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宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど
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0001通常の名無しさんの3倍
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2019/07/24(水) 00:50:40.43ID:XfFrIQoe0
小説書いたこともなければスレッド建てるのも初めてなんだけど、もし誰か見てるなら投稿してみる
0648◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:21:21.54ID:JcV85rst0
 スクワイヤ少尉は殆ど除け者にされた状態で、話だけがトントン拍子に進んでいる。とりあえず2人に付いてきた形だ。
『これは…追いかけてきた甲斐がありましたね』
 中尉が唸る。よくわからないが、敵母艦の居場所を掴んだらしい。
『これだけ判れば長居は無用だ。追撃は中断して帰還するぞ。しかし、まさか中尉がここまで優秀とはな…。』
 ワーウィック大尉が嬉しそうに笑う。それを見て、少尉は何となく嫉妬に近い感情を中尉に抱いた。
「まあ、私が敵を泳がせたからこそですけどね」
『よく言う。仕留め損なっただけだろうに』
 中尉が相変わらず冷徹に言い捨てる。やはりこの男は好きになれない。
 正直いって、あのハイザックは落とせた。その上で意図せず取り逃したのも事実だが、こうも言われれば腹も立つ。
『喧嘩するんじゃない、全く…。中尉だけじゃない、勿論少尉もよくやってくれたさ』
「すみません」
 大尉の一言で少し気が晴れた。ちょろいもんだと自分でも思うが。
0649◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:21:44.41ID:JcV85rst0
 追手に警戒しつつ暗礁宙域を抜け、当初指定されていた地点へと到達する。そろそろ艦長達も合流する筈だ。
『ここでサラミスと合流したとして、計画通りに進路を向けてしまうと先程の連中に腹をみせる事になりますね』
 ひと息ついたところでフジ中尉が口を開いた。
『母艦の位置こそ掴んだが、敵の戦力は未知数なままだしな。ここにいた理由も不明だ』
 大尉の言う通り、わざわざボロ艦を待ち伏せするとは思えない以上別の目的がありそうだ。
「偶然出くわしただけかもですよ?あっちも慌ててるかも」
『確かにな。折角だし、これからの作戦遂行の為にも敵の芽は摘んでおきたい。合流したら報告だ』
 そういって大尉が深く息を吐いた時、サラミスからの識別信号が届いていた。
0650◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:22:21.64ID:JcV85rst0
『遅くなってすまんな!』
 何も知らない艦長の能天気な声が響く。ちょっと散歩にでも出てきた様な風情だ。
『艦長、急ぎお伝えしたいことがあります』
 大尉が真剣な面持ちで返す。
『ふむ、収穫が既にあるとは流石だな!補給がてら帰投したまえ』
 モニター越しの艦長は見るからに満足げである。実際のところ、ここ最近の任務に退屈していたのは少尉だけではなかったのかもしれない。
 こんなに活き活きしている艦長を見るのは久しぶりだった。
 3機とも着艦すると、機体をメカニックに任せてブリッジへと急ぐ。到着すると出発前と変わらない様子の艦長が出迎えた。

「艦長、この先に敵母艦が居る可能性がかなり高いです」
 ヘルメットを脇に抱えたまま、単刀直入に大尉が切り出した。
「機影があるか?」
 グレッチ艦長はグレコ軍曹の方を振り返った。
「えと…いや、確認できません」
 おどおどと軍曹が応える。機影があったら既に大慌てしているだろうに。流石の少尉もその位はわかる。
「…そうでしょうね。先程遭遇戦がありまして、退却した敵のルートから位置を割り出しました。まだ距離がありますが…」
 やや呆れ気味のフジ中尉が眼鏡を掛け直しながら言った。
「わかった!お前達の言うことを信じよう。兎に角急ぐのだな?」
 艦長にしては決断が早い。いや、詳細が分かっていなくても要点を掴むのが上手いとでもいうのか。
「艦長、中尉に立案を頼みたいのですが如何でしょうか。まだあの座標付近に母艦がいるとして…」
 大尉がそう言いながらブリッジの正面窓の上に、拡大された宙域マップを写した。中尉が手早く敵艦の座標を入力する。
「よし。中尉、続けてくれ」
 艦長はモニターを注視している。スクワイヤ少尉もその場に立ったまま、皆と共にそのマップを見つめた。
0651◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:23:05.49ID:JcV85rst0
「ありがとうございます。…ご覧の通り、このまま直進すれば確実に接敵します」
 中尉が指し示すマップに表示された月面拠点アンマンへの進路の途中、ここからすぐの位置で接触が考えられた。中尉はそのまま説明を続ける。
「迂回して躱す事も出来ますが、時間が掛かりすぎます。
 それに恐らく敵はこちらに居場所を掴まれている事を知りません。この辺りに駐軍している目的は不明ですが、先手で叩いておいた方が憂いは無いかと」
 そこまで一気に話し終えると、フジ中尉は艦長を見つめた。腕組みをして唸る艦長。
「しかしなぁ…こちらも寡兵だ。相手の戦力を把握していない以上、危険じゃないか?」
 珍しく艦長が真っ当な物言いをしたので、少尉はいささか驚いた。また顔に出ていたのか、艦長が不満げな顔で少尉を見る。
「なんだあ?少尉…。俺だって仕事くらいするぞ!それとも何か案でもあるのか?」
「いやぁ、物珍しくて…。私は攻めるのに賛成ですよ。だって敵がそこにいるんでしょ?」
「馬鹿にしてんな小娘め…。だが敵を避けるのは確かに歯痒いな」
 虎髭を弄りながら艦長がいう。

「あまり時間をかけると敵の位置がわからなくなります。叩くなら急ぎましょう」
 大尉が決断を促す。
「むむむ…。よし!ここはいっちょ派手にやるか!アンマンの奴らに土産が要るだろうしな…やられる前にやるしかねぇ」
 そういって艦長が椅子から立ち上がった。いつもより少しは艦長らしい姿だ。そのまま中尉の方へ向き直った。
「それで?具体的にどう叩くつもりなんだ中尉」
0652◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:23:57.82ID:JcV85rst0
「そこですが」
 中尉が大尉と目を合わせる。
「大尉に単騎で先行して頂きたい」
「なんちゅうことを言う!」
 早速艦長が取り乱す。この提案は少尉も予想していなかった。
「私は構いませんよ。百式があればやれます」
 当のワーウィック大尉は全く動じている様子がない。2人で案を照らし合わせてはいない筈だが、大尉も確信がある様だ。
「勿論我々も出ます。しかし敵との戦力があまりに違い過ぎた時、大尉以外は足手まといになりかねません。
 何かあっても大尉単独なら帰還できるはずです。大尉からの指示を受けるまでGM2は少し後方で待機すべきかと」
 中尉は淡々と述べた。少尉としてはワーウィック大尉に付いていきたいのだが、そうも言っていられない。
「それでやれるというのか…本当に…?」
 艦長は一転して伏目がちになった。
「…いや、お前達に任せてみよう。これで返り討ちに遭うなら、きっと遅かれ早かれだ。
 急いで準備にかかれ!本艦はこのまま進路を予定通り進む!座標に近づいたらタイミングを見計らって全機出撃、本艦もMS隊が帰還できる速度まで一時減速する。無理は禁物だぞ…」
 踏ん切りがついた様に艦長が指示を飛ばす。
「「「了解」」」
 少尉達はすぐに踵を返して機体のもとへと戻った。
0653◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:26:20.27ID:JcV85rst0
「…無茶な作戦だな全く」
 格納庫へ軽く駆けながら大尉が口を開いた。そう言う割に口元は少し緩んでいる。
「急な立案をさせられて出てくるものなど、たかが知れてますからね」
 性懲りもなく毒づく中尉。
「まあ、私は隊長なら大丈夫だと思いますよ。強いし」
 少尉なりに元気付けようと言ってみた。実際、彼なら敵を退けてしまいそうな感がある。これまでの様々な情報が積み重なって、いくらか大袈裟に見積もっているのかもしれないが。
「少尉にも期待している。2人共、支援を頼む」
 乗機のもとへ辿り着くと、3人は手早く機体へと乗り込んだ。行き当たりばったりな作戦にも思える。
 下手をするとここで早々に全滅も有り得るのだが、頭の中で退屈しながら死を弄ぶ事に比べると遥かに心躍る時間になりそうだ。

5話 先行
0654◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:27:23.26ID:JcV85rst0
「何!?こんなところでエゥーゴ??…わかった、お前だけでも帰ってきてくれて良かったよ。おかげで次の手が打てる」
 僚機を失い自身もボロボロになって帰ってきた部下の報告を受けた。
 この艦…アレキサンドリア級を統率しているのは、黒髪の両サイドにブロックを入れた女性士官、ティターンズ所属ドラフラ・ウィード少佐である。
 白い肌と鋭い眼光のコントラストが見るものをハッとさせる。まだ30歳ほどの彼女だが、士官学校から一気に駆け上がるようにして今の地位まで上り詰めた。
 部隊は、母艦アレキサンドリア級を運用しての航行中であった。幸い遭遇戦を行ったのは偵察組で、本命は別にある。すぐにその本命の部隊へ召集をかけた。

「話は聞いた?」
 ウィード少佐はブリッジに到着した3人と向き合う様にして立つ。
「うん、エゥーゴでしょ?何でまたこのタイミングで…」
 応えた先頭のパイロットがヘルメットを脱ぐ。
 ブロンドのロングヘアに首を軽く振っている彼女はフリード・ドレイク大尉。その美しい髪とグリーンの瞳が光っていた。ウィード少佐とは同期である。
「新型っぽいのが居たらしい。テストか何かしてたのか…」
 そう言いながら、ウィード少佐は腕組みしながら近くの壁にもたれかかった。
「だったら捕獲しちゃえば良いんじゃない?新型ゲットに情報も取れて一石二鳥よ」
 もう一人、ドレイク大尉の背後からひょいと顔を出してそう言ったのはリディル・オーブ中尉だ。彼女は小柄で童顔の為まるで子供の様だが、何ならウィード少佐達と歳はさして変わらない。
 ピンで赤毛を横に留めて額を出しているせいか余計に幼く見えるのだが、本人はそれが楽とのことだ。
「そう簡単にはいかないぞ?しかしな…その困難な使命が我々をまたひとつ強くする…」
 女性陣の後ろで腕を組む筋骨隆々の男はラム・ソニック大尉。角刈りで常ににこやか、爽やか風でむさ苦しい。
 恐らくわかった上でやっているというのが余計に面倒臭いのだが、やる時はやる憎めない男だった。
0655◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:28:09.28ID:JcV85rst0
「あー…。おーけー、そしたらあんた達的には素通りしてやり過ごす気はないわけね?」
 ウィード少佐は、両手でやれやれとジェスチャーしながら首をひねった。
「そんな見た目で意外と弱気なのよね?そういうところも良いと思うわ」
 ドレイク大尉が茶化してくる。
「うるさいわね…。しかし今敵の本隊が何処に居るのかさえわからないし…」
 そこまで言ったところでレーダーが機影を捉えた。
「何だあれは…。識別信号なし、データベースにもない機体か。早速、敵さんから出向いてくれたって事じゃないのかい?」
 オペレーターの傍で情報を確認したソニック大尉がこちらを見て微笑んでいる。あとすごく二の腕の筋肉を主張してくる。
「てかあの速度で接近されたらやばくない??あたし達早く行かないと!」
 オーブ中尉の言う通り、高機動な機体のようだ。明らかにこちらを捉えて突進してきている。しかも単騎である。
「はあ…ゆっくりしたかったのに…。しゃーなし!あんた達、お出迎え頼むよ!」
0656◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:29:03.33ID:JcV85rst0
 ウィード少佐がそういうと3人はバタバタとブリッジから退出した。また幾らか静かになったところで、冷静に状況を見極める。依然として敵機は接近中だ。
「お友達は皆血気盛んですなぁ」
 さっきまで黙っていた副官のナイト・レインメーカー少佐が腰を上げた。
 落ち着き払った初老のこの男は、ちょび髭がトレードマークの相談役だ。MSで出撃することも多いウィード少佐に代わって艦の指揮を執る事もある。
「落ち着きがないのよ連中は…」
 溜息混じりにウィード少佐がそういうと、彼はニカッと笑った。
「羨ましくもある。今の私にはあのノリは出せません」
「レインメーカー少佐までああなってしまったら、私はいよいよ気がおかしくなっちゃう」
 そういうと2人で少し笑った。
「…しかし、あの敵…何が狙いなのか。こちらの位置を掴んでいるあたり、無能なイノシシではありませんな」
 腰の後ろで手を組みながらレインメーカー少佐が呟く。
「確かに…。余計、こちらの作戦まで気取られる訳にはいかない」
「左様。何にせよ迎撃して正解でしょう。オーブ中尉の言うように捕獲までいければ上等ですが、まあ様子見ですな」
 格納庫から3機の出撃を確認した。すぐに交戦に入るだろう。大規模な艦隊行動を予定しているティターンズにとって、僅かな芽も摘んでおく方が後々の事を考えると有利だ。
 兎に角今は前線の状況を見ながらモニターに食い入るしかなかった。

6話 イノシシ
0657◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:30:04.35ID:JcV85rst0
 単独で接近する敵機を迎え撃つかたちで、ドレイク大尉達は隊列を組んだ。
 センターを取るのはソニック大尉のガルバルディγ。エゥーゴのリックディアスを解析して手に入れた新素材で外装を強化したガルバルディである。
 軽量な装甲材とはいえ、増加した分鈍重になった機体の運動性を損なわない様、ジェネレーターを高出力のものに換装して強引に動かしている。
 機動性は下がったままだが、気持ち程度のバーニア増設は行われている。

