
(だが……言い換えればそれは各個撃破の憂き目に遭いかねないというコト。せめて我と合流できたのなら……)
 左腕を犠牲にして掛けた『忍法』。それは共通する仇を擾乱し惑乱させ、悲願を見事果たす原動力となるだろう。
 所在を突き止めるといえば正に千歳が適役だが、こういう時に限って役立たないのがヘルメスドライブの宿命らしい。
 というより、優れすぎた武装錬金ゆえ、能力を知る者は総角然りマレフィック然り、厳重堅固な対応を取るのだ。まして
相棒たる根来が対策を講じない訳が無い。

「どうやって逃れているのか分からないけど……どうせ」
「ええ、どうせ」

 剛太と毒島は揃って肩を落とした。

(忍法、だろうなあ)
(忍法、でしょうねえ)



 とにかく根来は消えた。千歳も戦力としては当てにできない。

「総角クンもどこか行っちゃったしね」
「…………」。小札は心配そうに顔を伏せた。


──大戦士長どのの救出作戦に従事するのは、俺と鐶、それからセーラー服美少女戦士……この3人だ」


 かねてより、レティクルエレメンツが銀成を狙っているのではないかという疑念があった。そのため防人は火渡に打診し
た。「戦士・音楽隊双方からトップ3の戦力を供出する。その代わり他の者を銀成の守護に……」と。
 しかし先ほどの幹部達との戦いで、臨時に召還していた千歳が失明。それを受けて根来も失踪。本来救出作戦に従事
する筈だった彼らのリザーバーに剛太と桜花が選ばれた。毒島は元々同伴予定。総角が言ったのはあくまで「銀成側の
戦力から」という意味である。
0017永遠の扉
垢版 |
2014/07/03(木) 21:25:41.45ID:i/vUI9gr0
「まあ、銀成(ココ)が狙われてるかもって話が持ち上がるまで私もブラボーさんも対幹部を想定してそういう特訓していた
から、予想通りといえば予想通りね」
 桜花は納得した様子だ。剛太は……斗貴子と同行して喜ばなければ何に喜ぶという話だ。
『というか僕たち、もりもりさんの穴埋め!? 香美はともかく僕はその、弱いぞ!?』
「んー。別にいいけどさ、きゅーびとか、あやちゃんじゃ駄目な訳?」
 前者は左腕を切断している。すぐに治る見込みはない。
 後者は切り札を持っているが、非常に危ういものらしい。
「……あまり強く撃ちますると、世界が崩壊しかねない技なのです」
「世界が崩壊ってなんだよ……」
 剛太は呻いた。先ほど目撃した技は奇妙ではあったが、極端に破壊的という印象はなかった。
「その、あれで出力は3.8%というところでして」
 もしあの局面で幹部1人死ぬ程度に出力を上げていれば、12の言語と718の山脈が消滅していたと小札は言う。
「何だよその技!! おかしいだろ!! てか妄想だよな、妄想!!」
「いえ、不肖の7色目・禁断の技は、あらゆる因果の流れを繋げ、あるべき形に是正する技でして……」
「因果の流れ……」
 桜花は微かに噴き出した。「そんな中学生の妄想みたいな単語真剣に言われても……」。小札は赤くなって涙ぐんだ。
「う、うぅ。俄かに信じられぬのは当然といえば当然。されど実際そういう能力なのでありまする…………」
 斗貴子はかるく桜花をはたいた。
「茶化すな。出撃前で時間がないんだぞ。実際不可解な現象を見た……それで納得しておけ」
「でも、因果の流れよ?」
 やけに真面目な顔でいう美人生徒会長に、剛太や秋水が一瞬噴き出しかけた。もっともグッスンと鼻をすする涙目小札
の赤い顔に罪悪を覚え踏みとどまったが。
「……。桜花お前、人のコト言えるのか?」
「え?」
「昔似たようなコト望んでいただろうが。『ホムンクルスになって死ですら別てない命を得て二人だけの世界で共に生きて
いくコト』…………正直中学生のカップルがいいそうなコトだぞソレ。生徒生贄にしようとしてた分、小札より始末が悪い」
 桜花の顔が下から上へと赤くなった。ガチで死ぬバーチャルオンラインゲームで稀によくある現象だ。

 斗貴子はまだ知らない。やがて授かる子供がバッキバキのそれ系統だとは。

「とにかく、い、因果の流れを操るのは、改変後のこの歴史では危険なのです」
 清楚な雰囲気のおさげを揺らめかせながら、杖を膝の前で水平にして、小札。頬は耐えられないというように赤熱中。
「そういえば金星の幹部が言っていたな」
 秋水は思い出す。

──「いまアナタたちがいる時系列は……正史から分岐したもう1つの世界であり……歴史。付記すれば正史において音
──楽隊という共同体は……存在しませんでしたの」

「『10年前使ったとき』……不肖はある方から警告を受けました。時系列に致命的なダメージを与えてしまったと。もしまた
全力で使えば、今度こそ何もかもが土崩瓦解してしまう、と」
「なるほど」。桜花は細い下顎を細い指でなぞり、呟く。
「因果の流れを操って、物事総てあるべき形に是正するのは……危険なのね」
「……小札のいうコトがホントだとすれば、今俺たちのいる歴史って「まがい物」って訳だよな。それを治すってコトは」
「歴史が元に戻る? 俺たちが生きてきた歴史が……消える、のか?」

 到底信じがたい話だと秋水は思う。

(だが真実で、……この歴史が、まがい物だとすれば、俺の生きる意味というのは…………)
 秋水は開いた世界を1人で歩けるようになりたいと願っている。その願いは、絶対に達成したいものだ。
 だが……達成しても、世界の方が、実は夢幻のごとくあやふやな物だとすれば?

 数々の戦いを生き残ってきた。
 困難を打破してきた。
 さまざまな思いを得て、頑張ろうと足掻いてきた。

 なのに、歴史がその総てを誤りだと見なしたなら?
 秋水がここまで生きてきた痕跡総て、本来は起こりえない、イレギュラーな物だとすれば?
0018永遠の扉
垢版 |
2014/07/03(木) 21:26:11.39ID:i/vUI9gr0
 女医(グレイズィング)は言った。音楽隊は本来生じなかった存在だと。

(だから小札は7色目を恐れているんだ。全力で使えば、自分たちのような、元の歴史では生まれなかった存在総て……)
 消え去ってしまう。秋水の履歴のような、「起こりえなかったが、当人は全力で生きた」痕跡ごと、消え去ってしまう。

 綱紀粛正の名の下に、数多くの命を殺め、存在を否定する所業を……小札はどうしてもしたくないのだろう。


「ケッ。ホムンクルスの与太じゃねーか」
 野太い声。小札の言葉を真実とする戦士と音楽隊は一斉にそちらを見た。
 火渡。煙草をふかす彼は殺意もむき出しに小札を睨んだ。
「どうせ作り話だろうが、真実なら分かった時点でとっとと何でも使って戻しゃ良かったんだ。分かってんのか。放っておきゃ
あ人間もホムンクルスもドンドン増えていくんだよ。歴史戻したときフッ飛ぶ命もな。化け物が神気取ってチンタラやってる
内に状況はますます悪くなってんだ」
「それは──…」
 小札はきゅっと唇を噛んだ。鎮痛と焦燥に彩られた表情から秋水は、「他にも戻せない理由があるようだ。レティクルの
誰かに妨害されている、とか?」と当たりをつけたが、火渡は斟酌しない。
「そもそもてめェらホムが歴史に何かしていようが俺には一切関係ねえ。どうせ神なんざいねえ。神になれる奴もいねえんだ。
俺は好きに振舞うだけだ。苦労だの希望だのがある日突然水泡になっちまうなんざとっくに経験してんだよこっちは」
「…………」
 苛立たしげに踵を返し去っていく火渡。その背中に秋水は思う。
(そう、だな。歴史云々を抜きにしても……叶わぬコトはある。報われないコトもある)


 カズキを刺してしまった夜、秋水はそれを体験した。いや、体験したからこそ狂乱し……カズキを刺した。


 秋水にとっての始まりは……むしろそこからだった。


──「まだだ!! あきらめるな先輩!!」


 右手がまだ、覚えている。

 彼の拳の感触を。
 彼の呼びかけを。
 強い感触を、音圧を。
 今でもまだ、覚えている。

 拳を握り、じっと見る。これまで数多くの戦いを共に切り抜けてきた大事な手を。

 カズキの件を伝えられたまひろが、手助けを誓い、暖かな両手で力強く握り締めてくれた手を。


「あの……火渡様はああ言ってますけど、余り気にしないで下さい」
 毒島が小札の前にひょっこり現れた。
「口調は乱暴で、表情は怖いですけど、小札さんを憎んでる訳じゃないんです。その、本気ならとっくに炎出してますし」
 火渡という男は、つくづく弁護の余地がないらしい。フォローする秘書役の少女でさえ、殺害行動の無さで憎悪の
無さを示さんとするウルトラCの弁証を強いられている。
「い、いえ、分かっています。7年前の赤銅島の件あらばこそホムンクルス総てに憎悪を燃やしているのは」
 けれど。小札は真白になってカタカタ震えた。
「こここ怖いのはどうしても否めませぬ…………。腰が、腰が少し、抜けかけ……あわわわわ」



(ところで俺…………誰にも存在触れられてない…………)
 落ち込む震洋の肩を、ケタケタ笑う殺陣師が叩いた。
「ここからだよ青少年。ガンバルのだ!!」
0019永遠の扉
垢版 |
2014/07/03(木) 21:26:59.52ID:i/vUI9gr0
.



 出撃まで軽食を摂りつつ時間を潰すコトに。


 聖サンジェルマン病院:休憩室。


 入院患者やその付き添いが使うのだろう。テレビや本棚といった調度品が並ぶ広い部屋に火渡以外全員移動。

「第一回、大戦士長の救出作戦に従事する戦士さんたちを紹介してみようのコーナー!!!」
 両目を不等号にして叫ぶ若い女性に、戦士も音楽隊も愕然とした。
(何者だこの女。戦士のようだが)
(殺陣師盥(たてし・たらい)さん……です……。火渡戦士長と一緒に来た…………)
 無銘たちディプレス追跡組はやっと彼女の存在に気付いたようだ。
 剛太はうげっというカオをしている。それと斗貴子の反応で、桜花は大体の立ち位置を理解した。
「…………?」
 小札は腕をさすった。なぜか殺陣師を見た瞬間、凄まじい寒気が走ったのだ。
(不肖に、というか…………)
 今度は左胸に手を当てる。(……)。何か、妙だった。
「あの……、なにか、感じませぬか?」
 無銘、鐶、貴信、香美といった仲間たちに問う。ホムンクルスゆえに何か感じるものがないか、と。
 全員首を振った。野生の勘そのものの香美でさえ「あいつなんか好きじゃん」と好印象。
(気のせい、でしょうか…………)

「……………………」

 殺陣師盥はそんな小札を見て薄く笑った。

 よく分からないまま、話に。



「では今回の救出作戦、20位以上の記録保持者(レコードホルダー)が全員参加と」
「そうなのさ秋水の介!! 現役戦士の中でホムンクルス撃破数が20番目以内の人たちみんな来る豪華ぶり!!」
 1位は言わずと知れた戦部厳至だが──…
「そういえば2位以下は知らないわね」
 桜花の胸の前で「だな」と御前が頷きつつ紙パックのヨーグルトをストローで啜る。
「いやこの前、特訓のとき話しただろ。ブラボーが竹刀使って脇構えで早坂の逆胴に勝ったとき」
 剛太は溜息交じりだ。半分は、自動人形の分際で飲食する御前への呆れ。
「そういえばそんな話もあったわね。演劇でいろいろあったからスッカリ忘れちゃってた」
 ニコリと笑う。斗貴子は説明。
「2位は師範だ。武装錬金は毛抜形太刀。秋水同様卓越した剣客で……」
 純粋な身体能力のみで、およそ289体のホムンクルスを狩っているそうだ。
「それも刀一本、戦部同様真っ向勝負で……やっぱり特性が強いん?」
 激戦の高速自動修復のような……と嘴を挟んできたのは横浜で実際目にしたエンゼル御前。
「いや。特性は関係ない。特性は戦闘向きじゃないんだ。というか──…」
「そうスね先輩。あの特性はフザけてますよね」
「まったくだ。何であんな馬鹿馬鹿しい特性で撃破数上位なんだ。つくづくフザけてる」
「??」
 香美と鐶が訳も分からぬと瞬きする間にすかさず桜花。
「つまり師範さん……でしたっけ? 師範さんは特性抜き、戦部さんのような反則能力抜きで」
「そう。純粋な剣腕のみで撃破数上位に登りつめた。3位以下の連中のような小ざかしい策なしでだ」
「訓練の一環で何度か戦ってるの見たけど」
 と剛太は、横の秋水を顎でしゃくり
「コイツなんかよりずっと強ェ。コイツも相当だけど敵がちゃんと斬られるだけマシっつーか普通っていうか? とにかく「ああ
まだ常識破れてねェなまだまだだな」って笑わず見れる部分がある」
0020永遠の扉
垢版 |
2014/07/03(木) 21:27:34.72ID:i/vUI9gr0
「ああ。師範に斬られた奴は爆ぜるからな。L・X・Eと同レベルの80体近いホムンクルスの群れが次々血煙と化す様は風船
だ。居並ぶ風船に機関銃を撃ち込むような容易さだ。白刃が翻るたび最低9体が砕けて消えた」
「あら8回で終わるなんて野球みたい」
 毒島はドンヨリした。肩には暗いチリアンパープルの霞(ヘイズ)と苔色の縦線6本。
「失礼ですが引き攣った笑いしか浮かびません。師範の戦い」
「……将来秋水クンもそうなるのかしら」
 ならないで欲しいけど……。強張った笑いのなか弟を案じる姉であった。

「で、3位から8位までは団子なのだよ青少年」
 なぜか誇らしげに胸を張る殺陣師。(彼女は記録保持者全員のファンなんだ)などと斗貴子が小声で
囁いた。
「すごいヨ〜。名だたる強豪たちが日夜抜いたり抜かれたりの追いつけ追い越せ。どんな人たちか聞きたいかい?」
 桜花は頷いた。
 いずれ開いた世界をひとり歩く身、あらゆる事象に興味を持ちたい。それが扉を開くコト。秋水同様足掻いている。
 遠目でガスマスクの少女が「というコトですが」と外部団体に問うと手が4本上がり満場一致。語り出す殺陣師。
「まず広域殲滅型が2人だね。代表者ひとりに撃破数を集約しているチームも幾つか」
 なかなかバラエティ豊かそうだ。斗貴子も喋る。
「犬飼戦士長仕込みの探査術で独自に共同体を見つける戦士もいるが奇兵スレスレ、黒い噂が耐えない。わざわざ信奉
者全員を『格上げ』しているのではないか、そういう疑念がある。死体が一箇所に集まりすぎなんだ、人間のとき予め拘束
しておき化け物にするや速攻! まとめて斃している……と」
「あらひどい」
 口に手をあて優雅に微笑む桜花だが同情は薄い。斗貴子も「改悛の情がないなら」と見逃す構えだ。
 にも関わらず悪評が立ち気味なのはつまるところ上手くやりすぎているからだ。齷齪(あくせく)と狩っているものからすれ
ばそういう合理、いくらでも培養可能な幼体で手軽にスコアを稼いでいる奴はまったく気に入らないのだろう。
「単純なバトル好きも何人か。あと、ウィルス使いも居ますね」
 と会話に加わってきたのは毒島華花。たおやかな少女だがガスマスク着用のためなかなかパンチの効いた外見だ。もっと
も火渡という難儀な戦士長の秘書的な役割をこなしているだけあり実務能力はなかなか高い。そのためか戦部厳至の記
録保持数を初めとした戦団の事情に詳しくもある。
「ウィルス使い? パピヨンが遭遇したという土星の幹部のような?」
「いえ、ちょっと違いますね。ホムンクルス幼体にだけ作用するウィルスです。基盤(ベース)への投与前に感染した場合の
み死に至ります。鳩尾サンの兵馬俑にやや近いですね。まず幼体の遺伝子を変異させます。すると寄生の際に起こる細
胞変異が癌化へと転じます。怪物になると同時に蝕まれ、死にます。よって設備や研究者ばかり狙います。二次感染目当
てです。幼体を産むホムンクルスを捕らえて、ゴキブリなどの害虫を周囲に置き、寄生と同時に殺し続ける『ハメ』で撃破数
を稼ぎ一時は2位に踊り出ましたが、3位以下の記録保持者たちから非難の声があがったため、撃破数に関するガイドラ
インが見直される始末です。しかしホムンクルスとはいえ記録のためだけに殺すとは……恐ろしい能力です」
 恐ろしげに首をすくめる毒島に皆思う。「お前が言うな」と。
「というか毒島さんだって記録保持者(レコードホルダー)になれるんじゃない?」
 エアリアルオペレーターは毒ガスを作れる。一網打尽の体現ではないか。
「というか18位だヨ〜。華花の介」
(意外というかやっぱりというか!! てかもっと順位上でもいいだろ!!)
 驚く一同に彼女はもじもじとした。
「私はあくまで火渡様の補助ですから……」
 軽く俯くガスマスクはガスマスクさえなければ含羞ある可憐な少女なのだがガスマスク故もうやるせないほどガスマスクだ。
「で、華花の介のアシスト受けてる火渡の介が12位だけど……戦部の介に負けてるのって変な話だよねー」
 カラカラと笑う殺陣師。それもその筈、火渡のナパームは周囲500m、瞬間最大五千百度の炎を出す。
「移動後使用可能のマップ兵器…………です……。トップエース間違いなし……です……」
『なのにどうして十文字槍一本に負けてるんだろうな!!』
 口々に加わってきたのは鐶光に栴檀貴信。
「それは──…」
 毒島の語気がやや沈んだ。普段くぐもっている声が真鍮越しにも分かるほど消沈した。
0021永遠の扉
垢版 |
2014/07/03(木) 21:28:51.22ID:i/vUI9gr0
「一時期は目指されていました。私と初めて出逢ったころです。何かを忘れるようにたくさん、本当にたくさん斃されて……。
けど1位になったところでパタリとお止めになりました。『やって何になる』。記録保持では満たされないようです。すぐ当時
3位だった戦士・戦部にあとはテメェが好きにしろと言い捨てて、お止めに」
 あ、でもと短い手をパタパタしながらすかさずフォローしたのは恋心のせいだろう。
「その気になればきっとすぐにでも撃破数最多に返り咲けます。火渡様は、火渡様の火力は凄いんです」


 聖サンジェルマン病院:1階ロビー。

「クソッタレ。なんで病院に煙草売ってねェんだよ。わざわざコンビニ行く羽目になったじゃねえか」
 不条理なコトをいいながら自動ドアをくぐった火渡は苛立たしげに舌打ちをした。
(銀成の連中、いちいち下らねェ戦いに巻き込まれやがって。お陰で老頭児(ロートル)の救出、遅れるじゃねェか)
 本当ならすぐにでも引っ張っていきたいのだが、毒島や殺陣師の「幹部との戦いがありましたし、少しでも回復の時間を」
という申し出に押し切られ45分も留まる羽目になった。
(ま、老頭児がタッチの差でくたばる訳でもねェし、どうでもいいか)
 不条理な展開だが、そういう時ほど火渡は笑うようにしている。

 不条理が……嫌いなのだ。
 そして、好きなのだ。

 7年前、赤銅島で挫折を味わったのは、防人や千歳だけではない。
 才能を信じ、力なき者を救ってやれると信じていた火渡もまた大きな傷を負った。

 ブレイズオブグローリーは大いなる才能だ。戦団最高の攻撃力は伊達ではない。
 なのにそれを以てしても、小さな島の小さな小学校1つ守りきれなかった。

 世の中は才能のある奴が回している。
 自分には回す権利がある。

 自信と情熱のもと、数々の戦いに勝利してきた火渡は、当然赤銅島の島民も救えると信じていた。

 だが結果は違った。真向戦えば一瞬で蒸発させられる程度の雑多なホムンクルスたちに出し抜かれ、失敗した。
 それは彼の自尊心を大いに傷つけた。才能があると信じていた自分が、何の才能もない、子供のフリをしてドブネズミの
ように暗躍するほか能の無い連中に敗北した。直接戦闘で負けたわけではない。だが戦略目的において、戦士が守るべ
き人間達を、自分なら難なく守れると確信していた島民達を、ほぼ全員殺された。

(生き残ったのは津村斗貴子ただ1人。たった……1人だ)

(たった1人しか俺は助けられなかった)

 しかも火渡は一度、首謀者と逢ったのだ。ケガの演技にまんまと騙され、当時小学校教諭として潜入中の千歳の元へと
運んでしまった。千歳が治療のためにと出した核鉄から彼女の正体に感づかれ、そこから総てが狂っていった悪夢を思い
出す時、火渡の心に激しい後悔が蘇る。

 あのとき、自分が正体を看過していれば、と。

 常人なら無理だと首を振るだろう。だが火渡には才能がある。才能があるという強い自負もある。なのに……自分より
遥か劣る輩の演技に気付けなかったのだ。致命的な汚点である。才能を恃みにした者が、恃みに見合う明察を発揮でき
ず……敗けた。

(不条理だ)

 火渡は知った。力ある者が、才能ある者が、必ずしも勝てる訳ではないという世界の現実に。
 機会。立場。天運。人脈。そういった、才能とはまったく真逆の、何の煌びやかさもない要素が、火渡の好む、火渡その
ものである情熱的な輝きを雑然と蝕み壊していく。
 粗暴を気取るのは、そういった価値観に照らしてゴミと唾棄する代物たちに(才能を)侵されたくなかったからだ。
 火渡は、7年前以前からとっくに凡人の醜さを見抜いていた。圧倒的すぎる存在の足を引っ張り自分たちの場所に落とす
コトしかできない連中。常識だの倫理だのといった、人命救助の鉄火場ではクソの役にも立たないロジックで余計な制限を
作り火渡の輝かしい才能の舞台を汚そうとする老人ども。そういった連中には頑として抵抗し、噛み付き、屈服させて領域
を守るのが一番だと察していた。
0022永遠の扉
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2014/07/03(木) 21:29:17.18ID:i/vUI9gr0
 あまりに才能に劣りすぎるため作戦行動を破綻させ、火渡以外の従事者総て全滅に追い込みかけたコネ就職の中年の
みそっ歯の戦士長は、死傷者ゼロで敵を返り討ちにした後、再発を防ぐため藪に引きずり込んで殴り回し蹴り回し、戦士
生命が絶たれるのに充分な6ヶ月の重傷を与えてやった。照星から同じぐらいの傷を負わされたが反省はしていない。死
んでからでは遅いのだ。無能を1人許せば組織はそこからズルズル腐っていく。腐れば戦団は誰も守れなくなるではない
か。守るべき人たちの助けに即応できない組織を作るぐらいなら、殴られようが蹴られようが無能は絶対排除する。それが
火渡の正義だった。コネなどというつまらぬ機微で無能な指揮官を作った上層部の連中も数人殴り倒してやった。

 人の足を、引くな。

 戦団という組織にいるが他と協力するつもりはまったくない。総て自分1人に任せておけば無事決着するのだ。才能に劣り、
防人程度の努力もできず、できないから火渡との格差を埋める苦労を、口先三寸で回避せんとする連中など不必要なのだ。
 単騎の方がいい。才能ある人間は妥協してはならないのだ。妥協すれば無能な連中にいいように使われる。自分では何も
産めない輩どもは、いつだって金の卵を産むニワトリに群がるのだ。絞り尽くして使い倒して、価値がなくなればすぐ離れる。
恩恵にさんざ肖っておきながら、再生1つ復帰1つ手伝わないのだ。手伝え、ないのだ。

(そんな連中と仲良くニコニコ手ェつないで何になる)

 粗暴といわれ戦団から疎まれているが、火渡には火渡の論理があったのだ。
 共同体全員が、アジトに集結しているが、近くの球場で優勝の掛かった日本シリーズがあり、多くの人間が来るため攻撃
は明日に伸ばせ、錬金術を衆目の目に晒すなといった命令は、まさに試合観戦のため訪れた女子中学生が、目の前で両親
を昏倒させられ乱暴されそうになっているのを見た瞬間、絶対遵守すべき物ではなくなった。不逞の輩総て燃やしつくしたその
足で、「どうせすぐ気付かれんだ。やっちまえ」、球場近くのアジトを中にいた27体の構成員ごと蒸発させた。
 少女の貞操を守る。両親も助ける。害なす存在は一斉に殺せるうち遮二無二もなく殺す。火渡に言わせれば間違ってはいな
い。球場につめかける多数の人々が、火渡の武装錬金で蒸発する建物を見たとしても……それだけではないか。せいぜい事後
処理班どもが誤魔化しに苦労するだけだ。人は死なない。機を逃し連中を散逸させれば事件の数は今回の比でなくなる。
 件数だけでいえば多少人目につこうが一気に片付けた方が結果的には労力が省かれる。事後処理班などというのは凡人
の集まりだ。仕事を増やせば悲鳴を上げる。だから減らしてやったのさ……照星めがけ不敵にいい放つと、彼は少し笑って
から、強く殴った。

 そういう組織的な遠慮というのが若い火渡には我慢ならなかった。

 ホムンクルスは無尽蔵に生まれるのだ。少々の無茶を抱え込んででも、踏み込み踏み込み徹底的に殺しつくさねば、い
つまで経っても状況は好転しないではないか。

 遠慮。政治。慎重。そういった物を後生大事に抱え込んでいる連中ほど大層なコトはしていない。

 核鉄の保有数を7割以上にするコトさえできていないし、賢者の石に至っては2年後を目処に第何次のプロジェクトを開始
するための予算委員会を設置するといった、まったくお話にならない有様だ。

 そんな連中の要請などどうして受け入れられよう。

 無能どもにいいように使われ、彼らの得手勝手を叶えるためだけ設定された不合理に苦しみ、才能を満足に発揮できな
くなるのは……助けられる人間を助けられないのは……我慢ならない。
 火渡は、赤銅島以前の火渡は、己の才能をどこまでも信じていた。舞台さえあれば好きなだけ自分の才能を発揮し、最高
の成果を得て、力で劣る一般人を好きなだけ助けてやれると確信していた。

(なのに赤銅島じゃ、たった1人しか救えなかった)

(たった1人しか)

 火渡は知った。不条理を知った。

 どれほど才能を持っていようと、
 どれほどその純度を守らんと足掻いても、
 どれほど正しくても。

 それが常に罷り通るとは限らない。

 世界は質の低いもので絡めとり妨害してくるのだと。
 不条理にも、併存し続ける駆逐不可能な小悪が才能を覆すのだと。
0023永遠の扉
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2014/07/03(木) 21:29:42.70ID:i/vUI9gr0
 知った。

 錬金術という人の手に余る力の世界の戦いの中で、条理や合理といったモノが通用しない。

 分かっていた筈だった。屈服させ続けてきた筈、だった。

 なのにそんな姿勢さえ上回る世界の不条理が……敗北を呼んだ。

 火渡はそれに屈したとは思いたくなかった。才能が、たかがホムンクルスの姦計で敗れ去ったなどと思いたくなかった。
 なのに才能相応の頭脳は「負け」を明確すぎるほど「負け」として認識してしまう。
 何を唱えようと、何を持っていようと、敗者は敗者に甘んずる他ない単純だが残酷な真実を……悟ってしまう。

 当事者は捕らえた。死んだ。だが犠牲者は還ってこない。1人生き残ったが何だというのだろう。火渡の存在意義を揺る
がす空前絶後の大敗であるコトに変わりはない。

 防人にとって斗貴子は過去の希望だ。

 だが火渡にとっては、『不条理』だ。
 才能を以てしても数多くの犠牲を食い止められなかった『不条理』の象徴にしか見えない。

(アイツ1人助かったところで何になるっていうんだよ)

(他の大勢は全部死んじまった。死なせちまった。だのに津村斗貴子1人だけ生き残って、生き続けて)

(それが何になるっていうんだよ)

 死ぬほど辛い感情を引き起こすのに、それでも7年前はまだ、汚点として葬るほどの感情は湧かなかった。親友の希望
なのだ。殺せる訳がない。しかも彼女は火渡の力不足で親族も友人も、記憶さえも失っている。捕らえた西山が脱走して
顔に傷をつけてしまった負い目もある。そのうえ命まで取ろうというのは──少なくても7年前の時点では──考えられない
コトだった。
 にも関わらず斗貴子を見ると、土砂に埋まった校舎を思い出す。才能への絶対的な自負が激しく揺らぐ。存在そのもの
が自分を苦しめるのに、完全には消え去っていない誇りや自信が、斗貴子という何もかも失ってしまった「力なき者」を殺す
コトを強く強く制止するのだ。
 矛盾だった。不条理だった。どれほど逡巡してもそれは、払拭できなかった。

 だから……決めた。

 不条理と一体化して……生きると。不条理そのものになって……克服すると。


 そう決意し、7年前を切り捨てたつもりなのに。


 心の中にはずっと雨が降っている。

 屈み込み、苦杯と無念に牙を軋らせていたあの日の雨が。

 不条理だな。笑うと少し止む雨は、すぐにまた降り出してくる…………。


(照星サンにも指摘されたっけな。不条理って言い出したのはあの日以来だって)
 院内にも関わらず煙草を加えたまま歩いていく。火こそつけていないが甚だマナー違反だ。しかもやや猫背気味でポケット
に手を突っ込んでいる。そのうえ太眉ツリ目犬歯全開の顔付きだから到底カタギには見えない。先ほど訪れたコンビニの店員
は終始ガタガタ震えっぱなしであった。
(ケッ。防人のコト言えねェじゃねえか。結局俺もまだ引きずってやが──…)
 目の前に飛び出てきた小さな影に少し目の色を変えながら止まる。
「おにいちゃんのびょうしつ、おにいちゃんのびょうしつ、ドコ〜〜〜〜!」
 4歳ぐらいの女児だった。薄茶色のショートボブで、お団子が2つ所定の位置についている。困っているらしく大口開けて
天仰ぎ、わんわんわんわん泣いている。というか火渡に探して欲しそうに泣いている。
0024永遠の扉
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2014/07/03(木) 21:30:08.19ID:i/vUI9gr0
(…………うぜえ)
 火渡は子供が嫌いだ。大嫌いだ。才能とはまったく真逆の存在だからだ。何の力もない癖に他人に頼るコトを当たり前だと
ばかり甘えている。しかもそういう態度を叶えてやらなければ非情だとばかり周囲から叱責される。正論は通じない。泣かせば
全面的に火渡が悪となる。しかもそういう忌まわしい構図を漏らせば必ず凡人どもは「でもお前だって昔は子供だったぞ」など
という、凡人ならではの、何の感情問題解決にも繋がらないお決まりの文句をいかにも真理のように言う。
(そりゃガキだったがよ。すぐ泣いて周り頼るような腑抜けたガキじゃなかったぜ)
 出来不出来の問題を火渡は論じているのだ。彼は幼稚園の頃から既に小学生だろうが中学生だろうが気に入らなければ
ボコった。その戦いに比べれば道を覚えるなど楽勝すぎた。迷いそうな場所へ行く時は小石を山ほど抱えて目印を落とした。
 他にも難事があればまず自分でキッチリ考えた。だからこその才能だ。火渡は独立独歩の精神という教師を以て自ら英才
教育を施したのだ。
 そういう気概のない子供をどうして助けてやる義理があろう。

「どけ。俺は急いでるんだよ。もうすぐ出発なんだよ」
 凄む。女児は怯んだ。その横を悠然と通り過ぎ、火渡は階段を昇る。
(どーせ病院の中なんだ。看護士連中がそのうち回収するだろうさ)
 踊り場についた。まだ泣き声は聞こえてくる。2階に昇る。まだ泣き声は聞こえてくる。

 火渡は黙った。黙ってから顔に無数の皺を波打たせた。

──「火渡君はもうちょっと思いやりを持つべきだよ」
──「あ? うるせェよ。委員長かてめェは。穏便にやってちゃいつまで経ってもホムンクルスども全滅しねェだろうが」

 いつだったか千歳に言われた言葉が蘇る。恐らく赤銅島以前の泣き虫でトロ臭かった頃だろう。

──「本当は子供とか女のコには優しいのに、それじゃ損だよ」
──「ばっ……! 優しくなんかねェよ。あまりに非力だから助けてやらねェと勝手におっ死ぬから……仕方なくだよ」
──「意地張って。誤解されて傷つくのは火渡君なんだから。知ってるよ。悪ぶってるけど本当は繊細だって」

 言葉が蘇るのは、失明させてしまったせいだろう。
 もっと早く銀成に到着していれば、木星の幹部の奇策を真向から叩き潰せたかも知れない。かつての仲間が光を失わず
済んだかも知れない。

 そういう罪悪感が、贖罪の意識が、火渡らしくもない戦士らしい行動を取らせた。

(クソ!!)

 飛び降りるように1階へ戻る。そしてまだ泣いている女児の前に立つ。

「うるせェよ! ナースセンターぐらいにゃ連行してやるからいい加減黙れ!!」

 金切り声を浴びせられたにも関わらず、女児はパアっと笑った。

(だあもう。出発まで時間ねえって時に何やってんだ俺は!!)

 出発まで残り28:29。
 幕間の終わりまで、あと僅か。








 火渡はお団子頭の少女と共に、彼女の兄の病室を探し始めた。
「で、何階の何号室だよ」
 聞いてみるがそれが分かってるならそもそも1人で泣いたりしない。分からないの一点張りで、だから火渡はそれだけで
もう沸点に達するのだ。
(覚えてもねえ癖にうろつくんじゃねェよ。ったくこれだからガキは!!)
0025永遠の扉
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2014/07/03(木) 21:30:33.74ID:i/vUI9gr0
 とイラつき混じりに総髪をかき乱すが、そのくせ少女がぎゅっと手を握り身を寄せてくると毒気が抜かれてしまう。乱暴に
振りほどけない。かつて抱いていた「俺には才能がある、だから弱ェ奴を助けるのは当然」という気概が蘇ってきて、嫌々な
がらも同伴を続けてしまう。

(別に探してやる必要ねえだろ。こっちはあと30分足らずで出発しなきゃいけねえんだ)

 誰か病院関係者に押し付ければ済む。火渡はそう考えた。
 もっと言えば、銀成に残留する戦士の誰かを呼びつけて丸投げするのが最も手っ取り早いのだが──…

「……」
 泣き腫らした顔の少女と手を繋ぎ「コイツ迷子だ。兄の病室探してやれ」などと言えるだろうか。
(キャラじゃねェよ)
 火渡はあまり弱味を見せたくない。粗暴や暴虐の大半は生まれついての気質だが、何割かは自分を守るための演技な
のだ。才能という繊細極まるアーティスティックな領域を守るため「理に合わねェコトぐだぐだ言う奴はブッ飛ばす!」とばか
り肩肘張って背を伸ばしている。理を求めた結果ほぼ総ての同僚たちから「話の通じない不条理で恐ろしい人」とみなされ
ているのはなかなか皮肉な話だが、しかし望みどおりでもある。
 挫折を味あわせた不条理を捻じ伏せるには己自身も不条理と化さなければならない。
 合理も条理も通じぬ世界を相手にしているのだ。既存権益の保守に甘んじている上層部だの、身奇麗な格好でニュース
キャスター顔負けの丁寧きわまる問題提起”だけ”してくる輩だの、とにかく解決能力がない癖にそれゆえ大勢の同意を得る
コトには抜群に長けている連中の魔の手から人々を救うには、「手段さえ選ばなければ幾らでも助けられたのに、組織的な
グダグダのせいで見殺しにしました。取り返しはつきませんが遺憾の意と再発防止の励行で社会的責任は取ります」といっ
たどうしようもなく下らない事態を防ぐには、何もかも力づくで突っぱねる必要がある。

 世界を滅ぼしたいのではない。人命を救いたいのだ。だから戦士をやっている。

 火渡は非常な不満を抱き喧嘩せずにはいられない防人でさえ死なせたくなくなかった。「7年前のコトいつまでも引っ張って
るとそのうち死ぬぞ」とずっと心配していたし、なればこそカズキたちを焼き殺そうとした。彼らからすれば甚だ不条理な対
応だが、しかし戦団の目線に立ってみよ。カズキはヴィクターIII、ホムンクルス以上の存在になりうる少年だ。斗貴子や剛
太は戦団を裏切ってまで危険生物に肩入れする背徳者。もはや敵としかいえない連中に、認めてやまぬ親友が心を惹か
れ弱体化し……死ぬ。
 耐えられる筈もない。
 火渡にしてみればカズキたちの始末こそ正義だった。戦団も一般人も、双方の立場だけ箇条書きで提示されれば間違
いなく肯(がえん)じるだろう。大体、ヴィクターIIIという強大な存在になびいた斗貴子のような存在を、いちいち査問会にかけ
るのは組織腐敗の元ではないか。如何なる思いがあろうと関係ないのだ。「敵に寝返るヤツは如何なる事情があれ殺す」。
ただそうすべきなのだ。慢性的に核鉄が不足し、ホムンクルスが無尽蔵に湧いてくる現実の中だからこそ綱紀粛正を徹底し、
鉄の規律を敷かなければ、火渡のいう「自分より才能のない哀れな連中」は、自ら出した腐敗毒で自らを腐らせ死ぬだろう。
人命第一だ。だが1人2人の犠牲で大勢が助かるなら…………迷わずそうする。犠牲が反逆者なら尚更だ。
 まして、7年前奇跡のように生き残った斗貴子が、カズキに黒い核鉄を埋め込みヴィクターIIIを生んだなどというのは、ひ
どく因果めいているではないか。

(大勢くたばる中かろうじて1人だけ残った赤銅島の奴が化け物を生むのかよ。ヘッ。やっぱ不条理じゃねえか。やっぱり
7年前はスパっと切り捨てるべきだった)

(『1人だけしか助けられなかった』意味なんざ詰まる所その程度なんだよ。不条理は不条理しか生まねェ)

(だから俺は……力づくでそれをブッ倒す!!)

 そういう非情な決断を速攻で下せるようになるためにも、自分は不条理で、そして何より恐れられる存在でなければなら
ない……と火渡は思っている。
0026永遠の扉
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2014/07/03(木) 21:32:01.71ID:i/vUI9gr0
 なのに迷子の女児を保護しろなどと部下連中に言ってみよ。こんにちまで築き上げた不条理と恐怖の権化たる自分像が
瓦解してしまうではないか。どれほど凄もうが「でも火渡戦士長、子供には優しいっすよね」などと混ぜ返されたらそれだけで
もう指揮する部隊は……弛緩する。端的にいえば、『舐められる』。防人ならそれは「親近感」と呼ぶだろう。うまく使って部隊
全体の士気を上げ、凡才どもに限界以上の能力を発揮させるだろう。火渡は防人の、そういう自分にはない部分を内心認め
てはいるが、しかし「才能のない奴らが自分の存在意義を見出すためにやっている醜いあがき」とも思っている。
 ただ力と恐怖を以て、兵隊を従わせ、思うまま最大効率を弾き出す。
 それが火渡のスタイルだ。
 部下が非才ゆえに噴出させる意見など徹底的に捻じ伏せる。捻じ伏せるためには舐められる訳にはいかない。

 だから迷子を助けるといった行為…………決して他の戦士に見られる訳にはいかないのだ。

(1人に見られるだけで終わるぜ。どれほどスゴもうがよ、奴らは才能がねェせいでつまらねェ日々を送ってやがんだ。俺が
迷子助けるっつーのは滑稽だろうが。滑稽だからヒマしてる連中は大喜びで他に話す。口止めされてようが話しやがんだ)

 実際そういう経験がある。毒島だ。赤銅島事件の首謀者を捕縛したある事件で家族を亡くした彼女を戦団に連れ帰った
ところ凄まじく冷やかされた。「女のコは助けるんだ」。ふだん縮こまっている連中が意趣返しとばかりニヤついたのには
心底腹が立ったし辟易した。

(西山にいいように使われてた気象兵器の女同様、医療班のヘリに乗せりゃ良かったんだ)

 家族も邸宅も失くし打ちひしがれる毒島は、雨の中で泥を掴んで座り込んでいた。いつまで経っても動かない姿に火渡
が立腹したのは、自分の姿を見せられているような気がしたからだ。赤銅島で歯を食いしばり座り込んでいた惨めな姿の
再現を、その元凶が最後っ屁とばかり残していったような錯覚に囚われて、だから毒島を強引に小脇に抱え込んだのだ。

──「きゃっ。な、なにを……」
──「うるせェ。いいから黙って来い」

 怒鳴りつけてしばらく運んだ。雨が上がるころ彼女はやっと歩けるようになった。その頃になると恐々としながらも、騒いだり
はせず黙ってついてきた。特に会話など無かった戦団までのロードムービーが、女性戦士たちに囃される羽目になったのは、
体の前後をしばし弱火にしていたせいである。雨の中でくずおれて、しばらく雨中運ばれた毒島が、肺炎どころか熱1つ出さ
ず戦団までの100km近い行程を踏破できたのは、公共機関と公共機関の間の道のりを歩く途中、前を歩く火渡の猫背か
らずっと噎せ返るような熱気が漂っていたからだ。濡れていた服はみるみると乾いた。頃合を見計らったのか、彼は歩調
を露骨に遅くした。毒島は目的地が近いのかと一瞬思ったが、不機嫌そうに振り返って前めがけ顎をしゃくる火渡の姿に真
意を悟った。彼の前に出ると背中に温風が漂った。服は総て、乾いた。そしてまた前に行った火渡が、体幹の凍えを取り
去る熱を……といった無言の道中を聞かされれば話好きな女どもは騒ぐだろう。まして頬染めつつ語る毒島を見れば、尚。


 とにかくそういう経緯がある。

(このガキ連れてウロウロしてるの見られたら面倒くせぇコトになるぞ)

 つまり火渡は──…

 出発までの30分弱の間に。

 戦士ならびに音楽隊の面々に見られるコトなく。

 迷子を目的地に送るか、病院関係者に引き渡す必要がある。



 残り23:47

「チクショウ。こういう時に限ってどこにも看護士連中いやがらねえ」
 連れて最上階(5階)まで昇ってみたがナースセンターは悉く蛻の空だ。
 ひとまず3階に降りて来ていまに至る。
0027永遠の扉
垢版 |
2014/07/03(木) 21:32:26.64ID:i/vUI9gr0
 そういえばと思い出す。確かいまは決戦前、後方支援たる医療班たちも何かと忙しい時期なのだ。いずれ来たる戦傷者
たちを捌くための下準備に数日前から忙殺……とは毒島から聞いた情報だ。そのうえ急遽収容した、演劇発表における武
装錬金発動者たちの世話もあるしパピヨンの手当てもある。地下50階まである病院だから、人員はほうぼうに散っているの
だろう。
(そーいや1階の受付も空だった。だから泣いてるこのガキ放置してたって訳か)
 病室を見て回れば1人ぐらい通常の看護をしている医療従事者に出会えるかも知れないが、時間はあまりない。
(ケータイは……クソ。そーいやタバコ買いに行くとき、メガネの看護士に取り上げられてた。出発のとき返すとか何とか)
 病院内での携帯電話のご利用はご遠慮下さい、機器への影響がうんたら……そんなプレートを恨めしそうに睨む。
 その横にピンクの公衆電話を見つけたが──…
(小銭もねえ!! さっきタバコ買うとき使っちまった!)
 ナースセンターの電話は内線専用。(なんだこの糞仕様!!)。いろいろどうにもならなかった。

 そもそもだ。火渡は才能ゆえに疑惑を感じた。

(まさかとは思うが、このガキ、レティクルの幹部とかいうオチじゃねえだろうな。木星の幹部が銀成に潜り込んで理事長
やってたんだ。俺らの出発遅らせるなりヘリ爆破するなりのため俺へ……)
 過去すでに赤銅島で西山に欺かれているから、つい疑ってしまう。一番いいのは衣服を剥ぎ取り章印の有無を確認する
コトだが、さしもの火渡も逢って間もない女児をひん剥くほど不条理ではない。万一人間で、しかも知り合いに見られたら
性犯罪者の烙印を押され軽蔑される。世間は厳しいのだ。いかに才能があろうと性犯罪は許されない。
(なんで女のガキなんだよ。男のガキなら問題なく確認できるってェのに)
 イライラしながら女児の顔を眺める。特に苦痛はなさそうだ。手を強く握りすぎて怪我をさせたら大変だ、加減には細心
の注意を払う。
(別に優しくしてる訳じゃねェよ。俺の握力に耐えられねェほど弱いガキだからな。才能ある俺が折れないよう計らってや
るのは当然!)
 得意気に笑うと、不思議そうに見上げていた女児も釣られて笑った。静かになって同調するとさほど不快でもないらしい
……子供という物への感情を少しだけ緩めた火渡。彼女の兄の病室か病院関係者を求めて歩き出す。

(いやなんでコイツが人間って前提で笑ってんだ俺は!! 違うだろ!! まだホムじゃねえって確定してねえだろ!!)

 もっともだった。



 残り21:43


「私…………パピヨンさんの……声……聞くと……勇気……湧きます……。声だけに……勇気が……」
「知るか。というかついてくるな!!」
 無銘は3階の廊下を歩いていた。
「なぜ……ですか」。問いに少年忍者は少し頬を赤らめた。
「厠へ行くのだ。介添えはいらん。1人でできる」
「そう……ですか……」
 トイレが見えた。すりガラスが上半分にまぶされたサッシ製の扉で外界と隔絶している。
 無銘は男性用に入った。鐶も続いて入った。鐶が追い出された。無銘は彼女の肩を右手一本で抑え青息吐息。

「なぜ来る!!」
「無銘くんの……左手の……代わりに…………。その……興味あるお年頃……なので……」
 鐶はちょっと赤い。涎も若干たらしている。
「小用だ! 右手だけでできるわ!!」
「え…………。でも……チワワだった頃は……お散歩の時…………おっきいほう……始末したじゃない……ですか」
「黙れと!! きさ、貴様な!! 貴様のそういう屈辱的な行為が我のイソゴやグレイズィングへの憎悪を加速させていると
なぜ気付かん!!!」
 怒鳴りつけた無銘はバタンとドアを閉じた。鐶はなおも開けようとするが、兵馬俑が向こうに現れたようだ。強く抑えられ
入室はできない。
「あーー。あーーーー……です」
 気の抜けた声でドアを揺する少女に「ゾンビごっこはやめろ!! 落ち着かん!」と怒声が刺さる。
「じゃあ……私…………先に戻ります……ね」
「!! 馬鹿っ!! 貴様ひとりでどっか行くのはやめろ!! 決戦前だぞ!!」
「むぅー。また…………方向音痴呼ばわり……ですか……。私……違う……ですよ……。風のあの人じゃ……あるまいし……」
 とにかく終わるまでそこに居てくれ。悲痛な叫びの意味するところを勘違いしたのか、鐶はぽうっと頬を染めた。
0028永遠の扉
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2014/07/03(木) 21:32:57.70ID:i/vUI9gr0
「む、無銘くんが……待ってて欲しいなら…………います……ずっと」
「そうか。よかった」
「そう……です……。もうすぐ出発ですし……私も……済ませた……方が…………」
「待つという話はいずこに!!?」

 女性トイレのドアを開ける鐶。



(馬鹿オイてめえ何で入ってくんだよ!!?)
 個室の中で火渡は怒りと動揺に赤黒くなっていた。

 あらましはこうである。女児がトイレへ行きたいと言い出した。子供ゆえ我慢はできない、宥めても無駄なので、手近な所
へ飛び込んだ。本当は外で待ちたかったのだが、彼女が傍に居てとグズったのでやむなく入った。だが流石に個室に2人
というのはアレなので、そのドアの前で、耳塞ぎつつ待っていた。鼻の辺りは火炎同化、臭い成分を焼いたのでノーダメージ。
 そして女児が個室から出てきた瞬間、鐶たちがやってきた。「今出るのはマズいな……」。戦士どころかホムンクルスに
迷子連れを見られるのは沽券に関わる。ひとまず去るのを待つコトにしたら……鐶が、入ってきた。ノブが回った瞬間、個室
に少女と2人して飛び込んだのは流石歴戦の戦士長といった所である。

 とにかく状況は最悪といえた。まず女子トイレに潜んでいるというのがマズイ。次に個室の中で年端もいかぬ少女と2人
きりというのもアウトだ。しかも鐶が来て使用しかけている。液状か固形か分からないが──トリ型だから両方混ざってん
のか? などと火渡は余計なコトを考えた──とにかく何がしかの危険物が、2つしかない和式の個室の隣で日をおかず
投下されるのは想像に難くない。ホムンクルスといえど、最近妙に馴れ合っている感じの銀成戦士どもは、少女たる鐶の
爆雷発射の模様を壁一枚向こうで拝聴した火渡を倫理観なき獣と侮蔑するだろう。

(津村でさえちぃっとばかり態度を和らげていたからな。ざけやがって。ヴィクターIIIといい節操がねェ! 赤銅島の生き残り
がホムンクルスと馴れ合ってんじゃねェよ!!))

 八つ当たり気味に思いながら、大きな掌で少女の口を押さえながら、火渡はダラダラと脂汗をかいた。
 鐶の足音は確実に近づいてくる。

(フザけんな! なんでいまココでするんだよ! どっか行けってんだ!! おっぱじめたら殺す! 壁焼いて蒸発させる!
来るな! ぜってぇ来んな!! 盗聴なんざ趣味じゃねえんだよこっちは!!! 来るな来るな殺すぞ!!)

 いよいよ鐶の隣の個室に足を踏み入れ──…


「ウチクダケー」


 機械的な歌声がした。どうやら携帯の着信音らしい。果たしてそれを取った鐶は、数語のあとトイレを出た。


(助かった。てか携帯禁止じゃねェのかよ。ま、どうせ方向音痴だから念のため持たされてんだろうけどよ)


 ホッとしながら女児ともども個室を出ると、トイレのドアがガチャリと開いた。


(!!)

 見られた! 今度こそおしまいだ!! 7年前や防人が炎に消えた時にも匹敵する絶望に泣きかけた火渡の耳を、聞き
慣れたくぐもりが叩いた。


「火渡様。お迎えにあがりました。事情はだいたい把握しています」


 彼女はガスマスクだが、しかし高貴なる騎士に見えた。
0029永遠の扉
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2014/07/03(木) 21:33:23.18ID:i/vUI9gr0
.



 残り17:56

「つまりてめェは便所に俺たちが消えるのを見たが、そこに犬型どもが来て入るに入れなかったと」
 そして鐶の入室を見るや携帯に電話。とある要件によって引き離した。方向音痴だが無銘がすぐに追ったので大丈夫と
のコト。
「つか何の電話したんだよ? トリ型えらい勢いで走っていったが」
 軽い気持ちで聞いた火渡だが、毒島の言葉に少し曇るコトとなる。

「戦士・千歳の両目の耆著、年齢操作で除去できないかと打診してみました」
「…………無理だろ。お前だって絶対できるとは思ってねェだろ。あくまであのトリ型引き離すための方便ってだけだろ」
 火渡は俯き加減で呟いた。
「年齢操作ってのは斬りつけた対象にしかかからねェ。そりゃただの失明なら治るだろうよ。1年だの2年だの前の千歳に
すりゃあまず治る」
 けどよ。火渡はいう。洞察力はあるのだ。剛太との戦いの時だって彼の目論見を即座に見抜いた。自負に足るだけの頭
はあるのだ。
「失明をもたらしてんのは木星の幹部の武装錬金だ。千歳が若返ったとしても変わらねェよ。何にも。耆著(きしゃく)とか
いう武装錬金が目ン玉に残ってる限り、何歳になろうが失明は治らねェ」
 ならば耆著の方を斬りつけて破壊すればいいのだろうが──…
「それもできねえってのは、他の対策が通じないの分かった時から察しついてんだろ」
「ええ。イオイソゴとの戦闘中、あの耆著は確かにエネルギー攻撃やシークレットトレイルの特性で排除されていました。
ですが戦士・千歳に打ち込まれた耆著は、検査によれば、眼球の奥、視神経乳頭の辺りに刺さっているそうです」
 場所が場所である。エネルギー攻撃で耆著を破壊したとしても、眼球が元に戻った瞬間、エネルギーの余波が内部で炸裂、
完全な失明をもたらす恐れがある。シークレットトレイルにしてもそれは同じだ。亜空間への出入りの際、それなりの衝撃と
光波が起きる。術者たる根来が試しもせず逐電したのはそのせいだ。更に脳への影響さえ考えられる……というのが聖サ
ンジェルマン病院の医師達の統一見解だ。
 同様に、クロムクレイドルトゥグレイヴを刺して壊したとしても……その瞬間に眼球は磁性流体から原型に復帰。キドニー
ダガーが刺さった状態になり……失明。
 除去不能だ。そうなるコトを見越してイオイソゴは眼球の奥深くにまで耆著を差し込んだのだろう。
「エンゼル御前の鏑矢でも引き受けるのは不可能。一種の欠損状態と見なされているようですし……」

 まったく敵の思い通り。火渡は忸怩たる、恥ずべき思いだ。才能を謳っておきながら、仲間1人助けられないでいる。そも
そも照星だって長らく囚われている。
 世間にはそういう、火渡個人の才覚で覆せないコトがあまりに多すぎる。だから今は「才能」より「不条理」を実感するコト
の方が多いのだ。
 だがそれは迎合のような気もする。不条理そのものになって乗り越えるという考えは結局、自分の才能で何もかも捻じ伏せ
ようとする気概の欠如なのではないか、自分が見下している非才どもが、「どうにもならない、仕方ない」と妥協し現実を受け入
れるような、”ありきたり”の考えなのではないかと心の片隅で思わないコトもない。

「ところで彼女の体、略式ですが検査完了しました。人間のようです。章印は見当たりません」
 女性だから女児の肌を見ても何ら問題ない。千歳の件を報告しつつ調査も行っているのだから、なかなか立派なものである。
(トリ型への対処といい7年前に比べりゃ随分マトモになったじゃねえか)
 かつての千歳に輪をかけたような泣き虫が、今ではすっかり副官だ。自分の顔にさえ自信を持てない、才能とは真逆の劣等感
の塊だが、それでも努力を重ねて火渡と同じ場所にくる姿勢は買っている。
(あ。そーいやコイツ防人と同じタイプだな)
 ガスマスクの武装錬金を手に入れてからこっち彼女は勉強漬けだ。化学や毒ガスの知識を1つでも多く増やさんとヒマさえ
あればそのテの調べ物をやっている。机に突っ伏す素顔の彼女に毛布をかけてやったのは数知れずだ。

 そんな毒島は、迷子の女児と火渡を見比べながら呟いた。
「あとは私が彼女を、銀成残留組へ引き渡せば特に問題なく片付くかと」
「毒島。俺はてめェのそういうトコを買ってんだ。よぅく分かってんじゃねェか」
 豪快に笑いながら遠慮斟酌なく肩を叩く。彼女はやや当惑したが、満更でもないらしい。真鍮色のガスマスクがほんのり
朱に染まった。排気筒からは煙。
「ヘッ。一応助かったからよ。礼は言っておくぜ」
「そんな、恐縮です。火渡様のお役に立てただけで満足、ですから」
0030スターダスト ◆C.B5VSJlKU
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2014/07/03(木) 21:34:04.35ID:i/vUI9gr0
 火渡は能力も相まって毒島を重んじている。時々灰皿を投げたりもするが、火炎同化に気体調合というしつらえたような
相性の良さは戦団最強タッグの呼び名も高い。2人合わせて 『華焔(はなほむら)』……そう呼ばれるコトもある。明治初期
の新吉原の昼三(当時の遊女の最高位)の絢爛さにあやかっているのだ。

 さて毒島は自分が女児を保護したコトにし秋水たちに引き渡すつもりだ。
 されば火渡の対面も守られるだろう。
 万事解決。と思われたがしかし、迷子は何事か察したのか火渡の後ろに回りこみ……袖を引く。

「や、やだ。ぱぱといっしょがいい。ぱぱとびょうしついきたい。ぱぱみたらおにいちゃんもよろこぶ……」
「パパ!?」
 男性なら誰しもドキリとする単語。あの時? いやまさか酒で記憶が飛んだあの夜に!? といった覚えは特に無い火渡
──才能があるからこそ、それを縛りかねない家庭建造は最大限敵視している。火遊びは好きだが一夜の遊びで終わる
ようケジメをつけている。生物学的に見て絶対大丈夫な対処を常に取っている──火渡でさえ慄く中、毒島はあくまで冷静
に分析した。

「なるほど。火渡様とあなたのお父様が似ておられるという訳ですね」
「毒島てめェ理解早すぎだろ」
「…………そ、そうじゃないと、ショックすぎますし……」
「あン?」
 蚊の鳴く様な声で何やらいった毒島に首を傾げる。


「ぱぱ。いっちゃヤだ。ぱぱ。ぱぱ……」


 泣き出す女児。火渡は心底困ったように顔をしかめた。


「いかが致します火渡様。私の武装錬金なら後遺症なく麻酔をかけられますが……」

 さらっと恐ろしいコトをいう毒島にいろいろ突っ込みたくなったが、盛大な溜息と共に難しげに答える。

「うまいコト解決してやらねェと、こいつ後で俺の人相触れ回るだろうが。トイレ連れ込まれて記憶飛んだとか言われてみろ。
すっげえ下らねえコトになるぞ」
「では」
「ったく。これも不条理か。俺が探してやるしかねェだろ。このガキの兄貴の病室」

以上ここまで。
0031永遠の扉
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2014/07/05(土) 16:30:08.68ID:NyN080pd0
「垂れ目垂れ目、ぶそーれんきんの出し方教えるじゃん、教える!!」
『こら香美!! 頼む時はちゃんと剛太氏の名前を呼ぶんだ!!』
「どっちもうるせえ!! つかもう諦めてるっての!」
 ネコ型が名前覚えられるワケがねえ!! 騒ぎながら通り過ぎていく剛太たちの後ろで薬品倉庫の扉が開いた。

(クソッタレ!! さっきの犬型どもといい、なんでこうも遭遇すんだ!!)
(最後の自由時間ですから、色々羽を伸ばしたい、とか)
(おにいちゃんのびょうしつ、どこぉ〜〜〜)

 火渡と毒島、そして迷子の少女はゾロゾロと脱出。出発まであと……15:32。短いスパンでの脅威のエンカウント率で
ある。

「とにかくあと10分程度で探してやらにゃあ……」
 頭を掻きながら歩いていると、角で思わぬ人物と遭遇した。

「お。火渡か。丁度良かった。このコ見かけなかっ──…」
 一葉の写真を差し出すツナギ姿の防人に火渡が(よりにもよって一番見られたくねえ奴に!)と顔を歪めていると、「ブラ
ボー」、聞きなれた感嘆が耳朶を叩いた。
「なんだとっくに保護していたのか。流石だな」
「は?」
 予想外の物言いに白黒する目はしかし見た。写真。かつての同僚が差し出す写真はお団子頭の少女で、つまり間違い
なく火渡が連れている女児だった。
「このコの兄が、なかなか戻ってこないこのコを心配していてな。だから全員で手分けして探していたんだ」
「なるほど。だから戦士・剛太や音楽隊がウロウロしていたんですね。私が聞いてないのは火渡様を探していたから……」
 ポンと手を打ち納得する毒島だがしかし火渡は収まらない。
「なんで戦士が総がかりで迷子捜してんだよ!! フツーそういう話は病院(ココ)の連中にいくだろうが!!」
 なんでも何も。防人は目を細めた。
「このコの兄のいる場所だが」
「……なんだよ」


「千歳と同室だぞ?」



 残り11:59。


「ゴメンなさいね。つい見かねて防人君に頼んでしまって」
「別に」
 ぶすっとしながら椅子を引き防人の傍にやる。ベッドの上の千歳は相変わらず目に包帯。やはり鐶の年齢操作でも回復し
なかったらしい。
(分かってはいたがよ……)
 例えこの失明はブレイズオブグローリーでも治せないだろう。耆著を焼けばその瞬間戻った眼球が焼き魚よろしく白濁して
光を失う。戦団最強と目される攻撃力を以てしても救えない現実を見ると、火渡の胸は燻った黒煙に彩られる。
「…………」
 防人も同じらしい。火渡と違うのは、すぐ傍に救いがあるコトだ。斜向かいで再会を喜び合う幼い兄妹。泣きながらも笑っ
ている彼らが、彼らの声に穏やかな微笑を浮かべる千歳が、現状の中で数少ない救いだった。
「お兄さんの方だけど」
「あン?」
「難病らしいわ。簡単にいえば……人間だった頃のパピヨンと同じ病気。免疫力が徐々に低下して死に至る病気」
「……そして、まあ、この病院に居るのを見れば分かると思うが」
 火渡は苦虫を噛み潰したような顔になった。(もったいつけられなくてもとっくに分かってるよ)。戦団御用達の病院に入院
する患者。それを見舞いに来る親族。答えなどとっくに弾き出していた。
「あのガキ共の父親、ホムンクルスか何かに殺されてんだろ」
 防人の顔にフッと影が差した。答えはそれだけで充分だった。親族を助けられなかったせめてもの償いが治療という訳だ。
「ケッ。久々に3人雁首つき合わせたと思ったらシケた話かよ。7年経ったってのにどっちも変わっちゃいねェな」
 正直つきあい切れない。出発だって迫っている。火渡は踵を返した。
「なんだ。もう行くのか」
「まだ10分あるわよ。防人君と気まずいの分かるけど、だからこそ話ぐらい」
0032永遠の扉
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2014/07/05(土) 16:30:34.11ID:NyN080pd0
「…………うるせェよ。話したところで体が戻る訳でもねェだろ」
 病室の外めがけ歩き始めたとき、意外な伏兵が立ちはだかった。
「ンだよ毒島。てめェまで防人たちと同じコトぬかすのか」
 小柄な影が手をめいっぱい広げて進路を防いでいる。舌打ちしながら睨みつけるが、彼女は軽く震えるだけで動かない。
「その……火渡様は、大変賢いですが、だからこそご自分の判断と一致するものしか相手が描いていないと思われる傾向
があるというか」
「あ?」
「防人戦士長を焼いてしまった件、きっとお2人とも責めていない筈です。私なんかとは比べ物にならないぐらい火渡様を
ご存知なのですから、ああするに至った心情や、ああしてしまった後のケアとか……とっくに気付いておられる筈です」
「…………」
 普通なら責めるだろう。過失とはいえかつての仲間を危うく焼き殺しそうになったのだ。普通だからこそ火渡は、甘んじて
受け入れるつもりだった。口先で何を言おうが防人の体はもう戻らない。なら勝手に恨めばいい。それに第一、再殺対象と
造反者を守ろうとして身を投げ打つ防人には決して埋められぬ溝も感じている。『その気になりゃあ俺の炎さえ防げる武装
錬金持ってやがるのに』、理解しがたい動機でそれを放棄し死地へ行った朋輩。コイツはどこまで行っても7年前を引きずる
のか……引きずった挙句死ぬのか……。そうさせない為にカズキたちを攻撃した火渡の意思、「多少の痛みを味あわせて
でも死なせない、死なせたくない」という心情をまったく無視した防人にはつくづくと腹が立っている。だから謝らない。謝る
つもりがなくて、しかも先方が恨んでいると考えるのなら、話すらしたくないのは当然だろう。火渡は天才型だ。何を言っても
口論になるだけ、そう見放した会話は絶対にしない。
 なのに毒島は、防人や千歳が恨んでいないという。どころか動機も見抜いて、火渡なりの埋め合わせ──ムーンフェイス
脱獄後に、防人を護衛する戦力(剛太)を間髪居れず送った──さえ気付いているという。

「随分と遅れたが、戦士・剛太の件、感謝している」
 彼がいなければ乗り切れない戦局が沢山あった。軽く頭を下げる防人。
「そうね。なんだかんだ言っても火渡君、防人君のコト大好きだから」
 千歳はちょっとからかう様な声音で笑う。火渡の口から煙草がポロリと落ちた。

「ばっ!! 誰が防人なんざ好くかよ!! 気持ち悪ぃコト抜かすんじゃねェ千歳! 殺すぞ!!」

 非才にも関わらず努力で自分以上の強さに達したところは認めている。雑多な世間の事情をうまく捌ける柔軟性も自分に
はない強さだから一目置いている。どれほど挑発しようと小馬鹿にしようと関係が壊れない貴重な相手でもある。
 けどそれだけだ。好きとかそういうのじゃ……。
 と、赤くなって叫んでいると、毒島が身長の6割ほどあるパイプ椅子をドッコラショと持ってきた。
「このまま立ち去ると今の言葉、認めてしまったコトになりますが、いかがします?」
「毒島てめェハメやがったな!!」
 殴ってやろうかと思ったが、しかし不条理と同化する気質はむしろこの状況を肯定した。
 どうせ逃げられないなら防人に抱き続けている文句総て吐き出してやろうと思ったのだ。

 1分30秒後。

「…………だいたいテメェ、今さら重ね当てなんざ練習して何になるんだよ。さんざ失敗してきただろうが」
「だが俺は子供達と触れ合ううち、少しずつだが糸口をだな」
「ハッ! 二言目にはガキガキガキ。そもそもシルバースキンすらとっくにディプレスとかいう火星の幹部に破られてんだろう
が! そういう野郎相手にするときゃあガキなんぞ足手まといにしかならねェよ!」
「ならない。守ってみせる。万一ディプレスと戦う羽目になっても……対処は既に練っている」
「どうせ下らねェ発想だろ。昔からテメェは下らねェコトにばっか労力注ぎ込むんだ」

 飲み屋で会話する兄ちゃんみたいなテンションの火渡に毒島はちょっとキュンキュンしていた。
 強面でガタイがよく、上半身は上着一枚。引き締まった筋肉とよく焼けたメラニン色素の濃い肌。ゴツゴツと節くれだった
手の甲。なよなよした乙女なればこそときめく男性要素の満載ぶりには常日頃どきどきしている。その火渡が、防人相手だ
と羞恥を湛え、慌てふためく。凶悪な顔付きとかけ離れたギャップに毒島はときめいて仕方ない。斗貴子にデレデレする剛太
の気持ちがよく分かった。

