Kenji5つ星 のうち5.0 世界を変えうる良書  2020年10月9日  Amazonで購入
原書の『The Deficit Myth』が今年6月に刊行されてから、あまり間を置かずに邦訳が出されたことに感謝したい。
帯にもある通り、重要な結論は“財源は絶対に尽きない”という事実にある。「財政赤字は悪であり、いずれ財政破綻を招く」という誤った神話が深く
刷り込まれたことで、社会が受けてきたダメージは計り知れない。そして、これはわが日本に限ったことではなく、米国でも全く同様であることを改めて
知ることができた。

ポール・クルーグマン氏との論争などを見て、ケルトン氏には女傑という印象を持っていたが、やはり非常に強い信念を持ってMMTを主張しているよ
うだ。投資家であって経済学者ではないウォーレン・モズラー氏との出会いがMMT派となるきっかけであったことや、強い反発を覚えながらも徹底的
に事実を突き詰めていった経緯なども明かされており、平易な表現を用いながらも決して水準を落とさない筆致で、順を追ってMMTを理解できる
内容になっている。翻訳の水準も高いと思う。

財政支出の削減を主張する(共和党に多い)財政タカ派も、富裕層増税等の歳入増を主張する(民主党に多い)財政ハト派も、どちらも均衡
財政という前提が間違っている点では同罪であるという指摘は重い。自身がアドバイザーを務めていたバーニー・サンダース氏にすら、辛辣な評価
を下しているのは意外だった。国家財政についての根本的な誤りは、イデオロギーや党派を問わずほぼ全ての政治家を蝕んでいるらしい。