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宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど
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0001通常の名無しさんの3倍
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2019/07/24(水) 00:50:40.43ID:XfFrIQoe0
小説書いたこともなければスレッド建てるのも初めてなんだけど、もし誰か見てるなら投稿してみる
0501◆tyrQWQQxgU
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2019/10/09(水) 14:22:31.14ID:E2KM/Ibu0
 どうにか再び周囲の敵を一掃した我々だったが、レーダーにはまた熱源反応。機体だけでなく、パイロットも限界が近かった。
 機体の影が目に入る。反応が鈍ってきた大尉より先に、私は急接近しナギナタで斬りかかった。
『おいおい待て待て!!!!』
 ナギナタの柄をシールドで止めたのはアトリエ中尉だった。私はあろうことか中尉のガンダムに斬りかかるところだった。鈍っていたのは私の方か。
「おっと…済まない」
『それで済むかよ!全く…』
「来るのが遅すぎるぞ…」
『色々あったもんでな。こっちもこっちで大変だったのよ』
 そういってモニター越しの中尉が後ろを指差した。ガンダムMk-Wの後ろから薄っすら機影が見える。
 近づいてきたそれは、かの黒いガンダムだった。シェクター少尉のメタス改と予備機のジム2が随伴している。
『どういうことなんだ?鹵獲したのか?誰が乗ってる?』
 サドウスキー大尉が理解の追いつかない様子で立て続けに聞いた。私も状況が読めない。
『サム!髭のおっちゃん!』
 ジム2からの通信をモニターで確認すると、そこにはメアリーとワン中尉の姿があった。苦笑いするワン中尉と手を振るメアリー。
 さっき中尉に斬りかかった事といい、自分の頭がどうかしてしまったのだろうか。何故2人がここに居る?
『すみません、ちょっと状況を整理しますから…』
 シェクター少尉が頭を抱えた様子で言った。
「是非そうしてくれ…何が何だか」
 私とサドウスキー大尉は力なく笑うしかなかった。
0502◆tyrQWQQxgU
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2019/10/09(水) 14:23:03.08ID:E2KM/Ibu0
「なるほどな…」
 合流した皆からの報告を聞いた。
『お2人が敵を引きつけてくれてたおかげで、他の部隊もかなりの数が降下しています』
 シェクター少尉が言う。彼ら曰く、サイコガンダムはまだ完全に動かせているとは言えない様で緩慢な動きしか出来ないらしい。私からすればメアリーの脳波で動いているだけでも信じられないが。
「しかし、これ以上ここに留まっている場合ではないな。侵入路を見つけなければ」
『敵影が途切れたあたり、ここらには無さそうだな。増援は中尉たちの反対側から来ていた。多分そっち側に出入り出来る場所があるのだろう』
 サドウスキー大尉の推測は正しい様に思える。
『だったら決まりだ。行こうぜ』
 中尉のガンダムが先頭を行く。私とサドウスキー大尉が両脇を固め、背後をサイコガンダム、メタス改とジム2が付いてくる形になった。
 恐らくこの攻略戦において最も戦力が充実した部隊になっているだろう。敵も見逃してはくれまい。何せ敵の兵器まで引っ提げているし、おまけに巨大で目立つ。
 次第に騒がしさを増していく周囲。既に進入路と思しき周辺は激しい戦闘が繰り広げられている様だった。
0503◆tyrQWQQxgU
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2019/10/09(水) 14:23:27.69ID:E2KM/Ibu0
 やや先行気味の私とアトリエ中尉が、まず目視した敵機を落とす。エゥーゴ・カラバの他部隊と交戦するティターンズの背後から強襲する形となった。
『ワーウィック大尉が切り込み隊長だ!進路を拓けよ!アトリエ中尉は大尉を援護しながらサイコガンダムを守れ!取り付いてくる連中は俺と少尉が叩く』
 サドウスキー大尉が叫ぶように指揮を取る。
『俺だけ仕事が多いんじゃないっすかねえ?』
 そういいつつもアトリエ中尉は右に左に敵を上手く捌いていく。
『あたしだってやれるわ!』
 メアリーが興奮気味に言うが、サドウスキー大尉がなだめる。
『嬢ちゃんに無理はさせられん。ただ突っ立ってるだけでも敵が来てくれるんだ、下手に動くんじゃないぞ』
 メアリーは不服そうだったが、ここがどういう場所なのか理解している様だった。大人しく引き下がった。
「いい子だ」
 近づく敵機をナギナタで斬り伏せた。先程までの疲弊も自然と和らいでいる気がする。味方がいるというのは本当に心強い。
0504◆tyrQWQQxgU
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2019/10/09(水) 14:23:49.02ID:E2KM/Ibu0
 前方でも攻勢が続いている。押し合いになりつつも、徐々に我々と挟み潰す様相になってきた。反対側の自軍にも腕の立つパイロットがいる様だ。
 その時、見慣れない機体が単独で基地から出てきた。彩度の低いカラーリングのその機体は、自機のブースターで自力飛行している。爪の様なマニピュレータ含め、その姿は異形だった。
『あれは…バイアラン!?』
 ワン中尉が呟いた。
「新型か?」
『開発中のデータしか見てはいませんが…SFS無しで飛行するMSです。もう試作段階に入ってたなんて』
『作りかけか。いよいよジリ貧になってきた証拠だな!』
 アトリエ中尉が威嚇射撃を行う。難なくそれを躱した敵機は、中尉の機体を容易く抜いてそのままサイコガンダムを狙ってきた。
0505◆tyrQWQQxgU
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2019/10/09(水) 14:24:15.62ID:E2KM/Ibu0
『野郎…!行けよインコム…!』
 インコムで死角からの攻撃を試みる。敵はそれをわかっていたかのように最低限の動作で避けると、腕部のメガ粒子砲でインコムをピンポイントに撃ち抜いた。
『馬鹿な…ちぃ!』
 サーベルを抜いた中尉が迫る。それをサドウスキー大尉のリックディアスが砲撃で支援した。大尉の砲火を避けながら、敵はターゲットを中尉に切り替えた。
 先程のメガ粒子砲からサーベルを形成し、中尉の刃を受ける。互いのIフィールドが反発し合い、磁場の様なものを生じさせながら睨み合う。
『こいつは…不愉快だぜ』
 再び距離を取る敵の試作機。中尉と単機でまともにやり合うなど、少なく見積もってもエース級の相手だ。
0506◆tyrQWQQxgU
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2019/10/09(水) 14:24:51.57ID:E2KM/Ibu0
『ベイト!あいつ、サイコガンダムを動かしてたやつよ!同じ感じがする!』
 メアリーがそう言うと、サイコガンダムが拡散メガ粒子砲で敵機を撃つ。華麗に飛び回りながらそれを掻い潜る姿は確かに常人離れしている。
 間髪入れずに再び中尉とサドウスキー大尉がビームライフルで狙う。それも直撃には至らず、敵の肩を数回掠めただけだった。それどころか逆にサドウスキー大尉の機体の脚部を的確に撃ち抜く。
『くそ!脚をやられた!誰か中尉の援護を!』
「確かに1対1はまずい」
 まとわりつく他の敵機を払うと、私も試作機に肉薄する。中尉と切り結ぶ敵の背後から、マラサイはモノアイを光らせた。
 こちらが大振りで横に凪いだところを宙返りで躱すと、敵機は両腕のサーベルを展開したまま駒のように1回転した。ナギナタの柄でどうにか受けるも両断されてしまう。
 敵は怯む私をそのまま踏みつけ、踏み台のようにして飛ぶと中尉へと迫る。
0507◆tyrQWQQxgU
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2019/10/09(水) 14:25:37.36ID:E2KM/Ibu0
 次の瞬間には中尉の懐に入り込んだ敵機。我々の誰もがそれに反応しきれなかった。切り上げられた敵のサーベル。
『うおおおお!!』
 機体を目一杯に逸らしギリギリのところを躱そうとする中尉。躱しきれずに弾け飛ぶガンダムの左腕。更に敵が振りかぶった時、少尉のメタス改が敵機に直接突っ込んだ。
『やらせないッッッ!!』
 そのままハイメガキャノンを押し込むと、ゼロ距離で撃った。融解する砲身もそのままに撃ち抜く。耐えきれず主砲を破損したメタス改はそのまま不時着した。
 しかし、肝心の敵機は右腕を失っただけでまだ少尉の面前に立っていた。

『逃げろ!!!』
 同じく不時着した中尉が叫ぶ。私はマラサイの力の限り、敵へとナギナタを投げつけた。
 首を軽くひねる様にしてそれを躱した敵は、残る左腕のサーベルでメタス改に止めを刺そうとしていた。少尉は必死にもがく。
『くそ…!動けよ…くそ…!!!』
 敵は無情にもその左腕を振り下ろした。

57話 肉薄
0508◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:39:52.04ID:d++Auzh+0
「シェクター!!!」
 アトリエ中尉は無我夢中で叫んだ。ガンダムは動かない。しかし、敵機の様子がおかしい。先程振り下ろした筈の左腕はそれ以上動かなかった。代わりに、敵機の胸部には背後から突き立てられたビームサーベルが貫通していた。
 崩れ落ちる敵機。その後ろに立っていたのは、赤い色のリックディアスだった。
 その機体からは、これまでに感じたことの無いオーラを感じた。強化人間の黒いプレッシャーとも、メアリーの無邪気なものとも違う何かだった。悲しみと暖かさをない混ぜにした様な、複雑なものを感じ取った。
0509◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:40:19.94ID:d++Auzh+0
『朱雀所属小隊、全機無事だな?』
 そのリックディアスから通信が入る。一体何が起きたのかわからぬほど速過ぎる立ち回り。取り乱していたとはいえ、まともに目視出来なかった。1秒にも満たない出来事だったというのに。
「助かった…あんたは?」
『カラバのアウドムラ所属だ。間に合って良かった』
『アウドムラだと?じゃああんた…』
 サドウスキー大尉が驚きを隠せない様子だ。アウドムラのリックディアスといえば、もう思い当たるのは1人しかいない。
『レイ大尉…でありますか…!?』
 そう問うワーウィック大尉の声もまた震えていた。
『気を抜くな、まだ敵は来る。ガンダムのパイロット…彼女を頼む』
 そういって赤いリックディアスは再び別の戦線へと去った。
0510◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:40:42.21ID:d++Auzh+0
「彼女…?少尉、大丈夫か」
『ええ…どうにか』
 そうはいうものの、どう見てもシェクター少尉は当人も機体も満身創痍だった。
『あれが一年戦争の白い悪魔…!赤い彗星も手を焼いた訳だ』
 ワーウィック大尉は色んな感情が混ざっている様だ。ジオンの男が彼を忘れるはずもないだろう。
『しかし…これじゃ基地潜入は厳しいな…』
 サドウスキー大尉の言うとおり、戦力はズタボロだった。連戦に次ぐ連戦、そして極めつけは強化人間。援護が無ければ全滅していた。
0511◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:41:14.49ID:d++Auzh+0
 そうこうしているうちに、辺りの敵はかなり掃討されていた。エゥーゴ・カラバの部隊が遂に基地内部へ侵入していく。
『どうするかだな。正直言って、俺達にこれ以上の行軍は無理だと思うが…』
 サドウスキー大尉が口惜しそうに言う。
「サイコガンダムもデカ過ぎて内部には入れないしな。辛うじて動けるのは俺とワーウィック大尉か」
 ワーウィック大尉の機体もかなりガタがきているが、外的損傷は少ない。
 アトリエ中尉の機体も腕をやられてバランサーに狂いが出ているとはいえ、サドウスキー大尉やシェクター少尉に比べればまだマシだった。
『結局お前らか。散々頼りにしてきたが、最後の最後もやっぱり頼るしかないみたいだな』
 サドウスキー大尉が力なく笑った。
『付いていきたいところなんですが…ちょっとお手上げです』
 コックピット内を弄りながらシェクター少尉が言う。電装系もやられているらしい。
「大尉が敵を引きつけてなきゃ降下もままならなかっただろうし、少尉が突っ込んでなきゃ俺は間違いなく死んでた。十分過ぎるくらい働いたよ」
0512◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:41:52.33ID:d++Auzh+0
 簡単に装備を整える中尉とワーウィック大尉。
「大尉、ナギナタはほんとにそれでいいのか?」
 マラサイは両断されたナギナタをそれぞれ両手に持っていた。
『仕方あるまい。まあ、二刀流だと思えば』
 それに対してアトリエ中尉の機体は自機のライフルを腰部に、加えてサドウスキー大尉から借りた別のライフルを手にしている。
『お前ら、1本ずつ武器交換したらいいのにな』
 サドウスキー大尉が笑った。
『「いやいやいやいや」』
 つい2人の声が重なってしまった。考えていることは同じらしい。
『それぞれのスタイルってとこが良いんですよ』
 シェクター少尉も笑っていた。