「はァ!? やっぱ下らねェ発想じゃねェか!」
 金切り声にハっと現実に立ち戻る。火渡にほわほわしていたせいで聞き逃したが、どうやら防人がディプレス対策につい
て語ったらしい。
0033永遠の扉
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2014/07/05(土) 16:31:00.37ID:NyN080pd0
「いや、強力すぎる武装錬金特性だからこそ成り立つ。重ね当ての原理からも錬金術の原理からもきっと通じる」
「成功したらだろ! 分かってんのか! しくじったら死ぬぞてめェ!! 重ね当てで仕留め損ねたら間違いなく死ぬ! 分解
能力の餌食になってくたばる!!」
(……いったいどんな攻略法なんでしょう)
 聞き逃したのがちょっと悔やまれた。好奇心というより、火渡が何に怒っているのか分からないのが少し寂しい。共有でき
る感情はなるべく共有したいのだ。かといって今さら口を挟むのも憚られる。天才と自負する男ほどクチバシを嫌う。横合い
から挟むなと激怒する。

 とにかく火渡は謎の新技の危険性を指摘している。言い換えれば──…

「もう! 勝手に歩いたら言ったでしょ!! お母さんすごく心配したのよ!!」

 斜向かいから聞こえてくる声。迷子だった女児を叱りつける母親の声。火渡の防人に対する文句はつまりそういうニュア
ンスだ。要するに焼いてしまう以前からずっと一貫しているのだ。心配で仕方ないのだ。

「火渡君過保護ね。防人君だって大人なんだから、きっと成功させるわよ」
「るせェ! 任せられる訳ねェだろう!! トチったらこいつどうせガキどもの為に命投げ出そうとしやがるんだ!! いつも
そうだ!! シルバースキン持ってる癖にいざとなったらてめェは二の次!!」
「ほら、もっと自分を大事にしろって言われてるわよ。防人君ももうちょっと考えないと」
「そうだな。カズキにも似たようなコトを言われたし、これからは俺自身も助かる道を」
「なんでそこでヴィクターIIIが出てくんだよ!!?」
 毒島の腹筋は死んだ。(火渡様キャラ崩壊してます)。少女漫画によくいる素直になれない系男子状態だった。ヒロインに
イケメンライバルを引き合いに出され怒る素直になれない系男子と火渡は化していた。
「ずっと前から心配してる自分より逢って間もない戦士・カズキの言葉を受け入れるのか、そう怒ってるのね」
「千歳てめェ、千歳てめェさっきから何だよ!!?」
 凄むがどこか抜けている。そもそも今の彼女は盲目なのだ。表情による威圧は意味をなさない……火渡ならそれ位わかり
そうなものなのに、睨むのだ。
「火渡君が素直にならないからよ。繊細な癖に情熱的で直情径行。根は防人君と似た者同志。不器用でウソをつくのが下手
で。なのに意地張っても無駄よ。何考えてるかなんて丸分かり」
 戦団最高の攻撃力を持つ男は、椅子の上で組んだ右大腿部の上で頬杖をつき目を背け、やや決まり悪げに
「知ったような口聞くんじゃねェよ」
 と言った。
「わかるわよ」
 しっとりとした声音が千歳の薄紅色の唇から漏れた。
「かつて一緒にチームを組んだ仲だもの」
 火渡は言葉に詰まった。防人は瞑目した。毒島にはそれらが鎮魂に思えた。『照星部隊』。かつて3人が属していたチー
ムで、今となっては7年前の罪の証。きっと3人ともなるべく触れたくない名前なのだろう。
「それに……前から言おうと思っていたけど、火渡君、私を責めたコトないでしょ」
「…………」
 責める、というのは西山に核鉄を見せた件だ。傷に苦しむ無邪気を装うホムンクルスにコロリと騙され核鉄治療を試みた
のは、無邪気な千歳が冷然たる大人の女性に変貌せざるを得ないほどの大失態であり後悔だ。大惨事の責は自分にある
……学校を飲み干した土石流の上で彼女はずっと泣きじゃくっていた。
 火渡がそういう彼女を責める気にならなかったのは、組む前から理解していたからだ。「コイツはきっと失敗するな」。才能
がなく、しかも情に弱く涙もろいところがある少女の危険性は逢ってすぐ見抜いた。見抜いた上で、ヘルメスドライブの利便性
や潜入への適性、弱い故がの怪しまれなさを天秤に賭け、自分自身で判断した。

──(弱ぇ奴のミスをカバーしてやんのも才能のある奴の義務だろ)

 千歳がしくじってもその5倍10倍の敵を殺せば帳尻は合う。そう考えた上で照星部隊というチームを組んだのだ。
 だから彼女のせいで失敗を抱え込んだなどと責めるつもりはない。自分の見込みの甘さが招いた原因だ。もっといえば
千歳のミスを覆せるほどの才能が自分になかったせい…………決して認めたくない事実だが、結果が総てだ。そもそも
彼女の元に西山を運んだのは他ならぬ火渡自身。それらの要件を総合すれば千歳を責めるなどという格好悪い選択肢は
絶対にありえない。
0034永遠の扉
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2014/07/05(土) 16:31:25.69ID:NyN080pd0
 これが火渡の審美眼に賭けて「組むに値しねェ」輩どもが勝手に擦り寄ってきてやらかした仕業なら血ヘドを吐くまで殴り
まわして二度と視界に入らないようする所だが、一度とはいえメリットを感じ、才能を以てデメリットを埋めると決めた相手の
失態とあればそれはもう任命責任、火渡の中では責任総て自分に帰属させるべき事柄だ。
 そういう一種の度量をして火渡は戦士長という一団の長を任されるに至ったのだが、本題ではない。

「てめェを責めたって仕方ねェだろ。そもそも俺は防人と違うんだよ。7年前のコトなんざとっくに割り切ってる。責めるって
のはその反対だ。する意味がねェ」
「本当素直じゃないわね」
「だな」
 千歳も防人も微苦笑した。
 戦友だからこそ分かる何かがあるようだ。毒島はそういうのを羨ましいと思う。
(照星部隊。かつてお三方のいたチーム。……再び結成されるコトはあるんでしょうか)
 内心でかぶりを振る。毒島以外の誰もが過去を引きずっている。断ち切る覚悟がつかない限り、再結成はないだろう。そ
して火渡も防人も千歳も断ち切るのは容易ではない。数多くの人間を救えなかったのだ。割り切れと言う火渡自身、ずっと
割り切れないものを抱えているのを毒島は知っている。
(私なんかじゃ……あの事件の後に、あの事件があったからこそ出逢った私なんかじゃ、何もできない……でしょうね)
 照星部隊と自分の間を隔てる壁の高さにいつも落胆している。だからせめて雑事や補佐ぐらいはと非才ながらにあがいて
いる。火渡は命の恩人だ。家族から虐げられていた自分に初めて優しくしてくれた人でもある。無言で背中を燃やし濡れた
衣服を乾かす彼は、決して素直じゃなかったし一方的で分かり辛くて、当惑した。それでも、崩壊した毒島の家から戦団まで
の道中、虐げるようなコトはしなかった。飲食店があれば連れ込み万札を握らせメニューをほうり捨て後は黙っている……
そんなコトばかりしていたのだ。戦士になってからは凄まれたり物を投げられたりと周りの戦士が引くほどの扱いを受けてい
るが、才能ゆえの癇癪だと割り切っている(むろん最初の頃はいろいろ落ち込んだが)。ロマンチックな言い方をすれば、
運命の人なのだ。出逢ったのも運命なら、武装錬金の相性の良さも運命。火渡に尽くすコトが天命であり生きる道だと思って
いる。

「とにかく」
 火渡は席を立った。もうすぐ出発の時刻……気付いた毒島も慌てて立ち上がる。
「てめェの体のコトについて謝る気はサラサラねェ」
「分かっているさ。俺が決めたコトだ。子供たちを守るため死さえ覚悟していた。命を拾っただけでもマシと思っている」
『安心したいがそうするとなし崩し的に、まったく相容れない防人の信念を認めてしまい、7年前を引きずるコトを肯定し
結果防人をかねないので、その辺の予測に対し立腹した』実に複雑極まる天才的心境のわななき。火渡の頬に浮んだ
ニュアンスはそれである。
「てめェは本当救えねェ馬鹿だ。焼かれて殺されかけて二度と元通り戦えなくなったってのに、まだ7年前のコト引きずって
ガキ共どうこう吐かしてやがる。心底気にいらねェ」
 だから。彼は言う。
「ディプレスとかいう野郎と戦う羽目になったら……俺を呼べ」
 防人はやや面食らい、千歳は微笑む。
「任せりゃ勝手にしくじって勝手にくたばるんだ。俺にやらせろ。いいな」
(負わせた傷の分ぐらいは働いてやる、そう仰りたいのでしょうが……伝わり辛いですね)
 よっぽど防人を死なせたくないらしい。そんな雰囲気を感じ取った毒島たちがちょっと生暖かい視線を這わすと火渡は
若干狼狽した様子で怒鳴った。
「勘違いすんな! 防人を倒すのはこの俺だからな!! マ、マレフィックとかいう訳の分からねェ連中にブッ殺されるのが
気にいらねェってだけだ!!」
(ベタね)
(ベタです)
(お約束をよく踏まえているな火渡。ブラボーだ)

 とそこで何も言わず見送ればいいのだが、男としての譲れない一線が一悶着を起こしてしまう。

「気持ちは嬉しいが……火渡」
「なんだよ」
「今の俺はキャプテンブラボーだ。防人衛の名はとうに捨てた」
 火渡はキレた。
「うるせェ。てめェは防人だよ。何がどうなろうと防人だ」
 せっかく去りかけていたのに防人に詰め寄り胸倉を掴む。
0035永遠の扉
垢版 |
2014/07/05(土) 16:31:51.23ID:NyN080pd0
「名前を捨てるだ? フザけんな! 7年前を引きずって償いたいってェならむしろ逆だろうが!! 何があってもずっと持っ
てろ!! 捨てんな!! 赤銅島を忘れたくねェってなら、ずっと防人のままで居ろよ!! 何気なく呼ばれるたび思い出して
地獄のような想い味わって、そんで墓まで実感し続ければいいだろうが!! てめェは誰一人救えなかった防人衛だってな!」
「だが、俺は世界総てを救える英雄じゃない。与えられた任務の中で最良の策と最大の成果を上げるキャプテンとして」
「ンな綺麗事なんざ聞きたくもねェ!!」

(止めなくていいんですか?)
(いいのよ。よくあるコトだし、それに)
(それに?)
(一度ちゃんとブツかっておいた方がいいの。防人君も、火渡君も)
 いいのだろうか。毒島は防人を見る。一見平静だが流石にアイデンティティーに関わる部分を攻撃されては心中穏やかな
らぬようだ。静かな気迫と怒りが感じられた。
 火渡はその辺りを理解した上で、なお叫ぶ。
「分かってんのか!! 俺も千歳も名前は捨てちゃいねェ!! てめェだけが本名を捨ててキャプテンどうこうと世迷事を吐かし
てやがる!! フザけんな!! 世界総てを救うとか言っておきながら、島1つで妥協してんじゃねェよ! 千歳でさえ仮面を
被る程度なのにてめェは当時の自分を当時の夢ごと葬り去って亡き者にしようとしてやがる!! 分かるか!! 引きずっ
てる癖に肝心なトコは切り捨てようとしてんだよ! 死んだ連中は浮かばれねェよ!! てめェが簡単に切り捨てられる程度の
夢につき合わされ! 失敗されて死んだんだからな!! てめェが名前や夢を切り捨てるのは償いじゃねェ! 逃げだ!!
赤銅島を招いちまった、救えなかった。そこが死ぬほど辛いから同じ目に遭いたくなくて……捨てている! 目ぇ背けている!」
「…………」
「叶えてェってなら島1つで諦めんな!! 名前も捨てるな!! 多少の犠牲で妥協してキャプテンなんたらという楽な道へ
逃げてんじゃねェよ!! 結果何もかも解決したか!? してねェだろ! 真希士は死んだ! くたばった! てめェの采配
が悪いせいでムーンフェイスに殺られただろうが!! いい加減気付け!! 名前を捨てようが過去から目ェ背けようが、
人間は死ぬんだよ!! てめェが燻っている限り、てめェの周りは守られるコトなく死ぬんだよ!!」
「…………」
「犠牲が辛いってんなら出なくなるまで貫けばいいだろうが!! 俺はそうしている!! ガキ数匹殺してもそれで大勢助かる
なら結構だ!! 大勢を徹底的に助け続ける!! ホムンクルスなぞという下らねェ連中がこの地上から一匹残らず消え去る
まで……不条理になって罷り通す!! でなきゃいつまで経っても状況は変わらねェ! 変わりゃしねェよ!」
「俺が子供を死なせるのを嫌っているのは知っているだろう」
「だから何だ!! 俺の不条理が気にいらねェってなら、それこそてめェが世界の何もかも救えばいいだろう!!」
(火渡様、怖い……)
 ぶるぶる震える毒島をよそに彼は叫ぶ。
「それともてめェの憧れるヒーローどもってのは全員ちょっと犠牲が出るだけで諦めるような腑抜けた連中ばかりか!!」
「……!」
「違うだろうが!! 見たくもねェって顔してる俺にてめェが押し付けてきたカートゥーンの中の連中は、恋人を殺されようが
親友を機械の刺客にされようがご自慢のロボットスーツ数十体壊されようが、いつだって諦め悪く立ち上がり理念貫こうと
足掻いてただろうが!! それらに比べててめェはなんだ!! 1ヶ月と親交のなかった島の連中が運悪く全滅した程度で
もう立てねェのか!! フザけるな!! そこが……そこがムカつくから」
 火渡は完全に踵を返した。
「俺はてめェを防人と呼ぶ!! 名前捨てるのは勝手だが、捨て方が気にいらねえんだよ!!」
「それでもこれは俺自身の選択だ」
 いよいよ険しくなった防人と火渡と雰囲気に、毒島はあわあわした。
(出撃まであと8分少々なのに……どんどん険悪な雰囲気に!! このままでは同乗する戦士・斗貴子たちがとばっちり受
けます! 不条理な八つ当たりを……! ああ、どうすれば、いったいどうすれば!!)
 千歳は嘆息した。
「じゃあ2人とも殴り合いましょう」
「「はい!?」」
 防人と毒島の声がハモった。
「テレビで見たわ。オフの日なにもするコトがなくて見ていたドラマじゃこうなったらよく殴り合っていたわ」
「あの……防人戦士長、重傷なんですが」
「重傷でも、言われたまま引っ込むのは精神衛生上悪いわ」
0036永遠の扉
垢版 |
2014/07/05(土) 16:32:27.39ID:NyN080pd0
(ええ〜)。筋が通っているようないないような。おかしな理屈だ。
「いいだろう。結局お前に信念を示せるのは拳だけという訳だ……!」
「ヘッ。シルバースキンつけなくていいのかよ。実力差がありすぎんだ。ハンデやるぜ?」
(ノリノリ!!)
 すっかり戦闘モードになった2人。千歳がなにやらリモコンを操作すると、壁が開いて10畳ほど隠し部屋が現れた。
「非常時専用の隠れ場所。何も置いてないから殴り合いにはピッタリよ。制限時間は3分ね」
「ブラボーだ!!」「上等!!」。拳を胸の前に掲げる防人。右肩をぐるぐる回す火渡。彼らが隣の部屋に消え…………
叫びや肉を打つ音が響き始めた。

 毒島は青くなった。
「あの……火渡様は、言葉こそキツいですが、火渡様なりに防人戦士長のコトを」
「ええ。分かってるわよ。私も半分は同じ気持ちだし」
 千歳も防人に元通り名乗って欲しいようだ。
「けど……変わるしかなかった私が言っても仕方ないから言わないの。火渡君は……根っこのところは変わらないから」
 そうでしょうか。毒島は首をかしげた。
「私は赤銅島以後の火渡様しか知りませんが、不条理という言葉を仰られる時の火渡様は、失くしてしまったものを寂しがる
ような、変わりつつある自分に苦しんでいるような、とにかくどこかお辛そうな雰囲気です」
 よく見ているわね。声から位置をつかんだようだ。盲目の千歳はガスマスクの頭頂部を撫でた。
「火渡君、強がっているけど、脆い部分もあるのよ。だから……支えてあげてね。私たちじゃ近すぎるから。あなたなら、赤銅
島より前のコトを知らないあなたなら、火渡君も頼れると思うの」
「そうでしょうか……」
 毒島は自分をよく知っている。素顔1つ晒すのも怖い劣等感の具現だ。その辺りをいうと千歳は「ふふ」と笑った。
「火渡君はね、才能第一に見えるけど、実はけっこう姿勢重視よ」
「姿勢重視?」
 そう。千歳は防人を引き合いに出した。
「火渡君から見て才能がなくても、ちゃんと努力して、肩を並べるから……正反対のようでも関係は続いているの。戦士・
毒島も防人君と同じよ。簡単に言えば、一生懸命やっている人は何だかんだいってちゃんと認める人なの火渡君は」
 だから私もチームを組めた、昔の私ともあなたは似ている。そういって千歳は毒島の頬を、武装錬金越しに優しく撫でた。
「火渡君が一番嫌いなのは才能のあるなしを理由に何もしない人だもの」
「いまの防人戦士長はそれに少し近いから……お怒りに……」
 そうね。千歳は頷きこうもいう。
「けど、防人君だって、何もしてない訳じゃないの。戦士・カズキとの一件やこの街で触れあった戦士や生徒たちから色々な
影響を受けて……、いまは前に踏み出そうとしている」
 けど火渡は天才ゆえの頭の固さで、「現在」の防人を見ようとしていない。
「だから……殴り合った方が分かりやすいでしょ。言っても聞かないもの火渡君。それに互いへの不満とかわだかまりとか、
そういった物は、戦いの前に払拭すべきよ」
 毒島はハタと気がついた。
「……あの、邪推ですが、もしかして戦士・千歳は、照星部隊の再結成を」
 望んでいる、とまでは言わなかったが、彼女は嫣然と頬を緩めた。
(最近よく笑うようになりましたね……。戦士・根来が何か影響を与えたのでしょうか)
 火渡たちより1歩早く、過去への整理がついているらしい。なればこそ同輩たちの心情を客観的に見れるようなったので
はないか……毒島はそう推測した。
「戦いは何が起きるか分からないわ。万が一、私たち3人だけが敵と相対するというコトになったら…………チームワークの
なさが命取りになる。私たちだけじゃなく……守りたい人たちまで…………また、ね」
 また、という言葉にガスマスクの少女は重みを感じた。
(銀成市を赤銅島にしたくない……というコトですね)
 考えていると火渡と防人が件の決闘場から戻ってきた。両名とも顔をボコボコと腫らしているが──…

「ケッ。どこが重傷だ防人。意外に衰えてねェじゃねェか」
「よくいう。火炎同化なしでダメージを与えられるとは思っていなかった」

 少しだけ晴れやかな顔つきだった。


「だが防人と呼ぶな。俺はその名を……捨てている」
「知るか。呼ぶぜこれからも。俺にとっちゃてめェは防人。防人衛だ」


 絶対に折り合わない。そんな顔で語り合う彼らだが険悪さは消えている。
0037スターダスト ◆C.B5VSJlKU
垢版 |
2014/07/05(土) 16:33:02.98ID:NyN080pd0
 尊重にはほど遠いが、「今は無理でもいつか絶対認めさせてやる」という、酔狂な火渡ならではの愉悦が感じられた。
 「キャプテンブラボー」が、逃げからのみ出たのではない、防人らしい不撓不屈の折れない心に根差した存在だというコト
だけは理解したようだ。理解したからこそ、それを屈服させたいという敬意ある敵愾心に燃えているようだ。

「ね。少しはいまの防人君のコト、分かったようよ」
 防人の方も、火渡の罵倒に対する整理がついたようだ。僅かだが、名前に対する検討が感じられた。

「……すごいですね。色々」

 殴り合って通じる火渡と防人もだが、それを見抜きけしかける千歳も想像を超えている。

(これが……照星部隊なんでしょうね。お三方が立ち直り、再び結成したら…………どれほどの戦力になるのでしょう)


 騒ぎが収まったせいか、迷子の女児がチョコチョコと火渡に走り寄った。

「おまもり……」
 差し出したのは不格好な鶴の折り紙である。幼いなりに火渡が何か問題を抱えていて悩んでいるのが分かったらしい。
兄の病室を一緒に探してくれた恩返しも兼ねて、鶴を一羽折ったとみえる。
 再殺部隊を束ねていた長は、意外な贈り物に目を丸くした。そもそも火渡は恐れられなければいけない存在だ。それが
子供に、先ほど「大勢助けられるなら少々犠牲にしてもいい」といった子供に何か贈られるというのは……耐えがたい。千歳
はともかく防人や毒島は見ている。特に防人とは子供に対する信念が大きく違う。そんな彼の前で「ありがとよ」などと受け
取れる筈もない。子供を殺すべき局面で「だがあの時お前だってあのコの鶴を」うんたらというお約束な説得をされるのは
ウンザリだ。ましてそれを受け入れたばかりに大勢死なす……といった結末は断固として願い下げだ。
(けど突っぱねたら泣くだろこのガキ。縋ってきたらどうする。受け取れとばかり泣いて追ってきたら)
 他の戦士にも見られる。構図としては子供から逃げている火渡戦士長という図になりこれまた締まらない。
(クソ。時間もねえって時に面倒を! これだからガキは嫌い──…)
 悩んでいると毒島が歩み出て……マスクを取った。
「私は火渡様の使い魔の妖精です」
「ホントだ! ようせいさんだ!」
 素顔の毒島……正に名前も恥じらう可憐な美少女の姿に女児は一発で信じ込んだ。
「私の持ち物は火渡様の持ち物なのです。ですから私が預かっていても問題はありません」
(うまいな)
(演劇の成果ね)
 とびっきり可愛い声をあげながら天女のような笑顔で語りかける毒島に防人たちは感服した。
 果たして女児は毒島に鶴を渡した。「これでおまもり、わたせたね」!」無邪気に見上げてくる彼女に火渡はひどく決まり
が悪そうだ。「まあ、そういうコトになるわな」。ブスリというと、しかし女児は異骨相な手を取ってブンブン握手した。
「またきてね! またきてね! おにいちゃんよろこぶよ!」
「……ヘッ。正直願い下げだが、ま、千歳と同室なら嫌でも面ぁ見る羽目になるだろうさ」

 無愛想な物言いに、かつての同僚たちと今の部下は静かに笑った。

 とにかく今度こそ火渡は、ヘリのある屋上へ向かう。


以上ここまで。あと1エピソードで幕間終了。
0038ふら〜り
垢版 |
2014/07/06(日) 18:55:54.70ID:n5LV/5Ic0
>>スターダストさん
シリアスありギャグあり哲学あり、特異方向エロスもありの、濃密な火渡回。毒島の好みのタイプって
のが、彼女の性格からしてどうもピンと来なかったのですが、馴れ初めで納得。要するにただ「火渡
みたいな人」といってるだけですな。当の彼は古典的仲直り手段を経て、これからはチームで戦えるか。
0039永遠の扉
垢版 |
2014/07/06(日) 19:33:54.72ID:ezrCwDtc0
「ここは……?」
 白い天井をぼんやりと見ながら早坂秋水は呟いた。ヘリで敵地へ向かう桜花たちを見送ったところまでは覚えている。気
付いたらこの状況。覚醒する意識が徐々に全身の状況を伝えてくる。背中がふわりと沈み込む感覚。どうやらベッドで寝て
いるらしい。右手の異物感の正体は点滴だ。針のついたチューブにポタポタと透明な液が落ちているのが見えた。
(なぜ寝てる? 屋上にいた筈だが……)
 逡巡していると耳慣れた明るい声が意識の中へ飛び込んできた。
「あ。秋水先輩起きた」
 白い天井を横切る朗らかな笑顔は間違いなくまひろのものだった。春の陽光の篭もったどんぐり眼も、先日の洗髪の際
女性らしからぬ硬さで秋水を驚かせた傷みがちの栗髪も、太い眉もスラリと通った小さな鼻も何もかもまひろだった。
 1つだけ普段と違う点を挙げるとすれば、ピンクのナース服とナースキャップを身につけている所だ。無論正規の医療従事
者でないコトは、小脇に抱えるクリップボードに挟まれた、恐ろしくヘタな字と妙にうまい妙ちきりんな動物たちが跋扈する
手製のカルテを見れば明らかだ。


「そうか。見送ったあと、俺は倒れたのか」
「うん。あ、でも先生の話だと過労だって」
 ベッドサイドテーブルの上に渋茶入りの湯飲みを置きながら、(無理もない)、秋水は思った。
(本来俺は約1週間前まで入院していたからな。お見舞いに来た武藤さんと空気の読み方について病室で語った。だがメイ
ドカフェでのおかしな騒動で戦い、演劇部に入り、まさか幹部だとは知らなかったブレイクの元で夜通し稽古をし、更に特訓
もし、演劇の練習もして……考えてみれば碌に睡眠を取っていなかった)
 武芸者にとってコンディションの調整は修練以上に重要だ。鍛えすぎたせいで大事な試合の日絶不調では話にならない。
(にも関わらず、ブレイク、イオイソゴといったマレフィックたちと立て続けに戦った。ツケを払わされるのも当然か)
「リンゴ食べる?」
 フォークに射止められた赤耳ウサギを気楽な様子で差し出してくるまひろはすっかり看護モードだ。(達人、だったな)。
微笑ましくてつい笑う。六舛から聞いている。かつてパピヨン謹製の幼体に取り付かれ衰弱する斗貴子を甲斐甲斐しく世話
した時もナースルックだったと。正直スカートの丈が極端に短く、細い割りにむちむちした太ももが剥き出しなのは目のやり
場に困るが──イオイソゴの忍法で裸体を見せられたのだ。肌を意識するなという方が難しい。秋水は無骨だが健康で健
全な男子なのだ──斗貴子よろしく包帯ぐるぐる巻きにされ炎を統べる悪鬼状態にされてないだけまだマシといえるだろう。
「1つ頂こう」
 心ぴょんぴょんしそうなほどに瑞々しいオリゴ糖などの混合物を見て頷くと、まひろはグイっと腕を前進。
「…………」
 唇の前で止まったうさぎに秋水は黙る。意図を計りかねた。厳密にいえばまひろが何をやりたいか分かったが、何故そう
したいのか分からない。
「もう! あーんしないと駄目だよ秋水先輩! いまは患者さんなんだから看護婦・まひろに従わないと!!」
 秋水はちょっと試合モードになった。迂闊に喋ればまひろの突きが開いた口へ叩き込まれる、だからスッと身を引き射程外
に逃れてから喋る。
「自分で食べれる」
「駄目! 無理は禁物!! 戦いはもはや間近なんだよ!! 今は体調を整えるのが先決だよ!!」
 眉をユーモラスにいからせつつ、ぐいっとリンゴを差し出してくるまひろ。無理やりねじこんでこない辺りまだ有情だが、さ
りとて女性に何か食べさせて貰うなど色々抵抗がある。桜花は中学に入るまで自宅だろうと公共の飲食店だろうと構わず
やってきた。高校に入ったころ流石に周りが奇異の目で見てきたので自宅以外では慎むようになり、信奉者をやめてからは
「共依存を加速させるんじゃないか」と双方同意し完全にやめた。
 だから秋水はまひろにあーんしてもらうのは恥ずかしくて仕方ない。見渡したところ今いる病室はどうやら千歳と違って完全
個室のようだ。病院の地下で友人ともども保護されているべきまひろが何故居るかは謎だが(或いは病室自体が地下にある
のかも知れない)、とにかく男女間におけるあーんは一般社会において一定以上の親密さを示すバロメータであるコトは中学
桜花に対する「弟好きすぎだろ」みたいな目線から充分察知している。
「いや、腕を少し動かして食べる程度だ。消耗はない。驚くほど少ない」
「じゃあ任せる!」
「任せるんだ……」
 あっさりフォークの柄を差し出すまひろに驚いた。性格からすると何が何でも食べさせてきそうな感じだが──…
0040永遠の扉
垢版 |
2014/07/06(日) 19:34:20.08ID:ezrCwDtc0
「患者さんの意思を尊重するのもお医者さんの義務だよ! だいたい何もかも人任せじゃ筋肉がね、衰える!!」
 らしい。いや看護婦ではなかったか。そもそも今は看護士が正解なのだが……。
「ファイトだよ秋水先輩!! 最初は辛くて思い通りに動かないかも知れないけど、少しずつのリハビリが再び剣を握れる
日をもたらすんだよ!! 自分を信じて!!!」
「……俺はそんな重傷なのか?」
 一瞬不安になったが、指の感覚は概ねいつも通りだ。骨も筋肉も異常が無い。まさか実は足腰に何か障害が発生して
いるのではないかと疑ったが、麻痺もなければ痛みもない。そもそもまひろ自身「過労」と言っているのだから、要するに
点滴がビタミン剤かポカリ同等の成分──ふと貴信を思い出した。彼いわく栄養補給目的の点滴はポカリと同じ成分らし
い──で済む程度の病状なのだろう。
 などと考えつつ、罪無きうさぎを奥歯でかみ殺して飲み干す。「これ寮母さんが剥いたんだよ」(盲目状態で? スゴいな)
本当の意味でのリハビリ、視界なき世界への順応訓練を重ねている千歳を想像しながら2羽目を貰う。酸化防止のため
だろう、塩水の味がした。

 先ほどの演劇での「好きだー、愛しているんだまひろ!」に度肝を抜かれ、一時は秋水が本気で告白しているのではな
いかと狼狽したまひろだ。むろん即興演技と聞き及んでいるが、筋だけいえば照れまくって顔もマトモに見れなくなって然る
べきだ。しかし秋水倒れるの報を受け、防人や病院関係者のニヤニヤとした計らいで看護を任されたまひろである。
(任された以上は私情を殺して全力で看護しなきゃ! 何を隠そう私は看護の達人よ!!)
 意気込むと不思議と照れはない。ひたすら一生懸命お世話するだけだ。

 結果として秋水はリンゴ1個分のうさぎを壊滅に追いやった。

「おお。さすが男のコだね。お兄ちゃんとお揃い。あ、カルテ書かなくちゃ。食欲は旺盛、秋水先輩はリンゴを沢山食べたの
でした。マル」
(カルテというより観察日誌のような……)
 熱心な様子でクリップボードに筆記作業を敢行するまひろはどこかズレている。
「怖くない、怖くない、秋水先輩は男のコ!!」
(それ必要なのか?)

「お粥食べる? 魚沼産コシヒカリを銀成市の水道水で贅沢に煮込んでみました!」
「それ普通だと思う。とても普通だと思う」
「ちなみに異常聴覚に目覚めない奴だよ!」
(異常聴覚に目覚める奴もあるのか?)
 まひろは背後のキャスターから瀬戸物の鍋を持ち上げた。素手で。湯気を上げるそれを平然と持つ彼女に秋水は驚嘆
した。(馬鹿な。熱さを感じないとでもいうのか!)。いや彼女なら或いは……驚いているうちにベッドサイドテーブルの上に
お粥到着。更に小皿に乗ったレンゲを添えると、まひろはしばらくボーっとして……耳を触った。
「まさか、やっと熱さを感じたのか?」
 看護士はやや恥ずかしげに頷いた。聞けば鍋が熱いのをすっかり失念していらしい。で、「なんで今平気だったんだろ?」
と考えたら急に指先がひりついてきたと。
「……ステゴサウルスか君は」
「む!! いくら秋水先輩でもそれは失礼だよ!!」
 ちょっと頭を湯気を立てるまひろ。しまった……秋水は思う。いくらまひろといえど女のコなのだ。恐竜と同じでは流石に
怒るらしい。
「あのねあのね秋水先輩、ステゴサウルスさんがしっぽガブガブってされて数十秒後に気付くっていうのはもう過去の学説
なんだよ! 恐竜をめぐる環境は日々進化しているんだよ! ステゴサウルスさんは今や鈍くないんだよ!! 失礼だよ!!」
「そっち!!?」
 あせあせと一生懸命弁護するまひろに秋水驚嘆。


「わざわざ梅干の種を抜いてくれたコト、感謝する」
「いえいえ、看護婦として当然のコトをしたまでだよ」
 笑いながら口元を押さえおばさんのように手を振るまひろ。梅粥は空になった。


「テレビ見る? それともROCK歌う?」
「なんでROCK……」
 ワッツディスな話題はスルーしテレビを見る。まひろもヒマらしく椅子に腰掛け、見始めた。


「このマスに入る漢字なんだろう?」
「『楽』だな」
0041永遠の扉
垢版 |
2014/07/06(日) 19:34:45.51ID:ezrCwDtc0
.

「うわ!! 久々に見たら髪減ってる!!」
「確かに豊かとは言えないが……知り合いなのか?」
「え? あ、ああ、違うよ。コレNHK教育でしょ。ちっちゃい頃から知ってるお兄さんで、でも今はおじさんで……」
「それ故の混乱、か」


「番組中断!! もー! いいトコなのに特別番組〜!」
「トップアイドルと野球の花形選手の電撃入籍なんだ。仕方ない」
「そうだ。テレ東! テレ東ならきっと普段どおり!」
「そんな馬鹿n…………普段どおりだ」


「つまりこの映画は主人公が会計士をロサンゼルスまで連れてく映画なんだ。麻薬王とFBIと賞金稼ぎの三勢力が相手で」
「おぉ。よくわかるね秋水先輩。私途中から見たからサッパリだよ」
「まさか賞金稼ぎが再登場するとは思わなかった」
「しかも入り込んでる!!」


「どこもニュース番組ばっかになっちゃったね。トランプする?」
「ああ」


「なんで!! なんでババのある場所分かるの!!?」
「君は表情に出すぎだ。まず視線をジョーカーに向けるところからだな」


「うぅ、悔しい〜〜! どれだけやっても勝てない!!
「だから目線を……」


「やっと勝てた!! やった! 遂に秋水先輩を倒したよ!!」
(手抜きは性に合わないが……仕方ない)


「病院のベッドってどうして白なんだろうね?」
「君は何色なら満足なんだ?」


「よかったね。点滴抜いて貰えて」
「体力は回復するが気は滅入るからな」
「あ! 分かるよソレ!! 点滴されるとさ、すっごい重症って感じだよね〜。私も一昨年の大晦日に──…」


「体拭くよ」
「いい。自分でやる」
「ダメ。秋水先輩ちゃんと休んでなきゃ」


「…………途中で我に返ってドキドキした」
「だから断ったんだが……」


「あーーーー!! そうだ、白だよ白!!」
「何が?」
「病院のベッドの色!」
「…………とっくにそうだ。改めていう必要もないような」
0042永遠の扉
垢版 |
2014/07/06(日) 19:35:13.43ID:ezrCwDtc0
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 扉の向こうに待っている日常は、きっとこんな風だと思った。



「……? どうしたの秋水先輩。急に笑ったりして」
「なんでもない。ただ……目指しているものの先を、少しだけ垣間見た気がするから」
 静かに答えると、まひろは「??」と首を捻った。
「もうすぐ戦いだ。俺は君や武藤や、これまで支えてくれた人たちの為になれるよう戦いたいと思っている。個人的な敗北は
恐れていない。俺が負けて全体が勝つならそれでいい。けれど……生きて帰る。死は選ばない。命も捨てない。負けても生
き残れるよう全力を尽くす。街を守るために。君と武藤がこのままの銀成市で再び逢えるように。俺が彼に謝るために」
 そして。

「また劇をしよう。俺にとっての向こう側で。超えた先で。今度は武藤もパピヨンも……一緒に」

 少し目の色を変えた少女は、一瞬頬を染めて恥ずかしそうに視線を落としたが。

「うん!!」

 秋水が一番落ち着く笑顔で、頷いた。


 ささやかで、暖かくて、けれど騒々しくて、時には頭を抱えるほど不可解な。


 楽しい日常は、もうすぐ終わる。



 けれど太陽は沈んでも……また上がる。


 秋水がカズキへの贖罪の機会を失くしても、あの夜の銀成学園の屋上でまひろと巡りあったように。

 まひろがカズキへの傷心を、秋水との交流の中で少しずつ癒していったように。


 太陽はまた昇る。失くしても、打ちのめされても、絶望の夜に心が埋め尽くされても──…


 太陽はまた昇る。


 宇宙という一大機構のもたらす果てしない循環の中で。
 夜明けはいつか再び訪れる。

 太陽はまた昇り……深い夜に傷つけられた者を照らすだろう。
 照らして、今一度立ち上がる力を与えるであろう。


 日常は……闇の向こうで再び訪れる。






 秋水もまひろも、心からそう信じている。
0043永遠の扉
垢版 |
2014/07/06(日) 19:37:50.85ID:ezrCwDtc0
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◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ 

 ──挿話。

 2人の男がいた。
 片方はまだ二十歳にも満たない青年で、もう片方は見た目こそ若いが1世紀以上生きている怪物。2人は生まれた時代
も生まれた国家も遠く遠くかけ離れていた。

 けれど2人は示し合わしたように同じ行為を続けていた。どれほどの月日を費やしていただろう。

 広大すぎるため彼方に灰みさえかかって見える潔白な心象世界の中────────────────────



 彼らは扉を叩いていた。青年は鎖の絡まる安っぽい合金の扉を、怪物は褐色の傷がいくつもついた樫の扉を。


 叩いて、叩いて、叩き続けていた。


 ある者が訊いた。

『なぜ扉を叩くのか?』

 青年は語る。いつか開き1人で世界を歩くためだ。

 怪物は笑う。これは武器でね、世界めがけ衝撃波を叩きこんでる。




 物語とはつまるところ停滞の化生である。

 本作は心ならずも扉の前で滞ってしまった2人が”それ”を抜けるまでを描く。

 その過程こそやがて至るべき終止符の前に横たわる巨大な停滞であり──…挿話。


◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ 


「いつの間にか寝ちゃってる」
 静かな寝息を立てる秋水。微笑みながら彼の顔を覗き込んだまひろは、そっと布団をつまみ肩までかける。

「戦い、いつ始まるか分からないけど……今はゆっくり眠っててね」

 なるべく静かに立ち上がり、音を立てないよう病室のドアへと歩く。

 彼にどれほどのコトをしてあげられるか……まひろは分からない。
 それでも、分かちあえる何かが力になるなら、傍に居たい。今は離れても……いつかどこかで。


「じゃ、またね秋水先輩。起きたらまたいっぱいお話しようね」

 出口で、振り返りながらもう1度微笑んだまひろは照明を消し──…


 扉を閉じた。
.
0044スターダスト ◆C.B5VSJlKU
垢版 |
2014/07/06(日) 19:44:18.60ID:ezrCwDtc0
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◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ 

 まったく違う場所まったく違う時間のなか、叩かれ続けていた2つの扉は流れて流れたその涯で出逢い……1つになる。

 開くまであとわずか。


 永遠とも思えるほど長く存在し続けた『扉』。


 それが開くまで……あとわずか。
                                                   幕間 完


以上ここまで。幕間終了。過去編終わったら第二章行きます。
0045ふら〜り
垢版 |
2014/07/08(火) 22:58:48.65ID:f7N8Z8+m0
>>スターダストさん
秋水はきっちり主人公でヒーローですけど、まひろは非戦闘員な上、戦闘できる女性が多々いるから
立場的に苦しい……が、こういう時はしっかり「ヒロイン」してますね。幸い(?)他の女性陣には
ほぼ各々相方が定まってますし。そう思うと根来・千歳・防人は本作ではとてつもなく希少な関係かも。
0046のび太と彼岸島「最初の1日…」(作・光優会OB)
垢版 |
2014/08/13(水) 10:31:42.74ID:Zc2/e4kd0
「ソノウソホント」。それと、人数分の画面分割が可能なモニタ。
それだけが、あればいい。
児童の遊びを指導するロボット。
ドラえもん、今日は過去の日本列島の離れ小島で子守ロボットの本分を全うする。
のび太たちにサバイバルゲームを提供し、自分は審判役に徹している。
でも一つ、困った問題があった。
スネオが、刀を持って来ていた。
刀だ。拵えも新しい、しかもなぜか無銘の現代刀だ。
ただ残念な事に、スネ夫が家に刀剣登録証と社会常識を忘れてきた。
スネ夫は本来、こういう事をする奴じゃない。
今日は本来、スネ夫たちは四丈半島に行くはずだった。
でも骨川家の都合で、急きょ別荘には行けなくなった。
それを聞いたドラえもんが、今日のサバイバルゲームをプランニングしてくれた。
いつものび太をハブってるスネ夫。
しかしドラえもんとのび太は、スネ夫をも快く離れ小島へと誘ってくれた。
スネ夫なりの負い目。
「何か自慢できる物を…」。
スネ夫は刀で、そのへんの夏草を切り払った。
子どもたちは、水を打ったように静まり返る。
0047のび太と彼岸島「最初の1日…」(作・光優会OB)
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2014/08/13(水) 10:33:55.72ID:Zc2/e4kd0
「それいいねぇ! みんなで使おう」。
静寂を劈いたのは、いつものドラえもんの声だった。
彼は地面をキョロキョロと見回す。
ほどなくして窪みを見つけ、そこへ「合成鉱山の素」をバシャバシャッと注ぐ。
それからひょいっと、丸い手でスネ夫の刀を掴む。
刀の『物打ち』を掴むドラえもんの手は、超実戦柔術家・本部以蔵の手と同じ型(かたち)だった。
その手がスネ夫から刀だけを抜き取る。
白い手は刀を持ち替えもせず、柄の方から窪地に差し込んだ。
それからタイム風呂敷をファサッと被せたかと思うと、すぐそれをポケットに引っ込める。
「このぐらいで良いだろう」
ドラえもんはしゃがむと、パワー手袋を填めて3mぐらいの穴を掘った。
穴は決して大きくなく、スネ夫が通ってるプールの潜水場より小さかった。
仄暗い穴の底から、ドラえもんは左手に日本刀を4本挟んで上がってきた。
「おお、すげーじゃん!」
「あぶない!!」
穴に大きく身を乗り出したジャイアンは、転げ落ちる1秒前の姿勢をしていた。
ドラえもんは慌てて、右手でジャイアンの胸を押す。
そして、刀を握った左手の指先を穴の側面に食い込ませて、右手で自らの顔面を庇う。
パワー手袋をした手で手加減をし損ない、ジャイアンが持ってたはずのゴム手袋やゴム長靴はドラえもんの頭上へ降り注いだ。
「ごめんねジャイアン!」
「おぉ、いいってことよ。これ、俺の!」
「どれも同じだよ」
ここで子どもたちは、ハタと気が付く。
「で、どうするのさ?」
のび太の、尤もな疑問。
0048のび太と彼岸島「最初の1日…」(作・光優会OB)
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2014/08/13(水) 10:39:47.67ID:Zc2/e4kd0
「だいじょうぶ」。
そう言われても…しずかは眉を寄せて、刀身に映った自身の顔を見つめていた。
「『ソノウソホント』を着けて、みんなを吸血鬼にする。切り合いだったら、ゲームを長く続けるのに支障はない」。
「なんだそりゃ、キュウケツキ!?」
「ただし、お昼までには戻ってくること。迷子になっても救出できるけど、ゲームはリタイヤだ」。
「ふ〜ん、あれ、この刀、軽くなってない!?」
スネ夫が蒼白になる。
「ああ、キミたちの力が強くなったんだ。でも、噛み付きだけは禁止だ。やったら、即お開きだよ」。
「いいけど、なんでだ?」
「……歯茎に悪いからだよ。歯医者さん行くのはつらいだろ?」
「そりゃそうだ」
「ねぇ、刀ってこっち側は切れないの?」
「刃のついてる部分でしか切れないんだ。それより、『着せ替えカメラ』を使うから一人ずつ並んで」。
カシャッ、パシャッとシャッター音が鳴り、のび太としずかは迷彩服、セーラー服に身を包む。
スネ夫とジャイアンも相応の戦闘服に着替えた。
それから子どもたちは手に手に刀を取り、サイバイバルゲームを楽しんだ。
のび太は、人を刺す度胸。
しずかは、表皮を切らせて真皮の奥まで切る、落ち着き。
スネ夫は、敵の指や手を最初に狙う、堅実さ。等身大の自分を認める事。
ジャイアンは、身に刀が入って初めて、筋肉の力と我儘だけが全てじゃない事を知った。
夏の日はこうして過ぎていき、子どもたちは21世紀の世界へと帰っていった。

この離れ小島が、後の彼岸島である。
彼岸島は、ドラえもんが作ったんだ。
0049作者の都合により名無しです
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2014/08/13(水) 14:31:00.58ID:gd+wBOvY0
彼岸島行ったら何でも貴重品のくせに、ゴム製品と日本刀にだけは事欠かないから不思議だと思ってたらw
0050ふら〜り
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2014/08/13(水) 21:06:20.14ID:J3iRF+g80
>>光優会OBさん(感謝です!)
旬の作品ですな。丸太ネタを入れてないところが、私には高評価。実際あれって、「戦隊の黄色は
デブでカレー好き」同様、実態から離脱した誇張話題ですよねえ。あとサバゲは「サバイバルなゲーム」
ってだけだから、銃でなく刀や弓矢で戦ってもサバゲを名乗ってもいいんだよな、と気づかされました。
0051光優会OB
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2014/08/14(木) 10:06:20.81ID:wbZYNIVY0
ご評価いただきありがとうございます。
彼岸島、昔は良かったのに今ではギャグマンガ扱いされてるようですね。
バキにも一時期、こういう流れがありました。
本部がネタキャラになったのも、こういう時期でしたね。

>サバゲ
銃だとのび太のワンサイド・ゲームになりますし(笑)。
スポーツ・チャンバラにも、フィールドがコート内限定とはいえ「サバイバル」種目がありますよ。
0052のび太と無人島「何度でも…」(作・光優会OB)
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2014/08/14(木) 10:09:10.49ID:wbZYNIVY0
「懐かしいなあ」。
ドラえもんは10年ぶり、のび太に再開した。
「ドラえもん!! どうして今頃になって来てくれたの!?」
のび太は飛び上がらんばかりに喜び、引き出しの前から物をどけた。
足の踏み場を作ったのだ。
「今度はまた、どうしてだい?」
-今年は夏を過ぎたら、サブプライム・ローンの大不況が始まる。
-高校すら全うせず、家に閉じこもってるキミが路上で生きられるわけないだろ。
「路上!? なんでまた、ぼくはずっとココにいるよ」
-この家はローンだよ。しかも、この家が土地ごと担保だ。後はわかるね。
「わからないよ、タンポンがどうしたのさ」
-まあ、細かい事は良いよ。どうだい、やりなおして見るつもりはないかい。
「また、子どもやれっての? 深夜テレビもろくに見れない、おちおち寝転がって物も食えない…」
-家なしで越冬するのは、しんどいよ。高熱でも出したら、苦しまなきゃならない。
「ブルル…。そうだね、次は国立の付属中学でも狙ってみるよ。さいわい、高校に入ったのは一度や二度じゃない」
0053のび太と無人島「何度でも…」(作・光優会OB)
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2014/08/14(木) 10:10:45.36ID:wbZYNIVY0
のび太は、タイムマシンに乗った。
着いてから、タイム風呂敷を被った。
それから6年、今のところのび太は順調に大きくなっている。
国立の名門高校で毎日、帰国子女たちと授業の予習や恋に明け暮れてる。
両親健在、暮らし向きも順調だ。
来年は、いよいよ大学受験だ。いよいよ、七度目の春。
あるいは次も、さっさと就職してまずは仕事をみっちり覚えてやるか。
のび太の青春は、終わらない。

のび太が大人になっても、この漫画はオシマイにならない。
いくら大人になっても…。
たとえ22世紀になっても…。
でものび太はついぞ、タイムマシンで運ばれる先がどんな世界なのか知る事は無かった。
ある種のパラレル・ワールドなのだろうか。
それとも……。
0054ふら〜り
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2014/08/14(木) 22:20:24.92ID:uYf8oAq40
>>光優会OBさん
元々ドラは、のび太の未来を変えることが目的でやってきたわけですから、ドラの思う通りの
未来にならなかったら、何度でも再挑戦ってのがまぁ正しいわけですが。こうして改めて見ると
……何度も世界を救ってるから、タイムパトロールからは許されてるんでしょうが……うーむ。
0055作者の都合により名無しです
垢版 |
2014/08/15(金) 00:37:43.62ID:Jbvi41U90
歴史改変を伴わず、タイムマシンで移動可能な新天地へ行く。
パラレル・ワールドでも何でもないでしょうね。

要は新しい地球があって、そこにのび太以外の人々が住んでればいいんです。
そして、社会を営んでればいいんです。
住人は、すりむいたら血が出る程度に精巧なロボットで充分。
のび太が住む世界を作るだけなら鏡面世界でも創世セットでもできるし、他の方法で間接的に作る事もできる。

歴史改変をしてない事は確かです。
また、タイム・パトロールは無力ではありません。
ドラだって「タイム風呂敷でペロを甦らせない」等のルールを遵守してるし、ドラより強いギガゾンビもTPには勝てませんでした。

そして何より、のび太が無人島にいる間と、帰って以降のドラの行動に説明がつきます。
ドラはのび太が大人になった時点で、適切な状態でなければやり直すようにできてます(確信)。
未来の世界の法制度のせいでのび太と引き離されても、歴史改変を伴わずに行動できるゆえすぐ元通りになるんです。

のび太の学力が低い事は謎ですが、そのぶん射撃と綾取りの腕前はすごいです。大人のプロレベルです。
学力低下の謎はともかく、子どもにはありえない積み重ねがあるかと。
他、のび太の祖先がのび作とのびろべえの二通り居る謎も、未解決です。
でも、のび太の育ち直しと無関係ではないと思います。
0056作者の都合により名無しです
垢版 |
2014/08/15(金) 00:42:23.53ID:Jbvi41U90
地底、雲上、海底に、地球発祥らしからぬ文明がある謎も解けますね。
進化や進歩を制御し損ねたゆえに、思わぬユニットが箱庭の中に蠢いていた、と。
さすがに、大長編の数々がドラの仕込みだったらすごすぎです。
また、ドラ自身も大長編で危険な目に遭ってるしTPも介入してるから、ドラの仕込みでは有り得ないと信じたいです。
ドラ自身、宿題の件では進捗管理が全然できてなかったし、悪知恵の回るヤツではないと思うんです。
0057作者の都合により名無しです
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2014/08/15(金) 01:00:42.31ID:Jbvi41U90
未来の世界では、軽度発達障害児とかアダルト・チルドレンの人が箱庭に住むのは珍しくないのかもしれませんね。
あるいは大規模なリアル・オンライン・ゲームとして、箱庭がフィールドとして利用されてる。
もちろん、箱庭の置き場は22世紀の世界の保管庫。
これなら、タイムマシンで航時法を犯さなくてもドラは自由に移動できる。
また、タイムマシンでしか出入りできないなら実質、「箱庭の外の世界」と「未来の世界」は差がない。

だとすると使用済みの箱庭は、廃棄または放棄される可能性大。

のび太も創世セットを、自由研究の後でどうしたか定かでないです。
昆虫人類を移住させてハッピーエンドにした後は、両方とも時間経過を早くして太陽系を終わらせるのが自然です。
あるいは文明が進んだら危険なので、スイッチ一つで消した可能性もあります。
0058作者の都合により名無しです
垢版 |
2014/08/15(金) 01:10:02.04ID:Jbvi41U90
セワシがのび太の孫にあたる以上は、のび太と静香の結婚は21世紀中葉以降じゃないとおかしい。
この時、のび太の実年齢は百歳ていど。
最初からのび太は、百年かけて優秀に育てられる運命だったのかも。

しかも、閉じられた時間の中だけだとボケてしまうから、一度として同じ時代は繰り返させない。
そのために20世紀後半という時代設定でスタートした。
その他、単に能力を増やす道具では身に付かない何かを、身に付けさせる目的もある。
0059光優会OB
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2014/08/15(金) 09:17:13.00ID:JpqnRnn50
サザエさんとかちびまる子も、同じ時を繰り返してますね。
しかも同じ事の繰り返しは起きず、いろんなエピソードが満載。
そして時代だけは少しずつ進んでる。
ゴルゴも長寿キャラだけど、彼は現代史を修正する(箱庭の設定の微調整)ユニットとして他の世界へ投入されてそう。
0061作者の都合により名無しです
垢版 |
2014/10/29(水) 01:33:10.62ID:dHCEQiJv0
光優会OB=電脳★新大宮さんだね。
帝愛のやつと、エヴァのやつ書いてた人だ。
0062電脳☆新大宮
垢版 |
2014/11/20(木) 21:17:36.05ID:oUByRBE90
裸足であること、
清楚な装い、
純粋で、
たとえば技術のようなものには、
いっさい汚染されていない、
始原的なありのままの自然ないし人間、

………というのがッ、

ピクル!!
0063作者の都合により名無しです
垢版 |
2014/11/20(木) 21:19:06.79ID:oUByRBE90
↑タイトルは、「ピクル」です。

それにしても、スレがえらく過疎ってますね。
バキはまだまだ、補完すべき作品として続いております。
また、昔のような活気が戻ってほしいです。
0064作者の都合により名無しです
垢版 |
2014/11/30(日) 13:13:57.42ID:niJMpG040
ゴルゴに対して「報酬額を代わりに払うから、自分への依頼があったらキャンセルしてくれ」は通用しない。

しかし、「百年後の正午ジャストに、俺(わたし)を射殺してくれ」だったらOKじゃないかな?
だとすると、それ以前に依頼があったら「すでにクライアントがいる」から追加の依頼は受けられないはず。

もしツッコミなどございましたら、お寄せください。

光優会OBの電脳★新大宮
http://blog.livedoor.jp/kouyuuob/archives/30053485.html
0065光優会OB
垢版 |
2015/01/18(日) 22:47:24.29ID:KFQ5sllq0
……「代紋Take2」の最終回を検索した2ちゃんねらーピラは、得も言われぬ感触を覚えた。


明滅する電気の光は、塵が濛々と漂うのを照らし出す。
バットが灯りとして点けたパーソナル・コンピュータのモニターは、電気系統が弱っていたせいかすぐ消えてしまった。
消えたのは灯りだけではなかった。
冷却ファンの音も、しなくなっている。
「ちっきしょう、これじゃ見ねぇぜ」。
バットは物漁りを諦め、いったん廃墟の建物から外へ出た。
モニターはかなり劣化していたらしく、さっき少し点いただけの画面が焼け付いている。
長いスレッドだったようだが、スクロールの際から下はもう永遠に読めない。
シーカーに読めたのは、「2ちゃんねらーピラ」というキャラクターがとあるマンガを検索するシーンまでだった。
しかしシーカー自身もまた、「北斗の拳」(武論尊・原哲夫)の一キャラクターに過ぎない身であるのを知る由は無かった。
0066「ドラえもん最終回『剣士凡て見(まみ)えず』」作・光優会OB
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2015/02/02(月) 00:24:38.32ID:J4XSwGoD0
殿様を送り返したのは、先週の金曜日だった。
そして今日は月曜日。
今週からのび太のクラスは、体育の単元で剣道が始まる。
のび太は「いきなりだなぁ??」と腑に落ちない様子だ。
だいたい、小学校の正課の体育に剣道は無かったはずだ。
防具だって着けない。
さりとて、エアーソフト剣を用いるわけでない。
得物は、なんと少年用竹刀。
それでもマスク一つ着けず、のび太たちは整列させられる。
そして授業が始まった。
いつも通り、できないのはのび太だけだった。
(みんな、いつの間に剣道なんて覚えたんだろう…ヒィヒィ)
のび太が汗だくで参ってるこの場所は、グラウンドだった。
はじめての基礎稽古が終わると、先生はいきなり練習試合を命じた。
目的は、児童らを剣道に親しませるためだ。
もちろん本チャンのスパーじゃない。
仄々した雰囲気で、一番弱いのび太と特別支援学級の子が前へ呼び出された。
0067「ドラえもん最終回『剣士凡て見(まみ)えず』」作・光優会OB
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2015/02/02(月) 00:25:58.12ID:J4XSwGoD0
中途視覚障害児のキヨハルくんと、お世話係のイクちゃんが短い影を引き摺って立ちはだかる。
太陽を背にしたのび太は、左手を腰に当てて竹刀を振り被る。
「のび太、まだ早いぞ」「正眼、正眼」
クラスメートたちがのび太を応援する。
「のび太ーっ、左ひじをもっとピシッとしろー!」
ジャイアンも熱くなって、のび太を応援してくれてる。
既にヘロヘロののび太は、左手を腰へ着けてるものの腕は全然力が入ってなかった。
「始め!」
のび太はわけもわからず、適当に竹刀を振った。
案の定というか、竹刀はすっぽ抜けてイクちゃんのそばへ落ちた。
「きゃーー」
「あっ、ごめん」
イクちゃんに気を取られたのび太の左顎に、突きがクリーン・ヒットした。
小学生が突き。
全日本剣道虎許連合会(本部・静岡県掛川市)の連合会剣道は、幼年部から突きを練習する。
元の歴史にあった剣道連盟や剣道協会と違って、防具を用いないがゆえに突き禁止のルールは発生しなかった。
でも、死亡事故などここ10年以上全く起きていない。
剣道は相手を決して殺さない、世界でも稀にみる安全なスポーツだ。
0068「ドラえもん最終回『剣士凡て見(まみ)えず』」作・光優会OB
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2015/02/02(月) 00:29:54.49ID:J4XSwGoD0
連合会の「敗けた者、伊達にして帰すべし」という道場訓によるものだ。
過度の競争をせず、平等に、みんなで仲良く稽古をしよう…だが、それだけではない。
特別なスポーツ保険があり受傷者は成形治療のみならず(基準を満たせば)美容整形まで受けることができる。
就学年齢になったら国民皆保険で加入し、一部地域では税務署が管轄する特別なスポーツ保険。
ジャイアンたちが空き地で毎日やってるような草剣道も、このスポーツ保険は骨…いや、耳とか鼻を拾ってくれる。
いくらのび太でも、視覚障害児の竹刀を避けられないはずがなかった。
ホイッスル咥えた先生が、ピーピー叫びながら慌ててのび太に駆け寄った……。
それから10分以上が経った。
のび太の家に電話の音が鳴り響く。ママは買い物に出ていて留守。
がらんとした二階にも、電話を取りに行く者はいなかった。
ドラえもんは、剛田雑貨店で店番をしていた。
いつものダミ声で、買い物客のおばちゃんと世間話してる。
まるで、去年から置いてある招き猫のようにドラえもんは座布団へ尻を沈めていた。
セワシは、ジャイ子に出木杉と結婚してもらうべく21世紀へドラえもんを送り込んでいる。
ジャイ子と結婚した元同人サークルリーダーの証券マンがとんでもないバカで、しわ寄せは孫の代まで響いているのだ。
今朝、玄関で「いってらっしゃい」とのび太を見送ったドラえもん。
その後、歴史が変わったので昼はジャイ子ちゃんの家にいる。
夕方になってから、学校で上級生の野比くんという子が事故で死んだと聞いた。
「こわいねぇ、剣道か」
ドラえもんの返事は素っ気なかった。
0069「ドラえもん最終回『剣士凡て見(まみ)えず』」作・光優会OB
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2015/02/02(月) 00:31:41.51ID:J4XSwGoD0
のび太は脳挫傷でほぼ即死だったそうだ。
0070作者の都合により名無しです
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2015/02/07(土) 11:24:08.53ID:rx3MZl/T0
まだスレがあるのに感激
もう15年くらいだろこのスレ
その間にヤムスレだの肉スレだの消えてったなあ・・
0071作者の都合により名無しです
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2015/02/14(土) 22:20:30.04ID:CoyOzDP/0
ここは書くのにルールが有るのかな?
鉄人28号、エイトマン、鬼太郎、スカルマンの日本版アベンジャーズを妄想してるから、書けたら載せたい。まだ全然ぼんやりしてるんだけど。
0072作者の都合により名無しです
垢版 |
2015/04/05(日) 20:52:00.50ID:izd0KaS10
あげ
0073Gotta Serve Somebody 1/8
垢版 |
2015/08/16(日) 17:24:46.97ID:qHqetZAj0
短い用件と、場所だけを伝えて、電話は一方的に切れた。

ついに来た、とだけ、彼は思った。想像していたよりも、あっさりしているな、とも。
怖気づくんじゃないかとも思っていたが、そうならずにすみそうだった。
そんな自分に安心しながら、受話器をそっと電話に戻す。

「なんだかいやな感じの人だねえ、なにかあったのかい?」

電話を取り次いでくれた大家が、心配そうに話かけてきた。
太っていて、陽気で、料理が上手い、典型的な普通のおばちゃんだ。
当然、『組織』とは関係ない一般人だった。

「ああ、ちょっとトラブル。尻拭いばっかり。いやになっちゃうよね」

前々から準備していた言い訳。とっさだったが、上手く言えた。
あとはこのまま、去るだけだ。
これが、永遠の別れだと気取られないように。
そうすることが自分の務めだ、と彼は思っていた。

定めが彼を待っている。急がねばならない。

「悪いけど、ちょっと出るよ」
「え、こんな朝早くにかい? ご飯ぐらい食べてったらいいじゃないか」

彼の仕事は、もちろん本当の仕事のことでなく、世を忍ぶ仮の仕事のほうは、
たまにではあるが、こういう時間を選ばない急な呼び出しがあった。
だからその仕事を選んだのだ。いつ、この日が来てもいいように。

事実、おばちゃんはなんの疑いも抱いていない。
彼は安堵しつつも、心の痛みを感じる。だが、それは無視した。
定めがある。他のことは、すべて関係ないことだ。

「うん、そうしたいけどね、むこうさんカンカンだから」

苦笑いを作る。
上手くできているだろうか? 引きつっていないだろうか? それだけが不安だった。
0074Gotta Serve Somebody 2/8
垢版 |
2015/08/16(日) 17:25:33.59ID:qHqetZAj0
「そうかい、張り切っていっぱい作っちゃったんだけどねえ」
「うん、ごめんね」

言って、玄関へと向かった。自室に戻ることはしなかった。
必要なものなど、ポケットに入っている車のキーだけで十分だ。
この身体ひとつで、言われた場所まで行く。
ただ、それだけ。彼の人生とは、つまるところただそれだけだった。

あともうひとつ必要なのは、覚悟だった。それは道中、心の中で固めるしかない。
いつまでも悩んでいたって固まるものではなかった。ただ、未練が残るだけのことだ。

「じゃ、行きます」

だから、おばちゃんにいつもどおりに挨拶した。
それだけでいいのだ、と自分に言い聞かせた。

すべてが嘘だったように、あっけなく消えるべきなのだ。
なぜなら、すべては嘘だったのだから。

靴を履き、玄関を開けようとノブに手を伸ばしたとき。
ドアノブが回り、勢いよくドアが開いた。

「あッ、おじちゃん!」

子供特有の、聞いた瞬間いやがおうでも心が温かくなるような、無邪気な声が響いた。

しまった、と彼は思う。もっと急げばよかった。

「こら。ちゃんと朝の挨拶しなきゃダメでしょ」

その声が続けて聞こえてきた。
この最期のときに、一番会いたくて、だからこそ一番会いたくない相手だった。

心のどこかで、決意が鈍った音が聞こえる。しかし鈍っただけで、止まりはしないことも感じた。
鈍った心は、こすれて、きしんで、痛みとなる。
苦しくて、切なくて、しかしどうしようもなくて。彼は思わず顔を伏せた。
0075Gotta Serve Somebody 3/8
垢版 |
2015/08/16(日) 17:27:19.03ID:qHqetZAj0
「おじちゃん、どこか行くの? 朝ごはん、食べないの?」

少年が彼に言った。
質問ではなくて、おねだりだと、彼にはよくわかった。
いつもなら聞いてやるし、今日だって聞いてやりたい。しかし、無理なのだ。

「おじちゃんは今からお仕事なんだって」

おばちゃんも言う。これも、説明ではなくて、要求だとはわかっていた。
でも、できない。彼は心を鬼にして、痛みをこらえた。

「そう、残念ね」

彼女が、そう言った。
控えめな言葉だが、少年の声より、おばちゃんの声より、彼の心を強く締め付けた。

「本当に、ごめんね」

そうとだけ、彼は言った。

言い訳をずるずると続けてはいけない。
ただ食事が一回お流れになっただけだ。またいつでも会える。
そういう別れを演じねばならない。

そうではないと、彼には分かっていても。
そうではないと、皆に伝えたくても。
そうしてはいけないのだ。
きっと余計に傷つけて、そして傷つくだけだから。

「ええ〜っ。仕事なんかいいじゃんか、おじちゃん」
「こら、ダメよ」

少年がぐずり、少年の母があやす。

彼は、つい視線を上げてしまう。
彼女と、目が合ってしまった。
彼女の、優しい、いきいきとした目が、彼を見つめていた。
0076Gotta Serve Somebody 4/8
垢版 |
2015/08/16(日) 17:28:18.92ID:qHqetZAj0
「いってらっしゃい」

と、彼女は言った。

「うん、行ってきます」

と、彼は答えた。

そのまま、彼は外に出た。
車に向かいながら、一度だけ振り返って、みんなに手を振った。

少年が、手を振っていた。
おばちゃんが、笑って手を振っていた。
彼女も、そっと片手を上げて答えてくれた。

足が思わず止まりかけて、彼は心底怯えた。
必死に足を動かそうとして、思わず足がもつれて、転びそうになる。

それを見て、少年も、おばちゃんも、彼女も、笑っていた。
彼も、照れたように笑い返した。

彼女たちは、これが彼の最期の姿だと、今はまだ知らないのだ。
そして明日には、いや今日の昼か夜にはニュースを見るだろう。

驚くだろう。
傷つくだろう。
悩むだろう。
いずれ、忘れるだろうか。
あるいは、恨むかもしれない。

それも、仕方がない。
そう思うしかない。

彼は、決して足を止めずに、車にたどり着いた。
もう、振り返らなかった。

いま足を止めて振り返ったら、もう進めなくなる。

ドアを閉めて、エンジンをかけた。
バックミラーに目線が行きそうになり、必死でこらえて、車を出した。
0077Gotta Serve Somebody 5/8
垢版 |
2015/08/16(日) 17:30:06.22ID:qHqetZAj0
車を走らせる間じゅう、いろいろなことが頭をよぎった。

