悪魔バスター★スター・バタフライ 【SVTFOE】 ★7
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荒らしを見つけた場合無視をするだけでなくできるだけ報告するようにしましょう 夢を捨てて二浪した俺が、一夏に体験した忘れない思い出
暇な奴がいたら聞いてくれ
夢を諦めた・忘れたって人がいたら、特に聞いて欲しい 俺は高校時代、バレー少年だった
昔から背だけは高くて、中学の時に何の気なしに始めたバレーボールだった。
これが本当に面白くて、俺はたちまち虜になった。 仲間と協力して連携プレーを決めた時。
捕れない!と思ったボールに滑りこんで指先で上げた時の快感。
何より、相手のブロックを打ち抜いてスパイクを決めた時の歓声。
俺はその全てに魅せられ、バレーボールに夢中になった。 中学の時は弱小校ながらも熱心な顧問の元、エースとして頑張った。
その甲斐あってか、俺は都内でもそれなりの強豪と呼ばれる高校の監督に声をかけられ
そこでプレーすることとなった。
俺のこの進路を、両親はとても喜んでくれた。
俺がバレーで頑張ることを、いつも応援してくれていたように思う。
特に母さんは、俺が高2になるまで、本当に熱心に応援してくれていた。 強豪校でありながらも、「楽しくバレーする」ことがモットーだったうちの高校は、
厳しくしごかれる時もあれど、監督や先輩の指導には、常に愛があった。
一年の時からレギュラーとして試合に出場し、監督や先輩からも、
「お前はどんどん伸びていく。これから凄く楽しみだ」と期待されていた。
俺もその熱い期待に答えるべく、毎日練習を重ねた。
部活が終わって、最後の最後の片付けが終わったあと、一人で体育館に残って筋トレを続けた。
時にはネットの片付けは一人でやると言って、練習後にスパイクを100本近く打ち込んだ。 その全てが、「バレーが好きだった」から。
俺は本当に沢山の人に応援されて、いい仲間に恵まれて、最高の環境でバレーをしていた
そんな日々がたまらなく楽しくて、大切だった。 でも、俺が高2の春くらいにそんな日々がほころび始めた。
二人揃って俺のバレーを応援してくれていた両親が離婚した。
なんでも、親父に浮気の疑いがあったとかなんとか。
俺はその時、親父に対してものすごく怒りが湧いた。
俺は母さんにとても同情し、これからは俺が一人前の男になって、
母さんを支えないといけないんだ、と思った。
私立の高校に通っていたから、これからは母さんも仕事頑張るし、俺も奨学金でなんとかやっていくよ、
なんて二人でよく話していた。 でも、母さんは離婚から半年も経たないうちに、新しい男を家に連れてきた。
俺はそれが信じられなかった。
正直、ショックで言葉も出なかった。
まだガキだった俺には、すぐに現実を飲み込むことができなかったが、
それでも母さんが、家族が、幸せにやっていけるならそれでいいんだと言い聞かせ、
なんとか状況を受け入れることができた。 新しくきた男は、義父ということになるんだが、すぐにはなじめなかった。
なんでも都内の大手銀行に勤めているという、お堅い男だった。
俺はその男のことを、決して父さんとは呼べなかった。
だって俺は、別れてしまったけど、元の親父の事が大好きだったからだ。
ちょっとテキトーでだらしない所もあったけれど、
俺はそんな親父の事が大好きだった。
でも、大好きという気持ちだけでは「家庭」は上手くいかなかった。
きっと現実なんて、そんなもんなんだろうな。
だからこうして母さんは親父と別れ、新しい男が家にやってきた。
単純に、それだけのことだったのだ。 その男が来てからというもの、母さんが俺から学校の事や、部活の事を聞く機会がめっきり減った。
毎日欠かさず作ってくれていた弁当も作ってくれなくなった。
朝、「ごめんね」と言いながら俺に千円札を渡すだけになった。
昼休み、毎日クラスの奴らと一緒に弁当を食っていた習慣も、
俺だけ一人、千円札を握りしめて学食に行く日々に変わった。
母さんが離婚してから、少しずつだけど俺の毎日も変化が起き始めていたんだ。 そんな風にして、突然の環境の変化で気持ちが追いつかず、フワフワしていた時だった。
俺の人生において最悪の日が来た。
高2の夏も終わり、秋の入口が見えてきた頃だったろうか。
去年の春高バレーの予選で悔しい想いをした俺のチームは、
春高バレーの予選に向けて、猛練習をしていた。 その時俺はすでにエースとして、チームを引っ張る立場だったから、
その日の練習でも、スパイク打ち込みをやっていた。
本当に、いつも通り打ったつもりだった。
ネットの向こう側には後輩たちがレシーブしようと構えていて、
後ろからは、「いけー!」というチームメイトの掛け声が聞こえた気がした。 着地した瞬間に腰に激痛が走って、
俺はうめき声を上げてその場にうずくまった。
もう立ち上がることすらできなくなってしまい、
その日のうちに監督の車に乗せられ、病院に運ばれた。
俺は重度のヘルニアになり、腰を痛めてしまった。 前々からフォームに癖があり、腰に負担をかけるぞ、
と監督に言われていた矢先の事だった。
医者から告げられたのは、
「手術するかぎりぎりのライン。少なくとも1年くらいは安静にしろ」という内容だった。
薬を飲んで、安静にしているのが一番の治療だ。
ヘタしたら一生スポーツの出来ない体になる、と言われた。
1年間安静、それはすなわち、もう高校バレーは諦めろ、と言われたのと同じだった。
しかも、1年間安静にしたところで完治する保証もなかった。
跳びあがって、思い切りスパイクすることは最早困難だろう、とまで言われた。 大好きで、ずっとずっと続けてきたバレーボール。
春高バレーの舞台に立って、あのオレンジコートの中で
仲間と同じ景色を見るのが、夢だった。
俺は冗談じゃなく、本当に夢に見ていたんだ。
それが突然奪われてしまうという喪失感、残酷さ、
俺はどうしようもなく落ち込んで塞ぎこんでしまい、高校を数日間休んだ。
俺からバレーボールがなくなったら、一体これから何をすればいい?
そんな思考が頭の中を駆け巡った。 こういう状況になった時、
「俺はそれでも好きだから、マネージャーになって影で支えるぜ」
なんて行動に出る人もいるんだろうが、俺は全然違った。
腰を痛めたあと、俺は硬いコルセットを巻いて部活の手伝いをしたんだが、
コートの中で力いっぱいに躍動するチームメイトたちを見ているのは、
本当に辛かった。 本当は、俺もあのコートの中にいるはずだった。
見るだけで、何も出来ない自分。
俺は、バレーを見ていたいんじゃない。あのコートの中で、誰よりも高く飛んで、
俺の視界を塞ぐ3枚ブロックを突き破りたいんだ!
自分勝手かもしれないが、俺には本当にそんな風にしか思えなかった。
そして俺は仲間たちの春高予選を見届け、バレーボール部を退部した。 それからの日々は、毎日頭にちらつくバレーボールの事を忘れるのに必死だった。
監督やチームメイトも、俺を強く引き止めることはなかった。
俺の落ち込みようが本当に凄まじかったからだと思う。
ただ、ひどく残念がっていた。
お前がプレーできなくなるなんて、1がいなくなるなんて、とただ悲しんでくれていた。 そんな目的を失って絶望していた俺は、
想いを寄せていた女の子に気持ちを伝えようと考えた。
1年のバレーをやっていた頃からずっと好きだった、美香という同級生だ。
俺の事をいつも応援してくれていて、事あるごとに放課後体育館に来ては
バレー部の部活の様子を見ていた。
周囲からは「両想いなんだぞ!」と囃し立てられたこともあった。
バレーを失ってからっぽだった俺には、美香という好きな女の子への気持ちだけが残っていた。
だから俺は寂しさや悔しさを紛らわすために、美香と一緒にいたい、と強く願った。
けど、美香から返ってきた言葉は俺の想像とは違うものだった。 美香「え、1ってケガしてバレーできなくなっちゃったの」
美香「残念だなぁ。私は、バレーをやっている1がかっこよくて好きだったのに」
美香「…ごめんね」
俺は、好きだった子に、あっけなくふられたのだった。
俺は、バレーボールができなければなんなんだろう?
バレーのない俺なんて、一体何のためにここにいるんだろう?
美香のこの言葉に俺は深く傷ついて、もうどうしてかいいか分からなくなってしまった。 それからは毎日夢で見てうなされるほどになった。
白光がふりそそぐ体育館のオレンジコートの中で、セッターのイイダ(チームメイトだった)が
いい感じにふわっと浮かせたボールを、
誰よりも高く飛んで、打ち下ろす。
瞬間、一際大きな歓声を一身に浴びて、コートの中を走り回って…
そんな夢だ。
目が覚めるととてつもない虚無感に襲われ、泣きそうになった。 3年になった頃、元々部活には消極的で、
難関大への進学を望んでいた義父の影響もあり、
俺は大学進学を目指して、身を粉にして受験勉強に向かった。
母さんも「きっとそれがいい」と言っていた。 いざ受験勉強を始めてみると、
俺が今までずっとバレーボールを続けてきたことなんて嘘のようで、
何もかも最初からなかったんじゃないのか、と感じた。
初めて綺麗にサーブカットを上げられたあの時の達成感も、
先輩たちに囲まれて初めて公式戦に出たあの時の緊張感も、
みんなで組んだ円陣も、スクイズボトルの冷たさも、負けて流した悔し涙も、
全部全部、夢だったんじゃないのか?
と、そんな風に感じてしまった。 そんな時俺は、部屋の片隅にあった煤けたバレーボールを見ては、
「俺は確かにあそこにいたんだ。大丈夫」と自分を鼓舞した。
「バレーがしたい」「仲間と一緒に飛び跳ねたい」
そんな想いと必死に闘いながら、俺は1年間受験勉強に食らいついた。 ただ、結果は残酷なもので、志望校に合格することはできなかった。
色んなものを犠牲にして臨んだ受験だったはずなのに、俺の努力は実らなかった。
義父は考える間もなく、「浪人にしろ」と俺にすすめた。
何もかも上手くいかない現実に、俺は本当に荒れそうになったが、
「車の免許だけはとらせて欲しい」という俺の希望を義父が飲んでくれたので、
俺はなんとか浪人して勉強しようという気になれたのだった。 義父のすすめで、俺は新宿の某予備校に通うこととなった。
浪人中は、本当に辛かった。
どうして俺はこんなところで、やりたくもない勉強をしているんだろうか?
何のために?自分のため?将来のため?
本当は俺は、今頃大学で大好きだったバレーをやっているはずだった…
浪人しても、バレーへの未練はまったく消えていなかった。 中学生の時からずっと思い描いていた夢。理想の自分。
その夢と現実とのギャップは、19歳の俺を苦しめるには、十分すぎるものだった。
今思えば、少し甘えていたような気もするが、
夢を失うっていうのは、本当に「つらい」の一言では片付けられない。
浪人して、夏が過ぎ、秋が終わり、あっという間に冬が来た。
さすがの俺も「今度こそは」と思っていた1月のこと。
センター試験を一週間後に控え、世の中は受験に関係ない人達でさえも、
なんとなく「受験ムード」に包まれ始める。 そんな折、俺の家の近所の体育館で「あれ」をやっているという事を耳にする。
春高バレーの決勝だった。
俺がずっとずっと追い求めていた、夢の舞台。
その年は、なぜだか知らないが埼玉の片田舎の体育館で春高の決勝が行われており、
俺の家からすぐに行ける場所だった。
俺は行こうか行かまいか、心底悩んだ。 センター試験は一週間後。
世間の受験生は今頃死ぬほど追い込みをかけている…
それまで受験のために、バレー関係の事は全て意図的に避けていたのだが…
もう、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
俺の見れなかった夢舞台、見に行こうじゃないか!
内心、罪悪感や焦る気持ちもあったが、
久しぶりに「あの空気」を感じられると思うと、嘘のようにワクワクしている自分がいた。 ということで、今日は一旦ここまでにします。
見てくれた人ありがとう
続きは明日の夜書きに来ます。 こんばんはー
昨日の続きを書いていこうと思います。 体育館に着いてみると、中は満員だった。
中学の時にも一度春高の決勝は見に行ったことがあったが、
その時以上に混んでいた。
注目の対戦カードは、S高校-O高校。
注目の大エース擁する優勝候補のSと、変幻自在のOがどんな戦いをするのか。
俺はこの決勝に、本当にワクワクしていた。
応援の歓声も、会場の熱気も、とても真冬とは思えない。
ああ、これだ!この感覚!と笑顔になるのを抑えきれなかった。 試合はやはりS高有利に進んでいく。
両者の高校も、バシン!と決めて一点入るたびに、
ワッ!と歓声が起きて、「ドドドドドン!」と応援の地響きが湧き上がる。
俺も一緒に「オッケーー!」と叫んでしまう。
大エースを率いるS高に世間の注目が集まる中、俺は近くにいた高校生の会話が耳に入った。
「O高のレフトエース、身長175ないらしいよ」
「らしいねー。ほんと、どんだけ飛ぶんだって感じ」
「しかも2年生って、すごいよなぁ」 俺はこの会話に耳を疑った。
確かにコートを見てみれば、
オレンジコートで躍動するその姿は、どの選手よりも小柄に見えた。
でも、誰よりも高く飛んで、その小柄な体で大きなブロックを打ち抜いていく。
それも、春高バレーの決勝の舞台で。
彼が決めるたびに、チームが沸き立つ。風が吹く。走り回る。
俺は、この時見たO高校のエースの姿が、目に焼き付いて離れない。 それはまるで俺に、
「できないことなんて何もない。諦めなければ誰だって輝ける」
と言っているかのようだった。
試合も終盤に差し掛かれば、
1プレー1プレーに悲鳴のような歓声が湧き起こる。
最後はやっぱり、S高の大エースのサーブで決まり、S高校は優勝した。 オレンジコートの真ん中で、感極まって抱き合うS高校に、
がっくりとうなだれ、コートの外に並んでそれを見つめるO高校。
まさに明と暗。しかし、負けてもなお表情を崩さず、凛と相手の栄誉を称えるように、
コートの外に佇むその姿は、美しささえあった。
俺は、強く憧れた。
優勝したS高校にも、散ってしまったがコートに沢山の風を吹かせたO高校にも。
俺は強く憧れ、もう戻れないバレーの日々を思い出した。 俺もあんな風に飛んでみたかった。
どうして俺は…こんな腰にならなければ!
そんなことを思ってしまった。
憧れの舞台で輝いていた彼らを見て、キラキラした感情が込み上げた裏で、
何もできない自分に対する絶望の念が、心にずっしりとのしかかった。
高く高く舞い上がって躍動していたO高校のエースの姿が、
俺の心に刻み込まれて、離れなくなった。 そして俺は、そんなバレーへの情念を忘れられないまま、
一週間後のセンター試験を迎え、案の定、失敗した。
その後の本試験も、そのまま上手くいかなかった。
自分でもバカだなって思う。
バレーを諦めて勉強に専念しているのに、その勉強すらおぼつかない。
俺は何にもなれない、なんて半端者なんだろうって、自分でも馬鹿らしかった。
そのまま義父に強く叱責を受けて、俺はそのまま2浪した。
自分の行く先も、将来も、何もかもが不透明なまま、
失った夢の幻影だけが心にずっしりと残って、
俺は再び浪人の一年を迎えたのだった。 義父も何かを感じ取ったのか、
さすがに新宿の予備校は負担が大きいだろうと言って、
2浪目からは、家の近所の予備校に通うこととなった。
だが俺の腐り加減は凄まじく、予備校に通うフリをして、
毎日公園に行ってぼーっとしたり、ゲーセンに一日中篭っていたりした。 時には、夜も友達の家に泊まると偽り、
秋葉のアニクラに行って朝まで騒いでいる、なんてこともあった。
バレーに夢中だった頃の自分なんてすっかり影を潜め、
もう本当に、ただの「ダメ人間」でしかなくなっていた。
それを自覚する度、昔の自分や、昔の仲間、美香のあの一言、そして、
春高のオレンジコートで羽ばたいていた、あの小さなエースの事を思い出した。 もう俺には何も出来ない。
あんな風に輝けることは、一生ない。
そんな気持ちだけが、いつも心にあった。
夏前になって、予備校に連絡を入れた義父によって、
俺が予備校をすっかりさぼっていることがバレて、本当にひどく怒られた。
そこで、義父から思いもよらない提案を受けた。 義父「お前は東京にいるから、勉強に散漫になるんだ」
義父「夏の間、田舎に行って勉強に集中してこい。俺の実家に泊まれるから」
それはまったく予期せぬことで、
俺はこの提案に驚いたが、自分でもちょうど東京から少し離れたいと思っていた。
全然知らないところに行って、少し何も考えない時間が欲しかった。
勉強するかは、別として。 >>69
堅い人ではあるけど、決して悪い人ではないんだ。
まあ、それでもやっぱり色々考えちゃうけどな 俺は義父の提案を受け入れて、2浪目の夏、
義父の故郷の田舎に行くこととなった。 そんなわけで、簡単な着替え一式と勉強道具を担いで
一路義父の故郷へと向かうことになった。
季節は7月も中盤。まさに、夏の始まりの頃だった。
新宿から慣れない特急列車に乗った。
高1の時、Vリーグの試合観戦のために一度だけ乗ったことのある特急だった。
そして揺られること1時間以上、幾つものトンネルを抜けて、
山あいの田舎に辿り着いた。 電車から降りると、けたたましいほどの蝉の声が俺を包んで、むわっと熱気を感じた。
でもそれは東京とは違って嫌な熱気ではなく、
どこか溌剌とした、爽やかな暑さだった。
小さな駅舎の古びた改札を抜けると、
目の前には信じられないほどひらけた景色が広がっていた。
少しだけ標高が高く、視界を遮るものが何もないから、遠くの山がよく見える。
山と青空の境目がくっきりと浮き立っていて、遠くには麓の市街地が見えた。 山側を振り返ると、畑のようなものが斜面にいくつも広がっていて、
これが教科書で見た「扇状地」ってやつなのかも、って思った。
そこら中を沢山の緑や畑が埋め尽くしていて、
「ああ、これは田舎だわな」とすぐに思った。
一体なんの畑なのか、木の棒が打ち付けられた畑が沢山並んでいる。
よく見れば房のようなものがぶら下がっていて、ぶどう畑か何かなのかな、と思った。 駅に面した道はそれなりの大きさだけど、
ぐらぐらと陽炎で揺れていて、滅多に車が通る様子もない。
道沿いには軽トラが止められていて、
近所のおばさんたちが世間話をしている。
なんてのんきな所なのか。
生まれてからずっと東京で過ごしてきた俺にとっては、
「本当にこんなところもあるんだな」と太陽の熱射線に朦朧としながら思った。 義父からもらった地図を頼りに、駅前の道を右に進んで、
線路沿いの坂道をずっと登って行く。
坂道には木漏れ日がちらちらと差し込み、蝉しぐれが降り注いだ。
暑くて暑くて、もうダメだ、なんて思っていると突き当りにタバコ屋があって、
そこを右にまがって線路を越えると、義父の実家があった。 今日は一旦ここまでとします。
続きもまた明日書きに来ます
それでは〜 こんばんは
今夜も続きを書いていきたいと思います。 >>89
確かにそうだね
でも、あえてそうしてる部分もあるんだ
後々、わかるかもしれない 「○○書道教室」と小さな看板が掲げられていて、入り口が二つあった。
「書道教室ってことはここだな…」と思いつつ、
なかなか家に入れずその場で立っていた。
わきにまた木の杭の打たれた畑があって、
「ここにもあるよ」と思ってまじまじと眺めた。
やっぱり実っているのはぶどうで、この家でもぶどう作ってるのかな、
なんて余計な事を考えていた。 そんな風にして数分家の前で立っていると、
ガシャン、と自転車を降りる音が聞こえた。
振り返ると、大きなエナメルのバッグを背負った制服の女の子が立っていて、
そわそわした様子で俺を見ていた。
俺は焦ってすぐさま「こんにちは、」と言うと、
女の子も「どうも…」と小さく会釈をした。
炎天下の中自転車をずっと漕いできたのか、顔は真っ赤だった。 そのまま家の横の水道の近くに自転車を置くと、ぱたぱたと家の中に入って行き、
「お母さん、来てるよー!」と声を上げた。
俺は瞬時に、「行かなきゃ」と思って、続けざますぐに家に入った。
家の中にはおばさんがいて、
「はじめまして、1君来てたんだね」と俺に挨拶してくれた。
「聞いてはいたけど、やっぱり背が大きいね」
ちなみにおばさんは義父の弟の嫁さんに当たる。
俺も初対面で緊張していたが、ここに来るまでに何度か電話で話した事はあった。 俺が、「お世話になります」と言うと、優しく笑って
「1君の部屋は2階のあいてるとこだから。荷物、入れちゃってね」と言ってくれた。
そのあとすぐに、おばさんが
「奈央!ローファーのかかと踏んじゃダメだっていつも言ってるでしょ!」
と声をあげると、2階から
「うるさいなぁ!分かったよ!」という女の子の声が返ってきた。
そこには確かに、かかとを踏み潰されたローファーが転がっていて、
俺はそのやりとりが微笑ましくて、思わず笑ってしまった。 自分の荷物を2階の部屋に入れ、1階のリビング(と言っても、畳張りなのだが)へ降りると、
台所から出てきたおばさんにすぐに声をかけられた。
おばさん「悪いじゃんね、奈央がうるさいと思うけど、許してあげて」
俺はすぐにあの子の事だな、と察して、
「いえいえ、全然大丈夫ですよw」と答えた。
俺「奈央ちゃんは、今何年生なんですか?」
おばさん「高3だよ、だから受験なの〜」
俺「え、そうなんですか」
俺は自分と2つしか歳が変わらない事に驚いた。 おばさん「全然勉強する気がないから、困るじゃんねー、1君勉強教えてあげてw」
そう言われて俺は、「それはさすがにw」と苦笑してしまった。
おばさん「ここまで来るの、迷わなかった?」
俺「あ、それが。案外すんんり来れましたね」
俺がそう言うと、おばさんは「わ、それはすごい」と驚いた様子だった。
おばさん「そうそう、スイカがあるんだった。切ってあげるから、1君食べなよ」
俺「え、そんな、悪いですよ」
おばさん「いいのいいの。暑い中歩いてきて、喉も渇いたでしょう」
おばさん「今、冷たい麦茶とスイカ出すからね。待ってて」
ぱたぱたと支度を始めるおばさんを前に、俺も言葉に甘えてしまう。 遠慮しつつも、炎天下の中を歩いてきてとても疲れていたから、
冷たい麦茶にスイカ、考えただけでワクワクしてしまった。
おばさん「奈央ー!スイカ切ったげるから、1君と一緒に食べたらー!」
おばさんが、階段下から2階に向かって呼びかける。
だけど反応はなく、奈央が下に降りてくる様子はない。
おばさん「うーん、あの調子じゃ、来ないかも」
俺の方を見て申し訳無さそうに苦笑いするおばさんを見て、俺は答える。
俺「いや、それは仕方ないですよ。こっちも突然押しかけて、申し訳ないです」 おばさん「いや、全然そんなことはないんだけどw」
おばさん「あの子、人見知りだから。慣れるまで、ちょーっと時間かかるかもね」
おばさんはそう言い残して、いそいそと台所へと入っていった。
しばらくすると、俺の期待通りのスイカと、氷がごろごろと入ったグラスに麦茶が出てきて、
思わず「うわ、すごい!」と口をついて出てしまった。
「いただきます」と言ってスイカを頬張ると、
まだ少し早い、夏の入り口をかじったような気がして、
受験勉強をしに来たというのに、心が躍った。 おばさん「ごめんね、こんなスイカしかなくてさ」
おばさん「夜は、もうちょっとちゃんとするからね」
俺「いや、とんでもないですよ。スイカ、久しぶりに食べました」
俺「こんなに、美味しかったんですね」
俺が感激してそう言うと、
おばさんは少し笑って「それならよかった」と安堵の表情を浮かべた。 そんな風にして、俺はスイカを食べながらテレビで昼過ぎのワイドショーなんかを見て、
まだ始まったばかりのゆったりとした夏の時間を過ごしていた。
すると、ぱたぱたぱた、と慌ただしい音が聴こえてきて、玄関の方から声がした。
奈央「お母さーん!ちょっと、出かけてくるからね」
おばさん「あら、どこ行くの」
奈央「ちょっと友達と勉強しに行ってくる」
おばさん「勉強なんて、家でもできるのに」
奈央「家じゃ集中できないの!」
俺はもう食べきったスイカを眺めながら、ぽかーんとその会話に耳を傾けていた。 奈央「じゃあね!」
おばさん「ちょっと奈央、夕飯はどうするの」
奈央「多分夕方には帰ってくるから、食べる!」
おばさん「気をつけて行くのよ!」
そして、バタン!と音がすると、窓の外でガシャ、と自転車を出す音が聞こえて、
奈央は勢い良く出かけていった。
俺は一連のその様子を見て、このクソ暑いのに元気だなーなんて思っていた。
「ごちそうさまでした」と言いながらスイカの器を台所まで運んでいき、
「あら、そのままで良かったのに」なんて言われながら「いえ」と会釈して、
再び自室である2階の部屋に戻った。 畳六畳ほどはあろうかという部屋に、整然とたたまれた布団が置いてあって、
その脇には小さな机が置かれていた。
扇風機なんかもおいてあって、窓からは山あいの緑の景色と青空が広がっていた。
扇風機のスイッチを入れて、心地良い風を浴びながらその景色を眺めると、
「夢みたいなところに来ちゃったなぁ」と思った。
おまけに、窓際に吊るされたくすんだ風鈴の「チリン」という音が、
その夢見心地になおさら拍車をかけるようだった。 あんまりに気持ちいいものだから、
俺はそのまま畳まれていた布団にもたれかかって横になった。
でも、こんな状況になっても浮かんでくるのはやっぱりバレーのことだった。
半分眠りに落ちていくフワフワとした頭のなかで、
コートを駆け巡ったあの日の光景とか、美香に言われたあの一言とか、
春高の決勝で羽ばたいていたあのエースのこととか、
色んな記憶が頭をよぎった。 そんな事を考えているうちに、俺はすっかり眠ってしまって、
目が覚めるとすっかり外は夕方の光景に様変わりしていた。
さっきまでの真っ白な陽の光ではなく、景色は若干オレンジがかっていた。
体中汗だくになっていて、俺はリュックに入っていた生ぬるい水を飲んだ。
そんな風にしてぼーっとしていると、窓から風が入ってきて風鈴が音を立てる。
ああ、やっぱり夢じゃなかったのか、なんてぼんやりと考えていると、
何やら「バン、バン」とボールを弾く音が外から聴こえた。 「なんだなんだ」と不思議に思って、窓から外を眺めてみても、
その音の正体は掴めなかった。
俺は仕方なく、起き抜けの怠い体で1階に降りていき、玄関から外へ出た。
夕方とはいえ、外に出ると熱気が一気に押し寄せてきて、心が折れそうだった。
とても近くで、ジワジワジワジワ…と蝉が鳴く声が聞こえた。
家のもう一つのドア(書道教室側)の前には沢山の自転車が止まっていて、
どうやら書道教室の時間になっていたらしい。
おばあちゃん、義父の母にあたる人がここで書道教室をしている、
というのは話に聞いていた。 もしかしたら、さっきの音はこの教室からだったのか?なんて思ったけど、
家の裏の方から「ばん!」とボールを叩く音が聞こえて、
俺はすぐに家の裏へと回った。
俺「あ……」
奈央「あ、どうも…」
そこには、家の裏手の斜面に向かって壁打ちをしている奈央がいた。
しかも、持っているボールは紛れもなくバレーボールだった。
俺はそれに気付いて、瞬時にドキッとしてしまった。 俺「練習…かな?バレーするんだね」
奈央「ええ…まあ」
奈央はそう言うと、軽く頷いて再び壁打ちを始めた。
俺「3年生って聞いたけど、部活はまだ引退じゃないんだ」
奈央「…はい。最後の試合がまだあるんで」
練習の邪魔をされたくない、とでも言わんばかりに、
奈央は俺の質問に淡々と答えた。 俺「バレーって、楽しいよね」
俺のその一言にはっとしたように、奈央はこちらを見た。
奈央「え、バレーやってたんですか?」
俺「うん、ずっとやってたよ。すっごい好きだった」
奈央「そうなんですか…!そういえば、東京って…どんな高校だったんですか?」
先ほどまでの平板な顔色が一変して、奈央の表情が笑顔に変わっていた。
俺はそれに気付いて少し嬉しくなりながら、会話を続けた。
俺「うーん…まあまあ強かったかなぁ…○○高校っていう…」
奈央「あ、なんか聞いたことあります」
俺「そっか、それは嬉しいな」 ジワジワジワ…という蝉の声が俺たちを包んで、少しだけ空間が間延びした。
奈央は、一心に壁打ちを続けた。
奈央「じゃあ…その、けっこう本気でやってたんですか」
俺「ん…まあね。春高出場とか、もっと言えば優勝とか…考えてたな」
奈央「すごい…え、でも。もうバレーは…?」
奈央の質問にちょっとだけドキッとしたものの、俺は続けた。
俺「まあ、色々あって…やめちゃったんだよね」
奈央「そうなんですか…」
俺「ん、まあね」 時たま吹き抜ける風が、木々のさざめきと共に少しだけ涼しさを運んでくれた。
家の表の方から、書道の帰りなのか子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。
奈央「あの…」
俺「どうしたの?」
奈央「もし良かったら…ちょっとだけ対人、付き合ってもらえませんか」
奈央「壁打ちだけだと…やっぱりあれで」
俺「ああ…いいよ、全然オッケ」
対人というのは、バレーの基礎練の一つだ。
二人で向い合って、ボールをパスしあう。 奈央「いきます」
俺「よし、来い!」
奈央がボールを掲げ、俺の方に打ち込んでくる。
俺「お、なかなかイイ球打つね」
俺がレシーブを上げると、そのまま奈央からトスが返ってくる。
俺は「いくよ」と言ってそのままボールを打ち放つ。
バシン、と手のひらにミートして、気持よく奈央の元にボールが向かう。
久々にボールに触ったけれど、そこまで感覚は鈍っていないようだった。 奈央が、「はい!」と言ってレシーブをする。
ふわりと浮かんできたボールを、俺は両の手でキャッチし優しくトスを返す。
瞬間、少しだけ陰っていた空からにわかに光が溢れて、構える奈央を照らした。
俺は動揺して、打ち込まれたボールのレシーブを失敗した。
奈央「あ、ごめんなさい…」
俺「いや、今のは捕れた…こっちがごめん」
夏の夕暮れに、こうして対人をする…
俺は、大事な事を思い出していた。 中学の頃、体育館が満足に使えず、こうしてよく外で対人をすることがあった。
バレーを始めたばかりで、上手くなっていくのが本当に楽しかった。
夕暮れから、真っ暗になってボールが見えなくなるまで、仲間と無心にボールを追いかけまわした。
あれは、なんだっけ。夏の総体の前で、みんな燃えていたんだっけ。
奈央「どうかしました…?」
俺「あ、ごめん。なんでもない」
考え事にふけってしまったせいで、奈央が心配そうにこちらを見ていた。 奈央「たまに、上手く打てないことがあるんですよね…」
俺「ああ、強く打ち込もうとか、叩きつけるとか考えないほうがいいよ」
奈央「あ、はい!」
俺「手のひらでボールをしっかり捉えれば、力む必要はないから」
奈央「…なるほど。もう一回いいですか?」
俺「うん、全然いいよ」
この子、案外一生懸命なんだなぁって、
俺は思わず笑ってしまいそうだった。 すみませんが、今日は一旦ここまでにします
見てくれている人、ありがとう!
また明日来ますー 奈央「…あの」
奈央がボールを追いかけながら、俺に質問してくる。
俺「…うん、何?」
奈央「ポジションはどこだったんですか」
俺「俺は、レフト。一応、エースだったんだよね…」
奈央は「へー…」と言いながら夢中でボールを追いかけていた。
俺「じゃあ、奈央…さんは?」
奈央「私も…レフトで、一応エース…」
俺「お、すごいね!」
奈央「いや、全然そんなんじゃないです…」
俺の言葉を聞いて、奈央は表情を曇らせた。
何か、まずいことでも言ったんだろうか。
こうして、しばらく二人で対人を続けた。 奈央「あの、少し休憩しませんか」
奈央はそう言うと、家の表の方へと駆けて行った。
玄関の脇に水道があって、勢い良く蛇口をひねって水を飲み始めた。
水道の下にはバケツに入ったキュウリの束が置かれていた。
奈央「おばあちゃんかな、こんなとこにおいて」
奈央「いいや、水入れといちゃえ」 そう言って、バケツにじゃばじゃばと水を入れていく。
青々としたキュウリの群れが、気持ちよさそうに、
ぷかぷかと水の中に浸っていく。
奈央「どうせだから、水もあげちゃうか」
続けざまに、近くにあったひなびたジョウロに水を入れていく。
そして玄関付近の花壇に、ばーっと、何というか大雑把に、水を蒔いていく。
奈央「うん、これでいいかな」
そう言うと、奈央は少しだけ笑みを見せた。
俺はその様子を見て、少し感心して聞いてみた。 俺「この黄色い花、なんていうの?」
奈央「えっと……確か、マリーゴールド、だったかな」
俺「そうなんだ。綺麗だね、なんか夏っぽくて」
奈央「確かに、この燃えてるみたいな色、いいですね」
奈央「個人的には、ひまわりのが好きだけど…」
俺「あ、そうなんだw」
夏の明るい夕日を浴びて、花壇の花達は元気に揺られていた。 そんなやりとりをして、また少し沈黙になりそうな時だった。
奈央「はーあ、もう少しで部活も終わっちゃうなぁ…」
奈央がため息を漏らすように、口にした。
俺「あー、確かに。でも、もう総体とかは終わった時期…だよね?」
奈央「そうですね…総体は負けちゃいました」
俺「大会って言ってたけど、何の大会?」
奈央「地区の、夏季大会です。ちっちゃいですけど…どうしても勝ちたくて」
奈央「最後に、みんなで何かを成し遂げたいなって……」
座り込んで、愛おしそうにボールを眺める奈央に、俺ははっとさせられた。 俺「奈央さんは…バレーがすごい好きなんだね」
奈央「はい、好きです!…できたら、ずっとみんなでバレーしていたいです」
照れ隠しなのか、奈央はちょっと苦笑いだった。
奈央「1さんは、バレーやめちゃったって言ってましたけど…」
奈央「大学に行ったら、きっと続けるんですよね」
奈央「きっと、上手いだろうし」 「あ……」
瞬間、言葉が詰まって何も言えなくなる。
奈央の言葉が俺の胸に突き刺さって、じんじんと痛みを感じるくらいだった。
どうしよう、なんて答えればいいのだろうか。
俺「もう、バレーはやめたって言ったじゃん」
奈央「え…?」
俺「ごめん、俺先に家の中に戻ってるね。」
戸惑う奈央をよそに、俺は急いで家の中へ戻って2階へと駆け上がった。 俺は、何をやってるんだ。
明らかに不機嫌な態度をとってしまった。
奈央は別に何も悪くないのに。
俺はただ、奈央が羨ましかった。羨ましくて、悔しかった。 屈託なく「バレーが好きです」と言い切れる奈央が、羨ましかった。
俺にとってバレーは「好きだった」ものに成り果てていたから、
今を楽しくバレーができる奈央が、羨ましくて、一緒に居られなかった。
そして相変わらず、腰からはあの鈍い痛みを感じた。
たった一瞬、奈央と対人をしただけだったのに。
部屋に戻ってからも、奈央のバン、バン、という壁打ちの音はしばらく聞こえた。
俺はその後、夕飯の時間まで部屋に篭って勉強に没頭した。
奈央についてしまった悪態も、バレーのことも、これからの事も、何もかも忘れたかった。 すみませんが、今日は一旦ここまでにしますー
また明日書きに来ます。
それでは おばさん「1君、夕飯できたよー」
気づくと、1階から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「はーい」と生返事をしつつ1階の居間に降りると、
おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん(義父の弟)、奈央がテーブルを囲っていた。
俺は身構えて再び自己紹介をして、食卓についた。
おばさんが台所から出てきて、「とってもいい子だよ」と言って笑った。 おばあちゃんはにこにこして「よく来たじゃんねぇ」と喜んでくれた。
おじいちゃんはあまり表情を崩さず、少し怖い印象を受けた。
そして、おじさんはビールを飲みながら
「まあ何もない田舎だけど、ゆっくりしてけしw」と笑っていた。
義父の堅い印象とは裏腹に、とても温和そうな人に見えた。
なんでも、地元の農協で働いているのだとか。 奈央はテーブルの向こうに座っていて、力なく笑っていた。
さっきはもっとハキハキした子に見えたけど、家族の前だとやはり恥ずかしいのだろうか、
それとも、俺の最後の態度にひっかかる所があったからだろうか…
どうしようか、奈央にいつ謝ろうか、そんな事を考えているうちに、
目の前には沢山の料理が出てきた。
初日の料理は印象的で、おばさんが張り切ったせいなのか、
豚の生姜焼きに、そうめんに、外で冷やしてあっただろうキュウリの浅漬やトマトなど、
夏っぽいメニューがわんさか出てきて、それはもう食べ切れなかった。 おばさん「奈央、1君とは話した?」
奈央「え、うん…ちょっと」
おばさん「そう、それならよかったw」
奈央はいかにも気まずい、という感じで下を向いてしまった。
おじさん「奈央も見習って勉強しっかりやらんとだめだぞ」
奈央「わ、わかってるよ、そんなこと」
おじさん「信用出来ないな〜w」
どうやらおじさんは、少し酒に酔っているようだったw
みんなでテレビを見て元気に笑いながら夕飯は進み、
夏の宵闇の時間が過ぎていった。 夕飯が終わるとおばさんが片付けを始めたので、
俺も率先して洗いものを手伝ったりした。
奈央に一言声をかけようと思ったものの、
ご飯が終わるとすぐに部屋に戻ってしまった。
ふと、縁側で食後の一服をしていたおじさんに呼ばれた。
おじさん「1君、こっち来おし」
俺「あ、はい」
縁側に座ると、外の青臭い夏の匂いを感じた。
わずかに、「リリリリ…」という虫の声も聞こえた。
空には、微かに星が光っていて、俺は「はー…」と唸ってそれらを眺めた。 おじさん「どうでこっちは?すごい田舎でしょw」
俺「ああ…そうですね。色々初めてです、こういうの…でも、いい感じですね」
おじさん「それはよかったw」
おじさん「でもなんだか不思議なもんだよねぇ」
おじさんは、そう言ってゆっくりと煙を吐き出す。
俺が「何がですか」と聞き返す前に、おじさんは続けた。
おじさん「1君は、今いくつ?酒は飲めんのけ」
俺「あ、20歳なので…たまには飲んだりも」
おじさん「それはいいなw」
おじさんは嬉しそうにおばさんを呼んだ。
おじさん「母さん、ちょっと瓶持って来てよ!あとグラス2つね」 家の奥から「もー、はいはい」という声が聞こえて、
俺とおじさんの間に、冷えた瓶ビールとグラスが置かれた。
おばさん「1君は勉強しに来たんだからー…あんまり変なことさせちょし」
そう言われて、おじさんは「わーかってる!少しだけだから!」と苦笑いした。
こうして見ているとおじさんはまるで小学生のように楽しい人で、(酔っているのもあるが)
あの義父の弟さんには、やっぱり見えなかった。
そして独特の方言も、なんだか俺には心地がよかった。 おじさん「ほらほら」
おじさんが楽しそうに俺の持ったグラスにビールを並々と注いでいく。
もう大丈夫ですwと言ってもおじさんは子供のように「まだまだ」と言って聞かなかった。
おじさん「じゃ、乾杯だな」
そう言われて、カチンとグラスを突き合わせた。
夏の夜風に混じって「リーーン」と虫の声が聞こえる中で飲むビールはやっぱり美味しくて、
思わず二人で「かぁー!」とうなってしまった。
しばらくおじさんは、黙って煙草を吸い続けた。
途中、「吸うけ?」と言われたが、俺はそれとなく断った。 おじさん「お父さん…って言っていいのかあれだけんど」
俺「はい?」
おじさん「アイツとは、上手くいってるけ?」
さっきまでのにこやかな表情ではなく、少しだけ物憂げな表情に変わっていた。
俺「ああ、まあ…ハイ。それなりには」
おじさん「ほうけ。それならまあ…ごめんね、変なこん聞いちゃって」
俺「いえ、とんでもないです…」
俺がそう答えて、しばらくその場で虫の鳴き声だけが響いていた。
俺「僕の方こそ、突然押しかけて…これからお世話になります」
俺がそう言うと、おじさんは力なく笑って「ゆっくりしてけばいいよ」と言ってくれた。 その後、おじさんとしばらく縁側で話したが、
「勉強なんてテキトーでいいだ」だの「今度一緒にパチンコでも打ちに行かないか」など、
あまりに義父とかけ離れたことばかりを言われて、驚いた反面、
今までプレッシャーの中にいたので、とても安心できたのを覚えている。
これは俺の勝手な予想だが、もしかしたら息子ができたと思ってくれたのかもしれない。
そうだったら嬉しいな、という俺の気持ちだが。 次の日は、起きて居間に降りるともうおじさんと奈央の姿はなく、
おじいちゃんとおばあちゃんが朝ごはんを食べていた。
おばさん「おはよう、朝ごはん今するからね」
俺「あ、ありがとうございます。あの、奈央さんは…」
おばさん「あ、奈央?部活だってさっき出かけてったねぇ」
おばさん「図書館行くとか言ってたから、今日は夜まで帰ってこないと思うけど」
俺「ああ、そうですか…」
結局昨日の事を謝るタイミングを失ったな、と俺はがっくりうなだれた。 おばさん「何?奈央に何か用事あった?」
俺「いえ、そういうワケではないんです」
俺はそのまま用意されたご飯を食べて、日が傾くまで部屋で勉強に集中した。
西日が差し込んでくる頃にはさすがに集中力が切れて、
ちょっと散歩でもしようかなって思った。
家の一階が何やらガタガタ騒がしくなったので、ちょっと気になって見に行ってみようと思った。
開けていいのか分からなかったが、書道教室の部屋に続くドアをそーっと開けて覗いてみた。 何人もの小学生が長机に座って、みんなそれぞれに書道をしている。
全然集中しないでだれてる子もいれば、背筋を伸ばして集中している子もいる。
俺はそれがおかしくて、「ぷっ」と笑ってしまった。
その内のぞいてるのがバレて、男の子に、「あ、誰ー!?」と指さされた。
その騒ぎは瞬く間に広まって、
「初めて見る人だ!」「兄ちゃん誰!」と次々に集まってくる。
「先生これ誰ー?」と集まってくる生徒に、おばあちゃんは「はいはい、席に戻ってね」
と冷静に対応している。
おばあちゃん「この人は1君。今先生の家に泊まって受験勉強してるの」
と優しく説明をする。 「え、じゅけんせいなの?」「ろうにんせいってやつじゃない!」
と、騒ぎが収まる様子はない。
俺も仕方なしに「こんにちは」などとテキトーな挨拶をして対応する。
おばあちゃん「1君は夢に向かって勉強してるの。みんなも見習ってね」
おばあちゃんのその一言が俺の心にぷつっと刺さって、俺は我に返った。
「え、なにそれ!」「兄ちゃんどっから来たの」などと、騒ぎが続く中、
おばあちゃんに「失礼しました」と一言謝って、すぐにその場を離れた。 「俺の夢ってなんだ。」
おばあちゃんは俺が夢に向かって邁進してるように見えたんだろう。
勉強して、その先にかけがえのない夢がある、と―
俺は今、一体何のために勉強しているんだろうか。
そんな疑問、最初からあったのだけど、それすらも忘れようとして、
東京で色々問題を起こして、今ここに流れ着いて―
玄関に置いてあった、奈央のボロボロになったバレーボールを見て、
俺はそんなことを何度も何度も考えた。 それから数日は、奈央と上手く顔を合わせることがほとんどなく、
二人で対人したあの時の事を、ずっと謝れずにいた。
なぜだか俺はそれが気がかりで仕方なくて、勉強にも身が入らなかった。 数日後の朝、居間に降りるとやけにバタバタして落ち着かない様子だった。
奈央「お母さん!なんで起こしてくれなかったの!」
おばさん「やーね。何度も起こしたじゃない。アンタ、大丈夫だって言うから」
奈央「もー、これじゃ間に合わないよ!」
寝坊してしまったのか、奈央がえらい剣幕でおばさんと口論していた。 おばさん「ほんとね。この電車には乗れないから…そうすると30分以上あくわね」
おばさんが、時刻表らしきものを見ながらつぶやく。
奈央「集合時間に間に合わないじゃん…お母さん車で送ってよ」
おばさん「だめよ。私今日早番だからもう行かないとだから」
奈央「はー?何で今日に限ってぇ!」
おばさん「おじいちゃんとおばあちゃんは病院に行っちゃったし、だめだからね」
奈央「マジ有り得ない!じゃあ本当に遅刻じゃん…!」
その口論は収まる気配もなく、俺は階段の脇から眺めていた。 すみませんが、今日は一旦ここまでで。