 その両脇を固めるのは、ドレイク大尉のガルバルディβとオーブ中尉のガルバルディα。ドレイク大尉のβは現行機種と殆ど大差ないが、それでもマラサイに勝るとも劣らない機体性能を備えている。
 そしてオーブ中尉の、本来は旧ジオンの機体であるαの改修機。こちらは高機動戦闘に対応すべく軽量化に主眼を置いている。元々近接攻撃に秀でた機体である為、俊敏でトリッキーな戦法が取れるのも強みだ。
 また3機とも連携の為センサー類を強化しており、その頭部はいずれもバイザータイプのものに外観が変わっている。
0658◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:30:38.22ID:JcV85rst0
「さてさて…。新型のお手並み拝見ね」
 ドレイク大尉は接近する敵機をレーダーで捉えていた。かなり近いところまで来ている。
『俺に任せてくれ!γのパワーがあれば蝿の一匹や二匹…』
『何言ってんのよ!あんたは、あたしが敵の足を止めた時に突っ込んで叩くのが仕事でしょ!』
 2人がまた喚いている。ウィード少佐が頭を抱えるのも無理はない。
「いい?あなた達…。指揮は私が執るのよ?」
『『了解ー』』
「聞き分けの良い子達ね。その調子」
 そのまま付かず離れずの間隔をとって敵を待ち構える。

 来た。緑色の、バッタの様なMS。
 翅さながらのスタビライザーと、後ろに伸びた曲線的な頭部。所々フレームの見えた四肢といい、その身軽さと相まって異形さが際立つ。
 デブリに跳び乗る様にして、敵は屈んだまま動きを止めた。双方睨み合いになる。
「何これ…。エゥーゴってこんなものも作るのね…」
 ドレイク大尉は思わずこぼした。虫は好きではない。
『仕掛ける?』
 オーブ中尉が身構えたまま聞いた。
「そうね…リディルが適任だわ、任せる。ラムもしっかり抑える用意を」
『わかった。この僧帽筋に誓って』
0659◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:31:28.31ID:JcV85rst0
 決めるやいなや、オーブ中尉のαが速攻を掛けた。敵の乗ったデブリに回り込む様にして背後を取りにいく。
 抜刀の動作もなく、ボックスタイプのビームサーベルで突きかかった。しかし敵はもうそこに居ない。
「上よ!リディル!」
 オーブ中尉の真上から、別のデブリを足場にしたバッタがサーベルで斬りかかる。中尉は敵の刃を受け止めず、宙返りする様にして再びデブリの背後に隠れた。
 バッタがそのデブリを切断すると同時に、すぐ後ろについたソニック大尉のγが両肩をがっしりと掴む。
『捕まえたぁ!!』
 しかし敵はスタビライザーと大型バーニアを偏向させてγの肩関節へ向けると、勢いよく噴射した。オーバーヒートを恐れたγは堪らずその手を緩める。
 すぐに身を翻したバッタが正面から袈裟斬りにする。咄嗟に両腕で庇ったγが、増加装甲を炸裂させることで敵の粒子を相殺。どうにか再び距離を取った。
0660◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:32:07.33ID:JcV85rst0
『こいつ…怖いもの知らずねッッッ』
 間髪入れず再びαが刺しにかかるが、躱し躱されの3次元でのドッグファイトが続く。上下左右の概念も無くなる様な高度な読み合いの中、敵の動きが止まる気配はない。
「これだけ振り回してもよく動くわ…。捕まえても直ぐに抜け出しちゃうし、困ったわね」
 翻弄される僚機達を眺めながら、どうしたものかと思案するドレイク大尉。するとその時、別の熱源反応を2つ感知した。
「増援!?これは…GM2!」
『こっちはそれどころじゃないの!…ッッッ!』
 αが敵の斬撃を交わしきれず左脚を失う。γにしても先程のダメージがあり、長期戦は不利に思えた。
「まだアレを使う訳には…」
『畜生!筋肉は使った後の冷却も大切なんだ!』
『うるっさいわねぇ!どうすんのよフリード!長くは保たない!』
「揃いも揃ってこれじゃねぇ…。仕方ない、撤退よ。私が殿を務める」
 そういってドレイク大尉はライフルを構えた。まずαに追いすがるバッタを狙撃して足を止める。躱されたものの、その隙をついてαは母艦へと一気に離脱していく。
 続いてγがじりじりと後退するのを支援しつつ、βは矢面に立った。
0661◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:32:43.79ID:JcV85rst0
 敵の高機動は性能面で優れているからこそだろうが、乗り手も尋常ではない。
「でも、やれない相手じゃないわ」
 距離を詰めてきたバッタに射撃を続ける。よく動きよく躱すが、支援を要請した辺り決して余裕がある訳ではあるまい。その証左か、遂に敵の肩を弾が掠めた。
 しかしそれとほぼ同時に、GM2が到着した。その内の1機が仕掛けてくる。
「逸っちゃって…」
 バッタとの間に割り込むようにして突っ込んできたGM2は、ビームサーベルを抜刀するとすぐさま斬り上げた。
 ドレイク大尉はシールドでそれをいなし、そのままシールド内蔵されたグレネードを至近距離で見舞った。
0662◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:34:40.23ID:JcV85rst0
 が、それは敵に炸裂しなかった。敵のGM2は弾頭を咄嗟に掴み強引な軌道修正をして避けたのである。
 背後で爆発するグレネードの逆光に、GM2のバイザーが蒼く光っている。そんな芸当をみせた相手は初めてだった。
「…!こんなやつらと連チャンやりあうのは…どうかしてるわね」
 γが確実に離脱したのを確認したドレイク大尉も、後退すべくバーニアを吹かした。更に追いすがろうとするGM2をバッタが制しているのも見えた。見逃してくれるらしい。

 敵のMSが追ってくる気配はない。そのまま僚機達に続いて着艦したドレイク大尉だったが、久しぶりに冷や汗をかかされた自分に少し苛立ちを覚えていた。
 バッタは勿論、GM2が脳裏に焼き付いて離れない。あの回避行動はまぐれではあるまい。繊細なマニピュレータの操作とそれを実戦で行う度胸…。
 もし回避でなく攻勢に転じる動きだったらと思うと、首の皮一枚繋がった心地がした。思わず自らの首筋に触れる。
 各機の被害状況確認で慌しいメカニック達をよそに、ドレイク大尉の胸のうちは静かに震えていた。

7話 静かに
0663◆tyrQWQQxgU
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2019/12/22(日) 23:55:03.07ID:JcV85rst0
今日はここ迄!
10話くらいいきたかったんですが、添削しながらは普通にしんどいですね…これでも結構頑張ったつもりですが笑
また書き溜めて、話的に切りのいいところでまとめて投下します!pixivはもうちょい待ってください…笑
0665◆tyrQWQQxgU
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2019/12/25(水) 17:08:18.60ID:npqKeYdO0
>>664
ありがとうございます!
また更新しますんで、ゆっくり読んでください!笑
0666通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2019/12/25(水) 23:30:52.53ID:eAQEBsgp0
乙です!

マラサイから百式改とは、また跳びましたね...バッタだけにw
カラーリングもワーウィックが乗るのもあって納得です、目立ったら負けな方の戦線ですもんね。
てか金ピカはエマルジョン塗装とか言ってるけど、デモカラーにしか見えない(笑)

フジ中尉、思ってたより機転の効く人でびっくりしました、生真面目なだけでなく肝が据わってるんですね(失礼)。
そしてフジとワーウィックの間に入れないスクワイヤ、ミサイルを手で弾くとか恐ろしいことしますね ((((;゜Д゜)))。
あの技はスクワイヤの才能を見せると同時に、初期のワーウィックに通じる連携戦術の弱さを伝えるものに思えました。
彼女どうなっちゃうんでしょうね...

ティターンズの娘っ子たち+筋肉+お爺さん、普通にいい人たちっぽいなぁ...
死んでほしくないなと思う反面、どう戦況に巻き込まれていくんだろうとwktkしている自分がいます(おいおい)。
訳が分からないまま終わるのは可哀想ですけど、そうなってしまうのも戦争の異常性なわけで(フラグ立てるな、おい!)。

まぁ実感として、グリプス戦役後半を描く以上は第一部のような大団円は難しいだろうなと素人なりに思うわけです。
そこも含めて今後が楽しみです、よい年末を!
0667◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/12/27(金) 00:47:46.49ID:zsWGJwoj0
>>666
コメントありがとうございます!

あれだけ暴れまわっていればそれなりの機体が回ってくるはずかなと。
カミーユみたいな子供ですら、実績さえ挙げればZが回ってきてますしね。
しかし百式改って、色変えたら完全に悪いやつの見た目してると思うんですよ…頭長いし…笑

キャラクターの考察は特に嬉しいです!ありがとうございます!
自分で書きながらワーウィックは成長したなぁとしみじみ…笑
新規の2人は光るものがありつつも、まだこれから成長していく過程をストーリー的にも大切にしたいところです。
特に主人公のスクワイヤ少尉はどう書いていこうか未だに悩む部分が多いです。

ティターンズの面々は、第1部だとサドウスキーがいつぞや言っていたような"わかりやすい悪役"だったので、今回はもっと平等にキャラクターをつけました。
その辺りももう一つの軸にしていければと。

正直、第1部がそうだったように、あまりZ本編(特に後半)の様な陰鬱なトーンでは書きたくないと思ってました。舞台が同じなので余計に。
しかし今回はもっと過酷な環境下でキャラクター達を動かしたいとも思っているので、どうなるか自分でも楽しみです。
0669◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/12/31(火) 16:28:30.40ID:VILRIuWI0
お待たせしましたー!
今年ももうじき終わりますが、今年最後の投下!よろしくお願いします。
0670◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/12/31(火) 16:29:15.42ID:VILRIuWI0
 あのまま続けられる自信がスクワイヤ少尉にはあった。しかしそれを止めたのはワーウィック大尉だった。
「何故止めるんです!」
『やつら…性能はそこそこだったが、特殊な改造を施した機体だった。仮にわざわざテストの為にこの宙域に居たのなら、まだ大物を隠している可能性が高い』
「だったら余計叩いた方が!」
 食い下がる少尉。
『今の我々の戦力では無理だ』
 横からフジ中尉も口を挟む。そうこうしている間に敵との距離は開いてしまった。

「私では戦力不足ですか」
 渋々帰投しながら少尉は思わずこぼした。大尉の様な戦闘技術や撃墜実績はないし、中尉の様には頭も回らない。それでもやれると思っての行動であった。
『そういう事ではないさ。さっきの戦闘…少尉のあれは並のパイロットの動きではなかったと私は思うがな…危ういくらいに。しかし今やつらを追うのは我々の任務ではないだろう?』
 ワーウィック大尉の言うことがわからない訳ではなかった。それでも、目の前の敵をみすみす逃すことに耐えられなかった。やっと巡ってきた本格的な戦闘のチャンスだったのだ。
0671◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/12/31(火) 16:29:58.90ID:VILRIuWI0
『また死にたがりか』
 フジ中尉だった。長い間少尉の中で堰き止められていた何かが遂に決壊した。
「中尉に何がわかるって言うんです!?」
『わからんさ。わかりたくもないな』
「こんな辺鄙な宙域でいつまでも予定調和な哨戒任務ばかりやって、それで平然としてる方がよっぽどわかりませんよ!」
『死にたがるのは自由だが、そんな好奇心じみたものの為に少尉は人を殺せるのか?』
「何を今更!人を殺すのが仕事でしょ!?」
『2人とも…よすんだ』
 血が昇った2人とは対照的に、止めに入ったワーウィック大尉の声は恐ろしく静かだった。その有無を言わさぬ雰囲気に気圧され、口をつぐんだ。

 居心地の悪い沈黙のなか、少尉達の部隊は速度を落とし先行しているサラミスを追っていた。先程の敵も、もうこの宙域を離れている頃だろう。
『…2人の言い分もある。同じ様に、私にも言い分がある。だからこれだけは言っておきたい。2人の判断や能力が相手に劣っていた訳ではないと思っている。
 タイミングさえ合えばあんな連中に遅れを取る我々ではない筈だ…そうだろ?』
 ワーウィック大尉が宥めるようにして言った。どうも気を遣いすぎる男だ。その気遣いが今の少尉には痛かった。理屈で解っていても、気持ちが逸るのを抑えられなかった自分が酷く惨めに思えた。
「…やっぱり戦っていたいんです。その為にエゥーゴに入ったから」
『私もそうだ。だからこそ今は堪えてくれないか?来たるべき時に少尉の力は必要になる』
「…わかりました」
 少し気持ちも落ち着いてきた。これまでの日々は、途方もなく広い宇宙に居て人ひとりの存在などちっぽけ過ぎて実感も湧かなくなっていたところだったのだ。
 久しぶりに芽生えた存在意義の様なものが、自分を熱くさせたのかもしれない。
『フジ中尉も、君の物事を見る力はもっと冷静に使うべきだ。それが出来る判断力も持ち合わせているしな。間違っても仲間を煽るのにそれを使ったりするんじゃない』
『お見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません』
 すんなりと中尉は詫びた。しかしそれは少尉に対しての謝罪では無かった。当分溝は埋まりそうもないと少尉は感じた。
0672◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2019/12/31(火) 16:30:31.58ID:VILRIuWI0
 程なくして帰還した少尉達は、報告の為ブリッジへと足を向けた。彼女らを回収した艦は、再び元の速度でアンマンを目指し始める。
「おう!戻ったな!…何かあったか」
 重い雰囲気を察してか、珍しくグレッチ艦長が気にかけている。
「少々、喧嘩しましてね…」
 大尉が頭を掻きながら苦笑いしてみせた。その後ろで少尉達は変わらず黙りこくっている。
「なるほどなぁ…。まあ、たまには良いんじゃねえか!大尉もここに来たばっかりだし、俺達は元々てんでバラバラな人間の集まりさ…衝突してなんぼだぜ」
 こういう時には、この艦長の気楽さがありがたかった。
「それで、敵さんはどうだったかね」

