宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど
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小説書いたこともなければスレッド建てるのも初めてなんだけど、もし誰か見てるなら投稿してみる >>696
コロニー外壁の件、確かに>>688で残骸を盾にしていましたね!失礼しましたw
しかし月面へのコロニー落としというと0083やZでは専らフォン・ブラウンが狙われてましたけど
地球の1/6という中途半端なGや大気圏がない(=燃焼しない)ことを鑑みると、案外事故が頻発してるかもですね。
月面都市の天蓋に当たった日には大惨事でしょうし、CCA冒頭のコロニーのような対空レーザーが完備されてるのかも
こうなるとZ序盤でカミーユ達とカクリコンが撃ち合っていた灰の谷も、墜落した輸送船の墓場だったりとか...?
それならハロの1匹くらい残ってそうですね、これだから二次創作は想像させてくれるんです(アイーダ姉さん並感)
ニュンペーはセックスしかないあの人の試作機でしたか(語彙力)。
なんとなく近藤版ジ・Oの量産機ブレッダのイメージで想像していたのですが、汎用機を目指すならこっちでしょうね。
モジャモジャした物が嫌になった人も、火力支援より前に出ていたイメージが強いです
引き続き、よろしくお願いします いつの間にか第二部が
続きが気になっていたので楽しみです >>698
グリプス戦役もそうですが、月って何かとイベント起きやすいので、こういう時描写が楽です笑
そうですその人です!笑
試作機というよりは一般機向けに開発したものからデザインを流用して、後から作ったワンオフがシャア元カノのものになったイメージでしょうか?
ティターンズに参加した時点でシロッコは成り上がり上等だったと思うので、あの位の時期なら一般兵の乗る機体を設計しなかったとは思えないんですよね。その辺の下りも後々…
>>699
ありがとうございます!
また更新するので引き続きよろしくお願いします! お待たせしました!
公私ともにちょっと忙しかったもので…。
纏まった話数が準備出来たので投下します! 「中尉!大尉…!!こいつ等ぁ…!!」
スクワイヤ少尉は怒りを剥き出しにして吠えた。
『くっ…!冷静になれ少尉!』
複数被弾しながらも大尉は持ち堪えている様だ。しかしこのままでは押し込まれる。フジ中尉も応答がなく、月面に座礁したままだ。
まずは中尉をやったガルバルディの息の根を止めねばならない。機体を捻る様にして方向転換すると、そのまま突っ込んだ。
敵が迎撃しようと射撃してくるも、狼狽えて撃つ弾など大した事はない。身を翻してそれらを避けていく。
躱しながらこちらからもライフルで応戦するが、どうにも照準が振れて定まらず少尉は眉をひそめた。機体の急激な機動にライフルが振り回されている様だ。
「ちぃ!」
射撃を諦めた少尉はガルバルディβにサーベルで正面から斬りかかる。すると、メインカメラを失った筈のガルバルディαが横から突きかかってきた。
寸でのところで後退して躱し、逆に蹴り飛ばす。弾かれたαの傍へとβも下がった。
「視えるの!?」
βが倒れたαに手を添えると、ガルバルディ達は立ち上がりながらこちらを向いた。どうやらカメラの情報を共有して補っているらしい。
「触れ合ってベタベタして…気持ちの悪い…!」
両機を引き離して各個撃破するか、或いはまとめて落とすのもいい。再び突進して横凪に一閃か、仕掛けてきたところを回り込んで2枚抜きか…幾つも方法を巡らせた。
しかし、敵はこちらに積極的な攻撃を掛けてこない。時間稼ぎか?しばし睨み合いになった。 『少尉!落ち着けと言っているだろう!』
「落ち着いてられますか!」
『それでも落ち着くんだ。周りを見ろ』
傍に大尉の百式が降りてきた。機体のあちこちに弾痕が残っている。
対して、例の謎の機体はこちらを見下ろしたまま動かない。その後ろで、ガルバルディ達がバーニアを吹かし肩を貸し合う様にして下がっていった。
「また逃げる!」
こちらが追う素振りをみせたその時、ガルバルディと入れ替わる様に敵のGM2小隊が現れた。この部隊の到着を待っていたのか。流石に劣勢である。
『中尉の安否も気になる…彼の機体を回収して後退する』
「でも、このままじゃ」
『…少尉は中尉を連れて基地へ走れ。私がその間敵を食い止める。…こっちも積んだばかりの隠し玉があるんでな。まだテストもしちゃいないが』
明らかに手負いの機体に乗っている大尉が、笑ってみせた。この状況で何処に隠し玉があるというのか。
「大尉…」
『よし、行ってこい。少し良いところ見せてやるから』
GM2の小隊がジリジリと迫る。少尉は急ぎ中尉のネモを抱きかかえた。月の重力下でも、ガンダムの膂力ならどうにか運べる。
全力で戦線を離脱しながら、ふと大尉の方を振り返った。フレキシブルバインダーから外した柄のようなものとサーベルを連結して、基部からナタ状の刃を形成している。
「あれが隠し玉…?あれだけでどうするっていうのよ…!」
やはり大尉は強がっているだけだ。あのままでは流石の彼でも物量に呑まれてしまう。しかし少尉にはどうすることもできない。とにかく全力で基地へ向かう。 『…スクワイヤ少尉か…?』
退却する道の中腹あたりでフジ中尉が目を覚ました。
「…!今は無理しないで」
『どうなっているんだ…状況は…?』
「敵が増援を呼んでまずい感じです。大尉が食い止めてるうちに後退しないと…でも…」
『…そうか。…私の事はいい…ここまでくればひとりでも大丈夫だ…。少尉は大尉の後退を掩護してくれ』
そういって、中尉は機体を自分で起こした。
「ほんとに大丈夫なんですか!?」
『ああ。これまでも嘘はつかずに付き合ってきたつもりだがな』
確かに毒づく元気はあるとはいえ、さっき意識を取り戻したばかりだ。
『いいから行け!急がないと手遅れになる!』
中尉が珍しく口調を荒げて言った。彼の言う通り猶予は無かった。
「了解…!」
少尉は来た道を再び全力で戻った。果たして間に合うだろうか…? ガンダムの機動性を以てすれば、この距離を戻る位は大して時間もかからない。すぐに先程の地点の機影が見えてくる。スクワイヤ少尉は、見えてきた光景に息を呑んだ。
先程のGM2の小隊…10機とはいかないまでもそれなりの数が居たはずだった。それが、2,3機しか残っていない。その討ち果たした残骸の真ん中で暴れ回っているのは、紛れもなく大尉である。得物が変わるだけでこうも変わるものなのか…。
大尉の百式改は、バイザーの奥で光る赤い光の尾を引きながら敵に向かっていく。その動きは、まるで狩りでもするかの様な威圧感を放ち、俊敏かつスムーズである。明らかに敵が気後れしているのがわかった。
敵のサーベルが届くよりも随分早く、ナギナタの間合いは敵を捉える。大尉は殆ど無抵抗に近い状態の機体を次々と切り刻んでいった。
『はぁ…はぁ…ん?…中尉はどうした?』
全ての敵を斬り伏せた大尉が、少尉に気付いた。
「意識が戻って、自力で帰還できると。私は大尉の掩護をするよう指示を受けました」
『そうか、無事なら良かった。こっちもどうにか雑魚は片付けたが、例のテスト機達を追うのは叶わなかった…』
そういって大尉の百式は宇宙を見上げた。もう敵のMSは1機も見当たらない。敵艦はMS隊の回収のみで離脱した様だ。
「結局私は連中に勝てませんでした…」
少尉も周囲を見渡しながら、小さく呟いた。
『後で反省会でもやるか?とはいえ、とにかく防衛には成功したといっていい。まずは戻ってフォンブラウン市の被害も確認しないとな』
折角のガンダムもこのままでは宝の持ち腐れになってしまう。先程の大尉の働きを見てしまうと、自らの未熟さが余計に身に沁みた。
14話 隠し玉 「脅威は去った…てなところか」
戦況の一部始終をアイリッシュ級のブリッジから見ていたグレッチ艦長は、敵の反応が消えたレーダーを見ながらどかっと椅子に座った。
先程ひとり帰投したフジ中尉が医務室へと運ばれたばかりだ。暫くしてワーウィック大尉達も戻るだろう。
辛くも防衛は叶ったが、早々に新型が中破。残りの連中の機体も調整の必要がある。ドックは好きに使っていいと言われているが、それ以前にこの椅子に座る自分にも実感の沸かないままだった。
グレッチ艦長は一年戦争時、ルナツー艦隊所属のサラミスで副官を務めていた。当時の上官とはあまり馬が合わず、お世辞にも良い環境とは言えなかったものだ。
ソロモン攻略戦で敵の巨大MAの流れ弾に当たった際、脱出の是非で完全に対立。軍法会議上等で従うクルーを連れて脱出したその時、母艦はメガ粒子砲の直撃を受けて轟沈した。
その後友軍に回収されたのだが、ア・バオア・クーを攻める本隊には合流せずそのまま改名したコンペイトウに駐軍。本来合流予定だった艦隊は、続く攻略戦でソーラレイによって宇宙の藻屑になったと聞く。
そうして幸か不幸かのらりくらりと生き延びた戦後、空席を詰めるようにして昇格していったのだった。デラーズ紛争の頃には月に勤務し、それから長い間哨戒任務ばかりしてきた。
エゥーゴに参加したのも成り行きで、定まってきた環境を派閥の内紛でいちいち変えたくなかっただけだ。
これまで色んな場所を転々としてきて、ようやく月に慣れてきたところなのだ。自分の周りが乗った船に同乗したに過ぎない。
そう思っていたにも関わらず、気付くと新造艦の艦長だ。全くもって本当に飲みたい気分だった。
「大尉達も戻りました」
グレコ軍曹が報告する。思えばクルー達も若い者が増えた。親交の深い戦友も数えるほどになってしまった様に思う。
「そうか。たまには俺の方から出向いてやるかな…」
そういって馴染まない椅子から腰を上げると、その場を任せてドックへと向かう。 整備ドックでは、帰還した防衛隊に加えてガンダムや百式改も並んでいた。どの機体もそれなりに整備が必要と見える。
遠目にそれらを眺めていると、その中に敵のものと思われる中破したガルバルディらしき重MSも混じっていた。鹵獲に成功したのだろう。
「艦長!只今戻りました」
丁度ドックの出入口に向かってきていたのはワーウィック大尉とスクワイヤ少尉だった。
「無事で何より」
「いえ…敵にしてやられました…。未確認の機体を引き摺りだすまでは良かったんですが、私も気が逸ってしまいました」
口惜しそうな大尉の傍で、同じく少尉も機嫌の悪そうな顔をしている。
「中尉はどうです?」
その少尉が口を開いた。
「ああ。頭を打ってる様だが、今回は頭が堅いのが幸いしたみたいだな!一応検査は受けさせるが、大した事はないだろうよ」
そういうと少し彼女も笑った。自分にも娘がいればこの位の年だっただろう。 「そういえば、防衛隊が捕虜を1人連れて帰ったとか」
ドックを振り返りながら大尉が言う。
「大尉の手柄かと思ったが違うのか」
「私はそこまで上手くはやれませんでしたよ。敵を引きつけるのが精一杯で」
謙虚な男だ。彼が小隊1つ叩きのめすところは、中尉のネモが中継したレーダーから確認していた。
何故これ程の男が着任したのか不思議だったが、新造艦が回されてきた今となってはその前触れだったのだとわかる。
「大尉の働きぶりも観ていたよ。どうやったらあんな芸当が出来るんで?」
「まだまだですよ。強いて言うなら…殺した分だけ殺されかけてきましたから」
ことも無げにそういうが、歴戦の勇士というやつなのだと思う。
「今頃捕虜はロングホーン大佐にこってり絞られてるだろうな」
「あのおじさま、おっかない感じしますもんね」
少尉が言う。確かにグレッチ艦長も挨拶した時は威圧感で小さくなる思いだった。ああいうまさに軍人という風な手合いは正直苦手だ。
そのまま簡単に報告を受けた。惜しいところだったが、やれることはやったといっていいだろう。
「まあ、2人も今のうちに休め。整備もここでならしっかりやってくれるだろうよ」
「ありがとうございます」
グレッチ艦長は踵を返すとそのままブリッジへと戻った。サラミスとは違い、廊下すら随分と広い艦である。知らない場所に迷い込んでしまいそうだと思いながら、彼はこれからの事を考えて軽く溜息をついた。
15話 迷い込んでしまいそう 「捕虜とは言っても手荒い真似は出来ん。同じ地球連邦の軍人であることに変わりはないしな」
ロングホーン大佐は、入室するなりその味気ない個室に入れられた男を見た。随分と鍛えているであろうその筋肉は、支給した服の上からでもよくわかる。
とはいえ、特に暴れるでもなく大人しいものだった。念の為、大佐の後ろには2人の士官が控えている。
「ラム・ソニック大尉と言ったか。ティターンズの作戦…半分はうまくいったぞ。フォンブラウン市が敵の手に落ちたというのは事実のようだ。
しかし…このアンマン市を落とすには戦力が足りなかったな。所詮君らは陽動部隊か?」
ソニック大尉は何を言うでもなく押し黙ったままだ。拘束はしていないが、身動ぎひとつみせないまま簡易ベッドに腰掛けている。
「…黙っていても一向に構わんが、話すことで救える命もあると思うがね。計画の中身が判れば、要らぬ交戦は避けられる」
大佐は彼の目の前に椅子を引いて腰掛け、正面から向き合った。大佐より一回り大きな体躯だ。
「君自身も交渉カードの1枚だ。アレキサンドリア級はこの宙域に留まったままだからな…まだ何かやる気なら、こちらも手を打たざるをえんだろう」 「…大佐殿、何故我々は戦わねばならないと思われますか?」
ようやくソニック大尉が口を開いた。
「ふむ…。そうだな、君らの思想と行いが危険だからだ。ジオンの敗戦理由はその危険な選民思想と大量虐殺だと私は思うのだが、君らティターンズも同じことをやっている」
「そのジオン残党を狩るのが我々の任であります。それに虐殺などありえない。あなた達エゥーゴは彼らを庇うでしょうが」
「君らの知らない事も我々は知っているのかもしれん。エゥーゴに転向した元ティターンズ兵にも、多くを知らない者が居たようだしな。…地球至上主義とジオンの選民思想に大した違いはないぞ。
実際、今回のアンマン市強襲にしても市民の生活を脅かさないやり方は幾らでもあった筈だ。そういう部分を省いてしまう性急なところもそっくりだな」
「我々は義に背いた事はしていません…!」
「その義ってのがね…間違っているのだよ…」
大佐はわざとらしく溜め息をついた。それを見て大尉も口を噤む。恐らくこの会話は平行線だ。話し合いで解決するのなら、我々軍隊なぞそもそも必要で無いのだ。 「…作戦について話すつもりはないのか」
「私は…この鍛え抜いた身体以外、真に語る術を持たんのです。口先では同じ問答の繰り返ししか出来ません」
その目は真っ直ぐだった。悪い男ではない。だが、それだけで全てが許される訳でもない。
「そこまで言うのなら、良いだろう」
大佐は椅子から立ち上がると、彼の横っ面を思い切り殴った。それでもソニック大尉は座ったままの姿勢を崩さない。口を切ったのか、唇に血が滲む。士官が慌てて大佐を止めに入る。
「止めるな。…ソニック大尉、君も殴られるばかりでいいのか?やり返してもいいんだぞ?」
「そこまでおっしゃるのなら、良いでしょう」
そっくりそのまま返す様にして、彼はゆっくりと立ち上がった。
「実戦の現場から離れて久しくてな」
「言い訳は聞きませんよ。鍛錬こそが全て…ッッッ!」
