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宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど
レス数が950を超えています。1000を超えると書き込みができなくなります。
0001通常の名無しさんの3倍
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2019/07/24(水) 00:50:40.43ID:XfFrIQoe0
小説書いたこともなければスレッド建てるのも初めてなんだけど、もし誰か見てるなら投稿してみる
0851◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:27:13.36ID:5skNxF910
 敵に気取られるより先に左右へ取り付き、デブリの影に隠れた。敢えて中尉のネモはセンターを取り、そのまま解析を続けながら囮になる。
『気付かれました。こっちに来ます』
 中尉が威嚇程度に射撃を行う。敵もデブリをうまく利用しながら距離を詰めてくる。
『よし、そろそろ横っ腹を叩く。いいな?少尉』
「いつでも!…って、え?」
『まずい!』
 中尉の声とほぼ同時に、少尉の隠れていたサラミスの残骸が動いた。それを持ち上げるようにして現れたのは、青い装甲の大型機だった。こちらに気付いて1機だけ進行方向を変えたらしい。
「でかい…!」
 驚いたのも束の間、敵はそのまま残骸で殴りつけてきた。飛び跳ねる様にしてそれを避けると、距離を取りながらライフルを向ける。しかし敵は間髪入れずにミサイルランチャーを面で発射してきた。
「ばっ…反則よこんなの!」
 ホーミングしてくるミサイル群を躱しながら、デブリで防ぎつつ状況を確認する。残りの2機を大尉達が牽制している様だが、明らかにガンダムを狙った動きを見せていた。
 やや離れた地点に出てきてしまった少尉だったが、ガブスレイがそれすら追ってくる。
「TMSってやつか…速い」
 敢えてデブリの残骸の中を無軌道に進むが、敵は難なく付いてくる。敵のビームがマンドラゴラの頬を掠った。
「顔直したばっかなのよ!もう!」
 転身した少尉は、ガブスレイを迎え撃つ態勢を取る。しかしその時背後に気配を感じた。
「…!水色ッ!」
 敵のビームサーベルをシールドで受けようとしたその時、敵はサーベルを逆手に持ち替えてそれを避けた。
「こいつ…あの時の…!」
 その動きは、ガルバルディを仕留めた時の少尉と全く同じだった。そのまま繰り出されるサーベルの横凪ぎを交わしきれず、脇腹に斬撃を受けた。間一髪コックピットは避けたものの、明確な被弾だった。
『ちぃ…!』
 僅かに遅れて大尉の百式が薙刀を振るう。間合いが足りない敵機はそれを受け止めず更に距離を取った。
『大丈夫か!少尉!?』
「私は大丈夫です。ただ機体制御が少し…」
 言い終わらぬ間に先程の青い機体が迫る。察知した大尉が間に割り込んだ。ビームサーベルを抜いた敵機に対し、百式も薙刀を短く構える。両者の刃が交差し、力場が反発する際のスパークが煌めいた。
『やるな…!』
 鍔迫り合いになった大尉の足元からガブスレイが急接近する。
『だが、甘い』
青い機体を押し退けた大尉は機体を宙返りさせると、更にガブスレイとのすれ違いざまに蹴りを見舞った。可変機故か、AMBACが利かないガブスレイはそのままデブリに衝突した。
 大尉はそれ以上追撃せず、少尉の傍に付いた。中尉のネモが取りつこうとする敵機を牽制する。
0852◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:27:36.35ID:5skNxF910
「こいつら、機体は違うけど…」
『ああ…間違いなく試験部隊の連中だ』
 やや呼吸を乱しながら大尉が言った。
 敵も乱れた隊列を組み直す様にして小さくまとまった。ガブスレイも可変してMSの姿を見せながら、デブリを手で退かす。その傍に降りた水色の機体。そしてその2機の前に壁を作る様にして、青い機体が立ち塞がる。
 暫しにらみ合う様にしてどちらの陣営も動きを止めていた。
『大尉、僚艦からアイリッシュへ通信があったようです。敵は全く布陣を変えていないとのこと…』
『何だと?ではこいつ等は単独で…?』
『作戦が裏目に出ましたね…。これ以上付き合っても意味がありません』
『…しかし…』
 今回は敵の方がうまくやった様だ。しかし、ここで逃がす道理も無い。
「私ならまだやれます!」
『いや、このままの長期戦はこちらが不利だ…。地の利も敵にある』

 すると敵部隊はゆっくりと距離を開け始めた。じわりじわりと牽制する様にも見えるが、時間を稼いでいる様にも思える。
『戻りましょう。敵も消極的です』
「でも!やられっぱなしです!」
『少尉、まだ前哨戦だ。そう焦るなよ』
「む…」
 そうこうしている間に敵も少しずつ引いていく。一定の距離が取れたところで両軍母艦へと退いた。
『また消化不良だな』
 撤退しながら大尉がこぼす。前回の鶏冠戦でも敵を殲滅しきれなかった。
「でも前哨戦ですもんね、次はぶちのめします」
『切り替えが早いのは良いことだ。忘れっぽい所もたまには役に立つ』
「中尉、それ褒めてます?」
0853◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:28:04.24ID:5skNxF910
 アイリッシュに帰投すると、メカニック達が直ぐに機体の補修に取り掛かった。各機消耗はいつものことだが、マンドラゴラのダメージはやや大きかった。
「危ないところだった。こうして見るとなかなか傷が深いな…」
 少尉が機体を見上げていると、大尉がやってきた。マンドラゴラは腹部横の装甲が大きく融解し、内部の回路も一部損傷している。
「あの敵…私と同じ動きをしたんです」
「本当か?もしそうなら、かなり優秀な学習コンピュータを内蔵しているのだろうな」
 不思議な感覚だった。同じ戦術を取ったというよりは、癖もそのままにトレースされたという印象だった。自身のシミュレーションのレコードを見ている気分に近い。
「もしそうなのであれば…大尉のデータも取られているでしょうね」
 フジ中尉が合流してきた。
「私のデータに汎用性があるとは思えんがな。薙刀しか遣わんのだし」
「モーション自体をトレースしていれば、他の動作への応用は可能かもしれません。回避運動などはそのまま転用できるでしょうしね」
 ワーウィック大尉の動きまで取り込んでいるとなるとなかなか厄介だった。機体が違うとはいえ、相手も恐らくワンオフの機体だ。下手をすると場合によっては敵の方が動きが良くなる可能性すらある。
「戦う度に手強くなるとはな…」
 大尉が腕組みをして唸る。
「でも、逆に言えば敵はその場では対策出来なかったりするんですよね?だったらやりようはありますよ」
「良いことを言うじゃないか。腹を切られた割には」
「中尉、やっぱり褒めてないですよねさっきから」

41話 トレース
0854◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:29:32.32ID:5skNxF910
「いやはや、お見事です」
 帰還したウィード少佐達をブリッジで出迎えたのはレインメーカー少佐だった。
「…情報とは違いましたがね。敵もこちらの動きを読んではいたようですよ」
「そうはいっても、目的通り敵の足止めが出来ただけ上等です」
 彼はウィード少佐の懸念を気にする様子もないが、正直紙一重だった。敵も奇襲を考えていたから良かったものの、これでもしエゥーゴがウィード少佐達の殲滅を優先していたならば…今頃どうなっていたかわからない。
「私は…もっとうまくやれるつもりでした」
 唇を噛んでいるのはステム少尉だった。
「…いや、上出来だ。あのバッタは尋常ならざる敵と言っていい。あれに落とされなかっただけお前は見込みがあるよ」
 そういって少尉の肩を叩くソニック大尉だったが、彼も表情はやや暗い。

「…それで、状況は?」
 ウィード少佐はスクリーンの方へ歩みを進めながら訊いた。
「エゥーゴは再び艦隊を合流させて正面に陣取っております。これでお互いに腹の中は割れた様なものですな。今は膠着しております」
 飄々としているレインメーカー少佐だが、この戦況を作り出したのは彼と言っていい。老獪な男である。
「上は何か言ってきましたか?」
「"ご苦労"とだけ」
「ふん…内心どう思われているかはわかりませんね。独断専行に変わりはない」
「拡げた風呂敷です。勝てば官軍とも言いますから」
 ニコリとしてみせたレインメーカー少佐だったが、ウィード少佐は背中を伝う嫌な汗を止められなかった。
「勝てば官軍…負ければ賊軍ですか。シロッコ大佐からは何も?」
 ステム少尉が口を挟む。彼も落ち着いて居られないようだ。
「何も。…まぁ今は状況が状況ですからな。内通を疑われている以上、我々は我々でやるしかありません。オーブ少尉とガブスレイ、ソニック大尉のゼクが届いただけでも良しとしましょう」
「…致し方ないか」
 ソニック大尉も腕を組んだ。
0855◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:30:06.96ID:5skNxF910
 その場を解散し、ウィード少佐はレインメーカー少佐と共にブリッジに居残っていた。パイロット達には少しの補給の後、機体に待機させている。
 しかし、あまり間を置かず戦況が動いた。エゥーゴの艦隊が正面から接近しているという。
「数は?」
「サラミス級が2隻ですな」
「正面か…。焦っているのかな」
「エゥーゴにしてみれば地上との2面作戦ですからな。どちらが先に落とすかといったところでしょう」
「そうはいってもどの道キリマンジャロは落ちるのでしょう?」
「エゥーゴにそれだけの力があれば、の話です。手放しでやるつもりはありませんよ」
 そうこうしている間も友軍からの支持はない。
「将校は何をやってるんです?我々だけで相手をしろとでも…?」
「これまでずっと巣に引っ込んでいた連中ですからな。肝がちいさいのですよ。…少しは自由にさせてくれると思えば、まあ」
「わかりました。駐留軍を少し借りましょう」
「そう仰ると思いましたよ。既に手配済みです」
 そういってレインメーカー少佐は通信機を手渡した。全く準備のいい男だ。それを受け取ると、ウィード少佐はすぐさまムサイ改級を1隻、MS小隊を1つ出させた。アレキサンドリアもソニック大尉達を出し、艦はムサイ改と共にMS隊の後ろについた。
「レインメーカー少佐、そういえば敵は誰が指揮を?」
「今回は直々にロングホーン大佐が出てきた様ですな。油断できませんぞ」
「いつぞやの男か…。ソニック大尉が世話になったとかいう」
 月で会った時、厳格な顔をした男だったのを憶えている。必要以上に敵を大きく見る必要はないが、一筋縄ではいかないのは容易に想像できた。
0856◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:30:43.08ID:5skNxF910
『ドラフラ、基地の連中は俺が使っていいんだな?』
 ソニック大尉だった。
「そうよ。どうせ自分では動けないだろうからね」
『了解』
 彼の機体を筆頭に、ステム少尉と共に駐留小隊を引き連れて布陣を敷く。対するエゥーゴもMS隊を発進させている様子が伺える。数はあまり多くない。
「さて…正面はラムに押させるとして…」
「まだ旗艦が見えませんな」
 レインメーカー少佐の言うとおり、アイリッシュがまだ姿を見せていない。バッタやガンダムもそちらに居るはずだ。
「デブリに潜んでいる可能性が高いですね。…警戒を続けて」
 前線は交戦を始めている。索敵班に周囲の警戒を続けさせながら、アレキサンドリアもムサイと共に艦砲射撃を行う。この距離では到底当たるものではないが、敵の進路を狭める事くらいはできる。
「あくまで正面から突破するつもりですな、連中は」
 レインメーカー少佐の言葉の通り、第1陣に続き敵の第2波のMS隊が加わってきた。いずれも機体はネモとGM2の混合部隊の様だが、数においては敵の方が優勢だ。ソニック大尉達で捌ききれなかった分が少しずつ距離を詰めてくる。
「まずいね…いくらなんでもこの物量では」
「援軍を呼びますかな?」
「…!いや、まだです。…ラム!」
『おう!どうした!』
「敵を引きつけながら後退を!」
『気軽に言ってくれる…俺のロードワークについてこれるか若造!』
『よくわかりませんけどついていきますよ!』
 ステム少尉も叫ぶ。2人の息も合ってきた様だ。
「下げるのですか…。どうするおつもりで?」
「まあ見ていてください」
 怪訝そうなレインメーカー少佐をよそに、ウィード少佐の頭の中には描いた絵があった。
0857◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:31:23.25ID:5skNxF910
 ウィード少佐の指示通り、ソニック大尉達は敵を引きつけながらジリジリと下がってくる。好機と見たのか、敵は第3波のMS隊を繰り出してきた。
「よし…恐らくこれが全部でしょうね」
「なるほど。後はどう捌くかですな」
 レインメーカー少佐が唸る。
「こちらもまだ手は残しています。…工作部隊に伝達!やれ!」
 ウィード少佐の指示を受け、デブリに機雷を仕込んでいた工作部隊が遠隔で爆破を開始する。あまり広い範囲での仕込みは出来なかったが、前回の出撃で時間を稼げた際に要所だけ機雷を仕掛けていた。
 進軍を始めた敵のサラミス級だったが、囲んでいたデブリが弾けた。中には燃料を残していた残骸もあったらしく、誘爆して派手な花火を打ち上げている。敵艦の1つがそれに巻き込まれて爆炎を上げた。
「ほう、これはたまげた」
 レインメーカー少佐が目を丸くした。
「地の利はこちらにあります。…ラム!聞こえるね!?」
『なんだこれは…!凄いことになってるぞ!』
「でしょうね!今が好機!転身して!」
『承知した!』
 一転して身を翻したソニック大尉達が、混乱した敵部隊を蹂躙する。数で勝るエゥーゴだったが、母艦に気を取られた所を大尉達に反撃を受ける形で隊列を崩し始める。
「各員気を抜くな!爆破したデブリはこちらにも飛んでくるぞ!」
 艦砲射撃を続けながら、自軍の艦隊に近づくデブリも破壊する。しかしながら敵も必死だ。それでも尚前進を止めない。
「やりますなウィード少佐。しかしエゥーゴも退く気は無いとみえる」
 レインメーカー少佐がスクリーンにかじりつきながら言う。
「かなりの混戦になってきましたね。もうひと押ししたいところですが…」
 その時だった。爆炎の中からアイリッシュが姿を現した。
0858◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:31:52.98ID:5skNxF910
「!」
「来ましたな」
 敵はやはりデブリに紛れ込んでいた。恐らく爆破で炙り出す形になったのだろう。
「早々に旗艦まで引き摺り出せるとは思ってませんでしたがね…!」
「勝てば官軍…負ければ…。…ウィード少佐?」
 レインメーカー少佐が諌める様に言った。勝てば官軍、負ければ…。
「…レインメーカー少佐。こんな時に私は…。私にはまだまだその境地は見えません」
 興奮気味だったウィード少佐は肩の力を抜いた。ここで下手は打てない。焦ってはならないのだ。旗艦は出てきたが、こちらの戦力も敵MS隊と交戦中だ。半端に動かすと持ち直した敵部隊に挟撃を受ける可能性がある。何より今アレキサンドリアも裸に近い状態なのだ。バッタやガンダムが出てきてしまえば沈められてもおかしくはない。
「全軍に通達!もう十分に敵戦力は叩いた。一旦下がるぞ」
 目の前の餌に今すぐにも喰らいつきたい気持ちを抑えた。
「…少佐、私も殿に出ます。後はお任せしますよ」
「よしなに」
 レインメーカー少佐は微笑んだ。その皺に刻まれたものは幾ばくの経験なのか…。今のウィード少佐には測りしれなかった。

41話 皺
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2020/06/17(水) 18:32:28.17ID:5skNxF910
失礼、42話でした!笑
0860◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:33:10.16ID:5skNxF910
「ええい!ここで退くだと!?」
 ロングホーン大佐は思わず拳を肘掛けに叩きつけた。囮にすべくアイリッシュを晒したにも関わらず、敵はそれを無視した。
「し…死ぬかと…思いましたぜ…」
 グレッチ艦長が腰を抜かしている。何せ爆発するデブリの中を突き抜けたのだ。しかし、これだけの事をしても敵は動じなかった。
『どうします?私とフジ中尉は出れますが』
 ワーウィック大尉からだった。修繕が追いついていないガンダムを除いて、出撃準備は出来ている様だ。
「ここで退く訳にはいかん!後続が持ち直す迄アレキサンドリアに喰らいつけ!」
『了解』
 後続のサラミス級達は今頃地獄絵図だろう。
「…舵取りの上手いやつがいるな。だが、逆に言えば奴らさえ始末出来れば…」

 混戦の中を百式達が出撃する。多少の護衛が出てきたが、大尉達は難なく撃退している様だ。
「後続はどうか!?」
「まだ駄目ですな…。かなり数も減っとります」
 グレッチ艦長がやや弱気になっているが、致し方ないとしか言えなかった。
「何が何でも立て直せ!もう敵も手札は切った筈だ!このままでは追撃戦にならんぞ!」
 ロングホーン大佐は叫び続けたが、それで事態が好転する訳でもない事は自身がよく理解していた。
 その間も大尉達が前進を続けていた。デブリが高速で飛び交っているだけに、敵の動きも決して機敏ではない。
『もうじき取り付きます』
「よし。沈められずとも可能な限り叩け」
 こちらも手痛い反撃を受けたが、せめてアレキサンドリアさえ前線から下げられれば、次の戦いを有利に運べる。
 大尉達が敵艦に取り付いている頃、サラミスのMS部隊も落ち着きを取り戻しつつあった。継戦能力の無い機体をアイリッシュに収容しつつ、僅かな手勢で追撃をかける。
 敵のMS隊も母艦と合流しつつあるが、それをさせまいと粘るこちらの部隊が交戦中である。挟撃と言うには隊列が乱れきっており、未だ混戦に変わりはない。
「大尉達はどうかな?」
「敵の試作機とやりあっている様ですな。腐れ縁ですよ全く」
 捕虜の解放交渉に来た敵将校の護衛がまさしくあの機体だった。
「…指揮官はあの爺かもしれんな、食えんやつよ」
 大佐は思わず笑った。グレッチ艦長の言うとおり腐れ縁なのだろう。
0861◆tyrQWQQxgU
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2020/06/17(水) 18:35:01.05ID:5skNxF910
 どうも大尉達は攻めあぐねている様だった。ガンダム抜きではこんなものか。後続のMS隊も敵の殆どを討ち漏らしている。ようやく結果的に追撃の形になってきたが、これではどちらが敗走しているのかわからない。
「弱ったものだな。艦長よ」
 ため息をつきながら戦場を見渡した。グレッチ艦長は唸りながら髭を弄っている。
「敵もよくやります。後続のサラミスが被害状況をまとめ始めてますが、どうしますかね」
「潔く退くのも戦いか。仕方あるまい…追撃は切り上げる」
 大佐は重い腰を上げ、全軍に帰投命令を下した。敵との戦線を押し上げる事には成功したものの、殆ど敗戦というべき戦果であった。

 撤収していく敵部隊を口惜しくも見送り、それからは部隊の建て直しにかかった。サラミス級が1隻轟沈、MS部隊も2小隊は失っていた。残っているのは小破したアイリッシュ1隻とサラミス級1隻、ガンダム達を含むMS小隊が3つといったところだ。機体はいずれも補給が必要な状態である。
「諸君はよくやった。これで終わるつもりはないのは私だけではないのも承知している。…次だ。次で全てが決まるだろう」
 各員に向けた通信を送った。恐らく士気もまだ下がりきってはいない筈だが、唇を噛んでいる者も少なくない。
「…次はどう出ますか」
 ブリッジに帰投したフジ中尉だった。ワーウィック大尉も傍らにいる。
「ご苦労。諸君の働きでアレキサンドリアも無傷ではないな」
「しかし、あの程度ではまだ」
「うむ。とはいえあちらから仕掛けてくるほどの余力もあるまいよ」
 ロングホーン大佐は椅子に深く腰掛ける。グレッチ艦長がその側で各部署の報告を受けている。
「気になるのは他部隊の動きですね。戦力がゼダンの門に集中しているとはいえ、いくらなんでも抵抗が少なすぎます」
 フジ中尉の言うことは道理だった。こちらも必死で仕掛けはしたが、まさかあそこまで徹底的な抗戦に出るとは考えていなかった。
 しかも戦力的にはかなり少数と言ってよかった。まだ温存した戦力があるのだろうが、やはり士気が高いのは一部だけと考えて良さそうだ。
「残る戦力の士気は著しく低いと思っていいだろう。上もそういう判断で我々をこの戦力で派遣している。とはいえ一応月からは直に増援が来る予定だ」
0862◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/06/17(水) 18:35:33.84ID:5skNxF910
「大佐…」
「何だ」
 ワーウィック大尉が何やら考え込んだ表情で言った。
「キリマンジャロはどのような状況です?」
「ああ、あちらはかなり順調な様だ。カラバとも上手くやっている」
「やはりそうですか。あくまでも憶測ですが…ティターンズは何か隠しているのではないですか?」
 面白い事を言う男だ。確かにロングホーン大佐も気掛かりなことはある。
「ティターンズにしては地上も宇宙も…どちらも抵抗が薄いものな。まるでこちらの必死さを嘲笑う様だ」
「私もそれを感じます。しかし、そうやって我々の消耗を狙っているのであれば、そこからの勢力図を一気にひっくり返せるだけの何かがなければ…」
「大尉。君の言うことはよくわかる。だがな、今考えるべきはコンペイトウだ。そこを忘れるな」
「はっ」
 彼が改めて姿勢を正した。正直彼の言う大局もあながち見逃していいものではない。ティターンズがコンペイトウを手薄にしているのであれば、ここで手こずっていては今後の作戦の如何に関わる。

「よろしい。また追って指示を出す。諸君は少しでも英気を養いたまえ」
 そういって2人を一度退出させた。グレッチ艦長もひと通りの報告を受け終わった様だ。
「…速攻を掛けるのも手だな」
 ロングホーン大佐は独り言のように呟いた。
「ま…まさか!援軍を待った方が良いんじゃないですかい?」
「敵もそう思っているとは考えられんかな?あの必死な抵抗…意外と突き崩せれば脆いやもしれん」
「そりゃそうかもしれませんがねぇ…。肝心のこっちの戦力がズタボロです」
「私もコンペイトウの戦局は大きく見ねばならんと考えてきた。しかし、意外とそうでもないのかもしれんと思ってな。もっと大きな目でこの絵を見れば、実際には小さな点に過ぎんのかもしれん」
「はぁ…」
 何やら飲み込めないといった様子の艦長だが、ロングホーン大佐の中では殆ど確定的な認識だった。
「こちらが休めばそれだけ敵も休ませる事になる。戦いが長引けば、最終的には増援のないコンペイトウの方が苦しくなる筈だ。今のうちに叩けるだけ叩いて消耗させねばならん」
 大佐は立ち上がり、ブリッジからの眺めを見渡した。同じ連邦の拠点でありながら、それはまるで旧ジオンの拠点ソロモンさながらに立ち塞がっていた。
 思い返せば、あの時もこの拠点は半分捨て駒の様な扱いを受けていたように思う。本来ならば重要な拠点なのだが、旧ジオンは派閥争いの為にここを切り捨てた。その結果、かなりの戦力がア・バオア・クーに集結することとなった。
0863◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/06/17(水) 18:36:02.04ID:5skNxF910
「…!…まさか…コロニーレーザーか!?」
 大佐は思わず目を見開いた。旧ジオンはそうやって引きつけた連邦の戦力の殆どをコロニーレーザーで焼き払ったのだった。ソロモンで必要以上の戦力を消耗せず、コロニーレーザーで一気に戦局を巻き返した。実際、最近ティターンズはグリプス2周辺で不穏な動きを見せている。目的は不明だったが、密閉型コロニーはレーザー砲の砲身にするにはうってつけである。
「いや…有り得ん話ではないな…!」
「大佐…もしそうなら…」
 艦長も話に合点がいった様子だった。

43話 合点
0864通常の名無しさんの3倍
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2020/06/20(土) 17:00:16.13ID:WW2VzUU20
乙です!