「さて、そろそろ行くかい」
『何度も言うが、私が上官だ。私の指示を待て』
 そういいながらワーウィック大尉が笑みを浮かべた。
「俺の方が年上だって言ってんだろ?年長者を敬いなさいよ」
『やれやれ。変わらんな、お互い』
「それが俺達の良いところさ」
『ふん、一理あるな』
 2人は、残るメンバー達を背に基地内部へと進み始めた。

58話 スタイル
0513◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:53:20.14ID:d++Auzh+0
 基地へ潜入を開始する両機。本来ならば1度補給に戻るところだが、その猶予は無かった。私のマラサイが先行しつつ、すぐ後ろにアトリエ中尉のガンダムが続く。MSが余裕を持って進めるだけの道があり、比較的探索はしやすい。
『既に先客が来てるからな。だいぶすっきりしてるみたいだ』
 中尉の言うとおり迎撃戦があったとみられる残骸が散らばっているものの、敵影は見当たらなかった。
「かなり大規模な基地だ。司令部を見つけるまで、それらしい施設は全て抑えていくぞ」
『オーケー』
 大きな熱源反応も無いまま、自軍が進んだと思われるルートを進む。
0514◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:53:54.95ID:d++Auzh+0
 しばらく行くと、随分開けた場所に出た。MSの運用試験でもしていたのだろうか、様々な機器が不規則に並んでいた。
『さっきの試作機なんかはここで組んでたのかもしれねぇな』
「強化人間用らしい特殊な武装はなかったが、あそこまでの機動は常人には無理だな。正直言って中尉位しかまともに相手出来てなかったが」
『俺もやられる寸前だった。メアリーのニュータイプ論は撤回してもらわねぇと』
「天然のニュータイプと違って強化人間は身体強化も施されているからな。一概には言えんさ」
 そんな話をしながら試験場を後にしようとしていた時だった。進路に熱源反応。
『やっと来たかガンダム!!!』
 聞き覚えのある声。敵からの音声、やはり例の特務部隊の連中か。間髪入れず、向かっていたゲートの方からギャプランの様なMAらしき機影が突っ込んできた。
 マラサイで正面から両腕で頭を抑え込むが、バーニアを噴射しても堪えきれない程の出力だ。私は敵機を持ち上げる様にして進路を上に逸らす。
『ははは!流石にじゃじゃ馬だなぁ!!』
 敵がはしゃいでいる。MS形態を捨てて加速力に特化した様だ。
『…余り騒ぐな』
 また別の声。発信源源はゲートの向こうだ。それに対してアトリエ中尉が笑いながら言い返した。
『前も思ったけどよ、お前ら特務部隊なんだろ?喋り過ぎだっての』
『何故喋るのか知りたいか?我々の声を聞かれたところで、殺してしまえば伝聞される心配もない。死人に口なしだ』
『残念ながら俺達生きてるぜ。そういう甘さ、嫌いじゃないけど』
『ここで死ぬさ』
 ゲートの向こうから悠々と現れた機体は、ガンダムだった。
0515◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:54:22.07ID:d++Auzh+0
「ガンダム!?」
 私は声に出して狼狽えた。そのガンダムは全身をティターンズカラーの黒に身を包み、Mk-Uの面影を感じさせつつも明らかに違う機体だった。
『そう、これこそティターンズの正統なるガンダムだ。エゥーゴが強奪したMk-Uとも、貴様らが研究所から盗み出したMk-Wとも違う。ガンダムMk-V"ハーピュレイ"…まだ試作機だがな』
 ビームスピアーを携行しているのはこのパイロットの使い慣れた得物という事だろう。万全な状態ならまだしも、現状でこの2機を相手取るのはかなり骨が折れそうだ。
「今更Vか?うちのはWだ」
 私は敵に急接近した。振りかぶったビームナギナタを敵はビームスピアーで受ける。
『そんな機体でどこまでやれるかな。貴様らのMk-Wも研究データを試験的に建造したものに過ぎん』
 敵機は容易くナギナタをいなすと、ビームライフルを放った。ショルダーシールドで受けるも、その反動ですら駆動系は悲鳴を上げた。
『あんまりガンダムに気ぃ取られてっと死ぬぜ!』
 息もつかせずにギャプラン改が迫る。身構えた私との間に中尉が割って入る。
『邪魔すんな飛行機!』
 アトリエ中尉がライフルで狙う。普通なら直撃する様な軌道も敵は躱す。それを中尉が追う様な形になった。その間も敵ガンダムとの白兵戦は続く。明らかにこちらが劣勢だった。
0516◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:54:49.10ID:d++Auzh+0
 ガンダムのビームスピアーを、両手のナギナタの刃を重ねるようにして受け止める。
「ちぃ…」
『キリマンジャロで試験運用予定だったものを回してもらったのだ。実戦配備される暁には貴様らのMSなど…』
「…連邦のエリートさんにいい事を教えてやる」
『何だと?』
 マラサイでガンダムの腹を蹴り飛ばすと、再び距離を取った。
「MSの性能差は戦力の決定的差ではない。…旧ジオンのエース、赤い彗星の言葉だ』
『その男もついぞガンダムには勝てなかったがな!』
「彼のその精神が私の様な者達に引き継がれた。単なる象徴でしかないガンダムなど!」
 マラサイの駆動系は限界だったが、それでもまだ動く。そろそろ奥の手を使うタイミングかもしれない。
 私は躊躇うことなくマラサイの出力リミットを解除した。各部から低い唸り声の様な音が響く。ただでさえ駆動系がダメージを負っている状態で、さらなる負担を掛けるのは得策とはいえない。
 それでも敵を倒すには今はこれしかない。
0517◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:55:21.72ID:d++Auzh+0
『…何をした』
「今に思い知る」
 言うやいなや、マラサイは敵に迫った。今までとは比べ物にならない瞬発力に敵の反応が追いついていないようだ。私自身も強烈なGに耐えるのが精一杯の中、喰らいついていた。
 一気に間合いを詰めると、敵がスピアーを向ける暇を与えずに片手のナギナタでガンダムの右腕を切り落とした。更にもう片方のナギナタを左肩の装甲に突き立て、剥き出しになった肩関節を直接マニピュレータで掴むと、腕ごと引きちぎる。
『馬鹿な!?』
 追撃はここからだ。マラサイの姿勢を瞬時に低くすると、敵機の脚を払う。姿勢が崩れた間に、残るナギナタを掌で回すようにして逆手に持ち直す。
 倒れる前にバーニアを吹かして距離を取ろうとする敵のガンダムだが、私は間合いを空けさせなかった。
 逃げる敵に飛びかかる様にして更に迫る。敵の両脚を、短く持ったナギナタで凪ぐようにして順に捌く。尚も逃げようとする敵の頭部を回し蹴りで弾き飛ばした。
0518◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:55:44.30ID:d++Auzh+0
 ボディ以外の何もかもを失い地に落ちたガンダムを踏みつける。初めてサイコガンダムに相対した時に感じた恐怖を感じることは無かった。もう今の私は記号としてのガンダムに何の意味もない事を知っている。
 関節の各部から火花を散らしながら、私の機体はかつての悪魔の名を冠する敵を見下ろしていた。
「お前達ティターンズは、かつてのジオンがおかした過ちをもう一度繰り返してきた。…その螺旋は必ず私達が止める」
『一体何が起きた…』
「これがお前たちの言うガンダムなのかもしれないが、私の知るガンダムではないな」
 そういうと、コクピットにナギナタを突き立てた。
0519◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 21:56:14.17ID:d++Auzh+0
「中尉」
 肩で息をしながら私は通信を行った。
『まじか!やったのかよ!?』
 アトリエ中尉はギャプラン改と交戦している。確かに敵は高機動だが、この狭い場ではそれを活かしきれていない。
 中尉のライフルもなかなか直撃とはいかないにしろ、確実に敵を追い込んでいる。
「中尉、出力リミッターカットを行った」
『下手打つとバラバラになるぞ!』
「あのままだとこちらがやられていた」
『そりゃそうかもしれねぇが…』
「バラバラにしてやるぶんにはいいだろ?」
『一理あるな』
 中尉も以前マラサイに搭乗していた際、恐らくリミッターを解除している。その時とは状況も違うとはいえ、必要性を理解してくれたのだろう。
『スペクターがやられた!?ガンダムまで持ち出しておいて…!』
 ギャプラン改のパイロットが焦る。するとそのまま我々の来た道を飛んでいった。
『まずい!あいつ外に出る気か!』
 追おうとする中尉を制した。
「大丈夫だ。外は友軍が固めつつある。それより、あいつらが居たということは隊長格もこの何処かに居るはずだ。先に潜入した部隊の状況も気になるしな」
『そうだな…』
 そういいながら、中尉は転がっている敵ガンダムの頭部を蹴飛ばした。こうなってしまうとガンダムもただのスクラップだった。
0520◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/10(木) 21:56:43.85ID:d++Auzh+0
 マラサイの受領から今日に至るまでそれほどの時間を経過した訳ではないが、試作機とはいえこのマラサイは最新鋭とは言えなくなっていた。
 リミッターカットでかなりの負荷を掛けてしまった事もあり、恐らくこの作戦で役目を終えることになるだろう。
 私は、この機体にかつての愛機だったザクの面影を重ねていた。

59話 ガンダム
0521◆tyrQWQQxgU
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2019/10/10(木) 22:25:34.62ID:d++Auzh+0
pixivも更新しました!
https://www.pixiv.net/novel/series/1155468