また明日の夜に来ますー
ではでは! こんばんは。
遅くなりましたが本日も続きを書いていきます。 機をうかがって、どうしたのかと事情を尋ねてみる。
俺「あの、どうしたんですか…?」
おばさん「奈央、今日野球の応援だったらしいんだけど、見ての通り寝坊しちゃったのよ」
俺「ああ、なるほど…」
おばさん「野球の応援くらい、ちょっと遅刻したっていいんでしょ?」
おばさんが呆れた様子で奈央に問いかける。
奈央「だめ!絶対に行かないとなの!」
まるで見に行かないと死んでしまうとでも言わんばかりに、奈央の語気は荒かった。
おばさん「何をそんなに怒ってるのか知らないけど…無理なもんは無理よ」
おばさんにそう言われて、奈央は涙目になって肩を落とした 俺もさすがにそれが見ていられなくて、一言聞いてみる。
俺「あの、車を出せば間に合うんですか?」
おばさん「え?まあ、今から電車で行くよりは…」
俺の言葉を聞いて、奈央がはっとした表情でこちらを見た。
俺「俺、車の免許ありますし…送っていけないことはないですけど」
俺がそう言うと奈央はまた一気に勢いづいて、
「ね、ね、お母さん!いいよね!?」とまくし立てた。 おばさん「あのねぇ、1君に迷惑でしょ…」
奈央「でも他に車出せる人いないんだし、いいじゃん!」
おばさん「はーもう…この子ったら…」
おばさんはそう言って、微妙な面持ちで俺の方を見た。
俺「そういう緊急事態だったら、全然いいですよ」
俺「大丈夫です、安全運転で行くんでw」
おばさん「それじゃ悪いけど、このわがままな子連れてってもらえるかしら」
おばさん「本当に、気をつけてね。急がなくていいからね」
おばさんはそう言って、俺に車のキーを手渡した。 奈央もバタバタした様子で、急いでカバンやら荷物を持ってくる。
出かける間際、おばさんが俺と奈央に、
「暑いから」とペットボトルのポカリをくれた。
車に乗り込むと、案の定中は蒸し風呂のような熱気に包まれていて、
奈央が「早く冷房、冷房」と俺を急かした。
俺「すぐにはクーラー点かないから、ちょっと窓を開けておこう」
そう言って窓を開けると、外から「ジジジジジジ…」とやかましいくらいの蝉の声が聞こえた。
入ってくるのは蝉の声ばかりで、ちっとも風は来なかった。 こんばんは
昨日は落ちちゃってすみません…
今夜も続きを書いていきます。 初めて乗る車だったので最初は緊張したものの、しばらく運転していれば
すっかり調子をつかみ、俺の中にも余裕が生まれてきた。
俺「おばさんの車を借りてきたみたいだけど…いいのかな」
奈央「お母さんは自転車で仕事に行くから…大丈夫です」
俺「そっか」
車内に二人きりという事もあって、なかなか会話は続かない。
俺は「奈央に謝らないと」と何度も思ったが、それもなかなかに口にできない。 奈央「あの、なんか…迷惑かけちゃって…すいません」
俺「え、何が?別に、全然いいよこのくらい」
俺「こっちも篭もりきりだし、良い気分転換になるよ」
奈央「そうですか…ありがとうございます」
俺はその奈央の受け答えが妙にモヤモヤした。 俺「その敬語みたいな…やめない?」
奈央「え?」
俺「言うて2つくらいしか変わらないし、親戚なわけだし…」
奈央「あ、じゃあ…はい。分かった」
俺「うん、それでいいよ」
奈央は戸惑いつつも、俺の提案を受け入れてくれた。
俺はなんとなく、それがちょっとだけ嬉しかった。 俺「あのさ、この前はごめんね」
奈央「え、何が?何かあったっけ…」
奈央は本当に何のことなのか分かっていないようだった。
俺「この前、家の庭で対人した時…突然やめちゃってごめんね」
奈央「ああ…あの時の…」
奈央「あれは、私も変な事言っちゃったかなって思ってたし…」
俺「ううん、そんな事ないよ。…だから、ごめん」
奈央もなんて答えていいのか分からないようで、
「いや、そんな…」と言ってしばらく黙っていた。
俺はまた変な空気にしちゃったかな、と思って胸が騒いだ。 奈央「もし」
俺「うん?」
奈央「またああいう事があったら、対人してくれない?」
奈央「一人でやるより、ずっと練習になったから」
俺「ああ、いいよ。いい息抜きになるから、声かけて」
そう言うと奈央は、「うん、よろしくね」と笑みを浮かべて手元のスマホをいじり出した。
俺も奈央のその表情を見て、なんだか安心した。
良かった、謝れて。
結局思いつめていたのは俺の一方的な感情で、
奈央はずっとずっと、心の広い子だったようだ。 横を見ると、助手席に座る奈央の髪の毛に、キラっと光る髪留めが見えた。
よく見れば、何かオシャレをしているようにも映った。
俺「その、髪留めは―」
奈央「これ?別に……」
俺「いいんじゃない。似合ってると思うけど」
奈央「え、本当に?変じゃない?」
俺はそんな奈央を見てちょっと笑ってしまって、
「大丈夫、変じゃないから」と答えてあげた。 奈央は、手に何か大事そうに持っていた。
野球のユニフォームの形をした、お守りのような…そんなものだった。
俺「それは、お守り?」
奈央「あ…ま、そんなとこ」
俺は「ははーん」と思って、微笑ましい気持ちになった。
奈央がどうしてそこまで時間どおりに行くことに固執していたのか、分かった気がした。
そう気づくと、自分でもにやけを抑えるのに必死になってしまって、少し大変だった。 30分も車を走らせていれば、目的地である野球場に近づいてきた。
球場の敷地に入って、「駐車場はどこだ―」なんて言いながら進んでいると、
奈央が突然「あ、ニシ君!」と外を見て叫んだ。
俺が「は?」と言って聞き返す前に、
奈央は「ここでいいから!止めて止めて!」と座席を揺らした。
俺「帰りは、どうすんの?」
奈央「終わったらガッコ戻るから、別にいい!」
奈央は「ありがとね!」と言って勢い良く車から飛び出して行き、
球場脇にいた数人の野球少年たちの元へと走っていった。
そして、先頭に居た精悍な顔立ちをした少年と話しているようだった。 「なるほど―あれが、ニシ君ってわけね」
俺は、「お守りちゃんと渡せたかなw」なんて思いつつ、
おばさんから借りた軽自動車を駐車場に停めて、球場へと向かってみた。
なぜだか知らないけど、俺は妙に楽しくなってしまって、
ちょっとウキウキした気持ちで球場へと歩いて行った。 球場と言ってもとても簡素な作りで、
ほとんど屋外運動場のようなものだった。
両校の応援と、父兄らしき人や他校の野球部?が大勢いて、それなりに観客が来ていた。
かくいう俺は一塁側近くの外野席のようなところに座って、
遠くから試合を眺めることにした。
どうやら、奈央たちの高校は一塁側のスタンドのようで、なかなかの大所帯だった。
俺は、「そもそもこれ何回戦なんだ」とか疑問に思いつつ、
頭からタオルをかぶって、おばさんからもらったポカリをグッとあおいだ。 昼前の良い時間帯で、球場には屋根も何もないから、
頭上からは嘘みたいに真っ白な日光が降り注いで、
今にも焼け焦げてしまいそうなほどだった。
「ミーンミーン」と遠くから聞こえる蝉の声でぼーっとしていると、
三塁側から「パパパーン!」と「ねらいうち」の演奏が勢い良く始まって、
「あ、始まったんだな!」と体を起こした。 遥か遠くで、球児たちが元気いっぱいに躍動している。
どちらの高校が打っても球場全体に「ワアアアア!」という歓声が沸き起こり、
「パーパーパッパパー!」というブラバンの演奏が高らかに鳴り響く。
それは見ていてとても爽快なもので、全然関係ない俺も、
「よっしゃあああ!」「いいぞー!」と声を荒げるほどだった。
ブラバンの演奏がまた面白くて、
エヴァの曲だとか、ドラクエの曲みたいのまで吹いてて、
今はなんでもありなんだなぁ、と聴いていて楽しくなった。
定番の曲もいいが、知っている曲が流れてくると、何だか嬉しい。 そんな風にして俺も興奮していると、
『4番、ピッチャー、ニシ、くん』というアナウンスと共に、
先ほどのあの少年が打席に立った。
「ああ、ニシ君、エースで4番なのか。すごいなぁ」
なんて思って、「そりゃ奈央が好きにもなっちゃうわけだ」と笑ってしまった。
今までの演奏よりも一層力強く「パンパーン!!」と「カモンマーチ」が鳴り響いた。
勢いのある曲で、応援する側もついつい力が入ってしまう。
「かっとばせー!ニーシ!ニーシ!」という応援が響き渡る。
その力強い応援から、奈央の高校がことさらニシ君に期待してるんだな、ということが分かった。 ニシ君が勢い良く空振りする度に、
悲鳴にも似た「あーー…」という声が響いて、
「オッケー次々!!」という野球部の応援団の声が飛び交った。
俺も全然関係ないのだが、なぜだか彼にすごく打って欲しい気持ちが湧いて、
「かっとばせーにーーし!!」と声を張り上げた。
熱の篭った球場。彼は「カキン!」と快音を響かせ球を跳ね返したが、
内野ゴロに倒れ、あっという間にスリーアウトとなった。 試合は終始接戦で手に汗握るものだったが、
その日「ニシ君」がヒットを放つことはなかった。
そして、奈央の高校は惜しくも敗北を喫した。
挨拶をし、1塁側スタンドに駆け寄ってくる野球少年たちは肩を落とし、
崩れ落ちて泣いている人もいた。
スタンドの生徒たちも「ありがとーーー!」「おつかれーーー!」と
声を上げていて、その健闘をねぎらっているようだった。
遠くでただ、「ミーンミーン」とうるさい蝉の声が聞こえて、スタンドの喧騒に混じりこんだ。 その中心には、泣く野球少年達と、あのニシ君の姿。
俺は心の中で「いいなぁ」と思った。
あの春高バレーの決勝を見に行った時の感情と、よく似ていた。
俺もできることなら、もう一度あの熱情の中に飛び込みたい。
沢山の声援や光を一心に浴びて、仲間と抱き合って駆け跳ねて、
勝ったら大喜びして、負けたら一緒に泣いて…
俺の夢―それは、バレーをしたいのももちろんだが…
多分、もう一度だけ、あのキラキラとした輝きと熱さの中に、飛び込みたかったんだ。 やり遂げられなかったバレーボール、部活。
例え途中で負けてしまっても、最後までやりきっていたら、
仲間と一緒に走り抜けていたら…
どんな景色が見えたんだろうか。
俺はそれを知らなかったから、見てみたいと思った。
ニシ君や、あの春高決勝で輝いていた選手たちのように…
仲間と一緒に走り抜けた先には、一体どんな景色があるんだろう―
そんなことを思った。 試合が終わって、両校の応援や父兄が球場からなだれるように捌けていく。
おばさんからもらったポカリはもうすっかり飲み干してしまったので、
自販機でジュースでも買ってから帰ろうとした。
球場脇にある自販機の前に歩いて行くと、何やら見覚えのあるものが落ちていた。
ユニフォームの形をした…お守りだ。 最初は目を疑ったが、それは間違いなく、
先ほど見た奈央の作ったものだった。
「どうしてこんなとこに落ちてんだ」と思って手にとった。
お守りには、「NISHI」と背番号の数字が縫い付けてあった。
結び紐が切れているという事もなく、ポケットからうっかり落としてしまったんだろうか。
それか、まさか捨てたのか…
先ほどまで全力で頑張っていたあの少年が、そんな事をするなんて信じられなかった。 拾ったものの、これをどうしようか。
奈央に見せた方がいいのだろうか、
もしかしたら渡せなくて、奈央が自分で捨てたのかもしれない。
渡せなかったとしても、自分で苦労して作ったものを捨てたりするだろうか…
考えたら考えただけ、どうしたらいいものか、分からなくなった。
とりあえず、そのままにしておくのもあれなので自分のポケットに突っ込んだ。
これを持って帰ってどうしたらいいのか分からないが、そうするほかなかった。
帰りはまだまだ陽が高い位置にあって、帰ったら勉強しないとな、と思った。 その日の夜、俺は早々に勉強への集中力が枯渇し、
おばさんと夕飯の手伝いなんかをしていたら、奈央が帰って来た。
鍵を忘れたようで、インターホンを仕切りに鳴らしており、
おばさんに「開けてあげてw」と言われて、俺は玄関のドアを開けた。
俺が鍵を開けて、「おかえり」と言うと、「ただいま」とだけ言って
すぐに階段へと向かっていく。
お守りの事、言った方がいいのだろうか、なんて考えていたら、
奈央は振り返って「今日はありがとうね」とだけ言って階段を上っていった。
疲れているのか、表情はとても暗かった。 「もうすぐ夕飯になるよ」と言うと、「うん」とだけ答えてくれた。
しかし、奈央が夕飯の場に顔を出すことはなかった。
「あとで食べる」とだけ言い、家族の前に顔を出すことはなかった。
俺はちょっと心配になったけど、女子高生なんてそんなもんだろうか、とも思った。
高校の時、仲の良い女子は大勢いたが、付き合ったりもしなかった。
(美香にはふられてしまったし)
俺は家であの子たちがどんな感じかは知らない。
学校ではみんなノリがよくて、ニコニコしていたけど、
そりゃあみんな家に帰ったら「素」に戻るよな、って一人で納得していた。 俺なんかが心配したところで、奈央もいい迷惑だろう。
それに俺は浪人生の居候で、わけもわからず突然家に来た奴だ。
そう考えれば、奈央は俺のことをだいぶ受容してくれているだろう。
もっと、根本的に拒否する女の子だっているかもしれない。
そう考えれば、奈央はかなり優しい子なんだろうな、とも思えた。
それも全て、俺がバレーボールをやっていたから、かもしれないが。 それから数日後の朝、とんでもない暑さで目が覚めた。
熱気と自分の汗で溺れるんじゃないか、と思うくらいの目覚めだった。
間違いなく、ここに来てから一番の熱さだった。
一階に降りると、一番におばさんに話しかけられた。
おばさん「今日は暑いね〜今麦茶出すから待っててね」
俺「本当に暑いですね…」
おばさん「熱中症にならないように、気をつけてね」
そう言われて差し出された麦茶を飲んだ。 俺「今日は、おばあちゃん達は」
おばさん「おばあちゃんなら、部屋にいるじゃない。おじいちゃんは出かけてる」
おばさん「私そろそろ仕事にいくけど、そこにおにぎり作っといたから、食べてね」
ありがとうございます、と答えて居間の方に行くと、
壁に寄りかかってアイスを食べている奈央がいた。
俺が「おはよう」と言うと、「おはよー」と気持ちの篭っていない声が返ってきた。
俺は居間のテーブルに置かれていたおにぎりを食べながら、話しかけた。 俺「今日は、部活は?」
奈央「今日は休み」
俺「あ、そうなんだ」
奈央「宿題しないとなー」
話しながらも、奈央の視線は終始テレビの方を向いていた。
窓は開け放たれていて、すぐそばに扇風機が置かれている。
ゴオオオオ、と轟音を放ち、明らかに強になっていた。
他の家族は皆、強にはしない。おそらく、奈央の仕業だ。 今日は一旦ここまでにします。
見てくれている人ありがとうー
また明日来ますね。 俺も暑かったので、特にそれには何も言わず、
テレビを見ながらおにぎりに噛みつく。
他愛のない朝のニュース。外からは、ミーンミーンと蝉の声がした。
窓のすぐ前には、あのマリーゴールドがちらちらと咲いていた。
元気そうに咲いているということは、
奈央がさぼらずに水をやっているという事だろうか。 おばさん「奈央、アンタ今日家にいるんでしょ?」
ふと、居間にやってきたおばさんが奈央に話しかけた。
奈央「多分いるけど。なんでー?」
おばさん「今日おじいちゃんいないから。畑に水やっといてよ」
奈央「ええー?この暑いのに?やだよぉ」
俺はわけも分からず、おにぎりの手を止めて二人の会話を聞いていた。
おばさん「じゃあこの炎天下でおばあちゃんにやらせるの?」
おばさん「家にいるんだから、やっといて」
奈央「えー、でもぉ」
おばさん「お願いね、おじいちゃんも今日は多分夜まで帰ってこないから」 おばさんはそう言って足早に玄関から出て行った。
奈央「もう最悪…こんな暑いのに畑なんて出たくない」
俺「畑に水やり?隣の?」
奈央「うん、そう。水あげないといけないの」
俺はよく分からなかったので、続けて質問する。
俺「へーそうなんだ。あれってやっぱり、ぶどうか何かなの?」
奈央「うん、そだよ。ぶどう」
奈央「この辺はみんなぶどう農家ばっかり。毎年やってるよ」 俺「へえ、ぶどうかぁ。すごいな、ぶどうなんて滅多に食べないよ」
奈央「そうなの?やっぱり東京ってそういう感じなんだ」
奈央「もうじき嫌って言うほど食べられると思うけどね」
奈央はそう言ってにやにやと笑った。
俺はそれがちょっと可愛いと思ってしまった。
俺「なんだか面白そうじゃん。水やり手伝おうか?」
奈央「え、マジ?手伝って手伝って!」
俺がそう言うと、奈央は喜々として立ち上がった。
奈央「それ食べ終わったら準備してすぐ外に来て!」
そう言い残すと奈央は急いで階段を上がっていった。 パジャマであるスウェットから、とりあえずTシャツに着替えてタオルを持って外に出た。
まだ午前中だというのに、茹だるような暑さだった。
遠くの景色がグラグラと沸騰しているように揺らいで見えた。
間違いなく、この夏一番の暑さだった。
奈央は窓先の花に水をやって待っていた。
「そんな恰好でいいの?」と俺の方を見てつぶやいた。
俺「だめなの?」
奈央「いいけど、焼けちゃうし虫に刺されるかもよ?」
そう言われてみれば、奈央は長袖長ズボンで完全防備だった。 俺「まあ、それくらいならいいかな。日焼けも虫も、大して気にならないし」
奈央は「ふーん、じゃあいいか」と言って、水道からホースを引っ張っていった。
俺「このホースを、そこの畑まで持っていくの?」
奈央「そだよ。うちには潅水設備とかないからね。いっつもこうやってる」
奈央「私が持ってくから、ホースが絡まらないように、そこで持ってて」
俺「オッケー」
そう言って、奈央はホースをするすると隣のぶどう畑まで伸ばしていく。 毎年手伝っているんだろうか、かなり慣れた様子だった。
俺もホースを中継しつつ、隣のぶどう畑に足を踏み入れる。
奈央「あ、そこ!」
俺「へ?」
奈央「ムカデ!ムカデがいるよ!」
俺「うえええ!?」
突然言われて、思わず変な奇声を発してしまう。 奈央「あっはっは!ウソウソ!ムカデなんていないよ」
奈央は楽しそうに、大口を開けて笑った。
俺「ひっでー。なんでそんな嘘つくのよ」
奈央「ごめんごめんwでも本当にでることもあるから、気をつけてね」
奈央はよっぽど面白かったのか、しばらくクックック、と笑うのを堪えられないようだった。
数日前には何か落ち込んでいるようだったから、
たとえからかわれても、奈央が楽しそうに笑っているのは何か安心した。 水道に戻って合図をする。
俺「じゃあ水出すよー」
奈央「お願いー」
俺が蛇口を捻ると、グオっと水が通うのを感じた。
そのまま小走りでぶどう畑の方に向かう。
頭上にぶどうの樹の葉っぱが幾重にも重なっているから、
ぶどう畑の中には木漏れ日が無数に揺れていた。
風が吹くたびにぶどうの葉も揺れて、木漏れ日もキラキラと瞬いた。 その中で真剣な顔をして水をやる奈央を、しばらくぼーっと眺めていた。
俺「へー、こうやって水をあげるんだね」
奈央「そうだよ。でもあげすぎもダメだから、何日かに一回って感じ」
奈央「暑い日が続いたら、ただの水撒きもしたりする」
何もかもが初めてのことで、こんな農作業は初体験だった。
俺「こういうの初めてだから、なんかワクワクする俺」
俺がそう言うと、奈央は「うそーw」と言って笑った。
奈央「まあ、家が農家でもないとこんなんないよね」 俺「なんでぶどうに紙袋みたいのかぶせてるの?」
奈央「日焼けしちゃうからだよ」
俺「日焼けぇ?ぶどうが?」
奈央「そう。日光に当てすぎるのは良くないんだよ」
俺「へぇー…」
俺はホースの補助をしながら、水をやる奈央を見ていた。 木漏れ日がゆらゆら揺れて、奈央と俺を照らす。それが眩しかった。
奈央「あのさ」
俺「何?」
奈央「…やっぱいい」
俺「は?どうしたの?気になるじゃん」
そう言うと、奈央は申し訳無さそうな表情でこちらを見た。
奈央「なんで、バレーやめちゃったの?」
俺「え」
奈央の言葉に不意を突かれてドキリとしてしまう。 奈央「ごめん。本当は聞かない方がいいと思ったけど」
奈央「嫌なら、言わなくてもいいから」
俺はしばらく悩んだ。
どうしてか、奈央にケガの事を言うのは憚られた。
たぶんおばさんにもおじさんにも、
俺が腰を悪くしてバレーを辞めたのは伝わっていないはずだ。
ケガをしてしまった自分が情けなく思えて、俺は隠していたかったのだ。 俺「もう、十分やったからね。満足したって感じ」
俺「深い意味はないよ」
奈央「バレー、嫌いになっちゃったの?」
俺は大きく首を横に降った。
俺「まさか。大好きだよ。他のどのスポーツよりも好き」
奈央は、「ふーん…」と言いながら、水やりを続けていた。
何か、見透かされているような気がした。 奈央「これが終わったら、対人してくれない?一日ボールに触らないの、不安だから」
奈央「勉強する…?」
俺「お、やる?全然いいよ。じゃあ早く終わらせよ」
俺がそう言うと、奈央は「うん!」と言って笑顔になった。
今は難しい事は考えたくない。
奈央に笑顔が戻ってきたなら、それでいいんだと思った。 日差しは相変わらず強い。もう、夏も本番なんだ。
「よし!こんなんでいいかな!」と言った奈央は、畑からホースを撤収し、
家の目の前に向かって勢い良く水を振りまいた。
アーチを描いて霧散した水滴は、
太陽光を反射してプリズムのようにキラキラと散っていった。
燦然たるその光景が、なぜだか俺の胸をきゅっと締め付けた。 すみませんが、今日はここまでにします。
つづきはまた明日。
それではー >>269
いい曲ですね〜
PVもあってか近いものを感じます こんばんは。保守ありがとう
今日も続きを書いていきます 奈央がボールをポンポンと叩きながら玄関から出てくる。
俺は水道で水をがぶ飲みしていた。
奈央「この前と同じ感じでいい?」
俺「ん、いいよ」
俺はびしょびしょになった口元を腕で拭って返事をした。
水を飲んだら、溌剌とした気分になった。 「いくよ」
奈央がボールをひょいっと上げて、俺の元に打ち込んできた。
バンッと両腕でキャッチ(レシーブ)し、奈央の頭上へ優しく返す。
奈央が「さすが」と笑いながら、俺に向かってトスを上げる。
綺麗にトスが上がって、「いける」と感じた。
振りかざした手はバチンッと気持ちよくボールにミートして、
かなりの速さで構えた奈央の元へ飛んでいった。
軌道が安定していたので、
奈央はほとんど動くこと無くレシーブを高々と上げた。
奈央はレシーブしながら痛切な声で「はっや」とつぶやいた。
俺は「ナイスカット」といいながら、少々低めのトスを返す。
奈央は「よし!」と言いながらトスの軌道を見定めて、パシン!とボールを叩いた。 俺の構えとぴったりの所にボールが飛んできて、
「おっけ!」といいながらレシーブを奈央の元へと返す。
奈央も「ナイスカット」と笑いながら俺にトスを上げた。
これまた、いい感じの打ちごろのトスだ。
俺は軽やかにボールを叩いて、奈央の元へ打ち込んだ。
ボールは少々手前に落ちそうになって、俺はまずいと思った。
奈央が、「オーケー!」と叫んで地面に滑り込んだ。
ボールは奈央の目の前でバウンドし、奈央はそのまま地面に倒れこんだ。 俺「あ、あぶないよ!」
奈央「いった…つい癖で、フライングしちゃった」
奈央はそう言うと、俺の方を見て「しまった」という感じで苦笑いした。
俺「その執念は良いと思うけど、今は外だから…手とか大丈夫?」
奈央「うん、平気だよ」
奈央はTシャツが土だらけになっていたが、ケガはなさそうだった。
俺「よかった。大事な試合があるんでしょ?あんまり無茶すんなよ」
奈央「ああいうボール、試合でもよくあるけど、とるのが難しくて」
奈央は服を払いながら立ち上がって、俺の方を見た。 俺はピンと来て、奈央の姿勢を見てみることにした。
俺「ちょっと、レシーブ姿勢とってみて」
奈央「うん?…こうかな」
奈央は膝を曲げて腰の重心を落とした。
俺「うん、間違ってはいないね」
俺「でもそれだと、前にボールが落ちそうな時、すぐ反応できないんだ」
奈央「確かに」
俺もレシーブ姿勢を構えて、奈央の前で見せて上げた。
俺「ただ膝を曲げればいいってわけじゃないんだ」
俺「膝の皿は、自分の足首より前に持っていく感覚なんだ」 奈央「足首の前…?」
俺「そう。そうすると、重心は落ちながらも自然と体は前にいくでしょ?」
奈央「あ、本当だ!なんだか動きやすいかも」
奈央の顔がキラリと光って、何度も何度もその姿勢を確かめた。
俺「これがレシーブの基本なんだ」
俺「相撲の取り組みっぽい姿勢だ、なんて言われたなぁ俺は」
そう言って俺が笑うと、奈央も「ほんとだw」と言って笑った。
俺「俺も高1の頃レシーブ下手だったから、コーチに何度も言われてさ」
俺「もうすっかり、頭から離れないわw」 奈央は輝いた表情で、「うんうん」と頷いて繰り返し姿勢を確認していた。
俺「打ってみるから、カットしてごらん」
奈央「うん、オッケー!」
俺が少しだけ厳しい球を打つと、奈央はススス、と滑らかに移動してボールをカットした。
俺「そう、それだよ!いい感じじゃん」
奈央「わー、なんかぜんぜん違うかも!」
俺「さっきはこの球に飛び込もうとしてたからなw」
奈央「ほんとだよねw」 奈央とバレーをしていると楽しかった。
腰の痛みも、一瞬だけ忘れるようだった。
奈央は俺の言ったことを素直に受け止めてくれ、
それをひたむきに実践しようとしていた。
そんな奈央を見ていると、
俺は失った気持ちを色々と取り戻すような気分になれた。
奈央「1、教えるの上手いね」
奈央は肩で息をつきながら、俺の方を見て言った。
そう言ってもらえるのが嬉しくて、不意に胸が熱くなってすぐには何も言えなかった。
奈央「あっつい。そろそろ水飲んでいい?」
俺「うん、飲みなよ。熱中症になったらやばいよ」 昼前の白い日光が庭中を照らしていた。暑すぎる。
奈央「1に教えてもらってたら、めっちゃ上手くなれるかも」
奈央は水道で水を飲みながらそんな事を言った。
俺はやっぱり、その言葉が純粋に嬉しくて、少し恥ずかしかった。
俺「俺のおかげってわけじゃないよ。奈央だって真面目にやってるから」
奈央「だよねーん」
奈央はそう言うと、元気ににかっと笑った。
溌剌とした笑顔、とはこういうものを言うんだろう。
その笑顔を見て、ちょっとだけ胸が騒いだ気がした。 奈央と二人きりになったら、あの「お守り」の事を話そうと考えていたが、
奈央の明るい表情を見ていたら、なんだか話すのが怖くなってしまった。
なぜだか分からないが、
そのことを話してしまうとこの笑顔が消えてしまうんじゃないかと、
俺は「余計な」心配をしていた。
そんな事考えずに、話してしまえば良かったのだが。 すみませんが、一旦席を外します。
またあとで書きに来ますー 昼飯を食べて、午後から自分の部屋で勉強をしていたら
「ピンポーン」というインターホンの音が鳴った。
奈央が下に降りる様子もなく、おばあちゃんもいないようだったので、
「いいのかな?」と思いつつも俺が玄関の戸を開けた。
そこには、短髪の見知らぬ少年が立っていた。
この前野球観戦の時に見た制服だったから、恐らく奈央の高校の生徒だ。 男子「あ、え?こんにちは…」
俺「こんにちは…」
彼は、いかにも「予想外の奴が出てきた」という表情で俺を見た。
男子「奈央さん、います…?」
俺「あ、はい。ちょっと待ってね」
俺はそのまま2階に上がっていき、奈央の部屋をノックした。
俺「なんか、男の子来てるけど」
すると、中から「えー?どうせタクミだろ」と声がした。
奈央はバタバタと玄関へ降りていき、
「やっぱり。何の用ー?」と親しげに話し始めた。
俺はその様子を、階段の途中からうかがっていた。 少年「いや、墨汁忘れたんで取りに来た」
少年「教室の入り口閉まってっから、こっちから入れてくれ」
奈央「またそれ。ちゃんと持って帰れし」
少年「しょうがないだろ。先生いねえの?」
奈央「おばあちゃんなら出かけてるよ」
どうやら彼は、ここの書道教室に通っている高校生のようだ。
家の中に他に誰もいないからか、嫌なほど会話が聞こえてくる。
奈央との様子を見ている限り、かなり旧知の仲なのだろう。 少年「ってかあの人誰?兄ちゃんなんていないよな?」
奈央「親戚…って感じかな。浪人生で、うちに勉強しに来てる」
少年「ふーん。めっちゃ背でかいからビビったわw」
俺の話題が展開され、少しドキッとして嫌な汗が出そうになった。
少年「そういやさ、野方先生来てたぞ、学校に」
奈央「え、先生が?今日うちら部活ないのに」
少年「職員室で偶然見かけてさ。産休決めたって言ってたぞ」
奈央「えっ!?それ、マジ??」
奈央が急に大声を上げたので、俺の心臓がばくん、と飛び上がった。 今日は一旦ここまでにします
また明日も書きに来ますね
それでは こんな時間になってしまいましたが
少しだけ続き書きます 奈央「まだうちら何も聞いてないんだけど…」
少年「あーそうだな。次の部活の時に、言ってくれるんじゃないか」
少年「あのお腹なら無理もないだろ。今までよくやってたわ」
奈央「うん…ほんと、そうだよね…」
少年「女バレ、大会あるとか言ってなかった?」
奈央「…あるよ」
少年「大丈夫か?先生いなくて」
奈央「わかんない…」
奈央がそう言ってから、しばらく会話が途切れた。
教室の方から、ドタドタという足音が聞こえた。 しばらくすると玄関の方から「じゃあな」と言って男の子が出て行った。
階段の踊り場でしばらく立ち尽くしていたけど、
奈央が戻ってこないので、俺は書道教室の方を見に行った。
そこには、教室の中でぼーっと立っている奈央がいた。
俺「どうしたの。ここ、暑くない?」
教室の中は冷房もついておらず締め切られていて、ひどく暑かった。
入り口横の小さな窓から西日が差し込んでいた。 奈央「どうしよう」
俺「…野方先生って、部活の顧問なの?」
奈央「聞いてたの?」
俺「聞こえちゃった」
俺がそう言うと、奈央は俯いて黙ってしまった。
教室の中があまりに暑かったので、俺は小さな窓を開けた。
奈央「そこ開けると、虫入ってくるよ」
俺「だって、暑いから」
窓を開けたら、網戸がなかった。
でも、外の風が入ってきて、幾分かはマシになった。 俺「どうしたんだよ」
奈央「顧問の先生が、産休するんだって」
俺「うん、聞いてた」
奈央「大会…どうしよう」
奈央は下を向いたまま、顔を上げなかった。
俺「監督がいないっていうのは不安だけど…やるしかないだろ」
奈央「うん…」
俺「そんなに落ち込んでたって、仕方ないだろ」
奈央「うん」 すみませんが、今日は一旦これで。
明日は昼間に書きに来ます。
それでは こんばんは。昼間来れなくてすみませんー
続きを書いていきます 俺は奈央にそう声をかけると、台所に行って麦茶を飲んで一息ついた。
でも、部屋に戻ろうとするとまだ教室の方に灯りが点いていた。
俺「いつまで、こんな暑いとこにいるんだよ」
奈央「うん」
俺「先生が休むのはショックだろうけどさ、自分達でやるしかないだろ?」
奈央「そんなこと分かってるよ!」
奈央が突然語気を荒くしたので、俺は驚いた。 奈央「私、キャプテンなんだよ…上手くもないのに」
奈央「先生がいなかったら、全部私がやらなきゃ、練習も試合の指示も、全部…」
俺は、なんて声をかけるべきなのか、すぐには言葉が出なかった。
奈央「最後の試合だから、全力でやって勝ちたかったのに…無理だよぉ…」
奈央はそう言って、また俯いてしまった。
俺「だって…それがキャプテンじゃないか。しっかりしろって」
奈央「1は上手いからいいよね!きっと私のことなんて分かんない!」
奈央「失敗したり、思い通りにプレー出来ないことなんてないんでしょ!?」 奈央の言葉が、俺の胸に突き刺さった。
俺「それは……」
奈央「背だって高くて、レフトでエースだったんでしょ!?」
俺「奈央」
奈央「こんな不安な気持ち、なったことないからそんな気楽に言えるんでしょ!」
俺「奈央、聞いて」
俺「俺はもう、バレーができないんだよ」 その言葉を聞いて、奈央は口を開けたまま俺の方を見上げた。
奈央「え…?」
俺「言ってなくて、ごめんね」
俺「俺、腰をやっちゃってさ。もう二度と思いきりバレーをすることはできないんだよ」
奈央「え、だって…もうバレーは満足したって…」
俺「うん、ごめん。あれは嘘だったんだ」 俺「俺はもう、バレーがやりたくてもできない」
俺「ボールに飛び込んだり、思い切り飛び上がってスパイクを打ったり、できないんだ」
奈央「うそ…」
外から、「ミーンミンミン…」という蝉の声が入り込んできて、
しばらく会話が途切れた。
ヒリヒリとした空気の中で、俺は何も言えなかった。
ただただ部屋の中が熱くて、背中にじわりと汗をかいていた。 奈央「ご、ごめん…私、知らなかったから…」
奈央は少し目を赤くして、震えるような声でそう言った。
そんな奈央を見ていたら、
俺も感情が込み上げてきて全部話してしまおうと思えた。
俺「本当は、ずっとずっと夢があったんだ」
俺「春高に出て、あのオレンジコートに立ってさ―」
俺「負けても勝っても、コートの中で沢山の風を起こすんだよ」
俺「俺はここにいるぞ!ってね」
俺「思いっきりプレーして、最後は仲間と思い切り抱き合うんだよ」
奈央は、黙って俺の顔を見ていた。 俺「そしたらさ、一体どんな景色が見えたんだろうな」
俺「その景色を見るのがさ、俺の夢だった」
奈央は親身に聞いてくれていたが、唇を噛んで俺の方を見るだけだった。
俺はしまったな、と思ってすぐにフォローを入れた。
俺「いや、ごめん。こんな事言われても困るよな」
奈央は少し下を向いてから、口を開いた。 奈央「うん。正直、私にはよくわかんない…」
奈央「だから、明日私たちの部活に来てよ」
出し抜けにこんな事を言うので、俺は面食らった。
俺「え、どういうこと?」
奈央「私、1にバレー教えてほしいから。先生の代わりに臨時コーチになって」
奈央「一緒に、もう一度バレーしてくれない?」 奈央は、凛とした目で俺を見た。
そんな目で見つめられるのは初めてのことだった。
俺「そう言われても、そんないきなり部外者が…」
奈央「…やっぱり勉強忙しい?」
俺がここに来た目的―それはもちろん勉強だが―
でもそんな事ばっかりやっていて、意味があるんだろうか?
その先には夢も目的もない、何もないのに勉強だけしている。
奈央たちと頑張ったら、その先には何かあるんだろうか―
何か、見えるんだろうか? 奈央「大会まで、あと一週間だけ…部活に来てくれない?」
奈央「お願い…!」
奈央のまっすぐな瞳が俺を見つめた。
奈央の言葉は、不思議な力を持っているようだった。
いつもの俺なら、間違いなく断っていただろう。
バレーを思い出すと辛いから、
バレーを避けて、バレーの事を忘れようとして生きてきた。
なのに、奈央とはなぜか一緒にバレーがしたいと思えた。
もう一度やれるかもしれない、そう感じた。 俺「俺なんかで良ければ、力になるけど」
俺「コーチなんてやった事ないから、上手くできるか分かんないけどさ…」
俺がそう言うと、奈央はくすっといたずらっぽく笑った。
奈央「ほら、やっぱり」
俺「何が?」
奈央「1はまだ、バレーやりたいんだよ。そうに決まってる」
奈央が力のない笑顔で俺に語りかけてくる。
奈央「1は、自分の大好きな事を勝手に終わらせようとしてない?」
奈央「夢だった…って何?夢なら、また追いかければいいじゃん」
奈央「少なくとも、私だったらそうするんだけど」
そう言うと、奈央は口元だけで笑って首を傾げた。 俺は、けがをしてバレーと関わることを意識的に避けてきた。
でも、それは間違っていたのかもしれない。
そのせいで、いつまでたってもバレーを忘れられず、
そのしがらみに足をとられ続けてきた。
俺の本当にやりたい事は…いつまでも経っても変わらない夢は……
その日の夕飯のあと、台所で皿洗いをしていると奈央に声をかけられた。
奈央「明日臨時コーチに来てもらうって、みんなに言っといたから」
俺「みんなに?どういうこと?」
奈央はぽかんとして、スマホを指差した。 奈央「LINEだよ。部活のグループ」
俺「ああ、そういうこと」
奈央「みんな結構期待してるよ。良かったね」
俺「え、マジ。なんか緊張すんだけど」
そう言うと奈央は「なんでw」と言って笑った。
奈央「今日みたいな感じで教えてくれたらいいよ」
俺「ん、分かったよ」
奈央「あとで、LINEも教えて」
俺「ああ、いいよ」 奈央「手伝おうか、それ」
俺「いや、いいよ。これは居候の俺の仕事」
手伝いは断ったものの、俺が皿洗いをしている間、奈央は俺の横に立っていた。
その時、奈央がどんな表情をしていたのか、俺は見ていなかった。
蚊取り線香の匂いがした。
おばあちゃんとおじいちゃんがテレビを見て笑う声がした。
おじさんは相変わらず網戸外の縁側で一服つけているようだった。
夏の夜の、いつも通りの穏やかな時間が流れていた。
その中で、俺の皿を洗う水の音が響いていた。 奈央「明日、早いからね。寝坊はダメだよ」
俺「分かった。奈央も寝坊すんなよ」
奈央「うっさい」
皿洗いが終わった後、俺は真っ暗になった庭に出た。
使ってない自転車があるらしく、明日俺が使うために出してこようと思った。
家の居間からの灯りと、まばらな街灯の灯りだけが頼りだった。 ぶどう畑の脇の、物置のような所から自転車を引っ張り出してきて、
水道の横に止めると、縁側にいたおじさんに声をかけられた。
おじさん「自転車なんか出して、どうするで」
俺「あ、いえ。ちょっと明日使わせてもらおうかと」
おじさん「明日どっか行くの?」
そう言われて少し戸惑ったが、すぐに「部活です」と自信たっぷりに答えた。
おじさんは「はは!」と高笑いし、「1君は高校生だったっけ」と笑っていた。
おじさん「ちょっとここ座れし」
そう言われて、俺はおじさんの横に座った。 おじさん「奈央の部活でも、見に行くのけ」
俺「あ、そうです。ちょっと頼まれたので」
おじさんは、ふうっと煙を吐いて続けた。
おじさん「そんなこんやってないで、勉強しなくていいだか?」
俺は突然の言葉にドキッとし、一気に体温が上がる気がした。
俺「いや…もちろん勉強も…」
おじさん「勉強に集中するためにこっちに来たって聞いたけど」
おじさん「なんで部活に行くなんて話になってるだ」
俺「…すいません」
蒸し暑い夏の夜に、場が凍りついたようだった。
まさか怒られるとは思っていなかった俺は、
握りしめた拳に嫌な汗をかいた。 おじさん「…なんて、いつもこんなん言われてた?」
俺「…はい?」
おじさん「1君、本当は勉強好きじゃないら?」
おじさんの態度がくるっと変わったので、俺は何て言ったらいいか分からずにいた。
おじさん「というか、他にやりたいことがあるらに」
おじさん「聞いたよ、畑も手伝ってくれたらしいじゃん」
おじさん「庭でよく奈央とバレーもしてるんだってね」
おじさん「でも俺は、それでもいいと思うんだよ」
おじさん「勉強ばっかりやってたら、人間頭がおかしくなっちまうよ」
リーンという夏の虫の声に揺られて、おじさんの横顔が暗闇にぽっかりと浮かび上がっていた。 俺「明日の部活なんですけど」
俺「俺、ここ何年かずっと、やりたいことが何もなかったんです」
俺「したくもない勉強を毎日毎日ずーっとやって、そんな風に過ごしてきて」
俺「でも今、本当にやりたいと思えることが、目の前にできたんです。もう、何年もなかったのに」
俺「だから明日、俺は奈央さんの部活に行って来ます」
俺は無我夢中で、今自分の心にあることを吐き出した。
まるで小さい子供のように、心に燃える想いを躊躇なく吐き出していた。 おじさん「1君、どうしたで」
俺「はい?」
おじさん「なんか今、すごい楽しそうじゃん」
俺はおじさんのその言葉を聞いて驚いた。
俺「え、そうですか?」
おじさん「なんか、いい顔してたよ」
自分でも気づいていなかった。俺はそんな風に見えていたのか。
というか、そんな風になっていたのか。
おじさん「まあ、好きにしたらいい。早起きして部活に行くのも一興だ」
おじさんはそう言うと、笑みを浮かべて煙草をくわえた。
俺も、「そうかもですね」と笑って相槌を打った。 俺は、変わり始めていたのかもしれない。
全てに自暴自棄になって、過去の記憶の亡霊に取り憑かれて流れ着いたこの場所で、
俺は何か大事なものを見つけかけていた。
その日、初めて奈央からLINEが来た。
「明日は8:30には家出るからね」
とだけ書かれた、簡素なものだった。
気合を入れて返事を返すのもアレなので、
俺は「りょーかい」とだけ打ち込んで、返事とした。 同じ家にいるというのに、LINEをするというのも妙な感覚だった。
自分の部屋にいるのも、少しだけソワソワした。
灯りは豆電球だけにして、しばらくスマホを眺めていた。
窓の外からは相変わらず虫の声が聞こえていた。
その日は、なんだか不思議な夜だった。
今更ながら、自分が全然知らない世界に来たような、そんな不思議な気持ちになった。 次の日、奈央は8時前には支度が終わったようで、やたらと俺を急かした。
シューズを持っていないことを話すと、渋々自分の体育館履きを貸してくれた。
俺は自前のコルセットを準備したり、
タオルやTシャツを準備するのに手間取った。
結局8:30前に家を飛び出して、俺は寝ぼけた頭を覚ますのに必死だった。
奈央「早く!」
奈央は庭先の道で自転車に乗って俺を促した。
夏の朝の真っ白な光が、俺たち二人を包み込んだ。 自転車に乗るなんて久しぶりのことで、なんだか不思議な気がした。
「急ぐから、私のあと付いてきてね!」そう言う奈央の背中を追いかける。
風を切って坂道をどんどん下っていく。
前を行く奈央の後ろ姿が小さくなっていく。
いくつものぶどう畑が横目に通り過ぎていく。
あの駅前の道も通り過ぎた。遠くに、麓の街が小さく見えた。
太陽の光を浴びて、キラキラと光っていた。 なにせずっと下り坂で、風を思い切り浴びるので、
暑さはそこまでじゃなかった。
奈央が飲み物買うのを忘れたと言って、途中自販機の前で立ち止まった。
俺「ねえ、そこまで急がなくてもいいんじゃない?」
奈央「そうかな。まあ、それなら普通に行ってもいいけど」
俺「何をそんなに焦ってるの?」
俺は自販機の影に入るようにして、奈央の表情を窺った。
奈央「別に、焦ってなんていないけどさぁ」
奈央は怪訝な表情でこちらに視線を向けた。 奈央「早く行って、準備したかっただけだよ」
奈央「…ごめんね」
俺は一瞬「ん?」と思って状況を理解できなかったが、
奈央が謝っているんだと気付いてすぐにフォローを入れた。
俺「や、やめて。謝ることないよ。いいんだ別に」
そう言うと奈央は「ううん」と首を横に振って、
「行こっか」と言ってペダルを踏んだ。
夏の朝の陽射しが揺れる中を、奈央が少し前を走っている。
「学校ちょっと遠いんだぁ」などと言って、時々こちらを振り返った。
俺はずっと、長い髪の結ばれた奈央の後ろ姿を見ていたから、
奈央が振り返るたびに目が合って、ちょっと困った。 次第に何もなかった山道から、少々車通りの多い道が増えてきた。
いくつもの坂を下って、抜けた先に大きな川があって、
その河川敷の横には、ひまわり畑が広がっていた。
そして、その向こうには奈央の高校があった。
こりゃ、帰り道は一段と大変そうだな、と思った。
奈央のあとを追って校内に入ると、世界が一変するようだった。
不意に、空気と雰囲気が変わった気がしたのだ。
驚いて振り返ると、校門からは来た道が続いていた。 こんな事ってあるもんなのかと思ったが、
遠くで「こっち!」と呼ぶ奈央の方を向き直って、
俺は自転車のペダルを踏み直した。
何もかもが懐かしく感じた。
そんなに遠い昔のことでもないのに、高校ってこんな感じだったよなぁと、
目に映るもの全てに親しみを覚えた。
どこで吹いてるのかも分からない、遠くから聞こえる吹部の「プア〜」という音。
朝練なのだろうか。熱心な生徒が練習前に来て吹いているのだろうか。 野球部はすでにグラウンドで「おい!おい!」と掛け声を上げてランニングをしている。
俺の目の前を、弓を抱えた弓道部の一団が通り過ぎて行く。
これから試合にでも行くのだろうか。
かと思えば、何やら大きな荷物を抱えて歩いている屈強な男子たちともすれ違った。
ラグビー部か、レスリング部…と言ったところだろうか?