ついに明かされるスクワイヤの出自...
スーツ姿の軍属だった父というのは、特務機関の偉い人?
一年戦争(とデラーズ戦役)で消耗した連邦軍がパイロット適性の新人を遊ばせとくとは、普通は考えにくいですね
37話のグレッチ艦長の発言からも、何だかんだエゥーゴは連邦の一部なのだと伝わってくるものがあります

グレッチ艦長、ややスケベ親父だったのがちょいガミガミ親父になってるw
地球のこと考えて浮かれてるスクワイヤ可愛いです、ジオンの亡霊の聖地なんかでタヒぬなよー!

Sさんの考えだとコロニーレーザーは各拠点でパーツ製造しグリプスに運ぶ感じですか
確かにドゴス・ギアもコロニーレーザーも単一拠点で作るのでは非効率的ですね
レインメーカー爺さん、やりますね! もしや......この男こそ特務の上級将校でスクワイヤの父親では?!(多分違う)
陥落前のも含めて地上拠点複数放棄は不可解な話、これではジャミトフの理想は......バスクとシロッコ、どちらの思惑か

ステムは赤毛の中性的美青年ってところですか......カミーユ2Pみたいな(笑) それでガブスレイですか
配備機で力関係が伝わるのも面白いですね、加速ライフルにスマートガンにフェダーインとライフルだけで普通じゃないw
ガブスレイとニュンペーがエゥーゴと交戦し始めた時期は同じくらいだと思うのですが
後者の名前が出ない辺り、前者はサラのリークで多く割れてるといったところ?
虫野郎な可変機は大体ジェリド隊で機能がアピールされてますが、出来たら額バルカンが活躍するところも見たいです!
ソニックのゼクアイン、初っぱなから筋肉式奇襲w ミサイルもライフルも上手く使うし、実はガルバルより合ってる?
ニュンペーの水影心攻撃...ニンフからの連想でしょうか? 隠し腕もあり手数が多そうなのは手強く感じます
スクワイヤはアマクサ戦のトビアみたいなこと言ってる、これも強そう

ウィード隊は案山子よりマシ程度のコンペイトウ隊を引き連れ迎撃
なまじ腕のあるステムの直後だけにガタガタの編成になりそうなのがもうw と思ったら善後策で膠着に持ち込みました
爆炎の中から出てくるアイリッシュのカッコいいこと! 今更ですが緑の百式改は一貫して「バッタ」なんですね(笑)

なるほど、グリプス戦役はどこか戦線だけ大きいイメージがありましたが
エゥーゴはここまで対ティターンズ戦の決定打になる点を見出だせてないと...
一年戦争を振り返りつつ隠し球に気づくのは上手い流れです、が前大戦のは「ソーラ・レイ」なので改稿した方が良いかと

続き楽しみに待ってます!
0865◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/01(水) 14:48:42.22ID:GwywEkd60
>>864
彼女の父については重要な部分になるので、今後掘り下げていきます!
艦長や一部の人間は知っている様ですが、ほとんどの人間が知らないことです。
設定としては最初期の構想からの決定事項なので、是非読み進めてもらえればと!
グレッチ艦長は完全にお父さんですね…笑

コロニーレーザーみたいなでかいものを作るともなれば、工廠をもつ拠点の助力は居るかなと。
因みに個人的にはコロニーレーザー(ソーラ・レイ、グリプス2)だと思ってるので、文章ではそう表記してます!括弧内が個別名称という認識です!

ジャミトフの真の目的は地上から人を上げることなので、戦線が宇宙に移行するのは納得です。とはいえそれを前線の末端まで理解しているはずもなく…っていうのがティターンズが負ける敗因のひとつだと思ってます。

ステムは髪型が違うリディルくらいのイメージです笑
カミーユ2Pは想定外でした笑笑
ガブスレイは複数機出てますが、ニュンペーはウィード機のみなので名称不明といったところです。Zみたいなフラッグシップモデルでもないですしね。
量産機に優秀な学習装置を積むっていうのはGMからの伝統なので、それを更に掘り下げようかと。

アクシズもティターンズと結び、今はエゥーゴの厳しい時期です。
ここからどう巻き返していくのか、読み進めてみてください!
0866◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/01(水) 14:54:19.39ID:GwywEkd60
 マンドラゴラの修理が終わったのは、攻略戦から少し時間が経過してだった。
 出撃出来なかったこともありスクワイヤ少尉自身も手伝ってはいたものの、他部隊の補給も急がねばならず、ドックは相変わらず慌ただしく人と機材が行き交っていた。
「あ、中尉!」
 格納庫から退出しようとしているフジ中尉に声を掛けた。
「少尉か。ガンダムはどうだ?」
「おかげさまで取り敢えずは。…参戦できなかったのが心残りですけどね」
「そういうな。まだ始まったばかりだろう」
 腕組みしたフジ中尉の横で、手すりに寄りかかりながら辺りを見渡す。サラミスが落ちたことで母艦を失い、アイリッシュに帰投した者も多い。心なしか普段見ない顔が多いように思えた。
「おいお前ら!暇してるんならこっち手伝え!」
 少尉達に気付いたメカニックのひとりが怒鳴った。どこも人手が足りていないのだ。
「はーい!…って中尉何処行くんです?」
「私は大佐とミーティングだ。後は頼む」
「ちょっとー!…む、仕方ないな…」
 そそくさと出ていった中尉にムッとしつつ、少尉はメカニックの手伝いに戻った。

 それから少しの間を置いて、パイロット達がブリッジへと招集された。
「補給もままならんというのに…すまんな」
 グレッチ艦長が皆に頭を下げた。おべっかつかいをやっていただけあって、人の心の機敏には鋭い。この一言だけでも、現場の人間達には響くだろう。
「ここは戦地だ。致し方あるまいよ。…さて、諸君を呼び立てたのは他でもない。奴らへの強襲をかけるためだ」
 グレッチ艦長とは対照的に、ロングホーン大佐はテキパキと作戦指示を始めた。どうも自然と役割分担できているらしい。
「前回は辛酸を舐めさせられたからな。…だからこそ奴らを休ませてはならん。絶えず攻め立てることで我々の攻略への意思が伝わるだろう。絶対に逃さん、とな」
 ロングホーン大佐の低い声はよく響く。それが尚更説得力を増していた。
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2020/07/01(水) 14:55:14.79ID:GwywEkd60
「しかし、こちらももうボロボロではないですか…」
 合流したパイロット達のうちのひとりが声を上げた。
「案ずるな。月からの増援を予定より急がせている。彼らと入れ代わり立ち代わり攻め立てることで、我々は補給も行えるようになる。苦しいのは今だけだ」
 大佐の説明に皆黙った。
「…わかるぜ。今ここにいる面子は仲間を失ったやつも多いだろう。
 でもな…ここで戦わねぇと、その犠牲も無駄になっちまう。そんで、もっと多くの仲間がやられるかもしれねぇ。今は俺達が先鋒だ。頼まれてくれ」
 グレッチ艦長が言葉を添えた。少尉は艦長のこういうところは好きだった。いらない一言を添えることもあるが。
「…では、作戦の説明をフジ中尉に任せたい。良いかね」
「はい」
 ロングホーン大佐の呼びかけで、中尉が前に出た。彼の分析力は大佐にも買われているらしい。
「今現在、我々はコンペイトウとかなり近い宙域に位置しています」
 そう言うと、スクリーンに周囲のデータが映し出される。
「流石にまだ上陸作戦とはいきませんが、もう少し進軍すれば拠点自体への砲撃も視野に入る距離です。今回、何処から攻め立てるのかですが…」
 喋りながら中尉はスクリーンの元まで歩いた。
「ここからいきましょう」
 彼が指し示した場所は、コンペイトウの上部だった。めぼしい設備も見当たらないような位置である。
「何でそんなところを?」
 少尉は思わず声に出して訊いた。
「いい質問だ。返す質問で悪いが、少尉はここに何故敵の設備が少ないのか解るか?」
「え…そりゃ…石が硬かったんじゃないですかね」
 場から小さく笑い声がこぼれる。悪いことを言った気は無かったが恥ずかしい気分である。
「…ここはな、デラーズ紛争で核攻撃を受けた爆心地近くだ。その時に殆どの戦力を一度失っている。明確な外敵のいないうちは、ここを改めて補強する必要が無かったのだろうな…今もここは手薄なままだ」
 馬鹿にされても都度思うが、彼の説明は非常にわかりやすい。馬鹿にはされるが。
「それで、この手薄な場所から攻め立てるのが今回の作戦だ。抵抗があれば敵の戦力を分散出来るし、抵抗がない場合にはあわよくば上陸できる」
「…そういうことだ。いずれにせよ正面から仕掛けるより分がある。デブリも少ないしな」
 大佐は前回のデブリ爆破で機雷にはウンザリしている。中尉の言うとおり爆心地ならば、デブリも比較的少ないだろう。
「異論はないか?」
 大佐の呼びかけに対し、皆意志は固まっているようだった。
「よろしい。ならば最後に…加えて皆に共有しておきたい事がある。ティターンズは、コンペイトウやゼダンの門だけでなく…更なる拠点を建造中との見方がある。
 その正体はまだ明るみにはなっていないが…私の見立てでは、大量破壊兵器ではないかと考えている。まだ憶測に過ぎんがな。
 その建造物が何であるにせよ、ここでコンペイトウを叩かねばその完成はより早まるだろう。だからこそ諸君の力を、今借りたいのだ」
「大量破壊兵器…」
 少尉に実感は沸かなかった。そこまでして人類は一体何と戦おうというのだろうか。大義名分?生存競争?はたまた単なる意地なのか。
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2020/07/01(水) 14:55:59.54ID:GwywEkd60
 説明が終わり、それぞれ持ち場へと戻っていく中にワーウィック大尉を見つけた。
「今度こそ私も出れそうですね」
「少尉か。やはり少尉抜きだとなかなか上手くいかんよ」
 頭を掻く大尉と横並びで格納庫へと向かう。
「私がいないんじゃ大尉も実力発揮出来ませんからね」
「まあそんなところだ。ガンダムはもういいのか?」
「あの子だけ一応アナハイムの技師がついてるんで、修理は比較的早いんですよ」
 マンドラゴラは試作機ということで、アナハイムから出向した技師が世話を焼いてくれる。技師の話に依れば、マンドラゴラの元になった機体はデラーズ紛争時にこのコンペイトウで散ったという。
 表沙汰にはなっていない話の様だが、人の記憶・口頭の伝承までは消せはしない。その証人がマンドラゴラとも言える。
「…マンドラゴラの兄弟達がここで戦ったらしいんです。何かの縁かもしれませんよね」
「アナハイムの開発計画が以前もあったと聞くものな。きっとその魂もあの機体は受け継いでいるのさ」
「魂か…」
 モノにも魂が宿るなら、ヒトと何が違うのだろう。自らの魂で訴えかけることが出来る人間が、どれほどいるだろう。

「また追って指示がある。コックピットで待機だ」
「了解!」
 格納庫に到着するなり、少尉はマンドラゴラの元へ駆けた。コックピットにヘルメットを放り込み、自身も搭乗口に手を掛けながら飛び乗る。
 初めの頃は戸惑った全天周囲モニターにも随分慣れた。もっとこの距離感を掴めば、機体の手足がまるで自分のものの様に感じられるだろう。今はまだマンドラゴラとの二人三脚だ。
「あんたの魂…私は感じる」
 コックピットの中、ひとり呟いた。深く深呼吸し、制御アームに手を乗せる。多くの人々の技術と想いの結晶。それが何故少尉に託されたのかは未だにわからない。ただ、その魂が彼女の魂と共振している事だけは確かだった。

44話 爆心地
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2020/07/01(水) 14:56:42.07ID:GwywEkd60
『そろそろ予定のポイントです。案の定…手薄ですね』
『わざわざこっちまで回り込んでくるとは敵も思うまいな』
 ワーウィック大尉とフジ中尉の通信を聞きながら、スクワイヤ少尉は2人と共に先行して敵の動きを探っていた。
「しっかし…殆ど何もありませんね…」
『そういう場所だからな』
『ですが、上陸して簡易的な拠点でも組めれば腰を落ち着かせて作戦を進められます。
 要塞の設計が変わっていなければ古い工廠もここから近い筈です。整備して補給拠点として使えれば都合も良いのですが』
『敵地で補給か。屯田兵みたいなものだな』
「ドンデンへー?」
 この2人と話していると知らない単語がよく出てくる。
『旧世紀の戦争では、敵地で田畑を耕して兵糧を補給していたそうだ。それをやっていた兵のことさ』
「へー、大尉って物知り」
 そんなことを話しながら辺りを探索する。他所に流れてしまっているのかデブリも比較的少なく、少しずつコンペイトウの岩肌も近づいてきた。

『敵影が3つ。いずれもハイザックですね』
「このくらいなら私達でもやれますね」
『いくらなんでも手薄過ぎないか?そりゃあ全ての防衛ポイントを抑えるのは無理だろうが…。逆に半端な数のモビルスーツが居るのは気になる』
 確かに大尉の言う通り、いくらか不自然な印象も受ける。
『いずれにせよここは抑えなければならないポイントです。我々で突いてみましょう。藪から蛇ってこともありますが…』
「ヤブカラヘビ?」
『少尉は少し黙ってろ』
「中尉も物知り」
 フジ中尉の毒々しい物言いにもすっかり慣れてしまった。彼は彼で少尉の扱いに手慣れてきている気がする。
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2020/07/01(水) 14:57:20.98ID:GwywEkd60
 敵に気付かれるのを承知で敵のセンサー範囲へ入る。隠れようのない以上、速攻が有効である。
「マンドラゴラ、先行します」
 機動力に優れる少尉のガンダムを筆頭に、百式とネモが続く。こちらの動きに気付いたハイザック達が迎え撃つが、敵も多少狼狽えているのがわかる。
 小さく固まっているハイザックを中尉のネモが撃つ。それを躱そうと慌てて隊列を崩した直後、ガンダムが襲った。
 袈裟斬りにして1機始末すると、返す刃で振り向きざまにもう1機横凪ぎにする。それをシールドで受けたハイザックだったが、その背後で百式の走査線が赤くチラついた。
 背後から押し当てた薙刀に形成されたビーム刃が的確にコックピットだけを貫く。逃げ出すようにして撤退を試みた残りの1機だったが、こちらはネモのライフルで撃ち抜かれた。

「…片付いた感じですね」
 また辺りに静寂が戻った。
『しかし、このまま上陸というのは余りに呆気ないな…』
『或いは、罠かもしれません』
 3機はゆっくりと地表に着陸した。敵は叩いたものの、ここに来て1度足を止める。
『我々だけで判断するのは危険かと。アイリッシュに通信を行いましょう』
『そうだな…』
「む…」
 少尉が溜息をひとつついた、その時だった。コンペイトウに敵影らしきものが映る。
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2020/07/01(水) 14:57:54.86ID:GwywEkd60
『増援か!?』
『機種不明…こ、これは』
 岩肌から突如茎のようなものが伸び、虫の頭を思わせる形状のユニットがチューリップの様にゆらゆらと揺れ始めた。
「何あれ…気持ち悪い」
 映像が鮮明でないが、極太のワイヤーか何かが先端のユニットを支えているらしい。
『防衛設備のひとつでしょうか?それにしてはあまり見ない形状ですが…』
『フジ中尉は一時退避してアイリッシュに通信を。熱源を見るにこの形は…』
 ワーウィック大尉のいう熱源は大きな菱形に見えた。岩肌の下に感知しているが、異様に大きい。
「うわっ」
 その岩肌がせり上がった。辺りの地表が大きく揺れ始める。宇宙空間では音を発していないが、この振動は尋常ではない。
 先程の茎が生えた辺りを中心に地割れが始まる。岩肌と思われていたこの辺りは、堆積物に覆われたシェルターのようであった。ひび割れた表面の下に人工的なパネルが見え始める。
『大尉!』
『いいから行け!ここは私達で抑える!』
『し…しかし!』
「…来ます」
 シェルターが開き、熱源の全容が徐々に姿を現す。緑色をした大きな物体は各部に砲門のような機構を備えているらしかった。頭頂部に先程のワイヤーが接続されており、生き物の様にうねっている。
『こんなもの…!いくら大尉達でも2人だけでは!』
『だから行けと言っている!増援を寄越すんだ!全滅したいのか!?』
『り…了解!』
 珍しく声を荒げた大尉に押され、中尉のネモは戦線を離脱した。
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2020/07/01(水) 14:58:57.92ID:GwywEkd60
「…で、どうするんです?これ…」
 思わず少尉は脱力してシートに沈んだ。どう見てもMAである。敵はまだ完全に動ける状態ではない様で、中尉を追う素振りは見せない。
『まさか完成していたとはな…グロムリン』
「知ってるんですか!?」
『ジオンの試作MAだよ。ほぼペーパープランだった筈だが、恐らくはティターンズの連中が組み上げたんだろう…』
 完全にシェルターが開き切り、足元まで確認出来るようになった。全長60mはある。グロムリンと大尉が呼んだその機体は、巨体を支えている一本脚を、ゆっくりと屈めた。
『…来るぞ!』
 大尉の声と殆ど同時に敵はメガ粒子を辺りに撒き散らした。撃つというにはあまりに砲門が多過ぎる。文字通り雨の様に、地表へビームが降り注いだ。
「あはは!笑うしかないでしょこんなの!!」
 少尉はヤケ気味に笑い声を上げた。2人は器用にビームを躱しつつ距離を取る。それを捉えた有線ユニットが少尉目掛けて更にビームを放つ。
「こなくそ…!」
 身を捩り既のところでそれを躱す。しかしそれを躱したところにも容赦なくビームの雨が降る。
『くそ!何処まで保つかわからんな!』
 大尉もうまく距離を取ろうとしているが、敵の攻撃を避けるので精一杯の様だ。
 すると敵は一本脚を踏ん張り、上にそのまま跳ね上がった。
「跳ぶの!?」
 ノズル噴射で機体のバランスを取ると、その一本脚をクローの様にして真っ直ぐ突っ込んできた。
「嘘でしょ…」
 ガンダムは螺旋状に飛ぶと、脚に絡む様にしてそれを躱す。しかし本体を避け切れず接触してしまった。激しい振動が機体を襲う。
「ぐぅ…っ!」
 まるで車にぶつかった子供のように、意に介さぬ敵の装甲にぶつかりながら弾き飛ばされる。
『少尉!』
 ワーウィック大尉の百式が全速力で追う。弾き飛ばされたガンダムを見つけ、速度を合わせてどうにか受け止めた。
「くっ…あんなの規格外ですって…!」
『わかってる。あれは本来対艦用の決戦兵器だ。逆立ちしたって勝てん』
 敵はそのまま大きく迂回し、再びこちらに向かってこようとしている。
『蛇どころか化け物が出てきたな…どうりで手薄な訳だ』
「でもこいつを落とせたら…」
『少尉…本気か?』
 正直言って勝てる気はしない。しかし、ここで死ぬならばそれまでだ。諦めではなく、自ら生を掴みにいきたいと感じていた。
 少尉は初めて、恐怖を手懐けた。