さて、遂にプロローグを含めると60話分の物語に。
稚拙な文章とムラのある更新ペースでしたが、皆様の応援もありここまでこれました。
明日は先行して書き溜めた2話分を放出して、そこからは残りの話をほぼリアルタイムでお届けしたいと思っています!ライブ感!
物語も佳境を迎えていますが、楽しんでいただけているでしょうか?
よろしければ最後まで是非お付き合いください!!
0522◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/11(金) 15:16:47.79ID:Fe3g27KP0
 ワーウィック大尉とアトリエ中尉が基地内部に潜入してしばらく経つ。シェクター少尉はメタスの電装系の復旧作業をどうにか終え、サドウスキー大尉達と2人の退路を守っていた。

「敵もかなりの数が降伏しましたね」
『ああ。どうも指揮系統に乱れがあったらしいな。このフィールドは殆ど制圧したと言っていいだろう』
 サドウスキー大尉のリックディアスはSFSに載せて対応していた。脚部が損傷している為白兵戦は難しい。
『スティレット!あたしもだいぶこの子の扱い慣れてきたわ』
 メアリーの操るサイコガンダムがこちらに手を振っている。友の仇ともいえる機体だったが、こうなってしまえば敵の面子も何も形無しだ。メアリーが扱えば愛嬌すら感じさせる。
 所詮機械など扱う人間次第なのだ。真の仇だった強化人間も今は亡く、後は2人の帰りを待つだけだった。
0523◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/11(金) 15:17:14.99ID:Fe3g27KP0
『皆、基地内部から高速でこちらに向かってくる機体があるわ。味方ではなさそう』
 ワン中尉のジム2からの通信。少尉の方でも熱源を確認していた。
『また強化人間じゃなきゃ良いがな』
 サドウスキー大尉のリックディアスが身構えるとほぼ同時に、その機体は地上へと現れた。ギャプランの様だが、かなり改良されているように見える。
「あれは…!特務部隊のやつじゃないですか?」
『俺もそう思ったとこだ。どっちにしろ厄介だな』
 そういうと大尉のリックディアスは敵機の後を追った。少尉のメタス改もそれを追う。
『あんまり無茶するなよ!主砲も使えん状態じゃ火力もかなり低下してる』
 大尉の言うとおり、先程の戦闘でかなりダメージを負っている。長期戦になればなるほど不利なのは明白だった。
「お互い様ですよ。1機だけなら連携すればどうにか」
0524◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/11(金) 15:17:40.82ID:Fe3g27KP0
『ナメられたもんだぜ!壊れかけとは!』
 敵の声が届く。やはり特務部隊のギャプランか。
「今日はあんただけか。他の連中はやられたのか?」
『そういうお前らもエースが2人とも居ねぇな!さっき会ってきたが』
『何だと!?』
 サドウスキー大尉が声を荒げる。キャノン砲で追撃を掛けたが難なく躱された。
『今頃どうしてるんだろうなぁ?』
 敵が少尉達をからかう様に笑った。
「ふん、あの2人に限ってお前ら如きにやられはしない。お前こそ1人で逃げ出してきたってところなんじゃないのか?」
『減らず口を!』
「お前が言うなよ…!」
 反転してきたギャプランを前にMS形態へと変形、ビームサーベルで迎え撃つ。
『遅い遅い!』
 こちらが斬りかかるよりも早く敵は面前をすり抜けた。それを追おうとする少尉だが、更に後ろへと回り込まれる。振り抜きざまに切り払おうとするも、敵のメガ粒子砲が機体を掠めた。手玉に取られる。
0525◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/11(金) 15:17:57.78ID:Fe3g27KP0
『大口叩く割に全然だなぁ。やっぱガンダム抜きじゃ遊び甲斐がねえな』
 敵はこちらの攻撃をいとも簡単にすり抜ける。大尉の牽制も功を奏していない。元々高機動なギャプランだったが、更にその加速力を高めている様だ。
 掻き回されていたところに複数のメガ粒子砲が走る。メアリーのサイコガンダムだった。
『調子乗るんじゃないわよ!』
「馬鹿!手を出すんじゃない!」
 一瞬動きが鈍ったギャプランだったが、サイコガンダムの方へ加速しだした。
『研究所の頭でっかち共が作ったおもちゃか!ぶっ壊してやる。…いや待てよ、今の通信はそっちか?』
 まずい。敵がジム2の方に気付いた。少尉はMA形態で敵より先にメアリー達の元へと急ぐ。
0526◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/11(金) 15:18:18.50ID:Fe3g27KP0
『お前の相手はこっちだ!』
 サドウスキー大尉が砲撃を行い敵の進路を阻むが、敵は尚も突っ込んでくる。
「…!こなくそ!」
 再びMS形態になると、一か八か敵の進路に正面から立つ。
『トチ狂ったか!貰った!!』
 敵のメガ粒子砲をまともに喰らう。右腕と左脚が弾け飛ぶが、それでもギリギリまで引きつける。
『スティレット!!』
 ワン中尉の声が響く。
0527◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/11(金) 15:18:36.77ID:Fe3g27KP0
「…今だ…!」
 射撃体勢を取ったメタス改のバックパックを敵に向けて射出する。敵の油断と大尉の牽制で、ギャプランはこれを躱すことが出来なかった。機首から破損した主砲に突っ込む形になり、著しく体勢が崩れた。
『くそ!』
 敵パイロットが狼狽える。
『少尉!使え!!』
 すかさずサドウスキー大尉の方向からSFSが飛んでくる。危うくメインブースターを失って落下していくところだった。メタス改は右の片膝を突き、膝下を失った左脚を踏ん張らせる。
 左手には残る最後のビームサーベル。出力を最大まで引き上げると、トマホークとサーベルを組み合わせた様な刃を形成した。
0528◆tyrQWQQxgU
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2019/10/11(金) 15:19:11.34ID:Fe3g27KP0
『小賢しい真似ばかり…!』
 メインカメラを塞がれ、無軌道な動きを繰り返す敵機。無事着地したサドウスキー大尉が射撃を試みた。
『流石に躱せんだろう!今度こそ落ちろ!』
 複数被弾しながらも動きを止めないギャプラン。むしろ当たりにいっているとも取れる。
「そうか、そんなにそれが邪魔か」
 遂にメタス改のバックパックが誘爆を起こす。爆炎の中から半壊したギャプランが姿を現した。
『俺はまだ飛び足りねえ!こんなところで終われるかよぉッッッ!!!』
 敵の叫びも受け止める様に、少尉のメタスは再び正面から迎え撃つ。
 獣の様な咆哮をあげ崩れゆく機体が突っ込んでくる。それを介錯するかの様に、少尉はギャプランを胴から両断して切り捨てた。そのままバラバラになった敵機は、爆散しながら落ちていった。
「終わりはあるさ、誰にも」

60話 終わりはあるさ、誰にも
0529◆tyrQWQQxgU
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2019/10/11(金) 15:21:58.45ID:Fe3g27KP0
 カラバのガンダムと交戦に入ったスペクター大尉達から定時報告が途切れた。まだ交戦中なのか、或いは…。アイバニーズ少佐はコクピットの中で腕を組んだまま待機を続けていた。2人を先行させ、少佐は地下のドックで待機していたのだった。
 ドックでは撤退時に使用するはずの潜水艦が出航準備をしている。まだ前線では将兵達が決死の覚悟で戦っているはずだ。これではまるで敵前逃亡ではないか。誰の仕業かは大体の察しはついている。
 停泊している潜水艦の準備が出来たのを見計らって、少佐はその進路を塞ぐようにして潜水艦の前に立った。制止する管制官の声は全て無視しながら、潜水艦の司令部に通信を行った。
0530◆tyrQWQQxgU
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2019/10/11(金) 15:22:22.47ID:Fe3g27KP0
「ここで何をしてらっしゃるので?フェンダー少将」
『…君に何の関係があるのだね。少佐こそ何故こんな所で油を売っている』
 予想通り、この艦にはフェンダー少将が乗艦していた。旗色が悪くなっての撤退といったところだろう。この男は昔からそういう立ち回りばかりしてきた。
「少将殿がご予定にない動きをされていましたから、何事かと。こちらのご心配には及びません、前線は皆が支えております」
『ならば君も早く合流したまえ。私は指揮系統を別の場所に移さねばならん』
「別の場所とは?キリマンジャロですか?それともダカールの上等なチェアの上ですかな」
『…何が言いたい』
「少将。あなたは支援こそしてくださったが、前線からは逃げてばかりだ。この艦を出航なさるなら敵前逃亡でしょう。まぁ、出航出来たらの話ですがね」
『そこをどけ!不敬だぞ!!』
 フェンダー少将が声を荒げた。ドックに待機していたMS隊が出てくる。
0531◆tyrQWQQxgU
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2019/10/11(金) 15:22:51.98ID:Fe3g27KP0
「全く何処まで腐って…」
 出てきたMS隊がライフルをこちらに向けるよりも早く、こちらから撃ち抜き無力化した。
『は…反逆ではないか!!』
「どのお口で仰るのか。すぐにお戻りください。只でさえ前線は混乱しております。それを指揮官が投げ出すなどと」
『構わん!出せ!轢いてしまってよい!!』
「これ以上は話す余地がないのでしょうな」
 少将の乗る潜水艦は、少佐のジムクゥエルに構わず前進を始めた。それを正面から受け止め踏みとどまるが、流石にMSで艦を止めるのはいささか無理がある。徐々に押し込まれていく。
『ははは!要らぬ邪魔などするからだ!』
「どうでしょう」
 ジムクゥエルは今回の改修で新しく装備を増設している。その1つであるサブアームを背後から展開した。
 T3部隊での運用データから転用したものだ。サブアームは左右一対、それぞれがビームサーベルを抜くと、潜水艦の前面を切り取り始めた。
『や…やめろ!』
「これでは潜れませんな」
0532◆tyrQWQQxgU
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2019/10/11(金) 15:23:14.60ID:Fe3g27KP0
 前進する推力を弱めた潜水艦。しかしもう遅い。切り取った前部を放り投げると、ぽっかり空いた断面にビームライフルを放つ。内部から焼かれ、物資に誘爆し始める。
『だ…脱出だ…』
 通信の向こうで少将が慌てふためいているのがわかる。
「だから私はお伝えしたのですよ。早くお戻りくださいと」
 そういいながらハッチというハッチを焼く。もうフェンダー少将はこの艦を降りられない。それを知らない彼は誘爆の恐怖に怯えながら右往左往する事だろう。
「それからもう一つ。スペクター大尉に何か仕込まれましたな」
『お…お前の監視をさせた…!何を考えているかわからんからと…』
「やはりそうでしょうな。しかし、ガンダムをあげた途端容易く巻けました。あなたからの支給品ですよ」
『な…何がほしい!?昇格か!私の推薦ならすぐにでも…』
「私は今の地位、今の機体で十分です。それでは」
『待ってくれ!!』
0533◆tyrQWQQxgU
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2019/10/11(金) 15:23:44.51ID:Fe3g27KP0
 アイバニーズ少佐は一方的に通信を切った。黒い煙と炎を立ち上らせる艦を背に、レーダーの熱源反応を見ていた。2機。味方の識別信号を出していないあたり、例のガンダムとマラサイだろう。やはり先行させた2人はやられた様だ。
 部下はやられ上官はこのざま、残るは自身のみだった。これまでも負けは経験してきたが、ここまで追い込まれた事はない。しかし絶望感は不思議と無かった。それに勝るほどの開放感と充実感に満たされている。
「来るか」
 近付く熱源反応に、アイバニーズ少佐の高揚も高まっていく様だった。

61話 黒い煙と炎
0535通常の名無しさんの3倍
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2019/10/13(日) 19:16:42.51ID:la5NcU2z0
地下ドックで黒煙を上げる潜水艦......生身でコックピットから出たら中毒死しそうですね。
水もあることだし、もしかして : 宇宙戦闘描写のテスト

アシュラ・テンプルならぬアシュラ・クゥエルとは恐れ入りましたw (上手くない)
ギリギリまで奥義として残すか、いきなり展開して突撃をかけるか
今までのアイバニーズを見るに前者ですが、追い詰められた者は何をしでかすか分かりませんね。
続きを楽しみにしてます
0536◆tyrQWQQxgU
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2019/10/13(日) 23:21:10.85ID:LWpBA6kq0
>>534
>>535
レスありがとうございます!
一応最終決戦です!この後の事はまだ何も考えていませんが、グリプス戦役だけ取ってもまだ中盤ですから、その後も題材としては続けられそうですね…!

