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宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど
レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。
0001通常の名無しさんの3倍
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2019/07/24(水) 00:50:40.43ID:XfFrIQoe0
小説書いたこともなければスレッド建てるのも初めてなんだけど、もし誰か見てるなら投稿してみる
0900◆tyrQWQQxgU
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2020/07/10(金) 00:37:53.56ID:YVtOvx+T0
 ガンダムほど上等なショックアブソーバーがある訳ではない。脱出の衝撃でコックピットのあちこちにぶつかりながらも、所々生き返ったモニターでどうにか辺りを見渡す。
 地形が変わるほどのことは無いが、辺りの色が違う。火災が起きているようで、壁が橙色に染まっているのがわかった。
「…もしかしてアイリッシュがやられてる?」
 嫌な予感がよぎり機体を立て直そうとするものの、GM2は先の無茶な戦闘と脱出で限界を迎えたらしい。立ち上がろうとして逆に姿勢を崩した。
「何やってんのよ!これじゃ意味ないじゃない!」
 脱出したもののこれではどうすることもできない。少尉は途方に暮れ、思わずシートにもたれかかった。
「この際…いっちゃうか」
 ヤケクソ気味に呟いた少尉は身体を起こし、素早く身支度を整えるとハッチを開いた。モニターで見るよりも鮮明になった景色が広がる。やはり所々火災が起きているが、空気が比較的少ないのかあまり燃え広がってはいない様だ。
 少尉はノーマルスーツのブースターを吹かしながら機体を離れ、生身でアイリッシュがいる拠点の方向へ向かった。

 しばらく道なりに進んでいくと、徐々に辺りの惨状が見えてくる。爆破による通路のダメージも目立つが、どうもこの先で拠点が襲撃されているらしい。恐らく敵が反撃に出たのだろう。
「うわ…これやばいんじゃない?」
 なるべく壁沿いに進みながら、可能な限り先を急ぐ。この状況で敵機体に捕捉でもされようものなら抵抗のしようがない。何せ生身である。ヘルメットの集音マイクで周囲の環境音を探るが、ノイズが酷過ぎる。
「弱った…何もわかんないや。大尉達、無事かな」
 恐らくアイリッシュは最低限の防衛線しか敷いていなかった筈だ。大尉達が合流したところで劣勢に変わりない。
0901◆tyrQWQQxgU
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2020/07/10(金) 00:38:16.02ID:YVtOvx+T0
 少し開けた場所に出てきた。その通路の先で、交戦中のアイリッシュが見えた。拠点の内外から挟まれる様な形で襲撃を受けているのがわかる。
「やっぱりか…。でもどうすんの私」
 近くまで来れたのは良しとしても、この中を突っ切ってアイリッシュまで走るのは無謀どころの話ではない。死にに行くのと同義だ。少尉は足を止めざるを得なかった。
 すると、すぐ近くに敵のハイザックが下がってきた。慌てて壁に背を付けて息を殺す。少し被弾して一時後退したらしい。
 それを追うようにしてフジ中尉のネモが近づいてきた。的確にコックピットを撃ち抜き、ハイザックを沈黙させる。
「あっぶな…。爆発したらどうすんのよほんと!」
 中尉は彼女の存在に気付いていないらしく、すぐにそのまま踵を返した。
「あ!中尉!…気付くわけ無いか」
 通信も試みたがうまく繋がらない。まさか少尉が生身で戻ってきているとは思う筈もなく、ネモは再び戦線へ戻っていった。仕方なく、十分に注意しつつ少しずつアイリッシュへ近づく。
 大体の状況が掴めてきた。爆破の混乱に乗じて襲撃されたのだろう。それなりの戦力を投入してきたらしく、辺りに倒れている機体だけでも4機は確認出来る。あの慌ただしさからしてまだまだ居るのだろう。
0902◆tyrQWQQxgU
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2020/07/10(金) 00:38:57.05ID:YVtOvx+T0
 すると、倒れていた機体の内の1機が上体を起こす。どうも撃破されたフリをしてやり過ごしていたらしい。すぐ近くで少尉は身を潜めた。
 そのハイザックは、瓦礫の影からビームランチャーへ手を伸ばす。
「こいつ、芋ってんのね」
 まだ敵機の存在に誰も気付いていない様だ。アイリッシュまでの射線を遮るものは何もなく、このままでは艦長達が危ない。
「はあ…こんなの正気の沙汰じゃないってば…」
 選択の余地はない。少尉は駆け出すと、ビームランチャーへと飛び移り、必死でしがみついた。

「あー!!もう嫌!!!」
 絶叫しながら少尉はビームランチャーのスコープ近くにしがみついていた。敵はそれに気づかないまま、ゆっくりとランチャーを構える。少尉からしてみれば全くゆっくりではないが、振り回されながらも絶対に手を離さなかった。
「…はあ…はあ…」
 息も絶え絶えになりながらよじ登る。携行している装備はハンドガンしかないが、スコープを傷付けるくらいのことは出来るはずだ。敵の動きが止まったのを確認すると、素早く立ち上がりスコープと対峙する。
 跳弾に注意しながら角度をつけた位置からハンドガンを見舞う。1発2発と同じ箇所に命中させた。スコープにヒビが入り、そして砕ける。
「やった!!」
 しかしその直後、ハイザックのモノアイと目が合う。当然気付かれたに違いない。
「ま、片道切符だとは思ったけどさ」
 敵のマニピュレータが迫った。巨大な掌で辺りに大きな陰が出来る。
「地球、行きたかったな。…大尉、好きでしたよ」
 ひとりで呟くと、敵の手に掴まれるより先に、目を瞑り両手を広げて背中から身を投げだした。不思議と恐怖はない。
 きっとこれでアイリッシュは守れた。ワーウィック大尉達が居ればどうにかこの局面も切り抜けてくれるだろう。
 これまで何度も死線を潜り抜けてきたし、ある種この先の人生を前借りした様な心地だった。この数カ月は自分の人生で最も充実していた様に思う。自身が何かの役に立てるということの喜びを知った。この時の為に生かされてきたのだろう。

 ただ後悔があるとすれば、大尉に直接気持ちを伝えておけば良かった。
 身体が重力に引かれて、緩やかに落ちていく。地球の重力はきっとこんなものではないのだろう。風を切り、様々な音が聞こえる。動物の鳴き声に草木の揺れる音、誰かの笑い声。
 まるで知っているかの様に鮮明なイメージが浮かぶ。いや、知っていたのか。生まれて間も無い頃の、忘れてしまった記憶。今になって、思い出したのだろうか。

52話 喜び
0903◆tyrQWQQxgU
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2020/07/10(金) 00:39:27.77ID:YVtOvx+T0
「必ず…必ずやつらの墓標をここに」
 ウィード少佐は人目を憚らずに呟いた。本部による自爆から命からがら生き延び、共にアレキサンドリアで合流出来たのはステム少尉だけだった。彼にはそれ以上何も聞かなかった。いや、聞けなかった。
 アレキサンドリアに帰還し、レインメーカー少佐から報告を受けた。上層部は揃いも揃ってコンペイトウから脱出。残された兵達は死に物狂いで敵旗艦アイリッシュを襲撃しているとのことだった。彼らも無駄死にする気は無いようだ。

「全く本部の連中は…。しかし、我々はどう出ましょうか」
 神妙な面持ちのまま、レインメーカー少佐は訪ねてきた。
「どうもこうもありませんよ。我々は直ちに出港。のち、やつらの出口を塞ぐ。殲滅次第残存部隊を回収して、我々もゼダンの門へ」
 今まさに戦っている兵達を見捨てることはできない。彼らの戦いに報いる為にも、生きる希望を捨てさせるようなことをしてはならなかった。
「そうおっしゃるだろうと思いました。準備はしておりますよ」
 アレキサンドリアは最大戦速ですぐさま出港した。一刻も早く援護に向かわねばならない。ウィード少佐も再びニュンペーの元へ急ぐ。
 格納庫ではステム少尉も準備に取り掛かっているところだった。
「大変だったね。ここさえ乗り切れば本拠地へ戻れるわ」
「ええ…」
 声を掛けたものの、ステム少尉の様子があまり芳しくない。ソニック大尉を救えなかった呵責もあるかもしれないが、今は触れないでおく事にした。
「指揮は私が執る。あなたは…あなたのやるべきことをやればいいの」
 そういって彼の背を軽く叩き、コックピットへ潜り込んだ。
0904◆tyrQWQQxgU
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2020/07/10(金) 00:39:54.64ID:YVtOvx+T0
『もうすぐ作戦区域です。準備はよろしいですか?』
 レインメーカー少佐から通信が入る。
「いつでも。ステム、行けそう?」
『はい』
 ステム少尉の返事がいつもより短い事を気にしつつ、ニュンペーをカタパルトに接続する。
『MS隊を射出後、アレキサンドリアは援護射撃で突破口を開きます。混乱に乗じて、お2人は破壊したシェルターから侵入してください。隙をみて本艦も上陸します。友軍の回収はそれからです』
「わかりました。頼みます。…ニュンペー、出るぞ」
 既に火の手が上がり始めているシェルターの近くへ急いだ。ここで早々に敵を叩かねば、増援が来てしまう。その前に友軍を回収し、撤退する必要がある。後ろからステム少尉のガブスレイもついてきている。

 間を置かずに艦砲射撃がシェルターに向けて行われた。外部に固定されていたサラミス改が腹から折れ、爆炎を上げる。更なる砲撃に晒し、シェルターの中がはっきり見て取れるまでになった。
『少佐、ご武運を』
 レインメーカー少佐の合図と共にシェルター内へと潜り込む。真っ赤に燃える拠点の中へ身を投じた。小破したアイリッシュをMS隊が防衛している。
「ステム!離れるんじゃないよ!」
 呼びかけながら先手を打った。こちらに気付いた敵の1機を迅速にライフルで始末する。同じ隊と思しきGM2が2機、こちらに迫ってきた。アイリッシュの機銃を躱しつつ、敵機と接触する。
 まず突出してきた先頭のGM2が抜いたビームサーベルを、すれ違い様に腕ごと切断する。こちらを振り向いたところをステム少尉がライフルで胴から射抜く。
 更に迫るもう1機の射撃を尽く躱すと、こちらからもライフルで狙撃し両腕を無力化する。武装を失いバルカンで応戦してくるGM2を背後から羽交い締めにして、機銃の弾除けに使った。これで敵の迎撃をいなしながら、どうにか着地する事に成功する。
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2020/07/10(金) 00:40:21.52ID:YVtOvx+T0
 まず周囲を確認すると、敵の数は片手で数える程になっていた。友軍による決死の作戦が功を奏したらしい。とはいえこちらの損害も尋常ではなく、かなりの数居たはずの駐留軍は10機程度にまで減っていた。
 ウィード少佐は友軍全てにチャンネルを開いた。
「皆よく聞いてほしい。よくぞここまで粘ってくれた。ここを切り抜ければ、シェルター外にアレキサンドリアが待機している。敵に構わず脱出せよ。繰り返す、脱出せよ」
 彼らは責務を果たしたのだ。今度は殿としてウィード少佐が撤退を支援せねばならない。それが、全ての兵達に示せる精一杯の誠意だった。
 通信を切ると、友軍達がシェルターの外を目指し始める。追いすがる敵機を妨害する為、ニュンペーは再び地を蹴った。
『敵の殲滅はどうするんです??』
 ステム少尉からだった。
「我々でやる。これ以上は彼らに任せられない」
『しかし…』
「私ひとりでもやる。残るか、撤退するか…ステムは好きな方を選んでいい」
『そんな』
 本気だった。ドレイク大尉も、オーブ中尉も、ソニック大尉も此処にはもう居ない。独りで戦い抜いて死ぬならばそれも本望だが、それは彼女の選択であって他の兵を巻き添えにする理由にはならない。ステム少尉も例外ではなかった。
0906◆tyrQWQQxgU
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2020/07/10(金) 00:41:12.72ID:YVtOvx+T0
 追いかけて来たネモが、逃げる友軍の1機を背後から切り捨てた。更に追おうとするところをライフルで牽制する。こちらに気付いた敵機達が身を翻し向かってくる。
「来い…!全員こっちに来い!」
 全身の血が沸き立つ様な心地の中、切り結び、押し飛ばし、撃ち落とす。自分の中で何かが切れてしまっているのを感じていた。この先に何があろうと構わなかった。
 先程のネモによる正確な射撃を受ける。すんでのところで躱したものの、追撃が迫った。
「くそっ…!」
 斬撃をサーベルで受け止めたものの、足が止まってしまう。別のGM2が横から更に斬りかかってきた。
 が、すぐにライフルがそれを撃ち落とした。ステム少尉のガブスレイである。
『僕も…自分にやれることをやります』
「かっこつけちゃって…。後悔しないでよ」

53話 彼女の選択
0909◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:21:56.21ID:AvQA0wbv0
>>907
デザインは見たことあります!
結構攻めてますよね

>>908
いつもありがとうございます!

さて、1週間ほど経ったので続きを投下します
0910◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:22:38.58ID:AvQA0wbv0
 スクワイヤ少尉は目を開けた。
「あれ?死んでない」
 目の前にワーウィック大尉のマラサイが居た。よく見ると少尉はマニピュレータの上に横たわっている。
『地球…行くんだろ?諦めるのはまだ早い』
「大尉!」
 思わず涙が溢れ出す。
『1度アイリッシュに戻るぞ。下手なことはするなとあれほど言ったのに』
「すみません…」
 擦った目を遣ると、敵のハイザックは完全に沈黙していた。そのコックピットには薙刀が突き立てられている。
 マラサイはそれを引き抜くと、もう片方の手に乗せた少尉をコックピットへと促した。開いたハッチの向こうに大尉が居た。スクワイヤ少尉はそそくさと乗り込む。
「さて…行くか」
 ハッチを閉じると、身を翻したマラサイはバーニアに火を入れてアイリッシュへ向かった。

「…何で大尉は私が居るってわかったんです?」
「フジ中尉だ。少尉の声を聞いたと言ってな。気のせいかもしれないと言っていたが、まさかと思って声のした方へ向かったら案の定」
 あの時の通信が通じていたのか。通りかかったのが中尉のネモでなければ今頃死んでいただろう。
「それから…通信入れっぱなしだったろ。それで少尉だと確信したよ」
「え…!?全部聞いてたんですか!?」
「まあ…ひと通り」
 顔が熱くなるのを感じた。
「えっと…いや…いいんです。これはこれでロマンチックだったかも」
「そうか」
 大尉が笑った。
0911◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:23:11.69ID:AvQA0wbv0
 飛び交う戦火を潜り抜け、どうにかアイリッシュまで辿り着く。タイミングをみて開いた格納庫へ滑り込んだ。
「私はまた戦場に戻る。少尉は一旦降りてくれ」
「わかりました。…私もすぐ行きます」
「機体があればでいい」
 少尉はマラサイのコックピットハッチに手をかける。
「少尉…!」
「?」
 声を掛けられ、思わず振り返った。
「その…。戻ったら話そう」
「…ええ」
 少尉は笑顔で返した。少尉を降ろして周囲の安全を確認すると、大尉はすぐに去っていった。
「遊ばせてる機体なんてあるかな…」
 格納庫を見渡すが、補給を行っている機体以外は空いている様子はない。仕方なく少尉はガンダムの元へ走った。
「あ、少尉。お戻りで」
 アナハイムの技師がデータを確認しているところだった。
「この子、どうにか出せない?」
「今からですか!?うーん…」
 見る限り最低限の応急処置は出来ているようだが、あくまでも外観の話だ。
「状況はわかりますよ。ここを切り抜けられなければ直すだけ無駄ですからね。しかし…正直何が起きても責任は取れません」
 技師は苦い顔をした。
「いいわよ。動くんならそれで十分」
 それ以上返事も聞かず、少尉はコックピットハッチから機体に乗り込んだ。
『少尉、止めても無駄でしょうから…説明だけでも聞いてください』
 先程の技師がモニターに映る。
『アポジモーターの稼働率は70%ってとこです。多分使ってるうちに更に数字は落ちると思いますが。関節もかなり傷んでます。あとサーベルも1本紛失した状態ですので…』
「わかった。大尉の薙刀がまだ1本余ってたよね?」
『ドライブは可能です。でも扱えますか?長物は慣れないと結構難しいですよ』
「手ぶらよりいいわ。あれと適当なライフルを1丁貰っていくから」
 いつもと違うフレームの軋みを感じつつ、装備を見繕った少尉は格納庫を後にした。
0912◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:23:47.05ID:AvQA0wbv0
「マンドラゴラ…あと少しだけ頑張ろうね」
 カタパルトは使わず、そっと艦体の陰から出撃する。辺りは幾らか静かになっていた。注意深くアイリッシュから離れる。
『ガンダムは少尉か!やっぱりな!』
「フジ中尉!」
 ガンダムに気付いたのはフジ中尉だった。彼のネモは壁際に座礁している。周辺に敵影はない。
『やはり気のせいではなかったな。全く無茶ばかりして…』
「そういう中尉こそ。…動けます?」
 周辺に展開していた敵部隊が見当たらなかった。少し離れた場所で交戦しているらしい。
『試験部隊のやつが2機ほど残ってる。そいつらにやられた』
 ネモは脚部を損壊しており、立ち上がるのは難しそうだ。
「この辺りに敵は居ないみたいですね。中尉だけでも戻っててください。後始末は任せて」
『済まないな…。どうも敵は撤退を開始した様だ。しかし先程の2機が殿を務めている…気をつけろよ』
「大丈夫ですって。まだ死ぬには早いですから」
『死にたがりのゲイルがそんな事を言うとはな』
 中尉は少し笑ったようだった。コックピットハッチから脱出した中尉がガンダムのコックピットを叩く。
『これを少尉に託す。これまでのやつらとの交戦データを蓄積・解析したものだ』
 ハッチを開けて中尉と対面する。彼から端末を手渡された。
「ロードに時間がかかるだろうが、ガンダムの反応が向上する筈だ。ぶっつけ本番になるが…」
「中尉、ありがとうございます。安心して待っててください」
「頼んだぞ。メッセージも添えてある」
 珍しく中尉が親指を立ててハンドサインを見せた。そういうこともする男なのだと今更知って、少尉も思わず笑った。