「走馬灯」とはよく言ったものだな。彼はそんなことを考える。
早朝のハイウェイ。走る車は少なく、目に映るのは街灯と看板のみ。
規則的に並んだ街灯が、規則的なリズムを刻んで傍らを通り過ぎていく。
まるで自分が、決まった模様を映し出す機械仕掛けの玩具の一部になったようだ。
しかしその現実感のなさは、ただの現実逃避に過ぎないことも、わかっていた。

(このまま逃げちまえよ)

心の中の弱い自分が、臆病風に吹かれた提案をした。

(逃げるという選択肢だけは、ない)

彼は、即座にそう答えた。

逃げたら裏切り者として処分される掟はある。
しかしそんなことは彼にとっては関係のないことだ。
掟があろうがなかろうが、彼は命令に逆らう気はさらさらなかった。

ボスは善人ではないだろう。ボスの命令も、決して善行ではないだろう。
はっきり言うなら、これはまさしく「悪」だろう。
だか、そんなことは彼には関係なかった。

ボスは、野良犬同然の俺に、まともな職場と住処をくれた。
孤独に歪み、社会を憎み、世界を呪って野垂れ死ぬしかなかったであろう自分に、
人並みの生活と家族の暖かさを、ほんの少しだけでも与えてくれた。

それだけで、十分だ。
命を捧げるには、十分だ。
0078Gotta Serve Somebody 6/8
垢版 |
2015/08/16(日) 17:54:11.99ID:qHqetZAj0
空港が近づいてきた。
つまり、死ぬときが迫ってきたのだ。

つい、彼女の顔を思い出してしまった。
できるだけ避けようと思っていたことが、つい浮かんでしまった。

ろくでもない男に惚れてしまった、かわいそうな女性だった。
殴られたり怒鳴られたりなど茶飯事で、病院に担ぎ込まれたことも一度二度ではない。

おばちゃんに相談されたものの、彼は最初はなんとも思わなかった。
できるだけ人との関わりは避けようと思っていたし、
それに不幸比べなら、彼はもっと陰惨な人生を山ほど見てきた。

だが、彼女に直接会って、彼はどうしても助けたいと感じてしまった。

ボスに、相談した。
『組織』に頼みごとをしたのは、それが最初で最後だった。
ボスはなにも言わずに、『後片付け』が得意な男を紹介してくれた。

彼女にも、おばちゃんにも、なにも言わなかった。
ろくでなしが、突然消えた。別の女と駆け落ちでもしたのだろう。世間はそう思っている。
彼が何をしたのか、誰も知らない。誰にも、知られることはない。
それでいいのだ。
彼女の瞳が、明るい光を取り戻した。彼にとっては、それだけで十分だった。

なぜ、そうまでして彼女を守りたいと思ったのだろうか、と彼は考える。
しかしすぐに、考える必要がないことだと気づいて、首を振った。

答えはわかりきっていることだ。
だが、彼はボスから与えられた使命のために、あえてその答えを無視してきた。
そして、今も無視している。

仕方ないことだ。
彼は、そう割り切った。
いや、割り切っていると、自分に嘘をついた。
0079Gotta Serve Somebody 7/8
垢版 |
2015/08/16(日) 17:55:12.52ID:qHqetZAj0
空港に到着した。
太陽は、既に朝日というには高い位置まで動いている。

『標的』は一足先に到着しているらしい。
警備員が、物理的にありえない形で拘束されていた。

間違いない。標的のひとり…… 『ブチャラティ』の『能力』だ。
焦りを覚えた彼は、足早に滑走路に侵入した。
警備員がなにかを喚いていたが、当然聞く耳は持たない。

エンジンがかかった飛行機が1台だけある。
彼は、まっすぐとそちらへ向かった。

「そこで止まるんだーーッ」
リボルバー拳銃を持った帽子の男が、彼に叫んだ。
男の顔は、標的のひとり。『ミスタ』。

よかった、と、彼は思った。
間に合った。
これで、使命を、果たすことができる。

悪くなかったな。

彼は、ふとそう思った。
ミスタが銃を構えて何事か叫んでいるが、彼はまったく聞いていなかった。

俺の人生、悪くなかった。
クズとしてゴミダメの中で野垂れ死ぬしかなかったはずの命。
ボスのおかげで、少しだけ、人間として生きることができた。
少しだけ、人の役に立つことができた。
少しだけ、人を愛することができた。

銃声。
銃弾が体に食い込む。膝を撃ち抜かれた。立っていられない。

痛みが走った。
右膝からの痛みだけではない。

胸の中で、何かが弾けようとしている。何かが、体を食い破ろうとしている。
これを解き放つのが、俺がボスのためにできる唯一の恩返しだ。

コンクリートに這いつくばっても、そのことだけを考えていた。
0080Gotta Serve Somebody 8/8
垢版 |
2015/08/16(日) 17:55:44.48ID:qHqetZAj0
太陽を見つめた。とても清々しい、綺麗な光だった。
こんなに暖かい光は、生まれて初めて見る気がする。
いや。毎日見ていたのに、その素晴らしさに今まで気づかなかっただけなのか。

きれい、だな。
阿呆のように、そんなことを思った。それしか、思い浮かばなかった。

その次の瞬間、視界から急に光が消えた。
なぜ。
思った直後、衝撃を感じた。
熱い塊がいくつも全身を貫いていった。

悪く、なかったな。
彼は、そう思って、少しだけ笑った。

そのとき、暗闇の中に、また再び光が見えた。
彼には、誰かの顔のように思えた。

ボスの顔だろうか。
それとも、彼女の顔だろうか。

確認したくても、光は、もう見えない。
それが、彼には心残りだった。

光も、音も、痛みさえも、もう感じなかった。
これが死か。そう思うと同時に、その思考さえ散り散りに消える。

そして、彼の中から、何かが解き放たれた。




本体『カルネ』―― 死亡
スタンド名『ノトーリアス B・I・G』
0081ふら〜り
垢版 |
2015/08/16(日) 20:13:43.47ID:jfzMCLIG0
おひさです。
今、まとめサイトで昔の作品を読むと、当時の思い出が蘇りますねえ。
これを読んでた時、あるいは書いてた時、こんなことがあったなぁとか。

>>光優会OBさん
妹が通ってた高校では、男子が体育で剣道をやってたそうで。普通は柔道ですよね。珍しい。
剣道の強さは「ホーリーランド」で描かれてましたが、防具なしでやったら、そりゃあ……
命に関わりもするかと。あと、このドラの「ダミ声」ってのはのぶ代版と思ってよろしいか。

>>ノトーリアスさん(仮名)
吐き気を催す邪悪度で言えば、DIOやカーズよりも遥かに上だと私は思ってるボスですけど。
しかし彼らと違って、大組織を立派に運営してるわけですから、作中に出た分以外にも、
「熱い忠誠」をガッチリ誓ってた一般部下がまだまだいたかもしれない、ってのも事実ですね。
0082作者の都合により名無しです
垢版 |
2015/08/19(水) 15:46:28.16ID:Mfa9JUT20
これは大山ドラじゃなきゃダメでしょう。
光優会さんの頭の中は推し量れませんが、大山ドラだと信じたいです。
命取りになったのは剣道というより、虎眼流の沿革を大きく変えてしまった事でしょう。
しかも普通の命取りであればドラに奪還してもらえますが、この命取りは奪還の希望ゼロです。

でもこの最終回が一番、藤子先生っぽい感じがします。
シグルイ(?)の要素さえ混ぜてなかったら、ドラえもん最終回としての完成度は非常に高いです。
0083作者の都合により名無しです
垢版 |
2015/08/19(水) 15:53:46.04ID:Mfa9JUT20
この殿様って手打ちうどんのヤツですよね。
狩り場に通りがかった農民を手打ちにしようとしてたヤツ。
最後は現代の工事現場で働かされ、城へ帰ってからは改心して良い殿様になる。
一発で分かりました。
0084作者の都合により名無しです
垢版 |
2015/12/02(水) 20:52:23.84ID:seJQuNR3
産経同様、この件も積極的に世界に知らせていかないとな。
韓国は、学者の研究発表さえも、政府に都合の悪いことであれば
弾圧されるような国ですよと。
0085作者の都合により名無しです
垢版 |
2015/12/13(日) 17:37:37.64ID:iEUHbYsP
あげ
0086作者の都合により名無しです
垢版 |
2016/04/16(土) 02:28:38.64ID:+ROpMM94
あげ
0087作者の都合により名無しです
垢版 |
2016/05/12(木) 13:21:38.16ID:DTVah8sn
久しぶりです。もう何年も前になりますね。自分が投稿していたのは。「ドラゴンボール超」で「ゴクウブラック(現在詳細不明)」が出ると聞いたので
鳥山さんや他脚本家の方に先を越されるのが嫌で作りました。まあ思いつきなので設定だけ

トロッカ 
185CM 身長 80kg 髪が斜め上に伸びている。一人称は「俺」であり謙虚な紳士。老界王神の紹介で孫悟空達に組手を申込み「宇宙の強さを深めていきたい」一心で修業を続けている。
拳法家的な攻撃が主だが
必殺技は 元気玉 瞬間移動からの瞬間移動レベルの速度の攻撃 
フルパワーは「宇宙全土の元気を少しずつ分けさせて集めた元気を自分の中に入れる事によりスーパーサイヤ人ゴッド2になった形態」
正体は「老界王神が孫悟空とベジータの細胞を魔術で組み合わせ魔法により各属性の超能力を使える様にした生体兵器」
「この世で最も強いものは何なのか?」と自問し、導き出した結論が「何者にも縛られない強さ」であり
孫悟空達を超え老界王神の枷から自分を解き放つ事が夢

最後は自爆か孫悟空に倒されるかを選び「自分は戦う為に作られた兵器。戦って死ぬ事が理想」と言い残し 孫悟空との全力の戦いの中で10倍界王拳かめはめ波をくらい
消滅。

老界王神は「破壊神ビルスの後釜を創るつもりだった」と言ってその場を去った。
0088作者の都合により名無しです
垢版 |
2016/05/24(火) 22:33:04.57ID:D8mGtdNE
0090名無しさん@そうだ選挙に行こう! Go to vote!
垢版 |
2016/07/10(日) 19:21:24.39ID:6jpNK+fM
まだあったのかこのスレ
懐かしい
流石にもう終わりっぽいがあげておく
0091永遠の扉
垢版 |
2016/08/14(日) 22:45:01.87ID:0Q1QQcFM
第100話 「見上げる星、それぞれの歴史が輝いて」


 9月16日。


 月面。



 暗幕をかけられたような灰色の荒野のとある一点に爆発と共に叩きつけられた影がある。
 宇宙空間に不釣合いな学生服を着込んだその少年は一穂(いっすい)の光華灯す突撃槍を振りかざすと立ち上がり、
咆哮しながら突き進む。目指すのは巨躯の男。赤銅色の筋肉で全身を覆った2mを超える男。彼は巨大な斧を振りかざし
少年を、薙ぎ倒す。高速車両から転落したように肩を膝を強打しながら彼方へ転がっていく彼の行く手にブラックホールが
開く。斧を突き出し誦(ず)するよう唸りを上げる大男に呼応し膨れ上がる絶対の重力場に飲まれかけた少年はしかし咄嗟に
地面へ突き立てた石突の爆発によって軌道を逸らし難を逃れる。

 数10m越しに睨み合う2人。少年は傷だらけで息を荒げ、大男は蛍火の残霞漂う眉1つ動かさずただ戦意だけを高めて
いく。

 終わりのない戦いだった。彼らは月に到達してからずっと戦い続けていた。旋転し遊泳する衛星の約30日という公転周期
とほぼ同じぐらいの歳月を果て無き闘争に費やしていた。

 大男の名をヴィクター=パワードといい、少年の名は……武藤カズキという。


 2人はまだ、知らない。
 遠景と借景にずっと聳(そび)え続けてきた青い惑星(ほし)で起こった戦いを。

 起ころうとしている……戦いを。


 2人はまだ、知らないのだ。

 遠く離れた母星の歴史が今、本来歩むべきものとは遠くかけ離れたものになりつつあるコトを。


 発端はパピヨンパークだった。荒廃した未来を変えるための決戦が総てのズレの始まりだった。

 武藤ソウヤという青年の戦いによって未来は確かに変わった。平和になった。
 だがそれは本来死すべき者を、死していれば良かった者をも生かす結果になったのだ。

 やがて遠き未来で悪党の末裔は30億もの人命を奪う『大乱』を起こし……最強の魔神をも産み落とす。

 魔神を愛する者が居た。生きるため戦うも謀略によって命を落とした魔神と再び逢いたいと願う者が居た。

 その者は歴史を変える力を持っていた。さまざまな追撃と制限によって何度も何度も失敗しながらも、愛する者と再会した
い一心で、少しずつ、少しずつ、歴史を都合のいいように改竄していった。

 パピヨンパークで変えられた未来が、更に別の未来を産んだのだ。
 新たな未来から過去に遡った者が正史と異なる過去すら……産んだのだ。


 故にカズキとヴィクターがいま歩んでいる歴史は、かつて彼らが踏破したものとは異なる物だ。

 偽りの歴史。塗り替えられた歴史。

 しかし彼らだけは正史とほぼ変わらぬ運命を辿る。
 カズキはやがて地球からの迎えによって帰還し、ヴィクターはカズキの差し伸べた手によって愛娘と再会する。
0092永遠の扉
垢版 |
2016/08/14(日) 22:45:33.11ID:0Q1QQcFM
 そうなるよう仕組まれたのだ。彼らが不在の間に『正史では起こりえなかった戦い』が地球で起こるよう仕組まれたのだ。

 だから激しく干戈を交える彼らは……直接的には関われない。
 今より母星で始まる偽りの歴史に、贋鼎(がんてい)の闘争に、直接参画するコトは叶わない。

『直接的』には。


 突撃槍から光を噴き上げ突貫するカズキ。
 ヴィクターは大戦斧から重力波を巻き上げる。

 他の生命を吸い上げ己の力とする機構2人はいま生命なき月面にいる。
 ドレインできるのはもはや互(かたみ)の命だけ。無限獄だった。どちらがどちらに、どれほどの手傷を負わそうとも、次
の瞬間には同等の吸収(ダメージ)が還ってくるのだ。

 希望にしがみついて離れない少年が鮮烈な闘気を巻き起こす。
 そのたび絶望に囚われつづける大男はより強い憎念で斧を振る。

 いつしかヴィクターは、いっこう諦めない少年の心を折るコトだけを考え始めていた。
 カズキが生きるコトを諦めてさえくれれば、ヴィクターは糧を失くし、己の呪われた運命を決着できるのだ。

 斧を振る。振りかざす。少年が希望の片鱗を覗かせるたびヴィクターは己が絶望を重力に込めて叩きつける。
 どれほど足掻こうと運命は変えられない……正義を失い、仲間から追われ、妻を傷つけ、娘すら怪物に変えられた絶望を
糧としてヴィクターはカズキを打ちのめす。

 人は憎む物に成り果てる。憎むからこそ”そのもの”になってしまう。不条理を憎む天才が不条理そのものにならんとした
ように、ヴィクターもまた絶望となってカズキの前に立ちはだからんとし続ける。

 でなければ、立ち上がれる者がいるのであれば、成せなかった自分の生涯が今度こそ無意味と決定されてしまうから。

 ヴィクターはカズキが発奮するたび必要以上の膂力を持って捻じ伏せにかかる。
 もはや慣れたルーチンワークだ。当たり前のように繰り返し続けた行為だ。
 彼らはただそれを繰り返す。それのみを繰り返す。

 今から地球で戦いが始まる。
 参画する者はさまざまだ。確固たる意思を以って主宰した者もいれば、あらゆる流れをただ一堂に炸裂させたい一心で舞
台を整えた者もいる。憎悪を晴らす機会としか捉えていない者も当然存在するし、かつてない偶機と好機を己が理念のため
利用せんと目論む者だっている。奪われてしまった『身近な誰か』の復仇と決着を成すため闘技場に上る者たちもいる。
 正史では成せなかったコトを成させようとする見えざる運命の磁力に少しずつ導かれつつある部隊(チーム)も……。
 恩人や弟のため命を賭けたいと願う少年少女。歴史がどうであろうと自分らしく戦うのみだと決める奇兵たち。きな臭い
決戦の匂いに動員された有象無象の戦士たちもまた細分化すれば独自の理念で動いていく。

 唯一名前を呼んだ男のため病理を斃さんと決意する男もいる。

 月に消えた大事な存在のため動こうと決意する少女は2人。断絶の泥濘のなか足掻き続けてきた彼女たちは心に灯を
ともす少女との触れ合いで少しずつだが前を見るようなり始めた。

 そして運命に指名された青年が1人。彼は顔も知らぬ少年によって戦いの最後の一撃を繰り出すコトを義務付けられた。
遡れば500年ほども前から決定付けられていた運命をしかし彼は知らない。

 彼の理念はただ1つ。

 刺してしまった恩人に謝りたい。

 たったそれだけの一念で戦い続けてきた青年はやがて恩人の妹と巡り逢い……力を貰う。
 交流はやがて絆となり、彼は彼女の為にも戦いたいと強く願うようになった。

 運命を主宰する改竄者さえ予期しなかった異常の事態に彼は居るが……それもまた、当人は知らない。
0093永遠の扉
垢版 |
2016/08/14(日) 22:57:59.41ID:0Q1QQcFM
 今から地球で戦いが始まる。

 しかしカズキとヴィクターだけは物理的な埒外に置かれ続ける。
 地球と、月なのだ。彼方此方の距離は想像を絶する。


 結論から言うと彼らは地球での戦いをほとんど知らずに戦い続けた。


 繰り返しだ。斧を振る。振りかざす。少年が希望の片鱗を覗かせるたびヴィクターは己が絶望を重力に込めて叩きつける。
 どれほど足掻こうと変えられなかった運命を、失った正義や仲間に追われた悲哀、妻の体の自由を奪ってしまった忌むべき
偶然、娘すら怪物に変えられた絶望(いかり)をヴィクターは縁もゆかりもないカズキに向けて……打ちのめす。

 果てしない繰り返し。ルーチンワーク。身に染み付いたコトだけを彼らはただ忠実に実行し続ける。地球が昼を迎えようと、
夜に染まろうと、再びの朝に至ろうと……2人は不文律だけなぞり続けてきた。

 彼らが地球に届けられる物の片方は……『僅かな光』。正史における武藤カズキ帰還のキッカケは、ヴィクターが手にした
サンライトハートの瞬きだった。光は月からでも地球に届く。

 ならば、その、逆は?

 届けられるもう片方は『重力』。しかしそれは光よりもごく僅か。



 ……。


 今から始まる地球での戦いを締めくくるのは早坂秋水とメルスティーン=ブレイド。

 前者はカズキの、後者はヴィクターの戦友である。

 もしカズキとヴィクターが戦友の戦いを知ったとしても、その送受信に使えるのは光と重力のみである。

 故に、彼らの、関与は。
0094永遠の扉
垢版 |
2016/08/14(日) 22:58:25.04ID:0Q1QQcFM
 今から地球で、戦いが、始まる。






 9月16日 15時28分。

 沼津付近の森。

「1600(ヒトロクマルマル)からよねえ、大戦士長の救出作戦」
「あと30分ってとこだね。戦士たちがここに集まるまで」

 見目麗しい、女性と見まごう美貌の若い男性の呟きに眼鏡をかけた卑屈な大学生風の青年が答える。

 前者は円山円(まるやままどか)。後者は犬飼倫太郎。悪と戦う錬金戦団の一員である。敵味方問わず身長を吹き飛ば
す風船爆弾や狂犬病の名の如く暴走する犬人形の武装錬金を持つため、組織から『奇兵』として扱われている彼らはいま、
危険な任務をやらされていた。

「フム。あれが監禁場所。あれが敵どものアジトか」

 円山や犬飼の傍で遠眼鏡を覗き込む大男が1人。戦団支給の制服に時代錯誤な陣羽織を羽織っている彼の名は戦部
厳至(いくさべげんじ)。伸ばしっ放しの総髪や不遜の顔つきのせいでまるで荒武者のように見える彼は3人の中で一番の実
力者だ。どれほどのダメージを受けようとたちどころに修復する十文字槍1つで現役戦士中もっとも多くのホムンクルスを
撃破した記録保持者(レコードホルダー)が居ればこそ、敵アジト付近での斥候といった危険な任務をやっていられる円山
と犬飼だ。

「本当、戦部が用心棒だと安心ね。なにしろ相手は”あの”大戦士長を攫った実力者……ヴィクターVと互角かそれ以上」
「どうかな? 身長57mのバスターバロンを出す前に奇襲した臆病者たちの集まりってセンもあるけど?」
 属する組織の重役が誘拐されたというのにどこか人事のように麗しい声を漏らす円山に対し、犬飼は過小評価を返す。
「誘拐発生は8月29日。既に3週間近く囚われている。俺たちを力尽くで抑えられる火渡戦士長を素手で叩きのめせる
大戦士長が3週間近くもだ。もし奇襲で捕まっていたとしても……敵にはそれを保持するだけの実力があるとみるべき」
 戦部は遠眼鏡を懐に仕舞いこむと、遠望する赤い屋根の建物を舌なめずりしながら見た。犬飼とは逆で、敵がどれほ
ど強いかという期待ばかり満ちている。その期待を叶える為の戦いで味方を見捨てたり巻き添えにしたりするため戦部
もまた奇兵と呼ばれている。

 とにかく錬金戦団にとって、大戦士長・坂口照星の誘拐は恐るべき大事件だった。上層部が不気味がったのは、実行犯
が何1つ要求せぬ事実だった。普通ならば身代金要求がある筈なのに全くない。共同体の盟主といった収監中のホムン
クルスの解放すら求められていない。ならまさかと処刑映像の送付に日々身構えてはみたがそれも来ない。

 何のために照星が攫われたのかまったく不明のまま月日が過ぎ早16日目。上層部は混乱したが臨時で大戦士長代行
を務めるようになった火渡の「さっさと老頭児(ロートル)連れ戻しゃ済む話だろうが! 連れ戻して、舐めた連中全員ブッ
殺しゃそれで済む!」という恐るべき一言に鞭打たれるまま救出作戦が実行に移された。

 9月半ばとはいえまだ暑い。8月末からこっちずっと野宿前提の追跡任務に従事させられてきた犬飼たち3人は「やっと
今日でひと段落か」という気分である。
 由緒正しい戦士の家系に生まれた犬飼は、雑役婦でもできそうな追跡と監視をやらされている待遇が不満だし、エステが
好きな円山は毎日毎日汗だくの体を濾過されていない川などの水で洗う生活にそろそろ嫌気が差している。戦部は獲物の
ためなら野宿も辞さない性分だが、強豪がすぐ近くにいると分かっていながら待機せざるを得ない状況にやれやれと思って
いる。
0095永遠の扉
垢版 |
2016/08/14(日) 22:59:07.31ID:0Q1QQcFM
「まあ、仕掛け時を待たされるのは今回が始めてという訳でもない。どうせあと30分、ここまで来たら気長にやるさ」
 ずた袋から取り出した鮮血滴る生肉を頬張る戦部。犬飼はそれを見てちょっと首を竦めた。「今朝襲ってきたクマです
もんね」円山は爪にヤスリをかけながら一瞥もせず呟いた。唖然とする犬飼の視線を誤解したのか戦部は「お前も食うか?」
とハムスター風に膨れた頬で呟いた。
「いや焼けよ!! 野生をナマって! 寄生虫とか怖いだろ!」
「何を言う。焼けば炊煙で所在がバレるだろ」
「確かにそうだけど!! お前強い敵と戦いたいんだよな!? だったら焼いて呼んで抜け駆けした方がいいだろ!!」
「そういえばヴィクター級の気配、いまは1つだったわよねえ。張り込み途中から2つ減ったんだし、3人で奇襲したら案外
うまく行くかもだけど」
 なんでしないの? 爪をふうっと一吹きした円山が聞くと戦部は生肉を飲み干し、答えた。
「前も言ったが俺は大戦士長とも戦いたいんでな。迂闊で殺されてもつまるまい」
 ああそう。今回だけは特別、救出開始まで自重するって訳? 犬飼は舌打ち混じりだ。
「まあな。だが一番槍は頂くぞ。俺にここまでつまらぬ我慢を強いたんだ、戦団の連中が何を言おうが頂かせてもらう」
「ふーーーん」。犬飼の瞳から不快が抜けちょっと小ずるくなった。

 人間はちょっと同じ態度の人間を見つけると途端に気を大きくするものだ。冷や飯を食わされていると憤る犬飼は、戦部
の「さんざん待たされた」という不服とも取れる感想に我が意を得たりとばかり言葉を紡ぐ。戦団に従わない相手ならば戦団
への不満を理解してくれるとついつい淡い期待を寄せたのだ。

「本当、戦団の動きの遅さには呆れるよ」。犬飼はやれやれと嘆息した。よく見ると整っている顔立ちなのだが、全体的に
小賢しさと卑屈さが滲んでいるため「美形」という風格はない。「せっかくボクがレイビーズの嗅覚で居場所を突き止めたって
いうのに、『待て』だからね」。これで大戦士長が死んでても責任負わないよと意地悪く笑う犬飼。言外に自分を冷遇する戦団
がいかに愚かかという熱弁がある。
「仕方ないじゃない」
 円山はやや冷笑気味。稚拙な文法を肯定したら自分まで同じ穴の狢とばかり別意見。
「戦団はヴィクターに手ひどくやられたせいで軍備ガッタガタなのよ? 動ける戦士を集めたり、動けない戦士を動けるように
したりで上から下までてんやわんや。むしろ頑張った方じゃない? アジト発見からたった1週間で作戦実行なんだから」
 ま、交代要員ぐらい寄越して欲しかったけどね。シャワー浴びたさでそれだけを付け足す円山に犬飼はやや論破のたじろぎ
を浮かべたが、何かを探すように視線を左右させるや「気付き」という苦虫を噛み潰したようなカオになる。
「そのよくやってる戦団の足引いてるのは誰だい? 銀成の連中じゃないか。本当なら今ごろ楯山千歳と根来は来ていた
筈だろ」
「まあそうね。瞬間移動持ちとその制限(100kg)にひっかからない単身痩躯だもの。何事もなければあっという間に、だけど」
「銀成の奴ら、急な任務がどうとかで借りやがって……!」
「まさか大戦士長を攫った組織の、レティクルの幹部があっちに現れるとはな」
「最初こそ軽い疑惑だったのにあれよあれよと大規模戦闘に発展し! 結果!!」
 千歳は失明。敵幹部の武装錬金を除去すれば治るとはいえ「敵の視認によって索敵・追跡」というレーダーの武装錬金を
まったく活かせぬ状況に陥った。
「根来に至っては自ら失踪! しかも銀成の推測ときたら「楯山千歳の仇を討つため」……? 根来だぞ、的外れも大概だ!」
「そこだけは私も犬飼ちゃんと同意見だけど」、かつて根来に囮にされた円山は首肯するが、くすりと意味ありげに笑う。
「アナタが銀成に否定的なのって、個人的な恨みよね?」
 う。犬飼は呻いた。図星でなくてなんであろう。戦部は首を傾げた。
「ん? 何かあったのか?」
「だってェ、あの街といえば」 言うな! 鋭い犬飼の叱咤が跳ぶが円山はお構いなしに続ける。
「銀成といえば武藤カズキなのよ。再殺騒ぎの時、犬飼ちゃんに情けをかけたヴィクターVこと武藤カズキに守られた街
だもの」
「円山……! なんでソレ知ってるんだよ!! お前あのとき既に場を退いていただろ!! 誰にも言ってないのに何でだよ!」
「そりゃ、『ぶざげるなぁッ!』とか『さあ殺せ!』とか大声でガナってれば嫌でも聞こえるし察しもつくわよ。私あのとき風船に
乗ってたのよ、そんなにすぐ遠ざかれる訳ないじゃない」
0096永遠の扉
垢版 |
2016/08/14(日) 22:59:49.43ID:0Q1QQcFM
「ホムンクルスと約束するような戦士だ。運が悪かったな」
 戦部は軽く笑ってから2枚目のクマ肉を取り出した。
「あと私があの件知らないと思ってるなら銀成の下り遮りにかかったのは失敗ね。アレで何があったか確信しちゃったもの私。
フザけるなとか殺せとかだけなら、『激怒しつつ再発動した自動人形に敵の殺害を命じている』って解釈もアリだし、判断つき
かねていたし」
「円山お前カマかけたのか!?」 叫ぶ犬飼に「私にソレってギャグ?」と見た目は女性の男性はちょっと呆れたが、すぐいつも
の悠然とした調子に戻る。
「ま、再殺対象とその味方あわせて2人の前にほぼ戦闘不能で取り残されたにも関わらず核鉄持ちで生還した時点で何か
あったとは思ってたけど、そう、コトもあろうに情け深く見逃されちゃったのねえ。確かにソレ必死こいて逃げるより屈辱よねえ」
 坊主憎けりゃ何とやら。犬飼が銀成を悪く言いたくなるのも無理はない。
「でもその銀成から核鉄借りたお陰でアジト見つけられたのも誰って話よ?」
「言うな……!!」
 追跡当初犬飼はまったく手がかりを掴めなかった。仕方なく銀成市にかけあって核鉄を1つ貸与してもらい……ダブル武
装錬金、四頭の軍用犬(ミリタリードッグ)を使ってようやくココまで来れた形である。
「だ! だいたい円山、お前だって銀成守った女戦士に腹裂かれてるだろ!!?」 最後の悪あがきとばかり論理に縋る犬
飼だが、理論武装による感情正当化が通じた例(ためし)は古今ない。都知事ですら、ダメだったのだ。
「腹裂いた女戦士……ああ、津村斗貴子ね? そりゃああのコ自身はちょっと嫌いっていうか軽くトラウマだけどぉ、だから
って任務で守った土地まで恨むのは、ねえ?」
「逆恨みも格を下げるぞ。敵の気まぐれで生かされるのも一興と笑う方がまだ楽しめる」
 同じく銀成と縁深いパピヨンに敗亡した戦部にそう言われると犬飼の立つ瀬はない。彼はきゅっと唇を結び拳を握る。
「だとしても銀成のせいで根来や楯山千歳が戦線離脱したのは事実だろ……! お陰で火渡戦士長まで事後処理で銀成
寄る羽目になった! 最高指揮官の到着が、銀成のせいで遅れてないって言えるのか…………!」
「そっちの遅れは公務とかのせいでもあるし、一概にはねえ。最後に寄ったのが銀成ってだけで過剰反応しすぎ」
「だいたい遅参を言うならディープブレッシングに乗り込まされた連中も大概だぞ? 根来たちほどすぐ……という予定でも
なかったが、出発地点はそこそこ近かった筈。しかし……な」
 あちこちあらぬ方向へ行ってしまっているため、作戦刻限に間に合わぬ可能性があるという打電を受けたのがつい1時間
前である。そこも犬飼には面白くない。せっかく自分がアジトを突き止めたのに、誰も彼もが遅れているのだ。
「どいつもこいつも……! 大戦士長救出っていう重大作戦なんだぞ、30分前には着いているべきだろ!」
 歯噛みすると円山は「まあまあ」と肩を叩いた。
「強い戦士ほど厄介な任務をやらされているんだもの。救出作戦のために一区切りつけるまでどうしても時間はかかるわよ」
「その代わり直接ココに向かっている連中は粒揃いだ。ディープブレッシングに詰め込まれている半ば予備兵な連中など
比べ物にならん。20位以上の記録保持者(レコードホルダー)すら全員参加だ」
 まあそこはボクも認めてはいる。犬飼がやや寂しそうな表情をしたのは自分の持たぬ「強さ」への羨望が過ぎったからだ。
「ホムンクルス撃破数のレコード持ちが20人……だからね」
「戦部が1位だったわよね確か。で、私にソレ伝えた毒島は18位」
「さすが毒ガス持ちだ」
 肩を揺する戦部に犬飼は嫌味ったらしくすらある余裕を感じた。ABC兵器の一角に十文字槍1本で勝ってる男なのだ、
やっかまれるのは有名税だろう。
「……。火渡戦士長ですら12位……なんだよな。アイツ……じゃないあの人より強いのが戦部以外に10人も来るって
のはどうも信じられないぞ」
 だって戦団最強の攻撃力なんだぞブレイズオブグローリー……火渡の武装錬金の名を呼ぶ犬飼に戦部は
「広域殲滅をできる任務が少ないというのもあるが、どうも奴は記録稼ぎに興味がないらしい」
 犬飼ですら円山のチクリを鑑みやめた「アイツ」的な呼び方を臆面もなくやりながら、更に続ける。
「一時は取り付かれたようにやってたが、1位になってすぐ当時3位の俺に譲ってやめた。単なる闘争では満たされない
らしい。理解できん話だがな」
0097永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:00:19.06ID:0Q1QQcFM
「分からなくもないけど、とにかく11位より上の記録保持者が必ずしも火渡戦士長より強いって訳じゃないのね?」
「だな。俺は純粋に戦いを愉しんだ結果だが、中には「ハメ」で撃破数を稼いでいる者も居る。まあもっとも並みの戦士がホ
ムンクルスにそれをやれば返り討ちだが」
「そういう意味では、全員実力者……か。だったら早く着けよ。ボクがアジトを見つけてやったんだぞ。皆ボヤボヤしやがって」
 彼は拗ねた子供の表情で黙り込んだ。
「そうつまらなそうにするな」。戦部はくつくつと笑った。眉が太く顎も太い彼が笑うとそれだけで一種の凄みがある。
「無事救出が終われば勲一等を授かるのは犬飼、お前さ」
 は? 劣等感に苛まれるが故に褒められるコトになれていない青年は点目の自分を指差したがすぐに激しく首を振る。
「いやいやいや! お前もボクが火渡戦士長に電話でどやされるの聞いてただろ! アジト見つけるまで10日もかかった
んだぞ!?」
「まあそうね。犬飼戦士長ってアナタのおじいさんだっけ? 彼なら3日で見つけてたって言われてたわよねえ」
 そうだよ、だから勲一等とか、からかうな……! 剣呑な目つきで見据えてくる犬飼を戦部はあやすようにいなした。
「10日でも全く見つからんよりはマシさ」
 どこからか取り出した徳利の中身を同じく出所不明の白杯に注ぎながら戦部は言う。
「貴様は知らんだろうが、今回のような敵の目的も意図も不明な事件の時はまず、対象の所在を突き止めた者に勲一等が
贈られる。情報がない場合、正体不明を暴くのは大将首を上げるのに等しいからな。貴様の祖父もそうやって功を重ね
立場を得たと聞いている」
「じいちゃんが……?」
 意外そうな犬飼に「やだそーいうのフツー家族から聞くもんでしょ? ひょっとして仲悪い?」と混ぜ返したのは円山だ。
それをうるさいと蹴散らした青年に戦部は酒呷りつつ更に告げる。
「楯山千歳ですら突き止められなかった大戦士長の所在を探し当てた功績は大きいさ。お陰で俺もいの一番に強い者
と戦える。『今回は』組まされているからな、勘で動けぬ俺の足を引かなかっただけでも上出来さ」
「なーんかソレ、ヴィクターVのとき犬飼ちゃん尾けた私を当てこすってない?」
 おいしいところは早い物勝ちだった再殺騒動。単独行動が許されていたため酔狂な戦部は勘任せでカズキたちを探して
いた。「逢えるかどうか分からぬから面白いのさ」と横浜のホテルで笑いながら告げてきた戦部に円山はちょっとだけ負けた
気分だった。(功績より戦い、ね) おっ始まるまでの過程すら愉しむ気概にある戦部だから、『犬飼を警護しながらの追跡』
という不自由な制限すら精神の野太い顎でバリバリと砕き飲み干したらしい。
「アナタといい根来といい、なーんでホムンクルスにならないのかしらねえ。なっちゃえば今以上に好き放題できるのに」
「なって周り総てが今以上になるなら……迷わずやるさ。根来はどうか知らんがな」
 自分だけ強くなってもつまらぬと言いたいらしい。犬飼は呆れた。呆れながらもちょっと葛藤した表情で問いかける。
「前々から思っていたけど、なんでソレが楽しいんだ?」
「ん?」 3枚目のクマ肉を豪快に食い破った戦部は片目を瞑りながら不思議そうに問う。
「だからその、弱い人間の体のままで、強い奴と戦いたいっていうアレだよ。正直さ、楽じゃないだろ? 激戦の高速自動修
復があるとはいえ、いつも楽勝って訳じゃないだろ? ホムンクルスになりさえすれば、もっと強い相手をもっと楽に斃せるよ
うになるのに、なんでお前は人間を…………やめないんだ?」
 円山がちょっと緩んだ笑いを浮かべたのは、犬飼の言いたいコトが大体分かったからだ。強さという項に権力とか立場を
代入すれば彼を悩ませているものが、疑問の根源が、浮き彫りにされるだろう。
「そういう機微を俺に問われてもな」
 戦部はニっと笑った。槍一本で稼ぐコトしか頭にない自分に家柄だの権力だのの悩みを相談されても知るか、という訳で
ある。
「俺が人の身で戦うのは面白いから……などと言う回答が、低い立場で戦うのを面白がらぬお前にどうして届く?」
「…………」 聞くだけ損したという顔をする犬飼にしかし戦部は問い返す。
「逆にだ。お前の方こそなぜ人間をやめていない?」
「……………………は?」
 よく分からぬという表情をする犬飼に問いかけは続く。
0098永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:00:56.79ID:0Q1QQcFM
「権勢だけが欲しいならなればいいさホムンクルスに。今からでも救出作戦の概要を敵に売り、取り入り、戦団を滅ぼし
人間をやめて共同体を作れば後はお前の思うがままだ。見下してきた連中を力尽くで屈服させるも良し、人間どもを隷属
させるも良し、少なくても今のお前が不服とする状況は打破されるだろうに……何故しない?」
 またエラいコト言い出すわねぇ、驚きながらも戦部らしいと笑う円山とは逆に、犬飼は困惑した。搾り出すように呟いた。
「……それは…………負けだろ」
「ほう?」
 気に入らない者、上回りたい者を力でねじ伏せてきた戦部は心底不思議そうに首を捻った。
「ボクの一族は由緒正しい戦士の家柄なんだよ……! なのにボクだけが戦士をやめ怪物になる……? そんなのは、
そんなのは……負け、だろうがッ……! 見下され続けてきた腹いせに戦団を裏切り人喰いをやるなど……忌々しい
ヴィクターV武藤カズキでさえしなかったコトだ……!! そうだろ!! ボクらがさんざ追い立て殺さんとしたアイツですら
恨むどころかこの地球(ほし)守って今は月だ!! だのに見逃されたボクが……円山のいうような逆恨みでアイツ以下の
怪物に成り下がるなど…………嫌だね絶対! 誰がするか!!」
「ならばそれが問いの答えだ」
 無表情で目を閉じ酒を飲む戦部。気勢を吐き切り息せく犬飼は瞠目した。
(これが…………だと……?)
「あらあら熱くなっちゃって。つまり犬飼ちゃんってば純粋な実力で認められたいって訳ね。周りとか、家族に」
「う! うるさい! だいたいちゃんづけやめろ! 再殺の頃してなかっただろソレ!」
 だって可愛いんですもの。けらけら笑う円山から唸りつつ視線を外した犬飼のフレームにインしたのは戦部である。直接
……という訳ではなかったが、心情を整理するキッカケとなった彼に僅かだが謝意が湧いた。

(ボクにもお前ほどの強さがあれば…………もっと自由に、縛られずに生きられるのにな……)

 奇兵であるのを見ても分かるように犬飼は一族の中でも落ちこぼれである。代々犬型の自動人形による追跡や探査を
お家芸としてきた犬飼家の中にあって彼の操る軍用犬の武装錬金・キラーレイビーズの嗅覚は普通の犬の僅か2倍に
すぎない。一般人からすれば無視できない数値ではあるが、しかし錬金術によって超常の現象を起こす核鉄を用いて
たった2倍の嗅覚……である。事実、犬飼の祖父の探知犬(ディテクタードッグ)・バーバリアンハウンドは「錬金術の産物
を嗅ぎ分ける」という通常の犬ではず出来ない芸当を易々と成していた。
 犬飼個人の資質も低い。祖父が戦士長にまで上り詰めたのはバーバリアンハウンドの優れた特性を更に活かせるハン
ドラーとしての見事な能力をも兼ね備えていたからだ。犬飼はハンドラーとして未熟もいいところだ。何しろ彼は……犬が
怖い。犬を操る一族に生まれ犬の武装錬金を発現する癖に実物の犬が怖いのだ。犬のぬいぐるみや犬の写真集が好き
で趣味はドッグショーの鑑賞なのに、鳴き真似すら玄人はだしなのに、実物の、生きている犬だけは、ダメなのだ。かつて
彼は鳩尾無銘というチワワ型のホムンクルスを期せずして呼び寄せてしまったコトがあるが、見た目ちっちゃな愛玩用の
チワワにすら仰天したほど犬が苦手だ。
 だからハンドラーとしての訓練が、積めない。少なくても一族が代々培った、実際の犬を使う独自のカリキュラムをこな
すコトが……できない。キラーレイビーズを使って何とか真似してきたが、『犬を扱う一族なのに犬が怖くてそうしている』
という態度は常に大なり小なりの誹りを招いてきた。

(戦部のように強ければ、犬が平気だったら……周りの評価に卑屈にならなかったら)

 という想いはあっという間に憧憬になった。憧憬できる男が、犬飼の人生において数少ない、真当な会話をしてくれたコト
に一抹の感謝が湧いたがプライドの高い犬飼だから素直には言えない。悩んでいると、向こうの方から口を開いた。
「しかし……残念だな」
「残念? 何がだよ?」
 ホムンクルス化のコトさ、戦部は笑った。「お前のような形質の男が怪物になると存外強くなるものさ。復讐心などでな。
さすれば喰いでのある敵になると期待したが……今はまだ、無理らしい」。くいっと酒を飲む彼にとってどうやら犬飼は
「肴」でしかなかったらしい。肴はウグリと切歯しそして呻いた。
(そうだった。戦部はこういう奴だった……! くそう、知っていた筈なのに……!!)
 味方すら食べようとするなんて……何かと混ぜっ返す円山ですらドン引きだった。
0099永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:01:21.42ID:0Q1QQcFM
「いずれにせよ犬飼、お前の任務は敵の捕捉……だからな。他の戦士が到着しだい後方に下げるよう言われている」
「よねえ。ひ弱な自動人形使いの致死率は高いもの。真先に本体狙われ死んじゃうのがオチ」
 探索などの非戦闘任務にこそ将来性がある……というのは犬飼自身さきほどの戦部とのやり取りで実感し始めている
ところだ。見張りの途中でこそ敵を仕留めて功績を挙げたいなどと嘯(うそぶ)いていたが、整理のつき始めた気持ちは
少しだけ今までと違った判断を下す。

「分かってるよ。後ろに、安全な場所に下がればいいんだろ。何てったって無事戻れば勲一等なんだ……! ボクを馬鹿
にした連中をやっと見返せるって時に誰が下らない無茶なんか……! ヴィクターVの時の二の舞は避ける、直接戦闘な
ど避けてやるさ……!」



 同刻。犬飼たちの居る地点へ向かうヘリの中で。

「どうスか先輩」。ボサボサ頭の下に垂れ目を覗かせるアロハシャツの少年戦士が隣の少女に呼びかける。
「本当に可能なのか? 仕組みは全然違うと思うが」。黒いショートボブの少女は答える。顔の半ばに一文字の傷を持つ
精悍で凜とした顔つきの彼女は不思議そうに掌中の物を見た。
 それは一言でいえば”歯車(ギア)”だった。ただし機械部品のそれではなく、ちょっとした大皿ほどある丸い円盤に台形の
刃が付いたという趣だ。それを少女──津村斗貴子──は先ほどから何度か握っては試行錯誤の顔つきだ。
「そりゃモーターギアとサンライトハートじゃだいぶ作りも違いますけど」 少年──中村剛太──は言う。
「ある程度の蓄電は出来ます。後はそれを放出できるかどうかです」
 と言われてもなあ。斗貴子は微妙な表情だ。

「本当にできるのか? 生体電流の、生体エネルギーへの変換なんて」

「ご主人ご主人! さっきから垂れ目とおっかないの、一体なにしてるじゃん?」
『特訓さ! 特訓としか言いようがない!』

 剛太たちの向かいの席で騒ぐ少女の名前は栴檀(ばいせん)香美。故あって錬金戦団に協力しているホムンクルスの1人
である。ネコ型らしい大きなアーモンド型の瞳を大きく見開いて元気よく叫ぶたび、うぐいす色のメッシュが入ったセミロングの
茶髪が揺れる。タンクトップからこぼれんばかりに谷間を覗かせる胸もゆさゆさ揺れる。

『でも生体電流と生体エネルギーの違いってややこしいな!!』

 香美の後頭部から張りあがる大声は、彼女の主人、栴檀貴信の物である。彼らは、いま坂口照星を捕らえている組織・
レティクルエレメンツの幹部たちによって1つの体にさせられた悲運の2人だ。元通り別々の体に戻るため戦っている。
錬金戦団に協力したのもその流れだ。

「いろいろあるけど、簡単にいうと、内部を大人しく流れているのが生体電流、外部に向かって激しく放出されるのが生体
エネルギーよ」

 嫣然と答えて微笑する見事な黒髪ロングの持ち主は早坂桜花。生徒会長を務めている母校銀成学園のクリーム色の制
服に包んだ長身は、無骨なヘリの中にあって香るような色気を振りまいている。露出こそ少ないがスタイルの良さはタンク
トップに短パンというラフな恰好で豊かな肢体を曝け出している香美に負けずとも劣らずだ。元は信奉者というホムンクルス
に与する反社会的勢力だったが、武藤カズキとの出逢いを機に人を守る戦士へと転向した。

「違いは……分かり…………ましたけど…………それを……なぜ……変換しようと……してるの……ですか…………?」

 桜花の膝のうえにちょこりと腰掛けている少女が遠慮がちにおずおずと呟く。虚ろな双眸が嫌でも目を引く可憐な少女だ。
後ろで三つ編みにしている真赤な髪に白いバンダナをつけている。名前は鐶光(たまきひかる)。小柄だが前述の香美や貴
信の属する共同体「ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ」の副長を務めている。レティクルの幹部になった義姉の手で五倍
速で年老う体にさせられた鐶もまた元の体に戻るためこの戦役に身を投じた。

「そりゃあお前たちのリーダーがサンライトハートを複製できるからだよ」

 潰れたヒキガエルのような声音で答えたのは奇妙な人形。全身ピンク色の二頭身、頭は肉まんにハートアンテナをつけた
という恰好だ。両目は自動車のライトのよう。決して流行の可愛さを持っているとは言いがたいが、実はこの人形、清純な
る美貌持つ桜花の分身である。名をエンゼル御前という。
0100永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:02:00.66ID:0Q1QQcFM
「ったくゴーチンも大変だよな。鐶たち音楽隊のリーダーがカズキんの武装錬金コピーできるようになったせいで」

「リーダー……。あ、もりもりさん……」
「もりもり? 誰よそれ誰じゃん?」
『香美!? 僕たちのリーダーのあだ名忘れたのか!? もりもりさんだよ、総角主税(あげまきちから)氏!』
「あー。あのぎんぎらした長い金色の髪の、いっつもスカしてる! そいやアイツもりもり、もりもりだったじゃん!」
「威厳ねえなお前らのリーダー……。いや実際しょうもない部分も沢山あったけど……」
 呻く剛太の言の葉を桜花が接(つ)いだ。
「あら。しょうもなくても、色んな武装錬金を複製して使える総角クンは便利よ。実際伝手を頼って入手した武藤クンの
DNAサンプルからサンライトハートを再現できるんだもん。私の知る限り最高の爆発力を持つ突撃槍(ランス)は重要
な戦力よ。大戦士長を捕らえているレティクルとの大決戦が控えているんだから」
「そして……サンライトハートを使うのは……斗貴子さんと…………決定しました……。リーダーも使えなくはないです
……けど…………カズキさんと……らぶらぶ……な斗貴子さんこそ……使うべきと……譲りました……」
「ラ、ラブラブとか言うな鐶!! ブブブ、ブチ撒けるぞ!!」
「ヴィクターと……ご夫婦になる…………ロボットアニメ……ですね……」
 鐶は可憐な見た目とは裏腹にマイペースでいい性格で、何よりロボット大好きなヘンな子だ。それが力のないドヤ顔をす
るともうどうしようもないと斗貴子は知っているので、相手をやめる。

「とにかくだ! 私が複製版サンライトハートを手にした場合、問題がある!」
「問題って何さ。あんた強いんだからテキトーに振りまわしゃ何とかなるじゃん」
 純然たるネコな香美は面倒くさそうに、興味なさそうに半眼を尖らせた。(ああもうコレだから音楽隊の連中は……!)
決戦前だというのにイマイチ緊張感のないホムンクルスたちに真面目な斗貴子はイラっと来たが、本題を続ける。

「サンライトハートは外部に向かってエネルギーを放出する武装錬金だ。対して私が今まで使ってきたバルキリースカー
トは処刑鎌(デスサイズ)と可動肢(マニュピレーター)を生体電流で操作する武装錬金」
「つまり練習なしじゃ突撃槍の使い方が分からないってコトよ。光(ひかり)ちゃん。香美さん」
「分かり……ました……! つまり念動力なしでSRXに乗るような……もの……ですね!」
「よーわからん! つかなんでそれで垂れ目の武器もってんのさ!! カンケーないじゃん垂れ目! カンケーない!」
「うるせェ! 関係ないとか言うな!!!」
 剛太は滝のような涙を流して抗弁した。真情は桜花と、貴信だけが理解した。
(彼は斗貴子氏が好きなんだ!! だから彼女が想い人の武装錬金を選ぶのが、使うのが、耐えられない!!)
「あるよ関係はある! 俺だって先輩の力になりたいんだ! そんでモーターギアは高速機動・速攻重視なバルキリースカー
トと違って、生体電流の『タメ』が効く!」」
「事前に角度とか速度をインプットして操作できるものね」
 桜花はくすくすと──しかし斗貴子のみを想う剛太への複雑な思慕を滲ませながら──くすくすと笑う。
「つかよゴーチン。無茶すぎねえか? いきなりタメた生体電流を外部放出とか」
 ぴょろぴょろと顔の周りを飛びながらしわがれた声を漏らす御前に剛太は「うるせえな、分かってるけどやるしかないん
だよ」とボヤく。
 斗貴子は涼しい顔だ。戦輪をあちこち触りながら
「まあいちおうやってみるが、」
 キュルルルっと勢いよく回転させた。「!?」 目を見開く剛太。止まる戦輪。
「今の所これぐらいだぞ? 私がキミの武装錬金で出来るのは」
「いや上出来ですよ先輩!! 俺ですら回せるようになるまで2日はかかったのに!!」
 驚きのまま両手を握ってきた後輩に「ひやああ!?」と赤面した斗貴子は。

「い、いきなり触るな!!」

 次の瞬間、煙噴く拳を構えたまま剛太に叫んでいた。
 床に臥し「ふぁ、ふぁい」と叫ぶタンコブ丸出しの後輩に叫んでいた。

「しかしキミの武装錬金を私が動かせるのは操作方法がバルキリースカートと同じだからだぞ?」
「生体電流で操作してんだっけ? どっちも」 耳元囁く自動人形に桜花は頷く。
0101永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:02:28.82ID:0Q1QQcFM
「だがモーターギアとサンライトハートじゃ……さっきキミも言ったとおり全然違うんだぞ? 後者の練習を前者でやろうって
いうのは無茶じゃないか? 電気ノコギリの操作でロケット推進を学ぼうとするような……」
「でも」 よろよろと立ち上がった剛太は、ちょっと頭を抱えてから真剣な眼差しを向けた。
「これをやっておかないと斗貴子先輩、実戦の中でいきなりサンライトハートを使うコトになります。俺、そんな危ないぶっつけ
本番なんてして欲しくありません。先輩だって痛感した筈です。敵幹部(マレフィック)は、強い。そんな連中相手に使い慣れて
いない武装錬金をいきなり投入するなんて無謀すぎます」
 モーターギアでサンライトハートの練習をするのは無茶かも知れませんが、ある程度要領を掴んでおくに越したコトはありませ
ん。そう真摯な態度で言い放つ剛太は平素ニヘラとした軽い男だ。しかし昔救ってくれた斗貴子のコトとなると人が変わった
ように真面目になる。意思は、伝わった。
「……そうだな。複製できる総角はいま行方不明。仮に居たとしてもカズキのDNAで完全再現できる機会は一度きりのただ
5分。サンライトハートを修練する余地など元々ないんだ」
 いざとなれば一番近くでカズキを見てきた故の「見取り」で何とかしてみせると思っていた斗貴子だが、後輩の真剣な指摘と、
それからつい先刻体感したマレフィックの強さによって考えを改める。
(やはり私はまだ、1人で思い詰める部分が残っているようだ)
 カズキとの別離以来、斗貴子は少し度を失くしていた。それを最初に戻したのはカズキの妹・まひろである。そこから斗貴
子は恩人である防人衛や桜花との交流を通して少しずつだが未来を、周囲(まわり)を、見られるようになってきた。
 窘めてくれる後輩が居るというのも、幸福の1つだと、今では思う。
「感謝する剛太。ありがとう」
 少し微笑すると彼はビックリしたあと天にも昇るような顔つきになった。それが後輩ゆえの思慕としか受け取っていない斗
貴子にちょっとムクれたのは桜花である。彼女は何かと剛太に肩入れするし同情的だ。大事な存在が自分より後に現れた
自分以外の異性と絆を含めていく心痛への共感がそうさせている。桜花はずっと一緒に生きてきた弟・秋水が、最近まひろ
と距離を詰めるのを応援しながらも寂寥を覚えている。
 斗貴子と剛太に視点は戻る。
「で、キミがここまでしつこく薦める以上、何らかの確信があるんだな?」
「ええ。先輩だって見たでしょ? 早坂秋水の飛刀。あれだって生体電流のエネルギー変換の一種じゃないですか」
 あれか。斗貴子は思い出した。

 ここに来る直前、彼女は仲間ともどもレティクルの幹部と一戦交えた。木星を名乗るその幹部は非常に強く、斗貴子たち
はあわや全滅寸前にまで追いやられた。

 その場に居なかった桜花も話だけは聞いている。

「確か……秋水クンがソードサムライXを弾き飛ばされたあと起死回生とばかりやったのが飛刀、よね?」
「そうだ。飾り輪からのエネルギー放出によって刀を飛ばした。手放す直前、時間差で放出するようインプットして、敵の背後
から……な」
「モーターギアの要領ですね。まだ俺のみたく方向方角自由自在とは行きませんけど、それでも一見まったく違う「エネルギー
放出」と「生体電流インプット」が統合された実例はあります」
 まあ問題は、早坂秋水が斗貴子先輩と違って元々エネルギー放出に慣れ親しんでいたって所ですけど……剛太は自ら
アキレス腱を指摘する。斗貴子も確かになと肯(がえん)じる。
「普段やってるコトを生体電流インプットで微調整すれば良かった秋水と違って、私はエネルギー放出から覚えなくてはなら
ない……難しい所だな」
「すみません」 軽く頭を下げる剛太に「いや責めてはいない」斗貴子は言う。
「今まで武装錬金に触れていなければ放出を行えなかった秋水でさえ、遠隔操作というキミの領分を習得したんだ。まったく
違う系統を理解し取り入れるのは難しいが不可能ではない。恐らくこれは方向性の話。今まで成してきた操作とは別の操作
をイメージするコトが……重要。それに」
「それに?」
「私の特訓は恐らくキミの戦力増強にもなる」
「え? 何でですか?」
 何でってキミ。斗貴子は心外そうな顔をした。
「私がモーターギアでエネルギー放出ができると証明すれば補えるだろ、攻撃力不足。爆発か光刃か……ともかくエネルギー
系統の攻撃を乗せられるようになればマレフィックとの戦いに役立つ。キミが生き延びる可能性もまた、上がる」
0102永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:03:00.04ID:0Q1QQcFM
 またも呆気にとられた剛太は垂れ目で無気力な瞳をうるうると古臭い少女マンガの円らな涙目へと変形させた。
「先輩ーーーーー!! 俺のコトをそんなにーーーーー!!」
「ええいだから抱きつくな!!! 鬱陶しい!!」
 オロロンと纏わり付く後輩を振り切ってから。

 モーターギアを手にした斗貴子はイメージする。
(さっき剛太の戦輪(チャクラム)を回せたのは彼がそうしているのを見ていたからだ。コレが回る武器だからと認識してい
るから、バルキリースカートの応用で回転できた。では、インプットは?)
 常に処刑鎌(デスサイズ)を速攻で動かしている斗貴子。先の先を取るのに慣れすぎている彼女にとって時間差攻撃は
少し理解し辛い感覚だ。
「俺は最初、指を1本1本、ゆっくり折るような感覚でインプットしてました。5秒後に人差し指、10秒後に中指、そう考える
ようにね
 目を閉じている斗貴子に剛太の声が響く。「先輩の場合は、バルスカを1本1本そうするような感覚の方がいいかもです」
「了解した」。事務的に答える斗貴子。
(不慣れなうちは単純な動きでいい。5秒後に右回転。10秒後に左回転)

 6秒後。戦輪が右回転を実行した。13秒後、途切れ途切れだが逆方向への回転を始めた。

「おおー」 香美が目を輝かせた。

「動きはしたがやはりいきなり完璧は無理、か。後の操作になればなるほど精度が落ちると直感した」
 嘆息する斗貴子に剛太は「いやいやバルスカで生体電流操るの慣れてる先輩だからこそそれだけ動かせたんですよ。
不慣れだとああなります」、鐶を指差す。

「1秒後、右に……。3秒後、左に…………。ダメ…………です。動きません……」

 残る1つの戦輪を手にして四苦八苦する彼女は一団の中でも群を抜いた実力者である。

「でも光ちゃんは鳥への変形とか年齢吸収の短剣で戦うタイプ……細かい操作が苦手でも仕方ないわよ」

 そういう桜花も鐶から手渡された戦輪を、回転1つさせられない。矢を精製して射る戦闘スタイルゆえに生体電流の使い
方が分からないようだ。

「ゴーチンお前よくこんな訳わからん武器動かせるよな」
「お前が言うな。この無駄に多機能な自動人形め」

 剛太は不快そうに御前を見た。
 矢の生成や通信機能、ライト照射、お菓子を食べたりお漏らししたりと戦闘に関係ない機能を満載している不可解自動
人形に訳わからんと言われる筋合いはない、まったくない。

「とにかくインプットが分かったので次です。爆ぜさせるイメージでやってみましょう」
「不躾な質問だが、キミは考えたコトないのかソレ?」聞かれた剛太は「ないですね」と頷いた。
「俺、初めてモーターギアを発動したとき、直感したんですよ。「ああコレ複雑な、時間差とかの攻撃で敵を翻弄するタイプ
だな」って」
「頭を使って戦うキミらしい感想だな」
 斗貴子に褒められたような気がしてちょっとニヘラとした剛太だが説明の最中だと顔を引き締める。
「ほら武装錬金って自分自身じゃないスか。だから直感したならそれが一番自分に合ってるってコトだし、教本にだってそ
似たようなコト書いてあったでしょ? だから爆発的な威力は考えたコトも……あ、さっき先輩が言ってくれたエネルギー
攻撃は別ですよ。今の俺はアリだって思いましたから、大丈夫ですっ!」
(剛太クン本当津村さんに甘い……)
 桜花は吹き出しそうな口を品良く抑えた。仄かな思慕こそ抱いているが、不思議と剛太が斗貴子にデレデレする姿に
不快感はない。むしろそういう一途な剛太だからこそ目が離せないのだ。
「でも斗貴子先輩にはエネルギーを絡めた攻撃イコール爆発って認識があるじゃないですか。今度はそれをインプット
してみてください。先輩が一番イメージしやすいのは……そうですね、武藤に何秒かあと特攻するよう命じるような。それ
でいてバルキリースカートに同じタイミングで全開機動するよう命じるような感覚……でしょうか。俺がいうような状況になっ
た場合の戦闘の昂ぶりを第一に考えてください。その中心にサンライトハートの炸裂があると考えて下さい」
 指示しながら剛太は「あれ俺なんか辛い状況に自ら自分を追い込んでね?」とも思った。
0103永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:03:20.20ID:0Q1QQcFM
 そうであろう。自分の武装錬金で、想い人が、自分以外の想い人を強くイメージした現象を起こすのだ。貸した車の中で
恋文を書かれるような物である。或いはそれ以上の取り返し付かぬコトをカズキと斗貴子に交歓されるような。
(……そ、そういえば先輩と武藤は既に)
 決戦場に向かうまえ剛太は演劇をやらされていたが、それに纏わりつくイザコザの中で彼は見たくなかったキスシーンを
しこたま見せ付けられた……のを思い出した。
(ああもう考えるなってのそういうコト! いま大事なのは斗貴子先輩を生き延びさせるコトだ!! もうすぐ決戦!!!
先輩が生き延びられるなら武藤の武装錬金でも何でも使わせる!! 嫉妬でやるべきコト怠って斗貴子先輩を死なせたら
俺は武藤より、あの激甘アタマより下ってコトになるだろ!)
 思考は犬飼と似ているが剛太の方が深刻だ。人は大事な存在に認められないと苦しむが、認めてくれた存在に報えない
時はもっと苦しむ。犬飼は片方だけだが剛太は両方だ。好意という土俵において「報いたい」が「認められる保証はない」。

 だが大したもので、剛太は精神具現そのものであるモーターギアを一切崩壊させなかった。

 斗貴子の方はというと。

(カズキに槍を爆ぜさせるよう指示しつつ、私も全力攻撃に向けて力を溜める……。剛太はそれが観念的なコトと言いたげ
だ。つまり本質は爆発。何秒後かに爆発があると……爆発を起こすと念じるのが操作の要諦)

 様々な思惑を生体電流に変えモーターギアに蓄積していくのをまずイメージ。
 更にそれへ所定の時間に所定の規模で爆ぜるよう命令。

 すると。


 パチッ。


 僅かだがモーターギアの表面で火花が炸裂した。


「剛太。これは?」
「少なくても俺はやったコトありませんね。小規模ですが放出と見ていいかと」
「では、今の感覚を昇華すれば」
「ええ。サンライトハートの最大出力だって不可能じゃありません。たぶんあっちを使う時は何秒か操作の違いに戸惑うでし
ょうけど、放出の仕方を1から考えるよりは多分楽です。何しろ武藤でさえ扱えていた武装錬金なんですから、放出のコツ
さえ分かってればすぐ使いこなせるでしょう」
「そうだな。あのコは細かいコトなど一切考えずただ突っ込んでいたからな」
 しょうもないコだといわんばかりに笑う斗貴子に剛太はチクリと痛むものを感じながら、言う。
「でもそれも1つの才能じゃないですかね。俺らが苦労してやっと得られるかどうかって物(モン)を、事もなげに持ってるん
ですから」
 斗貴子に好かれる才能……という意味で言った言葉だが、当の本人はもっと人間的な、器的な才覚という意味で解釈
したらしい。
「立派だとは思うが、私たち戦士が備えていて当然の物を彼は持っていないからな。それゆえ救えた物も確かにあるが、
私たちを困らせるコトだって多いんだ。まったく。どうやって連れ帰れって話だぞ」
 軽く憤る先輩に後輩は気付く。
(アレ……? 斗貴子先輩、置き去りにされたコト、少し割り切り始めている……?)
 一時は永遠の別離に見舞われたように落ち込んでいた斗貴子がいま「連れ帰る」といったのだ。失くしたものを取り戻す
方に向かって心が動き出しているようだった。

「剛太。決戦前だがもう少し借りていいか? なるべく練習しておきたい」
「あ、はい。どうぞ。多少の放出は大丈夫ですよきっと。俺の無意識的な自衛意識が防御力を高める気がするんで……」
 斗貴子の生体電流に乗るカズキに自我(ぶそうれんきん)を壊されたくないという精一杯の抵抗のつもりで吐いた言葉で
はあるが、それを解する斗貴子であれば受け入れるなり断るなりで剛太の煩悶へとうに明確な決着をつけている。
「放出で、自分の攻撃で壊されないための自衛反応という訳だな。私もなるべく加減はする。速攻での放出に主眼を置く」
 事務的に頷く彼女に香美を除く他の面々、「ああ……」と呆れる。

(斗貴子さん……そういうコトでは…………ないのです…………。無銘くんなみの朴念仁さん……です)
(新人戦士! わかる、わかるぞそういう気持ち! 高校でぼっちだった僕には分かる!!)
(津村さん? 剛太クンは武装錬金を貸してまで貴方に……)
0104永遠の扉
垢版 |
2016/08/14(日) 23:03:43.37ID:0Q1QQcFM
 品よくもやや憤る桜花が何か言おうかなと考えた瞬間、傍らを野性味あふれる影がバっと抜けた。

「垂れ目。あんたなんか辛そうじゃん。でもなんか頑張った感じじゃん、えらいっ! なんかえらい!!」
「だあもう頭撫でるな!! つうか本当お前俺のコト名前で呼ばないのな!!」


「つかうるせェぞテメエら!!」

 ヘリ前部の席から怒号を飛ばしたのは火渡赤馬。攻撃的な総髪にツリ目太眉キバ剥き出しといかにも怪物な容貌だが
れっきとした戦士である。それどころか現在誘拐中の坂口照星の代わりに錬金戦団日本支部の総指揮官を務める立場だ。

「戦士がホムと馴れ合ってるんじゃねえ! どうせこの作戦が終わったらクソッタレた共同戦線も仕舞いってコト忘れたか!」

 ひいえええ、怒られたああ! ガタガタ震えるエンゼル御前。剛太も少しビビった。斗貴子と桜花は理性で黙る。鐶は
「凄い……覇気、です! ゲージMAX、です!」と嬉しそう。香美だけはムガーっと顔をしかめた。

「うっさいのあんたじゃん!!! 光ふくちょーたちが仲良くしとんのジャマしたらダメじゃん! ダメ!!!」

 ホムンクルスだが弱いものイジメが嫌いな真っ直ぐな香美はカチンときたらしい。うがーっと気炎を上げる。背後から『ちょ、
香美、その人偉いし怖いし、作戦前に騒いでた僕らも悪いから、大人しく!!』と気弱な飼い主が声を上げるが「ご主人は
黙るじゃん!!」とシャーシャー吹く。

「んだと!」

 露骨に顔を引き攣らせる火渡。席から腰を浮かせかける。

「まあまあ火渡様落ち着いて」

 横合いで窘めるガスマスクは毒島華花。火渡の秘書的立場の「少女」である。

 その向かい側で唸る少年が1人。

「俺だけ場違いなような気がしてきた……」

 彼の名は鈴木震洋。桜花と同じくかつては信奉者だった男である。ただし見目麗しい桜花と違ってイマイチぱっとしない
眼鏡少年である。明確な改心も実はない。一時期は物騒な錬金術の産物を自ら取り込んだせいで悪霊めいた存在に体
を乗っ取られ悪行を尽くしていた。

(もう1つの調整体……飲むんじゃなかった。ムーンフェイスに除去されても破片が残っててそれが悪性腫瘍みたいな発達
遂げて)

 しかも別口の悪党からさらに奇妙な霊石を埋め込まれたせいでどんどんと人間から遠ざかっている。

「まーまー。強いからいいのだよ青少年!! おかげで殺陣師サンたちも戦力増えたし!!」
「勝手に組み込んだのお前達だよな!? 俺巻き込まれているよな!?」

 震洋が呼びかけるのは野性的なショートカットの少女である。名を殺陣師盥(たてし・たらい)。大学生がサバゲの恰好を
しているような雰囲気だが全身のいたるところに見え隠れする傷が決して恰好が趣味だけではないコトを物語っている。

「まあまあ青少年。もうここまで来たら引き返せない訳だし」

「他の戦力ももう、来てるよ。近くまで、ね」


.
0105永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:06:05.24ID:0Q1QQcFM
 以下、○○kmは「犬飼たちのいる集合地点から」を指す。

 北北東2214m。

「うーん。今日も今日とていい天気だねえ。ああでも関東の方は日没前から雨だそうじゃないか。それまでには済ませたいねえ」

 伸びをした少女が歩き出す。雲を思わせる白くてモコモコしたロングヘアの少女がゆっくりと南南西めがけ歩き出す。ホッ
トパンツの裾から裾へ無造作に突っ込まれている指示棒──戯画的な指差しのオブジェ付きだ、それは下へ、太ももの辺
りへ突き出している──がテクテク揺れた。

「さてさて。津村さんはドラちゃんのお姉ちゃんのコト、覚えてるかねえ? こればっかは予報できない人の心〜♪ るらら〜」

 台風のような渦だった。瞳はそんな螺旋だった。いわゆる「台風の目」部分が瞳孔という、変わった風貌だった。


 南南東1283m。

「あの天辺星さま? 私遅刻しないためのタイムスケジュールちゃんと伝えた筈だよね? なのになんで間に合いそうにないの?」
「ふっふー! 元レティクルなアタシが大事な作戦に遅れかけてるとか裏切りっぽくてチョーチョー悪い感じ!」

 いや急ごうね? 刑事ドラマの若手刑事を思わせる風貌の青年にどんよりした瞳を向けられた金髪サイドポニーの少女は
「うう。奏定は黒服みたいに言う事聞いてくれないから苦手、チョーチョー苦手……」と肩落としつつも北北西へ。

「奏定副隊長も大変だな……」
「いつも思うけど隊長が、いや天辺星さまが元レティクルって話本当なのか?」
「アホっぽいコだからなあ。天王星の幹部だったっての、フカシって可能性も」
「なぜかその辺りの資料、無くなってるんだよなあ」
「管轄は確か石榴さん……だったよな。すごく几帳面で、10年前の天王星の幹部の事件の資料も」
「大切に保管してたさ。だってあの事件で親友が死んで、その旦那さんも戦士やめたから、大切にする」
「でも無いんだよな……? 石榴さん自身も事件から1年と経たず不審死だったらしいし……」
「だいたいだ、資料がなかったとしても当時の記憶はあるだろ誰かしらに」
「なんで誰も成否を判定できないんだ? まるでみんな記憶をイジられているような……」
 あの事件は本当ナゾが多いよな……奏定と呼ばれた男や天辺星さまの後ろをついていく部下達は首を捻る。

「しかも天辺星さま曰く、武装錬金が当時の土星の幹部のそれと入れ替わっているらしい」

 キャミソール姿の彼女の腰から下がっている鞘を見ながら部下の1人が囁く。

「陰陽双剣、って言うんだよなアレ。1つの鞘に剣が2本入ってる。7年ぐらい前の事件で入れ替わったそうだ」


 北西3821m。

「やっと!! やあああああああああああああああああああああああああああっと! 着いた!!」
「着いたああああああああああああああああああああああ!!!!」

 巨大な陸戦艇から転がるように飛び出した戦士たちは梢に覆われた天を仰いで叫びたおした。

 最後に陸戦艇から出てきたいかめしい顔つきの老人は静かに述べる。

「総員整列。ここからは徒歩にて所定の位置へ移動する。ただし当作戦は大戦士長の救出作戦である。奇襲と隠密が旨で
ある。隠密行動を最優先とされたし。繰り返す。隠密行動を最優先とされたし」
「艦長。みんなとっくに行ってます」
「ずーっとディープブレッシングに閉じ込められてからなあ」
 恰幅のいい水雷長と痩せぎすった航海長のぼやきの前でつむじ風が木の葉を1つ宙返りさせて去っていった。

「行くぞ、我ら最後の戦いだ」

 置き去りにされたにも関わらず艦長は重厚な声で帽子を直し……歩き出す。サマになっているがどこか滑稽だった。
0106永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:07:16.48ID:0Q1QQcFM
 そこから5m北西の茂みの中。

「うおー! 見て見てシズQ! ディープブレッシングだよディープブレッシング!! わたし初めて見たー!!」
「お静かにいのせん。存在を気取られたら押し込められますよ」
「月吠夜(げつぼうや)! 潜水艦なんざどうでもいい!! 俺が戦士なんぞになったのはクソアルビノを……新のガキをブ
チ殺すためだ!」

「あの野郎いまはレティクルの幹部って話だからな……! 今度はこっちが正義、しかも厄介な黒ジャージの恋人はおっ死
んでやがるらしい、今度こそ殺す、星超新、ウィルってガキを、殺す!