言うやいなや鉄拳が襲いかかる。狭い部屋なだけあって大佐のすぐ後ろは壁だった。拳を見極め躱すと、ソニック大尉はそのまま壁を打ち抜いた。
「これはなかなか…」
その隙に懐に潜り込んだ大佐は、右のアッパーを綺麗に顎に入れた。食いしばった大尉だが、その眼光は変わらず大佐を捉えたままだ。
右の拳を壁から引き抜く動作と同時に左の膝蹴りが来る。咄嗟に腕を畳んで横から受けるも、余りの衝撃に足が地から離れる。
「伊達じゃ無いようだな、その鍛錬とやらは…」
そのまま少し距離を取る形になりつつ、下がる腕を身体に引き寄せた。今のはなかなか効いた。 コーナーに追い詰められた大佐だったが、流石に士官達が2人掛かりでソニック大尉を抑えつけた。彼もこれ以上やる気は無くなった様で、大人しく跪いた。
「これは私から仕掛けたのだ。変わらずここに置いといてやれ」
「しかし…!」
士官が食い下がるのも仕方ないが、何となくこの男のことがわかった気がしていた。とにかく真っ直ぐな拳と、それを裏付ける信念の強さがあった。
「ソニック大尉…。また機会があれば続きを」
「こんな戯れ…俺の力はこんなものではない…!」
思わず大佐は笑った。むしろ愚直過ぎるようだ。ティターンズにもこういう男がいるのか。
「拳をぶつけた仲だ。悪い様にはせん。しかし敵であるのもまた変わりないからな。利用はさせてもらうぞ」
そういって大佐は跪く彼をそのままにして退室した。
退室して小窓から彼を眺めた。士官達に何やら言われつつ、またベッドに腰掛けている。
それを見届け廊下を歩きながら、大佐は蹴られた右腕をさすった。日頃のトレーニングが無ければ骨の1本も折られていたかもしれない。あのまま続けていたら恐らく一方的な展開になっただろう。
「しかし私もまだまだ捨てたものではないな…」
大佐は1人呟き、笑みが溢れるのを止められなかった。
16話 鍛錬こそが全て フジ中尉が目を覚ますとそこは病室の様だった。むくりと上体を起こす。辺りを見渡すと、他にも手当てを受けている者達が複数居た。
「あ、起きてる」
丁度スクワイヤ少尉がやってきたところだった。彼女はこれといって負傷はしていない様子だ。
「今しがたな。揺らすとまだ痛むが、大した事はない」
そういって頭に手をやると包帯が巻かれていた。それ以外に傷らしい傷はない。
「皆無事か?」
「はい、大尉も。防衛作戦は成功したんですが、まだ敵と睨み合ってる感じで。もうじき全体ミーティングやるみたいです」
中尉自身は流石に次の出撃は見送ることになりそうだが、敵はどう出てくるのか。フォンブラウン市の状況も気になる。 「おう、君らは…。スクワイヤ少尉とフジ中尉だな?」
入室してきたのはロングホーン大佐だった。右腕を庇っている様に見える。2人で敬礼すると、止めろと言わんばかりに手を振った。
「規律などというものは、それだけでは大して当てにならん。大切なのは実務だ。諸君の様に、戦い、敵を倒してくれれば社交辞令などいらん」
「はっ」
変わらず中尉は姿勢を正していた。
「いいから楽にしろ…。私も手当てを受けに来た」
「どうされたので?」
少尉も右腕に気付いたらしく見つめている。
「ちょっとした喧嘩よ。なかなか手強い相手だった」
そういって大佐ははにかんだ。何故本部で指揮を執る彼が負傷しているのか気になった。喧嘩などと真面目に言っているとは思えないが。彼は衛生兵に声を掛けると、その後について去っていった。
「どうしたんだろうな…」
「さあ?階段でコケたの誤魔化してるとか」
「ないな」
「ないですね」 「ところで、少尉は見舞いに来てくれたのか?」
「まあ…そんなところですかね。時間もあったし」
彼女は、ベッドの傍らに置いてあった丸椅子に腰掛けた。
「…負い目は感じる必要など無いからな。あそこでガンダムが被弾するより、私の機体を盾にしたほうがいいと判断しただけだ」
「私は…そんな簡単には割り切れません」
少尉の言う通り、フジ中尉も決して自分を駒だと割り切って動いた訳ではなかった。身体が勝手に動いたようなものだ。
いざこうして口にすると、何かしら後付するかのように理由をつけてしまう癖が付いているのかもしれない。
「何ていうか…敵は連携がちゃんと取れてたなって思って」
伏し目がちに少尉が言う。
「確かに。対して我々は個人プレーの目立つチームではあるな。何だかんだ言ってもあの時は大尉も焦っていたし、私も敵を抑えられなかった」
「そうでしょ?自分なりに考えてみたんですけど…。一緒に戦うなら、その…もっと仲良くならなきゃ駄目かなって…」
「それで見舞いに?」
彼女はやや恥ずかしそうに頷いた。それが可笑しくて中尉は思わず声に出して笑った。案外彼女も彼女なりに考えていたらしい。
「笑わなくったっていいじゃないですか!」
「はは…。いや済まない、君の言うとおりだ。背中を預けられる関係が必要なんだろうな、我々も」
「いつかちゃんと話しなきゃって思ってた矢先にこんなことになっちゃって…遅いのかもですけど」
「いや、その気遣いが私も出来ていれば良かった。さっき大佐も言っていたが、規律や理屈が全てではないものな」
自分でも規律を重視し過ぎたり、理論武装しがちな自覚はあった。決めつけてかかっても必ずしもその通りに事が運ぶとは限らない。
その証左に、連携とは無縁に思っていた彼女が自らその改善を口にした。皆自分の知らないところでも戦っている。
「次の出撃までに、大尉も交えて話そう。私はすぐには前線に出られないかもしれないが…」
「大丈夫ですよ。中尉は今は休んでください」
席を立ちながら彼女が笑った。2人で話して笑うところを見るのは珍しい気がした。それだけでも幾らか関係は改善したのかもしれないと思えた。
「そんじゃ、私はこれで」
「ああ。時間に遅れないようにな。重要なミーティングになる」
「そういうとこですよ中尉!」
また笑いながら、スクワイヤ少尉は病室を出ていった。思わず中尉も少し笑みを浮かべていた。
17話 規律などというもの 「くそっ…」
ウィード少佐はブリッジの椅子に片肘を付きながら苛立ちを募らせていた。対照的に、レインメーカー少佐はいつも通りただ静かに傍で立っている。
その前でパイロットの2人…ドレイク大尉が窓に寄りかかり、オーブ中尉は地べたに座り込んでいる。
「睨み合いね…」
ドレイク大尉が窓の外の月を眺めながら言う。戦域は離脱したものの、すぐに動き出せる位置で待機している。どちらが先に動くかはまだ読めない。
「そうは言ったって、こっちはもう殆ど出せる機体も無いじゃない。ラムだってどうなったか…」
落ち込んだ様子のオーブ中尉が、体操座りで顔を膝に埋めながらこぼした。ソニック大尉は皆を逃がす間もひたすら単騎で持ち堪えていたが、ウィード少佐がニュンペーで支援を試みた際にはもう時既に遅かった。
その上助け出そうにも、中尉の言う通りまともに稼働出来る機体は最早ニュンペーくらいなものだった。第2陣で入れ替わる様に到着したGM2に至っては全滅である。
「ラムの救出と作戦をうまく絡められないかしら?何かしら交渉取引して…」
ドレイク大尉の言う対応が出来れば勿論良いのだが、ウィード少佐はなかなかそれを思いつけずにいた。
「そうなるとこちらも対価になるものを差し出さなければならない。あちらは間違いなく、アポロ作戦の内容を知りたがるに決まってる…。楽観的に見積もってもニュンペーを差し出せって位の事は言うでしょうね。あれも渡せない」
対応策が思いつかないまま沈黙が流れる。 「でも、ラムが簡単に口を割るとも思えないよね。あれで義理堅いやつだから」
オーブ中尉が立ち上がりながら言う。
「あいつが喋らなければ、それだけ情報の類の希少性は増すわね。相対的にラムを拘束する価値も下がっていく。いい塩梅で痛みの少ない情報を差し出せないかしら?」
ドレイク大尉は窓を眺めるのをやめて、こちらに向き直った。
「んー…そうね…」
引き続き頭を捻り続けるが、答えは出そうもない。些末な情報が今後命取りになりはしないだろうか。ここでソニック大尉を救えても、後々全滅しては元も子もない。
「お嬢さん方。ここは私が交渉致しましょうか?」
ゆっくりとそういったのはレインメーカー少佐だった。
「おお!困った時のじいさま!」
オーブ中尉が目を輝かせて言う。
「はい。困った時の為のじいさまでございますよ」
レインメーカー少佐が優しく微笑む。しかし裏を返せば、彼ももう黙ってはいられないということでもある。
「それで、どうするっていうんです?」
正直、ウィード少佐には渡していい情報がどれなのか判断出来なかった。
「大したことではありませんよ。…知らぬ存ぜぬを突き通すのです」
盲点だった。思わず開いた口も塞がらない。
「勿論、ソニック大尉が口を割っていない前提ですがな…。我々は何も知らされておらぬと。
ただ通達されたタイミングで攻めたのだと、その一点張りで良いのです。今のところは見逃して撤退してやる代わりに捕虜を返せと言いましょう」
確かにこれなら撤退の口実にもなる。実情は攻めたくてももう攻められないのだが、敵からすればまだこちらの保有戦力などわかるまい。
とりあえず捕虜を返すだけでその約束が取り付けられるのなら、エゥーゴも乗ってくる可能性は十分ある。 「流石じいさまですわね」
ドレイク大尉も乗り気の様である。
「しかし、ラムが口を割っていたら…?」
薄々わかりながらも、ウィード少佐は聞かずにはいられなかった。
「勿論その時は交渉決裂。それどころか我々も嘘がバレますから…下手すればそのまま追撃が来て全滅でしょうな。情報も連中に渡ることになります」
こともない風に笑いながらレインメーカー少佐が言った。
「ラムは大丈夫だよ!絶対何も言うわけない!」
オーブ中尉が詰め寄る。
「まあ…何か漏らしてれば敵に動きがあるでしょうしね。それもないなら今のところは大丈夫でしょう」
ドレイク大尉も口添えした。やるなら今しかない様だ。
「わかったわよ。レインメーカー少佐…交渉の準備を」
「はい。お任せを」
まだ不安の拭い切れないウィード少佐をよそに、彼は朗らかに笑った。
18話 嘘 全体ミーティングを始めようとしていたその時、敵艦であるアレキサンドリアから打診があったとの報告が入る。捕虜の取引である。ロングホーン大佐は唸った。会議室に招集された面々がざわついている
「あと少し遅ければこちらが先手を打ったのだがなぁ…。どうしたものか」
皆顔を見合わせている。
「交渉にはナイト・レインメーカー少佐なる人物がこちらの拠点までランチで出向くとの事です。内容は…」
側近の士官が報告を続ける。敵は攻勢に出るより捕虜の奪還を優先したい様だ。捕虜を引き渡せば一旦退くというが…。
「判った、もうよい。…捕虜からは情報を引き出せなかった。私も立ち会ったが、なかなか律儀な男の様でな」
「フォンブラウン市の状況はどうなっているんでしょうか?」
ワーウィック大尉だった。防衛戦におけるMS隊の活躍は言うべくもないが、試作機に関しては今回も取り逃したと聞く。
「それだがな。経緯としては、脅されたフォンブラウン市側が港を開放した様だ…仕方あるまい。こちらの主力は一旦グラナダへ引き揚げている」
「裏側を死守出来ていなければ、あわや壊滅の危機だった訳ですな」
そう言いながら、グレッチ艦長が難しい顔をして髭を弄っている。
「その通り。だからこそ今ここで主力が態勢を整えておかねばならん訳だ。このタイミングでの敵の一時撤退の申し出というのは、正直言って有り難い…しかし」
ロングホーン大佐は腕組みして息を吐いた。ソニック大尉からは正攻法で情報を引き出すことは出来ないだろう。とはいえ、このタイミングだからこそ敵に裏を感じるのである。
「こちらにばかり都合が良いとは思えん。主戦場なり他の作戦から注意を逸らそうとしているのか、捕虜開放以外にも敵に利するところがあるのか…。
何にせよ駆け引きが要るだろう。交渉には応じるべきかと思うが、諸君からは何かあるかね」
集まっている面々を見渡す。概ね同意しているようである。 「よし。では承諾の返事を送り、私はすぐに交渉に赴く。そうだな…ワーウィック大尉、君も同行したまえ」
「はっ」
彼は一瞬驚く素振りをみせたが、すぐに従った。グレッチ艦長にも別で指示を与えねばならない。もう戦いは始まっているのだ。
会議を解散すると、艦長へ次の指示を出し側近の士官にも交渉の場を整えさせた。ランチの入港なども考え、表のわかりやすい場を選んでいる。敵にコソコソと拠点を嗅ぎ回らせない為だ。
「大尉は百式で出迎えの準備をしておけ。防衛隊もいつもより多く表に出す。まあ、敵も何かしら護衛を付けてくるだろう」
「威嚇になりますでしょうか?」
「少しはな。何せ小隊ひとつ全滅させた機体だ」
「買い被りではありませんか」
大尉がそういうと、2人で笑った。交渉の準備を進めながら、大佐達も会議室から退出した。
「そういえばそのスクワイヤ少尉達と会ったよ、医務室でな」
歩きながら大尉と引き続き話を続ける。
「中尉の見舞いですかな…私もそのうち。大佐はその右腕のお怪我ですか」
「ちょっとした喧嘩だ。…まあ得るものはあったが」
「なるほど…。私は白兵戦はからきしです。地球でも2度ほど捕虜に出し抜かれましたよ」
ワーウィック大尉は察しが良いらしい。捕虜に出し抜かれたというのは感心しないが。
「今回は逃がすなよ?」
ドックへ向かう彼とも別れ、大佐は上層部との打ち合わせの為一旦執務室へ戻った。 執務室へ入り、グラナダへ通信を行う。取り継がれるのを待ちながらモニターの前に座り、デスクを指先で叩いていた。
「…お待たせしました。ブライト・ノア大佐であります」
一年戦争の英雄…。ホワイトベースの元艦長であり、今はエゥーゴの旗艦アーガマを任されている男だ。
「ごたついている所を申し訳ない…。アンマンのダン・ロングホーン大佐であります。ティターンズにしてやられましたな」
「ドゴス・ギアが制空圏へ入るのを阻止できませんでした。グラナダからの援軍が間に合えば…」
「間に合いませんよ。それも織り込み済みの作戦でしょう。…その敵の作戦について情報は何かしら得られましたかな?」
「どうも敵の指揮系統が不透明です。確かに伝えられるのはそれだけですね。そちらは?」
「今からこちらを襲撃した敵との交渉に入ります。捕虜を捕らえたものの、口を割りませんのでな。せめて取引材料にはなってもらわねば」
「何を悠長な!敵は現にフォンブラウンを抑えているんですよ!?」
「…君らがグラナダまで下がってこれたのは我々が基地を死守したからだ。自力で守り切れなかった君らにとやかく言われる筋合いはあるまいよ」
「くっ…」
「とにかく、こちらもやれることをやりますとも。何かあれば密に連絡を」
「…わかりました。月の裏側は頼みます。我々もフォンブラウン奪還に全力をあげます」
「よろしく頼みます。では、私も交渉の準備もありますのでこれで」
通信を終えた。彼の言う通り、いくらエゥーゴの主力といえど兵力差を埋めるのは容易では無かっただろう。しかし、それでもやるしかないのだ。
丁度、じきにレインメーカー少佐が到着との報が入る。ティターンズのお手並拝見といったところか。刻一刻と戦況は変わっていく…自分に出来ることをただやるだけである。
19話 都合 「これはこれは…」