 ワーウィック大尉から一通りの報告がなされた。
「…以上です。尻尾しか掴めなかった感触でしたが、こちらも足を止めずに済んだと思えばおあいこですね」
 そこまで聞いて、艦長は進路を映したモニターを見つめた。
「おかげさんで割とすぐアンマンには着けそうだな」
「そのアンマンですが…」
 大尉が再び口を開く。
「補給時に色々とお願いがありまして」
「おうおう!大尉殿には助けられましたからなぁ!あれこれ言ってくださいよ!」
 また艦長が手揉みしながら笑っている。悪どい商人か何かの様に見えるのだが、本人は自覚していなさそうだ。それを見て大尉は微笑んでいた。
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2019/12/31(火) 16:31:41.36ID:VILRIuWI0
 暫くしたらアンマンに着くと言うので、パイロット達はそれまでしばし休息ということになった。各々、自室へと帰るよう言われた。
 大尉だけはそのまま少し艦長と話していたが、あの後何を話していたのだろうか。
 スクワイヤ少尉は、何もない狭い部屋に戻ってきた。殆ど寝るだけの場所で飾ることも出来ない。
 とりあえずシャワーを済ませ、下着姿にシャツだけ羽織ってベッドに寝転ぶ。左腕を額に乗せ、その下から天井を見つめた。
「…死にたい訳じゃないんだけど」
 小さく声に出して言った。功を焦った訳でもない。ただ、何もしないでいる日々が耐えられなかった。
 このまま何も無いのなら、寧ろ死の先に何かあるかもしれないと、淡い期待を抱いただけだ。今は何かしら取り組めるものがあるだけ充実して感じる。
 そんな事を考えながら、うとうとと微睡み始める。眠るのに程よい身体の熱を感じながら、死ぬ時はこんな風にふわふわしていると良いなと思った。

8話 死にたがり
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2019/12/31(火) 16:38:57.19ID:VILRIuWI0
「…少尉。おーい…。入るぞ…。」
 スクワイヤ少尉が寝惚けていると、少し遠くでワーウィック大尉の声が聞こえている様な気がした。とりあえずその辺の布に頭から包まる。
「流石にそろそろ起きろよ…体調でも悪いのか?」
 大尉の声が近くなった。気のせいでは無かったらしい。そう思うと何故か心臓が高鳴ってきた。今顔を見られるのは、何となく恥ずかしい…寝起きだからか?
 布の切れ間から外を覗こうと思った時、その切れ間が丁度開いた。大尉だった。結構な近距離で目が合う。
「あ!うわあ!」
「うお!」
 つい少尉は驚いて額を額にぶつけてしまった。それにまた驚いて2人してバタバタと後ろに下がる。

「痛…いやいや、すまん、外から通信しても返事がないから体調が悪いのかと思って…見に来たんだが…」
 尻もちをついて額をさすりながら大尉が言った。少尉もばっちり目が醒めた。いや寧ろ恥ずかしさで開きすぎるほど目が開いている。
「お…おはようございます…」
 少尉もしどろもどろに挨拶をする。
「おはよう…あ」
 大尉と目が合うと、今度は大尉が恥ずかしそうに目を逸らした。
「ほんとにすまん…その…」
 そうだった。殆ど下着姿なのを忘れていた。もう恥ずかしさで爆発しそうだった。耳が熱い。また布に包まった。
「すみません…どの位寝てました…?」
 目を逸らしたまま苦し紛れに尋ねる。
「いつもより起床時間は2時間近く過ぎてるな」
 頭を掻きながら、同じく目線を逸らした大尉が言った。
「やっちゃった…。ごめんなさい、こんな格好で…。体調は大丈夫ですから…」
「そ、そうか…。早く支度しろよ」
 大尉は少しこちらを見て赤面したまま微笑むと、足早に退室した。赤面していたといっても、恐らく少尉程ではあるまい。少尉は意味もなく包まった布で顔をごしごしとこすった。
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2019/12/31(火) 16:39:39.66ID:VILRIuWI0
 とにかく急いで支度すると部屋を出た。
 まだアンマンには着いていないとはいえ、流石に寝過ぎた。作業というほどの作業はさしあたって無いのだが、昨日のことを考えると大尉が心配するのも仕方なかった。
 とりあえずちゃんと謝る為にも大尉を探す。
「ん、少尉か。大尉が心配していたが…大丈夫か?」
 フジ中尉と出くわした。昨日は昨日で言い争ったものの、中尉は特に変わりない様子だった。
「すみません、大丈夫です。中尉もその…昨日は申し訳ありませんでした」
「ああ、私も言い過ぎた。気にしないでくれ。…大尉なら今頃ブリッジだ」
「ありがとうございます」
 軽く会釈してブリッジへ向かった。時間を見つけて中尉ともきちんと話をしようと思った。同じ艦にいる以上、彼とも今後長い付き合いになるかもしれない。
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2019/12/31(火) 16:40:34.24ID:VILRIuWI0
 ブリッジに到着すると、ワーウィック大尉がオペレーターのグレコ軍曹と何やら確認しているところだった。少尉に気付いた大尉が恥ずかしそうに笑った。
「少尉、さっきはすまなかった。元気そうで良かった」
「こちらこそご心配をおかけしました…。そういえば艦長は…?」
「艦長なら自室にいらっしゃるよ。基地に着く前に諸々資料の準備があるらしい」
「そうですか…」
 そう言いながら、2人でブリッジから見える月を眺めた。遠くから見える月はぼんやりと白くて美しいが、こうして近くで見てみると点在するクレーターや観測機器で酷く無機質なものに思えた。
「もうじきアンマンの基地ですか」
「ああ、今日のうちに着くだろう。少尉が喜ぶものがあれば良いが、どうかな」
 鼻筋の通った彼の横顔に何となく見とれた。恋人は居るのだろうか。
「私が喜ぶものでも用意してくれたんですか?」
 ちょっとからかい気味に聞いてみる。
「ふふ、実は艦長に直談判しててな。まだどうなるか判らんが…」
「へぇ…楽しみにしときます」
 それが何かはわからないが、気にかけてもらえていることが嬉しかった。彼が来てからというもの、退屈していた自分が少し変わり始めているのを感じる。
 どうしようもないと思っていた色んなものが動き出した。

「私は月に来るのが初めてでな…話には聞いていたが。いつも見上げていたものがいざ目の前にあると変な心地だ」
 感慨深そうに大尉が言う。
「こうしてやってきたのは私も初めてです。何ていうか、近くで見るとあんまり綺麗じゃない」
「まあそう言うな。どんなものも見方によって変わるものさ。自分の目が変われば、自ずと周りも変わっていく」
 スクワイヤ少尉も何かを、誰かを変えられるだろうか。
 ぼんやりとそんな事を思案していると、変わらなかった月の景色の向こうが輝き始めた。大小様々な灯火が色とりどりに灯っている。

「私には、とても美しく見えるよ」
 大尉の声を聞きながら、アンマン市が地平線の先に見えてきた。

9話 地平線
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2019/12/31(火) 17:00:07.11ID:VILRIuWI0
 ダン・ロングホーン大佐は、アンマン市に入港するサラミス改を眺めていた。
 彼は1年戦争においてはパイロットとして前線で戦い抜き、戦後はマゼラン級艦長や独立艦隊司令を歴任。現在はこのアンマン市にあるエゥーゴ拠点を任されている。
 深い掘りにしっかりとした鼻、厳格な性格を表した様な太い眉、精悍な顔立ちをした軍人であった。
 壮年に差し掛かった今でも若い連中に遅れは取らないと自負するだけあって、心身ともに鍛え抜いた彼は他の上層部の人間とは纏う雰囲気からして違う。
 大佐はおもむろに席を立つと、サラミス改のクルーを出迎える為ドックへと降りた。哨戒任務を主に行っていたと聞いているが、エゥーゴには持て余していられる戦力は無いといっていい。
 ブレックス准将からの指示もあり、彼らにはこれから嫌というほど働いてもらわねばならないだろう。
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2019/12/31(火) 17:00:45.27ID:VILRIuWI0
「やあ諸君。アンマン市へようこそ」
 搬出などがやや落ち着いたとみえるタイミングを見計らい、大佐はクルー達に顔を見せた。皆作業を中断してその場で姿勢を正す。
「わざわざお出迎え頂くとは恐縮で…。私が艦長のファルコン・グレッチ少佐であります」
 挨拶をした、だらしない風貌の男はそう名乗った。
「グレッチ少佐。私がここを任されているロングホーン大佐だ。航行ご苦労。諸君には伝えたい話が色々あってな…勿論、聞きたいことも色々と」
 そう言いながらざっと周囲を見渡した。
「ワーウィック大尉というのは?」
「はい。お呼びでしょうか」
 資料で見た通り、顔に火傷の跡がある男が前に出た。
「君か」
「サム・ワーウィック大尉であります。MS隊隊長として任務に参加しております」
 かしこまってはいるが、その目には強い意志を感じ取った。これまでもそうやって生き延びてきたのであろう、死線を超えてきた男の目だった。
「いい目だな…。君からの要請は事前に艦長から聞いている。善処したつもりだが、まあその話は新しい艦でするとしようか」

「新しい…艦ですか」
 大尉が驚いた様に聞き返した。
「ん?聞いていないのか?」
 大佐はグレッチ少佐に視線を移す。なんの事か少佐もピンときていない様子である。
「ふむ…ギリギリの通達であったし、手違いがあったかな。ならサプライズだ。諸君はこれから新造艦であるアイリッシュ級戦艦へと配属になる。勿論、人員も補充する」
 クルー達がどよめいた。栄転といっていいだろう。
「搬出した資材の多くはアイリッシュ級の方に移されている頃だ。今のうちに艦内を見ておくといい。…案内しろ」
 そういって傍に控えていた下士官に誘導させた。
「艦長とブリッジクルー、MS隊の諸君はアイリッシュ級のブリッジへ。今後の作戦について話しておきたい」
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2019/12/31(火) 17:01:33.68ID:VILRIuWI0
 アイリッシュ級は、マゼラン級やペガサス級は勿論、エゥーゴの旗艦であるアーガマなども参考にして開発されたMS運用艦である。既に2番艦"ラーディッシュ"を始めとした数隻が作戦行動中だった。
 今回の任務では、ブライト・ノア大佐やクワトロ・バジーナ大尉らが月の表側ならば、ロングホーン大佐達は月の裏側を守る。まさしく表裏一体の作戦といえよう。
「ここがブリッジだ。広いだろう?」
 艦長達を引き連れ、出来上がったばかりのブリッジへと入った。サラミスとは比べ物にならない最新鋭の設備に、皆の唾を飲む音すら聞こえてきそうだった。
「…これを、私が扱うので?」
 唖然としているグレッチ艦長が恐る恐る聞いてきた。
「勿論。私も同行したいところだが、基地を空ける訳には行かんしな」
 それを聞いても尚、艦長は返す言葉もないといった様子でただただ驚いている。
「じき慣れるさ。それはそうと、これからの作戦について諸君に伝えねばならん」
 大佐が後ろ手を組みながらクルーを見渡すと、皆の視線が注がれた。
「よろしい。…皆知っての通り、月周辺ではティターンズ艦隊の動きが活発になりつつある。
 上層部はフォンブラウン市こそが標的になるとみているのだが、それを見越したティターンズがここアンマン市を無視するとも思えんというのが私の見解だ」
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2019/12/31(火) 17:02:27.24ID:VILRIuWI0
 ゆっくりとブリッジの窓沿いを歩きながら大佐が述べる。窓に写り込んだクルー達の表情は一様に固かった。
「諸君は哨戒任務の任を解かれ、これからはアンマン市を拠点とした戦闘行動に加わってもらう。
 エゥーゴは少数精鋭だ。現状として、ティターンズ程は連邦軍内の他派閥を味方につけているとは言い難い。我々の少ない手札に於いて、まさしく諸君には切り札となってもらうべく召集した次第だ」
 いささか仰々しい言い方だと自分でも感じながら大佐は続けた。
「この艦は勿論、人員だけでなくMSも新たに補充する。
 MS隊は優秀な人材が多いと報告にあったしな。後で私の方から案内させてもらう。こう見えて私もパイロット上がりだからな…未だにMSを見ると昂ぶるものがある」
 報告にあった面々…ワーウィック大尉、フジ中尉、スクワイヤ少尉。彼らの顔をクルーの中に見つけた。大尉は勿論、他の2人も興味深い人材であった。
「今後の詳しい作戦行動に関してはまた艦長を通して伝える。そして、今度はこちらが聞きたかったことなんだがね。ここに到着する前に交戦があったとか?」
 そう問うとワーウィック大尉が進み出た。彼に向かって頷き、説明を促す。