地下のドックなんで、まあ生身だと普通に死にますよね…w
サブアーム好きなんで付けちゃいました!比較的急造でも取り付けやすそうでしたし
どう戦うかは乞うご期待!
0537◆tyrQWQQxgU
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2019/10/13(日) 23:22:54.48ID:LWpBA6kq0
 私とアトリエ中尉は試験場を後にすると、更に先へと進んだ。
『こりゃひでえな。あいつらか』
 先遣隊の残骸だった。逃げ場の無い閉所で一網打尽にされたらしい。確認出来る限り、全滅している様だった。
「これだけ倒せば自信過剰にもなるか」
 ガンダムの力というのはまさしく一騎当千だが、過剰な力はそれをコントロールする思想を伴わなければ只の暴力…いや、思想が伴っても尚暴力なのだ。
 扱いきれなくなれば、いずれ自らや親しい存在にそれを向けることにもなるだろう。

 それから我々は司令部らしき拠点を発見するも、既にもぬけの殻だった。指揮系統を別の場所に移したのか。とにかく先に進むより他無さそうだ。
「さっきマップデータを拝借したんだが、この地下に潜水艦のドックがある様だ」
『サラッと仕事するよな大尉って。どうする?』
「行けば敵の情報が少しは得られるかもな。何も無いなら無いで、敵の退路を絶っておくことも出来る」
『敢えてスルーする理由もないか。行こうぜ』
0538◆tyrQWQQxgU
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2019/10/13(日) 23:23:18.85ID:LWpBA6kq0
 資材搬出用のエレベーターを使い、地下へと降りていく。
『…!艦だけじゃねぇ。パラパラと熱源反応』
「まあ艦があればMSも居るだろう。しかし、熱源反応があるということは稼働しているのか…」
『確かに。数的には大したことはないが、手練だとしんどいな』
「あちらもそろそろ気付いている筈…。何故動きがない?」
『妙だな…』
 そうこうしているうちに目的のフロアに到着した。道をまっすぐ行けば潜水艦と思われる熱源に接触する。しかし様子がおかしい。潜水艦と思しき船体が、燃えているのである。
『なんだ、先遣隊が先に叩いたのか?でもさっきの場所で全滅してたよな…』
「…何かいるな」
 燃える艦を背に、1体のMSの影がこちらを誘う様に揺らめいている。
「最後の最後…よりによって特上のデザートというところか」
『こりゃ胃もたれしそうだな。まあ…どっかでやり合うとは思ってたが、まさかのお出迎えとはな』
 その揺れる影は、特務部隊隊長のものと思われるジムクゥエルだった。
0539◆tyrQWQQxgU
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2019/10/13(日) 23:23:54.53ID:LWpBA6kq0
『待ちくたびれた…というのも違うか』
 敵の声。恐らく、隊長の声を聞くのは初めてだった。
『あんたらは喋らないと気が済まない性分みたいだな』
 アトリエ中尉が茶化す。喋りながらもお互いに隙は無かった。私と中尉は付かず離れずの距離を保ちながら、並んで敵と対峙する。前回の戦闘から改修を行ったらしく、各部に元とは違う意匠がみられた。
『貴様らがここに来たということは、部下達はしくじったのだな』
「そういうことだ。ここの陥落も程なくだろう」
『私も暗愚ではない。事の趨勢は視えている…。踏み違えたのだろうな、踏むべき絵を』
 依然として敵の機体に動きはない。
『どんな絵を踏もうが、信念があるなら突き通せばいい』
 アトリエ中尉が静かに言うと、敵は鼻で笑った。
『ふふ…そんなものは端から無いとも。ただひたすらに戦うのみだった』
「…今は違うのか?」
『どうだろうな』
0540◆tyrQWQQxgU
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2019/10/13(日) 23:24:26.15ID:LWpBA6kq0
 言うやいなや敵がサーベルを抜いて私に斬りかかった。1本だけになったナギナタの片割れを両手で構え、それを受ける。
「それだけの腕を持っていて、戦う為だけにそれを振るってきたのか?」
 反発し合うIフィールドの光に目を細めながら私は問う。
『戦うことでしか自らを維持出来なかっただけだ。それ以上の理由など』
 言い終わるより前に中尉のライフルが敵目掛けて放たれる。敵は避けながら後ろに跳ねると距離を取った。すかさず我々は距離を詰める。
 アトリエ中尉は弾数を使い切ったサドウスキー大尉のライフルを捨てて、腰に装着していた自機のライフルに持ち替えた。
『貴様らもそうだろう?宇宙移民への圧政が何だともっともらしい理屈を並べても、結局戦うしか能がない』
「あくまでも銃を取るのは手段だ。私達にはその先がある」
『何もないとも。あるのは平等な死だけだ』
『わかったような口利きやがって!』
 ガンダムのライフルが再び敵を狙う。敵はそれも躱すと、そのまま燃える艦の上に立った。
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2019/10/13(日) 23:24:55.82ID:LWpBA6kq0
『戦っている私達は充足しているだろう?それそのものに意味を見出して何が悪い』
『人が死んでいく…!お前は何も感じずただ戦いに酔えるってのか?』
『そういうお前はガンダムに乗って酔わなかったとでも?血が沸いたのではないか?』
 中尉は押し黙った。私も何も言えなかった。戦いに自らを見出したこの男を否定出来なかった。当初の私も同じだったのだから。
『私の姑息な上官はこの炎の中だ。私が燃やした。戦うことも出来ん男が一丁前に欲だけは掻くのだよ…。』
「仲間殺しか。見下げたやつだな」
『仲間なものか。私に仲間などいた事はない』
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2019/10/13(日) 23:25:41.38ID:LWpBA6kq0
『寂しいやつ』
 中尉がまたライフルを放つ。当然の様にそれを躱しながら、ガンダムの前に着地すると再びサーベルを抜く。切り下げたサーベルを中尉が躱したとき、敵の背後からサブアームの展開が見えた。
「中尉!」
『見えてるよ!』
 そうはいうもののガンダムの反応が間に合わず、サブアームのビームサーベルで首の傍に斬撃を受ける。間髪入れずに敵の背後から私が斬りかかるも、もう1本のサブアームがサーベルで受け止めた。
『この程度で終わってもらっては困るぞエゥーゴ!』
 サブアームのサーベルでマラサイを牽制しつつ、ジムクゥエルはガンダムを蹴り飛ばした。弾かれる中尉。私と一騎討ちになった敵は、一気に攻撃を畳み掛けてきた。
 ナギナタのみで3本のサーベルと切り結ぶ。一撃、また一撃と、捌ききれない敵の斬撃がマラサイの装甲を裂く。耐えきれずに右肩のシールドで刃を受けると、またたく間にシールドは細切れにされた。
『クソ!』
 中尉がライフルを敵に向ける。気を取られたその一瞬の隙を突いて、両手で切り上げる様にしてサブアームを1本落とす。しかしすぐさま無防備な腹を敵のサーベルが凪いだ。
 切り上げるとほぼ同時に後退するようバーニアを吹いたおかげで浅く済んだものの、危うく焼け死ぬところだった。
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2019/10/13(日) 23:26:21.57ID:LWpBA6kq0
『どうもお前達では役不足だな。満身創痍ではないか』
 再び距離を取った我々を嘲笑う様に言う。
『据え膳待ってたやつが言えたことかよ…!』
 悪態をつくアトリエ中尉の息も荒い。私もそうだが、ここまでの連戦に次ぐ連戦で機体も身体も限界はとっくに超えている。
「ここでハイおしまいとはいかないんだな、これが…!」
 我々がここで死のうともこの作戦自体は恐らく成功するだろう。だが、何としても我々を待つ仲間達の元へと戻らねば。その思いだけが膝をつかせなかった。軋む機体に鞭打ちながら、再び敵を見据えた。