奈央は一足先に駐輪場に自転車を止めていた。
奈央「ここ、私の隣に置いちゃっていいから。テキトーに」
そう言われて、奈央の横に自転車をつける。
俺「にしても、部活が盛んな学校なんだね」
ここに来るまでに、一体どれだけの部活の子とすれ違っただろうか。 奈央「まーね。一応伝統校だから、部活には相当力を入れてるよ」
奈央「文武両道、とか言って勉強にもうるさいけどね」
俺「へえ、立派な高校なんだね」
俺がそう言うと奈央は、
奈央「そんな事ないよ、この辺の子たちが集まってくる普通の高校だよ」
と言ってはにかんだ。 奈央「私は部室に行って着替えてくるから」
奈央「ちょっと、ここで待ってて」
そう言われて、俺は駐輪場の自転車の脇で待っていた。
止めてある無数の自転車や、目の前にあった水道などを眺めて、
やっぱりここは高校なんだなぁ、としみじみとしてしまった。
この中だけ、時間の流れ方が違うようだ。
毎年沢山の生徒が卒業して、入学して、人はどんどん入れ替わるけど、
この場所だけは、永遠に終わらない青春の時間が流れ続けてるんだ、と思った。 数分待っていると、奈央が駆け足で戻ってきて「いこ」と俺を誘った。
体育館は駐輪場のすぐ近くにあった。
中からはすでに「バシンバシン!」とボールの音が響いていた。
奈央はなぜか「後から入ってきて!」と言って俺を置いて中へ入った。
少し待って入ると、バスケ部の男子がこちらを見て「ちわーーっす!」と仕切りに挨拶をしてくれた。
体育館の特有の匂い。キュキュっとシューズの擦れる音。
高い天井から注ぐ無数の照明。 その中に降り立って、俺は少し胸が詰まる想いがした。
そして、久々にやるぞ!と勇んで体育館履きを履こうとしたら、
サイズが合わずまったく足に入らなかった。
俺「靴が入らないんだけど」
奈央「かかと踏んで履いちゃえばいいよ」
俺「それはあぶないよ」 俺がそう言うと、奈央は「もう」とむくれて体育館の入り口を指さした。
奈央「入口の下駄箱に、忘れ物のシューズがいくつかあるから、使いなよ」
それに「分かった」と答え、古ぼけた下駄箱から見繕って、
シューズを履いて中に戻った。
その間、奈央は体育館を仕切るネット越しに、
ずっと男バスの様子を夢中で眺めていた。
俺「準備、しないの」
俺が声をかけると、不意を突かれたように「ああ、そうだ」とおかしな声を出した。 奈央が倉庫のような所に駆け出して、一人でネットのポールを運んでくる。
「あぶないよ!」と言ってすぐに手伝った。
「いつも一人でやってるから平気」と言っていたが、足元はフラフラだった。
体育館でネットを立てるなんて作業、もう何年ぶりのことだったろうか。
ぎしぎしと軋むネットの音が何だか無性に心地よく感じた。
そんな風にして、二人で準備を進めていると、
他の部員たちも集まってきて準備を手伝い始めた。
後から来た子たちは皆、俺の方を不思議そうな表情で眺めていた。
俺も仕方なく、「こんにちは」と力なく会釈をするだけだった。 奈央が後輩らしき子に、「あの人ですか?」と聞かれて困った笑顔を浮かべていた。
俺のことを、いつ説明するつもりなのだろうか。
そんな事を思っていると、
入り口の方でバスケ部男子が「こんにちはー!」と次々に言い始めて、
お腹の大きな一人の女性が入ってきた。
歩きながら男子たちと談笑しているようにも見えた。
それに気づくと、奈央はすぐさまその女性の元へと駆け寄っていった。
恐らく、あれが女子バレーの部の顧問の先生なのだろう。
奈央はそのまま先生と数分話していた。 他の子たちが各々ストレッチを始めたので、
俺も端の方で軽くストレッチをしていた。
すると、奈央が手招きして「来て」と俺を呼んだ。
椅子に座った先生と、奈央を挟んで向かい合う格好になる。
俺が「こんにちは」と挨拶をすると、先生は、
「女バレの顧問の野方です」と笑って挨拶してくれた。 先生「1君、だよね。奈央から聞いたけど、あなたがうちを見てくれるんだよね」
俺「あ、はい。どの程度力になれるかは分かりませんが…」
先生「ほんと、突然ごめんね。私がこんなんにならなきゃね」
先生「今日も、旦那の車で送ってもらったんだけどw」
先生はそう言って、自分のお腹を触って笑った。
先生「明日から産休のつもりで、その間は他の部の先生に一緒に見てもらおうと思ってたけど」
先生「それでも、バレーの中身のことまではカバー効かないからね…」
俺「そうですよね…」
先生と俺が会話をする間、奈央は一心に先生の方を見つめていた。 先生「見てもらえたら、それは心強いけど」
先生「これから大会まで一週間くらい、本当に見てもらえる?」
その言葉を聞いて、俺の中で色々なものがフラッシュバックした。
途中で辞めてしまった部活
バレーをとったら何も残っていないと知ったあの日
春高決勝で輝いてたあのエースの風
出口の見えない勉強の毎日
過去の幻影に追われて何もしたいことのなかった毎日 そんな俺が、どういうわけか今、
再び体育館の中に立って、「部活」をしようとしている。
蒸し暑い、この体育館の中で、
シューズの擦れる音が響くこの体育館の中で、俺がいた。
先生のその質問に迷うことなく、
「はい、全力でやりますよ」と答えていた。
そう言うと、先生は笑って、
「ありがとう。他の先生にも、それとなく話しておくから」と言ってくれた。
俺は、再び与えられたこの時間で、一体何ができるんだろうか。
そんな事を思っていた。 今日は一旦ここまでにします。
続きはまた明日書きに来ますね
それでは 話が終わると、奈央が勢い良く「集合!」と叫んで、部員たちが集まってきた。
そして、先生が産休に入ること、
俺が臨時のコーチ役をすることが伝えられた。
先生の産休は大会の前のこのタイミングになってしまったとは言え、
部員たちにも大方予想がついていた事のようで、
みんな「先生お大事に!」とか「頑張ってね!」とか言っていた。
かくいう俺の方は未知数のようで、取り立ててリアクションもなかった。
一斉にお辞儀をして「よろしくお願いします!」と言われて、
それが照れくさくて仕方がなかった。 集合が解かれると、簡単なウォームアップがあって、各々が対人を始めた。
先生に「見てあげて」と笑顔で言われて、俺は「はい」と答えて、
対人をしている様子を見て回った。
対人を見ていれば、フォームの癖とか、
トスアップの精度とか、基本的な事がわかる。
全体的に悪くはないし、女子なので基本はしっかりできていたが、
やはりそこまで上手い、というわけでもないなと感じた。
奈央は自分の事を「上手くない」と言い切っていたが、
この中ではキャプテンを務めることもあって、やっぱり頭一つ上手いように見えた。
「はい!」と掛け声をあげて、ひときわ頑張っているようにも見えた。
バシン、というボールを弾く音と、キュキュキュ、
とシューズの擦れる音が響いて、心地よかった。 奈央が「3メンするよ!」と叫ぶと、
「はい!」と掛け声が上がって、コートの中に3人が入った。
俺はコートの中央に誘導され、ボールを出すように言われた。
見知らぬ女子が3人、俺の方を見て真剣に構えていた。
割と力を込めてボールを打ったが、綺麗にレシーブが上がってトスが返ってくる。
「やるな」と思って、今度は後ろのコースへ打つ。
綺麗に上がって、またトスが返ってくる。 俺はテンションが上がって「いいねぇ!」と叫んだ。
3人は「来い!」と声を張り上げた。
少し意地悪をして、今度はレフト方向からインナーへきつい球を打った。
反応はしたものの、手元がおざなりになって、ボールはコート外へと飛んでいった。
俺は「なるほど」と思って、瞬時にアドバイスをした。
俺「基本はできてるから、自分のとこに飛んできたボールは綺麗に上がるけど」
俺「きついコースや、予想外の所に飛んで来ると、上手くいかないね」
俺「いつでもひじを曲げないで、綺麗に面を作って受けることを意識してみて」
俺がそういうと、ミスをした子は顔をあげて「はい!」と構えた。 「いいやる気だな!」と思って俺も再びフェイントのような球を同じコースに出した。
素早く動いて、綺麗にボールが上がった。
手前にいた子が「オッケイ!」と言ってトスを上げる。
そのまま、後方にいた子に向かってレフトからのウイングスパイクを想定した球を打つ。
バシン、と無回転で綺麗に上がって、再び流れるように俺の方にトスが返ってくる。
コーチ役だというのに、俺は楽しくなって無我夢中になった。
「ああ、これはバレーだ」
「仲間に囲まれて、声を上げて、無心にボールを追いかける、これだ…」
とそんな気持ちが込み上げていた。 休憩時間になると、すっかり俺も汗だくになっていて、
腰に巻いたコルセットが蒸れるのが気になった。
腰に少々違和感はあったものの、結構動いた割にこんなものか、とも思えた。
簡単な休憩が明けると、奈央が勢いよく「サーブカットいくよー!」と声を上げた。
「はーーい!」と掛け声が溢れて、皆コートの中へ並ぶ。
俺はその様子をコート外から眺めていた。
「いきまーす!」「こい!」「ナイスカットー!」と声が止むことはなく、
女子とは言え賑やかでやる気のある部だなぁと思った。
全体的な力は強豪に比べればそこまでではないと思ったが、
チームとしての雰囲気はとても良かった。
この中でキャプテンをやっているのだから、やはり奈央は頑張っているのだな、と思った。 サーブカットの後はスパイク練習だった。
椅子で座っていた先生に「スパイクはよく見てあげて欲しい」と言われたので、
俺はネット近くの邪魔にならない位置に立って、フォームなどをよく観察していた。
数人は、しっかりとミートして打てていたが、他の子は高さも足りず、
ボールを最高打点で上手く捉えられていないようだった。
俺は「ちょっといいかな」と言ってすぐに皆を集めた。
奈央が「集合!」と声をかけて練習が中断された。 俺「みんな、スパイク打つ時に一番大事なのは何か分かる?」
俺がそう質問すると、答えづらいのか誰からも返事が返ってこなかった。
奈央が小声で、「高さ…?」と答えた。
俺「うん、高さも大事。でもいくら高くても、タイミングが合わなきゃ良いスパイクは打てないよね」
俺がそう言うと、みんなうんうんと頷いて納得しているようだった。
俺「奈央、一回打ってみて」
奈央がなかなか良いスパイクを打っていたので、俺は手本を促した。
俺が下投げでボールをトスアップすると、
奈央は高く跳んでネットの向こう側にバチン、と良いスパイクを打った。
俺が笑いながら「ナイスキー」と言うと、他の子たちも少し笑った。
打ち終わった奈央は、心底恥ずかしそうにして自分の服を引っ張っていた。 俺「奈央のスパイクの良いところは、滞空時間だよ」
俺「滞空時間が長ければ、ボールを一番高い場所で叩きやすくなる」
俺「それに、相手のブロックがよく見えるし、もっと言えば相手のコートの状況まで見えてくる」
俺がそう話すと、みんな目を輝かせてこちらを見た。
俺「スパイクで一番大事なのは滞空時間なんだ。それを意識すれば、かなり変わるよ」
俺がここまで話して、一人の女の子が申し訳なさそうに「あの…」と声を上げた。
「どうしたら、滞空時間を上げることができますか?」
俺は待ってましたとばかりに、この質問にすぐに答えた。
俺「ワイヤーだよ。ワイヤー」
俺がそう言うと、みんなぽかんとして首を傾げた。 俺「自分の頭のてっぺんに、ワイヤーが付いてるって想像してみて」
俺「そんで、ジャンプした瞬間に、真上に思いっきり引っ張られてるってイメージするんだよ!」
俺が自分の頭の上で引っ張られているようなジェスチャーをすると、
みんなもマネして頭の上に手をやって、ワイヤーのイメージをし始めた。
俺が笑って、「そうそうwイメージが大事なんだ」とスパイク練習を再開した。 勢い良く、「じゃ、いくよーー!」と叫ぶと、
それに呼応して「はーい!」という掛け声があった。
アドバイスをしたが、やはり上手く打てているのは先程と同じ子たちで、
上手くいかない子は、なかなか上手くいかない。
でも、何人かは打ったあとに感覚を掴んだようで、「何か違うかも」と言って、
笑顔で何度もスパイクのフォームを素振りで繰り返していた。
俺はそれを見て、「いいよ!」と笑顔で声援を送った。 すみません今日はここまでにします。
全体の7割くらいまで来ました。
また明日書きに来ますー 俺がアドバイスをしたからと言って、
それはあくまで理論的・コツにすぎないものであって、
すぐに何か変わるというワケでもない。
ただ、上手くなれたり、何かに気づく「きっかけ」にはなってほしいと思った。
自分が選手だった時にも、「気づくのはいつだって自分。自分で気づいてから上手くなる」
とよく言われたものだった。
だから、この子たちが自分で気づいて上手くなるきっかけになれれば良いと思った。
もちろん、女子の指導などは今までに一度もしたことがなく、
自分の教えていることが本当に正しいかの不安もあった。
でも、この時の俺は、ただ今自分ができること、伝えられることを、
精一杯にやってあげようとだけ思っていたのだ。 その日の奈央は調子が良かった。
何度も何度もスパイクを軽快に打っては、
「ワイヤーって聞いてから、ジャンプがしやすくなった気がする!」
と、笑顔で駆け回っていた。
このスパイクの練習から、チームみんなの笑顔が増えたような気がした。
そのあと、レギュラーメンバーがコートに入って試合形式の練習が行われた。
真面目にやっていながらも、終始笑顔が溢れていて、厳しすぎることもない。
その様子を、顧問の先生は椅子に座って笑顔で眺めていた。
「いい部活だな」
奈央がこの部活に最後までいたい、という気持ちもよく分かる気がした。 俺が高校の時のチームも、こんな感じだった。
いや、もっと厳しかったが、雰囲気は似ていた。
あの時は、楽しかった。
みんなで夢に向かって、夢中で頑張っていたあの日、
俺も今の奈央たちと同じような景色を眺めていたんだ。
夢というのは、そこにあって、追いかけるものだ。
それが叶う叶わないではなく、追いかけることに意味があったのかもしれない。
一つの夢が終わってしまったら、また新たな夢を見つける。
もしかしたら人生は、そうやっていくつもの夢を追いかけていくものかもしれない。 俺はボールを叩きながら、体育館の格子窓から外を見てみた。
正午過ぎの真っ白な光が、校舎と校庭を包んでいた。
校庭では、サッカー部とハンドボール部が掛け声を上げていた。
その手前の校舎に続く道を、数人の生徒が歩いている。
俺は、やっぱりバレーがしたいんだ。
どんな形であれ、バレーのそばにいたいんだ。
今日、奈央の部活に来たことで、俺は自分のそんな気持ちに気づき始めていた。 帰り際、歩くのも大変そうにしている先生に、
「明日から、よろしくお願いします」と頭を下げられ困ってしまったが、
「はい、しっかり頑張ります」と力強く答えた。
体育館から出ようとすると、奈央に呼び止められた。
奈央「ちょっと、帰り道分かんの?」
俺「あ…ちょっと自信ないな…」
そういうと奈央はあからさまにしかめっ面になって、
「やっぱりー?もう、めんどくさ…」と言った。 奈央「このまま友達と図書館行こうと思ってたのに」
俺「まあ、どうにかなるよ。大丈夫」
奈央「いや、絶対迷うって。駅まで戻れないよ多分」
そう言うと奈央は部活の子たちの所へ行き、「一回帰ってすぐ連絡する」と話していた。
駐輪場で奈央に、「絶対今日で道覚えてよね」と釘をさされた。
奈央と二人で自転車に乗って校門を出た。
瞬間、また空気が変わった気がした。
なんというか、時間の流れが元に戻った、そんな気がした。
振り返ると正面には校舎、横には先程まで俺がいた体育館があった。 奈央「今日は調子が良かった」
少し先を行く奈央は、ごきげんな様子だった。
夏の太陽を思い切り浴びる中走っているというのに、元気そうだった。
俺「やっぱり、エースじゃん。上手いと思ったよ」
俺がそう言うと、振り返って「本当?」と笑みを浮かべた。
奈央「あの、ワイヤーだっけ!あれは面白かった」
俺「あー、あれね。あれは俺が中学の時の先生に言われたんだ」
俺「あれを聞いてから、スパイク打つのが楽しくなってさ」
俺「それをみんなにも味わって欲しかったから」
俺がそう話すと、奈央はにやにやと笑った。 奈央「今日は楽しかったなぁ」
俺「良かった。やっぱり、部活は楽しいのが一番だと思うよ」
奈央は、笑顔で黙って頷いた。
奈央「来てくれて、ありがとう」
俺「え?」
俺がそう聞き返すと、奈央はもう答えることもなく、
「ここからは坂道だから辛いよ!」と言って先に走っていってしまった。
木陰に入ると、遠くからツクツクボウシの声がした。 すみませんが、今日は一旦ここまでにします。
また明日書きに来ますー! 俺は、次の日も奈央の部活に行った。
もう顧問の先生の姿はなく、俺と3年生が中心になって練習をすすめた。
管理ということで、バスケ部の先生が体育館の管理室に居てくれた。
半面は、バスケ部の男子が使っていたのだ。 その日も練習は好調で、
俺のアドバイス一つ一つをひたむきに受け止めてくれるのが、とても嬉しかった。
一人の2年生の子に冗談まじりではあるが「1さんが来てくれてホント助かった!」と言われて、
照れくさくて、でも感激した。
千景、という女の子だった。
ショートカットで淡褐色肌の、元気の良い子だった。
奈央以外で、この子が一番俺に懐いてくれていた。 この部の中にも、段々と溶け込めてきたんだなって実感できた。
このまま夏季大会まで、何もかもが上手くいって、
奈央の部活は大団円を迎えるんだろうな、と思っていた矢先。
大会まであと数日という日に、思わぬ出来事が起こった。 その日俺は、午前中から奈央の部活に行った。
みんなも、俺も、すっかり慣れてきていて、
その日もいつも通りに部活が始まって、問題なく練習が進んでいた。
でも、朝から奈央の様子がちょっと変だな、と感じていた。
もちろん一番最初に部活に来て(奈央はいつもそうだった)
いつも通り精一杯声を上げて頑張っていた。
でも、心なしかいつもより笑顔が少ない気がした。
それを感じ取っていたのは俺だけではなかったらしく、
何となく部活全体に、不安な雰囲気が漂っている気がした。 奈央に笑顔が少ないと、自然とチーム全体の笑顔も減っていく。
今まで、この部の雰囲気を作っていたのは、
奈央の笑顔だったのかもしれない、と俺は感じた。
スパイク練習になると、それはより如実になった。
いつも調子よく決まる奈央のスパイクが、この日は全然決まらなかった。
何度やっても、ネットに引っ掛けてしまった。
奈央自身それが納得できないようで、悔しそうな顔をしては下を向くだけだった。
失敗しても明るい、いつもの奈央ではなかった。
それに呼応してか、他の子たちの調子も良くない方に向いている気がした。 ここまでくると俺も心配になって、スパイク練習の列に並んでいる奈央に声をかけた。
俺「調子悪そうだけど、大丈夫?」
俺がそう言って励まそうとしても、奈央はただ「うん」と言うだけだった。
何かがおかしい。それはもう明らかなことだった。
休憩時間に他の部員に、「奈央は大丈夫?」と聞いてみても、
「今までにあんまりこういうことはなかったです」と動揺していた。
その間も奈央は、体育館のすみに座ってタオルを被り、俯いていた。 すみませんが、今日はここまでにします。
次は木曜の夜に書きに来ます。
よろしくです。 俺がそれを気にかけていると、例の2年生の千景ちゃんに声をかけられた。
千景「1さんは、花火見に行くんですか!」
俺「え、花火って?」
千景「今日、すぐそこで花火大会があるんですよ。知らないんですか?」
そういえば、おばさんからちらっと聞いていた気がする。
あの家の庭からも見れるんだ、ということを話していた。 俺「花火大会って、今日なんだね」
千景「そうですよ!2年はみんなで行くかもなんです」
そう言っていると、他の2年生の子たちも寄ってきて、
「なになに花火?」「でも今日雨降るらしいよー」と話が膨らんでいった。
俺には、なんだかその千景ちゃんの様子が、
無理矢理にこの場の雰囲気を和ませようとしているようにも見えた。
慣例であるレギュラーメンバーの試合形式の練習になっても、
奈央の様子が変わることは一向になかった。
それと比例して、チームの調子もどんどん下向いているような気がした。
俺にはどうしたらいいか分かるはずもなく、
ただ外野から励ますことしかできなかった。 楽しかったはずのバレー。こんな時、どうすればいいんだっけ。
俺は、自分の経験を手繰り寄せて考えていた。
でも、俺が今のケガ以外でバレーに手がつかなくなったことはなかった。
だから、奈央の気持ちが分からない。
どうしたらいいのか、全然分からなかった。 一生懸命の奈央。バレーが好きな奈央。
俺にもう一度バレーと向き合うきっかけをくれた奈央。
どうにかして助けてやりたい。
でも今の俺には、それに気づいてあげられるだけの力も、経験もないのだ。
部活のコーチだなんて息巻いて、こんな時助けてやれないんじゃ、何の意味もないんだ。
やっぱり、俺にバレーは…… そんな事を考えてしまって、体育館のステージに腰掛けていると、
千景ちゃんに声をかけられた。
千景「良かったら、居残り練習付き合ってくれませんか?」
練習が終わって、ほとんどの部員が帰った後だった。
当然、奈央も俺より先に帰っていた。
俺「いいけど、今日はネットの片付けは…」
千景「午後、男バレがそのまま使うんで、立てっぱなしでいいんです」
そう言うと、千景ちゃんはボールを持ってきて、俺の方に投げた。
「お願いします」と言ってにこにこ笑ったので、俺もなんだかほっとした。 千景「レシーブ練習がしたいので、テキトーに打ってきてください」
俺「オッケー。あ、でも」
俺「部室、閉まっちゃわない?」
千景「奈央先輩に言って、鍵を預かってるので大丈夫です」
俺「それならいいね」
俺は千景ちゃんに向かって、軽めにボールを打った。
彼女は2年生だけど上手くて、リベロとしてレギュラーになっている。
千景「奈央先輩から、よく1さんの話を聞いてました」
俺「え、どういうこと?」
唐突のことで、俺はちょっとびっくりした。 千景「私奈央先輩と仲いいから、よくLINEするんです」
千景「1さんの事も、よく話題に上がるんです」
千景「なんか、楽しそうで」
千景ちゃんはそう言ってくすっと笑った。
その言葉に、俺は胸がいっぱいになったような気がした。
俺「本当に?本当なら…良かった」
千景「何がですか?」
千景ちゃんの問いに俺は少し言葉が詰まったけど、頑張って続けた。
俺「だって、いきなり居候とか言って知らない奴が家に来たら…普通は嫌じゃん」
千景ちゃんは「確かに!」と言って笑った。 千景「でも、奈央先輩なら大丈夫ですよ」
千景「すごく優しい人なんで、そういう事は考えないと思います」
千景「逆に、無理矢理部活に誘っちゃって迷惑じゃないかなぁって、すごく気にしてました」
俺もそれを聞いて、思わす笑いがこぼれた。
お互いに、とりこし苦労をしていたということなんだろうか。
俺は先程まで抱えていた不安を、千景ちゃんに話してみようと思った。
何か、この子になら話してもいいように思えた。
俺「奈央は、大丈夫かな。今日、絶対普通じゃなかったよね?」
千景「そうですね…かなり落ち込んでましたね」
俺「俺、何かできることないかな。何も分かんなくてさ…」
俺がそう言うと、千景ちゃんはきょとんとしてこちらを見つめた。 すみませんが、今日はここまでにします。
また明日、書きにきます。
いつも来てくれる人、本当にありがとう。 すみませんが、今日は急用で書き込めませんでした…
明日の夜書きに来ます。
ごめんなさい。。 俺「どうしたの?」
千景「いえ、やっぱり1さんは良い人なんですね」
俺「やっぱりって?」
千景「こっちの話ですw」
ちょっと考えると意味が分かった気がして、なんだか気恥ずかしかった。
千景「奈央先輩、ふられちゃったんです」
千景「だから落ち込んでるんだと思います」
俺「へ?」
千景「これ、先輩には言わないでくださいね…」
俺「うん、もちろん。言わないよ」
千景ちゃんがあまりに突然な事を言い出したので、俺も対応がしどろもどろになった。 千景「バスケ部の2年生なんですけど…ずっと好きだったみたいで」
俺「え?」
俺「ニシ君じゃないの?」
千景ちゃんは目を丸くして俺の方を見た。
千景「西って…野球部の西先輩ですか?」
千景「どうして西先輩なんですか?」
俺はちょっと困ってしまったが、言葉を振り絞った。
俺「だって試合の時にお守りを…」
千景「お守り?なんでそんな事知ってるんですかw」
千景ちゃんは転がったボールを拾いながら、再び俺の方を見た。
俺「試合の時、俺が車で送ったんだけど…その時に持ってたから」
俺「そうなのかなって思ってた」 それを聞くと千景ちゃんは合点がいったように「あ〜!」と頷いた。
千景「それ、女バレみんなでやったやつですよ」
俺「えー、そうだったの?でもなんで…?」
千景ちゃんは楽しいのか、にやにやしながら話を続けた。
千景「うちらが総体に出た時、偶然野球部の人たちが応援に来てくれて」
千景「そのお返しをしようって、みんなで作ったんですよ」
それを聞いて、体から力が抜けた。
あのお守りは、そういうことだったのか…
勝手に決めつけて、一人で盛り上がっていた自分が何だか恥ずかしい。
そして千景ちゃんは、依然として笑みを浮かべたままだった。 千景「むしろ、西先輩が奈央先輩の事好きだったんですよ」
俺「え、そうなの!?」
千景「告白されて、断ったって言ってました」
千景ちゃんはそう言うと「あれは超驚いたな〜w」と笑っていた。
俺はそれを聞いて、呆然としていた。
千景「1さんは校外の人だし、心配してたから色々話しましたけど」
千景「この話、絶対奈央先輩には秘密ですよ」
千景ちゃんの真剣な眼差しが俺を捉えていた。
俺はその念押しに、黙って頷いた。 千景ちゃんの話が全て本当なら、
俺はとんでもないものを拾ってしまったのかもしれない。
ニシ君は、奈央が決して自分を見ていないことを知っていた。
それでもあのお守りを受け取って…どんな気持ちだったのだろう。
あの日、あそこに落ちていたお守りは…もしかしたら本当に。
俺の脳裏に、ヒットを一本も打てず、試合後泣き崩れていたニシ君の姿が蘇った。 正午過ぎの体育館。
全ての窓を開け放していたものの、真夏の暑さで汗が吹き出た。
それでもこの日は曇っていたから、暑さはマシな方だった。
しばらく黙って、レシーブ練習や対人を続けた。 俺「でも、失恋って…どうしてあげたらいいか分からないなぁ」
俺「辛そうだし、何かしてやりたいけど…」
そう言うと、千景ちゃんは真面目な表情になって俺を見た。
千景「無理して考えなくてもいいと思います」
千景「奈央先輩って、あんまり人に弱音を吐かないんです」
千景「今回のことは、私にもあんまり話してくれませんでした」
千景「だから、もしも何か言われたら、その時にちゃんとこたえてあげればいいと思います」
俺はその言葉に何度も頷いた。
何か言おうとしたけど相応しい言葉が思いつかなくて、ただ黙って頷いた。 俺がその沈黙を掻き切ろうと、ボールを構えた瞬間だった。
俺のポケットに入っていたスマホが震えたのを感じた。
早く帰って来て
対人して欲しいから。
俺「…奈央からだ」
千景「え!先輩からですか?」 俺「対人して欲しいから、早く帰って来てって…」
画面を見せると、千景ちゃんも俺も黙ってしまった。
でもすぐに千景ちゃんは俺の顔を見上げて、言った。
千景「こたえてあげてください」
その表情はどこか、少しだけ憂いを帯びていた。
俺は「ああ!」と言い切って走って体育館を出た。
むわっとした湿気を纏った熱気を感じた。一雨来そうな感じだった。
駐輪場の端っこに止めてある自転車にまたがって、
俺は前のめりになってペダルを踏み出した。 制服を来た男子生徒にすれ違う。
校舎の脇を歩く野球部の一団と目が合った。
俺はなりふり構わず、立ちこぎで自転車を思い切り走らせた。
遠くで落雷の音が響いた。その音が、俺の焦燥感を煽った。
奈央が待ってる。あの庭で、奈央が待ってる。
その一心だったのだ。 学校を出て坂道を登る最中、色んな想いが頭の中を駆け巡った。
奈央が落ち込んだり、怒ったり、笑ったりしていたのは、
恋をしていたからなのか。
奈央が朝一で部活に行った時は、いつも隣のコートに男子バスケがいた。
初めて部活に行ったあの日、俺と別々で体育館に入ったのも…
そう考えると、全ての辻褄が合ってくるような気がした。 俺と出会ってから、奈央は沢山の表情を見せてくれた。
でも何故だか、その全てが壊れてしまうような不安を覚えた。
奈央はバレーが大好きな女の子。
俺に、もう一度前を向くきっかけをくれた人。
何がどうなろうと、俺にとってはそれが全てだったのだ。
だから俺は、無我夢中で坂道に向かってペダルを踏み込んだ。
きっと、ボールを持って待っているに違いない。 今日は一旦ここまでです。
続きは明日書きにきます。
それでは 家に着く頃には俺は息が上がってしまって、朦朧としていた。
山の方から聞こえてくる蝉の声が、頭の中で反響する。
水道と花壇の間に自転車を立てかけて玄関に走ると、
そこには奈央がボールを抱えて座っていた。
俺は「いた…」と言って膝に手をついて息を整えた。
奈央は驚いた様子で俺を見上げた。
奈央「そんなに急いで来たの…?」
俺「だって、対人したいんでしょ?やろうぜ」
俺はぜえぜえと息を上げたまま答えたが、
自分でも質問の答えにはなってないなって分かった。 俺は奈央の肩を叩いて「来いよ!」と庭へと誘った。
奈央も「うん…」と申し訳無さそうに立ち上がった。
奈央が打たずにボールを抱えたまま立ち尽くしていたので、
俺は「来い!思いっきり打っていいよ!」と声をかけた。
奈央はそのまま、黙ってこちらを見てボールを打ち込んだ。 そしてそのまま、会話を交わすこともなく黙々と対人を続けた。
レシーブする。トスが返ってくる。打つ。トスを上げる。レシーブする…
そんなことを何周繰り返した頃だろうか、
ぽつぽつと、雨が降ってきた。
小雨というわけではなく、すぐに勢いのある雨となった。
ただ奈央は、雨が降ってきても対人をやめる素振りは見せなかった。
なので俺も濡れることは気にせず、それに付き合った。 サアア、と雨の音が辺りを包み、蝉の声が消える。
奈央「あは、やったぁ。これだけ雨が降ったら今日の花火は中止かもね」
不意に奈央がしゃべり始めて、雨の中で力のない笑顔を浮かべた。
俺「まあ、そうかもね。花火、行かないの?」
俺がそう質問しても奈央は答えず、再び黙って対人を始めた。 奈央は、俺とラリーを続けながら話し始めた。
奈央「1は、花火大会とか行った事あるの」
俺「そりゃあ、あるさ」
奈央「女の子と一緒に?」
俺「それは言いたくないな」
言いたくないというよりも、女の子と一緒に行ったことはなかった。
だが、そんな事を真正直に言うのも気が引けた。 奈央「私、ふられちゃったの」
突然核心に触れる言葉が飛び出し、俺は動揺を隠せなかった。
俺「そっか…まあ、そういうこともあるよ」
奈央「何それ」
奈央「もっと気の利いた事言えないの?」
俺は何て言えばいいのか分からなかった。
ただでさえ雨の中で対人をしていて、頭が回らなかったのだ。
奈央を助けてやりたい。助けてやりたい!
そして無意識に想いが溢れ出た。 俺「じゃあ、打ってこい!気が済むまで、思いっきり打ってこい!」
俺「俺が全部キャッチすっから!!」
叩きつける雨の中で、奈央がこちらを見て立ち尽くした。
その姿は、何かに怯えているように見えた。
俺はそれを見て胸が張り裂けそうになった。
俺「大丈夫、俺は絶対ここにいるから」
俺「全部、受け止めるから!」
奈央は黙ってボールを掲げた。そして俺の方に向かって思い切り打ち込んだ。
俺はそのまま奈央が打てるように、高々とレシーブを上げた。
天高くボールが舞い上がり、奈央がそのまま腕を振り下ろす。 何度も何度も、奈央の渾身のボールを受け止める。
打ち続けるうちに、奈央は鼻をすすり始めた。
そして、打ったかと思うと、ボールを真下に叩きつけた。
奈央はそのまま「うあああ」と声を上げて泣き始めた。
叩きつける雨音の中に、奈央の泣く声が入り混じった。
目の前で、雨に打たれて嗚咽している奈央。
手の甲で何度も何度も顔を拭った。
俺はそれを、唇を噛んで見ていることしかできなかった。 奈央は泣き続けた。
泣いても泣いてもおさまらないようで、ずっと声を上げて泣いていた。
しばらくして、不意にボールを拾い上げたかと思うと、
そのまま俺に向かって打ち込んできた。
俺は突然のことで反応できず、ボールをはじいてしまった。 奈央「やった。私の勝ち、だ」
降りしきる雨の中で、奈央は俺に向かって満面の笑顔を見せた。
服も髪も、びしょ濡れになってぐしゃぐしゃの奈央。
けど、その笑顔は俺が今まで出会ってきた中で、飛びきり一番の笑顔だった。
「奈央」
俺は思わず、奈央の名を呼んだ。 奈央「へへ、なんかスッキリした」
奈央は両手で目元をこすっていた。
奈央「まだ、悲しいけどね」
俺「そりゃ、そんなすぐには全部忘れられないよ」
奈央「あれ、まるでそういうことがあったっていう口ぶり」
俺はそう言われて「ないよ」と笑った。
奈央の元へと駆け寄り、「風邪ひくから中入ってすぐ着替えな」と言った。
奈央は俺の顔を真っ直ぐに見上げた。
奈央「ありがとね。こんな事に付き合ってくれて」
そう言う奈央の目は真っ赤に充血して、涙が溜まっていた。 俺「そんな事、気にするなよ。俺はただの居候だしな」
俺がそう言うと、奈央は笑って「そんなことないよ」とつぶやいた。
「なんかめっちゃ鼻水出ちゃったw」
「きたねえな、顔も洗っとけw」
俺たちはそんなやりとりをしながら、家の中へ戻った。
この日この時、俺の前で見せた奈央の表情はずっと忘れることができない。
ただ、この出来事があったから、俺の新しい夢への想いは確信へと変わりつつあった。
もう、昔を思い出して嘆いているだけの俺はいなかった。
前を向こう、これからの未来を考えよう、そんな想いがふつふつと湧いてきていた。 夕方になると分厚く空を覆っていた雲は立ち消え、
気持ちの良い夕空が広がっていた。
東の空は暗闇に溶け込み、西の空は橙色の波を帯びていた。
これならきっと花火大会もあるだろう、そんな風に思った。 今日は一旦ここまです。
続きはまた明日書きます。
かなり佳境まできました。
見てくれている人、ありがとう 奈央はもしかしたら、夕飯の場に顔を出さないかと思っていたが、
おばさんに呼ばれて居間に下りると、その団欒の中に奈央がいた。
奈央は少し目を腫らしているように見えたが、
家族の中でいつも通りにご飯を食べていた。
ただ、テレビを見ながら力なく笑っている奈央の姿が、俺の胸を騒がせた。
自分でもよく分からないが、いつも通りにしている奈央を見て胸が傷んだ。 奈央はもしかしたら、夕飯の場に顔を出さないかと思っていたが、
おばさんに呼ばれて居間に下りると、その団欒の中に奈央がいた。
奈央は少し目を腫らしているように見えたが、
家族の中でいつも通りにご飯を食べていた。
ただ、テレビを見ながら力なく笑っている奈央の姿が、俺の胸を騒がせた。
自分でもよく分からないが、いつも通りにしている奈央を見て胸が傷んだ。 夕飯を食べた後、部屋で窓を開けて扇風機を回して勉強をしていた。
すると、外から「ドドドン!」という音が聞こえて、
麓の方角で花火が打ち上がるのが見えた。
「こんなによく見えるんだな」と感激して、すぐに1階へ下りた。
俺「花火、始まりましたね!」
おばさん「そうね、よく見えるでしょ」
縁側では、おじさんとおじいちゃんがガラスの灰皿を置いて、二人でビールを飲んでいた。
テレビの前で、奈央が浮かない様子でスマホをいじっていた。 おばさん「そういえば、今朝ぶどうが取れたんだけど食べて」
そう言っておばさんは居間のテーブルにぶどうを3房ほど出してきた。
俺「これって、もしかして隣の畑のやつですか?」
俺が興奮して聞くと、おばさんは
「そう。1君が奈央と一緒に水あげてくれたやつ」と言って笑っていた。 目の前に出てきた瑞々しいぶどうを見て、少し嬉しくなった。
横にいた奈央に「な、これなんてぶどうなの?」と聞くと、
「巨峰だよ、一番美味しいやつー」と力のない返事をされた。
俺「これって、俺らが水あげたやつだよな?それが食べれるって凄くね!」
俺が興奮してそう言うと、奈央は笑っていた。
奈央「何いってんの、大げさだなぁ」 でも俺は確かに、奈央と二人で水をあげた日の事を思い出していた。
あの時、奈央は大口を開けて笑っていた。
すごく楽しそうだったと思う。
ここに来てから、本当に色んな奈央の表情を見てきた。
大口を開けて楽しそうに笑う姿や、いたずらっぽくにやにや笑う顔、
バレーに対する真剣な眼差しや、落ち込んで下を向いていた表情、
そして土砂降りの中で見せた泣きっ面に、満面の笑顔…
その全てが俺の心に強く残っていて、その全てが奈央だった。
そして、その沢山の表情に、俺は動かされ、変わってきていた。 でも俺は確かに、奈央と二人で水をあげた日の事を思い出していた。
あの時、奈央は大口を開けて笑っていた。
すごく楽しそうだったと思う。
ここに来てから、本当に色んな奈央の表情を見てきた。
大口を開けて楽しそうに笑う姿や、いたずらっぽくにやにや笑う顔、
バレーに対する真剣な眼差しや、落ち込んで下を向いていた表情、
そして土砂降りの中で見せた泣きっ面に、満面の笑顔…
その全てが俺の心に強く残っていて、その全てが奈央だった。
そして、その沢山の表情に、俺は動かされ、変わってきていた。 でも今の奈央の表情は…いつもと変わらない様子を見せている奈央の表情は…
俺の心に残したくないな、と感じた。
そんな瞬間、奈央の口からぽろっと言葉がこぼれ落ちた。
奈央「花火…行きたかったな」
その言葉を聞いて、心臓が大きな音を立てたのが分かった。
色々と考えてしまう前に、すぐに口から気持ちを吐き出す。 俺「じゃあ、行こうよ」
奈央「は?何いってんの?」
奈央が右手にぶどうの実を持ったままこちらを見た。
俺「行きたいんだろ。まだ全然間に合うじゃん。」
俺「一緒に行ってこようぜ」
奈央は俺から視線を外して下を向いた。
奈央「え、でも…」
奈央「1だって勉強があるし、もうこれ以上色々迷惑かけれないし」
俺「そうじゃないよ」
俺は強く言い切った。 奈央「え?」
俺「俺が行きたいんだよ、俺が。だからさ、一緒に行こうよ」
奈央「はー…?」
奈央は返答に困ったららしく、目をきょろきょろさせた。
俺「行こうぜ。自転車で下ればすぐだろ。な、奈央」
奈央は少し「うー…」と首を傾げて考えてから答えた。
奈央「いいよ…」
俺はそれを聞いた瞬間、ぱっと心が晴れて「おっしゃ!」と口走ってしまった。 奈央「いいけどさぁ…ちょっと待ってね」
俺「どうしたん?」
奈央「準備するから、待ってて。分かるでしょ」
そう言われて俺は落ち着かず、家の外の玄関の前に座って、
一人で遠くに打ち上がる花火を眺めていた。
ドン…パラパラ…という音が光から数秒遅れて聞こえてくる。
遠くで小さく瞬くだけの花火は、見ていて物悲しく感じた。 リリリリ…という虫の声と、縁側で話すおじさんたちの笑い声も聞こえた。
蒸し暑くて、Tシャツ1枚とステテコという軽装だったのに汗が滲んだ。
俺はぼんやりと、考え事をしていた。
これから奈央はどんな格好で出てくるんだろうなぁとか、
奈央と二人で花火を見るのはちょっと照れるなぁとか、
これから、俺はどうしていこうか―とか。 頭の中がこんがらがって、今何が起きているのかもよく分からなくなった。
しばらくすると、玄関の戸が開いて奈央が出てきた。
奈央「おまたせ…」
俺は奈央の姿を見て「おっ」と声が漏れた。
奈央はシンプルなカットソーとスカートで出てきて、長い髪に帽子を被っていた。
普段は部活着か制服、部屋着しか見たことがなかったので、
私服を着ている奈央は少しだけ垢抜けていて、新鮮だった。 俺「なんだ、その帽子」
奈央「ハットだよ、ストローハット。バカ」
俺「それ被ってくのかw」
奈央「もう、あんま茶化すなら行かないよ」
そう言って奈央がむくれてしまったので、俺も
「嘘だよ、似合ってる」と気恥ずかしい事を言ってしまった。自業自得だ。 俺「そんなにオシャレして行く必要あるか?」
奈央「だって学校の誰かに会うかもしれないし」
奈央「変な格好してるの見られたくないでしょ」
俺は確かにな…と思いつつ一つ引っかかった。
俺「え、でもさ。俺と一緒にいるとこ見られていいの?」
奈央「大丈夫でしょ別に。それに1は学校の人じゃないし、東京に戻っちゃうんだから」
俺「ああ…」
俺はそれを聞いて思い出してしまった。
最近は過去を振り返って落ち込む事もほとんどなくなっていた。
その全てが今の暮らしが充実していて、楽しかったからだ。 でも、俺は夏が終わったら東京に戻らないといけない。
ここでこうしていられるのも、あと少しだけだった。
このまったく知らなかったど田舎の世界で、
のびのびと笑って、ぶどうなんか食べて、
奈央と一緒に過ごせるのも、奈央とバレーができるのも、あと少しだった。
これが終わったら、俺はどうなるんだろう?
俺にはまだそれが分からなかった。 今日は、一旦ここで落ちます
だいぶ佳境まできました
今週末の土日で終わるかもです
では すみませんが、今日は忙しかったので
続きは明日書きます…
よろしくです。ごめんなさい こんばんは、今日も続きを書いていきます。
みんな、いつも見てくれてありがとう。 自転車を出そうとすると、おじさんに声をかけられた。
おじさん「お、どこに行くで」
俺「ちょっと、花火を近くで見ようと思ってw」
そうするとおじさんは酔っているのか、
「奈央が襲われないように守ってやってくれよ!あ、1君も何もすんなよ!」
と声をあげて笑っていた。
隣にいたおじいちゃんは神妙な面持ちで「気をつけて行くだぞ」と言ってくれた。 俺はそれに「はい」と返事をし、奈央に「いくぞ」と声をかけた。
俺「奈央、早く早く!」
俺はそう言って、全力で自転車をこぎだした。
奈央が後ろから「待って!」と言って追いかけてきた。
もう何度か通った、あの下り坂を全速力で下っていく。
夜風が体に当たって、すごいスピードで街灯が過っていった。
俺は、奈央を花火大会に連れ去る漫画の主人公にでもなったつもりだった。 自転車をこぐたび、心臓がどんどん高鳴るのを感じた。
それは近づく花火の音と呼応して、勢いを増していった。
坂道を全速力で下り終えると、平らな道へ出た。
横にはあの河が流れていて、
遠くの橋の上には屋台の灯りがいくつもともっていた。
大勢の人が灯りの中を歩いているようだ。 ここまで来て、奈央が「やっぱりダメ」と言って急に止まってしまった。
俺「どうした?」
奈央「もしかしたら、会っちゃうかもしれないから…」
俺は少し黙って考えた。
俺「奈央がふられた人に…か」 奈央「もし他の子と歩いてたら…私…」
奈央はそう言って、下を向いてしまった。
俺は悩んだ。このままだと、奈央を連れ出してきた意味がない。
それどころか、奈央をもっと傷つけてしまうだけかもしれない。
ただ、奈央は花火大会に来たかったんだ。
奈央のあの表情を変えたかった。
でも、俺には無理だったのか? 瞬間、俺は閃いた。
俺「河川敷のひまわり畑に行こう」
奈央「え?」
俺「河川敷の横に、ひまわりが咲いてるの見たんだよ」
俺「あそこから見ようぜ、花火」
俺「ひまわり、好きなんだろ」 俺がそう言うと、奈央は「なんでそんな事知ってんの」と苦笑いした。
俺「言ってたじゃん、もうけっこー前だけど」
奈央「そうだっけ」
そう言うと、奈央は笑って頷いた。
奈央「あそこなら人も少ないだろうし、いいけど」
それを聞いて俺は「よっしゃ」と言って自然と笑顔になった。 俺「奈央、行くぞ」
そう言うと、奈央は「うん」と頷いて俺の後をついてきた。
道の脇に2台の自転車を置いて、河川敷の横のひまわり畑に向かって下りていく。
その間も、頭上には何発もの花火が大きな音を立てて打ち上がっていた。
花火が打ち上がるたびに、奈央が「わっ」と言って見上げるので、
足を踏み外さないか、俺は気が気じゃなかった。
そしてしばらく歩くと、小さなひまわり畑にたどり着いた。 花火が打ち上がって、ひまわりたちを何色にも染めた。
それは不思議な光景だった。
元の色があの明るい黄色だとは、到底思えなかった。
俺「ここからも、よく見えるじゃんか」
そう言って横の奈央を見たが、黙ってただ花火を見つめていた。 簡素な電灯しかないから、
花火が無い時はとても視界が暗くなった。
そう思うとまた花火が何発も打ち上がり、
横の奈央とひまわりを鮮やかに映し出した。
その景色をぼーっと眺めていると、奈央が不意にひまわり畑の中に駆け出した。
俺「ちょっと、どこ行くんだよ」
奈央「どこにも行かないよ」 俺は急いで奈央を追いかけた。
ひまわり畑の中に佇んでいる奈央を見つけて、安心する。
俺「暗いし、危ないぞ」
奈央「ん、分かってる」
奈央「近くで見れて良かったな」
俺「そっか、それなら良かった」
ドン、ドン、パラララ…
その間にも、頭上ではいくつもの花火が咲いて散っていった。 奈央「あのさ」
俺「何」
花火のせいもあってか、会話のやりとりが簡潔になる。
奈央「恋なんて、花火みたいなもんだよね」
俺「え、なんだそれ」
奈央「私の気持ちも、散って消えていったから」
ちょっと茶化したい気持ちも湧いたが、
奈央が真剣に話しているのが分かったので、
俺も真剣に答えることにした。 俺「あんなに綺麗に咲いて散ったの?」
奈央「ううん…全然ちがう」
奈央「あれだけ綺麗に咲いてれば…散らなかったかもね」
奈央はそう言うと、かぶっていたストローハットを目深にかぶり直した。
そんな奈央を、頭上の大きな花火が照らした。 俺「なあ、奈央」
奈央「…なに」
奈央はストローハットで目元を隠したまま答えた。
俺「散っちゃったなら、いいじゃんか。綺麗さっぱり、切り替えられる」
俺「ずーっと心に残ってるほうが大変だぞ」
俺はまるで自分に語りかけるように、奈央に言った。 俺「次は、ひまわりみたいな恋をすればいい」
奈央「なに、それ」
俺の言葉を聞いて、奈央が笑って顔を上げてくれた。
俺「ひまわりは、消えないからな」
奈央「でも、夏が終わったら枯れるよ」
俺「枯れないようにすればいいさ」
奈央は「いみわかんないw」と文句を言っていたが、笑顔が戻ってきて、
俺は心が温かくなるような、安心するような、よく分からない気持ちになった。 俺「それに、もう一つ大事な花火がある」
奈央は「なにそれ」と言いたげな目でこちらを見たが、すぐに気づいて、
「分かってる、絶対勝つんだからね」と得意げな表情を浮かべた。
さっきまで帽子で顔を隠していたくせに、と笑ってしまいそうになったが、
奈央の様子が元気になってきて、俺はとても嬉しくなった。 俺「明後日だな、夏季大会」
奈央「うん、そうだね」
俺「悔いがないように、最後まで頑張ってな」
奈央「頑張るよ、絶対。最後の最後まで」
頭上で、大きな金色のスターマインが夜空のカーテンのように広がっていた。
奈央の花火が、部活の集大成が、綺麗に咲きますように―
俺はそんなことを願っていた。 今日はここまでにします。
恐らく、次に書きに来るときに完結すると思います。
あと少しですが、皆最後までお付き合い頂ければ、嬉しいです。
よろしくね。 こんばんは、今日も書いていきますね。
今日が、最後となります。
よろしくお願いします。 翌日の朝、奈央は昨日のことがまるで嘘だったかのように、
元気に部活をやっていた。
吹っ切れたかのように、あの笑顔で、
大声を上げてボールを追いかけていた。
奈央の調子が戻ると、自然とチーム全体の調子も高まり、
俺がコーチに来てから一番の活気に満ちていた。
練習中、千景ちゃんに「奈央先輩、復活しましたね」と笑われた。 千景「1さん、先輩に何か言ったんですか?」
俺「うーん…ちょっとそれは、秘密かな」
俺が笑みを含んでそう言うと、千景ちゃんは意味深に、
「1さんって、本当にいい人ですよね」と楽しそうに笑顔を浮かべていた。
それが何を意味しているか、少し気になったけど、すぐにどうでもよくなった。 とにかく、今この体育館の中には笑顔の奈央がいて、
最高の調子になったチームがある。
後は明日の夏季大会で、この目で見るものが全てなんだろう。
そんな風に、感じていたからだ。 部活が終わった後、奈央はみんなの前で
「みんな、今までありがとう。明日は最後まで、楽しく笑顔で頑張ろうね」と語った。
澄んだ瞳に、感謝の満ちた表情だった。
高校の3年間の部活、それはきっと誰にとってもかけがえのないものだ。
奈央にとってのこの3年間も、きっと何物にも代えがたい、
楽しくて、大切な、長いようで、あっという間の3年間だったんだろう。 ここ一週間は、俺もその大切な3年間の一部になっていたのだ。
そう考えると、なんだか少しだけ胸が温かくなった。
そして俺自身も、
自分のやり遂げられなかった3年間を重ねあわせていたのだと、強く思う。
そして体育館を出る時、奈央は俺に向かって
「私、気合入れてくるからね」と言って家の鍵を手渡した。
それはつまり、「先に家に帰ってて」といういつものやりとりだったのだが、
気合を入れるってどういうことだ?と言葉の意味までは汲み取れなかった。 夕方、家に帰って来た奈央は生まれ変わっていた。
肩甲骨まではあったであろう長い髪を、
さっぱりとショートヘアにしていたのだ。
居間でばったり奈央と顔を合わせて、
その変貌ぶりに俺の心臓は大きな音を立てた。
奈央「ただいま」
俺「おお…おかえり」 ここまでイメージを変えた女の子相手に、
何も言わないというのもアレだなと思い、
俺は恥ずかしくて目が回りそうだったが、勇気を出した。
俺「すごく短くしたんだね。似合ってるよ」
そう言うと奈央は「ふっ」と吹き出して笑い、
「ありがとう」と言ってくれた。
奈央「そんな真面目に言われると、変な感じだね」
奈央はそう言って自分の髪を触り、はにかむような笑みをこぼしていた。 パート帰りでキッチンにいたおばさんにも
「あら!そんなに切ったの!素敵じゃない」と言われていて、
奈央は上機嫌なようでニコニコしていた。
正直、奈央がどんな心境で髪を切ったのかは分からない。
だけど、髪を切った奈央の表情は「何かを決意した」ものに見えた。
白い首筋が見えるようになってスッキリとした奈央の顔からは、
強い気持ちが溢れ出していた。 そして、夏季大会当日となる。
会場は隣町の高校で、そこまでは自転車で向かう。
一度自分たちの高校に集合した際、奈央がチームメイト全員に囲まれて、
「奈央先輩どうしたんですか!」
「めっちゃ可愛いじゃーん!短いの似合うねー!」
「気合入れてきたねー」
と髪型に関しての反応がマシンガンのように飛び交っていた。 よく晴れた晩夏の日だった。
奈央の3年間の想いが結実するには、うってつけの日だった。
視界が狭くなるような真っ白な日光に、街中が照らされていて、
何もかもが落ち着かないように見えた。
夏の終わりだったからだろうか。
俺の胸も、朝から高く波打っていた。 夏季大会の会場に着いて、体育館の外で部員たちが集合する。
円陣なんか組んで、奈央の声が高らかに響いた。
「今日は、思いっきりやって、最後まで楽しもう!」
「おーーー!」部員全員のかけ声が青空の中に吸い込まれていった。
その中に、俺もいた。
眩しいはずの太陽を何故か見上げてしまって、
「すげえ光だな」なんて思った。
でも、その光の当たる場所に、俺も立っていた。
奈央たちと一緒に。 体育館の中は、独特の試合前の雰囲気に包まれていた。
俺も、何度も感じてきた雰囲気だ。
朝早く、体中にエネルギーとやる気が漲った状態で行う対人。
不思議な高揚感に包まれて、何にでもなれるんじゃないか、とさえ思える。
ふと、奈央がボールを抱えたままコートの脇に立ち尽くしていた。
カットしてすっかり短くなった髪の毛を、さらに結んでいた。 俺「どうかした?」
奈央「ううん……」
奈央はそう言って、その場を動こうとしない。
俺「緊張、してるのか」
奈央「うん…」
奈央はこわばった表情で頷いた。 俺「なあ、奈央」
奈央「え…?」
俺「今何が聞こえる?」
俺の質問が唐突だったのか、奈央は眉根を寄せて首を傾げた。
俺「シューズのこすれる音、ボールを弾く音、スパイクから着地する振動、かけ声…」
俺「この全部が、バレーだよな」
奈央は不思議そうに「そうだね」とこちらを見た。 俺「なあ、奈央」
奈央「え…?」
俺「今何が聞こえる?」
俺の質問が唐突だったのか、奈央は眉根を寄せて首を傾げた。
俺「シューズのこすれる音、ボールを弾く音、スパイクから着地する振動、かけ声…」
俺「この全部が、バレーだよな」
奈央は不思議そうに「そうだね」とこちらを見た。 俺「すっごくいいものじゃないか」
奈央「うん…まあ」
俺「この中にいるだけで、ワクワクしてくる」
そう言っている間も、奈央のチームの後輩たちが
「オッケー!!」と笑顔でかけ声を上げていた。
俺「色々考えるな。この雰囲気を、楽しんでこい」
俺「今日で最後なんだ」
俺がそう言うと、奈央はしばらく体育館の中を見つめていた。
まるで大切な何かを優しく見守るような、そんな表情だった。 奈央にかけた言葉は、そのまま自分にかけたような気もした。
バレーをやるはずだった三年間。
途中で途切れた俺の夢。
俺のしたかったこと、見たかったこと、それは―― 夏季大会の参加チームは7チームで、1チームがシードだった。
抽選の結果、奈央の高校がシードとなり、初戦は2回戦となった。
「一回勝てばそのまま決勝にいける」
部員全員が色めき立っていて、不穏な雰囲気があった。
加えて、俺もコーチとしてコートの横で指示をするのは初めてで、
うまく采配をとることができなかった。
結果、初戦は無残にも惨敗してしまった。 俺も慌ててしまいろくなアドバイスができず、
奈央も緊張からか上手く動けず、
結果、チーム全体の調子が下向いてしまい、
全く良いところがなかった。 試合後、外に集合した部員たちはみんな真っ暗な表情だった。
どうしたものか…と考えていた時、澄んだ声が響いた。
奈央「まだ次があるよ」
奈央の輝いた表情は、この湿った空気を吹き飛ばした。
奈央「3位決定戦があるから」
奈央「最後まで頑張って、そこで勝とうよ」
奈央「まだ、終わりじゃないんだから」
負けてしまい、心底落ち込んでるかと思った奈央が、
一際煌めく表情で、部員たちを鼓舞していた。 千景「そうですよ!みんな、最後まで頑張りましょう!」
「そうだよね、まだ次があるから!」
「最後まで諦めないで頑張ろ!」
奈央の気持ちが、チームを本来の「あの雰囲気」に戻していた。
俺はその光景が嬉しくて、黙って眺めていた。
奈央、えらいぞ。
お前の頑張り、バレーを想う気持ち、それは絶対に返ってくる。
そんな事を思いながら。 集合が解かれて、部員たちが体育館の中に帰って行く時だった。
奈央が一人で空を見つめたまま立ち尽くしていた。
昼下がりの、強い光を帯びた空だった。
俺「奈央、何してんだ」
俺が声をかけると奈央は笑みを浮かべてこちらを見た。
風が吹いて、奈央の短くなった前髪を揺らした。
俺「奈央?」 奈央「最後まで、頑張るからね」
奈央はそれだけ言い残し、そのまま体育館へと戻って行った。
その奈央の姿が印象的で、俺はしばらくその場から動けなかった。
奈央の澄み渡ったその表情は、俺の胸を強くとらえたのだった。
昼過ぎの良い時間帯、3位決定戦が始まった。
初戦と違って、奈央もみんなも落ち着いているようだった。
俺もドキドキはしていたが、これはすぐに「期待」の高鳴りだなと悟った。 俺のここに来てからの全て、
そして奈央の3年間の全てが、この一瞬に詰まっていた。
泣いても笑っても、もう最後なのだから。
「ピーーー」と主審の笛の音が体育館に響いて、
両校の選手がネットに近寄る。
俺もコート脇の監督席から、控えの選手とその様子を眺めていた。
手を叩いて、「よっしゃいこう!!」と声をあげた。
コートの中で千景も思い切り声を上げ、エンジンがかかった。 試合開始の瞬間、サーブカットを構える奈央と目が合った。
俺は頷いて、「いけ」と声をかけた。
奈央は真剣な眼差しで俺を見つめて、深く頷いた。
試合は3セットマッチで、先に2セットとった方の勝ちだ。
一発目のサーブカット、千景が良いキャッチをし、
セッターの子の元へ最高のレシーブが返った。 トスは奈央の待つレフト方向へと飛んでいき、
チーム全員が「奈央!!」と叫んだ。
俺も身体の底から「奈央、いけぇ!」と叫んだ。
高く跳んで打ち込んだ奈央のスパイクは、
ブロックの間をすり抜け、相手コートに叩きつけられた。
瞬間、ワッ!と歓声が起こり、体育館中が沸き立つ。
体中の毛穴が開くような、そんな興奮の一瞬。 俺「よっしゃいいぞぉ!!」
思わず大きなガッツポーズをしてしまう。
それに続いて、控えの子達も「オッケー!」と言って立ち上がる。
コートの中を走り回る奈央は満面の笑顔だ。
千景がベンチの子たちに向かって嬉しそうに手を振った。
奈央たちのチームの良さがふんだんに出ていた。
これなら、きっといける…… 一発目の奈央のスパイクで調子を得たのか、
1セットはスムーズに取ることができた。
戻ってきたレギュラー陣を全員で鼓舞する。
俺「いいよ!この調子だ!!」
俺「楽しんでいこうな!」
円陣を組む部員全員に向かって渾身のかけ声をかける。
「はい!」ときらきら輝く表情が返ってくる。
俺が「いこうか!」と言うと
奈央が「2セット目もこの調子でいくよ!」と叫んだ。
「おー!!」というかけ声が力強く響いて、
俺も「おし」と拳を強く握った。 2セット目も出だしは調子が良かったが、
千景のレシーブミスをきっかけに、徐々に調子を崩してしまった。
全員の奮闘も虚しく、2セットは僅差で落としてしまった。
しかし、みんなの様子は一つ前の試合とは違った。
奈央「サーブカットがちょっと乱れてきてるね」
千景「そうですね…私のミスがちょっと…」
奈央「ううん、大丈夫。切り替えていこう!」
「はい!」 この状況になっても奈央もみんなも、笑顔を絶やさなかった。
そうなんだ。
バレーは楽しい。そういうものなんだ……
きっと、ずっと、そうで…
そんな事を思って感極まり、しばらく黙って見守っていたが、
すぐに声をかけた。
俺「カットの時は、姿勢を低くして、膝は足首の前、だよ」
「はい!」
俺「大丈夫、決して流れは悪く無い」
俺「みんな、すげー頑張ってるもんな?」
「はい!」 俺「次のセットが、本当に最後なんだ」
俺「みんな、楽しんでいこう!」
俺がそう言うと、全員の「はい!」という力強い声が響いた。
最終セットが始まる直前、奈央が俺の前に立っていた。
ぐっと拳を握って、小さなガッツポースを作ってみせた。
奈央「楽しんでくる」
にこっと笑って、そのままコートの中へと駆けていった。 瞬間、風が吹いた気がした。
実際に吹いたかは分からないし、「吹き始めた」という方が、
正しかったのかもしれない。
ただ、本当に俺の心の中に熱い風が通り抜けた気がした。
最終セットは大接戦だった。
15点マッチの短い試合が、あっという間に15-15となった。
ここまで来ると、体育館の中には大勢のギャラリーがいて、
両校の応援も鬼気迫るものとなる。 そんな切迫した状況の中で、こちらのサーブが失敗してしまい、
15-16のスコアとなった。
あと1点とられたら―
チームの雰囲気が重くなって、大きなプレッシャーがかかる。
エースの奈央は後衛にいた。
全員が気を落としたその瞬間だった。
奈央「大丈夫だよ!諦めないでいこう!!」
奈央の今日一番のかけ声が、コート上でこだました。 俺もはっとして、「大丈夫だ!!一本とるぞ!!」と声を出した。
千景もそれに気づいて、「一本一本!落ち着いてこー!」
と声を上げた。
笛が鳴って、相手チームの痛烈なフローターサーブが飛んでくる。
千景が思い切りフライングし、コートに転がりこんでキャッチした。
場内に「おお!」とどよめきが湧いて、
チーム全員が「あがったー!!」と声を枯らして叫んだ。 セッターの子が懸命にトスを上げて、センターの子がフェイント気味に返した。
そのフェイントが相手の虚を突き、1点返すことに成功した。
「うわあああ!!」と歓声が湧いて、
流れが一気にこちらへと戻ってきた。
俺「よっしゃぁ!ナイスファイト!!」 滑りこんでレシーブを上げた千景は、コート上で仲間に囲まれて笑顔だった。
16-16だ。
1点返したことで、後衛にいた奈央が前衛へと戻ってきた。
俺「よっしゃ、もっかいこっから!落ち着いていこう!」
俺はコート上に立つ6人に、懸命に声を送り続けた。 こちらのサーブが通って、相手コートでレシーブが上がる。
しかしトスが乱れて、相手のスパイクミスとなった。
悲鳴にも似た歓声が湧き上がって、
奈央たちはコートの中で飛び跳ねて喜んだ。
ベンチにいた俺も、控えの子も、「おっしゃぁ!」と言って叫んでしまった。
17-16。
あと、1点だ。
あと1点で、全てが… 笛が鳴る。こちらのサーブは綺麗に相手コートに飛んでいき、
綺麗にレシーブが上がった。
強いスパイクが返ってくる。
しかし千景が上手くカバーにまわり、
運命的とも言える綺麗なレシーブがセッターの元へと上がった。
奈央「レフトォ!」
レフトでは、奈央が待っている。
体育館の中にいる全員が奈央を見ていたかもしれない。 俺は「奈央、いけぇ!!」と叫んだ。
奈央の待つレフトに、綺麗なトスが上がった。
心臓が、バクリと大きな音を立てた。
体育館じゅうの熱視線と光を浴びた奈央が、高く飛んだ。
まるでストップモーションのように、コマ送りで時間が進んだ。
奈央が打ったスパイクは、
相手コートに叩きつけられた。
その瞬間、全てが爆発したかのように、
「わっ!!」と歓声が巻き起こった。 スパイクを決めた奈央は、コートを駆け回って声を上げた。
ピィ、と笛高らかにが鳴って、奈央たちが勝利したことを告げた。
奈央はコートの中で涙目になり、まるで真夏の太陽のように、
溢れんばかりの笑顔をこぼしていた。
その太陽のような笑顔が、俺の心を照らした。 瞬間、その光で俺の未来が見えた。
俺は、はっきりと気づいてしまったのだ。
この一週間、どれだけ楽しくて、
今この瞬間、自分がどんな想いを抱いているか。
夢が、できた。
奈央の笑顔が、俺の夢への道を明るく照らした。 挨拶が終わって、奈央たちが監督席の俺の前に集まってくる。
奈央は、もうぼろぼろと泣いてしまっていた。
奈央「うぇぇ…やったぁ…」
「先輩…」
奈央が泣くのにつられて、他の部員もどんどん泣き始めている。
俺まで、涙目になってしまった。
俺「みんな、本当によくやったよ」
目を真っ赤にしたみんなが、俺の方を見ていた。
俺「特に、3年生」
俺「今日の試合は…いや、バレーは楽しかった?」
俺がそう言うと、3年生たちは仕切りに目をこすって泣き始めた。 俺「今まで本当にがんばったね」
俺「バレーが好きだったら、これからも続けてね」
そう言うと、
「はい!!」という力強い返事がかえってきた。
その後、沢山の仲間や後輩に囲まれて泣き笑いする奈央の姿を見て、
泣きそうになるくらい心の底から温かいものが湧き上がった。
試合後の興奮や喧騒がおさまるまでは、時間がかかりそうだった。 今は、3年分の達成感、思い出、充実感、それに浸っていて欲しい。
みんなも、奈央も、本当によく頑張ったんだ。
俺はそんな事を思って体育館の天井を見た。
一人だったら、この体育館の天井は高すぎる。
でも、誰かと一緒だったら…この天井にだって届くかもしれないな、
なんて思って、笑ってしまいそうだった。
バレーを続ける方法は、何も一つじゃない。
いつの日にかも思ったが、誰だって諦めなければ、
輝くことができる。
きっと、そうなんだ。 俺はその後、体育館の外の水道に座って、一人で空を眺めていた。
抜けるような大きな青空で、
まるで今の俺の気持ちを反射しているかのようだった。
眩しい。とにかく眩しいが、俺は見つめ続けていた。
奈央「何やってんの、こんなとこで」
目を赤くした奈央が、俺の隣に座ってきた。 俺「みんなのとこいなくていいのか」
奈央「うん。どうせまた後で話すしね」
俺「そっか」
風が吹き抜ける。熱気の篭った、夏の風だ。
横を見ると、奈央も目を細めて空を眺めていた。
短くなった髪型で、白い首筋が太陽光を反射した。 俺「なあ、奈央」
奈央「どーしたの」
俺「俺さ、夢を見つけたんだ」
俺がそう言うと、奈央はこちらを見つめた。
太陽の光を映しこんだ、澄んだ瞳だった。
俺「高校の先生になって、バレー部の顧問になる」
俺「それで、一生バレーを続けるんだよ」
俺がそう言うと、
奈央は「本当?」と言って笑顔を見せた。 俺「だからね、東京の教育大学に行くんだ」
俺「今度は、絶対」
俺「これは、俺の夢だから」
奈央は「ふふ」と吹き出し、満面の笑顔で
「頑張ってよね」と言った。
そんな風に笑う奈央を見て、俺の胸が熱くなった。 奈央「私は、どうしようかな…」
奈央「バレーも、夢も、まだ見つからないよ…」
瞬間、俺の奈央への気持ちが溢れだした。
俺は、横に置かれていた奈央の手を握った。
奈央「え…?な、何…?」
俺「奈央、今まで本当にありがとう」
俺「奈央に会えたから、夢が見つかった」 奈央は照れくさそうに、顔を伏せた。
奈央「え、そんな…別に私は何も…」
俺「ううん、奈央がいなかったら、俺はずっと前のままだった」
俺は奈央の手を強く握りしめた。
俺「奈央、東京で待ってるから」
俺「一緒に、東京の大学に行こう」 俺のその言葉に、奈央は「…頑張ってみるね」と答えた。
俺は嬉しくて、「うわ、やった!」と言ってしまった。
空はよく晴れていた。
その青さはどこまでもどこまでも広がっているようだった。
夢の始まりの日、それは一夏の出会いだった。 一度はなくした夢が、再び輝きを帯びて目の前に現れた。
そんな俺の話でした。
ということで、この話はここでおしまいです。
1ヶ月弱の間、付き合ってくれた人、ありがとう。 最後に、この話は私富澤南の創作でした。
なので、物語として楽しんでもらえたらな、と思います。
ここまで読んでくれた人、ありがとうございました 一応トリップも証明のために変えておきますね。
みんなありがとう。 ここでも可能な限り質問に答えますが、
スレはいつか落ちてしまうので…
ご意見・感想等ありましたらTwitterでお願いします。 ↓↓↓↓
@tomizawa_2ch 俺が高3だった頃に起きた夏の一週間のこと、良かったら聞いてくれ。
ちょうど先週、高校のクラス会があってさ、色々思い出したんだ。
付き合ってくれたら嬉しい。 俺の高校は、夏になると決まって勉強合宿があった。
都内にある高校を離れて、山奥にある民宿に籠ってクラスみんなで勉強するんだ。
期間は一週間なんだけど、
一日10時間は絶対勉強しなくちゃいけないから、確かにしんどい。
だけど、それ以上に楽しみな行事でもあった。
クラスのみんなと一週間もお泊りできる行事だからね。
第二の修学旅行みたいな感じで、否応無しにテンションが上がるんだ。 一週間分の大荷物を持ってこなきゃいけないから、
みんな大きなカバンにキャリーバッグを引いて来たり、それは大層な荷物になるんだ。
沢山の期待や不安を大きなバスに突っ込んで、都会にある高校から山奥を目指す。
毎年のことだったから、3年目にもなると、みんな淡々とこなしていたよなw
それでも、やっぱりワクワクしちゃう気持ちがあってさ、
民宿に向かう朝のバスは変な昂揚感があったっけ。 俺の高校は、都内の外れににあるそれなりの進学校だった。
ちなみに俺のクラスは35人くらい。
文系の進学クラスとされていて、男女比は、男子1:女子1って感じだったかな?
