井田総論第2版レビュー試論(2)−消極的構成要件要素の理論

中義勝は、1971年、『誤想防衛論』を著わし、当時、圧倒的定説であった団藤説に異を唱えた。
団藤説の体系(構成要件ー違法性ー責任)では、誤想防衛の場合、不都合が生じるというので
ある(今でいう「ブーメラン現象」ー名付親は川端博)。正当防衛などの正当化事由も、それが
不存在であれば、構成要件を充足するという意味で、消極的構成要件要素であるとする。これ
が消極的構成要件要素の理論(以下「本理論」という)であり、井田説の特色の一つである。
  殺人構成要件=(199条)+(−35条)
「蚊を殺す行為」も「人を殺害する行為」も、ともに殺人構成要件に該当しないとして同一の
扱いを受けることになる(ヴェルツェル)。
本理論が、構成要件と違法性の区別を放棄してまで、その一体性を主張する根拠は、錯誤
の問題の解決にある。「通説の問題点は、違法性阻却事由の錯誤において、誤信について
過失があったとき過失犯の成立を認めなければならないが、どのようにして過失犯の成立
を認めることができるかが明らかでない」というのが井田の問題意識である(382−3頁)
 学説は本理論に対していたって冷淡である。たとえば「構成要件該当性では類型的な違法性
を基礎付ける事実がその内実をなしているが、違法性阻却事由は全法秩序から導き出される
非類型的なものであって、構成要件の中に取り込むことに性質上馴染まない」(山口211頁)
 錯誤問題の解決は、三段階犯罪論体系を堅持したうえでも可能であるとすれば(西田、曽根、
山口、山中、佐伯仁志)、、分析的思考を犠牲にしてまで本理論を採ることはできない。もちろん、
試験では採り得ない。