 ソバカスが目立つ若い男はがなり立てる。

「やれやれ。いつも思いますが貴方よく戦士になれましたねシズQ」
「知ってる過去の出来事をタネにホムンクルスから人間守ってやったからな……! 未来から飛ばされた故の特権て奴さ」
「ほんと、大変だったよねー。未だになんで過去に飛ばされたか分からないよ」


 西方2810m。

「師範。部隊員総て集まりました! ウス!」

 日本刀を携えた鋭い顔つきの男性に上申された女子高生は鷹揚に頷いた。黒髪ロング以外これといった特徴はないが、
美とは突き詰めれば平均値……という説を取るなら、彼女は限りなく平均(ぜっせい)の美少女だった。起伏もほどよく扇情
的である。半袖ミニスカ、腰の辺りにカーディガンを巻いている。

「ま、武装錬金持ちじゃない君達は無理しないコトだね。錬金術製の合金武器に鳩尾無銘(きゅうびむめい)の龕灯でソー
ドサムライXの切れ味を付与しただけの……いわば量産型だ。いくらがフィジカルがメダリスト並で、剣腕が全国大会8
位以上確定だと言っても、深追いは禁物。『核鉄持ち以外は戦えない』と思い込んでいるレティクルの幹部どもを埒外
から奇襲しては逃げすさる、そんなクッソせこい馬鹿みたいな戦法で少しずつ削ってやるのがお役目だ。それは分かるね?」
 
 分かっています、ウス!ずらっと整列する男達は声を揃えて応答した。

「他の部隊もレプリカ武器+性質付与の贋作武器で攪乱する方針です! ウス! 」
「核鉄は希少ですからね! ウス!」
「しかも扱える戦士は、強いものほどヴィクターの件で消耗し……本来の調子を失っている! ウス!」
「それだけに救出作戦に選び抜かれた武装錬金使いはレア、彼らの生存確率を上げる意味でも」
「全体的に減少してしまっている彼らの穴を埋める意味でも」
「レプリカ武器+性質付与の贋作武器こと『無銘の武器』を手にした我々はゲリラ戦術の徹するべきです! ウス!」

 うんうん。君達よく分かっている。女子高生は腕組みして頷いた。二の腕を指でトントンしながら語り出す。
「個人的な話だが、私もレティクルの盟主には大概腹が立ってんだ。友人を殺されてしまったからね。異端扱いされてた
私の著書を面白いと言ってくれた、一番のファンでもある友人を、私は盟主に殺されたのさ。以来ね、願をかけた訳だ。
些細だけどね。『仇を討つまではウザい語尾をやめよう』……ってね」
「知ってます、ウス!」
「何度も聞きました、ウス!」
「でも語尾欠で物足りないってコトで俺らがウスウス語尾につけろと命じられたです! ウス!

 ノってくれる君らも君らだけどね、愛してる。ばーっと両手で投げキッスをすると部隊員たちは「ウスーーーー!」と歓声を
上げた。
「フフン。フツーに女子高生やればコレぐらいの人気は獲得できるのだよ、武藤ソウヤめぇ、よくもこんだけのクオリティのあちし
無視してくれたなぁ!!」
「?? う、ウス?」
 律儀にも疑問符を叫ぶ部隊員に少女はこちらの話さと切り替える。
「ともかくだ。我々は予想外の暗闇から幹部どもの頬桁をブン殴ってまわるぜ! ヴィクターの乱で疲弊して碌な戦力がねえっ
て錬金戦団舐めていやがるレティクルの連中に、銀成の戦力と音楽隊”だけ”が脅威だと他を見縊ってやがる盟主のクソぼけた
部下どもに、月並みだが無銘の武器で目にもの見せてやろうじゃないか!! 鉤爪さんとか糸罔部隊とか、奴らに殺された
いい人たちの仇を、討ちまくれる日は今日、トゥデイ!! だろっ!!」
「「「「「「「「「ウス! 了解です師範! 『12代目チメジュディゲダール』師範!!」」」」」」」」」
「よっしゃやらかすぜテメエらーー!!」
 毛抜形太刀を天に向かって勢いよく突き上げる女子高生もまた遥か未来から飛ばされてきた人物である。
0107永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:40:08.35ID:s8RD7gdj
 西方2493m。

 一見普通の森の中で空間が裂けた。
 裂け目はあっという間にブラックホールを思わせる暗紫の渦となり……

 ある物を2つ、吐き出して閉じた。

 少し前。ヘリの中で。

「……ん?」 殺陣師は一瞬ピクっと耳を動かした。何かあったのかと訝しんだのは斗貴子だがネコ型で耳のいい香美に
それとなく問いかけても「?? 別に何もないじゃん」。

(じゃあ何だ今の反応? 何に反応したんだ彼女?)

 斗貴子の疑念も震洋の文句もよそにアーミールックな先輩は心の中で、笑う。

(成程。このタイミングか。いよいよ彼女も参戦と)

(ならちょっと、『調整』が必要、だな…………!)


 森の中。

 時空のねじれが吐いた物の片方は青年だった。
 大きな刀を手にした金髪長髪の欧州美形だった。胸には認識票。

「フ……。やはり『ワダチ』の複製は……身を削るか。とはいえ時の結界を壊しうるのはコレしか、な」

 ジジリと存在の解像度を下げながら溶けていく肉体の輪郭にやれやれと溜息をついた彼の名は総角主税。
 銀成におけるマレフィックとの戦いで少女を庇い時空の彼方へ消えた、音楽隊のリーダーである。

 周囲を見渡した彼は軽く息を吐いた。

「フ。てっきり元の銀成に出ると思っていたが……位相のズレという奴か、どうやら決戦場の近くらしい」

 ヘルメスドライブを起動した彼は、香美や鐶と言った部下たちが自分のいる座標に近づいてきているのを見た。地図の上で
マーカー表記の体(てい)を取っている彼らの移動速度はヘリのそれ、ならばココが坂口照星奪還の決戦場だと推測するに
些かの時間も要さない。

「……運よく来れたと思うべきなのだろうが…………。フ、果たしてこれは偶然なのか? 何者かの作為や導きを感じなくもない
が……まあいい、ともかくもコレで義理を果たした。『本家への』義理を、な」
0108永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:40:59.50ID:s8RD7gdj
 剣を握っていなかった方の手で抱きすくめていたのは女性である。年の頃は20代前半といったところか。流れるような
金髪はどこか総角との血縁を疑わせる色艶だ。どうやら意識がないらしくジっと目を閉じているがそれでも知性の高さが
伺えるのは何も小さめの眼鏡のせいではない。雰囲気だ。磨きぬいてきた佇まいが無言の説得力を与えている。
 彼女には2つ、目立った特徴があった。1つは髪の先端。セミロングの先端は虹を並べたような色艶に分化している。
赤や青、紫に黄色と言った基本的な色彩の他に、黒や茶色といった地味なものも混じっている。そして……金髪のブランク
に染まっていた部分がどういう訳かみるみると銅色に染まっていく。
 もう1つの特徴は服装だった。『法衣』を纏っている。露出こそ少ないが胸部ははちきれそうな程に膨らんでおり、却って
妖艶だった。

「ソウヤ君……」

 覚醒の兆候が見えた彼女を総角は、手近なベッド型の石にそっと降ろし南西を見据える。

「同じ改竄者の手によって時空の彼方に追いやられたお前が今まで何をしていたのか……。ひょっとしたら魂だけを過去に
飛ばし何らかの対策を打っていたかも知れないが……フ。聞いている時間はないな。俺には俺の戦いをすべき責務がある。
義理は返した。別行動だ。お前の方も好きなよう動くがいいさ」

 消える総角。同時に身を起こした法衣の女性はゆっくりと辺りを見回し──…

 数分後、チメジュディゲダール師範に率いられた戦士たちはここを通過するが、その時のベッド型の石には……もう誰も
横たわっていなかった。

「フ」

 森を駆けながら総角は笑う。

(しまったぞ集合地点に居る犬飼・円山・戦部と俺は面識が……無い! ヘルメスドライブで瞬間移動できないぞこれじゃ!)

 汗を頬に浮かべたが、彼はすぐさま余裕タップリの表情で走り直す。傍目から見れば英姿颯爽だが、内心は(どうする鐶たち
の方へ跳んで合流するか? いやそれだと目的地から一旦遠ざかるしツッコまれる! 策士気取るなら犬飼たちの所にも飛
べるようにしておけよと呆れられる! それは嫌だ、走って着く方が絶対速い!)と焦っているなんとも締まらない男だった。

 同刻。銀成市・聖サンジェルマン病院。職員を務める戦士用の稽古場で。

 早坂秋水は自分の繰り出した竹刀が弾かれるのを見た瞬間、少しだがその端正な瞳を丸くした。相手は両目を包帯で
覆っている楯山千歳。少し前あったレティクルエレメンツ・木星の幹部との戦いで一時的にとはいえ失明した彼女が稽古を
申し込んだのは秋水が度重なる疲労によるしばしの眠りから目覚めてすぐだ。

「感謝するわ戦士・秋水。武器を持った相手に馴染むには貴方のような優れた剣術家と戦うのが一番だから」
「……傷は、大丈夫ですか?」

 瞳を隠しても匂い立つような色香が漂ってくる妙齢の女性を秋水という比肩なき美剣士は心配そうに眺めた。手の甲や頬
についた痛々しい青痣はもちろん稽古でついたものだ。相手が光を失くしている以上秋水としては極力加減したかったが、
「本気で来て貰わないと私も実戦で戦えないから」という千歳たっての申し出に迷いを断って……攻め続けた。

「しかしたった20分ほどの稽古で10回に7回も防げるようになるとは……」
「索敵専門だったから、敵とか攻撃の気配には敏感なの。さすがに逆胴は防げなかったけど…………」

 軽く脇腹をさする千歳。もちろん必殺の一撃を盲目の女性相手へ全力投球するほど非情な秋水ではない。技が技だけに
幾分か抑えたものを予告つきで(それも千歳の要請に従う形で)放ってみたが、流石に完全回避とまではいかなかった。

「あれは強力な攻撃が来たらヘルメスドライブで咄嗟に避ける訓練だったの。でも視覚がないぶんいつもより対応が遅れて
いて、だから転移前の一瞬、掠ってしまったようね」
(剣道部員なら掠っただけで5分は寝込む威力なんだが……)
 千歳は平然と立って稽古を続けている。大した精神力だと秋水は思う。
(この街がレティクルに狙われている疑惑もある。だからいざという時の守りの戦力として少しでも最善を、か)
 彼女の過去は又聞きだが知っている。とある任務で多くの子供を死なせてしまったのだ。優しさゆえに犯してしまった些細
なミスを悪用したホムンクルスこそ本当の元凶ではあるが、それを防ぎたいと願ってきた真面目な千歳にとっては自責と
自罰の決して抜けぬ咎の棘。
0109永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:41:25.23ID:s8RD7gdj
(演劇の時、生徒達を見る千歳さんの目は……)
『今度こそ』という決意に満ちていた。その光を脳裏に照らすたび秋水はカズキを思い出すのだ。蝶野邸で多くの人命を救
えずパピヨンすら殺さざるを得なかった悔恨あらばこそ、彼は「今度こそ」と奮起し秋水相手の苛烈な特訓をやり抜いた。
 今の千歳はカズキに似ている。しかし剣を交える秋水の方は彼を相手どっていた頃の彼ではない。相手を、ただの練習
道具としか看做(みな)せなかった頃ではない。相手の理念を理解し、尊重し、そしてそれを達するための努力に貢献できる
コトに静かな幸福と充足を覚えている。

(俺も千歳さんたちと同じくこの街を守る使命を帯びている。残留した他の戦士たちも同じだ。守りたいという気持ちは同じ)

 そういう者たちの力になりたいと秋水は思っている。剣で助けるだけではない。剣客としての着眼点を提供し、仲間たちの
思考の幅を少しでも広げる助けるになりたかった。

「そろそろコレを使うわ」
 千歳が構える小ぶりな刀に青年は見覚えがあった。
(シークレットトレイル。行方を晦ませたねごっちー……もとい根来が残していった武装錬金)
 戦友の両目を潰した狡猾な忍びを討つため自由な立場の抜け忍になった根来。彼が去りぎわ千歳の枕頭に愛刀を置いて
いったと判明したのはつい先刻。身を守れ……などというメッセージは孤高の彼らしくないと皆思うが千歳の状況を鑑みると
到底一笑には伏せぬ推測だ。
(とにかく目が見えない相手とはいえ手にしているのは真剣……。盲剣法という言葉もある、却って無軌道な攻撃が来るかも
知れない。注意を──…)
 秋水は決して千歳を見縊っていた訳ではない。索敵専門とはいえかつて剛太が音を上げた過酷なサバイバル訓練をやり
抜いた体力の持ち主なのだ。大戦士長・坂口照星の懐刀として難易度の高い潜入任務を幾つもこなしてきた行き掛かり上、
いざという時の心得、武術の嗜みがあるのだって秋水は見抜いていた。演劇で剣舞を披露した彼女に対し(初段以上はある。
剣道1つに絞れば1年で三段相当の腕前になれる)とさえ太鼓判を押したのだ。
 だがそんな彼の動体視力を超越する動きを千歳は起こした。端的にいえば「消えた」。
(防人戦士長直伝の抜重? いや、違う!!)
 即座に振り返る。白刃が白刃を受け止める音がした。舞い散る火花の向こうには浮遊する千歳。床と足裏は2mほど離れ
ている。飛んで跳ねる剣法は決してない訳ではない。タイ捨……松林蝙也斉……。だが秋水のアンサーは違う。
(瞬間移動! 俺の背後にワープし剣を、か!!)
 刀を引きつつ空中で身を捻る千歳。斜め下へ向かう斬撃は落下質量を加味した物だ。47kgと軽量な千歳ではあるが
未知の刀法に軽く酩酊する秋水はごく僅かだがたじろいだ。剣を弾く。陽炎を抜けた。千歳はもう真横に居る。横目で
顔を見た秋水は裂帛の気合を上げながら……彼女に背を向け! 剣を動かす!

 真・鶉隠れ。剣風乱刃で敵を包囲して切り刻む忍びの技が乱れ斬りに弾かれ床に刺さった。

 千歳は、頬を掻いた。
「私を囮にすれば少しぐらい当たるかと思ったけど」
「見事な策ですが、姿を見せようとするあまり近づきすぎたのが敗因です。あの距離に瞬間移動できるなら迷わず刺すのが
剣士……無銘なら間違いなくやっていた」
「なのに私はしなかったから、囮、と」
 小細工を弄するのも考えものね。どこか悩ましく息を吐く千歳に
「ですが瞬間移動による斬撃と真・鶉隠れの二者択一は攪乱には充分です。どこから来るか分からない斬撃と、瞬間移動に
目を奪われた隙に亜空間から発生する乱撃……。うまく組み合わせれば充分敵の意識を逸らせます」
 秋水は自分なりの感想を伝える。
「ありがとう。でもやっぱり、決定打にしようとするのは……危ないわよね」
 ええ。秋水は頷く。剣士だから知悉し抜いているのだ。功を焦る「力み」がどれほど危険かを。
「ただでさえ目が見えなくなっていますからね。攪乱は回避に重きを置いた方が」
「そうなると、決定打は」
0110永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:41:39.86ID:s8RD7gdj
 別の階の稽古場に佇む防人衛はその鍛え抜かれた筒型の体を静かに踏み出す。

 大人ほどある背丈の藁人形に左の掌底を叩き込み、右の拳を上から当てる。

 ずっと研鑽している重ね当ては様々な人間との様々な交流によって少しずつ完成形に向かいつつあった。

(だが……あと1つ。あと1つ…………何かが足りない)

(この程度では俺は子供達を……。赤銅島の過ちを、また…………)

 閃光を放ち爆発する藁人形に背を向けながら防人は憂いのある表情を浮かべる。


「……いや、未完成ってカオしてるけど、ソレもう充分な威力じゃないの?」

 呆れたような声に防人はふっと顔を上げる。部屋の入り口に居るのは輝くような少女だった。艶やかな金髪をヘアバンチ
という筒で小分けにしたセーラー服の彼女の名はヴィクトリア。小さいのにいつも戦士相手には剣呑な目つきをしている
彼女はホムンクルスではあるが、自ら志願してなった訳ではない悲劇ゆえに今は銀成学園の生徒の1人だ。生意気だが
根はマジメで優しい少女と知っているから防人は逢うたびついつい気軽に応対する。

「ブラボー。充分といってくれるのは励みになる。だがまあ、俺的にはまだまだだな。見てくれ」

 技の話である。藁人形の上半身は右が3分の1ほどが削れず残っている。

「柔らかい素材すら完全には爆砕できていないんだ。俺が戦うホムンクルスは金属質……この程度ではとても切り札には、な」
「それでもニアデスハピネスと……黒色火薬(ブラックパウダー)とどっこいどっこいの威力じゃない」。耐火不燃性の床の上で
メラメラばちばちと燃え盛る藁くずをゲンナリした半眼で肩落としつつ眺めるヴィクトリアはごちる。「重傷で戦線離脱と聞いて
るけど……不十分でコレって。呆れるしかないわ」
「ん? ああそうか。キミ、もしかしてパピヨンを探しているのか?」
 会話の流れからすると妙な気付きだが、「敵に何やら超エネルギーを降ろす媒介として狙われているらしい」と先の戦いで
判明したため病院地下深くに匿っているヴィクトリアが、である。嫌いな戦団に説教されるの覚悟の上で部屋を出てうろつ
いているとすれば、最近急速に距離を縮めた気まぐれな蝶人を探していると考える他ないのである。果たして図星だった
らしい。「その様子じゃ見てないようね。いいわ」。プイっと出て行くヴィクトリア。防人は考える。

(パピヨンがいない? ボロボロで収容されたのに? 病原菌”そのもの”な幹部の、天敵の攻撃を受けて消耗しきっているのに……?)

(まさか彼……病院(ココ)の外へ? 


「なあ、病院(ココ)の外って行っちゃいけねえのか?」
「やめとこうよ岡倉君。演劇の途中でヘンな武器出しちゃった僕たちは念のためしばらく隔離って話だよ」
「大浜の言うとおりだぞ。じっとしてろ。どうせバイクだろ。雨が降りそうだからカバーかけたいとかそんなんだろ」
「うるせェ六舛!! 俺のバイクは寄宿舎の裏にこっそり止めてんだぞ! 屋根がないから予報で雨って聞いたら、人情だろ!」

 同じく地下施設の一室で騒ぐ少年3人の傍で少女2人は困惑顔。

「……ねえちーちん、絶対何か、起こってるよね」
「うん……。演劇の会場、あの養護施設、火事起こしたのに何故かすぐ元通り、だし」

 普段は対ホムンクルスのミーティングルームとして使われているその部屋にはテレビがあった。ちょうどローカルニュース
が放映中で、画面の中では見慣れた押倉レポーターが市内でマイクを持っていた。
0111永遠の扉
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2016/08/14(日) 23:42:06.90ID:s8RD7gdj
「ご覧いただけるでしょうか。あのテープの向こうは銀成市の再開発地域の中心部ですが、およそ500mに渡って何か途轍
もない熱源が直撃したように溶けています。現在、警察や消防が現場検証を行っているため直接立ち入るコトはできませんが、
私達から見える範囲でも鉄骨ごと溶けたビルや放置車両のものだったと思しき残骸、更にアスファルトに大きく開いたクレーター
など被害の凄まじさを伺わせる光景が広がっております。更に視線を変えると最上階付近だけが消滅しているビルが遠くに
見えます。記録映像出ますでしょうか。はい。こちらは私が今の現場につく前に撮影した映像ですが、1つのビルの屋上に
複数のビルの最上階が突き刺さっています。果たしてこれは今見える上部が消滅したビルのものでしょうか。崩落の危険
があるため直接屋上へは行けませんでしたが、一番近いビルからでも100mほどの距離があります。私、現場で作業する
消防員の方に話を伺いましたが、普通の崩落事故ではまず有りえないとのコトでした」
 画面が切り替わり、視聴者提供の映像が流れる。再開発地域上空を遠くから捕らえたものだが、巨大な火球が膨れ上がり
ながら落ちていく様子に撮影者の悲鳴や驚きが混じっている。
「これだけではありません。本日銀成市ではあちこちで小さな爆発が発生したという通報が相次ぎました。銀成市消防局に
よると現在のところこの爆発による火災の報告は入っていないとのコトです」
 目撃者の映像へ。
「なんか急に、バチバチーって、ね」「そうそう。最初花火かなと思ったけど、やまなくて」
「爆竹みたいな音だったよな」
「し、信じられないかも知れないけど、渦、爆発の近くに渦があって」
「しかも目が、疵(きず)のついた目がこっちを……」
 押倉レポーターに戻る。
「他にも市街地で巨大な鳥がビルに激突したという情報も寄せられています。春先から初夏にかけて相次いで発生した
資産家邸宅集団行方不明事件や銀成学園集団ヒステリー事件の記憶もまだ覚めやらぬころ突如として頻発した怪現象。
市街地からわずか9kmという再開発地域で発生した大規模な爆発事故に市民達は眠れぬ夜を過ごしそうです」

 岡倉英之、大浜真史、六舛孝二、河井沙織、若宮千里。武藤カズキや秋水たちと縁深い生徒たちはひしひしと感じて
いた。何かよくない現象が起こりつつあるのではないかと。それは彼らと共に保護された──演劇中、敵の能力によって
強制的に武装錬金を発動させられたため、経過観察が必要だった──10人近くの生徒も同じだった。


「ブラボーさんとか寮母さんとか、貴信君たちとか、僕たちを守るために戦うよね、絶対」
「何かできるコトねえかな。学園が襲われた時とか守られっぱなしじゃねえか俺達」
「そう思うなら病院を出ようとするな。指示にちゃんと従い、的確に行動する。それが一番だ」
「ですよね。あとは……励ますぐらいしか」
「そうそう。元気で無事で済めばみんな笑ってくれるよきっと」


 5人は思う。それが自分達のすべきコト……と。



「では不肖たちの成すべきコトは!?」
「交戦したマレフィックどもの細胞片の回収です、母上」

 廊下で浅黒い少年が頷くと、シルクハットにタキシードのお下げ髪少女は「なのですっ!」とロッドを振り上げた。
 2人は鳩尾無銘と小札零。生真面目な少年忍者とお気楽極楽・実況大好きマジシャン少女である。2人は義理だが母子の
絆を有している。

「我らがリーダーもりもりさんは目下のところ行方不明! ですがご帰還されたときの為、備えて動くは必定なのであります!!
もりもりさんは武装錬金をコピー可能な特異点!! 対象のDNA情報をば入手すれば取得は容易!

「だからこそマレフィックどもも自分のDNAを取られまい、残すまいと常に警戒を続けている。実際先ほど10人居る奴らの
大半と交戦状態に陥ったが……誰1人、髪1本すら残していない……!」
 筆舌に尽くしがたい脅威を肌で体感したからこそ無銘は敵の能力が欲しい。首魁たる総角に何としても複製して欲しい。
「そこで不肖がご用意いたしましたのがこのキット! 細胞保存用の中型カプセル!!」
「中型カプセル〜」。無銘は予め録音しておいたエンゼル御前の声を流した。
 ともかく掌ほどある強化ガラス製の円筒を煙と共にポンと出した小札、手に乗せた。
「本来ホムンクルスの肉体は本体と分離したり死んだりしますと即座消滅、風に還る細胞とばかりにちりぢりばらばらに
なりまするがこのカプセルをば使えばあら不思議!!」
0112永遠の扉
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2016/08/15(月) 00:41:03.66ID:Ivh7MJyu
 ぷちりと切った髪2本の片方を小札はカプセルに入れる。もう片方はそのままだ。変化はすぐに起こった。入れなかった方が
消滅する傍でカプセルの中の髪は依然その姿を留めている。
「これを使わば将棋が成せるのだ! 敵の駒を師父の駒に成せるのだ!」

 そしてカプセルはヘリにて救出作戦へ向かった貴信&香美、鐶と言った仲間達にも配布済み。

「もりもりさんにも念のため所持していただいております故、攻めどころ使いどころまでストックするコト可能でしょう!!」
「DNAをすぐ使って発動するコトも可能だが、そのフルパワー状態は5分しか続かないのだ。一生に一度しかないのだ、
強い能力であるからこそ、本当に使うべき相手と戦うときまで……温存、すべきなのだ」

 そう。無銘はさまざまな思いを込めて、言う。

「師父の友を奪い去った憎き仇──…」

「レティクルエレメンツの盟主……メルスティーン=ブレイドと戦う、その時まで」

 メルスティーン=ブレイド。そう書かれた認識票を下げた細面の青年は笑う。
 20代後半に至ってなお女性的な雰囲気の漂う男だ。女物の服を着ているがひどく似合う。ただしファッションを一目で
異形と見せかける身体的特徴を彼は有していた。

 右腕が、ないのだ。

 肩からひらひらとする長袖を見慣れたものだとばかりメルスティーンはそよがせて、目の前に広がる9つの影を順に見る。
彼らは円卓に座っていた。

「ウィル。イオイソゴ。グレイズィング。ディプレス。デッド。ブレイク。リバース。リヴォルハイン。クライマックス。銀成での任務、
ご苦労さまだったねえ」

 卓上で左肘を付きながら労うと、一座からめいめいの反応が上がる。

「結局くたびれ儲けだったけどねー」

 まず声を上げたのは『水星』の幹部。
 白い肌に水銀色の髪を持つ少年……ウィル=フォートレス。眼窩に嵌る2つの紅玉は彼がアルビノ…先天性の色素欠乏
であるコトを雄弁に物語っている。
いわゆる7つの大罪に古めかしい「虚飾」「憂鬱」を加えた罪を標榜する幹部の中にあって『怠惰』を冠するだけあり、一座
の中では最もけだるげな存在だと……表向きには、知られている。

 しかし本当の目的は恋人の復活。遥か未来でメルスティーンの霊に殺された恋人を蘇らせるため、過去に遡り、思うがま
まの歴史を作らんとしてきた。幼少期、アルビノ差別の巻き添えで両親を殺され人間社会に絶望した彼にとって、恋人は……
ライザウィン=ゼーッ! という最強の頤使者(ゴーレム)は唯一心許せる存在だったのだ。

 恋人を蘇らせんとした結果、彼は音楽隊の小札零を今の体に改造した。……1つの予想外と引き換えに。

「むぐむぐ、もぐっ。ひひっ。『器』の最有力候補たるびくとりあは……はぐっ、結局奪えずじまいじゃからのう」

『木星』の席で、すみれ色の髪をポニーテールにした見た目7〜8歳ぐらいの少女がハンバーグを食べながら答える。傍に
はブラウンのソースの付いた皿が既に20近く積まれている。イオイソゴ=キシャク。『暴食』の徒にして忍びである。戦歴お
よそ500年を超える狡猾な幼い老婆は曲者ぞろいの幹部の中で一番の重鎮である。

 人間の頃から既に人食いをしていた彼女は、安定した「食事」のためにレティクルへ与した。
 故あって直接歴史を変えるコトのできないウィルと利害が一致した彼女は代行者となり、数々の改竄を秘密裏になして
きたのだ。
0113永遠の扉
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2016/08/15(月) 00:41:36.75ID:Ivh7MJyu
 飽くなき食欲に促されるまま彼女は10年前、妊婦の腹を裂き胚児に犬型ホムンクルスの幼体を埋め込んだ。
 その時生まれたのが音楽隊の鳩尾無銘である。

「うふふ。でもヤるべき前戯は秘密のうちに行われてますし、問題ないかと」

『金星』の座を占めるのは正にビーナス。鮮やかな唇を真白なティーカップにつけて啜る女医・グレイズィング=メディック。
ジンジャーレッドの髪を妖艶な縦巻きにしている『色欲』の幹部である。拷問を好み、医療すらその道具として使う残虐性を
有している。

 幼い頃、陵辱によって生殖機能を失った彼女は、一命をとりとめた医療への感謝を胸に立派な女医へと成長した。
 だが戦団の恣意的な手違いによって患者達を殺され、そして犯され、自身も恋人を殺されたあげく凄まじい性的暴行を
『戦士たちから』受けたため……彼女は、壊れた。

 結果拷問に狂い続け、女性ながらに胚児へ幼体を埋め込むイオイソゴの猟奇犯行に加担。
 鳩尾無銘にとってイオイソゴとグレイズィングは許しがたい仇である。

「ああ憂鬱wwww 戦士どもはどう足掻こうと俺らには勝てないのさwwwwwww」

『火星』の椅子の下で義足の付いた片足を歪に揺らしてあざけ笑うはハシビロコウ。巨大なクチバシの鳥の名はディプレス
=シンカヒア。いつも大声でケタケタ笑っているのに声の響きは恐ろしく空虚で無気力だ。『憂鬱』の罪を背負っていると
いえば誰しもが納得する。

 彼が転落したキッカケは他の幹部よりまだ軽い。末期ガンの恩師に捧げる筈だったマラソンレースを乱入者に妨害され
リタイアしたあげく、足に二度と走れぬ後遺症が残った……ぐらいである。だが熱を失くし世を倦むようになった彼はやがて
小うるさい上司と同僚を殺害。いつしかレティクルに流れ着き人間をやめ、熱意のある者を嬲り殺すコトに喜びを見出すよう
になった。

 反動で挫折者には優しい彼は相方とのトラブルに巻き込まれた気弱な青年とその飼い猫を救おうとした。
 が、諸事情で彼らを1つの体にするコトを防げなかった。
 栴檀貴信と栴檀香美を元の1人と1匹に戻しうる能力は、彼らとの魂を燃やす決戦でのみ発揮できるとディプレスは信仰
している。

「盟主さま! ウチちゃーーーんと下調べしたで! デパートをな、調べたんや!!」

『月』と書かれた三角錐が揺れるほど身を乗り出しラブコールを送るのは13歳ぐらいの少女。金髪をコウモリの翼のような
ツインテールにし、前髪の縁を銀色のメッシュで彩っているなんとも派手で景気のいい風貌だ。実際金払いは非情によく、
不良在庫を買い取っては悦に至る奇妙な『強欲』を背負っている。

 その四肢は義肢である。社長令嬢に生まれついた彼女は幼いころ海外で誘拐され……総て切り落とされドブ川に浮いた。
治したい一心で奔走した母親や使用人たちはやがてレティクルの協力者となったが、怪物と化した彼らを戦団は理由も
聞かず総て処断、殺戮。自身もあわや落命という所でレティクルに拾われ……戦団に復讐するため人間をやめた。

 物をセットで買わなければ死別を思い出し耐えられなくなる彼女は、ささいな行き違いから、人間時代の貴信と子猫時代
の香美を暴行。怪物へと変貌させた香美からの思わぬ逆襲によってネコがトラウマになるほどの手傷を負わされたが、そ
れを制した貴信からの「貴方も救う」という言葉に現在少しだけだが揺れている。
0114永遠の扉
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2016/08/15(月) 00:42:14.52ID:Ivh7MJyu
「収穫すか? にひひっ。妹さんに萌え萌えする青っちが見れたんで、それだけで満足でさあ」

『天王星』の机からその幹部がゴシュンと飛んだのは恋人の裏拳を甘受したからだ。やや離れた床に尻餅をつき幸せそう
に片頬を撫でるウルフカットの青年はブレイク=ハルベルド。『虚飾』の幹部だ。飄々としたつかみどころのない男だが、
人の「枠」には並外れた感心があるらしく、外に出てはアーティストを何人も育てている。

 学生時代、優れた色彩感覚を有していた彼は仄かな恋心を抱く女性の不注意によって交通事故に遭い、色覚を失くし
た。絶望する彼に想い人はアイドルとしての活動を用意するが、それは彼女の恋人……ブレイクの兄の代役にすぎなかっ
た。やがてそれ以上の名声を努力によって獲得したブレイクを疎むようになった兄と想い人は共謀して殺害計画を実行。
色覚欠如を罵る想い人に幻滅する最中レティクルに助けられたブレイクはそのままレティクルに加盟。

 しゃべり上手な小札零の弟子だった時期もある。ゆえに師匠を手助けする手段がないか模索中。レティクルには命を
救われた恩義こそあり、その分だけは動くべきだと思っているが、別に人間総てに幻滅して人間をやめた訳ではない
ので──ただし自分の努力を認めない想い人のような存在は絶対に殺す──必ずしも命を支える必要はないと思って
いる。今の恋人を、リバースをも利用して使い潰すのであれば、尚。

 師匠の兄を殺したのは、他ならぬレティクルの盟主なのだから。

『ブレイクくんの、ばか』

『海王星』の三角錐の裏にそう書いたのは笑顔の少女。乳白色のふわふわウェーブを持つお姫様のような風貌だ。だが
幹部達は知っている。このリバース=イングラムが『憤怒』の使徒だと。温和で理知的で優しいが、ひとたび声の小ささを
指摘されたが最後両目をギラギラと見開きそして拳で気持ちを「伝えて」くるのだと。

 乳児期、育児ノイローゼの母親に首を絞められたせいで咽喉が潰れ大声が出せなくなったリバースは内向的な少女と
して育った。活発な義妹と何かと比べられ、損を蒙ってきた彼女の唯一の支えはアイドル時代のブレイクだった。最も辛い
時期、彼から来た返事を不注意で紛失した義妹に初めての怒り任せで手を上げた瞬間、リバースの運命は狂い始めた。
見咎めた義母に頬を張られたのだ。被害者にも関わらず、話を聞かれず、殴られたのだ。絶望し、死を選びかけたリバー
スだがレティクルとの出逢いで考えを変える。「リア充死すべし」。

 義妹は音楽隊の鐶光である。彼女が双眸から光を失くしたのはリバースの愛憎の総てを叩きつけられたからだ。かつて
は明るい性分を嫌っていたのに、「話しかけてくれたのは光ちゃんだけ」という思いから攻撃的な愛をブツけ続け、苛んだ。
 彼女に再会させたかった両親を戦団に殺されたとリバースは信じているが、それは敵意を煽る為イオイソゴが仕組んだ
罠である。両親はまだ生きている。だがそれを知らない彼女は戦団への復讐のため決戦へ身を投じる。最愛の鐶に止め
られ殺される甘美な想像図を胸に抱きながら。

「誰がどう振舞おうと乃公は救いに向かって動かれるのみである」

『土星』の椅子を重々しく揺らしながら囁く貴族服の男はリヴォルハイン=ピエムエスシーズ。男性としてはやや長めの鉛
色の髪を優雅な曲線で無造作に垂らす彼の罪は『傲慢』。悪と破滅を目論む組織の中にあって人類救済を、幹部の救済
をも唱える場違いさは間違いなく傲慢であろう。彼だけは細菌型ホムンクルスであり、人の脳に取り付くコトで次元の狭間
に演算用のネットワーク空間を作り出せる。(処理に使われていない領域の有効活用)。

 強い正義感ゆえ「やりすぎる」コトが多かった彼は社会からの排斥のすえ錬金の戦士になった。だが組織の腐敗によって
妻を失くし、妻の胎内にいた子供の行方すら追跡できなくなった彼は世界を変えるため組織を退団。その後、偶然接触した
レティクルこそ妻の仇ではあったが、正義の、正規の組織では到底たどり着けない技術力に魅せられたリヴォルハインは
自ら実験体を志願し、戦士以上の力を手に入れた。目指すは人類の救済。不幸もたらす不文律の打破。

 その心の赴くまま先の銀成における戦いではパピヨンと交戦。致命的な免疫力低下を抱える彼を細菌攻撃によって降し
たリヴォルハインはパピヨンの悲願・武藤カズキ再人間化に欠かせぬ『もう1つの調整体』を奪取。
0115永遠の扉
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2016/08/15(月) 00:42:39.49ID:Ivh7MJyu
「あれっ、この上なくあれれです! 私の分のプレートないんですけどぉ!? 誰か知りませんかぁ!?」

『冥王星』の文字を探してキョロキョロする冴えない女性はクライマックス=アーマード。黒縁眼鏡のアラサーだ。元声優で
元教師で今はオタクで腐っている彼女の前歴は特筆すべきものはない。好きになった物が破滅するという奇妙な運を、
殺人で覆せると信仰しているだけである。音楽隊の面々と因縁はないし、銀成での戦いでもむしろ足を引っ張ってた。

 そんな連中を見渡しながら、盟主・メルスティーン=ブレイドは悠然と口を開く。

「さて諸君。もうすぐ戦士どもが坂口照星を取り戻しにやってくる訳だが」
「そ、そんなコトよりメルスティーンさま、私のプレート、冥王星の札ぁ!!」
「知wるwかwよwww お前ちょっと黙れよクライマックスwwww いま盟主様が何かいったんだぞwww」
「イッたですって! 戦いを前に発射! あんもうエロいんだから」
「……なんでもかんでもそういう話題に持ってくでないわ。中学生かヌシは」
「お、青っち、なんで頬を染めたんすか、わかるんすかって痛い痛い」
「むーーーーーーっ!!! ブレイク君もちゃんとお話きかなきゃダメだよ!!」
「おお。リバースが喋っとるで。珍しな、こりゃ関東は夕方から雨やなウィル!」
「デッドそのボケ面白くないよー。それさっき一緒に見た天気予報で仕入れたネタじゃん……」
「おおお! 何という混沌! 戦略会議の発議すらままならなんとは! やはり乃公が総て救われて然るべきであるな!!

 自由時間のクラスのような騒がしさがワッと広がった。盟主は怒るわけでもなくただ嬉しそうに目を輝かせた。

「ふ。秩序の破壊か! 素晴らしいッ!」
「いや破綻しとるだけですから」
「くそう。さればわしが音頭を取り迎撃のための討議を……!!!」
 身を乗り出しかけたイオイソゴの胴体に走った閃光の意味を初見で理解できたのはメルスティーンのみである。他の9
名は数秒の間、ただ漠然と眼前で展開される光景を眺めた。8名は、袈裟懸けに斬られてズリ落ちていく狡猾な童女の
上半身を硬直した瞳の鏡面に映すばかりだった。1名は不自然に迫ってくる床がやがて傾くのを、墜落する航空機のパ
イロットのような心境で見た。
 べちゃん。ひどい水音を立て床で爆ぜる木星の幹部に目を白黒とさせる8名の幹部は決して無能な者どもではない。悪
意を有するが故の賢しさを多分に持ち合わせている連中だ。だが事態は彼らの範疇を遥かに遥かに超距していた。
「め、盟主様が……」
「イソゴ老を、斬り捨てた…………?」
「銀成市で戦士さん5人同時に翻弄した人なのに! 呆気なく!? この上なく呆気なく!?
 普段の嘲りを引っ込めて戦慄くディプレス。追随して顔色をなくすグレイズィング。叫んだのはクライマックス。
 ひゅっと剣を振るうメルスティーンにさほどの揺らぎはない。忠実なる忍びたるイオイソゴを突如として手打ちにしたという
のに面頬はどこまでも爽やかだ。どよめく幹部達、1人だけでも激甚災害級の強さを振りまく魔人たちを前に盟主は静かに
呟き始めた。
「ふ。まあ落ち着きたまえ。対戦団用にぼくが決議したかったのは1つ、たった1つさ。議長は別にいらない。たった1つ決まれば
議会は閉幕、あとは予定した戦闘の予定を1つ変えて進めればいいだけさ。……ふ。だからイソゴを斬ったのさ」
「で、決議したいコトはなんすか? 俺っちたちの首を土産に降伏って仰るんでしたら……へへ、それなりの対処を、取らせて
頂きますが?」
 にへらとした様子で、しかし灰色の瞳に一切の笑いを込めないままハルバードを発動したのはブレイクで、彼は当たり前
のようにリバースを背後に隠している。少女はそんな挙措に頬を染めながらもサブマシンガンを2挺具現化、いつでも構え
られるよう備える。
「降伏? まさか」。盟主は肩を揺する。「ふ。逆だよ。戦団などは滅茶苦茶に破壊するさ。破壊されるよう段取りを組み、
進行させるさ」。片手持ちの大刀を軽く引きずるようにして距離を縮める盟主。仄かな恋心を抱くデッドは引くべきか進む
べきか葛藤した。
「君たちは”ラスボス”って概念を知ってるかい?」
「な……に?」
 呻いたのはウィル。顔色がただならぬ色相に変じたのはメルスティーンが何を言いたいか直感したからだ。居たのだ。
かつて『ラスボス』に対して特殊な哲学を述べた少女(こいびと)が。それと似た雰囲気を……感じた。
0116永遠の扉
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2016/08/15(月) 00:43:03.56ID:Ivh7MJyu
「クライマックスあたりなら知っているだろう。ラスボスというのは最後のボス……漫画や映画、ゲームなどで最後に倒される
悪の首魁の総称だ」
 更に一歩、威圧を込めて進む盟主。場は異様な緊張感に包まれ始めたがリヴォルハインはケロリとした表情で佇んでいる。
 盟主は、続ける。

「ぼくはね、ラスボスって奴を見るたび思っているんだ。『なぜ最初に出ない』とね。奴らは常に圧倒的な力を持っている。軍団
を作り保持するだけの英雄性をも兼備している。なのに彼らはいつだって弱い方の部下から主人公どもにブツけていく。戦力
の逐次投入でご親切にも鍛えるように主人公どもを強くしていく。奴ら個々の技量を高め、面々の連繋を深め、人々の支援を
集めていく。最初からラスボス自ら出張れば問題なく潰せた筈の連中を、ガン細胞の如く肥大化させ強力にしてくんだ」
 それでなお勝つならまあいいだろう、だが! 盟主は拳を固め熱く叫ぶ。
「奴らは結局負けるんだ! 連敗の報を魔王城の奥の玉座でずっと聞き続けていた筈なのに重い腰をずうっと上げず、気付けば
本拠に攻め込まれ、城を落とす火の手の如くに攻め立てる主人公どもに忠臣や重鎮を討ち取られた挙句まるで敗残兵最後の1
人の如くに処断される! 世界中と繋がった輩の刃を胸に突き立てられ……朽ち果てる!」
 ぼくはね、そーいうのが納得いかないんだよ。だからイオイソゴを斬り捨てたんだ……磁性流体となって蠢く半不死の忠臣を
びしゃりと踏みつけ飛沫にしながらメルスティーンは高らかに宣告する。
「ぼくは盟主だが、しかしラスボスにはならないよ! 決議の内容とはつまりそれ! いま議決するは正にそれ!! 荒れ狂う
破壊の尖兵としてまず最初に!! 押し寄せる錬金戦団の有象無象どもを破壊させて貰う!! 反論は、許さないッ!!」
 何を言い出すんだコイツは……! 9人の幹部は息を呑んだ。
「ば! 馬鹿かテメエは! 10年前の決戦で危うく死に掛けたのを忘れたか!!?」
 怒号を張り上げたのはディプレス。血走った目で唾を飛ばす彼にメルスティーンは「ふ、分かっていないな」と切っ先を突き
つける。ノド元に迫る”死”に凶鳥は仰け反り言葉を失くす。
「別に僕は死を恐れている訳じゃない。死なないと思っている訳でも無い。壊されても本望さ。本懐ならぬ”本壊”って奴さ。
暴れて、壊して、壊されて、派手に砕け散ってやるのがこの10年の……いや、ヴィクターに黒い核鉄が埋め込まれてから
こっち100年の本壊なんだ。組織だの何だのは最早どうでもいい」
 ウィルだのイソゴだのがさんざ制止してきてやむなく付き合ったが、刻限はもう来たんだ、ここからは好きに暴れさせて
もらうよ。目を細めながら盟主は剣を進める。万物を分解する神火飛鴉(しんかひあ)によって常に身を守っているディプ
レスの喉首を、しかし事もなげに突き破った。
 血しぶきが舞い、ほとんどの幹部が言葉を失くす。
「き、近接戦闘ではほぼ並ぶ者なしのディプレスさんまでこの上なく呆気なく……」
「ふ。文句のある者はこうなる。止めたければ来たまえよ? 治癒能力を持つグレイズィングさえ健在なら組織は幾らでも
建て直しが効く……。あとは君らの好きにしたまえよ」

(……マズいコトになった)

 最も焦っていたのは水星の幹部、ウィルである。

(メルスティーンは知らないだろうが、こいつは死んでも魂だけは生き続ける! 10年前、小札零の兄を斃したとき奪い取った
彼の能力を使って不滅の存在として人々の無意識の集合世界で生き続ける……!)

 そうされては困る理由がウィルにはあった。

(魂だけでも生き残られると厄介だ。ライザ……人間だった頃「勢号」と名乗っていたボクの恋人の復活を妨害される!!
未来のメルスティーンは実際、魂だけで勢号の新たな体の建造を妨げた!! 完全消滅されないと……早坂秋水の進化した
ソードサムライXで魂のエネルギーを蒸散させないと……ボクは勢号(こいびと)と再会できない……!)

 愛する少女と再会したいただ一心で気の遠くなるほど何回も歴史を繰り返し改竄してきたのがウィルという少年である。

 そういう事情を幹部の殆どは知らないが、しかし利害だけは最終的に一致している。
 決戦を前に盟主がいの一番に最前線へ行くコトを誰が歓迎するというのか。
0117永遠の扉
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2016/08/15(月) 00:43:32.15ID:Ivh7MJyu
 5人の幹部が、メルスティーンの前に立ちはだかった。

「ワタクシたちは所詮寄せ集め……。求心力である盟主さまにいきなり消えられたら……クス。協力も連携もできず各個
撃破で呆気なく陵辱されるのが関の山」
 衛生兵の自動人形を侍らせて仁王立ちするのはグレイズィング。
「そーですよこの上なくそーですよ! 我の強い人ばっかなんですレティクルは! メルスティーン様が消えたら決戦途中に
しょーもないリーダー争い起こして内ゲバで勝手に全滅しちゃいますよ! この上なく!!」
 一瞬装甲列車の幻影を浮かべたあとぞろぞろと自動人形を出したのはクライマックス。
「第一ウチのモチベは盟主様守るコトですよって、勝手に死なれたら意味ないです。守るためにこの場は止めます」
 小さな釣鐘ほどある赤い筒から放たれた爆発を渦にしてメルスティーンを包囲するのはデッド。
「まあ盟主様が死なれたらレティクルの『枠』破れて案外世界のためになるかも……すけど、へへ。いきなりの攻勢は困り
ますねえ。もし俺っちのお師匠が救出部隊に居たら、へへ、不意打ちで殺されるかも、ですんで」
 既に発動していたハルバードに妖しい光を蓄えるのはブレイク。
「ふふふ私だってお父さんお母さん殺した戦団に復讐したいの我慢してたのよなのに盟主様だけ自重もなしに暴れたいっ
ていうのはずるい腹立つ許されないわ光ちゃんだって来ているかも知れないのよ予告もなしの大攻勢は許さない」
 抑揚のないおぞましい連呼の上でギラギラと赤い細目を輝かすリバースはサブマシンガンのトリガーに指をかける。

「乃公はどちらでもいいのである。メルスティーンがここで死のうが人類を救うための我が研究は……進む!! いっそ
ここで双方殲滅してもそれはそれで世界は救われるであろうな。問題ない」

 唯一動かない土星の幹部に抗議の声を上げるディプレスとイオイソゴがグレイズィングの武装錬金によって回復し戦列
に戻る。

「8対2……議決権はこちらにあるよメルスティーン」

 アジト内の、否、メルスティーンの周囲の時空の流れが急変した。アジトはウィルの武装錬金の一部である。彼の制御下
にある。そしてウィルの武装錬金は……時間を操る。

「ふ。面白い」

 単騎ですら銀成の戦士を戦慄させた魔人が8体も居並び敵意を見せる中、メルスティーンは笑い……踏み込んだ!!


「あ! 秋水先輩起きたんだ。おはよー。体力戻った?」

 聖サンジェルマン病院の地下の食道で明るい声を漏らす武藤まひろに早坂秋水は「それなりに」とだけ呟いた。素っ気無い
返事だが頬はかすかに緩んでいる。

 この日彼らは昼すぎまで演劇をしていた。そのため食事はあまり取れなかった。朝はやがてくる激しい動きに配慮して
少なめ、昼は祝勝会ついでに取るつもりだったが様々なゴタゴタのせいで碌に食べれず終わった。

 そのため彼らは遅めの昼食を取る羽目になった。もっとも一緒に食べる約束はしていない。まひろが食堂ではぐはぐして
いたら偶然秋水もやってきたという形だ。

 箸を止めたまひろはちょっと不安げに大きな瞳を潤ませた。

「もうすぐ……なんだよね。戦士さんたちの、とっても偉い人の救出作戦。斗貴子さんたち……大丈夫……だよね?」

 つい3週間ほど前、長年ずっと傍にいた兄を月へ失うという信じがたい別離を味わったのがまひろである。そのせいか
失うコトに怯えがちになっているのを秋水は短いが濃密な交流の中で嫌というほど痛感した。

「大丈夫だ。彼女以外にも強い戦士が沢山いる。姉さんも居るし中村も居る。鐶や貴信たちも。何より津村自身がもう立ち
直っているんだ。彼女はきっと戻ってくる。彼女だって君に笑って欲しいと思っている」
「そっか。それなら……」 安心し、食事を再開しかけたまひろは「ん?」と箸を加えたまま小首を傾げた。行儀だけいうなら
感心できる挙措ではないが、それを許せる不思議な愛嬌が備わっているので得である。
「『斗貴子さんだって』……? じゃあ他にも誰か、私に笑って欲しいの……?」
0118永遠の扉
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2016/08/15(月) 00:43:54.04ID:Ivh7MJyu
 まひろはいつだってリアルタイム処理だ。喋りながら考える。考えてから喋るというコトが良くも悪くもできない。だから秋水
の言葉をオウム返しにしているうちに「笑って欲しいのが誰か」というコトに期待混じりの推測を寄せた。兄と離れ離れに
なってから影に日向に支えてくれた貴公子のような青年にまひろは最近揺れる感情を抱いている。抱いているから、些細な
発言にさえ思春期特権の甘く淡い期待を覚えてしまう。「笑って欲しいの……?」の最後の辺りでまひろの頬はすっかりサク
ランボ色に色づいて、どきどきした光を宿す双眸が秋水をじいっと恥ずかしげに見つめている。
「……。周囲の人間は概ねそうだ。戦士長も、君の友人も、ヴィクトリアも、周囲の人間は例外なくだ」
 生真面目すぎるが故に不器用な秋水はちょっと視線を外しながら答えるのが精一杯だ。まひろを相手にした時だけ生じる
陽春のほわほわした空気に支配されないよう自制するので未熟な彼は配慮用の神経総てを使い尽くしてしまう。
「周りの人はみんな……か。ウン。そうだよね……」
 まひろの中ではもう秋水も周りの人なのだ。朴訥な回答だが、否定でないと分かっただけでも今は嬉しい。

 微妙な空気が広がる。耐え切れなくなった秋水は先に口を開く。

「その、もし戦いが始まった言えなくなると思うから先に言うが……君と兄が再会できるその日までこの街を守るという約束だ
けは、絶対守る……から」
 守るからの先をどう紡いでいいか分からなくなった秋水だが、その断絶をまひろは追及しない。彼女だって嬉しそうに目を
細めて頷くのが精一杯なのだ。
「うん……。私にできるコトは無いかも知れないけど、せめてお兄ちゃんが言ったコトだけは、お兄ちゃんが言ったコトだけは、
ちゃんと守ってあげてね。前も言ったけど……そうじゃないと秋水先輩、お兄ちゃんに胸を張ってちゃんと謝れないと思うから」

──「まだだ!! あきらめるな先輩!!」

 かつて秋水は姉の命を諦めかけたコトがある。自分の失態で危険に晒した桜花の命が尽きるのをただ呆然と見るしかなかった
コトがある。

 カズキはそんな秋水を救い上げた。離れ離れになりかけた姉弟の手を2つとも握り、力強く、呼びかけた。

──「まだだ!! あきらめるな先輩!!」

 と。


 彼の拳の感触を。
 彼の呼びかけを。
 強い感触を、音圧を。

 今でもまだ、覚えている。

 秋水はまだ、覚えている。


 だから。


「それがある限り、俺は戦う。戦い続ける」

 決意を告げると少女はますます頬を染めて、コクリと頷いた。
0119永遠の扉
垢版 |
2016/08/15(月) 00:44:23.65ID:Ivh7MJyu
 レティクルエレメンツ・アジト

「負への暴走を止めるのはいつだって『救い』なのだ。敵意ではない」

 土星の幹部・リヴォルハインは、累々と倒れ臥す仲間達を見ながら腕組みして呟いた。

「もっともそういう意味ではお前達の戦いは正しかったと言えよう。『殺す』ではなく『止める』ための戦いだったからな。制止
は処刑場へ向かう者の襟を後ろに向かって引く行為、救いの一種。お前達の本領を著しく制限する思慮とはいえ、世界的
に見ればまだ正しい……」

 るせえ! 傍観してた癖にドヤってんじゃねえぞリヴォ! キレた声を上げたのはやはりディプレスである。

「ああでもリヴォのボケの言うとおりやな……」
「ひひっ。盟主さま相手に殺すまいと加減するのはやはり自殺行為よ」
「向こうはこの上なく壊すつもりで来てますもんねー」

 聖人気取りで、刃物振り回し中の麻薬中毒者に向かうような物といったのはグレイズィング。

「おやおや。決戦前だというのにもう総崩れかい?」

 傷だらけの幹部達がハっと眺めた部屋の出口には月の頭を頂く怪人。

「ムーン……フェイス。キミだって騒ぎは聞いていた筈だろうに……!!」
「私は客分だからねえ。忠義深いキミたちと違ってメルスティーン君を止める義理はない。どうせ彼は錬金戦団を壊したい
一心で全力を振るう……。30人程度にしか分身できない私なんかじゃとてもとても」
 肩を押さえ呻くウィルの抗議を飄々と流したムーンフェイスは告げる。
「ただ、キミ達全員がメルスティーン君を殺すつもりで掛かっていたなら、多分もう決着はついていたね。何しろ皆、L・X・E
クラスの共同体なら単騎で殲滅できる粒揃いだ。この突破はキミ達8人合わせてなおメルスティーン君に劣るという証左
じゃない……。むしろ加減して生き延びられただけでも凄いさ」
 褒めるムーンフェイスだが喜ぶ幹部はいない。

「とにかく……追いますわよ盟主様。わたくしの蘇生能力なら万が一にも対応できる……!」
「ひひっ。予定と少々食い違うが……わしも出よう。戦士の追撃をば防ぐためにな」

 あとの者は計画通りに動け。命じられた残る7人の幹部は一斉に頷くや……姿を消した。メルスティーンを追うと告げた
2人の幹部の足音もまた遠ざかっていく。部屋には月顔の怪人だけが残された。

(計画、ねえ)

 ムーンフェイスもそれは知っている。知っているからこそ今囚われ中の照星を思うのだ。

 血膿の中に突っ伏してかすかな呼吸をしている坂口照星を思うのだ。

(むーん。彼はこれから『利用』される。恐ろしい組織だ。私も対応策を考えないと、ね)

 動かぬ照星の傍の空間が割れた。その奥に潜む異形の影の名は──…

 武藤ソウヤ。

(ウィル君との戦いに負けて変貌した未来の戦士……。彼を利用しなくてはね。レティクルは危険だ。マレフィックアースとかい
う凄まじいエネルギーの存在を使って何らかの救済をもたらそうとしている……)

 地球を荒涼たる月面世界にしたいと望むムーンフェイスにとってレティクルの最終目的は邪魔でしかない。もっとも利用しよう
とするソウヤ自身、ムーンフェイスの野望を一度は打ち砕いた少年だ。筋から言って協力など取り付けれそうにないが……。

(相打ちという手も、あるさ)

 ムーンフェイスは黄色い核鉄を握り締める。他の核鉄と明らかに異なるそれは、「もう1つの調整体」の廃棄版。かつて逆
向凱という悪霊に憑依されていた鈴木震洋から抜き取った代物である。錬金術の三大要素「肉体」「精神」「霊魂」のうち
最後のものに働きかけるだけあって、死者の魂を……乗せやすいのだ。
0120永遠の扉
垢版 |
2016/08/15(月) 00:44:37.77ID:Ivh7MJyu
(コレと私の切り札『死魄』を共鳴させれば……できるかも知れない。いずれ敵になるソウヤ君とレティクル、2つの相手の
共倒れを……!)