3時間もバスに乗っていれば、目的地である民宿近辺まで来る。
途中で長いトンネルを越えるんだけど、そこで景色が一変して、
もう視界には青々とした森や畑しかなくなる。
そこで俺たちはやっと「今年も勉強合宿が始まるんだ」って実感が湧くんだ。 山奥にあるちっぽけな民宿の、舗装もされてない駐車場にバスが停まって、次々と大荷物を降ろしていく。
乗務員は一人しかいないから、各自が放り出された荷物の中から自分のものを見つける。
これも毎年のことなんだが、ここで必ずトラブルが起こるんだ……
吉谷「先生ー! 俺のベースがねえんすけど!」
先生「はー? お前勉強合宿になんでベース持ってきたんだ!」
このように、誰かが必ず自分の荷物を見失うww
吉谷っていうのは軽音部のやつで、学校にいる時も四六時中ベースを担いでるようなやつだ。 先生「なんでそんなもん持ってきたんだ! よく探せ」
吉谷「あーい……」
怒られて当然なのに、何故だか不服そうに返事をする。
俺「お前、なんでベースなんか持ってきたんだよ」
吉谷「だっていつも触ってないと勘が鈍るだろ」
俺「つっても俺たち受験生だぞ……」
吉谷「バカ、一週間だぞ。めっちゃなげえじゃねーか」
俺「一週間なんて、本当にあっという間だぞ」 俺はまだこれから起こることを知らなかったから、
本当にあっという間の一週間だろうなと思っていた。
受験生にとっての一週間なんてあっという間で、それでいてとても大切な時間だ。
だから、この合宿でもひたすらに勉強だけしようと思っていた。
「ありましたよ! これのことですよね?」
しばらくすると、乗務員のおっさんの呼ぶ声がして、
吉谷のベースは見つかり、事なきを得た。 先生「みんな準備いいか?こっちこーい」
担任の一声でクラス全員が宿の前に集まる。
そこには、これからお世話になる民宿の老夫婦が立っていた。
委員長の号令に従い、みんなで挨拶する。
この挨拶のためもあってか、初日はクラス全員が制服を着用していた。
それが済むと、一斉に部屋に向かうわけだが、ここでおかしな事に気付く。
俺「あれ、武智がいなくね?」
吉谷「あ、ほんとだ」
武智とはクラス1の落ち着きのない気分屋なんだが、
やっぱりこの挨拶の時にも姿をくらましていた。 重い荷物を引きずりながら部屋に向かうと、やっぱりそこには武智がいた。
俺「お前さ、挨拶ぐらいしろよ……」
武智「えーなんかめんどくさくってさぁ」
元ラグビー部の体育会系のくせに、こういう儀礼を面倒臭がるんだ。
武智は部屋の真ん中で寝そべってくつろいでいたが、
吉谷はそんな武智を気にも留めず、荷物の整理を始めていた。
武智「でも、部屋結構広くてよくねー?」
俺「確かに去年当たった部屋より広いな」
広々とした2階の和室で、
窓からはさっき降り立った駐車場(ただの広場)が見渡せた。 吉谷「なあ、すぐに勉強会始まるぞ?準備しろよ」
しばらく窓から外を見てぼーっとしていると、吉谷に注意された。
俺「あ、そうだな。武智も急げよ」
武智「あーーい……」
そんなこんなで俺たちも準備を始めていると、遅れて元気が入ってきた。
吉谷「お前、おっそいなぁ……何してたん?」
元気「いやぁ、荷物が重くてさ」 元気は結構な漫画オタクで、今回も相当な漫画本をカバンに詰め込んできたようだ。
ただ、外見には気を使っているようで、オシャレな黒縁眼鏡をかけている。
俺「お前、今年も漫画なんかもってきたのか」
元気「いやいや、今年はそれにプラスして……」
元気はにやけながら、カバンからゲームキューブを取り出した。
武智「うわ! いいぞ元気ww」
俺「なつかしいww」
突然のゲーム機登場に、俺たちは一気にテンションが上がってしまう。 武智「おいww元気ーwww」
テンションの上がった武智が元気にプロレス技のようなものをかけ始める。
元気「ちょwwやめろってwww」
俺もそれに乗じて「うぉーーいwww」とか言いながら変なノリを始めるw
合宿初日でテンションが上がりすぎていたんだ。
(ちなみに、このテンションは3日ともたない……)
部屋でもみくちゃになる俺たちを、半笑いで見つめながら、
「俺、先行ってるからなw」
と言い残して、吉谷は先に部屋から出ていった。 俺たちもなんとかその場のテンションを抑え込んで、勉強場へと向かう準備を進める。
武智「しかしさぁ、吉谷もあれだよなぁ」
俺「何が?」
武智「いや、真面目で頭いいけど、アイツもベースなんか持ってきちゃってw」
俺「あー、そうだね。なんだかんだ、そういうとこあるよねw」
武智「むかつく時もあるけど、俺は好きだわw アイツのそういうところ」
俺も部屋の片隅に置かれた吉谷のベースを見つめて
「そうだな」って軽くつぶやいた。 勉強会の場所は、寝泊りする宿の真裏にある小さなプレハブ小屋だった。
俺たちが「勉強小屋」と呼んでいる、宿の離れである。
そのため、勉強会に向かうには一旦外に出ないといけない。
武智「あっついなーー」
俺「確かに……」
いくら山奥とは言え、8月ど真ん中の直射日光はしんどかった。
遠くから蝉がミンミンと鳴く声が聞こえて、間違いなく「夏本番」という感じだった。 元気「待ってくれよー」
俺「元気、なんでそんなに荷物多いの?」
元気は汗だくになって、明らかに異常な量の本を抱えていた。
武智「いや、それ半分以上漫画とかじゃねーの?ww」
武智がそう言うと、元気は強張った顔で「シッ!」と言った。
それを見て俺と武智は大笑いしてしまう。
「ここに何しに来てんだよーww」 元気はさも「お前らに言われたくねえ」」みたいな顔をしていたけど、
俺たちは堪えきれずに大笑いしてしまった。
どうしてなのか、やることなすこと全てに、「楽しさ」が滲んでいた。
そんなこんなで、「勉強小屋」に辿り着いた俺たちは、勉強合宿をスタートさせる。
クーラーもついてない35人がぎりぎり収まるプレハブ小屋で、扇風機の風だけを頼りに、一週間勉強に没頭するんだ。
そんな風に考えていたけど、
これがまったく勉強どころじゃなくなっていくんだよな。 昼過ぎに始めた勉強は、夕方前には一旦休憩時間となる。
初日はまだまだ体力が残っているので、みんな元気である。
俺「かぁー!! この調子でいけば一週間で数チャート一冊終わるわww」
元気「それ、毎年言ってない?w」
俺の隣に座った元気が煎餅を食べながら突っ込んでくる。
俺「いや、今年は本気だよ? だって受験生だからねw」 そんなくだらないやりとりをしていると、担任が遠くで声を上げた。
先生「お菓子なくなったなー誰か近くまで買い出しいってくれないかー?」
これを聞いていた武智が勢いよく、
「あ、俺行きますよ!」と高々と手を挙げた
(アイツサボりたいだけだろ……)
なんて心の中で思っていたら、俺と元気の席に近づいてきた。 武智「なあなあ、1か元気、一緒に買い出しに行こうぜ」
元気「俺は絶対に行かねえよ」
元気は煎餅を食いながら即答した。
武智「お前が沢山食うからお菓子なくなったんだからなwww」
と冗談交じりに文句を言ったが、その矛先はすぐに俺に向いた。
武智「なあ、1は行くだろ? 買い出し。一人じゃつまらんからさ〜」
俺「えー、ちょうど集中してたところなのに」 武智「いいじゃねえかよ。気晴らししに行こうぜ」
俺「だー、分かったよ」
武智の押しに負けて、諦めて了承してしまう俺。
武智「せんせー! お菓子だけでいいんすかー!?」
先生「あー、みんなで分けられそうなものを頼む」
プレハブ小屋のたてつけの悪いガラス戸を開けながら、
武智はこちらを向いてニヤニヤしだした。
武智「ひひひ、早速抜け出せたな」 不思議と、その武智の顔を見て、ちょっとだけ嬉しくなってしまう。
「ああ、今年もまた、あの濃い一週間が始まるんだなぁ……」
って心のどこかで思ってしまって、ワクワクが止まらなかった。
二人でプレハブ小屋を出て、西日の突き刺す駐車場の脇に止まった自転車を見つける。
武智「おー、まだあるじゃんこれ」
俺「ほんとだ、去年もこれに乗って遊んだなぁ」 武智「この自転車、去年川に落としそうになってめっちゃ笑ったよなww」
俺「あー、あれは焦ったよなwww」
なんて言いながら、二人して古びた2台の自転車にまたがる。
夕方近くになったとはいえ、8月の日光は容赦なく俺らを照りつけるから、
すぐに汗だくになってしまった。
至る所から蝉の声がこだまして、なんだか朦朧としてくる。
しばらく山道を下っていると、少しひらけた県道に出た。
武智「なあ、どうする? セブンに行くか? それとも」
俺「うーん、ちょっと遠いんだよなぁ確か」 この県道を下って15分位で、セブン-イレブンにたどり着くが、
帰り道は上りでとてもしんどい。
一方、脇道に入れば地元の駄菓子屋のようなものがあり、すぐに事足りるのだ。
俺「とりあえず今日は駄菓子屋でいいんじゃね?」
武智「うっし、そうしよか」
そう言って武智は立ち乗りをして勢いよく県道を横断していく。 しばらく走れば、赤いひさしを構えた古ぼけた商店が見えてくる。
武智「あったあったww 良かったなまだあって」
俺「毎年ハラハラするよな〜ww」
古びた駄菓子屋だが、お菓子やアイスなどひと通り揃っていて、
贅沢を言わなければ十分買い物できる場所なんだ。
よせと言ったのに、武智はひたすらアイスを買い始めた。
俺「お前が急いで持って帰れよなww溶けても知らねえぞ!」
武智「任せろって! 超特急で持って帰るからww」
なんてやり取りをしてしまった。 駄菓子屋のおばちゃんに「気をつけて持って帰れしね〜」
なんて言われながらそそくさと店を出て、自転車にまたがる。
俺「お前本当ににそんなに買って……ちゃんと持って帰れよ」
武智「わーかってるよ」
武智「そんなことよりさ、あれ、楽しみだよな」
俺「ん? あれって何のこと?」
武智「ばっかお前! 縁日だよ縁日!」
俺「あー、夏祭りのことか」 この年の勉強合宿では偶然日程が重なり、
最終日の前日にふもとの町で夏祭りが予定されていた。
そして、担任からも「その日まで勉強を頑張れば、夏祭りに遊びに行っていい」
という許可が降りていたのだ。
そのためクラスは一気に盛り上がり、女子には浴衣を持参した子もいるらしい。
最後の最後にそういう楽しみがあると、やはり心が躍るというものだ。
それに後々、この夏祭りが俺たちにとって凄く大切なものになる。 武智「お前さ、夏祭り、渚を誘って行けよ」
俺「はあ? 何言ってんだよ」
渚というのは同じクラスの女子で、
俺が1年以上好きなのに、何も出来ずにいた子の事だ。
武智「だってチャンスじゃねえか! こんな機会滅多にないだろ」
俺「まあ、そうかもしれんけどさ……」
俺たちは自転車をこぎながら淡々と話し続ける。 俺「でも、武智だって分かってんだろ? 渚は無理だって」
武智「いや、そんなん分かんねーじゃん。だってまだ決まったわけじゃないし」
そう言うと武智は、憎たらしい笑みを浮かべた。
俺「そうやって俺に発破かけないでくれよ……」
俺も武智も、渚には他に好きな人がいると、知っていたんだ。 俺のテンションが落ちたのが分かってか、
武智も喋るのをやめて、しばらく無言で走る時間が続いた。
夏の午後の、傾きかけた太陽が道を照らしている。
武智「あ、そういや飲み物買ってくるの忘れてたな」
俺「そんなん頼まれてなかったじゃん?」
武智「あーいや、なんか女子たちが飲み物が無くなったって言ってたんだよ」
俺「ふーん……」
武智「買ってったら、お前渚とも話せるかもよ」
武智が思いついたように、俺に向かって言った。 武智にそう言われて、「うーん」と悩んでしまう。
武智「考えてないで買ってけばいいんだよ、その辺で」
俺「その辺って言っても、もう店なんかないぞ」
武智「自販機か何か探せばいいだろ」
武智「俺はアイスがあるから先行くからさ! じゃあな!」
そう言うと、武智は俺を置いて一人で突っ走っていってしまった。
「無責任なやつめ……」
と思ったけど、とりあえずどこかに自販機がないか、
道草を食って探してみる事にしたんだ。 少し走ると、道の脇にくすんだ赤色の鳥居を見つけた。
神社だよな? と思って自転車を止めて立ち止まると、何やら音が聞こえた。
「キィィィン」という気持ちの良い金属音と、少年たちの歓声のような声。
この奥で野球でもしてるんだろうか?
少し気になって、その場に自転車を止めて鳥居をくぐってみる。
両脇に木々が生い茂る階段を登ると、そこには大きな広場があって、
近所の小学生だろうか、10人ほどがわあわあ言いながら野球をしていた。 とても楽しそうに駆け回っていたので、
それを遠くから眺めて、「宿に戻ったら俺もあいつらと野球しようかな」
なんて考えてニヤついてしまった。
やろうと思えばクラスのみんなと何だってできる。
そんな時だったんだよな。
すぐに我に返って、自販機は置いてないかと探してみる。
広場の方にはないようなので、俺は奥にある境内の方へと向かった。 境内の方へと歩いて行くと、少し様子が変だった。
何故か妙に煙草臭い。
まずいなぁ、地元のヤンキーのたまり場にでも来ちゃったかな、と少し不安を覚える。
しかしそこにいたのは、俺の想像とは違うものだった。
髪を明るい茶髪に染め上げた女の子が、拝殿の階段に腰掛けている。
白のカットソーにショートパンツというラフな格好で、
歳は俺と同じくらいか年下か……
そして、煙草をくわながら俺のことを睨んでいた。 思わず目が合ってしまい、たじろぐ。
時間が止まったように、周りの木が風に揺れてカサカサ…と鳴る音が聞こえた。
茶髪の子「何?」
俺「いや、別に」
女の子はフゥ、と煙を吐くと俺の方を見て続けた。
茶髪の子「見たことないんだけど。この辺の学校の人じゃないっしょ?」
俺「ああ、まあそうだね。東京の高校から来たから……」
茶髪の子「え、東京! じゃあもしかしてめっちゃ頭良いとか?」 茶髪の子「え、すごくない? あたし東京の人と話すの初めてかもww」
俺「いや、そんなことないけど……」
女の子が、思いのほか可愛い笑顔を見せたので、少しドキッとした。
茶髪の子「東京の人がこんなとこに何しに来たの?」
俺「えっと、受験勉強の合宿というか……そんな感じ」
茶髪の子「勉強の合宿? なにそれ。意味わかんないね」
俺「うん、俺も意味分かんないんだよww」
雰囲気が壊れないように、俺は話を合わせてみた。 茶髪の子「意味分かってないの? ウケるんだけどww」
俺「マジ意味分かんないよww」
笑いが起きて、少しだけ打ち解けてきている気がした。
俺「そっちこそ、こんな所で何してるの?」
茶髪の子「うーん、別に何って……」
俺「一人でここに来たの?」
茶髪の子「そうだけど」
答えると、女の子はまた遠くを見つめて煙草を吸い始めた。 変な間ができてしまって、俺はその場で黙って女の子を見つめるだけだった。
何を話そうにも、何も浮かんで来なかった。
茶髪の子「そういえば聞いてなかったけど」
俺「なに?」
茶髪の子「何年生なの?」
俺「俺は高3だけど」
茶髪の子「ふーん、高校3年か……」
茶髪の子「じゃ、受験生だ。あたしと一緒だね」
そう言って女の子はフウ、と煙を吐く。 俺「あれ、君も高3なの?じゃあタメだね」
そう言うと、女の子は笑ってかぶりを振った。
茶髪の子「違うよ。あたしは中3だから」
その言葉を聞いて、心底驚く。
俺「え、マジ!? じゃあ俺の3つも下じゃん」
女の子はいたずらそうに笑って煙草をくわえる。
茶髪の子「はは、そうなるね。ごめんねガキで」 その笑顔が妙に印象的で、初対面だったのにも関わらず、
俺はその子に惹かれるような、でもそうじゃないような、不思議な感覚だった。
俺「いや、別に歳とか関係ないでしょ」
茶髪の子「え、良いこと言うじゃん。やっぱ頭の良い人は違うねー」
そう言ってまた笑うから、俺も一緒に笑ってしまった。
今までの人生で、話したことのないタイプの女の子だった。 彼女の後ろに目をやると、何やらギターケースのような物が置かれていた。
俺「それは、ギター?」
茶髪の子「そうだけど」
その答えに少しだけ気分が高まった俺は、
「何か弾かないの?」と水を向けてみた。
女の子は「うーん」とひとしきり悩んだ後、
「恥ずかしいからな」と言って開きかけたギターケースを閉じてしまった。
「何か聴かせてよ。お願い!」と頼み込むものの、
女の子は「でもなぁ」と困惑の表情を浮かべるだけだった。 俺が引き下がって、「それなら仕方ない」と諦めると、
気が変わったのか、「一曲だけなら……」と了承してくれた。
茶髪の子「ほんと下手だから、そこは期待しないで」
と俺に念を押し、ケースからギターを取り出した。
ケースから鮮やかな青色のギターが出てきた。
楽器に疎い俺にはそれが安いのか高いのかも分からなかったが、
ボディに「THE BLUE HEARTS」というステッカーが貼ってあるのは分かった。 女の子は一回深呼吸をすると、勢い良く演奏を始めた。
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!!
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!!
俺「終わらない歌?」
アンプにも繋がっていない渇いた音だったけど、「THE BLUE HEARTS」のステッカーも相まってか、
俺はすぐにピンときた。
茶髪の子「すごいすごい! よく分かったね!」
女の子は演奏を中断し、瞳を輝かせて俺を見た。 俺「うん、そのステッカーも貼ってあったし、俺もブルーハーツ好きだからさ」
茶髪の子「うっそー! マジで!」
嬉しくて仕方ないとばかりに、女の子は体を上下に揺らした。
俺「いや、意外だったわw まさかブルーハーツを弾くなんて」
俺「俺も大好き。最高にカッコイイよな」
そう言うと、女の子は「うんうん」と何度も頷き、
「マジでカッコいいよね! こんなバンド他にいないよ」と上機嫌に言った。
俺「ふふふ」
茶髪の子「どうしたの?」
俺「いや、なんでもない」
ブルーハーツの話題になってから、女の子の表情が瞬く間にカラフルになった気がして、
俺は思わず笑ってしまった。 とりあえず、今日は一旦ここまでにします〜
続きはまた明日の夜書きにきますね。
よろしくお願いします! 茶髪の子「周りにブルーハーツなんて言っても、知ってる子ほとんどいないんだよ」
茶髪の子「だから超嬉しい!」
興奮を抑えきれないようで、身振り手振りで自分の感情を表す女の子。
俺はやっぱりそれがどうも微笑ましくて、くすっと笑ってしまう。
俺「まあ、中3の女の子で聴いてるのは珍しいかもねぇ。友達が知らなくても無理ないよ」
茶髪の子「まあ、友達なんて……」
俺「ん、なんて?」
女の子がぼそっと囁いたが、よく分からなかった。
茶髪の子「ううん、別になんでもない」 俺「ねえ、もう一度『終わらない歌』弾いてくれない?」
そうリクエストすると、女の子は「いいよ」と笑って快諾してくれた。
ジャジャ!ジャジャ!ジャージャージャーン!というあのイントロから始まり、
女の子は体を揺らしながら夢中で演奏を始めた。
女の子の演奏は、お世辞にも上手いわけではなかった。
けど、すごく気持ちが込もっているというか、その演奏には妙に鬼気迫るものがあった。 中盤まで弾き終わったところで、女の子はピタリと演奏をやめ、
顔を上げて俺の方を見据えた。
茶髪の子「ねえ、歌ってみる?」
俺「え? どういうこと?」
俺の質問に対し、女の子はにやりと笑みを浮かべ、
「やっぱりボーカルが必要だと思うの。ヒロトだってギター持たないで歌ってるし」
その主張に、「なんだその理論は」と思ったが、俺もまんざらではなかった。
そもそも俺の方からギターを弾くことを頼んだんだし、断りづらい。 茶髪の子「ね、途中まででいいからさ」
女の子の期待の眼差しが俺に向けられる。
過去に一度ギターに挑戦したが上手く行かず挫折した俺は、歌うことなら好きだった。
それに、ブルーハーツならカラオケの自信曲である。
俺「いいよ、歌う」
俺「ヒロトほどにはいかないと思うけどね」
そう言うと女の子は、「当たり前じゃん」と吹き出して笑い、
「じゃあ、いくよ?」と首を振って拍子をとった。 あの聞き慣れたイントロのメロディーが、渇いたギターで奏でられる。
歌うとなると緊張して、その音色はか細く、遠いものに感じられた。
でも、染み付いたものは裏切らなかった。
「終わらない歌を歌おう! クソッタレの世界のため!」
ばちーんと出だしが噛み合って、俺も女の子も驚いて顔を見合わせた。
途中で何度かテンポが合わず手こずる部分もあったが、
止まることなく2回目のサビまで歌いきったところで、女の子は演奏を止めた。 演奏を止めるやいなや、女の子は立ち上がった。
茶髪の子「すごい! 上手いじゃん!!」
俺を捉えた彼女の瞳には、無数の光芒が宿り、輝いていた。
そんな純粋な賞賛をもらって、思わず照れてしまう。
俺「よく歌うってだけ。慣れてるんだよw」
茶髪の子「そうは言っても!」
女の子は、俺の話を遮って一生懸命に主張した。
茶髪の子「あたしの下手な演奏でここまで歌えるなんて、すごいよ!」 茶髪の子「それに」
茶髪の子「あたしの演奏で誰かに歌ってもらったの初めてだから」
茶髪の子「すっげー嬉しかった」
女の子はそう呟くと、「ひっひひ」と笑った。
その笑顔は可愛かったが、とてもあどけなくて、今にも壊れそうな危うさも感じた。
彼女と会ってから初めて「やっぱり中3の女の子なんだ」と実感した。
それに立ち上がった女の子は俺よりも一回り小さく、
ゴツいギターが妙にアンバランスに見えた。 そんなことを思って少し戸惑いながらも、
俺は「ありがとう」と丁寧にお礼を言った。
女の子の興奮は収まらないようで、「ねえねえ」と食い気味に話しかけてきた。
茶髪の子「ロマンチックは? ロマンチックも歌える?」
俺「うっわ! 渋いね!」
予想外の曲目が出てきて、少々面食らった。
でも、本当に好きなんだって思って、嬉しくもなった。
俺「でも、あの曲はリズム隊がないとさすがに難しいんじゃないかなぁ」
茶髪の子「一回! 一回だけ……」
上目遣いでせがまれて、俺もひくにひけなくなった。 俺「分かった。じゃあ一回だけ」
そう言うと、女の子は「やった!」と笑顔になり、
立ったままギターを構えた。
二人で呼吸を合わせて、「いっせーの!」の掛け声と共に、
「シャラララ…」と歌い始めた。
意外にも調子が良く、俺が指で拍子をとると、
女の子は笑ってそれに合わせてくれた。
楽しくて、俺も思わずのめり込んで歌ってしまった。 途中でリズムが合わなくなり、「ごめん」と歌を中断すると、
「良かったのに!」と地団駄を踏まれた。
茶髪の子「それにしてもやっぱり上手い! 練習してるの?」
俺を捉える彼女の瞳は、瑞々しい光で満ちていた。
俺「いやぁ、好きでよく歌うだけだから。そんな練習なんてw」
茶髪の子「途中、ちょっとヒロトっぽかった!」
俺「そんなわけないだろーw」
なんてくだらないやり取りをして、二人で笑ってしまった。 ごめんなさい、今日は一旦ここまでにしようと思います
続きはまた明日書きにきますね〜 俺「でも、よく知ってるよね。ブルハのCDは全部持ってるとか?」
そう問うと、女の子は下を向いて「んーん」と首を横に振った。
俺「じゃあ、レンタルしてiPodとかに入れてる?」
茶髪の子「持ってないよ、そんなの」
俺は不思議に思って、首を傾げた。
茶髪の子「これで、聴いてる」
女の子はそう言うと、何やら音楽プレイヤーを取り出した。 俺「MDウォークマン?」
俺がそう呟くと、女の子は恥ずかしそうに頷いた。
MDって! このご時世に、今だに使っている人がいたとは。
どうしてこんなものを使っているんだ。
茶髪の子「やっぱり変でしょ? キモいよね、こんなの」
茶髪の子「今時こんなの誰も使ってないって知ってるし」
茶髪の子「知ってるし……」
先ほどまでカラフルに色づいていた女の子の表情が、
たちまち曇っていくのが分かった。 俺「別に全然キモくないよ」
俺「俺だって昔はよくMD使ってたし、お気に入りのは今でもとってあるしw」
そう言うと、女の子は安心したのか「ほんと?」と顔を上げた。
俺「それにMDって味があって良いと思うよ、俺は」
自分でも苦し紛れな事を言ってるな、と思った。
でも、そうでもしないと。余計なことで落ち込ませたくない。
なんでMDなんか? という疑問は心に残ったが、
俺はそれを一旦忘れることにした。 それに、そのMDウォークマンは妙に使い込まれているようで、
普段これで擦り切れるほど音楽を聴いてるんだろうな、と思うと、
そんな疑問はどうでもいいように思えた。
俺「それにしてもブルーハーツがすごく好きなんだね」
茶髪の子「うん、大好き! 全部弾いてみたいなって思ってる」
俺は笑って「それはすげえな」と言ってしまった。 俺「他には、どんなのを聴くの?」
そう質問すると、女の子は「ほかぁ?」と言ってしばらく考えた。
茶髪の子「ミッシェルとか、ブランキージェットシティーとか?」
俺「うっそマジ! 超いいじゃん!」
いずれも90年台の遠い昔のバンドだが、俺も大好きだったので驚いた。
茶髪の子「え、知ってるの? 分からないかと思った!」
俺「そりゃ、かなり昔のバンドだけどさ。俺も大好きだよ!」
茶髪の子「でもやっぱり、ブルーハーツが断トツで一番好きだけどね」
俺「それも分かるわぁ」
俺とこの女の子、なぜか妙に波長が合った。 俺「でも、なんでそんなに昔の音楽ばっかり聴いてるの?」
中3の女の子の趣味にしては、あまりに違和感があるように思えた。
俺の問いに、女の子は少し苦笑いして答えた。
茶髪の子「家に、そういうMDしかないんだよ」
茶髪の子「だから古い音楽しか聴かないの」
俺「なるほどね、そういうことか」
納得してそう答えると、彼女はすぐに続けた。
茶髪の子「でも、それでも良かったと思ってるよ」
茶髪の子「じゃなきゃ、ブルーハーツにも出会えなかったし」
そう言うと、俺の方を見てにっこりと笑った。 茶髪の子「ブルーハーツの歌を聴いてると、なんか元気が出てこない?」
茶髪の子「こんな自分でも頑張ろうって、なんかそんな感じにさ」
女の子の言葉に、俺は大きく頷いた。
俺「うん、分かる。かっこ悪くてもいいよ! ダメでもいいんだよ! みたいなw」
そう言うと、女の子は「そうそうw」と嬉しそうに何度も頷いた。
そんな風にブルーハーツ談義に花を咲かせていたが、
腕時計に目をやると、相当な時間が経っていたことに気づいた。 俺「まずい、さすがにもう行かないとな」
茶髪の子「そっか、勉強に来たんだもんね」
女の子は、寂しそうに呟いた。
茶髪の子「ねえ、勉強って楽しい?」
そう聞かれて、俺は返事に困った。
そりゃあ、決して楽しいものではないけど……
俺が答えられずにいると、女の子は「ごめん、急いでるのに」と言った。 茶髪の子「そういえば、名前聞いてなかった。聞いてもい?」
俺「ああ、そうだね! 俺は1だよ。そっちは?」
そう問いかけると、女の子は仄かに笑みを浮かべて、
「ヒロコ」でいいよ、と言った。(もちろんブルハの甲本ヒロトから)
ヒロコ「いつまでここにいるの?」
俺「一週間だから、来週の土曜日には帰るよ」
そう答えると、ヒロコは「そっかぁ」とだけ返事をした。 俺が「じゃあね!」と言ってその場から去ろうとすると、ヒロコが「待って」と呼び止めた。
ヒロコ「あたし、大体いつもここにいるから」
ヒロコ「明日も、明後日も、雨さえ降ってなければいつも」
俺はそれに、「うん、わかったよ」と答え、小走りで境内を出て行った。
多分あれは、「また来てね」という事なんだろうか。
そう考えると、ちょっと嬉しくなった。
こんな見知らぬ田舎の山奥で、気心の知れた友達ができたように思えた。 鬱蒼とした階段を降りて古ぼけた鳥居を抜けると、来た時よりも若干日が傾いていた。
神社の境内は木陰で風も通っていたので涼しかったが、
自転車で走り始めると、やっぱり焦れったい西日が身体に纏わりついて、死ぬほど暑い。
それでも見上げれば、頭上には青々とした空がどこまでも広がっていた。
「ブラウン管の向こう側〜♪」
俺は思わずブルーハーツの「青空」を口ずさんでしまった。
ヒロコも、「青空」は好きだろうか? その後、大急ぎで宿に戻った俺だったが、
担任には怒られ、ジュースを忘れたことで女子からもブーイングを受け、散々だったw
でも、俺の心にはヒロコのことが焼き付いていた。
他人を寄せ付けないような明るい茶髪、煙草、最初は明らかにやばいと思ったが、
話してみればなんと気の合う子だったことか。
一体あの子は何なんだろう?
そんな気持ちが俺の心を占めつつあった。 夕食の時間、食堂で隣に座った武智に話しかけられた。
武智「なあ1、お前買い出し行った時何してたんだよ?」
俺「何って? 別に何も」
とぼけようとしたが、武智には効果がなかった。
武智「馬鹿言うなよ。お前随分戻って来なかったじゃねえか」
言うべきかどうか悩んだが、隠すのもおかしいかと思い、言うことにした。
俺「それが近くの神社でさ、地元の女子中学生と知り合って……」
武智「え、お前! ナンパ?ナンパしてたのか?!w」
俺「お前、やめろ! うるせえよ!」
武智の声が配慮の無い声量で、俺は思わず武智の頭をはたいた。 俺「それがさ、その子何か変なんだよな」
首を傾げてそう言うと、武智に「何が?」と聞かれた。
俺「いや、明るい茶髪でさ、そんで煙草吸ってたんだよ」
武智「うわ、ごっついヤンキーじゃねえか」
俺「うん、そうなんだよ。俺もそう思ったんだけど」
武智「何かあったのかよ」
俺「まあねぇ」 俺「俺って、ブルーハーツ好きだろ?」
唐突な質問に武智は戸惑ったようだけど、
「まあカラオケでもしょっちゅう歌うもんな」と答えてくれた。
俺はそんな武智に、あの神社で起きたヒロコとの一部始終を伝えた。
武智は疑いの視線で、「ええーそれマジかよww」と笑っていた。
俺「まあいいよ、信じてくれなくても」
なんだか馬鹿にされた気がして、俺はちょっと嫌な気分になった。
武智「ごめんごめん、まあそう怒んなよw」
武智「それにしても、その子は一人でそこにいたんだろ?」 俺「うん、そうだよ」
武智「なんで神社なんかに一人でいるんだろうな?」
言われてみれば確かにそうだけど……
そんなこと、分かるわけがなかった。
俺「とにかく、この話は誰にも言わないでくれよ」
俺「変に噂にされんのも、嫌だからさ」
武智「おう、分かった」
武智はお調子者だったが、約束した事は守ってくれる。
だから俺も信頼して話をしたのだった。 夕食後、そのまま部屋で休憩時間となった。
一日で、一番羽を伸ばせる時間である。
武智「お前! やめろ! ホームランバットは卑怯だろwww」
元気「アイテムを使いこなしてこそ真の強者だからwww」
武智「殺されるぅぅwww」
武智と元気が、大騒ぎしながらスマブラで遊んでいた。
吉谷はその様子を笑いながら、部屋の片隅でベースを弾いていた。 俺「何弾いてんだ」
吉谷「お? ミッシェルだけど」
吉谷はイヤホンを外しながら答えた。
「そっか」と答えて、しばらく吉谷の奏でるベースの音に耳を傾けていた。
そもそも俺がブルーハーツを好きなのも、
ミッシェルやブランキーといった往年のバンドが好きなのも、
全てはこの吉谷の影響だった。
吉谷は軽音部で、好んでそういうミュージシャンの曲を演奏していたのだ。 吉谷の演奏が一息ついたところで、俺は切り出した。
俺「なあ、『終わらない歌』弾いてくれてない?」
吉谷「いいけど、急にどうしたw」
俺「別に、なんとなく聴きたくなっただけ」
そう言うと吉谷は頷いて、「OK」と言って俺にイヤホンの片方を差し出した。
そして曲をかけると、吉谷は無造作にベースを奏で始めた。 吉谷のベースは安定していて、俺の耳にしっかりと届いてくる。
俺はそれを聴きながら、ヒロコの弾いていたギターを思い出した。
演奏が終わって、「うんうん、これだ」と言うと、
吉谷は笑って「何がだよw」と腑に落ちない様子だった。
俺「いや、なんでもない。ちょっと聴いてみたくなったんだよな」
そう言うと吉谷は所在なげに、「ま、いい曲だよな」とだけ言った。
俺は頭の中で何度も「終わらない歌」のメロディーをリピートさせていた。
妙に心に残って、離れなくなっていた。
しばらくするとまた夜の勉強時間となり、粛々と合宿の1日目は終わった。 翌日の2日目、再び勉強の一日が始まったが、
外は見事に晴れていて、気持ちいいほどの夏模様だった。
午後の休憩時間、俺は武智や吉谷、数人の女子とバドミントンをして遊んでいた。
元気のやつは、てこでも外に出ようとはしなかった。
遊びながら、俺はやっぱり昨日の事がどうしても忘れられずにいた。
だらだら考えるのも嫌で、俺は決心してみんなに告げた。
俺「ちょっとジュース買いに行ってくるわ」
吉谷は「おお、気をつけろよー」と至って普通な返事だったが、
武智は妙にニヤついていた。 今日はこの辺で落ちようと思います
見てくれている人ありがとう
また明日の夜書きに来るのでよろしくお願いします こんばんは
遅くなってごめんない…
続きを書いていこうと思います。 俺はそんなことにも構わず、自転車に乗ってあの神社を目指した。
正直、自分がどんな感情で動いているのかも分からなかった。
ただ行って、もう一度ヒロコと話してみたい気がした。
真っ白な光が降り注ぐ田舎道を飛ばして、あの鳥居へ向かう。
階段を登ると、小学生たちがサッカーをしていた。
「今日はサッカーかよ」
なんてぼんやりと考えながら、一直線にあの境内へと進んだ。 しかし、そこにはヒロコの姿はなかった。
「いないのか」と肩を落とし、境内の周辺を見回すがやはり人影はなかった。
昨日よりも少し早い時間帯だからだろうか、それとも今日は来ないんだろうか?
拝殿の脇にあった缶からには無数の吸い殻があったが、それでは判別がつかない。
何にせよ目的を失った俺は、そのまま宿に引き返すことにした。 勉強小屋に戻ると、早速武智に話しかけられた。
武智「え、なんか早くない?」
俺「いなかったわ」
武智「そっか、そりゃ残念だな。さすがに、この暑いのに毎日は来ないんだろ」
そう言われたものの、やっぱり何か腑に落ちなかった。
昨日は、明日も明後日もいるって、自信満々に言ってたのになぁ。
武智「そんなことより、朗報だぜ」
俺「なにが?」 武智「明日、女子たちが肝試しを企画してるらしい」
俺「え、マジで?」
急に舞い降りた夏らしいイベントに、少し心が惹かれた。
武智「これはきっと楽しいことが起きるぞ〜w」
武智のやつは妙に浮かれているようだったけど、
それでも俺は、そこまで色めき立つことはなかった。
肝試しがあるからって、渚との距離が縮まるわけでもないし。 武智「この肝試しで渚となんかあるかもしれないじゃん」
俺「まあ、ありゃいいけどね」
そう言われたものの、やっぱりどこか上の空で、
俺は残りの午後からの勉強時間、まったく集中できずにいた。
進めようと思っていたチャート式も、完全に手が止まっていた。 夕食前の休憩時間に、俺は再び神社へ行くことにした。
夕食後は担任も宿舎を巡回するし、抜け出すならこのタイミングが一番だった。
太陽はほとんど沈みかけて薄暗く、空はオレンジと藍色が混ざり合っていた。
一番気持ちが浮つく時間で、みんな外で洗濯やら鬼ごっこをして騒がしかった。
俺はしれっと自転車に乗って、またあの神社を目指した。
もう日も暮れるけど、もしかしたらいるかもしれない。
それだけを確かめたかったんだ。 宵闇が迫った神社の入口は、昼間の雰囲気とは様子が違った。
あの古ぼけた鳥居も、なんだか不気味に見えた。
広場まで来ると、小学生の姿もなくひっそりとしていた。
数個の電灯がぽつぽつと点いているだけだった。
風が吹くと、そこら中の木々がカサカサと音を立て、少し虚しくなった。 「やっぱり今日は来てないのかもしれない」
そんなことを考えながら奥の境内のほうへ進むと、灯りの下に数人の人影が見えた。
驚いて、思わず拝殿の影に隠れてしまった。
ヒロコと、他に二人の男が煙草を吸っているように見えた。
こんな日も暮れてから、一体何をしてるんだ?
すると、何やら会話が聞こえてきた。 ヒロコ「ねえ、なんで一緒に出てくれないの?」
その口調はキツイものだった。何か怒っているのか?
男A「お前さぁ、そんなもん無理に決まってんだろ」
ヒロコ「じゃあもういいから! 練習の邪魔だからどっか行けよ!」
男A「はあ? お前口のきき方気をつけろって言っただろ」
どう聞いても穏やかじゃない。
何かでケンカしているのだろうか? 男B「それよりヒロコ、お前1万持ってきたのかよ」
ヒロコ「はあ? またそれ? ギター代はもう払っただろ」
男B「ははは、言ってなかったけぇ? 2回払いだって言ったじゃん」
男は、何やら気味の悪い笑い声をあげた。
というか、ヒロコは金を取られている?
カツアゲってやつか? それとも嵌められてるのか?
そんなことを頭の中でグルグルと考えていると、
「おい、てめえ誰だよ?」
見つかってしまった。 一人は短髪に剃り込み、もう一人は赤っぽい髪に尖った目つき、
ぱっと見で二人ともゴリゴリのヤンキーだと分かった。
これは、まずいぞ。殺されるかもしらん。
体が縮み上がって、心臓から全身に冷水が染み出していくような感覚に襲われた。
正直何も言えず、微動だにできなかった。
ヒロコ「ちょっと! この人は関係ないじゃん!」
ギターを背負ったヒロコが、俺の前に駆け寄ってきた。 男A「あ? お前の知り合いかよ」
ヒロコ「関係ないでしょ!」
男B「おい、てめえなんで見てたんだよ? 殺すぞおい」
俺「あ、その……」
恐怖と混乱で、まったく口がまわらない。
ヒロコ「1! 行こ!!」
ヒロコはそう言うと、俺の手を思い切り引っ張って、全速力で駆け出した。 遠くから、「ヒロコてめえバックレても無駄だからなぁ!」
という怒声が聞こえた。
二人で夢中で走って、境内の裏側の出口から外へ出た。
肩で息をしながら、「こっちにも出口があるのか」と囁くと、
ヒロコは少しだけ笑みを見せて「知らなかったのかよ」と言った。 俺「自転車、鳥居の方にとめてあるんだよ」
ヒロコ「じゃあ、そっちまで行こうよ」
そう言って、二人で息を整えながら鳥居側の入口を目指した。
俺「ヒロコは、歩きなの?」
ヒロコ「うん。中学は歩きでも行けるし、自転車ないから」
俺「そっか。でも、歩きでギターを背負ってるのは大変じゃない?」
ヒロコ「別に平気だよ」
そんなやり取りをして、すっかり薄暗くなった道を二人で歩いた。 俺「ねえ、あの人たちは誰なの?」
聞いたらまずいかもと思ったが、聞かずにはいられなかった。
ヒロコ「先輩だよ。友達、なのかな」
俺「本当に友達なの?」
さっきの剣幕は、どう見ても友達のそれには思えなかったが。
ヒロコ「そうだよ……」
そう言ったものの、ヒロコの表情は険しい。 ヒロコ「って言うか、今日も来てくれたんだね」
俺「まあ、ちょっと暇だったしね」
素っ気なくそう言うと、ヒロコは「ひひひ」と笑った。
その笑顔はやっぱりあどけなさが残っていて、
すぐに壊れそうな、頼りなさや儚さを感じてしまった。
でも、俺が来たことを喜んでくれるなら、それでいいと思えた。 俺「いつも、あそこでギターの練習をしてるの?」
ヒロコ「なんで?」
俺「だって、さっき練習とか言ってたから」
ヒロコ「まあ、あそこで弾いてることは多いよ」
話しているうちにT字路にぶつかって、「ここは左」とヒロコに促された。
「本当に?」と聞くと「馬鹿でも道くらい分かる!」と怒られたw 俺「でも、学校でバンドとか組んでるんでしょ?」
ヒロコ「そんなことやってないよ」
そう言うとヒロコは俯いてしまった。
ヒロコ「誰も、あたしとなんかバンドやってくれないよ」
ヒロコ「ギターは、一人でしか弾いたことない」
俺「そっか……なんかごめん」
申し訳ないことを聞いてしまったな、と思った。
無神経な質問だったかもしれない。 ヒロコは「ううん、いいよ」と言って顔を上げた。
ヒロコ「でも、あたしはバンドを組んでステージに立ちたかった」
ヒロコ「ステージに、立ちたかったなぁ……」
そう言ったヒロコの横顔は、宵闇の中でもはっきりと浮かび上がって見えた。
その瞬間、どうにかしてあげたい、という想いが湧き上がった。
ヒロコ「鳥居も見えてきたし、あたしはこの辺で」
そのまま踵を返し、来た道を戻ろうとする。 俺「帰るの?」
そう尋ねると、ヒロコは黙ってかぶりを振った。
さっきのヤンキーのところに戻るのだろうか?