レインメーカー少佐は、ランチから眺める敵の基地に思わずこぼした。着艦指示のあった正面の港には、複数のMSが整列していた。その中には例のバッタも見える。
こちらもニュンペーを伴って基地へと着艦する。試作機故あまり見せびらかすべきではないが、他にまともに稼働出来る機体もない。また、敵に過度な警戒をさせない為にも軽装な機体の方が都合も良い。
『MSはここまでだ』
敵パイロットの声。バッタに制止されたニュンペーが立ち止まる。
『ロックしていくが…絶対に触るなよ』
ウィード少佐が釘を刺しながらコックピットハッチを開いた。まだ半人前の娘だが、今回の交渉もひとつ勉強になるだろう。
『後で難癖つけられてもたまらんからな』
そう言い返し、バッタもハッチを開く。ノーマルスーツで顔は見えないが、2人は向き合う格好になっていた。
ランチの着艦が完了し、レインメーカー少佐も敵地へと降り立つ。出迎えたエゥーゴの士官に案内されて施設へと歩いていく。その後ろを、ウィード少佐とバッタのパイロットが続く。
程なくして1つの部屋に辿り着く。敵指揮官はここで待っているらしい。士官が開けた扉の先には、がっしりとした体躯の、厳つい男が座っていた。
「あなたがレインメーカー少佐ですな。私がここを任されているダン・ロングホーン大佐だ」
ロングホーン大佐が立ちあがると、握手を求めた。
「いかにも私がナイト・レインメーカー少佐であります。ティターンズは軍内で2階級上の待遇ですから、あなたとは同格ですかな」
そう言いながら手を握り返す。
「適当な事を言う爺よ…正しくは1階級だ。それに、そもそもそんなローカルルールなど知ったことではない」
「そう言う割にはよくご存知で」
鋭い目線を向けたまま、大佐が鼻で笑った。あまり挑発に乗る人物ではないらしい。レインメーカー少佐もにこやかな表情を崩さなかった。 ロングホーン大佐が元の席に戻り、その側に先程のパイロットが立つ。ヘルメットを脱いだその顔には火傷の跡がある。向かい合う形で着席を促されたレインメーカー少佐の側にも、ウィード少佐が立っている。
「それで…。捕虜の引き渡しだったかな」
大佐が左の片肘をつく。その横着さにウィード少佐が眉をひそめている様だが、レインメーカー少佐は無視した。
「ええ。彼からは何の情報も得られなかったでしょう?我々としては大事な仲間でしてね、確実に救出するには話し合いしかないかと」
「どうせ貴様らに直接聞いてもしらばっくれるのだろうがな。しかし、話し合いとはティターンズにしては平和的だ。それとも…戦う力も残っていないか?」
大佐がほくそ笑む。
「それはこの交渉が決裂すればわかる事。フォンブラウンの様には無血開港の余地を与えぬかもしれませんが…何せ我々はティターンズですからな」
レインメーカー少佐も笑顔で返した。
「そちらの一時撤退が条件か。ものは言い様だな。…仲間を返してください!逃げるのも許してください!…という風にも、聞こえるが」
懇願する様な大袈裟なジェスチャーでこちらを煽ってくる。
「そういえば表に並んでいたMS隊…どうも整備が行き届いている様には見えませんでしたな。そちらも虚勢を張る余裕はある様ですが、迎撃するだけの余力は本当にあるんでしょうかね」
あくまでもレインメーカー少佐は笑顔のまま姿勢を崩さない。
「…試してみたいと言うのなら…それは開戦ということかな?」
大佐が声のトーンを落とした。場が静まり返る。異様な迄に重い空気に、首筋を冷たい汗が一筋流れる。
「…あくまでも捕虜の引き渡し。それだけが要求です」
レインメーカー少佐は、敵を真っ直ぐ見据え口元だけで笑ってみせた。 「…ふん、つまらん爺め。よかろう。これ以上は時間の無駄だ」
そういって大佐は立ち上がる。
「今回は捕虜を引き渡す。その代わり、即刻この宙域から立ち去れ。猶予はない」
「わかりました。それまでに追撃でもしてこようものなら、我々もこの基地を全面破壊させていただく」
少佐は嘯いたが、大佐はもうこちらを見てはいなかった。
20話 条件 「糞爺めが…!」
退出したティターンズの連中が扉を閉めると、ロングホーン大佐は眉をひそめた。結局敵の要求を全て飲む形になった。
「大尉、追撃に出るぞ。やつらが宙域を出たら問答無用で叩く」
「艦長がバタついていたのはその準備ですか。しかし、敵の戦力も読めぬままでは?」
「そう、艦長には出港準備をさせていたのだ。敵の戦力だが…あの護衛機、例のテストを行っていた機体だろう?あれ以外に護衛につける機体すら無かったのだろうよ。
牽制の為の部隊に別で増援を回せるほどティターンズも手は余っちゃいない」
「なるほど。であればすぐにでも叩けばよかったのでは?」
「アレキサンドリアに直接市街地を砲撃されれば只では済まん…やりかねん連中だ。とにかくアンマンからは引き離す方が先決と思う。ここから離れた場所でなら好きなだけドンパチしていい!さっさと行ってこい!」
「はっ」
大尉が踵を返し、足早に去っていった。今頃他のパイロット2人も乗艦しているだろう。 しばらくして、敵機がアンマンを出港したとの報せが入った。捕虜も取り返せて敵は満足だろう。
入れ替わる様にしてアイリッシュ級が発進準備に取り掛かる様子を、サラミス改が入港してきた時と同じ場所から眺めていた。
「ティターンズ…。伊達にエリートを自称する訳ではない様だが、分別の無い連中が選民思想などと…片腹痛い」
1人呟いたその時、グラナダからの通信を取り継がれた。ブライト艦長である。
「ロングホーン大佐だ。如何です?そちらは」
『別働隊が都市の発電施設占拠に動いています。これでティターンズも撤退せざるをえないでしょうね』
「流石は一年戦争の英雄ですな…。先日の無礼を侘びたい」
昨日の今日にしては迅速な対応と言っていい。素直に大佐は感心していた。
『英雄などと…沈んだ艦の艦長ですよ。アンマン市はその後どうです?』
「今しがた敵の捕虜を開放しました。敵は撤退するところだが…こちらもこのまま逃がす気はありませんな」
『その様子だと、どうやら月はうまく守りきれそうですね』
「おかげさまで」
それから幾らか言葉を交わして通信を切った。ブライト艦長達はまた各地を転戦することになるのだろう。しかし早くも全面撤退とは、ティターンズの3日天下といったところか。
「我々も負けてはいられんな…」 『それでは我々も出港致します』
今度はアイリッシュ級のグレッチ艦長からの通信だった。
「ああ、じきにタイムリミットだ。奴らを叩きのめして凱旋してくれることを期待する」
『はっ』
挨拶もそこそこに彼らは基地を立った。それを見送りながら、大佐は次の手へと思考を巡らせるのであった。
フォンブラウンを抑え損なった以上、アンマンにこだわる理由もあるまい。しかしあのティターンズがこのまま引き下がるのであろうか。
前回ブライト艦長が言っていたような敵の指揮系統の乱れというのも、気には掛かっていた。
確かにフォンブラウン市の制圧は早かったものの、それに合わせたアンマン市強襲は幾らかお粗末なところもある。何よりその後の撤退も現場レベルでの対応にみえ、組織だった動きとは言えなかった。
そんなことを考えている内にアイリッシュ級の姿は随分と遠くなった。防衛隊をこの追撃に割く余力はなく、単艦での追撃である。
戦力的に不安がない訳ではないが、それでもやってもらわなければならない。
来たるべきティターンズとの決戦はそう遠い未来の話ではないし、目まぐるしく変化する戦況の中で揉まれてこそ彼らは飛躍することが出来るだろう。大佐自身もそうやって生き延びてきた。
ガラス越しにぼんやりと見える戦艦の後ろ姿。重なる様に映り込んだ自分の顔は、思うよりもいささか老けて感じた。
21話 重なる 「隊長!追撃に出るんですね」
出港したアイリッシュ級のブリッジに合流したワーウィック大尉の顔を見たスクワイヤ少尉は気力に満ちていた。
「待たせたな。中尉の援護も期待しているぞ」
少尉に笑いかけた大尉がフジ中尉の方へ振り向く。
「前線に出られないのが幾らか歯痒いですがね」
フジ中尉はそう言いながらグレコ軍曹の隣の席でインカムの位置を調整していた。今回の作戦では中尉はブリッジに待機だ。オペレーターとして作戦指示を行う。
「中尉の分も私が動きますよ。だから私の分も頭使ってください」
「いや、少尉はもっと自分の頭も使ったほうがいいな」
「またそういうことを言う!」
以前なら喧嘩の様に言い合うところだったが、不思議とお互いに冗談としてやりとり出来るようになっていた。和やかな2人をみて、大尉が意外そうな顔をしている。
「どうやらちっとばかりチームらしくなってきたみてぇだな」
そんな様子を見ていたグレッチ艦長もニヤリと笑った。
アイリッシュ級は程なくして月の重力から脱した。もうこちらからアレキサンドリアを捕捉出来ている以上、敵にも当然気付かれている。
「そろそろだな…。2人とも頼むぜ」
「「了解!」」
少しまだ緊張気味の艦長に、2人は小気味よく返事を返した。すぐにブリッジを離れ、出撃の為MSの元へと向かう。 「少尉、フジ中尉とも少しは話せたか?」
格納庫へ向かう途中、ワーウィック大尉が口を開いた。2人は移動しながらそのまま話し始める。
「もっと連携しないとこのままじゃヤバいって話を」
「その通りだな。君らの方からそういってもらえるとは思っていなかったよ正直」
そういって大尉が頭を掻いた。
「絶対そう言われるって思いましたけどね!でも…大尉が来たからこういうことに気付けたのかもです」
「それなら私も着任した甲斐があるというものだ」
それぞれのコックピットに乗り込み、出撃の時を待つ。まだ慣れない全天周囲モニターだが、敵は慣れるまで待ってはくれまい。
『準備はいいですか?』
モニターにフジ中尉が映った。インカムを付けた彼を見るのは若干の違和感がある。
「いつでも」
『私もオーケーだ』
少尉に続いて大尉からも応答がある。
『それでは簡単に説明を…。これより敵艦アレキサンドリアを背後から強襲します。敵戦力は未知数ですが、余裕があまりないことだけは確かです。間違いなく例のテスト機は出てくるかと。
月周辺ということでデブリは比較的少ない宙域ですから、ここは正攻法で正面からぶつかる形になるでしょうね』
中尉が淡々と述べる。とにかく叩けということだった。
『わかった。こちらも私と少尉の2機だけだ…最新鋭の機体とはいえ、油断せずいくぞ』
「了解」
スクワイヤ少尉達は敵艦を目視しながら、それぞれ両翼のカタパルトから出撃した。 中尉の言うとおり、そこは目立つデブリのない視野の開けた宙域だった。隠れる場所はない。
『ここでやつらを殲滅出来れば、周辺の脅威はひとまず無くなるだろう』
大尉が言った。索敵しつつ敵艦との距離を詰めていく。
「あのテスト機、本採用されると厄介ですね」
『それなりにコストは掛かってそうだが…どうだろうな』
「あのパイロットの腕がいいだけならいいんですけど」
『そうであってほしいな…噂をすれば!』
敵艦から機体が出撃するのが見えた。2人は速度を上げ、敵機を追い始める。敵は母艦から離れ過ぎない距離を保ちつつ2人を引きつけていた。
「アレキサンドリアはどうします!?」
『今はMSを先に叩いてください!MSを剥ぎ取れば艦はデカい的ですからね。艦砲射撃でアレキサンドリアをこちらに引きつけておきます』
フジ中尉から指示が入る。アイリッシュ級も遅れずについてきている様だ。光る主砲を背に、少尉達はMSとの距離を縮めた。
一定の距離になった時、ようやく敵はこちらを振り向いた。やはり例のテスト機である。 「今日は完全な2対1…。ここで落とす!」
『手筈通り、スクワイヤ少尉から仕掛けてくれ。ワーウィック大尉はサポートをお願いします』
『了解した。連携すれば叩けない相手ではないさ』
「行きます!」
マンドラゴラはコマの様に回りながら頭から敵へ突貫する。出撃前、フジ中尉達と作戦を立てていた。
最大の脅威は今のところ敵の携行しているライフルだ。極めて速い弾速を誇り、急所に当たればただでは済まない。これを躱しながら接近する為に、まずは運動性に優れたスクワイヤ少尉が仕掛ける。
「見てからじゃ遅いんなら!」
敵の銃口がこちらを捉えるよりも早く機体の軌道を逸らす。通常ならば相当なGが掛かるが、過剰なGも想定しているマンドラゴラのコックピットには、対策が入念に施されている。
少尉の技術と掛け合わせれば少しの時間ならかき乱せると判断した。
大尉の百式にも注意しながらでは到底追いつけるスピードではない。流れ星の様にバーニアの残光が尾を引き、その幾何学模様に翻弄された敵は足を止めた。
『ここか』
大尉はそれを見過ごさなかった。急加速をかけた百式がナギナタを携え、敵の足元から迫る。それに敵機も気付いたが、抜刀するだけの猶予を2人は与えない。
百式は正面から袈裟に切り上げる様にしてナギナタを振り上げた。
しかし、その刃は敵を両断することなく止まった。敵の腰部から伸びたサブアームがそのビーム刃を受け止めていた。
『隠し腕…性懲りもなく…!』
唸る大尉。少尉は初めて見る装備だったが、それに対して大尉の対応は早かった。すぐにナギナタのビーム基部を元のサーベルとして切り離すと、逆手に持ち敵機へ突き立てに掛かった。
その手首を両手で掴む様にして敵機が粘る。
『ライフルを捨てたか!…少尉!』
フジ中尉の声が聞こえてか否か、掴みあいで動けない両機に向かってマンドラゴラは飛んだ。組み合いになっている以上、誤射を考えるとこちらもライフルは使えない。
サーベルを抜刀すると、横から入り込む形で敵に飛びかかった。組み合いになっていた敵の両腕を切断する。
間髪入れず、敵から解放された大尉の百式が突きを繰り出した。躱しきれない敵の右肩が弾け飛ぶ。
「仕留める!!」
少尉は駄目押しの一撃を無我夢中で畳み掛ける。 その時、敵機の熱源反応が異様に高まった。部隊に嫌な予感が走る。
『離れろ!こいつ…!』
大尉の声とほぼ同時に敵機から光が漏れた。少尉達が退避行動をとったのも束の間、敵機は激しい閃光と共に爆裂した。強い衝撃が2人を襲う。
「うあああ!!」
揺れる機体の中、強い光でホワイトアウトしたモニターに囲まれ、少尉は初めて恐怖を感じた。理屈ではなく本能が、忍び寄る死を感じ取っていた。目を瞑り両耳を塞ぐ様にして、少尉はただその球の真ん中で怯えるしか無かった。
しかし、マンドラゴラは衝撃に耐え切った様だ。程なくして機器も復旧する。その作動音を聞いてようやく少尉は目を開けた。
『…自爆するとは。思い切りの良い』
大尉の百式も無事な様だ。とはいえ機体の装甲はズタボロになっている。恐らくマンドラゴラも似たような状態だろう。
『2人とも無事ですか!?』
フジ中尉が慌てる。
「何とか…」
その声を聞いて、モニター越しの中尉が胸を撫でおろしたのが見えた。
『…自爆時、離脱するポットを確認しています。ガルバルディの1機が回収に出てきている様ですが、今敵艦に近づくのはあまり得策ではないでしょうね』
中尉が口惜しそうに言う。自爆のダメージに加え、先程の高機動戦闘でかなりガタがきている。何より、少尉自身の手の震えが止まらなかった。
『うむ。作戦はここまでだな。半端に回収されるよりは自爆を選ぶか…。あの揉み合いの中でその判断が出来るのは、間違いなく手強い』
大尉の声を聞きながら、少尉は自分の腕を抱くのが精一杯だった。
22話 ホワイトアウト 今回はここまでです!