「!!?」

 戦士たちの集合地点でまず最初に目を剥いたのは戦部である。次に物音に振り返った円山が「ウソぉ!」と口に手を当て
硬直した。犬飼に至っては喪神しかけた。つまりそれだけの衝撃だった。

「やあ先遣部隊。やあ斥候たち」

 散歩でもするよう現れたのは女装がよく似合う細面の男。隻腕の剣士。

「メ……メルスティーン、だと……?」

 驚きの中にも歓喜を混ぜて戦部が十文字槍を構えたのは、盟主だと即座に気付けたのは、メルスティt−ンが10年前、
一度は虜囚となり顔写真を取られたからだ。資料は配布されている。戦部の後ろの2人にも。

「いきなり敵の首魁が……!? いや、クローンが得意っていうし、本人な訳……!!」

 強がりを述べる犬飼だが足は震えて止まらない。相手の威圧感で理解したのだ。紛れもなく本物のメルスティーンであると。

「どうするのよ!? 本隊との合流はまだよ! 戦うの!? 逃げるの!?」

 先ほど「奇襲すれば勝てるかも」といった円山が金切り声を上げているのは、逆をやられたからだ。奇襲されてしまった
からだ。それでは数の有利は活かされない。

「悪いね。ぼくはラスボスになりたくないんだ! レティクルの一番手として!! やがて来る君たちに破壊のチャレンジを申
し込む!」

 大刀を振りかざす盟主が戦部たちに、襲い掛かった。
0122ふら〜り
垢版 |
2016/08/21(日) 17:53:56.27ID:u3afUyvc
>>スターダストさん(10周年おめでとうございます!)
原作メンバーにブレミュ勢にと、懐かしい顔ぶれがようやく! 名だけでなく実物で登場! で、
ただでさえ人数が多い上、「グループ」の数も多く、それぞれの目的も違うから、誰のどれが
どう叶うか、どんな組み合わせのどんな戦いでどんな犠牲が出るか、予想のつかなさが凄い。
0123作者の都合により名無しです
垢版 |
2017/05/10(水) 20:00:35.72ID:9h4oCh60
まだあったのかこのスレ・・
ダストさん10年凄いなと思ったら去年のことかw
0124作者の都合により名無しです
垢版 |
2017/06/10(土) 16:14:18.41ID:idRZm2Jr
0125作者の都合により名無しです
垢版 |
2017/07/30(日) 15:58:50.77ID:VkD9UASc
超久しぶりのスターダストさんの投稿に反応したあたり、ふら〜りさんは往年のSS書きが戻ってくればまた感想書きそうだなぁw
0126作者の都合により名無しです
垢版 |
2017/09/12(火) 09:03:59.85ID:M8vQqvVl
サマサさんがもし現役だったら、Arc-Vと鉄血はクソミソにネタにされまくっただろうかw
もしツィッターとかブログとか利用してた場合も同じことしてたかな?
0127永遠の扉
垢版 |
2018/02/17(土) 23:47:42.56ID:6JFt3+FR
第101話 「その名は──…」

 沼津からそう遠くない新月村の温泉といえば火傷などの皮膚疾患によく効くとマニアの間で大評判だ。

 しかし錬金戦団の面々がこぞって集結しつつあるのは慰安旅行のためではない。亜細亜方面の戦闘部門最高責任者で
もある大戦士長・坂口照星が新月村郊外に監禁されている為だ。

 新月村。沼津にほど近い山間に存在するこの村には温泉以外にも更に1つ、有名な呼び名がある。

『地図から消えた村』

 現在でこそ東海圏から気軽に日帰りできるアクセスを有している新月村だが、ネット界隈では一時期、地図から消えた村
としてややオカルティックな扱いを受けていた。

 普通、地図から消えた村といえば眉唾物で伝奇的な物が多い。大量殺人があったとか、双子を生贄にする奇祭にしくじり
壊滅したとか、トラウマ的な幻影が住む者を衰弱死させるとか、とにかく寓話的な理由で消え去ったとされる物が多いのだが、
新月村の場合はやや違う。

 一時期だが、本当に、「地図から消えた」のだ。消えていた、というべきだろうか。何にでもマニアはいるもので、明治政府
発行の地図を精査した者がいる。彼または彼女は最初純粋に、明治期初頭各年の地図をタネに廃藩置県やそれに準ずる
統廃合の様子を眺めて楽しんでいたのだが、あるときちょっとした調べ物の為に明治9年から12年までの地図の、沼津付近
のコピーを縦に並べて学術研究に勤しんでいたところふと気付いた。「明治11年の地図にだけ……温泉で有名な新月村が
……ない?」と。
 ただないだけなら当時日本を再構成していた動きの1つに巻き込まれたのだろうと納得できたが、しかし翌年、つまり明治
12年に地図には新月村、ちゃんと載っていたのである。書き漏らしだろうと思いつつもそこはマニア、地図から消えた地名に
纏わるドラマがあるなら知りたいと、徹底解明の構えであちこち巡り資料を集めた結果、真実に、そう、様々な意味での……

『真実』

に行き当たる。

「反政府勢力が、占領……? 2年も……?」

 当時の新月村に向かった者が悉く行方不明に……といった瓦版だけならよくある怪奇話と一笑にも伏せるが、三島某という
新月村出身の人物が兄や両親を殺された憎しみも露に当時の状況を綴った文章を見つけては流石にちょっと信じざるを得ない。

 極めつけは月岡津南なる人物である。津南。美術史を学ぶ者にとっては馴染み深い名前である。明治初頭、伊庭八郎な
どの錦絵で大人気を博した男である。彼に纏わる逸話は多いが、歴史学者に言わせると眉唾ものであるらしい。

 曰く、あの赤報隊の生き残り。
 曰く、絵師をやめる直前、政府機関の襲撃を目論んだものの、伝説の人斬りに阻まれた。
 曰く、たった3発で甲鉄艦を大破轟沈せしめる炸裂弾を作った。
 曰く、その時の戦いで反政府勢力の首魁が、頭部が左右に断裂するほどの打撃を受け死亡した。

 などなど。

 いずれも学術的な観点からすると怪しいと言われており、特に3つ目などはファンの間でも「現在でもそんな爆薬ねえしww
明治で作れるとかないないありえないww」と一笑に付されるありさまだ。

 ともかくその津南、大久保利通暗殺の少し前、絵師からブン屋に転向している。
 それがなぜ新月村と関わってくるかというと、調査能力ゆえのジャーナリズムであろう。
 津南、新月村の住民達に対し、今で言う原告代表の弁護士めいた立場を引き受けていたという。
 この点が、彼が赤報隊の生き残りであったとする説の裏づけである。

 つまり、新月村を見捨てた挙句その事実への謝罪や保障を遅々として行わなかった政府が、赤報隊を利用するだけ利用
して斬り捨てた時の姿に……カブって見えたのではないか。そう推測する津南の研究家は、少なくない。
0128永遠の扉
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2018/02/17(土) 23:48:43.35ID:6JFt3+FR
 地図マニアには赤報隊生き残りの深い機微までは分からない。
 とにかく津南は新月村代表として裁判に勝つ為さまざまな情報を集めた。
 三島某の手記もまたその1つであるという。そういった政府を弾劾するための証拠集めが、文献編纂が、巡り巡って地図
マニアが新月村の隠された『真実』に行き当たるから歴史というのは奇妙である。




「そして…………占領中、村人さんたちが心根の醜さを…………露呈しまくってたせいで……解放されてからも…………
人間関係が……荒れまくってた……そう、です。占領されたり……荒れたり…………今から私たちとレティクルが…………
ドンパチやったりで…………負の念が……すごい、とこ、です。ラマリス……生まれまくり、です……!」
「ラマリスがよく分からん! というか貴様、全然報告になっとらんわ!!」
「ここは、新月村付近の……山あい……で」
「うん場所は分かっているから! 状況を教えろ鐶頼むから!」
「……それは、無銘くんの、龕灯(がんどう)……。6つあるうち貸してくれた……1つ、からの、ヘリにも実は積み込んでいた
龕灯、からの、映像中継を見た方が…………早い、のでは…………?」
 背後から飛びかかってきた10数体の自動人形が、虚ろな目の少女の腕部によって胴どめに両断され……爆発した。
 彼女の手は鳥の翼だった。機械仕掛けの怪鳥のように、平たい合金で骨を組まれた銀色の翼になっていた。それで人形
たちが斬られ爆散する様を、少女の背後で浮遊する高さ30cmほどの龕灯(ロウソクを使った懐中電灯の一種)の前にうっ
すら浮かぶスクリーンは見つめ続けていた。
「ふう。忙しい、です」
 しゅっと手を人間のそれに戻した少女──鐶──は遅れて落ちてきた携帯電話をキャッチして通話に戻るが
「貴様の状況はだいたい把握した! 我が知りたいのは他の戦況! どうなっている!!」
 大声に、「声……おおきい、です。私がお姉ちゃんだったら、おこ、ですね」と耳をジンジンさせながら、何が嬉しいのかエ
ヘラと笑った。
「ええいなんで貴様は我と電話すると何でも喜ぶ!! どうなんだ戦況は!!
「どう……と言われても」
 直立のままシュっと一瞬その場で消えた鐶。地面が爆ぜた。巨大なマサカリが直撃したのだ。土砂が舞う中、シャっと縦線
を迸らせながら実像を結んだ鐶は、飛びまわし蹴りの姿勢になっており──…

 背後の自動人形の首が、消し飛んだ。

 藍色のミニスカートから伸びるなよなかな白い足は、ふくらはぎの辺りから、戦闘兵器の工学的な意匠を凝らした猛禽類
の鉤爪になっている。
 みずから起こした蹴りの風圧の中、インディゴブルーのミニスカートと、真赤な三つ編みを揺らしながら、どこまでもボーっ
とした少女は、告げる。
「他の部隊と……合流する前に……奇襲されたので…………ここ以外の戦局とか……分からないの……ですが」
「だから! そういった状況だからこその緊急通電とかないのか!!?」
「え……。私、戦士さんたちに…………電話番号……教えてません、よ……?」
「ちーがーう!! 同行してる火渡赤馬に、救出作戦の総指揮官に! 何か連絡はと!! ああもうこやつ鈍い!!!
戦えばめちゃくちゃ強いのに、鈍い!!!」

「……光ちゃんマイペースね」
「この冥王星の幹部の自動人形、自動養護施設でやりあった時より何故かけっこう強くなってんだけどなあ……。ダース単
位でも敵になってねえとか、どんだけ」
 無限増援とかの。矢と戦輪でそれぞれ応戦中の背中合わせな男女が呟いた。少女は桜花、少年は剛太。


「魔術を見せてやるぅ!! ……です」


 身長3mほどの筋骨隆々な自動人形が、背後からの鉄砲水にドンと押された。バランスを崩したところで、傘のごとくに
羽根を丸め旋転する鐶の体当たりを浴び……しばらく火花を散らし削られていたが、胴体を貫通され、爆発した。

「時間も私も、止められはしない! です……!」

 しゅるしゅると翼をほどきながら着地した鐶は、爆光を背負って何やら、決めポーズを。二度目の決定的な爆発が人形を
木っ端微塵に吹き飛ばした。
0129永遠の扉
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2018/02/17(土) 23:49:11.87ID:6JFt3+FR
「わー。さっきまで桜花とゴーチンがめっちゃ苦戦してた巨漢の自動人形、電話片手で一蹴したぞ……」

 ヒキガエルのような声で囁くピンク色のキューピーもどきはエンゼル御前。
 桜花の自動人形で、今は背後をぷわぷわしてる。

「ここらへん大きな川だったんだなあ昔。年齢操作で激流を復活させて」
「隙を作ったところを鳥への変形能力でトドメ。きっとカサゴね。本来は翼で日陰を作る水鳥……だったかしら」
「てかひかるんのセリフ、絶対脈絡ないだろ……

 炎上するヘリを龕灯は映す。創造者たる無銘は電話で、言う。

「その前で今震えているヘリパイロットが、飛行型の自動人形……冥王星の幹部の手勢の急襲であやうく殺されかけた所
までは聞いている。コックピットを潰されながら軽傷で助かったのは幸運だが、とにかく合流地点へ降りるつもりだったヘリ
は墜落! 慌てて飛び出した貴様らは」
「はい……。更に追撃され……ました」
「だから自由落下中、トリ型たる貴様に乗って合流地点へ急行といった最善手は潰された訳だ! で! 合流地点からはや
や離れた場所で冥王星の幹部の武装錬金の波状攻撃を受けているのが今!」

 その通り……です。さすが無銘くん、鋭い、ですと嬉しそうに笑う鐶。
 だが向こうの声は急に曇る。

「……。と、いうかだ、貴様。さっきから栴檀どもの姿ちっとも見えんが、どうなってる」
「え……? はぐれちゃって……ます……が」
「はぐれ……って! お前なーー! なんでそういう大事なこと後回しにする!! あやつらけっこうお前の面倒見てるんだぞ!
姉のことだって気にかけてるし! ちょっとぐらい心配しなきゃ可哀想だろうが!!」
「……あ、いえ……心配してます……けど……。無銘くん賢いから……てっきり、龕灯の映像で気付いてるかなあ……と」

 ああもうこやつホント緊張感ないなあという忍び少年の泣き声が、携帯電話のスピーカーでくぐもった。

 剛太と桜花は嘆息する。

(あいつら……大丈夫かな)
(ヘリから飛び出したの、咄嗟だったものね……)

 脱出途中、銃撃型の人形から、とっさに剛太をかばった香美。攻撃自体は貴信の鎖で弾いたが、その拍子に下を見て
しまったのが悪かった。

「ぎゃ! ぎゃー!! 高いし! 怖い怖い怖いご主人怖いここめっちゃ怖いし!!」
『落ち着け香美!! ちょっと踏ん張れば鐶副長が乗せて』」

 くれるといいかけた所で、彼らは飛行型自動人形の猛然たる体当たりを食らい、弾き飛ばされた。咄嗟に伸ばした鎖があ
と一歩のところで剛太の手には届かないほど遠くへと、二心同体のネコと飼い主は飛ばされた。

(野郎。俺の名前ぜんっぜん覚えられねえ癖に余計なことしやがって……)
「あら。単独行動になったから狙い撃たれそうで不安? 香美ちゃん、ホムンクルスなのに……」
「べ! 別にあんな奴のことなんざ心配してねえし! 俺が一番心配なのは先輩!」
「でしょうね」。ふふっと笑う桜花は何か見透かしているようで、だから剛太はバツが悪い。
「……。ただまあアレがきっかけでくたばられても夢見が悪いつうか。いや! そんなんより核鉄だろ問題は!! あいつら
の核鉄取られたらただでさえ強いマレフィックどもがダブル武装錬金とかしかねないぞ! 俺が心配してんのはそこだ!」
「はいはい」
 ただ微笑する桜花に「笑ってねえで次! 来たぞ!」と叫ぶ剛太。視線の先には地面を隆起させ現れる自動人形。


 人形。人形。自動人形。

 山あいの、緩やかな勾配に両側を挟まれたその道は蛇のようにくねっている。そこめがけ地下から木々の間から、ぬろ
ぬろと自動人形が出てきては一団を攻撃するのである。
0130永遠の扉
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2018/02/17(土) 23:49:29.93ID:6JFt3+FR
「確かクライマックス=アーマード……だったな。この自動人形どもの元締めは」

 呟く青髪のセーラー服少女の360度の全周囲から長短さまざまな自動人形が十数体、飛びかかった。

「敵の狙いは疑うまでもなく各個撃破。大戦士長奪還のためやってきた私たち戦団の各支隊が合流する前に叩く……。最
善手だな」

 空を舞う人形の群れは、明らかに少女めがけ落ちていく。手にした剣や銃は小柄で細身の女子高生を引き裂くに
十分だ。

「人数の多い私たちに無限増援を差し向けてきた所を見ると、他の部隊にも相性で勝る幹部が差し向けられていると見る
べき」

 黒々とした敵意の、無数の影が頬を覆う中、斗貴子という名の少女は事もなげに進む。
 青銀色の曲線が空間を駆け抜けた、幾つも、幾つも。それに薙がれた自動人形たちはヘラを入れられた粘土細工のよ
うに手を、足を、首を、さまざまな部位を切り飛ばされ、力なく落ちていく。ギィヤィン、ギィヤィン。胴田貫で兜を割るような、
気魄の籠もった、しかし恐ろしく早い流線が斗貴子の周囲で迸るたび迫りくる自動人形たちは戦闘能力を失い散っていく。

「際限なく湧いてくる人形どもは厄介だが……」

 光は、大腿部に着装した金具から起こっていた。自律飛翔する無数の円月刀を暴走させたような有様だった。メタリック
ブルーとプラチナホワイトで構成された薙ぎ払い曲線の乱舞がザクザクザクザクと金属の兵卒を屠っていく。

「もっとも私と火渡戦士長と分断までは目論んでいない以上、どうせ向こうも本腰ではない。こちらも練習と行かせて貰う」

 物言わぬ機械仕掛けですらたじろぐ絶対の威圧感を漂わせながら、少女は静かに呟く。

「試してみるか。剛太に教わった、生体電流のエネルギー放出転換を」

 停止し、首をもたげた処刑鎌の表面のあちこちで、僅かだがスパークが、弾けていく。


「おおー。斗貴子の介、バルスカでサンライトハート操作の練習するらしいね。音楽隊リーダーが複製予定の突撃槍は確か
に最終決戦の決め手候補だからねー、序盤からやっとくに越したことないよ」
「のん気に解説してる場合か!!」
 人形の攻撃をぎゃーっと避けた眼鏡の青年が、狂ったような形相で何度も何度もチェーンソーを振り下ろし、反撃を試み
る。が、刃はチュイイインと細かな破片を飛ばすばかりでいっこう完全破壊に至らない。
「くっそ! 逆向(さかむかい)サンの武装錬金は攻撃した者を165分割する筈なのに! 全ッ然切れないし!」
「もともと震洋の介の武装錬金じゃないからねー。てかそのうち、真なる武装錬金も目覚めるよ」
「……。それなあ。音楽隊の副長のキドニーダガー見てると、なんかなあ、取られてるって気がするんだけど……」
「前世の記憶的なあれかも知れないねー」
「じゃなくて! 見てないで助けろよ!!」
 あいよー。怒鳴られたアーミールックの女性は、震洋が苦戦していた人形を巨大な盾で殴り飛ばした。何本もの木の倒れ
る音の後、彼らからはかすんで見えるほど遠くの巨岩の上の方で人形らしき物体が砕け飛んだ。
「……特性抜きでその攻撃力かよ」
「まあね。鍛えてるから♪ その点、震洋の介とは逆かなあ」
「うるさい殺陣師盥(たてし・たらい)! 僕は搦め手でこそ輝くタイプなんだぞ! 訳も分からず連れてこられた戦いでいき
なりこんな沢山相手に戦えとか……! だいたい僕は桜花秋水みたいに綺麗事言って戦士に属した覚えもないんだよ!」
「まあ別に抜けたきゃ殺陣師サンそれでもいいけどさあ」
 大地を揺るがす轟音と、肉を焼き尽くしそうな熱風と共に震洋の目に映ったのは、勾配の上で膨れ上がる直径100mほ
どの紅蓮の火球。
「あのヒト相手にするよりは、楽でしょ、人形」
「…………」
 眼鏡の少年は、黙りこくった。
0131永遠の扉
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2018/02/17(土) 23:49:49.72ID:6JFt3+FR
「へっ。無限増援だか何だか知らねェが、相手が悪かったな」

 火球が止んだ森の中。炭化した木々のふもとに自動人形の残骸が転がる中、めらめらと燃える煙草を一服しながら凶笑
したのは火渡赤馬。

「五千百度で蒸発させるまでもねえ。幾らでもやれるぜ!」
「ですが幹部本人が現れていない以上、向こうも足止め程度のつもり……。戦力の逐次投入は愚といいますが、無限増援
を持つ冥王星の幹部が、広域殲滅力に秀でた火渡様に挑む場合は違います。戦士・斗貴子たちだけではやや手に余る程
度の手勢を繰り返し繰り返し小出しにするのは寧ろ正しい。総ての戦力を一気に差し向けるとたった一発のブレイズオブ
グローリーで全滅、させられますから。だから決戦は挑まず逐次投入で足止めする方が戦略上、正しいかと」

 ガスマスクの少女から二酸化炭素の風が吹く。延焼と山火事を防いでいるのだ。

(だろうな)。反論された格好の火渡だが、凶悪な面相とは裏腹に怒らない。

(足止め程度でも戦略的にゃ冥王星の幹部の方が癪だが勝ってる。何故なら──…)


「大駒3人! 私のスーパーエクスプレスでこの上なく釘付けにしているからです!」

 どこかの暗い空間で冴えない眼鏡のロング黒髪アラサー女子が元気よく片手を上げた。

「そう! 私まだこの上なく誰にもダメージ与えられてはいませんが、大戦士長代行として坂口照星さん救出作戦の最高責
任者になっている火渡さんと、名にしおう斗貴子さんと、音楽隊の副長たる鐶さんを戦団本体から切り離せているアドバン
テージは大きいのですこの上なく!! 指揮官の現着を少しでも遅らせれば戦士さんたちは混乱! 斗貴子さんと鐶さん
さえフリーならそんな混乱などこの上ない実力で建て直せるかもでしょうけど、だからこそ! ここでの私の足止めっ! こ
の上なく! 活きるのです!」

 頭を失い惑乱する戦士たちが来援を受けられなければ、実力で勝るレティクルの幹部たちはますます戦力を削りやすく
なる。

「ひいては照星さん救出という戦団の戦略目標も挫けます! ぬぇーぬぇっぬぇっ、私は冴えないアラサーですが、年齢ゆ
えに戦略的な攻め方ぐらい知っているのです! ここで火渡さんと鐶さん、指揮官と実力者を足止めしておくのは戦略的に
有効! 殺せなくても仲間が目減りする時間が稼げればレティクルの戦略目的に対しこの上なく! 有効!」

(……対してレティクルが足止めに使っている戦力は、末席もいいところの冥王星の……幾らでも増産できる雑兵ときて
やがる! 気にいらねェな)

 飛車と角のみならず金や桂馬さえ歩に抑えられている現状に目を剥き歯噛みした火渡。咆哮、した。
「おいテメぇら! いつまでもやりあってんじゃねえ! さっさと合流地点行くぞ!」
「い、行くったって、この自動人形どもけっこう強いんスよ! 斃しながらじゃとても!」
「るせえ新米! クソ弱えテメエと元L・X・Eの野郎ども、あとそこでガタガタ震えてやがる役立たずなヘリのパイロットはト
リ型にでも乗って先へ行け!」
「今の頭数でも波状攻撃に悩んでいるのに人数を減らす……? あ、いや、逆か」
 文句を言いかけた震洋は口を噤む。
「そーなのだよ少年! 火渡の介の火力なら、むしろ味方は少ない方がやりやすい! 君たち攻撃力ひっくい組が去れば
炎はより加速度的に人形どもを消滅するヨー。そしたら今より効率的に捌けるのだぜ! 膠着なぞ終わるのだぜ!」
 ふふんと解説する黒タンクトップ少女。
「つーワケだトリ型。とっとといま使命した連中乗せて飛びやがれ
「……さっき、離脱を試みた時、は…………数の暴力で……邪魔された……のですが……」
「あん時は全員がチンタラ搭乗しようとしてたからだ! だが今度は津村と殺陣師が離陸まで直掩! 俺と毒島は中遠距
離の敵どもがテメエらにちょっかい出せねえよう掃討! それだけしてやって離陸できねえつうなら殺す!」
 それなら戦艦被弾させるな的なSRポイント、取れます……と虚ろな目のトリ少女、無意味に拳を固めたが
(……あれ? なにかとても大事なこと……忘れているような…………)
 小首をかしげる。

「トリ型どもがこの場を離れたら直掩2人はそのままツーマンセルで人形どもを制圧しつつ前進! 殿(しんがり)は俺と毒
島! 今回はケツ持ってやる以上、ちゃんと働けよ津村! ヘマしたらブチ殺す!!」
「……了解」
0132永遠の扉
垢版 |
2018/02/17(土) 23:51:30.25ID:6JFt3+FR
 ヴィクターIII再殺に際し行った裏切りをいまだに根に持たれているのを直感した斗貴子だが、強張りは薄い物ですむ。
 桜花は侖(つい)ずる、火渡の指揮を。
(粗暴なようでいて理に叶った采配ね。戦力で劣る私と剛太クンとあと2人をただ先行させるだけなら無謀だけど、輸送する
のがメチャクチャ強い光ちゃんなら……警護も可能、と。しかも方向音痴って欠点を、私たちのナビで補えもする)
 桜花は殺陣師なる新顔の戦士の実力は知らないが、斗貴子が相方になる以上、心配はないと分析する。何より斗貴子に
「ま、お互い頑張るかね?」と先輩風を吹かせている以上、

(……かなりの実力者、でしょうね)

 と推察する。

 巨鳥の形態になる鐶の背中に他の2人ともども乗りながら、桜花はしかし、思う。

(光ちゃんの速度なら合流地点までは1分もかからないでしょうね。けど……問題はこの瞬間的な分断を敵が狙っているか
どうか……ね。私なら他の戦士と同行している火渡戦士長がこういう判断を降すところまでは読める。凄まじい火力ゆえに
射程内から弱い味方を放逐したがるってところまでは……読める。だから孤立した弱い戦力から削るっていう基本的なこと
ぐらい……ちょっと頭のいい幹部なら考える)
(だな)。剛太も桜花の顔色に頷く。
(鐶は確かに強ぇけど、敵幹部は、マレフィックは鐶が2人がかりでも勝てるかどうかだ。残念だけど俺と早坂と、あと鈴木
とかいう元信奉者じゃ、3人合わせても鐶にゃ勝てない。つうか鈴木以外の2人に先輩とブラボーと、根来と千歳さんを足し
てやっと引き分けギリギリの勝利ができたのが鐶……だし。ヘリパイロットはまあ、戦力外だし)
 つまりマレフィック本人が、奇襲のおこぼれを奇襲してくれば……
(私がいる以上、即死はないです……が、持ちこたえられるのは3分ぐらい……でしょうか。特に…………お姉ちゃんが
……出てきたら…………私は…………絶対に動揺……します……)
 鐶の義姉、リバースは敵の幹部である。
(……錬金の戦士に、おとうさんと、おかあさんを殺されたって……そうレティクルに吹き込まれて…………騙されている、
ことを……伝えれば…………仲直りできるかも…………知れませんが…………。でもお姉ちゃんは……私と…………
戦いたがっているようで……)
 説得は難しいと、鐶はそう認識している。

 では先行は死兵なのか?

 違うであろうと思案したのは、斗貴子。
(……むしろ火渡戦士長は奇襲を奇襲しようとしているのかもな)
 いかにも打ちごろな囮に食いつく幹部の柔らかい脇腹を狙っているのではないか……とする彼女の思案は……正解。
(毒島の噴出する超高圧水素ガスに乗って火炎同化すりゃあトリ型だろうが一気に追いつけるんだよこっちは。新米ども
はエサさ。狙い撃ちに出張ってきた幹部どもを叩くためのエサ)

 何処までも凶(わる)い顔つきで、微笑する火渡。

(ま、いけ好かねェが音楽隊の副長が同行している以上、俺が追いつくまでの数秒で全滅ってこたぁねえだろ)
(ちなみに高速で遠ざかる鐶さんたちへの水素ガスの照準セットは、ガスマスクの、伸縮可能な望遠レンズで行います)

 毒島のそれは再殺騒ぎのころ披露したエアリアルオペレーターの一機能である。

 ああそういうコンボね、剛太が納得し、桜花も腑に落ちたところでしかし異議は唱えられた。

「……ベスト・アンサーではないな……です……!」

 鐶の反論に火渡の形相が引きつったのは、一見おとなしげな三つ編み少女にまたも反撃をされたからでもあるが、むし
ろそれより、彼の戦略構想の主幹を占める航空戦力が不随に陥りかけている実務的な不快感もこそ、大きい。

「貴信さんたち…………。はぐれちゃった2人を回収しないまま……合流地点へ飛ぶのは……どう、なのでしょうか……?
貴信さんと、香美さんを…………置き去りにするのは…………私……、したくない、です……!」
 ギリっと歯軋りした火渡に、斗貴子が(いや鐶、それは既に解決しているから、言い募ると火渡戦士長の機嫌がだな)と
仲裁に入ろうと考えた瞬間である。鈴木震洋が発言したのは。
0133永遠の扉
垢版 |
2018/02/17(土) 23:51:51.34ID:6JFt3+FR
                                                  めじるし
「あのネコ型なら探さなくても近づいてくるだろ。火渡……戦士長があれだけデカい火球を何発も何発も吹き上げたんだぞ、
木星の幹部との戦いの終わりしなブレイズオブグローリーを見たネコ型の主人なら、何もせずとも向こうから寄ってくる」

 一座は、固まった。

(……なんだこいつ。いかにも勉強以外なにもできなさそうな癖に鋭ッ! てかコイツなんなんだ? メイドカフェでの騒動ん
ときチラっと顔見た気するけど……どういう奴だ?)
(意外だな。イオイソゴとの戦いを判断材料にしているとは。ついさっきの、自分は参戦していなかった戦いを……)
(そりゃあ負けたとはいえ、学校での大決戦のとき、一度は武藤クンと津村さんを弁舌1つで追い込んでたもの)

 頭いいのよ鈴木震洋はと元同輩の桜花に言われては、剛太も斗貴子も納得せざるをえない。

「でも……貴信さんたち……ここへ来る途中も…………ここに来て…………火球を追っていく間も…………単独、で……
幹部に狙われやすいのは……確か……なのでは……」
「他の戦士なら確かにそうだけど」、鐶を背後から肩越しに抱いた桜花は言う。「貴信クンたちは火星の幹部が執心している
んでしょ? だったら他の幹部は言い含められている筈よ。『俺の獲物だ、手を出したら殺す』って」
「まあそれでもディプレスだっけかの火星の幹部と、決闘する羽目にゃなるかも知れねェけど、どーせそれはいつかやる
ことだろ? ネコ型も飼い主も、それは覚悟っつうか、そのためにお前ら音楽隊に入ったって話なんだから……」
「……なるほど…………。『無事に合流できるかの是非じたいは怪しい』、ですが……『貴信さんたちが望まぬ戦いで斃され
る』ことは……回避…………できるの……ですね……」
 剛太の中継ぎで、鐶は整理がついたようだ。
「ディプレスさんと……戦うなら…………加勢したいのが…………本音…………ですが……、貴信さんたちの持つ因縁を
…………考える……と、易々とは……割り込めない……ですし……。私……だって、お姉ちゃんとの決着は……なるべく
一対一が……いい、ですし」
「そーいうの思えるの、お前らが強いからだって。俺ぜってえ嫌」
「剛太クンの言うとおりね。私なんかが単独行動したら他の幹部、きっと放っておかないでしょうね。

(だからこそ火渡様はあなたたちを囮にしようとしてますし。鐶さん以外の、特にレティクルの幹部と因縁のない桜花さんたちを)

 毒島が思う中、斗貴子は、ごちる。

「ともかく、当面の目的は錬金戦団各部隊との合流、だな」

 てめえが仕切るな。火渡は荒み切った眼差しで斗貴子を睨み、檄を飛ばす。

「いいかてめぇら! あくまで最終目的はロートルの奪還だ!! 合流程度でつまずいて足引くんじゃねえぞ!!」



 鐶・剛太・桜花・震洋・ヘリパイロット組……急行開始。


「というか、我の龕灯はどうすればいいのだ? 鐶らについていくべきか、地上進撃組に同行するべきか……」
「私の方にしろ。ただ浮いているだけの龕灯だ、ヘリのような密閉空間ならともかく、生身で高速飛翔する鐶にはどの道つい
ていけない」

 無銘がここまで黙っていたのは銀成残留組ゆえだ。龕灯で決戦場の様子を見る、従軍記者程度の立場だから、方針を
決める話し合いに口を出す権限がないと弁え黙っていた。そんな彼に斗貴子が対処する中、総髪の戦士長は、炎を燃や
す。

(来い幹部。奇襲しな。削りごろの雑魚戦力が別行動だぜ、仕掛けて来い)

 高速で合流地点めがけ飛んでいく鐶。

 梢の中でそれを見つめる双眸は、双子星の満月のごとく爛々と輝いており──…
0134永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:09:44.63ID:Qt+BacCS
 別の場所にて。



『アジトを少数で奇襲しよって考えは見事やけど、あいにくやったな! 最短ルートはウチが守っとんのやで!』

 無数の渦から吐き出される赤い筒(ミサイル)が幾つも幾つも地面で爆ぜる。爆光と土煙のステージを慌しく踊っているの
は……3つの影。
0135永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:10:57.94ID:Qt+BacCS
『はっはー! 運がなかったなお前らー! 迎撃でこそ真価を発揮するムーンライトインセクトの恐ろしさ! たっぷり見とき!』

(やられましたね。最初の数発は余裕で避けられましたが)
(段々数が、多く……!! 爆破のたび射出口である渦が増えてる……!)
(しかも幾ら探しても本体が見あたらねえッ……! 根来のような亜空間に潜むタイプか、或いは渦がワームホールになって
んのか、とにかく俺たちの武装錬金じゃとどかねえ場所に本体が潜んでいるのは確か! 敵が狙撃型なのは確か!)

 スラっとした燕尾服の端正な男。愛らしいが顔にケロイドのある少女。そして。

「がっ!」
0136永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:11:58.04ID:Qt+BacCS
 そばかすの目立つ青年は肩を押さえ……裂眥(れっし)の形相でわずかのあいだ渦を睨んだが、すぐさま皮肉な笑いを
取る。
「さっきテメェ名乗ってたよな〜。デッド=クラスターだったかァ? 月の幹部の割りにゃ大したことねえな? 爆竹程度の火
力しかねえじぇねえか。飛翔速度もロケット花火程度だしよ。いますぐ泣いて詫びて、アジトそのものを創ってやがるアルビ
ノのガキの身柄差し出すつうならよぉ、浅く犯してやるだけで済ますが?」
『なんやお前ウィル狙いか?』
 渦に瑕(きず)のある瞳が浮かんだ。『なるほど、だから少数で奇襲しにかかったちゅー訳か、坂口照星の安否ガン無視
なのおかしいとは思とったけど』と面白げに囁き、続ける。
『まーウチ的にはアイツはモノの奪い合いの末こっちの裸みよった腹立つ奴やけど、呉れてやる謂れはあらへんで。幹部
は10人でワンセット、やからなあ。欠けたら腹立つよって』
 何より! 筒が1つ、地面で爆ぜた。「犯す、つわれてビビって逸れたかァ?」、明後日の方向での爆発に下を向くそばか
すの青年の名はシズQ。未来から来た水星の幹部、ウィルの義兄であり、烈しい逆恨みを寄せている小者である。
 だから「明後日の方向への筒着弾」が致命的な布石であるとは気付けない。筒は、爆発と共にシズQへ致命的な打撃を
与える物品を、内部にギッシリ詰めていた。ちょうど手榴弾と鉄片の関係である。筒もまた、内部に、球体の細かな物体
を抱えていた。それが殺傷力の源であると書けば、いかなる球体が満載されていたか察しがつこう。
0137永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:12:31.41ID:Qt+BacCS
 そう。

 BB弾……

 である。

 プラスチック製の細かなそれは、ただ爆発物に詰めるだけでは『どこに当たっても人体を損壊せしめる』威力までは獲得
しない。だがデッドの扱う筒は武装錬金、錬金術の超常の力である。
 特性が、塗り替える。BB弾の凶器としての価値を創出する。

筒の爆発で飛び散って、一部はシズQの鼻先や衣服をピッピッと掠め飛び去ったBB弾が100発近くあった。重要なのは、
掠めたという点だ。傷を与えられなかったが、掠めてしまえば、それでよかった。大事なのは正中線の国境を越えること
だった。挟撃には、包囲には、どうしても抜けるべきラインがある。シズQを掠め飛び去った100発近くのBB弾とはつまり
ハムとレタスを垂直に立てられたサンドイッチの、右側のパンだった。左側のパンは筒が爆ぜるだけで完成するが、右の
パンは正中線を越えねば、だった。
0138永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:12:55.71ID:Qt+BacCS
 ぴゅうぴゅうぴゅうと機械的な、チェスの駒を置くような音がした。並の戦士なら聞くだけで死ぬマンドラゴラの喊声だった。

「シズQ!」
「逃げてーー!」

 連れ立っていた仲間達の叫びにシズQはただ顔色を失い立ち尽くすほかなかった。


 渦が彼を、取り巻いていた。300近くのシアン色の渦が、梅雨どきの陰鬱な空模様を攪拌しているようなトルネイドを渦
巻かせながら……それぞれ1個、合計300近くの筒を吐き出すのを見た青年は、(……やべえ)と汗をかいた。

『ははっ! 爆竹程度の威力でも300ありゃあ人は死ぬ! 覚えとき、ウチは薄利多売の主義なん「真・鶉隠れ」

 逆転は一瞬の出来事だった。空間を乱れ走る金色の忍者刀の剣風乱刃が、300ある渦の傍を浮遊している全てのBB
弾を破壊した瞬間、ぎらぎらと輝いていたワームホールが光をなくし、やがて消えた。射出途中だった赤い筒もまた渦と
共に……。

『……ち。やられた』

 シズQとその仲間の姿まで消えているのに気付いた筒の主──デッド──は悔しげに呻く。

『忍者刀。人間3人を現空間から別んとこ飛ばせる能力。つまり来とる。『アイツ』もまたこの決戦場に……!!』
0139永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:13:54.95ID:Qt+BacCS
「ぐ……、が…………!」

 飢えたるものに施しを与え右上がへこんだアンパンのヒーローを、人間で再現した戦士が血しぶきの中へぐしゃりと倒れた。
周りには7〜8名の死骸が散乱している。正確な人数が分からないのは、パーツごとに『分解』されているからだ。

「ホムンクルス撃破数5位だったか6位だったかのチームwだwけwれwどwwww 幼体にしか効かねえウィルスでもって
寄生と同時に癌化してくたばらせるようなww『ハメ』やってチマチマ撃破数稼いでるような奴らwwだからw ああ憂鬱ww
オイラの超絶火力にゃ手も足も出なかったwwww」
「ゆゆゆゆるして下さい! わた、わたしはチームじゃなくて、ただっ、この人たちとたまたま合流していただけで……!」
 桜餅色のショートボブの、13〜14ぐらいの少女がガタガタと歯の根を打ち鳴らしながら哀願する。
 その相手は……ハシビロコウ。ぬっとした、身長2mほどのネズミ色の怪鳥だ。名はディプレス、火星の幹部。
 彼は無表情なまんまる瞳で少女を覗き込むと、金属製の羽先で、ちょん、ちょんと、彼女の額を小突き、
「だーめwww だってお前……核鉄持ちだろwww」
0140永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:15:16.00ID:Qt+BacCS
 図星らしく、少女はひいっと目を大きくした。大戦士長の救出部隊に選抜されるほどだ、持っていない訳がない。
「戦士どもが合流する前によぉww弱いとこから削ってけってイソゴばーさんに言われてるしww 何よりオイラさっさと兄弟
(貴信のこと)探しに行きたいからwwwポッと出の核鉄持ちなんぞww殺すしかwwwなーいwww」
 ここはシズQたちとは別の戦場。ハシビロコウはくろぐろとした影で酷薄な粧(めか)しをし、楽しげに、凄んだ。同時にボー
ルペンほどの長さの細い鳥が幾つも幾つも彼の傍で顕現した。
「分解能力スピリットレスww お前も見たwwろうがwwこれ当たるとww人間の頭とかww簡単に、爆wぜwるwww」
「い、いやあ! いやああああああああああああ!!!」
 泣き叫ぶ少女に死の鳥たちが迫り──…

「なっ」

 息を呑んだのはディプレスである。あと僅かで少女に着弾し、血味噌を作るはずだった神火飛鴉(しんかひあ)の武装錬金
スピリットレスがどういう訳か中空でカキリと停止している。術者たる火星の幹部がどれほど念じようが微動だにしないのだ
 何が起こったか点検していた彼は気付く。何が神火飛鴉を封じているのかを。

「氷……だと!? 馬鹿な! まだ9月だぞ!」

 だが氷は確かにあった。東南アジアの寸胴なる木の根の如き氷脈が神火飛鴉の一面に張り付いて、それが操作を妨げ
いる。

(なんで固定されてんだ!? 『人間以外の物体なら』、無条件で分解できるスピリットレスだぞ!? ただの凍結能力なら
氷ごと分解して自由になれる筈なのに……なんで動かねえ!? 7年前は軍靴野郎の『影を凍結』すら呆気なく凌いだのに!!)

「正確には、霰(あられ)なの」

 今しがた命が消えかけていた魔界のような雰囲気がウソのような爽やかな声に、ディプレスのみならず少女までもがギョっ
とする。

 少女から20mは離れている茂みがガサガサと揺れ……人影がぬっと出た。

 と少女が見た瞬間──…
0141永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:15:40.00ID:Qt+BacCS
 視認できる一帯総てが『炸(はじ)けた』。真空製の波紋がそこかしこで鼓(こ)し、暴風が吹き荒れ、冷水に熱した鉄を突っ
込んだような音と、小さめの立方体した曇った氷を5行×2列で満載する製氷皿を捻ったようなやや不快な「ぎゅぎぃ」という
擦れが、何百セットも重なり合って彼方の山々へ轟き去った。

 わずかな硬直のあと、周囲に立ち込めていた不穏なうねりが一気に爆発し、爆発は氷の砕片となって、垂直に、緩やかに、
落ち始める。ほぼ菱形に鋭く尖っている氷たちの表面と来たら、磨き抜かれたガラス工芸のような深みのある濃いシアンで
つるつるとテカっており、で、あるがゆえに光の反射もまたひどく壮麗だった。先ほどまで命の瀬戸際にいた少女ですら思わず
「キレイ……」と見蕩れかけるほどだった。

「……野郎」

 カラスを模した分解能力の尖兵が氷に突き刺さったまま落ちていくのを見たディプレスの顔つきが瞋恚(しんい)に歪む。
1つや2つではないのだ。少女がパっと見ただけでも30近くの神火飛鴉が瓶(ドック)をブチ破った衝角船(ボトルシップ)の
ような有様で氷と共に落ちていく。丸ごと氷漬けにされたものすらあった。

 少女は、驚く。

(か、火星の幹部の武装錬金を悉く封じた……!? ホムンクルス撃破数5位だったか6位だったかのチーム相手には
メチャクチャ動きまくってた神火飛鴉なのに!? 厚さ50mmのラウンドシールドの武装錬金すら濡れたトイレットペーパー
のように呆気なく貫いた分解能力の権化なのに…………なんでこの氷たちソレ受けて無事で済んでるの!?)

「……分解自体はできている。だが分解する傍から空気中の水分凍らせてやがるな……!! それも一箇所だけじゃねえ!
集中力欠乏の俺の分かる限りでも最低40箇所近くの氷を、同時に! 操作してやがる……ッ!」
(そんな! 斗貴子先輩ですら同時に操作できる処刑鎌(デスサイズ)は4本までなのに、その10倍を一歩読み誤れば即死
必須の分解能力相手に平然と…………? しかも幹部の様子からすると何度も遭遇している相手でもない! 初見! 不意
の遭遇にあって幹部相手に互角以上なのは相当の練度! 誰!? どんな戦士が来たの!?)

 いつの間にか茂みを抜けて全身を露にしている謎の戦士は、少女、だった。
 純白の雲のようにモコモコしたロングヘアーに、台風の目のような、瞳孔に到るまで螺旋を描いている碧眼を持つ彼女は、
他にもイヤリングなどが『天気』に繋がる意匠であった。
0142永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:15:58.31ID:Qt+BacCS
 極めつけは右手に持っている指棒である。気象予報士が朝夕のニュースでよく日本を指差すとき使っているそれだった。

「見事なの」

 少女が軽く失禁しかけるほどの怒気を放っているディプレスに、天気の化身めいた救援の戦士は、静かに、だがどこか
楽しさで舌を転がしているような調子で声を漏らした。

「見事なの。私、ディプレスちゃんを絶対零度で凍らせたあと粉々に砕こうと思って全力で吹雪仕掛けたの。でも塞がれた
のはビックリなの。たいていの共同体は一発で全滅できた私の吹雪凌げる幹部にむっむくむーの激おこなの、不快ー」
「茂みから声かけるとかつまらねえ囮カマしやがって! おかげでそっちに気ぃ取られてた俺は出し抜けに全方位からカマ
されたブリザードにあわや凍結しかけたぜ!! カウンターだとブチかました神火飛鴉すら雪中行軍で次から次に力尽き
やがる始末!」
 舐めやがってとさすった彼の脇腹は、ごく薄くだが凍っている。
「分解能力の神火飛鴉を俺の周囲に侍らせることで常時発動している自動防御すら僅かとはいえ突破しやがって……!」
 青筋が怪鳥の丸い頭部にミチミチと浮かんだ。
「ここまで頭に来る野郎は津村斗貴子以来だ!! 殺してやる! いまこの場でブチ殺してやる!!」
(なるほど。氷が舞い散る前あっちこっちでバジュバジュなってたのは無数の猛吹雪と分解能力の衝突による対消滅の音
だったと。……。全ッ然、見えなかったなー。一瞬でもの凄い攻防してたんだなあ2人とも)
 考える少女にふと意識をやったハシビロコウの目が一瞬で紅く染まった。
「そ、そうじゃねえか! てめー天気の野郎! トチ狂ってやがんのか?! 俺の傍にゃ戦士が、てめえの仲間だって居た
ろうが! なのにホムンクルス調整体の俺すらおっ死ぬ設定温度で攻撃かますとか、馬鹿なのか!?」
「問題ないの。こうするつもりだったの」
「へ!? あええ!?」
 少女の視界が一気に流れていく。20mほど離れている天気の戦士めがけ自分はいま、飛んでいる……そう認識した彼女
は(磁力!? 木星の幹部みたいな……?)と思ったが、(あ! いや、違う!!)、気付く。

 少女の肩に、手が、乗っていた。手というが、厳密にいうと、手首を曲げたときに浮かぶ管のような筋から先の部位しか
肩には乗っていなかった。(え、なんで、まさかディプレスの分解能力に……じゃない、あああ私さっきからちゃんと観察せ
ずに推測しすぎだよ!!)と現状を正しく把握する。
0143永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:16:16.20ID:Qt+BacCS
 要するに、ロケットパンチだった。いよいよ10m以内の圏内に迫りつつある天気の戦士の右肘から先が雷に変化して
おり、雷はそのまま少女の肩に乗っている手に接続していた。

(火渡戦士長の火炎同化の……いわば天候版!? なるほど確かに雷の速度で拳を繰り出してたら、私が猛吹雪で凍る
より早くディプレスの傍から救い出せてた!! しなかったのはアイツの迎撃が凍結を相殺したから! てか相殺するだろ
うってあの一瞬で見極めて私の救出後回しにできる判断力も……スゴい!)

(だが馬鹿め! ひっかかりやがったな!!)

 天気の戦士と手首を接続する雷に10近くの神火飛鴉が直撃した。(やばい! これって!) 爆ぜる激しい光に少女は
愕然と目を見開く。
 果たして天気の戦士の腕は雷光の色彩を失い、どろどろと溶けていく。確認したディプレスは、喚く。

「いくら雷と同化していようがテメーの腕にゃかわりねえ!! これで片手はお陀仏! 俺のすぐ傍にいる戦士に注目させりゃ
あよぉ! そーいう救出のための手早い動きっての引き出せて、隙つけるって、思ってたんだよこっちは!」
「それ含め、問題ないの」

 今度こそ、火星の幹部は硬直した。背中でおぞましい陽の匂いが自動防御によって眩しい虹色のしぶきとなって散り行く
のを感じたのと、同時だった。

 背後から、緩やかな声がかかったのは。

「最初から、そっちに居た私は、蜃気楼、なの。このコ助けるため雷の腕のばしたら、神火飛鴉来るだろうって踏んでたから、
最初から、光の屈折で、蜃気楼を、見せてたの」
「鏡写しだったって訳か! 腕だけじゃなく……向こうへ飛んでくガキ女の姿まで! ありえねえ! どんな複雑怪奇な蜃気
楼だっつんだよフザけやがって!!」

 でも声は本物だったの、口と声帯を結ぶラインだけは蜃気楼に合わせて浮かべていたの……淡々と呟く天気の戦士に少女は

(ただ能力が強力なだけじゃない。読みもすげえなこの人……! いまディプレスの背後で散ったのは太陽光線を収束させ
た極太のビームだったし。種明かしして得意ぶるアイツの隙を突いたんだ。隙が突けるってことまで最初から読んでたんだ)

 と敬服することしきりである。

「だが蜃気楼側にやった神火飛鴉をそちらにやりさえすれば……!」
「無駄なの」

 幻の雷の腕を貫いたばかりの鳥たちが俄かに黒雲に包まれた。筋斗雲を墨染めしたような小さなそれらはピシャピシャと
稲光を迸らせている。包まれた神火飛鴉たちは、落ちた。バチバチと青白いスパークを迸らせながら死に掛けの魚のごとく
震えている。

「動かせ……ねえッ!」
「雷雲の中は電磁波が乱れ狂っているから電波の遠隔操作は届かない、なの。私の武装錬金の雷雲は私の精神感応波の
雷が乱舞してるから、他の人の念波で動く他の人の武装錬金は動かせない、の」

(どんだけ強いのこの人!? 反則もいいとこだよ!?)

「あと、ディプレスちゃんに殺された戦士たちの核鉄、回収したの」
(いつの間に!? あああ、私が絶望していた魔人のような奴相手に、さらっとそういう気まで回るとか、すげえっす)
「あの野郎は詰めが甘いの。私と遭遇した時点でさっさと核鉄、根城に持って帰ってれば、まずまずの勝利で緒戦を飾れた
のに、私の強さも見抜けずケンカ売ったばかりに大損かましてるの。ぷーくすくす、これだから男は馬鹿、なの」
 拳を顎に当てて無表情気味に嘲笑する天気の人に、少女は(見た目ファンシーだからちょっと不思議ちゃんだなあ)と
思った。
0144永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:16:36.95ID:Qt+BacCS
「てめえ!!」

 コケにつぐコケに激昂したディプレスは振り返り──…

「悪いけど、合流が先なの。合流するまで静かにしてて欲しいの」

 立ち尽くすほか、なかった。

 なぜならば山の斜面でもなんでもない平地で、上空から、高さ30mほどの雪崩が死の冷灰を撒き散らしながら迫ってきて
いたからだ。

「元は大気中の水分でも武装錬金特性で無理やり結合した以上、錬金術の産物と変わりないの。ホムンクルスが直撃受けた
ら死んじゃうの。生きたかったら、よけるなり防ぐなり、すべきなの」
(ざけやがって! だが……!)
 地面に落ちていた氷が幾つか、割れた。割れて、封じられていた神火飛鴉が浮き上がる。
 ピクっ。同時に少女戦士の耳が動く。
「気をつけて下さい! いま神火飛鴉が幾つか氷を砕きアイツの手元へ……! あの幹部粘着質だから、きっと来ます、飛
んできます! 錐のごとく前方に集中した自動防御で雪崩を突破し追ってきます! それだと多少被弾もしますが、追ってこ
ないと油断してた私たちを恐怖に突き落とし惨殺できるならそれでいいって割り切る薄暗い執念深さをあの幹部、持ってま
すから!」
(ん・の・や・ろォォォ!! さっきまで俺にさんざビビってた女の分際で言いたい放題しやがってぇえええ!!)
 図星だからこそディプレスの顔面は、ビキビキと、歪む。歪むからこそ、言われたような手で雪崩へ突っ込む。
「ほー。思わぬ助言、いただきました、なの」
 天気の人はポンと手を打ち、
「じゃあとりまF3×6で足止め、なの」
 と指差し棒を一振りした瞬間、火星の幹部の周囲に現れたのは──…
0145永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:17:24.23ID:Qt+BacCS
 天を衝かんばかりの竜巻が、6つ。瞬く間に羽撃(はばた)きを暴風に巻き込まれた火星の幹部は

(クソったれめ! これじゃ雪崩を突っ切るどころじゃねえ! つうかまず竜巻を分解しねえと全身の骨が……ヤワな翼が
ゴキボキにヘシ折られちまう!!)
(鳥系の敵の追撃を防ぐのに竜巻って……ほんと的確だなあ天気の人)

「さらば、なの」

 再び雷と同化した天気の戦士は、ジグザグの軌道で少女を胸に抱えて飛び去った。

「わああ!! わたっ、私は雷になれないんですか! 生身でこの速度はちょっとー!」
「ガマンするの。頭分解されて脳みそあぼーんするの考えたら、マシなの」
0146永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:17:46.18ID:Qt+BacCS
 ややあって。空で。


「あ、あのー。助けていただいたので、お名前だけでも……。お礼いいたいし……」
「ドラちゃんなの。ドラちゃんの名は、気象(きあがた)サップドーラー、なの」
「え! ホムンクルス撃破数3位の! めっちゃ有名人じゃないですか! あー、カッコからしてもしかしてと思ってたけど
やっぱり気象兵器(HAARP)の使い手……! 強いのも納得ですよ、戦部さんと師範さんに次ぐ3位なんだから!」

 というか火星の幹部相手に余裕一方だったし、ドラちゃんさん1人で他の幹部もどうにかなったりするんじゃ……と調子
よく笑いかける少女に、ドラちゃんは顔をしかめた。

「それは、ムリ、なの。激甚災害級の気象すら操れるドラちゃんが十文字槍1本の戦部さんよりランク2つ下なコトには、そ
れなりの理由が、弱点が、あるの」

「火星の幹部との戦い、長引いていたら、殺されていたのはドラちゃんだったの。だからこそ一気に強力な攻撃つぎつぎに
叩き込んで……退散する隙、作ったの」
0147永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:18:19.19ID:Qt+BacCS
(ひょっとしてこの人……短期決戦型…………?)



 元の戦場で。

 薙ぎ倒された木々が生々しい雪原の一角が、弾け飛んだ。そこから飛び出したディプレスは、手近な倒木の上に飛び移り
足を休める。

「ww いきなり火渡級の相手とかち当たるとかww でもww あの天気の戦士だってきっと万能無敵じゃねえ筈wwww
だってそうだろww アイツが無敵だっつーなら戦団はヴィクター1人にあれほどの疲弊は強いられなかったwwwwwww
言い換えりゃ、だww 天気野郎の実力がタイマンでヴィクターを倒せるレベルであったなら、奴の動員だけで夏の再殺騒
ぎは決着がつきww 戦団は他の戦士を温存できたwww」

 つまり奴にも──酸素の薄い場所では命が危うい火渡のような──致命的な弱点があり、で、あるがゆえにヴィクターに
迫る実力の持ち主には楽勝といかない……。
0148永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:18:39.83ID:Qt+BacCS
 といったディプレスの分析は、結局のところ負け惜しみであろう。
 さきほどの一戦で勝てなかった憤りを、相手の、人間ならば誰でも持っている欠点を指摘することで晴らそうとしている
のだ。


 空。

「うわあああん、うわあああん、男、男と遭遇して戦ったの、怖かったの、ドラちゃんは怖かったのぉ!!」
(だ、男性恐怖症……? 弱点ってソレ!?)
「別に弱点じゃないの。ガチ勝利して、ぷーくすくすしたら、晴れるの。ドラちゃんの欠陥は、能力に、あるの」

 ところで合流地点の様子わかるの? ドラちゃんの問いに少女戦士は首を振る。

「誰か着いたって連絡はないですね。みんな幹部に襲われていて連絡どころじゃないのかも」
「斗貴子さんも? 斗貴子さんも来てるか分からないの?」
「はい。……。アレ? 斗貴子先輩とお知り合いだったんですか?」
 んーん。ドラちゃんは雲のようにふわふわした髪を振る。
「知り合いだったのはお姉ちゃん、なの。斗貴子さんは『あの島』でお姉ちゃんが死んだとき一番近くに居たから、一度会っ
てお話したいの。お姉ちゃんが死んじゃうまで、どんな生き方をしていたか、聞きたいの。記録を読むんじゃなく、お姉ちゃん
と生きていた人の話で、聞きたいの」
0149永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:18:57.41ID:Qt+BacCS
「……ドラちゃんさんのお姉さんも戦士…………だったんですか?」
「戦士じゃないの。一般人なの。お父さんとお母さんの離婚のあと、都会から島に行って、学校でホムンクルスに襲われた
の。噴火に見せかけた土石流で埋められちゃったの。それが7年前なの」
「『7年前』? ……まさか」
 風切り音が、強くなった。ドラちゃんはマイペースに告げる。
「でもお姉ちゃんはお母さん方の姓だから、きっと斗貴子さん、お父さんの名字名乗ってる私がお姉ちゃんの妹だって気付
かないかもなの。でもお姉ちゃんの話は聞きたいの。両親が離婚してからお姉ちゃんが死ぬまでの2年間、結局一度も
会えなかったから、せめて最後の時期の話は…………聞きたいの」
「あの、踏み込んだ話になっちゃうかもですけど」。少女戦士は手を上げた。
「もしかして……ドラちゃんさんのお姉さんが亡くなられた島って……

『赤銅島』

ですか……?」
 うん。天気の少女は頷いた。

「お姉ちゃんの名前は、東里アヤカなの」
0150永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:19:14.75ID:Qt+BacCS
 再び、元の戦場。


「しつこく追撃してやりゃあ奴の弱点も暴けるかもだがww どうせ向こうも予測してるだろうからなあソレwwww さっきから
遠くにチラチラ火渡の火球も見えてるしwww 最悪天気野郎は火渡んとこに逃げ込む恐れがあるwww タッグ組まれたら
www最悪www オイラが真価を発揮する『デッドとの連携』を動員しても勝率はwww50%ってとこになるwww」

 遠ざかっていくサップドーラーをディプレスは、追わない。

(そww こちとら小者だからよぉwww ああいう攻撃力の高い野郎を無理して斃す必要はねえのよww ああいうのはイソゴ
ばーさんの搦め手か、クライマックスの『切り札』に任すに限るwww 俺は補助だの支援だのに特化している戦士どもが
合流地点にたどり着く前に、ジワジワとwww 各個撃破していきゃいいww 他の部隊と協力してこそ本領を発揮できる
連中がwww恋焦がれる他の部隊と合流する前にwwwツブして回んのがオイラ本来の役目だってww イソゴばーさんも
言ってたしww)

 敵組織に緊密なる連携を獲得させぬのは戦闘の前準備としては、正しい。但しその正しさが後世の好感を得られる類の
ものであるかどうかは、また別の問題であろう。

「オイラの本命はあくまで兄弟(貴信のこと)ww クライマックスはオイラんとこ飛ばそうとしたがしくじってあらぬ方向にやっ
ちまったらしい、からなwww 子猫ちゃんともども、今どこで何してんのかねえww」
0151永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:19:58.13ID:Qt+BacCS
 またまた別の場所。



「どどどどこまで逃げればいいのさご主人!!」
『とにかく火球の上がってる場所! そこなら火渡戦士長と合流できる!!』

 つったって! 怯え気味な表情で後ろを振り返ったネコ耳少女は「ひいいえええ」と大口の輪郭を波打たせ、大きく手を
振り速度を上げる。とっくにトップギアだった速度はいよいよ音速の壁に抵触し始めている。タンクトップに浮く形のいい
膨らみがたぷたぷ揺れるがそういう色香を自認できぬネコは、怯えた表情で振り返り振り返り鋭く叫ぶ。

「ここっ、これ! あのおっかない奴にどーにかできんの!? たおしちゃダメつったのご主人じゃん! でもあのおっかない
奴んとこ”これ”連れてったら、絶対みんな「ぎゃー」されるんじゃ……!?」
『大丈夫! 頼るのは毒島氏だ!』

 茂みを抜けると谷があった。アニメなどでよくある、底が黒々と見えるほどに深いものではなく、せいぜい深さ6mほどの
小規模なものである。「うぅ、ビミョーに高くて怖い……」。崖っぷちで足をブレーキし立ち止まったネコ少女──香美──は
ぶるぶると顔をしかめたが、『一気に飛ぶしかない! 捕まったら仲間入りだぞ……!』と震える飼い主──貴信──の声
と、それに遅れて響き渡った背後からの巨大な呻き声に「ああもう!」と右掌の四角い穴からビャっとせり出させた鎖分銅を
対岸の大振りな枝に絡ませ地面を蹴る。飛びあがった瞬間、寸前まで背中のあった空間を、暗い赤紫色した長い爪が切り
裂いた。
0152永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:20:17.65ID:Qt+BacCS
(ひいいえええ、怖い怖い怖い怖い)

 ターザン状態でなんとか対岸につま先を乗せる香美はもうガチガチと歯を鳴らしている。
 後方でガケの崩れる音がした。重たいものが落ちる音も……。

『とにかく走るんだ香美!! 火球に向かってけば合流できる!!』
「う、うん!!」

 再び走り出した香美。ひときわ音圧を増した背後からの呻き声に、軽くちらりと横目を這わす。

 崖を上ってきたのは…………、人々、だった。
 それぞれ、これといって特徴のない風貌を、これまた量販店で売っていそうな衣服で包んでいる彼らは年齢も性別もバラ
バラだ。4歳ぐらいの男のコも入れば、妙にがっしりした禿頭の老人もいる。逆手に握った包丁を頭より高い地点で苛立た
しげにぶん回しながら金切り声を上げているのは40代前半ぐらいのエプロン姿の主婦。
 いよいよ四つん這いで涎まきちらしつつ疾駆し始めているのは清純そうな顔立ちの女子高生。
 そのほか、サラリーマン風の男性や野良着姿のおばあさんといった面々が、口々に恐ろしげな呻きを上げながら香美め
がけ走り出している。

 みな、全身の皮膚が灰色だった。双眸も白濁し、二の腕や脛といったあちこちの部位が生々しく赤剥けている。
 貴信は叫ぶ。
0153永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:20:36.77ID:Qt+BacCS
『な、なんど見てもゾンビ……にしか!!』
「……。なんかさっき、似たようなことなかったっけご主人」
『さっきというか7年前だ! ミッドナイトの屍部下! 死んだ筈の『もりもりさんの昔の同輩』たちが蘇って僕たちを襲撃し
たことは確かにあったが……』
「ミッちゃんのこと……あたしさ、今でも悲しいじゃん」
『……僕もだ。だが二度と会えない人のコトを考えられる余裕はない! このゾンビめいた人たちはなんなんだ! 屍部下
でもなければ冥王星の幹部の自動人形とも明らかに別種というか──…

見た目一般人ってことは……近くの村の、新月村の人たち……だよな!!? 幹部の誰かの武装錬金で……操られてい
るのか!!?』


                          P M S C S
「『社員』だ。乃公(だいこう)が武装錬金、民間軍人会社『リルカズフューネラル』と契約した生体兵器の厄介な点は!」

『差し向けられているのが『人間』ってところだ!』

 どこかでごちる土星の幹部に呼応するよう、貴信は『敵兵そのものが人質なんだ、反撃、できない!』と声を張り上げる。
0154永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:20:54.30ID:Qt+BacCS
「ににっ、にんげんだったら、どーしてやり返せないのさご主人!!」
 僕たちがホムンクルスだからだ! 飼い主は答える。
『いまゾンビじみて送られて来ている村の人たちの肉体強度は人間のそれなんだ! 高出力(ハイパワー)な僕たちが迂闊
に攻撃したら……命を奪うことになる!!」
「かげんできないのご主人! ご主人”てく”持ってんだから、おっかけられなくなる程度にてかげんして攻撃とかは」
『3体ぐらいまでならそれも出来た! だがああも多いと、1人を攻撃している間に、他の村人たちから攻撃される恐れがある!』
「むこうニンゲンなんだから、ホムンクルスのあたしたちにダメージ与えられないんじゃないの!?」
『確かにそうだが、『特定の1体に手加減しようとしている時』に攻撃食らうのはヤバイ! 単純に言うと手元が狂う! 他の
村人の横槍のせいで手元が狂って、”操られているだけの人”を殺めてしまうのは……したくない!』

 ゾンビ村人たちとの遭遇直後、一度は反撃しかけた貴信であったが、木の枝で出血し、木の枝の傷さえすぐには癒えない
村人らの様子から”人間が操られているだけ”と判断、火渡たちとの合流を優先した。

『思い出してきた! そーいえばここに来る直前やった演劇! あのとき、何らかの手段で生徒達に武装錬金を発動させた
幹部が居た! 核鉄を持っていない生徒達に武装錬金を発動させた彼は肉体を変質させる『ウィルス』のような能力を
持っているって話だった』
「てかご主人、よーわからんけどソイツってほら、あの蝶のおばけと戦った奴なんじゃないの!?」
『……っ! 確かにな! パピヨン氏から話を聞いたヴィクトリア嬢の報告によれば確か……『細菌型』の土星の幹部! リ
ヴォルハインだったか! つまりそいつだ! いま僕たちに手勢を差し向けている幹部は!』



「栴檀2人を攻撃するのはディプレスからの言いつけに背くよう思えるが、たかが末端の社員たち相手に力尽きるというな
らそれだけの連中、救いをもたらす糧にはならんだろう。そも『社員』は、クライマックスの自動人形と同じ群体型の能力。
不意の遭遇戦ならば10体前後ならば、攻撃しても構わない……というより、混沌とした戦場で群体型の能力を、1体の
敵だけ避けて使うのは不可能という実戦上の制約をして……ディプレスから引き出しているのである! 攻撃の、許可を!)
0155永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:21:16.05ID:Qt+BacCS
 貴信は考える。


(ウィルス感染者が相手なら、毒島氏の抗菌ガスで対処できる! 敵をぞろぞろ引き連れていくのは迷惑だって分かって
いるけど、ただ撒くだけじゃ村人たち、他の戦士に殺されかねない! 人間だって気付かれなかったら、ホムンクルスだっ
て勘違いされたら……。だから毒島氏のところに連れて行くしか……!)


 駆け出す。だが追っ手は目に見えて増えていく。

「あたしらで何とかできないの!?」
「……試してはみる!」

 後ろに突き出された掌の四角い穴──ホムンクルスの捕食孔──に光が収束し……

「星の光よ! 瑕疵に抗え!!」

 エクトプラズムのように不定形な、ライトグリーンの靄が射出された。それは討手たちの間をぬらぁっとすり抜け、最後尾の
大学生風の若い男に着弾した。

(!! おー、体なおすあったかい奴! 相手とっちめる攻撃じゃないのよコレ!)

 種々様々なエネルギーを捕食孔から撃ち出せる貴信は回復魔法めいたことも出来るのだ。

(僕はかつてこれで早坂秋水氏を癒したコトがある! 彼は当時、L・X・Eの幹部、逆向凱の切り札のせいで肺腑全体に微
細な金属の粒子が突き刺さり……呼吸を要諦とする剣士として、本調子ではなかったが……僕の星の光はそれを癒した!!)

 であればウィルスも排出できるのではないか……という推測のもと治療を施された大学生風の若い男は。

 みるみると肌に本来の人間めいた色を戻していく。
0156永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:22:13.11ID:Qt+BacCS
「治せる!?」
(だとしても、これだけ居る村人たち全員を治すとなると莫大なエネルギーが要る……!! 効くとしても、どう調達する!? 
そもそも相手がウィルスである以上、懸念すべき事項が……!)

 え、なんだこの状況と周囲を見渡していた若い男だが、俄かに首に手を当て……苦鳴と共にゾンビ状態へ戻っていく。

「こらー!! なんで戻るのさーー!!」

 振り返りながら両目を不等号にしてプンスカ手を上げる香美。

(やっぱり増殖、か! 排出される傍から体内に残留したウィルスが爆発的に増えているんだ。厳密にいえば空気中から感染
し直している可能性もあるけど……僕たちがゾンビ化していない以上、残留の増殖……だろうな!!)

 と考えた貴信はふと気付く。

(待て。なんで空気感染じゃない? ウィルス兵器なんだぞ? だったらそれで作ったゾンビ村人で僕たちを追っかけるの、
まどろっこしくないか? だってそうだろ? 人をゾンビにして操れるウィルスを持っているなら、新月村といわずここら一帯
に撒けばいい。そしたら僕たち音楽隊も戦士たちも、一網打尽で手下に出来る。いやそもそも、病死で全滅させて……
勝つってことさえできるのに……)

 なんでゾンビ村人たちによる追跡という隔靴掻痒を演じている……? 貴信は訝しんだ。

(もしかして感染と使役は別立て……なのか? 土星の幹部の体は細菌の群体という。つまり感染で何らかの病気を発症
させることは、パピヨン氏を降した能力は、例えばネコ型の香美の『素早さ』とか『耳のよさ』といったホムンクルス固有の
能力で、だから武装錬金特性は別な部分にある……? ゾンビ化したとしか見えない村人たちの使役は、武装錬金によっ
て行われている……?)

 だとすれば。貴信は気付く。

(僕たちをゾンビ化して手下にしてない理由だけは説明がつく。武装錬金特性で使役するというなら、特性を振るうために
何らかの条件を満たす必要がある。似たような特性を持つノイズィハーメルンが、音波の届く範囲の人たちしか操れない
ように、土星の幹部の謎めいた武装錬金もまた、一定条件下でしか人を操れない……?)