だめだ。そんなんじゃだめだ。
そう思うと次の瞬間、こんなことを言っていた。
「今から、俺の合宿所に来なよ。『バンド』ができるかもしれない」 ヒロコ「どういうこと? あたし、行っても平気なの?」
俺「いや、まずいかもしれないけどw バレなきゃどうってことはないよ」
俺「俺の友達に、ベースを弾くやつがいるんだ。そいつと一緒に演奏したらきっと面白い」
俺「だから、来てみない?」
そう誘いかけると、ヒロコは「そうなの!?」と目を輝かせた。
ヒロコ「行きたい行きたい!」
ヒロコは両手を振ってはしゃぎ始めた。
俺は笑って、「よし、じゃあ行こうぜ」とヒロコを呼んだ。 ヒロコを連れて宿に戻ると外に人影はなく、
食堂で夕飯が始まっているようだった。
ヒロコ「こんな所で勉強してんだ〜」
俺「そうだよ、ちょっと待っててくれる」
そう言って、ヒロコを宿舎の裏側で待たせて、俺は食堂に向かった。 離れにある古びた食堂に入ると、クラスメイトが全員集まって夕飯を食べていた。
案の定、担任に「遅いぞ!」と怒られた。
「すいませんちょっと色々あってw」と流し、すぐに吉谷を探した。
端っこに座っていた吉谷を見つけるやいなや、「すぐ部屋に戻れない?」とけしかけた。
吉谷「今? まだ食ってる途中なんだけど」
俺「頼む! すぐに来て欲しいんだよ」
俺が懇願すると、吉谷は「まあいいけどさ……」と渋々立ち上がった。
担任に、「ちょっと探し物があって、部屋戻ります!」と告げて食堂を後にした。 宿舎の裏側に、吉谷を急かしながら連れて行く。
そこには、ギターを背負ったまま佇んでいるヒロコがいた。
吉谷「え? 誰……?」
吉谷は目をぱちくりさせ、混乱している様子だった。
ヒロコは、「あ、こんにちは……」と小声で会釈をした。
ちゃんと挨拶をしたことに、少々驚いた。
俺「地元の中学生で、ヒロコ…ちゃん」
吉谷「それはどうも……で、なんで中学生がここに?」
吉谷の疑問はもっともだったし、俺は順序立てて説明することにした。 俺「近所の神社にいて、偶然会ったんだけど」
俺「話してみたら案外仲良くなってさ……」
ヒロコも俺に合わせて、コクコクと何度も頷いた。
吉谷「ふーん……」
吉谷の、疑念に満ちた視線はそのままだった。
俺「それで、彼女はギターを弾くんだけど」
吉谷「おお、背負ってるもんね」
吉谷の表情が少しだけ緩んだ。
俺「中でも特に、ブルーハーツが好きなんだよ!」
それを聞いて、吉谷は「え、マジ!」と声を出して驚いた。 吉谷「中学生の女の子で、そりゃまた珍しいな」
吉谷が食いついたところで、俺は続けた。
俺「だから、この子と一緒に『終わらない歌』演奏してくれないか?」
俺「頼む!」
そう言うと、吉谷は「うーーん」と唸って悩み始めた。
吉谷「バレたら、とんでもねえことになるぞ……」
吉谷はそう呟くと、首をひねった。 俺「この子、バンドも組んだことないし、誰かと一緒に弾いたこともないんだよ」
俺「だから、なんとか」
俺が必死にそう言うと、ヒロコも「お願いします」と頭を下げた。
さすがの吉谷も押し負けたのか、
「じゃあ、いいけどさ……」と承諾してくれた。
それを聞いてヒロコが「ありがとう!」と飛び跳ねた。
吉谷「とりあえず部屋に来なよ」
吉谷「ここだと誰かに見られちまう」
吉谷は俺たちを宿の裏口へと先導した。 歩きながら吉谷に、「詳しいことは後でちゃんと教えるから」と話した。
吉谷は「絶対だからな」と口をとがらせた。
吉谷「えーと、ヒロコちゃん? 靴は持って中に入ってな」
宿舎に入ると、吉谷は念入りに中を見回した。
吉谷「夕飯中で良かったな。まだ誰もいない」
吉谷は小声でそう言うと、俺とヒロコに「入れ」と手で促した。
三人で素早く2階の俺たちの部屋へと向かった。 吉谷「仕方ないとは言え、中学生の女子を部屋に入れるのは罪悪感がすげえよw」
吉谷はそう苦笑いしたが、俺も散らかっていた私物をすぐに片付けたw
吉谷が部屋の隅に立てかけてあったベースを構えて「よし」と言うと、
それを見てヒロコも急いでギターを構えた。
ヒロコはあからさまに緊張していて、動きがぎこちなかったw
俺が「そんなに緊張しなくてもw」と語りかけると、
「でも……」とあたふたしていたw 吉谷「ちょっと、軽く弾いてみてよ」
ヒロコ「わ、分かった」
ヒロコはカチコチになりながら、終わらない歌の出だしをさらった。
吉谷「おお、思ったより弾けるじゃん!」
そう言うと吉谷は、嬉しそうにカバンから何か取り出した。
吉谷「アンプとかはさすがにないけど、コイツで合わせよう」
取り出したのは、ミニスピーカーだった。
そして自らの音楽プレイヤーをつなげた。 吉谷「別にミスったっていいし、気楽にいこう」
吉谷は「よっしゃやろか」と言って、俺に音楽プレイヤーを差し出した。
ヒロコに「準備はいい?」と聞くと頷いたので、再生ボタンを押す。
スピーカーから「終わらない歌」が流れて、二人の表情が変わった。
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
あの聴き親しんだイントロが流れて、すぐに「終わらない歌を歌おう!」と曲が走り始める。 あたふたしながら弾くヒロコに、
吉谷はさも楽しそうに笑顔で「自信持って弾けばいいんだよ!」と呼びかけた。
2回目のサビが来る頃にはヒロコも固さが取れて、
楽しそうに笑顔混じりで演奏を始めた。
二人とも体を上下に揺らして、ノリノリである。
俺も楽しくなって、ついつい歌を口ずさんでしまう。 一通り演奏し終わると、吉谷は「上出来だよ!」と言って楽しそうに笑みをこぼした。
ヒロコ「やった! 全部やりきれたー!」
盛り上がって、三人で思わずハイタッチしてしまった。
俺「二人とも、すごいね!w」
興奮してそう言うと、二人は恥ずかしそうに笑った。
気づくと、部屋のドアの前に武智と元気が立っていた。
武智はニヤニヤしていたが、元気は何とも複雑な表情をしている。 今日は一旦ここで落ちようと思います
見てくれている人ありがとう〜
また今日の夜書きにきます、もう少し早い時間に来れるようにします 武智「セッションなんて、楽しそうなことしてんじゃん」
俺「え?! もう夕飯終わった?」
慌ててそう聞くと、「大丈夫大丈夫、まだみんな食ってっから」と武智が答えた。
武智「なんかお前らが怪しかったからさww様子を見に来たんだよ」
俺「なんだよ……それなら良かった」
武智は俺を引き寄せ、小声で(これが、昨日言ってた子か?)と尋ねた。
俺が黙って頷くと、「やっぱり」とおちょくるような笑顔を作った。 突然人数が増えたのでヒロコは驚いたのか、
俺のそばに寄ってきて武智と元気に軽い会釈をした。
元気だけが状況を理解しておらず、口を開けたままだった。
吉谷「ちゃんと先生はごまかして来たんだよな?」
武智「だーいじょぶだって。そこはマジで問題ないから」
武智「そんなことより、邪魔してごめんな」
武智「せっかくなんだし、もっと弾けよ」 吉谷は、「他に何か弾きたいのある?」とヒロコに質問した。
ヒロコはこの状況に物怖じすることもなく、
「それならもっかい終わらない歌を弾きたい」と言った。
吉谷は「好きだねw」と笑いつつも、「いいよ」と準備態勢に入った。
すると武智が何を思ったのか、
「同じじゃつまんねえし、1が歌ったらどうなんだよ」と言い出した。
すると吉谷も「いいじゃんそれwお前歌えよww」と乗り気になった。 さすがにみんなの前で歌うのは恥ずかしかった俺は、ヒロコの方を見た。
ヒロコ「すっごくいいと思う。歌ってよ!」
ヒロコも目をキラキラさせて、そう頼み込んできたのだった。
逃げ場がなくなった俺は、「それじゃ、一回だけね……」と泣く泣く了承した。
元気だけはやはり輪に入れず、呆然としたまま黙っていたw
もう半ばやけになっていた俺は「いくぞー!」と叫んで再生ボタンを押した ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
吉谷とヒロコの渇いた楽器の音が鳴り響く。
不思議と、さっきよりも大きく聴こえるような気がした。
「終わらない歌を歌おう! クソッタレの世界のため!」
歌い出すと、不思議とみんな笑顔になった。
歌っている俺自身も、なんだか楽しくて仕方がない! 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) 途中から、さもヒロトかのように部屋中を動き回って歌う俺に、
ノリノリで演奏を続ける吉谷とヒロコ。
武智と元気も楽しそうに体を揺らし、合いの手を入れる。
ただの寂れた和室に過ぎなかった場所が、
たちまちライブ会場になったような気がした。
とにかく楽しくて、俺は我を忘れて歌い続けた。 最後まで演りきって曲が終わると、
みんなで「イエーーーー!!」と盛り上がってしまった。
そして意味もなく、またハイタッチ。
歌い終わった後も、なんだか胸のドキドキを抑えきれなかった。
なんなんだ、この気分は。
そしてヒロコが、「すっごく楽しい!!!」と叫んだ。
その笑顔は、まるで晴れ渡る夏空のようだった。
淀みがなく、真っ直ぐで、純真な笑顔。
この子、こんな顔で笑えたのか、と意表を突かれた。 そんな風に盛り上がっていたのも束の間、
窓から外の様子を見ていた元気が、「あ、そろそろやばいかもよ」と言った。
武智「え、もうそんな時間か?」
俺「大声で歌いすぎたかな?」
吉谷「まずいね、帰ったほうがいいかも」
場の空気が一気に張り詰めた。
もちろん、合宿所に部外者の立入りは禁止だし、それが地元の女子中学生だなんてバレた暁には、
俺たち全員どうなるか分かったものじゃない。 武智「様子見てくるわ!!」
そう言って、勢い良く武智が階段を降りていった。
元気「俺はこっから見てるよ。こっちに向かってきてる人はいないけど、すぐ来そうだわ」
ヒロコは眉をひそめて、「え、どうしたらいいの?」と困っているようだった。
俺「とりあえずギターをしまって、帰る準備! 靴も持ってね」
武智「おーい! 今ならまだ行けるぞ! 早く早く!」
一階から、武智の呼ぶ声がした。 元気も「今、今!」と俺たちを促した。
ヒロコと俺と吉谷の三人は、大急ぎで階段を降りた。
裏口の方で、武智が「こっちこっち」と手招きしていた。
裏口から勢い良く飛び出すと、吉谷と武智は食堂の方に向かおうとした。
吉谷「俺らが食堂の方に行って、こっちに人が来ないようにしとくから」
それを聞いてヒロコが、「あの、今日は本当にありがとうございました」とお礼を言った。
吉谷と武智は、振り向きながら手を振ってそれに応えた。 俺とヒロコは猛スピードで走って宿舎から出て、近くの道路まで来た。
俺「ここまで来れば、さすがに大丈夫だろ」
ヒロコ「そうだね……」
俺たちは肩で息をしながら会話を続けた。
ヒロコ「1の友達に、ちゃんとお礼言いたかったな」
俺「気にしないでよ、俺から伝えとくからさ」
ヒロコは真剣な顔で「よろしく」と言った。 俺とヒロコは猛スピードで走って宿舎から出て、近くの道路まで来た。
俺「ここまで来れば、さすがに大丈夫だろ」
ヒロコ「そうだね……」
俺たちは肩で息をしながら会話を続けた。
ヒロコ「1の友達に、ちゃんとお礼言いたかったな」
俺「気にしないでよ、俺から伝えとくからさ」
ヒロコは真剣な顔で「よろしく」と言った。 ヒロコ「今日は、本当に楽しかった」
ヒロコ「人と弾いたの初めてで、なんだかライブしたみたい」
俺「そうだねw 俺もついつい乗りすぎちゃったw」
ヒロコ「誰かと一緒に弾くって、こんなに楽しいことだったんだ」
ヒロコは「ひひひ」と笑って、「ありがとね」と呟いた。
その笑顔はやっぱり、あのあどけないものだったけど、
どうしてか、俺の心にじーんと染み込んだ気がした。 俺「いいって、気にしないでよ」
照れ隠しで、ついつい素っ気なく返事をしてしまう。
俺「それより、こっから家遠いの? 大丈夫?」
ヒロコ「ううん、そんなにだよ。だからここで大丈夫」
ヒロコは「じゃあね」と俺に手を振った。
俺も黙って振り返す。
ヒロコは最後に、「あの神社で、また弾いてるからね」と言い残していった。
その言葉とともに、暗がりの街灯の中、あの茶髪の後ろ姿が遠くなっていくのを目に焼き付けた。 ヒロコのことを心配に思いつつも宿舎に戻ると、
外にはすでに夕飯終わりのクラスメイトが何人もいた。
危なかったな、と肝を冷やした。
食堂前に吉谷と武智がいて、「大丈夫だったか」と聞かれたので、
「なんも問題なかったよ」と答えて、
一人で食堂で軽くご飯を食べて、部屋に戻ることにした。 部屋に戻ると、武智と元気は漫画を読み、吉谷はベースをいじっていた。
吉谷「で、あの子は一体なんだったんだ」
俺「ああ、それを話そうと思ってさ」
俺は腰を降ろし、3人を集めた。
武智「でも、かなり楽しかったよな」
元気「それはいいけど、俺が一番意味不明なんだよw」
俺は笑って、3人にもう一度ヒロコとのこれまでの出来事を話した。 吉谷「お前、すげえもん拾ってきたなwww」
話し終えると、珍しく吉谷が大笑いして言うもんだから、意外だった。
俺「別に、拾ったわけじゃないけどな」
吉谷「ギター、あんまり上手くはなかったけど、一生懸命な気持ちはすごかったな」
吉谷「好きで仕方ないんだって気持ちが伝わってきたよ」
吉谷は笑顔混じりで話し続ける。
ヒロコの熱い想いみたいなものが、伝わったんだろうか。 武智「まあでも、中学生の女子じゃ学校でバンドは組めんよな〜」
吉谷「そうだよな、それなら一緒に弾いてあげれて良かったと思うわ」
いきなりあんな女の子を連れてきたら、みんなもっと混乱するかと思ったけど、
ヒロコのことを認めてもらえて良かった、と思った。
俺のやったことが間違いじゃなかったし、コイツらをまたちょっと好きになった。
元気「でもさ、1はこれからどうすんだ?」
元気の質問の意味が、俺にはよく分からなかった。 武智「まあでも、中学生の女子じゃ学校でバンドは組めんよな〜」
吉谷「そうだよな、それなら一緒に弾いてあげれて良かったと思うわ」
いきなりあんな女の子を連れてきたら、みんなもっと混乱するかと思ったけど、
ヒロコのことを認めてもらえて良かった、と思った。
俺のやったことが間違いじゃなかったし、コイツらをまたちょっと好きになった。
元気「でもさ、1はこれからどうすんだ?」
元気の質問の意味が、俺にはよく分からなかった。 俺「どうするって何がだ?」
元気「だってさ、聞いた話だとヒロコちゃんはその神社でまた待ってるんだろ?」
元気「お前、また行くの?」
そう言われて、すぐに言葉が出なかった。
あれ? 俺はどうしたいんだろう?
武智「そんなもん、別にまた行きゃいいじゃん」
武智「東京帰るまで時間もないし、暇な時に行ってちょっと話せばいいだろ」 武智の言葉に、吉谷が反論した。
吉谷「そうかな? どうせすぐに俺らはいなくなっちゃうんだぜ」
吉谷「あんまり仲良くなりすぎたら、向こうも1も辛いだろ」
武智は、「そんなことないと思うけどねぇ」と納得していない様子だった。
元気「それもあるけどさ」
元気「また、そのヤンキー連中に絡まれたりしない?」
元気「だって今日も危なかったんだろ?」 武智「それはヒロコちゃんの友達なんだろ?」
武智「事情を話したらどうってことないだろうよ」
吉谷がそれに笑って応戦する。
吉谷「それはないだろ。友達なら逃げたりしないと思うぜ?w」
吉谷「もしかしたら、複雑な事情を抱えてるかもしれん」
元気「俺もそんな感じはするね。あ、ヒロコちゃんは別に悪い子だとは思わないけどさ」 3人の討論を聞きながら、俺は考え込んだ。
これ以上ヒロコのことに顔を突っ込んだら、まずいだろうか?
でも、今日演奏した時に見せたヒロコのあの夏空のような笑顔。
あの笑顔を俺は忘れられずにいた。
吉谷「まあ、俺らがこんなに言っても仕方ないし」
吉谷「どうしたいかは、1が決めればいいんだけどな」
そう言って3人は、俺の方を見た。
俺がしたいように。 俺「俺、また行くわ。じゃないとなんかモヤモヤするっていうか」
俺「自分でも分かんないけど、そうしたい」
3人は笑って、「だと思ったww」と口を揃えて言った。
そして、「何かあったらすぐ報告してくれよな」と言ってくれた。
何か分からないけど、嬉しくて胸がじーんと熱くなった。
この3人が友達で良かったと、心の底から思った。 翌日の3日目は、一日中課題確認テストだった。
ヒロコのことが気にかかるも、一日中勉強小屋から抜け出すことができなかった。
でも、昼間は雨模様の天気だったし、神社には明日行けばいいな、と思った。
テストの休憩時間、渚に少し話しかけられた。
渚「1君、もう知ってるかもしれないけど、今夜肝試しするの」
渚「参加するよね?」
俺「あ、行く行く!!」
即答だった。
昨日の武智の予告通り、今日は肝試しが行われるらしい。 ヒロコのことが気にかかっていたけど、
やっぱり俺は渚のことが好きだったと思う。
話したらドキドキするし、やっぱり目で追ってしまう。
だから、渚から肝試しに誘われたのは、本当に嬉しかった。
俺は舞い上がったし、チャンスがあれば渚と組んで肝試しに行きたいと思った。 夜、最後の勉強時間が終わって就寝までの自由時間、
ぞろぞろと宿舎の裏側に人が集合していた。
クラスの半分くらいだろうか?
昼間の雨のせいもあってか、空気はじっとりと湿っていた。
熱帯夜とは呼べない、涼しげな夜だった。
肝試しをするには、うってつけだと思った。 担任は、テスト監督として訪れたOBと部屋で酒盛りをしているとのことで、
監視の目はかなり緩んでいた。
(というより、この肝試しは半公認だったのかもしれない)
やっぱり、肝試しをするとなると浮つくし、
集合している人はみんなソワソワして落ち着かない様子だったw
中心グループの女子が、「もう班は分けてあるからー」と声をあげた。
そして、手際よく班ごとに人を捌いていく。 担任は、テスト監督として訪れたOBと部屋で酒盛りをしているとのことで、
監視の目はかなり緩んでいた。
(というより、この肝試しは半公認だったのかもしれない)
やっぱり、肝試しをするとなると浮つくし、
集合している人はみんなソワソワして落ち着かない様子だったw
中心グループの女子が、「もう班は分けてあるからー」と声をあげた。
そして、手際よく班ごとに人を捌いていく。 俺の班は、俺と武智と委員長だった。
委員長は、眼鏡をかけた女の子で、
真面目だけれどノリはよく、周りからは好かれていた。
元気は女子ばかりの班に男子一人になり、
吉谷は渚と一緒になったようだった。
班分けに若干恣意的なものを感じた俺は、少し拗ねていた。 俺「なあ、渚が吉谷と一緒になってるんだけど」
武智「たまたまじゃねえの?」
そう、俺の好きな人である渚は、
「吉谷のことが好きだ」という噂があり、それは結構有名だったのだ。
そして、クラスの女子がいらぬ気を利かせてこの班分けにしたんじゃないかと、
俺は邪推してむくれていた。 この噂は、ある程度俺にダメージを与えていて、
渚の好きな人が吉谷、と知ってから吉谷と思い切り仲良くできなかった。
もちろん吉谷が悪いわけではないし、
吉谷も、俺の好きな人が渚であることは知っていた。
だから、誰も憎むことはできないし、仕方のないことだった。
人の気持ちなんてどうしようもないし、難しいものだ。
だからこそ俺は渚に対して大きく踏み出せずにいた。 そんな事をぼやいているうちに肝試しは始まった。
先行隊がどんどん出発し、俺たちの班の番となった。
宿の敷地から伸びる農道を進んだ先に廃商店があり、
そこに「アイテム」があるので、拾ってくればいいというものだった。
農道は舗装されているもののガタガタで、雑草が生え放題だった。
その粗野な感じが、また不気味さを一段と強くする。 道の左側は山の斜面で、右側は林になっており、その先には川があった。
俺たちが自転車を落としてしまったり、遊び場にしている川だが、
夜になるとやっぱり雰囲気が変わり、薄気味悪い。
後続の方から、女子の「きゃー!!」という悲鳴が聞こえてくる。
武智「やってるやってるww」
武智はとても楽しそうに、ニヤつきながら進んでいった。 街灯の灯りはほぼなく、各々持たされた小さな懐中電灯だけが頼りだった。
灯りが少ないというのも、恐怖心を煽る原因だった。
委員長「ちょっと、速いよ……もうちょっとゆっくり行こ」
俺と武智の後ろを歩く委員長が、恐怖に顔を歪め、話してきた。
武智「なんだ委員長怖いのかww」
委員長「そりゃ怖いよ。なんか武智信用できないし」
それを聞いて俺は吹き出してしまった。 武智「なに言ってんだw 何か出たら俺がタックルして吹っ飛ばすよw」
委員長「タックルが通用する相手ならいいけど」
武智「幽霊か! そんなもんいねえよww」
委員長「え? さっきから武智の後ろにずっとなんかいるよ?」
武智「えええ! マジ!?」
この二人、面白すぎる。
二人のやり取りを聞いていると、恐怖心も和らいできたw 委員長「ちょっと、1だけが頼りなんだからね」
それでも委員長は怖いのか、俺の後ろを恐る恐る歩いていた。
武智「そんなにこええならさ、歌でも歌おうぜ」
委員長「やめようよ、変なの寄ってきちゃうよ」
武智「そんなわけあるかwww」
そして、武智は委員長の制止を振り切って思い切り歌い始めた。 武智「夢で逢えたらいいな〜! 君の笑顔にときめいて〜!」
俺「なんで銀杏ボーイズなんだよwwww」
武智の思わぬ選曲に俺と委員長は大笑いしてしまった。
結局やけにハイになってしまって、嫌がっていた委員長もろとも、
三人で銀杏BOYZの「夢で逢えたら」を熱唱しながら進んだw
肝試しのテンションは、本当に恐ろしい。 しばらく進んでいると、ミッションを終えてUターンしてくる班ともすれ違い、
目的地である廃商店が見えてきた。
ハイになっていた俺は「アイテム取ってくるぜ!」と言って、
一人で駆け出してその廃屋の近くに寄っていった。
建物の表側にそれらしきものが見当たらなかったので、
裏へ回ってみると思いもよらぬものが目に入った。 懐中電灯の微かな灯りの先に、吉谷と渚が抱き合ってキスをしていた。
俺「あ……」
俺は、思わず声を出してしまった。
すぐ引き返せばいいものを、固まってしまって動けない。
吉谷「1? 1か?」
吉谷に気づかれて、俺は一目散にその場から離れた。 表側で武智と委員長が、「ここにあったよ〜」と、
アクセサリーらしきものを手に取っていた。
俺「早く帰るぞ」
ぶしつけにそう言って、引き返そうとする。
武智「何かあったか?」
俺「いいから、早く来るんだよ!」
珍しく俺が声を荒げたので、武智も委員長も素直についてきた。 帰り道で、俺はがっくりうなだれていた。
うそだろ? そうだったのか? そんなアホな。
そんな考えがとりとめもなくグルグルと頭を回っていた。
武智「おい、お前変だぞ。何かあっただろ?」
委員長「そうだよ、1何かあったの?」
武智にだけ聞こえるように、「吉谷と渚が……」と話した。 武智「えー!? うっそだろマジで!?」
武智は驚きを隠しきれないようだった。
揺るがない現実を突きつけられた俺は、
情けないことにポロポロと泣き出す始末だった。
委員長「泣くほど怖かったの?」
武智「馬鹿言えw」 委員長「じゃあ、どうしたの? 普通に心配なんだけど……」
そう言われて、武智が俺の顔を見た。
武智「別に、委員長なら大丈夫だろ。言わないのも逆に悪いし」
俺はそれに、黙って頷いた。
武智「吉谷と渚が、あの商店の裏でキスしてたらしいんだ」
委員長「あ、そうなんだ」 その反応は意外なものだった。
武智「あれ、驚かないね」
委員長「まあ、だって私は渚と吉谷君が付き合ってるの知ってたし」
委員長「むしろ、それで1が落ち込むのがびっくりなんだけど……」
武智は、また黙って俺の方を見た。
俺「俺、渚のこと好きだったからね。それでだよ……」 委員長「うっそー! そうなんだ知らなかった」
委員長「ってか二人とも吉谷君と渚が付き合ってること知らなかったの?」
そう質問されて、俺も武智も「知らなかったけど」と答えた。
委員長「えー! じゃあ吉谷君は1にも武智にも付き合ってること言ってなかったの?」
武智「聞いた覚えはねえよな?」
そう振られて、俺も大きく頷いた。 武智「少なくとも、男子で知ってる奴はいないんじゃねえの」
委員長「うわー、そうなんだ……」
暗がりで委員長の表情はよく見えなかったが、声色が呆れていることは分かった。
委員長「吉谷君は、1が渚のこと好きだってことは……」
俺「知ってるね。前に話したことあったし」
武智「そうだよな、前に言ってたもんな」
それを聞いて委員長は「やばいことになったねぇ」と苦笑いしていた。 武智「いやー別に付き合うのはしょうがないかもしれないけどさ」
武智「隠してたってのが、やっぱりショックだよな〜」
本当にそうだった。
俺は渚の気持ちだって最初から知っていたし、
ハッキリ言ってくれれば諦めだってついたのに。
今まで吉谷と仲良くしていた時間、あの全てが偽りだったように思えた。
アイツは、俺や武智や元気と遊んでいる時、笑っている時、
一体何を思っていたんだろうか? 吉谷は、俺の渚への想いを知っていた上で、秘密にしていたのか?
武智「まあでも、アイツにも何か事情があったかもしれんし」
委員長「うん、吉谷君もきっと悪気はないと思う……」
それはそうだけど。そんな事言っても、気持ちに整理はつけられなかった。
なぜ隠していた。なぜ黙っていた。
そんな想いが黒く燃え上がって、俺の心が荒んでいくのが分かった。 肝試しが終わり、へとへとになって部屋に戻って、
元気や武智たちと何を話すでもなくゲームをして遊んでいた。
すると、そこに吉谷が何も言わずに帰ってきた。
俺たちには話しかけず、布団を敷いて先に寝るようだ。
もしかしたら俺は、吉谷を睨んでしまっていたかもしれない。
武智「なあ、吉谷」
武智が声をかけると、横になった吉谷はだるそうに、「なに」と答えた。 今日は一旦ここまでにします。
また明日書きに来ますね、ではでは! 武智「お前、渚と付き合ってたのか」
吉谷「なんだ、もう武智にまでまわったのか」
吉谷は、こちらを向くこともなく、淡々と話した。
武智「俺たちに隠してたのかよ」
吉谷「別に隠してはいねえよ。元気には言ってあったしな」
元気は状況を飲み込めていないようで、「何かあった?」と混乱している。 武智「何も。ただ、吉谷が付き合ってるのが分かったんだよ」
武智「んで、俺と1には秘密にしてたのか?」
武智がグイグイと突っ込んでいくので、俺は心配になった。
俺「おい武智、もういいって……」
吉谷「ああ、隠してたさ。だって、何て言えばいいんだよ?」
吉谷「1、お前の気持ちだって俺は知ってんのに」 武智「そんなもん! 素直に言えばそれで済んだことだろ!」
吉谷「できるか!!」
吉谷が、大声をあげた。
あと一歩で、担任が部屋に来そうなくらい、大きな声だった。
吉谷「そんな簡単に、できるか!」
吉谷「俺だってどれだけ悩んだと思ってる」
吉谷がそう言い切って、部屋の中はしんとした。 俺も武智も元気も、誰も何も言えずにいた。
吉谷「隠してたつもりはない。いつかは言おうと思ってた」
吉谷「そこは……悪かったって思ってる」
それだけ言うと、吉谷は布団に潜り込んでしまった。
それはそうだ。
吉谷だって悪気があったわけじゃないだろうし、悩んだはずだ。
でも、俺だってそんな簡単には割り切れなかった。 次の日、4日目は何もかも手がつかなかった。
まったくと言っていいほど、集中できない。
何をする気も起きなかった。
武智も、元気も、吉谷も、みんな様子がおかしい。
仲の良かった俺たち4人の関係が、壊れかけていた。
いがみ合ったり、言い合ったりはしないが、
今までのような自然さや、気軽さがない。
それに、吉谷は目に見えて俺たちを避けているようだった。 しかも、俺は失恋をした。
元々諦めかけていた渚への想いだが、
それが完全に打ち砕かれた。
渚という俺の好きな人は、目の前から消えた。
むしろ、これで良かったのかもしれないが、
どうしようもない虚しさと、やりきれない悲しさだけが心に残った。
そんな、様々なしこりを残したまま、4日目は終わった。 翌日の5日目、この日はとても暑く朝からみんなへばっていた。
俺たちを灼き殺しそうなほどの太陽が、カンカンに照っていた。
例のごとく、午後の休憩時間に担任が「お菓子の買い出し頼む〜!」と呼びかけた。
武智もその場にいなかったので、俺は一人で名乗り出て、買い出しに行くことにした。
正直、もうあの神社に向かうつもりもなかったのだが、
俺は気づけばふらっとあの神社に立ち寄っていた。 階段を登るのは大変なのに、俺はまたあの鳥居の前に自転車を止めて、
神社へと向かっていった。
白い日光が広場を一杯にして、その中で小学生が駆け回っていた。
その様子に少しだけ嬉しくなって、俺は境内を目指した。
拝殿には、やっぱりヒロコが座っていて、ギターを弾いていた。
あ、いるじゃないか。
それは安心なのか、ときめきなのか、自分でも分からなかった。 ヒロコ「あ、1だ! 来てくれたんだね」
俺「うん、なんか久しぶりだね」
ヒロコ「昨日も一昨日も来なかったから、もう来ないかと思ってた」
そう言うと、ヒロコは「ひひ」と笑った。
その表情は汗ばんでいて、少しだけ火照っていた。
俺「ごめんね。ちょっと大変だったんだ」
ヒロコ「もう、明後日には帰っちゃうんでしょ?」
俺「そうだね……」
そう呟くと、ツクツクボウシの声がどこからともなく聴こえた。 俺「またブルーハーツ弾いているの?」
そう聞くとヒロコはニコッと笑った。
ヒロコ「うん、終わらない歌。この前弾いた時、すごく楽しくて」
ヒロコ「だから、完璧にしたいなって」
この前弾いた時。あの時は、楽しかったな。
そんなことを思ってしまった。 俺「こんな日は、『青空』なんかもいいよね」
ヒロコ「いいね! でも、青空はまだ練習中だから〜」
俺「そっかw」
ヒロコと話していると、自然と笑顔になっている自分がいることに気づいた。
どうしてだろうか?
ふと、ギターを弾くヒロコの二の腕あたりに、あざがあるのを見つけた。 俺「ちょっと……そのあざは何?」
しばらくヒロコは黙っていた。
俺「何かあったの?」
ヒロコ「ちょっと、殴られた。この前のあいつらに」
俺「え? マジで?」
ヒロコは黙って頷いた。 俺「それ、大丈夫なの?」
ヒロコ「これは別に大丈夫だけど、さすがにちょっと面倒くさいかな」
そう話すヒロコは笑顔をなくし、無表情だった。
俺「なんであんな奴らと一緒にいるんだよ?」
ヒロコ「本当はもう、一緒にいたくないよ。でも、ギターを貰ったし」
俺「ギターを?」 ヒロコ「あたしの家ね、ママが離婚してさ、すっごいお金ないの」
ヒロコ「だから、ギター欲しくても買えなくてさ」
ヒロコ「そしたらあいつらが、ギターを安く譲ってくれるって言うから」
淡々と、それでいて噛みしめるように語り続ける。
ヒロコは、あのMDウォークマンを取り出した。
ヒロコ「これで音楽聴いてるのも、パパが置いてったやつで」
ヒロコ「これしか、音楽聴くものないんだよ」 今までの出来事全てに、合点がいった。
なぜMDウォークマンを使っているかも、ヒロコが古臭い音楽を聴いているかも。
俺「そっか。ブルーハーツもミッシェルも……そのMDがあったからってことか」
ヒロコ「そうそう。偶然それがあって、聴いたら大好きになった」
ヒロコは、またうっすらと笑みを浮かべた。
ヒロコ「ママは忙しくて家にあんまりいないから、そんな時これを聴いたら、励まされた」 俺「でも、ギターを貰ったならもういいじゃん」
ヒロコは「ううん」とかぶりを振った。
ヒロコ「あいつら、ああ見えても楽器するからさ」
ヒロコ「一緒にいたら、演奏してくれるかなって思ってた」
俺はなるほどな、と思った。
ヒロコは学校でもバンドが組めなくて、ずっと一緒にできる人を探していた。
あのヤンキーたちも、そうだったということだ。 ヒロコ「でも、あたし気づいちゃったんだよね」
俺「なに?」
ヒロコ「あいつらは、あたしから金を取ることしか考えてないし、一緒に音楽もやってくれない」
ヒロコ「あたしはただ、バンドがしたかった。ギターがしたかっただけなのに」
ヒロコ「もう、こんなの嫌だ……」
ヒロコは、目に涙を浮かべていた。
壊れそうだったものが、ついに音を立てて崩れた、そんな気がした。 そんなに最低の連中だったのか。
ヒロコが人を寄せ付けない風貌をしているのも、煙草を吸って強がるのも、
全ては、自分の弱さを隠したかったからなのか?
許せないと思った。
俺「そんな奴ら、もう縁を切っちゃえよ」
ヒロコ「そんなことしたら、後で何されるか分かんないし……」
ヒロコ「あたし一人で抵抗するのは、怖い」 俺「そいつらは、今日の夜も来るのか?」
ヒロコ「来ると思うけど……」
俺「俺に考えがある。だから、今夜いつも通りここに来て」
俺一人じゃ無理だ。
あいつらの助けがいる…… 俺は買い出しをテキトーに済ませ、一目散で勉強小屋に戻った。
すぐに席に座っていた武智、吉谷、元気を外に連れ出し事情を話す。
この前来たヒロコが、追い詰められていることを赤裸々に語った。
俺「だからさ、頼む。今夜、力を貸してくれないか?」
3人は、しばらく黙って見合っていた。
俺「こんなことにいきなり巻き込むのは本当に悪いけど……」
俺「お前らしかいないから」
すると、武智が口を開いた。
武智「タッパのある奴がいた方が相手もビビるだろうしな。俺は行くよ」 俺「マジか! ありがとう」
喜んだのも束の間、吉谷が口を開く。
吉谷「そんな得体の知れない連中に巻き込まれたくねえよ」
吉谷の目はいつになく真剣だった。
俺「吉谷、頼むよ。お前だってヒロコの事は一生懸命だって言ってたじゃねえか」
吉谷は首を横に振った。
吉谷「別にあの子は悪くないし、気持ちもわかる」
吉谷「でも、もしバレたらどうなる? ただ事じゃねえぞ、分かってんのか?」
吉谷「俺は勉強をしにここに来たワケで、ケンカをしに来たわけじゃない」 俺「マジか! ありがとう」
喜んだのも束の間、吉谷が口を開く。
吉谷「そんな得体の知れない連中に巻き込まれたくねえよ」
吉谷の目はいつになく真剣だった。
俺「吉谷、頼むよ。お前だってヒロコの事は一生懸命だって言ってたじゃねえか」
吉谷は首を横に振った。
吉谷「別にあの子は悪くないし、気持ちもわかる」
吉谷「でも、もしバレたらどうなる? ただ事じゃねえぞ、分かってんのか?」
吉谷「俺は勉強をしにここに来たワケで、ケンカをしに来たわけじゃない」 吉谷の言うことはもっともだった。
俺たちは勉強をしに来たんであって、そんな地元の中学生のいざこざに、
足を突っ込みに来たわけじゃない。
武智「お前、びびってんだろ? それにケンカになるって決まったわけじゃあるまいし」
吉谷「別になんでもいいよ。俺には関係のない話だ」
俺は諦められなかった。
自分でも勝手なことを言ってるのは分かっていたが、それでも。 俺「吉谷、お前ヒロコと一緒にギター弾いて何も思わなかったのか?」
俺「あの子はただギターが弾きたかっただけなんだよ」
俺「俺はその気持ちを、尊重してやりたいんだよ」
ここまで言っても吉谷は首を振って、「わり、分かんねえわ」としか言わなかった。
武智「1、もういいよほっとけ。俺らでどうにかしようぜ」 武智「元気、お前は危ないしケガしそうだから来るな」
武智「俺らがいない間、先生へのごまかしと偽装工作を頼むわ」
元気「おう、分かった……」
吉谷は、無言で自分の席へと戻っていった。
俺と武智の二人で、ヒロコを守ることになる。
大丈夫だろうか? 夜、夕食までの自由時間になった。
空は藍色が燃え、不気味に日が沈みかけていた。
ヒロコを助けようと思って言い出したことだが、
やっぱりその時が迫ってくると、怖かった。
武智と二人で自転車置き場に向かうと、そこには吉谷の姿があった。
俺「お前、なんで?」
吉谷「相手は2人だろ? それなら、3人いた方がいいじゃねえか」
俺と武智は見合って笑ってしまった。
俺「俺が2ケツしてやるから、乗れよ」
3人で、あの神社を目指すことにした。 薄暗くなった鳥居にたどり着くと、俺はなんだか怖気づいてしまった。
俺「でも、マジでケンカになったらどうしよう」
それを聞いて武智が笑った。
武智「もうここまで来たら、どうなってもいいじゃねえかw」
吉谷は黙っていたが、別にもう言葉なんていらないと思った。
一緒に来てくれた。
ただ、それだけが全てだと思った。
俺は一人じゃない、そう思えることが心強かった。
どうなったって大丈夫、こいつらがいるんだ。 進んでいくと、境内の灯りの下でヒロコとあの2人のヤンキーが話していた。
この前の短髪と、赤髪の奴だ。
緊張と不安でバクバクと鳴る心臓を抑えつけ、
俺は正面きって言い放った。
俺「ヒロコ、来たぞ」
俺の声を聞いて、ヤンキー2人もこちらを睨みつけた。 ヒロコは、すぐにこちらに駆け寄って来た。
短髪「なんだお前ら?」
俺「ヒロコがお前らに言いたいことがあるって言うから、来たんだよ」
するとヒロコは、何度も頷いた。
短髪「はあ? 意味が分からねえんだけど」
ヒロコ「もうあたしに一切関わらないで」
恐怖なのか、ヒロコの声は震えていた。 ヒロコの言葉を聞いて、赤髪の方が笑いだした。
赤髪「言いたいことって、それぇ?」
赤髪「マジで、馬鹿か?」
赤髪の目つきが強張り、俺たちの方へと歩み寄ってきた。
赤髪「ヒロコと俺らは友達なんだよ? 分かるかぁ?」
赤髪「お前らが何か吹き込んだんだろ? あぁ?」 俺「友達なわけねえだろ、お前らヒロコから金取ってるくせに」
そう言うと、赤髪はまた不気味な笑みを浮かべた。
赤髪「意味分かんねえw あれはギター代だから」
赤髪「てめえこそ何も知らねえくせに調子乗んなよ?」
赤髪はそう言って、どんどん俺たちに近づいてくる。
俺「お前らと縁を切ることは、ヒロコの意志だ。もう関わるな」
たじろぎながらそう言うと、赤髪がこちらに飛びかかってきた。 かと思うと、武智が低い姿勢で思い切りタックルし、赤髪を倒した。
赤髪は倒れ込んで咳き込むと、「ぐぅぅ!」とうめき声をあげた。
武智は「動くな!」と大声を出して赤髪を必死に押さえつける。
元々ラグビー部で、体格も良い武智がいて助かった。
すると短髪の方が勢い良く俺に近づいて、胸ぐらを掴んだ。
短髪「おい? どういうつもりなんだよ?」
俺は抵抗することもなく、「ヒロコにもう関わるな」と言った。 不意に、髪を掴まれたかと思うと、俺は思い切り腹に膝蹴りを受けた。
激痛が走って、その場に沈み込んでしまう。
後ろに回り込んでいた吉谷が「てめえ!」と言って短髪を押し倒した。
痛みを堪えて起き上がり、すぐに吉谷を加勢する。
吉谷と短髪が倒れ込んでもみくちゃになっていたので、二人がかりで短髪を押さえつけた。
腹のみぞおちあたりが、すこぶる痛い。
どうやら、もろにもらってしまったらしい。 痛みで朦朧とし、額にはじっとりと嫌な汗をかいていた。
俺は必死に短髪の首根っこを押さえつけ、
「もう、ヒロコに関わるんじゃねえよ! こんな子いじめて何が楽しいんだよ!?」
と、体の底から叫んだ。
短髪はこの状況でもなお不敵な笑みを崩さず、
「じゃあ金だ。金さえ出したらもうほっといてやるよ……」
としゃがれた声でのたまうのだった。 俺「てめえ、ふざけんなよ!!」
俺がそう叫んだ瞬間だった。
ヒロコが短髪に近づいてきて、「ほらよ」と一万円札を差し出した。
短髪「あ?」
ヒロコ「もう、これで終わりにしてよ」
ヒロコ「言われた通りあげるから、もう関わらないで」 短髪はその一万円をむしるように受け取ると、
「最初から出せや」と悪態をついた。
俺たちが押さえていた手を緩めると、短髪は「離せクソ」と立ち上がった。
短髪「あー、もう来ねえよ。金さえパクれりゃこんな神社に用があるかよ」
短髪「もう二度と来るかっての」
赤髪も立ち上がり、「一生ギター遊びでもなんでもしてろ」と言い捨て、
ヤンキー2人はバイクにまたがり、けたたましい音と共に神社から去っていった。
バイクの音が遠ざかるまで、俺たちは黙ったままだった。 今日はこのへんで落ちたいと思います
続きはまた明日か明後日に書きにきます
見てくれてる人、ありがとう〜 俺「なんで、お金を?」
ヒロコ「あいつらの目的は、あたしから金を取ることだったしね」
ヒロコ「何もかも片付けるには、結局はこうするしかなかったと思う」
俺「そっか……」
なんだか悲しくなった。これは成功といえるのだろうか?