 中尉を見送り、端末を差し込む。やはりロードには幾らか時間が掛かるようだ。友軍の動きを見る限り、敵はシェルターの外に出たらしい。
「さーて…腐れ縁もここまでにしたいね」
 拠点を放棄した時点でエゥーゴの勝利は揺るがない。しかし、まだ友軍が追撃戦を続けている。これを逃せばまた敵に反抗の機会を与えるかもしれない。ガンダムのスラスターを吹かすと、少尉は敵の姿を求めてシェルターの外へと駆けた。

54話 追撃戦
0913◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:25:11.73ID:AvQA0wbv0
「だいぶ…片付いてきたね…」
 息を切らしながらウィード少佐は辺りを見渡した。もう敵は片手で数える程しか残っていなかった。シェルターを抜けるまでの間に4,5機は落とした筈だが、それからは数えている余裕も無かった。友軍は殆どがアレキサンドリアへ向かった筈だ。
「しかし…レインメーカー少佐は何を…」
 肝心のアレキサンドリアが見当たらなかった。何かトラブルがあったのかもしれない。
『とにかく今は、目の前の連中を片付けるのが先決ですかね。このままでは身動きが…』
 ステム少尉もよくやってくれている。正直独りではここまでやれなかったと思う。彼の言うとおり、今相対している4機のMSはそれなりによくやる。特に中央に陣取ったマラサイはひとりだけ動きが違う。
「あのマラサイ…。もしかしてバッタのやつか?」
 得物が同じ薙刀だった。同じパイロットということならこの動きの良さにも説明がつく。
「だとすれば…バッタはグロムリン辺りが潰してくれたか。あの時代遅れのMAもそこそこに仕事をしたみたいね」

 こちらから仕掛けるより早く、敵が一斉に動いた。少し遅れてこちらも敵に向かってスラスターを吹かした。周りを固めるGM2の威嚇射撃でこちらの進路が狭まる。その進路の先には、マラサイ。
「ステム!遅れないでよ!」
『はい!』
 ガブスレイに背中を預ける形で、少佐は突っ込んでくるマラサイに向けてライフルを放った。マラサイはこれを華麗に躱すと、薙刀を頭上で回した。
「マラサイごときがこのニュンペーとやり合えるとでも!?」
 マラサイが振り下ろした薙刀をギリギリで躱す。回避運動から繋いだ動きでバックハンドにサーベルを繰り出した。敵はそれすら薙刀で受け止めるが、無防備になった側面にはステム少尉のガブスレイが居る。
『落ちろッッッ!!』
 少尉のフェダーインライフルにサーベルが形成され、勢いよく突き立てにいく。しかしマラサイは、避けるどころかガブスレイの懐に入り込んだ。
『何だと!?』
 フェダーインライフルはリーチが長い分、懐に潜られると扱いが難しい。薙刀を扱うだけあってそのあたりは熟知している様だ。ガブスレイは首根っこを掴まれるようにして、背負い投げの要領で投げ飛ばされた。
『くそっ!』
 着地するやいなや、他敵機のライフルに晒される。攻撃を受けるより早く可変すると、少尉は敵と距離を取った。
0914◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:27:25.79ID:AvQA0wbv0
「ちょこざいな!」
 ガブスレイを投げ飛ばしたマラサイへ、今度はニュンペーで挑む。近距離でライフルを見舞った。流石に加速の早いライフルをこの距離では避けきれなかった様で、マラサイは肩の盾でいなした。脇が甘くなった所にフェンシングよろしくサーベルで突きかかる。
 いくらパイロットの腕が良かろうと、所詮はハイザックに毛が生えた程度の量産機である。ニュンペー相手では持ちこたえられなくなるのも時間の問題だろうと思った。
 しかし、こちらのサーベルを敵は捌ききった。疲れるどころか更に動きが良くなっている様にすら思えた。こちらの攻撃の隙をつかれ、薙刀の柄で脚を払われる。
「何だ!?」
 関節部を狙われたのか、一瞬ニュンペーはガクンと体勢を崩した。見上げた先で敵のモノアイが妖しく光る。
 意を決した少佐は、敵の腰部へ抱きつくとそのまま押し倒した。先程の敵の戦術と同じく、インファイトに持ち込めば薙刀は文字通り無用の長物になる筈だ。
 しかしここでも敵の方が1枚上手だった。押し倒した勢いそのまま、ニュンペーは腹から蹴り上げられた。
「ちいぃ!」
 跳ね除けられ、再び距離が開く。明らかにパイロットとしての腕は敵の方が上を行っている。
 更に良くないのは、他の機体の動きも見ながら戦わねばならない事だった。こうしてマラサイとやり合いながらも、他のGM2が茶々を入れてくる。

 長い攻防が続く。ステム少尉が被弾し地表へ不時着した。可変してMSに戻るも、肩を損傷した様だ。
『まだやれます!お構いなく!』
 少尉が叫ぶ。そこにここぞとばかりにGM2がサーベルを抜いて迫る。
「そこッッッ!」
 少佐は交戦中のマラサイ越しにそのGM2へとライフルを放った。マラサイの頭部を掠ったそのライフルは、そのままGM2の腹部を横から貫通した。間髪入れずにガブスレイが正面から横凪に両断する。
「後3機!!」
 こちらも疲弊しているが、それは敵も同様だった。マラサイの援護をしようとライフルを向けた別のGM2だったが、弾が切れたのか空撃ちした。返す様にそのGM2へライフルを見舞い、コックピットに直撃させる。
「残弾くらい確認しておくんだね」
 極限状態の中で、本能的に次の手を選択していく。研ぎ澄まされていく感覚はあるが、余裕がないのはこちらも同じだ。再度接近してきたマラサイへの反応が遅れる。
「まだだ!」
 ギリギリのところで薙刀の柄を掴み、敵と睨み合う。長い戦いで気が遠くなりそうになりながらも、どうにか踏みとどまっていた。このマラサイに乗っているだろうパイロットとその仲間達への復讐心に支えられているからかもしれない。
「お前達だけは絶対にッッッ!!!」
 少佐は力の限り吠えた。そのままマラサイを押し退けると、敵の左腕を掴み肩から引き千切った。ムーバブルフレームの難点があるとすれば、人体構造に近い故に関節部が脆弱であることだった。モノコック構造の様な堅牢さは無い。
 もいだ腕をそのまま投げ捨てると、バランスを崩したマラサイを蹴り倒す。そこへ残る1機のGM2が間に割り込んできた。
「邪魔をして…!」
 もう後はない。割り込んできたGM2と掴み合いになりながら、その腹にライフルを突き立てる。めり込んだ状態の零距離で最後の一発を撃ち込んだ。倒れかかってくる敵機をそのまま打ち捨てる。
0915◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:29:14.91ID:AvQA0wbv0
「はぁ…はぁ…」
 息も絶え絶えの少佐の傍にガブスレイも合流する。
『残るは…』
 目の前にいるマラサイは、片腕になりながらも戦う意思を曲げずにいるようだ。退く素振りは微塵も見せない。
「あんたらの勝ちだろう!それで満足じゃないのか!?何故退かない!?」
 思わず少佐は怒鳴った。何もかも失ったこの戦いは、紛れもなくティターンズの敗北だった。なのにこの男は何故まだ追ってくるのか。
 そうはいってももう敵は満身創痍だった。これ以上何か出来るとは思えない。
「…もういい。これ以上は追ってこれまい。ステム、アレキサンドリアは?」
『…来ませんよ』
「何を言ってるの?」
『レインメーカー少佐は今頃この宙域を脱している頃でしょうね…撤退した友軍位は拾ってくれたかもしれませんが』
 耳を疑った。理解が追いつかない。
『エゥーゴがここまでやるとは思いませんでしたよ。僕自身も紙一重でしたが…あなたはここで死ぬんですよ、ソニック大尉達と同じ様に』
 何を言われているのか、意味を汲むまで少し時間がかかった。
「…まさか、ラムは…」
『あんたで最後だ。エゥーゴも片付いたしね』

55話 復讐心
0916◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:37:33.47ID:AvQA0wbv0
「全く…どいつもこいつも」
 ステム少尉は思わず毒づいた。何故戦力的に余裕がない筈のエゥーゴがこれ程までに追撃を掛けてきたのか、そしてウィード少佐は何故馬鹿正直にそれを迎え撃つのか…理解に苦しんだ。

 そもそもレインメーカー少佐との当初の計画では、初戦で少し善戦した後にウィード少佐達をエゥーゴに討たせて撤退するだけの筈だった。
 しかし、ソニック大尉が単独で侵攻してきた敵と交戦に入ってしまい、あろうことか本部の爆破まで粘ってしまった。最初の誤算である。救援に入る動きを見せつつ自ら手を下す事になってしまった。
 本部の爆破自体もレインメーカー少佐の入れ知恵だった。そうすれば上層部が脱出するだけの時間は稼げると唆したのだ。
 背後の後ろ盾を失った駐留軍は、少佐の見立て通り死にもの狂いで戦った。

 大尉の誤算だけならまだ良い。しかし今度はウィード少佐がエゥーゴ相手に善戦してしまう。混戦の中でやられてくれればそれでも良かったのだが、殿になって味方を全て逃してしまった。
 ここでウィード少佐が倒れれば次はステム少尉が敵を一手に引き受けなければならなくなるし、少佐だけ残しての撤退を取れば、抑えきれずに敵の追撃が尚一層激しくなる。
 そうなると自身の脱出すら危うくなる為、先にエゥーゴを片付ける必要まで出てきてしまったのだった。
0917◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:37:55.89ID:AvQA0wbv0
「まあこれで…試験部隊が必死に戦ったという記録はより補強されるけどね。回収した友軍が証言してくれる。…ただ、おかげで俺は割を食った」
 舌打ちしながら、ステム少尉はフェダーインライフルをウィード少佐に向けた。
『全て…レインメーカー少佐とステムが?』
「この際だから聞かせてやるよ。余りに爺さんの動きが遅いから俺が補充されたんだ。シロッコ大佐は…これ以上こんな試験部隊のお遊びに付き合っている暇はない」
『大佐が…』
 信じられないといったところか。皆そう思うのだ。自分は特別だと思い込んでいて、いざ事実を突き付けられると認めようともしない。
「コロニー落としに失敗した時点で、その責任を負うのがあんたらの最後の任務だったんだ。…姉さんの負傷の代償と一緒にね」
 姉弟揃って散々振り回されてしまった。しかしそれもここで終わる。
0918◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:38:18.70ID:AvQA0wbv0
「エゥーゴも一通りは片付いたし、あんたを始末したら…俺は合流ポイントでアレキサンドリアに拾ってもらう。それで任務完了だね」
 ため息をついてニュンペーを見据えた。もうパラス・アテネは完成の目処が立ったし、ニュンペーの量産体制も整いつつある。シロッコ大佐達もこのプロトタイプを失ったとして特別惜しくは無いのだろう。
『大体の察しはついた。それで…今なら私を殺せると?』
「逆に…殺せないと思ってるのか?」
 ソニック大尉といいウィード少佐といい、何処までも邪魔をする。もうウンザリだった。
「さよなら」
 ライフルでニュンペーを狙うと、流石に抵抗してきた。ビームを躱し、こちらを組み敷こうと掴みかかってきた。そんなところまでソニック大尉と同じなのか。
「あんたはここで終わりだ!潔く撃たれれば良いものを…!」
『そうかもね。でも、実行犯のあんたを連れて帰ってくれるほどレインメーカー少佐も甘くないよ』
「無駄な抵抗だ!惑わせて!」
0919◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:38:42.25ID:AvQA0wbv0
 取っ組み合いの最中に、背後でマラサイが立ち上がっていることに気付いた。
「何!?死にぞこないが…!」
 ウィード少佐を押し退け、今度はマラサイを撃つ。右肩の装甲が弾け飛んだが、それでも膝をつかない。それどころか薙刀を脇に挟んでこちらへ向かってきた。
「馬鹿な!たかがマラサイだぞ!?何故動ける!?」
 敵の鋭い斬撃が下から斜めに迫る。動揺した少尉は思わず腕で身を庇った。刎ねられた片腕がライフルごと宙を舞う。
「くそ!いい加減落ちろよ!!」
 残る右肩のメガ粒子砲と頭部のバルカンで集中砲火を浴びせる。しかしマラサイを蜂の巣にする前にニュンペーが接近してくる。
「どいつもこいつも何故死なない!?」
『あんたの爪が甘いから!!』
「煩いんだよ!あんたも!!」
 迫るニュンペーの頭部に蹴りを入れたものの、怯むことなくこちらを睨み返してきた。
「その目は何なんだ!」
 拡散メガ粒子砲で目くらましをし、その隙にサーベルを抜く。ニュンペーを袈裟斬りにしようとするが、マラサイの妨害に遭う。千切れた左腕を拾い上げ、スパイク部で殴りつけてきた。
「こいつ!庇う理由は無いだろ!?」
 何故敵であるニュンペーを庇うのか。大人しく寝ていれば良かったものを。打突を受けよろめきつつも、返す刃でマラサイの持つ左腕を破壊する。爆発の衝撃でマラサイは再び倒れた。
0920◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:39:05.37ID:AvQA0wbv0
『ステム…この際あなたの理由は聞かない…。でも…あなたにとってこの戦いは何の意味もないわ。…せめて生き延びてくれれば良かった』
 膝をついていたニュンペーが立ちあがる。
「ソニック大尉は俺が自ら手を下してやった。あんたもそうする事で俺の目的が達成されるんだよ…。何も心配する必要はない!!」
 再びサーベルで斬りかかり、鍔迫り合いになった。Iフィールドの反発で周囲に電撃が走る。
 どちらも満身創痍だが、的になって戦っていたニュンペーのダメージの方が深刻な筈だ。単純な押し合いで負けるとは思えない。
「往生際の悪いところまでソニック大尉と同じだな。だが…それもこれまでだよ」
 サーベルを更に押し込んだ。自分の刃で焼かれて死ぬならば、彼女にはおあつらえ向きだろう。
『私も無意味な復讐の最中だから…まだ死ねない』
 装甲表面を少し溶かしたところでニュンペーはまたサーベルを押し返してくる。
「知ったことか!あんたの分際で復讐だの何だのと…身を弁えろ!」
 その時、倒れたマラサイがバルカンで邪魔してきた。
「この…!」
 気を取られたタイミングで、次第にガブスレイが押され始める。
『そこに転がってるマラサイは勿論だけど、ガンダムがまだいる。それに…』
 これだけの連戦で、何処にこんな力が残っているのか。抑えきれず膝をつく。
『ラムをやったって言うんなら、それは胸に仕舞っておくべきだったね』
0921◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:39:31.94ID:AvQA0wbv0
「は…。ほんとに立場が解ってないらしいな!あんたは…」
『解ってないのはステム…あんただよ』
 ジリジリとサーベルが近付く。苦し紛れに持てる武装を乱射するが、ニュンペーに怯む様子は無い。
『黙ってれば上手くいったかもしれないのにね…。あんたは…ここで死ぬ』
「くそ!くそ!」
 サーベルが首元まで迫る。元々大型機のニュンペーが、更に巨大に見えた。ニュンペーは両手でサーベルを握り直す。
「何なんだよ!おかしいのはお前らじゃないか!」
『自分だけはおかしくないと思ってるやつが…1番イカれてるんだよ』
 ハッとした瞬間、視界がメガ粒子砲で白く光った。

56話 返す刃
0922◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:44:34.16ID:AvQA0wbv0
「は…うぐっ…」
 思わずウィード少佐は呼吸を乱した。沈黙したガブスレイを見下ろしながら、どうにか意識を保った。
 辺りはすっかり静けさに包まれていた。マラサイもこちらに仕掛けてくる様子はなく、そのまま横たわってこちらを見据えている。
「まさか…あんたに助太刀されるとはね…」
『事情は知らんが、ワケアリみたいだったからな』
 返答にハッとして通信機器を見る。オープン回線だった。油断に油断を重ねたステム少尉らしいといえばらしい。彼は諜報を任されるには余りに若過ぎた。