だいぶ一気に投下しました笑
正直言うとストックほぼ全てを出し尽くしたので、次はもう少し遅くなるかもです…!
ゆっくり読んでてください!! お待たせしました!pixiv更新しました!!
https://www.pixiv.net/novel/series/1235721
最新話まで全て更新済ですので、こちらもチェックお願いします! お疲れ様です!
ロングホーン大佐...味方に毒を吐くし捕虜とは拳で語るし、明快に「ズケズケと踏み込んでくる男」ですねw
かといってただの無神経ではないし、生存フラグも死亡フラグも立てられる面白いキャラだと思います
ワーウィックはナギナタを握りつつメイ・ワンとの追いかけっこを笑い話にする辺り上手く前進してますね。
スギ艦長のような生き字引になってほしいものです
ニュンペー、百式改、マンドラゴラとカラフルな役者が基地前に揃ったと思えば自爆!あっけねぇ(失礼ながら苦笑)
まだまだ展開の読めない今シーズンですが、月面のみんなもSさんもご健闘を! 本編だとメラニー会長の方からグワダンに出向いてたから
アクシズの使者がアナハイムに接触ということは無さそう >>735
ロングホーン大佐は割とお気に入りです。
体たらくな連中が多いので、しっかりした人物も居てほしいなと…。笑
拳で語り合うのはやっぱZでは必須ですよね!笑
僕の中で、もしカミーユが女の子だったら?とか、周りの大人にしっかり者が居たら?っていうifも含んだ構成にしています。
それと、前作主人公の扱いって難しいですよね。
某准将とかに比べるとアムロは上手く立ち回った方だと言われる事も多いですが、個人的には主人公にしてはあまり活躍しなかったという印象も強くて。
(本編前からの扱いですが)Xのジャミルくらいが理想的かなと思うので、そういう塩梅でワーウィック大尉には頑張ってほしいです。
ガンガンぶっ壊すのも前作からの伝統です!笑
とはいえキチンとデータは持ち帰ったので…?
これからの展開にも期待してください!! >>736
>>737
第2部ではアクシズ勢はそこまで出さない予定です。彼らとのイベントはワーウィック大尉が中心になり過ぎるので。
最初は2部で終盤まで書くつもりでしたが、色々やりたいことを考えたら3部構成が必要な気もしています。
1部と2部で書いたことの集大成として、最終章を書くのも良いかと。
まだまだ僕自身も展開が読めない部分が多いので、登場人物達がどう動いていくのか楽しみです。 お待たせしてすみません!
最近忙しかったので筆があまり進んでおらず…。
ずっとお待たせするのも何なので、とりあえず3話だけ公開しておきます! ウィード少佐の脱出ポットを回収し、オーブ中尉のガルバルディαが帰還した。それを確認したアレキサンドリアは、船速最大で宙域を離脱する。敵はこれ以上追ってこない様だ。
戦況をブリッジからモニターしていたドレイク大尉はほっとひと息ついた。
「危なかったわね…」
『どんどん敵の動きが良くなってる…』
オーブ中尉が悔しそうにモニターから目を逸らしていた。
ソニック大尉を連れ帰ったのも束の間、月を離れたところをすぐに追撃された形だった。彼を取り戻し撤収に成功はしたものの、使える機体は尽く潰えている。ガルバルディも稼働こそするものの、戦場には出せる状態ではない。
辛うじてテストのデータだけは持ち帰ることができたが、ニュンペーも失ってしまった。
「ごめん、機体は持ち帰れなかった」
ウィード少佐がブリッジに戻った。傍にオーブ中尉もいる。
「あなたが帰ってきただけマシよ。データだってほら」
ドレイク大尉は落ち込む少佐の肩を軽く叩いた。オーブ中尉も唇を噛んでいる。
「ラムはどうしてる?」
顔を上げたウィード少佐が聞いた。
「まだ寝てるわ。あっちじゃまともに寝れてなかったみたいだしね…。レインメーカー少佐も今さっき自室に戻ったわ。かなり神経削がれてたみたいだから、今は休ませてあげましょ」
「皆ボロボロだけど、まだこれからが勝負よね…!もう負けられない」
オーブ中尉が拳を固く握りしめながら言った。ドレイク大尉も同じ気持ちだった。 「これからどうする?シロッコ大佐にデータを届けるんだったら、ドゴス・ギアだかジュピトリスだかに出向くのがいいかしら」
近辺の宙域をマップで確認しながらドレイク大尉は話題を変えた。今は前向きに進むしかない。
「…ニュンペーを失った以上、通信で済ませるのは大佐に無礼だからね…。正直顔向け出来たもんじゃないけど、顔出さなきゃ」
ウィード少佐が椅子に腰掛けながら溜息をついた。彼女も憔悴している様だった。
「ま、今のうちにあなたも休むと良いわ。私が後は見とくから」
「ありがとう。そうする…」
最低限の確認事項を擦り合わせ、ウィード少佐はブリッジを後にした。その後ろ姿をオーブ中尉と2人で見送っていた。
「お嬢さんは休まなくていいの?」
「何言ってんのよ。フリード独りに任せる訳ないでしょ?」
「頼もしいわね」
そういってオーブ中尉の頭を撫でた。彼女は腕を組んでふんと鼻を鳴らしたが、特に抵抗するでもない。
それからしばらくして、友軍の通達が入った。
「うそ…!」
ドレイク大尉は思わず声をこぼした。フォンブラウン市がエゥーゴに奪還されたとの報せだった。
「アポロ作戦は成功したんじゃ…?」
オーブ中尉も焦りを隠さない。友軍によれば、ティターンズが地を固めるより早くエゥーゴがライフラインを抑えたという事だった。幸い旗艦含め損害はそれほど出ていない様だが、このまま引き下がる訳にも行くまい。
「やはり…性急過ぎたのでしょうな」
後ろからレインメーカー少佐の声がした。
「良いのですか?もう少しお休みになられた方が…」
「いやいや、まだ若い者に任せる訳にはいきませんのでな。それにこの通り」
そういって少佐は両腕の力瘤を見せる様にして笑った。
「ラムに比べたらまだまだねー」
オーブ中尉が茶化す。そのソニック大尉はまだ休んでいる様だ。
「ソニック大尉程は無理ですなぁ…。その代わりと言っちゃなんですが、知恵はありますよ」
「その知恵を今後もあてにしてますわ」
ドレイク大尉は腰に手を当てながら微笑んだ。 「なるほど。なかなか渋いですが…」
レインメーカー少佐を中心に、ブリッジの3人で戦況を確認していた。結局、主だった拠点は元通りエゥーゴの傘下にあると言っていい。
「何だかんだ言って、フォンブラウンを叩くにはグラナダやアンマンが目の上のたんこぶって感じね」
オーブ中尉がペンを鼻の下に挟んで椅子と一緒にくるくる回っている。
「確かに、敵の主力をあまり叩かずに拠点だけ抑えたからグラナダの巻き返しも早かった…とも言えるわね」
「楽しちゃ駄目ねやっぱ!まずは裏側から抑えておかないと結局遠回りよ」
そうしてドレイク大尉達が話しているのを、少佐は静かに聞いていた。
「じいさまはどう思う?」
「私ですか。ふーむ…」
回るのをやめた中尉の問いにも、変わらず思考を巡らせている。
「…そうですな。お嬢さん方の言うとおり、グラナダ辺りを叩くのが良いでしょう。恐らく上層部もそのつもりかと。…しかし、上の連中は正攻法では仕掛けないと思いますがね…」
レインメーカー少佐の笑みに、何か黒いものを感じた。 「…何にせよ、今は報告と補給が必要だわ」
声の方を振り返ると、ウィード少佐とソニック大尉の姿があった。
「皆…済まなかった…!俺の力不足がなければ…」
ソニック大尉は戻った時と相変わらずうなだれている。
「もう!いいのよそれは!ラムって意外と引きずるのよねー」
オーブ中尉が意地悪く笑っていた。
「ラムが粘ってくれなきゃ全滅してたわ。あなたのおかげよ」
ドレイク大尉も彼を励ました。実際彼が殿を務めてくれなければかなり際どいところだったのだ。
「皆揃った事だし、そろそろ目的地を」
そういいながら、いつもの椅子へウィード少佐が座る。その側にレインメーカー少佐も立つ。変わりない光景だった。
この艦の行き着くところに楽園があればいいが、我々の手はあまりに血塗られてはいないだろうか。ふと、ドレイク大尉は自らの両の掌を見つめた。
23話 行き着くところ アイリッシュ級に帰還したものの、スクワイヤ少尉はコックピットハッチを開けられなかった。
『大丈夫か!?』
「大丈夫です…。大丈夫なんですけど…」
ワーウィック大尉の呼びかけに応えながら、少尉は自分の身体が自分のものでない様な感覚に襲われていた。あの時感じた恐怖を、身体が跳ね除けられずにいる。コックピットの中で、小さく丸まる様にしてうずくまった。
しばらくしてコックピットが外から開けられた。覗き込み、様子に気づいた大尉が近づく。
「…どうした」
「わかりません…。ただ…恐ろしくて…」
大尉はそれ以上は何も言わず、少尉が落ち着くまでそのまま傍に居た。
「光に包まれた時…死ぬんだと思いました。いや…身体がそう思ってしまったっていうか」
少尉は、僅かに震える肩を手で抑えた。
「今までは被弾したって何てことは無かった…。高を括ってたんです…きっと。まさかこんなとこでやられるはず無いって。自惚れてたんです…!」
そこまで言って、少尉は今までの自分が酷く矮小に思えてきた。噛み締めた唇から血が滴る。
「怖かった…!何も出来ないまま唐突に…!理不尽でどうしようもなくて!!頭より身体が…それを受け入れようとしたのが…どうしようもなく…怖くて…」
昂ぶった気持ちが、喋りながら萎んでいった。涙が溢れ出す。
「死にたがりが聞いて呆れますね…」
血と涙を拭いながら、上手く笑えない頬が引きつった。 「そうか」
大尉はぽつりと言った。
「前にも少し話したが…私の話を聞いてくれるか?」
少尉が小さく頷くと、大尉はその場に座り込んだ。
「きっと、全く同じ様に感じたということは無いんだろうが…。私もある時までは自分がやられるなんて思ったことはなかった。一年戦争を戦い抜いたし、頼れる仲間も居た」
少し上を仰ぎ見る様に、大尉は回想した。
「ニューギニア基地での戦い…ほんの少し前の話だがな。そこに至るまでの間、交戦の機会が何度かあった部隊がいた。その隊長格と決着をつけなければならなかったんだ。私は乗り慣れたマラサイ、僚機は…ガンダムだった」
「例のニュータイプの…?」
「まぁな。本人は否定的だが、私もニュータイプだと思っている。そんなやつと2人掛かりだったのに、たった1機のジムクゥエルにやられかけた。恐ろしく強くてな…」
ニュータイプの乗るガンダムとワーウィック大尉が2人掛かりで苦戦するジムクゥエルというのは、正直イメージが沸かなかった。
「倒せたと思った時、背後からサーベルで貫かれた。火傷はその時のものだよ。あの時、まさしく死んだと思った。でも私は死ねなかった…仲間が帰りを待ってたからな」
大尉はやや恥ずかしそうに鼻を擦った。
「かつての私は、恐怖などよりとにかく戦う事しか頭に無かった。だが日々の戦いの中で明確に変わっていったのは…自分の為の戦いから、仲間の為の戦いになっていった事だと思う。
最後の最後、やつを倒した私を支えていたのは…やはり仲間の存在だったよ」
そこまで言うと大尉は立ち上がり、少尉の正面に立った。少尉は赤くなった目でそれを見上げる。
「恐怖と向き合うことで、きっと少尉はひとつの答えを手に入れると思う。それがどんな答えなのかは私にもわからん。だがな、その過程の苦しみは私達も一緒に分かちあえる筈だ。幾らでも私達を…仲間を頼れ」
少尉の肩を軽く叩くと、大尉は出ていった。叩かれた肩から、少しだけ荷が降りた様な気もする。しばらくコックピットの中で大尉の言った事を反芻していた。 これ以上の追撃は月を離れすぎてしまう為、一時中断となった。艦長達は、敵を追い払うにはこれで十分と判断した様である。少尉が気持ちを落ち着かせて表に出た頃には、もう艦が再びアンマン市へ入港するところだった。
「もういいのか?」
機体を降りて格納庫を眺めていると、フジ中尉がやってきた。
「すみません、取り乱して…」
「気にするな。そんな時もあるだろう」
珍しくフジ中尉の言葉には棘がなかった。
「大尉は勿論だが、艦長も心配していたぞ。後で顔を出してやるといい」
そういいながら中尉がドリンクを手渡す。受け取りながら少尉は小さく会釈した。思い返せば、いつも中尉はぶっきらぼうでも彼女を気遣っていてくれた様に思う。
「私が思っていたより…死ぬのって穏やかじゃないかもしれません」
「それはそうだ。穏やかに死にたければベッドの上が良いに決まっている」
「確かに」
2人はすこし笑った。わかりきったことではあったが、それを真に実感するのは難しいことかもしれない。
「…死んでいった者達の多くは…それを望んだり、望まれていた訳ではあるまいよ。敵ですら、殺したくて殺している訳ではないだろう。例えそれがエゥーゴとティターンズの関係であってもだ」 遠い目をしたフジ中尉を尻目に、少尉もふとこの戦いの不毛さに思いを馳せた。
彼女は志願兵である。何故志願したのか。それを振り返るには避けて通れない男がいる。その顔が浮かぶだけで、暗い気持ちも一緒に浮かび上がってきた。
「…私、実は」
少尉が過去について少し口にしようとしたその時、艦内放送で緊急の呼び出しがかかった。
「…何だ?」
「また後で話します」
「そうか。とりあえず行こう」
放送に従う様にして、2人はブリッジへと向かった。
ブリッジに到着すると、そこにはアイリッシュ級の面々が揃っていた。
「おう!元気か?」
椅子から身を乗り出したグレッチ艦長が目に入る。