62話 影
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2019/10/17(木) 09:56:57.58ID:wPn+fNLE0
 燃え盛る炎は船体をすっかり覆ってしまい、それでも飽き足らず天井を焦がしている。それに伴う黒煙があたりに立ち込め、視界が遮られ始めていた。
 ワーウィック大尉のマラサイはナギナタを携え静かに佇む。その眼光は依然として鋭く敵を射貫いている様だ。アトリエ中尉は深く息を吸い込むと、空気を吐き出しながらライフルを構え直す。
0545◆tyrQWQQxgU
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2019/10/17(木) 09:57:26.33ID:wPn+fNLE0
『貴様らはこれまで戦い抜いてきた。称賛に値する事だよそれは。だが無意味だ』
 そう語る敵のジムクゥエルはまだ余裕を残している。切断されたサブアームの1本を炸裂ボルトで排除しながら尚も続ける。
『何故戦うのか問うのも無意味だ。戦う事で誰かの戦う意義を否定するしか、生き延びる道など無いのだからな』
「…確かにお前の言う通り、俺はMSに乗るのは好きだ。ガンダムに興奮したのも事実さ。だけどな、それが全てだなんて思えるほど俺のこれから続いていく未来はちっぽけじゃねぇんだ」
 ロックオンは済んでいる。引金を引くのが先か、敵が動くのが先か。
『貴様の未来などたかが知れている。ここで死ぬのもひとつだ』
「抜かせ…!」
 アトリエ中尉は先に引金を引いた。躱そうと反応した敵機だったが、中尉が狙ったのは背後の潜水艦だった。しかも熱源反応の中心を狙ったのだ。想定していた以上の大爆発が起こると、爆風に飲まれ弾き飛ばされた。
0546◆tyrQWQQxgU
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2019/10/17(木) 09:57:52.79ID:wPn+fNLE0
 基地の一部を飲み込む様な規模の爆発は、周囲を一変させていた。区画という区画の壁は破壊され、崩落した床と更に上の階層の天井をも突き破っている。
 電気が供給されなくなった為か、あたりはかなり暗くなった。天井の切れ目から届く光がスポットライトの様に、剥き出しになった湿った土を点々と照らしている。
 所々残った火と相まって、闇にまばらな模様を作っているかの様だ。ガンダムはその場に倒れ込んでいた。
『…無事か?』
 瓦礫の中から現れたのはワーウィック大尉のマラサイだった。細部まではよく見えないが、無事な様だ。
「もう無理だ、動けねーわ」
『中尉がそう言ってるうちは大丈夫そうだな。しかし、全く無理ばかりする』
「まともにやりあってたらやばかっただろ、実際…」
 2人は辺りを見渡した。レーダーはまともに機能しなくなり、視認するしか敵を捉える術がなくなってしまった。姿は見えないが、恐らく位置的には爆発が直撃した筈だ。
0547◆tyrQWQQxgU
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2019/10/17(木) 09:58:54.54ID:wPn+fNLE0
「さて…どうやって帰るかだな…」
『救援を待ってもいいが、かなり掛かりそうだ』
 瓦礫を退かしながらマラサイが立ち上がる。その時、アトリエ中尉の脳裏に何か予感の様なものが走った。
「大尉!」
 遅かった。マラサイの背後から半壊したジムクゥエルがビームサーベルを突き立てていた。
『…救援など来ない』
 敵の声だった。崩れ落ちるマラサイ。
「うあああああ!!」
 中尉は叫びながらビームサーベルを抜いた。しかしいくらバーニアを吹かしても機体は動かない。脚部が崩落した天井の瓦礫に挟まれている。
『よくやったが…これまでのようだな』
 ゆっくりとにじり寄ってくるジムクゥエル。割れたバイザーから覗くカメラアイが、不気味に赤く光っている。
「こんなとこで…死ねるかよ…!」
 レバーを何度引き直してもガンダムは動かない。
「立ちあがれ…!立ちあがってくれよガンダムッッッ!!」
 中尉の悲痛な声が虚しく響く。瓦礫から体を引き抜こうとしても、駆動系から火花が散るだけだった。
0548◆tyrQWQQxgU
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2019/10/17(木) 09:59:18.89ID:wPn+fNLE0
『…戦いそのものを除く全ては無意味だ。しかし人はこれからも戦い続けるのだよ。無意味な暇潰しに大義名分を後付してな』
 ジムクゥエルがガンダムの前に立つ。中尉は絶対に頭は垂れなかった。
「無意味無意味言いやがって!…お前にはわかんねぇんだよ…!自分を待つ人の愛や暖かみが!」
『わかりたくもないな。所詮欺瞞やエゴに塗れた不確かな感傷だろうに』
「欺瞞も…エゴも…!それすら許しあえるのが人間の強さだッッッ!!」
『ならば…貴様の死で私を許してみせろ!!』
 敵がビームサーベルを構えた。それでも中尉は敵を見据える目を逸らさなかった。
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2019/10/17(木) 09:59:43.75ID:wPn+fNLE0
『…よく言ったぞ…中尉…』
 ワーウィック大尉の声だった。マラサイが手をつき、立ち上がろうとしている。立ち上がることすらままならない損傷を受けている機体だが、先程のビームサーベルは間違いなく胴を貫通していた。
 ワーウィック大尉自身も無事では済んでいない筈だ。
「何で動いた!?そのまま寝てろよ!!」
 敵も動きを止め、中尉からマラサイへと視線を移す。
『まあ…そのまま寝ていれば見逃していたかもしれんな。余計に癪だ…貴様から殺す』
 ジムクゥエルは向きを変え、マラサイの方へと歩き出す。まだマラサイは片膝を突いている。
『…お前は…怖かったんだな…?時代に…取り残されて…いくのが…』
 大尉が息も絶え絶えに言った。敵が歩みを止める。
『何だと』
『いずれ世界は平和を取り戻す…そうなった時…戦いしか知らない自分の居場所を…見つけられないのが…怖いんだろ…?』
『黙れ』
『俺も…同じだった…!』
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2019/10/17(木) 10:00:08.21ID:wPn+fNLE0
 機体の各部からは血のようにオイルが滴り、それでも膝を突き立ち上がろうとする姿は余りにも痛々しかった。
『手段はいつしか…目的と刷り変わったりもする…そうやって今も彷徨っているのかもしれない。…だが…そんな俺にも…』
 外装を失いフレームが剥き出しになった右腕と、原型を留めずにへしゃげた左腕。焼けた腹部からは千切れた動力パイプがぶら下がっている。元の色もわからない程汚れた脚部は大きく装甲を損傷していた。
 それでもマラサイは、ワーウィック大尉は、立ち上がった。欠けたヘルメットの隙間から、モノアイの光が砂煙に反射しながら静かに漏れる。
『…帰る場所がある』
0551◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/17(木) 10:00:45.50ID:wPn+fNLE0
『馬鹿な。立ち上がれるはずが無い』
 敵は呆気に取られている。
「…大尉、頑固だからな」
 敵に気取られぬ様仕込みを行う中尉。まだ生きている装備が1つだけ残っている。とにかくそれにしがみつく思いだった。
「受け取れ!!」
 仕込みを終えた中尉はビームサーベルの発振器をマラサイに向けて放った。大尉は難なくそれを受け取る。リミッターを解除したのか、マラサイは再び唸る様な音を立て始めた。
「頼むぜ…大尉…」
 希望は繋いだ。後は一発勝負だった。

63話 いずれ世界は
0553◆tyrQWQQxgU
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2019/10/19(土) 23:55:32.20ID:rN7N/hbG0
>>552
ありがとうございます!

そんな戦いも終盤です…
0554◆tyrQWQQxgU
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2019/10/19(土) 23:56:23.45ID:rN7N/hbG0
 私は、私達は、正しかったのだろうか。そう問い続けた日々だった。

 飛び交う戦火の中へ身を投じた若かりし頃の私。サイド3独立の気運もあったに違いないが、心の何処かではそれすら些細に思っていたのではないか。
 実際地球へ降下する事が決まった時、その必要性に疑問を抱かなかった訳ではない。
 早期終戦のタイミングを逸したジオン公国があそこで止まることは出来なかっただけの事だと、誰もが気づいていた筈だ。サイド3での独立すらままならずに地球など治められるはずがない。

 それでも戦ったのは何故か。ひとえに、私自身の存在証明の為だった。しかしそれは大きな矛盾を孕む。
 戦いを終える為の戦いに自らの存在価値を見出しってしまったのだから、始めから破綻した思考だったのだ。その矛盾は、常に私の背後で重くのしかかっていた。
 だが、ある意味で国を失っても尚また舞い戻った戦場で、私は真に守るべきものと出会ったのかもしれない。
 だからこそ、私は目の前の敵を許せないのではないか。まるで自らの所業を煮詰めた様な存在に見えた。戦う為に戦う事が許されてしまうなら、人は過ちを繰り返し続けるだろう。
 連邦が産み、ジオンが育ててしまったその螺旋の芽は、今ティターンズによって花開こうとしている。
0555◆tyrQWQQxgU
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2019/10/19(土) 23:57:04.75ID:rN7N/hbG0
 朦朧とした意識の中、私は自分が立ち上がっていることに気付く。敵に機体を貫かれたときコックピットの直撃こそ免れたものの、その熱で顔と左半身が焼かれていた。
 余りの痛みに一瞬意識が飛んだが、気が張っているのか今は不思議と気にならない。だが機体を動かしているのは殆ど無意識だった。アドレナリンに任せて破損したヘルメットを投げ捨てる。
 次々に溢れ出てくる言葉は敵に向けたものだったのか、自分に向けたものだったのか。最早私には判断はつかなかった。今はただ斬る。それだけだ。
0556◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/19(土) 23:57:46.63ID:rN7N/hbG0
 中尉が投げた発振器にはインコムのワイヤーを幾重かに重ねたものが絡みついている。見てみるとガンダムは瓦礫で身動きが取れなくなっているようだ。
 後少しの抜け出す余力が無いというところか。私は中尉の意図を察した。
『…まぁ構わん。斬り捨てればいいだけの事』
 ジムクゥエルが少しずつ近づいてくる。敵も歩くだけの力しか残っていないと思われた。
『引けッッッ!!大尉!!!』
 合図を受けて、マラサイの持てる力全てを込めてワイヤーを引いた。膝が、肩が、火花を散らしながら砕ける。
 ワイヤーにしがみついていたガンダムが、自機バーニアも最大限に使うことでどうにか瓦礫の中から脱した。ガンダムはそのままバーニアの勢いで敵に向かって突っ込んだ。
0557◆tyrQWQQxgU
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2019/10/19(土) 23:58:16.29ID:rN7N/hbG0
『…!!貴様ら!!』
 狼狽える敵。しかしそれ以上の隙は与えない。
『くたばれッッッ!!!』
 左脚を踏ん張ると、中尉はアッパーで敵の腹を殴りつけた。その威力は凄まじく、敵のジムクゥエルが浮き上がるほどだった。殴りつけた反動でガンダムの腕は関節からバラバラになっていく。
『ぐおおお…ッッッ』
 敵が唸る。だがそれでも尚バーニアを吹かし体勢を整えた。そのままガンダムに向かってサーベルを投げつける。
 焦りとダメージで狙いがコックピットから逸れたのだろうが、それでもサーベルはガンダムの頭部に直撃した。
 センサーやカメラの中枢を破壊されたガンダムは、そのまま後ろへと仰向けで倒れる様にして沈黙する。
0558◆tyrQWQQxgU
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2019/10/19(土) 23:58:49.04ID:rN7N/hbG0
『行け!!!』
 動けない機体から中尉の声がこだまする。絡むワイヤーを振り払ったマラサイは、四肢を引き摺りながらも敵目掛けて飛び上がった。
 敵よりも高い高度を取ったところで推進剤が切れ、半ば落下するように振りかぶる。
『さあ殺せ!!!お前達が正しいという証明の為に!!!』
 敵の叫びは、最早私の心には届かなかった。さらば、私の運命の螺旋。戦うことでしか自分の価値を見い出せなかった過去の私がそこに居た。
 ビームサーベルを最大出力で発振すると、機体の全重量を乗せるようにしてそれを振った。
 残った1本のサブアームを自機の腕と重ねるように防御姿勢を取った敵機だったが、それごとまとめて腹部から真っ二つに切り裂く。
 片膝を突いて着地したマラサイの背後で、敵機は爆散した。
0559◆tyrQWQQxgU
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2019/10/19(土) 23:59:37.81ID:rN7N/hbG0
 敵機の破片や瓦礫が飛び散る中、マラサイは静かに目を閉じる様に、モノアイの灯りを落とした。
『…やったのか』
 力のない中尉の声が遠くで聞こえる。それを最後に機体のシステムも落ちてしまった。辺りは暗闇に包まれた。
「すまない…私は…」
 瞼がどんどん重くなっていく。眠くて堪らない。溶けていく思考の中、見えるはずもない空の切れ間がただただ眩しかった。
 右手でそれを遮る様にしながら、白く拡がっていく光の中へと、私は静かに意識を手放した。

64話 運命の螺旋
0560通常の名無しさんの3倍
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2019/10/20(日) 05:39:23.34ID:WKfdvJdD0
Sさん、ワーウィック大尉、マラサイ.........乙です!!
(あっ、Sさんは引き続きよろしくお願いします)

しかしまぁ、カラバからエゥーゴに用立ててもらった2機、見事に修理不能ですなw
地上より宇宙の方がマラサイ優先配備で紛らわしいので、タイミングとして上々かと。
タイトルがタイトルだし、ワーウィック大尉の次(このまま永遠に寝てなければ、ですが)の機体もモノアイかな〜、と想像してます。
それともまさか、ティターンズ側に主役交代?!

ともかく、続き楽しみにしております
0561◆tyrQWQQxgU
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2019/10/20(日) 14:32:29.11ID:q4IweA7h0
>>560
長らくお読みいただいてありがとうございます!