45話 藪から蛇
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2020/07/01(水) 14:59:44.24ID:GwywEkd60
「中尉が戻ってくるまで、落とされる訳にはいかないんですよ」
『その通りだな。しかし、このままではまともに近づく事もできん』
 再び突進してきたグロムリンを迎撃する。厄介なことに、突進しながら砲撃も躊躇なく仕掛けてくる。
『ちぃ!』
 その尽くを躱しながら、今度は大尉が仕掛ける。一定の距離まで間が縮まったタイミングで、百式は一気に逆噴射を行った。そのまま敵の勢いを殺すと、数ある爪の1つを切り落とした。
『く…この程度では…!』
 すぐさま離脱を試みた大尉だったが、追いかける様に敵がそのままグルリと回した脚部に蹴飛ばされる。
『ぐぅ…!!しょ、少尉!!』
 僅かに敵の姿勢制御が乱れた一瞬を突き、少尉はライフルを撃ちながら敵へ突っ込んだ。こちらを向いていた砲門をいくつか潰しつつ、更に接近する。
「うッッッ…とおしい!!!」
 少尉はサーベルを抜くと、破壊した砲門の1つに突き立てた。しかし相当な巨体である。浅く刺しただけでは致命傷にはならず、すぐに旋回した敵にまたもや振り払われる。そのまま地表へと叩きつけられた。

「あーあ、駄目だこりゃ」
 崩れ落ちる周囲の岩に囲まれながら、ガンダムは半ばその場にめり込むように坐礁した。少尉らをあしらった敵は悠々と着地する。
『質量が違い過ぎる。砲撃をいくら避けたところで、これではな…』
 ガンダムは勿論、大尉の百式も相当痛めつけられている。少尉とはいくらか離れた位置で膝をついているのが視界に入った。
 お互い部位の欠損こそ無いが、駆動系も装甲もかなりのダメージを受けていた。しかしそんなことはお構いなしに、敵は尚も飽きることなく砲撃を行ってくる。
『…待てよ』
 軋む機体を動かし、どうにか回避運動を行いながら大尉が呟く。
『あのビグザムでさえ稼働時間は20分しか無かった筈だ。最新技術で組み上げたとしても、あれだけのビームをいつまでも撃っていられるものか?』
「あれだけぶっ放してれば…息切れしてもおかしくない…!」
 少尉のガンダムも、大尉とは反対側からグロムリンに回り込む。
『恐らく…他部隊との連携が取れんからここに配備されているんだろうな。パイロットも乗り慣れてはいないかもしれん』
 言われてみれば、単純なパワーに物を言わせた戦い方である。高度な動きは今のところ見せていない。
『よし。少尉…ここはジワジワと敵の戦力を削ぐ。距離を取りつつ確実に装備を破壊するんだ』
「了解!」
 相も変わらず降り注ぐビームを躱しながら、敵の隙を探り続けた。
「まだいけるよね…マンドラゴラ」
 青い軌跡を残しながら、ガンダムはひたすら駆けた。
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2020/07/01(水) 15:00:15.05ID:GwywEkd60
 威勢よく返事をしたものの、敵MAは高火力・高機動に加えて兵装の全容はまだ見せていない。適度な距離を保ちつつ狙いを定めるのは並大抵の事では無かった。
「調子に乗って…こいつ!」
 流石のガンダムもガタがきているのか、躱しきれない攻撃が掠め始めていた。砲撃を逸らそうと角度をつけたシールドが、そのままビームに持っていかれる。
「まずっ…!」
 シールドに腕を引っ張られる形で機体が大きく傾き、そこへ更なる砲撃が襲った。幾つかを躱し、しかし幾つかをまた掠めた。
『大丈夫か!?』
「どうにか…!」
 そういう大尉の百式もあちこち装甲を失っている。彼は近接武器しか携行していない事を考えれば、更に攻撃は難しいはずだ。
『敵のシルエットは左右対称だ。両面を相手にせず、一面を2人で叩いて敵の砲撃を散らす』
 言うやいなや、息つく間もなく大尉は半ば囮になるような形で飛び出した。上部から攻める大尉に対して、少尉は足元から敵へ接近する。
 少尉は自分を狙う砲撃を躱しながら、大尉に狙いを定めた砲門から優先して破壊を試みる。そうすることでとにかく大尉の突破口を開く。
 しかし敵も側面を晒し続けることに抵抗を覚えてか、うまく旋回しながらこちらに一面を攻めさせない。敵は再び地表から脚を離すと、今度は有線で脚部そのものを射出してきた。
「くそっ…!」
 避けきれなかったガンダムは正面からクローに掴まれた。そのままクローはガンダムごと地面に突き刺さり、身動きを封じられてしまう。
『すぐ行く!』
 転身した大尉だったが、うねりながらそれを追いかける敵の有線ユニット。すぐに追いつかれ、大尉の百式も腕をワイヤーに絡め取られてしまった。
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2020/07/01(水) 15:01:26.31ID:GwywEkd60
「離してよッ!」
 脱出しようと粘ったものの、遂にライフルの弾を切らした。背中のポットもうまく動作せず、抜け出す事ができない。
『こんな紐くらいで…!』
 百式は自らの左腕を薙刀で切り離すと、よろめきながらも渾身の一振りでクローのワイヤーを叩き斬る。脚部を切り離された敵機は苦し紛れにビームを乱射し、百式はそれを肩に受けた。背中のバインダーからも火を吹きながら制御を失っている。
『く…。まあ2人にしては…良くやったよな』
 百式は肩から左腕を失い、殆ど墜落する様にして少尉の傍へやってきた。薙刀を地に突き立て、軋む首を持ち上げて敵を見据える。グロムリンは地表に倒れたが、スラスターで再び浮遊しようとしていた。

「大尉…」
 少尉は思わず唇を噛む。出来ることはもう殆ど無かった。
『…少尉は下がれ。恐らくアイリッシュがこちらに合流すべく進路を取っているだろう』
 大尉はガンダムを掴んだままのクローを薙刀で切断し、脱出を促す。
「そんな!大尉が残るなら私も…」
『命令だ。こいつは私がひとりでギリギリまで引きつける。もう直に敵もエネルギーを使い果たすだろう』
「…」
 2人でここに残っていてもどうしようもないことは痛い程わかっていた。しかし、ここで素直に退けない自分がいるのもまた確かだった。大尉を置いてなど行けるはずがない。引きつけるも何も、後はやられるのを待つだけではないか。敵のエネルギーが切れる保証など何処にもない。
 現に、ここにきて敵は有線ユニットにメガ粒子を集中させようとしているのが見えた。
『早く行け!死ぬつもりか!?』
「嫌です!行きません!!…マンドラゴラ!今動かないでいつ動くのよ!意気地なし!!」
 ガンダムはフレームを軋ませるばかりで少尉の声に応えない。2人がそれぞれ叫んだその時、有線ユニットが一際大きく光った。

46話 一際大きく
0877通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2020/07/03(金) 13:46:06.66ID:Pe6SqJ0C0
乙です!

沈んだサラミスの部隊がアイリッシュに合流...おお、大容量! 戦艦のキャラが立ってきましたね
グレッチ艦長の成長が見事で一種の死亡フラグじゃないかなんて...せめてダカール演説までは生き残ってほしいです!
外は爆心でボドボド、中はMA出撃用にくり貫いてボドボド...大丈夫か、この要塞w
一年戦争〜コスモバビロニア戦争の間で触手のモンスターが出てくるイメージは無かったので、唐突なグロムリンにビックリしました!
全身ビームの変態野郎...いい感じにボスの風格ありますね!ジオンの発想に技術が追いつかなかった感じは好みです!
これは触手や脚を潰した分だけ身軽になって手強いタイプ...いやパイロットの経験不足でそこまでは行かないのか?
ともかく奇襲が上手くいかない展開が続いてドキドキします、スクワイヤとワーウィックは生き残ることができるか?!

続き楽しみに待ってます!
0879◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/08(水) 21:40:19.89ID:QhFDALG00
>>876
>>878

読んでいただいてありがとうございます!

>>877

今にして思えば、前章に比べると戦艦が絡む回はあまりなかったですね。
グレッチ艦長もようやく艦長らしくなってきたというか…。

コンペイトウはその後話に出てこない辺り、拠点機能はかなり落ちてるんじゃないかと思ってます。ゼダンの門は真っ二つになるのでさておき…。笑
グロムリンは自分としては結構攻めたつもりです!でも強化版は出ませんよ!あれは流石にヤバ過ぎるので…。

そこそこ書き進めてますんで、少し投下しておきます!
0880◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/08(水) 21:41:35.60ID:QhFDALG00
 有線ユニットが眩い光を放った瞬間、別の光がグロムリンを照らした。ユニットだけでなくグロムリン本体をも貫く。凄まじい閃光に、周囲の岩石が砕け散った。
「きゃあああ!!!」
 何が起きているのかもわからぬまま、少尉は強い光から顔を背けていた。辺りが落ち着いて思わず正面を向き直った少尉が見たものは、彼女を背中から庇った百式の胸だった。
「た…大尉!!!」
 スクワイヤ少尉は泣きながら半ば叫ぶように呼び掛けた。
『大丈夫か…?』
 崩れ落ちる様にして大尉の百式はその場に座り込んだ。彼の機体はもう殆ど大破と言って差し支えない損傷を受けていた。

『…間に合いましたか』
 フジ中尉の声だった。彼のネモが巨大なビーム砲を携えているのが確認出来る。どうやら彼の砲撃がグロムリンを直撃したらしかった。砲台自体にスラスターを備えているようで、それに機体を牽引させる様な形で少尉達の元へ急行する。
 グロムリンの有線ユニットが首をもたげたが、そこへ増援のGM2達が駆けつける。駄目押しの一斉射撃をグロムリンに浴びせ、完全に沈黙させた。
「大尉!応答して!大尉!」
『泣くな…少尉、私は平気だ…。少尉こそ怪我は?』
「よかった…もう…だめかと…」
 鼻を擦りながらも少尉は安堵した。
『全く、2人とも無茶をして…!すぐにアイリッシュも来ます。さあ、退避を』
 中尉の声を聞きながら、2人は指示に従った。ガンダムの肩を百式に貸しながらその場を一旦離れる。遅れてやってきた増援のGM2達が大破したグロムリンを取り囲み始めていた。
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垢版 |
2020/07/08(水) 21:42:32.83ID:QhFDALG00
 ようやく到着したアイリッシュに収容された面々は、機体をメカニックに預ける。救護班がすぐに駆けつけ2人の手当を行った。念の為医務室に連れて行かれたが幸い大きな怪我はなく、湿布だの絆創膏だのを貼り付けられるだけで済んだ。
「無茶苦茶ですよ大尉達。危ないところだった」
 遅れて医務室までやってきた中尉は呆れた様子である。実際、彼が間に合わなければ2人とも死んでいただろう。
「あのビーム兵器は?」
 椅子に座り込んだままの大尉が訊いた。
「ええ…メガバズーカランチャーです。アイリッシュに積み込んでいた狙撃用の高出力ビーム砲で、本来なら別でジェネレーターに繋がねばならないんですがね。ネモのサブジェネレーターが役に立ちました」
 遠距離用のものをあの距離で撃てば、確かにMAといえどひとたまりもない。
「流石に今回は…紙一重だったな」
 大尉は天井を仰ぐ。
「運が良かっただけですよ!全く…。2人は戦力の要です。今後はもう少し自重してください」
「済まなかった…中尉に貸しが出来たな」
 疲れ果てた大尉が力なく微笑むと、中尉がやれやれと溜息をつく。そんな様子を少尉は脱力したまま眺めていた。

 その後周囲の索敵が完了したロングホーン艦隊は、MAが出てきた時のシェルターから敵拠点へと入港した。
 状況から察するに、どうもここを任されていたらしい連中は慌てて逃げ出した様だ。或いはティターンズに協力させられていた連邦軍の正規部隊だったのかもしれない。
 ドックはグロムリンを始め様々な機体の組み立てに使用していたらしく、殆どそのまま使えそうだった。敵の動きを引き続き探りつつ補給を行っていた。
「おつかれさん。今頃連中は慌てているだろうな」
 そのまま医務室で休息を取っていた3人の元へグレッチ艦長がやってきた。
「上手く行き過ぎているとは思いましたが、思わぬ遭遇でした」
 立ち上がった中尉が姿勢を正した。気にするなと言わんばかりに艦長が手で払う。
「お前らは良くやった。いや、普通なら全滅していても仕方がないレベルだったくらいだ。…ここからは別部隊が内部からコンペイトウへ侵攻を開始する手筈になっとる」
「私達はどうすれば?」
 スクワイヤ少尉ものそのそと立ち上がる。
「んー…ゲイルちゃんのガンダムにしろ、大尉の百式にしろ、正直言ってもう戦える状態ではないな。それこそ大尉の百式に至ってはもうお手上げだ。ありゃ直す方が大変だろうよ」
「そうでしょうね…」
 それを聞いたワーウィック大尉も椅子を支えにしながら立った。
「マンドラゴラはどうなるんです?」
「ガンダムはまだ何とかなるらしい。近いうちに改修するらしいがな」
 少尉は胸を撫でおろす。機体に対して愛着のようなものを抱くのは初めてのことだった。
「余っている機体があれば良いのですが、物資も足りていない今の状況では…」
「ふふ、大尉ならそんな事を言うだろうと思ってな。良い知らせがあるぜ」
 そう言って艦長がウインクしてみせた。
「ウインクて…気持ち悪…」
「何だと!ゲイルちゃんだけボールに乗せるぞ!いいからお前ら付いてこい!」
 相変わらず唾を飛ばしまくる艦長に辟易しながら、3人は彼に続いてドックへと向かった。
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2020/07/08(水) 21:43:24.96ID:QhFDALG00
 ドックではアイリッシュを施設内に収容し、サラミス改は外からドックに括りつける様な形で補給を行っていた。それをぐるりと仰ぎ見ながら、少尉達は艦長についていく。
「連中の置いていった機体が少し残っていてな。メカニック曰く特に問題もないみたいだから、慣らし運転無しで良ければ使えるぜ」
 そこに佇んでいたのは、1機のマラサイだった。
「お前に乗ることになるとはな…」
 マラサイを仰ぎ見る大尉の目は、昔の友人にでも会えたかのように感慨深そうだった。
「わかってるだろうが、大尉が前乗ってた様な試作機とは違うからな。そこんとこ頼むぜ」
「ええ、十分です。薙刀の予備はアイリッシュにありましたよね」
 待ちきれないという様子で、大尉はマラサイのコックピットへと登っていった。少尉がふと横に目をやると、マラサイの横に主砲を取り払われたボールが転がっていた。
「で…私は?まさかほんとにボール??」
 少尉は涙目になって艦長に迫った。丸い棺桶。
「バカ言え、お前もちゃんと戦力になってもらわんと困るだろうよ!予備のGM2でいいな?元々乗ってたろ」
「ああもう…びっくりさせないでよ…」
 スクワイヤ少尉は思わず少し涙が出た。

 薙刀を携えた大尉のマラサイ、通常のライフルに持ち替えたフジ中尉のネモ、そして少尉のGM2が整備を終えて集まる。
『少尉、ボールじゃなくてほんとに良いのか?』
「うるさいですよ中尉」
 軽口を叩きながら一行はドックから続く大きな通路へと出た。
『よし、準備出来たみたいだな。軍曹、オペレートしてやってくれ』
 艦長はまだ他部隊とのやり取りもせねばならない。ごたついたブリッジを背景に、今度はグレコ軍曹がモニターに映る。
『皆さんご無事で…。これからは潜入作戦に移ります』
 前よりは幾らかマシになったが、軍曹は相変わらずおどおどしている。
『えっと…。周辺マップは皆さんの機体にダウンロード済です。別働隊が敵司令部を目指して進みますので、皆さんはそれを妨害に来るであろう部隊の掃討が任務になります。中尉の方でもより詳しい情報を集めながら進軍してください』
『わかった。現状での敵の動向は?』
 ワーウィック大尉がモノアイで周囲を見渡しながら聞く。
『詳しいことはわかっていませんが、既にこちらの動きは察知しているものと思われます。コンペイトウの外に動きはあまり見られないので、主力は施設内で待ち受けているのではないかと』
「なるほどね…。取り敢えず出くわしたやつを全部叩けば良いんでしょ?」
『まあ、そういうことだ。私が先鋒になる。後ろは2人に任せるぞ』
『「了解」』
 3人は、薄暗い施設の中へと足を踏み入れていった。


47話 昔の友人
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2020/07/08(水) 21:44:13.22ID:QhFDALG00
「そうか、上から来たか」
 レインメーカー少佐はステム少尉と共に被害報告を整理していた。デスクに向かう少佐の傍にステム少尉が立っていた。エゥーゴは前回の戦闘から引き続き正面突破を試みてくるとばかり思っていたが、敵は搦手も好むようだ。
「あちらは試作MAを配置していた筈じゃないのかね?」
「それが…逃げ帰った兵が言うには撃破された様で」
「まさか。…所詮は旧戦争時の設計ということですかな」
 ジオンの遺した設計を元に、ティターンズの工廠で復元したのが例のMAだった。とても一年戦争時の技術では建造できるものではなかったが、今の水準でならと造られた代物である。そう簡単に撃破出来る様な戦力ではない。
「しかし、腐っても対艦用のMAですぞ。それなりの損害は与えておるでしょう」
「そう思いたいものですね」
 2人共薄々感じているが、恐らく戦局はロクな事になっていないだろう。いずれにせよ補給拠点を抑えられてしまったのは痛手である。
「敵は恐らく内部からの侵攻を企てているはず…。本部の連中は?」
 ひと通りの情報を整理した少佐は椅子から腰を上げる。
「今頃になって迎撃準備を始めた様ですよ。我々も出ましょう」
 ステム少尉は前回の雪辱を晴らしたいだろう。彼にも働いてもらわねばならない。
「まあ待ちなさい。艦長から改めて指示がありましょう」