「ご心配をおかけしました」
「全くだ!次同じ様なことがあったら無理矢理でも呑ますからな!覚えてろよ」
艦長がニヤリとしながら言った。皆の優しさが身に沁みる思いだった。
「それで?何の呼び出しです」
「それがな…」
フジ中尉の問いかけに、モニターの前に居るワーウィック大尉が答えた。
「連邦議会でティターンズの権限を強化する法案が可決されたそうだ。これから我々の立場は尚の事厳しくなるだろう」
「馬鹿な!?只でさえ連中は軍内に幅を利かせているというのに、それだけでは物足りないと?」
フジ中尉が少々声を荒げて詰め寄る。
「月での影響力拡大に失敗したばかりだからな。地球でも拠点を失っているし、権勢を保つには議会を抱きこむ必要があるのだろう」
「大尉の話はわかります…。しかし、エゥーゴは何の抗議も出来なかったのですか!?」
「当然、毅然とした立場で発言しただろう。我々の働きを知る官僚達も決して少なくはない。だが…」
そこまで言って、大尉は視線を落とした。皆次の言葉を待った。
「…ブレックス准将がお亡くなりになられたそうだ」
皆、言葉を失った。 「正直言って、俺は彼の信奉者でも何でもない」
グレッチ艦長が腕を組んだまま口を開いた。
「エゥーゴにいるのも成り行きだ。思想的に共感したとか、大義があるとか、そういうのは無い。…言わなくてもわかってるか」
そういって今度は髭を弄りながら艦長が続ける。
「だがな、筋の通し方ってもんがあるよな?言いたいことがあるならはっきり言や良いんだ。間違っても、自分の言い分が通らねぇからってトップを殺して…文字通り黙殺する様なやり方はよ…筋が、通らねぇんだ」
珍しく艦長の言葉には熱がこもっていた。少尉を始めとして、皆の視線が艦長に集まっている。
「准将をやったのはティターンズだ。ジャミトフだろうがバスクだろうが知ったこっちゃない。俺は許せん。
もうこれからは連邦の内紛なんかじゃ収まりきれない様な…全面戦争が始まると思う。だからな、ここではっきり皆に伝えておきたい」
椅子を降りた艦長がブリッジの窓を背にして皆を振り返った。
「この艦は俺達の新しい家だ。俺が…その…父親みてぇなもんだ。大したことはしてやれなかったが、気づいたらそうなってた。お前達の為に、俺はこれからもっと…頑張る!だから、お前らも頑張れ!」
言葉を選びながらも艦長は話し切った。静まり返ったままのブリッジで、艦長が固まっている。
「何言ってるんです今更…。こうなってしまった以上、あなたに皆付いていきますよ」
腰に手を当てて、呆れ気味にフジ中尉が溜息をつく。
「私も艦長に拾われた身ですからね。より一層尽力いたします。なあ少尉?」
ワーウィック大尉がにこやかに言った。
「えっと…。そうですね、頑張ります」
苦笑いしながらスクワイヤ少尉も応えた。
「おお…お前ら…!」
艦長が感動した様に咽び泣く。それをグレコ軍曹たちブリッジクルーも和やかに迎えていた。 「ぐぬ…!よし!じゃあ今から鬼大佐にしっかり報告してくる!大尉も来い!」
「了解しました」
鼻をすすりながらドカドカと退出していく艦長に、大尉も続いて出ていく。ざわつきながら持ち場に戻っていくクルー達の中、少尉は自らが生き延びた意味を思案した。
エゥーゴの指導者が倒れ、一兵卒の彼女は生き延びた。そこに明確な差や理由などない。だが、そこに意味を見出すことが彼女にとっては必要だった。
24話 意味 「それで…。連中を取り逃がしたのか?」
ロングホーン大佐が腕組みしながら椅子に座る机越しに、ワーウィック大尉を伴いグレッチ艦長は直立していた。嫌な汗が背中に流れるのを感じる。
「も…申し訳ありません…!力及ばず…」
頭を下げる艦長に続いて、傍で大尉も頭を下げた。
「例の試作機は自爆しましたが、恐らくデータは回収されたものかと…」
「まあいい。諸君の働きには感謝しているとも。不十分な補給にしてはよくやった」
椅子を回し、背を向けながら大佐が静かに言った。
「ブレックス准将亡き今こそ、我々は試されている。指揮系統の再編が必要なこのタイミングを連中が見過ごすとも思えん…。次の指示を待つんだな」
「はっ」
「報告はもういい。持ち場に戻れ」
敬礼の後、踵を返して司令部から退出した。 「…ふいー。やっぱおっかねぇぜ」
ドアを閉めるなり艦長は呟いた。クルー達には見栄を切ったものの、やはり性分はそう容易く変わるものではない。
「しかし、大佐の言うとおり敵の動きは気になりますね」
大尉は肝が座っている。彼を伴うと幾らか自分も落ち着いていられる気がした。2人はアイリッシュ級の待つドックへと足を向けた。
「そうさなぁ。例のテスト部隊のデータで何をしでかすつもりなのか知らんが…」
「月面で再び戦闘があるとすれば、間違いなく我々は狙われるでしょうね」
「フォンブラウンが本命にしても、アンマンやグラナダは目の上のたんこぶだからな」
2人は話しながら歩いた。すると、向かいから1人の士官らしき男が歩いてきているのが視界に入った。ワーウィック大尉の足が止まる。
「あ…?アトリエ中尉…?」
「お!?まじか…元気かよ…!?」
金髪を短く刈ったその男は、砕けた制服の着こなしに耳のピアス、見るからに柄の悪い男だった。
「すみません、彼はベイト・アトリエ中尉。例のガンダムパイロットです」
「今は大尉っつってんだろ!…いや、申し訳ない。ベイト・アトリエ大尉であります」
ワーウィック大尉に促された彼はびしっと敬礼してみせたが、それを解く仕草といい不遜な雰囲気は隠しきれていない。
「私はグレッチ少佐だ。アイリッシュ級で艦長をやっている。噂には聞いていたが…」
「少佐殿、以後お見知りおきを。今はネモのしがないパイロットですがね」
頭を掻きながら彼は笑った。
「こんなとこで何をしてるんだ?」
ワーウィック大尉が聞く。初めて見る親しげなニュアンスだった。
「ああ、補給に立ち寄ったところでな…まさか大尉に会うとは。そっちは順調か?」
「まずまずかな。敵もよくやる」
「全くだ。うちの部隊もジリ貧でよ…また一緒に戦いたいもんだぜ。来いよ?」
「馬鹿言うな、うちだってギリギリだ」
談笑する2人に独特の距離感を感じ、なるほど彼らが組めば強かろうと艦長は感心していた。 「噂のニュータイプにお会いできて光栄だ」
「そんな大層なもんじゃありません」
グレッチ艦長はそういうアトリエ大尉と握手を交わす。
「しかしネモとは勿体ない。うちはガンダムがあるが、君の様なパイロットにも支給すべきだと思うがな」
「お、ガンダムがあるんですか。そいつはいいね…。今は誰が乗ってるんです?ワーウィック大尉?」
「まさか。私はガンダムには乗らん。スクワイヤ少尉という女性だ。彼女もなかなかの腕だよ」
「ほう…?」
アトリエ大尉が不敵な笑みを浮かべた。
「今回の補給で新しい機体も受領予定なんですが…そういう事ならちょっとした遊びでもどうです?」
「遊び?そんな暇は無いぞ。色々と聞いてないのか?」
「相変わらずだな大尉は。糞真面目だぜ」
「ふん、構うな」
「そう言うなって。…グレッチ少佐、どうです?その女パイロットと1戦交えてみたいんですが。勿論模擬戦で構いません。…俺が勝ったらそのガンダムをうちにくださいよ」
アトリエ大尉が目をギラつかせながら言った。好戦的だがそれに見合う能力も持ち合わせているのだろう。艦長も少し興味が湧いてきた。
「馬鹿な事を言うな。全く、久々に会ったと思ったら…」
「俺がガンダムを上手く使えるのは知ってるだろ?適材適所って知ってる?」
「スクワイヤ少尉も負けてないがな」
「だったら心配要らねぇって!俺のことも打ち負かしてくれるさ」
「艦長、この男はどうもこういうところがありまして…。真に受けなくて良いですよ」
「ふーむ…」
グレッチ艦長は腕組みした。好奇心で彼の腕前を見たいという気持ちもある。
「少尉はなんていうかな」
「…!本気ですか…?」
ワーウィック大尉が案の定慌てる。
「よし!その女パイロットがオーケーならすぐにでもやりましょうよ!どうせ補給はまだ少しかかるし、丁度いいでしょ」
「聞いてみようか」
「はあ…。まあ聞くだけなら私も止めませんが…」
成り行きで3人一緒にアイリッシュ級へ向かった。 「ん…?なんです?」
丁度メカニックと格納庫で打ち合わせ中のスクワイヤ少尉を見つけた。帰還時には取り乱していたものの、今はすっかり落ち着いた様子である。
「こういう申し出があってな…。彼はベイト・アトリエ大尉」
グレッチ艦長は事の顛末を彼女に伝える。
「へぇ…!彼が隊長の言ってたニュータイプ」
「このガキンチョがガンダムの?ZもMk-Uのガキが乗るって聞いたが、ガンダムってのはそういうもんなのか?」
アトリエ大尉が茶化すと、少尉はムッとした表情を見せた。
「…マンドラゴラは私の機体です。誰にも渡せません。それに私、大人です」
「言っただろ。そんなポンポン回せるもんじゃない」
ワーウィック大尉がやれやれとアトリエ大尉の肩を叩く。
「折角の玩具を取り上げる訳にはいかねえか!悪い悪い。代わりにワーウィック大尉でも貰っていくかな」
「誰が貰われてやるか」
「へいへい」
両手を挙げたアトリエ大尉が彼女に背を向ける。 「誰も勝負しないとは言ってませんよ」
彼の背を睨みながら少尉が言った。ワーウィック大尉が驚いた。
「おい少尉!」
「ほんとにこの子が私に相応しいのか…試すには良い機会です」
スクワイヤ少尉は機体を見上げた。残っている先の戦闘での目立つダメージは外装くらいのものだ。
「度胸はあるみたいだな…気に入ったぜ。お前はガンダムでいい。俺は…あれを借りる」
背を向けたままのアトリエ大尉は、百式改を指差した。
「どうせあれが大尉の機体だろ?チューンナップしてあるなら丁度いい」
「待て待て、ほんとにやる気か?艦長もなにか言ってやってくださいよ」
「うーん、俺はアトリエ大尉の腕前を見てみてぇな」
「艦長!」
ワーウィック大尉の心配っぷりを見るに、アトリエ大尉は相当に腕が立つと見える。スクワイヤ少尉のガンダムでもサシで歯が立たないとなればかなりのものだ。
「ガンダムをどうするかは俺達の一存で決められんかもしれんが、まあやるぶんにはいいんじゃないか?」
「少佐殿、流石の御判断であります!」
あからさまにアトリエ大尉が姿勢を正す。どうせ時間も余っていたところだ。
「ロングホーン大佐に知れたら何て言われるか…」
「ははっ、意外と大尉も心配性なんだな」
思っていたほどワーウィック大尉も完成した人物ではないようで、どこか親近感が湧いた。
「そうと決まれば早速やろうぜお嬢さん」
「ガンダムは渡しません。勿論隊長も」
「ほーう?」
アトリエ大尉がニヤニヤしながらワーウィック大尉を細目で見る。
「しょ…少尉!無理は禁物だぞ!」
「わかってます。…ありがとう」
そういって少尉が笑った。ワーウィック大尉はいささか顔を赤くしている。 「よし、俺はブリッジから観戦しよう。久々に酒でも飲むか!大尉、何かつまみは持ってますかな?」
「そういうことならちょっとしたやつがありますよ!持ってきましょうか」
「お、いいねぇ」
アトリエ大尉とは気が合いそうだ。彼こそ引き入れたいくらいである。想像していた様な浮世離れしたニュータイプ像とはだいぶ違う。
「ニュータイプって一口にいっても、こんなチンピラみたいな人もいるのね」
「仮にも上官だぞ?これだからガキは」
「なんです?止めときます?」
「いやー、ガンダム楽しみだなー」
スクワイヤ少尉がアトリエ大尉と火花を散らしているのが目に見える様だ。
「こんなことにはなるとは…。アトリエ大尉、やり過ぎるなよ」
「わかってる。俺も馬鹿じゃねぇさ」
「いやいや、馬鹿なのは違いない」
「一理あるな…っておい。言うようになったなおい。おい」
旧知の2人のやり取りを背で聞きながら、グレッチ少佐は酒を取りに自室へ向かった。
25話 性分 今回はここまで。
引き続き投下しますんで、よろしくお願いします! お疲れ様です!
ウィード隊、ついにパプテマス・シロッコと接触ですか。
ドゴス・ギアでもジュピトリスでも、規模のわりにクローズアップされにくい舞台に思えるので、楽しみです。
木星帰りよ、こんな善いお嬢さん達をお持ち帰りするんじゃないぞw(いざという時はラムなり爺なりが動くでしょうけど)
ワーウィックの取り合いw
なんでしょ、アトリエは何だかんだで「歴史書には書きにくいけど結構ガンダムに乗ってた人」になりそうですね(笑)
それはそれとして、最初はぼんやりしていたスクワイヤがすっかり戦う気になってるのは好印象です。
なかなかいい切欠になるんじゃないでしょうか、頑張れ新主人公! お疲れ様です
小説書いた事ないらしいけどめっちゃ読みやすい >>758
>>759
皆さんこんばんは!
シロッコ好きなんですよねー!笑
傍観者だの何だの言って大物感出してる割にシャアとハマーンの痴話喧嘩劇場に付いてきて結果艦隊壊滅させちゃったり…これでは勝てん!じゃないよ…笑
他のZ本編キャラよりは描写多めにしたいと思ってるのでご期待ください!
>>760
ありがとうございます!
読んでたのは村上春樹とか北方謙三とか、親の持ってた小説を読んでた感じですね!雑食です!笑 アトリエ大尉を登場させるべきかは悩みましたが、彼がいると話が動かしやすいもので…つい頼っちゃいますね。笑
スクワイヤ少尉もようやく主人公らしくなってきたので、他の面子共々引き続きよろしくお願いします!