この時期は機体の変遷が早くて、マラサイやジムクゥエルではもう厳しいですからね…高性能試作機や改修機といえども。自分としてはタイトル回収をした段階でマラサイの役目は終えたかなと。

あと数話でこの物語には一度区切りを着けます。その先はまだ考えていませんが、語る余地は大いにありそうですね。沢山想像を膨らませてもらえればと思います!
0562◆tyrQWQQxgU
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2019/10/20(日) 14:33:28.99ID:q4IweA7h0
 どれだけの時間が経ったのか。私はベッドの上で目を覚ました。白い天井がまず目に入る。身体は起こせないし、どうも左側の視界が覆われている様だ。
 今いるのは病室らしい。看護師らしき女性が私の意識確認を行うと、バタバタと出ていった。戦いはどうなったのか。考えがまとまらないうちに周りが騒がしくなってきた。
 やってきた医師の男と簡単にやり取りしていると、外も何やら騒がしくなってくる。
「サム!!」
 ドアを乱暴に開ける音と共にメアリーの声がした。制止する看護師をすり抜けて、ベッドの前で立ち止まる。横になっている私に飛びつこうとしたところで後ろから首根っこを掴まれていた。付いてきたらしいアトリエ中尉だった。
0563◆tyrQWQQxgU
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2019/10/20(日) 14:33:52.43ID:q4IweA7h0
「…よお。起きたな」
「中尉か…。私は…」
「あんた、1週間は寝てたぞ」
「そんなにか…!」
 思わず私は笑った。
「心配したんだからね…」
 私は、そういって泣きじゃくるメアリーの頭を撫でた。
「大尉…!お目覚めですか」
 ワン中尉も入室してきた。
「迷惑をかけたみたいだな」
 私がそういうと、ワン中尉は涙を浮かべて首を横に振った。
「メイ、メアリーを頼むぜ。俺は大尉と色々話がある」
 アトリエ中尉が少し医師とやり取りすると、彼以外皆退室していった。
0564◆tyrQWQQxgU
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2019/10/20(日) 14:34:12.45ID:q4IweA7h0
「…我々は、勝ったのか?」
 静かになった個室で、私はまた天井を見上げていた。アトリエ中尉はベッドの傍の椅子に腰掛けた。
「ああ、基地は完全に占拠したよ。ここはその医務室だ」
「他の皆は?」
「何だかんだ全員無事!重傷を負ったのはあんただけだな」
「皆優秀なメンバーで良かった。引き際を心得ていなかったのは私だけの様だ」
 私が笑うと中尉も鼻をこすった。
「まぁ…機体が中破で済んだのはサドウスキー大尉だけで、他は皆スクラップにしちまったけどな」
「ガンダムももう駄目か?」
「武装を全て喪失、両腕欠損にフレームもガタガタ…。これでワンオフ機だぜ?作り直した方がまだ安い」
「そうか…」
「象徴としてのガンダムなんて…だろ?」
「ふふ、そんな事も言ったな」
 そこまで話して、少しの静寂が2人しかいない部屋に満ちた。
0565◆tyrQWQQxgU
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2019/10/20(日) 14:34:51.37ID:q4IweA7h0
「敵隊長機のパイロット…」
 私が口を開くと、中尉が難しい顔をして腕を組んだ。
「あいつなぁ…相当な腕だったのは認める」
 私には、あのパイロットが喋った気持ちがわからなくもなかった。あの戦いで最期だとやつ自身が悟っていたのかもしれない。
「…やつの言っていたことは、ある面では間違っちゃいない」
「だとしても、勝ったのは俺達だ」
 少し食い気味に中尉が言った。
「ああ、勝った。だが、逆になっていてもおかしくなかったとも思う。…何となく、似通っていたな、あの男と私達は」
「…言いたいことはわかるぜ。もし仲間だったなら、ああいうやつともうまくやってたかもしれねぇ」
 中尉が大きく溜息をついた。
「試作機に乗っていた強化人間にしても、メアリーと同じ研究所の人間だったんだろう?同じ様にメアリーもああなっていたかもしれない。そう思うと私はやるせないよ」
「敵の隊長さんは戦う理由なんてどうでも良かったなんて言ったが…俺達はこんな具合に悩んでばっかりだぜ」
「良いんだ。一歩進んだら、また好きなだけ悩むさ」

 私はまた少しの眠気に誘われていた。察した中尉が椅子から立ち上がる。
「大尉、今はゆっくり休めよ。また呼びに来るからよ」
「ありがとう中尉」
 去りながら軽く手を振った中尉の後ろ姿をぼんやりと見つめていた。瞼を閉じるとすぐに私は眠りに落ちた。
0566◆tyrQWQQxgU
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2019/10/20(日) 14:35:29.44ID:q4IweA7h0
 それからしばらくはベッドの上で過ごしたが、怪我そのものはそこまで大したものではないと感じていた。左上半身と顔の火傷が主な治療箇所で、そのまま跡が残りそうだった。
 短い時間だが、見舞いに来てくれたバッカス少佐達にも状況の詳細は聞いた。どうも今回の作戦で、この辺りのティターンズ勢力はあらかた一掃出来たらしい。残る大きな拠点はキリマンジャロか。
 攻略へ乗り出すには我々も戦力を整えねばならない。それに、宇宙に上がればグリプスやゼダンの門などまだまだ敵の勢力は力を蓄えている。
0567◆tyrQWQQxgU
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2019/10/20(日) 14:36:05.08ID:q4IweA7h0
 とある朝、身体が鈍ってはいけないと思い、許可をもらって散歩がてら基地の外に出てみた。ここは基地として大規模に手を加えられてはいるものの、まだまだ自然の多い場所だった。
 私は木々を背に断崖から見える海を見つめていた。
「あら、ワーウィック大尉。散歩ですか」
 後ろからやって来たのはシェクター少尉だった。
「許可が下りたからな。こないだはあまり話せなかったが、見舞ってくれてありがとう」
「こちらこそすみません、バタバタで…。今日から僕らも一時休暇です」
 少尉は私と並ぶ様に横に立つと、眩しそうに空を見上げた。
「そういえば、ワーウィック大尉とアトリエ中尉はこれからどうするんです?」
「…今度こそエゥーゴの部隊に編入だろうな。皆とはしばしお別れだが、また会うことにはなると思う」
 私はその場に座り込み、その辺の手頃な小石を海に放り投げながら言った。
「お二人が居ないとなると、正直なところ不安です」
「私達が基地に潜入していた間も奮闘してくれたと聞いているんだがな」
「その結果が新型のスクラップですよ」
 少尉は呆れた様に笑いながら鼻をこすった。
0568◆tyrQWQQxgU
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2019/10/20(日) 14:36:42.04ID:q4IweA7h0
「メタスは良い機体だったんですが、僕にはまだ使いこなせなかった…」
「大丈夫さ。私など、見ての通りのこのざまだ。マラサイも完全に死んだしな。…少尉には期待している。まだ若いし、私などよりよっぽど伸び代もあるさ」
「ありがとうございます…。でも大尉達、カラバに残るって訳にはいかないんですか?」
「そう言ってもらえるのは嬉しい。だがな、目的を見失ってはいけないぞ少尉」
 そういうと、私はまた立ち上がり少尉の肩を叩いた。そのまま肩に手を置いて見つめ合う。
「これからも色んな事があると思う。だが次に会うとき、更に強くなった少尉の姿を見せてほしい」
「…わかりました。お約束します」
 少尉は少し寂しげに笑ってみせた。また軽く肩を叩くと、私はその場を後にした。

 この戦いで確かに断ち切ったひとつの螺旋。少しだけ違う世界線に来てしまったかのような、不確かだが明瞭でもある心地だ。散歩を続けながら思考を巡らせていた。
 この先、決して理想郷がある訳ではないだろう。自らが思う形を切り開かねば、また別の螺旋が始まるだけだ。しかし戦っているのは自分だけではない。それこそシェクター少尉の様に、若い世代がまた台頭してくる筈だ。彼らの道標となるのも新たな役目のひとつかもしれない。
 随分と時が経ったものだと思いながら、私は後ろに続くあぜ道を振り返った。

65話 理想郷
0569通常の名無しさんの3倍
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2019/10/21(月) 10:25:17.63ID:E+HQ9Dy30
お疲れ様です!

1つの戦線が終わりましたね...
ディアス1機(あと艦長代理のネモと人形サイコくらい?)以外はスクラップになりましたか...w
まぁエゥーゴの赤い奴、設定上かなりタフですもんね

そろそろ宇宙ということで、時系列的にはカミーユが上がって数日後でしょうから
ドゴス・ギアも出てくる頃でしょうかね。
あれだけの規模のある戦艦なら、ジェリド達が出なくてもオリキャラで進めていけそうではあります。
さてワーウィックとアトリエはともかく、ワンとメアリーはどうなることやら...
0570◆tyrQWQQxgU
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2019/10/21(月) 17:45:46.99ID:zf0OT7lA0
>>569
レスありがとうございます!

ようやく一区切りですね…!
最終決戦って大体ボコボコになって終わるイメージなので、惜しまずに強敵とぶつけましたw
ほんとにこれから先彼らがどうなっていくのかは考えていなくて、またプロットが出来たら書こうかと思っています。