 全く心当たりが無いわけではなかった。元々レインメーカー少佐はお目付け役として着任していた。今にして思えば、彼の良いように動かされていた部分も否めない。
 それがシロッコ大佐の意思だったのだとすれば、もう初めから定めは決まっていたのだ。ステム少尉含めて所詮は捨て駒だったのだ。
 恐らく彼の言っていた合流云々も少佐の方便だろう。ここまでの事をしておいて少尉を生かしておく理由がない。
「助けてもらったことは感謝する。だが…それとこれとはまた別の話だ」
 ニュンペーは再びサーベルを起動した。
『投降したくないのはわかる。だが、直にエゥーゴの増援も来るぞ。死ぬ気か?』
「投降など出来るものか。この機体も、データも、貴様らに殺された仲間の遺した全てだ。エゥーゴに接収される位なら、ここで共々死んでやる」
『それこそ犬死というんだ』
 マラサイが膝をついて立ちあがる素振りを見せた。
0923◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:45:04.05ID:AvQA0wbv0
『エゥーゴはティターンズの投降兵も受け入れる。俺も元ジオン兵だ』
「だから何だ!お前達が仮に私を受け入れても、私がお前達を許すことはない!」
 誰も彼も皆、彼女を置いて先に逝ってしまった。オーブ中尉にも合わせる顔はない。そろそろ潮時なのだろう。この復讐心以外、もう何ひとつ手元には残っていないのだ。
「…決着を。さあ立て」
『…どうしてもやるのか』
 マラサイは、薙刀を拾いながら立ち上がった。振り返ればこの男との因縁も長かった様に思う。月面での交渉時に顔を合わせて以来、ずっと戦ってきた。敵ではあるが、ある種の敬意は芽生えていた。
「お前をここで倒して、ガンダムを倒す。そうでなければ死んでも死にきれん」
『何処かでやめにしなければ、この連鎖は終わらんよ。螺旋みたいなものだ』
「お前達を殺して終わりにさせてもらう。そんなにやめにしたければここで死ねばいい」
『…生憎、後回しにしている話があるからな』
「そんな日常すらお前達が奪った!」
 ニュンペーはサーベルを構えると、マラサイに振り被った。敵は下がる様にしてそれを躱しつつ、地を蹴って飛び上がる。
「逃がすか!」
 サーベルを回転させながら投擲する。直撃はしなかったものの、敵の脚部装甲を裂く。敵の着地より早く、ガブスレイのフェダーインライフルを拾い上げ更に追撃をかけた。
0924◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/17(金) 11:45:33.59ID:AvQA0wbv0
『相変わらず腕がいいな』
 そういいながらマラサイは薙刀を回転させてビームを弾く。そのまま距離を詰めると、脇に抱えた状態から横凪に斬りつけてきた。
「あんたのデータもしっかり入ってる」
 受け止めるようにフェダーインライフルのサーベルを展開する。ウィード少佐自身は長物の扱いには慣れていないが、学習装置の補助で互角に渡り合う。皆が身を呈して手に入れた実戦データの結晶だ。
「バッタならまだしも、半壊のマラサイで勝てるほどニュンペーは甘くない!」
 薙刀を払うと、ノーガードの左側から蹴りを見舞った。蹴飛ばしてよろめかせたところへ更にライフルで斬りつける。
『ちぃ!』
 すんでのところを薙刀の柄で防がれる。しかしIフィールドの展開が不十分だったのか、そのまま薙刀を切断した。

 再び距離を取り睨み合う。
「自慢の長物もこれではね。もうおしまいだ」
『まだわからんさ。私の奥の手はまだある』
「ハッタリを」
 こちらからライフルで仕掛けるが、マラサイは積極的に応戦してこない。ライフルの射撃を躱しながら距離を保とうとしている様だった。
「時間稼ぎのつもりか!?そんな決着…私は認めない!」
『どうかな。早く落としてみろ』
 躍起になって追いかけていると、突然振り向いたマラサイが薙刀を投げつけてきた。ギリギリで躱したものの、ライフルを破壊された。
「わざわざ丸腰になるとは」
『お互い様だ』
 そうは言うが、肉弾戦こそニュンペーに分がある。身を翻し接近してきたマラサイだったが、突き出してきた腕に絡む様にして背後を取る。腕を捻り上げると、そのままマラサイを組み伏せた。ソニック大尉の近接格闘データも取り込んでいるのだ。
「お前如きでは…私"達"には勝てない」
『まだだ…!』
 マラサイはなおも抵抗するが、マウントを取ったニュンペーを退かすほどの力はもう残っていない様だった。
0925◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/17(金) 11:46:10.68ID:AvQA0wbv0
『お前は…今…私"達"と言ったな…?』
「ああ。私ひとりでは勝てずとも、仲間の魂はここにある」
 力に任せて右腕も引き千切る。これでもうマラサイは一切の抵抗が出来ない筈だ。
「安心しろ。お前を送ったらガンダムも直ぐに送ってやる。その後で…私も逝くだろうが」
『その話はまだ取っておけ。奥の手があると言ったろう』
「何?」
『…来たか』
 マラサイが全てのスラスターを全開にして足元を滑り抜けた。掬われる形でニュンペーは尻餅をつく。マラサイはそのまま受け身も取れずに近くの岩礁へぶつかり動きを止めた。モノアイが消灯する。
「くそ…。何だ…?」
 その時、高速で接近する機体を捉えた。体勢を整えて身構え、シェルターの方向を振り返った。
『大尉!!』
 若い女の声。見覚えのある機体が姿を現した。
「…奥の手ってこれね。探す手間が省けた」
 最後の敵、ガンダムだった。

57話 私"達"
0926◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/17(金) 12:38:08.31ID:AvQA0wbv0
取り敢えず投下はここまでですが、もう実は2章は書き上げています。
3章でこの物語は完結します。そちらも設定が完全に定まり次第書き始めようと思いますが、その前に2.5章を少し投下予定です。裏話的な。

乞うご期待!
0928通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2020/07/18(土) 19:51:28.68ID:bDHris4x0
乙です!
また間が空いてしまいました(・ωく)

洞窟で味方のはずのガブスレイに睨まれるって、ちびっちゃいそうなくらい怖い絵ですね
ステムはソニックを脳筋呼ばわりしますが、正直彼の最期まで見ても私怨なのか腹黒なのかしっくり来なかったです
まぁどっちもあったってところでしょうが...復讐一筋だったジェリドが少し恋しくなったりして
何はともあれ因果応報かなぁ。ウィードやソニックの奮戦に対してふざけてるみたいで、同情しかねます
(脳筋をバカにしてる頭でっかちなのは分かりました、自分に都合よく考えたがる子ですね)

あぁ、クローアームも使ってしっかり押さえないから、あと
さすがにビームライフルでボーザツラウフは無理ですねw 銃身が熱で溶けるか溜まったIフィールドで暴発するでしょう
(と>>897の時は思いましたが、>>918>>924で撃ってますね。筒が歪んだ程度?)
そんな時の為の銃床側ビームスピア、もっと流行っていいと思います

そして久々のハイザックカスタム、Z関連の二次創作では本編より出番が多い気がします、地味に愛され機種かと
スクワイヤ、何だかんだで生き残る方に動ける子ですね...こりゃ他の媒体でも何やかんやで長生きするぞ
サラミス、再出港叶わず撃沈...性ではありますが、かなCです!

ワーウィックに回収されるスクワイヤ、こいつら...(笑)
計画通りの改修が出来ないまま戦場に放り出されるのは、GP計画の呪いなんでしょうか
ちゃっかりEWACネモ退場、いや偵察機にあるまじき戦果の数々でした。R.I.P.

試験部隊の人間に時代遅れ扱いされるレストアMAのグロムリン君、ちょっとカワイソス
まさか乗ってたのオーブ中尉じゃないスよね...? ゼダンの門でリハビリしてるはずだし
合流ポイント...あからさまな死亡フラグw
脇を使ったナギナタ攻撃も長物ならではですね

後回しにしてる話→日常 と、ボロボロでも察しがいいウィード少佐。アイバニーズとは違うのだよ、アイバニーズとは!
仲間たちの武器やデータで戦う展開の何と熱いこと!(さっき自分を殺しかけた武器とか言わないw)
やはり最期はモノアイが死ぬワーウィックのマラサイ...しかし爆発しないですね、ジェリド機は欠陥品だったか(苦笑)
今回はお色直ししたガンダムの登場で〆、いよいよラストバトル?だぁ!

3章となるとついにZZ外伝が...?wktk
2.5章というのも気になりますね、もうSさんの焦らし屋さん!w
お身体に気をつけて、続き楽しみにしてます!
0929◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/19(日) 23:04:34.45ID:1WHQhniM0
>>927
>>928

いつもありがとうございます!

ステムはどのくらい描写すべきか迷いましたが、今回はあまり掘り下げずにいく感じです。
ガブスレイは強機体だと思うんですけど、扱いも難しいかなというところで。
ライフルはもう少し状態について書いてもよかったですね!基本的には使える状態だと思ってもらえれば!使ってますし!笑

ハイザックカスタムは、ティターンズ側の量産機でマイナーチェンジくらいの立ち位置なので便利でした。笑
艦隊戦はまた書きたいですね…

グロムリンは旧戦争時の設計なんで、まあそんなもんかなと…笑
連携も取りづらいとなれば持て余しますよね…
オーブ中尉はゼダンの門に行ってます!今回は出番なしですね

正直ウィード少佐はもっと早くから描写増やしとけば良かったなぁと思わんでもないですが、序盤はあまり戦わない敵のポジションだったのもそれはそれで悪くはないかなと
ついついマラサイに乗せると頑張らせちゃいますが、いくら大尉でもこれ以上は厳しいですね

3章は元々書いた通り、Z終盤の話になります!ZZは今のところ構想は無いんですが、1章の面子がこのまま出番なしというのも寂しいところ…
取り敢えずまだまだ続きますのでお付き合いください!
0930◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/23(木) 23:19:12.71ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉はようやくワーウィック大尉を発見した。辺りには敵味方のMSの残骸が散っており、その中に大尉のマラサイを視認出来た。
「また水色!?」
『ニュンペーだ。最後くらい覚えていくといい』
 例の試作機から女の低い声がした。こちらと同じチャンネルに繋いでいるのか。
「大尉!無事ですか!?」
『ん…一応…な。しかし…待ちくたびれたぞ』
 返答があるものの、機体を見るからに大丈夫とは思えない。両腕をもがれている上各部の損傷も激しく、これ以上の戦闘は不可能だろう。
『少し…休ませてくれ…』
「はいはい」
 着地し、ニュンペーと名乗った試作機と相対する。かなり消耗している様子だが部位の欠損もなく、大尉に比べれば綺麗なものだ。

「何で同じチャンネル開いてるわけ?」
『まあ、お互いに積もる話も色々とね』
「胡散臭…」
 軽く苛立ちを覚えながら、念の為周囲を確認する。動ける敵機はニュンペーだけの様だ。
「あんたさえぶちのめせば良いのね?」
『そうだ。私もお前さえ倒せば全てが終わる』
「別に何も終わんないわよ。何言ってんだか」
 ニュンペーにライフルを向ける。よく見ると敵は何も武装を持っていない。
「丸腰でやる気?」
『心配無用』
 そう応えるなり、ニュンペーはこちらに向かってきた。
0931◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/23(木) 23:19:57.27ID:/Z+V/y3V0
「!…速い」
 瞬時に懐に潜り込まれる。慌てて応戦しようとしたが、敵の方が速い。ライフルを構えていた腕を取られ、あらぬ方向へ曲げられた。MS故に関節の自由度は高いが、それでもかなりの負荷が掛かる。
 その上この至近距離では、斬りかかろうにも薙刀ではリーチがあり過ぎる。
「だったら!」
 薙刀の下部を切り離し、長柄のビームサーベルに切り替えた。逆手に持ち替え敵に突き立てにかかる。流石に狼狽えたのか、それを躱しながらニュンペーは再び距離を取った。
『…先程のマラサイの方が骨があったかな』
「大尉は強いよ。でも私も強い」
『2人して手負いも倒せずに?』
 そういうニュンペーの手には、ガンダムが持っていたライフルが握られている。腕を取られた時だとこちらが気付くのとほぼ同時に発砲してきた。

「泥棒!」
『盗られる方が悪いね!』
 射撃を避けながら距離を保つ。更に敵は、こちらを追いつつ先程切り離した薙刀の片割れも拾い上げる。
「人のものばっかり使って!」
 急制動を掛けて身を翻すと、宙返りして敵の頭上を取る。が、いつもより明らかに機体が重い。
「ちい!アポジモーターがどうこう言ってたねそういや!」
 構わずそのまま敵に斬りかかる。
『遅いね』
 ニュンペーは斬撃を容易く躱すと、すれ違いざまに斬りつけた。これを躱しきれず、ガンダムは胸から左肩にかけて傷を負う。しかしまだ浅い。
「まだまだぁ!」
 着地するやいなや、更に敵へサーベルを見舞う。しかし、どれだけ切り結んでも手応えがない。全て肩透かしの様な感覚すら覚えた。例の学習装置がなせる技か。
『援護が無ければ…ガンダムもこんなものか!』
 敵のサーベルによる反撃を腹に受け、一瞬足が止まる。
『死ねッッッ!』
「誰がッッッ!!!」
 ニュンペーの振り被った薙刀に、逆手に持ったガンダムの薙刀を合わせる。かなり強引だが、再び薙刀を元の1本に戻した。
『何!?』
 敵のドライブが切断され、ビームが消えた斬撃は空振りに終わる。コントロールを奪った薙刀をそのまま敵の肩に突き立てた。
「お返し」
 そのまま最大出力でビーム刃を形成する。溢れるメガ粒子で敵の左肩が弾け飛んだ。
0932◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/23(木) 23:20:44.65ID:/Z+V/y3V0
『小賢しい真似を…!』
 衝撃で体勢を崩しながらも、ニュンペーは苦し紛れに右肩の拡散ビーム砲を放つ。正面からそれを浴びたガンダムは、両腕で身を庇いながらも大きなダメージを被る。
「何なのよ!内蔵武器あったの…?」
 敵が後ろへ下がるのを確認すると同時に、モニターがやや乱れる。サブカメラをやられたらしい。
「はあ…あんたやるね。名前は?」
『今更聞いてどうする?』
 爆散した自らの左腕からライフルをもぎ取ると、再び発砲してきた。付かず離れずの距離で敵の射撃を躱す。
「何か武器は…?」
 逃げ回りつつ辺りを探すと、友軍が落としたらしいビームライフルを見つけた。その場に転がる様にしてそのライフルを拾うと、膝立ちで狙いを定め敵を撃つ。
『そういえばいつものネモが居ないな!』
「あんたらが落としといてよく言う!」
 フジ中尉ほど正確な射撃は出来ない。その上ニュンペーの動きは素早く、コックピット内の補助スコープを使用してもなかなか命中しない。腕の損傷もあり照準がブレる。
「もう!腹立つ!」
 スコープを押しのけながら少尉は喚いた。ライフルを携えたまま、こちらから突っ込む。当たらないなら近づいて撃てばいい。

『どうしたガンダム!!』
 近距離の射撃すらニュンペーは躱す。こちらの行動パターンがわかっているかのようだ。
「この子の名前はマンドラゴラ!あんたこそ覚えておきなよ!」
 データ頼りな動きをするというのなら、敵の意表を突けばいい。ライフルを持ち直すと、ガンカタの要領でトンファーのようにして敵の腹部を殴った。
『くっ!』
「あら、初めて?優しくしてあげようか?」
 右手のトンファーと左手の薙刀。長短を使い分けて敵に間合いを測らせない。まして片腕では捌けるはずもなく、ガンダムは敵の頭部を薙刀で切り飛ばした。
 とはいえ、ビームライフルもそんな使用を前提には作られていない。何発か殴るとすぐに使い物にならなくなった。ねじ曲がったライフルを捨て、両手で薙刀を構え直す。
「これで!」
『舐めんじゃないよッッッ!』
 敵が吠えた。また先程の拡散ビーム砲を撃つ。ビームを浴びながらも、薙刀を銃口に突き立てようとした。ビーム刃が敵に触れた時、放たれたメガ粒子が刃のIフィールドで偏光して花火の様に辺りに散らばる。
「くっそ…!」
 狼狽えた少尉は思わず下がる。敵はそれを見落とさなかった。右肩にダメージを負わせつつも、頭部を掴まれガンダムは押し倒された。両腕の上に脚を乗せる様にして組み敷いてくる。
0933◆tyrQWQQxgU
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2020/07/23(木) 23:21:16.06ID:/Z+V/y3V0
『撤回するわ…。強いね…あんたも』
「そりゃ…どうも…」
 お互いに息を切らしながら睨み合う。こちらを見下すニュンペーのモノアイが赤く光っていた。
『いいね…教えてあげる。私はドラフラ・ウィード少佐』
「…ふん。ゲイル・スクワイヤ少尉よ」
『ゲイル…スクワイヤ?』
 ウィード少佐が聞き直した。
『ああ、思い出した。あんたが例の?』
「何よ…」
『あんたの親父さん知ってる。もう死んだって聞いたけど』
 衝撃が走る。少尉は全くこの女を知らない。父が死んだ?
『…何も知らないくせにエゥーゴに居るの?名字まで変えてさ』
「別に…。何か知ってる風だね…」
 少尉は奥歯を噛み締めた。ウィード少佐と名乗るこのパイロットは父のことを知っているらしい。
『ヴォロ・アイバニーズ…。時代遅れな特務部隊の隊長だろ?随分前会った時、娘がエゥーゴに居るって言ってたからね。親不孝なやつもいるもんだと思って覚えてたよ』
「嘘…」
 父の死を、こんな形で知ることになるとは思ってもみなかった。一瞬、最後に見た父の姿が脳裏をよぎった。

58話 データ
0934◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/23(木) 23:21:44.59ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉は耳を疑った。父がティターンズに居たのか。
「何で…父さんが」
『…は?私が知る筈無いだろ。ニューギニア基地はとっくに陥落してる。あんたらエゥーゴが落としといて何を』
 ニューギニア基地はワーウィック大尉が前に居た戦線だ。父が連邦の人間だということは知っていた。恐らくそれなりに高い地位に居たであろうことも。わざわざ母方の姓を名乗って、七光りを隠そうと躍起になっていたところもあった。
 しかし、それがティターンズだったとは聞いていなかった。この女の言う通りなら、特務部隊故に知らなかったのか。
『…余計なことを話したみたいだね。気にしないで。すぐにあんたもあっちに逝くんだし』
 ガンダムから薙刀をもぎ取ると、ビーム刃を掲げた。
『…あんた達はフリードやラムの仇だ。でも、敬意は払う。だから一瞬で終わらせてあげる…それがせめてもの情け』
0935◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/23(木) 23:22:37.67ID:/Z+V/y3V0
「私…何も…知らなかった…」
 ニュンペーが薙刀を振り下ろす。荒れたモニターが明るくなった。
「…余計に死ねないじゃない」
 フジ中尉から貰った端末のロードが100%を示す。それと同時に表示された言葉は"形影相同"。
「中尉…だから意味わかんないってば」
 緊急で左肩の接続を切り離し、ギリギリで薙刀を躱した。残る右腕に乗るニュンペーの脚にしがみつき、そのまま引き倒す。
『何を…!』
 形勢を逆転し、跪いたニュンペーの前に立つ。
「私が本当は誰だろうと…」
 離した左腕を拾い上げ、再度接続する。過剰な負荷のせいか、接続部から煙が上がった。
「私は…私の魂を信じる」
 呼応する様にして、サブカメラが復旧する。煙の中でツインアイが光った。