ヒロコ「それでも、みんながいなきゃあんなに強く言えなかったから」
ヒロコ「今日きっぱり縁が切れたのは、来てくれたおかげだよ」
弱々しい笑顔だった。無理してるんだろうな、と思った。 ヒロコ「本当にありがとう。1と……」
武智がぶっきらぼうに「武智」と言った。
続いて、吉谷も苦笑いで「吉谷」とだけ言った。
ヒロコは小さく微笑んで、「武智と吉谷も、ありがとう」とお礼を言った。
ヒロコ「1は蹴られたけど、大丈夫……?」
俺「蹴られた瞬間はやばかったけど、今はなんともないよ」
そう答えると、ヒロコは「よかった、みんな怪我しなくて」と安堵の表情を浮かべた。 武智「でもそれ、訴えたら暴行罪で勝てるよな〜w」
吉谷「そういう発想が、お坊ちゃんって感じだよな俺ら。情けない」
武智「別にいいだろww」
緊張が緩んで、次第に和やかな雰囲気になっていく。
良かった。とりあえず俺たちは、あのヤンキーに勝ったんだ。
俺「でも、1万円なんて大金、大丈夫だったの?」
ヒロコは黙ってかぶりを振った。 ヒロコ「ほんとはね、あれでアンプを買いたくてずっと貯めてたんだけど……」
ヒロコ「でも……」
そう言うと、ヒロコはぽろぽろと涙を流した。
吉谷「え、ヒロコちゃんアンプ持ってなかったの?」
ヒロコ「ううん、持ってるけど、すごくボロボロだから」
ヒロコ「あたし、バンドしたかった。本当に、ただそれだけだった」
ヒロコは鼻をすすって泣き始めた。 ヒロコ「明日ね、夏祭りでステージがあるんだけど」
ヒロコ「そこで演奏したくて、あたし勝手に申し込んでたの」
それを聞いて俺たちは顔を見合わせた。
俺「え? 夏祭りって、ふもとの夏祭りだよね?」
ヒロコは目に涙を浮かべたまま、「そうだよ」と答えた。
俺たちが担任に「遊びに行ってもいい」と言われていたお祭りのことだ。
無論、俺たちはみんな行く気でいた。
そこで、ステージがあったなんて。 ヒロコ「だから、さっきのあいつらに一緒に出ようって言ってたんだけど」
ヒロコ「全然ダメだった」
ヒロコ「もう、諦めるしかないかな……」
涙を腕でこすり、ヒロコは俯いた。
この前何か揉めていたのも、きっとこの夏祭りのステージのことだったんだ。
ヒロコは本当にステージに立って演奏がしたくて、それで…… 俺は吉谷の顔を見た。
吉谷は黙って頷いた。
俺「ヒロコ、ステージに立ちたいか?」
ヒロコ「え、どういうこと?」
俺「バンド組もうぜ、俺たちで。一夜限りのバンド」
瞬間、ヒロコの顔に光が溢れ、笑顔が咲いた。
ヒロコ「え、うそ!? いいの?!」 俺「ああ。ギターがヒロコ、ベースが吉谷、そんでボーカルが俺」
吉谷は、「ドラムがいないのがちと難点だなw」と苦笑いした。
ヒロコは興奮を抑えきれないでようで、何度も頷いてみせた。
ヒロコ「いいよそれ! 最高! 最高のバンドじゃん!!」
目に涙を溜めたまま、思い切り笑顔になった。
俺「だろ? 俺もそう思うw」
武智「俺、エアドラムで入っちゃダメか?」
吉谷「それはいらねえだろww」 俺「バンド名は、そうだな……」
すると、ヒロコが何か言いたげにこちらを見た。
俺「何かあるの?」
ヒロコ「『THE SUMMER HEARTS』ってどうかな…?」
吉谷「お、いいねぇ」
俺「俺たちっぽくていいと思う!」
ヒロコは歯を見せてキラキラと笑い、「やったぁ、これでいこ!」とはしゃいだ。
武智のやつが後ろの方で、
「かー! サマーハーツ最高だねぇ〜!」などと騒いでいたw 俺「そのステージって、明日の何時から?」
ヒロコ「集合は、確か夜の6時だったと思う」
吉谷「それなら、すぐに戻って練習だな!」
そうして俺たちは、ヒロコを連れてそのまま宿に向かうことにした。
明日の夏祭りのステージに向けて、動き出した。 宿に帰ると、すでに勉強小屋で夜の勉強時間が始まっているようだった。
武智「見てきたけど、もうあっちで勉強会始まってるわ」
俺「元気は、上手くごまかしてくれたのかな?」
吉谷「俺たちは一旦部屋に戻るから、元気呼んできて」
そう言うと、武智は「ほいさ」と言って勉強小屋へと向かっていった。
俺とヒロコと吉谷はバレないように部屋へと急いだ。 部屋に着くとすぐに、吉谷はベースを手にとって喋り始めた。
吉谷「ステージって、何曲できるんだ?」
ヒロコ「多分、一曲だと思う」
吉谷「それなら、曲目は『終わらない歌』でいいよな? 簡単だし」
俺「いいと思う。それを完璧にしよう」
ヒロコも同調して頷いた。
吉谷「ドラムがいないっていうのは厳しいけど、俺がヒロコちゃんのギターに合わせるから」
吉谷「失敗してもいいし、この前みたいに思いっきりやろうせ」
ヒロコは「うん!」と元気よく返事をした。 吉谷「1、お前の歌もかなり重要だぞ? 歌詞は頭に入ってるか?」
俺「任せろって。カラオケで何万回歌ったと思ってるw」
調子に乗ってそう言うと、吉谷もヒロコも笑みを見せた。
吉谷「じゃあアンプもないけど、一回BGMナシで合わせてみよう」
そして、俺とヒロコと吉谷の三人の練習が始まった。 俺たちが部屋で練習をしていると、武智と元気と、委員長が来た。
武智が、「だめだめ! 委員長はもういいよ!」などと言っていたが、
元気と一緒に委員長も部屋に入ってきてしまった。
委員長「え、アンタたちお腹壊して寝込んでるんじゃなかったの?」
俺「あ……」
吉谷「……」
吉谷も俺も、言葉をなくしてしまった。 元気「と、いう風に俺が先生に話しておいたんだけど」
委員長「心配だから私が見に来たの」
そう言うと、委員長はヒロコをまじまじと眺めた。
委員長「で……この子誰?」
ヒロコは、委員長に対しても律儀に頭を下げた。
仕方がないので、俺たちは委員長にもこれまでの経緯を洗いざらい教えることにした。
俺「話せば長くなるんだけど……」 委員長「えー! それでアンタたち明日のお祭りで演奏するってこと?」
俺も吉谷も「まあ……」ときまりの悪い様子で返事をするw
武智「演奏じゃねえ、ライブだぞ」
委員長「そんなのどっちでもいいよ」
委員長に一喝されて、武智は変な顔をしていたw
委員長は、ヒロコに優しい視線を向け、「そんなに出たかったの」と質問した。
するとヒロコは「もちろんです!」と答えた。
委員長には、なぜだか敬語だった。 委員長「はあ、なんでアンタたちってこう危ないことするかなぁ……」
委員長は額に手を当て、がっくりとうなだれた。
俺「ごめん、委員長」
委員長「いいけど、今だって先生止めて私が代わりに来たんだからね」
委員長「正直、かなり危なかったよ」
そう言われて、ぐうの音も出ない俺たち。 委員長「もう分かったから、一曲やってよ」
その発言に、俺たちは呆気にとられた。
吉谷「え? なんて?」
委員長「せっかくここに来たんだから、聴きたいじゃんw」
武智は「マジかwwww」と笑っていた。
意外だったが、さすが委員長だと思えた。
「じゃあいくよ」と始めようとすると、「待って」と止められた。
委員長「やっぱり、明日の楽しみにしとく」 委員長「明日、私も聴きに行くから」
そう言うと委員長はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
俺「マジで? 来てくれるの」
委員長「そんな面白そうなの、見に行くに決まってんじゃんw」
委員長「クラスの皆にも、先生にバレないように水面下で広めとくから」
吉谷「委員長、本当にありがとう」
吉谷がそう言うと、委員長は「別に」と首を振った。
委員長「みんな、楽しそうで良かったよ」 委員長は素っ気なくそう言ったが、
もしかしたら俺と吉谷のことだったのかもしれない。
「THE SUMMER HEARTS」を組んでステージに立つことが決まってから、
俺と吉谷はすっかり自然体に戻っている気がした。
委員長「夜の勉強時間が終わるまでは、ここで練習するんでしょ?」
俺「まあ、そうだね」
委員長「先生は、戻ったらまた私と元気君でごまかしとくから」
委員長「あんまり遅くならないようにね」 そう言い残すと、委員長と元気は部屋から出ていこうとした。
武智が「じゃあな〜」と見送ろうとすると、
「アンタも行くの!」と委員長に引っ張って行かれたw
武智は、「俺も混ざりたかったぁ〜」などと喚きながら拉致されていった。
3人になった俺たちは、すぐに練習を再開した。
本番は明日。
「とにかくミスってもいいから、思い切りやろうぜ」
それが合言葉だった。 翌日、合宿6日目。夏祭りの当日である。
この日も太陽は絶好調で、容赦のない暑さでいっぱいだった。
俺たち「THE SUMMER HEARTS」が今夜の夏祭りでステージに上がることは、
ひっそりとクラス内に広まりつつあった。
顔を合わせると色んな人に「頑張ってな!」と声をかけられた。
きっと、委員長のおかげだ。 夕方、勉強時間にかぶる時刻に、ヒロコを宿に呼んだ。
敷地の入口でヒロコを迎え入れると、ヒロコの髪が黒に染まっていた。
俺「髪、黒くしたんだ」
ヒロコ「うん、ステージに立つし。…どうかな?」
ヒロコは落ち着かない様子で、照れているようだった。
それがまた可愛らしくて、俺は「よく似合ってるよ」と言った。
ヒロコは「ひひっ」とはにかんで、「ありがと」と呟いた。 こっそりとヒロコを部屋へと案内し、吉谷と3人で直前の確認を行なっていた。
すると、見計らったかのように委員長と渚が部屋へとやって来た。
なんだかばつが悪く、俺は渚を直視することができなかった。
俺「何か用? 先生にバレた?」
委員長「いや、違うよ。今から少し練習するんでしょ?」
委員長「先生の方は、私の方でごまかしてるから」
俺「それはありがとう、助かるよ」
委員長は、ヒロコをまじまじと眺めた。 委員長「それはいいんだけど、今日ライブだよね?」
委員長「あんたらの恰好はそれでも制服でもなんでもいいけど……」
委員長「ヒロコちゃんはそのまま?」
委員長はヒロコを指差した。
ヒロコの服装はTシャツにショートパンツという味気ないもので、
確かにライブでステージに上がるには向いていないように見えた。
委員長「夏祭りなんだし、浴衣でも着ればいいのに」
委員長「浴衣とか、ないの?」
そう質問すると、ヒロコは首を横に振った。 委員長「そっかぁ、でも私は浴衣持ってきてないからなぁ」
すると、委員長の後ろから渚が声を出した。
渚「それなら、私の浴衣着てみる? きっと着られると思う」
確かに渚とヒロコの背丈は似たようなものだった。
その提案に、俺も委員長も「いいね!」と賛同した。
吉谷だけが若干苦い顔をしていたが、渋々賛成してくれたw
(多分、自分の彼女の浴衣姿が見たかったんだろう…) 委員長「それならもう時間もないし、すぐ着せてあげるから、うちらの部屋おいで」
渚「うん、早く着替えちゃお」
言われるまま、ヒロコは二人に背中を押されて部屋へと連れて行かれてしまったw
ヒロコは戸惑いながらも嬉しそうで、委員長にライブのことを話して良かったなと思った。 三人が去ってから、吉谷にそれとなく聞いてみた。
俺「浴衣、よかったの?」
吉谷「アイツが貸すって言うなら、それでいいよ」
吉谷「それに、やっぱりライブに衣装は必要だろ」
吉谷はほんの少しだけ笑みを浮かべて、ベースの練習を再開した。
それを聞いて安心し、俺も歌詞の確認を始めた。 しばらくすると、部屋から三人が戻ってきた。
ヒロコは、鮮やかな青色の浴衣を身にまとい、髪を後ろで結っていた。
はっきり言って、とても綺麗だ。
渚「サイズがちょうどで良かった」
委員長「ね、よく似合うでしょ。下駄とかは、向こうで履き替えればいいから」
委員長は嬉しそうに下駄の入った袋をヒロコに手渡した。
ヒロコははにかみながら、恐る恐るこちらを見た。 俺「いいじゃん、ほんとによく似合ってるよ。髪の毛もいいね」
吉谷も「いいね」と笑顔で頷いている。
ヒロコはぱあっと明るい笑顔になり、「ありがとう」と遠慮がちに言った。
ヒロコは嬉しさを抑えきれないようで、「夢みたい!」と呟いて浴衣を愛おしそうに眺めた。
その笑顔はまるでプリズムのように瞬き、キラキラと光を放った。
これで、衣装はバッチリだ。 俺「ってか、委員長たちも戻らなくて大丈夫?」
委員長「そうだ、そろそろ戻らないとさすがに……」
委員長がそう言ったのと同時に、吉谷が「やべえ!」と声をあげた。
吉谷「出演者の集合時間って6時だよな? あと30分くらいしかねえぞ」
俺「え、マジで!?」
ふもとの町までは、自転車で飛ばしてギリギリで30分くらいだ。
今すぐ行かないと、間に合わない。 やばいやばい、と焦りながら急いで外へと飛び出す。
本当ならバスで行くつもりだったので、何の準備もしていなかった。
委員長「じゃあ私たちは戻るから、またあとでね!」
俺「ああ、みんなによろしくね」
委員長と渚を見送り、俺たちは自転車置き場を目指した。
俺「バスの時間、ちゃんと考えとくんだった」
吉谷「まあ、色々あったししょうがねえ」
自転車にまたがり、ギターを背負ったヒロコを後ろの荷台に促した。
ヒロコは荷台を指差して「ここ?」と首を傾げた。 俺「あ、浴衣で二人乗りはさすがに危ないかな」
吉谷「いまさら何言ってんだww」
吉谷に、大げさに笑われた。
荷台によろよろと腰掛けたヒロコは、やっぱり少しおぼつかなかった。
吉谷「そんなに怖かったら、ヒロコちゃん1にしっかりつかまってな」
吉谷がそうアドバイスすると、ヒロコは俺の腰あたりに思い切りつかまった。 俺「マジかwwwwww」
びっくりして、変な声が出てしまった。
さすがに照れくさくてしょうがないので、すぐに「急ぐよ!」と言ってペダルを踏んだ。
すっかり日が暮れて、橙に溶け込んだ町の中を思い切り走った。
二台の自転車の影が、ぼんやりと長く伸びる。
どこからともなく、寂しげにヒグラシの鳴く声が聞こえた。
しばらく走ると、あのひらけた県道にぶつかり、下り坂になった。 吉谷「一気にいくぞ」
吉谷は、立ち乗りになり思い切り速度を上げた。
ヒロコに、「飛ばすよ!」と一言声をかけ、俺もそれに続いた。
広い県道の下り坂を、一気に駆け下りていく。
途中、何台かの車にもすれ違ったが、そんなのお構いなしに、
俺たちは全力で走り続けた。
しばらくすると山道の雰囲気は薄れ、遠くにふもとの町が見え始めた。
遥か彼方には、橙黄色に光を放つ太陽も見えた。
そのせいもあってか、町のすべてが夕暮れに呑み込まれていた。 信号機、街路樹、すれ違う車、目に映る全てがオレンジで、
町中まるごと影が伸びていくような気がした。
俺「もうすぐ、着きそうだな」
走りっぱなしで、全身から汗が吹き出していた。
吉谷「まだ時間的には大丈夫だ、急ごう!」
吉谷も息を切らして自転車をこいでいた。
吉谷「お祭りって、確かお寺の近くだよね」
ヒロコ「うん。駅に近いから、看板の駅方面に向かえばいいと思う」 それを聞いて「よっしゃ!」ともう一度思い切りペダルを踏んだ。
ひたすら道を下っていると、次第に町並みが変わっていき、
市街地のような場所に出てきた。
言われていた駅の前を過ぎ、ヒロコに促されるままお寺方面を目指した。
寺に近づいてくると人々の往来も増え、浴衣を着ている人や、
子どもの姿も目立ってきた。
お祭りの、浮かれた雰囲気が広がっていた。
交通整備の人が誘導灯を振って、人や車を捌いている。 吉谷「よし、着いた!」
俺「間に合った間に合った!」
俺たちは息も切れ切れに、自転車置き場に自転車をぶち込んだ。
ヒロコが駆け出し「早く早く!」と急かしている。
すっかりバテバテの足を引っ張って、それに付いて行く。
俺「受付って、どこでできるのさ」
ヒロコ「多分、奥に運営のテントがあるから、そこ」 ヒロインはなんJ民!?
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ニコニコで見てね!
https://i.imgur.com/mIVWJXm.gif 寺の敷地内に入ると、そこら中に屋台が立っていた。
焼きとうもろこしやたこ焼きだの、醤油を焼いたような香ばしい匂いともに、
「いかがっすかー」という威勢のいい声が四方から響いている。
人の数も多く、走って進んでいくには、少し厳しかった。
それでもヒロコは、人混みをかき分けどんどん進んでいった。
はぐれたらヤバイと思い、俺も吉谷もヒロコを必死に追いかけた。 進んでいくと広場に行き着き、寺の本堂のようなものが目の前に見えた。
横には、派手に電飾の飾りが施されたお手製ステージのようなものがあり、
見上げると、「夏祭りフェスステージ」と看板が掲げられていた。
ヒロコはそれに構うこともなく、本堂の脇にあったテントへと、
一直線に向かっていった。
思った以上にしっかりとしたステージに少々驚いてると、
「二人ともこっちだよ!」と、ヒロコに呼ばれた。 運営テントの中では、ハッピを着たスタッフが慌ただしく動き回っている。
何人かのスタッフと会話をし、受付の手続きを済ませる。
「ぎりぎりでしたね」と笑われてしまった。
スタッフ「グループ名が無しになっていますが、このままでいいですか?」
それを聞いてヒロコが俺と吉谷の方を見たので、「あれでしょ」と助言した。
ヒロコ「バンド名は、『THE SUMMER HEARTS』でお願いします」 スタッフは「いい名前ですね」と笑って書面を訂正していた。
その後、どういう編成でどんな曲をやるかの説明を行った。
俺「あ、そうだ。マイクを2本用意してもらってもいいですか」
出し抜けに言ったので、吉谷が不思議そうに俺の方を見た。
吉谷「なんで2本?」
吉谷の質問に答えず、俺は「ヒロコ、いい?」と、ヒロコの顔を見つめた。 俺「マイク用意するから、歌いたくなったら歌いな」
俺「ハモリとかコーラスとか、そんなんじゃない。歌いたいとこで歌えばいい」
俺「言ってたろ? ブルーハーツを聴いてると元気になるって」
吉谷は「なるほどね」と納得した様子で頷いていた。
俺「だから、ヒロコも思い切り歌うんだよ。ステージの上で」
俺「それって、楽しそうだろ?」
ヒロコ「ほんとうに? あたし歌ってもいいの?」
ヒロコの顔に、笑顔が訪れた。 俺「もちろんだよ。俺と一緒に歌おう」
俺「ギター弾きながらだと難しいと思うけど、歌いたいとこだけでいい」
そう言うと、「あたし、頑張るね!」と両手を元気に振り回した。
その表情は嬉々として、まるで夏休み前の小学生みたいだった。
そんな無邪気な顔が、青色の鮮やかな浴衣にぴったりだった。
期待とワクワクと、ほんの少しの緊張。
そんなものが入り混じっていたんだと思う。 スタッフ「リハーサルはないので、直前に簡単に調整を行います」
スタッフ「7時にはステージが始まりますので、出番は多分7時半過ぎくらいかと思います」
その後、俺たちは運営テントを後にし、広場の隅のベンチに腰掛けた。
広場を囲うように、周辺には無数の出店があり、
頭上にはいくつもの提灯が揺れていた。
日はすっかり落ち、それらの賑やかな灯りでお寺の中は彩られていた。 暗い世界に、楽しげな灯りがいくつも揺れている。
どこからともなく、子どものはしゃぐ声が聞こえた。
まさしく、夏祭りが始まったんだな、と実感した。
ヒロコは出店を見てくると言って、一人で入口通りの方に行ってしまった。
ベンチには、俺と吉谷の二人だけが座っていた。
吉谷「なあ、一ついいか」
俺「なんだ?」 吉谷「渚のこと、黙ってて悪かったな」
「ああ……」と中途半端なニュアンスで返事をしてしまう。
吉谷「隠してるとか、そんなつもりじゃなかった」
吉谷「でも、俺も好きで……どうしようもなくなって」
吉谷「もっと早く、勇気を持って言えばよかった。ごめん」
通り過ぎる人の笑い声とか、出店で焼きそばを焼く景気の良い音とか、
なんだか色んな音が聞こえた気がした。 俺「別に、俺も怒ってるとかじゃない。吉谷がそう言ってくれてよかった」
俺「これで、きっぱり諦めがつくし。俺も次へ踏み出すだけだよ」
吉谷「…そうか」
しばらく会話が途切れて黙っていると、ヒロコがはしゃいだ様子で戻ってきた。
傍目から見ても、浮かれているのがすぐに分かる。
嬉しくて仕方ないのか、その表情は屈託のない笑顔だ。 ヒロコ「ねえねえ!すごいよ! なんか色々あった!」
落ち着かない様子で、通りの方を指差す。
俺「まあ、お祭りだからねぇ」
ヒロコ「すごいねすごいね!」
ヒロコの楽しさが伝わってきて、こっちまで笑顔になってしまう。
俺「何か買ってくればよかったのにww」
ヒロコは唇を噛み、首を横に振った。
ヒロコ「お金ないし、我慢だよ」 吉谷が、小声で(行って来い)と俺の背中を叩いた。
「ええ?」と戸惑っていると、(いいから)と釘をさされた。
俺「ヒロコ、おごってやるから一緒に行こうぜ」
ヒロコ「え、いいの?」
ヒロコはそう言うと、吉谷の方を見た。
吉谷「俺はここにいるから。二人で見てきな」 ヒロコと二人で、寺の入口通りを歩いた。
道の両側を埋め尽くすように出店が立ち並び、
慌ただしく人々が往来していた。
俺「そうだ、下駄履かなくていいの?」
ヒロコ「あ、そうだったね」
ヒロコはその場で袋から下駄を取り出し、履き替えた。
その際、背負っていた重そうなギターは俺が引き受けた。 「下駄なんて初めて履く!」と興奮しながら、
ヒロコは俺の数歩先を元気よく歩いて行く。
その度にカランカラン、と小気味良い音が響き、
一歩、また一歩と夏の終わりに近づいていくような気がした。
「へいお兄ちゃん、見てってね!」
焼きとうもろこし屋のおっちゃんに、声をかけられた。 醤油を焼いた、食欲をそそる香りが伝わってきた。
食べたい。正直腹が減った。
ヒロコも並べてあるとうもろこしを見て、「うまそ……」と声を漏らした。
その様子に笑って、「買う?ww」と聞くとヒロコは何度も頷いた。
でもすぐに、「我慢する。悪いし……」なんて言うもんだから、
「食べたいなら我慢すんな」と、ヒロコの分も一緒に買ってあげた。 二人して焼きとうもろこしにかじりつくと、
醤油の香ばしさともろこしの甘さが口の中に広がって、
「うまーー!!」と自然に声が出てしまった。
それがおかしくて俺もヒロコも笑いが止まらなかった。
ヒロコ「これがお祭りの味! すご!!」
ヒロコのリアクションは本当にオーバーで、
それが本当に可愛いと思ってしまった。 ヒロコは焼きとうもろこしも食べ終わらないうちに歩きだして、
「ねえねえあっちも!」と俺を急かした。
ついて行った先の出店には小さな子どもが群がっていた。
ヒロコ「ねえねえ、わたあめだよ!」
ヒロコは興奮した様子で、わたあめを作る機械を食い入るように見つめていた。
俺は「はいはい」と笑いながら、わたあめを二つ買った。 わたあめ屋のオヤジが気さくな人で、
「浴衣似合ってるじゃん」なんて調子良く言ってきて、
ヒロコは照れながらも「どうも」と嬉しそうだった。
ヒロコ「わ、なんか今あたしやばいかも」
両手にとうもろこしとわたあめを持って、にやつく。
俺「なんか、めっちゃはしゃいでる人みたいだww」 ヒロコ「ま、はしゃいでるけどね」
ヒロコはうっとりと両手のもろこしとわたあめを見つめたあと、
俺の方を見て意味もなくにこりと笑った。
その笑顔が、俺の心臓を叩いた気がした。
ヒロコが楽しんでいることが嬉しくて、
でもこの気持ちは、きっとそれだけじゃないんだろうなと思った。 吉谷のために焼きそばを買って、広場に向かって二人で歩いていると、ヒロコが話し始めた。
ヒロコ「あたしね、お祭りって嫌いだったの」
俺「どうして?」
ヒロコは一口とうもろこしに噛み付いたあと、続ける。
ヒロコ「だって、みんなすごく楽しそうだから」
ヒロコ「そういうのって、なんて言うんだろう……すごく嫌いだった」 ヒロコ「変だよね。……ごめん」
しばらく考えて、優しく答えた。
俺「ううん、なんか分かる気がする。謝ることないよ」
ヒロコ「そう言ってくれると思ったけど」
ヒロコの表情に笑顔が戻った。
ヒロコ「でもね、今日はすっごい楽しい。だからね、お祭り好きになったかも」
俺「おお! それなら良かった」 しばらくして広場にたどり着くと、
ヒロコは「焼きそば!」と声をあげ吉谷のもとへ走っていった。
広場には、先ほどより随分人が集まってきていた。
「夏祭りフェス」の始まりが迫っていたのだ。
このお祭りのステージでは、バンドや楽器だけではなく、
ダンスや漫才、歌など、舞台上で出来ることならばなんでもOKだった。
その物珍しさに、地元の人がそれなりに集まってきているようだった。 広場のベンチに腰掛け、三人で駄弁って物を食べていると、
「夏祭りフェス」が始まった。
「みなさん、今年も始まりました!」
意気揚々と司会のお兄さんが口火を切り、広場内に拍手が巻き起こった。
ステージ上で歌を歌う女子高生や、ダンスを踊る大学生、
おじさんだらけのバンドなど、色んな人が思い思いのパフォーマンスをする。 しばらくすると、勉強を終えてバスでこちらに来たクラスメイトたちが、
続々と広場内に姿を現した。
武智と元気が寄ってきて、「かなり盛り上がってるじゃねえか!」と話しかけてきた。
委員長と渚も近づいてきて、ヒロコの浴衣の乱れを直していた。
それだけではない、クラスの半数以上の人が見に来てくれているようだった。
ステージ上の人が目まぐるしく入れ替わっていき、どんどん俺たちの出番が迫ってく 武智「あとどれくらいでお前たちの出番?」
吉谷がプログラムらしき紙を見て、「次の次……だな」と言った。
それを聞いて、緊張がピークに達した。
胸の鼓動は破裂しそうなほどに音を立て、手が小刻みに震える。
それは俺だけではないようで、ステージを見つめる吉谷の表情も強張っていた。
でも、ヒロコだけは違った。 武智「あとどれくらいでお前たちの出番?」
吉谷がプログラムらしき紙を見て、「次の次……だな」と言った。
それを聞いて、緊張がピークに達した。
胸の鼓動は破裂しそうなほどに音を立て、手が小刻みに震える。
それは俺だけではないようで、ステージを見つめる吉谷の表情も強張っていた。
でも、ヒロコだけは違った。 ヒロコ「ね、いい感じ?」
立ち上がって、両手を広げて浴衣を見せてきた。
近くにいた渚が「可愛いよ」と言った。
ヒロコは満足そうに「ありがとう」とお礼を言うと、
「二人とも、なに緊張してんの」とはつらつとした態度で笑みを浮かべた。
ヒロコ「あたし、今すごく嬉しい」 ヒロコ「だって、こんな素敵なステージでライブができるんだもん」
ヒロコ「ずっとずっと思ってた夢だから、嬉しい」
ヒロコ「だからさ、今日は三人で、夢を叶えよう」
ヒロコはそう言うと、少しもったいぶるように笑顔を見せた。
吉谷「よーーっしゃあああ!!」
突然吉谷が大声を出した。 委員長「うわ、どうしたの」
武智「気合が入ったかwwww」
吉谷がここまで感情を表に出すのは珍しいので、周りにいた人も驚いた。
吉谷「そうだよな! 思いっきりやって、夢を叶えよう!」
どうやら、吉谷は吹っ切れたようだ。
俺も真似して、「うおおおおお!!」と叫んだ。
するとヒロコも、「わああああああ!」と続けて叫んだ。 元気「気合入ったねぇww」
武智「なんだか青春って感じだな」
大声で叫んだら気持ちのモヤモヤが吹っ飛んで、少し落ち着いた。
その直後、運営テントから「THE SUMMER HEARTSの皆さん来てください〜」と集合がかかった。
クラスメイトたちが、「頑張ってね!」「盛り上げるからなー」と手を振って見送ってくれた。 スタッフ「それでは、今ステージに上がっている人たちが終わったら、皆さんの出番ですので」
ドクン、ドクン、と鼓動の音が何度も響いた。
来る。もうすぐ出番が来る。
吉谷「大丈夫。土台は俺が固める。二人は好きにやれ」
吉谷は笑顔混じりで言った。
俺とヒロコは黙って頷いた。 前の人たちの出番が終わり、司会の男性が、俺たちの名を呼んだ。
「それでは次は…バンドですね!『THE SUMMER HEARTS』の皆さんです!」
ステージに上がる直前、ヒロコが俺の肩を叩いた。
ヒロコ「一緒に歌おうね」
ヒロコ「終わらない歌」 ステージに上がると、ヒロコと吉谷は楽器のセッティングを始めた。
俺も、二本用意されたマイクの確認を行う。
ステージ上から広場を見下ろすと、思っていた以上に多くの観客がいることに気付いた。
何人もの人の目が、自分たちに向けられていることが不思議だった。
目の前には、クラスメイトが何人も陣取っていた。
何やら歓声を送ってくれていた気がするが、それも定かではない。 楽器やマイクの調整が終わり、三人で顔を見合わせた。
「1、2、1、2、3!」
吉谷の合図とともに、演奏が始まった。
ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
「終わらない歌を歌おう! クソッタレの世界のため!」
出だしがガツンと噛み合って、俺は思い切り声を絞り出した。 「世の中に冷たくされて 一人ボッチで泣いた夜」
「「もうだめだと思うことは 今まで何度でもあった!」」
声が重なった気がして、瞬間的にヒロコの方を見た。
すると、ヒロコもマイクに向かって声を出していた!
「「ホントの瞬間はいつも 死ぬ程怖いものだから」」
「「逃げだしたくなったことは 今まで何度でもあった!」」
俺とヒロコの声が二重になって、広場に響き渡った。 「「終わらない歌を歌おう 僕や君や彼等のため」」
「「終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように」」
俺たち三人の演奏はあっという間に終わった。
目立った失敗はなく、大成功だった。
でもそれは、演奏というよりは「終わらない歌」という歌に合わせて、
それぞれの「想い」とか「迷い」とかをぶつけたような気がした。 ヒロコと二人で歌った瞬間、俺はそんなことを思った。
ヒロコがあの一節を一緒に歌ったのも、きっとそういうことなんだ。
ステージから降りると、クラスメイトが集まってきて、
「良い演奏だったなぁー!」と俺たちを囃し立てた。
演奏に全てを出し切った俺たちは、それに対応する気力も残っていなかった。
ただただ、「ありがとう」と返すしかなかった。 ステージでのライブを終えたヒロコは、いたって落ち着いた様子だった。
もっともっとはしゃいで喜びまわるかと思ったが、そうでもないようだった。
俺「ヒロコ、楽しかった?」
吉谷「演奏、完璧だったよ。本当にすげえ」
俺と吉谷が、ヒロコを労うように言葉をかけた。
ヒロコ「あたし、二人のこと大好き」
俺「え?」
あまりに予想外の返答に、どう反応したらいいか分からなかった。 ヒロコ「大好きな人たちと一緒にバンド組めて、そんでこんないい場所でライブできて」
ヒロコ「こんなにいっぺんに夢がかなって……」
ヒロコ「あたし、どうしたらいいか分かんない」
ヒロコはそう言い終えると、ぼろぼろと涙をこぼし、
「うえええん」と声をあげて泣き始めてしまった。 ヒロコ「ごめんね、こんなこと初めてだから」
ヒロコ「夢って、かなうんだって思って。それが信じられなくて、嬉しくて」
ヒロコ「ありがとう……」
ヒロコは鼻をすすり、涙目で俺たちを見た。
吉谷「まあ、そんな大した協力もできなかったけどさ…とりあえず、楽しかったよな?」
吉谷はそう言うと、俺を見た。 俺「うん、ヒロコとバンドができて楽しかった」
俺「俺たちは、ただ楽しいと思ってやってただけだから」
俺「それでヒロコの夢を叶えられたなら、本当に良かった」
すると突然武智が近づいてきた。
武智「サマーハーツ最高だったわー!!」
俺の話を遮って、三人の輪に入り込んできた。
吉谷「お前、邪魔すんなよwwwwww」
武智「何が!?」 ヒロコはそんな様子を眺めて、泣きながら笑っていた。
満面の笑顔だった。
夜も深まり、熱を増す夏祭りの喧騒の中で、
ヒロコは笑っていた。
本当に文句のない笑顔で、俺はきっと、その笑顔が好きだった。 合宿7日目。東京に帰る日が来た。
この日もご多分にもれず、カンカン照りの暑い日だった。
ずっとここにいるような気がしていたけど、
やっぱり一週間なんて本当にあっという間だった。
バスが出発する少し前に、ヒロコが宿に訪れた。
宿舎の裏口から委員長が必死に俺を呼ぶので、
何事かと思ったらヒロコが来ていたのだ。
先生の目もあるし、と凄く急かされた。 別れ際に会うと辛くなってしまうので、できれば会いたくなかったけど、
やっぱりそうもいかなかった。
ヒロコは、俺を見つけると柔らかな笑顔になった。
その笑顔を見ると、心がきゅっと締め付けられる気がした。
ヒロコ「東京、帰っちゃうんだね」
俺「そうだね。今日までだから……」
ヒロコ「これからも、ブルーハーツは聴くの?」
俺「うん、きっとね。好きだしさ」 どうしてなのか、これまでのように会話が盛り上がらない。
どことなく、やるせなさを感じた。
俺「ヒロコは、これからどうするの?」
ヒロコ「これから? あたしの?」
俺「うん」
ヒロコ「実はあたし、中学卒業したらママの実家の方に転校するの」
宿舎の裏側は日陰になっていたものの、頭上には青々とした空が見えた。
遠くに、わずかだが雲が見えた。 俺「そっか。ここからも離れちゃうんだね」
ヒロコ「そうなの。1は? 1はどうするの?」
そう訊かれて、ちょっと考えた。
何か取り繕うと思ったけど、今の自分をありのままに伝えることにした。
俺「俺はきっと、東京の大学に行くと思う。何になりたいかとか、全然分からないけど」
ヒロコ「そっかあ、やっぱり東京にいるんだよね」 ヒロコ「それなら、あたしも東京の大学に行く」
ヒロコ「あたし馬鹿だけど、頑張って勉強して、東京の大学に行く」
俺「本当に?」
驚いてそう尋ねると、「これでも国語だけはなんとかなるんだから」と苦笑いした。
ヒロコ「もしそうなったらさ、その時1は大学4年であたしは大学1年だよね」
俺「ああ、全部上手く行けば……そうなるなぁ」
ヒロコは「だよねだよね!」と嬉しそうに体を揺らした。 ヒロコ「ねえ、そこでまた『THE SUMMER HEARTS』作って、一緒にバンドしない?」
一瞬冗談のようにも聞こえる話だったが、ヒロコの表情は真剣そのものだ。
ヒロコ「あたしは、1の歌が好きなんだよ」
俺「またそれは、随分壮大な話だね……」
ヒロコ「あたしは絶対勉強して追いつくから!」
そう言って、ヒロコは俺にピックを差し出した。
俺「これ、なに?」 ヒロコ「あたしが使ってたピック。あげたんじゃないよ、ただ貸してあげるだけ」
俺「え? 貸すって?」
そう尋ねると、ヒロコは「ふふ」と笑みをこぼした。
ヒロコ「あたしが東京の大学に行った時、返してもらうから。それまで持ってて」
ヒロコ「絶対なくしちゃダメだからね」
「そういうことかよ〜」と笑ってしまった。 ヒロコ「その時はまた、一緒にバンドしようね」
俺「分かったよ、きっとね」
ヒロコと俺は、そんなやり取りをして別れた。
実現するかも分からないような夢見がちな約束だったと思う。
でもこの時は、ヒロコも俺も、信じていればきっとそういう未来が訪れると思っていた。 俺は今、大学4年の冬を迎えたが、あれからヒロコとは一度も会っていない。
あの子が今どこで、何をしているかも、正直知る術はない。
きっと、もう二度と会うこともないだろう。
願わくば、今もきっとどこかで、バンドをしていたらいいのになと思う。
あの時のまま、バンドに憧れて、大好きな仲間と一緒に楽しくギターを弾けていたらいいのになと思う。
変わらず、あの笑顔のままで。 あの夏の一週間のことは、ずっと忘れられない。
ヒロコは、あの夏の記憶の片隅にいて、ずっと笑っている。
今も俺は、カラオケで『終わらない歌』を入れるたび、夏祭りの熱気と、あの女の子の笑顔を思い出す。
『THE SUMMER HEARTS』の思い出とともに。 ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました。
この話は私、富澤南の創作でした。
@Tomizawa_2ch
スレはいつか落ちてしまうので、↑のTwiterにて、ご意見やご感想もお待ちしています。
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29歳 1989年5月23日生まれです マジかよ踏むとは思わなかった
人生…人生…か
こんな落ちこぼれの俺の話だけど聞いてくれるか? ありがとう、んじゃ慣れないけどやってみるわ。
スペック
現在底辺大学生男
容姿は不細工だな
今でこそどうしようもない俺なんだが
俺は中学の時は成績が良かった
田舎の中学だったんだが、その中で常にテストは3番以内に入っていた 俺は中学が大好きだ
友達も、先生も、風土も、全てが大好きだった
今で言ういじめとかとは到底無縁。
思い出補正ってやつかもしれないな、でも好きだった
中学の頃は「優等生」として扱われていたから
教師の信頼も厚かったし、友達からも頼りにされてた 毎日がキラキラしていたな
絵に描いた青春だったかもしれない
ただブサメンだったから恋愛は上手くいかず失恋続き
でも、人を好きになってフラれるってのも若気の至り。
それすらも楽しかったことのように思える
中3の受験期になると、俺は先生たちに県で一番の進学校への受験を薦められた
ものすごく期待されていたし、俺もそれに応えたかった
だから俺は進学校への受験を決意して、毎日頑張ったよ そして俺は進学校に合格した
学校の先生も友達も、みんな祝ってくれた
「お前が◯◯高に行くなんてすごいな!!」
「先生も嬉しい。おめでとう」
まさか自分でも受かるとは思っていなかった
〇〇高に行ってる、と言えばちょっとした自慢になるくらいなんだ
それほどの快挙だった
人生の頂点だったと思う。 でもこの高校への入学が
俺の人生を大きく狂わせるきっかけだったんだ
今でもどうしてここに行ったんだって後悔してる
自分がいけないんだけど、もっと真剣に色々考えていれば…って今でも思う 高校内でも成績順にクラス分けがされていて
入試の成績が良かった俺は一番いいクラスになってしまった
最初こそ鼻が高かった
「〇〇高で一番上のクラスよ」って自慢してまわったもんだ
でも、俺の高校生活は徐々に崩れていくんだよね まず、話の合う奴がいなかった
そもそも運動部に所属している奴もほとんどおらず
中学3年間運動部だった俺は愕然とした
しかも学校の方針で部活にあまり力を入れていない
勉強の方も、中学時代は塾に頼って自学習の習慣が全く無かった俺は
あっという間に遅れをとっていった 高校一年のくせして周りはみな「勉強第一」「受験第一」
遊びに誘っても誰ものってこない
一緒に自転車を並べて帰る奴すらいない!
5月を過ぎても友達と呼べる友達すらできず
俺は高校生活の現実に絶望していた おかしい、思い描いていた高校生活はこんなんじゃない
恋愛フラグどころか、友達と呼べる奴すらできないなんて…
そして魔の行事、中間試験がやってくるわけなんだが
俺はなんとケツから二番目の成績をとるwww
一番上のクラスの奴がほぼ最下位、この状況はよっぽどの事だったらしく
職員室に呼び出されて教頭に小一時間説教された この中間事件以来、先生たちも俺に対する態度が変わる
「あいつはダメだ」「もうあいつはいいや」
そんな心が透けて見えるようだった
宿題を忘れてこようが何のお咎めもなくなり
分からないことがあって授業後に質問しても異常に素っ気なく振舞われたり
あれ、俺なんでここにいるんだろ?って気持ちが込み上げてきた 見てくれている人、ありがとう。続けるぜ
子供心に「見放された」事がとてもショックだった
教師と言えど大人、大人に必要とされない俺。
よくテレビにいる「もっとがんばろうぜ!俺が見てやる!」
なんて言う先生は一人ったりともいなかった
「お前がやる気ないならそれでいいよ。他は優秀だから」
そんな先生しかこの時はいなかった それでもこの時はまだ挫けなかった
プライドもあったし、かすかな希望に懸けていた
俺だって勉強して、先生に認めてもらいたい、いい成績を取りたいって思ってた
だから教室にいながらにして「ほぼいないもの」にされながらも
必死で授業に食らいついたし、負けるもんかって気持ちだった
正直苦しかった >>33
今年で大学卒業なんだ俺。
単位も取り終わってやることなくて毎日昔のことばっか思い出しててな
なんつーか、難しいもんだ 相談する相手もいなかった
高校には無論友達がいなかったし
中学の友達には、見栄があって学校のことを相談できない
連絡があっても「勉強とか余裕っしょ。高校楽しいぜ」みたいに嘘をついていたんだ
そんな風に言うと中学の友達は「やっぱお前はすげえな〜」
とか言ってきて
俺の中で見えない不安がどんどん積み重なっていった 俺は夏の期末試験に向けて必死に頑張った
この時は一番辛い時期だったかもしれない
新しい環境にも慣れきれてないのに
毎日先が見えない勉強をずっとして…
そして夏、期末試験が訪れる
今度は真面目に頑張った
きっと前回のようにはならないだろう、と自信を持って臨んだ
もう晒し者にされるのは勘弁だったからね 結果から言うと、理系科目がほぼ赤点だった
前回ほど悪くないにはしろ、クラスではぶっちぎりの最下位
答案を返される時、周りの目が怖くて体がめっちゃ熱くなった
また先生になんか言われる…
と思ったが
何もなし。まったく何も言われなかった 俺は怖くなった
もう誰も何も言ってくれないんだ
先生には俺は「クズ」に見えてるんだろうか
クラスメートが俺が平均をとれなかった科目のことを「簡単だったよなー」と話している
こんな状況が初めてで、もうどうしていいか分からなくなった
「俺は実は馬鹿だったんじゃないのか?」
そんなことを思い始めた もう勉強なんていいわ、学校なんていい
俺はきっと他にやりたいことがあるんだ
そんな事を考えて逃避していたけど
「やりたいこと」なんてまだ何も見つかってなくて
期末試験のあと、俺は帰り道に一人で自転車に乗りながら泣いた
惨めすぎて親にも何も言えなかった
この高校に入った時、泣いて喜んでくれた親に
学校がもう嫌だなんて、言えるはずがなかった 期末試験のあと、夏休みになった
夏休み、やったーーーー!!
と健全な高校生ではなるところだが
課題の量が尋常ではなかった
数学はいわゆるチャート式というものの問題が100近く
英語が入試過去問の長文や文法の参考書…その他の科目もだ
宿題はまだ良かった
どうせ俺はやっていかなくても溜め息をつかれるだけだ 期末試験の成績が芳しくなかった俺には、補習が待っていた
せっかくの夏休みだというのに
暑い中自転車を走らせて学校に行かなくてはならない
俺はそれが心底嫌だった
夏休みのあいだくらい学校のことなんか忘れていたかった
あの重々しい雰囲気の教室に行くのが嫌で仕方なかった でもこの補習は俺にとっての大きな転機だった
世間の同世代の学生は夏休みに浮かれる最中
俺はブツブツ文句を言いながら自転車で学校に向かう
駐輪場に自転車を止めると、いつもより静かな学校
心なしか普段の重い雰囲気がなく、休日の学校はいいもんだって思えた 補習の教室に入ると、やけに和やかな雰囲気
普段の授業と雲泥の差だった
言ってみればここは「落ちこぼれ」の集まりなんだよな、と思うと気が楽だった
最初こそ嫌で仕方なかった補習だったが
寝ていたり、外の景色を眺めていても特に怒られない空気で
この学校にもこういう一面はあるんだな〜って思えて逆に嬉しかった とは言え一番上のクラスから補習者が出てるということが恥ずかしくて
なかなか他の人に話しかけられずにいた
補習がひと通り終わって帰ろうと思って駐輪場にいると
一人の男に話しかけられた
補習中、俺の隣の席で終始PSPをやっていた奴だ オードリー若林に似ている奴で、一見陰気そうな奴だった
若林「今日隣だったよね〜一人なん?一緒に昼飯でもどう?」
俺「お、おっす…あ、一人だよ。どっか食べてく?」
会話を交わすことができた
高校に入って初めてだった、一緒にメシを食べて帰る
そんなごく当たり前のことに誘われたことに感動した そのまま二人で自転車を走らせて二人でコンビニに向かった
初めて!誰かと自転車を並べて高校から下校した
コンビニに着くと若林に色々質問された
若林「どこ中から来たの?」
俺「俺は◯◯中から!」
若林「けっこう遠いの?」
俺「自転車でギリギリかなぁ…」
些細なやりとりが新鮮で仕方なかった 若林「俺は電車でさ。あとは駅から自転車で来てんだよね。」
俺「あーけっこう遠いんだなー」
会話は弾むが、この男なかなかひょうひょうとしていて
こんな奴がこの高校にいた事に驚いた
まあ、そりゃいてもおかしくないんだけどね。
若林「最近なんか面白いゲームあった?」
俺「いや…なんだろな…」
と、勉強とは程遠い会話が続いた 感覚が麻痺していたんだろうか
ごくありふれた高校生の会話だろうに
それが出来ていることに感動した
その日は、コンビニの駐車場でおにぎり食ったりカップ麺食べたりして別れた
家に帰ってから気付いたんだけど
この日若林が俺に「何組なの?」とクラスを尋ねてくることはなかった
この高校にいる奴らなら、誰もが気にかけていることだろうに 俺はなんとなく気が楽になった
ああいう奴もいるんだな、って思うと力み過ぎていた自分がアホらしくなった
次の補習日、教室に行くと若林に声をかけられる
若林「おーっす」
俺「おいっす」
若林は後ろの方の席でアドバンスをやっていた 俺「今更アドバンスかよw」
若林「いやこれ、面白いからなw」
若林のやっているゲームはロックマンエグゼ3だった(知らない人すまん)
俺もそのゲームが大好きでやり込んだことがあるから一気にテンションが上がった
俺「それ、エグゼ3?俺も超やったわww」
若林「え?マジで?今度持ってこいよw」
俺「おっしゃ今度対戦しようぜww」 若林は補習の最中もゲームをしており
時折小声で俺に「なあここどうすりゃいいの?」と聞いてくる
先生にばれそうになると咄嗟に隠して、ハラハラだったw
「あぶねーよ…w」「すまんすまんw」とか言って楽しかった
ゲームを通じて一気に打ち解けることができた
帰りも、二人でエグゼの話題でめっちゃ盛り上がった 中学の時に感じた気持ちと一緒だと確信した
楽しい、気楽、これが友達って呼べるもんだろう
同じクラスの連中は取り憑かれたように成績のことばかり気にしてる
他人を寄せ付けないオーラみたいのがある
高校に来て初めての友人、それが若林だったんだ 俺はそれからよく若林とつるむようになる
若林は俺の一つ下のクラス、通称「準クラ」だった
そして俺が一番上のクラス
皮肉にも「落ちこぼれコンビ」だった
ただ若林は俺とは違い、最初から授業中にゲームしたりとやる気がなかったらしく
その結果あっという間に浮いて成績も下降していったらしい 夏休みが終わって、学校が始まってからも俺たちはよく一緒にいた
俺はと言えば、授業に出席はするものの勉強は完全放棄
若林に出会って、ある種吹っ切れてしまったのだ
先生の態度など知ったことか、勝手にしてくれ。
クラスメートに対しても、こいつらがおかしいんだ、俺は一人じゃないって思ってた
しかしこの時はまだ真面目に授業には出ていただけ良かったのだ そんなこんなで俺は若林とテキトーに遊んで日々を過ごしていた
放課後携帯ゲームの対戦したり
テキトーにカラオケに行ってみたり
平凡で楽しい毎日だった
前より学校のプレッシャーもだいぶ減ったし
とは言え田舎だったし、遊びのネタも尽きていた
二人なのでいまいち何をするにしても盛り上がりに欠けちゃうんだよな 気付くとまわりの奴らがカーディガンを着たりマフラーを巻いたりしている
あっという間に季節が巡って冬に差し掛かっていた
冬休み前の、期末テストが控えていた
期末テストは成績が悪いと長期休みの補習対象になってしまうので
生徒はみな必死になって準備に励む
もちろん、落ちこぼれである俺たちはそんな事どこ吹く風。
テスト期間は早く帰れていいね〜くらいのクズなテンションだった もちろん俺と若林は補習。
「冬休み学校行くのだるいけどこれは仕方ないか〜」と諦めていた
ただ若林は電車通いということもあって、結構嘆いていた
俺は別に補習が嫌いではなかった
あの雰囲気は悪くないし、もしかしたら仲間がいるかもしれない
一番上のクラスなのに…とかそんな恥じらいみたいのはもうとっくに無くなってた 冬休みになる。
楽しいことが沢山でウキウキの冬休みのはずが…
補習だ。でもまあ、二回目ともなれば慣れたもんだ
補習日の朝、下駄箱で若林に遭遇
「おいっす」「だり〜な〜」などと言いながら二人で教室に向かう
落ちこぼれと分かっていつつも真面目に補習には来ちゃうのが俺ららしい 教室のドアを開けるとすでに何人か人がいた
ヒーターがきいておらずまだ寒くて、みんな厚着をしたまま席に座ってた
教室の後ろの隅の席に、なんだか見慣れた顔がいた
俺「あれ?あいつ…」
若林「どした?」
小太りで、少し異様な空気感を放っている
紛れもなく同じクラスの礼二だった 太っていてハッキリとした顔立ちのそいつは中川家礼二にどことなく似ている
でも、そこにいるのは明らかにおかしかった
俺「いや、同じクラスの奴がいるんだけど…w」
若林「え、マジで?お前だけじゃないのかよw」
礼二は見た目は小太りでどんくさそうだけど
頭は良い奴だった
いつだかの試験で、現代文の最高点をとって先生に名指しで褒められていた 面白そうだったので俺はなんとなく礼二の隣に座ってみた
そして俺の右横に若林
先生が来て、ダラダラと補習が開始される
教室の前の方では女子が甲高い声をあげ先生と馴れ合い
隣の若林はマフラーに突っ伏して寝てしまっていた
本当に補習なのか…と疑問を覚えつつ
俺は隣の礼二が何か始めたのでコッソリと観察していた 礼二はスケッチブックともとれないペラペラの冊子を取り出した
何かを一生懸命書いている様子だった
気になったのでしばらく携帯をいじるふりをして見ていると
それはどう見ても「漫画」だった
あ…こいつ漫画描きたいのか…
と瞬時に何かを理解できた気がした 色んな考えが頭を巡った
成績優秀であるはずの礼二がここにいる…
そして今補習中に漫画を描いている
こいつが今ここにいるのはもしかして…
でもただ絵を描くのが趣味なだけかもしれない…
礼二のことが凄く気になった
これはもう、話しかけてみるしかない
こいつは面白いやつなのかもしれない と、申し訳ないんですが今日は一旦ここで落ちますね
一応、酉もつけておきます
こんな時間まで付き合ってくれた人ありがとう
続きは夜にでも書くよ 補習が終わった後
そそくさと教室を出ていこうとする礼二を引き止めるために肩をたたいた
俺「中川、俺。同じクラスの…」
礼二「あぁ、〇〇じゃん。分かってるよw」
俺「お前、授業中に何描いてたんだ…?」
若林は俺の隣で黙って見ていた 礼二「なんのこと?」
俺「いや、なんか描いてたよな?明らかに勉強はしてなかったろ」
礼二「…お前には関係ないだろ…?」
すると礼二はくるっと振り向いて廊下に小走りで出ていってしまった
若林「行っちまったぞ」
俺「追いかける…よな?」
若林「え〜…」 廊下に出ると、礼二がタンタンタンと勢い良く階段を降りる音が鳴っていた
ほぼ無人の校舎だから嫌なほど音が響く
若林「あいつ足おせえなw」
俺「どうせ駐輪場だろ、行こうぜ!」
俺たちは謎なテンションで「いやっほ〜!」とか言いながら階段を駆け下りた
急げ急げ、とはしゃぎながら下駄箱に上履きを投げ入れて
駐輪場に行くと礼二がちょうど自転車に乗るところだった 俺「間一髪じゃん!待ってくれよ〜」
礼二「なんなんだよ…俺行くからな」
走りだそうとする礼二の自転車の荷台を若林がつかんで止めた
礼二「なになに?ちょっとさぁ…」
俺「中川、お前漫画描いてんだろ?教えてくれよ」
礼二「まあ少しだけどな…描いてるよ」 俺「それってすげえじゃん!そんな人がこの高校にいるって思ってなかったんだよ」
礼二「いや…まあ凄いなんてことはないんじゃね…」
俺「将来の夢は漫画家だろ?夢があるってすごいじゃん!」
そう言うと礼二の目つきが変わった。
礼二「は…夢?そんなこと簡単に言うんじゃねえよ!」
いきなり激昂したもんだから俺たちは焦った 礼二「今日はじめて話して何も知らないくせによ…!」
礼二「大体お前ら、周りに何て呼ばれてるか知ってんのか…!?」
俺「いや、知らないけど…」
礼二「知らないのかよ、気楽なもんだ…」
若林「何て呼ばれてんの?」
礼二「落ちこぼれセットって呼ばれてんだよ、お前ら」 正直こう呼ばれてることはこの時初めて知った
でも、だからどうという事は何もなかった
俺「あ、そうなんだ」
若林「面白いなそれw」
礼二「何とも思わないのか…?」
俺「別に、まあ本当のことだしねw」
そう言うと礼二のさっきまでの勢いはなくなり
段々と落ち着きを取り戻しているようだった 礼二「なんか色々言っちゃって悪かったよ…」
俺「いや、全然いいけど」
礼二「ただ俺にはもう関わらないでくれ」
そう言って礼二は自転車を出して帰って行った
その後俺と若林は帰りながら、どうしたもんかと話し合った
帰り道でいきなりせき止めて
何も考えない事を言ってしまったのは俺の方だ
もしかしたら、馬鹿にされたと思ったのかもしれない ごめんちょっと離席してたわ
そう思うと俺は礼二になんだか申し訳なくなって
一言謝りたくなった
次の補習日、教室に行くとやっぱり礼二は一番後ろの席に座っていた
今日も漫画を描いてるのだろうか
この前のことがあったので、なんだか話しかけられずにいた 若林も俺も教室にはいるもののまったくやる気はない
寝てるかぼーっとしてるかゲームしてるかのどれかだ
礼二を見ると一生懸命ペンを動かしていた
夢中なようで、顔が必死だった
補習が終わると、俺はゆっくり礼二の席に近づいた
若林は席に座ったままだった 俺「な、中川」
礼二「ん、何?」
昨日の怒りが嘘のように穏やかな返答だった
俺「昨日はこっちもさ、なんかいきなり変な事言って悪かったよ」
礼二「あ、いや…あれはなんつーか俺も…」
俺「お前一人か?俺たちと一緒に帰らねえ?」
礼二「え…でもいいの?」
後ろを見ると若林が笑っていた 俺「全然いいよ!」
礼二「そっか…じゃあ帰るか?」
若林「決まりだな」
そう言って若林は俺達の背中を叩いて笑った
安心したのか、礼二も照れくさそうに笑ってた
三人で他愛もない事を話しながら駐輪場に向かった
冬だったんだけどその日はとても天気が良くて、若干温かいくらいだった 近くのコンビニで冷たい飲み物やチキンなんかを買って
食べながら三人で駅へと続く河原沿いの道を走ったんだ
本当に気持ちの良い日で
自転車こぎながら三人で、いい天気だなー!って騒いだよ
駅の近くにある小さな公園の前で俺が止まって
「ちょっと寄って行ってみね?w」
とみんなを引き止めた いい天気だというのに、人は親子一組しかいなくて
公園は静まり返ってた
俺が一番乗りで走りだして、ブランコに向かった
俺「はい!ブランコ一番乗りーww」
若林「くだらねーw」
礼二も恥ずかしそうにしていたが、ブランコに加わってくれた しばらく我を忘れてブランコで遊ぶ
めっちゃ勢いつけて遊んだり、そこから靴飛ばしたり
一通り遊んで笑い疲れた辺りで、礼二が話始めた
礼二「あのさ、昨日のことなんだけど…」
若林「お、どした?」
俺も黙ってその様子を見ていた
礼二「あのさ、あんな風に怒ってごめんな
俺さ、本当は漫画が凄く好きなんだよ」 俺「そら補習中のお前見てれば分かるよww」
礼二「こんなこと言うのあれなんだけどさ」
俺と若林は黙って真剣に礼二の話を聞いてた
礼二「俺は漫画家になりたいんだ」
礼二の真剣な態度に、俺と若林は茶化すこともなくただ黙って聞いてた 礼二はゆっくりとだけど真剣に続けた
礼二「あり得ないよな。正直、クソだよ俺。
だって〇〇高だぜ俺ら?こんな話、誰が真剣に聞いてくれると思う?」
確かに、あり得ない事だ。うちの高校で「大学進学」以外の進路など考えられない。
礼二「先生も勝手に俺のことできる奴だと思ってるし、
でも俺は本当は漫画が描きたいんだよ。」 礼二「親にも、先生にも、ましてや周りの奴らなんかには絶対相談できないだろ?