「ウィード少佐、艦の方はいかがですかな」
 ブリッジへ戻ったレインメーカー少佐は、立ったまま各部署へ檄を飛ばしているウィード少佐へ声を掛けた。
「ああ、少佐。まだまだ修繕が追いついていませんよ。…別部隊が敵の侵入を許したとか?」
「左様で」
「基地の連中の体たらくには反吐が出る。かといって…我々もここをガラ空きにする訳にはいきませんし」
 彼女の言う通り、これで要塞上部に戦力を集中した所を敵増援に横腹でも突かれてしまえばひとたまりもない。
「しかし…黙って敵の侵攻を見ているわけにもいきますまい。何せこちらは体たらくの駐屯軍が迎え撃つ形ですからな」
 レインメーカー少佐の言わんとすることはわかっている筈だ。彼女は顎に指をあて、思案を巡らせている様だった。
「…MS隊を出す。ラムと私、ステムも連れて行こう。この場は少佐にお任せしても?」
「勿論です。何かあれば直ぐにお伝えしましょう」
「助かります」
 そう言うと彼女はすぐにその場を後にした。コロニー落としの1件からはどうなることかと思ったが、心持ちも良い方向へと向いてきた様だ。
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2020/07/08(水) 21:44:44.17ID:QhFDALG00
 ウィード少佐から指揮を引き継いだレインメーカー少佐は、補修作業を急がせつつ宙域での索敵を続けさせた。今のところ動きはないが、間違いなく敵の援軍が来る。今はとにかく目の前の部隊を退けるのが先決である。
『艦はお任せします。我々は本部の護衛に』
 ウィード少佐から通信が入る。
「いってらっしゃいませ。ここらで連中との腐れ縁も切ってしまいたいところですな」
『全くですよ。…ラムの方はどうか?』
『行ける。武器の換装に手間取ったが』
 ウィード少佐の問いかけにソニック大尉も応える。ミサイルランチャーを取り外し、汎用のビームライフルに持ち替えた様だ。
『私も行けます。基地内では可変機も持ち腐れですね』
 ステム少尉のガブスレイも準備を終えて合流する。
「ではでは…皆さん、ご武運を」
 レインメーカー少佐の一声を受け、MS隊が動き始める。本部までの通り道で敵に遭遇するのは考えづらい為、恐らくは迎撃戦になるだろう。本部で迎撃せず済むに越したことはないが、駐留軍が連中を抑えきれないのは火を見るより明らかと言っていい。
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2020/07/08(水) 21:45:14.22ID:QhFDALG00
「さて…。私も自分の仕事をせねば」
 ひと通りの指示を出し終えると、小さく独り言をこぼして立ち上がった。彼の任務は艦長の代行、ましてや世話係ではないのだ。それ自体、もっと大きな目的の一部分にすぎない。
 自室に戻ると、作りかけだった報告書を仕上げに掛かった。正直、アレキサンドリア隊がここまで戦い抜けるとは思っていなかった。コロニー落としではある意味責任を負わされて左遷された様なものだが、部隊の再建が出来たのは不幸中の幸いと言っていい。これなら或いは彼らの頑張りも報われるかもしれない。
 エゥーゴもよくやる。コンペイトウでも同じ月の部隊と交戦しているのは全くの偶然だが、彼らもこの大きな絵の一部だ。
 絵は自ら描くものだ。決して筆の運びを誰かに動かされるものではない。まして、描いた絵にキャンバスを台無しにされるなどあってはならない。今はエゥーゴに花を持たせてやる部分があったとしても、最終的に描き上がる絵は我々のものだ。バスクやジャミトフ…いや、ティターンズさえも所詮は絵画の登場人物に過ぎない。
「パプテマス様…貴方が絵描きならば、私は筆で在りたいのですよ」
 報告書があらかた仕上がり、椅子の背もたれに寄りかかりながら天井を見上げた後目を瞑る。
 その瞼の裏には、荘厳で神々しい…神の意志たる絵描きの、光溢れる世界が広がっていた。


48話 神の意思
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2020/07/08(水) 21:45:58.95ID:QhFDALG00
「さて…いつ来るかな」
 ソニック大尉は辺りを見渡した。
 アレキサンドリアの持ち場を離れた彼らは、本部近くの比較的開けた通路に陣取っている。エゥーゴの抑えた地点から考えると、ここを通らなければ本部までは到達出来ない筈である。
『…正直なところ、ここまで敵が到達することがあればもう手遅れね』
 ウィード少佐が溜息をついた。左遷早々に負け戦とはつくづく運のない部隊だ。
「まあな。仮に殲滅したとしても、増援を迎え撃つだけの戦力は残っていないしな」
 変わらず索敵を続けながら応えた。
『だったら早く撤退すべきでは?このまま戦ったって何の意味も…』
 ステム少尉が口を挟む。
「はいどうぞとコンペイトウを明け渡すのか?ここを簡単に取られたらグリプス2の件も情報が渡る。俺達はギリギリ迄粘らんといかんのだ」
『そんなこと言ったって…』
 ステム少尉が言い終わるより早く、レーダーに敵反応。2機。
「来たな…俺が行く。2人はここで待機だ」
『『了解』』
 2人をその場に残し、ソニック大尉は単独で敵を追った。

 まだ本部へ続く通路には気付いていないらしく、近くで右往左往している様子がわかる。大尉は大きく迂回しながら敵の後方へと回り込んだ。
「GM2か。バッタ共はまだ来ていない様だな」
 2つの機影はGM2で違いなかった。遮蔽物を利用しつつ、背後から忍び寄る。
「…遅いんだ」
 敵がこちらに気付いたその時、大尉は先手を打って敵の1機をコックピットから撃ち抜いた。崩れ落ちる機体を盾にして更に接近すると、残る1機へ掴みかかる。頭部を抑えると、そのまま床へと叩きつけた。叩きつけられ這いつくばった敵のコックピットを静かに撃ち抜く。

「…ふむ。近い」
 ゆっくりと立ち上がりながら周囲の反応に気付いた大尉は警戒を続ける。今度は3機ほどまとまっているのを見つけた。
「戻るか?…いや、どの道かち合うなら…これ以上近づかれる前に叩くべきか」
 敵を迎え撃つ判断を下した大尉は、再び遮蔽物に隠れる。熱源反応だけでは敵味方の区別はつくまい。撃破したGM2のそれに紛れて見えるだろう。交戦距離になればこちらから仕掛けるだけのことだ。
 現れた敵は幾らか警戒心が強い様に思えた。的確にルートを選択しながら確実に進んでいる。そのうち1機のGM2が先行しながらこちらへ向かってくる。
「…後ろのやつはマラサイか。みすみす敵に機体まで奪われるとは」
 先行するGM2の後ろにマラサイが見える。識別を見るに占拠された拠点の予備機らしかった。
「!」
 その時、GM2がこちらへ発砲してきた。肩をビームが掠める。
「何故バレた…?」
 すぐにバーニアを吹かすと、敵と一定の距離を取る。敵がこちらを視認していたとは考えづらい。
「…またやつか」
 GM2、マラサイの背後に、月で見た例のレドーム付きのネモがいた。恐らくこの機体の装備でこちらが味方では無いことを判別したのだろう。
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2020/07/08(水) 21:46:32.72ID:QhFDALG00
 狭い場所なだけに軽率な動きはお互いに取れない。無勢のソニック大尉としては非常に好都合な地形である。しかし、ジリジリと距離を詰めてくるGM2。先程の連中とは一味違う様だ。
「…とはいえ、所詮はGM2とマラサイ。上等なバックアップがついたところで、ゼクとやり合うには些か性能不足だろうな…!」
 大尉は状況を打開すべく先に仕掛けた。ライフルを放ちつつ、別の遮蔽物のある位置へと飛び移る。GM2はこちらの射撃を躱した体勢から一連の動作へ繋ぐと、そのまま突進してきた。
「ほう…!身体の使い方を知っているな…!」
 感心しつつも敵に向けて近くの手頃なコンテナを投げつける。敵はそれを盾で受けたが、そのタイミングを狙ってコンテナ諸共敵を撃つ。弾薬を積んでいたコンテナが誘爆し、辺りを閃光が包む。
「む…」
 大尉も少し目が眩んだが、どうやら敵はその機会を見逃さなかったらしい。マラサイが懐に潜り込んでくる。
「この程度で!」
 瞬時にサーベルを抜くと、マラサイを両断すべく縦に振るった。しかし、逆に両断されたのはゼクの右腕だった。
「馬鹿な…」
 何が起こったかわからぬまますぐに体勢を立て直し再び距離を取ろうとするが、またもやGM2が追いすがってくる。ライフルで迎撃しようとするも、敵は螺旋状の軌跡を残しながら的を絞らせない。
「これは騙されたな!こいつら…並じゃない」
 量産機体だと侮っていたが、恐らくかなりの手練だ。閉所に関わらず連携もうまい。大尉は当たらないライフルを捨てると、今度は左手でサーベルを構えた。それに応えるようにしてGM2もサーベルを抜く。
「うおおおおッッッ!!」
 先程切断された右腕で敵のサーベルを受けると、ガラ空きになった敵の腹目掛けてサーベルを横に凪ごうとした。察した敵は地面を蹴ると、両足で左腕を踏むようにして抑えつけた。
 ゼクが肩から残る右腕を失うと同時に、敵は左腕を踏み台にして後方へと跳ねるようにして退く。入れ替わる様にして今度はマラサイが迫った。
「!…あれは」
 ふと目をやると、マラサイの得物は薙刀の様だった。バッタのそれと酷似している。
「エゥーゴでは薙刀がトレンドなのか?」
 一瞬嫌な予感がよぎったが、振り払うようにして敵と切り結ぶ。敵の太刀筋は無駄がなく、一瞬でも気を抜けばやられるのは間違いない。次第に押され始める。
「この俺がこんなところで…!舐めるなッッッ」
 敵の振りが大きくなった瞬間を見計らい、間合いを詰めた。薙刀はこんな狭い場所では扱い辛いだろうことは明白だった。懐に潜り込み、至近距離からサーベルでコックピットを狙う。
 しかし敵はそれを予測していたかの様に、ゼクの左手を抑えつつショルダータックルを見舞ってきた。思わず大尉は体勢を崩した。
「こいつ…!本当に鹵獲機か!?」
 つい前に奪われた機体の動きではなかった。固定武装の扱い方も熟知しているとしか思えない。体勢を立て直す暇もなくマラサイの薙刀が迫る。
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2020/07/08(水) 21:47:13.15ID:QhFDALG00
『大尉は勝手ですよ!』
 間一髪のところに援護射撃を挟んだのはステム少尉のガブスレイだった。バルカンによる威嚇射撃を嫌い、飛びのく様にマラサイが下がる。
「少尉か!何故持ち場を離れた!?」
『あんまりにも戻るのが遅いから…!来てみたら案の定じゃないですか!』
 正直ありがたい増援だった。しかし少尉のガブスレイも狭い場所では十分にスペックを活かすことは出来ない。
『で…?どうするつもりなんです』
「こいつらは並の連中じゃない。これ以上進まれでもすれば…。いや、刺し違えてでもここで落とす」
『なるほど。作戦らしい作戦は無しですか』
 ステム少尉の呆れた様な溜息が聞こえる。実際自分でも呆れる無策っぷりではある。変わらず敵部隊は距離を詰めてきている。
「あまり時間は掛けられん。長引くと他の部隊まで呼び寄せる事になるからな」
『それに引き換え…敵さんはいざとなれば補給に戻る事も出来る訳ですか。余計に速攻掛けないと』
「ま、そんなところだ」
『防衛やってるのがどっちなのかわかんなくなりますよ、全く』
 少尉の言うとおりだった。容易く敵に拠点を与えてしまったことがそもそもの間違いなのだが、こればかりは今更どうしようもない。
「来るぞ!」
『はい!』
 マラサイを先頭に、敵が再び攻勢に出る。2人は迎え撃つべくそれぞれの得物を構え直した。

49話 無勢
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2020/07/08(水) 21:47:43.35ID:QhFDALG00
「こんの…!デカブツ!!」
 初手のマラサイの突進をいなした青い機体に向かって、スクワイヤ少尉はビームサーベルで斬りかかる。敵は驚くほど俊敏にそれも躱しつつ、カウンターに蹴りを繰り出してきた。両腕でそれを防ぎながら、バルカンで敵の関節部を狙う。敵の膝を集中的に攻撃すると、ようやく体勢を崩した。
「貰った!」
『少尉!』
 追撃をかけようとした少尉をフジ中尉が制止する。すんでの所で下がると、ガブスレイの射撃が機体の目の前を掠めていった。ワーウィック大尉のマラサイと共に一旦距離を空ける。

『ガンダムじゃなくても…やるじゃないか』
「あの子は出来過ぎてるんですよ。たまには私も身の程も知らないと」
 スクワイヤ少尉はワーウィック大尉と軽口を叩く。敵に増援が加わったが、それでもまだ2対3だ。
『この辺りに敵影はあと1つ。増援はそちら側から移動してきた様ですが…』
 フジ中尉が辺りのデータを共有してくれていたが、先程の先制攻撃は賭けだった。高性能なエコーロケーションを利用した索敵とはいえ、味方の可能性も無くはなかったのだ。中尉の分析をあてにはしているが、仲間を撃つのは御免である。
『最後の敵が動かないあたり…何が何でもここは通したくないということだろうな』
 大尉の言う通り、恐らく残る1機のいる場所が最後の関門だろう。司令部とされる場所はそう遠くない筈だ。
 敵は待ち構えるようにしてこちらの出方を伺っている。
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2020/07/08(水) 21:48:10.80ID:QhFDALG00
『性能差はあるが、どうにかここを押し切れば…』
 その時、大尉の声を遮るようにして爆発音が振動と共にあたりに響く。
「な…何なの!?」
『爆破したのか!?』
 中尉が声を荒げる。只でさえ狭い通路が瓦礫に埋もれ始めた。強烈な振動は尚も続き、連続的にあちこちで爆発が起こっているのがここからでもわかる。
「何なのよもう!」
『下がれ!死ぬぞ!』
 頭上が崩れ、大小の岩が降り注ぐ。どうにか躱しながらあたりを見渡すが、照明がやられた様で周囲はかなり暗くなってきた。
『ちぃ!退くぞ!中尉、ナビゲートを!』
 そうこうしている間にも敵との間に大きな岩が落ちてくる。分断されたタイミングで一気に来た道を戻り始めた。敵も後退を始めた様だ。
「命拾いしたわね…デカブツ共」
『どうだかな。こっちも言ってる場合じゃないぞ』
「わかってますよ、中尉」
 何が起きているのか把握出来ないまま、中尉のネモに続く。彼の言う通り、何者かがコンペイトウを内部から爆破した様だった。

『ティターンズがやったんだろうな!』
 退避しながら大尉が声を張る。確かにエゥーゴが基地を爆破する理由は無いし、その術もない。
『まずいな…通路が塞がってる』
 中尉の声に思わず正面を向き直したが、確かに先程通った筈の通路が見当たらない。取り敢えず通路だった場所の前で一旦足を止める。爆発そのものは収まったようだ。
「ったく、ゲームの途中で盤をひっくり返す子供じゃあるまいし…。第一、あれって多分…味方諸共爆破したんでしょ?」
『だろうな…。ま、その成果に俺達を生き埋めに出来そうだが』
 大尉が苦笑いする。元々入り組んでいた通路が更に複雑になっていて、通れる場所自体も限られていた。確かにこのままでは生き埋めになる。
「中尉!他に道はないんですか!?」
『む…データの通りならもうお手上げだ』
「嘘でしょ…」
 大きく溜息をついて、少尉はもう一度モニターを見渡す。辛うじて残る灯りを頼りに目視で道を探してみるが、それらしいものは見当たらない。
『幸いMSがある。重機代わりにこいつで道を作るのもひとつだな』
 大尉のマラサイが動き出した。塞がった瓦礫を手でどかし始める。残る2人もそれに続き、地道に作業を始めた。奥まで崩れていればどうしようもないが、他にやれることもない。
0891◆tyrQWQQxgU
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2020/07/08(水) 21:48:32.25ID:QhFDALG00
『元々ジオンがMSを開発していた時、重機の延長ということにして連邦の監視を躱していたらしいな』
 岩を退かしながら大尉が言う。
「だったらこれがMSのほんとの仕事な訳ですね」
『本当にそうだったら良かったのにな。だが、そうはいかなかった』
「私達だってそうでしょう?別に殺し合う為に生まれてきた訳じゃない」
 大尉の返事はなかった。
『そういえば…。大尉はニュータイプの存在を信じてらっしゃるので?ジオニズムとでもいいましょうか』
 珍しく中尉が雑談に加わる。
『そうだな…。ジオン・ズム・ダイクンの言うような大それたものじゃないだろうが、遅かれ早かれ人の革新はあると思っているかな。実際に人類が宇宙に生活圏を拡げたのもそうだろ』
「ふーん。そんで、最後はその宇宙で生き埋めになる?」
『かもな』
 少尉が笑うと、2人も笑った。
『第六感というか…いわゆる超常的な力の片鱗も見てきた。個人的にはアトリエ大尉もそのひとりだと思っているが…。そんなものは些細なものでしかない』
『というと?』
『人の革新ってのは…超能力のことじゃない。人を感じ、労り、共に歩む事だ。それを綺麗事だと言わずに済む時が来たら、我々はまた新しい世界にいける』
「…こんなふうに?」
 大きな瓦礫が音を立てて崩れ、通り道が出来た。
0892◆tyrQWQQxgU
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2020/07/08(水) 21:49:00.75ID:QhFDALG00
 通路の向こうは比較的被害が少なかった様で、殆ど原形を留めていた。急にあたりが明るくなったせいか、幾らか眩しさすら覚える。
『上出来だ。早く行こう』
 大尉に促され、まずは先導役のフジ中尉が通り抜ける。それに続いて大尉のマラサイが進み、最後に少尉のGM2が通り抜けようとした。
 しかしその瞬間、支えを失った天井が再び崩れ落ちてきた。
『少尉!!』
「うわっ!!」
 機体に直撃する形で瓦礫が降ってくる。あっという間にあたりは暗くなり、大尉達の姿は見えなくなった。

50話 綺麗事
0894通常の名無しさんの3倍
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2020/07/09(木) 18:08:08.75ID:A1TC5o2Z0
乙です!

高速戦闘用バッタさん、逝く...仲間を庇いつつ機体をオシャカにするのは、もう彼の生き方そのものですね
マンドラゴラは改修√ですか。ついに0083〜Zの直系ミッシングリンクがグヘヘ...あら涎が垂れちゃいましたw
アナハイムの補給も基地からの鹵獲も充実してるようですし、どうなるか楽しみです!!
ネモ×EWAC×メガバズ、盛り杉ぃ!...すンごく好みです(笑)
サブジェネがあるとは言えジムIIだと複数機要りそうな辺り、ネモってもアナハイムの最新鋭機ですね!

ゲイルちゃんにボオル...ジオンの幻陽でパブリク配備したエゥーゴなら出しかねないw
それは冗談として大尉再びマラサイ...pixiv曰く元の長柄サーベルにはゲルググのデバイスが採用されてるそうなので
ナギナタを持たせてやるのはエゥーゴの補給体制に合わせつつ、機体への無理も少ないという意味で正解かもです

で、ゲイルちゃんもジムII回帰。僕はZ外伝をそう知らないのですが...主役級が赤ジムIIに乗るのって極めて稀では?
エゥーゴながら大尉のマラサイも当然赤でしょうし、「ヘンなパーティーが誕生した!(魔法陣グルグル並感)」ですよw
こういうところは長じてもゲリラ屋ですね

ステム君、ガブスレイみたいなゴツくて刺々しい機体で洞窟戦やりたいんだ...
私的にはファミチキ、じゃなくてハイザックくださいと言いたくなりますw
ウィード少佐、持ち直してきてますね! 彼女らの方は蹴られたガブスレイが凹みと擦り傷くらいで実質無傷
この人らにヘンなパーティーで戦わせるなんて、SさんドSさんですね...w

爺はシロッコの枝...? 少なくともウィード隊に仲間意識を持ってくれてて安心しましたが、一瞬ヒヤッとなりました
>>774辺りの「若いっていいなぁ」感は演技で、ホントはゾッコンだったとw カリスマは老若男女にウケてこそですね!
早速撤退を進言してしまうステム君、一理あるけど>>883>>886で掌くるりしてしまうのはまだまだ若いですね
(まぁ「(中に)出してください」ではなく「(外に)出してください」なら一貫してますがw)
それだけティターンズがやる気のある若者にアレを掴ませるクソ組織になってきてるわけですね、救いがねぇ...

暗殺に近い瞬殺を行うソニック...正直「屋根落とし」のイメージでしたが、案外「仕留めて候」な感じです(古いw)
ゼク・アインでかくれんぼとかホント出来る男ですね、そしてフジ中尉は敵に回すと一々嫌な男だw

敵味方識別コードをそのままに出来るのは、気心知れた少数編成だからこそですね。総力戦だと恐らく事故りますw
スクワイヤ、ジムIIに戻ったことで身軽さを生かした高機動の感覚を取り戻してきてる...?
おっ、マラサイのショルダータックル!(位置的にスパイクアーマー側ですね)
Zは撃ち合いが多くて新訳で回し蹴り追加されるくらいなので、こういうアクションは何とも嬉しいです!
そこから(額のララァがパッカーンするのであろう)ガブスレイバルカン、スゴく良く外伝してる!宇宙より映えててgood!

今度のニュンペーは出待ち...ラスボス然としてきましたが、はたして...
爆破ですよ(幻聴)。鉱山を閉山する時は労働者全員が揃ったのを確認してから閉門しますが
司令本部はウィード隊を何だと思っているのやら...さすがに爺じゃないよね?(苦笑)
基本に立ち返っての通路復旧、いいですねぇ...ワーウィックも鉄の巨人に憧れてた頃を思い出してるのかな?

私的には神も仏もない言い草ですが、人間は自然淘汰で減るにはちょっぴり強すぎるので
「殺し合うため生まれてきた」も満更嘘ではないと思ってます(思ってるから某ハゲは自重してください!)
一方的に駆除されるばかりでなく、「殺し合う」ほど力が拮抗できるだけまだマシ...と、これくらいにしときましょう

さて次くらいでスクワイヤの実情が明かされるのやら...楽しみに待ってます!
0895◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/10(金) 00:32:23.22ID:YVtOvx+T0
>>893
>>894
いつもありがとうございます!