『大層なことを言っても…何も変わりはしない』
 ニュンペーが立ち上がり、こちらに向かってくる。しかし、ガンダムはそれを容易くいなすと脚を払い再び膝をつかせた。
『!?』
「皆…何も知らない癖にさ…知った様な気になる」
 てっきり少尉は、ニュンペーのものと同じ様な敵の行動パターンを受け取ったのだと思っていた。
『馬鹿にして!』
 立ち上がりながらニュンペーがハイキックを見舞う。しかしガンダムはそれに手を添えると、その蹴りの勢いで逆にニュンペーの体勢を崩させた。
『な…何が起こっている!?』
 中尉のくれたデータは敵がどう出るかのデータではなく、自機の特性を活かすにはどうすればいいかというものだった。これまでの戦闘で得た癖の補正や弱点の補強…あくまでも能動的なデータだった。
「私は…全部受け入れることは出来ないかもしれない。でも…」
 少尉は頭を空っぽにした。
「いくよ…マンドラゴラ」
 今は何も考える必要はない。後で考える事が増えただけの事だ。
0936◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/23(木) 23:24:02.82ID:/Z+V/y3V0
『何をやったのか知らないが…!私達の血の結晶が…そんな付け焼き刃に…!』
 ニュンペーは腕部のビーム砲を放つ。これまでは内蔵兵装はエネルギー節約で極力使いたくなかったのだろうが、そうも言っていられなくなったらしい。形振り構わなくなったのがわかる。
 ビーム砲を躱しつつ、敵の落とした薙刀を取り戻す。
「私に長物は向かない。だから…」
 再度薙刀を分割し、二刀流に持ち替えた。
「その付け焼き刃、2本ならどう?」
『戯れるな!』
 ニュンペーは脚部のクローを駆使して接近戦を挑んできた。こちらの捌く2本の刃に、カポエイラの様にタイミングを上手く合わせてくる。
「…いける」
 こちらからも敵のリズムに合わせる様にして攻防を繰り広げる。そして、そのリズムを意図的に崩した。斬りかかるその時に一部のアポジモーターを作動させることで、動作スピードを瞬間的に早めたのだ。
 その一瞬が敵には捉えられなかった。クローごと右の足首を切り落とす。

『こいつ…!』
 体勢を崩しながらもビーム砲を放ってくる。流石に作動しないアポジモーターが増えてきたのか、躱しきれずに右肩のバーニアが撃ち抜かれる。推進剤による爆発の衝撃で片方の薙刀を落とす。
「ちい…」
『まだ…!まだ終わっちゃいない!!』
 ニュンペーは戦意を喪失してはいない。片膝をついた状態でありながら、残る薙刀も片手で抑え込んでくる。流石にガンダムもパワーが落ちてきているのか、敵に掴まれた左手を振り払えない。
『お前も…道連れだ…!』
 左マニピュレータの手首を握り潰される。お互いの体勢が崩れつつも、ガンダムは残るスラスターで制御しつつ敵に蹴りを見舞った。
「絶対に嫌だね…」
 アポジモーターの稼働率は50%を切っている。今の無茶な制動でもかなりやられただろう。とはいえひとまず敵の武装は殆ど破壊できた筈だ。
0937◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/23(木) 23:24:27.86ID:/Z+V/y3V0
「こなくそ…!」
 蹴りの勢いそのままに宙返りし、ガンダムは手首を失った左腕で駄目押しに殴りつける。
『ッッッ…!』
 抵抗を試みるニュンペーだが、少尉はもう反撃の隙を与えなかった。半壊した左腕が火花を散らすのも構わず、使えるだけのスラスターを加速させながら両腕で連打を繰り出す。
「あんた達が…!どれだけ…!強かろうが…!」
 ひとつ、またひとつとスラスターが死んでいく。上がらなくなる左腕。
「どんなに…!私を…!憎もうが…!」
 息も絶え絶えになりながら、残る片腕で力の限り殴りつける。倒れそうになるニュンペーに、その時間すら与えない。
「私は…死ねないッッッ!」
 振り被った拳で最後の一撃を叩き込む。ようやくニュンペーは、その場に崩れ落ちた。
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2020/07/23(木) 23:24:53.88ID:/Z+V/y3V0
 満身創痍のガンダムは、半壊したニュンペーを見下ろした。立つことすらままならなくなった敵機は、頭を垂れずにいるのが精一杯の様だった。ガンダムは残っていた最後のビームサーベルを右手に持とうとしたが、マニピュレータが言うことを聞かない。
「もう…勝負は着いたよ…」
『ふざけるな!お前達がそれで良くても…私は…!』
 ニュンペーがここにひとりで居るということは、他の部隊は全滅したということだろう。母艦が見当たらないのは気掛かりだが、友軍らしい友軍は何処にもいない。
『私には…!もう…何も残っちゃいない…!!』
 苦し紛れに撃たれたビーム砲が頬を掠める。2発目は無かった。エネルギーが底を尽きたのだろう。ニュンペーはだらりと右腕を下げた。
「あんたひとりでどうするっていうのよ」
『例え首1つになろうと…お前らに噛み付いたまま死んでやる…』
 少尉は思わず溜息をついた。

「物騒なこと言う割にさ…。結構甘いよね」
『何…?』
 少尉は武器を手放した。
「大尉のマラサイだって、トドメを刺したければいつでも刺せた。あたしにしても、うだうだ口上述べなきゃ殺せたんじゃないの?」
 ウィード少佐は押し黙っていた。
「…結局、復讐なんて柄じゃないんじゃない?あんたのこと…よく知らないけどさ」
『私の大義は…』
 少尉は通信を切った。結局この女は殺してほしいのだ。死ぬ理由が欲しいのだろう。スクワイヤ少尉にはそれが痛いほどよく分かった。まるで自らの身を裂く様に。
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2020/07/23(木) 23:25:20.97ID:/Z+V/y3V0
 少尉は死に興味を抱いた。しかし事の本質は違ったのだろうと、今になって思う。現状を打破できない自分自身に言い訳がしたかったのだ。何でもいいから自分の生に意義が欲しかった。そんな気持ちを誤魔化すように、対岸にある死を羨望したのかもしれない。
 しかし、そんな自分を救い出してくれたのが…ワーウィック大尉であり、フジ中尉であり、グレッチ艦長だった。
 こんな自分に、手を差し伸べてくれた。死への本当の恐怖を知り、傍らに置き、そして実際に我が身を投げ出す理由すら生まれた。それでも尚生きていたいと願える今の少尉にとって、彼女の声は悲痛に思えた。
 きっと自分が多くを得た裏で、彼女は多くを失ったのだ。その幾つかは少尉が奪ったのかもしれない。横凪に腹を裂いたいつぞやのガルバルディを思い出す。
 別のガルバルディや青い大きな機体も、ここに居ないということはそういうことだろう。ガブスレイも静かに沈黙している。
 彼女は、独りだった。
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2020/07/23(木) 23:25:54.87ID:/Z+V/y3V0
「私はもう…あんたから何も奪わない」
 ひとり呟き、ウィード少佐とニュンペーに背を向けると、ガンダムはよろよろと歩き出した。もし撃てるならば、撃てばいい。彼女にはその資格があるだろう。しかしきっと撃たないだろう。彼女自身が、それを望んでいるようには到底思えなかった。
 ただ、その憤りをぶつける相手が欲しかったのだと思う。だから少尉もぶつけられるだけの全てで応えた。それでも、というのなら仕方がないかもしれない。
 すると、背後で大きな爆発が起こった。振り返ると、ニュンペーは跡形もなく自爆していた。
「…馬鹿。死ぬことないじゃない」
 思わず、少尉の頬に涙が伝う。この戦いで、本当の敵は何処にいたのだろう。少なくとも今の少尉には答えが見つからなかった。
「何か…ここんとこ泣いてばっかり…。大尉…」
 機体各部のエラーがモニターを埋め尽くし視界が赤くなっていく中、少尉はマラサイを探した。

59話 形影相同
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2020/07/23(木) 23:26:48.85ID:/Z+V/y3V0
「周辺に敵は居ないな!?」
「はい!いつでも出れます!」
 グレッチ艦長の呼び掛けに、グレコ軍曹も必死で応えた。彼女もよく頑張ってくれている。
 追撃に出たMS隊以外の回収が済み、ワーウィック大尉達を追ってシェルターから出港するところだった。
「しかし…まさか上層部が逃げ出すとはな。敵ながら現場の兵が不憫だ」
 傍でロングホーン大佐が腕を組んでいる。敵の襲撃時に彼がMSで出ると言い出した時は必死で止めた。血気盛んな男だとはわかっていたが、まさかここまでとは思っていなかった。
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2020/07/23(木) 23:27:16.04ID:/Z+V/y3V0
 出港した先に広がっていたのは、激しい戦闘の跡だった。残骸ばかりで生存者は見当たらない。
「必死こいて探せ!まだ大尉もゲイルちゃんも戻ってねぇんだ!」
 グレコ軍曹達に通信で呼び掛けさせながら、艦長自身も艦橋の窓に貼り付いた。動いている機体があればそれだけでわかるのだが、まるで墓場の様に静まり返っている。
「何処行った…?何処にいるんだよ…」
 目頭が熱くなるのを感じながら何度も見渡す。スクワイヤ少尉のことはまるで自分の娘の様に思っていた。大尉と一緒にいた時は思わず怒ってしまったが、内心今の彼なら任せてもいいと思っていた。その彼も見当たらない。
「状況は!?大尉達はまだ戻ってないんですか!?」
 勢いよく扉を開けて入ってきたのはフジ中尉だった。彼も負傷しているように見える。
「わからねぇ…何処にもいないんだよ…」
 艦長は帽子を深く被って呟いた。
「そんな筈ないでしょう!?私も出ます!見つからない筈がない!」
 フジ中尉は再びブリッジから駆け出していった。
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2020/07/23(木) 23:27:45.99ID:/Z+V/y3V0
 艦長の落とした肩をロングホーン大佐が叩く。
「艦長、そろそろ増援も来る。彼らが来てからの捜索というのは…」
「何言ってんです!?もし今!あいつらが怪我でもして助けを待ってたら!誰が助けるってんですかい!?」
 目を見開き、思わず艦長は大佐に怒鳴った。ハッと我に返り血の気が引いた。もうこれで今までのゴマすりも何もかも無に帰った。
「艦長…」
「…も、申し訳…」
 ロングホーン大佐の体格の良さが際立って感じる。殴られるのかと思い目を瞑った。が、彼は踵を返した。
「私もMSで捜索に出る。戦闘ではないぞ…文句はあるまい?」
「へ…?いや、そりゃしかし」
「負傷兵の気持ちも考えず、挙げ句艦長にも怒鳴られてしまった。これでは示しもつくまいよ。なあ?」
「…」
 ズレた帽子もそのままに、大佐を見送ることしか出来なかった。

 その後も捜索は続いたが、一向に彼らは見つからない。余りに状況が酷く、現場での捜索も難航していた。
『艦長、この辺りの区画には居ないようだ』
 ロングホーン大佐もフジ中尉以下動けるパイロットと共に捜索に出て暫く経った。
「そろそろ増援も到着しますな…。結局見つからずじまいか」
 グレッチ艦長も相変わらず艦橋から目視で動きがないか探り続けていたが、成果はない。
「艦長!」
 グレコ軍曹が、これまでにないような大声を出した。驚きのあまり、思わず飛び上がる。
「びっくりさせんな!どうした!?」
「それが…」
 艦長の方を振り返ったグレコ軍曹が珍しく涙を流している。不吉な予感も感じつつ、彼女の見ていたモニターに駆け寄る。
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2020/07/23(木) 23:28:39.83ID:/Z+V/y3V0
『おーい』
 そこには、見るからにくたびれたスクワイヤ少尉とワーウィック大尉の姿があった。ガンダムのコックピットの中の様だ。
「お前ら…!無事か!今何処だ!?」
『座標を今送ります。大尉を回収するまでは良かったんですけど…いやー、ガンダムがガス欠起こしちゃって。駆動系も言う事聞かないから身動き取れなくなっちゃったんですよ。ってか通信機器も壊れかけ…やっと繋がったけど』
 少尉は何でもないことの様に笑う。
「お前…!下手したら置き去りになってたぞ!?」
 涙と鼻水が止まらない。生きていてくれて良かった。
『うわっ、ちょっと、艦長汚い…』
「何とでも言え!…ああ…良かった…良かった…」
 ひと目を憚らずに泣きじゃくった。他のクルー達も鼻をすすったり笑い合ったりしている。
「艦長、ポイントを確認しました!」
 グレコ軍曹が元気に言う。
「おう!軍曹、その調子で頼むぜ!…大佐、そこから向かえますか?」
『無論だ。もう少しそこで待っているがいい』
 身体中の力が抜けた艦長は、思わず尻餅をついた。やっと、コンペイトウを巡る長い戦いが終わったのだ。
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2020/07/23(木) 23:29:08.88ID:/Z+V/y3V0
 ボロボロのガンダムを回収し、時同じくして到着した増援の艦隊と合流する。もう少し早く来てくれれば救えた命もあっただろう。しかし、これでもロングホーン大佐が手回ししてくれた結果だ。本来ならもっと遅れていたと考えれば、これで手を打つより他無かった。
 現場の後処理は到着した部隊に任せて、アイリッシュの面々には暫しの休養が言い渡された。合流部隊との擦り合わせがあるロングホーン大佐を拠点に残し、アイリッシュはコンペイトウの別ドックへと回った。
 最後のシェルター攻防戦でかなりの損傷を負ったこの艦も、そろそろ修繕しなければならない。
「ここは任せる」
 ブリッジをクルー達に預けると、艦長は医務室へと小走りで向かった。
「あ、艦長」
 スクワイヤ少尉の気が抜けた声がした方を見ると、ベッドに寝ているパイロット達を見つけた。暇そうに欠伸をする少尉と、本を読んでいた様子のフジ中尉。大尉が1番重症な様で今も眠っているが、後の2人も安静にしていなければならないと聞いている。
「やっと顔を出せた。お前ら大丈夫か?」
「大丈夫に見えます?」
「少なくともゲイルちゃんは大丈夫そうだな」
 そう言われて少尉が露骨にぶすくれる。艦長にとっては、いつものやり取りを出来ることが何より嬉しかった。
「大尉も気が張っていた様で…ぐっすり寝てますよ」
 中尉が微笑む。彼がいなければスクワイヤ少尉はガンダムの元まで辿り着けなかったと聞いていた。中尉のネモは別部隊が今頃回収してくれていることだろう。
「そういう中尉も安静にしてねぇと駄目だろ?本なんか読んでねぇで寝てろ」
「これはまた酷い言い草ですね。せめて頭くらいは動かしていないと」
「動かし過ぎだろうよ、中尉の場合は」
 艦長は苦笑いした。やれやれといった様子で中尉は本を閉じた。
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2020/07/23(木) 23:29:34.91ID:/Z+V/y3V0
「…艦長ですか」
 大尉が目を覚ました。
「おお、騒がしかったか?すまんな」
「いえいえ、十分に寝ました」
「お前らはほんと落ち着きがねぇな。こんな時くらいゆっくりしてりゃ良いのによ」
「艦長が1番煩いでしょ、どう考えても」
「何だと?」
 少尉に噛み付くと、別の患者を世話していた医師が口元に指を立てた。艦長は申し訳なくなってシュンとした。
「…ほら、怒られた」
 少尉が意地悪く笑う。
「そんなことよりよ、お前らにとりあえず報告をと思ってな」
 艦長は少尉のベッドに腰掛けた。
「今回の作戦でコンペイトウが完全に落ちたぜ。俺たちの勝ちだ。…何だ?喜べよ」
 3人とも浮かない顔をしている。
「…勝ったのは良いんですけど。私達…何と戦ってるんだろうなって思っちゃって」
「まあ…そうだよなぁ」
 少尉の言葉は、今までよりも重く感じた。実際に彼女らは向かってくる敵と命のやり取りを重ねて、敵を殺す実感を伴いながら常に前線にいたのだ。
 掛ける言葉が見つからず、艦長は白い天井を仰いだ。