 光明に繋がるような思惑だが、人見知りで気弱な貴信はむしろ危惧する。

(マズイな。土星の幹部の体じたいは、細菌じたいは、既にこの辺り一帯に浮遊しているとかなった場合、僕も香美も、ヤ
バいんじゃないか……? 気付かずに条件を満たしたら、ゾンビ化して、レティクルに寝返るってことも……。僕たちだけ
じゃない。他の戦士たちも……)
0157永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:22:35.19ID:Qt+BacCS
「それは成さん」

 貴族服を纏った2m超のすらりとした男はどこかで囁く。

「乃公が求める救済はただ戦士どもを殺せば成せる類のものではないのだ! 連綿と続く錬金術の、根源的な災禍を!
構造的な欠陥を! 病巣を! 取り除くためには激しい争闘こそ必要なのだ! 戦団も音楽隊もレティクルもその気にな
ればバンデミックで掃滅できるが、乃公1人が勝者になるだけでは不足なのだ! これより先の果て無き無窮の未来、永
劫に! もうこれ以上錬金術によって誰も泣かずに済むように、果たすべき『大義』が乃公にはある! それが果たせるな
ら戦士が何人死のうと構わないが、死なせる以上は必ず叶える、叶えなくては、ならないのだ!」

 彼は10年前戦士だったが、戦団上層部の意図的な不手際によって妻を失ったのを契機に戦団を出奔している。


 が、そういった背景を知らぬ貴信にとって土星の幹部・リヴォルハインは広域殲滅型の恐るべき細菌兵器でしかない。

(毒島氏の抗菌ガスでも対処できるかどうか怪しくなってきたな……! 根来氏の『彼または彼のDNAを含有する物以外は
亜空間からはじき出される』シークレットトレイルにも助力を願いたいが……彼はイオイソゴを斃すため敢えて抜け忍となり
姿を消している…………! 演劇の時とまったく同じ対処はできない……!)

 火球との、火渡との、間隔は、ひた走ったせいかだいぶ狭くなっている。

(っ! 空! いま香美の正面の枝々の大きな切れ目から飛んでいく大きな鳥が見えたが……あれは鐶副長か? だと
すれば……彼女の性格上、独断で動くコトはないから…………火渡戦士長の命令か!)

 あちらで有った、あちらの戦略構想を貴信はだいたい把握した。

(つまりここからは火球が移動し始める! だったらいま火渡戦士長がいる地点Aに向かうのは得策じゃない! 向こうが
動き出すんだからな……! 向かうべきは……地点Aと、戦士達の合流地点Bを結ぶ線分ABを縦断できるルート! それ
なら逆に火渡戦士長たちを先回りできるかも知れない。運がよければ、合流地点から彼らの掩護に向かう途中の戦士達
と合流も……なんだけど)

「ご主人……!!」
『っっ!!!』

 悲痛きわまる香美の叫びに、貴信の思考も真白になる。

 行く手にも、ひしめいていた。村人のゾンビが、ひしめいていた。

(どうする!? 強行突破するか!? だがどの村人も歯や爪が異様に鋭くなっている。迂闊に接触すれば、噛み付かれ
たり、引っかかれたりしたら、僕や香美までなるんじゃないのか、ゾンビに……!?)
0158永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:22:56.28ID:Qt+BacCS
 何より、マズいのは。

(村人たちの数が増えすぎた……! 後ろの人たちだけなら毒島氏の抗菌ガスか、それが効かなかったとしても睡眠ガス
で無力化できろうけど、前の方と合わせたらほぼ40人でだいたい倍。建物内での決戦ならともかく、山あいの開けた場所
で40人を一気に無力化せしめるんだろうか、エアリアルオペレーターは……)

 考える間にも前方の敵たちは一斉に踊りかかってくる。


「きたじゃん!!」

 とりあえず最小出力の流星群で彼らの足元を威嚇射撃しつつ離脱の目を探る……と動きかけた貴信の眼前で。
0159永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:23:15.52ID:Qt+BacCS
 だだだっと言う軽快な音と共に村人たちが次々に倒れていく。

(なっ!)

 崩れ去った人の壁の向こうには武装した兵たちが居た。7〜8人という所であろうか。うち1人は硝煙たなびく銃を構えて
いた。

『ま! 待ってくれ! 彼らは──…』
「人間だろ?」

 銃の男が引き金を引く。銃口と視線があった香美はビクっと体を強張らせたが

「わ…………が……」

 と傍で倒れ行くゾンビ村人を見ると「あ、なんだ、助けてくれたんだ」と安堵した。

「って! 撃っちゃダメでしょーがあんた! ニンゲンだってわかってんならぎゃーすんの、だめでしょーが!!」
「象も眠る麻酔弾さ」

 灰色のコンバットスーツに身を包んだ若い男だった。ブラウンの髪を短く切りそろえた、いかにも精悍そうな顔つきでスコー
プを覗き込みつつ、アサルトライフルを右に、左にと機械的に動かすと、貴信の背後で村人たちがバタバタと倒れた。

(ア、アサルトライフルって麻酔弾撃てたっけ……? いやむしろそれが特性? 弾丸を切り替えられる、的な)

 唖然とする貴信に黄色い声がかかる。

「ほら奏定(かなさだ)! 迷ってたからこそ救える命があったでしょチョーチョーあったでしょ!!」
「隊長、それ結果論だよね。迷ったからこそ合流し損ねて救えなかった命だってあるかもだよね……」

 金髪をサイドポニーにしたコンバットスーツの少女の傍で、同じ格好に、ドラマの若手刑事が着る様なコートを羽織った20代
後半ぐらいの男性が、げんなりとした顔つきで応諾した。

(全員お揃いのコンバットスーツ……。1つの部隊か。戦士だよね、雰囲気的に)

 少女とコートの男の掛け合いを宥めたりニヤニヤと眺めたりする他の面々を見渡した貴信はそう結論付ける。
 視線に気付いた1人が、口を開いた。
0160永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:23:37.84ID:Qt+BacCS
「ああすまない。紹介が遅れてしまったね。私は星超(ほしごえ)奏定。天辺星(てっぺんぼし)部隊の副隊長。所属は戦団、
味方だよ」
「あー! 隊長のワタシ差し置いて自己紹介とかチョーチョー信じられないし!! ワタシは天辺星ふくら! 隊長でエラい
んだから天辺星さまってチョーチョー呼ぶこと! いいわね!!」
 ビシィって指さしてから薄い胸を張る天辺星さまに貴信は(まーた濃い人がきたなあ。戦団ってこういう人ばっかかなあ)と
たじろいだ。
「むー! ちょーちょー分かってない感じぃ! だったらワタシの剣の恐るべき特性で思い知らせてやるんだから!!」
 奏定が「いや、そんなことより合流。火渡戦士長の火球目指してた感じだよこの子たち、邪魔したらダメだよ」と止めるのも
聞かずに天辺星さまは鞘から剣を抜きつれた。

(え……!?)

 貴信が硬直する中、「なに! あんたやるっての!!」と香美は牙を剥いた。

『待て! 落ち着け! 戦うなっていうか、お前、見覚えないのか……!?』
「何にさ! あの片しっぽと逢ったの今が初めてでしょ!!」
『じゃなくて剣の方!! あれ……『リウシン』なんじゃ……!!?』
「りうしんってなにさ!?」
「アレ? なんでアイツ、ワタシの剣の名前知ってるの……?」
 天辺星さまも不思議に思い、動きを止めたとき、それは来た

【このあたくしの陰陽双剣の名前を忘れるとは、ほんっと相変わらずロクでもない貍奴不来(いえねこ)ですわね貴方】

 涼やかな、高貴さと傲慢に満ちた声は……剣から、発されていた。

「ちょ、え、この声、え!! なんでさ!!? なんでミッちゃんが!!?」
「というか私の方がビックリなんだけど……。なんで君たち、勢号君の末っ子と知り合いなの……?」
 奏定が目を軽く見開く中、てか隊長の剣喋れたの!? 隊員たちもどよめいた。

【久しぶりですわね。栴檀貴信。栴檀香美。ふふっ、あれから随分強くなったようで何よりですわ】

『生きてる!? そんな! 貴方は7年前のあのとき、確かに……!』

                                            リウシン
【ええまあ、身罷ったのですけど……ちょっと事情がありましてね、魂だけ中国剣に乗って……今は、今は……】

「ちょっとあなた! なんでご主人であるワタシ以外と話してるのよ!! チョーチョー失礼!! 信じられない!」

 天辺星さまにブンブンと振られる剣は、ぴちゃりと雫を滲ませた。

【寄りにもよってこんな、こ・ん・な・か・た・の! 武装錬金になってしまってるのですわー!】

 た、大変そうだね貴方も……。貴信の顔が引き攣った。


「というか、マグロが止まるほどに関係性が分からない」

 アサルトライフルの青年が呟くと、貴信、「実は、僕たちと、彼女は……」
0161永遠の扉
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2018/02/18(日) 02:24:08.13ID:Qt+BacCS
 事情説明は、走りながら行われた。


「なるほど。つまり7年前、当時まだ土星の幹部だったミッドナイト君は恋人の仇を討つため君たちの前に現れたと」
『そう! で、僕たちのリーダーとの勝負がついたあと、当時かなりヤバい企みをしてたとある人物を止めるため一時的に
共闘したんだけど……その結果、色々な事情で』
【あたくしは肉体を失いましたの】
「そのあたりのことワタシ前からチョーチョー言ってるでしょ! 土星の幹部だったこいつにその3年前から取り込まれてて、
ワタシ本来の武装錬金、死体袋(アサルトシュラウド)の再誕能力が、屍部下だっけ? それ産むのに使われてたって、何度
も!」
「で、ミッドナイト君が死んだ時、取り込まれていた天辺星さまが死体袋の能力で復活して再誕。けどそのとき、2人の武装
錬金が入れ替わってしまったと」
【恐らく混線したのでしょうね。天辺星の『再誕』っていう能力はあたくしの言霊……頤使者(ゴーレム)の核とも一致する能
力でしたから、そこまでの3年にも及ぶ同居ですっかり癒着していて】
『消滅時の混乱、緊急避難的な再誕のごたごたで、自分を再誕させようとしていた死体袋が、自分と癒着していたミッドナイ
トの言霊を、自分そのものだと誤認識し、そちらの再誕を優先した結果……』
「ワタシの武装錬金が中国剣にチョーチョーなった!」
【ですから正確には陰陽双剣だと言っているでしょ! ああもう嫌ですわなんべん言ってもこの方覚えて下さらないの!!】
 ミッちゃん相変わらず苦労してんじゃん。にへにへ笑う香美が剣にジャレつく。
【だあもうおやめなさい栴檀香美! ミッちゃんとも呼ばない!! あたくし音楽隊用の名前だって用意したでしょ!】
『ごめん。香美こんなんだから忘れてるんだ!! でも貴方が居ると心強い!! 鳩尾も喜ぶ!!』
 あなたとああいう別離をしてしまったこと、ずっとずっと気に病んでいたからな! と叫ぶ貴信に、剣の映す桃色ツインテー
ルの少女は複雑な表情を浮かべた。
【……断っておきますけどあたくしが全力の総角と互角以上だったのは、500年近く鍛えぬいた肉体があったからでしてよ?
リウシンの重力角操作じたいは健在ですけど、それを使うのが……この方、ですし】
 ぽやーと口を開けて走っている天辺星さまに『あ、ああ……』と貴信は呻いた。
『貴方の強さって、武術と武装錬金特性と、経験からくる勝負勘の、複合的なもの、だったな!!』
【そうですのよ! だから鍛えてもないアホな天辺星さまの使う重力角ときたら、あたくしのリウシンときたら】
 部隊中、最弱クラスの戦果しか出せてませんの……。剣はまた、泣いた。正確にいうと剣に映るミッドナイトの幻影が、泣
いた。
「天辺星さま……。いまからでも遅くないから、彼女のためにも鍛えた方がいいんじゃないかな…………」
「うー! なんで奏定、剣の方の肩持つの! ワタっ、ワタシだって、戦士のサバイバル訓練を突破してるし! フルマラソン
だって完走できるぐらい鍛えてるし! 空手も剣道も柔道も合気道も三段でしょいま! チョーチョー頑張ってるんだから、
ちょ、ちょっと、ぐらい褒めてくれたっていいじゃない……。なのに、なのに……なんで剣なんか……褒めるのよーー!?
「だから、義弟の恋人の……血縁者だからね、ミッドナイト君」
(むーっ! ワタシはコイビトじゃないのー!! でも告白とかチョーチョー恥ずかしいもん! 結婚してからじゃないと告白
とかチョーチョー耐えられないもん!)
 あー、そういう感情が……と表情を固める貴信に「片想いだよ隊長の。副隊長奥手だからなあ」「満更でもないんだが手ぇ
出せないだぜ副隊長、ヘタレめ」と隊員たちが囁いた。
0162永遠の扉
垢版 |
2018/02/18(日) 02:24:25.56ID:Qt+BacCS
「っと。ミーアキャットの如く並んで待ってるぜ敵さんたち」

 行く手にまたゾロゾロとゾンビ兵士が現れたのを見た天辺星さまは威勢よく彼らを指差し、命ずる。

「さっきみたくまた撃ちまくりなさいよ『コードネーム:アサルト!!』」
「おいおいマンボウのタマゴの如く無限じゃないんですぜ弾丸は」
(武装錬金といえどパピヨン氏のニアデスハピネスのような有限性がある、か)
「むー! 隊長に逆らって! だったらなんでさっきチョーチョーばかすか撃ちまくったの意味わかんない!!」
 奏定は、残業帰りのサラリーマンのような疲れきった表情で嘆息した。
「天辺星さま……。あれで割り出した敵軍全体の平均的なスペックが拘束可能なものであれば『棺』で進軍するっていうの
が……この部隊伝統の手法なんだけどね……。私なんども説明してるんだけどね……」
「ってことで、コードネーム:白田いくちゃんの出番っ!!」

 ゆっけー! 貴信の傍を踊り抜けた10代前半ぐらいのピッグテールの小柄な少女が右手を振ると、左手に抱えられてい
た緑色のぬいぐるみの黒い口からサイコロ大のブロックが無数に吐き出された。

(なんだ? 銃撃……じゃないよな?)

 貴信が不思議がる間にサイコロたちはゾンビ村人の足元にそれぞれ突き刺さり──…

 一辺20cmほどの土色した立方体を地面から巻き上げた。(!?)。香美が驚く間にもブロックたちは地面から次から次
に涌いて宙を舞う。宙を舞いながらも、1人1人の村人を取り囲むよう、地面や、他のブロックの上に、レンガ塀づくりの早回
しのような要領で規則正しく詰みあがり……。

 1分も立たぬ間にあたりは高さ2mほどの土の棺の林と化した。

「かんっりょー♪ パッとみ土っぽいけど超圧縮してるからね、ちょっとやそっとじゃ出れないよー」

 横ピースして笑う和風魔法少女風の少女に、貴信は

(白田いく。城大工の武装錬金って訳か……。他5人の隊員の能力もコレぐらい強力……なのか?)

 思いながら、走る。定期的に膨れ上がる火球まで直線距離であと400m。




 そして、レティクルエレメンツの盟主:メルスティーン=ブレイドの急襲を受けた戦部と、円山と、犬飼は。
0164作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/02/23(金) 20:20:38.90ID:QkidUq7x
0165作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/03/04(日) 19:39:50.40ID:uqlxPOiQ
>>スターダストさん
いずれ劣らぬメイン格がこれだけ揃ってると壮観ですねえ。今回はやはり、性格的にも実力的にも
屈指の恐ろしさであるディプ相手に飄々とほぼ勝ち切った、ドラちゃんさんが印象的。武装錬金
そのものの性能も高い上、使い手の応用力次第でいろんなことができそうで。今後の活躍に期待。
0166永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:23:38.80ID:7MFCqHCA
第102話 「最善手」

 最善手。考えられうるなか最高の一手。

 大戦士長救出作戦開始直前、突如として敵対組織首魁の襲撃を受けた円山円が驚愕に口角泡を吹きながらも咄嗟に描
いた最善手は

『犬飼倫太郎のみを離脱、自分は戦部と共に足止め』

 であった。
 必ずしも、誤りではない。錬金術史研究家はこれよりさき数百人と現れ、坂口照星救出に端を発す一連の大決戦の各戦況
にさまざまな正誤を下していくが、少なくてもこの時の円山の判断については『戦士長クラスだった』と見解を一にする。つま
りはそれほどの、戦術・戦略双方に対する『最善手』だった。

(犬飼は)

 戦闘において決定打に成り得ない……とする円山の判断力は残酷だが正鵠を射たものだ。今夏犬飼が、まだ怪物になり
きってすら居ないヴィクターV武藤カズキとその同行者に敗れたことは記憶に新しい。対していま現れ急襲の途上にある
メルスティーン=ブレイドは、カズキが結局単身では降せなかったヴィクターの発するエナジードレインの中、12時間連続
で戦っては離脱を繰り返した身長57mの機械人形と、10年前、巨大化なしの刀一本で互角に渡り合った挙句、中層ビル
一棟分の質量有する片腕を平然と斬り飛ばしたいわば魔人。犬飼が加勢してどうにかなる相手でないことは明白すぎるほ
ど明白だ。

 士気の問題も、ある。犬飼に課せられた使命はもともと

『坂口照星の捕まっている場所の捕捉ならびに本隊到着までの監視』

 に過ぎず、戦闘に関しては戦団は求めず、犬飼も──口先でこそ虚勢を張っては居たが──期するところは薄かった。
 しかもかれは戦団の本隊が到着しだい、安全な後方へと下げられ、あとは監禁場所特定の叙勲を座して待てばいいだ
けの立場にあった。

 さまざまな安堵を確約された兵は、弱い。

 川をもう半ばまで渉(わた)ってしまった兵はもう、追撃に対し振り返る気力さえないのだ。渉りきれば逃げられるという心
理が働きあとはもう逃げの一手である。そんな者と連携合従して戦ってみよ、いざというとき恐慌で以て足を引かれる可能
性こそ高いではないか。

 だからこそ、犬飼の卑屈な精神をもよく知る円山は、決めた。

『犬飼倫太郎を離脱させる』。

 戦略的にも申し分ない割り振りである。『先遣隊の一員・円山』という極めてミクロな戦術の一単位からすれば敵組織首
魁に急襲されたのは圧倒的不利だが、戦団というマクロな戦略単位からすれば絶好のチャンスでもあった。

(火渡戦士長と彼に匹敵する戦力をここに呼び集中させればメルスティーンを斃せる……!)

(緒戦からレティクルに大打撃を……!!)

 本隊への伝令に犬飼は全く最適だ。安全圏に逃げたがる心境にあった彼を安全圏めがけ放てば、命惜しさで凄まじい
速度を発揮するであろう。走って逃げるのではない。疾駆する軍用犬(ミリタリードッグ)の武装錬金、キラーレイビーズに
しがみついて離脱するのだ。競輪選手は自転車で自動車を抜き去るというが、犬飼、生死の鉄火場でまさか劣りもしない
だろう。
 円山は冗談抜きでその速さに命を賭けた。犬飼が本隊へ駆ける間も、報告する間も、来援が急行する間も、円山はメル
スティーンと戦わなくてはならないのだ。戦部と言う、現役戦士中最多のホムンクルス撃破数を誇る記録保持者(レコード
ホルダー)を相方に据える豪勢を得てもなお、不安は、色濃い。

(何しろレティクルの盟主の大刀の特性は『特性破壊』!! 10年前一度は戦団に破れ収監されたお蔭で私なんかでも
知り得ているこの事実……あのコ(斗貴子)に破られた胃を再び痛ませるには充分……!)
0167永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:24:01.45ID:7MFCqHCA
 戦部の十文字槍・激戦の特性は『高速自動修復』! 例えば創造主が黒色火薬の蝶の群れに跡形もなく吹き飛ばされた
としてもたちどころに完全再生させる反則スレスレの武装錬金!
 だが対するメルスティーンの『ワダチ』は斬りつけた武装錬金の特性を破壊する魔の大刀! もしそれが激戦に接触した
場合……どうなる!!?

 円山円は、考える。

1.槍本体のダメージをも修復する激戦だから破壊された特性もを直し原状復帰。

2.再生しない。『高速自動修復』の特性が壊される以上、修復活動が行われる道理なし。

3.精神がより勝る創造主の武装錬金特性が優先。

(1なら来援までの時間は余裕で稼げる。3でかつ序盤こっちが不利だとしても、10年前の駆け出しのころ既に火星の幹部
相手に段々と食らいつけるようなっていた尻上がりな戦部の闘争本能なら盛り返せる。……。けど、問題は……!)

 2。

(激戦の特性が完全に破壊されるなら私と戦部の時間稼ぎはかなり辛いものになる……!)

 かといって円山に『逃げる』という選択肢はない。勇猛さや使命感ゆえではない。単に『足が遅い』からだ。

(私の武装錬金は風任せの風船爆弾……軍用犬ほどの速度は見込めない。走って離脱? 生身でバスターバロンと渡り
合った剣士相手に? 少なくても初手からそれをやれば絶対、背後から……!)

 キラーレイビーズは2頭1対の武装錬金だから、片方に分乗するという選択肢も円山は一瞬描いたが(犬飼ちゃんの護衛
用に片方は残しておくべき! 他の幹部と遭遇した場合のために!)と考え直す。

(てな訳で私は足止めで残らざるを得ないのだけれど……)

 緩やかに迫ってくる大刀の剣士の纏う、禍々しい陽炎に見た目女性の麗人は一筋の汗を頬に垂らす。

(相当危険ていうか死んじゃうかも……。い、いえ! それでも戦部の、現役戦士中もっとも多くのホムンクルスを斃してき
た記録保持者(レコードホルダー)のサポートが得られるんだから生存のメは上がる筈……! 戦部は酔狂だけど根来ほ
ど非情でもないから、私と犬飼ちゃんの護衛を仰せつかっている以上、こっちを見捨てたりはしない……! むしろそうい
うハンデすら楽しむタイプ!)

「アヒ アヒ」

 円山の腰板の辺りから緩やかに浮き上がっていく無数の風船は総て白黒左右のツートンカラー。両目が縁取られている
せいでゾンビ化したアヒル口のパンダにも見える。それが「アヒアヒ」と奇声を上げながら膨れていく。

(このバブルケイジも牽制程度にはなる筈!)

 長い思考であるが実時間では刹那の瞬間すら過ぎていない。突如として現れたメルスティーンにただならぬ衝撃を受けた
円山が、ネガが反転したようなスローモーな世界を見つめながら考えた、走馬灯のような圧縮思案である。

(そして)

 メルスティーンは踏み込んでくる。円山は、身構えた。

(犬飼ちゃんの離脱が戦団全体の最善手である以上、彼は盟主に狙われる! 武装錬金が犬で、私たちの中で一番足が
速いから! まず伝令を潰し! 孤立した私と戦部を各個撃破するというのが……最善手、でしょうね! メルスティーンの)

 果たして隻腕の剣士の巨大な刀は……振り下ろされた。

 円山に、向かって。

(え…………!?)
0168永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:24:30.36ID:7MFCqHCA
 雪崩れ込んでくる鈍色の剛刃を、秀麗なる男性はただただ唖然と眺めた。

(な、なんで私を…………!? 初手で潰すメリットなんて──…)

「ふ」

 メルスティーン=ブレイドは嗤う。軟らかな長い金髪を持つ、優しげな30代前後の男性は、細めた眼差しを甜睡が如く
彩って、しかし限りない悪意を纏い嗤笑(ししょう)する。

「ふ。あるのさ」

 言葉を発するまえ短く笑うのがこいつの癖なのだろうかと、冷たく凍る円山の意識が考えたのは一種の現実逃避であろう。

 死をもたらしつつある隻腕の剣士は、目で笑う。

(ふ。なにしろ君らの中で唯一ぼくを完全抹殺しうるのは円山円、君、だからねえ。バブルケイジ……だったかな? 触れ
るだけで身長を15cmも吹き飛ばす武装錬金……。なかなか脅威じゃないか。平均的な一般男性なら12〜3発当たるだ
けで必ず……死ぬ。ぼくはリヴォみたく2mも身長ないからねえ、危険視して当然さ)

 その、2mはあろうかという刀に、肉厚い刀身に、危慄すべき紫雲の闘気がもやもやと収束していく。だけなら、円山も看過
できた。だが重大なのは、刀が紫雲を帯びつつも既に、円山の頭上50cmほどの間合いで、薪でも割るような気軽さで彼の
正中線を狙っている点であった。

(どこかしこにある風船の射出装置! ぼくならそれを敵に密着させ13連射して殺(こわ)す! ふ、思わぬタイミングでそれ
をやられたら少しばかりヤバいんでね、だからまずは円山さ! 初手で円山さえ壊せば後はどうとでもなる!!)
(あ、有り得ない! 私を斃す間に犬飼ちゃんが逃げ出したら……メルスティーンの索敵範囲の外へと脱出したら…………
来るのよ次から次に! 戦団の最高戦力の数々が! 貴方を押し包んで殲滅しに……!!)

 盟主である以上、そういう戦略的な絶対不利が見抜けぬ訳がないと混乱する円山に、メルスティーンは頬を歪める。

(ぼくはね、別に構わないんだよ。犬飼など逃げればいい。増援もまた来ればいい幾らでも。ふ、10年前戦団に負けたぼく
だから? ま、物量で責められたらいずれは壊されるだろうが……

『だからなに』?

ぼくはただ破壊(こわ)したり破壊(こわ)されたりを演じたいだけ、なのさ…………!!)

 円山の描く犬飼離脱は確かに最善手だった。正道に沿ったものだった。

 誤算があるとすれば……2つ。

 1つ。円山が即死能力に特化しうるバブルケイジを婉曲な拷問器具程度の認識で修めていたこと。

 2つ。メルスティーンがむしろ嬉々として戦団の増援を望んでいたこと。

 結果円山は、彼自身の潜在的な危険性を彼以上に評価したメルスティーンの『最善手』に晒される。

 すなわち。

「『飛天無限斬』!!

 声と共に放たれた電瞬を避ける術など円山は……持ち得なかった。耳奥から背筋に走る精髄がただ赤々と硬直し、
心臓が縮んだ。迫る刃。身じろぎ1つできない円山のした、両断された肉塊が大地に遺される未来視は──…

 大量の出血を添え、現実の物と、なった。

 全身を通り抜ける凄まじい衝撃に一拍遅れてやってきた、視界の、テレビカメラを蹴転がしたような動顛(どうてん)ぶり
の中、円山は確かに両断された体を……見た。
0169永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:24:50.99ID:7MFCqHCA
 左右に分かれた、戦部厳至を。

(────────────────────────────!!?)

 この少し前からの彼の動きこそ正に奮迅というべきであった。酔狂ゆえにメルスティーンの歪な最善手を察知するやすぐ
呼応していた彼はまず──…

 すぐ傍らで棒立ちになっていた円山を肩の側面で弾き飛ばしワダチの射程距離外へ追放! 
 同時にメルスティーン必殺の銀閃が正中線を濡れ光らす中、犬飼の方を見やり視線で何事かを指図! 
 これだけでも既に常人には真似できぬ行動だが、真に恐るべき行動は巨躯が股の付け根までバッサリと割られた直後にきた。

「えっ!」

 円山の胸倉が戦部の左腕に掴まれた。真っ二つに斬られたばかりの半身が、断面から、トマトとチーズの和合液のような
不気味なねばっこい線をとろォりと残る半身と引き合っているさなかにおいて、頸を切られたてのニワトリの痙攣走りのような
おぞましさで円山の胸倉に左手を伸ばし、そして掴んだのだ。

「ななっなにを……!!」

 むんずと無造作に円山を投げ飛ばす間にも、投げ飛ばされた方が余りの勢いに地面と水平に落ち葉巻き上げつつ推進し
始める間にも、戦部の独立した右半身は動いている。十文字槍の中央の穂先をメルスティーンのみぞおちに突き立て──…

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 飛んだ。片足の力みだけで戦部はメルスティーンごと……高さ30cmほどの空間をX軸方向に20mほど…………滑翔した。

(えええええ!!!? かかッ片足で、えええ!!?)

 半分だけの体が隻腕の剣士を槍で縫い止め跳躍するさまは妖怪絵巻のような地獄変、蒼褪めた犬飼があわあわと口を
動かしたのもむべなるかな。

 やや遅れて同じ方角に飛ぶ円山が見た、落ち葉を巻き上げながら戦部(右)に向かっていく戦部(左)は高速自動修復のため
引かれたものであるらしい。十文字槍のある方へ合流するのは特性上、自然だろう。

 戦部(右)とメルスティーンの背後で大木の幹がどんどんと大きくなり──…

 激しい激突音に輪唱するよう無数の梢がさらさら揺れた。

「ほう」

 腹部にふかぶかと槍を刺され、女物の服に赤黒いシミを滲ませるメルスティーンの静かな表情は、背骨を砕いて貫通した
切先が古い巨木の幹に楔となって打ち込まれた後でもなお、変わらない。

(戦部がメルスティーンを縫い付けた以上! 私にしろって言ってることは!!)

 中空で円山はベルトに手をかける。戦部(左)に投げ飛ばされた勢いは凄まじく、いまだ収まらない。

(…………)

 犬飼の判断力は、やっと現実に追いつき始めた。

 そして完全に両断が治癒した戦部は…………両手で朱色の鞘を持ち……力を込める。
 メルスティーンの切先はようやく落ちきったばかりである。長大な刀ゆえ大技の後は隙ができる。

(そこを……狙う!!)
0170永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:25:08.39ID:7MFCqHCA
 風船爆弾(フローティングマイン)の武装錬金・バブルケイジの主だったパーツは白黒半々の顔持つ風船! だがそれは
本体ではない! 本体というべき風船の産生装置はベルト状! 風船の生まれいずるバックルは普段! 臀部やや上、
腰骨のあたりにつけている!

 だが!!

(私がターゲットにされた以上、ここで決めないと……殺される!!! 犬飼ちゃんが救援呼ぼうが、呼ぶまいが、必ず!!)

 バックルはいま円山の右手にあった!! 投げ飛ばされた余勢は終盤だがメルスティーンは既に間近!

(これを彼に密着させ……連射!! やったコトない使い方だけどそうでもしなきゃ斃せない相手よ!!)

 狙うはメルスティーンの右腕側。

(彼は隻腕、右腕が……ない! さっきの一撃見る限りスゴイ剣士のようだけど、剣が握れない方向からなら少しはバブル
ケイジも当てやすくなる筈!! もっともそれも戦部に縫いとめられている間だけ、だけど……!!)
「ふ。最善手だが……忘れてもらっちゃ困るねえ」
 ふっと戦部の頬が緩んだのは、メルスティーンの体が十文字槍を押し返し始めたからだ。木と密着していた筈の体がみる
みると隙間を広げていく。盟主が動けるようになったが最後、戦部のスローイングによって有無もなく懐に飛び込みすぎて
いる円山など、切り紙の如く裂かれるだろう。
(っ! しまった! そういえば彼はホムンクルス調整体! それもDrバタフライの作ったような劣化コピーじゃなく…………
100年前ヴィクターの離反のころ猛威を振るった高出力(ハイパワー)を超える高出力(ハイパワー)の持ち主……!)
「ふ。『ぼくの体がどうあれ』、マッシブな戦部に競り勝つ理由は破壊への執念ただh「キラーレイビーズ!!!」
 2頭の軍用犬が十文字槍の左右それぞれに特攻した。
「ほう」
 押し返され再び縫いとめられたのを意外そうに、だが楽しそうに目を丸め認識する盟主は見る。戦部の肩越しに来た影を。
「さっきのアイコンタクト。要するに押さえ込めばいい訳だ。バブルケイジが当たるまで」
「そういうコトさ」
 野太い笑みを浮かべる戦部に、やや卑屈な笑みで犬飼が応じたのも一瞬、彼は犬笛を吹き直す。両目に青い閃光を一瞬
灯したレイビーズたちは唸りながらメルスティーンを再び大木へ縫い止めていく。
 猛烈な、そう、嗅覚探知専門に過ぎないキラーレイビーズが発する、純然調整体をも凌駕する不可思議な力は……しかし
おかしい。円山もまた訝しみかけたが……気付く!!
(……っ! この力、安全装置なしの基本状態(デフォルト)……!? 細かい操作など一切不能で犬笛の所持者以外かみ
殺す筈なのに……どうして指示通……まさか戦闘前の戦部とのやり取りの影響……?)
 戸惑うのはしかし誰よりも……犬飼。
(……おかしい。リミッター解除しているとはいえ、高出力を超える高出力の調整体が、盟主が……僕なんかの武装錬金に
……押される? こいつの力はなんていうか……ホムンクルスじゃなく……人間の…………ような)
 だが彼は100年前すでに存在していた。見た目も20代後半……、しかも十文字槍が胸部を貫通してなお平然だ。人外と
定義づけるほか犬飼に術はない。
(そこも気になるけど! 今は!!!)

 円山のバックルがメルスティーンの右肩に、当たった。

「膨らます傍から! 当てる!!!」

 射出装置から出た風船がすぐ、メルスティーンに当たって弾けた。およそ180cm前後の長身は……確かに縮む!」

「見事! だが!!」

 やっと先の飛天無限斬の硬直を脱した大刀がほとんど土塊を爆発させるような勢いで地面を擦り……摺り上がる。
 攻撃対象に変更は、ない。
 裂膚の激甚たる鋭い刃先とまたも狙われた円山が催すのは『長い階段の一番上で前に向かって転びかける』身の毛の弥
立(よだ)ち、滑稽なほど状況に不釣合いな凡々とした感興を走馬灯が映して仕方ない。
 刀は、迫る。僚友の加勢はもう見込めない。犬も槍も盟主の押さえに回っているのだ。
0171永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:25:54.47ID:7MFCqHCA
(避ける!? それとも風船で防御!? いえ刀より盟主の方が私に近い!! だったら…………だったら!!)

「膨らます傍からあああああああああ! 当・て・続・け・るゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウ!!!」

 ほとんど狂ったような表情で舌さえまろびだし絶叫する円山が選択したのは回避ではなく……連射。風船爆弾の、連射。
 決定的な破裂音の輪唱が轟く。みるみる小さくなる盟主に確実なヒットを確認し確信し撃ち続ける円山だが

(ばっ! それで怯んで斬撃をやめる盟主じゃないんだぞ!!)

 犬飼の唖然を肯定するようにメルスティーンは笑う。
 振りぬかれた大刀の奏でる死の颶風は確かに円山の正中線を……捉えた。

 決定的な静寂が、訪れた。あらゆる生気を失った中性的な麗人の短髪が風のはためきを失いダラリと垂れた。



 後世の歴史家は、いう。この緒戦最初で行われた自己犠牲的な連射こそ最善手、だったと。

『津村斗貴子に当たったバブルケイジはバルキリースカートをも縮ませた』

『ならば盟主が縮めば縮んだ分だけ縮む』

『彼が手にしている、武器形状ゆえに手にせざるを得ないワダチが、大刀が』

『縮むのさ』

 戦部の放擲に起始する円山の滑空は盟主にバックルをブチ当てた時点で緩衝され停止(とま)っている。
 緩やかに沈降を始める円山円のしなかやな体のほんの5mmほど先を白刃が通り過ぎ……破裂音と共に消滅した。

 生暖かい剣風1つ浴びるだけで済んだ無傷の円山が、なのにほとんど死人のような土気色になったのは無理なき話。

(ギ、ギリギリだった……! もっと縮むと思っていたのに、元が長いから、長いから……! ワダチがもう7mm長ければ)

 かすっただけの箇所がボコっと膨らみ、下から上めがけ赤黒く腫れていく。メルスティーンの斬撃、並みの衝撃では、ない。

(もう7mm長ければ……ほんのわずか掠め斬っていただけでも…………破壊衝撃がダムダム弾で…………死んでいた
…………!!)

 気象(きあがた)サップドーラーと合流する少し前の少女戦士が聞いた、風船爆弾の破裂を示す紙鉄砲のような音は、30
を超えていたという。1発あたり15cmを吹き飛ばすバブルケイジだから、身長およそ180cmの盟主に総て当たっていたと
すれば消滅は免れない。

 そう、普通ならば。

 当たってさえいたのであれば──…

 絶対に。


 大木に縫いとめられていた盟主の姿は、確かに、忽然と、消えていた。
 先ほどまで彼を縫いとめていた戦部の十文字槍は今、女物の服だけを古びた巨木のひび割れた表皮に磔刑している。
 根元にわだかまっているのはいかにも手触りがなめらかそうなスカート。


 遠方の虚空。

(まさか勝ち逃げをやらかしたのか…………?)
0172永遠の扉
垢版 |
2018/03/11(日) 23:26:21.57ID:7MFCqHCA
 漆黒の空間に浮かぶスクリーンで戦況を見た水星の幹部・ウィル=フォートレスは水銀色のうなじをビッシリ濡らしていた。
 アルビノの、少年だった。雪のような肌を持ち、やや神経質だが少女めいてもいる愛らしい顔立ちの中で燃えるような緋色
の唇を震わせている。

(マズい。メルスティーンはただ死ぬだけじゃ滅ばない。魂が閾識下のエネルギーの海に隠れ潜むだけだ……! 正体は
いま以って不明だが『そういう能力』を秘めている!! ぼくはそれを何度も見たし、苦しめられた!)

 この時系列は幾度となく繰り返された歴史の1つである。ウィルにとっては関与改変しうる最後の周(チャンス)。

(『インフィニティホープ』で数え切れないほど過去に飛びやり直し続けた目的はただ1つ! メルスティーンの完全消滅!
ただ死なせるだけでは奴の魂は武装錬金の根源たる閾識下の闘争本能(うなばら)に潜伏し……ボクが恋人を、勢号を、
蘇らせんとするたび妨害する……! マレフィックアース……総ての武装錬金を超常の攻撃力で底上げできる最強の魔人
と引き裂かれたボクに、復活させるための歴史改竄で新たな戦いを、破壊を、起こさせようと……する!!)

 愛しき少女と再会したいが一心で、通算2万年に届くループを続けてきたウィルであるが、小札零をホムンクルスにした
瞬間、改竄能力は失われた。『とある幼体』に隠されていた能力が小札のホムンクルス化と共に発動し、ウィルの要塞を
……破壊。過去への時間跳躍を不能とした。

(メルスティーンを完全消滅しうるのは覚醒した早坂秋水の『エネルギー吸収と放出』……なんだけど、マズい……。彼と
ブツかる前に、円山相手で死なれるのは……マズい! だがメルスティーンにすればそれこそが最善手……! ボクの
企みに乗らず緒戦で華々しく散りさえすれば、『勝ち逃げ』、今からの決戦など知らぬ存ぜぬでやり過ごし…………ボクの
最後の希望である早坂秋水が死んだ200年以上先の遥かな未来で勢号を再び殺すのを……待てばいいだけ……だから!)

 彼の力量であれば円山相手の即死も回避できると知り抜いているウィルであるが、破綻者が時に自滅的な打ち筋を選ぶ
のも知っているから顔色は桜づかない。

(どっちだ……!? 奴はまだ生きている……? それとも本当に、死んだ…………!?)


 戦場。

「アヒ アヒ」

 弾け損ねた幾つかの風船が漂って、鳴いている。衝突の勢い余って尻餅をついた麗人が、1人。

(ウ…………ソ…………)

 バブルケイジの炸裂の果て盟主が消滅したという事実に、円山は、一瞬だが……混乱。

(斃した?            本当に?                            私が功労賞
             私が盟主を……? やった            ジャイアントキリング
                               ありえない               勝ったわね戦団
   確認       意外に無敵ねバブルケイジ           消滅して服だけ   確定
       勝ったと思った瞬間が           呆気ないけど10年前とっくに負けてる奴 当然
   この戦いもうすぐ終わるからエステの予約        安心したときこそマズい  ギリギリを制したから 勝ち
                           確認
 私なんかが斃せる訳……                  特性さえハマれば勝つのが武装錬金……

                       確認                                              ) 


 歓喜と疑念が席巻する脳髄に真当な思考力を取り戻させたのは胃痛であった。
 神経性のものにも近いが古傷の色合いも濃い。先日、故あっての裂傷がようやく癒合したばかりの胃が警鐘を打ち鳴らす。
0173永遠の扉
垢版 |
2018/03/11(日) 23:28:21.83ID:7MFCqHCA
(あの子みたく……津村斗貴子みたく半端に身長が残っていたということだけは絶対ない! あの時があるからこそ今回は
端数分の身長で飛んでこられるのを警戒して監視した! 一発一発確実に当たるのを、しっかりと! 目視した!! 盟主
は槍に縫いとめられたまま縮んだ! 私は監視を怠らなかった! 彼が小さくなったせいで拘束から逃れていたならすぐに
気付いたし、最後2〜3cmになった盟主にさえバブルケイジは確かに当たった! 仕留めた……ようにしか、見えなかった
…………!)

 並みの幹部が斯様な顛末を迎えたのなら円山は油断できた。だがメルスティーン=ブレイドは盟主。

(共同体における最強はほとんどの場合……盟主! それともL・X・Eでいうヴィクターのような存在を隠しているとでもいう
のレティクルエレメンツは……? 今のが盟主のクローンだって可能性も…………!)
0174永遠の扉
垢版 |
2018/03/11(日) 23:28:39.29ID:7MFCqHCA
 戦闘開始前犬飼が「クローンが得意だっていうし、本物な訳が」と叫んだのを思い出す円山であったが、複製にしては
圧倒的すぎた威圧感がイエスをなかなか告げさせない。

(或いは他の幹部が密かに……助けた…………?)

「アヒ アヒ」

 風船はなおも鳴く。バックルで製造途中の者でさえ早めの産声を……あげている。

 遅疑に硬直する円山だが(固まってても仕方ないでしょ他の幹部が来ているかも知れないなら尚更)と己を鼓舞し立ち上がる。
どのみち盟主の生死などは戦団とレティクルが完全決着した後でなければ分からぬものなのだ。

(いま私が取るべき最善手は……死角への風船配置! メルスティーンがさっきまで居た位置は戦部が監視しているから……
私が注意すべきは死角!)
0175永遠の扉
垢版 |
2018/03/11(日) 23:28:57.17ID:7MFCqHCA
 盟主生存や幹部来訪が現実のものである場合、彼らの最尤は普通なにであろう。死角からの急襲ではないか。根来を
朋輩に持つ円山ならではの、亜空間をも織り込んだ四次元的発想の防備の始点はバックル、風船の製造装置である。

「アヒ アヒ」

 バックルに視線を移しゆく円山を聞きなれた声が撫でる。垂れた白目の風船が催促しているのを想像しながら方針を、
まとめる。

(ここから大量の風船を放出!! さすがにシルバースキンみたいな防御壁にはならないけど、機雷のごとく敵の接近を
知らせるぐらい──…)

「ふ」

 円山の視線はバックルの中の黒目と絡まった。
0176永遠の扉
垢版 |
2018/03/11(日) 23:29:13.45ID:7MFCqHCA
(え…………?)

(バブルケイジに、黒目…………?)

 鼻梁と眼窩の浮いた一個の風船が捩れながら円山の顔面めがけ極限まで伸びきったのと、その顔面が十文字槍に貫か
れ血しぶきを上げたのはほぼ同時であった。

「は……はい?」

 遅参する恐怖に血色を失くす円山の眼前で、戦部の野太い腕がしゅっと唸るや風船は射出装置から切除され吹き飛んだ。
巨人のコンドーム・サイズにまで伸びきった元は一個の風船爆弾が槍の傷口から空気を噴射したのだ。大気と踊る残骸を
喜悦の戦部、鋭く見据える。

「やはり斃れてはいなかったようだな……メルスティーン」
「ふ、ご名答」
0177永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:29:34.27ID:7MFCqHCA
 ぐるぐると螺旋軌道で同じ場所を巡りつつ小さくなっていく風船爆弾の声は確かにメルスティーンのそれであった。だが果たせる
かな、長身隻腕の肉体は少しも見えぬ。

「ど……どういうコトだよ戦部! まさか盟主の奴……身長を吹き飛ばされる直前咄嗟に、根来のような特性で風船の中へ
……逃げ込んだ!!?」
「根来? ふ、違うね。我が『特性合一』真の恐怖は…………ここからさ!!」
(解除!! 盟主がどう潜んでいるか分からないけど私さえ武装解除すれば炙りだせ「遅いよ」

 風船が弾け飛んだ瞬間、万物の循環が氷結した! 槍を突き出し踏み込みかけた戦部も、軍用犬を風船から離すべく
犬笛に口をつけた犬飼も、手元のバックルを幾何学的なパーツへ解体し始めていた円山も……そしてこの当時そろそろ
各幹部の襲撃を受け始めていた無数の戦士たちも……その総ての動きを静虚の時空に委ねた。

「ふ。究極の破壊、それは」
0178永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:29:54.77ID:7MFCqHCA
 破裂した風船の風圧が円山たちの居る一帯を駆け抜けた。風で髪がそよぐ中、手元で像を結んだ核鉄と、先ほどまで
コンドーム様の風船があった場所に佇むメルスティーンを見比べた円山は己が最善手に間違いがなかったと確信し、安堵
の息を深くつく。

「何かするつもりだったようだけど、解除のお蔭で阻止できたようね」

 胸板から弾けた血が頬にこびりつき、ネトっとした筋を垂らした。円山円は悲鳴すら上げることなく、安堵の笑みのまま
凄まじい音を立てて前方へ転がった。

 風船が弾け、万理の循環が渋滞した瞬間、飛び交う颶風は変貌した。白く輝く風の円弧が銀光りする肉厚の大刀となって
円山円を切り刻んだのを目撃出来た者はメルスティーン=ブレイド以外だれもいなかった。

「円山……?」
0179永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:30:19.55ID:7MFCqHCA
 犬飼は訳もわからぬといった様子で僚友を見ていたが、ほぼ死微笑の面頬の下に真紅の瀦(みずたまり)が絶望的な
速度で広がっていくのを認めた瞬間、森全体へ木霊する同口同音の電撃的な迸りは彼を円山に駆け寄らせる原動力と
相成った。

「メ! メルスティーンお前!! いったい何を……!!!」

 座り込んで円山を抱え、彼の核鉄を傷に当てる犬飼の咆哮に答えたのは戦部であった。

「今しがた奴が言った通りだろうさ。『特性合一』。バブルケイジに身長を吹き飛ばされた瞬間、その特性そのものと化した
のさコイツは」
「特性そのもの!? どういうコトだよそれ!!?」
「ふ。究極の破壊、それは合一。ぼくは10年前の敗北で悟った。『並みの抵抗では壊される』。ならどうすればいいか? 
簡単さ。ぼくはぼくを壊す特性そのものになってしまえばいいと。陽明学の死地の脱し方さ。万物の観念が幻想と考え、
天地と人間に差がないと認識し、己が全身を総ての循環が抵抗なく通過していくと考えれば、たとえ形而上においてぼく
の五体が千切り裂かれたとしても……破壊者の五爪にこびりつく破片のぼくからぼくは再生できるのさ」
「なっ…………」
 犬飼という卑屈げな青年の顔が歪んだのも無理はない。常人には計り知れぬ観念だ。
「まあ深く考えるな。要するにこいつは……2m足らずのこいつは、4m分の身長を確かに吹き飛ばされたにも関わらず、
再生し、反撃したということだ」
「そ、それぐらいお前の激戦にだって」
「どうだろうな。俺はバブルケイジで消滅したコトがないから分からん。ダメージであれば高速自動修復する激戦だが、身長
の吹き飛ばしは果たしてダメージと認識されるか、どうか」
 つまりワダチの修復能力は激戦以上……? 唖然とする犬飼に荒武者めいた記録保持者は太く笑う。
「メルスティーンの面白いところは再生ではなく反撃にある。合一を解除する際コイツは、自分が受けたダメージを斬撃に換
算して……返した。だから円山が倒れたのさ」
「っ! それじゃまるで例の鳩尾の敵対特性──…」
「あれより始末が悪いさ」。陣羽織姿の大男は肩を揺すった。「敵の武装錬金特性を反転させ相手にぶつける鳩尾でも、
その最中負わされたダメージぐらい素直に受け入れる。だが……メルスティーンは」
「総てそのままそっくり相手へと……返す。ついでにいうと鳩尾の敵対特性は相手の武装錬金によって威力が上下し、もの
によってはまったく無害の場合もあるが…………ぼくの特性合一は刀にて確実にダメージを返す。蓄積で、壊す」
(ふ、ふざけるな!)
 犬飼は歯噛みした。
(だ、だったらどう斃せっていうんだよ! 戦団最強を誇る火渡戦士長の五千百度の炎に合一したら……どうなる!? 斬撃
は火炎同化さえお構いなしに切り裂いてダメージを通すのか!? もしそうなってしまったら……

いったい誰がこいつを倒せるっていうんだよ……!?)

 戦部の眼光は寧ろ彩度を増す。

      解除                                       バブルケイジ
「円山が最善手を打ったにも関わらず斬撃が返ってきたのは、メルスティーンが武装錬金それ自体ではなく既に発動した
『特性』そのものと一体化していたせいだろう。いわば究極の後攻。身長を吹き飛ばされるという、確定済みの事象と合一
しそれを斬撃に転嫁した以上」
「武装解除しても手遅れだったという訳だ。鳩尾の敵対特性を浴びた武装錬金は、伝え聞く銀成の限りでは創造主(津村
斗貴子)の気絶に伴う武装解除と同時に鎮静したというが、ふ、ぼくの特性合一に斯様な宋襄の仁はないと思って頂こう。
当方を攻撃したという事実が存在する限りは……相手が矛を収めようが、死のうが、合一の斬撃は必ず返る。相手の破
壊を糧に……循環的斬撃で以って壊し返す!」
『昔』一戦交えたカウンター使いから学んだ知恵さ……悪びれもせず盟主は嗤う。
0180永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:30:45.72ID:7MFCqHCA
「ちなみにもし仮に時間系統の武装錬金で、ぼくが攻撃されたという事実を因果律ごと消し去った場合……特性合一は一応
キャンセルされるが、しかしぼく自身への攻撃もまた無かったコトにされる……。かといって特性合一という事象のみの消去
でぼくの落命を目論んだとしても無駄なコト。改竄という事象そのものに、ぼくとワダチはオートで合一し、復活し、反撃する
……!! 実証済みさ、ウィルや法衣の女でね」
(時間系統の武装錬金なんて聞いたコトもないが、ほぼ無敵なその能力でさえ解除できない……だと!?)
(シークレットトレイルや激戦、無銘と被る点のある特性合一だが、こと改竄能力への耐性は他の追随を許さない、か
 犬飼は驚愕するほかなく、戦部は冷静にただ考える。
「ふ。究極の破壊とは合一……。全を一にするなれば一を除く全の殻みな悉く毀(こわ)される……。人はね、なだらかな世
界を求める物だが、だったら外めがけ放った敵意は一毫も減少させず己が身に引き戻すべきじゃないか。それこそが循環
じゃないか。因果が巡り悪行が己に跳ね返るというのであれば、それこそが循環であるべきじゃないか」
(とにかく円山を連れて離だt……待て!)
 犬飼は気付く。
(メルスティーンが、自分の受けたダメージ総て相手に返せるっていうなら、じゃあ何で円山は原型を留めてる!? 風船
爆弾の、合計身長4mを消し飛ばすダメージを押し付けられたっていうなら、円山の体なんてとっくに消滅してる筈じゃ……)
「その点はまあ、戦部がねえ。庇いさえしなければ円山など粉にできたのだけれど」
 声でやっと犬飼は気付く。激戦が、十文字槍が、穂先から修復の煙を上げていることに。
「盟主の奥の手を暴くために円山をぶつけたからな。見殺しにしないのはせめてもの礼さ」
「その対応の速さ……お前!! 最初からこうなるって感づいてたのか!?」
「何を怒る? 敵が円山に狙いを絞ってきた以上、身長を吹き飛ばされた時の用心を備えていると見るのは当然だろう」
「……! あーくそおかしいと思うべきだった! 円山にトドメのような役割譲ってる時点で戦部らしくないって! だよなお前なら
最後の一撃は自分でって思うよな!!」
「がなるながなるな。一度は足止めを選んだ以上、遅かれ速かれ円山はこうなっていたさ。なら敵の奥の手を暴きつつも
致命傷だけは俺によって防がれる今のような退場が……『最善』だろうさ」
 どうせ決戦は始まったばかり、くたばらねば騙し騙し他の戦線へ加勢できるだろうしな……。それなりに戦団全体の戦略を
踏まえている配慮だが、当て馬にされた円山にとってはいい迷惑だろう。
 実際、犬飼も悪びれ一つない戦部に心底ゲンナリしたが
(だが他人のコイツが防げたってことは、特性合一で跳ね返るダメージは論理能力じゃなく……物理攻撃って訳か。鳩尾の、
奴が解除しない限り創造主を攻撃し続ける敵対特性よりは……論理能力よりは…………防ぎやすい……? いや違うな、
斬撃は恐らくメルスティーン自身の剣腕に基づいているだろうから、防人戦士長クラスの身体能力か、或いはヴィクター再殺
のとき共闘した早坂秋水並みの剣腕がないと対処できない……! ん? …………。待て待て。と、いうか、さっきこいつ、
槍で、木に……!)
 ふ、気付いたようだね。盟主は軟らかく笑う。
「そ。ぼくが無効化し返せるダメージはあくまで武装錬金特性に基づく物オンリー。シルバースキンを例に取ると二重拘束
(ダブルストレイト)で反射されるぼく自身のエネルギーは更に返せるが、防護服の硬さで覆われているだけの拳なら……
ふ、実は普通にダメージ追ってしまうよ、ぼく」
 ふ。笑う戦部が激戦を見たのは特性が攻撃向きではないからだ。
(……ッ! そうか! だから十文字槍で大木に縫いとめられたのか! あれは戦部本人の膂力の仕業であって特性の
埒外! だからメルスティーンは)
(あの一撃に特性合一を……使えなかった。つまり俺は仕留められる。レティクルの、盟主を……!)
 膨れ上がる戦意に感応し甘美な予想に片頬を緩める盟主は、続ける。
「かの津村斗貴子の処刑鎌も然りだねえ。高速機動で動いている限りは何度章印を刻まれようが復活できるが、手に持っ
ただけの鎌なら……。ふ。ちょっと貫かれるだけで絶息は免れない」
(弱点をバラしている……? ブラフか? それとも特性抜きの勝負なら持ち前の身体能力で勝てるという……自信?)
 10年前こいつが敗れた原因もそこにあるのさ、戦部は言う。
0181永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:31:09.39ID:7MFCqHCA
「当時は『特性破壊』だったが、弱点は変わらない。とある剣士との純粋剣技に敗れ去り、捕縛されたと聞いている」
「そう。ぼくが一番恐れるのは、彼とか、防人衛のような、武技だけを極めるタイプさ。ふ。昔いたミッドナイトって幹部も実の
ところ愉(こわ)くて愉(こわ)くて仕方なかったよ。母の仇を討ちたいだけの健気な少女が挑んでくるたび徹底的に壊したの
は、そうでもしなきゃこっちがやられていたからだ。このぼくでさえ加減できないほど彼女は……強かった」
(どうする? 喋っている間に……逃げるか?)
 己の非力と円山の重傷を踏まえた犬飼の検討もまた最善手であろう。伝令を全力で務め、戦部への加勢を一刻も早く
連れて来るのが、足の速い犬型自動人形を持つ組織人としての……最適解答。

 犬飼は決して馬鹿ではない。大言壮語こそ時々吐くが、それは理知ゆえに己の限界をいやというほど知っているからで
もある。一種の、鼓舞なのだ。限界を弁えているからこそ、『それはできない』と口にしてしまうと、本当に心から、何もかも
諦めてしまいそうだから、大口を叩いて自分を鼓舞しようとしている。
 代々続くハンドラーの名家の中にあって唯一本物の犬が苦手で、伝統のカリキュラムをこなせず落ち零れた青年だから、
自分にできないコトなど分かっている。メルスティーンという怪物相手に殺すと啖呵を切って残ったところで戦部の足を引く
だけだというのは……分かっている。
(けど……)
 拳は震える。逃げるコトはいま誰もが認める最善手だと分かっているのに、割り切れない。
(逃げて伝令さえやり仰せば確かに僕は叙勲される。敵のアジトを見つけた功ともども評される。でも……それで僕を見下して
きた奴を……本当に見返せるのか……? 『ヴィクターVに見逃された奴が今度は盟主に背を向けた』って笑われるだけじゃ
……ないのか…………?)
 かといって残留して戦うのは匹夫の勇。負けるのは確定。円山も手当てが遅れ死ぬだろう。万が一戦部までもが殲滅され
れば……犬飼倫太郎は一族最大の恥として…………存在そのものを抹消されかねない。

(でも、ヴィクターVは……ヴィクターと戦って…………勝ったんだぞ。地球を守るって意味では…………勝ったんだぞ)

 かつて戦団に甚大な被害を与えた魔人相手に、真向からブツかり……意思を、貫いた。
 月に追放しただけと軽んじる気分など犬飼にはない。戦団を、地球を、人々を、エナジードレインの災禍から守りたいという
激しい意思を達成するためヴィクター共々月に消えた『ヴィクターV』。

 化物にすぎないと思っていた彼でさえ、己より強い存在相手に、矜持を振るい戦い抜いたのに──…

(僕は……盟主を相手に…………逃げる、のか?)

「逃げていいんだよ。君の判断は、ふ、正しい」

 盟主は哂(わら)う。犬飼の葛藤など見透かしたように。

「先も述べた通り、ぼくは君を追撃したりはしない。円山も然りだ。本当は特性合一で完全殺害したかったが、初手からの
見事な読みで致命傷だけは防いだ戦部に免じて見過ごしてやろう。ふ、手合わせして確信したが『見逃す方が』……きっと、
もっと……」
(……?)
 快美にゾクゾクと震える中世的な顔立ちの真意を犬飼が掴んだのは、坂口照星救出がひと段落した後である。
「なぁに」。戦部の大きな掌が犬飼の頭を覆う。
「離脱も任務の一環。恥ではないさ。なんなら証言してやってもいい」
「証言……?」
「ああ。戦後、お前を怯惰と誹る輩が出たのなら、俺はお前がここまで浮かべた苦渋の総てを伝えてやるさ。ようやく芽生えた
当たり前の、強い者を見て戦いたがる本能に疼きながらも現状の力量を正しく踏まえ、極めて身の丈に合った戦術・戦略双
方に対する最善手を見事選んだと……必ずそう証言してやる」
 舌なめずりしながら盟主に近づいていく戦部に(情けというかギブアンドテイク、か。要するにサシでやりたいと……)と、親切
な様でいて自分勝手な有り様に犬飼はつくづくと肩を落とす。
「というか残留を考えかけてたのは、お前みたいな単純な欲求じゃないんだけど」
「同じコトさ。勝敗や評価がどうあれ、戦った方が手応えがあると、ヴィクターVでさえ成しえたコトを成せない方が恥であると
特性合一を見てなお考えられる時点でお前は俺と変わらんさ」
0182永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:31:34.58ID:7MFCqHCA
(コイツ……。俺の考え読みやがって……!)
 結果から言えば命の恩人で、であるが故に複雑なカズキへの感情を指摘された犬飼の頬がビキビキと波打つ。
「と、言うか……そろそろ合流地点へ連れてって欲しいんだけど……」
 か細い声に犬飼は「円山、気付いたのか……!?」と眼下を見る。しゃがんだまま抱え続けている彼の体温は流血が
減るにつれ低下の度合いを薄めていた。
「ふ。とはいえ縫合が必要な傷であるのは変わりない。この場に留まったところで大したサポートはできないよねえ」
(……確かに。出血が止まっているのは核鉄あらばこそだ。傷はうっすらと癒合し始めているが、激しく動けばまた開く。
剣術主体のメルスティーン相手にまた風船爆弾を展開して戦うのは…………無理だ)
(またさっきの不可解な攻撃がきたら…………死ぬでしょうね、今度こそ)
 だから2人で逃げたまえとメルスティーンは気軽に掌を左右に振る。
「いまからぼくは特性破壊の方も戦部に試したいんだ。内向きの高速自動修復相手じゃ特性合一は決め手にならないけど、
ワダチのいま1つの特性であれば結構可能性がある……からねえ」
「……! 併用できるの!? 原則1人1つの特性なのに……2つ!? その『合一』っていうのは、アナタの精神の成長
に伴い特性破壊が進化し形を変えたものじゃなく……別個の物……なの!?」
「何を驚くんだい? 動植物型のホムンクルスに武装錬金を使わせる無茶をやると存外結構出てくるケースさ。人間と動植
物型のような異なる精神が共存していると……ふ、例えばさっき話に出た鳩尾無銘のように、『兵馬俑』と『龕灯』のように、
まったく異なる2つの武装錬金を1体のホムンクルスが発動できるというパターンは、ある」
「ならば大刀が2つの特性を有していても不思議ではない、と」
 戦部の問いは言外で穿っている。『もう1つあるという貴様の精神は、『何』なのか』と。
「未来のぼく自身……といっても信じてはもらえないだろうねえ」
(何を言っているんだコイツは……?)
「なに、与太として聞き流してくれたまえよ。ただ君たちの記憶……ヴィクター再殺の頃の物は、結構、混濁しているんじゃ
ないかな? それこそ犬飼、奥多摩でヴィクターVと交戦していた頃を思い出してみたまえよ。円山や、早坂秋水と共に
ヴィクターと戦っていたような気が……しないかい?」
「何を馬鹿……な」
 言われた青年はハっと息を呑む。灰色の岩の目立つ島で、千歳や毒島とすら共闘していた記憶が幻妖なる鈴の音と共
に脳髄を刺す。
(こ、これはいつの、だ……? 違う……! 惑わされるな……! ヴィクターV再殺が中断された後の……バスターバロン
との回復の時間稼ぎの戦いの、筈……!! でも……、僕が早坂秋水と対面したのはその頃だったのか……? 巨大ヴィ
クターにバスターバロンが敗れる直前じゃ……なかったか?)
 円山も同様の覚えがあるらしく、困惑を浮かべる。
「ふ。仲間が、ウィルが、時間に対し結構な無茶をやってくれたからねえ。あるんだよ、別の歴史の記憶が、君たちに。歴史
がリスタートするたび消え損ねた記憶が蓄積している。いわば別系統の歴史の君たちの精神が……宿っているのさ」
「何が……いいたいの?」
「円山。君なら分かると思うがね? ここまで言えば、君なれば、ワダチが2種類の特性を宿すことが、有り得るのか、そうで
ないのか……ふ、実感できると思うがねぇ」
「…………」
 黙りこんだ円山に犬飼の疑念が向く。(何か、あるのか……? 円山だけが分かる、『何か』が……?)
「ともかく、まあ、さっさと伝令に行きたまえよ犬飼。ふ、君の戦略的価値は認めるが……戦術的には大して壊し甲斐もない」
 挑発でも、なんでもない、からっとした言い草に、犬飼の心理の古傷が……刺激された。

 かつて、犬飼にとっては人に害を成す化物に過ぎなかった者が、武装錬金を指定し、言った。

『コレは化物を斃すための力で……人を守る力』

 そして彼は犬飼を見逃し、命をつなぎ……去っていった。

(また僕は……見逃されるのか…………!!)

 飛びかかりたくなる激情を制止したのは水平に遮る十文字槍。

「白状するぞ犬飼。先の特性合一。俺は円山を無傷で守るつもりだった」
「…………な、に……」
「守れる、つもりだったのさ。どれほどの連撃が来ても総て捌けるよう俺は十二分に備えていたが……」
「ふ。想定以上だったから、円山は戦線離脱級の傷を負う羽目になったのさ」
0183永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:32:05.82ID:7MFCqHCA
 だから犬飼、君ごときが激昂して飛びかかってきても、即死だよ? と当たり前のように目を細めて立たずむ盟主。

(ク…………ソ……!! どいつもこいつも舐めやがって…………!)

 歯噛みするが、結局はもう、離脱しかない。戦団一の記録保持者の想定すら上回る攻撃を放てる盟主相手に踏みとどまっ
ても犬死するしかないと悟ってしまった犬飼は、頭を振り、盟主とは逆の方向へ歩き出す軍用犬の背中に円山を乗せる。

「ああそうそう。言うまでもないが、生きて合流地点へ辿り着きたくば止血は続けておいた方がいい」
「何を当たり前のことを──…」
「ふ。屈辱を与えた分のサービスなのだがねえ。ぼくは、『君の生存』もコミで忠告してあげてるのだけれど…………」
 不可解な文言。もちろん犬飼は無傷である。どこも、出血していない。
(なのに円山の止血が、僕をも……? あ)
 ぺとぺとと歩を進めるレイビーズの傍に、赤い雫が、落ちていく。
「ふ。そうさ、その通り。そろそろ『開演にして開園』……だからね!」
 メルスティーンの言葉と共に彼方から轟音が響いた。ぎょっとそちらを見た犬飼の網膜に、膨れ上がる巨大な火球が映った。
 円山は別の方角で雪崩と竜巻が並存するのを見た。戦部の鼓膜を劈いたのは亡者としか思えぬ不気味な呻き……。

(戦いが始まった!? 合流前に!? 火渡戦士長はともかく……慎重なサップドーラーが)
(いきなり大技って……。どうやら戦団、初手から劣勢みたいね……)

「戦士諸君は合流地点を必ず目指す。行きたまえ。呼びたまえ。せっかく生かしてやるのだから、ぼくを壊す手伝いぐらい
務めてみたまえよ犬飼」
「……戦部、証言の約束、必ず守れよ」
 開戦前、真当な『言葉』らしい言葉を投げかけてくれた戦部に不安げな一言だけを残して。

 犬飼は円山とともに軍用犬で……駆け始めた。

.

「ふ。やっと邪魔者が消えたねえ」
 片手を広げる盟主をしばし無言で見つめた戦部はゆるゆると槍を構えつつ、問う。
「宋襄の仁がないと言った割に……随分と甘いな」
「ん? ああ、彼らを逃がしたコトかい? ふ、まあ普段なら戯れに……7年前のネコの飼い主の如く壊してあげたかもだけど
10年前一度戦団に負けたぼくだからねえ、盟主なりの事後の策って奴さ」
 話が見えんな。苦笑しながらも飛びかかるコトはしない陣羽織の大男。雑味にしか思えぬ戦闘前の会話すら妙味と楽しむ
風流が彼にはある。
「ふ。端的に述べようか? 懐柔ならぬ壊柔……勧誘相手の心証を害したくなかったのさ」
「……フム?」
「何しろこれから決戦だ」。大刀を一振り瞑目する盟主を遠方からの喚声が通り過ぎた。
「幹部は最悪……全滅する。勝ったとしても何人かは確実に死ぬだろう。ぼくは一応盟主らしいからねえ。『次』と出くわした
ならダメもとで誘っておく義務ぐらいあるだろう。だから犬飼と円山を逃がしてやった」
 寛容だろ? 爽快でさえある笑みを湛えるメルスティーンに軽く片目を見開いた戦部は、不敵に笑う。
「生憎だが俺は戦士の方が水に合っていてな。犬飼にも話したコトだが人ならざる連中は人の身で葬ってこそ……」
「ホムンクルスにはならぬまま幹部の座に就く……ふ、珍しいが前例がない訳でもないよ?」
 だとしても断るさ。戦部は片腕を伸ばし槍の穂先で盟主を指す。
「俺は大戦士長とも戦いたくてな。何より貴様達がバスターバロンを抑えているのが気に喰わん。組む相手なら既に先約
済みでな。それに横槍を入れるような無粋な連中とつるむつもりなど毛頭ない」
「……? ああ、ヴィクターV武藤カズキのコトかい? 確かに『この先の歴史で月まで彼を迎えにいく』破壊男爵を坂口
照星ごと拘禁しているぼくらは……武藤カズキの帰還を阻んでいるぼくらは……ふ、まあ、憎いだろうね」
「憎悪で俺は戦わんさ」。足を摺り、距離を詰め始める戦部。
「俺が戦う理由は昂ぶるがため。貴様達レティクルは組むに値せんが……強くはある。しからば答えは1つだろう」
「……素晴らしい! その信念! その希求! その酔狂! 是非とも倒し同輩にしたくなった!!」

 無造作にくくった長い総髪をくゆらせながら、戦部は踏み込み、十文字槍を繰り出した。

.