さて、更新ペースが落ちてきているのでやっぱり小出しにしていこうと思います!笑
こっちが連載でpixivが単行本みたいな感覚で読んでいただければ良いかなと。
2話ほど投下しますので、よろしくお願いします。 「ったく…。大丈夫なのか?」
ワーウィック大尉が覗き込むコックピットの中、スクワイヤ少尉は模擬戦の準備に取り掛かっていた。
「急でしたけど、私がこの機体に見合うパイロットなのかはずっと疑問でしたし」
まともに戦績もないままに託されたガンダム。表沙汰に出来ないデータが使用されているとは言うが、それにしても優先順位がある筈だった。アトリエ大尉の様な人物が居るならば、本来そちらに回されるものではないのか。
「私を評価してくださるのは有り難いんです。でも、自分で納得できてない部分があって。この模擬戦で何かしら答えが欲しいんですよ」
「わからんではないが…」
困った様に大尉が頭を掻く。
「それに…隊長は私の事信頼してくださいよ。彼は戦友なんでしょうけど」
「!…そうだな。折角の機会だし…あんなやつ、打ちのめしていいぞ」
ハッとした様に大尉が笑った。ワーウィック大尉が任せてくれるならば、出ない力も出せる気がした。 大尉が離れて独りになったコックピットで、スクワイヤ少尉は準備を終えた。通信が入る。
『聞こえるか少尉』
フジ中尉からだった。
「聞こえてます」
『模擬戦だそうだな。例のガンダムパイロットと手合わせなんて、なかなか無い機会だ。しっかり勉強させてもらえ』
「あっちにこそ勉強させてやりますよ」
『ほう…また強気だな』
ひと通り支度してヘルメットのバイザーを下ろす。映し出されたモニターには模擬戦の作戦範囲が表示されている。
『表示の通り、基地周辺の月面試験場が指定場所だ。適度な量のコロニー残骸、凹凸のある地形…低重力とも相まってMSの操縦技量を確かめるには良いフィールドといえる』
いつもの様に中尉が解説する。確かに色んなことが出来そうだ。
『今回使用する装備は模擬戦用のライフル1丁とジムシールドのみだ。ペイント弾で被弾位置を確認出来る。サーベルは使用出来る状態だが、間違っても抜くなよ』
『俺は抜いても構わんぜ』
中尉との通信にアトリエ大尉が割り込む。彼も準備が済んだようだ。
「私、接近戦が得意なんですよね」
『奇遇だなぁ!俺もだぜ』
『2人とも、サーベルは禁止です。いいですね?』
『ワーウィック大尉より堅いやつがいるな、この艦は』
『当然の事をお伝えしたまでです』
『あいよー』
火を見るより明らかだが、この2人は相性が悪そうだ。 『さーて!やろうか!アトリエ大尉、百式改…出るぞ』
先にアトリエ大尉の百式が出る。少尉は、ワーウィック大尉の機体に彼が乗っているのも癪に触った。
「スクワイヤ少尉、マンドラゴラ出ます」
続くようにして少尉も出る。すっかり見慣れた月面だが、気付くとアトリエ大尉の姿が見えない。スクワイヤ少尉も近くにあった岩場に身を潜める。
『それでは模擬戦を開始します。致命傷の被弾を確認するかどちらかのリタイア、或いはタイムアウトまで続けます。いいですね?』
「了解」
『では…これより開始します』
静寂。照明の類、それとデブリが漂う以外は動くものもなく、まるで時が止まったかのようだ。
しばし時間を置いてスクワイヤ少尉が機体を動かしたその時、早くも被弾した。背後から右肩を撃たれた様である。
「うそっ!?何処から!?」
『ちんたらやってんじゃねえよ!』
振り返るとアトリエ大尉の機体が見えた。彼の機体は、先程出撃に使ったカタパルトのすぐ傍に立っていた。出撃してすぐ身を翻していたのか。
『お前がケツ丸出しで隠れてんのは初めから見てた』
「卑怯な…!」
『卑怯もへったくれもあるかよ!』
すぐに百式へ標準を合わせるも、バーニアを吹かした百式の動きは流石に早い。飛び回る大尉に追いすがる様にして少尉も食い下がった。
『流石ガンダム!これについてこれるんだな!』
「馬鹿にして…!」
『!』
少尉は更に出力を上げ、百式を追う。慌ただしく姿勢制御をこなし、完全に百式を追い抜く。抜きざまに一瞬だけ速度を合わせると、ライフルを放った。ペイント弾が左肩を掠める。 『やるじゃねぇか。だが…』
追い抜いたのも束の間、視界から百式が消えた。位置に気づくよりも早く、下からの弾丸。咄嗟に後退すると、機体の目の前を弾が通り過ぎた。
『まだまだぁ!』
そのまま急上昇してきた百式に背後を取られた。
「く…!」
『これに頼り過ぎなんだよ』
ライフルを交わし損ねポットにペイント弾を浴びる。どうにか振り払おうともがくと、あっさり百式は距離を離した。
『寝ぼけてんのか?』
正面で向き合う形になり、百式は腹部目掛けて強烈な蹴りを見舞った。弾き飛ばされたマンドラゴラはそのまま地面に叩きつけられる。
『終わりかな』
「げほっ…誰が…!」
向けられた銃口に気づいた少尉はすぐさま機体を立て直し、隆起した地形に隠れた。百式は追ってこない。
「はぁ…はぁ…」
『このまま続けても埒が明かねえ。実戦だったら今頃ガンダムはオシャカだぜ』
身を隠したまま百式の出方を窺いつつ呼吸を整える。マンドラゴラのショックアブソーバーでなければ無傷では済まなかっただろう。
やはりニュータイプどうこう以前にそもそも操縦技術が高過ぎる。それに加えて何をやろうにも後の先を取られている様な感覚だ。
「(くそ…考えろゲイル…!)」
手の内にあるものをとにかく確認した。ガンダム…コロニー残骸…ペイント弾…模擬戦…。開幕早々の被弾といい、アトリエ大尉もあるものは何でも使うだろう。
「…!」
スクワイヤ少尉は策を閃いた。
『そろそろこっちから仕掛けさせてもらうぜ』
ほぼ同時に百式も動き始める。策を試せるのは1度きり…スクワイヤ少尉は腹を括って息を吐いた。
『…ケツを隠せと言ってるんだがな』
こちらの動きに気づいた様だ。
『もらった!』
百式がコロニー残骸から姿を現しライフルを撃った。ガンダムの背にそれが直撃する。 しかし、そこにあったのは自立して飛ぶバーニアポットだけだった。
『なっ…!』
恐らくアトリエ大尉にはバーニアの残光が見えていたのだろう。いや、見逃すはずがないと少尉は確信していた。
「喰らえッッッ!!!」
振り返った百式の正面からライフルを放つ。
『んなもん喰らうかよ!』
百式はシールドでそれを防ぐ。ここまで少尉の読みどおりだった。
「防ぐのはわかってた。でも気にするべきなのはそっちじゃないわ」
『あぁ?』
百式の足元に背後から大きな影が落ちる。彼が背後を振り返った時、そこには倒れてくるコロニーの外壁があった。
『さっきのポットか!?』
通過したポットはそのまま直進を続け、そのままぶつかったコロニー外壁の根本をひたすら押していたのだ。中途半端に刺さっているだけの残骸も多い事は知っていた。
『うおっ!』
倒れてくる外壁を両手で支える百式。ライフルもシールドも手放さざるを得ない。
「今度こそッッッ!!!」
少尉は必要なアポジモーターとサブスラスターを全開にして突っ込んだ。
『甘いぜッッッ!!!』
突っ込みながら放ったペイント弾を数発浴びながらもアトリエ大尉は吠えた。百式は片手を外壁から離すと、瞬時にビームサーベルを抜き外壁を切り刻んだ。崩れた残骸によって巻き上げられた砂埃が辺りを包む。 『ちぃ…何も見えねぇ』
一旦場所を変えようと百式がバーニアを吹かしたその瞬間を彼女は逃さなかった。咄嗟に位置を把握した少尉は、百式の足を掴みそのまま砂塵に引き摺り戻す。
『ぐおっ!』
「そっちこそ…甘かったわね…」
辺りの視界が開けてきた時、マンドラゴラは叩きつけた百式の両肩を抑え、上から跨っていた。ブリッジからの通信で歓声が聞こえる。勝った。
『やるじゃねぇか…スクワイヤ少尉』
「模擬戦だったからですよ…じゃなきゃやられてた」
『それは違うな』
「え?」
聞き返したその時、マンドラゴラのコックピットがペイント弾に塗れた。完全に砂埃が落ち着くと、いつの間にか百式が懐にライフルを手にしているのが見えた。
『模擬戦も俺の勝ちだぜ、嬢ちゃん』
「馬鹿な…!一体いつ…」
『組み敷かれた時にお前から奪ったんだ』
ハッとして確認すると、確かにそのライフルはマンドラゴラのものだった。百式を抑え込むので必死になってそんなことにも気付いていなかったのか。
『ま、筋が良いのは認めるけどな』
「う…」
少尉は肩を落とした。最後まで出し抜けなかった。
『…マンドラゴラ撃墜を確認しました』
フジ中尉の声が聞こえる。少尉はただうなだれるしかなかった。 その後帰還した両機はメンテナンスを開始した。機体を降りた少尉はトボトボと格納庫を歩く。
「嬢ちゃん!良かったぜ」
後ろから乱暴に背を叩いたのはアトリエ大尉だった。
「あそこまでやって駄目なんて…」
「相手が俺じゃなきゃ上手くいったかもな」
笑うアトリエ大尉にはまだまだ余裕が感じられた。仮に作戦が上手くいったとしても、何かしら対策を打たれていた様に思える。完敗だった。
「執念を感じる戦いぶり…。まるでいつかの俺達の様な。そうだろ?アトリエ大尉」
そう言ったのは、出迎えたワーウィック大尉だった。傍にはフジ中尉も居る。
「敵の力量を測り、尚且つ機体特性や地形条件も活かした作戦。そして何より、失敗の許されない作戦を咄嗟に実行する胆力…。模擬戦である事を開き直って、使えるものを使った大胆さもありました」
フジ中尉が眼鏡を掛け直しながら言う。
「えらい少尉を褒めるじゃねぇかよお前ら」
「素晴らしい内容だった。アトリエ大尉が1番それを実感しただろうに」
ワーウィック大尉が苦笑いしている。
「結果が全てだぜ?」
「アトリエ大尉、最初に私が説明した事…覚えてらっしゃいますか」
「ん?」
フジ中尉が不敵な笑みを浮かべていた。固まるアトリエ大尉。
「サーベルの使用は禁止と言った筈です。よってこの模擬戦、勝者は少尉です」 「ちょっと待てよ!別にガンダムにサーベル向けた訳じゃないぜ!?」
「ルールはルールだ。それに、あの状況でサーベルを使わざるを得ない形に追い込んだのは流石と言う他あるまい?他に手が無かったんだろ?」
ワーウィック大尉がニヤニヤと意地悪く笑っている。
「ちぇ、アウェーでやるもんじゃねぇな」
アトリエ大尉がやれやれと両手でジェスチャーした。
「それじゃ…」
恐る恐る少尉は切り出した。
「おう。ガンダムは置いていってやるよ。お前の勝ちでいいぜ…変に粘っても格好がつかねえ」
腕組みしたアトリエ大尉がフンと鼻を鳴らした。
「やった!」
スクワイヤ少尉は思わずその場で小さく跳ねた。
「まあ、確かにあれだけ技量があればガンダムも本望だろうよ。俺ほどじゃねえけど」
「素直じゃないな。あんな楽しそうなところは久しぶりに見た」
「会ったの自体久々じゃねぇか!」
「一理あるな」
2人が笑うのにつられて少尉も笑った。 「楽しそうなところ申し訳ないが」
格納庫の入り口からの声に場が凍りついた。ロングホーン大佐である。
「お前達…何をやっている?」
「その、模擬戦を…」
「見ていたよ。私は各部隊に待機を命じていた筈だが、何やらドンパチ騒ぎを起こす連中が目に入ったものでな」
アトリエ大尉の声を遮りながらロングホーン大佐が言った。カツカツと靴を鳴らしながら少尉達の前までやってくる。
「アトリエ大尉!歯を食いしばれ」
「へっ…?はっ!」
言うなりロングホーン大佐はアトリエ大尉を殴り飛ばした。大尉は派手に尻餅をついた。
「これで不問とする。全く…よその部隊にけしかけて模擬戦などと。只でさえ問題が多いのだぞ貴様は」
「何で…俺ばっかり…」
「なんだ?まだ修正が足りんか」
「いや…結構です…」
呆気に取られている少尉達をよそに、ロングホーン大佐は来た道を戻っていく。格納庫を出ていく時、またこちらを振り返った。
「2人共、いい勝負だった。戦果を期待しているぞ」
大佐はニカッと笑うと、踵を返して去っていく。その場には、立ち尽くす少尉達と頬を擦るアトリエ大尉が残されていた。
26話 ドンパチ騒ぎ アレキサンドリアの面々は、ジュピトリスに到着していた。ジュピトリスはパプテマス・シロッコ大佐が木星より伴った超大型艦である。MSの整備のみならず、開発設計までも行える工蔽を備えている。
艦同士の船体を接続し、司令部へと足を運んだ。
「ウィード少佐以下、只今帰還致しました」
ウィード少佐を筆頭に、ドレイク大尉とソニック大尉、オーブ中尉やレインメーカー少佐も伴っていた。
「戻ったか」
紫の髪を束ねた秀麗な面持ちの男、パプテマス・シロッコ大佐が振り返る。傍には若い女性士官を連れている。
「事前の報告の通り、機体を失いました。申し訳ありません」
ウィード少佐に続き面々は頭を下げた。
「仕方あるまい。データを持ち帰ったならそれで良い…その為の試験だ。それに…」
彼はウィード少佐の前に立つと、彼女の顎に軽く指を添え顔を上げさせ眼差しを合わせた。
「君のような優秀な女性を、この程度の戦局で失う訳にはいかん。君に続く多くの人間は、この先の…まだ見ぬ世界を待っているのだからな」
ウィード少佐は、淡い色をした彼の瞳に吸い込まれる様な心地がした。控える女性士官の眼差しに気付き、ハッとした様に目線を逸らす。
「…新たな世界を築くのは君たちだ。私はあくまでも導くだけ…。その事を忘れないでくれ。私にも、輝かしい未来を見せてくれると嬉しい」
「はっ」
ウィード少佐は再び姿勢を正し敬礼した。彼はいつも自らは一歩下がったところに居てくれる。自信が湧いてくるのは、そうした彼の指導の仕方による部分が大きい。 「既に機体のハードはあらかた完成しつつある。ソフト面で諸君のデータを活かす事になる予定だ」
「ありがとうございます…!しかし、相変わらず製作がお早いですね」
「時代は常に動いている。手を止めている暇は無いのだよ。新たな機体は再びエース用の機体として組み上げている…パラス・アテネとでも名付けようか」
そう言いながら彼はモニターに機体のデータを映し出した。シルエットこそニュンペーと酷似しているが、緑主体のカラーリングと様々な武装オプションによりまた違った印象を受けた。
「アテネ…女神ですか。大佐らしい御命名です。量産型はまだ先送りになるのでしょうか?」
「いや、同時進行で開発を続けたい。その為の豊富なオプション群でもあるからな。エース機と量産機で規格を共通化することで、現場の整備性も向上する。アテネの元に集うニュンペー…実に美しい隊列になるだろう」
「早くお目にかかりたいものです」
「君達の働き如何だ。引き続き頼まれてほしい」
そういってシロッコ大佐はウィード少佐達面々を振り返った。実際に量産へ漕ぎつければエゥーゴなど敵ではない。ジオン残党の駆逐も容易い筈だ。
「「はっ」」
姿勢を正し再び敬礼する。これからの事を打ち合わせ、ウィード少佐達はジュピトリスを後にした。 「ドラフラって、ああいう男がいいのね…?意外だわ」
ドレイク大尉が天井を仰ぎながら言った。一行は補給物資が積み終わるまでアレキサンドリアのブリッジで小休止といったところである。
「別にそういうんじゃ…」
「うっとりしてたじゃない?」
からかうドレイク大尉。顔が熱くなるのを感じた。
「ああ見えて野生的な強さを持っているのがわかる…俺と同じだな」
「どこがあんたと一緒なのよ。目まで筋肉になったんじゃないの?」
ソニック大尉とオーブ中尉が一緒に絡んでくる。
「あの若さで先見の明を見抜いているあたり、やはり木星というのは未知の環境なのでしょうなぁ」
うんうんと頷きながらレインメーカー少佐が感心している。
「確かに素晴らしいお方だけど、私一人を目に掛けてくださっている訳じゃないわ。私はただの部下よ」
ウィード少佐がため息をつく。
「叶わぬ恋ってやつかぁ…」
オーブ中尉がわざとらしく悲しそうな顔をしてみせる。確かに彼には魅力を感じるが、親しみを覚えるにはいささか超然とし過ぎていた。胸に渦巻いているのは憧憬に近い感情なのかもしれない。
「でも彼、女たらしな感じはあるわね」
「もう!その話は終わり!」
悪ノリを続けるドレイク大尉達を制した。 しばらくしてアレキサンドリアは再びジュピトリスから離れた。パイロット達に機体のチェックをさせている間、ブリッジにはウィード少佐とレインメーカー少佐が残った。
「行き先は再び月ですな。作戦指示があるまでは宙域で待機とのことですが、本隊は何やら企んでおるのでしょう」
レインメーカー少佐が腕組みしながら艦橋からの景色を眺めている。遠くに映る月は変わらず静かな光をたたえている。
「今度こそ連中を叩く…。それに変わりは無いわ」
「いかにも」
ジュピトリスでは失った機体の補給も済ませてきた。試験用に用意していた予備パーツから組み上げたニュンペー2号機を始め、ガルバルディ隊も新たな武装を受領した。
「まだ月までは掛かりそうね…。…!!」
シートにもたれたその時、ウィード少佐はモニターに映った物に気付き身を乗り出した。
「これは…!?」
「…やはり考えるスケールが違いますな、上層部は」 そこには、本来そこにある筈のないコロニーが写っていた。アレキサンドリアからは随分遠い場所にいる様だが、それでもどうにか視認出来る距離だった。
「ただの移送…ではないわね。…まさか」
「落とすんでしょうな、月へ」
事も無げに言うレインメーカー少佐を見た。彼の表情は変わらない。
「いくらなんでも…それに我々は何も聞いていないわ」
「あくまでもティターンズは特殊部隊から始まった軍隊ですからな。必要以上に情報は漏らさんでしょう」
飄々としたレインメーカー少佐に、彼女は一抹の不安を覚えた。
「しかし…」
「知ったところでどうなさるんです。ニュンペーで敵を撃つのか、コロニー落としで殲滅するのか…そこにどれだけの違いが?」
「違い過ぎます…」
「まだまだウィード少佐はお若い。大局はこうやって動く事もあるのだと知っておくいい機会です。先の大戦でも、ソロモンを焼いたのはソーラ・システムという戦略兵器ですからな。決してこれが特例という訳でもありますまい」
「そんな…」
思わず拳を握り締めた。確かに戦局は動くだろう。しかし、義のある戦いにおいて本当に許される手段なのか。コロニーの住民は何処へ行ったのか。月の一般市民達はどうなるのか。
「知れば悲しみ、知らねば顧みず…。その程度の感傷で世界は動いておらんのです。どうか、ここは耐えてください」
察した様にレインメーカー少佐が言った。目を細める彼には一体何が見えているのだろうか。ウィード少佐には考えが及ばなかった。
少しずつ大きくなっていくコロニーの姿に、自らの業を見た気がした。
27話 静かな光 お疲れ様です!