「私からご報告させていただきます。…」
 彼の話を要約すると、未確認機体の護衛を兼ねたテスト部隊と思われるティターンズと遭遇戦になったとのことだった。
「なるほど。連中がフォンブラウン市側の艦隊と合流すると厄介だな」
「はい。しかし遭遇した位置からすると、近いのはむしろアンマンです」
「やつら…ここに来るか…?」
「十分有り得ます。フォンブラウン側に大きく戦力を割いているとすれば、こちらに割く戦力はそれこそ少数精鋭で来るのでは」
 大尉の話は頭に入れておくべき案件だった。アレキサンドリア級が母艦なのであれば、単艦でも一定の戦力は保持しているだろう。あと数隻引き連れて陽動に出る可能性は高い。
「そうか…。貴重な話を聞けて良かった。直ぐに作戦を立案させよう」
「お願いいたします」
 そういって大尉は深く頭を下げた。
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2019/12/31(火) 17:02:56.95ID:VILRIuWI0
 それから、他のクルーと同じくブリッジクルー達にも設備の説明を受けさせている間に、大佐はパイロット3人と共にMS格納庫へと足を向けた。
「私がMSに乗っていた時には、まだまだ女性パイロットは少なかったものだよ」
 感慨深く思いながらスクワイヤ少尉を見た。大佐からすればまだ子供のように見えるが、大尉や艦長からの報告に依れば彼女もなかなかの腕利きらしい。
「私の事はどうお聞きになったんです?」
「燻っていたが腕は良いと」
「買い被りですから」
 そういって彼女は少し笑った。これからの働きに注目しておきたい。

 格納庫に到着すると、サラミスから移したワーウィック大尉の百式改がまず目に入った。納入時に不足していた専用装備など、彼に合わせたチューンナップを施してやる予定だ。
「数ヶ月前、これの金色がここに来たよ」
「バジーナ大尉ですか」
 ワーウィック大尉が食い付いた。彼からすれば同じジオンの男はさぞ気になるに違いなかった。
「サングラスなどかけて、気取った男だ」
「私も普段はこれを」
 そういって彼はバイザーをみせた。
「傷を隠す為のものだろう?」
「はい。正直あまり気にはしていないのですが、カラバの友が私にくれたものですから」
 大尉の火傷は最近負ったものだと聞いていた。ニューギニア基地での激戦は大佐の耳にも届いている。
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2019/12/31(火) 17:03:44.06ID:VILRIuWI0
 続いて見えた機体はフジ中尉のものだった。
「これはフジ中尉の乗機だ。大尉から通信機器の強化を依頼されて、急ピッチで組ませたよ」
 大佐がそう伝えると、大人しくしていた中尉が食い入るように機体を見つめた。
「これが私の機体ですか」
 中尉の見つめる先には、畳まれた大型のレドームを背負ったネモが立っていた。
「EWACネモとでも言おうか。君の判断力を買ってのことだ。センサー強化は勿論、処理能力の高いAIも入れておいた。更にこの近辺で収集した環境データを蓄積…そのほぼ全てが入ったストレージを積み込んである。さながら前線司令塔といったところか」
 そして、その後ろにはスクワイヤ少尉の機体が用意されていた。
「これがスクワイヤ少尉のMSだ…。驚いたか?」

 そこに立っていたのは紛れもない、ガンダムだった。

10話 栄転
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2019/12/31(火) 17:13:54.74ID:VILRIuWI0
 信じられなかった。むしろ、取り立てて実績を上げた訳でもない自分にこんな機体があてがわれるなど、陰謀すら感じた。
「ご覧の通り、ガンダムだ」
 ロングホーン大佐がそう紹介したガンダムは、複数のバーニアノズルがついた見慣れない大きなポットを2基背負い、横に伸びた両肩にもアポジモーターが見られる。
「こいつは過去に少々揉めたデータを流用しているのだがな。まぁそうはいっても優秀なものを腐らせるわけにもいかん。君と同じだ」
 大佐のいうデータに関しては何とも言えないが、まさかガンダムとは。
「この機体…ベースはジムカスタムですか」
 中尉が聞いた。知らない名前だ。
「よく判ったな。設計データの基礎はその通りだが、勿論現代仕様に作り変えてある。そこにテスト運用されたポットのデータを盛り込んで、ガンダムタイプに仕上げた。
 ティターンズが作ったジムクゥエルのガンダムヘッドと思想は似てはいるが、こいつは正真正銘のガンダムだよ…コードネームは"マンドラゴラ"…。
 長いこと地面に埋まってたからな、引き抜いてやろうと思っていたのだ」
 白を基調に胸部など各部で紫をあしらったカラーリング。その壮観な眺めには見惚れるしかなかった。
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2019/12/31(火) 17:14:25.94ID:VILRIuWI0
「しかし…何故こんな機体を私に…?」
「買い被りかもしれんな、大尉の」
 大佐の言葉に、思わずワーウィック大尉を振り返る。
「元々私が乗る予定だったが…どうもガンダムは性に合わない。百式を受領して一度は流れた話だったのを、また掛け合って回してもらったんだ」
 そういって彼は笑った。思わず少尉も笑う。そんな事があり得るのか。
「ほんとに…買い被り過ぎですよ」
「君ならやれるさ。中尉の万全のサポートもあれば、私がやることなど殆どない。…念願のスポーツカーだな。困るか?」
 ニヤリと意地悪く大尉が言う。夢にも思わなかった事態に、興奮がしばらく続きそうだった。

 しかしその時だった。大佐の端末が呼出音を鳴らした。周囲も急に慌ただしくなっている事に気付く。
「どうした」
 ロングホーン大佐が応答している間に周囲の人間に聞くと、ティターンズからの放送中継が始まったという。少尉達も近くのモニターへ詰め寄った。
『…フォンブラウン市は我々ティターンズが占拠した。…繰り返す!…』
「馬鹿な!主力は何をやっていた!」
 大佐が端末に怒鳴る。この放送が本当ならば、早くもフォンブラウン市を敵が抑えたということだった。
「…私は司令部に急ぎ戻る。諸君は指示を待ちたまえ。機体は任せるが、まだ慣れない内はGM2でも構わんぞ」
 大佐はそういって足早に去っていった。
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2019/12/31(火) 17:15:04.22ID:VILRIuWI0
 それから殆ど間を置かず、今度は第1戦闘配備の指示が響く。こちらも敵襲か。
「早速か…。私は百式で出る。2人は…」
「データに目を通しておきたいですし、私もネモで出ます」
「えっと…」
 大尉達が機体を決める中、スクワイヤ少尉はガンダムを仰ぎ見た。
「少尉…流石に急には動かせんだろう」
 察した大尉が心配そうに言う。
「いや、やります。きっとこの時を待ってたんです。私も、この子も」
 猶予はない。少尉がガンダムの元へ走ると、彼らも乗機に向かって走った。

 それぞれコックピットに乗り込むと機体を起動する。少尉の乗っていたGM2はそもそも旧GMからのアップデート版だった為、全天周囲モニターですら無かった。
 広々としたコックピットに周囲の様子が写る。まるで宙に浮いている様な気分だ。
「これ…すっごい」
『少尉、ガンダムで本当に大丈夫か?』
 ワーウィック大尉からだった。
「大丈夫も何も…最高です」
『あまり無茶はするなよ』
「了解!」
 このタイプのインターフェースについて無知な訳ではない。とはいえ、大体はわかっても後は実際に動かしてみる必要がある。
『中尉はどうか?』
『凄い量の情報が…。早く慣れます』
『少しずつで良いからな。焦るな』
『了解』
 中尉の機体もどうやら勝手が違う様だ。今まで自分で組んでいたものが既に最適化されているらしい。
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2019/12/31(火) 17:15:39.71ID:VILRIuWI0
『MS隊、準備は出来てるか?』
 グレッチ艦長からだった。緊張で顔が強張って見える。
『全機いけます。状況は?』
 大尉はいつもと変わりない。
『詳しいことはまだわかっちゃいないが、フォンブラウン市の強襲と間を置かずにアンマン市へもティターンズが来ているらしい。アレキサンドリア級が1隻、後続にサラミス改も2隻遅れて付いてきてる』
「アレキサンドリア級…もしかしたら」
『ああ、奴らかもしれんな。残念ながら本艦はまだ出港出来る状態にはない。MS隊だけ、アンマン市の防衛部隊と共に出てもらう形になる』
『了解。我々の部隊指揮はこちらに一任していただけますか』
『もちろんだ大尉。データ収集は中尉のネモと少尉の新型を存分に使ってやれ』
『ありがとうございます』

 モニター越しの艦長が大きく息を吐き、覚悟を決めた様に改めてこちらを見つめた。
『戦果を期待するぞ!』
『『「了解」』』
 艦長は自らを奮い立たせる様に言った。まさかの新造艦の艦長だ、無理もない。同じくガンダムを任された身としては心境に近いものがある。
 まだカタパルト以外の設備が使えない為、百式、ネモに続く形で格納庫を歩く。ドックの天板の一部が開き、カタパルトハッチの向こうに星空が見えた。いつもと同じ宇宙も、モニターが変わると別物の様だ。隅々の遠い星まで掴めそうだった。
 大尉、中尉が先行して出撃した。スクワイヤ少尉もそれに続くべく機体をカタパルトに固定する。
『ゲイルちゃん。ガンダムだぜ?良かったな』
 グレッチ艦長が苦笑いしている。自分達の手を離れたところで事態が動き出している気がした。艦長も今の状況に付いていくのが精一杯といった様子だ。
「これまでの鬱憤を晴らしてやりますよ。…ゲイル・スクワイヤ少尉、マンドラゴラ…出ます」
 掛かるGに耐え、射出された機体を制御する。背後のポットと全身のアポジモーターのおかげか、どんな姿勢でも安定して飛行出来る。
 月を背に、螺旋状の光を描いた機体は今、彼女と共に明るい宇宙へと飛び立った。

11話 螺旋状の光
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2019/12/31(火) 17:27:04.48ID:VILRIuWI0
「アポロ作戦…。始まりましたな」
 副官のレインメーカー少佐がブリッジの外を眺めつつ顎に手を当て言った。その傍に立ち、戦況を確認するウィード少佐は敵の出方を伺っていた。
 本作戦に参加する前段階としてのテスト実施だったのだが、敵に遭遇したのは計算外だった。
 それにしても…パプテマス・シロッコ…。木星帰りの男は、したたかなやり口でフォンブラウン市を制圧した様だ。出し抜かれたジャマイカンが黙っているとは思えないが。
 ウィード少佐の部隊はそれと呼応する形でアンマン市を強襲しているところであった。予定よりは早いが、この機を逃す訳にはいかない。恐らくシロッコ大佐もウィード少佐達が動くことを見越している筈だ。

『そろそろね…。先行するわよ』
 出撃したドレイク大尉から通信が入る。彼女らの機体は先日の交戦で損傷していたが、急ピッチでの補修がどうにか間に合った。試験用でパーツを持ち合わせていたのが功を奏した。
『あのバッタ…出てくるかな』
『いようがいまいがエゥーゴなど…パンプアップした今の俺の敵ではない!』
 オーブ中尉のαは脚部の修理で手一杯だったが、ソニック大尉のγは一時的に装甲材を増やしている。月面近くの戦闘では重力も気になるが、先日のデータからするに被弾することも考慮したテストを実施すべきだった。
 ひとまず3人を先行させて敵戦力を引きずり出す。フォンブラウンの情報が錯綜しているだろうことを考えると、恐らく出せる戦力は殆ど出してくる筈だ。
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2019/12/31(火) 17:28:01.90ID:VILRIuWI0
「指揮官殿は出られますかな?」
 レインメーカー少佐がこちらを見る。
「そうね…。こないだの連中が出てくる様であれば、それも考えるわ」
 ガルバルディ隊のテストは勿論だったが、本命のモビルスーツがまだ眠っていた。
 PRX-000…名をニュンペーと言う。シロッコ大佐から支給されたもので、木星船団のジュピトリス謹製らしい。メッサーラの様なエース機ではなく、連邦軍で本格的な量産に耐えうる機体を彼の独力で試作したいとの事だった。
 そのデータを元にして次の試作機を作るそうだが、テスト運用した限りでは非常に操縦性に優れたインターフェースを備えている。
 今頃彼はドゴスギアに乗艦している筈だが、そちらでも設計に携わった機体を配備しているらしい。
「あれは予備パーツが殆どないからね…。ここぞってとこでしか実戦には出せない」
「ニュンペーの為にガルバルディを用意した様なものです。戦局の見極めはお任せしますよ」

 話している間にも敵に動きが出始めていた。
 先行したガルバルディ隊に呼応して、敵の守備隊が出てきている。主にGM2と思われる機体が6機程度。サラミス改も2隻ほど確認している。
「サラミスは気にするな!アレキサンドリアで引きつける!コロニーの残骸を盾にしつつ、市街に侵入しろ」
 フォンブラウン市の戦局が落ち着くまで、ウィード少佐としては援軍が参戦するまで、とにかく敵を引きつけたい。
『市街って…。そりゃ敵は攻めづらいだろうけど…』
 ドレイク大尉がどうも渋っている。
「言いたいことはわかるわよ。なにも破壊活動をしろとは言っていない。そういう動きを見せるだけでも、敵を引きつけるには効果的だからね…もしあちらさんが砲撃でもして被害が出ようものなら、エゥーゴ側に非がある」
『無茶な屁理屈ね…あなたのそういうとこ、嫌いじゃないわ。今日のあなたは意外と強気』
 ガルバルディ隊は引き続き侵攻を再開した。敵はしっかり釘付けになっている様だ。
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2019/12/31(火) 17:28:51.57ID:VILRIuWI0
 すると、防衛ラインに加わる機影が3機現れた。内1機は例のバッタの様だが、僚機が前回と違う。
「何なのあれは」
 ウィード少佐は思わずこぼした。大型のレドームを展開した機体と、見慣れない機体が更に1機。
『嘘でしょ…!ガンダムじゃんあれ!』
 オーブ中尉が驚きの声を上げた。バッタだけでも厄介なところに、更にガンダムとは。
「まずいね…。頭でっかちの方も気になる。急いで市街まで侵入して!」
『俺が的になる!2人は先に行け!』
 ソニック大尉の宣言どおり、γが敵の射線を誘導する。しかし釣れるのはGM2ばかりで、先程の3機はαとβを捉えている。しかも接近速度が目に見えて早い。機動性は勿論、こちらの進路を先読みしている様な的確さである。市街に入る前に頭を抑えられてしまう。