とりあえずあと数話分は書いてケリを着けたいと思ってますので、お付き合いください!
0571◆tyrQWQQxgU
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2019/10/21(月) 17:46:29.80ID:zf0OT7lA0
 昼下り、アトリエ中尉は一通りの事後処理を終えて自室で休んでいた。ワーウィック大尉も快方に向かっているというし、そろそろこの艦ともお別れだ。
 あの時、ジムクゥエルを辛くも撃破するも機体の機能を尽く喪失した中尉は、どうにかコックピットを這い出した。
 マラサイはまだオーバーヒートの熱で近づける状態ではなく、救援が来るまでただ独りで呆然と待つしかなかった。
 満身創痍だったとはいえ、ガンダムに乗っていながら機体は大破、その上大尉を負傷させてしまった。もっと強くならなければこの先何も守れないという、自責の念に駆られた。
0572◆tyrQWQQxgU
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2019/10/21(月) 17:47:02.39ID:zf0OT7lA0
『入るわよ』
 言うやいなや、メアリーがズケズケと部屋に入ってくる。その後ろからワン中尉も入室した。
「お前らさぁ…せめて俺が返事してから…」
「あ!またご飯食べてない!」
 アトリエ中尉の声を無視してメアリーが怒る。テーブルには今朝2人が来た時に置いていった食事がそのままになっていた。
「…大尉の事とかで悩むのはわかるけど、しっかりしなきゃ」
 ワン中尉が横に腰掛けた。メアリーは相変わらず仁王立ちしている。
0573◆tyrQWQQxgU
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2019/10/21(月) 17:47:23.70ID:zf0OT7lA0
「折角だから先に伝えておくが…俺はそろそろエゥーゴに戻る。多分大尉もそうだろうな」
「まあ…そうよね」
 ワン中尉はそのままの姿勢で次の言葉を待っている。
「…あたし、ここに残るわ」
 メアリーが静かに言った。アトリエ中尉も置いていくつもりで話をした。とはいえ自分から言い出すとは正直意外だった。
「俺もその方が良いと思ってな。多分俺達は宇宙に上がることになると思う。ティターンズの地上拠点はもう数えるほどしかない」
「大丈夫よ、ベイトの帰る場所はちゃんとあたしが守るわ」
 メアリーは本当に強くなった様だ。
「そんなら安心だな。今ならワン中尉が攫いに来ても返り討ちにしそうな勢いだし」
「やめてよそういうの!黒歴史ってやつよ」
 ワン中尉が顔を赤くしている。
「メアリーはこう言ってるが、流石に心配が全く無いわけじゃない。ワン中尉に世話を頼めるか」
「勿論。しばらくは私もここに厄介になるしね」
「とりあえず、ドアのノックから教えてやってくれ」
「はいはい!…あなたもちゃんとご飯食べなさいよ?」
 そう言ってワン中尉が笑った。
0574◆tyrQWQQxgU
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2019/10/21(月) 17:47:43.36ID:zf0OT7lA0
 2人が退室して、身支度を整えた中尉は格納庫へ顔を出した。全員に休暇が与えられているはずだが、ヴィジョン達整備班は相変わらず作業している。
「よお、おっさん。休まねぇのか?」
「来たなニュータイプ」
「ちげぇよ」
 ヴィジョンは相変わらずの汚れた格好で機械を弄っている。
「お前らが尽くスクラップにしちまったからかなり手は空いてるんだがな、何もするなと言われると何かしたくなるもんなのさ」
「気持ちはわかるぜ」
 サドウスキー大尉のリックディアス以外は予備機しか残っていない。やたら広いせいで余計に寂しくなった格納庫だが、また補給が始まれば忙しない時間が戻るだろう。
「…ちょっと挨拶のつもりで顔を出したんだ」
「戻るのか?エゥーゴに」
 ヴィジョンはゴーグルを外して中尉を仰いだ。中尉は格納庫を眺めながらその場に座り込み、壁にもたれる。
0575◆tyrQWQQxgU
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2019/10/21(月) 17:48:08.46ID:zf0OT7lA0
「ガンダムがあったらもっとうまくやれると思ってた。機体の問題じゃなかったんだ…俺自身を鍛え直さなきゃならねぇ」
「メカニックの俺から言わせりゃ、お前位の腕があるならガンダムに乗る資格は十分あると思うがな」
「どうだか。敵の強化人間にはコテンパンにやられた」
 強化人間やニュータイプとやり合うにはもっと反応速度が必要だ。単純な操縦技術だけでは戦えない敵が現れつつある。
「エゥーゴに行けば何か変わりそうか?」
 ヴィジョンが作業をやめて、腕組みしながらこちらを見る。
「宇宙に行くべきだと思ってるんだ」
 伏し目がちに中尉がいう。
「なるほど、そりゃあいい。ジオン・ズム・ダイクンは宇宙こそが人の感覚を拡張し得るといってたぜ?眉唾ものだと思っていたが…お前が証明したら俺も信じるさ、若造」
 そう言ってヴィジョンは中尉の頭をがしがしと撫でた。
0576◆tyrQWQQxgU
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2019/10/21(月) 17:48:32.52ID:zf0OT7lA0
 しばらくすると、腕にギブスをしたワーウィック大尉が格納庫へとやってきた。
「中尉が呼びに来るより先に来てしまったな」
 思いの外元気な様だ。昏睡していた時にはどうなる事かと心配していたものだ。
「丁度良かった。これからどうするよ」
「そのことだが…。私はエゥーゴに戻りたい」
「やっぱりな!そう言うと思ってたぜ。じゃあ艦長のとこいくか」
 ヴィジョンとまた一言二言交わしてから、大尉も連れてブリッジへと向かった。

 その道中、貨物の区間を通る。
「ここでメアリーを見つけたんだったな」
 感慨深そうに大尉が言う。あれからそんなに時間は経っていない筈だが、随分と前の事の様に感じる。
「あの悪ガキは置いていこうと思う。本人も残りたいってさっき言ってたよ」
「そうか…ようやく皆とも馴染んできたところだし、もっと色んなことを勉強するべき年頃だものな」
 まるで父親の様な口振りで大尉が話すのが少し面白かった。
「そういえばな、メアリーやアトリエ中尉の事もあってニュータイプについて連邦の資料を漁ってみた」
「俺はニュータイプじゃねぇってば」
「まあそう言うな。メアリーが言ってた色の話なんだが、覚えてるか?」
 そういえばそんな事を言っていた気がする。
「あれか、青とか緑とか」
「そう、それだ。ある研究者のレポートに依れば、ニュータイプには宇宙が青く見えるらしいぞ」
「馬鹿馬鹿しい。黒いに決まってんじゃねぇか」
0577◆tyrQWQQxgU
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2019/10/21(月) 17:48:52.29ID:zf0OT7lA0
「ニュータイプの兆候が見られたアトリエ中尉とシェクター少尉はメアリーに青だって言われてたろ?あながち間違いじゃないんじゃないかと思ってな」
「ただの頭痛持ち2人だってば!…てか、大尉は何色だったんだ?」
 メアリーは彼にも特殊なものを感じ取ったと言っていた気がする。しかしニュータイプの勘というようなものは持ち合わせていない様に思う。
「私か?私は緑色だそうだ。ジオンカラーだよ」
「そりゃある意味ニュータイプ論に近しいかもな」
「そうなら良いんだがな。緑色に関しては何の資料も無かったよ」
 大尉が笑った。戦いを終えてからというもの、彼が帯びていた影のようなものが鳴りを潜めた様に感じられた。
0578◆tyrQWQQxgU
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2019/10/21(月) 17:49:30.75ID:zf0OT7lA0
「…緑は1番暖かい色よ!」
 廊下の先にメアリーがいた。
「緑が暖かいのか。意外な色だな」
 駆け寄るメアリーと手を繋ぎながら大尉が言う。
「青はニュータイプなのかよ?悪ガキ」
 中尉がそう言うやいなや、メアリーに蹴られた。
「あたし結構良い子よ!…青い人は確かにそんな感じだけど、他にも紫とか」
「良い子の割に蹴るじゃねぇか…」
 痛がる中尉を見るメアリーは相変わらず愉快そうだ。
「紫ってのはこないだの強化人間とかか?」
 最早蹴られた中尉にさして心配すらしてくれなくなった大尉が話を続ける。
「そうね、敵意剥き出し!って感じが紫。あの時はもうドス黒いくらいだったけど。ベイトも戦ってると偶にそんな感じになるけどね」
「なるほどねぇ…。色占いも良いが、そろそろブリッジだぜ」
 話しているうちにブリッジへと到着した。確かバッカス少佐とサドウスキー大尉はここに居たはずだ。
 艦を離れればこの3人で話しながら歩くのもしばらくお預けかと思うと、僅かに寂しさのようなものが中尉の胸を巡った。


66話 眉唾もの
0580通常の名無しさんの3倍
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2019/10/21(月) 23:38:21.38ID:5QmT2z7i0
乙です

ついに色の話が出ましたね!
緑が一番暖かい、ですか。
きっと春先の芽吹きのような緑なんでしょうね。
ニュータイプが青になるのは、後の「MSの操縦が上手い奴」を暗示してるみたいで、なにか暗いですね
(真っ先にナイトレイダーの制服を思い出しました)。
紫......高貴な色とも言われますが、それだけに歪な救いの無さを伴うように思います。
ちなみに病室に紫系のものを増やすのは精神的に悪いのでやめた方がいいらしいですw

メアリーとは一先ずお別れということになるようですが、またいつか会いたいですね
0581通常の名無しさんの3倍
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2019/10/21(月) 23:41:35.01ID:5QmT2z7i0
失礼
×メアリー
○メアリーたち
ですね

べ、別にロリコンの気とかないんだからね!
0582◆tyrQWQQxgU
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2019/10/22(火) 15:59:28.29ID:vhYV2Y4s0
>>580
春先の芽吹きの緑…良いですね。
サイコフレームの共振に見た緑から着想しましたが、そう言われると凄く腑に落ちました。ストンと。

富野監督の描くニュータイプは大体紫のオーラ発してるんですけど、大体みんな殺気立ってるんで…w
病室の件は初めて聞きましたw

当然といえば当然ですが、重要人物なので絡みはまたほしいですね。
0583◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 00:33:31.10ID:BshroPjG0
 バッカス少佐は司令部との会議を終えて、今度はブリッジでサドウスキー大尉と話し込んでいた。
 激戦の中、朱雀は目立った損傷もなく帰還していた。改修した本艦の戦闘力も勿論だが、MS隊の活躍で敵を寄せつけなかったのは大きい。おかげでバッカス少佐は指揮に専念できた。
「隊長としては満足いかん部分もあったろうが…この作戦は十分成功といって良かろう」
「まあまあですかね…。それと、あなたが隊長ですよ。俺はあくまでも代理ですから」
 サドウスキー大尉は癖の強い部下達をよく纏めてくれた。独断行動も一部あったが、結果として作戦には大いに貢献してくれた。
「これまでの活躍を受けて、一部のメンバーは昇格の通知が来ている」
「おお!給料もあがるといいんですがね…」
 苦笑いしながらサドウスキー大尉が頭を掻く。
0584◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 00:33:49.60ID:BshroPjG0
 ブリッジの扉が開いた。ワーウィック大尉とアトリエ中尉、それにメアリーだった。
「艦長代理。おかげさまでかなり回復しました」
 ワーウィック大尉は言葉の通り調子が良さそうだ。これなら戦線復帰も近いだろう。
「大体の要件は察している。そろそろ戻るんだね?」
「はい。大変お世話になりました」
 ワーウィック大尉が頭を下げるとアトリエ中尉も不躾に頭を下げた。メアリーも真似してお辞儀する。
「メアリーはどうするの?」
「あたしは残るわ。メイが一緒にいてくれるって」
「そう。とても心強いわ。これからも頼むわね」
 バッカス少佐はメアリーにウィンクして見せた。
0585◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 00:34:15.23ID:BshroPjG0
「しかし…お前達が離脱すると戦力的にはかなりの痛手だ。だからこそお前達が行くべき戦線は此処ではないのだろうがな」
 立ち話に疲れた少佐はブリッジのいつもの椅子に腰掛けた。
「エゥーゴには私から話をつけておく。配属先がわかり次第すぐに伝達しよう。それから、アトリエ中尉」
「なんです?」
 相変わらずぶっきらぼうな男だ。しかし当初の殴った頃に比べると幾らか落ち着きのある風貌になったかもしれない。
「昇格だ。明日からは大尉だな」
「フゥー!マジかよ」
 ガッツポーズするアトリエ中尉。メアリーとハイタッチしている。
「私としてはワーウィック大尉も昇格させてやりたいところだったんだが…その…」
「いえ、そのお気遣いだけで十分です。ジオン上がりの私にこれ以上の昇格はかなり無理があるでしょうから。他の者の目もあります」
「そうはっきりと言うな。そこまでわかっているなら、お前の言う私の気遣いとやらを察せ」
「確かにそうですな」
 そう言ってワーウィック大尉は笑った。意外とこの期間で1番変わったのはこの男かもしれない。以前より笑うようになった。
0586◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 00:34:36.71ID:BshroPjG0
「ワーウィック大尉と並んだかぁ…。お!てことはサドウスキー大尉も仲間じゃない?」
「ところがどっこい。俺も昇格したんだな」
 絡むアトリエ中尉に、腕を組んだサドウスキー大尉が得意げに返した。
「なんだよ、俺だけじゃないのか…」
 あからさまに落ち込むアトリエ中尉。
「何なら私も明日から中佐だ。そもそも、機密の塊みたいな機体を大破させて尚昇格のお前が特殊なのだ」
「まあ、まだまだ俺はこれからですからね」
 自嘲気味だが不敵な笑みを浮かべるアトリエ中尉。この男は本当にまだ伸びるのだろう。
「私達にしてやれることはそんなにないかもしれんが、いつでも頼るといい。遠く離れてもここはお前達の家だよ」
「ありがとうございます」
 2人は敬礼して見せた。少佐とサドウスキー大尉も応える。彼らは踵を返すと、メアリーと共にブリッジを後にした。
0587◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 00:35:10.99ID:BshroPjG0
「…寂しくなりますな」
 軽い溜息をつきながらサドウスキー大尉が言った。艦長代理になったバッカス少佐以上に、MS隊を率いて共に過ごしてきた感傷は大きいだろう。
「彼らは彼らの選択をした訳だ。私達も負けてはいられまい?きっとまた会うときには何周りも大きくなって帰ってくるぞ」
「おちおちサボってもいられませんな!シェクター少尉も鍛えあげてやりますよ」
「私もそろそろMSが恋しいよ」
「やはり少佐も前線が似合います」
「鈍る前に乗らねばな」
 それから他愛のない会話を少しして、サドウスキー大尉も退出していった。静かになったブリッジから、ふと景色を眺めた。雲一つない晴天。これからの皆の行く末も晴れ渡っていることを祈るばかりだった。

67話 雲一つない晴天
0588通常の名無しさんの3倍
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2019/10/26(土) 09:28:35.34ID:Yk4MhyyZ0
お疲れ様です!
第1部・完って感じですね!