60話 天井
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2020/07/23(木) 23:30:23.01ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉は自室で目を覚ました。比較的軽傷だった彼女とフジ中尉はワーウィック大尉よりひと足早く回復後、暫しの休息を許されていた。ベッドから起き上がり、のそのそと着替える。昨夜に聞いたコンペイトウの近況を思い出していた。
 コンペイトウ制圧後、エゥーゴの部隊は戦闘で半壊した基地の整備を進めていた。基地に残されていた少数の捕虜を受け入れつつ、拠点の調査や捕虜の証言などで基地の役割の全容が見えてきていた。
 ロングホーン大佐達の読み通り、ティターンズは大量破壊兵器…コロニーレーザーの建造に着手していた。コンペイトウはその資源の加工・中継なども担っていた様だ。しかし既に粗方の作業は終えていたらしく、拠点としての役目を一定終えた後だったことが伺える。
「んー…」
 背伸びをして制服の皺を伸ばす。休息と急に言われても何をしたら良いかわからない少尉は、とりあえずブリッジへと向かった。
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2020/07/23(木) 23:30:47.14ID:/Z+V/y3V0
「おう!お前らは休んでて良いんだぞ?」
 腕組みしたままグレッチ艦長が振り返った。
「そんな事言われても、こんな場所じゃバカンスって気分でも無いし。…少し痩せました?」
「おっ、そうかな?」
 艦長が少し嬉しそうに腹をさする。多分飲酒の量が減っているのだろう。酔っている暇もなかったか、酔えなくて飲むのを辞めたのか。
「まあ…まだ飛び出てますけどね、そのお腹」
「お前とは胃袋が違うんだ、胃袋が」
 艦長はそういってさすっていた腹をポンと叩いてみせた。
「ま…後で教えようと思ってたんだがな。…キリマンジャロ、落としたみたいだぜ」
「へえ。じゃあ地上の大きな拠点はひと通り攻略出来たんですね…」
「ダカールの議会がまだ残ってる。軍事施設の掃討はカラバに任せられる規模になってきたみたいだけどな」
 少し前まではティターンズの天下だった地球も、勢力図が大きく塗り替えられてきた。ジャブロー攻略に始まり、それこそニューギニア基地の攻略も大きな転機になったはずだ。
「…艦長」
「どうした?」
「ニューギニア基地攻略の話…いや、私の知りたい事…何か知ってます?」
「…」
 艦長が押し黙った。心当たりのある様子に見えた。
「私…」
「…あー…疲れた!軍曹、ちょっと久々にサボってくるわ」
「え、でもロングホーン大佐が…」
 グレコ軍曹がおどおどと慌てる。
「適当に話合わせといてくれ!…付き合えやゲイルちゃん」
 呆れているグレコ軍曹に苦笑いしてみせつつ、少尉は黙って艦長についていった。
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2020/07/23(木) 23:31:17.88ID:/Z+V/y3V0
 艦長の自室前までやってきた。
「お前、俺の部屋来るの初めてだなそういや」
 そう言いながら扉を開けた艦長は、どうぞといった風に手で部屋へと促した。
「へー、意外と片付いてるもんですね」
 少尉が部屋へ足を踏み入れると、小綺麗な空間が広がっていた。見るからに高そうなオーディオやウィスキーのボトルが目に入る。月面でのゴタゴタの中で積み込んだと思うと、力の入れる場所を幾らか間違えている気もしないではないが。
「まあ適当に座れ。…水でいいか?」
「コーラとかないんですか?」
「オーケー、水でいいな」
「聞く意味ありました?」
「生憎切らしててな」
 近くにあったスツールに腰掛けつつ、艦長からコップを受け取る。
「で、ニューギニア基地の話だっけか。俺も当然現場にいた訳じゃないが…何故今更そんな事を気にしてるんだ?」
 横並びにグレッチ艦長も腰掛けた。
「…私、まどろっこしいいい方は性に合いません。その…艦長ならヴォロ・アイバニーズのこと…」
「何処で聞いた?」
 珍しく艦長の反応は早かった。声もいつもより幾らか落ち着いて聞こえる。
「コンペイトウで…成り行きですよ」
「成り行き…まあ、そういうこともあるのかね」
 立ち上がった艦長は、自分のグラスを注いだ。
「…ここから先、お互いに隠しっこは無しだぜ」
 片手にグラスを持ち、片手で少尉を指差しながら艦長が眉をひそめた。水を口に運びながら、少尉は次の言葉を待つ。
「一年戦争終盤だったかな。ゲイルちゃんの親父さんには世話になった事があってな…。あれはそれこそコンペイトウ、いやソロモンで前線にいた時の話だ」

61話 成り行き
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2020/07/27(月) 00:04:25.76ID:xPbph6ya0
 いつかこんな日が来るのだろうとは思っていた。グレッチ艦長は軽く溜息をついた。
「先にひとつ言っとくが、お前の親父さんは確かにティターンズだった。だが、だからって悪人だった訳じゃあない。寧ろ出来た人だった…怖いくらい」
 スクワイヤ少尉は、手に持った水に映る自らの顔を見つめている。
「昔の話になるが、俺は当時イケイケのバリバリだった…」
 それを聞いた少尉が笑って鼻をこする。艦長としては少しでも気を楽にして聞いてほしかった。実際には、当時の艦長は今よりももっと気弱だったものだ。
「そんな俺も、戦艦が沈むとなればどうしようもなくてな。ソロモンでの戦いで乗艦がやられた。だが…当時の上官は退くことを良しとしなかった」
 口にしながらその時のことを思い返す。
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2020/07/27(月) 00:05:03.94ID:xPbph6ya0
 一年戦争において、ソロモン戦は敗北の許されないものだった。グラナダを叩くにしろア・バオア・クーを叩くにしろ、ソロモンは絶対に抜かねばならない。そのプレッシャーもあったのだろうが、それでも艦は沈む時には沈むのだ。
 ましてジオンの巨大MAなどと交戦になれば、簡単に基地を攻略など出来はしない。メガ粒子砲を艦体に受け、いよいよとなった当時の上官の焦りと恐怖で歪んだ顔を思い出す。
「…クルーも道連れに玉砕なんて訳にいかねぇ。当時副官だった俺は脱出を提言したよ。上官はおかしくなっちまって、あろうことか俺に銃を向けやがった…。俺が命令を聞けないと言ったその時さ」
 イカれた上官に撃たれるのが先か、艦が沈むのが先か。いずれにせよ死を覚悟したその時、全身が血で塗れた。
「…上官はその場で撃ち殺された。ヴォロ・アイバニーズ…お前の親父さんにな。同じ艦に乗ってたんだ。あっちはパイロットだった。
 艦の被弾時に丁度補給へ戻ってきていて、ブリッジのゴタゴタを聞きつけて来てみたら…俺を撃とうとしてる上官の姿が目に入ったってな訳だ」
 少尉は何も言わず、またコップを覗き込んでいる。何を考えているのか窺い知ることは出来ない。艦長はそのまま話を続ける。
「上官を殺すなり、俺に向かって『あんたが1番階級が高い。指示をくれ』なんて言うからよ。そらもうクルー連れて皆で一目散に逃げ出した。おかげで皆助かったんだ」
 艦が沈んでしまえば、証拠も一緒に消える。わざわざあの上官の事を証言する様なクルーも居なかった。
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2020/07/27(月) 00:05:28.59ID:xPbph6ya0
「そんでま…彼とは終戦後も多少交流があったもんでな。…ほんと言うと、ゲイルちゃんがまだガキの頃に何度か会ったりもしてるんだぜ」
「うそん」
 顔を上げた少尉が、当時のまだ子供だった頃の彼女と重なる。丁度思春期真っ只中で父親と上手くいっていなかったのか、その父親が連れてきたグレッチ艦長とも殆ど顔すら合わせようとしなかったのを憶えている。
「デラーズ紛争も終わったあたりの頃だったな。長いこと連絡を取ってなかったら、久々にあっちから寄越してきてよ。…自分の身に何かあれば娘を頼むってさ。最初俺は何の事だかさっぱりわからなかった」
「…それってつまり、ティターンズに入るからってこと?」
「そういうことだった。俺がティターンズに入る様な柄じゃない事はあっちも知ってたからな。同じ連邦とはいえ、詳しいことは伏せたんだろうよ」
 彼自身、娘が軍に入るとは思っていなかったのだろう。あの手この手で護ろうとしていた。その為に、時には汚い仕事もやった筈だ。気付けば…連絡など取れない様なところへ逝ってしまった。
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2020/07/27(月) 00:06:54.25ID:xPbph6ya0
「親父さん…俺に相談出来るのはティターンズに入る前が最後だとわかってたんだろうな。なし崩し的に俺はエゥーゴに入っちまったし。結果的にはそのおかげで上手く行ったけどよ」
「じゃあ…私がいつまでも哨戒任務に就かされてたのは、父さんと艦長のせいってことですか…?」
「まあ…そうだな」
 少尉は何かを言いかけてすぐ口を閉じた。言わんとすることは艦長にも痛いほどわかる。
「ゲイルちゃんの為だった。とにかく死んでほしくなかったんだよ…親父さんは」
「それで自分は死んだっていうんですか!?」
 艦長を遮り少尉が立ち上がった。コップを持つ手が小さく震えていた。
「落ち着け。…続けるぞ?」
 少尉に背を向けるようにして艦長は窓際へ行った。
「この事を知っているのは俺と…ロングホーン大佐だけだ。ティターンズの将校の娘がエゥーゴにいるなんて知れたら、過激なやつが何をするかわからん。とはいえ…この状況下で戦力を遊ばせておくわけにもいかなくなってきた。大佐が最大限に手回しした結果が…」
「マンドラゴラですか」
 少尉が俯いた。艦長は彼女自身の力量もガンダムを与えられた理由の一つだと思っているが、彼女はそうは考えていない様子だった。
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2020/07/27(月) 00:07:36.95ID:xPbph6ya0
「まあ何にせよ、ゲイルちゃんの活躍で俺達はここまで来れた。もう俺達が守ってやらなくたって…お前はやっていける」
 そういって艦長は少尉を見つめた。
「そんなの…身勝手ですよ…」
 見つめ返してきた少尉の目には、哀しみや憤りが入り混じっていた。背けたくなる気持ちを抑え、じっと見つめる。
「私のこれまでは…私自身の意志で決めてきたと思ってました。でも…」
 彼女が肩を落とす。小さな身体が更に小さく見えた。
「お前はお前だ。父親が誰だろうが、何に乗っていようが、お前はお前なんだ」
「だったら何で父の事を隠していたんです!?何故ガンダムなんか寄越したんです!?」
 少尉が半ば叫ぶ様に吠えた。
「ゲイルちゃん…」
 肩に触れようとした手を振り払われる。
「…許してくれとは言わない。ただ、少しでも知ってしまったなら、全てを誤解なく知っていてほしかったんだ。伝えるのが遅くなって…済まなかった」
 彼女が知ってしまった以上、今更何かを隠すことは出来ない。艦長は自分のデスクから一束の資料を引っ張り出した。
「…これに、お前の親父さんの事が書いてある。俺が掻き集めた全てだ…持っていくといい」
 目を合わせることもなく、少尉はそれを奪い取る様に受け取る。
「…失礼します」
 去っていく彼女の目には涙が光っていた。
「…アイバニーズ。お前の娘は今日も元気だぜ…。なあに、大丈夫だ。強い子に育ってる」
 独り取り残された自室で、艦長はグラスを空けた。

62話 いつかこんな日が
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2020/07/27(月) 00:12:35.71ID:xPbph6ya0
 スクワイヤ少尉はひたすら走った。何処に行くでもなくただ走った。流れる涙も拭かず、ぶつかる肩も気に留めなかった。
 父は敵でありながらずっと見守ってくれていたのだろう。それなのに自分はそんな事も知らずにいた。ただ自惚れ、玩具を与えられて喜ぶ子供の様にガンダムに乗っていた。そして父は、少尉も知らぬ所で独り死んでいったというのか。

「はあ…はあ…」
 息が切れ立ち止まった場所は格納庫だった。目の前には、傷だらけのガンダムが佇んでいた。
「お前も…私と一緒か」
 呟いて、コックピットハッチを開く。すっかり乗り慣れたシートに彼女はうずくまった。生死を共にする覚悟で一緒に戦ってきた機体には、長年連れ添った家族の様な気持ちさえ湧いてくる。シートが暖かく少尉を包んだ。
 いわゆるガンダム開発計画の末裔であるマンドラゴラは、本来ならばあってはならない機体だった。エゥーゴにいてはならない人間だった少尉が乗るには、おあつらえ向きだったのかもしれない。鼻つまみ者同士、気が合うわけだ。少尉は自嘲気味に鼻で笑った。
「…」
 艦長から受け取った資料に目をやる。父の全てがここにあると言っていた。鼻をすすりながら手に取ると、ページをめくっていった。
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2020/07/27(月) 00:19:51.58ID:0v0DPqXX0
なんか連投規制掛かりました…笑
変なとこで切れてますが1日お待ちください…
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2020/07/28(火) 00:25:39.26ID:m1HvhbmY0
 艦長の言う通り、一年戦争時はパイロットとして戦った様だ。終戦後は残党の拠点を虱潰しにまわり、いつしか特務部隊の隊長として任務をこなす様になったことがわかった。そして、ティターンズからの勧誘。そこから先の資料は、黒塗りや切り抜きが急に増えた。
 読める範囲で目を通す限り、東南アジア地域のエゥーゴ・カラバを追う任務についていた様だ。
「これって…」
 エゥーゴ側の資料と、ティターンズ側のものと思われる資料が入り混じっている。父が追っていた部隊というのは、ガルダ級とその戦力だった。そこにあった名に、ページをめくる手が思わず止まる
「カラバに合流していたエゥーゴの構成員…ワーウィック大尉とアトリエ…中尉」
 彼らは父と交戦していた様だ。偶然とはいえ、その事実に少尉は震えた。嫌な予感がする。しかしここで資料を閉じることはどうしても出来なかった。
 そして、その予感は的中する。ニューギニア基地攻略作戦。ここで父の情報が途切れる。最後まで戦っていたことだけはわかったが、父が戦った最後の相手は…試作機のマラサイとガンダムだった。
「そんなことってあるの…?いや、でも…」
 父を殺したのはワーウィック大尉なのか。或いはアトリエ大尉なのか。しかし、この資料にどれ程の信憑性があるのかもわからない。
「…本人に聞けば」
 それがもし事実なら、あまりにも酷だった。自分の愛する人が、父を殺めたかもしれないのだ。戦争で敵味方に別れている以上、仕方のない事ではある。だとしても、それが事実なら少尉はどうすればいいのか。洗いざらい話すよう問い詰めるべきなのか。或いは後ろから撃てばいいのか。どちらも少尉に出来ることではなかった。
 恐らく、大尉はこの事を知らないのだろう。艦長も話してはいないだろうし、大尉がこの事実を知った上で接してくれていたとは流石に思えない。
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2020/07/28(火) 00:26:26.50ID:m1HvhbmY0
 しかし疑問も残る。何故ロングホーン大佐とグレッチ艦長は、この事を知りながら同じ部隊に2人を配置したのか。
「…ああ、そういうことか」
 あくまでも推測だが、万が一少尉がティターンズと繋がりがあった場合に対処できる様、特務部隊と交戦経験のある大尉を呼んだのだ。大尉の着任をまともに把握していない風だったグレッチ艦長はともかく、大佐の様な立場の人間ならその位は考えるだろう。
 そして、もし何かあった時に揉み消せる機体…マンドラゴラを寄越したのだとすれば辻褄も合う。
 しかし、それ程ティターンズとの内通を警戒していたのなら大尉に話していてもおかしくないのではないか。少尉は疑心暗鬼に陥っていた。
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2020/07/28(火) 00:27:12.05ID:m1HvhbmY0
「ここに居たんだな…。大丈夫か?」
 ハッチの外の声に驚き、少尉は思わず顔を上げた。フジ中尉だった。
「ああ…中尉ですか…」
 資料をシートに隠してハッチを開けた。
「大尉じゃなくて悪かったな。廊下で声を掛けても無視して走っていったから、何事かと」
 気づかなかった。それどころではなかったのだが、少し悪いことをした。
「何でもないですよ。ただ、ガンダムが気になって」
「ふん、それならいい。無理に話す必要はあるまいよ」
 察したのか、中尉はそれ以上深く聞かなかった。
「…あ、そういえばあのデータ…」
「あれか?ちゃんとロード出来たみたいで何よりだ。役に立ったろう?」
「無かったら危なかったかもしれません。にしてもあのメッセージ何だったんです?意味わかんない」
「相変わらずだな。少しは言葉や歴史を学んだらどうなんだ」
「いいから教えてくださいよ」
 中尉は意地悪く笑った。

「形影相同…。影の形というものは、身体と相同じ様に動くだろう?転じて、心が正しく動いたならば、物事もその様に動くだろうと言うことだ」
「ふーん、なるほど」
 父は、間違った行いをしたのだろうか。娘の為に誤った道を歩み、その結果死んだというのだろうか。ならばそうして残された少尉は、過ちの産物なのか。
「…私達は、正しいんでしょうか」
 少し驚いた様に中尉が眉を動かした。
「誰にも正しいことなんてわからん。だが、正しいと思った事をやらねば何も変わらん。影は、私達が動かなければ動かないだろう?」
「中尉にもわからないことってあるんですね」
「わからんから学ぶんだ。少尉も本くらい読めばいい」
 そういって、持っていた本で軽く少尉の頭を叩いた。
「…何かあればいつでも呼べよ」
「ありがとうございます」
 彼が去っていった後も、少尉はしばらくシートにうずくまっていた。

63話 正しいこと
0962◆tyrQWQQxgU
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2020/07/28(火) 00:27:53.10ID:m1HvhbmY0
 艦長との一件の後、少しの時間が経った。スクワイヤ少尉達はコンペイトウでの休息を終え、アイリッシュもまたコンペイトウを後にすることとなった。アンマンに戻り、グラナダのアナハイムチームによるガンダム改修や新型機の受領を行う為だった。
 小さくなっていた月も随分大きくなり、長い戦いがひとまず終わったのだという実感も少し感じられる。そんな月をしばらく眺めた後、少尉は自室を出た。
 ワーウィック大尉の容態もすっかり快方に向かい、そろそろ彼も自室での待機を許される頃合いだ。スクワイヤ少尉は大尉を手伝う為、医務室へと向かった。