さて、百式改も大破してマンドラゴラも中破。イレギュラーな乗り換えイベントで初期機体に戻してみました。初期機体が量産型だとこういう時融通利いていいですね。
マンドラゴラの改修についてはもうアイディアがあるんですが、それは後ほど…。

そろそろティターンズ組も話が大きく動き始めます。
エゥーゴ組との対比も重要な部分になっているので、初期からの経緯も振り返ってもらえたらと思います。

地球から宇宙へ飛び出した人類は、本当に戦い続けるしかないのか?っていうのもテーマのひとつです。ある種のニュータイプ論といいますか…。
これも掘り下げていきますので、良かったら最後までお付き合いください!!

実は結構書き溜めていて、2章ラストに向けて一気に話が進んでいきます!楽しんでください!
0896◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/10(金) 00:35:39.93ID:YVtOvx+T0
「く…。敵も味方もよくやるものだ」
 何者かが基地を爆破したらしかった。駐留軍がヤケになったのか…なんにせよ本部襲撃は退けた。ソニック大尉は胸を撫でおろしつつ状況を確認した。
「取り敢えず敵襲は去ったが…くそ」
 敵機の反応が離れていった。しかし大尉はその場から動けずにいる。最後に貰ったバルカンが致命的だった。おかげで機体は立ち上がることが出来なくなっていた。
「…やむを得ん。機体は放棄する。俺を拾えるか?…ステム?」
 応答がない。辺りは暗く、目視ではガブスレイを確認できない。
「くそ!こんなとこでやられるなよ!ステム!!」
 何度呼びかけても反応がない。熱源を見るにすぐ側にいる筈なのだが。
「ステム!!応答しろ!!」
『…煩いなあ』
 相変わらず姿は見えないが、確かに少尉だった。
「全く…心配かけやがって。怪我はないか?」
『ええ。心配には及びませんよ…特にあんたの心配は要らない』
「何?」
 直後、ガブスレイのライフルがゼクの脚部を撃ち抜いた。片膝をついていた機体が倒れ込む。仰向けになると、見上げた先にはモノアイが不気味に浮かんでいた。
「…何のつもりだ?今更冗談とは言わんだろうな」
『あんたが向こう見ずなおかげで予定は少し狂ったけど…ここであんたが死んだなら、俺は何とでも報告出来る』
 大尉の背に冷たい汗が流れた。
0897◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/10(金) 00:36:11.93ID:YVtOvx+T0
 状況が飲み込めないまま、注意深く周りを確認する。
「何故こんな事を?誰かの差し金か?」
『誰の差し金でもない。俺自身の意志だ』
 ステム少尉の声は怖いほど静かだった。それだけでも彼の決意の固さは察するに余りある。
「…エゥーゴか?それともジオン残党か?」
『…はあ。やっぱりあんたの脳味噌は筋肉で出来てるらしいな』
 依然として銃口を向けたまま、ステム少尉が溜息をついた。
『先のコロニー落とし…。俺の姉、リディル・オーブ中尉は負傷した。今頃はゼダンの門でリハビリをやってる。…何故こんな事になったと思う?』
「それはエゥーゴが…」
『違う!!あんたらがしくじったからだ!!』
 ステム少尉は大きく声を荒げた。ソニック大尉は何となく事態を察した。
「…それで、俺に復讐でもしたいのか」
『…姉が軍に入るのを俺は止めた。でも言うこと聞かなくてさ…。士官学校の成績も良かったし、こっちも黙らざるを得なかった。
 MS乗りの適性があったんだろ?ウィード少佐やドレイク大尉、それにあんたとも上手くやってるって…たまにメールも貰った』
 そこで一度言葉を切ると、溜息をついた様だった。ソニック大尉は静かに聞いていた。
『自分で決めたことだ、負傷したのも戦場ではよくある事だって…そう言ってた。だとしても…俺は…守る事も出来ないくせにこんな場所へ引きずり込んだあんたらを許せない』
「…許せとは言わない。だが…お前を曇らせているものは、俺を殺したところで晴れないんじゃないのか?俺達は…仲間ではないのか?」
 返事はなかった。答えないまま彼は話を続ける。
『俺は姉の後を追うように入隊したんだ。戦争さえ終わってしまえば元の暮らしに戻れると思ったから。でも…もう元には戻れない…』
 彼が鼻をすするのが聞こえた。
『元には戻らない…だったら…作り変えればいいんだと…あの人は俺に言ってくれたんだ』
 嫌な感じがした。やはり何者かの手引なのか。
「誰が言ったんだ?シロッコ大佐か?」
『…喋り過ぎたな。これだけ聞ければ…冥土の土産には十分だろ?』
 ガブスレイが動いた。ソニック大尉は咄嗟にライフルを掴む。
『くそ!離せ!』
「日頃から鍛えてないからこうなる!」
 そのまま銃口を捻じ曲げると、軋む脚部を引き摺りながら強引にガブスレイへ掴みかかった。
0898◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/10(金) 00:36:46.48ID:YVtOvx+T0
『往生際が悪いんだよ!』
「お前の爪が甘いだけだ」
 揉み合いになりながら、膠着の隙をみてコックピットハッチを開く。左腕以外まともに使えない状態ではまともにやり合えるはずがない。自爆装置のタイマーを起動すると、機体から飛び降りた。
 機体から転げ落ちる様にして脱出する背後で、ゼクの自爆装置が作動した。爆風に煽られ、着地も上手く出来ずに近くのコンテナへと落下した。

「ぐっ…くそ…」
 幸いコンテナの天板を破ったことがクッションになり、死なずには済んだ。半壊したコンテナの切れ目から、遠くでガブスレイが撤退していくのが見える。ほんの少しの間だが気を失っていた様だ。
 ソニック大尉は重い身体を壁で支えながら立ち上がる。身体の節々が痛むが、幸い四肢は無事だ。大きな出血も見られない。
「さて…どうしたものか」
 彼の裏切りは予想出来なかったが、恐らくはステム少尉ひとりの動きではない。そうなると部隊に戻るのも危険に思えた。
「誰の差し金なんだ…。ドラフラか?いや、あいつに限ってそんな。…或いは」
 ステム少尉を唆した人物が居るはずだ。だとすれば、部隊にいる他クルーの身も危険ではないか。
「こうしてはいられんな…」
 荒い呼吸を可能な限り整えると、壊れたコンテナから外へ出る。とにかくアレキサンドリアに戻ることにした。危険は承知の上だが、かといって他に行くあてもない。
「ぐぅ…!」
 視界が歪む。流石に無理をし過ぎたのか、ぐらりとまたその場に倒れ込む。
「ドラフラ…逃げろ…」
 薄れる意識の中で、ウィード少佐とドレイク大尉…そしてオーブ中尉の姿が彼の脳裏をよぎっていた。

51話 転げ落ちる様に
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2020/07/10(金) 00:37:19.79ID:YVtOvx+T0
「痛っ…」
 計器の光だけが取り残されたコックピットの中で、スクワイヤ少尉は頭をさすった。
『大丈夫か!?』
 ワーウィック大尉の声がする。
「何とか。でも…」
 機体を動かそうと試みるが、うんともすんともいわない。
「出られそうにないです。外から見たらどうなってます?」
『完全に姿が見えないな。埋もれてる』
 フジ中尉もいささか心配そうにしている。
『すぐに助けを呼んでくる。下手なことはせずにそこで待ってろ。いいな?』
「了解…」
 大尉の声に力なく応える。やはりGM2の馬力ではこんなものか。2人が離れていくのをレーダーから見送った。

 瓦礫に埋もれてからどのくらい時間が経ったのだろうか。暗い中で独りになると、いつの日かの出撃を思い出す。まともな回避行動も取らずに被弾して、いっそ死ねればと思いながら宙域を漂っていたものだ。少尉はあの時と同じ様に、シートの上に丸まった。
 あの時と違うのは、ここでは月が見えないことだ。何だかんだ言っても、あの景色は好きだったのかもしれない。この作戦を終えてアンマンへ戻る帰路にでも、ゆっくりと眺めたらいい。
 そんなことをぼんやりと考えていた時だった。再び辺りが大きく揺れ始める。
「何何何何???」
 動かないのは百も承知で操縦桿を握り直す。爆破の第2波が来たのかもしれない。
 ガチャガチャと意味もなく操縦桿を動かそうとしていると、少し負荷が軽くなるのを感じた。
「…いけるかな」
 バックパックに駄目元で火を入れ直し、機体を持ち上げようと試みる。周囲の揺れに共鳴して瓦礫が動かしやすくなったのかもしれない。しばらく続けていると、明らかに機体が軽くなった。
「頑張って!あともう少し…!」
 機体のダメージを報せる警告を無視して、強引に瓦礫を押し退けた。瓦礫と共に弾ける様に脱出する。ゴロリと転がって通路側へと出る事が出来た。
「あいたた…。もう…やればできるじゃん」
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2020/07/10(金) 00:37:53.56ID:YVtOvx+T0
 ガンダムほど上等なショックアブソーバーがある訳ではない。脱出の衝撃でコックピットのあちこちにぶつかりながらも、所々生き返ったモニターでどうにか辺りを見渡す。
 地形が変わるほどのことは無いが、辺りの色が違う。火災が起きているようで、壁が橙色に染まっているのがわかった。
「…もしかしてアイリッシュがやられてる?」
 嫌な予感がよぎり機体を立て直そうとするものの、GM2は先の無茶な戦闘と脱出で限界を迎えたらしい。立ち上がろうとして逆に姿勢を崩した。
「何やってんのよ!これじゃ意味ないじゃない!」
 脱出したもののこれではどうすることもできない。少尉は途方に暮れ、思わずシートにもたれかかった。
「この際…いっちゃうか」
 ヤケクソ気味に呟いた少尉は身体を起こし、素早く身支度を整えるとハッチを開いた。モニターで見るよりも鮮明になった景色が広がる。やはり所々火災が起きているが、空気が比較的少ないのかあまり燃え広がってはいない様だ。
 少尉はノーマルスーツのブースターを吹かしながら機体を離れ、生身でアイリッシュがいる拠点の方向へ向かった。

 しばらく道なりに進んでいくと、徐々に辺りの惨状が見えてくる。爆破による通路のダメージも目立つが、どうもこの先で拠点が襲撃されているらしい。恐らく敵が反撃に出たのだろう。
「うわ…これやばいんじゃない?」
 なるべく壁沿いに進みながら、可能な限り先を急ぐ。この状況で敵機体に捕捉でもされようものなら抵抗のしようがない。何せ生身である。ヘルメットの集音マイクで周囲の環境音を探るが、ノイズが酷過ぎる。
「弱った…何もわかんないや。大尉達、無事かな」
 恐らくアイリッシュは最低限の防衛線しか敷いていなかった筈だ。大尉達が合流したところで劣勢に変わりない。
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2020/07/10(金) 00:38:16.02ID:YVtOvx+T0
 少し開けた場所に出てきた。その通路の先で、交戦中のアイリッシュが見えた。拠点の内外から挟まれる様な形で襲撃を受けているのがわかる。
「やっぱりか…。でもどうすんの私」
 近くまで来れたのは良しとしても、この中を突っ切ってアイリッシュまで走るのは無謀どころの話ではない。死にに行くのと同義だ。少尉は足を止めざるを得なかった。
 すると、すぐ近くに敵のハイザックが下がってきた。慌てて壁に背を付けて息を殺す。少し被弾して一時後退したらしい。
 それを追うようにしてフジ中尉のネモが近づいてきた。的確にコックピットを撃ち抜き、ハイザックを沈黙させる。
「あっぶな…。爆発したらどうすんのよほんと!」
 中尉は彼女の存在に気付いていないらしく、すぐにそのまま踵を返した。
「あ!中尉!…気付くわけ無いか」
 通信も試みたがうまく繋がらない。まさか少尉が生身で戻ってきているとは思う筈もなく、ネモは再び戦線へ戻っていった。仕方なく、十分に注意しつつ少しずつアイリッシュへ近づく。
 大体の状況が掴めてきた。爆破の混乱に乗じて襲撃されたのだろう。それなりの戦力を投入してきたらしく、辺りに倒れている機体だけでも4機は確認出来る。あの慌ただしさからしてまだまだ居るのだろう。
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2020/07/10(金) 00:38:57.05ID:YVtOvx+T0
 すると、倒れていた機体の内の1機が上体を起こす。どうも撃破されたフリをしてやり過ごしていたらしい。すぐ近くで少尉は身を潜めた。
 そのハイザックは、瓦礫の影からビームランチャーへ手を伸ばす。
「こいつ、芋ってんのね」
 まだ敵機の存在に誰も気付いていない様だ。アイリッシュまでの射線を遮るものは何もなく、このままでは艦長達が危ない。
「はあ…こんなの正気の沙汰じゃないってば…」
 選択の余地はない。少尉は駆け出すと、ビームランチャーへと飛び移り、必死でしがみついた。

「あー!!もう嫌!!!」
 絶叫しながら少尉はビームランチャーのスコープ近くにしがみついていた。敵はそれに気づかないまま、ゆっくりとランチャーを構える。少尉からしてみれば全くゆっくりではないが、振り回されながらも絶対に手を離さなかった。
「…はあ…はあ…」
 息も絶え絶えになりながらよじ登る。携行している装備はハンドガンしかないが、スコープを傷付けるくらいのことは出来るはずだ。敵の動きが止まったのを確認すると、素早く立ち上がりスコープと対峙する。
 跳弾に注意しながら角度をつけた位置からハンドガンを見舞う。1発2発と同じ箇所に命中させた。スコープにヒビが入り、そして砕ける。
「やった!!」
 しかしその直後、ハイザックのモノアイと目が合う。当然気付かれたに違いない。
「ま、片道切符だとは思ったけどさ」
 敵のマニピュレータが迫った。巨大な掌で辺りに大きな陰が出来る。
「地球、行きたかったな。…大尉、好きでしたよ」
 ひとりで呟くと、敵の手に掴まれるより先に、目を瞑り両手を広げて背中から身を投げだした。不思議と恐怖はない。
 きっとこれでアイリッシュは守れた。ワーウィック大尉達が居ればどうにかこの局面も切り抜けてくれるだろう。
 これまで何度も死線を潜り抜けてきたし、ある種この先の人生を前借りした様な心地だった。この数カ月は自分の人生で最も充実していた様に思う。自身が何かの役に立てるということの喜びを知った。この時の為に生かされてきたのだろう。

 ただ後悔があるとすれば、大尉に直接気持ちを伝えておけば良かった。
 身体が重力に引かれて、緩やかに落ちていく。地球の重力はきっとこんなものではないのだろう。風を切り、様々な音が聞こえる。動物の鳴き声に草木の揺れる音、誰かの笑い声。
 まるで知っているかの様に鮮明なイメージが浮かぶ。いや、知っていたのか。生まれて間も無い頃の、忘れてしまった記憶。今になって、思い出したのだろうか。

52話 喜び
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2020/07/10(金) 00:39:27.77ID:YVtOvx+T0
「必ず…必ずやつらの墓標をここに」
 ウィード少佐は人目を憚らずに呟いた。本部による自爆から命からがら生き延び、共にアレキサンドリアで合流出来たのはステム少尉だけだった。彼にはそれ以上何も聞かなかった。いや、聞けなかった。
 アレキサンドリアに帰還し、レインメーカー少佐から報告を受けた。上層部は揃いも揃ってコンペイトウから脱出。残された兵達は死に物狂いで敵旗艦アイリッシュを襲撃しているとのことだった。彼らも無駄死にする気は無いようだ。

「全く本部の連中は…。しかし、我々はどう出ましょうか」
 神妙な面持ちのまま、レインメーカー少佐は訪ねてきた。
「どうもこうもありませんよ。我々は直ちに出港。のち、やつらの出口を塞ぐ。殲滅次第残存部隊を回収して、我々もゼダンの門へ」
 今まさに戦っている兵達を見捨てることはできない。彼らの戦いに報いる為にも、生きる希望を捨てさせるようなことをしてはならなかった。
「そうおっしゃるだろうと思いました。準備はしておりますよ」
 アレキサンドリアは最大戦速ですぐさま出港した。一刻も早く援護に向かわねばならない。ウィード少佐も再びニュンペーの元へ急ぐ。
 格納庫ではステム少尉も準備に取り掛かっているところだった。
「大変だったね。ここさえ乗り切れば本拠地へ戻れるわ」
「ええ…」
 声を掛けたものの、ステム少尉の様子があまり芳しくない。ソニック大尉を救えなかった呵責もあるかもしれないが、今は触れないでおく事にした。
「指揮は私が執る。あなたは…あなたのやるべきことをやればいいの」
 そういって彼の背を軽く叩き、コックピットへ潜り込んだ。
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2020/07/10(金) 00:39:54.64ID:YVtOvx+T0
『もうすぐ作戦区域です。準備はよろしいですか?』
 レインメーカー少佐から通信が入る。
「いつでも。ステム、行けそう?」
『はい』
 ステム少尉の返事がいつもより短い事を気にしつつ、ニュンペーをカタパルトに接続する。
『MS隊を射出後、アレキサンドリアは援護射撃で突破口を開きます。混乱に乗じて、お2人は破壊したシェルターから侵入してください。隙をみて本艦も上陸します。友軍の回収はそれからです』
「わかりました。頼みます。…ニュンペー、出るぞ」
 既に火の手が上がり始めているシェルターの近くへ急いだ。ここで早々に敵を叩かねば、増援が来てしまう。その前に友軍を回収し、撤退する必要がある。後ろからステム少尉のガブスレイもついてきている。

 間を置かずに艦砲射撃がシェルターに向けて行われた。外部に固定されていたサラミス改が腹から折れ、爆炎を上げる。更なる砲撃に晒し、シェルターの中がはっきり見て取れるまでになった。
『少佐、ご武運を』
 レインメーカー少佐の合図と共にシェルター内へと潜り込む。真っ赤に燃える拠点の中へ身を投じた。小破したアイリッシュをMS隊が防衛している。
「ステム!離れるんじゃないよ!」
 呼びかけながら先手を打った。こちらに気付いた敵の1機を迅速にライフルで始末する。同じ隊と思しきGM2が2機、こちらに迫ってきた。アイリッシュの機銃を躱しつつ、敵機と接触する。
 まず突出してきた先頭のGM2が抜いたビームサーベルを、すれ違い様に腕ごと切断する。こちらを振り向いたところをステム少尉がライフルで胴から射抜く。
 更に迫るもう1機の射撃を尽く躱すと、こちらからもライフルで狙撃し両腕を無力化する。武装を失いバルカンで応戦してくるGM2を背後から羽交い締めにして、機銃の弾除けに使った。これで敵の迎撃をいなしながら、どうにか着地する事に成功する。
0905◆tyrQWQQxgU
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2020/07/10(金) 00:40:21.52ID:YVtOvx+T0
 まず周囲を確認すると、敵の数は片手で数える程になっていた。友軍による決死の作戦が功を奏したらしい。とはいえこちらの損害も尋常ではなく、かなりの数居たはずの駐留軍は10機程度にまで減っていた。
 ウィード少佐は友軍全てにチャンネルを開いた。
「皆よく聞いてほしい。よくぞここまで粘ってくれた。ここを切り抜ければ、シェルター外にアレキサンドリアが待機している。敵に構わず脱出せよ。繰り返す、脱出せよ」
 彼らは責務を果たしたのだ。今度は殿としてウィード少佐が撤退を支援せねばならない。それが、全ての兵達に示せる精一杯の誠意だった。
 通信を切ると、友軍達がシェルターの外を目指し始める。追いすがる敵機を妨害する為、ニュンペーは再び地を蹴った。
『敵の殲滅はどうするんです??』
 ステム少尉からだった。
「我々でやる。これ以上は彼らに任せられない」
『しかし…』
「私ひとりでもやる。残るか、撤退するか…ステムは好きな方を選んでいい」
『そんな』
 本気だった。ドレイク大尉も、オーブ中尉も、ソニック大尉も此処にはもう居ない。独りで戦い抜いて死ぬならばそれも本望だが、それは彼女の選択であって他の兵を巻き添えにする理由にはならない。ステム少尉も例外ではなかった。
0906◆tyrQWQQxgU
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2020/07/10(金) 00:41:12.72ID:YVtOvx+T0
 追いかけて来たネモが、逃げる友軍の1機を背後から切り捨てた。更に追おうとするところをライフルで牽制する。こちらに気付いた敵機達が身を翻し向かってくる。
「来い…!全員こっちに来い!」
 全身の血が沸き立つ様な心地の中、切り結び、押し飛ばし、撃ち落とす。自分の中で何かが切れてしまっているのを感じていた。この先に何があろうと構わなかった。
 先程のネモによる正確な射撃を受ける。すんでのところで躱したものの、追撃が迫った。
「くそっ…!」
 斬撃をサーベルで受け止めたものの、足が止まってしまう。別のGM2が横から更に斬りかかってきた。
 が、すぐにライフルがそれを撃ち落とした。ステム少尉のガブスレイである。
『僕も…自分にやれることをやります』
「かっこつけちゃって…。後悔しないでよ」

53話 彼女の選択
0909◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:21:56.21ID:AvQA0wbv0
>>907
デザインは見たことあります!
結構攻めてますよね

>>908
いつもありがとうございます!