あー、Zのシャアが大尉止まりだったのってそういう......
考えてみれば、実質的指導者が大尉なんだからエゥーゴの階級ってどうかしてますねw
出世というより元の階級から落ちなかった人だけが佐官に当たるのかも...

ともあれ、乙でした。
読み返しつつ、続きをのんびり待ってます
0589◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 13:41:52.36ID:pM27ubaK0
>>588
おっと!紛らわしくてすみません!次でラストです!投下します!

やっぱクワトロが大尉なのも変だなぁと思ってたので、そういう理由があるんじゃないかと思いまして。
アムロは士官学校出てないからとか色々言われてますけど、今回は別で理由付けしてみました。
0590◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 13:42:17.55ID:pM27ubaK0
 アトリエ中尉達…いや、アトリエ大尉達の昇格の後、数日の内に私達の転属先が決まった。それぞれ別の部隊ではあるが、お互い宇宙へ上がることになった。私は元々宇宙生まれだが、アトリエ大尉はこれが初めての宇宙である。
 荷物をまとめて部屋を出た時、丁度アトリエ大尉と鉢合わせた。
「身支度は済んだか?」
「おう。そっちも済んだみたいだな…行くかい?」
 私が軽く頷くと、彼と共に歩き出した。向かう先は格納庫だ。取り敢えずはマスドライバーのある地点まで予備機のジム2とSFSで行く。
 宇宙まで行ったらそれぞれの配属先へ別れて進む。新たな機体は配属先で既に待っているらしい。
 歩き慣れた艦内を進みながら、様々な思いがよぎっては消えていく。格納庫までの道程が酷く長いような、或いはあっという間だったのか…。
 普段はよく喋るアトリエ大尉も、今回ばかりはあまり口を利かなかった。同じ思いだったのかもしれない。
0591◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 13:42:38.48ID:pM27ubaK0
 格納庫へ着くと、いつものメンバーが出迎える。バッカス中佐にサドウスキー少佐、シェクター少尉とワン中尉。そしてメアリーが待っていた。
「遅かったじゃないか。どっちが愚図ってたんだ?」
 サドウスキー少佐が豪快に笑う。その襟元には新しい階級章が輝いている。
「2人とも愚図ってた様なものですな」
 私がそう言うと、サドウスキー少佐が我々2人の肩をそれぞれ両手でガッシリと掴み、自身の頭を挟むようにして引き寄せた。
「お前ら…元気でやるんだぜ…!!」
 サドウスキー少佐が大きな音を立てて鼻を鳴らした。大粒の涙が彼の目から溢れ出る。
「お…おいおい!泣くなよ!!」
 アトリエ大尉がおどけてみせるが、サドウスキー少佐は声を上げて泣き始めた。
「今泣かずしていつ泣くって言うんだ!!俺はなあ…寂しいんだよおお!!」
「うわ!鼻水!」
 アトリエ大尉がサドウスキー少佐に鼻をかませる。まるで親子の様だった。
「またお会いできますよ。宇宙での戦いが一段落ついたら、絶対戻ってきます」
「当たり前だあ!!うおお…!!」
 私が声を掛けても余計に涙が止まらない。
0592◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 13:42:59.68ID:pM27ubaK0
「全く…大の男がねえ」
 バッカス中佐が呆れながら笑っている。
「大尉達はすぐに出られるので?」
 シェクター少尉がサドウスキー少佐の背中を擦りながら聞いた。
「ああ。私の怪我のせいで幾らか予定が押したからな」
 火傷はもう随分と良くなった。しかしながら、顔にははっきりとその跡が残っている。
「あ!そうそう!サムにプレゼントよ」
 それを聞いて、メアリーが思い出した様に包装された箱を取り出す。
「…これは?」
「そのお顔、怖がられたらいけないからお洒落できる様にってメイと相談して買ってきたの」
 開けた箱の中にはバイザーが入っていた。デザインは多少厳ついが、気を遣ってくれたことが素直に嬉しかった。
「ありがとう。大事にするよ」
 そういって私はその場でバイザーを掛けた。
「うん!似合ってる!」
 メアリーが親指を立ててみせる。
「それ、結構したんでほんと大事にしてくださいね」
 ワン中尉が笑ってウィンクした。彼女がこめかみをトントンとしてみせたので、真似てバイザーの側部を叩いてみる。すると様々な情報がバイザーに表示された。デバイスとしても機能する様だ。
「凄いな。これは重宝しそうだ」
0593◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/26(土) 13:43:17.19ID:pM27ubaK0
「俺は??ねえ俺のは??」
 しばらくやり取りを見ていたアトリエ大尉がしびれを切らした様に切り出した。
「ベイトには…これ」
 メアリーが小さな石を取り出した。青翠の綺麗な光を放っている。
「これね、お母さんがあたしにくれたやつなの」
「そんな大事なもの…良いのか?」
「大事なものだからあげるの。もしそんなに気になるなら、また今度あった時に返してくれたら良いわ。何かあったらこれであたしの事思い出すのよ」
「相変わらず生意気言いやがってよ…。ありがとう」
 そういってアトリエ大尉はメアリーを抱き締めた。
0594◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 13:43:38.32ID:pM27ubaK0
「おおーい!お前ら!!そろそろ行かねえと時間なくなっちまうぜ!!」
 遠くからヴィジョンの声がした。私達2人は改めて荷物を抱える。
「さて、行くか。アトリエ大尉」
「そうだな…」
 出撃準備の整った機体へと歩き出した。皆が背中を見送っている。
「ワーウィック大尉!アトリエ大尉!」
 後ろからシェクター少尉の声がして振り返る。我々を見る彼の眼差しには、強い意志を感じた。
「御達者で…!」
「また会おう」
「おうよ。…ワン中尉のこと、大事にしてやるんだな」
「え…!あ!はい!」
 慌てるシェクター少尉をみて意地悪そうに笑うアトリエ大尉。そんな2人に私も少し笑みをこぼすと、そそくさと機体に乗り込んだ。
0595◆tyrQWQQxgU
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2019/10/26(土) 13:44:51.52ID:pM27ubaK0
 出発の時が、遂に来た。皆まだ先程の場所で見送ってくれている様だ。
「さーて…思い残すことはねぇな?」
「いいや、沢山残してきた。次会う時に回収すればいいのさ」
「ふふ、一理あるな」
 アトリエ大尉がいつもと変わらぬ調子で笑った。機体が完全に稼働状態に移行し、SFSのバーニアへと火が入る。
「…暖かいのだな、この星は」
 我々は朱雀を出立した。

 機体は空高く舞った。晴れ渡る空へと、朱雀を背に進む。この空の更に高いところ…宇宙には一体何が待ち受けているのだろうか。
 不安が無いといえば嘘になるだろう。だが私は、積年のしがらみから解き放たれる様な心地だった。
 真にこの重力を克服した時、私はもう一度この大地を踏みしめる事の意味を知る。その日まで、母なる地球へしばし別れを告げるのだ。

 心配は無用だ。私達は確かにこの世界に存在している。証明など、するまでも無いのだ。

68話(最終話) 更に高いところ
0596◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/27(日) 17:04:32.01ID:HDjUbp870
さて、これにて完結です。
pixivも更新してます!
あとがきも添えてますので、よろしければお読みください。

応援して頂いてどうにか書ききることができました!本当にありがとうございました!
まだスレッドも書き込めるので、良ければ雑談にでも使ってください。作品の話もしていただけると励みになります!
0597通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2019/10/27(日) 17:40:48.38ID:7XYY9HhA0
おしまいなのか(´・ω・`)
お疲れさまでした
じっくり読み返していきたいと思います
メアリーが形見渡す所でうるっときた
0598通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2019/10/27(日) 20:06:31.59ID:rKply1c80
ふとプロローグを読み直しましたが...今度こそ本当のエピローグですねw
お疲れ様でした

なるほど、ベトナムからニューギニアまでの短い期間とは言えど
悶々とアプレゲールな生活を送っていたワーウィックが遂に自分の居場所を見いだす。
それも愛憎入り雑じった地球に対してではなく、やはり鉄の器であるガルダの、同じ中の人々から見いだしているのがまたいいですね!
戦場自体が無くなっても、終戦してミノ粉が薄まればまた交流の機会があるでしょうし、いいなぁ......いいな〜(軽くshit)

いやはや、読みやすく、面白く、心暖まる作品を本当にありがとうございました。
もし また機会があれば、是非ともお会いしたいです!
0599◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/27(日) 23:48:05.31ID:HDjUbp870
>>597
最後までお付き合い頂いてありがとうございました!
続編も書けたらなぁと思いますが、正直まだ何の準備も出来ていないので…笑
とはいえ、次を書くとしたらっていう伏線は沢山用意しておきました!いずれ書く時がきたら…?
0600◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/10/27(日) 23:55:33.82ID:HDjUbp870
>>598
え?何のことです?(すっとぼけ
ほんとのエピローグ()まで辿り着けて本当に良かったです…笑

地球がどうとかっていうスケールの話より、彼にとっては隣にいる仲間にこそ自分の存在価値を見出してほしかったというのがあります。
アムロやシャアは大きなスケールの中では偉業を成し遂げたり歴史に名を刻む人物ではありましたが、個人としての幸せを享受できたかというと微妙なところじゃないでしょうか。
この物語では、もっとミニマムな幸せを見つめ直しても良いんじゃないかと思った次第です。
0601通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2019/10/28(月) 16:32:29.94ID:43ktE8o30
シャアなんて裏切りの経歴まみれで挙げ句の果てにフィフスルナやアクシズ落としで大虐殺を画策しているのに幸せになるだけの資格なんて無い
シャア自身も個人の幸せなんて得られると思ってなさげ
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