マンドラゴラ、ブースターポッド飛ばせるんですか!
そして(爆発四散してるにせよ)コロニー外壁を押し退ける推力と剛性、どっちかと言えば『拳』、キャラが立ってるw
百式のバックパックが羽と推進器の二段階で分離させたり、ディアスやZZのバインダーを外して使えるAEらしい設計で
Vガンダムの半分はアナハイムで作ったと言われても、分かる話ですね
(この物語には出てこないでしょうけど、サナリィに部品を切り離して使い捨てにするセンスは感じません)。
実戦と模擬戦を使い分けるアトリエはまだまだですね、スクワイヤもアツくなってて気づかなかったけどw
ウィード少佐はシロッコに惹かれてるんですね、少し意外でした(>>687の段階ではもうちょっと警戒してるかなー、と)。
ソニックが自分に近い波長を感じてるのは、(木星帰りが)何故かヤザンと意気投合したあの感じですかね、これも意外。
ドレイクは距離を取って考える......ミサイル付シールドを上手く使う(>>661参照)といい、実戦的な知性派なんですね。
レインメーカー爺さんは前者2人のようなベタ誉めではなく
よく分からないけど成果は挙げてる輩に感心しつつ、内心しっかり警戒してると見ましたw
或いはふと自分もかつては見果てぬフロンティアを夢見ていたと思ったのか、でしゃばらず良い感じです
これからはアイリッシュ隊の内幕が描かれ、アレキサンドリア隊もリニューアルして新たな戦いに臨むと。
いよいよ本番・決戦という感じですね、ご健闘を! >>778
いつもありがとうございます!
おー!その辺まで考察していただけるとは!頑張って考えた甲斐があります!笑
分離機構はアナハイムガンダムにはあって然るべきだと思うんですよね、劇場版ZのラストでもZのバインダー外してましたし。
何かと毎度ぶん殴られるのはアトリエ大尉の仕事…笑
模擬戦でしか通用しない戦術は、技術が向上した故の彼なりの手加減だったんですが、サーベルに関してはほんとに追い込まれて素が出ちゃった感じですね。フジ中尉の説明もまともに聞いてなかったし…笑
彼も言っていた通り実戦だったらポットも破壊されてその時点で決着は着いてますが、アトリエ大尉の戦い方からそこを割り切って考えたスクワイヤ少尉が勝った感じです。ただ、やっぱ腕は完全にアトリエ>スクワイヤですね!
アレキサンドリア隊はシロッコの元で動いているので何かしら共感している部分があります。
ドレイク大尉はマウアー的なとこもありますね…シロッコみたいなデキる男よりダメ男が好きそう…笑
彼らのこともまだまだ掘り下げたいので、それも追々。
1つの山場を迎えますんで、引き続きよろしくお願いします!! お待たせしてます!
最近あまりにも忙しいもので…
多少書き溜めてるのでちょこちょこ出しときます!! 「そんじゃま、元気にやれよ」
頬に湿布を貼ったアトリエ大尉。補給が終わり、再び月を立つとの事だった。しばらく月に滞在する事になるスクワイヤ少尉とワーウィック大尉は、2人で彼を見送っていた。
「ニュータイプって、信じます?」
「あぁ?MSの操縦がうまけりゃそう呼ばれるのさ。お前も、ワーウィック大尉もニュータイプなんじゃないか?」
「また適当な事を言って」
ワーウィック大尉が呆れる。しかし案外アトリエ大尉の言うことも的外れではない気がした。
「人と深く解り合えるんでしょ?最初のガンダムに乗ってたアムロ・レイが随分前に前テレビで言ってました」
「ああ、あいつか…訳のわからん事を言うから軟禁されてたんだろ。俺を見てみろ、解り合えそうか?」
「うーん確かに」
首をひねった少尉の頭に、ムッとしたアトリエ大尉が拳骨した。
「お前も生意気だが、まあそういうこった。俺がニュータイプでないか、ニュータイプ自体が幻想か…。どっちにしろ関係のない話だぜ」
「メアリーとお前は解り合えなかったのか?」
そういってワーウィック大尉は、アトリエ大尉の胸元に光る石を指差した。翠の美しい光を放っている。
「ふん、あいつは特別だ。…そろそろ行くぜ」
バツが悪そうにアトリエ大尉が歩きだした。
「え、なに?彼女かなんかですか?」
「まあ、だとしたら犯罪だな」
ワーウィック大尉が笑う。
「だーれがロリコンだ!」
「いや、そこまでは言ってない」
振り返ったアトリエ大尉にワーウィック大尉が胸の前で手を振ってジェスチャーする。
「けっ、その調子なら大丈夫そうだな!あばよ」
「…ほんとに、ありがとうございました」
スクワイヤ少尉は頭を下げた。
「…マンドラゴラだっけ?あれはいい機体だ。お前なら乗りこなせるだろうよ」
背を向けて歩きつつ、アトリエ大尉が軽く手を挙げる。姿が見えなくなるまで、少尉達はその背中を見つめていた。 「…戻るか」
「そうですね」
少尉達もその場を後にする。彼女達の機体も補給が終わり、次の作戦を待つだけだった。とりあえずアイリッシュ級の元へと帰る。
「アトリエ大尉…彼って本当にガンダム貰う気だったんでしょうか」
「どうだか。私が思うに、少尉の事が気になったんだろう」
「私?」
「ああ。ガンダムに思う所はあるだろうからな。どんなパイロットなのか自分で確かめたかったんだと思う。恐らく、お眼鏡にかなったんじゃないか?」
「それなら良いですけど。でも正直、私なんかより彼の方がガンダムに似合う気はしてます」
「あいつは何に乗っても戦果を挙げるさ。それに…」
言葉を切った大尉が足を止めた。気付いた少尉も振り返る。
「私は、少尉を信頼している」
柔らかな表情で言う大尉と目が合った。少尉もニュータイプだったら、彼の気持ちが見えるのだろうか。
「ふふ」
恥ずかしくなった少尉はまた足早に歩きだした。
「見送りは済んだのか」
艦に戻るとグレッチ艦長がブリッジで出迎えた。
「はい。今頃艦も出港する頃でしょうね」
大尉が応える。彼に並ぶ様にして少尉も顔を出した。
「いやー、惜しい男だった。ああいうやつが一人いると俺も楽しいんだがなぁ」
「ずっと居られるとそれはそれで苦労も絶えませんよ」
苦笑いするワーウィック大尉だが、どこか寂しそうでもある。
「それはそうとゲイルちゃん!腕を上げたな。俺も艦長として鼻が高い」
艦長が少尉を覗き込む。観戦しながら呑んでいたところをロングホーン大佐からどやされたと聞いたが、あまり悪びれている様には見えない。
「艦長のおかげでガンダムを持っていかれるところでしたよ」
「いやいや!俺はゲイルちゃんならお茶の子さいさいだろうと思ってな!」
「都合いいなぁ…」
呆れつつも、模擬戦の機会をくれた艦長には感謝していた。アトリエ大尉との戦いで、足りなかった何かを得た気がする。
「何か指示があったら伝達してやるから、お前達も休むといい。また働いてもらうことになるからな」
そういって艦長が帽子をかぶり直した。少尉はその言葉に甘えて自室へと戻った。 スクワイヤ少尉は味気ない部屋へと帰ってきた。サラミスの時より広い自室になったものの、相変わらず置くものがないせいで余計にその広さが味気なさを強調していた。いつもの様に支度を済ませると、ベッドへ寝転がる。
模擬戦だったとはいえ、アトリエ大尉との戦いは鬼気迫るものがあった。あれこれ余計な事を考える暇もないほど追い立てられたし、彼を倒すこと以外は考えられなかった様に思う。
少尉は天井を見つめながら思考を巡らせた。死への恐怖も、そして好奇心も変わらずある。しかし、それを傍らに置くことが出来ればいいのではないかと思えてきた。
無理に克服したり、押さえつけたりしなくてもいい。目の前の事に必死になれる自分をようやく見つけられたのかもしれない。
『…ゲイルちゃん!寝てんのかー?』
しばらくうつらうつらしていたところに通信が入った。身を起こすと、目を擦りながらモニターを触る。
「む…。どうしました?」
『大変なことになった。すぐブリッジに来い』
そういって艦長は通信を一方的に切った。何事かわからないまま、バタバタと部屋を出る。
程なくしてブリッジに到着すると、皆集まっている様だった。一様に表情は硬い。
「なんなんです?」
少尉が声を掛けると数人が振り返った。
「まずい事になってる」
組んでいた腕を解いたフジ中尉がモニターを指す。そこには見慣れた形のスペースコロニーが写っていた。
「コロニーがどうしたんです」
「これがグラナダに向かってきてる」
「へ?」
つい間抜けな声が出た。別のモニターを見ると、月との距離を観測している様な図面が映っている。
「信じられんのは無理もないが、奴らはもう手段を選ばん様だ」
艦長がシートに沈み込みながら言った。深く被った帽子で表情は読み取れないが、声色から怒りが滲んでいた。
「ジオンの時にあれほど被害を受けておきながら、今度は同じ事をやる」
ワーウィック大尉もモニターを見つめている。
「…前から気になっていた事があります。今言うべき事かは私にもわかりません」
フジ中尉が改まってワーウィック大尉を見た。大尉もモニターから中尉へと視線を移した。 「大尉は…ジオン公国軍に所属されていたのではないですか」
「…ああ。元々私は君達の敵だった」
「…そうですか」
ワーウィック大尉が静かに応え、中尉もまた静かだった。スクワイヤ少尉は知らなかった事だ。驚きを隠せず、大尉を見つめた。
「大尉もコロニー落としを?」
「…良い機会かもしれないな、少し話そう。私は地球降下作戦から従軍して、そのまま地上で終戦を迎えた。ルウムまでの事はサイド3で伝え聞いていただけだ…。戦後、デラーズ紛争にも加わらないままだったよ」
「私は…宇宙生まれです。ジオンに占領された連邦寄りのコロニーで父を失いました。母が言うには真面目な男だったようで、最期まで職務を全うしたのだと。私と母や兄弟は父の伝で地球にいて難を逃れましたが」
2人の話に気付き、周りも少しずつ静かになっていた。
「…ジオン公国のやり方は間違っていた。私もそう思っている」
ワーウィック大尉はフジ中尉を見つめた。しかし、中尉は彼から目を逸らした。
「何故そう言い切れるんです…?あなたはそれでも終戦まで戦っていた筈です」
中尉が拳を強く握り締めるのが見えた。
「…ジオンにいた私を許せないのなら、それも仕方ない」
「大尉に何か伝えて事態が変わる訳じゃないこともわかっていますよ…!しかし…」
中尉は再び大尉に詰め寄った。
「コロニー落としなんてものをやるティターンズは当然許せません…。しかし…そのティターンズが生まれたのはジオンのせいでしょう!?何故ジオン軍人だったあなたが此処にいるんです!?…やはり…私には割り切れない…」
そういって中尉はブリッジを飛び出した。
「フジ中尉!」
慌てて追いかけるワーウィック大尉をスクワイヤ少尉も追った。コロニー落としが行われると言われても正直実感は沸かない。大尉がジオン出身だったことも知らなかった。気持ちの整理がつかないまま、とにかく彼らの後を追った。
28話 解り合える 「ここにいたのか」
ワーウィック大尉がフジ中尉に声をかける。格納庫に立つEWACネモの前に彼はいた。
「…申し訳ありません」
「いや、気にするな」
スクワイヤ少尉は、彼らと一緒にしばらく黙っていた。
「…この機体、本当にに良く出来ています」
中尉がネモを見上げる。完全に修復作業を終えた機体は、傷が癒えたフジ中尉が再び乗り込むのを待っている。
「私もこの機体と一緒で、情報収集が得意ですから。…大尉のことも色々と拝見しています。そもそも最初に見たエゥーゴの資料に違和感がありましたしね」
大尉が着任してくる時に見ていたあの資料のことか。少尉は結局見ないままだった。大尉はただじっと話を聴いている。
「いくつかの資料に目を通して、あなたがジオン出身だと気付きました。嘘と正直が混ざった様な経歴でしたが、エゥーゴにそういう人間が居るのはごく自然です。それでも、実際にそれが判ると…私個人には引っ掛かるものがあるのも事実で」
「流石は中尉だ。私も隠すつもりは無かったが…」
ワーウィック大尉が腕を組んで壁に寄りかかった。中尉はMSの前の柵を両手で掴んでいる。少尉はただその間で立ち尽くしていた。
「今は共に戦います。しかし、全てに納得出来ている訳ではありません」
「ああ。中尉の言うことはもっともだと思う…。今は私を…信じてくれ。何としてもティターンズを止めなければならない」
ワーウィック大尉とフジ中尉が向き合った。
「…その気持ちは私も一緒です」
2人の目には、確かな意思が感じられた。 「…中尉は私の事も調べたんですか?」
思わずスクワイヤ少尉は聞いた。
「まあ調べはしたが…少尉は志願兵だろう?後地球出身ってことくらいは」
「よくご存知で」
そう聞いて内心少しホッとした。それ以上の事は踏み込まれていないらしい。
「中尉の気持ちも勿論わかります。けど…今は喧嘩してる場合じゃないです。ティターンズ、止めに行きましょ」
「ふふ…少尉に諭される日が来るとはな」
フジ中尉が自嘲気味に笑った。
「そりゃまあ、チームプレーが大事ですから」
そういって彼女も力なく笑う。いずれ、少尉も自身の事を話さねばならない時が来るだろう。
その時、格納庫へと通信が入る。
『ワーウィック大尉達、そこに居るんだろ?』
近い通信機器のモニターいっぱいに映っていたのはグレッチ艦長の顔だった。
「申し訳ありません。ご心配をおかけしました」
大尉が応答する。
『全くお前らは…誰かに何かあったと思えば今度はまた違う誰か…いい加減落ち着け!』
「いやはや、仰る通りで…」
珍しくワーウィック大尉が辟易していた。
『まあいい。今はそれどころじゃねぇからよ…。コロニー迎撃に出る必要があるのは判ってるな?』
「はい。司令部はなんと?」
『とにかく出港しろとさ。既にアーガマやラーディッシュは出ているそうだ』
「やけに動きが早いですね…」
『何でも密告者がいたらしい。やはりティターンズも一枚岩ではないな』
「なるほど。我々もこうしてはいられませんね」
『おうよ!さっさと支度しろ!』
「はっ」
手早く通信が切られた。最近のグレッチ艦長は貫禄が出てきたというか、艦長らしくなってきた。たった1ヶ月やそこらで人は変わるものなのか。いや、本来の一面が隠れていただけかもしれない。
「よし。早速準備だ」
ワーウィック大尉が2人を振り返る。
「今回から私も復帰しますので、演算の類はお任せを」
そういってフジ中尉はヘルメットを脇に抱えてリフトへと急いだ。
「…中尉、大丈夫ですかね」
「彼ならきっちりやってくれる」
ワーウィック大尉の心境は複雑だろう。彼も自身の過去にはきっと苦しんだ筈だ。
「大尉も無理はしないでくださいね」
「ああ…ありがとう。背中は任せた」