「ああ、済まないな少尉」
 大尉は丁度身支度を始めているところだった。
「言っても病み上がりですもん。手伝いますよ」
「少尉こそ…ここのところ、あまり元気がないみたいだが。…大丈夫か?」
 あの一件以来、艦長ともギクシャクしたままだった。ワーウィック大尉にもどう接すればいいのか測りかねているところがある。
「別に…。さ、行きましょ」
 大尉についていく形で医務室を後にする。2人で廊下を歩きながら、何か話題がないか探した。
「…そういえば、月に戻ったら新型を受領するとかなんとか。大尉が乗るんでしょ?」
「そうなるのかな。グラナダの工廠で作ったらしいが…ジオン系の機体なら扱いも楽だ」
 大尉はいつもと変わりない。それはそうだ。考えてみれば、変わってしまったのは自分自身の心の持ちようだけだった。
「少尉のマンドラゴラも改修するんだろ?」
「らしいです。私は元通り直してくれればそれだけで全然良いんですけど、アナハイム的にはもっとデータが取れるから改良させてくれって」
「ま、少尉とガンダムはもうワンセットみたいなものだからな。少尉の活躍を考えれば、彼らが張り切るのも無理はないさ」
 これまでの少尉なら素直に喜んだ。しかし今の少尉には、大尉の何気ない言葉すら何処まで信じられるのか確証がなかった。
「…大尉」
 思わず立ち止まる。やはり、もう今までと同じでは居られない。
「どうした?やっぱり何か変だぞ」
 大尉が覗き込むようにして心配する。その彼の気遣いすら痛かった。
「…聞きたいことがあるんです。その…色々」
0963◆tyrQWQQxgU
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2020/07/28(火) 00:28:24.25ID:m1HvhbmY0
「まあ、そうだよな。構わんよ。…立ち話もなんだし、取り敢えず荷物を置いてきていいか?」
 そういって大尉は荷物を受け取り、そそくさと自室へ入っていく。少尉はつい彼の袖を掴んだ。
「私…」
 誰を信じたらいいのかわからなかった。そのことを伝える術も、無かった。
「…入るか?散らかってるが…」
 少尉は頷いた。彼は優しく部屋へ迎え入れてくれた。
 病室にしばらくいたせいか、部屋は少し埃っぽい。物はそんなに多くもないが、生活感のある部屋だった。大尉がバタバタと衣服を片付ける。
「すまんな、普段はもうちょっと片付いてるんだが…」
 彼は苦笑いしながら、まとめた衣類を籠に投げ込む。そんな大尉を眺めていると、少尉も少し気持ちが落ち着いた。ふと傍の棚に目をやる。何処かの格納庫で撮影したのだろうか、部隊の集合写真が目に入った。

「これって」
「ああ、一緒に戦ったカラバのメンバーだよ。ここに来る前に撮ったやつでな。皆元気だといいが」
 少尉はその写真を手に取った。カラバのメンバーと共に、ワーウィック大尉と肩を組んでいるアトリエ大尉。その傍には戦場に不似合いな女の子が満面の笑みで写っていた。
「この子、誰かの子供とか?」
「いや、ガルダ級に潜り込んだ迷子だ」
 ひと通り片付けの済んだ大尉がベッドに腰掛ける。
「迷子…。ガルダ級ってザルな警備してるんですね」
 思わず少尉は笑った。
「見つけた時は私も正直目を疑ったよ。しかしまあ不思議なものでな…彼女はいわゆるニュータイプというか…」
「そういうことなら仕方ないですね」
「いやいや、本当に。研究所に居た娘なんだ」
「へぇ…」
 ショートヘアの活発そうな子だ。写真でもアトリエ大尉にパンチを食らわしている。
「…おっと、すまない。ついついお喋りになってしまうな。そんな事より、少尉の聞きたい話があるだろ?…こないだの返事だよな」
 手遊びしながら、大尉も少し落ち着かない様子で言った。
「それは最後に聞かせてください。…大尉が地球で戦ってた時の話も聞きたかったんです」
 そういって少尉もベッドに腰掛けた。
0964◆tyrQWQQxgU
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2020/07/28(火) 00:30:21.92ID:m1HvhbmY0
 大尉は色んな話を聞かせてくれた。アトリエ大尉との出会い、先程の少女…メアリーのこと。カラバの仲間の話や、ジオン残党との共同作戦も興味深い話だった。今更だが、ワーウィック大尉がどんな道程を辿ってきたのか知ることが出来たのも少尉にとって嬉しいことではある。
 しかし、やはり1番聞きたいのは交戦したティターンズのことだった。
「ずっと同じ部隊と戦ってたんですね」
「ティターンズ自体特殊部隊の延長線みたいなものだが、交戦していた部隊はその中でも更に特務部隊と呼ばれていたらしい」
 やはり父の小隊だったのだろう。少なくともあの資料の裏付けになった。
「結局、彼らとはニューギニア基地の攻略まで戦うことになってしまった。途中でガルダ級が沈みかけたりもしたが」
「…よほど手強かったんですね」
「正直、アレキサンドリアの試験部隊よりも連中の方が練度は高かったな。特に隊長機は別格だった」
0965◆tyrQWQQxgU
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2020/07/28(火) 00:34:28.69ID:m1HvhbmY0
なんですかねこれ…また連投規制…。
めちゃめちゃいいとこですが、この感じだと1日1話が限界かもです…。
0967◆tyrQWQQxgU
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2020/07/29(水) 01:02:49.42ID:c3b+Gpyy0
 それから大尉の話はニューギニア基地攻略作戦へと移っていく。
「私とアトリエ大尉は、カラバに地上部隊を任せて基地へと侵攻した。特務部隊の連中をどうにか退けて司令部を目指したんだが、我々が到達した頃にはもう上層部の連中は壊滅した後だった」
「先を越された?」
「いや、仲間割れみたいなものだな。待ち構えていたのは、ひと仕事終えた特務部隊の隊長だったよ」
 それも父の戦いだったのだろう。資料にも、エゥーゴによる占拠時にはニューギニア基地におけるティターンズ首脳部は壊滅した後だったと記されていた。

 大尉はごろりとベッドに寝転がって天井を見上げた。
「あの隊長のことは…忘れられないだろうな」
「…何故?」
 遠い目をした大尉を見つめながら、少尉は訊いた。
「まず何より強かった。もしまたあんな敵と戦うことがあるなら、今度こそ死ぬな」
 大尉はそういいながら顔の火傷を撫でた。
「その火傷…その時の傷なんですね」
「これで済んだのは奇跡だ。私とアトリエ大尉のガンダムの2人掛かりで、たった1機のジム・クゥエルに気圧されていた」
「ジム・クゥエルって…旧式も旧式じゃないですか」
 ただただ驚いた。ジム・クゥエルは性能的にGM2とさして変わらない筈だ。多少カスタムされていたとしても、アトリエ大尉の駆るガンダムとワーウィック大尉の試作型マラサイを同時に相手取るのは尋常な事ではない。まして優勢に戦うなど可能なのか。
 少なくとも、少尉ならガンダムをもってしても恐らく無理だ。
「それに加えて…短い時間だが話した。私とよく似た男だったよ。彼を乗り越えなければ、私は前に進めないとはっきり感じた」
0968◆tyrQWQQxgU
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2020/07/29(水) 01:04:47.89ID:c3b+Gpyy0
「大尉と似てたんですか?」
 少尉からすれば不思議だった。彼女の知る父の姿と大尉の姿はあまり重なる部分は無い。父は口数も少なく、只々厳格な男だった。
「かつての自分と話しているようだった。憎しみに囚われて、独りで戦うことでしか存在を証明出来なかった…。人に、自分の何かを託すのは難しいことだからな」
 それを聞いて、ようやく少尉は腑に落ちた。連邦に所属している事を周囲に隠す為軍服姿も見せず、我が子にすら己を見せなかったのが父だ。それが嫌いでもあった。
「…だが、俺はアトリエ大尉を始めとした仲間に助けられた。やつを倒すにしても私一人では無理だったが、皆の協力で戦えた。それが…生死を分けた大きな差だったんだろうな」
 大尉らしい答えだった。だからこそグロムリンとの戦いでも、身を挺して少尉を守ってくれたのだろう。彼が仲間に助けられたのと同じ様に。

「大尉って、優しいんですね」
「ん?どうした急に」
 上体を起こした大尉に、少尉は力なく微笑んだ。
「だって殺されかけたわけですよね。傷まで負わされて、生死の境を彷徨って…。そんな風に思えないですよ普通」
 大尉は父に自分を重ねたというが、大尉の戦う原動力はいつしか…憎しみではない何かにすり替わったのだろう。そういう意味では父とは逆だったのかもしれない。
「亡くした人もいる。他所者の私に良くしてくれた当時の艦長は…基地攻略半ばで戦死された。だが、それは敵にとっても同じだ。私も…自分が生き延びる為に、誰かの大切な人の命を奪ってきた」
 その通りだった。不仲ではあったし、結果的には少尉のことを縛っていた父。しかしそれでも父は少尉を守っていたのだ。その父の命を奪ったのは、紛れもなく目の前にいる男だとはっきりしてしまった。
 何かを人に託すのは難しい…。大尉のその言葉も、艦長に少尉を託した父と重なる部分がある。それが余計に苦しさを増した。

 父を殺した男。それと同時に…彼は彼女の愛する男でもあった。

64話 火傷
0969◆tyrQWQQxgU
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2020/07/29(水) 01:06:21.53ID:c3b+Gpyy0
また変な切れ方したら嫌なのでここで切ります!
第2章も長いこと書いてきましたが、次でラストです。
多分明日あたり投下するので、お楽しみに…!
0971◆tyrQWQQxgU
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2020/07/29(水) 16:54:35.32ID:mYNlLmBN0
「私も…聞いてほしいことがあって」
 スクワイヤ少尉は、意を決して切り出した。
「ああ、聞こう」
 ワーウィック大尉は上体だけ起こしたまま次の言葉を待っていた。
「…コンペイトウでの戦いがあって…正直、誰が味方で誰が敵なのかわからなくなったんです」
 自分の手をもう片方の手で包みながら言った。
「信じられるのは自分だけなんだって思って…でも…自分すら少し怪しくて…」
 ウィード少佐を始め、敵の戦う理由を現実として受け入れた時、本当に彼らが討つべき存在だとは思えなくなっていた。
 味方ですらそうだ。身を案じてくれていた父はティターンズだったし、信頼関係を築いてきたグレッチ艦長は真実を隠していた。今となっては、共に戦ってきたフジ中尉に自身のことを話して受け入れてもらえる自信も無い。ジオンとの折り合いをつけたばかりの中尉にはあまりに酷だ。
 そして何より、ワーウィック大尉が父を殺したという事実も知った。その彼は、自身よりも仲間を信じると言う。何が正しく、何が間違っているのか。今の少尉にはわからなくなっていた。
0972◆tyrQWQQxgU
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2020/07/29(水) 16:55:05.63ID:mYNlLmBN0
「…それでも私は、少尉を信じるよ」
 暫しの静寂の後、ワーウィック大尉が言った。
「…どうして…?」
 こみ上げてくるものを抑えきれず、嗚咽を漏らす。大尉は、彼を信じられなくなりつつあった少尉とは真逆の事をいう。
「憶えているかわからんが…私が着任した日、休憩室で話したろ。まだあの頃は何というか…少し危うい感じだった」
 大尉が頭を掻く。少尉も今でも鮮明に思い出せる。ボロボロのサラミス改の中で、どうせ何も変わらないと不貞腐れていたあの頃の自分。
「あれから…ガンダムを受け取ったり、私とフジ中尉が少し揉めたり、敵との交戦があったり…。ほんとに色んな事があった」
 また大尉は寝転がった。少尉は溢れ始めた涙を袖で拭った。今日に至るまでの全ての景色が、感情が、猛スピードで彼女の中を駆け巡る。
「今の少尉は…何というか…素敵だ。鬱屈とした時間を乗り越えて…きっと少尉自身、誰かの為に戦う事ができる。…人の苦しみを知って、それでも尚生きて戦うのは簡単な事じゃない。でも今の少尉ならそれがきっと出来ると思ってる。そんな少尉を…私も守りたい」
 拭っても拭っても、涙が溢れた。ようやく気付いた。きっと少尉は、肯定して欲しかったのだ。生きていていいのだと。死後の世界に思いを馳せなくとも、今ある時間を称賛してくれる存在が欲しかったのだ。
 ただこの瞬間の為に生きてきた気さえした。
「私がもし…誰かを守れなくて…大尉の期待を裏切っても…信じてくれる…?」
「信じるさ」
 涙も言葉も止められない。
「もしも…皆いなくなって…私しかいなくなっても…」
「信じる」
「もし…!私が…あなたに銃を向ける様なことがあっても…」
「…少尉の選択を信じる」
「…うぐ…もう…何でよ…!!」
 堰が壊れたかのように、少尉はわんわん泣いた。身体から何もかもが枯れ落ちてしまうくらい泣いた。
 彼が父を殺したのだとして、それは許せない。しかしもう今の少尉にとって、ワーウィック大尉は心の底から憎める様な相手ではなかった。板挟みにされる苦しみも、ようやく気付けた生きる喜びも…溢れる感情はないまぜになった。今の少尉には、この涙の理由を説明できる術がなかった。
 のそのそと起き上がった大尉が、静かに背中をさすってくれた。
0973◆tyrQWQQxgU
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2020/07/29(水) 16:55:26.42ID:mYNlLmBN0
 それから少尉が落ち着くまで、2人はただ月を眺めていた。
「月、きれいですね」
 鼻をぐずらせながら少尉は言った。
「旧世紀の日本って国で、とある有名な作家がいてな」
「え?またうんちく?」
 少尉は笑った。大尉も笑う。
「『月が綺麗ですね』ってどういう意味だと思う?」
 大尉が言う。
「そのままですよ、きれいだなーって」
「あなたの事が好きですって意味になるんだと。洒落てる」
 それを聞いた少尉は赤く腫れた目で大尉を見つめると、立ち上がり、大尉をベッドに押し倒した。
「私…馬鹿なんで。言葉で言われてもよくわかんないんですけど…。でもまあ、言ったことには責任取らないとですよね?…ねえ、月は綺麗?」
「そうだな…綺麗だ」
 少尉はそのまま大尉に被さる様にして抱きついた。互いの心臓の音が、まるで自分の物のように聞こえる。もっと聞こえる様に、彼の胸に頬を埋め耳を澄ませた。
 今はただ自分達の生だけを感じていたかった。この鼓動と月明かり以外、確かに信じられるものは何処にも無かった。
0974◆tyrQWQQxgU
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2020/07/29(水) 16:55:48.46ID:mYNlLmBN0
 一夜明け、予定より少し遅れつつアイリッシュはアンマン市へ入港した。少し久しぶりの基地には、見慣れた景色が広がっている。補給がひと通り済んだところで、スクワイヤ少尉はブリッジに足を運んだ。
「お、ゲイルちゃんか。調子はどうだ」
「うん…ぼちぼちですかね」
 グレッチ艦長がいつものシートに腰掛けている。少尉はその傍に立った。
「…何かちょっとご機嫌だな?珍しいじゃねぇか」
「艦長とも仲直りしようかなって」
 驚いた様に艦長が少尉を見る。
「私…気にしないことにしたんです。色々。マンドラゴラにも言っちゃってますしね…私は、私の魂を信じるって」

「そうか…魂ねぇ…」
 艦長は口元をニヤリとさせながら、帽子を深く被り直した。
「わかんない事だらけだし、そんなに頭も良くないですけど。これからの自分の事は、今度こそ自分で決めます」
 ブリッジの向こうを眺める少尉の目に、沢山の景色が映り込む。幾何学模様の様に複雑な光が射す。
「…そりゃ、いい心掛けじゃねぇか!」
 艦長が立ち上がり、両手を腰に当てた。
「艦長!何やってるんです!?」
 バタバタとやってきたフジ中尉が眼鏡をかけ直しながら怒っている。
「どうした!」
「いやいや、補給が終わり次第大佐の所に行くようにとあれ程」
「…そうだっけ?」
 艦長がとぼけるのを見て、中尉が更に怒る。
「あなたという人は…!今回の部隊再編がどれだけ重要かわかってらっしゃらないので!?全く、やっとまともになったかと思えば…」
「あーもう、2人で勝手にやってて…」
「おい!逃げんなゲイルちゃん!」
「艦長!まだ話は終わってませんよ!こないだも…」
 問答を続ける2人を置いて、少尉はブリッジを後にした。
0975◆tyrQWQQxgU
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2020/07/29(水) 16:56:31.02ID:mYNlLmBN0
「どうだ?ブリッジはいつも通りか?」
「うん、いつも通り。何だかんだで…ほんと変わんないですよあの人達」
 廊下を歩いていると、ワーウィック大尉も合流した。2人で格納庫へと足早に進む。
「少尉は変わった」
「またその話?大尉は相変わらずですよ!」
「それならいい」
「はいはい」
 談笑しながら向かった格納庫では、新しい機体の周りに人だかりが出来ていた。ここからではよく見えない。
「あ!あれ大尉のやつでしょ!?早く!」
「そんなに慌てなくてもな…おい…」
 呆れながら満更でも無さそうな大尉の手を引く。
 本当に何もかもを気にするのをやめた訳ではない。しこりは今も残ったままだ。だが、いつかはそれも許せる日が来る事を願った。既に失ったものの為に、今ある幸せを失う覚悟は持ち合わせていなかったのかもしれない。
 死への探究心は今も消えない。だが、それ以上に探すべきものを生の中に見つけた。傍に寄り添う死神を手懐けて、今は少しでも生きていたいと思うのだった。

65話(最終話) ねぇ、月は綺麗?
0976◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/29(水) 17:04:02.31ID:mYNlLmBN0
第2章完結です。
ご愛読ありがとうございます。

これから第3章…最終章へと入っていく訳ですが、その前にスピンオフ的な話を4話程投下します。
時系列的にはコンペイトウ攻略作戦後なので、61話〜最終話辺りと平行している感じですね。
これも最終章に繋がる重要なパートになりますので、お楽しみください!

最終章はまだ殆ど構想が出来ていない状態で、しばらく期間が空くかと。
スレッドもぼちぼち埋まりそうなので、スピンオフの後は感想や質問があればお聞かせ願えたらと思っています。

気付いたら1年以上お付き合い頂いてますね…!
引き続きよろしくお願いします!
0977通常の名無しさんの3倍
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2020/07/31(金) 14:40:59.89ID:L0VueQHU0
乙です!