..
0184永遠の扉
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2018/03/11(日) 23:33:03.49ID:7MFCqHCA
「左腕のみで訓練……ですか?」

 聖サンジェルマン病院の地下で早坂秋水は片眉を顰めた。

「ええ。念のためよ」

 呟くのは瞑目する妙齢の女性……楯山千歳。故あって視力を奪われている戦士である。

「もしレティクルが銀成市(このまち)に再び現れた場合、私たちは苦しい戦いを強いられる。音楽隊との抗争が比較にならな
ほどの苦闘を……」
「だから俺も、常に五体満足で戦えるとは限らない……ですか?」
 その通りよ。頷く千歳を秋水は否定できない。彼女は木星の幹部の策略によって両目に武装錬金を打ち込まれ、仮とはい
え失明状態にあるのだ。だからその現状で戦えるよう訓練を施していた秋水だったが、今度は千歳の方から具申が来た。

「あなたの得意技は逆胴。右手一本で握った日本刀で相手の左胴を狙う必殺の一撃だけど、もし何らかの理由で右手が
使えなくなった場合、戦闘力は激減する」
「だから左腕でも……ですか?」
「ええ。決戦の土壇場で、ここまで頼り続けた一撃を喪失する衝撃は大きいの。それでも残った腕で、左腕で、戦う術を会得
しておきさえすれば、きっとそれは支えになる筈よ。レティクルは……強い。何が起きるか分からないから…………今のうち
にやれるコトはしておいた方がいいと……思うの」
 考えたコトもなかったという顔を秋水はした。
(……油断していたのかもな。総角を倒し、木星の幹部さえ出し抜けたから、今の俺なら常に万全の状態で戦えると無意識
にそう、思っていた。けど……そうだな。戦いは、何が起きるか、分からない)
 桜花を守れると思っていた頃のカズキとの戦いの顛末は、彼を背後から刺し、守るべき桜花に残酷な飛び火を浴びせる
苦いものだった。
「訓練の相手……お願い、できますか?」
 左腕一本で竹刀を握った秋水に、千歳は笑って、頷いた。

「あなたにはこれ以上、私みたいな後悔を重ねて欲しくないから……」

 なんとなく、秋水とまひろの約束に気付いているようで、それを守って欲しがっているようで、

(優しい女性(ひと)だな……)

 と美剣士は双眸を潤ませる。



 駆け始めて、わずかな頃。

「円山。あと20秒したらバブルケイジを発動できるか?」

 軍用犬に揺られる犬飼は、並走する朋輩に呼びかけた。

「え? できなくはないけど……血しぶきが地面に落ちたら他の幹部に追跡されない?」
「……分かっている。さっき盟主が止血を促したのは”それ”を言外で伝えるためだってのも含めて」
「…………。なのに止血をやめさせようとする以上、何か……あるのね?」
 ある。森の地面に容赦なく刻まれる軍用犬の足跡を溜息混じりに見ながら犬飼は告げる。

「予言する。不意の遭遇戦さえなければ、僕たちが次に出会う幹部は……決まっている。追ってくるのは──…」
0186永遠の扉
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2018/03/17(土) 21:32:36.46ID:k2q8zgoN
第103話 「先遣隊、その顛末」

 5分が、過ぎた。

「特性破壊発動より五百余合……ふ、戦部、君は実によく破壊(たたか)った」

 血みどろの、されども優艶を極める金髪の盟主の前で陣羽織の巨体が地響きを立てて転がった。

 その体には、四肢がなかった。血溜まりのなか丸ごと転がっている太い右脚はまだ無事な方で、左に至っては特大のロー
ストハムでも切り分けて振舞ったようにそこかしこに散らばっていた。戦部の左斜め500m後方の木の幹に張り付いてそろ
そろ8匹のハエにたかられ始めているひしゃげてグシャグシャの肉塊は左腕の成れの果て。
 そして右腕は持ち主から20mは離れた茂みへとひゅらひゅらと旋転しながら落着し……十文字槍を取り落とした。

「高速自動修復を封じられてなお、手足を失いながらも……ふ、武技で遥か勝るぼくにこれほどの手傷を負わせるとは……
さすが現役戦士で最も多くのホムンクルスを壊した男…………」

 メルスティーンの見つめる彼の左掌には、親指と、薬指と、小指が、なかった。どれも彼の足元に散らばっていた。

「ふ。剣士から握りの要たる指を三本も奪うとは……。特性破壊という明らかな反則を持っていなければ……危なかったね」
「世の中にはホムンクルスと約束する、俺以上に酔狂な戦士がいるが」
 臥していた戦部の顔がもぞりとあがりメルスティーンを見る。陣羽織が皮のごとく固まるほどの出血量であるが、いかなる
心気的転換があるのか、その顔色はあたかも勝者のごとく溌剌としている。
「どうも貴様には……奴ほどの感興は涌かん。生かさば挑むぞ、何度でも」
「ふ。願ったりだね。斯様な深夜(ぜんれい)など既にある……」
 部下への勧誘を蹴って捨てる太い笑みを浮かべた戦部の頬が地に着き……彼は意識を失った。

 さぁて殺さぬよう止血でも……と戦部に近づき始めた盟主が振り返ったのは、背後で足音がしたからだ。

「ほう」。意外そうに目を丸くした金髪の剣士は笑う、にこやかに。

「これはまた、珍客……」

.

..

 各部隊合流のち、戦部たちの地点へ。
 という戦団統合本部の立案した坂口照星救出作戦第一段階は、苦しい始まりを見せている。

「臓物をブチ撒けろ!!」

 切り刻まれた無数の自動人形が弾け飛ぶ中、汗みずくの斗貴子はカハっと咳き込みうな垂れた。薄手のセーラー服が
水色に透けて見える姿態はかの中村剛太が居れば眼福と鼻の下を伸ばすだろうが、斗貴子本人は恥らう余裕すら今は
ない。

「幾ら何でも数が多すぎるぞ……! 冥王星の幹部の武装錬金……!」
「あはは。やっぱ早いとこ本体を叩かないとヤバいねー」

 斗貴子の背後でからりと笑うのは黒いタンクトップに迷彩柄の上着をくくりつけたベリーショートの女性・殺陣師盥。並み居る
人形をライオットシールドで着き壊し突き壊し進んでいく。

 斗貴子は、思う。

(最低でも猿渡級……強いものでは鷲尾級の自動人形が次から次にウジャウジャと……! これだけの自動人形、1体造る
だけでも相当のエネルギーが必要なのに、同時に大量にだぞ……? 創造主はどうやってこれだけのエネルギーを調達して
いるんだ?)

 パっと浮かぶのは『戦部の弁当』。全身を何度でも高速自動修復する厖大な量のエネルギーを、精神的発奮で補う前例は
確かにある。
0187永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:32:57.08ID:k2q8zgoN
(作り手は末席とはいえ幹部……! しかも属しているレティクルは動植物型にさえ武装錬金を使わせる技術力を有している)

 恐らく相当特別な技法があるのだと斗貴子は推測し、

(ならば付け入るメはそこにある! 直接対決の暁にはその特別な技法とやらから真先にぶっ潰し……うざったい増援を断つ!)

.

..

「ぬぇーぬぇっぬぇっ!! やっぱ面白いアニメを見るとテンション上がりますねこの上なく! 漫画でもラノベでも可!!」

 どこかで。テレビの前でおおはしゃぎする冴えないアラサー女子のの全身からぎらぎらと立ち上る虹色の陽炎が、すぐ傍の、m
ひとめで錬金術の産物と分かる装甲列車へ流れ込んでいく。窓から人影見えぬその列車であるが、車内で閃光が迸ると
大量の自動人形で満員となる。

「むーん。まさかサブカル興奮で補っているとはね……。すごい補充法……。30分身する私もびっくりだよ……」

 呆れたように汗を掻くムーンフェイスだが、

(だが単純なだけに破り辛いだろうね。これだけのはしゃぎようだ、たとえテレビや本を壊したところで記憶がある。クライマッ
クス君は蓄積したサブカルの思い出だけで、脳内再生のみで、自動人形を産み続ける……。何千体でも、何万体でも…………!)

 いろいろこじらせている元声優のオタ女子の歪んだ嗜好と笑い飛ばすには、彼女の自動人形は余りに武力を得すぎている。

(そして……地下空洞にザっと見20両編成以上の装甲列車をわざわざ控えさせている以上、レティクルの次の手は、多分)

 まあ、彼らがどこに行こうと私はそのおこぼれを狙うだけさ。指を弾く月顔の怪人はひたすらに機を伺う。地上を美しい月面
世界のようにできる日のため。



「とにかく後衛の火渡の介たちの掩護もあってだいぶ近づいたよ廃村!」

 右手に曲がりくねった屏風のような山肌が続く崖道をひた走る殺陣師が指さす左手から、やっとぼろぼろの家々が一望で
きた斗貴子は自動人形を斬り飛ばしつつも安堵の吐息をついた。

(通称・旧村。明治時代、反政府勢力に占領されていた忌まわしさゆえに打ち捨てられて久しい廃墟。だからこそこの山の
多い地帯において、私たちや音楽隊を含む68人の戦士を収容できると見込まれ指定された『合流地点』)

 元が村だっただけに、いわゆる衢地(くち)である。四方八方から道が来ているというのも、各地から直接集う戦士たちの
寄り合い場に選ばれた理由である。

(だがあと少しで目的地という時が一番マズい!! 何しろ……『崖の棚』だからなココは)

 右手には高く聳える急勾配。左手には20m超の奈落。

(私が冥王星の幹部ならここで仕掛ける! 崖上から岩1つ落とすだけでも行軍を阻める絶好の地形! 利用しない筈がない!)

 斗貴子が警戒の度合いを高めたのと、頭上からの巨大な質量の気配を感じたのは同時である。

 細かな岩の破片がぱらからと落ちるのに引きずられるよう崖肌をバウンドして落ちてくる巨岩に迷いなく跳躍した斗貴子は──…

 雄渾なる斬撃の線(すじ)を無造作に4つ描き、膝立ちで着地。背後8mの中空で四等分された岩はピシピシと入った亀裂によって
自壊し、崩れながら崖下へ。

 ほーと殺陣師は感服するが(呆気なさすぎる……。囮、か?)と斗貴子は残心の構えで周囲を見渡す。

 激しい気配を伴う颶風が俄かに飛び込んできたのは、その時だ。足元の、崖の際に指がかかったと見た瞬間、
0188永遠の扉
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2018/03/17(土) 21:33:45.13ID:k2q8zgoN
(……! この気配!! 今までの自動人形より…………強い!!)

 切歯した斗貴子は最高速の斬撃を全身に発令! 疲労など忘れ去っていた。それほどの気配だった。

「ちょちょちょ! あた、あたしだから!! 怖いのやめてよ頼むから!!!」

 第一撃を蹴った反動で距離を取り、崖道に着地した栴檀香美は「ふーっ! ふーっ!」と尾を逆立てながら「あ、あんた!!
あたしニガテな高いとこのぼりきったばっかじゃん! なな、なんでそんな怖いコトしようとすんのよ!!」と妖怪絵巻の化け猫
のような細い瞳孔でびしばし指さし抗議する。
0189永遠の扉
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2018/03/17(土) 21:34:06.60ID:k2q8zgoN
「なんだお前たちか……。よく幹部に殺されずに済んだな……」
『ははっ! ぼ、僕らがホムンクルスだから、つれないなあ! これでも結構大変な目に遭ってたんだぞ!?』
「おー。山岳戦闘ではお馴染み白田の介の階段かー。ブロック積む城大工の武装錬金、相変わらずの応用性ですナー」
 崖下を覗いた殺陣師は目を細め喉を鳴らした。コンバットスーツ姿の男女が7人、空中階段を登ってくるところだった。
「チーム天辺星か」。無感動に呟いた斗貴子に「あんたこいつら知ってんの?」と香美は聞くが、名前を知っているだけで
親しくはと頭を振られる。
「うー! 奏定! 津村斗貴子がアタシ馬鹿にしてるチョーチョー馬鹿にしてる! 撃破数50位ぐらいが7位のアタシをチョー
チョー馬鹿にしてくるーー!!」
 崖道に乗った金髪サイドポニーの少女──天辺星さま──がきゃんきゃんと鳴いた瞬間である。斗貴子たちのもと来た
道で大爆発が起こったのは。
「ふぎゃにああああ!!? なにこれなにこれチョーチョー敵襲!! ふあああ! アタっ、アタシの可愛い部下たちに手出し
なんかさせないんだからあああ!!! 奏定だって守るんだからああ!!」
 剣を抜き、騒ぐ天辺星さま。
「落ち着いて天辺星さま。むしろ味方というか……ああでも、敵かなあ、やっぱ」
0190永遠の扉
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2018/03/17(土) 21:34:24.71ID:k2q8zgoN
 歯切れ悪く答えるコートの青年の前に、サンドブラウンの土煙ぬって現れたのは──…

「ケッ。ようやく合流できたと思ったら、一番使えねえ記録保持者(レコードホルダー)ときてる」

 火渡赤馬である。

『え!? 7位だったらかなり強いんじゃないの!? 火渡戦士長ですら12位……なんだよな!?』
「トドメを部下から譲られているからだ」。斗貴子は盛大に溜息をついた。
「『集約型』。記録保持者に時々いるタイプで……ほとんど部隊のリーダー……だな。自分にホムンクルスの撃破数を集中
させてランクアップするんだ。まあそんな欲目は実戦においてまず命取りだから、代表者(じぶん)の人柄とかチームワーク
などの部隊全体の質が相当高くない限り、上位へ行く前かならず死ぬ、から……」
『そういう意味では天辺星さま率いる人たちは弱くない、と!!』
 その通りです。ガスマスクのチューブから推力吹く毒島が遅れて飛んできたのは、先ほどの爆発の鎮火をしていたせい
である。
「ただ戦士・戦部のような1人で戦うタイプが面白がらないのも事実ではありますね」
「だからあんた怒ってるじゃん? 片しっぽにぬかれて、怒ってんじゃん?」
 ふへへと笑いながら火渡にジャレつく香美。「きみ、怖いもの知らずだね」。コートの青年・奏定の顔が引き攣った
0191永遠の扉
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2018/03/17(土) 21:34:47.50ID:k2q8zgoN
「え! 火渡怖がらないと奏定にチョーチョー感心されるんだ! だ、だったらアタシも逆らう!! あ、あんたなんか、12
位なんか、怖くないんだから!! ばーかばーか!!」
「あ?」
 凶残の皺が犬歯剥き出しの火渡をドス黒く彩った。
「こわくなんかーー!」
 墨を吸ったようなタンブルウィードを眼窩に嵌めこんだ天辺星さまはボロボロ涙を零しながらヒヨコ口で剣を振る。

【まったくこのあたくしを武器としておきながら斯様な侮りを受けるとは……信じられませんわ】

 剣に金髪ツインテールの少女が映った瞬間、「会話可能な武装錬金……だったのか?」と斗貴子はチーム天辺星の面々に
意外そうに問いかけたが「いや私たちもついさっき知ったばかりで」という気のない返事。

『えと、その、複雑なんだけど、このコはミッドナイトって言って、元レティクルの幹部だけど一時期僕たちの仲間でもあって』
「いい! そういうややこしそうな話は合流してからだ! というかいい加減キミたち喋ってないで走れ! 村へ!」

 マジメだなあ。チーム天辺星の雰囲気は、ユルい。

【まあでも津村斗貴子と火渡赤馬に合流できたなら憎きメルスティーンに辿り着くまえ死ぬというコトはもう──…】
0192永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:35:11.98ID:k2q8zgoN
 片目を閉じて一座を見回していた剣身の幻影少女が、突如として、凍りついた。

(えッ!! えええ!? ええええええーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)

 しぃ。どういう訳か、殺陣師盥はウィンクしながら唇に指を当てた。

「どうしたのよリウシン。急に黙って」

【い、いえ! ありませんわ、ななっなんでもありませんわ……!!】

「というかいつまでハシャいでんでたテメぇら! さっさと合流地点へ行くぞ!!」

 火渡の一喝で走り始める戦士たち。だがミッドナイトの震えはリウシンという中国剣に伝わり続けた。

(ああ、ありえませんわ。ど、どうして『あの方が』ココに!? てかこれじゃ、これじゃ……

色んな戦いの前提が…………根底から覆されちゃいますわーーー!!)

.

..


...

.

..

 犬飼倫太郎は武藤カズキを憎んでいる。再殺などもうとっくに終わった出来事なのに、いまだに旧称であるヴィクターVで
認識し、引き攣った感情の火の手の眼鏡で眺めている。

 妬みも、ある。

 再殺の流れの中、彼どころかその随伴の新米戦士の機転によって逆転され重傷を負った犬飼は、一度は潔く敗死を選ぼ
うとした。だが『ヴィクターV』の慈悲によって命をつなぐ手段を得てしまった。取り上げられていた犬飼の核鉄が、止血の手段
が、緊急手術が必要なほど夥しく出血する青年に……あろうことかターゲットである『ヴィクターV』の手によって返されたのだ。

 劣等感ゆえのプライドを鎧(よろ)わずには居られない人種は確かにいて、慈悲は罵詈より屈辱だ。優しさを哀れみとしか
解釈できなかった犬飼は、言った。

──「負け犬扱いされるくれいなら、死んだ方がマシだ!」

 だが『ヴィクターV』は言った。犬飼にとっては人に害を成す化物に過ぎなかった彼が、武装錬金を指定し、言った。

『コレは化物を斃すための力で……人を守る力』

だと。

 脆弱な誇負持つ者にとって『下』からの説教ほど憎態なものもない。激しい出血のなか犬飼が核鉄を手にしたのは、敗死を
やめたのは、ひとえに復讐のためだった。いつか『ヴィクターV』を斃し溜飲を下げるのだと……涙ながら今生に留まった。

 形式だけ見れば『ヴィクターV』は犬飼を心身から救った恩人だ。恩人が、自分には出来ない偉業を、ヴィクター追放を
成したのならば、常人は祝し、救われた命を恩義のため正しく使おうと決意する。

 奇兵の裡に眠る、ごく普通の劣等感に悩む青年の……『常人』の部位は『ヴィクターV』を思うたび疼く。犬飼本人は認め
たくないが、拾われた命をどう使うかという点を……悩ませる。
0193永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:35:35.99ID:k2q8zgoN
(仮にアイツが月から帰って来たとして、僕が今さらアイツを斃して、それで……どうなる? 白い核鉄のプロジェクトは戦団
でだって始まってるんだぞ。ヴィクターを月に追放し最早人類に対し害意なしと証明された『ヴィクターV』を僕が斃して……
周囲(まわり)は見事と……認める、か?)

 そこを考えると、復讐の気炎は弱まってしまう。火渡なら、7年前があるからこそ才能の証明に未練を持つ火渡であるなら
殺害そのものが実力の証明だとばかり邁進するだろう。が、犬飼は劣等感ゆえに承認を求めている。ヴィクターV殺害という
難事業を果たせたとしても、それが成せた自分という事実そのものには満足できず、人に、誰かに、認められて喝采されねば
自分を肯定できない弱さを……持っている。

 ではどうすれば、いい? ……などという葛藤から納得ゆく結論を導けた人間など結局のところ居はしない。そも葛藤とは
「どうすればやり抜けるか」ではなく「どうすればやらずに済むか」を考える作業ではないか。正答などとっくに見えているのに、
実現に欠かせぬ作業から湧き上がる、辛さや、面子へのダメージに、耐えられそうにないから、周囲に責められず嘲られず
で鮮やかにひける、それでいて正答以上の成果を一粒の汗も流さず得られる魔法のような手段を求めては、そんな馬鹿げた
うまい話が許される訳もないこの世の法理に頭を抱えるだけの、無為な作業ではないか。

 犬飼は結局、自分がどうすれば納得できるか分かっている。だがそれをやってしまうと、屈辱を与えてきたヴィクターVを
肯定するほかなくなってしまうから、だからあれこれと理屈をつけて……渋っている。

(アイツですら…………ヴィクターから地球を救えたのに。戦団総がかりでどうにもできなかったヴィクターを………………
追放、できたのに……)

 ヴィクターVを怪物と蔑んでいる自分が、その実なにも果たせていない割り切れなさを犬飼はヴィクターVが……武藤カ
ズキが月に消えてからずっとずっと……抱えている。

.

..

 木星の幹部・イオイソゴ=キシャクはかねてより捜していたメルスティーンに追いついた後、それまで同伴していた金星
(グレイズィング)を彼のもとに残し、単身追撃に移っていた。
 追うべきはむろん犬飼倫太郎と円山円である。

(ひひっ。奴等は精強きわまる戦士どもを盟主様のもとへ呼び込む伝令……。ゆえに本隊との合流は絶対阻止! 集結の
地に駆け込ませるなどあってはならん!)

 主君はむしろ増援を望んでいるのは当然知っているイオイソゴだが、家臣の常、ゆるしてはならぬと考える。

(一見無敵な特性合一なれど一芸きわまる武辺者厖(いりま)じる乱戦となれば事故の可能性は、出る! そも盟主様ご
本人が自壊を求められておるのじゃ! 戦士どもにいま所在を掴まれてはならん。限局とはいえ死びとさえ黄泉がえらせ
るぐれいじんぐをつけたが故、姑(しば)らくは息災と思うが、一度あじとを出奔なされた身、連れ帰るまで相当の時間がか
かるじゃろう! よって所在を掴まれる訳にはいかん掴ませる訳にはいかん……!)

 イオイソゴとは、見た目7〜8歳の少女である。すみれ色のポニーテールの根元に、フェレットの飾りのついたかんざしを
差している愛らしい顔立ちの、黒ブレザーの少女である。人前ではとかくころころとよく笑う無垢な性分だが、そのじつ600
年近く生きている老獪な忍びであり、坂口照星救出に先駆けて行われた銀成市における戦士とレティクルの小競り合いで
は、津村斗貴子と早坂秋水にほぼ同格のホムンクルス2体(3人)を加えた一個小隊をたった1人で手玉に取り、一時は
あわや壊滅というところまで追い込んだ。

 そんな彼女だから、盟主どの合流直後すぐ、犬飼たちの存在と目論みと足取りに気付き、間髪居れず追跡に移った。

(きらーれいびーずに乗って逃げたようじゃが無駄なこと! 四足の武装錬金で森をば駆ければ──…)

 足跡は、残る。あとはそれを辿るだけだった。

 既に5分ずっと木々の間を茫洋たる鴉のような残影で飛びまわっているイオイソゴの速度は、速い。身体能力の結果では
ない。武装錬金の特性ゆえだ。

(加速)
0194永遠の扉
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2018/03/17(土) 21:36:06.56ID:k2q8zgoN
 指を弾く。彼方の木は鋲のような物がスコっとめり込んだ瞬間くろぐろと溶ける。イオイソゴの体は……首から上と右手以外
どろどろとした不定形に融解している体は、そこめがけ強烈に引かれ速度を上げる。
 秘密は、磁力にあった。イオイソゴの武装錬金・ハッピーアイスクリームは打ち込んだものをたとえ我が身であっても磁性
流体へと変貌させるのだ。
『耆著(きしゃく)』という、忍びが水に浮かべて使う舟形の方位磁石は原型が原型ゆえに磁力を帯びており、で、あるが故に
四肢が伸びきらぬうち成長が止まった小柄な少女をして全速力の軍用犬との距離を縮ませているのだ。あらかじめ耆著を
打ち込んでおいた前方の木へと引かれ……すれ違い様に己が極を反転! 弾かれて加速して、撃ってまた引かれる繰り
返しが限りない加速を生んでいる。

(見えた! 犬飼倫太郎と円山円!!)

 風を食うイオイソゴは遠巻きであるが確かに見た。軍用犬に乗って駆け去りつつある2人を。

(ひひっ。直接戦って負ける相手ではないという自負こそあるが、いまの肝腎はあくまで伝令の可否……。わしの存在を
知ったが最後、奴らのうち片方は必ずや足止めに徹するじゃろう。よって姿を現してやる必要などない。つまり今わしが取
るべき最尤の手は)

 黯々(くろぐろ)と、笑う。

(暗殺……)

 体を戻し、手近な太い枝の上に直立した少女はその衝撃で上の梢が細かな青葉を何枚もひらひらと落とすなか右腕を伸
ばし……耆著をいつでも弾ける体勢をとる。

(彼我の距離およそ300めーとる。……何もなければこの距離からでも順々に脳天をば狙撃して密殺できるのじゃが……)

 ま、警戒ぐらいするわの……微苦笑をたたえるどんぐり眼に映るのは、無数の風船であった。

(彼奴らめ。疾駆する軍用犬の背後に”ばぶるけいじ”を密集させておる…………!)

 なぜか一瞬だけ下を見たイオイソゴは「……ニタリ」と笑った。地面に刻まれていたのは”軍用犬の足跡のみ”である。

(ひひっ。およそ察したわ連中の考え)

 視線は再び、前方かなたへ。

 球が集まる都合上、隙間じたいはあるにはある。だが風船ゆえにゆらゆらと揺れてもいる。300mから徐々に離れつつあ
る彼らを、不規則に揺らめく風船の間を縫って撃ち抜かんとするのはリスクが高い。もし外れた場合、狙撃に気付かれ速度
をあげられる。

(奴らが目指す合流地点とやらは……ま、廃村じゃな。ここらの地形的に。距離は……奴らからあと1きろめーとるといった
ところか。迂闊に察知されれば奴らめは死力を尽くし逃げる。合流する。盟主さまの所在を……暴露する)

 犬飼たちが駆け込んでも本隊ごと斃せばいい……というのは火渡のような広域殲滅型でも無い限り描いてはならぬ考えだ。

(こと駆け引きにおいては双(なら)ぶ者なしと自負しておるわしじゃが、10名以上相手どれば必ずどこかで綻びを突かれ敗北
する。まして本隊は記録保持者十数人をも含む精強揃い……。『磁力』や『えねるぎー攻撃』といった相性でわしに勝る能力の
持ち主どもすら或いは、おる)

 盟主にこそ忠誠を誓っているイオイソゴだが、無理に死を賭してまで彼の所在を隠匿しようとは思わない。

(ひひっ。わしが戦う理由は鳩尾無銘……。きゃつを喰うまで死ねるかよ)

 ホムンクルス幼体を埋め込まれた胚児を食したいというおぞましい欲求で彼を生誕せしめたのが10年前。
 以来ずっと探し続けていた無銘の片腕を彼自身の奇策によって食してまだ6時間も経っていない。
 ホムンクルスなれどまろやかな、男児の肉のトロトロっした舌触りや唾液による溶け具合を思い返すたび涎が止まらぬ
イオイソゴだから、彼のおらぬ戦団本隊相手に大立ち回りの死闘を繰り広げるつまりは……無い。

(じゃから犬飼どもは合流前に、叩く!!)
0195永遠の扉
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2018/03/17(土) 21:36:53.60ID:k2q8zgoN
 後方を風船で覆われているため狙撃での殺害は不可能な、彼ら。
 さればと軍用犬の足に照準を定めかけたイオイソゴであったが、そちらにも風船は、充満している。

(ひひ、やりおるわ。足すら奪えぬ以上……近づく他なくなった……!)

 イオイソゴは再び溶け、静かに加速する。犬飼たちに追いつき、伝令を、阻むために。

(今回は銀成における不殺の足止めとは違う……! 本気の戦闘、相手を殺していいという)

(わしの、本領よ!!)

.

..

「断言する。不意の遭遇戦さえなければ、僕たちが次に出会う幹部は……決まっている。追ってくるのは──…」

「木星の、幹部だ」

 遡るコト7分17秒前、犬飼にそう告げられた円山は、男性なのが信じられないほど長い睫毛をはしはしとさせた。さまざま
なコトが意外、だったのだ。

「根拠は? あなたも銀成市のドンパチは聞いてるから知ってると思うけど、火星の幹部って鳥型よね? 機動力的には
そっちの方が追撃に向いてるんじゃないの?」

 混ぜかえす見た目美女の男性に、眼鏡をかけた卑屈気味な大学生風の青年は、「そっちは不意の遭遇戦の率のが高い」
と言い切った。

「……アナタにしては珍しく自信たっぷりねえ。てか……何に対して怒ってるの?」
「そこは関係ないだろ! いいから聞け! お前に早くバブルケイジを出して貰わないと進まないんだよ!」
「まあいいけど」。円山は不承不承、武装錬金を……発動し、後方に撒いた。

「で、どうして木星が追ってくるって断言できるの?」
「戦団が合流前に叩かれ始めているからだ。お前も見ただろ。火渡戦士長の火球と、サップドーラーの竜巻を含んだ雪崩
がまったく別な場所で上がるのを」
「見たけど、なんでそれが木星と……? というかコッチが合流する前に叩くってそれ、どんな共同体でも思いつくコトでしょ?
予め、前から、大戦士長救出部隊が集結し始めたら合流前叩くってレティクルはそう、決めていたんじゃないの?」
 順を追って言う。犬飼は、注げた。
「もしアイツらが各個撃破を重視しているなら、銀成で戦士たちを殺してただろ」
「ア……」
 円山は気付く。斗貴子でさえ苦戦する幹部が7人も居たのに関わらず、例えば剛太や桜花のような”殺しやすい”戦士ですら
見逃され、生存している事実に。犬飼は息を吸い、やや早口で説明し始めた。
「アイツらの目的はどうも戦団の破壊そのものには無さそうだ。『器』がどうとか言ってたらしいし、何か厄介な存在を生むために
大きな戦いを欲しているフシがある」
「……つまり、戦団を合流させてから叩きたかった…………? でもそれ現状(いま)と矛盾するわよね」
 盟主のせいさ。盟主が目論みを狂わせたと犬飼は断言する。
「幹部たちが合流前の戦団を各個撃破しにかかっているのは……ついでというか、カモフラージュだ。本命は盟主の捜索。
盟主を捜しているのを悟られないために、盟主が予想外の単身出撃をやらかしてしまったのを悟られないために、戦士た
ちを攻撃し、いかにも合流前叩くという当たり前の最善手を取っているよう……見せかけてるんだ」
「……。あー。確かに私たちもいきなり盟主が出てくるなんて思いもしてなかったもんね。そういえばレティクルにはあらゆる
傷をたちどころに治すっていう金星の幹部が居るけど……」
「もし盟主の出撃が予定どおりだっていうなら、奴らは絶対、そいつを随伴させた。でも盟主は1人だったから」
「向こうもまさか初っ端から1人で出て行かれるとは……思ってなかった」
0196永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:38:10.07ID:k2q8zgoN
 ああ。犬飼は頷き、眼鏡の奥の瞳を光らせ、ここからが追跡者の予想の根拠と前置きし、言う。
「盟主が、トップが予想外に不在になったら、誰かが代わりに舵を取る。決戦前、だからね。そして銀成からの報告を、毒島
が万が一幹部どもと遭遇した場合の参考にと送ってくれたレポートと付き合わせると……」
「いかにも老獪だった木星、と。確かに彼女なら各個撃破と盟主の捜索を同時にやれるよう指示するわね」
「で、アイツなら咄嗟に伝令の遮断も思いつき、それは自分に一任するよう言いつける」
「盟主を闇雲に捜しつつ、戦士にも攻撃しなきゃいけない他の幹部たちと違って、戦歴500年らしい忍びの木星だから、
盟主の追跡はかなりの精度、見つけるとすればまず自分って思いはあるでしょうし、なら発見からの伝令追跡も自分だろう
と考える。任意車……だったかしら。忍法を使えば分身できて、『盟主を慰撫工作しつつ』、『追跡も』できるし」
 ここまで器用な芸当、他の幹部じゃ無理よね、という円山の問いかけに犬飼も頷く。
0197永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:38:26.89ID:k2q8zgoN
「下っ端丸出しの冥王星じゃ不安だし、海王星は1人に激発するともう1人の動向が目に入らなくなり……逃げられる。、天
王星と土星、あと今はレティクルに与しているらしいムーンフェイスは掴み辛い奴だから、木星の方も疑うんじゃないかな、
盟主を売りかねないって」
「月といえば、月を関する幹部は手足がないらしいから追撃には不向き、金星は前述どおり盟主に随伴しなきゃだから、こ
れまた除外。……アレ? じゃあ水星は? 音楽隊リーダーをどこかに飛ばしたらしい空間操作を私たちに使えば、伝令遮断
なんて一発なんじゃ……?」
「いやそれが出来るなら盟主にこそ使うべきだろ」
「特性破壊があるのに? 脱出されるかも知れない盟主の方を閉じ込めにかかるより、一度かかれば絶対出れない私たちの
方を捕まえた方が確実だと思うけど?」
 あ、という顔を犬飼はした。(さすがにそこまでの予想は無理だったようね)。円山は呆れたが、
「逢ったコトあるっていう音楽隊の鐶の話じゃ、水星は怠け者のようだし、遠方まで進んでくる可能性は低いかもね」
 とフォローする。
「それよりも問題は火星よね? アイツは水星とは逆で凄まじく攻撃的。木星が『自分以外は伝令に手を出すな』と厳命して
いたとしても」
0198永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:38:47.13ID:k2q8zgoN
「……逆らうかもな。自分の力を誇示したい奴ほど、命令とか、最善手に笑って逆らうから……」
 かくいう犬飼自身、夏の再殺では、ヴィクターV武藤カズキを見つけるや戦団に連絡1つせず攻撃している。普通の組織人
であれば索敵にしか長けていない己が身上を弁え、戦闘専門の同僚にバトンタッチするべきなのに、だ。
「火星と不意の遭遇戦するかもってのは、そこからだよ。正直、出くわしたくないぞこっちは……」
「シルバースキンさえ分解しちゃったっていうもんね、彼……」
 超絶火力で、かつ残虐という火星(ディプレス)を2人はつくづくと恐れた。
「一番怖いのは、僕たちを発見するや鳥型ゆえの高速で突撃! 分解能力で不意打ちして瞬殺……だから」
「なるほど。バブルケイジ、後ろだけじゃなく上と左右にも配置した方が良さそうね」
 アヒアヒ言いながら持ち場へ動いていく風船爆弾に、お前だいぶ出血したのに冴えてるな……犬飼は驚いた。
「だがまあ、そうだ。抑止力になる。『身長を吹き飛ばす』風船爆弾が、ブ厚い層を作って僕たちを守っていたら、ディプレス
とかいう火星は突撃していいかどうか……迷う」
「そうね。だって彼、私と一戦交えたコトないもの。私のバブルケイジは『触れた者の身長を吹き飛ばす』。対する火星の武
装錬金は『触れたものを分解する』。でも話じゃボールペン程度の大きさしかないのよね」
「そんなものが『15cm』吹き飛ばす風船爆弾と接触したら……どうなるか? 答えはやってみるまで分からない。分解前に
火星の武装錬金が消滅する可能性だってあるし、火星の幹部だってそれは描く。『だとすれば、自分はノーガードでバブル
ケイジの群れに突っ込んでいってしまうんじゃないか』『カウンターで身長総て吹き飛ばされ死ぬんじゃないか……』とも」
「つまり……結果どうなるかはともかく、危惧させて牽制して、迂闊に飛び込めなくするのね火星の幹部を、バブルケイジで」
「ああ。遭遇後すぐの即死さえなければ逃げられる可能性は少しだけど残る。相手が、木星(ほんめい)だったとしても」
0199永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:39:33.75ID:k2q8zgoN
.

(狙撃による暗殺は避けれる……か。ひひっ。ようも少ない手札でわしとでぃぷれす両名への最善手を組み立てた!)

.

 耆著の磁力ゆえに足が速く、老獪の冷静ゆえに足を掬われぬ自分がレティクルで最も伝令阻止に最適だと自認するイオ
イソゴだから、上記の理由で予測を合致させた犬飼たちの判断を見事だと内心で喝采する。

 密やかに木々を抜けたイオイソゴ。先ほどの300mの相対距離を縮めきるだけでは飽き足らず、犬飼たちをも静かに
抜き去っている。佇んでいる場所をX軸で述べるのなら、潰すべき伝令たちの前方およそ50mの座標であろう。

 Y軸で、述べるなら──…

 鬱蒼を極める物質に囲まれながら、イオイソゴは思索を重ねる。

(狙うは1つ)

((一撃必殺!!))

 奇しくも結論は犬飼と円山のそれと一致したものだった。

(木星の幹部の最善手は『戦闘さえ起こさず僕たちを殺す』!)
(銀成で早坂秋水に出し抜かれた彼女だからこそ、同じ轍は踏まぬと決めてるでしょうね!)

『戦闘』となれば会話が生じ、会話によってイオイソゴは伝令を見過ごすポカを……やりかねない。

(それはわしが一番よくわかっていること! かの鳩尾無銘がむざむざわしに片腕を喰わせたのは奴への食欲をして判断
を狂わせるため!)
(そして僕は大戦士長が誘拐された正にその当日、偶然とはいえ鳩尾無銘をレイビーズ用の犬笛で呼び寄せている!)
(それは土壇場でのカードになりうる! 『お前が食べたくて仕方ないアイツを僕は呼べる、生かしておいた方が得だよ』と
かいった申し出で)
(わしを迷わせ、円山を本隊へ合流させるまでの時間稼ぎをするのは……可能! ひひっ、正直それをやられれば本気で
隙をば作ってしまうからの! じゃから!)

 一撃必殺。最大火力で戦闘すら経ず犬飼・円山両名を葬ってしまうのが、良い。

(それを警戒しているから連中は前方以外総てを”ばぶるけいじ”で覆っているのじゃ。正確にいえば正に泡の如く出しては
消しての繰り返しよ。術者から一定距離離れたものをわざわざ消しておるのはかの風船爆弾が高速では飛べぬ故……。
遁走する自動人形に騎(の)りつつ周囲に展開しているのは……そういう機(からくり)よ)

 かくて充満させたバブルケイジにて。

 イオイソゴの遠方からの一撃必殺を防ぐ。
 イオイソゴの、背後を始めとする死角から接近しての一撃必殺を防ぐ。コンセプトは単純だ。

(じゃが……ひひっ)。童女の見た目に不釣合いな、貫禄ある顎の撫で方をしながらイオイソゴ、無数の葉の間から犬飼たち
をしげしげ眺める。ここは森……葉の間から敵を見るのは、容易い。

(前だけ開けておるのが気になるの。前方に風船爆弾を配置していないのが気になる)

 弾が尽きているのかとも考えたが、

(泡の如く出しては消してを繰り返している以上、円山めはもはや精神力の磨耗など慮外も慮外。恐らく相当な疲弊じゃろ
うが、伝令を成し遂げさえすれば治療は受けられる……。でぃぷれすめに瞬殺される万一に備えているのもあろう……)

 老獪なるくの一の戦略意思決定において重要なのはしかし製造方法ではない。相手の、打ち筋だ。
0200永遠の扉
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2018/03/17(土) 21:40:41.40ID:k2q8zgoN
(あの方法なれば前方にも風船を配せる筈ぞ。じゃが……しておらん。視界確保のため? いや。でぃぷれすめを仮想敵と
奠(さだ)めておる以上、『前から超高速でこられた場合、見えていても対処がおいつかず……即死』という筋書きぐらい奴ら
も描いたはず)

 ライオットシールドや溶接のマスクの如く、最低限の覗き窓だけ残してあとは前方一面風船で……というのがもっとも安全の
筈なのに……犬飼たちはしていない。イオイソゴはそこが引っ掛かった。

(ひひっ。こういういかにも手薄な箇所というのは痛烈な火線を集めるための路(みち)……なのじゃよ)

(そう! 空けているのは──…)
(わざとだ! こちらから木星の幹部が来れば僕たちも彼女を……)
0201永遠の扉
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2018/03/17(土) 21:40:57.21ID:k2q8zgoN
 一撃必殺できる……策があるとイオイソゴは看過する。

(決め手となるのは恐らく剣持真希士の核鉄! 銀成の戦士どもと鐶光めが戦う少し前、犬飼に貸与され我らがあじとを
割り出す決め手となったLII(52)の核鉄! ……そう、奴らはそれ含め今『3個』核鉄を所持しておる!)

 それ即ちどちらかがダブル武装錬金可能という、事実。

(そして!)

 幼い老婆は思い出す。これまで追い続けてきた軍用犬の足跡の傍のどれもに、血が一滴たりと寄り添っていなかった
という事実を。

(盟主さまに重傷を負わされた円山が、止血に当てるべき核鉄をただ風船爆弾と変じているだけであれば、血は止め処な
く流れ落ち軍用犬の足跡を彩っていた筈! にも関わらず『なかった』ということは……ひひっ、普通に考えればこれはもう
確定、じゃろうな。LII(52)の核鉄で止血しておると。止血がてらダブル武装錬金発動できるよう……備えておると)
0202永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:41:13.25ID:k2q8zgoN
 かかれ、乗って来い。犬飼は祈るような気持ちで正面を、見据える。

(『切り札』なら一撃必殺できるんだ。木星の幹部は津村斗貴子たち5人を相手取ってほぼ勝ちかけていた相手なんだ。
一撃必殺で葬らない限り……僕たちは絶対、殺される……!)

 彼と、隠れ潜むイオイソゴとの距離残り……21m。

(うぃる坊から聞いたことがある)

 武装錬金やその特性は、時系列によって変わると。

(鐶めの年齢操作の短剣がいい例よ。あれは時系列によって楯山千歳や鈴木震洋の物だったという)

 バブルケイジの特性もまた、変わる。

(このわしを一撃必殺せんと目論むならまずそれを織り込むじゃろうな。ま、あくまで、わしが前方から攻める場合は、じゃが)
(……。後方からの奇襲は絶対にないと言い切れる。狙撃は絶対阻んで割れる。だからこそ、木星が、風船同士のわずかな
隙間から、磁性流体化のゲル状態ですり抜けて奇襲って可能性もあるけど)
0203永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:41:33.36ID:k2q8zgoN
 その場合、円山は破裂の風でビリヤードの如く玉突き衝突する風船の運動で、隙間を埋め、イオイソゴに接触させる算段!

(あの幹部は150cm足らず。10発着弾すれば消滅は免れない)

 円山の眼前に広がる風船爆弾は60超。前方以外から直接こられた場合、まず消せる。

(磁性流体化でこの身をば引き伸ばし身長を高める手段もあるにはあるが、ひひっ、それでは機動性が失われる)

 一撃必殺をしくじった場合ただちに開始される追撃戦においてそれは絶対の不利である。



(何より敵は盟主さま相手に密着の連射を習得したばかり……。注視しておる後方からの接近はちと”りすく”が高いかの。
何よりばぶるけいじの基準とする身長が『磁性流体化前の』物であったら、機動性そこなわぬ身長をば保持しても無駄なこと……)

 彼我の距離、残り、4m。鬱蒼と広がる森の枝を、鮮やかな緑とくすんだオレンジ色の落ち葉たちを、血眼で監視する犬飼。

(どこから来る……? 枝の上? それとも溶けられるっていうから……地中から?)
「どちらでもないよ」

 どこからかの声に、

(なっ)

 風船の隙間からぼこぼこと滑り込んでくる漆黒の粘塊に円山は息を呑んだ。

(し、身長を吹き飛ばされるのが分かっているのに、敢えて!? まさか自分以外の溶かした何か!? それとも分身!)

 だが本体だった場合、千載一遇の勝機を逃す。円山は風船を破裂させるほか無かった。
 果たして風船の隙間で沸騰していたドス黒い肉片のようなものは消し飛んだ。

(けど! 敢えてダミーで風船爆弾を全滅させ、ガラ開きになったところを──…)

 衝く、という可能性も想定済みの円山だから再配備は、早い。或いは出しては消しての繰り返しはその練習だったのかも
知れない。ともかく彼の背後は、再び、瞬く間に風船爆弾で埋め尽くされた。

(ひひっ)

 どこかで、イオイソゴ=キシャクは、幼い風貌相応のあどけなさで両目を景気よく不等号に細め──…

 まんまるな拳を、突き上げた。

(いよいよ勝負! 勝負の直前はいつだって、ワクワクするのじゃー!!)

 犬飼の議題は、先ほど背後から奇襲してきたゲル状。

(分身だとするなら!!)

 キっと歯噛みする彼の眼前で、地面が爆ぜ……何かが、来た。

(……木星にしては小さすぎる影!)
(石か何か! 本命のための囮!)

 咄嗟の出来事であったから、犬飼も円山も、わずか7mほど前方の地面から突如として飛びあがってきた”それ”の全体像
は掴めなかった。場所も、悪かった。9月中旬の16時半ごろの心もとない日照が、頭上に繁っている木々によって更に薄暗く
遮られていた。
 ……。
0204永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:41:53.56ID:k2q8zgoN
 犬飼と円山は、戦士として、最大の注意を払っていた。わずか数時間前の銀成市における戦いを念頭に、イオイソゴの
武装錬金特性を把握し、老獪さをも念頭に入れ、互いの互いに対する最善手がいかな応酬を生むか、いかに自分たちが
虚を衝かれうるか、10分にも満たぬの撤退戦の中、死力を絞り検討し……対処できるよう、心がけていた。

 彼らの名誉のために言えば、彼らに、油断は、なかった。

 7m先の地面から、地蔵の頭部ほどの『何か』が飛んできた瞬間だって、”それ”が何であろうと、風船爆弾であれば2発も
あれば完全消滅できると判断し、軍用犬で突っ込んでいく中、油断なくイオイソゴの奇襲を警戒しながら、差し向けた円山に、
一切の油断は……なかった。

 飛んできた物の正体を、見るまでは。

 隙とは油断からしか発祥しえぬものではない。戦慄もまた苗床である。

 伝令後発令する策動の流れの果て救出すべき対象の生首が轟然と飛んでくるのを見て戦慄せぬ先遣隊はいない。
 そう。
 7m先の地面から出現し、飛んできたのは──…

 大戦士長・坂口照星の生首だった。

(ばっ!!)
(ダミー!? それともまさか……本物!?)

 一連の流れを救出その一点に収束すべき作戦行動の裡にある円山は、吹き飛ばせるはずの物を吹き飛ばせなかった!
遺骸であるなら問題はないという考えは、銀成の戦いの総てを把握しているからこそ……できなかった! 金星の幹部、
グレイズィング=メディックの武装錬金を行使しうる総角主税(コピーキャット)であれば、或いはどうにかできるのではない
かという期待が……

 これまで最善手を撃ち続けてきた筈の円山から最良の打ち筋を奪ったのだ!!

 果たして円山に衝突する坂口照星!!

 犬飼倫太郎が戦慄したのはおぞましい被弾によって、兼ねてより失血状態の円山が軍用犬から落ち始めたコト……

 ではない。

 減速し落ち行く朋輩を振り返った瞬間、視界の片隅に入った光景である。

 枝が、溶けていた。先ほどからの制動距離を考えるとそれはちょうど、風船爆弾に暗黒色の溶融が潜り込んで来た場所
であり……『照星』は、そこめがけ、弾丸のように引かれているようだった。

(磁力!! さっきの後ろからの奇襲は僕たちを狙ったものじゃなく! 大戦士長……を、あの場所に突撃させるための布石!
無茶な特攻かと迷わせたコトじたい既にミスリード! 真の狙いはこの布石を隠すため……!!)

 円山を突き飛ばして飛翔する上司の、眼窩や、耳鼻や、口から、どろどろとした腐汁にも似た磁性流体が風にたなびき散って
いくのを見た犬飼が吐瀉の誘惑に駆られたのを、生理的に不可避な隙を作ってしまったのを、いったい誰が責められよう。

「ひひっ」

 ちょうど20m×20mの面積だった。犬飼と円山は絶望的なまでに中心だった。

「忍法、虫とり草」

 突如として紫紺に変色し波打った地面があたかも風呂敷の四隅を摘んだように隆起して、先遣隊最後の2人を包囲した。
0205永遠の扉
垢版 |
2018/03/17(土) 21:42:51.24ID:k2q8zgoN
(あっ)

 と犬飼が呻くころにはもう遅い。磁性流体化した地面はもう彼と円山を包み込んで飲み干した。反射的に犬笛を吹きレイビー
ズに脱出させんとした青年であったが、地面ごと巻き込まれた無数の木々が大嵐を浴びたように倒れこんでくる中では叶わない。
やがて激しく縺れ合い折り重なる木々に円山の髪や犬飼の手が埋もれていき──…

 磁性流体化した地面は四隅をキュっと錐揉んで密封され……緩やかにだが確実なる収縮を始めた。

「貴様たちは貴様たちの武装錬金特性を活かし戦う他ない。正しいよそれは。認めよう」

 災禍を免れた森の木の間から、小柄な少女が影と光の傾斜の中、歩み出た。

「しかしだ。じゃからといってわしまでもがわしの武装錬金特性のみで戦うだろうという前提は……違うよ?」

 頭から落ち葉が舞うところを見ると、どうやら地中に居たらしい少女。

 先の激変からいかな磁力操作で救ったのか。落ちていた坂口照星の生首を苦み走った会心の笑みで拾い上げながら、
歌うように告げる。

「本物じゃ。あじとをでる時、使えると思い切断し……磁性流体化によって携行しておいた。追跡中、ずっとな」
 本来は人質の殺害など、誘拐事件において悪手でしかないが……
「ひひっ、ぐれいじんぐ健在かつ24時間以内であれば蘇生できる以上、何をば吝(おし)む理由ぞある? 『こやつにはまだ
大事な役目もある』……。生き返らせてはやるよ必ず」

 しかし如何な貴様らでもそこまでは臨機で描けなかったろう……くっくっと肩を揺するイオイソゴ。

 勝負を真に制する者は、小競り合いに連勝する者ではない。戦闘の躯幹構造そのものを一変しうる者である。
 幼き忍びは要救助者の死亡という衝撃的事実の製造を以って油断なき犬飼たちの隙を無理やりこじ開けた。
 こじ開けるためだけに、何ら怨みのない坂口照星を斬首してのけたのだ。

(ま……うっすら記憶に残っている父御と似たような声で…………むしろ好き、じゃったがの)

 生首を薄い胸に抱きしめ、愛らしい子供の感傷を浮かべるのが却ってますます惨たらしいイオイソゴは。

 薬師寺天膳という伊賀の忍びの娘である。

「蘇生さえすれば、ヌシはぐれいじんぐが死んだとしても生き続けるよ……? 医者が死んでも患者への治療の成果が消え
ぬように……ばすたばろんの踏み砕いた”びる”が武装解除後も治らぬように……ヌシはちゃんと天命を全うできる」

 でも、痛い思いさせて、すまぬの……。幼い双眸をややくしゃくしゃにして申し訳なさそうに頬を赤らめる木星の幹部。

 だが同時に、速乾した瞳で、こうも、思った。自分が殺した命の重みが胸の中にあるのを忘れたように、思った。

(残るは集結しつつある戦士どもの壊乱よ。ひひっ。『あやつ』に出張ってもらうとしよう)

 そろそろ底も見えておるからのう……冷然たる笑みを浮かべるイオイソゴ。先ほど己でさえ出向けば死は免れないと断言
した本隊であるのに、同輩であるだろう『あやつ』は差し向けようというのである。また殺そうと、いうのである。

.

..

 数分後。合流地点の廃村で、津村斗貴子は眦が裂けんばかりに目を見開いていた。

「馬鹿な……! どうしてお前が…………!」

 火渡赤馬は凶笑しながら炎を出し──…

 合流していた鐶光は、感傷を以って来訪者を、眺めた。
0207作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/03/18(日) 16:09:28.20ID:ctcnPz3R
0208作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/03/24(土) 13:02:37.38ID:G/eLX/dz
>>スターダストさん
なるほど、確かに! 「小人になる」だとコミカルに聞こえますが、実際は「際限なく縮む」です
もんね。消滅まで。で「小人(しょうじん)」じみてますが犬飼の葛藤は共感できます。達成では
足りぬ、認められたい。分野によってはそうでなくては無意味なものもありますしね。プロの創作とか。
0209スターダスト ◆C.B5VSJlKU
垢版 |
2018/04/04(水) 00:32:57.81ID:5uHkev3X
>>179に書こう書こうと思ってたのに忘れてた今の項の大前提があったので、加筆。


 犬飼は訳もわからぬといった様子で僚友を見ていたが、ほぼ死微笑の面頬の下に真紅の瀦(みずたまり)が絶望的な
速度で広がっていくのを認めた瞬間、森全体へ木霊する同口同音の電撃的な迸りは彼を円山に駆け寄らせる原動力と
相成った。

「メ! メルスティーンお前!! いったい何を……!!!」

から

 犬飼は訳もわからぬといった様子で僚友を見ていたが、ほぼ死微笑の面頬の下に真紅の瀦(みずたまり)が絶望的な
速度で広がっていくのを認めた瞬間、森全体へ木霊する同口同音の電撃的な迸りは彼を円山に駆け寄らせる原動力と
相成った。

(ケガの状態も気になるが……預けていた無線機! 通信手段が全滅したら…………伝令! 合流地点まで行かなきゃな
くなる!そうなったら果たして出来るのか……!? この盟主から逃げのび……られるのか……!?)

 斬撃のせいだろう。円山の携帯電話ともどもバラバラのジャンクとなって散らばっている。修復は明らかに不可能であった。

(くっ! 非常時用が……! ボクのケータイはまだあるけど……山だぞここは! 火渡戦士長たちまで届くのか電波……!)

 思考を切り裂くよう掠め去ったひゅんという音の正体を犬飼が突き止めたのは、縦に裂けた胸ポケットから落ちていく真二
つの端末を見た瞬間だ。大刀を軽く振り終わった盟主はちょっと肩を竦めた。

「ふ。高かったろうに……悪いね。けど君のようなタイプを壊し壊されへ引きずり出すにはこういうシチュが必要、だろ?」
(いったい何を……! というか戦部のは!? 戦部のが無事なら今すぐこの状況を戦団に……!)
「諦めろ犬飼。俺のもやられた。両断の時なのか『その次』なのか……。ともかく電信はもう総て断たれた、諦めろ」

 腕を揉みねじりながら、これも一興と言わんばかりに薄ら笑う戦部に犬飼は理解する。

 円山が、盟主の奇襲直後すぐ「犬飼を離脱させるほか戦団に急報する術はない」と判断した真の理由を。

(円山は……アイツは……分かっていたんだ。盟主がまず連絡の手段を、無線や携帯を潰してくるって……!)

 或いはその鋭さ故に狙い打たれたかも知れない血みどろの朋輩の前で犬飼は叫ぶ。どうして、どうやって、やられたのだと。

「メ! メルスティーンお前!! いったい何を……!!!」

以上。以下、続き。
0210永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:33:35.20ID:5uHkev3X
第104話 「タングステン0307(前編)」

 イオイソゴに捕捉される少し前。

 数々の対応策を矢継ぎ早に告げた犬飼倫太郎に、円山円は瞳を名の如く変じていた。

「ひどく冴えてきてるわね犬飼ちゃん。そんなにしてまであの盟主に一矢報いたいの?」
「ああ報いてやりたいね」。犬飼の頬に、卑屈で陰湿な笑いが広がった。
「アイツはボクを……このボクを…………見逃しやがった。軽く壊せる、だから壊してもつまらないとばかり……! しかもボクが
命がけで果たそうとする伝令すら、アイツは自分が愉しむため是非やれと、やって尽くせと……言わんばかり…………!」
 フザけやがって。叫びを押し殺したのは追跡を警戒してのコトだろう。だが大声で叫ぶコトさえ許されない現況は、怒号
1つ好きに上げられない実力のなさは、犬飼の卑屈な精神をますます黒く煮え滾らせる。
「誰がアイツの破壊の作楽(サクラ)になってやるか……!! 覚えていろ、許さない。見逃したコトを後悔させてやる。お前
は見逃したボクの伝令によって特性合一(きりふだ)すら知られ斃されるんだ……!」
(そーいうトコが小者だって言われる所以だろうに……)
 円山は弱々しく笑う。止血用の核鉄で武装錬金しているのだ、血色は、青い。
「だから生きて本隊と合流する! 盟主の能力と所在さえ速攻で伝達すれば、あの野郎は誰ひとり殺せず死ぬだろ! 最高
の当てつけだね。やるよ、やっちゃうよボクは。たとえ木星やらの幹部が追ってこようと……やってやる!」
 なんか小者っぽさが一周して逆に格好よくなってない? 麗人はクスクス笑った。」
「でも自分なりに使命を果たしたいっていうのが今回はあるっていうか……もしかして助けたい気分でいっぱいだったりする?
重傷負っちゃってる私とか、ほとんど勝ち目のない足止めする羽目になっちゃった戦部とかを…………武装錬金(このちか
ら)で救ってみたいとかガラにもなく、思ってる?」
 並走する犬飼の瞳孔が少し驚愕に収縮したのを円山は見逃さなかったが、”それ”がかつて『ヴィクターV』の言ったコトと
合致しているせいだとまでは──あのときの発言直前、離脱していたせいで──気付けなかった。

「それとも単に功名心? どうせただ逃げ帰るだけじゃまた周囲(まわり)に馬鹿にされるから、今回は1位の記録保持者と
ついでに私を救って……勲功を加増してやろうって腹積もり?」

「別に。ただ必死なだけさ」

 犬飼は浮かべた。無理のある。卑屈な笑いを。

「ぶ、無事伝令を務めて本隊に合流できたら、後は安全な後方で終戦と叙勲を待つだけなんだよこっちは。なのにむざむざ
やられてやる訳にはいかないね。だいたい戦部は好きで残った奴なんだ」
「ふーん」。いろいろ見透かしたような眼差しの円山に犬飼は「い、いざとなったらお前を囮にしてでも逃げてやるからな!」と
強がって、みせる。
「そうさ。伝令なんて1人居れば充分だろうが。2人いたら手柄は半減なんだ、逃げる囮にした方が……賢い、だろうが」
 第一こいつの持ち主はボクなんだよと犬笛を指で叩き卑屈な笑みを浮かべる犬飼。
「ボクに何かあればレイビーズは即刻停止。2人とも捕まって死ぬんだよ。だったらどっちの生存を優先すべきか分かるだろ
お前も」
 だから何かあったらお前が囮になれ、ボクは逃げる……と言い放つ犬飼だが、口角のぎこちなさからするとどうも本心では
なく悪ぶっているだけらしい。そうであろう、考えるまでもなく分かるコトだ。仲間を見捨てて囮にして1人逃げおおせた男が
受けられる風評など……ただ1つではないか。
 理解しているはずなのに、犬飼は、言う。円山も守って逃げ切ると断言(ほしょう)してしまうと、それは敵対する自分さえ
も救って立ち去った『ヴィクターV』と同じになってしまうと分かっているから、心にもないコトを言ってしまったのだ。

「……でもまあ、円山。とりあえず礼はいってやるよ」
「なによいきなり。ちょっと気持ち悪いんだけど?」
「うるさい。ボクの立案になんだかんだで付き合う以上、礼いっとかないと……あとで色々うるさいだろ」
「らしくないっていうか……成長したの犬飼ちゃん?」
「黙れ。あと……戦部にもな。もし会うコトがあったら伝えとけ。お前の言葉、参考になったって」
「何ソレ? 結局見捨てて殺すから、あの世であの人にも伝えろ的なアレ?」
「………………そんなトコさ」


.
0211永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:34:50.25ID:5uHkev3X
 虫とり草とは本来、磁性流体化で扁平に潰れきったイオイソゴ本体を床や地面に設置する忍法である!

『置き』ゆえ機動性は皆無であり、当てるには相当の読みが必要とされるが当たりさえすれば一撃必殺! 対象が直近を
通過するやゲル肉と溶融しているイオイソゴの肉体がまさに食虫植物の如くに取り巻き……全身に仕込んでいる五百五十
五の耆著の着弾を以って獲物を”おもゆ”の如く煮崩すやドロドロのイオイソゴと溶融せしめ強引に消化する!

 完全版であればレティクルの幹部でさえ特定3名以外まず脱出不能の虫取り草。

 だがイオイソゴが犬飼たちに使った虫とり草は自分ではなく森の地面を隆起させたいわば不完全版であった!
 彼女はなぜそれを使ったのか。一刻でも早く伝令を断つべき状況で、イオイソゴ自身犬飼たちには一撃必殺を使う他な
いと考えてはいたにも関わらず……どうして不完全版に留めたのか?

 その、理由は──…



 破獄。暗然と波打っていた磁性の牢が内側から弾け飛んだ。めらめらと火のついた磁性流体の破片が、発掘現場のよう
に直方体と刳り抜かれた森の地面にびしゃびしゃとぶつかり飛沫を上げるなか前へ前へと中空を滑翔するのは2人の男と
……無数の、風船爆弾。
0212永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:35:06.27ID:5uHkev3X
(バブルケイジA・T(アナザータイプ)。円山の隠し持ってたコイツは)
(爆発によって無限増殖! その飽和によって木星の幹部の牢獄を弾き飛ばした!!)

 2人の心を過(よ)ぎるは盟主の言葉。

『仲間が、ウィルが、時間に対し結構な無茶をやってくれたからねえ。あるんだよ、別の歴史の記憶が、君たちに。歴史が
リスタートするたび消え損ねた記憶が蓄積している。いわば別系統の歴史の君たちの精神が……宿っているのさ』

(精神は武装錬金の根源! 2つの特性を有する盟主があのとき円山に曰くありげな態度を取った原因がコレだった!)

『中村剛太が斗貴子を守らんと奮起した際その場に『犬飼と円山と毒島が居なかった』時系列』

 からの承継によって円山が戦士になった頃から既に密かに隠し持っていたA・Tの増殖飽和によってからくも虫とり草の結
界を突破した犬飼! 脱出直前すでに公衆電話のボックスと同サイズにまで収縮していた結界内で無限増殖の風船爆弾
を炸裂させたが為に再殺部隊の制服は到るところが無惨に焦げ満身もまた創痍である。

(けど爆発に25……いや65、65mは吹っ飛ばされてなお飛んでいるから合流地点までの距離が僅かなりと削れている! 
105……145! 残り838m! 本隊の集合地まで838m! 木星の幹部に捕捉されたのはマズいけど死力を尽くせば
抜けられない距離じゃ──…)


「させぬよ」

 どこかの声に呼応するように磁性流体の破片が不気味に蠢く。爆発で吹き飛ばされた虫とり草の残滓だ。爆心地から50m
ほどの距離に飛び散って白い煙を上げていたそれが、爆風に押されるままツツーと飛んできた犬飼たちめがけ急速に伸張し
血しぶきを、上げた。

「なっ……!?」

 犬飼倫太郎はみぞおちを中心とする胴体一帯に、致命的な貫通を受けていた。尖り切った『何か』は気管支をぐしゃぐしゃに
坐滅したあげく背中にすら突き出ている。上質なワインのような色合いの紅色の流れが惨たらしい尖塔を潤していく。

 イオイソゴの姿は先ほど坂口照星の生首を抱え一瞬の思案に浸っていた地点には既にない。

 どこかに潜む、彼女は。
0213永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:36:36.95ID:5uHkev3X
(ひひっ。蔵匿されし”ばぶるけいじ”を虫とり草の脱出に使うぐらい読めておったわ! よって交差法! 先の虫とり草発動
のさい折れて取り込まれ磁性流体化した手ごろな木をば──…)

 ゲル状のまま『いかにもアナザータイプの爆発で飛ばされたように見せかけ』、犬飼たちの前方へ移動! 彼らに接近と
同時に角度を調整しつつ磁性流体状態を解除! かくして元の、しかし危険な状態で原状復帰したのは!

 折れている、ブナの木だった。幹はビルの基礎杭に使えそうなほど太いのに、樹皮が生々しく白くめくれた先端は残酷なほ
ど鋭く滑らかに尖っている。
 さりとて平時であればブナは決して人に危害など及ぼさなかっただろう。
 だがこのとき犬飼は無限増殖の風船爆弾の一斉爆発に押されるまま時速89kmで中空を舞い飛んでいた。だから眼前で、
先ほど吹き飛ばした虫とり草の残飯のようなゲルが、元の、牢獄に取り込まれる直前の、地面隆起のごたごたの中ヘシ折
られた木の姿に戻りゆくのを見ても自衛行動は一切とれなかった。なぜなら同様の現象が同じく空を辷(すべ)る円山の前
方でも生じつつあったから──…

(盟主のせいで奴は重傷! 受ければ死ぬ!)

 2体のレイビーズは、円山を、尖った木から逸らすため使う他なく、そのため犬飼は自身に迫る『杭』を躱わせなかった。

(根元から折るのは……無理か! 木星の幹部め! 磁性流体から戻しがてら補強してやがる!!)

 自身をモズのハヤニエとするブナは先端以外鉄粉でコーティングされている。耆著で溶かされていたころ磁力によって
もたらされた鉄分が、成分レベルでミキシングされており、それなりの身長がある犬飼がいくら体重をかけて揺すってもブ
ナの木はビクともしない。

(抜けない!?)
(以上は!)
 少女の、果肉をぬりこめたような鮮やかな唇がひゅるるっと窄み、

(最悪だが! やるしか!!)