「ちっ…このままでは」
 ウィード少佐は歯ぎしりした。ティターンズこそ練度の高い連邦軍唯一の軍隊である筈だ。数に物を言わせるその他連中とは訳が違う…。この様な戦況をシロッコ大佐に報告するわけにはいかなかった。
「ここは私にお任せください。あなたはあなたの成すべきことを」
 レインメーカー少佐が出撃を促す。確かにこのままでは最悪各個撃破されかねない。
「…わかった。時間稼ぎさえ出来ればこっちのものよね」
「左様、頼みましたぞ。…整備班!ニュンペーの用意を急げ!ウィード少佐が出る!」
 彼の言葉を背に、ウィード少佐は直ぐに機体の元へと駆けた。
 シロッコ大佐が彼女に語った未来…そこへ到達する為には必要不可欠な作戦である。そしてこのニュンペーは、その後の連邦軍における兵達が搭乗する新たな機体となる筈だと、彼女は確信していた。

12話 語った未来
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2019/12/31(火) 17:32:44.99ID:VILRIuWI0
 新型の情報処理能力は桁違いだった。この機体はフジ中尉がほしい情報をいち早く届けてくれる。周囲の地形は勿論、敵の進路予測や到達までの予測時間など、戦術の組み立てに必要なものがすぐに手に入る。
 データに関してはホームであるアンマン市だからこそともいえるが、それを抜きにしても舌を巻く性能である。
「このまま直進すれば敵の市街最短コースを潰せます。敵は迂回するしかないはずです」
『よし、こうして道を絞れば敵の頭を叩けるな…モグラ叩きだ』
 そういってワーウィック大尉がニヤリと笑う。その後を、スクワイヤ少尉のガンダムも遅れず付いてきている様だ。

 出てきた敵部隊は案の定、例のガルバルディ隊だった。重装甲の機体が防衛隊を引きつけている様だが、そちらは彼らに任せた。あろうことか残りの連中は街を盾に取ろうとしている。
「やはりティターンズは手段を選びませんね…」
『全てがそうとは言わんが、少なくとも市街には一歩も侵入させてはいかん』
 市民は既に地下階層へ退避しているとはいえ、この街は市民の財産そのものだ。こんな作戦を平気で立案するティターンズに、宇宙移民者達が従うわけもなかった。
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2019/12/31(火) 17:33:21.79ID:VILRIuWI0
 敵とコロニー外壁を挟む形で並走する。その先には市街が広がっていた。
「大尉、ここを抜ければ連中は市街へ手が届きます」
『その前にこちらから叩けということか』
「はい。ここから2kmの所で外壁が僅かに途切れる。先回りしてそこから敵の進路を遮りましょう」
『『了解』』
 2人が速度を上げた。流石に百式とガンダムは速い。中尉はワンテンポ遅れる形でその後を追った。

「…!来ます」
 位置を掴んでいるのはこちらだけだ。敵からすれば、姿の見えなくなった我々が突如進路に現れたことになる。敵機がクレーターの影から現れた。思った通り、予期せぬ事態に敵は足を止めざるを得ない。
『一気に叩け!』
 大尉の一声で一斉射撃を行う。狼狽えた敵は奇襲をまともに受けた。決定打にはならなかったものの、距離が開くまでの間にかなり手傷を追わせた筈だ。後退する敵を追う。
「少尉!追いつけるか!?」
『この子なら!』
 スペックだけ見れば少尉のガンダムは群を抜いて推力がある。いきなりの初陣とはいえ、ガルバルディの先を取るくらいなら訳もないはずだ。
 ガンダムが加速をかけると、またたく間に中尉達を、そして敵を出し抜いた。まさしく電光石火である。敵に立ちはだかるようにして、彼女はビームサーベルを抜いた。
0692◆tyrQWQQxgU
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2019/12/31(火) 17:34:00.44ID:VILRIuWI0
 挟撃を受ける形になった敵は、血路を拓くべく少尉のガンダムに切り込む。軽装な機体が突貫するのを援護するように、もう1機が振り返りながら中尉達をライフルで牽制してきた。敵ながら咄嗟の連携の早さは称賛に値する。
『中尉!援護しろ!』
 大尉の百式がライフルを交わしながら敵機に迫る。サーベルを瞬時に抜くと、敵の下に潜り込みそのまま居合いの如くライフルを両断した。
 敵が尚も粘りシールドのグレネードを撃とうとしたところを、中尉のビームライフルが捉えた。誘爆で煽られた敵機はその場に倒れ込む。
 少尉のガンダムに斬りかかった敵も斬撃を躱され、そのまますれ違い様に首を跳ね飛ばされるのが見えた。勝負ありと言っていいだろう。

『武装解除させるぞ。その後で残るゴリラを叩く』
 大尉がそう言うのとほぼ同時に、新たな機影を掴んだ。ハイザック1機と未確認の機体。全身が薄水色をした、曲線的なシルエットの機体だった。特殊な形状の銃器を携えている。
『あれが親玉…?』
 少尉が言うやいなや、未確認機はこちらに向けて発砲した。大した威力のビームではないが弾速は極めて速い。
「散開!」
 やむを得ず中尉達は距離を取るように散った。あれを避け続けるのは困難に思える。威力が低くとも、ビームである以上は急所に当てられてしまうと無事では済まない。
『本命だな…ここで落とす』
 大尉が再び抜刀して未確認機と距離を詰めた。遮ろうとしたハイザックの足元を容易くすり抜ける。気を取られたハイザックの無防備な背中へ、中尉は標準を合わせる。
0693◆tyrQWQQxgU
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2019/12/31(火) 17:34:57.71ID:VILRIuWI0
 が、割り込むようにして少尉のガンダムが入り込んだ。
「少尉!射線に入るな!」
『中尉こそ位置が悪いですよ!』
 撃ち損じたハイザックをガンダムが斬った時、沈黙していた筈の先程のガルバルディが動いている事に中尉は気付いた。
 メインカメラを失った軽装機から武装を受け取ったらしいもう1機が、ガンダムにライフルを向けていた。
「少尉!」
 中尉は思わずガンダムの前に飛び出していた。盾で防ぐよりも先に、敵のビームが機体を貫く。機体の制御を失い、中尉は重力に引かれた。
『『フジ中尉!』』
 2人の声が響く。注意が逸れた大尉の百式を未確認機の銃撃が襲う。少尉はどちらに加勢すべきか決めあぐねている様だ。
「少尉!ガルバルディだ!あっちを先に…」
 言い終わるよりも先に、機体が地表へ打ち付けられる。落下の衝撃で頭を強く打った中尉は、目の前が真っ暗になった。

13話 咄嗟の連携
0694◆tyrQWQQxgU
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2019/12/31(火) 17:47:21.72ID:VILRIuWI0
まだまだ未投下の話がありますが、キリが悪くなりそうなので今回はここまで。
来年もよろしくお願いします!!
0695通常の名無しさんの3倍
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2020/01/02(木) 19:30:59.44ID:8YYQZkyE0
ことよろです!

紫のガンダム、マンドラゴラですか。
コラボ企画で色々なカラーリングがあるにしても、白×紫で戦闘シーンのあるガンダムorジムって中々なさそうですね。
百式改とレドーム付ネモに対してガンダムヘッド、通常規格より感度が高いのか移植の副作用で微妙に鈍感なのか...
死にたがり気質で1人だけセンサー弱そうなのっていい感じに不安を煽りますねw

フジ専用ネモはネモ早期警戒型やネモ・ディフェンサーとはAIで差別化している感じですかね。
あの緑と藍色のボディーに偵察用のオプション、なんと言うか落ち着いてて知的なイメージを与えられると思います。
展開がどうなるにしろ、引き続き見ていきたい機種です。

そしてニュンペー、木星帰りの設計した機体とは...
どちらかといえば陰気な色の機体が続いているように思うので、薄水色の配色は絵的にいい清涼剤になりそうですね。
新型のライフルはフェダーインとはまた違うのかな?気になります。

最後にお気付きかもしれませんが、>>691に唐突に「コロニー」出てますよw
いや宇宙進出のための施設なんだから、入植地で合ってるのかな......ここはザ◯ングル風に「ドーム」が無難かと。

では、良いお年を!
0696◆tyrQWQQxgU
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2020/01/02(木) 21:48:13.51ID:HWjwRoQ80
>>695
よろしくお願いします!

マンドラゴラはその名前と仕様で何となく察する部分あるかもなので言うのも少し野暮ですが、ガンダム計画のデータ流用機って設定です。違うバッタの方ですね。笑

EWACネモに関しては、情報の収集・分析に長けた機体と言うところ以外はほぼネモです。フジ中尉はさして飛び抜けて強いとかそういうキャラではないので。てかネモ自体高級感ありますしね…。

ニュンペーは初の完全なオリジナル機体ですが、メッサーラの次のPMXシリーズ(女であり過ぎた人のやつ笑)のプロトタイプ的なデザインで想像してもらえたら良いかなと思います!
ライフルに関しても色々考えているんですが…シロッコってなんやかんやで硬派な機体も好きですよね?
独力でサイコセンサー作るような彼だったら、ヴェスバー的な通常とはスピードの違うライフルを(可変式でない形でなら)作るくらいやりそうかなと。

紛らわしくてすみません笑
コロニー(残骸の)外壁が月にぶっ刺さってるやつです!ティターンズ側の描写の時にも盾にしてますね。

引き続きよろしくお願いしますー!
0697◆tyrQWQQxgU
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2020/01/02(木) 21:54:37.30ID:HWjwRoQ80
バイオセンサーの間違いですね笑
0698通常の名無しさんの3倍
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2020/01/04(土) 14:49:05.15ID:8E+LEgmR0
>>696
コロニー外壁の件、確かに>>688で残骸を盾にしていましたね!失礼しましたw

しかし月面へのコロニー落としというと0083やZでは専らフォン・ブラウンが狙われてましたけど
地球の1/6という中途半端なGや大気圏がない(=燃焼しない)ことを鑑みると、案外事故が頻発してるかもですね。
月面都市の天蓋に当たった日には大惨事でしょうし、CCA冒頭のコロニーのような対空レーザーが完備されてるのかも

こうなるとZ序盤でカミーユ達とカクリコンが撃ち合っていた灰の谷も、墜落した輸送船の墓場だったりとか...?
それならハロの1匹くらい残ってそうですね、これだから二次創作は想像させてくれるんです(アイーダ姉さん並感)

ニュンペーはセックスしかないあの人の試作機でしたか(語彙力)。
なんとなく近藤版ジ・Oの量産機ブレッダのイメージで想像していたのですが、汎用機を目指すならこっちでしょうね。
モジャモジャした物が嫌になった人も、火力支援より前に出ていたイメージが強いです

引き続き、よろしくお願いします
0700◆tyrQWQQxgU
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2020/01/04(土) 23:08:52.97ID:iGYzd05Y0
>>698
グリプス戦役もそうですが、月って何かとイベント起きやすいので、こういう時描写が楽です笑

そうですその人です!笑
試作機というよりは一般機向けに開発したものからデザインを流用して、後から作ったワンオフがシャア元カノのものになったイメージでしょうか?
ティターンズに参加した時点でシロッコは成り上がり上等だったと思うので、あの位の時期なら一般兵の乗る機体を設計しなかったとは思えないんですよね。その辺の下りも後々…

>>699
ありがとうございます!
また更新するので引き続きよろしくお願いします!
0701◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:07:49.85ID:Q4XtGfBY0
お待たせしました!
公私ともにちょっと忙しかったもので…。
纏まった話数が準備出来たので投下します!
0702◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:08:43.53ID:Q4XtGfBY0
「中尉!大尉…!!こいつ等ぁ…!!」
 スクワイヤ少尉は怒りを剥き出しにして吠えた。
『くっ…!冷静になれ少尉!』
 複数被弾しながらも大尉は持ち堪えている様だ。しかしこのままでは押し込まれる。フジ中尉も応答がなく、月面に座礁したままだ。

 まずは中尉をやったガルバルディの息の根を止めねばならない。機体を捻る様にして方向転換すると、そのまま突っ込んだ。
 敵が迎撃しようと射撃してくるも、狼狽えて撃つ弾など大した事はない。身を翻してそれらを避けていく。
 躱しながらこちらからもライフルで応戦するが、どうにも照準が振れて定まらず少尉は眉をひそめた。機体の急激な機動にライフルが振り回されている様だ。
「ちぃ!」
 射撃を諦めた少尉はガルバルディβにサーベルで正面から斬りかかる。すると、メインカメラを失った筈のガルバルディαが横から突きかかってきた。
 寸でのところで後退して躱し、逆に蹴り飛ばす。弾かれたαの傍へとβも下がった。
「視えるの!?」