スクワイヤ少尉...ニュンペーの名前、覚えてくれたんでしょうか(苦笑)
終わりを見ている辺り、ウィード少佐も過去に囚われた人間になってしまいました(泣)
分離式ナギナタを用いた死闘、熱いです!
拡散ビームといい、ニュンペーは隠し腕のついたパラス・アテネを想像すれば良さそうですね(但しミサイル無し)
2連ライフルが無いことで固定の腕部ビームガンが映えるの、良いと思います
ライフルを鈍器にして長短を補うスクワイヤ怖っ!
爆発するイメージあるんですけど、死にたがり経験からその辺の匙加減も分かるといったところでしょうか

遂に明かされるスクワイヤの出自......けどこのやりとりで「アイバニーズ=ティターンズ兵」と知るのは難しくないですか?
ボスニア隊みたいに半ば従わされてる部隊やスードリ隊のような義勇兵、ホンコン特務のように呼ばれる流れもあります

形影相同、フジ中尉ったら分かりにくい言葉を...w
文字通り漢字なのでしょうか、百式や龍飛はある世界観ですし
それとも英語? The heart-shadow will stab the facts!(さっき考えた、現ライダー並感)みたいなw

ウィード、ホント不憫...コロニー落としに携わった業はあるでしょうけど、何も言わずに、独りで...
リディルみたいに生き残った部下もいるのに、目の前が真っ白になっちゃったんでしょうね
さて、アレキサンドリアごと逃げたレインメーカー爺さんと、そろそろ人間やめてそうなソニックの行方は...
ロングホーン大佐まで救援に行ったアイリッシュ隊との対比も印象的です

アイバニーズ......なんでぇ、いい親父だったんじゃないですか >>928で少しdisってごめんちゃい😣💦⤵
>「何故ガンダムなんか寄越したんです!?」
これは、F91、V、Gレコ辺りの親と子を繋ぐガンダムにも通じる心象でしょうね
マンドラゴラはアイバニーズの用意した機体ではありませんが、彼の願いがきっかけになってるわけで...
艦長、結局飲むんかい!(まぁ適度に飲んでた方がアル中は再発しにくいといいますしねw)
しかし辛い中でも資料を読み始めるスクワイヤは強い、こちらも請求書など読まねば...無作法というもの(私事)

マンドラゴラとワーウィックの関係......実質被害妄想ですよね(笑) 艦長・大佐「解せぬ」
いや、こういう暗いところのあった方が共感できる部分もあります
わーっ、もう、大尉の誘い受け! ちゃんと地球いけよ畜生!
月が綺麗ですね、と言いながら月に着陸したカップルはあまりいないと思いますw いい着地点だ!

新しい機体といい改修アイリッシュ(そろそろ艦名が付くのでしょうか?)といい、2.5と3章への期待が高まります!
引き続きよろしくお願いします!!
0978◆tyrQWQQxgU
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2020/08/01(土) 23:46:39.74ID:DxKUOfXf0
>>977
いつも感想ありがとうございます!

アイバニーズ=ティターンズ所属という部分はもっとわかりやすく書いても良かったかもしれませんね!どうも読み手書き手が知ってる事の説明は疎かにしがちです…

フジ中尉のアレは漢字に英語でルビ振ってあるくらいのイメージで良いと思います。笑

正直言いますと、ウィードは最初から死ぬ予定でした。残念ながら。
何もないと思っていたスクワイアが色んなものを手に入れていく過程と、充実していると思われたウィードが色んなものを失っていく過程は対比になっています。
その先に何があるのかは、3章でも書けたらなと思ってます。

1章では母と娘の話をしたので、2章では父と娘の話をしたいなと思っていました。メアリーの時は母親側の描写多めだったので、今回は殆ど描写しない手法で書いてます。それぞれ、直接的に護った母親と間接的に護った父親ですね。

ワーウィックとスクワイアの関係ですが、ひとつは前作主人公を弱体化させずに一歩も引かせないという目的がありました。彼がこの局面で引くとは思えませんし。
しかし新しい人物を中心に置きたい思いもあり、どういう関係性にすれば良いか考えた時…いわゆるヒロインの逆バージョンに据えれば丸く収まるなと。笑
彼の前作での成長やアトリエ大尉の強さを描写しつつ、それによってスクワイアの父であり前作ラスボスでもあるアイバニーズの株も上がったかなと思います。
彼らによってスクワイアのキャラクターを補強しつつ、ちゃんと主人公として成長させたいと思っていたので、塩梅が結構難しい部分はありました…ワーウィック目線のパートが一切存在しないのもその関係です。

また、地球をテーマにすることが多いガンダムシリーズで月を舞台にするのも良いなと思っていました。個人的にXも好きですしね。笑
幸いグリプス戦役的にも重要な場所だったので描写しやすかった部分はあります。
地球で生き方を見つけたワーウィックの傍にいるスクワイアが、月で生き方を見つける…そういうのもロマンチックかなと。笑

新しい機体は既に決まってます!笑
過去最高に豪華な面子が揃う最終章になるかと!期待してください!
その前日譚に当たるのがスピンオフだったりしますんで、お楽しみに!
0979◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/08/01(土) 23:56:05.58ID:DxKUOfXf0
追記ですが、強さ的には

 アイバニーズ
≫アトリエ≧ワーウィック
>ソニック≧ウィード≧スクワイア≧フジ

くらいのつもりです。機体的にはぶっちぎりでマンドラゴラが強いですが、操作性も最悪です。
ニュンペーは量産前提なところもあり、操作性や拡張性が最も高い設定です。レコアさんが完成形のパラス・アテネであそこまでやれてましたし。
なので、組み合わせ的にはやっぱりワーウィック×百式改が2章作中だと1番強いでしょうね。

…いや、名無し×グロムリンが1番強いか。笑
0980通常の名無しさんの3倍
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2020/08/02(日) 09:23:56.65ID:vxOKlxpp0
おおっ、強さ比乙です!
ソニックはウィードより強い設定なんですね、只の筋肉じゃないと思ってましたが


量産前提のニュンペーは作中のアレキサンドリアに先行配備されるのでしょうか...捨てた女からフィードバックして。
あとソニックが最初に乗ってたガルバルディγも気になりますね。
>>657で説明はありましたが、αとβだけでもかなり違うので若干曖昧なままというか
例えばカラーリングなんてどうなんだろうなー、て思ってました

ウィードのニュンペー→水色
オーブのガルバルα→薄萌黄
ドレイクのガルバルβ→赤紫

と来れば

ソニックのガルバルγ→檸檬色

といったところかな、と
キャラクターが暑苦しい分だけ、色くらい爽やかでいてほしかったのもありますw
0981◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/08/02(日) 09:37:10.01ID:c/vKaxZs0
>>980
ソニックは一歩引いてる感じありましたが、彼自身は決して弱くないです。コンペイトウでも実質独りでスクワイア達相手に粘ってますしね。
とはいえ大体ウィードと同じかやや上くらいのイメージです!

ガルバルディ軍団は元デザインから継ぎ接ぎして別物っぽくなってるイメージだったので、詳細の色までは考えてなかったですね笑
単色というよりはほんとツギハギのイメージです。
そうはいっても特に描写も無いので、好きなカラーで読んでもらって良いかなと思います!
0982通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2020/08/02(日) 11:38:41.81ID:yA8n81MZ0
連投規制は鯖自体が政治板やニュース板の煽りを喰らってるっぽいな
あっちの連投荒らしや煽りは最悪に酷いからな
コロナ関連で何処ぞの国家のバイオテロだとか触れ廻ってるキチガイもいたし

運営が規制かけまくってるんだろう
0983通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2020/08/02(日) 11:45:10.43ID:vxOKlxpp0
新旧シャア板でもそれくらい働いてくれないかと思うわ

やたらID持ってる(それでいて同じようなことばかり書く)輩もいるけど
運営なら寿命半分とか出さなくても見えるんでしょ?
0984◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/08/02(日) 21:22:27.40ID:c/vKaxZs0
>>982
>>983
なるほど、そういう背景が…!!
そういうことなら暫くは連投するの難しいでしょうね…改善されてほしいものですが…
0985◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/08/02(日) 23:31:51.36ID:c/vKaxZs0
「おっと…。いやはや、私もトレーニングは好きな方だと思っていたが…敵わんな」
 入室してくるなり、ロングホーン大佐が呆れた様に笑った。
「…いつまでも寝てる訳にはいきませんよ。身体が…なまってしまう…!」
 上半身を剥き出しにして懸垂をしながら、ソニック大尉は応えた。その背中には、自爆時に背に受けた生々しい傷痕が残っていた。

 大尉が意識を取り戻した時、目を開けたその場所はエゥーゴによって占領された基地内の医務室だった。医師の問診では常人ならば死んでいておかしくない高さから落ちていると指摘されたが、その割には軽傷で済んでいる。日々の鍛錬が物を言うとはこのことであろう。
 傷が癒えたのち捕虜として尋問も受けたが、ソニック大尉は潔く全て答えた。事の経緯が真実だとすれば、これ以上ティターンズに恩義を感じることもない。そして何より、失っていたであろう命をロングホーン大佐に拾われた様なものだった。
 今現在は、コンペイトウから移送されてアンマンの月面基地に滞在している。
「それで…意思は固まったかね?」
 壁に寄りかかりながらロングホーン大佐は腕を組んでいた。
「…」
 懸垂をやめ、タオルを手に取り汗を拭う。
「試験部隊は壊滅、アレキサンドリアも最早私の帰りを待ってはいない。それはわかります。しかし…」
「ふむ。…こうして囚われの身になるのは2度目だな」
 大佐が腕を擦りながら笑う。
「あの時はご無礼を」
「構うものか。私が焚き付けた。…あの時の君の大義とやら、今はどうなのかな」
「大義ですか。…確かに口にしましたね」
 地球を在るべき姿に戻す。その考えは今も変わらない。しかしそれ以上に、ウィード少佐やドレイク大尉、オーブ中尉の存在が大きかった。彼女らと共に戦うことに充実を見出していたところはある。
 それを奪ったのはエゥーゴだと思っていたが、結局のところその充実自体がまやかしだったと知る今となっては…もうエゥーゴに対する強い抵抗感も無かった。
「ひとつ気掛かりなのは…エゥーゴに手を貸すということは、かつての仲間と戦うことになる。私に…それが出来るかどうかわかりません」
「よく考えてみろ。エゥーゴもティターンズも、本来ならば同じ地球連邦軍だ。この戦役自体内輪揉めのようなものだぞ」
 大尉は息を吐いた。オーブ中尉が戦線に出てくることはないだろうが、実質的な裏切りになる。それは自身の生き方に背いてはいないか。
「君自身のことだ。君が自分で決めろ。エゥーゴに与するもよし、ティターンズに帰るもよし。この際下野して戦いから距離を置くのもひとつだろう。…だがな」
 ロングホーン大佐がドリンクを渡してくれた。ありがたく受け取る。
「君のような男…私は嫌いではない」
 後ろ手を組みながら、大佐は退室していった。
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2020/08/02(日) 23:32:22.45ID:c/vKaxZs0
 シャワーで汗を流し、連邦軍の標準的な制服を着込む。久しぶりにティターンズ以外の制服だったが、元々着ていたこともあり身体には自然と馴染んだ。
 こうして個室まで与えられているのは破格の待遇と言えた。まるで隊員のひとりの様な扱いだ。大佐からしてみればもうエゥーゴに入れたつもりらしい。しかし、それと同時にいつでも逃げていいと言われているのと同じでもあった。手早く荷物をまとめる。
 特に周囲を気にするでもなく部屋を出た。基地の構造は把握していないが、詳細とまではいかずともおおよその見当はつく。
「ロングホーン大佐か…。変わった男だ」
 大尉は部屋を出ると、小さな荷物を持ってその場を後にした。目下向かうのは、MSが格納されているであろう整備ドックである。
 人の格好や流れを見ながら、整備ドックの方向を探った。今のような状況だと格納庫は人も多いはずだ。メカニックらしきクルーやスーツを着たままのパイロットが出てきた方へと足を運ぶ。

「ここか…」
 大きな扉の先にはドックが広がっていた。慌ただしい人の動きに囲まれ、多数の機体が整備を受けている。
 ソニック大尉は品定めをする様に外周を歩いた。GM2やネモなどの主力量産機、一部にはGMキャノン2の様な型落ち機体も見受けられた。
「…おっと、あんた。ここから先は関係者しか入れないぜ」
 更に先へ進もうとしたところを呼び止められる。柄の悪い金髪の男だった。
「何か証明の類が必要か?それなら…」
「いや、要らねぇ。俺は関係者の顔なら全部覚えてる。だが…あんたの顔は見覚えが無い。帰んな」
 証明書類を出そうとした大尉を男が制した。
「君の知らない人員補充だってあるだろう。書類ならある」
「そんな書類は幾らでも作れる。信用ならねぇ。それに…あんたからは敵の殺気を感じる」
 揉め事を起こすと面倒だが、ここを進めないとなると困る。
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2020/08/02(日) 23:32:47.00ID:c/vKaxZs0
「どうしてもっていうんなら、押し通ってみろよ」
 男が構える。何の確証も無しに突っかかってくるこの男が、不思議と嫌いではなかった。
「血の気の多い連中だな、全く」
「やっぱ余所者だな!?」
 早々に男は殴りかかってきた。大尉はそれを容易く躱すと、先に進んだ。
「おいこら待てこの野郎!」
 更に後ろから殴りかかってきたがそれも躱し、男の腰を抱えるとそのまま担ぎ上げた。
「てめぇ!離せよ!」
「口ほどにもないな。弱い犬ほど何とやらか」
「まじで何なんだよお前…くそ。」
 悪態を突く男の抵抗を意に介さない。子供の様に肩に担いだまま、気を取り直した大尉は先へ歩いた。
「…お前が何者か知らねぇが、ここは通さねぇ!」
 懲りずに男は暴れ続けた。あまりに暴れるので一旦放り投げる。
「私は丸腰だぞ?侵入者かもしれん男相手に随分と手緩いのだな」
「痛ってえ…!そういうお前こそ必死さが感じられねぇな。…もしかしてほんとに関係者なのか?」
 再度立ち上がる男を見ながら、大尉は自分のこれからが馬鹿馬鹿しくなっていた。この男の言う通り、本気でティターンズに戻りたいなどとは思っていないのは自分自身が一番よくわかっていた。
「ふん…。お互いこれでは茶番だな」
「うっせぇ!さっさと引き返せよデカブツ!」
 掴みかかってきた男をヒョイとつまみあげ、再び担ぎ上げて前へと進んだ。やはり男は暴れたが、もう降ろしてやらなかった。
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2020/08/02(日) 23:33:36.72ID:c/vKaxZs0
「来たか。…ん?」
 並ぶ機体と戦艦を前にして、ロングホーン大佐が腕を組んでいた。
「アトリエ大尉…そこで何やってる」
 ソニック大尉が担いだ男はアトリエ大尉という名らしい。
「こいつ余所者でしょう!?何者なんです!?」
 担がれたままアトリエ大尉が喚く。
「すみません大佐。機体でも奪って逃げようかと思いましたが、この男が見逃してくれなかったものですから」
 ソニック大尉は、アトリエ大尉をその辺に軽く放り投げた。彼は着地も下手くそだった。
「痛ってぇな…。何しやがる!」
「アトリエ大尉、君こそ何をやっている。彼はソニック大尉…先日の戦闘で人員が不足している君の部隊への最後の補充だ」
「え!でも」
「とやかく言うな。例の任務は彼と共に遂行しろ。それとも1人でやる気か?」
「まじかよ…」
 アトリエ大尉は立ち上がりながら身体についた埃を払った。

「…決心は着いたんだな?」
 ロングホーン大佐は再びソニック大尉を見据えた。
「はい。私は帰る場所も無い、一度死んだ身です。それに…戦うことでしか恩義を返すことが出来ん男ですから。しばらくはお世話になります」
「そうか、歓迎するとも。さあ、荷物は自室に置いておくといい。…アトリエ大尉、案内してやれ」
「はあ…了解。…ほら、デカいの!付いてこいよ」
 ややぶすくれたアトリエ大尉に付いていく形で、新たな母艦へと足を踏み入れた。

65+1話 自身の生き方
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2020/08/02(日) 23:41:20.89ID:c/vKaxZs0
「お前…ソニックって言ったっけ?ファーストネームは?」
 アトリエ大尉は腰をさすりながら艦内を歩いていた。勝てる気はしなかったが、ここまで子供扱いされると流石のアトリエ大尉も少し落ち込んだ。
「ラム・ソニックだ。君は?」
「酒みてぇな名前だな。俺はベイト・アトリエ」
 このジントニックみたいな名前の男からは、初見に敵と同じ雰囲気を感じた。しかしその割には切羽詰まったものを感じない。それはそうとしても、ロングホーン大佐が認めている以上あれこれ詮索するだけ無駄だった。
「まあいいや、ここがお前の部屋な」
「ありがたい」
 ソニック大尉の部屋に2人で入室すると、彼はゴソゴソと荷物を解き始めた。
「お前、余所者だよな?元ティターンズか何かか?」
「…勘の鋭いところは認める。そのとおりだ。大佐に命を救われた」
「なるほどね。それだけ判れば十分だわ」
 地球に置いてきたメイもそうだが、どうも元ティターンズ兵とは接する機会が多いらしい。