さて、1週間ほど経ったので続きを投下します
0910◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:22:38.58ID:AvQA0wbv0
 スクワイヤ少尉は目を開けた。
「あれ?死んでない」
 目の前にワーウィック大尉のマラサイが居た。よく見ると少尉はマニピュレータの上に横たわっている。
『地球…行くんだろ?諦めるのはまだ早い』
「大尉!」
 思わず涙が溢れ出す。
『1度アイリッシュに戻るぞ。下手なことはするなとあれほど言ったのに』
「すみません…」
 擦った目を遣ると、敵のハイザックは完全に沈黙していた。そのコックピットには薙刀が突き立てられている。
 マラサイはそれを引き抜くと、もう片方の手に乗せた少尉をコックピットへと促した。開いたハッチの向こうに大尉が居た。スクワイヤ少尉はそそくさと乗り込む。
「さて…行くか」
 ハッチを閉じると、身を翻したマラサイはバーニアに火を入れてアイリッシュへ向かった。

「…何で大尉は私が居るってわかったんです?」
「フジ中尉だ。少尉の声を聞いたと言ってな。気のせいかもしれないと言っていたが、まさかと思って声のした方へ向かったら案の定」
 あの時の通信が通じていたのか。通りかかったのが中尉のネモでなければ今頃死んでいただろう。
「それから…通信入れっぱなしだったろ。それで少尉だと確信したよ」
「え…!?全部聞いてたんですか!?」
「まあ…ひと通り」
 顔が熱くなるのを感じた。
「えっと…いや…いいんです。これはこれでロマンチックだったかも」
「そうか」
 大尉が笑った。
0911◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:23:11.69ID:AvQA0wbv0
 飛び交う戦火を潜り抜け、どうにかアイリッシュまで辿り着く。タイミングをみて開いた格納庫へ滑り込んだ。
「私はまた戦場に戻る。少尉は一旦降りてくれ」
「わかりました。…私もすぐ行きます」
「機体があればでいい」
 少尉はマラサイのコックピットハッチに手をかける。
「少尉…!」
「?」
 声を掛けられ、思わず振り返った。
「その…。戻ったら話そう」
「…ええ」
 少尉は笑顔で返した。少尉を降ろして周囲の安全を確認すると、大尉はすぐに去っていった。
「遊ばせてる機体なんてあるかな…」
 格納庫を見渡すが、補給を行っている機体以外は空いている様子はない。仕方なく少尉はガンダムの元へ走った。
「あ、少尉。お戻りで」
 アナハイムの技師がデータを確認しているところだった。
「この子、どうにか出せない?」
「今からですか!?うーん…」
 見る限り最低限の応急処置は出来ているようだが、あくまでも外観の話だ。
「状況はわかりますよ。ここを切り抜けられなければ直すだけ無駄ですからね。しかし…正直何が起きても責任は取れません」
 技師は苦い顔をした。
「いいわよ。動くんならそれで十分」
 それ以上返事も聞かず、少尉はコックピットハッチから機体に乗り込んだ。
『少尉、止めても無駄でしょうから…説明だけでも聞いてください』
 先程の技師がモニターに映る。
『アポジモーターの稼働率は70%ってとこです。多分使ってるうちに更に数字は落ちると思いますが。関節もかなり傷んでます。あとサーベルも1本紛失した状態ですので…』
「わかった。大尉の薙刀がまだ1本余ってたよね?」
『ドライブは可能です。でも扱えますか?長物は慣れないと結構難しいですよ』
「手ぶらよりいいわ。あれと適当なライフルを1丁貰っていくから」
 いつもと違うフレームの軋みを感じつつ、装備を見繕った少尉は格納庫を後にした。
0912◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:23:47.05ID:AvQA0wbv0
「マンドラゴラ…あと少しだけ頑張ろうね」
 カタパルトは使わず、そっと艦体の陰から出撃する。辺りは幾らか静かになっていた。注意深くアイリッシュから離れる。
『ガンダムは少尉か!やっぱりな!』
「フジ中尉!」
 ガンダムに気付いたのはフジ中尉だった。彼のネモは壁際に座礁している。周辺に敵影はない。
『やはり気のせいではなかったな。全く無茶ばかりして…』
「そういう中尉こそ。…動けます?」
 周辺に展開していた敵部隊が見当たらなかった。少し離れた場所で交戦しているらしい。
『試験部隊のやつが2機ほど残ってる。そいつらにやられた』
 ネモは脚部を損壊しており、立ち上がるのは難しそうだ。
「この辺りに敵は居ないみたいですね。中尉だけでも戻っててください。後始末は任せて」
『済まないな…。どうも敵は撤退を開始した様だ。しかし先程の2機が殿を務めている…気をつけろよ』
「大丈夫ですって。まだ死ぬには早いですから」
『死にたがりのゲイルがそんな事を言うとはな』
 中尉は少し笑ったようだった。コックピットハッチから脱出した中尉がガンダムのコックピットを叩く。
『これを少尉に託す。これまでのやつらとの交戦データを蓄積・解析したものだ』
 ハッチを開けて中尉と対面する。彼から端末を手渡された。
「ロードに時間がかかるだろうが、ガンダムの反応が向上する筈だ。ぶっつけ本番になるが…」
「中尉、ありがとうございます。安心して待っててください」
「頼んだぞ。メッセージも添えてある」
 珍しく中尉が親指を立ててハンドサインを見せた。そういうこともする男なのだと今更知って、少尉も思わず笑った。

 中尉を見送り、端末を差し込む。やはりロードには幾らか時間が掛かるようだ。友軍の動きを見る限り、敵はシェルターの外に出たらしい。
「さーて…腐れ縁もここまでにしたいね」
 拠点を放棄した時点でエゥーゴの勝利は揺るがない。しかし、まだ友軍が追撃戦を続けている。これを逃せばまた敵に反抗の機会を与えるかもしれない。ガンダムのスラスターを吹かすと、少尉は敵の姿を求めてシェルターの外へと駆けた。

54話 追撃戦
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2020/07/17(金) 11:25:11.73ID:AvQA0wbv0
「だいぶ…片付いてきたね…」
 息を切らしながらウィード少佐は辺りを見渡した。もう敵は片手で数える程しか残っていなかった。シェルターを抜けるまでの間に4,5機は落とした筈だが、それからは数えている余裕も無かった。友軍は殆どがアレキサンドリアへ向かった筈だ。
「しかし…レインメーカー少佐は何を…」
 肝心のアレキサンドリアが見当たらなかった。何かトラブルがあったのかもしれない。
『とにかく今は、目の前の連中を片付けるのが先決ですかね。このままでは身動きが…』
 ステム少尉もよくやってくれている。正直独りではここまでやれなかったと思う。彼の言うとおり、今相対している4機のMSはそれなりによくやる。特に中央に陣取ったマラサイはひとりだけ動きが違う。
「あのマラサイ…。もしかしてバッタのやつか?」
 得物が同じ薙刀だった。同じパイロットということならこの動きの良さにも説明がつく。
「だとすれば…バッタはグロムリン辺りが潰してくれたか。あの時代遅れのMAもそこそこに仕事をしたみたいね」

 こちらから仕掛けるより早く、敵が一斉に動いた。少し遅れてこちらも敵に向かってスラスターを吹かした。周りを固めるGM2の威嚇射撃でこちらの進路が狭まる。その進路の先には、マラサイ。
「ステム!遅れないでよ!」
『はい!』
 ガブスレイに背中を預ける形で、少佐は突っ込んでくるマラサイに向けてライフルを放った。マラサイはこれを華麗に躱すと、薙刀を頭上で回した。
「マラサイごときがこのニュンペーとやり合えるとでも!?」
 マラサイが振り下ろした薙刀をギリギリで躱す。回避運動から繋いだ動きでバックハンドにサーベルを繰り出した。敵はそれすら薙刀で受け止めるが、無防備になった側面にはステム少尉のガブスレイが居る。
『落ちろッッッ!!』
 少尉のフェダーインライフルにサーベルが形成され、勢いよく突き立てにいく。しかしマラサイは、避けるどころかガブスレイの懐に入り込んだ。
『何だと!?』
 フェダーインライフルはリーチが長い分、懐に潜られると扱いが難しい。薙刀を扱うだけあってそのあたりは熟知している様だ。ガブスレイは首根っこを掴まれるようにして、背負い投げの要領で投げ飛ばされた。
『くそっ!』
 着地するやいなや、他敵機のライフルに晒される。攻撃を受けるより早く可変すると、少尉は敵と距離を取った。
0914◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:27:25.79ID:AvQA0wbv0
「ちょこざいな!」
 ガブスレイを投げ飛ばしたマラサイへ、今度はニュンペーで挑む。近距離でライフルを見舞った。流石に加速の早いライフルをこの距離では避けきれなかった様で、マラサイは肩の盾でいなした。脇が甘くなった所にフェンシングよろしくサーベルで突きかかる。
 いくらパイロットの腕が良かろうと、所詮はハイザックに毛が生えた程度の量産機である。ニュンペー相手では持ちこたえられなくなるのも時間の問題だろうと思った。
 しかし、こちらのサーベルを敵は捌ききった。疲れるどころか更に動きが良くなっている様にすら思えた。こちらの攻撃の隙をつかれ、薙刀の柄で脚を払われる。
「何だ!?」
 関節部を狙われたのか、一瞬ニュンペーはガクンと体勢を崩した。見上げた先で敵のモノアイが妖しく光る。
 意を決した少佐は、敵の腰部へ抱きつくとそのまま押し倒した。先程の敵の戦術と同じく、インファイトに持ち込めば薙刀は文字通り無用の長物になる筈だ。
 しかしここでも敵の方が1枚上手だった。押し倒した勢いそのまま、ニュンペーは腹から蹴り上げられた。
「ちいぃ!」
 跳ね除けられ、再び距離が開く。明らかにパイロットとしての腕は敵の方が上を行っている。
 更に良くないのは、他の機体の動きも見ながら戦わねばならない事だった。こうしてマラサイとやり合いながらも、他のGM2が茶々を入れてくる。

 長い攻防が続く。ステム少尉が被弾し地表へ不時着した。可変してMSに戻るも、肩を損傷した様だ。
『まだやれます!お構いなく!』
 少尉が叫ぶ。そこにここぞとばかりにGM2がサーベルを抜いて迫る。
「そこッッッ!」
 少佐は交戦中のマラサイ越しにそのGM2へとライフルを放った。マラサイの頭部を掠ったそのライフルは、そのままGM2の腹部を横から貫通した。間髪入れずにガブスレイが正面から横凪に両断する。
「後3機!!」
 こちらも疲弊しているが、それは敵も同様だった。マラサイの援護をしようとライフルを向けた別のGM2だったが、弾が切れたのか空撃ちした。返す様にそのGM2へライフルを見舞い、コックピットに直撃させる。
「残弾くらい確認しておくんだね」
 極限状態の中で、本能的に次の手を選択していく。研ぎ澄まされていく感覚はあるが、余裕がないのはこちらも同じだ。再度接近してきたマラサイへの反応が遅れる。
「まだだ!」
 ギリギリのところで薙刀の柄を掴み、敵と睨み合う。長い戦いで気が遠くなりそうになりながらも、どうにか踏みとどまっていた。このマラサイに乗っているだろうパイロットとその仲間達への復讐心に支えられているからかもしれない。
「お前達だけは絶対にッッッ!!!」
 少佐は力の限り吠えた。そのままマラサイを押し退けると、敵の左腕を掴み肩から引き千切った。ムーバブルフレームの難点があるとすれば、人体構造に近い故に関節部が脆弱であることだった。モノコック構造の様な堅牢さは無い。
 もいだ腕をそのまま投げ捨てると、バランスを崩したマラサイを蹴り倒す。そこへ残る1機のGM2が間に割り込んできた。
「邪魔をして…!」
 もう後はない。割り込んできたGM2と掴み合いになりながら、その腹にライフルを突き立てる。めり込んだ状態の零距離で最後の一発を撃ち込んだ。倒れかかってくる敵機をそのまま打ち捨てる。
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2020/07/17(金) 11:29:14.91ID:AvQA0wbv0
「はぁ…はぁ…」
 息も絶え絶えの少佐の傍にガブスレイも合流する。
『残るは…』
 目の前にいるマラサイは、片腕になりながらも戦う意思を曲げずにいるようだ。退く素振りは微塵も見せない。
「あんたらの勝ちだろう!それで満足じゃないのか!?何故退かない!?」
 思わず少佐は怒鳴った。何もかも失ったこの戦いは、紛れもなくティターンズの敗北だった。なのにこの男は何故まだ追ってくるのか。
 そうはいってももう敵は満身創痍だった。これ以上何か出来るとは思えない。
「…もういい。これ以上は追ってこれまい。ステム、アレキサンドリアは?」
『…来ませんよ』
「何を言ってるの?」
『レインメーカー少佐は今頃この宙域を脱している頃でしょうね…撤退した友軍位は拾ってくれたかもしれませんが』
 耳を疑った。理解が追いつかない。
『エゥーゴがここまでやるとは思いませんでしたよ。僕自身も紙一重でしたが…あなたはここで死ぬんですよ、ソニック大尉達と同じ様に』
 何を言われているのか、意味を汲むまで少し時間がかかった。
「…まさか、ラムは…」
『あんたで最後だ。エゥーゴも片付いたしね』

55話 復讐心
0916◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:37:33.47ID:AvQA0wbv0
「全く…どいつもこいつも」
 ステム少尉は思わず毒づいた。何故戦力的に余裕がない筈のエゥーゴがこれ程までに追撃を掛けてきたのか、そしてウィード少佐は何故馬鹿正直にそれを迎え撃つのか…理解に苦しんだ。

 そもそもレインメーカー少佐との当初の計画では、初戦で少し善戦した後にウィード少佐達をエゥーゴに討たせて撤退するだけの筈だった。
 しかし、ソニック大尉が単独で侵攻してきた敵と交戦に入ってしまい、あろうことか本部の爆破まで粘ってしまった。最初の誤算である。救援に入る動きを見せつつ自ら手を下す事になってしまった。
 本部の爆破自体もレインメーカー少佐の入れ知恵だった。そうすれば上層部が脱出するだけの時間は稼げると唆したのだ。
 背後の後ろ盾を失った駐留軍は、少佐の見立て通り死にもの狂いで戦った。

 大尉の誤算だけならまだ良い。しかし今度はウィード少佐がエゥーゴ相手に善戦してしまう。混戦の中でやられてくれればそれでも良かったのだが、殿になって味方を全て逃してしまった。
 ここでウィード少佐が倒れれば次はステム少尉が敵を一手に引き受けなければならなくなるし、少佐だけ残しての撤退を取れば、抑えきれずに敵の追撃が尚一層激しくなる。
 そうなると自身の脱出すら危うくなる為、先にエゥーゴを片付ける必要まで出てきてしまったのだった。
0917◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:37:55.89ID:AvQA0wbv0
「まあこれで…試験部隊が必死に戦ったという記録はより補強されるけどね。回収した友軍が証言してくれる。…ただ、おかげで俺は割を食った」
 舌打ちしながら、ステム少尉はフェダーインライフルをウィード少佐に向けた。
『全て…レインメーカー少佐とステムが?』
「この際だから聞かせてやるよ。余りに爺さんの動きが遅いから俺が補充されたんだ。シロッコ大佐は…これ以上こんな試験部隊のお遊びに付き合っている暇はない」
『大佐が…』
 信じられないといったところか。皆そう思うのだ。自分は特別だと思い込んでいて、いざ事実を突き付けられると認めようともしない。
「コロニー落としに失敗した時点で、その責任を負うのがあんたらの最後の任務だったんだ。…姉さんの負傷の代償と一緒にね」
 姉弟揃って散々振り回されてしまった。しかしそれもここで終わる。
0918◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:38:18.70ID:AvQA0wbv0
「エゥーゴも一通りは片付いたし、あんたを始末したら…俺は合流ポイントでアレキサンドリアに拾ってもらう。それで任務完了だね」
 ため息をついてニュンペーを見据えた。もうパラス・アテネは完成の目処が立ったし、ニュンペーの量産体制も整いつつある。シロッコ大佐達もこのプロトタイプを失ったとして特別惜しくは無いのだろう。
『大体の察しはついた。それで…今なら私を殺せると?』
「逆に…殺せないと思ってるのか?」
 ソニック大尉といいウィード少佐といい、何処までも邪魔をする。もうウンザリだった。
「さよなら」
 ライフルでニュンペーを狙うと、流石に抵抗してきた。ビームを躱し、こちらを組み敷こうと掴みかかってきた。そんなところまでソニック大尉と同じなのか。
「あんたはここで終わりだ!潔く撃たれれば良いものを…!」
『そうかもね。でも、実行犯のあんたを連れて帰ってくれるほどレインメーカー少佐も甘くないよ』
「無駄な抵抗だ!惑わせて!」
0919◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:38:42.25ID:AvQA0wbv0
 取っ組み合いの最中に、背後でマラサイが立ち上がっていることに気付いた。
「何!?死にぞこないが…!」
 ウィード少佐を押し退け、今度はマラサイを撃つ。右肩の装甲が弾け飛んだが、それでも膝をつかない。それどころか薙刀を脇に挟んでこちらへ向かってきた。
「馬鹿な!たかがマラサイだぞ!?何故動ける!?」
 敵の鋭い斬撃が下から斜めに迫る。動揺した少尉は思わず腕で身を庇った。刎ねられた片腕がライフルごと宙を舞う。
「くそ!いい加減落ちろよ!!」
 残る右肩のメガ粒子砲と頭部のバルカンで集中砲火を浴びせる。しかしマラサイを蜂の巣にする前にニュンペーが接近してくる。
「どいつもこいつも何故死なない!?」
『あんたの爪が甘いから!!』
「煩いんだよ!あんたも!!」
 迫るニュンペーの頭部に蹴りを入れたものの、怯むことなくこちらを睨み返してきた。
「その目は何なんだ!」
 拡散メガ粒子砲で目くらましをし、その隙にサーベルを抜く。ニュンペーを袈裟斬りにしようとするが、マラサイの妨害に遭う。千切れた左腕を拾い上げ、スパイク部で殴りつけてきた。
「こいつ!庇う理由は無いだろ!?」
 何故敵であるニュンペーを庇うのか。大人しく寝ていれば良かったものを。打突を受けよろめきつつも、返す刃でマラサイの持つ左腕を破壊する。爆発の衝撃でマラサイは再び倒れた。
0920◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:39:05.37ID:AvQA0wbv0
『ステム…この際あなたの理由は聞かない…。でも…あなたにとってこの戦いは何の意味もないわ。…せめて生き延びてくれれば良かった』
 膝をついていたニュンペーが立ちあがる。
「ソニック大尉は俺が自ら手を下してやった。あんたもそうする事で俺の目的が達成されるんだよ…。何も心配する必要はない!!」
 再びサーベルで斬りかかり、鍔迫り合いになった。Iフィールドの反発で周囲に電撃が走る。
 どちらも満身創痍だが、的になって戦っていたニュンペーのダメージの方が深刻な筈だ。単純な押し合いで負けるとは思えない。
「往生際の悪いところまでソニック大尉と同じだな。だが…それもこれまでだよ」
 サーベルを更に押し込んだ。自分の刃で焼かれて死ぬならば、彼女にはおあつらえ向きだろう。
『私も無意味な復讐の最中だから…まだ死ねない』
 装甲表面を少し溶かしたところでニュンペーはまたサーベルを押し返してくる。
「知ったことか!あんたの分際で復讐だの何だのと…身を弁えろ!」
 その時、倒れたマラサイがバルカンで邪魔してきた。
「この…!」
 気を取られたタイミングで、次第にガブスレイが押され始める。
『そこに転がってるマラサイは勿論だけど、ガンダムがまだいる。それに…』
 これだけの連戦で、何処にこんな力が残っているのか。抑えきれず膝をつく。
『ラムをやったって言うんなら、それは胸に仕舞っておくべきだったね』
0921◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:39:31.94ID:AvQA0wbv0
「は…。ほんとに立場が解ってないらしいな!あんたは…」
『解ってないのはステム…あんただよ』
 ジリジリとサーベルが近付く。苦し紛れに持てる武装を乱射するが、ニュンペーに怯む様子は無い。
『黙ってれば上手くいったかもしれないのにね…。あんたは…ここで死ぬ』
「くそ!くそ!」
 サーベルが首元まで迫る。元々大型機のニュンペーが、更に巨大に見えた。ニュンペーは両手でサーベルを握り直す。
「何なんだよ!おかしいのはお前らじゃないか!」
『自分だけはおかしくないと思ってるやつが…1番イカれてるんだよ』
 ハッとした瞬間、視界がメガ粒子砲で白く光った。