 βが倒れたαに手を添えると、ガルバルディ達は立ち上がりながらこちらを向いた。どうやらカメラの情報を共有して補っているらしい。
「触れ合ってベタベタして…気持ちの悪い…!」
 両機を引き離して各個撃破するか、或いはまとめて落とすのもいい。再び突進して横凪に一閃か、仕掛けてきたところを回り込んで2枚抜きか…幾つも方法を巡らせた。
 しかし、敵はこちらに積極的な攻撃を掛けてこない。時間稼ぎか?しばし睨み合いになった。
0703◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:09:29.98ID:Q4XtGfBY0
『少尉!落ち着けと言っているだろう!』
「落ち着いてられますか!」
『それでも落ち着くんだ。周りを見ろ』
 傍に大尉の百式が降りてきた。機体のあちこちに弾痕が残っている。
 対して、例の謎の機体はこちらを見下ろしたまま動かない。その後ろで、ガルバルディ達がバーニアを吹かし肩を貸し合う様にして下がっていった。
「また逃げる!」
 こちらが追う素振りをみせたその時、ガルバルディと入れ替わる様に敵のGM2小隊が現れた。この部隊の到着を待っていたのか。流石に劣勢である。
『中尉の安否も気になる…彼の機体を回収して後退する』
「でも、このままじゃ」
『…少尉は中尉を連れて基地へ走れ。私がその間敵を食い止める。…こっちも積んだばかりの隠し玉があるんでな。まだテストもしちゃいないが』
 明らかに手負いの機体に乗っている大尉が、笑ってみせた。この状況で何処に隠し玉があるというのか。
「大尉…」
『よし、行ってこい。少し良いところ見せてやるから』
 GM2の小隊がジリジリと迫る。少尉は急ぎ中尉のネモを抱きかかえた。月の重力下でも、ガンダムの膂力ならどうにか運べる。

 全力で戦線を離脱しながら、ふと大尉の方を振り返った。フレキシブルバインダーから外した柄のようなものとサーベルを連結して、基部からナタ状の刃を形成している。
「あれが隠し玉…?あれだけでどうするっていうのよ…!」
 やはり大尉は強がっているだけだ。あのままでは流石の彼でも物量に呑まれてしまう。しかし少尉にはどうすることもできない。とにかく全力で基地へ向かう。
0704◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:09:56.77ID:Q4XtGfBY0
『…スクワイヤ少尉か…?』
 退却する道の中腹あたりでフジ中尉が目を覚ました。
「…!今は無理しないで」
『どうなっているんだ…状況は…?』
「敵が増援を呼んでまずい感じです。大尉が食い止めてるうちに後退しないと…でも…」
『…そうか。…私の事はいい…ここまでくればひとりでも大丈夫だ…。少尉は大尉の後退を掩護してくれ』
 そういって、中尉は機体を自分で起こした。
「ほんとに大丈夫なんですか!?」
『ああ。これまでも嘘はつかずに付き合ってきたつもりだがな』
 確かに毒づく元気はあるとはいえ、さっき意識を取り戻したばかりだ。
『いいから行け!急がないと手遅れになる!』
 中尉が珍しく口調を荒げて言った。彼の言う通り猶予は無かった。
「了解…!」
 少尉は来た道を再び全力で戻った。果たして間に合うだろうか…?
0705◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:10:30.63ID:Q4XtGfBY0
 ガンダムの機動性を以てすれば、この距離を戻る位は大して時間もかからない。すぐに先程の地点の機影が見えてくる。スクワイヤ少尉は、見えてきた光景に息を呑んだ。
 先程のGM2の小隊…10機とはいかないまでもそれなりの数が居たはずだった。それが、2,3機しか残っていない。その討ち果たした残骸の真ん中で暴れ回っているのは、紛れもなく大尉である。得物が変わるだけでこうも変わるものなのか…。
 大尉の百式改は、バイザーの奥で光る赤い光の尾を引きながら敵に向かっていく。その動きは、まるで狩りでもするかの様な威圧感を放ち、俊敏かつスムーズである。明らかに敵が気後れしているのがわかった。
 敵のサーベルが届くよりも随分早く、ナギナタの間合いは敵を捉える。大尉は殆ど無抵抗に近い状態の機体を次々と切り刻んでいった。

『はぁ…はぁ…ん?…中尉はどうした?』
 全ての敵を斬り伏せた大尉が、少尉に気付いた。
「意識が戻って、自力で帰還できると。私は大尉の掩護をするよう指示を受けました」
『そうか、無事なら良かった。こっちもどうにか雑魚は片付けたが、例のテスト機達を追うのは叶わなかった…』
 そういって大尉の百式は宇宙を見上げた。もう敵のMSは1機も見当たらない。敵艦はMS隊の回収のみで離脱した様だ。
「結局私は連中に勝てませんでした…」
 少尉も周囲を見渡しながら、小さく呟いた。
『後で反省会でもやるか?とはいえ、とにかく防衛には成功したといっていい。まずは戻ってフォンブラウン市の被害も確認しないとな』

 折角のガンダムもこのままでは宝の持ち腐れになってしまう。先程の大尉の働きを見てしまうと、自らの未熟さが余計に身に沁みた。

14話 隠し玉
0706◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:11:30.17ID:Q4XtGfBY0
「脅威は去った…てなところか」
 戦況の一部始終をアイリッシュ級のブリッジから見ていたグレッチ艦長は、敵の反応が消えたレーダーを見ながらどかっと椅子に座った。
 先程ひとり帰投したフジ中尉が医務室へと運ばれたばかりだ。暫くしてワーウィック大尉達も戻るだろう。
 辛くも防衛は叶ったが、早々に新型が中破。残りの連中の機体も調整の必要がある。ドックは好きに使っていいと言われているが、それ以前にこの椅子に座る自分にも実感の沸かないままだった。

 グレッチ艦長は一年戦争時、ルナツー艦隊所属のサラミスで副官を務めていた。当時の上官とはあまり馬が合わず、お世辞にも良い環境とは言えなかったものだ。
 ソロモン攻略戦で敵の巨大MAの流れ弾に当たった際、脱出の是非で完全に対立。軍法会議上等で従うクルーを連れて脱出したその時、母艦はメガ粒子砲の直撃を受けて轟沈した。
 その後友軍に回収されたのだが、ア・バオア・クーを攻める本隊には合流せずそのまま改名したコンペイトウに駐軍。本来合流予定だった艦隊は、続く攻略戦でソーラレイによって宇宙の藻屑になったと聞く。
 そうして幸か不幸かのらりくらりと生き延びた戦後、空席を詰めるようにして昇格していったのだった。デラーズ紛争の頃には月に勤務し、それから長い間哨戒任務ばかりしてきた。

 エゥーゴに参加したのも成り行きで、定まってきた環境を派閥の内紛でいちいち変えたくなかっただけだ。
 これまで色んな場所を転々としてきて、ようやく月に慣れてきたところなのだ。自分の周りが乗った船に同乗したに過ぎない。
 そう思っていたにも関わらず、気付くと新造艦の艦長だ。全くもって本当に飲みたい気分だった。
「大尉達も戻りました」
 グレコ軍曹が報告する。思えばクルー達も若い者が増えた。親交の深い戦友も数えるほどになってしまった様に思う。
「そうか。たまには俺の方から出向いてやるかな…」
 そういって馴染まない椅子から腰を上げると、その場を任せてドックへと向かう。
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2020/01/15(水) 13:12:00.69ID:Q4XtGfBY0
 整備ドックでは、帰還した防衛隊に加えてガンダムや百式改も並んでいた。どの機体もそれなりに整備が必要と見える。
 遠目にそれらを眺めていると、その中に敵のものと思われる中破したガルバルディらしき重MSも混じっていた。鹵獲に成功したのだろう。
「艦長!只今戻りました」
 丁度ドックの出入口に向かってきていたのはワーウィック大尉とスクワイヤ少尉だった。
「無事で何より」
「いえ…敵にしてやられました…。未確認の機体を引き摺りだすまでは良かったんですが、私も気が逸ってしまいました」
 口惜しそうな大尉の傍で、同じく少尉も機嫌の悪そうな顔をしている。
「中尉はどうです?」
 その少尉が口を開いた。
「ああ。頭を打ってる様だが、今回は頭が堅いのが幸いしたみたいだな!一応検査は受けさせるが、大した事はないだろうよ」
 そういうと少し彼女も笑った。自分にも娘がいればこの位の年だっただろう。
0708◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:12:43.67ID:Q4XtGfBY0
「そういえば、防衛隊が捕虜を1人連れて帰ったとか」
 ドックを振り返りながら大尉が言う。
「大尉の手柄かと思ったが違うのか」
「私はそこまで上手くはやれませんでしたよ。敵を引きつけるのが精一杯で」
 謙虚な男だ。彼が小隊1つ叩きのめすところは、中尉のネモが中継したレーダーから確認していた。
 何故これ程の男が着任したのか不思議だったが、新造艦が回されてきた今となってはその前触れだったのだとわかる。
「大尉の働きぶりも観ていたよ。どうやったらあんな芸当が出来るんで?」
「まだまだですよ。強いて言うなら…殺した分だけ殺されかけてきましたから」
 ことも無げにそういうが、歴戦の勇士というやつなのだと思う。
「今頃捕虜はロングホーン大佐にこってり絞られてるだろうな」
「あのおじさま、おっかない感じしますもんね」
 少尉が言う。確かにグレッチ艦長も挨拶した時は威圧感で小さくなる思いだった。ああいうまさに軍人という風な手合いは正直苦手だ。

 そのまま簡単に報告を受けた。惜しいところだったが、やれることはやったといっていいだろう。
「まあ、2人も今のうちに休め。整備もここでならしっかりやってくれるだろうよ」
「ありがとうございます」
 グレッチ艦長は踵を返すとそのままブリッジへと戻った。サラミスとは違い、廊下すら随分と広い艦である。知らない場所に迷い込んでしまいそうだと思いながら、彼はこれからの事を考えて軽く溜息をついた。

15話 迷い込んでしまいそう
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2020/01/15(水) 13:13:28.53ID:Q4XtGfBY0
「捕虜とは言っても手荒い真似は出来ん。同じ地球連邦の軍人であることに変わりはないしな」
 ロングホーン大佐は、入室するなりその味気ない個室に入れられた男を見た。随分と鍛えているであろうその筋肉は、支給した服の上からでもよくわかる。
 とはいえ、特に暴れるでもなく大人しいものだった。念の為、大佐の後ろには2人の士官が控えている。

「ラム・ソニック大尉と言ったか。ティターンズの作戦…半分はうまくいったぞ。フォンブラウン市が敵の手に落ちたというのは事実のようだ。
 しかし…このアンマン市を落とすには戦力が足りなかったな。所詮君らは陽動部隊か?」
 ソニック大尉は何を言うでもなく押し黙ったままだ。拘束はしていないが、身動ぎひとつみせないまま簡易ベッドに腰掛けている。
「…黙っていても一向に構わんが、話すことで救える命もあると思うがね。計画の中身が判れば、要らぬ交戦は避けられる」
 大佐は彼の目の前に椅子を引いて腰掛け、正面から向き合った。大佐より一回り大きな体躯だ。
「君自身も交渉カードの1枚だ。アレキサンドリア級はこの宙域に留まったままだからな…まだ何かやる気なら、こちらも手を打たざるをえんだろう」
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2020/01/15(水) 13:14:08.49ID:Q4XtGfBY0
「…大佐殿、何故我々は戦わねばならないと思われますか?」
 ようやくソニック大尉が口を開いた。
「ふむ…。そうだな、君らの思想と行いが危険だからだ。ジオンの敗戦理由はその危険な選民思想と大量虐殺だと私は思うのだが、君らティターンズも同じことをやっている」
「そのジオン残党を狩るのが我々の任であります。それに虐殺などありえない。あなた達エゥーゴは彼らを庇うでしょうが」
「君らの知らない事も我々は知っているのかもしれん。エゥーゴに転向した元ティターンズ兵にも、多くを知らない者が居たようだしな。…地球至上主義とジオンの選民思想に大した違いはないぞ。
 実際、今回のアンマン市強襲にしても市民の生活を脅かさないやり方は幾らでもあった筈だ。そういう部分を省いてしまう性急なところもそっくりだな」
「我々は義に背いた事はしていません…!」
「その義ってのがね…間違っているのだよ…」
 大佐はわざとらしく溜め息をついた。それを見て大尉も口を噤む。恐らくこの会話は平行線だ。話し合いで解決するのなら、我々軍隊なぞそもそも必要で無いのだ。
0711◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:16:21.76ID:Q4XtGfBY0
「…作戦について話すつもりはないのか」
「私は…この鍛え抜いた身体以外、真に語る術を持たんのです。口先では同じ問答の繰り返ししか出来ません」
 その目は真っ直ぐだった。悪い男ではない。だが、それだけで全てが許される訳でもない。
「そこまで言うのなら、良いだろう」
 大佐は椅子から立ち上がると、彼の横っ面を思い切り殴った。それでもソニック大尉は座ったままの姿勢を崩さない。口を切ったのか、唇に血が滲む。士官が慌てて大佐を止めに入る。
「止めるな。…ソニック大尉、君も殴られるばかりでいいのか?やり返してもいいんだぞ?」
「そこまでおっしゃるのなら、良いでしょう」
 そっくりそのまま返す様にして、彼はゆっくりと立ち上がった。

