ラリーにおけるドリフトについて・・・

ラリージャーナリスト古賀敬介の言葉

「従来、WRCはマシンの後輪を大きく滑らせるドリフト走行が主流だった。
ドリフト走行は一見派手で難しそうに見えるが、実はクラッシュをしないための安全マージンをとった運転でもある。
全開走行をしている時にもっとも怖いのは、突然タイヤがグリップを失い、マシンのコントロールができなくなることなのだ。
急な動きの変化に対して適切に対処することは難しい。
ならば滑る前に自分から積極的にマシンを滑らせてしまおうというのがドリフト走行で、限界の手前でマシンをわざとスライドさせてその状態をキープするのが長らくWRCの走り方の主流だった。
しかし、ドリフト走行はタイヤのグリップ力(=タイヤ性能)をフルには使いきれずロスも多い。
それを嫌ったロウブはマシンを必要以上に滑らさず、タイヤがグリップを失うギリギリのところで走り続けるテクニックをWRCに持ち込んだ。
それゆえロウブの走りはマシンのスライド量が少なくオンザレールに近い。
注意深く観察しないと、ただ普通にハンドルを切り簡単に走っているようにしか見えない。
だから、一般の人が見るとロウブの走りは地味であまり面白くないのだが、実はもっとも難易度が高い、ミスが許されない走りを彼はしているのだ。
ロウブの走りを真似して突然マシンのコントロールを失い、大クラッシュしたドライバーは多い。
しかし、ロウブのようにタイヤの性能をフルに使いきる走りができないと現代のWRCでは勝つことができなくなった。
ロウブの出現により、多くの偉大なるチャンピオンたちが現役引退を余儀なくされたのだ」