56話 返す刃
0922◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:44:34.16ID:AvQA0wbv0
「は…うぐっ…」
 思わずウィード少佐は呼吸を乱した。沈黙したガブスレイを見下ろしながら、どうにか意識を保った。
 辺りはすっかり静けさに包まれていた。マラサイもこちらに仕掛けてくる様子はなく、そのまま横たわってこちらを見据えている。
「まさか…あんたに助太刀されるとはね…」
『事情は知らんが、ワケアリみたいだったからな』
 返答にハッとして通信機器を見る。オープン回線だった。油断に油断を重ねたステム少尉らしいといえばらしい。彼は諜報を任されるには余りに若過ぎた。

 全く心当たりが無いわけではなかった。元々レインメーカー少佐はお目付け役として着任していた。今にして思えば、彼の良いように動かされていた部分も否めない。
 それがシロッコ大佐の意思だったのだとすれば、もう初めから定めは決まっていたのだ。ステム少尉含めて所詮は捨て駒だったのだ。
 恐らく彼の言っていた合流云々も少佐の方便だろう。ここまでの事をしておいて少尉を生かしておく理由がない。
「助けてもらったことは感謝する。だが…それとこれとはまた別の話だ」
 ニュンペーは再びサーベルを起動した。
『投降したくないのはわかる。だが、直にエゥーゴの増援も来るぞ。死ぬ気か?』
「投降など出来るものか。この機体も、データも、貴様らに殺された仲間の遺した全てだ。エゥーゴに接収される位なら、ここで共々死んでやる」
『それこそ犬死というんだ』
 マラサイが膝をついて立ちあがる素振りを見せた。
0923◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:45:04.05ID:AvQA0wbv0
『エゥーゴはティターンズの投降兵も受け入れる。俺も元ジオン兵だ』
「だから何だ!お前達が仮に私を受け入れても、私がお前達を許すことはない!」
 誰も彼も皆、彼女を置いて先に逝ってしまった。オーブ中尉にも合わせる顔はない。そろそろ潮時なのだろう。この復讐心以外、もう何ひとつ手元には残っていないのだ。
「…決着を。さあ立て」
『…どうしてもやるのか』
 マラサイは、薙刀を拾いながら立ち上がった。振り返ればこの男との因縁も長かった様に思う。月面での交渉時に顔を合わせて以来、ずっと戦ってきた。敵ではあるが、ある種の敬意は芽生えていた。
「お前をここで倒して、ガンダムを倒す。そうでなければ死んでも死にきれん」
『何処かでやめにしなければ、この連鎖は終わらんよ。螺旋みたいなものだ』
「お前達を殺して終わりにさせてもらう。そんなにやめにしたければここで死ねばいい」
『…生憎、後回しにしている話があるからな』
「そんな日常すらお前達が奪った!」
 ニュンペーはサーベルを構えると、マラサイに振り被った。敵は下がる様にしてそれを躱しつつ、地を蹴って飛び上がる。
「逃がすか!」
 サーベルを回転させながら投擲する。直撃はしなかったものの、敵の脚部装甲を裂く。敵の着地より早く、ガブスレイのフェダーインライフルを拾い上げ更に追撃をかけた。
0924◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:45:33.59ID:AvQA0wbv0
『相変わらず腕がいいな』
 そういいながらマラサイは薙刀を回転させてビームを弾く。そのまま距離を詰めると、脇に抱えた状態から横凪に斬りつけてきた。
「あんたのデータもしっかり入ってる」
 受け止めるようにフェダーインライフルのサーベルを展開する。ウィード少佐自身は長物の扱いには慣れていないが、学習装置の補助で互角に渡り合う。皆が身を呈して手に入れた実戦データの結晶だ。
「バッタならまだしも、半壊のマラサイで勝てるほどニュンペーは甘くない!」
 薙刀を払うと、ノーガードの左側から蹴りを見舞った。蹴飛ばしてよろめかせたところへ更にライフルで斬りつける。
『ちぃ!』
 すんでのところを薙刀の柄で防がれる。しかしIフィールドの展開が不十分だったのか、そのまま薙刀を切断した。

 再び距離を取り睨み合う。
「自慢の長物もこれではね。もうおしまいだ」
『まだわからんさ。私の奥の手はまだある』
「ハッタリを」
 こちらからライフルで仕掛けるが、マラサイは積極的に応戦してこない。ライフルの射撃を躱しながら距離を保とうとしている様だった。
「時間稼ぎのつもりか!?そんな決着…私は認めない!」
『どうかな。早く落としてみろ』
 躍起になって追いかけていると、突然振り向いたマラサイが薙刀を投げつけてきた。ギリギリで躱したものの、ライフルを破壊された。
「わざわざ丸腰になるとは」
『お互い様だ』
 そうは言うが、肉弾戦こそニュンペーに分がある。身を翻し接近してきたマラサイだったが、突き出してきた腕に絡む様にして背後を取る。腕を捻り上げると、そのままマラサイを組み伏せた。ソニック大尉の近接格闘データも取り込んでいるのだ。
「お前如きでは…私"達"には勝てない」
『まだだ…!』
 マラサイはなおも抵抗するが、マウントを取ったニュンペーを退かすほどの力はもう残っていない様だった。
0925◆tyrQWQQxgU
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2020/07/17(金) 11:46:10.68ID:AvQA0wbv0
『お前は…今…私"達"と言ったな…?』
「ああ。私ひとりでは勝てずとも、仲間の魂はここにある」
 力に任せて右腕も引き千切る。これでもうマラサイは一切の抵抗が出来ない筈だ。
「安心しろ。お前を送ったらガンダムも直ぐに送ってやる。その後で…私も逝くだろうが」
『その話はまだ取っておけ。奥の手があると言ったろう』
「何?」
『…来たか』
 マラサイが全てのスラスターを全開にして足元を滑り抜けた。掬われる形でニュンペーは尻餅をつく。マラサイはそのまま受け身も取れずに近くの岩礁へぶつかり動きを止めた。モノアイが消灯する。
「くそ…。何だ…?」
 その時、高速で接近する機体を捉えた。体勢を整えて身構え、シェルターの方向を振り返った。
『大尉!!』
 若い女の声。見覚えのある機体が姿を現した。
「…奥の手ってこれね。探す手間が省けた」
 最後の敵、ガンダムだった。

57話 私"達"
0926◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/17(金) 12:38:08.31ID:AvQA0wbv0
取り敢えず投下はここまでですが、もう実は2章は書き上げています。
3章でこの物語は完結します。そちらも設定が完全に定まり次第書き始めようと思いますが、その前に2.5章を少し投下予定です。裏話的な。

乞うご期待!
0928通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2020/07/18(土) 19:51:28.68ID:bDHris4x0
乙です!
また間が空いてしまいました(・ωく)

洞窟で味方のはずのガブスレイに睨まれるって、ちびっちゃいそうなくらい怖い絵ですね
ステムはソニックを脳筋呼ばわりしますが、正直彼の最期まで見ても私怨なのか腹黒なのかしっくり来なかったです
まぁどっちもあったってところでしょうが...復讐一筋だったジェリドが少し恋しくなったりして
何はともあれ因果応報かなぁ。ウィードやソニックの奮戦に対してふざけてるみたいで、同情しかねます
(脳筋をバカにしてる頭でっかちなのは分かりました、自分に都合よく考えたがる子ですね)

あぁ、クローアームも使ってしっかり押さえないから、あと
さすがにビームライフルでボーザツラウフは無理ですねw 銃身が熱で溶けるか溜まったIフィールドで暴発するでしょう
(と>>897の時は思いましたが、>>918>>924で撃ってますね。筒が歪んだ程度?)
そんな時の為の銃床側ビームスピア、もっと流行っていいと思います

そして久々のハイザックカスタム、Z関連の二次創作では本編より出番が多い気がします、地味に愛され機種かと
スクワイヤ、何だかんだで生き残る方に動ける子ですね...こりゃ他の媒体でも何やかんやで長生きするぞ
サラミス、再出港叶わず撃沈...性ではありますが、かなCです!

ワーウィックに回収されるスクワイヤ、こいつら...(笑)
計画通りの改修が出来ないまま戦場に放り出されるのは、GP計画の呪いなんでしょうか
ちゃっかりEWACネモ退場、いや偵察機にあるまじき戦果の数々でした。R.I.P.

試験部隊の人間に時代遅れ扱いされるレストアMAのグロムリン君、ちょっとカワイソス
まさか乗ってたのオーブ中尉じゃないスよね...? ゼダンの門でリハビリしてるはずだし
合流ポイント...あからさまな死亡フラグw
脇を使ったナギナタ攻撃も長物ならではですね

後回しにしてる話→日常 と、ボロボロでも察しがいいウィード少佐。アイバニーズとは違うのだよ、アイバニーズとは!
仲間たちの武器やデータで戦う展開の何と熱いこと!(さっき自分を殺しかけた武器とか言わないw)
やはり最期はモノアイが死ぬワーウィックのマラサイ...しかし爆発しないですね、ジェリド機は欠陥品だったか(苦笑)
今回はお色直ししたガンダムの登場で〆、いよいよラストバトル?だぁ!

3章となるとついにZZ外伝が...?wktk
2.5章というのも気になりますね、もうSさんの焦らし屋さん!w
お身体に気をつけて、続き楽しみにしてます!
0929◆tyrQWQQxgU
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2020/07/19(日) 23:04:34.45ID:1WHQhniM0
>>927
>>928

いつもありがとうございます!

ステムはどのくらい描写すべきか迷いましたが、今回はあまり掘り下げずにいく感じです。
ガブスレイは強機体だと思うんですけど、扱いも難しいかなというところで。
ライフルはもう少し状態について書いてもよかったですね!基本的には使える状態だと思ってもらえれば!使ってますし!笑

ハイザックカスタムは、ティターンズ側の量産機でマイナーチェンジくらいの立ち位置なので便利でした。笑
艦隊戦はまた書きたいですね…

グロムリンは旧戦争時の設計なんで、まあそんなもんかなと…笑
連携も取りづらいとなれば持て余しますよね…
オーブ中尉はゼダンの門に行ってます!今回は出番なしですね

正直ウィード少佐はもっと早くから描写増やしとけば良かったなぁと思わんでもないですが、序盤はあまり戦わない敵のポジションだったのもそれはそれで悪くはないかなと
ついついマラサイに乗せると頑張らせちゃいますが、いくら大尉でもこれ以上は厳しいですね

3章は元々書いた通り、Z終盤の話になります!ZZは今のところ構想は無いんですが、1章の面子がこのまま出番なしというのも寂しいところ…
取り敢えずまだまだ続きますのでお付き合いください!
0930◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/07/23(木) 23:19:12.71ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉はようやくワーウィック大尉を発見した。辺りには敵味方のMSの残骸が散っており、その中に大尉のマラサイを視認出来た。
「また水色!?」
『ニュンペーだ。最後くらい覚えていくといい』
 例の試作機から女の低い声がした。こちらと同じチャンネルに繋いでいるのか。
「大尉!無事ですか!?」
『ん…一応…な。しかし…待ちくたびれたぞ』
 返答があるものの、機体を見るからに大丈夫とは思えない。両腕をもがれている上各部の損傷も激しく、これ以上の戦闘は不可能だろう。
『少し…休ませてくれ…』
「はいはい」
 着地し、ニュンペーと名乗った試作機と相対する。かなり消耗している様子だが部位の欠損もなく、大尉に比べれば綺麗なものだ。

「何で同じチャンネル開いてるわけ?」
『まあ、お互いに積もる話も色々とね』
「胡散臭…」
 軽く苛立ちを覚えながら、念の為周囲を確認する。動ける敵機はニュンペーだけの様だ。
「あんたさえぶちのめせば良いのね?」
『そうだ。私もお前さえ倒せば全てが終わる』
「別に何も終わんないわよ。何言ってんだか」
 ニュンペーにライフルを向ける。よく見ると敵は何も武装を持っていない。
「丸腰でやる気?」
『心配無用』
 そう応えるなり、ニュンペーはこちらに向かってきた。
0931◆tyrQWQQxgU
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2020/07/23(木) 23:19:57.27ID:/Z+V/y3V0
「!…速い」
 瞬時に懐に潜り込まれる。慌てて応戦しようとしたが、敵の方が速い。ライフルを構えていた腕を取られ、あらぬ方向へ曲げられた。MS故に関節の自由度は高いが、それでもかなりの負荷が掛かる。
 その上この至近距離では、斬りかかろうにも薙刀ではリーチがあり過ぎる。
「だったら!」
 薙刀の下部を切り離し、長柄のビームサーベルに切り替えた。逆手に持ち替え敵に突き立てにかかる。流石に狼狽えたのか、それを躱しながらニュンペーは再び距離を取った。
『…先程のマラサイの方が骨があったかな』
「大尉は強いよ。でも私も強い」
『2人して手負いも倒せずに?』
 そういうニュンペーの手には、ガンダムが持っていたライフルが握られている。腕を取られた時だとこちらが気付くのとほぼ同時に発砲してきた。

「泥棒!」
『盗られる方が悪いね!』
 射撃を避けながら距離を保つ。更に敵は、こちらを追いつつ先程切り離した薙刀の片割れも拾い上げる。
「人のものばっかり使って!」
 急制動を掛けて身を翻すと、宙返りして敵の頭上を取る。が、いつもより明らかに機体が重い。
「ちい!アポジモーターがどうこう言ってたねそういや!」
 構わずそのまま敵に斬りかかる。
『遅いね』
 ニュンペーは斬撃を容易く躱すと、すれ違いざまに斬りつけた。これを躱しきれず、ガンダムは胸から左肩にかけて傷を負う。しかしまだ浅い。
「まだまだぁ!」
 着地するやいなや、更に敵へサーベルを見舞う。しかし、どれだけ切り結んでも手応えがない。全て肩透かしの様な感覚すら覚えた。例の学習装置がなせる技か。
『援護が無ければ…ガンダムもこんなものか!』
 敵のサーベルによる反撃を腹に受け、一瞬足が止まる。
『死ねッッッ!』
「誰がッッッ!!!」
 ニュンペーの振り被った薙刀に、逆手に持ったガンダムの薙刀を合わせる。かなり強引だが、再び薙刀を元の1本に戻した。
『何!?』
 敵のドライブが切断され、ビームが消えた斬撃は空振りに終わる。コントロールを奪った薙刀をそのまま敵の肩に突き立てた。
「お返し」
 そのまま最大出力でビーム刃を形成する。溢れるメガ粒子で敵の左肩が弾け飛んだ。
0932◆tyrQWQQxgU
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2020/07/23(木) 23:20:44.65ID:/Z+V/y3V0
『小賢しい真似を…!』
 衝撃で体勢を崩しながらも、ニュンペーは苦し紛れに右肩の拡散ビーム砲を放つ。正面からそれを浴びたガンダムは、両腕で身を庇いながらも大きなダメージを被る。
「何なのよ!内蔵武器あったの…?」
 敵が後ろへ下がるのを確認すると同時に、モニターがやや乱れる。サブカメラをやられたらしい。
「はあ…あんたやるね。名前は?」
『今更聞いてどうする?』
 爆散した自らの左腕からライフルをもぎ取ると、再び発砲してきた。付かず離れずの距離で敵の射撃を躱す。
「何か武器は…?」
 逃げ回りつつ辺りを探すと、友軍が落としたらしいビームライフルを見つけた。その場に転がる様にしてそのライフルを拾うと、膝立ちで狙いを定め敵を撃つ。
『そういえばいつものネモが居ないな!』
「あんたらが落としといてよく言う!」
 フジ中尉ほど正確な射撃は出来ない。その上ニュンペーの動きは素早く、コックピット内の補助スコープを使用してもなかなか命中しない。腕の損傷もあり照準がブレる。
「もう!腹立つ!」
 スコープを押しのけながら少尉は喚いた。ライフルを携えたまま、こちらから突っ込む。当たらないなら近づいて撃てばいい。

『どうしたガンダム!!』
 近距離の射撃すらニュンペーは躱す。こちらの行動パターンがわかっているかのようだ。
「この子の名前はマンドラゴラ!あんたこそ覚えておきなよ!」
 データ頼りな動きをするというのなら、敵の意表を突けばいい。ライフルを持ち直すと、ガンカタの要領でトンファーのようにして敵の腹部を殴った。
『くっ!』
「あら、初めて?優しくしてあげようか?」
 右手のトンファーと左手の薙刀。長短を使い分けて敵に間合いを測らせない。まして片腕では捌けるはずもなく、ガンダムは敵の頭部を薙刀で切り飛ばした。
 とはいえ、ビームライフルもそんな使用を前提には作られていない。何発か殴るとすぐに使い物にならなくなった。ねじ曲がったライフルを捨て、両手で薙刀を構え直す。
「これで!」
『舐めんじゃないよッッッ!』
 敵が吠えた。また先程の拡散ビーム砲を撃つ。ビームを浴びながらも、薙刀を銃口に突き立てようとした。ビーム刃が敵に触れた時、放たれたメガ粒子が刃のIフィールドで偏光して花火の様に辺りに散らばる。
「くっそ…!」
 狼狽えた少尉は思わず下がる。敵はそれを見落とさなかった。右肩にダメージを負わせつつも、頭部を掴まれガンダムは押し倒された。両腕の上に脚を乗せる様にして組み敷いてくる。
0933◆tyrQWQQxgU
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2020/07/23(木) 23:21:16.06ID:/Z+V/y3V0
『撤回するわ…。強いね…あんたも』
「そりゃ…どうも…」
 お互いに息を切らしながら睨み合う。こちらを見下すニュンペーのモノアイが赤く光っていた。
『いいね…教えてあげる。私はドラフラ・ウィード少佐』
「…ふん。ゲイル・スクワイヤ少尉よ」
『ゲイル…スクワイヤ?』
 ウィード少佐が聞き直した。
『ああ、思い出した。あんたが例の?』
「何よ…」
『あんたの親父さん知ってる。もう死んだって聞いたけど』
 衝撃が走る。少尉は全くこの女を知らない。父が死んだ?
『…何も知らないくせにエゥーゴに居るの?名字まで変えてさ』
「別に…。何か知ってる風だね…」
 少尉は奥歯を噛み締めた。ウィード少佐と名乗るこのパイロットは父のことを知っているらしい。
『ヴォロ・アイバニーズ…。時代遅れな特務部隊の隊長だろ?随分前会った時、娘がエゥーゴに居るって言ってたからね。親不孝なやつもいるもんだと思って覚えてたよ』
「嘘…」
 父の死を、こんな形で知ることになるとは思ってもみなかった。一瞬、最後に見た父の姿が脳裏をよぎった。

58話 データ
0934◆tyrQWQQxgU
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2020/07/23(木) 23:21:44.59ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉は耳を疑った。父がティターンズに居たのか。
「何で…父さんが」
『…は?私が知る筈無いだろ。ニューギニア基地はとっくに陥落してる。あんたらエゥーゴが落としといて何を』
 ニューギニア基地はワーウィック大尉が前に居た戦線だ。父が連邦の人間だということは知っていた。恐らくそれなりに高い地位に居たであろうことも。わざわざ母方の姓を名乗って、七光りを隠そうと躍起になっていたところもあった。
 しかし、それがティターンズだったとは聞いていなかった。この女の言う通りなら、特務部隊故に知らなかったのか。
『…余計なことを話したみたいだね。気にしないで。すぐにあんたもあっちに逝くんだし』
 ガンダムから薙刀をもぎ取ると、ビーム刃を掲げた。
『…あんた達はフリードやラムの仇だ。でも、敬意は払う。だから一瞬で終わらせてあげる…それがせめてもの情け』
0935◆tyrQWQQxgU
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2020/07/23(木) 23:22:37.67ID:/Z+V/y3V0
「私…何も…知らなかった…」
 ニュンペーが薙刀を振り下ろす。荒れたモニターが明るくなった。
「…余計に死ねないじゃない」
 フジ中尉から貰った端末のロードが100%を示す。それと同時に表示された言葉は"形影相同"。
「中尉…だから意味わかんないってば」
 緊急で左肩の接続を切り離し、ギリギリで薙刀を躱した。残る右腕に乗るニュンペーの脚にしがみつき、そのまま引き倒す。
『何を…!』
 形勢を逆転し、跪いたニュンペーの前に立つ。
「私が本当は誰だろうと…」
 離した左腕を拾い上げ、再度接続する。過剰な負荷のせいか、接続部から煙が上がった。
「私は…私の魂を信じる」
 呼応する様にして、サブカメラが復旧する。煙の中でツインアイが光った。