「実戦の現場から離れて久しくてな」
「言い訳は聞きませんよ。鍛錬こそが全て…ッッッ!」
 言うやいなや鉄拳が襲いかかる。狭い部屋なだけあって大佐のすぐ後ろは壁だった。拳を見極め躱すと、ソニック大尉はそのまま壁を打ち抜いた。
「これはなかなか…」
 その隙に懐に潜り込んだ大佐は、右のアッパーを綺麗に顎に入れた。食いしばった大尉だが、その眼光は変わらず大佐を捉えたままだ。
 右の拳を壁から引き抜く動作と同時に左の膝蹴りが来る。咄嗟に腕を畳んで横から受けるも、余りの衝撃に足が地から離れる。
「伊達じゃ無いようだな、その鍛錬とやらは…」
 そのまま少し距離を取る形になりつつ、下がる腕を身体に引き寄せた。今のはなかなか効いた。
0712◆tyrQWQQxgU
垢版 |
2020/01/15(水) 13:17:21.25ID:Q4XtGfBY0
 コーナーに追い詰められた大佐だったが、流石に士官達が2人掛かりでソニック大尉を抑えつけた。彼もこれ以上やる気は無くなった様で、大人しく跪いた。
「これは私から仕掛けたのだ。変わらずここに置いといてやれ」
「しかし…!」
 士官が食い下がるのも仕方ないが、何となくこの男のことがわかった気がしていた。とにかく真っ直ぐな拳と、それを裏付ける信念の強さがあった。
「ソニック大尉…。また機会があれば続きを」
「こんな戯れ…俺の力はこんなものではない…!」
 思わず大佐は笑った。むしろ愚直過ぎるようだ。ティターンズにもこういう男がいるのか。
「拳をぶつけた仲だ。悪い様にはせん。しかし敵であるのもまた変わりないからな。利用はさせてもらうぞ」
 そういって大佐は跪く彼をそのままにして退室した。

 退室して小窓から彼を眺めた。士官達に何やら言われつつ、またベッドに腰掛けている。
 それを見届け廊下を歩きながら、大佐は蹴られた右腕をさすった。日頃のトレーニングが無ければ骨の1本も折られていたかもしれない。あのまま続けていたら恐らく一方的な展開になっただろう。
「しかし私もまだまだ捨てたものではないな…」
 大佐は1人呟き、笑みが溢れるのを止められなかった。

16話 鍛錬こそが全て
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2020/01/15(水) 13:17:49.14ID:Q4XtGfBY0
 フジ中尉が目を覚ますとそこは病室の様だった。むくりと上体を起こす。辺りを見渡すと、他にも手当てを受けている者達が複数居た。
「あ、起きてる」
 丁度スクワイヤ少尉がやってきたところだった。彼女はこれといって負傷はしていない様子だ。
「今しがたな。揺らすとまだ痛むが、大した事はない」
 そういって頭に手をやると包帯が巻かれていた。それ以外に傷らしい傷はない。
「皆無事か?」
「はい、大尉も。防衛作戦は成功したんですが、まだ敵と睨み合ってる感じで。もうじき全体ミーティングやるみたいです」
 中尉自身は流石に次の出撃は見送ることになりそうだが、敵はどう出てくるのか。フォンブラウン市の状況も気になる。
0714◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:18:09.49ID:Q4XtGfBY0
「おう、君らは…。スクワイヤ少尉とフジ中尉だな?」
 入室してきたのはロングホーン大佐だった。右腕を庇っている様に見える。2人で敬礼すると、止めろと言わんばかりに手を振った。
「規律などというものは、それだけでは大して当てにならん。大切なのは実務だ。諸君の様に、戦い、敵を倒してくれれば社交辞令などいらん」
「はっ」
 変わらず中尉は姿勢を正していた。
「いいから楽にしろ…。私も手当てを受けに来た」
「どうされたので?」
 少尉も右腕に気付いたらしく見つめている。
「ちょっとした喧嘩よ。なかなか手強い相手だった」
 そういって大佐ははにかんだ。何故本部で指揮を執る彼が負傷しているのか気になった。喧嘩などと真面目に言っているとは思えないが。彼は衛生兵に声を掛けると、その後について去っていった。
「どうしたんだろうな…」
「さあ?階段でコケたの誤魔化してるとか」
「ないな」
「ないですね」
0715◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:19:36.78ID:Q4XtGfBY0
「ところで、少尉は見舞いに来てくれたのか?」
「まあ…そんなところですかね。時間もあったし」
 彼女は、ベッドの傍らに置いてあった丸椅子に腰掛けた。
「…負い目は感じる必要など無いからな。あそこでガンダムが被弾するより、私の機体を盾にしたほうがいいと判断しただけだ」
「私は…そんな簡単には割り切れません」
 少尉の言う通り、フジ中尉も決して自分を駒だと割り切って動いた訳ではなかった。身体が勝手に動いたようなものだ。
 いざこうして口にすると、何かしら後付するかのように理由をつけてしまう癖が付いているのかもしれない。
「何ていうか…敵は連携がちゃんと取れてたなって思って」
 伏し目がちに少尉が言う。
「確かに。対して我々は個人プレーの目立つチームではあるな。何だかんだ言ってもあの時は大尉も焦っていたし、私も敵を抑えられなかった」
「そうでしょ?自分なりに考えてみたんですけど…。一緒に戦うなら、その…もっと仲良くならなきゃ駄目かなって…」
「それで見舞いに?」
 彼女はやや恥ずかしそうに頷いた。それが可笑しくて中尉は思わず声に出して笑った。案外彼女も彼女なりに考えていたらしい。

「笑わなくったっていいじゃないですか!」
「はは…。いや済まない、君の言うとおりだ。背中を預けられる関係が必要なんだろうな、我々も」
「いつかちゃんと話しなきゃって思ってた矢先にこんなことになっちゃって…遅いのかもですけど」
「いや、その気遣いが私も出来ていれば良かった。さっき大佐も言っていたが、規律や理屈が全てではないものな」
 自分でも規律を重視し過ぎたり、理論武装しがちな自覚はあった。決めつけてかかっても必ずしもその通りに事が運ぶとは限らない。
 その証左に、連携とは無縁に思っていた彼女が自らその改善を口にした。皆自分の知らないところでも戦っている。
「次の出撃までに、大尉も交えて話そう。私はすぐには前線に出られないかもしれないが…」
「大丈夫ですよ。中尉は今は休んでください」
 席を立ちながら彼女が笑った。2人で話して笑うところを見るのは珍しい気がした。それだけでも幾らか関係は改善したのかもしれないと思えた。

「そんじゃ、私はこれで」
「ああ。時間に遅れないようにな。重要なミーティングになる」
「そういうとこですよ中尉!」
 また笑いながら、スクワイヤ少尉は病室を出ていった。思わず中尉も少し笑みを浮かべていた。

17話 規律などというもの
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2020/01/15(水) 13:20:30.51ID:Q4XtGfBY0
「くそっ…」
 ウィード少佐はブリッジの椅子に片肘を付きながら苛立ちを募らせていた。対照的に、レインメーカー少佐はいつも通りただ静かに傍で立っている。
 その前でパイロットの2人…ドレイク大尉が窓に寄りかかり、オーブ中尉は地べたに座り込んでいる。

「睨み合いね…」
 ドレイク大尉が窓の外の月を眺めながら言う。戦域は離脱したものの、すぐに動き出せる位置で待機している。どちらが先に動くかはまだ読めない。
「そうは言ったって、こっちはもう殆ど出せる機体も無いじゃない。ラムだってどうなったか…」
 落ち込んだ様子のオーブ中尉が、体操座りで顔を膝に埋めながらこぼした。ソニック大尉は皆を逃がす間もひたすら単騎で持ち堪えていたが、ウィード少佐がニュンペーで支援を試みた際にはもう時既に遅かった。
 その上助け出そうにも、中尉の言う通りまともに稼働出来る機体は最早ニュンペーくらいなものだった。第2陣で入れ替わる様に到着したGM2に至っては全滅である。
「ラムの救出と作戦をうまく絡められないかしら?何かしら交渉取引して…」
 ドレイク大尉の言う対応が出来れば勿論良いのだが、ウィード少佐はなかなかそれを思いつけずにいた。
「そうなるとこちらも対価になるものを差し出さなければならない。あちらは間違いなく、アポロ作戦の内容を知りたがるに決まってる…。楽観的に見積もってもニュンペーを差し出せって位の事は言うでしょうね。あれも渡せない」
 対応策が思いつかないまま沈黙が流れる。
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2020/01/15(水) 13:21:56.53ID:Q4XtGfBY0
「でも、ラムが簡単に口を割るとも思えないよね。あれで義理堅いやつだから」
 オーブ中尉が立ち上がりながら言う。
「あいつが喋らなければ、それだけ情報の類の希少性は増すわね。相対的にラムを拘束する価値も下がっていく。いい塩梅で痛みの少ない情報を差し出せないかしら?」
 ドレイク大尉は窓を眺めるのをやめて、こちらに向き直った。
「んー…そうね…」
 引き続き頭を捻り続けるが、答えは出そうもない。些末な情報が今後命取りになりはしないだろうか。ここでソニック大尉を救えても、後々全滅しては元も子もない。
「お嬢さん方。ここは私が交渉致しましょうか?」
 ゆっくりとそういったのはレインメーカー少佐だった。

「おお!困った時のじいさま!」
 オーブ中尉が目を輝かせて言う。
「はい。困った時の為のじいさまでございますよ」
 レインメーカー少佐が優しく微笑む。しかし裏を返せば、彼ももう黙ってはいられないということでもある。
「それで、どうするっていうんです?」
 正直、ウィード少佐には渡していい情報がどれなのか判断出来なかった。
「大したことではありませんよ。…知らぬ存ぜぬを突き通すのです」
 盲点だった。思わず開いた口も塞がらない。
「勿論、ソニック大尉が口を割っていない前提ですがな…。我々は何も知らされておらぬと。
 ただ通達されたタイミングで攻めたのだと、その一点張りで良いのです。今のところは見逃して撤退してやる代わりに捕虜を返せと言いましょう」
 確かにこれなら撤退の口実にもなる。実情は攻めたくてももう攻められないのだが、敵からすればまだこちらの保有戦力などわかるまい。
 とりあえず捕虜を返すだけでその約束が取り付けられるのなら、エゥーゴも乗ってくる可能性は十分ある。
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2020/01/15(水) 13:22:28.53ID:Q4XtGfBY0
「流石じいさまですわね」
 ドレイク大尉も乗り気の様である。
「しかし、ラムが口を割っていたら…?」
 薄々わかりながらも、ウィード少佐は聞かずにはいられなかった。
「勿論その時は交渉決裂。それどころか我々も嘘がバレますから…下手すればそのまま追撃が来て全滅でしょうな。情報も連中に渡ることになります」
 こともない風に笑いながらレインメーカー少佐が言った。
「ラムは大丈夫だよ!絶対何も言うわけない!」
 オーブ中尉が詰め寄る。
「まあ…何か漏らしてれば敵に動きがあるでしょうしね。それもないなら今のところは大丈夫でしょう」
 ドレイク大尉も口添えした。やるなら今しかない様だ。
「わかったわよ。レインメーカー少佐…交渉の準備を」
「はい。お任せを」
 まだ不安の拭い切れないウィード少佐をよそに、彼は朗らかに笑った。

18話 嘘
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2020/01/15(水) 13:23:13.41ID:Q4XtGfBY0
 全体ミーティングを始めようとしていたその時、敵艦であるアレキサンドリアから打診があったとの報告が入る。捕虜の取引である。ロングホーン大佐は唸った。会議室に招集された面々がざわついている
「あと少し遅ければこちらが先手を打ったのだがなぁ…。どうしたものか」
 皆顔を見合わせている。
「交渉にはナイト・レインメーカー少佐なる人物がこちらの拠点までランチで出向くとの事です。内容は…」
 側近の士官が報告を続ける。敵は攻勢に出るより捕虜の奪還を優先したい様だ。捕虜を引き渡せば一旦退くというが…。
「判った、もうよい。…捕虜からは情報を引き出せなかった。私も立ち会ったが、なかなか律儀な男の様でな」