「それで…我々の任務というのは?」
 ソニック大尉が立ち上がる。
「ああ、新しい機体を受領しにいくんだ。俺用でな」
 先日の対アクシズ戦で部隊はかなりの痛手を負っていた。アトリエ大尉自身も乗機のネモに限界がきていたし、そろそろ丁度良い頃合いだった。
「受領するのが任務か?訳有な感じだが」
「その通り。体よく言っちゃいるが、要は奪いに行くって訳さ」
「それで鉄砲玉に元ティターンズの俺を使う訳か。…何を奪うつもりだ?」
「ふふ、それはお楽しみにしとけ。あんたはあんたとして…俺ほど適任な人材もいないんだとよ」
 そう言ってアトリエ大尉は笑った。今回奪うつもりの機体のことを考えれば、あながち間違ってもいない人選ではある。
 ソニック大尉を連れ、MSデッキへ向かった。今回アトリエ大尉は奪った機体で帰還しなければならない為、行きはソニック大尉の機体に同乗することになっている。機体の説明などを済ませ、その場はお開きにした。彼にはまだ色々と慣れて貰わねばならない。
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2020/08/02(日) 23:41:46.40ID:c/vKaxZs0
 準備を済ませ、遂に決行する日がやってきた。ワーウィック大尉達のアイリッシュが帰還した様だが、今回は出迎えに行っている暇はない。
 アトリエ大尉が格納庫へ向かうと、既にソニック大尉が機体に乗り込んでいるところだった。
「準備万端ってか?おはようさん」
「ああ、アトリエ大尉。よろしく頼む」
 まだエゥーゴに合流して日が浅いからか、少し緊張の色が見て取れる。
「あんたもMSはよく遣うと聞いたが…急にエゥーゴの機体でいけるのか?」
「問題ない。…エゥーゴはなかなかいい機体を持っているな。何よりフォルムがいい」
 2人が今回使用する機体は黒いリックディアスである。
「最近は赤が人気らしいけど、断然黒だよな」
「同感だ。ティターンズカラーという訳じゃないがな」
「ま、カッコ良けりゃそれでいいよな。…意気投合したとこで、準備するか」
 シートをソニック大尉に譲り、アトリエ大尉はその後ろについた。
『2人とも、準備はいいかな』
 艦長から通信が入る。
「ああ、大丈夫だ。短い間だったが世話になったな」
 今作戦での機体奪取成功後はこの艦から異動することになっている。主力部隊の再編である。恐らくソニック大尉もそのタイミングで正式にエゥーゴ加入が決まるのだろう。
『まだ気が早いぞ。この任務が終わるまではよろしく頼む』
「あいよ!そっちこそ手筈通り頼む」
『うむ。任された』
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2020/08/02(日) 23:42:28.83ID:c/vKaxZs0
 事前にリークした情報では奪取目標の試作機が3機建造されていて、その中の1機を奪えればそれで良い。その1機は現在月の周辺を輸送中の為、航行を妨害する形で強奪する。本来の引き渡しの為に装備が一式用意されているらしく、強襲して丸々掠め盗る予定だ。
 まずは母艦であるサラミス改で近付ける限界まで追いかけ、そこからはSFSに乗って単機で襲う。遅れてくる陽動部隊が支援するとのことだが、あまりあてにし過ぎない方がいいだろう。
「しっかし、何でまたこんなに情報が駄々漏れなんだ?」
『既に機体開発の主導権は反ティターンズ側に傾いているのでな。本質的に強奪ではなく受領と言っていい。今回はティターンズ寄りの連中が邪魔に入るだろうが、我々で対処出来る規模だ。残す記録としてもエゥーゴ側に正当性がある形を取りたいというわけだよ』
「回りくどい言い方だな」
 ソニック大尉が苦笑いする。
「俺達には関係ねぇ。貰うもん貰って帰るだけだ」
 アトリエ大尉はソニック大尉の肩を叩いた。

 月から出港したサラミス改は、予定のポイントへと向かう。敵の輸送艦が通った道をなぞる形だ。
「丁度いい時期に転向できて良かったんじゃねえか?これからティターンズは苦しくなるだろうぜ」
 出撃待機しながら、アトリエ大尉は後ろから話しかけた。
「何処で踏み違えたのだろうな。理念を持ち、能力のある人間を集めた組織の筈だった」
「へっ。そういう思い上がりが全ての原因だと思うけどな?」
「…確かにな」
 ソニック大尉は自嘲気味に笑う。彼の転向に至った経緯は詳しく知らないが、結局こうして人が離れていくのも時勢を表しているのだろう。
 そうこうしている間に敵の輸送艦が見えてくる。敵もこちらを捕捉しているはずだ。
『では2人とも、武運を祈る』
「おう!行ってくる!」
 アトリエ大尉の返事を聞き、ソニック大尉がリックディアスを起動する。SFSのスラスターに火を入れると、輸送艦へ向かって出撃した。

65+2話 回りくどい言い方
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2020/08/03(月) 00:14:29.89ID:uwYmBiVJ0
「さて…。あの輸送艦に取り付けばいいんだな?」
 ソニック大尉は操縦桿を握り直す。慣れないなりにシミュレーションはしておいた。幸いリックディアスは非常に操作性の高い機体だった。
「あんたが取り付いたら、俺が機体を奪いに行く。援護は任せるぜ」
「そんな細腕で大丈夫か?」
 とてもじゃないが、アトリエ大尉は白兵戦が得意には見えない。
「おいおい、そこはあんたの丸太みてぇな腕で援護してくれよ」
「俺ありきか。戻ったら鍛え直してやる」
「…来たぜ。お出迎えだ」
 輸送艦から敵のMSが迎撃に出てくる。ざっと4機。いずれもバーザムである。

「新型のみで編成か。余程大事な積荷なんだろうな」
「頼むぜソニック大尉!」
 開幕の合図に放たれた複数のビームを難なく避ける。まずはもっと輸送艦に近付かねばならない。敵に構わずSFSのスラスターを吹かした。
 2機ほど突出してこちらを迎撃する動きを見せている。これらの合間を縫うようにして、とにかく敵の攻撃を躱す。
「流石に…手数が多いな」
 八方から浴びせられるビームをどうにか躱しつつ、とにかく距離を詰める。
「先に叩かねぇのか!?」
「輸送艦に取り付いてしまえばやつらも手出し出来んだろう」
 嘘を言ったわけではない。とはいえ、正直まだ元同胞を撃つ事に引け目を感じている部分も否めなかった。だが敵からすればそんな事情は関係ない。当然容赦ない攻撃が続く。
「おい!大丈夫かよ!」
 うろたえるアトリエ大尉。
「黙って見ていろ!」
 粘りに粘るソニック大尉だが、いよいよ限界だった。ある程度の距離まで近付けたことを確認すると、SFSを蹴る様にして跳んだ。
「この男を送り届けねばならん。この鍛えた身体に誓って!」
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2020/08/03(月) 00:15:24.75ID:uwYmBiVJ0
 好機と見たのか、バーザムの1機が接近戦を仕掛けてきた。サーベルを抜き、加速を掛けて斬りかかる。
「ぬおお!!!」
 ソニック大尉は敵のマニピュレーターを掴み斬撃を止めると、もう片方の手で頭部を殴りつける。よろめいた敵機からそのままサーベルを奪うと、コックピットに突き立てた。
「次ぃ!!」
 背後から撃ち抜こうと狙いを定める別のバーザムだったが、逆にソニック大尉は背のビームピストルで威嚇射撃を食らわせる。
 180度転身し、今度はピストルを手に持ち直してそのまま敵を蜂の巣にする。ライフルに比べると威力は低いが、2丁をバランス良く扱うことで手数を増やせる。
「邪魔はさせんぞ!!」
 そのまま爆散するバーザムに背を向けつつ、再び輸送艦へ向かう。残る2機は連携して輸送艦を守っているが、これに取り付く為にはどうにかして敵を引き剥がす必要がある。
「やるじゃねぇかよ!見直したぜ」
 後ろでアトリエ大尉が声を上げる。
「まだだ。問題はここからだからな」

 味方の牽制に期待したいところだが、今のところそれらしい動きは見られない。可能ならばこの軌道を抜ける前にケリをつけてしまいたいところだ。
「多少強引だが…行くしかないな!」
「うおっ!」
 よろめくアトリエ大尉にも構わず、バインダーの出力を上げて突進した。迎え撃つ敵の射撃が掠める中、一心不乱に輸送艦目掛けて突っ込む。
 こちらの狙いを察したのか、敵が進路を塞ぐ様にして立ちはだかった。
「押し通る!!」
 ソニック大尉はサーベルを抜いた。受ける敵のサーベルと鍔迫り合いになり、そこへ更に別機体のビームも迫った。しかしここは引いた方が負ける。被弾しつつも鍔迫り合うバーザムを押し退けた。
 押し込まれ体勢を崩した敵機を踏みつける様にして、更に加速して輸送艦に向かって駆ける。背後から撃とうにも、この位置なら輸送艦への着弾が気になって撃てない筈だ。
 狙い通り敵の動きが鈍った隙を突き、リックディアスはそのまま輸送艦の後部ハッチを撃ち抜き、突き破りながら強引に着艦した。

「いてて…。全く無茶しやがるぜ」
「何にせよ…これで文句はあるまい。さて、お目当ての機体は何処だ?」
 モニターから周囲を確認する。バーザム達が格納されていたらしきハンガーの奥に、白い機体が見えた。
「よし、あれだな。援護頼む!」
 言うなり、アトリエ大尉はコックピットを飛び出していった。ソニック大尉に仕掛けてきた時もそうだったが、何故あの腕っぷしでそこまで無茶ができるのか…。飛び出したアトリエ大尉を追いかける形で、ソニック大尉も機体から離れた。

65+3話 輸送艦
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2020/08/03(月) 00:16:06.00ID:uwYmBiVJ0
「くそ…!簡単には渡しちゃくれねぇか!」
 アトリエ大尉は敵から見えないよう壁に背をつけて銃を抜いた。散発的に敵の銃声が響く。威勢よく飛び出したものの、騒ぎに気付いた敵クルーと白兵戦になっていた。
「…で、何か作戦があるんだろうな」
 合流したソニック大尉が溜息をつく。
「そりゃお前…その自慢の筋肉であいつらどうにかしてくれれば」
「無茶苦茶なやつだ」
 呆れ果てた様にソニック大尉が笑う。軽口を叩いてはいるが、それほど余裕があるわけではない。見た限り敵は3人ほどで、全員銃を持っている。闇雲に突っ込んでどうにかなる状況ではなかった。
 銃声が止み、ジリジリと迫ってくる敵の気配を感じる。2人は息を潜めた。
「…俺が囮になる。その間にお前が最低1人仕留めろ」
 小声でソニック大尉が呟いた。
「囮って言ったってよ…どうするつもりだ」
「俺を連れてきたのはこういう時の為だろう?俺の筋肉を信じろ」
 猶予は無い。アトリエ大尉は渋々頷いた。
「長くは保たん。任せたぞ」
 そう言ってソニック大尉は前に出た。

 遮蔽物を利用しながらソニック大尉が攻勢に出る。敵の注意を引きつけながら、アトリエ大尉のいる場所への意識を離そうとしていた。
 敵の動きを見つつ、アトリエ大尉は敵の背後を取るべくソニック大尉とは反対の方向へ走った。敵はソニック大尉との銃撃戦に夢中でこちらには気付いていない。
「よし…。くたばってな」
 瞬時に敵へ狙いを定めると、背後から1人の頭を撃ち抜いた。崩れ落ちた味方に気を取られたもう1人を、ソニック大尉が逃さず撃つ。
 最後の1人は逃走を図ったが、ソニック大尉が後ろから羽交い締めにする。揉み合いになりながらヘッドロックの要領で首を抑え込むと、そのまま落としてしまった。
「上出来だな。取っ組み合いにさえならなければお前も良い腕だ」
 周囲を確認しつつソニック大尉が言う。
「俺に限らず取っ組み合いであんたに勝てるやつがいるのか怪しいがな!…あんたはディアスに戻れ。俺は目標を奪取する」
「了解。そろそろハッチも破られそうだしな」
 ソニック大尉の言う通り、先程破壊したハッチから外のバーザムがこちらに向かってこようとしていた。アトリエ大尉は、踵を返したソニック大尉とは反対方向へ走る。
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2020/08/03(月) 00:16:39.53ID:uwYmBiVJ0
「待ってろよ…!」
 アトリエ大尉はとにかく機体のもとへと急ぐ。息を切らせ辿り着いた場所には、純白の機体がいた。白い装甲には赤いラインが走り、やや大型で独特なフォルム。それを見上げながらアトリエ大尉は懐かしい気分がしていた。
「久しぶりだな…ガンダム」
 そこに居たのは、アトリエ大尉のかつての乗機であるガンダムMk-Wの正当後継機…ガンダムMk-Xだった。
 まだ一部調整が済んでいないとのことだが、一応ひと通りの装備が揃っている。アトリエ大尉はハンガーのレールを伝い、コックピットへと飛び乗る。
「ガンダム盗るなら俺に任せろってね…。ま、1機盗んで1機は諦めたけどな」
 ワーウィック大尉にベッタリだったスクワイア少尉を思い出して、つい笑った。あの生真面目な男が、ああいう娘に懐かれているとは思ってもみなかった。
 事前に確認していた手順で手早く機体の起動に入る。その起動手順もMk-Wと通ずるものがあった。乗機だったMk-Wはムラサメ研究所が盗用データから組み上げた不完全な機体でもあったが、Mk-Xはオーガスタ純正だ。
 Mk-Wの一件を問われたムラサメ研究所も開発に手を貸す羽目になった様だが、サイコガンダムの運用データなどの提供によりMk-Xの完成は早まったという。
「よし…動けよ…!」
 各シーケンスをクリアし、デュアルアイに光が灯る。それと同時に、アトリエ大尉も前を見据えた。
「ガンダム…また俺と戦えて光栄だろ?」
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2020/08/03(月) 00:17:28.32ID:uwYmBiVJ0
 ハンガーから強引に引き剥がす様に機体を動かしつつ、リックディアスと通信チャンネルを合わせる。
「ソニック大尉!目標を奪取した!離脱するぜ!」
『わかった!これ以上は持ち堪えられん!急げ!』
 前方を確認すると、ハッチをこじ開けたバーザムと揉み合いになっているリックディアスが見えた。
「借りは返さねぇとな」
 専用のライフルを構え、正確にバーザムの頭部だけを撃ち抜く。そのままソニック大尉はバーザムを組み伏せた。
『よし!先に行け!』
「了解!」
 開けたハッチから脱出する。が、それを待ち伏せていた残る最後のバーザムが背後から斬りかかってきた。
「甘いぜ…鶏ちゃん」
 斬撃をひらりと躱し、追撃のライフルも容易く避けた。アトリエ大尉が反応した通りに機体が付いてくる。ネモが悪い機体だったとは言わないが、やはりガンダムは規格外だ。インターフェースのせいもあるが、やはりMk-Wを思い出す。
 迫る敵と向かい合いながら、とっておきの武装を射出した。当然、使い方なら熟知している。
「ん?2基もあんのか…!流石後継機…贅沢なこって!」
 再度斬りかかろうとしたバーザムだったが、それは叶わなかった。ガンダムの射出したインコムがサーベルを手首ごと弾き飛ばしたのだ。更に脚部、頭部、肩…あらゆる部位を四方から撃ち抜いた。半壊したバーザムを、大型サーベルでとどめを刺す様に両断する。
「この威力…オーバーキルか?…一理ある」
 爆散する敵機を背後に、ガンダムは悠々と武装を収めた。

『お前…その武装。…ニュータイプってやつか』
 続いて脱出してきたソニック大尉のリックディアスが追いついた。
「最近はもうニュータイプニュータイプって言われ過ぎて否定するのも面倒になってきたわ…。それに、インコムの事ならシステム的にはオールドタイプでも使えるんだけどなあ」
『いや、俺は遠慮しておこう…』
 2人が合流して程なく、援軍が輸送艦を取り囲んだ。彼らの予定よりもかなり早い段階で敵を殲滅してしまったらしい。
「これで任務完了だな。あんたが居て助かったぜ」
『お前のようなやつと戦場で相対することが無くて良かった』
「へっ、そうかい。…まあこれからもよろしく頼むわ」
 友軍にその場を任せ、2人はサラミス改への帰路についた。

65+4話 純白の機体
0997◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/08/03(月) 00:24:58.47ID:uwYmBiVJ0
何だかんだギリギリになりましたね…
取り敢えず次建てときました!

次スレッド
グリプス戦役の小説書いてるんだけど
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1596381803/

まさか跨ぐ事になるとは書き始めた頃には思っても見ませんでしたが…笑
引き続きよろしくお願いします!
0998通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2020/08/03(月) 07:32:19.93ID:PIGO23ZM0
乙です!

まだ黒塗りのディアスなんていたんですね...w
あのドムもどきなカラーリング嫌いじゃないです

裏切ったのがシロッコだとしても、ティターンズ全体がジャブロー核自爆をやらかす危険集団、どのみち戻れはしない...
ここでGMキャノン2! 新訳要素も嬉しい
やはりアトリエは勘がいい、まだソニックにも迷いがあったでしょうしね
書類の件はWのデュオが「偽物だけどなぁ!」と行って逃げていくシーンを思い出しましたw

ここで来たか、(顔的に)虫野郎! 青に塗られる前というのがまた細かいw
もしやソニックをゼク・アインに乗せたのは、MK-V奪取作戦への伏線だったのでしょうか?

(もうアトリエの心配はしてないので、笑)ソニック、お前くらい生き残れよ...!

次スレ、楽しみにしてます!
0999◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/08/03(月) 10:37:01.45ID:uwYmBiVJ0
>>998
個人的に黒ディアス渋くて好きので…笑

ティターンズは実際かなりヤバい事してますし、ソニックは知らされてない部分もあれど加担している部分もありましたから。
メイの時ほど割り切れてはいない感じですが、その辺りも3章で!

クインマンサ顔のあいつです…!
1機が教導団、1機がネオ・ジオンへ行くので正直ギリギリの数ですが…
前作主人公の1人が乗るガンダムと考えると、丁度いい顔してます笑
そうですね、教導団行きの機体同士っていう接点はあります。後で簡単に掘り下げますが、その辺の絡みも考えてはいます。

ウィード隊最後の1人がエゥーゴに来てしまいましたが、それによって彼らのストーリーもまだ終わっちゃいないといったところですね。

よろしくお願いします!
レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。

ニューススポーツなんでも実況