『大層なことを言っても…何も変わりはしない』
 ニュンペーが立ち上がり、こちらに向かってくる。しかし、ガンダムはそれを容易くいなすと脚を払い再び膝をつかせた。
『!?』
「皆…何も知らない癖にさ…知った様な気になる」
 てっきり少尉は、ニュンペーのものと同じ様な敵の行動パターンを受け取ったのだと思っていた。
『馬鹿にして!』
 立ち上がりながらニュンペーがハイキックを見舞う。しかしガンダムはそれに手を添えると、その蹴りの勢いで逆にニュンペーの体勢を崩させた。
『な…何が起こっている!?』
 中尉のくれたデータは敵がどう出るかのデータではなく、自機の特性を活かすにはどうすればいいかというものだった。これまでの戦闘で得た癖の補正や弱点の補強…あくまでも能動的なデータだった。
「私は…全部受け入れることは出来ないかもしれない。でも…」
 少尉は頭を空っぽにした。
「いくよ…マンドラゴラ」
 今は何も考える必要はない。後で考える事が増えただけの事だ。
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2020/07/23(木) 23:24:02.82ID:/Z+V/y3V0
『何をやったのか知らないが…!私達の血の結晶が…そんな付け焼き刃に…!』
 ニュンペーは腕部のビーム砲を放つ。これまでは内蔵兵装はエネルギー節約で極力使いたくなかったのだろうが、そうも言っていられなくなったらしい。形振り構わなくなったのがわかる。
 ビーム砲を躱しつつ、敵の落とした薙刀を取り戻す。
「私に長物は向かない。だから…」
 再度薙刀を分割し、二刀流に持ち替えた。
「その付け焼き刃、2本ならどう?」
『戯れるな!』
 ニュンペーは脚部のクローを駆使して接近戦を挑んできた。こちらの捌く2本の刃に、カポエイラの様にタイミングを上手く合わせてくる。
「…いける」
 こちらからも敵のリズムに合わせる様にして攻防を繰り広げる。そして、そのリズムを意図的に崩した。斬りかかるその時に一部のアポジモーターを作動させることで、動作スピードを瞬間的に早めたのだ。
 その一瞬が敵には捉えられなかった。クローごと右の足首を切り落とす。

『こいつ…!』
 体勢を崩しながらもビーム砲を放ってくる。流石に作動しないアポジモーターが増えてきたのか、躱しきれずに右肩のバーニアが撃ち抜かれる。推進剤による爆発の衝撃で片方の薙刀を落とす。
「ちい…」
『まだ…!まだ終わっちゃいない!!』
 ニュンペーは戦意を喪失してはいない。片膝をついた状態でありながら、残る薙刀も片手で抑え込んでくる。流石にガンダムもパワーが落ちてきているのか、敵に掴まれた左手を振り払えない。
『お前も…道連れだ…!』
 左マニピュレータの手首を握り潰される。お互いの体勢が崩れつつも、ガンダムは残るスラスターで制御しつつ敵に蹴りを見舞った。
「絶対に嫌だね…」
 アポジモーターの稼働率は50%を切っている。今の無茶な制動でもかなりやられただろう。とはいえひとまず敵の武装は殆ど破壊できた筈だ。
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2020/07/23(木) 23:24:27.86ID:/Z+V/y3V0
「こなくそ…!」
 蹴りの勢いそのままに宙返りし、ガンダムは手首を失った左腕で駄目押しに殴りつける。
『ッッッ…!』
 抵抗を試みるニュンペーだが、少尉はもう反撃の隙を与えなかった。半壊した左腕が火花を散らすのも構わず、使えるだけのスラスターを加速させながら両腕で連打を繰り出す。
「あんた達が…!どれだけ…!強かろうが…!」
 ひとつ、またひとつとスラスターが死んでいく。上がらなくなる左腕。
「どんなに…!私を…!憎もうが…!」
 息も絶え絶えになりながら、残る片腕で力の限り殴りつける。倒れそうになるニュンペーに、その時間すら与えない。
「私は…死ねないッッッ!」
 振り被った拳で最後の一撃を叩き込む。ようやくニュンペーは、その場に崩れ落ちた。
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2020/07/23(木) 23:24:53.88ID:/Z+V/y3V0
 満身創痍のガンダムは、半壊したニュンペーを見下ろした。立つことすらままならなくなった敵機は、頭を垂れずにいるのが精一杯の様だった。ガンダムは残っていた最後のビームサーベルを右手に持とうとしたが、マニピュレータが言うことを聞かない。
「もう…勝負は着いたよ…」
『ふざけるな!お前達がそれで良くても…私は…!』
 ニュンペーがここにひとりで居るということは、他の部隊は全滅したということだろう。母艦が見当たらないのは気掛かりだが、友軍らしい友軍は何処にもいない。
『私には…!もう…何も残っちゃいない…!!』
 苦し紛れに撃たれたビーム砲が頬を掠める。2発目は無かった。エネルギーが底を尽きたのだろう。ニュンペーはだらりと右腕を下げた。
「あんたひとりでどうするっていうのよ」
『例え首1つになろうと…お前らに噛み付いたまま死んでやる…』
 少尉は思わず溜息をついた。

「物騒なこと言う割にさ…。結構甘いよね」
『何…?』
 少尉は武器を手放した。
「大尉のマラサイだって、トドメを刺したければいつでも刺せた。あたしにしても、うだうだ口上述べなきゃ殺せたんじゃないの?」
 ウィード少佐は押し黙っていた。
「…結局、復讐なんて柄じゃないんじゃない?あんたのこと…よく知らないけどさ」
『私の大義は…』
 少尉は通信を切った。結局この女は殺してほしいのだ。死ぬ理由が欲しいのだろう。スクワイヤ少尉にはそれが痛いほどよく分かった。まるで自らの身を裂く様に。
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2020/07/23(木) 23:25:20.97ID:/Z+V/y3V0
 少尉は死に興味を抱いた。しかし事の本質は違ったのだろうと、今になって思う。現状を打破できない自分自身に言い訳がしたかったのだ。何でもいいから自分の生に意義が欲しかった。そんな気持ちを誤魔化すように、対岸にある死を羨望したのかもしれない。
 しかし、そんな自分を救い出してくれたのが…ワーウィック大尉であり、フジ中尉であり、グレッチ艦長だった。
 こんな自分に、手を差し伸べてくれた。死への本当の恐怖を知り、傍らに置き、そして実際に我が身を投げ出す理由すら生まれた。それでも尚生きていたいと願える今の少尉にとって、彼女の声は悲痛に思えた。
 きっと自分が多くを得た裏で、彼女は多くを失ったのだ。その幾つかは少尉が奪ったのかもしれない。横凪に腹を裂いたいつぞやのガルバルディを思い出す。
 別のガルバルディや青い大きな機体も、ここに居ないということはそういうことだろう。ガブスレイも静かに沈黙している。
 彼女は、独りだった。
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2020/07/23(木) 23:25:54.87ID:/Z+V/y3V0
「私はもう…あんたから何も奪わない」
 ひとり呟き、ウィード少佐とニュンペーに背を向けると、ガンダムはよろよろと歩き出した。もし撃てるならば、撃てばいい。彼女にはその資格があるだろう。しかしきっと撃たないだろう。彼女自身が、それを望んでいるようには到底思えなかった。
 ただ、その憤りをぶつける相手が欲しかったのだと思う。だから少尉もぶつけられるだけの全てで応えた。それでも、というのなら仕方がないかもしれない。
 すると、背後で大きな爆発が起こった。振り返ると、ニュンペーは跡形もなく自爆していた。
「…馬鹿。死ぬことないじゃない」
 思わず、少尉の頬に涙が伝う。この戦いで、本当の敵は何処にいたのだろう。少なくとも今の少尉には答えが見つからなかった。
「何か…ここんとこ泣いてばっかり…。大尉…」
 機体各部のエラーがモニターを埋め尽くし視界が赤くなっていく中、少尉はマラサイを探した。

59話 形影相同
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2020/07/23(木) 23:26:48.85ID:/Z+V/y3V0
「周辺に敵は居ないな!?」
「はい!いつでも出れます!」
 グレッチ艦長の呼び掛けに、グレコ軍曹も必死で応えた。彼女もよく頑張ってくれている。
 追撃に出たMS隊以外の回収が済み、ワーウィック大尉達を追ってシェルターから出港するところだった。
「しかし…まさか上層部が逃げ出すとはな。敵ながら現場の兵が不憫だ」
 傍でロングホーン大佐が腕を組んでいる。敵の襲撃時に彼がMSで出ると言い出した時は必死で止めた。血気盛んな男だとはわかっていたが、まさかここまでとは思っていなかった。
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2020/07/23(木) 23:27:16.04ID:/Z+V/y3V0
 出港した先に広がっていたのは、激しい戦闘の跡だった。残骸ばかりで生存者は見当たらない。
「必死こいて探せ!まだ大尉もゲイルちゃんも戻ってねぇんだ!」
 グレコ軍曹達に通信で呼び掛けさせながら、艦長自身も艦橋の窓に貼り付いた。動いている機体があればそれだけでわかるのだが、まるで墓場の様に静まり返っている。
「何処行った…?何処にいるんだよ…」
 目頭が熱くなるのを感じながら何度も見渡す。スクワイヤ少尉のことはまるで自分の娘の様に思っていた。大尉と一緒にいた時は思わず怒ってしまったが、内心今の彼なら任せてもいいと思っていた。その彼も見当たらない。
「状況は!?大尉達はまだ戻ってないんですか!?」
 勢いよく扉を開けて入ってきたのはフジ中尉だった。彼も負傷しているように見える。
「わからねぇ…何処にもいないんだよ…」
 艦長は帽子を深く被って呟いた。
「そんな筈ないでしょう!?私も出ます!見つからない筈がない!」
 フジ中尉は再びブリッジから駆け出していった。
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2020/07/23(木) 23:27:45.99ID:/Z+V/y3V0
 艦長の落とした肩をロングホーン大佐が叩く。
「艦長、そろそろ増援も来る。彼らが来てからの捜索というのは…」
「何言ってんです!?もし今!あいつらが怪我でもして助けを待ってたら!誰が助けるってんですかい!?」
 目を見開き、思わず艦長は大佐に怒鳴った。ハッと我に返り血の気が引いた。もうこれで今までのゴマすりも何もかも無に帰った。
「艦長…」
「…も、申し訳…」
 ロングホーン大佐の体格の良さが際立って感じる。殴られるのかと思い目を瞑った。が、彼は踵を返した。
「私もMSで捜索に出る。戦闘ではないぞ…文句はあるまい?」
「へ…?いや、そりゃしかし」
「負傷兵の気持ちも考えず、挙げ句艦長にも怒鳴られてしまった。これでは示しもつくまいよ。なあ?」
「…」
 ズレた帽子もそのままに、大佐を見送ることしか出来なかった。

 その後も捜索は続いたが、一向に彼らは見つからない。余りに状況が酷く、現場での捜索も難航していた。
『艦長、この辺りの区画には居ないようだ』
 ロングホーン大佐もフジ中尉以下動けるパイロットと共に捜索に出て暫く経った。
「そろそろ増援も到着しますな…。結局見つからずじまいか」
 グレッチ艦長も相変わらず艦橋から目視で動きがないか探り続けていたが、成果はない。
「艦長!」
 グレコ軍曹が、これまでにないような大声を出した。驚きのあまり、思わず飛び上がる。
「びっくりさせんな!どうした!?」
「それが…」
 艦長の方を振り返ったグレコ軍曹が珍しく涙を流している。不吉な予感も感じつつ、彼女の見ていたモニターに駆け寄る。
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2020/07/23(木) 23:28:39.83ID:/Z+V/y3V0
『おーい』
 そこには、見るからにくたびれたスクワイヤ少尉とワーウィック大尉の姿があった。ガンダムのコックピットの中の様だ。
「お前ら…!無事か!今何処だ!?」
『座標を今送ります。大尉を回収するまでは良かったんですけど…いやー、ガンダムがガス欠起こしちゃって。駆動系も言う事聞かないから身動き取れなくなっちゃったんですよ。ってか通信機器も壊れかけ…やっと繋がったけど』
 少尉は何でもないことの様に笑う。
「お前…!下手したら置き去りになってたぞ!?」
 涙と鼻水が止まらない。生きていてくれて良かった。
『うわっ、ちょっと、艦長汚い…』
「何とでも言え!…ああ…良かった…良かった…」
 ひと目を憚らずに泣きじゃくった。他のクルー達も鼻をすすったり笑い合ったりしている。
「艦長、ポイントを確認しました!」
 グレコ軍曹が元気に言う。
「おう!軍曹、その調子で頼むぜ!…大佐、そこから向かえますか?」
『無論だ。もう少しそこで待っているがいい』
 身体中の力が抜けた艦長は、思わず尻餅をついた。やっと、コンペイトウを巡る長い戦いが終わったのだ。
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2020/07/23(木) 23:29:08.88ID:/Z+V/y3V0
 ボロボロのガンダムを回収し、時同じくして到着した増援の艦隊と合流する。もう少し早く来てくれれば救えた命もあっただろう。しかし、これでもロングホーン大佐が手回ししてくれた結果だ。本来ならもっと遅れていたと考えれば、これで手を打つより他無かった。
 現場の後処理は到着した部隊に任せて、アイリッシュの面々には暫しの休養が言い渡された。合流部隊との擦り合わせがあるロングホーン大佐を拠点に残し、アイリッシュはコンペイトウの別ドックへと回った。
 最後のシェルター攻防戦でかなりの損傷を負ったこの艦も、そろそろ修繕しなければならない。
「ここは任せる」
 ブリッジをクルー達に預けると、艦長は医務室へと小走りで向かった。
「あ、艦長」
 スクワイヤ少尉の気が抜けた声がした方を見ると、ベッドに寝ているパイロット達を見つけた。暇そうに欠伸をする少尉と、本を読んでいた様子のフジ中尉。大尉が1番重症な様で今も眠っているが、後の2人も安静にしていなければならないと聞いている。
「やっと顔を出せた。お前ら大丈夫か?」
「大丈夫に見えます?」
「少なくともゲイルちゃんは大丈夫そうだな」
 そう言われて少尉が露骨にぶすくれる。艦長にとっては、いつものやり取りを出来ることが何より嬉しかった。
「大尉も気が張っていた様で…ぐっすり寝てますよ」
 中尉が微笑む。彼がいなければスクワイヤ少尉はガンダムの元まで辿り着けなかったと聞いていた。中尉のネモは別部隊が今頃回収してくれていることだろう。
「そういう中尉も安静にしてねぇと駄目だろ?本なんか読んでねぇで寝てろ」
「これはまた酷い言い草ですね。せめて頭くらいは動かしていないと」
「動かし過ぎだろうよ、中尉の場合は」
 艦長は苦笑いした。やれやれといった様子で中尉は本を閉じた。
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2020/07/23(木) 23:29:34.91ID:/Z+V/y3V0
「…艦長ですか」
 大尉が目を覚ました。
「おお、騒がしかったか?すまんな」
「いえいえ、十分に寝ました」
「お前らはほんと落ち着きがねぇな。こんな時くらいゆっくりしてりゃ良いのによ」
「艦長が1番煩いでしょ、どう考えても」
「何だと?」
 少尉に噛み付くと、別の患者を世話していた医師が口元に指を立てた。艦長は申し訳なくなってシュンとした。
「…ほら、怒られた」
 少尉が意地悪く笑う。
「そんなことよりよ、お前らにとりあえず報告をと思ってな」
 艦長は少尉のベッドに腰掛けた。
「今回の作戦でコンペイトウが完全に落ちたぜ。俺たちの勝ちだ。…何だ?喜べよ」
 3人とも浮かない顔をしている。
「…勝ったのは良いんですけど。私達…何と戦ってるんだろうなって思っちゃって」
「まあ…そうだよなぁ」
 少尉の言葉は、今までよりも重く感じた。実際に彼女らは向かってくる敵と命のやり取りを重ねて、敵を殺す実感を伴いながら常に前線にいたのだ。
 掛ける言葉が見つからず、艦長は白い天井を仰いだ。

60話 天井
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2020/07/23(木) 23:30:23.01ID:/Z+V/y3V0
 スクワイヤ少尉は自室で目を覚ました。比較的軽傷だった彼女とフジ中尉はワーウィック大尉よりひと足早く回復後、暫しの休息を許されていた。ベッドから起き上がり、のそのそと着替える。昨夜に聞いたコンペイトウの近況を思い出していた。
 コンペイトウ制圧後、エゥーゴの部隊は戦闘で半壊した基地の整備を進めていた。基地に残されていた少数の捕虜を受け入れつつ、拠点の調査や捕虜の証言などで基地の役割の全容が見えてきていた。
 ロングホーン大佐達の読み通り、ティターンズは大量破壊兵器…コロニーレーザーの建造に着手していた。コンペイトウはその資源の加工・中継なども担っていた様だ。しかし既に粗方の作業は終えていたらしく、拠点としての役目を一定終えた後だったことが伺える。
「んー…」
 背伸びをして制服の皺を伸ばす。休息と急に言われても何をしたら良いかわからない少尉は、とりあえずブリッジへと向かった。
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2020/07/23(木) 23:30:47.14ID:/Z+V/y3V0
「おう!お前らは休んでて良いんだぞ?」
 腕組みしたままグレッチ艦長が振り返った。
「そんな事言われても、こんな場所じゃバカンスって気分でも無いし。…少し痩せました?」
「おっ、そうかな?」
 艦長が少し嬉しそうに腹をさする。多分飲酒の量が減っているのだろう。酔っている暇もなかったか、酔えなくて飲むのを辞めたのか。
「まあ…まだ飛び出てますけどね、そのお腹」
「お前とは胃袋が違うんだ、胃袋が」
 艦長はそういってさすっていた腹をポンと叩いてみせた。
「ま…後で教えようと思ってたんだがな。…キリマンジャロ、落としたみたいだぜ」
「へえ。じゃあ地上の大きな拠点はひと通り攻略出来たんですね…」
「ダカールの議会がまだ残ってる。軍事施設の掃討はカラバに任せられる規模になってきたみたいだけどな」
 少し前まではティターンズの天下だった地球も、勢力図が大きく塗り替えられてきた。ジャブロー攻略に始まり、それこそニューギニア基地の攻略も大きな転機になったはずだ。
「…艦長」
「どうした?」
「ニューギニア基地攻略の話…いや、私の知りたい事…何か知ってます?」
「…」
 艦長が押し黙った。心当たりのある様子に見えた。
「私…」
「…あー…疲れた!軍曹、ちょっと久々にサボってくるわ」
「え、でもロングホーン大佐が…」
 グレコ軍曹がおどおどと慌てる。
「適当に話合わせといてくれ!…付き合えやゲイルちゃん」
 呆れているグレコ軍曹に苦笑いしてみせつつ、少尉は黙って艦長についていった。
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2020/07/23(木) 23:31:17.88ID:/Z+V/y3V0
 艦長の自室前までやってきた。
「お前、俺の部屋来るの初めてだなそういや」
 そう言いながら扉を開けた艦長は、どうぞといった風に手で部屋へと促した。
「へー、意外と片付いてるもんですね」
 少尉が部屋へ足を踏み入れると、小綺麗な空間が広がっていた。見るからに高そうなオーディオやウィスキーのボトルが目に入る。月面でのゴタゴタの中で積み込んだと思うと、力の入れる場所を幾らか間違えている気もしないではないが。
「まあ適当に座れ。…水でいいか?」
「コーラとかないんですか?」
「オーケー、水でいいな」
「聞く意味ありました?」
「生憎切らしててな」
 近くにあったスツールに腰掛けつつ、艦長からコップを受け取る。
「で、ニューギニア基地の話だっけか。俺も当然現場にいた訳じゃないが…何故今更そんな事を気にしてるんだ?」
 横並びにグレッチ艦長も腰掛けた。
「…私、まどろっこしいいい方は性に合いません。その…艦長ならヴォロ・アイバニーズのこと…」
「何処で聞いた?」
 珍しく艦長の反応は早かった。声もいつもより幾らか落ち着いて聞こえる。
「コンペイトウで…成り行きですよ」
「成り行き…まあ、そういうこともあるのかね」
 立ち上がった艦長は、自分のグラスを注いだ。
「…ここから先、お互いに隠しっこは無しだぜ」
 片手にグラスを持ち、片手で少尉を指差しながら艦長が眉をひそめた。水を口に運びながら、少尉は次の言葉を待つ。
「一年戦争終盤だったかな。ゲイルちゃんの親父さんには世話になった事があってな…。あれはそれこそコンペイトウ、いやソロモンで前線にいた時の話だ」

61話 成り行き
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2020/07/27(月) 00:04:25.76ID:xPbph6ya0
 いつかこんな日が来るのだろうとは思っていた。グレッチ艦長は軽く溜息をついた。
「先にひとつ言っとくが、お前の親父さんは確かにティターンズだった。だが、だからって悪人だった訳じゃあない。寧ろ出来た人だった…怖いくらい」
 スクワイヤ少尉は、手に持った水に映る自らの顔を見つめている。
「昔の話になるが、俺は当時イケイケのバリバリだった…」
 それを聞いた少尉が笑って鼻をこする。艦長としては少しでも気を楽にして聞いてほしかった。実際には、当時の艦長は今よりももっと気弱だったものだ。
「そんな俺も、戦艦が沈むとなればどうしようもなくてな。ソロモンでの戦いで乗艦がやられた。だが…当時の上官は退くことを良しとしなかった」
 口にしながらその時のことを思い返す。
レス数が950を超えています。1000を超えると書き込みができなくなります。

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