勉強しないと授業だってどんどん遅れていくし…
誰にも言い出せなくて、ずっと悩んでたんだよ…」
俺「夢があるってのいいk…」
若林「周りの目が怖い?」
ここで、若林に遮られた
礼二「それもある。うちの高校、あんな感じでしょ?」 すると若林の声色が変わった
若林「やりたい事決まってる奴が、コソコソすんのはおかしいだろ!
漫画家目指してるとか、そんなことはどうでもいいけどよ。
やりたい事があるってのは俺はすげえと思うぞ、マジで。」
若林「俺ら見てみろよ、毎日なんもやることねえw」
俺「まあねww」
若林「それで周りに落ちこぼれとか言われても、何も気にしてねえよ。
俺らなんかもっと恥ずかしいだろ?ww」 若林「人生なんて人それぞれだろ。あの高校から漫画家目指して、何が悪いよ?」
俺「俺もそう思うわ。なんつーか、俺らは応援するぜ」
若林「応援なんて言ったら、なんか安っぽいんだけどなw」
礼二「マジか…ありがとな…」
そう言ったきり、礼二は涙目になって黙っていた
そのあと、しばらく三人で黙ってブランコに乗ってた
西日が強い時間で、影が大きく伸びてたのを覚えてるよ 夕方になった頃あたりで、俺らは公園を出て若林の使う駅へ向かった
若林が別れる直前、礼二は俺らに向かって言った
礼二「俺、絶対漫画家なるわ。絶対だ。もう決めた。」
若林は笑って「ほどほどにな」と言って駅の駐輪場に消えていった
その後、礼二と俺の二人で帰った
道中好きな漫画の話で盛り上がった
漫画の事を話す礼二はとても生き生きしていて
普段クラスで見てきた礼二の顔とはまったく違った こうして俺たち三人は出会った
悔しいのは三人が繋がった場所が落ちこぼれの場所ってことだなw
でもまあ俺たちにはぴったりだと思う
礼二と若林は俺にとって大事な大事な友達で
俺の人生を話す上で絶対抜けてはならない二人だよ それから俺たちは三人はよくつるむようになった
「落ちこぼれセット」から「落ちこぼれトリオ」になったわけだが
そんなことはどうでも良かった
冬休みが明けて、学校が始まる
俺と礼二が仲良く話しているのを見て先生に言いがかりをつけられた事もあった
成績が良かった礼二が半年でガクッと落ちたから
俺のせいだと思われたんだろう >>225
この頃、というか一年の頃は描いてなかったよ
一番上のクラスだったしね… そんな事がある度に三人で
「関係ねーーよwww」とか話しておかしかった
落ちこぼれの俺たちだったけど
三人で一緒にいれば何にでもなれる気がした
学校なんて別にもう何も怖くないし
周りになんと言われようと、俺たちは俺たちなんだって
アホみたいに信じていた 今日は一旦この辺で落ちようと思う
みんなこんな話に付き合ってくれてありがとう
また今日の夜にでも書こうと思う
落ちないことを願ってる… こんばんはー
遅れてごめんね。
続き書いていこうと思う 高校一年の後半に差し掛かると俺らのクズさに拍車がかかった
授業を度々サボるようになった
と言っても無断欠席をしたりはしない、留年は怖い
嫌な授業の時は消えたり、気持ちが乗らない時に勝手に早退したり
授業をサボると、流石に先生にもよく怒られた
当時の俺たちは「関係ねえだろ」って思ってたけど
今思えばまわりの奴に本当迷惑だよな。
クラスにこんな奴がいて、さぞウザかったと思うわ でも俺達にはそれは辞められなかった
うちの高校には絶好のサボりスポットが満載だったんだ
まず1つ目が中庭。
植木や校舎の視界上、良い感じに周りの死角になるんだ
寒い日や午前中なんかはこの中庭に行く
慌ただしい時間帯には色んな人の声や足音が聞こえるんだけど
それを尻目に三人で中庭のベンチでダラダラするのが最高だった 2つ目が図書室のベランダ。
何故か図書室のベランダだけ無駄に広くて
走ったり寝転んだりしても十分なくらいの広さがあった
でもここは人目にもつきやすくて
雨が降った日限定だった
雨が降った日に行くと独特の空気感があって凄い良かった そして何と言っても一番なのが屋上な
ベタかもしれないけどww
当然立入禁止なんだけど、屋上の入り口に窓があって
その窓が中から鍵を普通に開けられるんだよなw
生徒を信用してのことなんだろうけどさ
もちろん俺たちは、これを知ってから足繁く屋上に通ったよw 初めて屋上に言った時の俺たちのテンションは異常だったなw
どっかいいとこねえか?ってなって
若林が「とりあえず上いこーぜw」って言って授業中に校舎をフラフラしててさ
屋上に通じる窓が普通に開くのに気づいてなw
若林「お前ら見ろこれwwwあくわwwww」
礼二「これは行くしか無いってことだよなww」
俺「すげえ!ww」
3人ともめちゃくちゃテンション上がっちゃったよ 凄くよく晴れた日だったんだけど、真冬だから寒い寒い
もちろんコートは教室に置いてきてるからノーマル制服の状態で
風がびゅんびゅん吹いてて「うわわわわ」ってガクガク震えた
実は中学の時にはどうやっても屋上に行けなかった俺は
それが人生初の学校の屋上だった
もうその開放感は半端無かった
周りに視界を遮るものが、なんもない
それがもう本当に爽快で仕方なかったんだ 俺「すげえなおい!俺実は学校の屋上とかに来るの初めてなんだよねww」
礼二「俺もwwなんかすげえ得した気分だwww」
若林「お前らマジかよぉ?w俺は中学の時はよく屋上行ってたぞw」
そうすると若林がケラケラ笑い出した
若林「お前らだせーなw」
俺「お前の中学がおかしいんだろww」
礼二「そうだよお前がおかしんだよww」
三人とも意味も分からず笑いがこぼれてきて、完全にハイになってたw ここからさらによく分からないテンションタイムが発生する
礼二がいきなり「せいやぁぁぁ!」と言って
でんぐり返しのような前回り受け身のようなよく分からない動きを始めた
普通の人より体格が大きいので、よりコミカルに見えた
俺「なんだよそれwwww」
礼二「お前もやってみwww」
普通ならつっこむ所であるが、俺もわけも分からず
「いやぁぁぁ!!」とか言いながらぐるぐる回り始める そうすると見ていた若林がツボにはまったらしく、大笑いしていた
若林「wwwwwなんだよそれwwwふざけんなwww」
俺と礼二ももう楽しくなっちゃって奇声を出しながら派手な動きを続ける
若林「ムービー撮ってやるよww」
と言われて俺と礼二が狂ったように「よいしょぉぉぉ!」
とか言いながら前転を続ける様子を動画におさめられた 見直すとその姿がなんとも滑稽で
3人で「なんだこれwwww最高www」
って言ってアホみたいに笑った
本当にこーんなくだらない事で本気で笑えてたんだよな
それ以来屋上は俺らの中で「何故か楽しくなっちゃう魔法の場所」として定着した
サボりスポットの中でもダントツで好きだったし
滅多なことでは誰にも見つからない
本当に解放されてる気がする最高の場所だった めんどくさい授業になると
礼二と二人で隣の教室に行ってドアから若林を呼ぶんだ
そうすると若林はニヤッと笑って
口パクで「行くか?」って言うんだよ
それが可笑しくて仕方なくて
いっつもこの瞬間がワクワクした
俺たちには逃げ出せる場所がある、そんな風に思えた めんどくさい授業になると
礼二と二人で隣の教室に行ってドアから若林を呼ぶんだ
そうすると若林はニヤッと笑って
口パクで「行くか?」って言うんだよ
それが可笑しくて仕方なくて
いっつもこの瞬間がワクワクした
俺たちには逃げ出せる場所がある、そんな風に思えた 晴れた日に屋上に行かない手はない
日常の中の非日常って感じで、俺らは大好きだった
いつもやってた礼二の漫画談義がめっちゃ面白かった
礼二がノートとペンをもってきてて
どんなストーリーやキャラクタが面白いか聞いてきた
それに対して俺たちはああでもないこうでもないって議論して
三人でフェンスに寄りかかって
「こんな奴がいたら面白い」「こんな学校があったら楽しいんじゃないか」
とか言い合ってた そんなこんなで俺らの楽しくて快適なサボりライフは続いていたんだけど
一年の終業式を直前に迎えたある日、とうとうそれはほころんだ
いつものように授業をサボって屋上でダラダラしていた
いつものように時間が過ぎて、いつものように教室に戻れると思っていた
「お前ら何してんだ?」
遠くの方で声が聞こえた
俺は驚いて思わず「うおっ」って声を上げてしまった それはうちの高校でも特に厄介な生徒指導のKだった
K「最近授業をサボる奴がいるからと見に来れば…
おめえらだったのか」
チッ、と若林が舌を鳴らした
俺たちは思わず睨んでしまった、Kはまだ何も言っていない
俺たちもガキだったんだ
K「こんなとこでコソコソやってたんか、どうしようもねえ奴らだな」
そう言うとKは黙って振り向いてドアと窓を閉めていった 礼二「おい、中から鍵閉められたらまずいんじゃねえの?」
思えばそうだった
中から鍵をかけられるとこの屋上に閉じ込められる形になってしまう
しかも授業は午前最後の時間だった
弁当も教室に置いてきていたので、午後まで閉じ込められるのは非常にきつかった 俺がとっさにドア付近の窓に近づいて
俺「先生!ちょっと待って下さいよ!」
と言ってみたが
K「しばらくそこにいろよ」
と言ってKは階段を降りていった 礼二「行っちゃった?」
俺「うん…あれいつ戻ってくるんだよ…」
若林「わり、俺が舌打ちなんてしたからだわ」
その場は一気にお通夜ムードになってしまった…
かと思いきや
案外のんきなもので
「屋上に閉じ込められるとかウケるなwww」
「トイレだけ我慢大会だなwww」
とか言って案外状況を楽しんでいた
さすが落ちこぼれの俺達だ 礼二「行っちゃった?」
俺「うん…あれいつ戻ってくるんだよ…」
若林「わり、俺が舌打ちなんてしたからだわ」
その場は一気にお通夜ムードになってしまった…
かと思いきや
案外のんきなもので
「屋上に閉じ込められるとかウケるなwww」
「トイレだけ我慢大会だなwww」
とか言って案外状況を楽しんでいた
さすが落ちこぼれの俺達だ でもこれで屋上は使えなくなるかなぁとか
いやいやまだ使えるっしょ、とか気楽に話してた
午後の最初の授業が終わった辺りで、Kは戻ってきた
さすがの俺たちも空腹が限界に達していてやばかった
授業には戻ることになるけどそれでもいいや、って思った
K「おうお前ら生きてたか」
俺「ええまあ…」
若林「すいませんした」
とっとと謝って戻ってしまおうと思った でもこれで屋上は使えなくなるかなぁとか
いやいやまだ使えるっしょ、とか気楽に話してた
午後の最初の授業が終わった辺りで、Kは戻ってきた
さすがの俺たちも空腹が限界に達していてやばかった
授業には戻ることになるけどそれでもいいや、って思った
K「おうお前ら生きてたか」
俺「ええまあ…」
若林「すいませんした」
とっとと謝って戻ってしまおうと思った Kにはこっぴどく叱られると思っていたが
俺たちが予想したのはまったく違うものだった
K「あのよ、お前らが授業受けないとかそんなのは本当にどうでもいいんだけど。
屋上には来るんじゃねえよ。これは規則だから、破られたら困るの」
俺「はい…」
K「分かったら出てけ。いいな。」
三人「はい…」
K「あ、それと。別に授業には戻らんでもいいから。勝手にしろよ。
ただ屋上には来るな」 俺「え?…とそれは…」
K「どうせ授業出たってやることないんだろ?まあいいや好きにしろ」
Kは半笑いで俺たちに向かって言った
若林「は?」
K「いいから。さっさと降りろ。俺も忙しいんだよ」
促されるままに俺たちは屋上から続く階段を降りていった
そしてKはそのまま俺たちなんてなかったかのように
何も言わずに階段を駆け下りていった Kのこの態度は俺の心に深く突き刺さった
礼二と若林がどうだったかは知らないが
俺は正直、心のどこかで怒られることを期待していたのかもしれない
先生からの当てつけ、そんなもの今に始まったわけではないが
この日のKの俺たちに対する仕打ちを、俺は忘れることができない
階段の踊り場で呆然と立ち尽くす俺達は
本当に惨め以外のなんでもなかった 悪いのは俺たちだ
「ほら急げ!授業に戻れ!」という注意すらされない
落ちこぼれだって言って、でも本当はどこかで間違ってるってことも分かってたんだと思う
全部諦めたふりをして、諦めきれていないものがあるんじゃないかって
俺たちはこの日そのまま帰った
授業中の教室から荷物だけむしり取って
三人で自転車に乗って帰った
礼二と若林は話していたけど、俺だけがずっと黙っていた その後終業式を終えて
俺たちの高校1年ライフは幕を閉じる
今思えばけっこう濃い一年だったな、色々あったわ
でも、高校2年の一年はもっと濃いんだよな
春休みには、何故か補習がない
これは俺らにとっては大助かりだった
礼二の家か俺の家に集まって頻繁に遊んだ
若林は遠いのもあったが、頑なに自分の家に人を呼ぼうとはしなかった とにかく俺たちはゲームの趣味が合った
元々若林と俺もゲーム好きだったし、礼二もそういうことに詳しい
三人で集まって狂ったようにドカポンとスマブラをやってた
この春休みを利用して「クソゲー探訪」なるものも企画して
各々クソだと思うゲームを持ち寄って
クリアするまでやめられないというドMな耐久大会もやったりしたw
馬鹿そのものだったけど、本当に楽しかったなぁ そして新年度が訪れる、4月だ
2年になるとクラス替えがあり、文系と理系も分けられる
俺と礼二は当然のごとく文系、そして文系のドンケツのクラスだった
まあまあ予想通り、といったところだった
若林だけは何故か理系を選択していた
理系なんて色々大変なのになんで?と聞いても
「まあどうせケツクラだし、理系でもいっかなと思ってw」
とてきとうな事を抜かしていた そして初々しい新入生たちを見て、去年の自分を思い出した
一年の春は必死だったなぁ…この中から俺のような落ちこぼれが出るんだろうか
ともあれ、一番上のクラスから脱出して晴れて「ケツクラ」になれた
その開放感は凄まじいものだった
始業式当日から礼二と教室でハイタッチしたしなw
「いえーい!念願のケツクラだぞ!」って
まあ本当に嬉しかったんだけどな こうして落ちこぼれトリオは三人ともケツクラになって
真の落ちこぼれになってしまったわけだけど
そっちの方が気が楽で俺たちには好都合だった
現に、ケツクラの雰囲気は今までのクラスとはかなり違っていた、と思う
なんというか張り詰めたいやらしい緊張感というか、そういうのが無かった
そして始業式から数日たった日、俺は律儀にも掃除に参加していた
学校の掃除に参加するのなんて、ものすごく久しぶりなことだった 場所は保健室
保健室ってのはいいよな、学校でも異質な空間だと思う
うちの高校の保健室は広くて、2つの組で保健室の掃除を行う
片方がベッドや床など、もう一方が器具や水槽、外のベランダなど
俺も久々の掃除ってこともあって揚々と作業に励んでたんだ
「先輩?先輩じゃないですか?」
と、俺を呼ぶ声が聞こえた
だいぶ聞き覚えのある声だった 振り向くと、小さな女の子が驚いた顔で俺を見ていた
同じ中学の後輩のTだった
部活が一緒だった(運動部なので男女違うが)こともあって
割と仲の良い後輩だったんだ
俺は凄く驚いた
「T?Tじゃんか!」
と一気にテンションが上がった まさか、うちの中学からこの高校に来る奴がいるとは思わなかった
いるにはいるが、毎年は来ない
それも見知った後輩のTだ、これは純粋に嬉しかった
T「先輩がいるのは知ってたんですがwwまさかこんな所で会いますか?ww」
俺「本当だよな!ってかTがここ来るなんて思ってなかったwwすごいなww」
T「それは先輩もじゃないですかww先輩中学の時からすっごく頭良かったし!w」
Tに自分が落ちこぼれであることなんて、絶対に言えない まさか、うちの中学からこの高校に来る奴がいるとは思わなかった
いるにはいるが、毎年は来ない
それも見知った後輩のTだ、これは純粋に嬉しかった
T「先輩がいるのは知ってたんですがwwまさかこんな所で会いますか?ww」
俺「本当だよな!ってかTがここ来るなんて思ってなかったwwすごいなww」
T「それは先輩もじゃないですかww先輩中学の時からすっごく頭良かったし!w」
Tに自分が落ちこぼれであることなんて、絶対に言えない 俺「いやいや…それは…w」
後輩「私準クラ?になっちゃったんですよー…ついていけるか怖いです。」
俺「凄いじゃんかぁ、頑張りな」
どうしても見栄が出る、ここで「俺今年からケツクラwww」
とはどうしても言えなかった
後輩「あ、先輩!どうせならアドレス交換しときませんか?」
Tがニコニコして携帯を取り出す
俺「お、いいね!…あれ…携帯がねえぞ…」
この時、俺はガチで携帯を教室のカバンに忘れていた と、申し訳ない今日はここで一旦落ちさせてくれ…
明日早くて、もう眠気が限界なんだ
続きはまた今日の夜にでも書くよ!
今日も遅くまで見てくれた人はありがとう こんばんは
遅れてすまぬ〜
続きを始めたいと思います 俺「あれ、マジでないや…ごめん…」
T「えー先輩何言ってんですか…!私とアドレス交換するのそんな嫌ですか?w」
俺「んなわけないじゃんwおっかしいな教室か?」
本当に携帯を持ってないことに気づいて焦った
せっかくの偶然とチャンスだと言うのに 俺「ちょっと抜けて教室今から行くわww」
T「あ、それはダメですよ〜w今掃除の時間なんですからw」
真面目な子である
俺「あ、そうかな…?」
T「アドレスはまた機会があったらでいいですよ」
そう言うとTはニコッと笑って自分の持ち場の方へと行ってしまった
この時アドレス交換できていれば良かったんだが そしてそのまま掃除は終わる
持ち場の先生の元に2組が集合して報告会
その日の反省点や要望を出し合う
「おつかれさーっしたー」と号令をかけておしまいだ
帰り際、Tが俺に笑って手を振ってくれた
か、可愛い
なんだか調子が狂ってしまうようだった そして俺、この出来事を礼二と若林に伝えられず。
わざわざ自分の中学から後輩が来たよ、って言うのもおかしいかなと思った
俺は次の日の掃除の時間が楽しみだった
驚きなことに、俺は高校一年のあいだ一人たりとも女友達がいなかったのだ
クラスの女子と会話程度はしていたが
だからこそTに会えるのが楽しみだった でも次の日掃除場所の保健室に行くとTの姿はない
同じ組の子に聞いてみる、「今日Tはどうしたの?」
「あ、風邪で学校お休みですよー」
え?なんてタイミングの悪いやつだ、T
こちとらその日はバッチリ携帯を準備していったというのに…
でもどうせ明日もあるし明日でいっかって思った
が…その次の日もTは学校を休んだ
浮かれていた自分がなんだか恥ずかしくなった そのまま週が変わって掃除場所もチェンジなわけだ
はい、Tに会える機会は損失しました
少し落ち込んだけど、同じ学校にいる限りいつか会えるだろうと思っていた
正直新しいケツクラになってからは
クラスメイトともそれなりに仲良くできていて
女友達も数人できていたんだ
一年の頃のクラスだったらTとの事は凄まじく後悔しただろうけど
ケツクラでは心に余裕があったんだ しばらくして、俺と礼二と若林は三人で一緒に帰ろうとしていた
下駄箱に上履きを投げ捨て、「どこ寄ってくよー?」とか言いながら
いつも通りの帰宅風景だ
すると正面玄関のはしっこでTがポツンと一人で立っていた
Tは俺に気付くと笑って手を振った
俺も笑ってそれに返した
礼二と若林もこれに気付いたが、特に触れることもなく
その日はそのまま帰った その日は別に何とも思わなかった
別に正面玄関に一人でいてもおかしくはないだろう
誰かを待っていたのかもしれないし、そんなのはよくあることだ
その次の日は、若林が用事があるとかで確か礼二と二人だったんだけど
またTが正面玄関の端っこの傘立てに座って一人でいた
そして、俺に気付くと笑って手を振った
俺は多少驚きつつも、手を振り返した 礼二がこれに食いつく
礼二「あの子昨日もあそこにいなかった?」
俺「そうだね。誰か待ってんじゃないの?」
礼二「そっか。知り合い?」
俺「ああ、中学の後輩よ」
礼二「あ、なるほど」
と、この日も特に何も気に留めずこのまま帰宅 そして次の日の放課後、また俺と礼二と若林は三人で帰ろうとしていた
すると、またTが正面玄関の端に立っている
さすがにこれには俺もすこし驚いた
そして俺に気付くとまた笑って手を振ってくる
礼二「あの子今日もいんじゃんw」
若林「何?昨日もいたの?ってか誰?」
俺「俺の中学の後輩だよ」 若林「お前にあんな知り合いいんだなw」
俺「ひっでーなそれ」
礼二「昨日もいたよねww」
若林「そうなのか、変わり者だなww」
俺「そんなことないと思うんだけどなぁ…」
Tは一体何をしてんだろう?
この時の俺にはTはの行動がよく理解できなかった
というより、誰かを待ってるだけだろう、と思ってた 若林「お前にあんな知り合いいんだなw」
俺「ひっでーなそれ」
礼二「昨日もいたよねww」
若林「そうなのか、変わり者だなww」
俺「そんなことないと思うんだけどなぁ…」
Tは一体何をしてんだろう?
この時の俺にはTはの行動がよく理解できなかった
というより、誰かを待ってるだけだろう、と思ってた それから数回、俺達が授業が終わって通常の時間に帰る時は
Tが玄関にいて俺を見つけると笑って手を振ってくるという事があった
早々にサボって帰る時や、放課後校舎で時間を潰してから帰った日にはいなかった
それから何回かして、また帰り際に正面玄関にTがいた
いつものように笑って手を振ってくるわけだが、若林が言い出す
若林「またあの子いるな。なんなんだろうな一体。
おい5、お前の後輩なんだろ?」
俺「そうだけど」
若林「お前、なんかあった?」 俺「あ…」
帰りながら、俺は礼二と若林に先日の掃除の一件を話した
礼二「なんだよそれずりーな!ww」
若林「ってかもう、それ完全にお前じゃん」
礼二「5のこと待ってたんじゃん、ふざけんなよ」
俺「いや、まだ分かんなくね?w」
若林「ってかお前それ早く言えよ。知ってたらもっと早くなんとかしたのに」 若林はこういうことに何故だか熱い男だ
若林「ってかそれお前と話したくてあそこでずっと待ってたってことじゃん。
どんだけいい子なんだよ。お前、しっかりしろよ」
俺「本当に俺かー?」
仲は良かったけど俺に好意を持つなんて考えられなかった
若林「他の人待ってたら笑って手なんか振るか?」
礼二「5見つけるとめっちゃ反応するもんねww」 若林「そうとなりゃ、お前明日一人で玄関でろ。
俺ら靴持って教員昇降口から出っからww」
俺「えー…なんか恥ずかしいんだけど」
若林「バカ言え。あのままずっと待たせる気かよ」
礼二「ちゃんと事後報告してくれよw」
と言われて、そういう事になってしまった 次の日の放課後
若林「俺ら先行って靴持ってくるからw」
そう言って若林達は下駄箱から靴を持ってきた
そして俺は促されるままに、一人で正面玄関に行った
その日も、Tは正面玄関の端っこに立っていた
俺が一人で外に出ようとすると
T「先輩!」
俺を呼ぶ声がした T「今帰りですか?」
俺「そうだよーTも?」
T「私もですww」
そう言うとTは笑いながら答えてくれた
T「今日は一人なんですね」
俺「そうだね…」
会話がなかなか進まない T「話すの掃除の時以来ですよねw」
俺「そうだねーwあの時はビビったw」
T「先輩、今日は携帯持ってますか?」
俺「持ってるよww」
T「あ、じゃあ良かったらアドレス交換しませんか?
こんなところで申し訳ないんですけど…」
俺「あ、全然いいよ!w」
どうやら、Tは本当に俺を待っていたようだ この時、本当に焦った
まさか本当に俺とアドレス交換したかったって思わなかったから
そう考えると、Tにすごく悪いことをしたような気になった
若林の言ってたことがビンゴだったじゃないか
T「なんか突然すいません…」
俺「いや、全然いいってwアドレス交換しようって話してたしねw」
T「ありがとうございます」
Tは本当に嬉しそうににこにこ笑った T「あ、じゃあ…私これで帰ります」
俺「うん、気をつけてねw」
T「さようならー」
Tはそう言って笑って手を振って帰って行った
その後俺は少し間をおいて外に出ると、後ろから背中をバシッと叩かれた
俺「イテッ」
礼二「お前wwww何やってんだよwww」
俺「は?教員用の方から出てったんじゃねーの?」
若林「わり、下駄箱の陰から見てたわw」
俺「ふっざけんなよww」 その後いつものように三人で自転車を並べて帰るわけだが
いつになくハイテンションモード
礼二「お前さー!マジさー!一緒に帰れたんじゃねー?ww」
俺「いきなりは困るだろwww」
若林「いけたなーアレは。ってかあれもう完全に惚れてるじゃん」
俺「いや分からんだろー…」 礼二「いいねーーー!!青春はさーー!!」
河原沿いの道を自転車で走りながら礼二と若林は叫びだす
若林「くそがーーーー!!!」
馬鹿丸出しだったと思う
でもそれを見てるのがおかしくって
俺も一緒に大笑いしてしまった その日早速Tからメールがあった
確か「今日は本当にありがとうございます」みたいな内容だった
本当に律儀な子だ
メールをしてるうちに気付いたが、Tは俺の下駄箱の位置から
俺がケツクラあるいはそのクラス帯である事はなんとなく分かっていたらしい
でもそんなことは全然気にしていないようだし
本当に俺は考えすぎだったんだな Tからメールで、何か部活入ったほうがいいんですかね?みたいに聞かれたので
部活に入ったほうが居場所は見つけやすいんだろうなぁと思った俺は
とりあえず気になるところは見に行ったほうがいいよ、と伝えた
若林と礼二に出会えたからいいものの、俺は部活やらなかった事を少し後悔してたし
文化系の部活なら勉強とも両立しやすいだろうし
Tなら大丈夫だろうけど新しい環境にすぐ溶け込めるようにしてあげたかった すると、Tは軽音部に入ることに決めたらしい
校内でギター背負ってる奴とかたまに見かけるし
やる気のないうちの部活の中では貴重な、割とまともに活動してる部活だった
あの小さなTが、ギターかかえてるところを想像するとなんか可笑しかった
そしてTと俺との一件があってから、俺たち三人のサボり病がまたぶり返した
4月最初はなんとかこらえていたが、徐々に耐え切れなくなったんだろう あの一件以来、若林と礼二の中でTがアイドル扱いになっていた
ずっと待っててくれる健気な天使、と若林が勝手に称し
それに礼二も悪ノリしていた
「最近どうなん?」「あれから進展ないの?」と
しばらくそればっかりになった
けっこうな頻度でメールは来るが、特に進展はなかった
正直、俺はすごく複雑な気持ちで
なんだかモヤモヤしてしまい、授業をよくサボるようになった Tは本当に俺が好きなのか
もし俺を好きでいてくれてるとして、俺はどうしたらいい?
俺はTが好きなのか?
この時、本当にモヤモヤ悩んだ
何をそんなに悩む必要があったのか分からないんだけど
目の前の状況を受け入れられなかったんだと思う
それで頻繁に礼二と若林を連れ出して授業を放棄した そんなこんなで、しばらく今までどおりの自堕落な生活を送っていた
教室にいて寝てるか、中庭で時間を潰すか、帰るか
反省せずにたまに屋上に行くこともあった
やる気が起きず、教室でただ寝てるだけって時間も増えていった
そんなこんなで6月くらいになった
Tからのメールは相変わらず来ていて、どうやら軽音部はとても楽しい様子
楽しく過ごせているみたいで良かった その日俺は昼飯の量が少なくて、腹が減ったので午後最後の授業をサボって帰った
礼二は熟睡していたので放置、若林もメールしたが返答なしだったので
一人でこっそり教室を出て行った
この日は運が悪かった
授業中で生徒に会わないはずなのに
一階の廊下でプリントを抱えたTとバッタリ会ってしまった T「あ、先輩こんにちわーww」
俺を見つけてTが笑顔で話しかけてくる
俺はカバンをかついで完全に帰宅モード、どうするんだ?
T「あれ、先輩帰るんですか…?」
もう、どうとでもなれと思った
俺「帰るよ。サボりってやつだねwwww」
T「そうなんですか…でもそんな時もありますよね。
気が乗らない時は無理しすぎちゃダメですもんね。」
そう言って笑った
どんだけなんだよ、君は 俺「そういうTは何してんの?」
T「あ、先生に頼まれたのでwプリントコピーしてきましたw」
雑用かよ、真面目過ぎる…と思った
俺「手伝おうか?」
T「私を手伝うくらいなら授業に出てください!w」
Tはそう言ってまた笑った 俺も苦笑いしながら
俺「そういえば、部活は楽しいみたいだね?」
T「はい!すっごく楽しいです。楽器に慣れてくのも楽しいし、
何より友達がみんな面白くてw」
俺「それはなによりだねーw」
T「先輩が部活入ったほうが良いって言ってくれたからです」
T「ありがとうございます。」
Tは笑顔でお礼を言ってそのまま階段を上って行った ありがとうございます
俺に向けられたその言葉の意味が分からなくて
何度も何度も考え込んだ
なんでこんな俺がTにお礼を言われてるんだろう、と思った
何事も一生懸命で真面目に頑張っているT
Tと話して、自分の空っぽさに気付いた
俺は一体何をやってるんだ?
帰り道で自転車に乗りながらずっとそんな事を考えてた 「変わりたい」そんな事は思わなかったけど
変わろうともがいていたのかもしれない
こんな落ちこぼれの自分をTが好きでいてくれるのが嫌だった
なんというか、申し訳なかった
それから夏休みまでの間は、極力授業を抜け出さないようにした
それでも授業はほとんど寝てしまっていたし
進歩なんてほとんどしていなかった そして何も踏み出せないまま夏休みが近づいていた
舞い上がった俺達は油断して終業式直前の日に
授業をサボって中庭で炭酸ジュースで一杯やっていたw
各々自販機で買った炭酸だ
礼二「かーっ!やっぱ授業中に飲むコーラ最高だな!」
若林「おまえそれやめろww」
とか言って完全に油断して調子こいてたわけです そこを偶然先生に見つかってしまう
しかも運悪いことに、俺たちの担任の先生だった
担任「お前ら何やってんだ?!授業中だぞー!?」
急いで走って逃げた、後ろから「待ちなさい!!」と怒鳴られる
それを尻目に俺らは一目散に校舎に戻って走った
しかし逃げても俺と礼二はダメ
そりゃそうだ、相手は担任なんだから 放課後担任に呼び出された
結局若林も何故だかバレていて呼び出された
こっぴどく叱られるかと思ったが半分もう愚痴だった
「いい加減にしてくれんか?みんな真面目にやってんだぞ?風紀を乱すな。
お前らは本当に不良だよ。」
不良、と言われた事が笑えた
こんな高校の、不良
不良にもなりきれていない中途半端なもんだ 若林「俺たちが不良だってよ!!あほらしーなwwww」
礼二「いえ〜いww俺がヤンキーでーすwwww」
俺「マジ可笑しかったなwwww」
帰り道、三人で自転車に乗りながら相変わらずのテンションだった
いくら俺が今の自分に悩んだところで
三人でいると不思議と楽しくて、結局いつも通りになっちゃうんだよな
三人で大笑いして、それが楽しいからいいんだとこの時は思ってた そんなこんなで担任に不良宣告を受けて
俺たちは夏休みを迎えた
もちろん補習があって学校に行かなくてはならない
しかも今回は日程が分散していてなんだかめんどくさい
それでも俺たちは夏休みが楽しみで仕方なかった
この夏休みにやりたいことが沢山あったからだ ということで今日はこの辺で落ちようと思います
まだしばらく続くかと思いますが…
今日も遅くまで見てくれた人はありがとう
続きはまた今日の夜書きますねー >>457
ありがとう。
基本は「落ちこぼれ」だけどねw
特に俺ww こんばんは
今日も遅くなってごめん!
続きを書いていこうと思いますー この夏休みでやりたい事
その第一が礼二の漫画の持ち込みだ
とは言えこれは俺がやりたい事ではなく礼二のやりたい事だが
それでも俺たちは礼二が漫画を描くことを凄く応援していたから
礼二が漫画を持ち込みに行くのは他人事ではなかった 俺たち三人でバカをやっている最中
俺と若林は本当にただ毎日を浪費していたのに対し
礼二はコツコツと毎日漫画を描いていたようだ
それも、この夏に持ち込みに初挑戦する、と息巻いていたからだ
礼二は基本賑やかで面白い奴なんだが
時折弱音を吐くこともあった
「漫画を一人で描くのは難しい」「気が滅入る」 まったく絵心のない俺と若林は礼二の漫画制作を手伝えなかったが
弱音を聞くことはできた
礼二が真剣に語る時は、大抵悩んでいる時なんだ
そんな時は俺らも親身になって話を聞いた
やりたい事と現実の狭間で、礼二も不安を感じていたんだろうか
それでも礼二は最後にはいつも「でもやっぱり漫画が好きなんだ」
って笑顔で締めてくれる
そこが礼二のいいところだった 自分の好きな事を真剣に語る礼二を見て
俺はいっつも言いようのない気持ちを抱いていた
憧れのような、焦りのような…
自分も礼二みたいに何かなすべき事が見つかるのかなって不安だった
夏休みに入ってすぐくらいだったろうか
礼二から俺と若林にやけにテンションの高いメールが届いた 礼二の漫画が完成したことを伝えるメールだった
その日俺たちは礼二の家に集合した
礼二「やっとできたんだ…良かったら見てもらおうと思って」
俺と若林はその出来立ての原稿とやらを恐る恐る眺めた
俺たちは、礼二の描く漫画が好きだった
さすがに雑誌に載ってるようなプロよりは絵はけっこう劣ると思うけど
何より話が面白くて好きだった
身内補正だったのかな、それでも好きだった 俺「よく完成させたな、面白い」
若林「俺も好きだよ」
俺たちが軒並み褒めると、礼二も安心したのか
「あ〜まじか〜〜」と唸り声を上げた
思わず全員でハイタッチを交わしてしまった
礼二の夢が始まる気配がして、俺は本当に嬉しかった
「あとは本番だ」と礼二は繰り返し俺らに語った その日の帰り道、若林が柄にもなく
若林「あいつ、頑張ってるよな。俺も、何かしてえわ…」
と俺に口をこぼしたのが妙に印象的だった
普段、夢とかやりたい事なんて滅多に言わない若林だけに
俺は珍しいこともあるもんだって驚いたんだ
それだけ礼二の夢への前進は俺らにとって大きな事だったんだと思う
その日からしばらくたって、礼二が東京に行くという日がやってくる 前日、若林は俺の家に泊まって
早朝、駅まで礼二の見送りに行った
行くということは言っておらず、電車の時間だけ聞いていたので
礼二はめっちゃ驚いていたw
俺「おい、礼二!自信持って行けよーー!!」
若林「お前ならいける!!びびんなよ!!」
と言って俺らは礼二の肩やら頭をバシバシ叩いて励ました 言葉足らずですまんwww
この「礼二が東京に行く」ってのは漫画の持ち込みに行くってことなww
転校とか引越しじゃないよ、間際らしくてすまんw >>491
礼二はなんか几帳面な奴で、郵便事故をめっちゃ恐れていたらしいw
で、こういう形にしたらしい
詳しくはよく覚えてないし知らないのだが 礼二「分かってらw行ってくる」
礼二は緊張していたのか、口数も少なく
改札で俺たちに向かって深く頷いて電車に乗って行った
若林「なんとか上手いこといくといいよな」
俺「だね。あんだけ頑張って描いてきたんだし」
俺たちも礼二から良い報告を聞けることを楽しみにしてた
と、同時に漠然とした不安も当然あった 礼二が帰ってくる電車の時間は夜だった
俺たちはそれまでしばらく俺の家に戻ってダラダラしたり
市民プールなんぞに行って涼をとったりしていた
そんなこんなで夜になって、俺達は再び駅に行き
礼二の到着を心待ちにしていた 静かで人影まばらなホームに電車が着いて
「これじゃね」と俺達が気づく
が、その電車から礼二は降りて来ず
一本、二本…と後続の電車からも降りてこない
結局それからだいぶ待って、礼二が降りて来たのは
予定より三本も遅い電車だった 俺たちは礼二を見つけると
「おつかれさーん」と手を振った
が、礼二は反応しない
俺たちの前まで来ると、顔も合わせず「ごめん」とだけ言って
駅の出口から走って行ってしまった 「礼二どうしたんだよ!!」と言っても
声をかける間さえないまま礼二は走って行ってしまった
俺たちも急いで駅の駐輪場の方へ走って追いかける
駐輪場で自転車の鍵を開けている礼二を若林が捕まえる
若林「おい!俺たちずっと待ってたのに黙って行っちゃうなんてあんまりじゃねえか」
俺「何があった?」 若林「そんなにダメだったのか…?」
俺たちが何だか励ましムードみたいなものを発動した瞬間
礼二はカバンから原稿が入った封筒を取り出した
礼二「こんなのじゃ…無理なんだ…!」
礼二はそう言ってその原稿をビリビリに破り捨てた
突然の事に、俺も若林もあっけにとられた
そして礼二はそのまま自転車に乗って行ってしまった 若林「おい!俺はこれ拾ってくから、お前早く追いかけろ!」
礼二は捨てられた原稿を集めながら俺に言った
俺は促されるまま急いで自分の自転車に乗って礼二を追いかける
立ち乗りで、全力で自転車を漕いだ
前方に小さく見える礼二を必死で追いかけた
すると、夕方降った雨のせいで路面が悪かったのか
礼二は角で曲がりきれずに派手に転んだ 礼二はそのまま道にうずくまった
俺は焦ってすぐに自転車を止めて礼二に駆け寄る
礼二「ぅぅ…いってえ……」
俺「おい、大丈夫かよ…」
礼二「くっそ…なんでだよ…なんでだよ…」
礼二はそのまま下を向いて泣き始めた
俺は泣き崩れる礼二にかける言葉が思いつかず
そのまま黙って見ているしかなかった しばらくして、若林が俺らに追いついた
若林「なんだこれ」
俺「転んだ」
若林「おい、礼二。お前これどういうつもりなんだよ」
そう言って若林は雨水でぐしゃぐしゃになった原稿をヒラヒラさせた
俺「礼二、いきなり逃げるなんてあんまりだぞ」
礼二「ごめん…ただ、申し訳なくて…」
礼二は泣き崩れた顔で必死に謝った
礼二「あんなに二人とも楽しみにしてくれてたのに、自分情けなくなっちゃってさ」 礼二「俺もう漫画描くのやめようかなぁ…向いてないんだよ」
若林「たった一度の失敗でやめんのか?本当にやめんのか?」
礼二「もういいんだ…漫画家なんてなれっこねえよ…」
すると若林が拾った原稿を礼二につきつけた
礼二「…は?」
若林「書けよ、続き。俺は読みたいんだよ、その続きが」 若林「漫画家になるのが難しいなんて、そんなのお前が一番分かってんじゃねえの?」
礼二「ああ…」
若林「漫画が好きなんだろ?」
そう言うと礼二は黙って原稿を受け取って、泣きながら頷いた
なんだか俺も泣きそうだった
若林「忘れんなよ、読者一号は俺だからなw5は二番目なww」
俺「は、なんでだよww」 その日俺たち三人は、その場で泣き笑いしながら遅くまで話した
めちゃくちゃに腹が減って帰りに三人で一緒にラーメンを食べて帰った
その日に三人で食ったラーメンが信じられない程に美味くて
いまだにこの時のラーメンを超えるラーメンに俺は出会っていない
三人とも、なんというか凄い全力だった
本気でぶつかり合えるっていいよなって実感した日だった その日俺たち三人は、その場で泣き笑いしながら遅くまで話した
めちゃくちゃに腹が減って帰りに三人で一緒にラーメンを食べて帰った
その日に三人で食ったラーメンが信じられない程に美味くて
いまだにこの時のラーメンを超えるラーメンに俺は出会っていない
三人とも、なんというか凄い全力だった
本気でぶつかり合えるっていいよなって実感した日だった ごめん一旦、風呂に行ってきます
しばし離席するけど30〜40分でもどってきますー 戻りました
この一件からしばらくたって
長期休暇の定番とも言える補習がやってくる
補習はしんどくて嫌だったのだが
何故だか今回の補習は午後からだった
教室や、自習室との解放の兼ね合いなのだろうか
俺たちは朝遅くまで寝ていられることに狂喜したね でも午後開始だったので
家から出る時間が一番熱くて仕方なかった
毎回汗だくになって学校まで自転車をこいだ
補習に行くっていうのにタオルと制汗スプレーを持っていくのが馬鹿らしかった
補習何日目かの帰り、正面玄関で楽器を担いだ連中と出くわす
軽音部のご一行のようだった あ〜補習が午後だと部活やってる連中らと帰りがかぶるのか
と気づいてなんだか恥ずかしい気持ちになった
T「先輩、こんにちは!」
Tが、俺に声をかけてきた
若林と礼二も一緒だったので、Tはその二人にも笑って「こんにちは」と声をかけた
若林「やべー!!」
若林が急に声を上げた 若林「おい、礼二のあれ、やばいんじゃねーか?」
礼二「あ、そーだわwww」
若林「ちょっと俺ら一旦教室戻るから、今日は先帰ってww」
と言って若林と礼二はそそくさと正面玄関から引き返していった
俺「あれって何!!?」
と聞いてももう遅くて二人は一目散に階段を上って行った 正直迫真の演技だった
本当に何か忘れてて教室に戻ったかのように見えただろう、Tには
俺「なんかあいつら、大変みたいね。」
T「大丈夫なんですかね…?」
俺「Tも、部活の人と一緒に帰らなくていいの?」
T「大丈夫ですよ、同じ方向の子あんまりいないんですw」 これはやられた!と思った
もうこれは完全に二人で帰る流れじゃないか
この時俺はTに大して色々複雑な気持ちだったから
正直二人きりで帰るのが怖かった
俺「じゃ、途中まで一緒に帰ろうか?w」
T「はい、いいですよw」
そう言うとTは頷いて笑った 俺「そのギター、重そうだねw」
T「あ、今ギターって言いました?これベースなんですよw」
Tはその小さな体に重そうなベースを背負っていた
T「間違えないでください!」
そう言うとTは怒ったふりをした
俺がごめんごめん、と言うと
T「許しますww」
って言って笑った 俺が駐輪場の方に向かうとTが正門に向かっていった
俺「あれ?自転車はどうしたの?」
T「今日昼間親の車で来ちゃったので…」
Tが申し訳無そうに言った
俺「じゃあ迎え呼ぶのかい?」
T「歩いて帰ろうかな、ってw」
俺らの中学の方まで歩いたら一時間近くかかるんだが
Tはそれを平然と言ってのけた 俺も自転車を引いて歩いた
自転車を挟んで、右隣をTがが歩いた
T「先輩は今日は…」
俺「あ、俺補習なんだよww恥ずかしいことに…w」
T「あ、そうなんですかー?ちゃんと勉強しないとダメじゃないですかw」
Tには俺がケツクラとか補習とか本当にどうでも良かったんだろう 俺「Tは?部活楽しいの?」
T「それはもう、楽しいですw」
俺「楽器はベースなんだ。シブイねw」
T「ベースかボーカルなんですよね」
Tがマイクの前で歌ったりベースを弾いてるところを想像すると少しワクワクした
T「でもボーカルの方が結構誘われるんですよねw」
ああ、きっとまだベースはそんなに上手くないのかな?
って思うとなんか微笑ましかった T「いつかライブもやるんで、その時は先輩来てくださいね」
俺「うん、行くよー!」
T「先輩は最近どんな感じですか?」
そう聞かれたので、俺も負けじと
渾身のケツクラエピソードやサボって怒られたエピソードを披露した
Tは要所要所で「なんで?w」とか「どうしてそんなことをw」
とかツッコミを入れながら笑ってくれた ふとTが急に真面目な顔になった
T「先輩はいつも楽しそうです」
俺「え?」
T「たまに見かけるんです。先輩がまだ昼休みなのに帰ってたり、
中庭でジュース飲んでサボってたり。」
俺「知ってたんだww恥ずかしいなおいww」
T「いつも友達と一緒に笑って楽しそうにしてますよね。」 T「そういうのって、私は素敵だと思います」
Tはそう言うと俺の方を見てにっこりと笑った
俺「…かな?w」
こっちを見て笑われたので、俺もなんだか照れてしまった
Tは、俺のことを見ていたんだ…
そう思うとTの俺への気持ちが、いよいよ確信を帯びてくる気がした その日の空はめちゃくちゃ真っ赤で
Tが空を指さして「先輩見てください!空がめっちゃ綺麗ですよww」
と言って俺の自転車のかごを揺らしてはしゃいでいたのを覚えてる
二人で綺麗だねーって言って空を眺めて一緒に帰った
それからしばらくして、無言が続くようになったので
Tが疲れちゃったのかな、と俺は思った あんまり歩かせて疲れさせるのも悪いかな、と思った俺は
俺「T、後ろ乗る?二人乗りして帰っちゃお」
と誘ってみた
けどTは思い切り首を横に振った
T「やや、恥ずかしいです恥ずかしいです…!」
と言ってもの凄く焦っていた
Tが恥ずかしがって二人乗りを頑なに拒否するので
俺たちは地元まで1時間かけて歩いて帰った 今思えば、とてつもなく幸せな時間だったというのに
この時の俺は、この一日でだいぶ疲れてしまった
女の子と一緒にいるのはすごく楽しいけど、疲れる
何よりあの変にドキドキする感覚が、俺はなんだかむず痒かった
そして、俺は今女の子と歩いてるぞ、と周りに優越感を持つような
そんな感覚も嫌だった
俺はまだまだ子供だったんだと思う 今思えば、とてつもなく幸せな時間だったというのに
この時の俺は、この一日でだいぶ疲れてしまった
女の子と一緒にいるのはすごく楽しいけど、疲れる
何よりあの変にドキドキする感覚が、俺はなんだかむず痒かった
そして、俺は今女の子と歩いてるぞ、と周りに優越感を持つような
そんな感覚も嫌だった
俺はまだまだ子供だったんだと思う と、今日は一旦ここで落ちますね
おそい時間まで見てくれた方は本当にありがとう
そしてこんな遅くまでごめんなさい…
続きはまた今日の夜にでも
もうちょっと早めの時間帯に来れるようにしたいです 申し訳ない…帰ってきたのが遅くてうっかり2時間ほど寝落ちしてしまった…
こんな時間から書いてもあれだろうし
自分も明日昼は予定があるので
また続きは明日の夜書きます
ごめんなさい、明日こそは… 遅くなってごめんなさい…
こんな時間になってしまいましたが
続きを投下していきたいと思います 遅くなってごめんなさい…
こんな時間になってしまいましたが
続きを投下していきたいと思います アフィカスってさあ、生きている価値無いよな、人に依存してだらけで自分じゃ何も出来ない、まさに人間のクズみたいなものじゃないけえ
依存する人間は自分が無いとか言うけどこの場合っていうのは自分が無いと言い訳して楽してるだけだよね、依存生活、楽しいですか????????