大尉も百式の元へと駆けていった。 程なくしてアイリッシュ級は出港した。パイロットである少尉達は機体のコックピットで待機している。
『お前達、コロニーは目視できているか?』
再び艦長からの通信が入る。
「でっかいですね。このコロニー…無人でしょうか」
『みたいだな…恐らくは一年戦争で廃棄されたものの一つだろう。多少弾が当たっても大丈夫だろうが、破片は飛ばすなよ』
モニターに映るコロニーは核パルスエンジンを除いて光も灯っておらず、見慣れていた姿からすると幾らかおぞましさすら感じる。
『こっからはグレコ軍曹に指示を出させる。俺も忙しいからな…よく聞いとけよ』
そういうと、艦長と入れ替わりでグレコ軍曹が節目勝ちに現れた。おかっぱの前髪で目元が見えないが、相変わらずもじもじしているのはわかる。
『フジ中尉がパイロットに復帰されましたのでこれからは私が…。先遣隊が軌道を変える為にコロニーへ接近、核パルスエンジンを破壊します。皆さんはその援護をお願いします』
『わかった。因みに敵はどの位出てきている?』
『えっと…』
ワーウィック大尉が訊ねると、グレコ軍曹が慌てる。
『…すみません、4隻ほど護衛に就いている艦があります。アレキサンドリア級2隻とサラミス改が2隻。既にアーガマとラーディッシュがコロニーへ砲撃を開始していますので、皆さんは反対側から敵を引きつけてください』
『よし。しかし、まさかの旗艦と共同戦線か…』
ワーウィック大尉の声には期待と焦りがみえた。少尉もアーガマの姿を実際に見るのは初めてである。
「例のニュータイプの少年もいるんでしょうか?」
『少尉、我々は何も気にせずいつもどおりやればいい。…行きましょう』
少尉の問いにフジ中尉は淡々と応えた。彼に従って出撃準備にかかる。 既に交戦が始まっている真っ只中へMS隊は飛び込む。やや離れた場所にアーガマとラーディッシュが見える。
ラーディッシュは同じアイリッシュ級ということもあってスクワイヤ少尉達の母艦とそっくりだが、アーガマはもう少しこざっぱりとしていて、資料で見たペガサス級と何処か似ていた。
『あっちはあっちでやってる様だ。我々は横槍が入らないよう敵を抑える』
「了解」
ワーウィック大尉指揮の元、百式改とマンドラゴラが両翼に展開し、その後方中央をネモが陣取る。
『前方に敵。サラミス改1隻と、マラサイが2機、ハイザック2機…。更に後方にアレキサンドリア級』
フジ中尉が的確に状況を伝える。
『まずは手始めにサラミスの取り巻きを落とす。離れすぎるなよ』
「どう出ます?」
『そうだな、少尉から仕掛けろ。私も合わせる』
「わかりました…!」
返事とほぼ同時にバーニアを吹かし速度を上げた。百式も横に付いてきている。
『私のことは気にせず突っ込んでください。2人の機動力を活かして道を拓く。そこからネモで情報を集めながら敵陣に入り込んでいきましょう』
やや遅れながら中尉が言う。言葉通り、お構いなしにマンドラゴラは敵との距離を詰める。同じくこちらを捉えた敵部隊も布陣を完了している様だ。上下にマラサイ、両翼にハイザックといった具合に十字の陣形を組んでいる。
『行くぞ!』
大尉の声がこだまする。十字の陣形の中央から敵艦の砲撃が届く。それを躱しつつ、迎え撃つ敵陣へと身を投じた。
29話 道を拓く 「ちぃ…!すぐそこにアーガマが居るのに!!」
オーブ中尉はコックピットの中で拳を握り締めた。アレキサンドリアの面々はコロニーの護衛にあたりながら迎撃したエゥーゴと交戦に入っていた。先鋒のサラミス隊が例のバッタ達と戦闘に入った様だ。
『焦らないの。あっちはヤザン大尉達がやってるから』
「あの柄悪いおっさんでしょ?いけすかないわ」
なだめるドレイク大尉に毒を吐く。ヤザン・ゲーブル大尉とはそんなに面識はないが、禄な話を聞かない為あまり良い印象は持っていない。
「ドラフラ、アーガマを落とせればシロッコ大佐も喜ぶよ〜?」
『そんな単純な話じゃないんだから』
「ふん、まあ良いわ。バッタどもには借りもあるしね」
ブリッジから指揮を取るウィード少佐をからかいつつ、出撃準備にかかる。ジュピトリスでの改修作業でそれぞれの乗機には新たな試験装備を施した。
オーブ中尉のガルバルディαには、メッサーラに搭載したブースターと同等のものを外付けしてある。TMAで使用した技術をMSへ落とし込む運用試験である。
最早ガルバルディである必要性はかなり薄いが、パイロットである彼女らに転換訓練を受けさせる手間を省く為と言っていい。 『ここらで腐れ縁とおさらばしたいのは俺も同じだ。トレーニングに集中したいしな』
「あんたの本業はどっちなのよ」
相変わらずのソニック大尉には呆れる。とはいえ一度囚われた彼にとってみればまさしく腐れ縁だろう。彼のガルバルディγは完全に装甲材そのものを取り替えた。
その影響で機体がドム系列の様に大型化したが、各所にアポジモーターを併設することで重量級でありながらも機動性・運動性を確保している。これには、重量バランスに対する推力の必要量を検証する意味合いがある。
『あの調子だと、どうせ先鋒は持ちこたえられないでしょうね…。そろそろいきましょうか』
ドレイク大尉のガルバルディβは、外観に大きな変化がない代わりにシールドを持ち替えていた。パラス・アテネのオプションの一つで、多数のミサイルを装填してある。
シールドラックのグレネードを多用していた彼女にはうってつけだ。これに限らず様々なオプションを換装出来る様、各部にラッチを増設している。
アレキサンドリアから出撃したMS隊は、母艦を離れ過ぎない位置で展開する。先鋒の隊列は乱れ、既に数機撃墜されている様だ。
「どうする?援護に入る?」
『そうね…引きつけるのがお互いに仕事みたいだけど、こっちは連中さえ片付けばアーガマを叩けるからね。早く叩くに越したことはないわ』
何だかんだと言っても、ウィード少佐もアーガマが気に掛かるらしい。
『準備運動は済んでる。後は負荷をかけるだけだ!』
『はいはい。それじゃ、何かあれば呼び戻すから。行ってきな』
『「了解」』
ソニック大尉とのいつもの問答を流しつつ、オーブ中尉が先頭になって友軍の元へと急いだ。ここから見えるだけでも、敵の動きが当初とはまるで違うのがわかる。連中にしても、初めての遭遇戦から今日に至るまで伊達に戦ってきた訳ではあるまい。 お互いが射程距離に入るまでそう時間はかからなかった。こちらの接近を掴んでいたと思われる敵部隊だが、先手は打ってこない。
友軍のマラサイが放つライフルを躱しつつ、バッタを筆頭に小さく纏った隊列を3機で組んでいる。
「いつもより大人しいじゃん…?それなら!」
オーブ中尉は背中のバーニアを前傾にすると、2門のメガ粒子砲を放った。固定兵装なだけあって非常に高い威力を有している。それを受けた敵は一転、大きく散る様にしてビームを避けた。両側に跳んだガンダムとバッタがそれぞれオーブ中尉に迫る。
「あたしが1番叩きやすいとでも!?」
ガンダムのライフルを躱し、更に振りかぶったバッタのナギナタを両腕のサーベルで受ける。
『こっちは俺が抑える!』
間に割って入ったソニック大尉がガンダムを牽制する。その隙に中尉はバッタを押し返すと、再度メガ粒子砲を放った。しかしこれもまた当たらない。
「発射角が不自由ね…!」
唸るオーブ中尉だったが、敵は待ってくれなかった。再度斬りかかるべく一気に距離を詰めてくる。
『独りでやろうとしなくていいの!』
ナギナタの斬撃を遮る様にして、ドレイク大尉が放ったミサイル群が敵を襲う。バッタはそれを器用に切り払いながら尚も進撃を止めない。爆炎の中から敵のバイザーの光が赤く漏れる。
「何なのこいつ…ッッッ!!!」
狼狽えながらもオーブ中尉はサーベルを構えた。1度、2度と切り結ぶうちに段々押されていく。敵の得物は長物の筈だが、こちらのサーベル二刀流の手数にも難なく付いてきた。
「腕をひけらかしてさ!そういうの嫌いなんだよね!」
斬り合いの間を読みサーベルを収めると問答無用で敵の両肩を掴み、敵の胸元へ片方のメガ粒子砲を押し付ける。
「そらぁ!!」
巻き添え覚悟の零距離でビームを放つ。こうでもしなければ命中させられないと踏んだ苦肉の策だった。
しかし、放ったビームは敵を捉えられなかった。砲を押し付けた直後に互いの身体の間へ脚を挟み込まれ、ビームを放つよりも先に強力なバーニア噴射で機体を引き剥がされた。
ビームは敵を掠めるだけに留まり、蹴り飛ばされる形になったオーブ中尉の全身に強い衝撃が走る。
「きゃあああ!!」
『言わんこっちゃないわね…』
間髪入れず庇うようにしてドレイク大尉がバッタの前に立ち塞がるのが見えた。 「フリード!」
『連携しろっていってるでしょ!』
再び距離の開いたバッタに、ドレイク大尉がライフルで牽制をかける。しかし、その合間を縫う様に援護に入ってきた友軍のマラサイが脈絡もなくバッタに接近しようとしていた。
「あっ…馬鹿っ!」
敵がこれを見逃す筈もなく、サーベルを振りかぶるマラサイの後の先を取ったバッタは、容赦なくこれを袈裟に斬り捨てた。
『下手に飛び出すから…!ああなりたくなかったら言うこと聞きなさい!』
「ちぇ…了解」
『いい子ね…。…ラム?』
『おう!呼んだか!』
呼び掛けに応じ、2人はドレイク大尉の元へ集う。ソニック大尉を追っていたガンダムも流石にこちらへ突っ込むことはせず、バッタの傍へピタリと付いた。
「…あれ?おかしい…」
オーブ中尉は今になって気付いた。敵は3機居なかったか。これでは1機足りない。
『何だ?』
「後1機いた筈よ。こないだは居なかったけど、さっきは確かにもう1機…」
辺りを探すが見当たらない。間違いなく3機いた筈だ。
すると、急にバッタとガンダムが動いた。ドレイク大尉達には目もくれず彼女らの背後にいるアレキサンドリアへ向かい始める。
「何なの!?」
『いいから追うわよ…うわ!?』
敵の背後を取ろうとしたドレイク大尉が狼狽える。先程まで無かった筈の大量のデブリが一帯に流れ込んできたのである。行く手を遮られたMS隊は大きく出遅れてしまう。
『一体何処から!?』
「…!」
バッタ達の進む背後にネモ隊が合流するのが見えた。
「あいつらが運んできたの!?」
よく見ると幾つかのデブリにノズルが取り付けられている。簡易的な衛生ミサイルの様な代物らしかった。大きなデブリに小さなデブリがワイヤーで連結されており、牽引出来る様になっている。
『私達を分断する為にわざわざ仕掛けを…』
「何でこんなちゃちい仕掛けでピンポイントに狙えるのよ!これじゃ軌道修正なんて出来ない筈なのに!」
『…あいつか』
ネモ隊の最後尾にレドームを搭載した機体が付いていく。見るからにデータ収集や通信機能を強化されているのがわかる。
「あれよ!最後の1機!」
気付いたものの後の祭りだった。今からデブリを掻い潜ったのではもう追いつけない。 「くそ!くそ!」
手当たり次第にデブリを砕く。
『不味いわね…。いくらニュンペーでもあの敵全てを捌くのは無理よ。私達がこうも足止めされたんじゃ…』
『いや、まだ方法はある』
そう言ってソニック大尉が指し示したのは、護衛していたコロニーだった。
「あれが何なのよ!このままじゃ核パルスも破壊されちゃう!」
『落ち着け。焦っても筋肉は育たん』
「何なのよほんとに…」
『まあ聞け。大した事ではない』
オーブ中尉は肩を落とし次の言葉を待つ。今は彼の作戦を聞くより他に選択肢は無かった。
30話 苦肉の策 >>794
いつもありがとうございます!
また投下しますんでお楽しみに! お疲れ様です!
アトリエのNT観はF91の時代に通用するやつですね。
これで新生ネオジオンにでも入ったら「何があった?!」ですよw
しかしロリコンは自己申告なのか......スクワイヤ少尉、こんな男と解り合うことはありませんぜ(爆)
互いの出自で小さくヒビの入りそうなフジとワーウィック(フジファブリックではないw)。
今はコロニーという大きな敵に一緒に戦ってますが、果たして彼らは和解できるのか......まぁ双方ティターンズ堕ちはしないでしょうけど。
ティターンズ側の内通者の話が出て、(当然ながら)スクワイヤも止めるという点で合意。なんかこの感じ、いいですね!
さてウィード旗下アレキサンドリアはPMX系装備を受領、と。
実質旧ジオン機のガルバルα(オーブ機)にメッサーラのブースターとは、攻めましたね。
ここでマッチングすれば以降のティターンズ系にも合わせていけそうなわけで...
特性としてはシュツルム・ディアスやVダッシュに近そうですが、現時点ではまだまだジャジャ馬の模様。
そういえばオーブ機はボックス・ビームサーベルとのことですが、両方ともそれで二刀流にしているのでしょうか?
ソニックのγ(ガンマ)は......動けるデブに乗る筋肉もりもりマッチョマン、濃いですねw
ドレイクのβラッチ多用モデルが最も生き残りそうですね、バーザムの変なライフルなんかもいざって時に使えるかと(笑)
しかし友軍のマラサイ、仮にも旧主役機なのに...パイロットってやっぱり大事ですね。
しかし、コロニー落としを批判する一方で似非衛星ミサイルを使うフジ中尉、地味に腹黒では?
ガンダムで言っても仕方ない気がしますが、「破片を飛ばすなよ」と言われている戦場に大量のケスラーシンドロームの種を投入するわけで
仮に他のコロニーにでも跳んだら迎撃で落とし切れるかどうか...ある意味エゥーゴらしいかも(苦笑)
では手洗いうがいなど気をつけて、続きを楽しみにしてます! >>796
いつもありがとうございます!
一般的にはNT論なんてそんなものだと思うんですよね、一部の人間にしか認知されてないと思いますし。
エゥーゴの面白いところは、地球連邦であり反地球連邦であり、その上ジオンの人間も居るってとこなんですよね。
そのエゥーゴが同じ連邦内のティターンズと内ゲバやってて、アステロイドベルトからアクシズまでやってくるという混迷ぶり…。
それで裏切るやつまで出てくる訳ですから、その中で信じられるものって何かあるの?というのもテーマの1つです。
ティターンズって機体の繋がりが滅茶苦茶なので、ミッシングリンクを考えるのは楽しいです。AOZみたいな企画が立ち上がるのも納得です。
ジュピトリス系列はあまり触れられていない印象なので、そこに切り込んでみた次第。
いよいよって時の為にこの手の兵器はあるだろうと思いました。
大気圏が無い月だとそのまま破片が降ってくるかと思いますが、フジ中尉ならある程度計算した上で運用してると思います!笑 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています