今、思えば入学当時から好きだったな。 クラスが違ってガッカリした。
でも、そんな事はすぐにどうでも良くなった。
美人で背は低いけどスポーツ万能で、髪がサラサラしてて黙ってれば天使のような存在だった。
授業中も休み時間もいつも寝てるこんな僕を、めんどくさがりながらも毎日のように起こしに来てくれる。

そんな彼女が、僕の事を"ちょっといいな"って思ってくれてたりするかもって妄想してた。
中学生なんてそんなもんでしょ。

最初は義務感だったのかもしれない。 彼女が僕を起こしにこなきゃ誰も起こしにこない。
生徒会メンバーに選ばれてしまった事を呪ってたけど、彼女もメンバーになってくれていた事
僕をメンバーに選んでくれたみんなに感謝してる。
毎日のように彼女と会話するきっかけをくれるのだから。

平和な日々は1年も過ぎれば退屈な日々になっていた。
夏の選抜試合の後、肩の倦怠感を感じて病院に行った。
脳が制御していた力のリミッターが外れて筋肉や骨がボロボロになっていると診断された。
腕は私生活じゃ使えるけど、ピッチャーはもうやれない。

足腰を鍛えるためにはじめた新聞配達も、朝早く起きてやってた自主トレも、全部無駄になった。
リトルから4年しか野球をやってこなかったけど、最高潮の時に、"ゴミ同然だ"と診断された事に絶望した。
絶望しながらも、野球にすがろうって思ったから続けようと思ったけど、DH制が無い中学野球じゃ
何をどうする事も出来なかった。 退部届を出した。

「落ち込んでんの?」

隣のクラスから放課後、わざわざ僕に声をかけにきてくれた彼女。
心配かけちゃいけないって思って笑顔で会話した。
調子に乗りすぎて軽口を叩いた。

「放課後が暇になったから今度どっか行かない?」

部活が忙しいから断られると思ってた。 すんなりとOKがもらえた。