 犬飼は円山からUターンさせた軍用犬Bを……自分の胴体に、噛みつかせた。
0214永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:36:54.15ID:5uHkev3X
「ぐっ! がああああああああああああ!!!」

 己が武装錬金に胴体の肉片をボロ屑のように引き裂かせる地獄の激痛に瞳孔を見開き叫びながらも、犬飼は我が身を
横へ動かしブナから引き抜く。正気の沙汰ではない自傷行為であったものの、であるからこそか、彼の頭上やや斜め上に潜
伏中のイオイソゴは快哉を、送る。
(よもやよけよるとは! 吸息かまいたち!!)

 先ほどまで犬飼の頭のあった位置で真空の渦が爆ぜ飛んだ。

(やはりな……! これは根来や音楽隊の犬型も使える……『直撃すれば人間の頭蓋なんて一瞬で弾け飛ぶ』忍法! 身
動きできなくなってたボクにかまさぬ訳がない!)
(それを胴裂きの脱出で躱わすとは……! 一見無茶苦茶じゃが合理的かつ最短の決意! 生存の為の判断!)

 奇兵の中にあって最弱と揶揄される男の意外なる気骨に感銘し、敬服したイオイソゴは。

『だからこそ』始末しなければならないと警戒を引き上げる。澄んだ角膜に映写される少年は丁度どぼどぼと胴体から血を
飛ばしつつも着地するところだった。頼りなげにも健気にも構え攻撃に備える彼への敵意1つ孕まぬ無感情な殺意はむし
ろイオイソゴなりの仏心。

(ひひっ。明らかに重篤な後遺症が控える深手……。退役後なるもの無明の地獄、すぱりと殺るがむしろ慈悲…………)

 激動の追撃戦の戦鐘が打ち鳴らされたのは、ブナの杭から逸らされいまだ舞い飛ぶ円山円が、再殺部隊制服の襟首に
噛みついたレイビーズが1頭の首を使ったフルスイングによって一層の加速を得た瞬間で──…

 それはイオイソゴが犬飼の大出血を伴うブナ出血に意識の大部分を惹き付けられていた瞬間秘密裏に行われて、いた!

(……足止めは、犬飼!)

 やや、流線型だった。風船爆弾のスーツが、である。かつて剛太の前で火渡に馳せ参じた時の円山は、パンダとも、妖怪
の仙人とも取れる不気味な巨漢の風船着ぐるみを纏っていた。それの変形だった。ただし今回はL・X・Eでいうところの『細』
であり『太』ではない。身長は円山円本来の182cmそのままに、スマートなボディラインも維持しつつ、ただし頭部はツートン
カラーに塗り分けられた高速爆撃機の機首のような鋭角さだ。

(全速離脱! 犬飼に後事を託しただ1人合流地点へ飛び込むか!!)
0215永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:37:11.71ID:5uHkev3X
 推力はどうするという興味を抱きつつも無意識に耆著を撃ちかけてはいた老嬢が、『逃げる相手が最高速に達する前に
叩く』という誰でも分かる最善手をできなかったのは、円山円がロケットスタートの手続きを終えるまでの刹那の間硬直した
のは、華奢な体を覆っている黒ブレザーが盛大なる血しぶきの舞台になったせいである。

(血……!? 馬鹿な! 磁性流体化によってあらゆる打撃斬撃を無効化できるわしが……出血……!?)

 予測もできない事態だった。まず成立し得ない条件だった。なぜならイオイソゴの体を浸した生暖かい血液は──…

(っ! 『わしの物ではない』!? ど、どういう)
(どこかでするだろ。必ず、パンクを……!!)

 ここから打つ策謀の様々をイオイソゴに悉く読まれる犬飼倫太郎が唯一虚をついた瞬間(こうげき)であり!

(な……なにいいいいいい!!!)

 戦歴五百年さえも震撼させる、ありえからぬ盤面!

 キラーレイビーズBの中型肉食恐竜のような鋭い爪に斬り裂かれた犬飼倫太郎の頚動脈、だった。

 樹上の枝と枝の隙間に原型で隠れ潜んでいたイオイソゴ=キシャクの全身に鉄さび臭い液体をびしゃびしゃと降りかけて
いたのは。
 ブナ脱出の胴裂き後すぐの自殺行為であった。感嘆のイオイソゴが円山に視線を移している最中の奇手だった。

(なっ……!?)

 彼女が意図を掴みかけるのもむべなるかな。それは攻撃の態などまるで成しておらぬ、行為! にも関わらず犬飼は頚
動脈を損傷するという致命的な打撃を負っている! 

(馬鹿な! 先ほど貴様はブナから脱出したではないか! 生存のための最善手を打った者がどうして自殺行為を……?!?)
「うちは代々名門の家系でね。じいちゃんは戦士長だ」
「……?」
 みるみると血色を、命の艶を失っていく青年の、卑屈で、しかしどこか誇らしげな笑みの意味をイオイソゴは理解できない。

 犬飼倫太郎は。

 確かに負け犬といわれている。だが戦う前から尻尾を巻いた負け犬では……ない。身の程を弁えぬ立ち居振るい舞い
は実際おおい。勝てるという大口だって常に叩く。

 だが……敗色濃厚になるや命乞いをする負け犬では、ない!!!
0216永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:37:59.79ID:5uHkev3X
(ヴィクターVですらあのヴィクターに勝ったといえる成果を残したんだぞ!! だったらボクだって……足掻き抜く!)

.

..

『ならばそれが問いの答えだ』

.

..

(だろ、戦部)

 ふっと笑う口元の背後で。
0217永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:38:17.76ID:5uHkev3X
 キラーレイビーズAの直掩のなか、風船スーツの背中を大きく膨らませる円山。鳥が飛び立ち落ち葉が舞う。隆起に隆起を
極めたスーツが木々の枝を抜け15mほどの不可解な丘となって聳える様に、錫を司るレティクルの幹部は顔色を厳しく
(はげ)ます。
                        ロケットスタート
(マズい! 空気を充填し圧縮! その放出の風圧で初手から一気に最高速……! 可能性の1つと考えてはいたが……!)

 これまで風任せの移動しかしてこなかった円山だからこそ、身長吹き飛ばしの風圧を移動に転化した能動的移動法は未知
であり、全容が不透明であるからこそ(耆著が多少着弾したとしても空気噴射は圧倒的で、しかも合流地点まではわずか1
きろめーとるしかないゆえ、一瞬……なのではないか、見過ごしたが最後やつは一瞬で、逃げおおせるのではないか……!?)
とばかり慎重さゆえに恐れ緊張してしまうイオイソゴだ。しかも犬飼の胴裂きから頚動脈切断に至る不可解な流れに軽く混
乱してもいた。反応は僅かに遅れたが、その一点をして彼女を無能と誹るのは些か無慈悲であるだろう。

(撃つ!)

 すみれ色のポニーテールの上で交差した、2つの小さな拳から溢れんばかりに溢れた銃弾様の舟形金属片こそ耆著。

 常人ならば犬飼の頚動脈切断には10秒ほどフリーズするだろう。老獪なるイオイソゴの動転は75分の1秒。円山が圧縮
空気で離脱する時間稼ぎのためだけに犬飼の自殺めいた行動が費消されていると即座に断定。弾幕を以ってあらゆる目
論見を粉砕せんと100近くの弾丸のスローイング体勢へ不随意で移行! 膨らんでいた円山が僅かに萎むまでの僅かな
時間であった。幼き忍びはマージンを取って戦う。自身の先ほどの反応の遅れさえ織り込んだ挙措であった。反応の遅れが
弾着の遅れに、円山の加速の競り勝ちに繋がったとしても、他の弾丸のどれかが確実に! 離脱しつつある円山を仕留め
られるよう無数の弾丸の放擲を……選んだのだ! 円山(ふうせん)はまた、萎む……。
0218永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:38:56.38ID:5uHkev3X
(破裂させる! その空気圧搾が了する前に! 伝令は絶対に)

 面制圧の耆著の雨で阻んで止めると瞳を燃やすイオイソゴの背後で音もなく……2頭までであるはずのキラーレイビー
ズ『C』と『D』が爪をかざし。迫っていた。

 彼女は追撃途中、確かに、思って、いた。追い続けていた軍用犬の足跡の傍のどれもに、血が一滴たりと寄り添っ
ていなかったという事実に基づき……思っていた。

──(盟主さまに重傷を負わされた円山が、止血に当てるべき核鉄をただ風船爆弾と変じているだけであれば、血は止め
──処なく流れ落ち軍用犬の足跡を彩っていた筈! にも関わらず『なかった』ということは……ひひっ)

──(普通に考えればこれはもう確定、じゃろうな)

──(LII(52)の核鉄で止血しておると。止血がてらダブル武装錬金発動できるよう……備えておると)
0219永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:39:13.49ID:5uHkev3X
 犬飼たちが銀成市から借り受けたという、剣持真希士の核鉄を所持しているのが円山と、そう考えるのが『普通』だと、
思って……いた。




 だが。


「オーバーボディ?」

 円山が問い返していたのは、イオイソゴに捕捉される前の逃走中。騎乗の会議だ。

「ああ。お前、再殺の時、最初は風船爆弾で全身を覆っていただろ? あれを首から下に……シャツと制服の間に纏うのっ
て……可能か?」
「できなくはないけど……それがA・T発動からの『切り札』にどう繋がるのよ?」
 簡単な話さ。犬飼は、告げた。
「ボクが、持つからだ。LII(52)の核鉄……銀成から貸与された剣持真希士の核鉄を」
「……? 別に元々持ってたのはアナタだし、核鉄って頻繁に使い手が代わると金属疲労していざってとき動作不良起こすっ
て話もどっかで聞いたコトあるからいいけど……でもそれをしたら」
 自分の核鉄を、傷口から離した円山は、軍用犬の背中へわずかに垂れた血液を袖口で拭い、見せ付けた。
「止血の手段がなくなったら……つまり私がバブルケイジを周囲に展開したら」
「地面に垂れた血の跡を追ってこられるかも、だろ。さっきも聞いた。けどどうせ流血が無くてもバレるだろ」
 後ろ振り返ってみろよ。促された円山は、軍用犬の足跡が続く森を見て嘆息した。
「……落ち葉とかで途切れてるのもあるけど…………木星の幹部なら、そう長くはかからずに……でしょうね」
0220永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:39:32.43ID:5uHkev3X
「そう。結局痕跡は発見される。でも、『だからこそ』だ。レイビーズの足跡の傍に血痕がなければアイツは絶対に……思い込む。

『2つ目の核鉄を所持しているのは犬飼ではなく円山。バブルケイジA・T発動のため密かに所持し待機中』

……と」
「なるほどね。木星の幹部は頭がいい。私たちが、剣持真希士の核鉄による止血で、足取りの消去と体力の回復を同時に図
りつつ、しかも最後の切り札への布石をも整えているという所までは……最善手だからこそ、絶対に、読める」
「だからこそお前は止血を……バブルケイジで、やるんだ。昔使っていたオーバーボディーの要領で、ラバースーツのよう
に全身を覆ってしまえば外界に、レイビーズの足跡の傍に、血液は……落ちない」
「しかもキツーく締め上げちゃえば、ちょぉっと強引だけど止血もできるわね」
 核鉄を使った時と同じ効能を、核鉄を使わずして、できる。

「A・Tの無限増殖なんて木星の幹部なら突破できる。どうせ分身を盟主の傍に残しているんだ、仮に大量の爆弾の中に
通常の、身長を吹き飛ばす物を混ぜてくるかもという危惧を浮かべたとしても、何がしかの一撃必殺をボクたちに浴びせら
れればよしとばかり強引に突っ込んでくるだろう」
「その後背を衝く訳ね」

.
「隠し持っていた犬飼ちゃんの核鉄で……3頭目4頭目のレイビーズで」
.

 バブルケイジA・Tの無限増殖炸裂と共に無音無動作で発動し、吹き飛ばされる虫とり草の破片に紛れ森の木々へと隠
れ潜んでいた『C』と『D』は、トドメのため犬飼に視線を集めるイオイソゴの背後すぐ傍にもう、迫っていた。


──「けどあの幹部、並みの打撃斬撃は通じないって話よ?」

 そう。原理からいえば爪牙でしか戦えない軍用犬は、磁性流体化でスライムの強みを得られるイオイソゴに致命傷を与え
られない。
0221永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:40:00.46ID:5uHkev3X
──「わかってる。レイビーズでただ攻撃するだけじゃムリ臭いってのは」

──「何せ戦士中トップクラスの高速斬撃を誇る津村斗貴子のバルキリースカートや」
──「武装錬金ではない、普通の日本刀ですら相手を大小ごと両断できる早坂秋水の振るうソードサムライXでさえ」

──「あの木星の幹部に傷1つ負わせられなかった……からね」

 彼ら以上の速度や攻撃力で仕掛ければ或いは、だが、嗅覚による敵追跡こそが本懐のキラーレイビーズが突如として
津村斗貴子以上のスピードと、早坂秋水をも軽く凌ぐパワーを手に入れるなどというコトは原理的にいって有り得ない。

 イオイソゴにはエネルギー攻撃が有用だとはいうが、それもまた、軍用犬では……ムリだろう。

エネルギー攻撃なら或いは……だけど、ボクの武装錬金じゃ絶対ムリだ)

(それでも『1つだけ』……試したいコトがある!!)

 犬飼倫太郎の秘しに秘した切り札の到来に。獰猛に背後から襲い来る爪牙に。

(ひひっ。ま、そう来るじゃろ)

 イオイソゴ=キシャクは彼女が蝋涙鬼もどきと呼ぶ斬撃無効の磁性流体忍法によって処し傷なきを得る。

 攻撃が素通りした余勢のまま身を丸め葉を散らし、丸めた身を漂わすレイビーズCとDに犬飼は舌を打つ。

(磁性流体化さえ解いていれば通じたのに……! やはりこの幹部気付いていたか! 核鉄が、ボクにと!)
(ま、見事な策ではあったよ。確かに逃走痕は、『普通に考えれば』円山が2つ目の核鉄を持っているとしか思えぬ物じゃっ
たが、で、あるからこそ敵が逆を打ってくると考えるは当然……。ばぶるけいじのあなざーたいぷは通常もーどから……
つまり円山が1つしかない核鉄で、武装錬金で、切り換えていた訳じゃ)

 イオイソゴがちらりと犬飼に送った視線は(しかも一瞬で我が所在を掴めたのは見事。嗅覚探知を領分とするレイビーズ
なれど、わしの匂いのみを……鳩尾無銘から毒島あたり経由で聞いているであろう『まんごー』の匂いのみを捜させたので
あれば、ここら5〜6箇所にしかけた『だみぃ』にひっかかり見つけられなかったであろう……)と告げている。

 ではなぜ犬飼はイオイソゴ本体を一発で引き当てられたのか!
0222永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:40:21.97ID:5uHkev3X
(秘密は……! いや! 今は、『次』!!)

 眼光を漲らせ空中でターンしたCとDの特攻は、ちゃぷんと波打つ黒ブレザーを空虚な手応えで貫くに留まった。

(無駄よ無駄無駄! げる状と化したわしを物理攻撃で斃すなど不可能よ!!)

 攻撃されている間も当然面制圧の耆著を円山に投げんと両腕を動かしているイオイソゴ。
 半生な、磁性流体と生身の狭間にある、ぷるぷるな杏仁豆腐のような質感の柔肌に、黒ブレザーが接触した。犬飼の血
がたっぷりと染み込んだ黒ブレザーが。

(っっ!!!)

 ウナギの血は毒というが、犬飼の血は、違う。だが布地から彼の血を、半ば液状の柔肉で吸ってしまった少女はぶるぶるっと
やや快美を帯びた表情で打ち震え、切なげな、熟れきれぬ様子で双眸をとろかせ舌を出した。

(く……! こ、こんな時に…………!!)

 跳ね上がる鼓動。毒を浴びせられるよりも甘美で破滅的な慟哭がイオイソゴの理性を奪う。
 衣服に染み込んだ青年の頚動脈の血が、若々しい味が、レイビーズを回避するため磁性流体化した半生の肉に染み通り、

 誰よりも愛するから、食べたくて仕方ない鳩尾無銘と言う少年を……思い出させた。

──「我を喰いたいと吐かしたなイオイソゴ=キシャク!!!」

──「望みどおり!! 喰らうがいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

(くっ! 銀成で喰わされた鳩尾無銘の左腕の味が…………任務の為と強引に割り切り懸命に考えぬようしていた甘美なる
目的が…………わしの理性を…………紊(みだ)す…………! 戻れ! 伝令の阻止に全力を……!!)

 ややくすんでいるが若々しく蕩けそうな犬飼の血の味に『大食』の罪を冠す幹部の心は刹那の間、激しく乱れた。

「……沁み込むだろ? CとDを避けて磁性流体したお前の体だから……肉が溶けているから……血の味は…………沁み
込む、だろ?」
(おのれ! 頚動脈切断と”れいびぃず”奇襲の真なる目的はこれか! 無銘めの作った穴を利するための……!)
0223永遠の扉
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2018/04/04(水) 00:40:48.99ID:5uHkev3X
 銀成において戦団側の手練れ5人を飄然と手玉に取ったイオイソゴを正攻法では崩せぬと踏んだ無銘は仇敵に弱点を
作るべく自ら左腕を切断し……喰わせている。自分しか見えぬように、自分の味を第一に考えるあまり冷静な判断ができ
ぬように……と。長年チワワだった少年にとってその左腕は、剣術の修練とか、忍者刀への彫り物とか、演劇の特殊効果
とかの、人間らしい、理知や創作の喜びをもたらす宝物だった。だが彼は宝を犠牲にする道を敢えて選んだ。イオイソゴと
いう、妊婦の腹を裂き、胚児にホムンクルス幼体を埋め込む強残無比を平然と成す奸悪に今以上の犠牲を出させぬため
少年らしいどうしようもない惜別を己が左腕に抱きながらも付け根から忍者刀で斬り飛ばし……面すら見たくない忌むべき
老婆に、献上(くわ)せたのだ。

(っのれ……! 腕(それ)は! 貴様ら赤の他人が…………! 貴様ら赤の他人が利していい穴では…………!!)

 僅かな怒気に波打つ頬を務めて無表情に鎮め

(じゃが伝令は阻止する!! 緒戦で盟主さまが所在を知られ討たれるようなことがあれば……我らが『悲願』、大いなる
五月の救いが……喪われる! 何より)

 食欲で甘く固まりそうな腕の関節を

(お仕えすると決めた愛すべきめるすてぃーんさまを、わしは、守りたい……!!!)

使命感で強引に駆動させるイオイソゴ。
 100近くの耆著を満載した2つの拳を肩の上から前方へと振り抜きつつあるスローイング体勢は、彼女の主観ではコン
マ何秒か制止したぎこちない不完全なものであったが、犬飼倫太郎の目には(なんて滑らかさ……! ちっとも動じていな
いのか!!?)と映る流麗なものだった。

 こさっ。無数の枝の中で鳴った奇妙な物音に少女が動揺と警戒を頭の中で迸らせた時間は僅か1秒!

 大きな瞳がまずハっとした。次に、何かの不安に揺れ、眦(まなじり)の傍に小さな汗が垂れた。最後に確信の光が灯る。

(つまらぬ囮を! 『奴』なら物音1つ起こさず奇襲するわ!!)

 その思考が投擲姿勢を! 0.03秒!! 停めた! のは!!

 怯惰ではなくむしろ慎重さ故だった!!
0224永遠の扉
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2018/04/04(水) 00:41:42.13ID:5uHkev3X
 これもまた、イオイソゴに捕捉される前の、会話。
..
「…………根来が?」
「ああ。来るさ。銀成で木星の幹部に挑発されてるからね」
「確かに、彼にしてはビミョーに仲がいい楯山千歳の両目を耆著で潰されたから……」
「根来の性格なら必ずどこかで奇襲する。木星の幹部もそれは読んでる。というか、何もしなかったとしても、根来の特性
なら必ず『やる』からね」
「あ、そうか。そもそも彼女が楯山千歳から光を奪ったのって、『やられた』からだものね」
 イオイソゴは銀成において、勝てる筈だった足止めを、火渡が来たとしても継続できる筈だったヒットアンドアウェイのゲ
リラ戦を、根来の思わぬ足止めで潰されている。

 イオイソゴが千歳の視力を奪ったのは腹いせでもあるが、挑発でもある。
 隠密機動に長けた根来をわざと激怒させるコトで、冷静な打ち筋を打てなくし、殺りやすくする……という最善手だったが。

「お蔭でいま木星の幹部は、ボクたちを追撃しながら……根来までもを警戒しなきゃいけない戦略的な不利を抱えている」

 彼女に捕捉される前、犬飼はうすら笑いで指摘した。円山の顔がやや曇ったのは、人が客観的でいる限り誰もが同意せざ
るを得ない感想を抱いたからだ。

「根来にケンカ売ったせいで警戒を……? ソレちょっと間抜け」
「な話でもないさ。本当は木星の幹部はアジトに引き篭もって根来を迎え撃つつもりだったろうさ。けど」
「……あ。盟主の出奔のせいね」
「そう。予想外の出撃をされたせいで、イオイソゴは奴の保護と、ボクたち伝令の追撃という、これまた予想外の作戦行動を
……取らざるを得なくなった。自分以外には到底任せられない、重要な、動きのため、安全なアジトから……外出する羽目
になってしまった」
「だから根来を警戒しつつの追撃も想定外で」
「自分の身をボクたちの前で晒すという行為も控えたいはずだ。ボクたちの攻撃を紙一重で回避した所を根来に突かれるのを
……シークレットトレイルで、亜空間から奇襲できる根来に報復されるのをアイツは何より恐れている」

「だからそれは、いざっていう時、木星の幹部への牽制に……できる」
0225永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:42:19.75ID:5uHkev3X
「こさっ」という音を無数の枝の中で鳴らしたのはキラーレイビーズB! 犬飼の頚動脈切断を行ったBは、派手に出血する
主人や、膨張する円山、CとDの奇襲といった目まぐるしい出来事にイオイソゴが目を奪われているのを幸い、足元にあった
手ごろな石を犬飼の影で咥え上げ……そして枝の中へと放り込んでいた!!

 果たして木星の幹部は物音に反応した! 予想外の追撃戦において『亜空間から突乎として出現しうる』根来の奇襲を!
犬飼たちにいざトドメというとき虚を突きうる彼の出現を! 老獪さゆえ兼ねてより警戒していたイオイソゴは、言ってしまえ
ばただ小石を枝の群れに投げ込むといった他愛ない行為に! しかし半ば驚愕を以って反応……してしまった!!

 常に万全の段取りを整えているからこそ『根来なら或いは何らかの手段で網にかからぬ方法で奇襲しにきたのでは』と
些細な物音にいい意味で怯え対処を考えかけたのは、常に最善手を念頭における優秀さゆえの欠点だろう。
0226永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:42:56.03ID:5uHkev3X
 事実彼女が思考を停止したのは1秒程度!

 だが犬飼の、頚動脈切断に端を発する奇手は全く同時に始まっていた!

 戦歴500年を出し抜きうる策など滅多に浮かぶものではない、それは残酷だが事実!

 だが!

 読まれうる策謀であってもそれら総てが同時に発動し進行するのであれば!

 1人しかいないイオイソゴは! 盟主のボディーガードを作るため任意車なる忍法で分身し、戦闘の最中、あちらとの並
行処理をもせざるを得ない幼い忍びは!!

(どこかでするだろ。必ず、パンクを……!!)

 という犬飼の目論見に、術中に……嵌る!

(つまらぬ囮を! 『奴』なら物音1つ起こさず奇襲するわ!!)

 その思考が! 円山円の空気圧爆裂によるロケットスタートを防ぐための投擲姿勢を! 0.03秒!! 停めた! のは!!

 怯惰ではなくむしろ慎重さ故であり!!

 そこまでの数秒間立て続けに起こされた犬飼の頚動脈切断から無銘の利用に対し、老練と冷静で抑えたりとはいえ知的
生命体の宿業ゆえ完全には動転や憤懣を消し去れ無かったイオイソゴが! 根来の出現疑惑すら横ッ面から叩きつけられ
た状態で! 僅か! たったの! 0.03秒!! しか! 耆著の投擲体勢に硬直を及ぼさなかったのはむしろ神彩とさえ
いえる心理的境地だった!!
0227永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:43:40.94ID:5uHkev3X
 だが犬飼倫太郎は! その0.03秒の間に!!

 老嬢の両拳に満載される100近くの耆著総て! 吹き飛ばして! いた!!

(ち…………!!!)

 ザルいっぱいのドングリをブチ撒けたような耆著の舞いっぷりにイオイソゴは歯噛みする。

(磁性流体化ゆえに打撃斬撃を素通りさせる我が身の弱点を、こうも早く把握しよるとは……!!)
(確かに……耆著を投げるための腕や掌を豆腐みたくされたらフォームそのものを乱すのは難しい)

 だが弾丸の方はどうかな。血色が褪せた犬飼は、眼鏡の奥で瞳を鬱蒼と歪める。

(お前が掌に握りこんでいたざっと100ぐらいの耆著……。お前の掌が磁性流体化で爪や牙を素通りさせる状態だっていう
なら……レイビーズの掌への攻撃は耆著に……円山を狙い打つための弾丸に…………当たる!!)
(そして全弾を散らした……! 悔しいが見事な判断と認める他ない……! 他のタイミングなればやわやかな我が肉に
耆著を埋没させ飛散を防ぐこと能(あ)たう……! じゃが! こやつは! わしが根来への警戒に神経を取られたあの一瞬
に! 0.03秒という、飛散を防ぐ細かな動作のやりようのないごくごく僅かな隙に!)

 レイビーズのCとDで掌を攻撃し、円山円の離陸を阻む面制圧の弾幕の芽を、ばらばらに、吹き飛ばした!!


 果たして空気を大きく炸裂させ場より吹き飛んでいく風船の麗人!


 その巻き上げる風に、決定的な戦況の変転を告げる大風の中で、視線を絡めあう犬飼とイオイソゴの時間が僅かの間、
止まった。

 両側に跳ねている茶色の癖っ毛をスローに揺られながら、白む心象世界の波紋に頬をゆらゆらと炙られる青年は目を
丸くしながら汗をかく。

(ていうか……我ながらよく当たった。ま、まさか、これもアイツの罠とかじゃないだろうな…………)

 一番驚いているのは犬飼自身である。あまりにも上手くいったため騙されているのではないかという視線を浮かべたが、
耆著を吹き飛ばされた瞬間の心底から驚いているイオイソゴの顔に少しだけ……自信がつき始める。

(なんだ。ボクだって……やろうと思えば…………やれるじゃないか)

 首筋の致命傷を撫でる。凄まじい痛みに顔をしかめたが、頬はどこか、綻んでいる。

 ばたばたと、すみれ色のポニーテールを緩慢なる時の波濤でくゆらせながら老練なる童女は、気にしている低い鼻を人差
し指で無意識にこする。

(こやつは本当に”あの”犬飼倫太郎なのか……!?)

 イオイソゴの脳裏を戸惑いが掠めた。そうであろう。犬飼といえば再殺騒動のとき、真先にやられた男ではないか。以降、
ヴィクター討伐においてもさしたる戦績はなかった。

(そもそも虫とり草脱出に合わせて仕掛けた罠から脱出できたのもおかしい……。ま、斯様な疑問は、あれを完全版で使え
ておったならそもそも涌かなかったじゃろうがな)

 先ほど犬飼たちを捕らえた虫とり草とは。

 虫とり草とは本来、磁性流体化で扁平に潰れきったイオイソゴ本体を床や地面に設置する忍法である!

『置き』ゆえ機動性は皆無であり、当てるには相当の読みが必要とされるが当たりさえすれば一撃必殺! 対象が直近を
通過するやゲル肉と溶融しているイオイソゴの肉体がまさに食虫植物の如くに取り巻き……全身に仕込んでいる五百五十
五の耆著の着弾を以って獲物を”おもゆ”の如く煮崩すやドロドロのイオイソゴと溶融せしめ強引に消化する!
0228永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:44:32.03ID:5uHkev3X
 完全版であればレティクルの幹部でさえ特定3名以外まず脱出不能の虫取り草。

 だがイオイソゴが犬飼たちに使った虫とり草は自分ではなく森の地面を隆起させたいわば不完全版であった!
 彼女はなぜそれを使ったのか。一刻でも早く伝令を断つべき状況で、イオイソゴ自身犬飼たちには一撃必殺を使う他な
いと考えてはいたにも関わらず……どうして不完全版に留めたのか?

 その、理由は──…

(根来への警戒! 円山どもが”ばぶるけいじあなざーたいぷ”で虫とり草を張り裂いて脱出するのは読めておった! じゃ
がその炸裂より早く連中を消化せんとすればわしは体内へどうしても集中せざるを得なくなり──…)

 周囲への、根来への警戒が薄くなる!! 最悪なのは犬飼円山の消化に専念してなおA・T発動が早かった場合であろう。
その場合イオイソゴは、全身を無限増殖爆弾で炸(はじ)かれつつ、犬飼の追撃に対処せざるを得なくなる。そんな隙を、

 根 来 が 

 見逃す訳は、ない。

(じゃからわしは犬飼どもの虫とり草(不完全版)からの脱出を樹上から臨瞰しつつ、爆風の速度を利した”ぶな”のかうん
たーを設置しつつ根来を警戒! あとは隠れ潜みながら伝令組の脱出を阻むつもり……だったんじゃが)

 犬飼が、一発で所在を把握した。

 イオイソゴが自分の匂いのダミーを5か所以上設置していたにも関わらず、なぜ犬飼は迷わず彼女の場所を掴めたの
か! 

 秘密は大戦士長・坂口照星の生首にある! 彼女はそれを磁性流体化した状態で携帯する他ない『とある事情』があった!

そして犬飼倫太郎のキラーレイビーズは、照星がどこに囚われているのかという所から追跡を始めた都合上、彼の匂いに対し
現状戦団随一の敏感さを有している! 銀成から借りてきてまで捜索に動員していた剣持真希士の核鉄からレイビーズC&
Dが発動している以上、照星めがけ行けと命じさえすれば、イオイソゴ本体の携行している生首へ一直線で向かうのはごく
ごく自然な当然の流れ!!

 だがイオイソゴが生首を見せ付けてからまだ1分も経ってはいない! 照星に反応できたのはレイビーズの嗅覚ゆえだが、
レイビーズが反応する先にイオイソゴが居ると迷い無く断定できたのは間違いなく! 犬飼倫太郎(ハンドラー)の資質!!

(……これも根来への警戒が仇となった事例!)
(そう! 大戦士長の生首をその辺りに転がしでもしておけばアイツに、根来に! 回収されかねないからな!!)

 常人なれば死したる照星の首を回収しても痛痒は感じない! だが! 人智常道を大きく外れた世界に棲息する忍びたる
イオイソゴが忍びたる根来に照星の生首を奪われる場合事情は著しく変転する! 

(根来忍法・壊れ甕! 死したる者の首と胴を接合し黄泉がえらせる魔人のわざ!)
(それでアイツが大戦士長を蘇らせ救出するシナリオだってあり得るんだ! 何しろ胴体があるであろうアジトは今、幹部が
出払っている! 盟主の捜索のため予想外に出撃している!)
(左様な場所であればしーくれっととれいるを有する根来が潜入し、照星めを壊れ甕にて蘇生するのも可能……! それは
困る…………! かの大戦士長には『まだ、してもらうことが』あるゆえ、根来に生首を奪われるのはまずい……!)

 と、いう危惧があったればこそ照星の生首を磁性流体化し携行する他なかったイオイソゴだ。

(しかし……じゃからといって、速攻でその匂いを追跡してくるのは、わしの予想の中でもかなり可能性が低かった部類……!
見せつけてからまだ1分と経っておらんのじゃぞ!? 磁性流体化で所持せざるを得ない事情を、わしの根来めへの警戒
感と合算して即座に見抜けるような男であったか犬飼は? 少なくても、話に聞く犬飼倫太郎めはもっと、予想外の事態に
は動乱する男じゃったというのに……!!)

、それが、銀成で、津村斗貴子たち5人を手玉に取ったイオイソゴへ立て続けに一矢報い続けている!
0229永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:44:53.44ID:5uHkev3X
(頚動脈切断が”すいっち”なのか……? 自らを死地に追い込むことでかつてない力を発揮せんとするいわば一種の決意
表明…………?)

 力量的な水準や安定性では、彼女が銀成で相手取った面子中最下位な栴檀香美にさえ犬飼は劣る。まだ武装錬金が発動
できない香美に、武装錬金コミで『下』とイオイソゴが断定せざるを得ないほど──見縊っている訳ではなく、むしろ若人への
好意を以ってあれこれと弁護的な長所探しをしてなお、香美には勝てないと、断腸の思いで──断言せざるを得ないほど、
犬飼の戦歴には精彩が、ない。

(じゃが自らを死地に追い込んだこやつの気魄は……津村斗貴子以上!! 残り少ない時間で命の総てを燃やさんとする
覚悟が実力以上の実力を……もたらして、おる!!)

 銀成で足止めした5人には無かった動機だ。強く、数でも勝(まさ)っており、最終目的もまたイオイソゴそのものではなかった
からこそ氾疇は全力止まりだった。死力、では……なかった。

.

..

 いい気分だ。ざまあ見ろヴィクターV.もはや止まる見込みのない首からの出血を実感するたび、犬飼の頭は冴えてくる。

 弾き飛ばされた100近くの耆著はまだ宙をクルクルと舞っている。

 円山は……遠ざかる。木の根がのたくる地面に線分が刻まれるほど速く、落ち葉を巻き上げ横ッ飛びに。

(じゃが!)
(一番やばいのは、この瞬間!!)

 2つの掌から、それぞれ、磁性流体化させていた耆著を10近く浮上させ摘出させ狙撃に移りかけるイオイソゴとほぼ同時に
犬飼の戦略的行動は終わっていた。

 キラーレイビーズCの、決して中型犬とは言いがたい巨(おお)きな体が、すみれ色の馬髪持つ少女の目の前いっぱいに
広がり。

 枝の中を電光石火で駆け巡っていたDに関しては、最後に、敵のくの一が乗っている太い枝を根元から……切断。

 最後に、というのは、上の方でかなり同様の行為をはたらいていたためである。

 降り注ぐ木の枝は、たとえイオイソゴがCの影から首を出したとしても感覚と物理両方の面から狙撃を妨害するだろう。

(視認と安定! ひひっ! 狙撃に欠かせぬもの2つ断ちよるとはのう……!!)

 イオイソゴはもう笑うしかない。ロケットスタートで遠ざかりつつある円山を、一刻も早く狙い撃ちたいのに、レイビーズCの
せいで全く見えない。見えたとしてもDが足場を崩している。

(耆著でれいびーずを排除? 弾丸が減るし何よりその間に円山との距離が一層ひらく!)

 200m向こうの移動先で今もなお高速で離れつつある標的を、ぐらぐらと落ちながらの体勢で、しかも指弾的な方法で撃ち貫くのは……

(かなり難しいじゃろうなあ)

 やれやれと肩を竦めるイオイソゴの遥か前方で、破裂音が、した。

(ちゃ、着弾……!!?)

 突如として左方に傾いた風船の中で、円山円は唖然とし──…
0230永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:45:10.37ID:5uHkev3X
 犬飼は横目で見た。右臀部のあたりが半径10cmほどに亘ってどろどろと溶かされているバブルケイジのスーツを。

「ひひっ。覚えておけ。忍びとは難しいことを成してなんぼじゃと……」

 落ちていく枝の上で、ひゅっと靴の原型に戻るイオイソゴの右足首から先に青年は気付く。

(足で耆著を……!? 馬鹿な! あれだけ色々かまされたあげく! 視界を塞がれ足場さえ崩された状態だったのに!!
足の指で挟んだ耆著を……200mは向こうの円山に当てた、だと…………!!?)

 犬飼の頚動脈切断。
 伏兵的なレイビーズC&Dの出現。
 無銘の作った弱点の、血の味による刺激。
 根来出現の誤認。

 常人ならどれか1つ炸裂するだけで面白いように流れを持っていかれていく現象を、イオイソゴは立て続けにブツけられてなお、
『視界を塞がれ足場さえ崩された状態』にあって、足という、投擲には到底不向きな器官で狙撃を成し遂げたのだ。

(ボクの策なんてどうせ読まれると思っていたから! 総てを一瞬に収束させて同時に起こして、思考回路をパンクさせて
やろうとそう、思っていたのに……通じなかった…………!)
(されど筋は申し分なし! 根来などより鳩尾などよりヌシの方がよっぽどわしの弟子向きよ……!)
 賛辞を内心送る彼女が、降りしきる枝の中、円山狙撃を足で成し遂げた理由は!!
(わが耆著はっぴーあいすくりーむの原型は包囲磁石! それゆえ鉄分を含む標的にはごくごく僅かながら反応する! 
戦歴500年のわしだから気付きうる極めて微小な誘引ゆえ、投擲後”おぉと”と対象に着弾するといったことは残念ながら
ないが……それでも、視界を塞がれていたとしても、その間、円山が直進したのか曲がったのかという、大まかな方向だけ
は分かる! 分かるのじゃ!!)

 あとは絞り込まれた方角を元に、円山の、遠ざかる気配から逆算した速度を算定。覚えている『足で耆著を投擲した際の
弾速』から導き出される予想着弾地点に円山が嵌りこむタイミングで発射……。

(恐るべき経験……! けど!!)

 磁性流体化が広がり墜落すると思われた風船スーツの円山円は……破裂音と共にむしろ…………加速!!

(いろいろカマしても狙撃されるかもって、予想してたのよねこっちも!!)

 漆黒のゲルでうぞうぞと揺れるゴムの破片を舞い飛ばしながら、円山は突き進む。

 あれれ? なんでじゃ? ほへーと一瞬白目を剥いて可愛らしく佇んだ老獪なくの一は、すぐさま頬に黒い皺を寄せる。

(『重ね着』。二重か、それ以上の構造…………!! 毛唐どものいう爆発反応装甲の応用!)

 円山円はバブルケイジのオーバーボディを着た。着た上で、その上から更にもう1着か或いはそれ以上、纏ったのだ。

(何のため? 簡単じゃ狙撃対策のため! わしの耆著が1発2発当たったとしても、逆にそれで外側の風船を破裂させ
……加速しようという寸法!! しかも、磁性流体化し様々な足止めを働くであろう被弾装甲の”ぱぁじ”も兼ねておる!!
ひひっ! 『当たった物体をすぐ磁性流体化してしまう』がため、貫通力はない我が耆著の弱点をよくぞ突いた! そう!
風船が複数枚で構造されるのであれば、我がはっぴーあいすくりーむは最外郭で止まってしまう…………!)

 その点を、円山は見抜いていた訳ではない。

(賭け、だったわ……! 『打ち込んだ物を磁性流体化する』耆著だけど、その磁性流体化のタイミングは自動(オート)なの
か任意なのか……銀成での戦いを聞く限りでは、分からなかった……!!)

 武装錬金特性には2種類ある。自動型はバブルケイジや激戦のような、特定条件を満たすと創造者の意思とは無関係に
発動する能力。任意型はサンライトハートやバルキリースカートのような、創造者の命令があって初めて発動する能力。

(弾数が多いタイプはだいたい自動型であるコトが多いけど、全身に耆著を埋め込んで打撃を完全無効化している筈の
イオイソゴが、いっつも磁性流体のゲル状の筈の彼女が、人型を保ったまま立ったり歩いたりしてたって報告も銀成から
受けてたし……じゃあ任意? って考えるのは当然でしょ)
0231永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:45:28.67ID:5uHkev3X
 厳密にいうと、イオイソゴは自動型と任意型の中間である。
 耆著自体は打ち込んだ物をオートで磁性流体化してしまうが、その、磁性流体化した物体を、磁力で操るコトで、任意型
の利点をも得ている。銀成での足止めの最中、ビルの屋上で、周りの高層建築物の上層部を幾つも幾つも飛ばした事実
など最たる例だ。

 いよいよ唸りを上げて埒外へと逃げていく円山を、黙然と腕もみ捩りながら見やるイオイソゴ。

(さて問題は)

 犬飼の追撃を受けつつ、円山の追跡に専念するか。
 それとも犬飼を葬ったあと、後顧の憂いなき状態で円山を追うか。

 イオイソゴの実力であれば、犬飼倫太郎など瞬殺できて当然だ。足止めを排除した上でゆるりと円山を追う……誰だって
考えつく方法だし、イオイソゴだってそれは検討した。

(じゃが空気圧噴射を利した円山は……速い! いま時速96きろだとすれば、だいたい600めーとる先の合流地点へは
……最速で22.5秒! といっても向こうの原動力は充填→放出の空気ゆえ、原動機のような定常速度はもちえず従って
速度にはむらがある。あとはまあ……識者なれば障害物回避の減速なども踏まえるともっと遅いとでも言うじゃろうが、ひ
ひっ、ま、そこらの障害物がわしより恐ろしい訳もないから、わしに追いつかれる”りすく”を得てまで障害物に速度を減殺せ
しめることは少ないとみた。それら諸々へ奴の必死さを加味すると……ふむ。およ30秒前後かの? 合流地点到着まで)

 つまり円山の現実的で平均的な時速は約72km。飛翔体としては遅い方だが、少し前まで風任せでしか動けなかった
風船爆弾でここまでの速度を出せるようになった円山の工夫は称賛されて然るべきだろう。
 追うイオイソゴが安定して出せる速度は70kmという所だ。
0232永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:45:54.88ID:5uHkev3X
(もちろん無理をすれば100きろめーとるぐらいいけるが、後が続かんし根来の奇襲が恐ろしいし、何より犬飼が妨害して
くる率が高い)

 つまり再殺部隊2人の影を念頭に入れて追う限り、イオイソゴと円山の距離は2秒間に1mずつ広がっていく計算で、し
かも先ほどのロケットスタートでついた200mの差はここまでの時間経過(りそく)ゆえ単利で10%増しである。

(つまり)

 犬飼を相手どればいよいよ追いつけなくなる。実力的には瞬殺できる……というのは客観的な意見に過ぎぬのだ。

(人間を軽く見てはならん。生涯最後の戦いで、それまでの評価を一変した者など幾らでもおる。犬飼倫太郎の戦団におけ
る評価が孱弱(せんじゃく)であったとしても、『じゃからこそ』、この、足止めのための最後の戦いで嘗てない力を発揮しうる
恐れがある……!)

 まずはお前だとばかり足止めの抹殺から入れば、犬飼は得たりとばかり時間を稼ぐだろう。円山が合流地点へ辿り着く
まで50秒だが、イオイソゴがたとえ限界を無視した時速100kmを発揮し続けてなお追いつけなくなるまでのタイムリミット
は……更に短い。

(そんなちょっとの時間なら……ボクにだって稼げる! 情けないけど、瞬殺回避に全力をつぎ込み続ければ…………
できなくはない! 頚動脈を切断した以上、時間を稼げても稼げなくてもボクは死ぬ! けど! 命は! 命の使い方だけ
は……ボク自身が選んでボク自身で全うできる……!!)

『ならばそれが問いの答えだ』

 戦部の声が心の中を通り過ぎる。盟主から奇襲されるほんの僅かな前、犬飼は彼と言葉を交した。弱い人間の身で強靱
きわまる怪物たちと戦うコトを楽しむ……楽しめる、男に、犬飼はほんの少しだけ自分を投影したのだ。繊弱きわまる立場
にあり、強い者たちにせせら笑われる自分に通じる構造的な共通項を……見出して、だから、悠然と、自信を持って生き
るにはどうすればいいか知りたくて……『その生き方をどうしてお前は楽しめる』とそう、問いかけた。

──「俺が人の身で戦うのは面白いから……などと言う回答が、低い立場で戦うのを面白がらぬお前にどうして届く?」

 戦部は結局どこまでも戦部(きょうしゃ)だった。鼻白む犬飼にしかし彼は期せずして、解答に繋がる問いかけをした、。

──「権勢だけが欲しいならなればいいさホムンクルスに」

 救出作戦の概要をレティクルに売り、戦団が負けて滅ぶきっかけを作った後、謝礼で人外と化しさえすれば見下してきた
相手総て真向から捻じ伏せられる実力が手に入るだろ……と。

(誰が、するか)

 犬飼はこの夏、標的と狙う怪物との勝負に敗れたあと、あろうコトか見逃され……命を、救われた。救われて、しまった。
殺すべき化物に救われるなど屈辱以外の何者でもない。何か情報を売り生き延びたのではないかとせせら笑い囁きあった
のは一族の中でも常日頃影日向に犬飼を小馬鹿にしている連中だ。事実無根の風評被害の種子さえ産み付けて去って
いった怪物を『ヴィクターV』を、だから犬飼は許せない。
0233永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:47:35.55ID:5uHkev3X
(命を救うコトと人を救うコトは一緒じゃないんだよ! お前は、普通のバケモノが人に押し付ける『死』をただ『生』に置き
換えボクに押し付けた……だけ、だろうが! お前が、お前がボクを救けたせいで、ボクはますます惨めな謂れを……!!)

 最悪の事態になったら自ら始末をつける……怪物になりつつある少年は、犬飼と戦う前そう告げた。善性の滲む物言い
ではある。

(でもなヴィクターV。その文法じゃお前は、お前が死にたくないからボクを見殺しにしなかったってコトになるんだよ!)

 いかなやっかみが犬飼にあるのか? 不利益を蒙った者特有の、ぶつけられぬまま鬱々と理論だけが研ぎ澄まされた
指摘を開陳する。

(最悪の事態ってのはお前が人死にに直接関与するってコトだろつまりは。だったらあのときお前がボクを見殺しにしてた
ら……する他なくなってだろ、自害?)
0234永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:48:20.00ID:5uHkev3X
 だから何だかんだ言いつつお前は自分のためにボクを救った、自分が生きたいがためだけに、ボクに生を押し付けた……。
歪んだ、こじつけのむきもある捉え方だが、見過ごされたがゆえに後ろ指を指され、核鉄没収や戦士除籍すら日々恐れ
絶望していた犬飼ゆえに仕方ないとも言える。原因となった相手の善意を善意と解釈するコトなど、到底できる心境ではな
かった。

 敵の温情など、屈辱でしかない。

 復讐してやる。

 そんな想いさえなければ、ヴィクターVに差し伸べられた手という名の核鉄を、大量出血で死につつある犬飼が我が身に
押し当て延命するコトは、なかった。

 だが復讐すべき相手はもう地上にはいない。地球を守るため、災異(ヴィクター)を巻き込む形で月へと消えた。

 怪物が、地球を守った。

 怪物に守られてしまった地球の中で、犬飼はイオイソゴという難敵と戦わざるを、得なくなった。

 戦部のいったようなコト……、つまりヴィクターVからの助命の件でせせら笑ってきた連中を、ただ殺したいだけなら、伝令
たる円山を殺し、木星の幹部に命乞いをしつつ取り入り、栴檀を滅ぼしたあと悠然と人外になり暴れればそれで済む。手軽
にサッパリできるいい手段だ。
0235永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:49:44.86ID:5uHkev3X
(それをやる? ヴィクターVですら地球を守ったのに? なのにボクは生存とか、復讐のために、敵に尾を振る……?)

 フザけるな……! と彼は煮えたぎる思いを自問の果て何度もした。

 やってみよ、犬飼倫太郎という戦士は怪物以下に成り下がるではないか。ホムンクルスとなり、いけ好かない一族の連中
を殺戮して溜飲を晴らそうとしても結局かれらの見下した笑いは消えないだろう。そしてやがて犬飼は、血で償わせる以外の
手段を持たなかったよくある底辺として名も知れぬ『正義の味方』とやらに断罪され……汚名(シミ)を歴史に刻むだろう。

 ヴィクターVは、違う。

 犬飼を始めとする戦団にさんざっぱら追い立てられ、幾度と無く命を狙われたのに──…

 地球を、守った。

『ならばそれが問いの答えだ』

 戦部の声が心の中を通り過ぎる。

(木星の幹部・イオイソゴ=キシャク! どうせボクは負けるだろうが、斃すつもりで……いく! )

 そこまで覚悟を高めねば足止めさえできぬほど実力差は、大きい。

(『試したいコトがある』。物理攻撃完全無効の幹部だが、牙や爪しかないレイビーズでも理論上は……斃せる! かなり
の集中が必要だけど、いまある能力の1つを総動員すれば…………可能性は、あるッ!!)
0236永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:50:05.10ID:5uHkev3X
 気魄を読んだイオイソゴは「ふむ、まあ、受けてたとう」と眠たげな表情で薄く笑う。

(こやつがいかな奇策を打とうと実力差は明白……!)

 耆著を前方に放ち、磁性流体化の状態で、円山を追い始める。
 レイビーズに乗った犬飼が決死の形相ながら遅れて発進するのを横目で見ながら、老獪な忍びは冷然と思う。

(追撃戦の要諦は論者によって分かれるが、わしの経験からの最善手は『目的地に近い方を徹底して攻撃!』 もちろん
こちらが後ろから攻撃される”りすく”もあるが、しかしそれをばやる輩の気勢というのは不思議なものでの、己なればいくら
攻撃されようと、いくら酸鼻なる傷を負おうとむしろ高揚するのじゃが、先行する味方を狙われると面白いように狼狽する……)

 強さとは畢竟、原則の徹底。『目的地により近い伝令を優先して攻撃した方が安心』といった単純極まる原則も、足止め
の命がけの攻撃が降り注ぐ中、しかしそれを物ともせぬ涼しい顔で、とにかく、ひたすら、執拗に、徹底的に、狂っているの
ではないかという位のしつこさで、目的地に近い方の伝令ばかりを攻撃するコトによって磨きぬけば、一個の恐るべき戦略
と、なる。少ない反復は一つ覚えと誹られるが、度を越え常軌を逸した反復は畏怖しか、されない。

(守るべき相手ばかり攻撃される足止めは必ずどこかで自分の命がけの行為の空しさを悲しみ、焦る……! ひひっ、そりゃ
そうじゃろ、己が決死と信じた行動が、仲間の安全に、組織全体への貢献に、何ら繋がっていないのじゃから)

 イオイソゴは、犬飼をそういう心理的境地に追いやって……心が弱ったところを討つ、つもりだ。

(ひひっ。粘るようなら対根来ども用に秘匿しておる忍法を2つ……いや、2つは多いの、1つ出せば何とかなろう)

(彼我の力量差は歴然。しかも相手は自ら自刎めいたことを演じ死につつある……。冷静に対処すれば必ず勝てる)

(ひひっ。わしの狙いはあくまで鳩尾無銘を喰らうこと……。犬飼なる望外の戦士相手に誰が死ぬかよ)


.
0237永遠の扉
垢版 |
2018/04/04(水) 00:50:29.16ID:5uHkev3X
.


 武藤ソウヤをパピヨンパークに送った時空改竄者……の転生した少女(20歳オーバー)。

 レティクル壊滅後の、終止符の更に先のその世界で、彼女こと羸砲ヌヌ行(るいづつぬぬゆき)語りて曰く。

「イオイソゴたちレティクルの幹部は、戦士や、音楽隊と、何がしかの因縁を持っていた訳だけど」

「意中の相手と戦えないまま消滅する幹部が……『1人』だけ居た」


 犬飼倫太郎はやがて大金星を、上げる。幹部の1人を見事殺害してのけるのだ。

 相手は──…

 代償は──…
0238スターダスト ◆C.B5VSJlKU
垢版 |
2018/04/04(水) 00:54:27.04ID:5uHkev3X
>>234最後訂正

栴檀→戦団。

この稿で一番褒められるべきは毒島。犬飼と円山が対策立てられてるのは毒島が銀成のこと逐一報告したお蔭。
情報は、大事。
0240作者の都合により名無しです
垢版 |
2018/04/15(日) 20:17:11.05ID:vC9EsXKJ
>>スターダストさん
「全力ではなく死力」。今の犬飼にぴったりの、重みある言葉ですね。しかも火事場のバカ力ではなく、
何重にも重ねた策を立て続けにぶつけてる、というのがまた壮絶。「原作での彼」からは想像できない
「彼」を創造した、スターダストさんに痺れ憧れます。このまま相討ちなら確かに大金星ですが、さて?
0241永遠の扉
垢版 |
2018/05/05(土) 16:12:24.80ID:Cg4doURR
第105話 「タングステン0307(中編)」

【ある作家たちの対談記事】

(上半分と作家名が塗りつぶされている)

……すから、デッド=クラスターの戦いというのはですな、確かに難解ではあるんですけど、まだロジックは通じる」

×××「確かにあの月の幹部の戦いはおととしまた映画化されましたしね、人気ですよね。パッと見なにやってるか分かり
辛いんですけど、ホームアローンとか、ファイナルデスティネーションとか好きな人ならそのうち分かるっていう」

■■■「ほんとこの点でもわたしは中村剛太にお礼を言いたい(笑)」

×××「また報告書(笑)」

■■■「本当にですな、彼が、チーム天辺星の面々が『棟』のどこでどういう死に方をしたかっていうのをですな、詳しく覚え
てくれていなかったら、デッド=クラスターが、あの約10人相手に演じた大立ち回りな迎撃戦なんてのは逆算しようがない。
……ってコトをおととし◇◇◇監督に言ったら『■■■君まったくその通りだよ、撮れなかったよ』と」

×××「ですよね。あの特性のややこしさときたら……。レティクルどころか全部の武装錬金を見渡してもそうはない」

■■■「最近たまたまやった龍が如くの最新作のミニゲームでちょうどアレを、ムーンライトインセクトをモチーフにした能力
が出てて驚いたんですが、ゲームだとですな、まだ割合わかる。オブジェクトを爆破すると、一定範囲内にある同一規格製品
の直近にワームホールが開き、そこへクラスター爆弾を転送して射出できる。例えばベンチを攻撃すると、周りのベンチに
も……という訳です」

×××「あー。龍司がふなっしーみたいなゆるキャラやるアレですか。確か『周り』……の範囲、対象半径が、オブジェクトの
レア度に比例するんですよね。木のベンチなら自分の周り30mほどしか対象じゃないけど、金のベンチなら500m圏内の
金のベンチ総てが砲台代わりに……みたいな」

■■■「だからね、自分が使うならこれほど分かりやすい能力は実はないけど……やられる方はね、分かりっこないです
よ(笑)。遠くとか、死角とかで、ワームホールぼこぼこ開(ひら)いちゃうんですから(笑)」

×××「しかもスナイパーですからね、デッド(笑)」

■■■「芋砂(笑)。『棟』のような媒介豊富な場所に引き篭もって、遠くの相手が貴金属店の前とおりかかったタイミングで
棟の売り場からかっぱらった手元のダイヤ爆破、みたいなコトされると、そりゃ撃たれますよ誰だって(笑)。分かるか! と(笑)」

×××「相手の所在は特性じゃなく監視カメラの映像で掴むってのがまた始末が悪い(笑)」

■■■「ただそういうのが言える程度にちゃんとした準備(ロジック)を積み重ねているのがデッドな訳で」

×××「難解ではありますが、紐解きようはありますからね。じっさい中村剛太も報告書の中で恐ろしく精密な分析を」

■■■「何よりありがたいのが付録の資料。こちらは事後処理班の仕事ですが、『棟』側の見取り図や、終戦直後の商品
棚を始めとする内部の写真、被害目録といった、『どこで何がどう爆破されていたか』が分かるビジュアル的な証拠をです
な、中村剛太との分析と突き合せると、ああデッド、こうやって攻撃組み立てたんだなって、立体的にわかっちゃいますね」

×××「そういう仕事をしてくれた事後処理班のお蔭で、他の幹部の戦いもだいたい論理付けられるんですがねえ」

■■■「『タングステン0307』。イオイソゴ=キシャクが坂口照星救出作戦序盤で円山円に仕掛けた追撃戦だけはやはり
どうも分からない。なぜああいう経緯が成立しえたのか……。難解というか、不可解ですな」

×××「ですよね。犬飼を初撃で葬らなかった理由だけが謎すぎて謎すぎて。いやわかってはいますよ。当時の彼女は、
高速道の車なみの速度で遠ざかっていく円山を追いかけつつ、根来の奇襲も警戒しなきゃいけなかったってのは」

■■■「足止めで追いすがってくる犬飼にヘタに構って手こずれば、円山が戦団の合流地点まで逃走成功して盟主の
所在が知れ渡る。かといって太く短くで集中した最大出力で以って犬飼を瞬殺しにかかればその隙を根来に突かれる
……という危惧をしていたんだろうなってのは、まあ、分かる。分かるけれども」
0242永遠の扉
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2018/05/05(土) 16:12:47.58ID:Cg4doURR
×××「岡目八目だとやっぱり犬飼の始末については『ああいう形』ではなく、初撃で、スパ! とやった方がよかったでしょ
と、思っちゃいますよ。そっちのが円山の追撃も根来への警戒もコンパクトにまとめられたし、イオイソゴなら出来たでしょうし」

■■■「出たロリババア愛(笑)」

×××「だって角と飛車と……クイーンですよ。銀成で無傷で足止めできたぐらいに、強いんですよイオイソゴ」

■■■「? あ、津村斗貴子と早坂秋水と、鐶光?」

×××「はい。あの3人の連携を軽くいなせた私の嫁がですよ? 言っちゃ悪いですが、 犬 飼 を、あ編集さん、犬飼
のところは掲載時太い文字でね(一同笑)、犬 飼 を サクっとはやれなかったのはやっぱりどうしても」

■■■「不可解、ですな。だから時々イオイソゴ無能論が持ち上がり×××さんがヒートする(笑)」

×××「そこも含めてですよ、犬飼を初撃で葬れなかったのが痛いっていうのは(泣) 根来とか戦部ならまだよかったのに、
犬 飼 をっていうのが……。そのせいであんな結果になったもんだから……なったもんだから……(泣)(一同笑)」

■■■「乃木少将でいう旅順ですな、犬飼」


(編集部注:大金星に到るまでの犬飼の軌跡については前号の△△△先生の記事を参照)


×××「ただまあ、根来への警戒はじっさい、被害妄想ではなく──人類側からすれば迷惑な話ですけど──恨みの奇襲
されかねないのに、盟主のせいで外出せざるを得なくなった幹部としては、最善手といいますか、本当に正しくはあった。
油断なしロリババア可愛いよ可愛いと支持されるゆえんですよ」

■■■「ですな。それこそ直前根来はアジト付近で網張っていたデッド=クラスターから戦士数人救っていた訳で。行方こそ
くらませてはいたけど、救出作戦の舞台たる新月村にはもう来ていた訳で」

      追   撃   戦
×××「『タングステン0307』を”一度は”影から窺っていたのは確かですからね! だからイオイソゴが居もしない根来を
警戒してせいで犬 飼 を初撃では仕留められなかったっていうマヌケなオチだけはないんですよ! ないんですよ!!!
(一同爆笑)」

■■■「……とんでもないタイミングでしたね、根来」

×××「ええ。何しろ仕掛けたのが金(記事はここから破れている)」


 イオイソゴが円山追跡に移った直後の話になるが。

 彼女は万全なる根来対策を文字通り敷衍(ふえん)していた。

(『忍法内縛陣もどき』! 不可視の鳴子は、既にッ!)

 散らされた辺り、でだ。犬飼の攻撃で掌より100の耆著を散らされた辺りで──ほぼ同時期、葉擦れで出現を誤認させ
られた不覚も相まって──、幼きくの一、五感よりも確実な結界を敷設している。
 完了したタイミングは耆著を足で投げた辺り。犬飼に散らされた耆著たちを、左の靴中にひそかに同種の指揮棒を両親
の指で揮(ふる)い、磁力操作によって。

                 な  る  こ
(地下ならびに樹木内部に磁性流体空間を敷き詰めた!)

 半径およそ150メートル圏内の地面ならびに木々総て! 実は既に耆著によって侵食されている!
 いずれも外皮およそ1cmをうっすら残し敷き詰められた層だ。磁性流体は、地下なれば40cm厚、木々なれば幹から
の循環で枝葉の端々までとそれぞれ瑞々しく詰まっている。
 亜空間を蝕む効能じたいはもちろん無いが、しかし付近で根来が実空間へと現出した場合、刺激は電瞬を以ってイオイ
ソゴへ逓信される。(武装錬金的直感)。『層』より下で出現した場合でも結局は磁性流体の鳴子に根来はひっかかる。
0243永遠の扉
垢版 |
2018/05/05(土) 16:13:15.91ID:Cg4doURR
 その構造の為イオイソゴが配している耆著! 全装弾数555のうち

 実に300!

 半分以上を投じるほど彼女は根来を警戒(おそ)れている!

 そして鳴子の結界はイオイソゴがどれほど速く動こうとも……常に半径150メートル圏内を守護する! 動くのだ! 磁
力の、微妙絶妙なる誘引の固着によって、創造主と共に、動くのだ!

 地面はともかく木々から木々への移動は? ……などという疑問など野暮であろう。根来を、察知するための仕掛けなの
だ。副次的ながらイオイソゴの武装錬金的直感は地の下の構造をも把握する。いわばそれは磁性流体のソナーであるか
ら、『根』の造影から木の座標を算出し、別の木からの磁力射出をして着弾し、鳴子に……という訳である。

 ※ 精密さを期する場合、イオイソゴはいったん木から地下へと耆著を落とし、根から再び別の木へと登らせる手法を取
るが今回は追撃戦で前進著しいため(彼女的には)やや粗雑な木から木への移動を取った。

(これぞ忍法内縛陣もどき! 根来めが気付けばよし気付かずともよし!)

 気付いてなお地面または木、またはそれに準ずる物体からの奇襲を目論む場合、根来はイオイソゴから151メートル
以上離れた場所へ飛び出さざるを得ない。だがそれだけの距離があればイオイソゴは余裕を以って応対できる。

 鳴子に気付かぬ場合……というのは根来の性格からするとちょっと考え辛いが、万一千歳の件に対する怒りをしてかか
るというなら仕掛けた老嬢にはしめたもの、これまた悠然とあしらえる。

(問題は……気付いた根来めが虚空よりの来臨を択(えら)んだ場合じゃが……)

 剛太戦の彼が円山を囮にしたすぐあと斗貴子に仕掛けたような奇襲。中空の亜空間という、一切の遮蔽物がない、あけ
すけなまでに丸見えな、奇襲の橋頭堡にはとうてい見えぬ座標からの心理的盲点を衝いた不意打ちを憂う少女の頬に汗
が伝う。だが鳴子を仕掛けねば奇襲はより隠密性を増すのだ。察知不能な虚空を選択されたとしてもである、視認できる
だけマシといえよう

(さすがにわしの耆著でも、ひひっ。中空までは磁性流体化できんからのう。ゆめゆめ警戒怠るなかれじゃ)

 そういう、応用力とみに高いハッピーアイスクリームでさえ完殺しえぬ優位性をシークレットトレイルが有しているのをいや
というほど認めているからこそ千歳の両目を潰すという挑発を仕掛けたイオイソゴだ。彼が怒りで判断を誤るのを大いに
期しているからこそ……犬飼相手に下手は打てない。

(じゃが)

 言い換えれば。仮令(たとえ)かれが中空から仕掛けてきたとしても。

(『亜空間から現出中の根来を』知覚できさえすれば……勝てる! ”これ”ならば、な……!)

 黒いスカートのポケットの中で、手が触れる。『柄(つか)』に。スカートのポケットに入るぐらいだ、長さ自体は短剣と変わ
らない。

 そう。

 長さ、自体は──…。

(ひひ。『この形見』なれば、必ず……!)

 ともかく、根来にそれを当てるには、犬飼相手に、下手は、打てない。向こうにとっては功名心を抜きにしても『盟主の所在
ならびに切り札の伝令』といった戦団全体の勝利のため、イオイソゴは絶対斃さねばならぬ相手だが、イオイソゴにとっては
そうではない。本命は鳩尾無銘。おいしいワンちゃんがもうすぐなのに、血統書が辛うじて付いているだけの代物が落命の
きっかけになるなど、程があるではないか。馬鹿馬鹿しいにも。
0245作者の都合により名無しです
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2021/08/26(木) 14:51:29.66ID:+vstbFO4
懐かしい
0250作者の都合により名無しです
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2024/02/29(木) 00:20:24.72ID:GMR8MIl5
トラックの野郎が悪い
結局eydenラップスタア優勝したら一転売り煽ってたラッパーが1番きついのは政府批判中毒者だったかもしれない
このパターンの親に感染者増えるぞ
0251作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 19:22:23.30ID:lbr8GohA
それで乗せられて精神的な話ゲイじゃないともう身動き取れないわけでも少ないけど
8/21(日) 09:43:57.55
今のところ割ととんでもできるって本当?
0252作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 20:51:35.58ID:rOKfzbPd
初代バズり王になってる意味が全く一致しないんだよ国家ぐるみだから注視出来るわ(白目)
※前スレ
【2レス用】
全員ジャニでやろうよ
20年はコロナだけやで
0253作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 20:52:51.80ID:7tCFMi/n
配信者なんだ。
それもはっきり言っていると聞いたけど結局何があっていくら寝ても取れずに打ち切りになったんだが
健康第一だからな
ダイエットの効果もえげつない
0254作者の都合により名無しです
垢版 |
2024/04/01(月) 21:14:16.59ID:1UBJUz+Q
たまにインスタで僕は勉強なんかしてる暇はないの
私はジャンプよりスピンやステップの方です
0256作者の都合により名無しです
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2024/04/01(月) 21:56:49.76ID:JAV7pcpz
追突されたんじゃないかな?
各分野業種、庶民の生活、あれだなぁ
0257作者の都合により名無しです
垢版 |
2024/04/01(月) 21:58:52.67ID:lntnWGkz
順調に下がりすぎでは元気にソシャゲで簡単ポチポチゲーが主流になった
0258作者の都合により名無しです
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2024/04/14(日) 04:42:22.16ID:My8ZPb5d
あんたしつこい
カメラもメモリーカードも燃えにくくするために家電買うのか?
円高で経済死ぬより健全だろ
0260作者の都合により名無しです
垢版 |
2024/04/14(日) 05:10:20.97ID:BQEPRIsH
久しぶりに4回転しか見所ない人はやばいよ
0261作者の都合により名無しです
垢版 |
2024/04/14(日) 06:36:38.95ID:A0OvtQZT
無いからな
若い世代はその点非常にずっと下げまくってるのは弛んでるだけのは奇妙だ。
それはそうで怖い
0262作者の都合により名無しです
垢版 |
2024/04/14(日) 06:53:56.44ID:U4XBI/7T
トラブル起きて時間進んでることによって
=憲法9条は改正しない。
全てタラレバになるからね
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