本当にアフィカスという人種は生きてる意味すらもないような奴らだよね、自分じゃ何も生まないし、その癖他人のものをさも自分のもののように扱うううう
何度も繰り返してるようで悪いけれどもアフィっていうのはやっぱりそういう劣等人種なんだと思う、劣等っていうか生まれつき劣ってるっていうかああああ
そう、いわゆる障害者なんだよ、自分で稼ごうとしても稼げないみたいなアイディアが無いみたいな哀しい哀しい生きてる価値もない障害者
つまらない人間と言い換える事もできるね、とにかく幼い頃からきっと他人に依存しないといけないみたいな障害に悩まされてきたんだよ
一種の青春病であって、そこを責める事は出来ないとも最近思い始めてきたよそういう病気だもん、そういう人種だもん、クズだもん、そういう障害者だものおおお
そうでもなきゃこんな事考え付かないでしょ、「人の会話をコピペしてブログにまとめて金儲けする」とか普通は考えないよね
昔から日本には他人の褌で相撲を取るとかあるけど、そんな次元じゃない、他人の会話で金儲けするとか流石に無いですわあ
ほら最近忍者の里の新ルールだとか何だとかで「転載禁止言えといわれても書かなかったら水遁」とか出来たじゃん
いや実はそのルールの議論の中心人物俺なんだけど、だけど早く実施してほしいもんだよ、まだまともに聞かれてないみたいだから
バカは死ななきゃ治らないだとか言うだろ???アフィは水遁でもされて痛い目でも見なきゃ判らないんだよ、●持ってるだろうからVIP二度といきたくなるぐらい絶望の淵に叩き落されるぐらい
だから何十回でも何百回でも水遁されて何百回でも何千回でも後悔して何千回でも何万回でも金銭難の地獄に叩き落せえええ
クソアフィブログはそうしてついに潰えるんだよ、「ブログ読者の皆さん……クリック……して」といいながら哀しく死ぬんだ、それがアイツらの遺言にしてアイツらにふさわしい最後だあああ
悪いが俺はクソアフィには人権なんてないと思ってる、アフィは死んでも永遠に浄化されないとも思ってる、クソアフィは生きてても価値なし死んでも価値無し、つまり永劫価値なしな奴らだからなああ
どんなに悪行をしてきたことか、どんなに人の迷惑だったことかお前らも考えてみろよおおおおおお
アフィカスが全滅したらきっと世の中はより平和になることだろうなあ、と常日頃から考えてるよ俺は、アフィの全滅について真剣に考えてるよ俺はああ
大体自演とかしてまでスレ作って何が楽しいのかが判らないよ、俺ぐらいになると何個ものクソアフィスレと対立してきたわけだがああ
そのたびにクソアフィの自演とクソアフィの自演とクソアフィの自演とあからさまなクソアフィが出てきてうんざりするわ、クソアフィは生きる楽しみもしらないのかあああ
自演は俺も何百回とやったことあるから言えるけどあれは全然つまらないよ、正直何が楽しいのかわからないまっとうな人間なら拒否反応しめすレベルのつまらなさだよあれはあああ
そんなことをしちゃうあたりやっぱり人間から外れた人権が通用しないような障害者なんだなあ、と思うよクソアフィ管理人はあ
ほら、このスレからもひしひしと伝わってくるだろ、このスレに巣食うクソアフィのキチガイさが、異常者ってことがあああ
アイツらはやっぱり人間じゃないんだよ、他の人間を金儲けの道具ぐらいに考えてるキチガイなんだよ、金の亡者なんだよそれすなわちクズ アフィカスってさあ、生きている価値無いよな、人に依存してだらけで自分じゃ何も出来ない、まさに人間のクズみたいなものじゃないけえ
依存する人間は自分が無いとか言うけどこの場合っていうのは自分が無いと言い訳して楽してるだけだよね、依存生活、楽しいですか????????
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そう、いわゆる障害者なんだよ、自分で稼ごうとしても稼げないみたいなアイディアが無いみたいな哀しい哀しい生きてる価値もない障害者
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そうでもなきゃこんな事考え付かないでしょ、「人の会話をコピペしてブログにまとめて金儲けする」とか普通は考えないよね
昔から日本には他人の褌で相撲を取るとかあるけど、そんな次元じゃない、他人の会話で金儲けするとか流石に無いですわあ
ほら最近忍者の里の新ルールだとか何だとかで「転載禁止言えといわれても書かなかったら水遁」とか出来たじゃん
いや実はそのルールの議論の中心人物俺なんだけど、だけど早く実施してほしいもんだよ、まだまともに聞かれてないみたいだから
バカは死ななきゃ治らないだとか言うだろ???アフィは水遁でもされて痛い目でも見なきゃ判らないんだよ、●持ってるだろうからVIP二度といきたくなるぐらい絶望の淵に叩き落されるぐらい
だから何十回でも何百回でも水遁されて何百回でも何千回でも後悔して何千回でも何万回でも金銭難の地獄に叩き落せえええ
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そのたびにクソアフィの自演とクソアフィの自演とクソアフィの自演とあからさまなクソアフィが出てきてうんざりするわ、クソアフィは生きる楽しみもしらないのかあああ
自演は俺も何百回とやったことあるから言えるけどあれは全然つまらないよ、正直何が楽しいのかわからないまっとうな人間なら拒否反応しめすレベルのつまらなさだよあれはあああ
そんなことをしちゃうあたりやっぱり人間から外れた人権が通用しないような障害者なんだなあ、と思うよクソアフィ管理人はあ
ほら、このスレからもひしひしと伝わってくるだろ、このスレに巣食うクソアフィのキチガイさが、異常者ってことがあああ
アイツらはやっぱり人間じゃないんだよ、他の人間を金儲けの道具ぐらいに考えてるキチガイなんだよ、金の亡者なんだよそれすなわちクズ アフィカスってさあ、生きている価値無いよな、人に依存してだらけで自分じゃ何も出来ない、まさに人間のクズみたいなものじゃないけえ
依存する人間は自分が無いとか言うけどこの場合っていうのは自分が無いと言い訳して楽してるだけだよね、依存生活、楽しいですか????????
本当にアフィカスという人種は生きてる意味すらもないような奴らだよね、自分じゃ何も生まないし、その癖他人のものをさも自分のもののように扱うううう
何度も繰り返してるようで悪いけれどもアフィっていうのはやっぱりそういう劣等人種なんだと思う、劣等っていうか生まれつき劣ってるっていうかああああ
そう、いわゆる障害者なんだよ、自分で稼ごうとしても稼げないみたいなアイディアが無いみたいな哀しい哀しい生きてる価値もない障害者
つまらない人間と言い換える事もできるね、とにかく幼い頃からきっと他人に依存しないといけないみたいな障害に悩まされてきたんだよ
一種の青春病であって、そこを責める事は出来ないとも最近思い始めてきたよそういう病気だもん、そういう人種だもん、クズだもん、そういう障害者だものおおお
そうでもなきゃこんな事考え付かないでしょ、「人の会話をコピペしてブログにまとめて金儲けする」とか普通は考えないよね
昔から日本には他人の褌で相撲を取るとかあるけど、そんな次元じゃない、他人の会話で金儲けするとか流石に無いですわあ
ほら最近忍者の里の新ルールだとか何だとかで「転載禁止言えといわれても書かなかったら水遁」とか出来たじゃん
いや実はそのルールの議論の中心人物俺なんだけど、だけど早く実施してほしいもんだよ、まだまともに聞かれてないみたいだから
バカは死ななきゃ治らないだとか言うだろ???アフィは水遁でもされて痛い目でも見なきゃ判らないんだよ、●持ってるだろうからVIP二度といきたくなるぐらい絶望の淵に叩き落されるぐらい
だから何十回でも何百回でも水遁されて何百回でも何千回でも後悔して何千回でも何万回でも金銭難の地獄に叩き落せえええ
クソアフィブログはそうしてついに潰えるんだよ、「ブログ読者の皆さん……クリック……して」といいながら哀しく死ぬんだ、それがアイツらの遺言にしてアイツらにふさわしい最後だあああ
悪いが俺はクソアフィには人権なんてないと思ってる、アフィは死んでも永遠に浄化されないとも思ってる、クソアフィは生きてても価値なし死んでも価値無し、つまり永劫価値なしな奴らだからなああ
どんなに悪行をしてきたことか、どんなに人の迷惑だったことかお前らも考えてみろよおおおおおお
アフィカスが全滅したらきっと世の中はより平和になることだろうなあ、と常日頃から考えてるよ俺は、アフィの全滅について真剣に考えてるよ俺はああ
大体自演とかしてまでスレ作って何が楽しいのかが判らないよ、俺ぐらいになると何個ものクソアフィスレと対立してきたわけだがああ
そのたびにクソアフィの自演とクソアフィの自演とクソアフィの自演とあからさまなクソアフィが出てきてうんざりするわ、クソアフィは生きる楽しみもしらないのかあああ
自演は俺も何百回とやったことあるから言えるけどあれは全然つまらないよ、正直何が楽しいのかわからないまっとうな人間なら拒否反応しめすレベルのつまらなさだよあれはあああ
そんなことをしちゃうあたりやっぱり人間から外れた人権が通用しないような障害者なんだなあ、と思うよクソアフィ管理人はあ
ほら、このスレからもひしひしと伝わってくるだろ、このスレに巣食うクソアフィのキチガイさが、異常者ってことがあああ
アイツらはやっぱり人間じゃないんだよ、他の人間を金儲けの道具ぐらいに考えてるキチガイなんだよ、金の亡者なんだよそれすなわちクズ アフィカスってさあ、生きている価値無いよな、人に依存してだらけで自分じゃ何も出来ない、まさに人間のクズみたいなものじゃないけえ
依存する人間は自分が無いとか言うけどこの場合っていうのは自分が無いと言い訳して楽してるだけだよね、依存生活、楽しいですか????????
本当にアフィカスという人種は生きてる意味すらもないような奴らだよね、自分じゃ何も生まないし、その癖他人のものをさも自分のもののように扱うううう
何度も繰り返してるようで悪いけれどもアフィっていうのはやっぱりそういう劣等人種なんだと思う、劣等っていうか生まれつき劣ってるっていうかああああ
そう、いわゆる障害者なんだよ、自分で稼ごうとしても稼げないみたいなアイディアが無いみたいな哀しい哀しい生きてる価値もない障害者
つまらない人間と言い換える事もできるね、とにかく幼い頃からきっと他人に依存しないといけないみたいな障害に悩まされてきたんだよ
一種の青春病であって、そこを責める事は出来ないとも最近思い始めてきたよそういう病気だもん、そういう人種だもん、クズだもん、そういう障害者だものおおお
そうでもなきゃこんな事考え付かないでしょ、「人の会話をコピペしてブログにまとめて金儲けする」とか普通は考えないよね
昔から日本には他人の褌で相撲を取るとかあるけど、そんな次元じゃない、他人の会話で金儲けするとか流石に無いですわあ
ほら最近忍者の里の新ルールだとか何だとかで「転載禁止言えといわれても書かなかったら水遁」とか出来たじゃん
いや実はそのルールの議論の中心人物俺なんだけど、だけど早く実施してほしいもんだよ、まだまともに聞かれてないみたいだから
バカは死ななきゃ治らないだとか言うだろ???アフィは水遁でもされて痛い目でも見なきゃ判らないんだよ、●持ってるだろうからVIP二度といきたくなるぐらい絶望の淵に叩き落されるぐらい
だから何十回でも何百回でも水遁されて何百回でも何千回でも後悔して何千回でも何万回でも金銭難の地獄に叩き落せえええ
クソアフィブログはそうしてついに潰えるんだよ、「ブログ読者の皆さん……クリック……して」といいながら哀しく死ぬんだ、それがアイツらの遺言にしてアイツらにふさわしい最後だあああ
悪いが俺はクソアフィには人権なんてないと思ってる、アフィは死んでも永遠に浄化されないとも思ってる、クソアフィは生きてても価値なし死んでも価値無し、つまり永劫価値なしな奴らだからなああ
どんなに悪行をしてきたことか、どんなに人の迷惑だったことかお前らも考えてみろよおおおおおお
アフィカスが全滅したらきっと世の中はより平和になることだろうなあ、と常日頃から考えてるよ俺は、アフィの全滅について真剣に考えてるよ俺はああ
大体自演とかしてまでスレ作って何が楽しいのかが判らないよ、俺ぐらいになると何個ものクソアフィスレと対立してきたわけだがああ
そのたびにクソアフィの自演とクソアフィの自演とクソアフィの自演とあからさまなクソアフィが出てきてうんざりするわ、クソアフィは生きる楽しみもしらないのかあああ
自演は俺も何百回とやったことあるから言えるけどあれは全然つまらないよ、正直何が楽しいのかわからないまっとうな人間なら拒否反応しめすレベルのつまらなさだよあれはあああ
そんなことをしちゃうあたりやっぱり人間から外れた人権が通用しないような障害者なんだなあ、と思うよクソアフィ管理人はあ
ほら、このスレからもひしひしと伝わってくるだろ、このスレに巣食うクソアフィのキチガイさが、異常者ってことがあああ
アイツらはやっぱり人間じゃないんだよ、他の人間を金儲けの道具ぐらいに考えてるキチガイなんだよ、金の亡者なんだよそれすなわちクズ 次の補習の時
礼二と若林に散々このことを茶化された
若林「一緒に帰ったなら良かったじゃねえか」
俺「別に…よくはねえだろ…」
俺がこう言うと若林がなんとも不思議そうな顔をした
若林「お前さぁ…何言ってんの?」 アフィカスってさあ、生きている価値無いよな、人に依存してだらけで自分じゃ何も出来ない、まさに人間のクズみたいなものじゃないけえ
依存する人間は自分が無いとか言うけどこの場合っていうのは自分が無いと言い訳して楽してるだけだよね、依存生活、楽しいですか????????
本当にアフィカスという人種は生きてる意味すらもないような奴らだよね、自分じゃ何も生まないし、その癖他人のものをさも自分のもののように扱うううう
何度も繰り返してるようで悪いけれどもアフィっていうのはやっぱりそういう劣等人種なんだと思う、劣等っていうか生まれつき劣ってるっていうかああああ
そう、いわゆる障害者なんだよ、自分で稼ごうとしても稼げないみたいなアイディアが無いみたいな哀しい哀しい生きてる価値もない障害者
つまらない人間と言い換える事もできるね、とにかく幼い頃からきっと他人に依存しないといけないみたいな障害に悩まされてきたんだよ
一種の青春病であって、そこを責める事は出来ないとも最近思い始めてきたよそういう病気だもん、そういう人種だもん、クズだもん、そういう障害者だものおおお
そうでもなきゃこんな事考え付かないでしょ、「人の会話をコピペしてブログにまとめて金儲けする」とか普通は考えないよね
昔から日本には他人の褌で相撲を取るとかあるけど、そんな次元じゃない、他人の会話で金儲けするとか流石に無いですわあ
ほら最近忍者の里の新ルールだとか何だとかで「転載禁止言えといわれても書かなかったら水遁」とか出来たじゃん
いや実はそのルールの議論の中心人物俺なんだけど、だけど早く実施してほしいもんだよ、まだまともに聞かれてないみたいだから
バカは死ななきゃ治らないだとか言うだろ???アフィは水遁でもされて痛い目でも見なきゃ判らないんだよ、●持ってるだろうからVIP二度といきたくなるぐらい絶望の淵に叩き落されるぐらい
だから何十回でも何百回でも水遁されて何百回でも何千回でも後悔して何千回でも何万回でも金銭難の地獄に叩き落せえええ
クソアフィブログはそうしてついに潰えるんだよ、「ブログ読者の皆さん……クリック……して」といいながら哀しく死ぬんだ、それがアイツらの遺言にしてアイツらにふさわしい最後だあああ
悪いが俺はクソアフィには人権なんてないと思ってる、アフィは死んでも永遠に浄化されないとも思ってる、クソアフィは生きてても価値なし死んでも価値無し、つまり永劫価値なしな奴らだからなああ
どんなに悪行をしてきたことか、どんなに人の迷惑だったことかお前らも考えてみろよおおおおおお
アフィカスが全滅したらきっと世の中はより平和になることだろうなあ、と常日頃から考えてるよ俺は、アフィの全滅について真剣に考えてるよ俺はああ
大体自演とかしてまでスレ作って何が楽しいのかが判らないよ、俺ぐらいになると何個ものクソアフィスレと対立してきたわけだがああ
そのたびにクソアフィの自演とクソアフィの自演とクソアフィの自演とあからさまなクソアフィが出てきてうんざりするわ、クソアフィは生きる楽しみもしらないのかあああ
自演は俺も何百回とやったことあるから言えるけどあれは全然つまらないよ、正直何が楽しいのかわからないまっとうな人間なら拒否反応しめすレベルのつまらなさだよあれはあああ
そんなことをしちゃうあたりやっぱり人間から外れた人権が通用しないような障害者なんだなあ、と思うよクソアフィ管理人はあ
ほら、このスレからもひしひしと伝わってくるだろ、このスレに巣食うクソアフィのキチガイさが、異常者ってことがあああ
アイツらはやっぱり人間じゃないんだよ、他の人間を金儲けの道具ぐらいに考えてるキチガイなんだよ、金の亡者なんだよそれすなわちクズ 若林「お前…Tちゃんの事どう思ってんの?」
俺「いや…それは…」
若林は、痛いところを突いてくる
若林「俺達があの子のこと可愛い、とか言うとお前嫌がるじゃん」
俺「それは…」
若林「好きなの?」
俺のTへの気持ちは本当に何て言ったらいいか分からなかった アフィカスってさあ、生きている価値無いよな、人に依存してだらけで自分じゃ何も出来ない、まさに人間のクズみたいなものじゃないけえ
依存する人間は自分が無いとか言うけどこの場合っていうのは自分が無いと言い訳して楽してるだけだよね、依存生活、楽しいですか????????
本当にアフィカスという人種は生きてる意味すらもないような奴らだよね、自分じゃ何も生まないし、その癖他人のものをさも自分のもののように扱うううう
何度も繰り返してるようで悪いけれどもアフィっていうのはやっぱりそういう劣等人種なんだと思う、劣等っていうか生まれつき劣ってるっていうかああああ
そう、いわゆる障害者なんだよ、自分で稼ごうとしても稼げないみたいなアイディアが無いみたいな哀しい哀しい生きてる価値もない障害者
つまらない人間と言い換える事もできるね、とにかく幼い頃からきっと他人に依存しないといけないみたいな障害に悩まされてきたんだよ
一種の青春病であって、そこを責める事は出来ないとも最近思い始めてきたよそういう病気だもん、そういう人種だもん、クズだもん、そういう障害者だものおおお
そうでもなきゃこんな事考え付かないでしょ、「人の会話をコピペしてブログにまとめて金儲けする」とか普通は考えないよね
昔から日本には他人の褌で相撲を取るとかあるけど、そんな次元じゃない、他人の会話で金儲けするとか流石に無いですわあ
ほら最近忍者の里の新ルールだとか何だとかで「転載禁止言えといわれても書かなかったら水遁」とか出来たじゃん
いや実はそのルールの議論の中心人物俺なんだけど、だけど早く実施してほしいもんだよ、まだまともに聞かれてないみたいだから
バカは死ななきゃ治らないだとか言うだろ???アフィは水遁でもされて痛い目でも見なきゃ判らないんだよ、●持ってるだろうからVIP二度といきたくなるぐらい絶望の淵に叩き落されるぐらい
だから何十回でも何百回でも水遁されて何百回でも何千回でも後悔して何千回でも何万回でも金銭難の地獄に叩き落せえええ
クソアフィブログはそうしてついに潰えるんだよ、「ブログ読者の皆さん……クリック……して」といいながら哀しく死ぬんだ、それがアイツらの遺言にしてアイツらにふさわしい最後だあああ
悪いが俺はクソアフィには人権なんてないと思ってる、アフィは死んでも永遠に浄化されないとも思ってる、クソアフィは生きてても価値なし死んでも価値無し、つまり永劫価値なしな奴らだからなああ
どんなに悪行をしてきたことか、どんなに人の迷惑だったことかお前らも考えてみろよおおおおおお
アフィカスが全滅したらきっと世の中はより平和になることだろうなあ、と常日頃から考えてるよ俺は、アフィの全滅について真剣に考えてるよ俺はああ
大体自演とかしてまでスレ作って何が楽しいのかが判らないよ、俺ぐらいになると何個ものクソアフィスレと対立してきたわけだがああ
そのたびにクソアフィの自演とクソアフィの自演とクソアフィの自演とあからさまなクソアフィが出てきてうんざりするわ、クソアフィは生きる楽しみもしらないのかあああ
自演は俺も何百回とやったことあるから言えるけどあれは全然つまらないよ、正直何が楽しいのかわからないまっとうな人間なら拒否反応しめすレベルのつまらなさだよあれはあああ
そんなことをしちゃうあたりやっぱり人間から外れた人権が通用しないような障害者なんだなあ、と思うよクソアフィ管理人はあ
ほら、このスレからもひしひしと伝わってくるだろ、このスレに巣食うクソアフィのキチガイさが、異常者ってことがあああ
アイツらはやっぱり人間じゃないんだよ、他の人間を金儲けの道具ぐらいに考えてるキチガイなんだよ、金の亡者なんだよそれすなわちクズ 俺「そりゃ好きか嫌いかって言ったら…好きな方には入るけど…」
若林「けど…?」
俺「Tは、俺なんかと一緒にならない方が良いというか…」
この時、礼二は黙って聞いていた
若林「なんだそれ」
若林はひどく馬鹿にしたような顔だった
若林「めっちゃ自分勝手な事言ってんのな」 若林「強がってんじゃねえよ。お前はどう思ってんだよ」
俺「だってTは俺なんかとじゃ…」
若林「お前、絶対後悔するからな。よく考えろよ?」
俺は何も言い返せなかった
このあと、礼二も若林もTのことについては触れなくなった
困ったら俺から言い出すし、人の恋愛にあまり口出ししたくなかったんだろう
後々、若林の言った通りになっていくんだけどな… それからまた数回後の補習の時
帰りの正面玄関で、Tが立って待っていた
T「先輩一緒に帰りませんか?」
今度は偶然じゃない、Tが待っていたんだ
あの重そうなベースを背負って
少し暗くなった正面玄関の端っこに立っていた
若林と礼二も一緒だったのに、Tは意を決したかのように
俺に向かって話しかけてきた
﷽𖡃ﷻ速✺報ﷻ𖡃﷽
🇫 🇺 🇨 🇰 🇾 🇴 🇺
⃟⃟⃟⃟⃤⃟無⃟⃤⃟⃤⃟為⃟⃤⃟⃤⃟⃟無⃟⃤⃟能⃟⃤
෴༄༅༅෴࿐
꧁༼´・ω・`༽꧂
༺࿇༻
⚚୵|*࿈࿙☣࿚࿈|৲
死⃢ね Ⴑ'-ဏ-Ⴐ 死⃢ね
༗༒ﷺ꧁ቻンቻン꧂ﷺ༒༗
☄ฺ≼۞۩♛ฺ☤⚜☤♛ฺ۩۞≽☄ฺ
🇲 🇦 🇳 🇰 🇴 まあ、この日が運命の日だったんだけどな
後にも先にもずっと忘れない日だわ
俺はその場で若林と礼二に「わり、先帰ってくれ」って頼んだ
そうするとあいつらは黙って笑って「じゃあな」って言って帰った
俺がTに「じゃ、一緒に帰ろっか」と言うと
Tは笑って俺の方を見て「はい」って頷いてくれた その日は時間が少し遅かったのだろうか
太陽はほとんど沈みかけてて
空のふちはオレンジ色なんだけど、上の方は既に暗くなっていた
駐輪場に行くまでのあいだ、
Tがやたらとニコニコしていて、
T「先輩とまた一緒に帰れて嬉しいですw」
なんて言っていた 俺も嬉しかったんだけど
なんだか怖かったんだ俺は
何が怖かったんだろう、こんなにいい子が自分の前にいることか
はたまた自分に素直になれないチキンだったのか
そのまま二人で並んで自転車に乗って
地元の方に向かって走りだした
走ってる間もTがずっとこっちをチラチラ見てくるので凄く緊張した 帰り道の、いつも通る神社の前が異様に賑わっていた
太鼓のような音や、人の賑わいの音に食べ物の匂い
そしてチラホラ通り過ぎる不良の群れに、警察官
Tが「先輩、縁日ですよ、縁日!」
Tが嬉しそうに指をさして言った
俺「本当だ、賑やかだと思ったら、お祭りなんだね。」
T「少し寄って行きませんか?」
Tが申し訳なさそうにはにかんで言った
そんな風に言われたら、ダメとは絶対に言えない ''';;';';;'';;;,., ザッ
''';;';'';';''';;'';;;,., ザッ
ザッ ;;''';;';'';';';;;'';;'';;;
;;'';';';;'';;';'';';';;;'';;'';;;
vymyvwymyvymyvy ザッ
ザッ MVvvMvyvMVvvMvyvMVvv、
Λ_ヘ^−^Λ_ヘ^−^Λ_ヘ^Λ_ヘ
ザッ ヘ__Λ ヘ__Λ ヘ__Λ ヘ__Λ
__,/ヽ_ /ヽ__,.ヘ /ヽ__,.ヘ _,.ヘ ,.ヘ ザッ
/\___/ヽ /\___ /\___/ヽ _/ヽ /\___/ヽ
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「vipから来ますた」「vipから来ますた」「vipから来ますた」「vipから来ますた」 2 風吹けば名無し[] 2019/04/01(月) 19:36:42.48 ID:uOr26oHPr
失礼します
どなたか↓のスレッドに「荒らしキッズ特定ktkr」と書き込んでいただけないでしょうか
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/cartoon/1553781793/ 気が遠くなるほど自転車がとめてある(倒れている)駐輪場に自転車をとめて
「先輩はやくはやくw」
とTに急かされて縁日をやっている神社の方へと向かう
出店の並ぶ道に出ると、色とりどりの灯りや人々で一杯だった
さすがに俺もそれを目の前にしてワクワクした
俺「なんかいいね、こういうのw」
T「テンション上がりますよねw」 ここは一つ先輩の甲斐性を見せてやろうと思った
俺「何か食べたいものとかないの?おごるよw」
T「え?本当ですかー!でも悪いですよ。」
俺「いいのいいのw今日は特別w欲しいのあったら言ってよ」
そう言うとTは「じゃあどうしよう…w」と言いながら
目をキラキラさせて脇の出店をじっくり見回した T「綿飴が食べたいです」
Tは恥ずかしそうにそう言った
二人で綿飴屋さんの前に行った
制服だったので、店のおっちゃんに
「学校帰りかい?いいね〜仲良しでw」と茶化されたw
これには二人で笑ってしまった
Tも「仲良しですもんねw」と言って笑っていた 神社のわきの石段に二人で座って綿飴を食べた
T「綿飴ってお祭りっぽくて大好きなんですw」
俺「そうだよね〜こういう時じゃないと食べれないもんね〜」
Tが綿飴の食べ方が下手くそだったので
俺「お前下手だな〜w口についてるぞww」
と言うと
T「先輩だって制服に綿ついてますよ?w」
と二人で下らないやり取りをしてしまった わきの石段だったので
少し離れた出店の群れの灯りがまぶしかった
急にTが思い立ったように石段からぱっと降りた
石段に座る俺を見上げるようにしてTが喋り始めた
T「今日先輩と一緒に来れてすごい楽しかったですw」
俺「俺も楽しかったよw」
この雰囲気は、もしかして… T「私…先輩の事が、好きです。
この学校に入って、先輩が居てくれて本当に嬉しかったです。」
俺はTの言うことを黙って聞いていた
ところどころ詰まりながらも、必死に伝えようとする気持ちが分かった
T「私と、私と…付き合って下さい…」
俺は自分の心臓が止まるんじゃないかって思うくらいドキドキしてるのが分かった
俺「ありがとう… 俺はTは凄くいい子だと思う… でも…」 俺「付き合うことはできないよ…ごめん。」
そう言うと、Tは途端に涙目になって必死で笑顔を作った
T「私じゃ、ダメですか…」
俺「ごめんね…」
もうほとんど泣きながら、でも必死に笑ってTは
「なんか変な事言ってごめんなさい、せっかく楽しかったのに…」
「私、今日は帰りますね」
そう言って、俺の前から顔をおさえて走って行ってしまった
俺は、一人になってしまった なんで、俺はこの時こんな事を言ってしまったのか?
今でもずっとずっっと後悔してる
全て、若林の言った通りになったんだ
俺は、Tが好きだった、大好きだった
でもこの時の俺はまだそれに気づいてなくて
後々Tへの気持ちがぶり返してしまう時が来るんだけど
それはその時が来たら、書きます
今日はこのあたりで落ちようと思います
続きはまた明日 ちなみにここ数日スレに来れなかったり遅くなったのも
実は昔を思い出してこれを書いていたら
少々思い立ったことがあって
それをやっていたらスレに来れなかったんです
そのことも、話が進んだら書いていけたらと思う すまない…
盛大に体調を崩してしまってな…
申し訳ないけど今日は書けない…ごめん こんな時間にこんばんは
体調は相変わらずですが少しよくなったので
続きを少しでも書きます こんな俺が、Tを「ふった」その日から
俺はとてつもなく無気力になった
何をするにも、やる気が起きない
どんなことも無意味に感じる
何をしても面白くなかった 若林にも礼二にも、散々言われた
「お前何やってんだよ」
「お前今後あんな子と一生付き合えないぞ?w」
夏休みの途中だったというのに
毎日悩んでばかり
どうしてTをふってしまったのか、自分でも分からなかったんだよ
Tは俺なんかと一緒じゃないほうがいいって?
じゃあ俺は一体誰と一緒になるんだよ
でも当時の俺にそんな考え方をする余裕はなかったんだよな 夏が何もしないままどんどん過ぎてった
Tのことは悩んだけど
時間が過ぎていくにつれだんだん忘れていったよ
Tとの一件、礼二の持ち込みの事件、そんなことがあって
俺の高校二年の夏休みは終わった
本当はもっともっとやりたいことがたくさんあったんだけど
なかなか実行に移せなかった
正直、後悔の多い夏休みだ
できることなら、もう一度戻ってやり直したいくらいだよ、本当に でも正直、俺に彼女ができなくて良かったのかも、とも思える
もしこの時俺がTと付き合っていたら
礼二と若林とつるむのも終わっていたかもしれない
俺がTと付き合わなかったので、夏休みが明けても
俺たちは相変わらず3人で馬鹿なことをする毎日だった
道の脇の水路に自転車突っ込んで遊んだり
神社で野球してる小学生に乱入してみたり
やることが無さ過ぎて中学生みたいなことばかりしてた そんな中、夏休みが明けてしばらくしてから礼二に異変が起き始めた
しょっちゅうノートを持ち歩いては授業中も絵を描いていたのに
俺たちの前で絵を描く素振りを見せなくなったんだ
「最近漫画の調子はどう?」
と聞いても曖昧に答えるばかりでハッキリとしない
少し前までは自分から漫画の進み具合とか
考えたキャラクターとか見せてきたくせに、
これはどう考えもおかしかった これを若林に聞いても「そんな時もあるんだろ、もの作りって」
と大して気にしていない様子だった
ただ、俺とTの一件以来礼二はひたすら
「俺も彼女が欲しいなー」と言ってたのでひっかかったのだ
そして礼二のおかしな行動は更に加速した
俺と若林とあまり一緒に帰らなくなったのだ
今までは必ずと言っていいほど一緒に帰っていたのに
礼二に何か起きてるんじゃないかって心配だった それから、ある日の放課後礼二が「今日は予定あるから先に帰っていいよ」
と言ったので俺と若林は礼二をおいて先に帰った
「あいつやっぱり最近付き合い悪いなー」とか言いつつ
近所のコンビニに寄って立ち読みしたり結構時間を使ってから帰った
それから若林が「欲しい漫画がある」と言って
帰り道の本屋に寄ったんだ 自転車を止めてすぐに若林がニヤニヤしながら俺に話しかけてきた
若林「おい!これ見ろよw」
そこには礼二の自転車があった
あいつは自転車の後輪のカバーに変なシールを貼っていたので
礼二の自転車だとすぐに分かったんだ
俺「うわww誰かと一緒なのかな?」
若林はガラス戸の入り口から店内をのぞきに行った
若林「いたいたwwwレジにいたwwww」
と言って急いで戻ってきた 若林「女の子と一緒だったわwww
つかやばい、隠れるぞwww」
そう言って若林はすぐに自転車に乗った
俺たちはそのまま来た道を戻って
反対側の遠くの歩道から本屋を眺めるような体制をとった 本屋の駐車場から自転車に乗った男女が出てきた
礼二の奴、なかなか可愛い女の子と一緒だった
俺「あの制服…××高かな?」
若林「ああやっぱりそうなんだ。たまに見かけるもんな」
相手の子は俺たちの高校の近所の高校の子だった
礼二も女の子と一緒に帰る…
正直この事実は俺にとってショックだった この帰り、俺は妙なテンションだった
俺「そっか礼二…こういうことだったんだな…」
若林「ま、俺ら高校生だぞ?好きな子の一人くらいできるだろ?w」
俺「でもなんていうか…言ってほしかったな…」
若林「そりゃ俺らの勝手な言い分だろ。言う必要もないしな」
俺「でもさぁ…」
若林「ま、そのうち耐えきれなくて向こうから言ってくるさw」
俺はそんなもんなのか、と少々納得できなかった 俺「でも、漫画描くのやめちゃうのかな」
若林「ばかwやめるわけねーだろw
恋ってのはまわりが見えなくなっちまうもんだろwそのうち元に戻るよw」
俺「そんなもんか」
若林「まあ、Tちゃんをふったお前にはいまいち分かんねーかもなw」
俺「は?じゃあお前は分かるのかよ?w」
若林「さあww」
若林は俺の質問をはぐらかした
正直俺も、この時恋ってのがどんなものなのか分からなかったし
本当の恋ってどんな風になるんだろうってピンと来なかったんだ ごめん
やはり体調が安定しないので
今日は一旦ここで落ちます
また明日、よろしくおねがいします こんばんはー!!
今日もこんな時間で申し訳ない
続きを書いていきますね それからの礼二はさらに行動が加速していった
授業が終わるととっさに教室を出ていなくなる
土日も大抵予定がある、と言って遊ばなくなった
付き合いがどんどん悪くなっていった
別に好きな子(あるいは彼女?)ができたのは全然いいが
俺たちに黙ってこそこそされるのはあまりいい気がしなかった
でも礼二は礼二なりに気を遣っていたのかもしれないな ある日、授業をサボって抜けだして
中庭に三人でいる時にとうとう若林が仕掛けたんだ
若林「礼二、最近何か忙しいの?」
礼二「い、いやぁ…まぁ…」
若林「わり、実は俺たち見ちゃったんだよ」
礼二「え?」 俺「??高の子と一緒にいたよね」
礼二「え、なんで…?」
不意をつかれたのか礼二はすごく驚いていた
若林「いや、偶然なんだよ…本屋で見かけて」
礼二「あぁ、そうだったのか…」
すると礼二は下を向いてなんだかおとなしくなった 礼二「あれ、中学の同級生なんだ。
なんかごめんな、隠すようなまねしちゃって…」
若林「いや、別にいいよ。あえて言うことでもないしなw」
礼二は申し訳なさそうに苦笑いしていた
礼二「なんだか俺馬鹿みたいだな…なんか言い出せなくてさ」
俺「いや、気にすんなよw 彼女なの?」
礼二「うん、そうだねww」
嬉しそうにはにかむ礼二を見て
本当に好きなんだろうなって気持ちが伝わってきた 俺と若林はそれを聞いて
「ふっざけんなよーw」「やるじゃねーかww」
とか言ってふざけてバシバシ背中を叩いた
若林「漫画は描いてんの?」
礼二「いや…正直、微妙だ…」
若林「そっか。まあペースがあるしそんな焦ることでもねえか。」
俺は漫画を描かない礼二が心配で
正直嫌な予感がしたのだけど、そんな事は言い出せなかった 正直ここで
「漫画描かねえのかよ?そんなんでいいのか?」
とか言っても、なんか彼女が出来たことへのひがみみたいになってしまうし
俺は「良き友人」を演じるため本音を言えなかった
「やったなーおめでとうーw」
などと上辺だけの言葉を吐いてしまった
俺は、漫画を描く礼二が好きだし
漫画について熱く語っている礼二が好きなのに
色ボケしたような礼二が、なんだか嫌だったんだ 俺たちの高校の前の道にある金木犀が咲いて
なんだかいい感じの香りがし始めた頃
礼二の様子がもっとおかしくなった
学校を数日連続で休んだかと思うと
学校に復帰してきても一日中机に突っ伏して一言も喋らない
普段うるさい礼二がこの状況になるのは明らかにおかしい
俺の嫌な予感が的中してしまったんだ 俺「おい、礼二、どした」
礼二「……」
俺「なんかあったか?」
礼二「……」
俺「そうだ、あれ描いてくれよ、エアギアのキャラ。俺あれ好きなんだ。」
そう言うと礼二は顔を上げた
礼二「漫画なんかなぁ…もう一生描かねえんだよ!」
あまりのことに俺はただあっけにとられた そう言うと次の授業が最後だというのに礼二は教室を出て帰ってしまった
「あんま帰りすぎると留年するぞ…」
俺はそんなことをつぶやいて必死に冷静になろうと思ったけど
無理だった 礼二のやつ、また何かやらかしたのか?
俺一人じゃどうにもならない
放課後、若林のところに行こう
すぐにそう考えた 若林「どーせふられたんだろ。」
若林に事情を話すと笑ってすぐにそう答えた
若林「想定内のことだろw」
俺「でも漫画を描かないって凄い剣幕だったんだけど。」
若林「それがなぁ…なんで漫画を描かない、になるんだ?」
俺「行ってみる?」
若林「それしかないか…手間のかかる奴だなマジで」
俺たちはその帰り、礼二の家に行ってみることにした 俺たちは急いで自転車をこいで礼二の家を目指した
だが、礼二の家に着いても誰もおらず
肝心の礼二がまだ帰っていなかった
若林「あいつどっかで寄り道してやがんな。」
俺「どうする?」
礼二の家の前にも金木犀が植わっていて
俺たちはその前に自転車を止めて、時間を潰してみることにした 金木犀の花をむしり取ったり携帯をいじったりして時間を潰したが
一向に礼二が帰ってくる気配がない
俺たちがただその場で時間を潰して2時間弱くらい礼二を待った頃
夕方6時になってチャイムが鳴って
「さすがにもう帰るか」ってなった時だった
自転車に乗った礼二が目の前に現れて
「なんで?なんでいるんだよお前ら…」
と俺達に向かって言った 若林「ようw遅かったじゃねーか。」
俺「お前が心配だから来てやったんだよ」
すると礼二は涙目になって「ふざけんな…」と言いながら自転車を倒して
服の袖で顔を隠して泣き始めた
若林「何があったんだよ?ふられたか?」
俺「話せよ。聞いてやるぞ」 礼二「ふられたんだ…彼女に…」
そう話し始めた礼二は、夕焼けの濃い光を浴びて一層悲しそうに見えた
俺「なんで?仲良かったんじゃないの…?」
礼二「俺、ずっと漫画描いてること秘密にしてたんだ。
彼女は俺が進学校で、めっちゃ勉強頑張ってると思ってた」
若林「それで?」
礼二「本当の事、話したんだ。本気で漫画になるのが夢だって。
大学行かずに高校出て漫画家目指すって。」 礼二「最初こそ、彼女も笑って応援してくれてたんだ。
でも、俺が本当に本気だって分かってくるうちに言われたんだ」
若林「なんて?」
礼二「○○高に行ってそんな事言ってるなんて馬鹿みたいって。
そんであっという間にフラれた。」
俺「ああ…」
俺はなんて言ったらいいか分からなかった
礼二「もう、漫画なんて二度と描かねえよ。
やっぱり普通じゃねえんだこんな事。」
若林「なんだって?」 若林の様子が変わったことにすぐ気づいた
若林「お前、女にフラれたくらいで漫画描くのやめるのか?」
礼二「フラれたくらいって!お前に俺の気持ちが分かるのかよ?」
若林「知るかそんなもん!!お前何いってんだよこの野郎!!」
礼二「なんだてめえ!!知ったような口きくんじゃねえ!!」
その場で取っ組み合いのケンカになってしまった
もう日も沈みかけてて、あたりは暗くなっていたので
誰も止めにも来ない
俺は必死になって二人を止めた 若林「そんな事でやめちまうのか!!お前の夢はそんなもんか!!」
礼二「うるせえよ!どうしようが俺の勝手だろうが!!!」
もみくちゃになりながら俺は二人の間に入って必死に止めた
しばらく口論が続いたあと、礼二が言った
礼二「大体夢、夢って、お前には何も夢がねえくせに!!」
これを言われて若林がピタっと言い返すのをやめた
礼二もこれにはしまった、と思ったのか
「あ…」としゃべるのをやめた 若林「そんな事でやめちまうのか!!お前の夢はそんなもんか!!」
礼二「うるせえよ!どうしようが俺の勝手だろうが!!!」
もみくちゃになりながら俺は二人の間に入って必死に止めた
しばらく口論が続いたあと、礼二が言った
礼二「大体夢、夢って、お前には何も夢がねえくせに!!」
これを言われて若林がピタっと言い返すのをやめた
礼二もこれにはしまった、と思ったのか
「あ…」としゃべるのをやめた 若林はすごく小さな声で言った
若林「俺に何もねえから…お前を応援してるんだよ」
俺はこんなに寂しそうにしゃべる若林を初めて見た
いつもひょうひょうとしていてテキトー、そんな若林とは程遠かった
若林「でもやっぱり、大きなお世話だったか。」
若林は「ごめんな」とこぼしてそのまま自転車に乗って行ってしまった
すると礼二も黙って下を向いたまま家の中に入ってしまった 俺は一人、取り残されてしまった
もうだいぶ暗くなっていて、若林も見失ってしまった
俺は礼二の家に向かって「明日絶対学校来いよ!!」と言って
その場を後にした
三人でつるむようになってから、ここまで大きなケンカは初めてだった
何も言えずにただ仲裁していた俺
仲直りできるのか不安な反面、本音でぶつかれる礼二と若林が
少しうらやましいとも思っていた すいません今日はここで落ちます
今日も遅い時間までありがとうございました
続きは明日書きます、早めに来れるといいな
あと少しで終わると思います こんばんは
実は今日、随分と久しぶりにある人と会って来ました
会って…うん
この事もスレの最後に書きますね
とりあえず今日も続きを書いていきます その若林と礼二が盛大にケンカをした次の日
礼二は学校には来たものの、俺ともほとんど喋らなかった
放課後、「5、ごめんな俺先に帰る」
と言って申し訳なさそうに帰ってしまった
俺はその後若林のクラスまで行った
俺「なあ若林、礼二先に帰っちゃったぞ」
若林「そっか。」
若林はなんとなく寂しそうな顔で言った どんな事があろうと大抵三人で一緒にいた俺たち
俺はもしこのままバラバラになったらどうしようと不安だった
若林「そうだな、お前グローブ家にあるか?」
俺「グローブ?まあ一個くらいならあるんじゃねえかな」
若林「よっしゃ、明日それ学校に持ってこいよ」
俺にはこの時若林が何を考えているのか分からなかった 若林は中学時代野球部だった
顔に似合わず野球が好きなスポーツ少年だったらしい
若林「だからさ、面と向かって話すのは少しアレだろ」
俺「まあそうだよな」
若林「笑うなよ?野球すんだよ、礼二と」
俺「は?」 若林「明日なら、ちょうどよさそうだな」
俺「待って待って。それマジで言ってんのか?」
若林「マジだけど。駅前のあの公園、あそこでいいだろ」
俺は唖然とした
たまにわけの分からん事を言い出す奴だけど
この時は本当に驚いた 若林「ちょうどお前らと野球したいと思ってたしな」
とヘラヘラして言う
本当に憎めない奴だよ
俺は次の日、自分の家から引っ張りだしてきたグローブを持って学校へ行った
放課後、そそくさと帰ろうとする礼二を引っ張り止め
強引に一緒に帰ろうと誘った
若林は先に駅前の公園に向かっていた よく晴れている日で、西日がまぶしかった
礼二と二人で自転車に乗って学校を出た
俺「礼二、久々に駅前の公園寄って帰らないか?」
礼二「いいけど。寄って何するんだよ…?」
俺「まあとにかく行ってみよーぜ」
上手いこと礼二をあの公園に誘導することができた ごめん寝落ちしてしまっていた…
続きを書くよ
ほんと申し訳ない 公園に着くと、若林が俺たちを見つけて笑っていた
若林「よ、来たか。」
ニコニコとしてとてもごきげんなように見えた
礼二「なんで、若林が…」
困惑する礼二に向かって
俺は持ってきたグローブをカバンから出して礼二に投げた
礼二「は?なんだよ、これ…」
俺「いいからさ」
俺も若林につられて何だかニヤニヤしてしまった 若林「キャッチボールすんだよ、いいか?」
そう言って若林は持っていたボールを礼二に向かって軽く投げた
礼二も黙って、若林にボールを投げ返す
礼二と若林の間をボールが何往復もするうちに
若林が投げるのと同時に喋り始めた
若林「あのさ」
礼二「どうした?」 若林「お前だって、色々辛いんだよな」
礼二「うん」
若林「なんか、勢いで色々言いすぎちまった。ごめん。」
若林がそう言うと、礼二はボールをキャッチしてから大きく深呼吸した
礼二「今、見せたいもんがあるんだよ」
そう言って礼二はグローブを手から外して、かばんを取りに行った 礼二「若林も、5も来いよ」
礼二は真面目な顔をして俺たちを手招きした
俺「一体なんだ?w」
礼二「これだ」
礼二はカバンのクリアファイルから原稿用紙を一枚取り出した
そこには一人の少年の絵が描かれていた
若林「お前、これ…」
礼二「うん」 礼二「新しく描く漫画の主人公考えたんだ。これ、どう思う?」
俺「お前…もう漫画は描かないって…」
礼二「色々考えたんだ。でもやっぱり、漫画描きたくてしょうがないんだよw」
そう言われて、俺と若林はあからさまに見合ってニヤニヤしてしまった
若林「いいんじゃねーか、俺は好きだけどよ。もう少し個性が欲しくねーか?」
礼二「まじかwよっしゃもっと練ってみるぜw」
不思議と俺たち三人は笑って話していた いつのまにかブランコに三人で座って
久々に三人でずっと漫画談義をしてた
すっかり夕暮れの時間帯で、公園がどんどん夕焼けに染まる中で
俺は三人でいられる事がどんなに楽しいことか痛感した
やっぱり俺は夢を語る礼二が好きで
それを見て楽しそうに話す若林が好きだった
いつまでもこんな時間が続いたらいいのにって
そんなベタな事をこの時本当に思ったんだよ 礼二だって人間だし、失恋して何もやる気が無くなることだってある
それを見て思いっきりキレた若林も同じだ
そしてその二人の間をなんとなく繋ぐ俺…
この一件で俺たち三人はまた今までとは違う
より一層親密な仲になったんだと思う この出来事があったのが秋のこと
それから俺達は修学旅行へ行ったり色々とあったけど
毎日楽しくそれなりに過ごしていた
何もかもが普通だった
授業もけっこうサボるがそれなりに出席はして
成績は相変わらず相当悪いものだったけど
学校には順調に毎日通って楽しくやっていたんだ 冬休みに入った頃
忘れかけていたTから突然メールがあった
「年明けに吹奏楽の演奏会と合同で軽音部のライブがあります。
良かったら見に来てみてくださいね。」
というものだった
そういえば、Tはライブをする時は見に来てくださいって言ってた
俺はこの時忘れかけていたものを突然思い出したような気持ちになった 正直、最初はあまり乗り気ではなかった
音楽はそこまで好きじゃないし
吹奏楽の定演なんて俺がいっても浮くだけだ
でも、せっかくTがメールまでしてくれて誘ってくれたから
どうせ暇でやることないんだし見に行ってみようと思った
Tがどんな風に軽音部でやっているのか見てみたい
そんな好奇心だった
でも、この軽い気持ちが良くなかった 一人で行って友達がいない奴だと思われたくなかったので
俺は嫌がる若林を強引に連れて行った
この時礼二は何故か寝込んでいて来なかったんだと思うw
高校近くの市民ホール的な場所で
吹奏楽と軽音の合同演奏会が行われていた
駐車場も沢山の車でうまっていて
中に入るとホールは思ってたよりも大きくて
人も保護者やら他校の生徒やらで随分とうまっていた 入り口でパンフレットをもらって若林と一緒にしげしげと眺めた
プログラムは吹奏楽→軽音の順番だった
若林「俺こんなん初めてだぞwなんかすごいもんだなw」
俺「思ってたよりかなり本気だよね…なんかすごいわ…」
ホールの中はなんというか厳かな雰囲気に包まれていて
ステージは照明が強く当たっていて凄くまぶしく見えた
とても高校生の演奏会には思えなかった
なんかプロが出てきてもおかしくないような雰囲気に思えた 若林「お前の愛しのTのちゃんはいつだよ?w」
俺「なんだよそれwさーいつだろうな…」
なんて話してるうちに吹奏楽の演奏が始まった
ステージ上に楽器を持った一団が現れると
場内は凄まじい拍手に包まれた
俺は驚いて思わずまわりをキョロキョロ見渡してしまった
若林に「ばか、きょろきょろすんな」って注意されたのがしゃくだったw 吹奏楽の演奏が始まって、俺は唖然とした
正直、高校生ごときの演奏が…となめていたのだけど
初めて生でブラスバンドというものの演奏を聴いて
俺はめっちゃ感動したんだ
音の束が俺の腹に突き刺さってくるような不思議な感じだ
ステージ上で光を浴びて演奏してる人たちが
いつも学校で一緒にいる連中に思えなかった
俺も若林もただ「すげ…」とか「うわ…」とかつぶやくだけだった 吹奏楽の演奏が終わって
軽い休憩時間になっても、俺達はあっけにとられてた
「なにか打ち込むってのは凄いことだわ…」
二人でそんな事を大真面目に話してた
Tも頑張ってるんだろうか
軽音の演奏になってTが出てくるのが
怖いような楽しみなような、なんとも言えない気持ちになった ごめんなさい、ここまでにします
限界なので落ちます
こんな時間まで書いちゃってすいませんでした!
今日続きを書きます
多分、今日終わるんじゃないかと思います こんばんは
続きを書いて行きたいと思います
保守してくれた人ありがとう! 休憩時間にホールの中が明るくなって
俺たちは後ろの席のほうで何もすることなく座っていた
沢山の人が座ったり立ったりを繰り返していて、場内は慌ただしかった
「先輩!」
声のする方を見ると、通路の方でTがピョンピョン跳ねて手を振っていた
T「来てくれたんですか!」
俺「来たよー!」 T「私もうすぐなんです…緊張します」
俺「頑張ってね〜楽しくやればいいよーw」
俺がそう言うとTは笑って頷いて、ホールの外へ駆けていった
Tのその姿がとても微笑ましく思えた
若林「可愛いもんだなw」
俺「そうだね」
若林「…なんでふったの?」
俺は若林のその質問に黙るだけで、答えられなかった 軽音部の仲間に囲まれて楽しそうに話しているTが
なんだか遠くに行ってしまったように感じた
そしてホールが暗転し、軽音部のライブが始まる
どうやら1,2年生のライブから始まるようだ
いくつかのバンドの演奏が終わってから
とうとうその時がきた 照明が照りつけるステージの真ん中にTのバンドが現れた
Tはボーカルのようで、緊張した様子で真ん中のマイクの前に立った
ホールの前の方では友達だろうか、数人の人だかりがTに熱心に手を振ってた
大勢の人が見つめるステージの真ん中にTが立っている
あの小さなTが、いつもの様子とは違う真剣な顔だった Tたちのバンドの演奏が始まる
「車輪の唄」だった
もちろん、俺もよく知っていた歌だ
真ん中に立つ小さなTが歌い出す
「錆びついた車輪…」初めて聴くTの歌声だった
恥ずかしい話、俺はこの時まで「女子の歌声」を聴いた事がなかった
それも今聴いているのはよく知っているTの熱唱だ
Tが歌い出した瞬間、俺は鳥肌が立った この時のTが歌った5分間は、今でも本当によく覚えてる
とても楽しそうに懸命に歌うTの姿が、俺の目に焼き付いて離れない
俺のTのイメージは、真面目で優しくておとなしい、そんな感じの子だ
それが、目の前にいるTはどうだろうか
とても楽しそうに情熱的に、大声を出して歌を歌っている
熱い、本当に熱かった
バンドが凄く好き好きでたまらない、Tのそんな気持ちが伝わってくるようだった このスレッドは1000を超えました。
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