「フォンブラウン市の状況はどうなっているんでしょうか?」
 ワーウィック大尉だった。防衛戦におけるMS隊の活躍は言うべくもないが、試作機に関しては今回も取り逃したと聞く。
「それだがな。経緯としては、脅されたフォンブラウン市側が港を開放した様だ…仕方あるまい。こちらの主力は一旦グラナダへ引き揚げている」
「裏側を死守出来ていなければ、あわや壊滅の危機だった訳ですな」
 そう言いながら、グレッチ艦長が難しい顔をして髭を弄っている。
「その通り。だからこそ今ここで主力が態勢を整えておかねばならん訳だ。このタイミングでの敵の一時撤退の申し出というのは、正直言って有り難い…しかし」
 ロングホーン大佐は腕組みして息を吐いた。ソニック大尉からは正攻法で情報を引き出すことは出来ないだろう。とはいえ、このタイミングだからこそ敵に裏を感じるのである。
「こちらにばかり都合が良いとは思えん。主戦場なり他の作戦から注意を逸らそうとしているのか、捕虜開放以外にも敵に利するところがあるのか…。
 何にせよ駆け引きが要るだろう。交渉には応じるべきかと思うが、諸君からは何かあるかね」
 集まっている面々を見渡す。概ね同意しているようである。
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2020/01/15(水) 13:23:38.57ID:Q4XtGfBY0
「よし。では承諾の返事を送り、私はすぐに交渉に赴く。そうだな…ワーウィック大尉、君も同行したまえ」
「はっ」
 彼は一瞬驚く素振りをみせたが、すぐに従った。グレッチ艦長にも別で指示を与えねばならない。もう戦いは始まっているのだ。
 会議を解散すると、艦長へ次の指示を出し側近の士官にも交渉の場を整えさせた。ランチの入港なども考え、表のわかりやすい場を選んでいる。敵にコソコソと拠点を嗅ぎ回らせない為だ。
「大尉は百式で出迎えの準備をしておけ。防衛隊もいつもより多く表に出す。まあ、敵も何かしら護衛を付けてくるだろう」
「威嚇になりますでしょうか?」
「少しはな。何せ小隊ひとつ全滅させた機体だ」
「買い被りではありませんか」
 大尉がそういうと、2人で笑った。交渉の準備を進めながら、大佐達も会議室から退出した。
「そういえばそのスクワイヤ少尉達と会ったよ、医務室でな」
 歩きながら大尉と引き続き話を続ける。
「中尉の見舞いですかな…私もそのうち。大佐はその右腕のお怪我ですか」
「ちょっとした喧嘩だ。…まあ得るものはあったが」
「なるほど…。私は白兵戦はからきしです。地球でも2度ほど捕虜に出し抜かれましたよ」
 ワーウィック大尉は察しが良いらしい。捕虜に出し抜かれたというのは感心しないが。
「今回は逃がすなよ?」
 ドックへ向かう彼とも別れ、大佐は上層部との打ち合わせの為一旦執務室へ戻った。
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2020/01/15(水) 13:24:17.25ID:Q4XtGfBY0
 執務室へ入り、グラナダへ通信を行う。取り継がれるのを待ちながらモニターの前に座り、デスクを指先で叩いていた。
「…お待たせしました。ブライト・ノア大佐であります」
 一年戦争の英雄…。ホワイトベースの元艦長であり、今はエゥーゴの旗艦アーガマを任されている男だ。
「ごたついている所を申し訳ない…。アンマンのダン・ロングホーン大佐であります。ティターンズにしてやられましたな」
「ドゴス・ギアが制空圏へ入るのを阻止できませんでした。グラナダからの援軍が間に合えば…」
「間に合いませんよ。それも織り込み済みの作戦でしょう。…その敵の作戦について情報は何かしら得られましたかな?」
「どうも敵の指揮系統が不透明です。確かに伝えられるのはそれだけですね。そちらは?」
「今からこちらを襲撃した敵との交渉に入ります。捕虜を捕らえたものの、口を割りませんのでな。せめて取引材料にはなってもらわねば」
「何を悠長な!敵は現にフォンブラウンを抑えているんですよ!?」
「…君らがグラナダまで下がってこれたのは我々が基地を死守したからだ。自力で守り切れなかった君らにとやかく言われる筋合いはあるまいよ」
「くっ…」
「とにかく、こちらもやれることをやりますとも。何かあれば密に連絡を」
「…わかりました。月の裏側は頼みます。我々もフォンブラウン奪還に全力をあげます」
「よろしく頼みます。では、私も交渉の準備もありますのでこれで」
 通信を終えた。彼の言う通り、いくらエゥーゴの主力といえど兵力差を埋めるのは容易では無かっただろう。しかし、それでもやるしかないのだ。

 丁度、じきにレインメーカー少佐が到着との報が入る。ティターンズのお手並拝見といったところか。刻一刻と戦況は変わっていく…自分に出来ることをただやるだけである。

19話 都合
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2020/01/15(水) 13:25:13.54ID:Q4XtGfBY0
「これはこれは…」
 レインメーカー少佐は、ランチから眺める敵の基地に思わずこぼした。着艦指示のあった正面の港には、複数のMSが整列していた。その中には例のバッタも見える。
 こちらもニュンペーを伴って基地へと着艦する。試作機故あまり見せびらかすべきではないが、他にまともに稼働出来る機体もない。また、敵に過度な警戒をさせない為にも軽装な機体の方が都合も良い。
『MSはここまでだ』
 敵パイロットの声。バッタに制止されたニュンペーが立ち止まる。
『ロックしていくが…絶対に触るなよ』
 ウィード少佐が釘を刺しながらコックピットハッチを開いた。まだ半人前の娘だが、今回の交渉もひとつ勉強になるだろう。
『後で難癖つけられてもたまらんからな』
 そう言い返し、バッタもハッチを開く。ノーマルスーツで顔は見えないが、2人は向き合う格好になっていた。

 ランチの着艦が完了し、レインメーカー少佐も敵地へと降り立つ。出迎えたエゥーゴの士官に案内されて施設へと歩いていく。その後ろを、ウィード少佐とバッタのパイロットが続く。
 程なくして1つの部屋に辿り着く。敵指揮官はここで待っているらしい。士官が開けた扉の先には、がっしりとした体躯の、厳つい男が座っていた。
「あなたがレインメーカー少佐ですな。私がここを任されているダン・ロングホーン大佐だ」
 ロングホーン大佐が立ちあがると、握手を求めた。
「いかにも私がナイト・レインメーカー少佐であります。ティターンズは軍内で2階級上の待遇ですから、あなたとは同格ですかな」
 そう言いながら手を握り返す。
「適当な事を言う爺よ…正しくは1階級だ。それに、そもそもそんなローカルルールなど知ったことではない」
「そう言う割にはよくご存知で」
 鋭い目線を向けたまま、大佐が鼻で笑った。あまり挑発に乗る人物ではないらしい。レインメーカー少佐もにこやかな表情を崩さなかった。
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2020/01/15(水) 13:25:49.71ID:Q4XtGfBY0
 ロングホーン大佐が元の席に戻り、その側に先程のパイロットが立つ。ヘルメットを脱いだその顔には火傷の跡がある。向かい合う形で着席を促されたレインメーカー少佐の側にも、ウィード少佐が立っている。
「それで…。捕虜の引き渡しだったかな」
 大佐が左の片肘をつく。その横着さにウィード少佐が眉をひそめている様だが、レインメーカー少佐は無視した。
「ええ。彼からは何の情報も得られなかったでしょう?我々としては大事な仲間でしてね、確実に救出するには話し合いしかないかと」
「どうせ貴様らに直接聞いてもしらばっくれるのだろうがな。しかし、話し合いとはティターンズにしては平和的だ。それとも…戦う力も残っていないか?」
 大佐がほくそ笑む。
「それはこの交渉が決裂すればわかる事。フォンブラウンの様には無血開港の余地を与えぬかもしれませんが…何せ我々はティターンズですからな」
 レインメーカー少佐も笑顔で返した。

「そちらの一時撤退が条件か。ものは言い様だな。…仲間を返してください!逃げるのも許してください!…という風にも、聞こえるが」
 懇願する様な大袈裟なジェスチャーでこちらを煽ってくる。
「そういえば表に並んでいたMS隊…どうも整備が行き届いている様には見えませんでしたな。そちらも虚勢を張る余裕はある様ですが、迎撃するだけの余力は本当にあるんでしょうかね」
 あくまでもレインメーカー少佐は笑顔のまま姿勢を崩さない。
「…試してみたいと言うのなら…それは開戦ということかな?」
 大佐が声のトーンを落とした。場が静まり返る。異様な迄に重い空気に、首筋を冷たい汗が一筋流れる。
「…あくまでも捕虜の引き渡し。それだけが要求です」
 レインメーカー少佐は、敵を真っ直ぐ見据え口元だけで笑ってみせた。
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2020/01/15(水) 13:26:15.90ID:Q4XtGfBY0
「…ふん、つまらん爺め。よかろう。これ以上は時間の無駄だ」
 そういって大佐は立ち上がる。
「今回は捕虜を引き渡す。その代わり、即刻この宙域から立ち去れ。猶予はない」
「わかりました。それまでに追撃でもしてこようものなら、我々もこの基地を全面破壊させていただく」
 少佐は嘯いたが、大佐はもうこちらを見てはいなかった。

20話 条件
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2020/01/15(水) 13:27:01.31ID:Q4XtGfBY0
「糞爺めが…!」
 退出したティターンズの連中が扉を閉めると、ロングホーン大佐は眉をひそめた。結局敵の要求を全て飲む形になった。
「大尉、追撃に出るぞ。やつらが宙域を出たら問答無用で叩く」
「艦長がバタついていたのはその準備ですか。しかし、敵の戦力も読めぬままでは?」
「そう、艦長には出港準備をさせていたのだ。敵の戦力だが…あの護衛機、例のテストを行っていた機体だろう?あれ以外に護衛につける機体すら無かったのだろうよ。
 牽制の為の部隊に別で増援を回せるほどティターンズも手は余っちゃいない」
「なるほど。であればすぐにでも叩けばよかったのでは?」
「アレキサンドリアに直接市街地を砲撃されれば只では済まん…やりかねん連中だ。とにかくアンマンからは引き離す方が先決と思う。ここから離れた場所でなら好きなだけドンパチしていい!さっさと行ってこい!」
「はっ」
 大尉が踵を返し、足早に去っていった。今頃他のパイロット2人も乗艦しているだろう。
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2020/01/15(水) 13:27:26.58ID:Q4XtGfBY0
 しばらくして、敵機がアンマンを出港したとの報せが入った。捕虜も取り返せて敵は満足だろう。
 入れ替わる様にしてアイリッシュ級が発進準備に取り掛かる様子を、サラミス改が入港してきた時と同じ場所から眺めていた。
「ティターンズ…。伊達にエリートを自称する訳ではない様だが、分別の無い連中が選民思想などと…片腹痛い」
 1人呟いたその時、グラナダからの通信を取り継がれた。ブライト艦長である。
「ロングホーン大佐だ。如何です?そちらは」
『別働隊が都市の発電施設占拠に動いています。これでティターンズも撤退せざるをえないでしょうね』
「流石は一年戦争の英雄ですな…。先日の無礼を侘びたい」
 昨日の今日にしては迅速な対応と言っていい。素直に大佐は感心していた。
『英雄などと…沈んだ艦の艦長ですよ。アンマン市はその後どうです?』
「今しがた敵の捕虜を開放しました。敵は撤退するところだが…こちらもこのまま逃がす気はありませんな」
『その様子だと、どうやら月はうまく守りきれそうですね』
「おかげさまで」
 それから幾らか言葉を交わして通信を切った。ブライト艦長達はまた各地を転戦することになるのだろう。しかし早くも全面撤退とは、ティターンズの3日天下といったところか。
「我々も負けてはいられんな…」
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2020/01/15(水) 13:28:17.94ID:Q4XtGfBY0
『それでは我々も出港致します』
 今度はアイリッシュ級のグレッチ艦長からの通信だった。
「ああ、じきにタイムリミットだ。奴らを叩きのめして凱旋してくれることを期待する」
『はっ』
 挨拶もそこそこに彼らは基地を立った。それを見送りながら、大佐は次の手へと思考を巡らせるのであった。
 フォンブラウンを抑え損なった以上、アンマンにこだわる理由もあるまい。しかしあのティターンズがこのまま引き下がるのであろうか。
 前回ブライト艦長が言っていたような敵の指揮系統の乱れというのも、気には掛かっていた。
 確かにフォンブラウン市の制圧は早かったものの、それに合わせたアンマン市強襲は幾らかお粗末なところもある。何よりその後の撤退も現場レベルでの対応にみえ、組織だった動きとは言えなかった。

 そんなことを考えている内にアイリッシュ級の姿は随分と遠くなった。防衛隊をこの追撃に割く余力はなく、単艦での追撃である。
 戦力的に不安がない訳ではないが、それでもやってもらわなければならない。
 来たるべきティターンズとの決戦はそう遠い未来の話ではないし、目まぐるしく変化する戦況の中で揉まれてこそ彼らは飛躍することが出来るだろう。大佐自身もそうやって生き延びてきた。
 ガラス越しにぼんやりと見える戦艦の後ろ姿。重なる様に映り込んだ自分の顔は、思うよりもいささか老けて感じた。

21話 重なる
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2020/01/15(水) 13:28:57.96ID:Q4XtGfBY0
「隊長!追撃に出るんですね」
 出港したアイリッシュ級のブリッジに合流したワーウィック大尉の顔を見たスクワイヤ少尉は気力に満ちていた。
「待たせたな。中尉の援護も期待しているぞ」
 少尉に笑いかけた大尉がフジ中尉の方へ振り向く。
「前線に出られないのが幾らか歯痒いですがね」
 フジ中尉はそう言いながらグレコ軍曹の隣の席でインカムの位置を調整していた。今回の作戦では中尉はブリッジに待機だ。オペレーターとして作戦指示を行う。
「中尉の分も私が動きますよ。だから私の分も頭使ってください」
「いや、少尉はもっと自分の頭も使ったほうがいいな」
「またそういうことを言う!」
 以前なら喧嘩の様に言い合うところだったが、不思議とお互いに冗談としてやりとり出来るようになっていた。和やかな2人をみて、大尉が意外そうな顔をしている。
「どうやらちっとばかりチームらしくなってきたみてぇだな」
 そんな様子を見ていたグレッチ艦長もニヤリと笑った。

 アイリッシュ級は程なくして月の重力から脱した。もうこちらからアレキサンドリアを捕捉出来ている以上、敵にも当然気付かれている。
「そろそろだな…。2人とも頼むぜ」
「「了解!」」
 少しまだ緊張気味の艦長に、2人は小気味よく返事を返した。すぐにブリッジを離れ、出撃の為MSの元へと向かう。
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2020/01/15(水) 13:29:27.07ID:Q4XtGfBY0
「少尉、フジ中尉とも少しは話せたか?」
 格納庫へ向かう途中、ワーウィック大尉が口を開いた。2人は移動しながらそのまま話し始める。
「もっと連携しないとこのままじゃヤバいって話を」
「その通りだな。君らの方からそういってもらえるとは思っていなかったよ正直」
 そういって大尉が頭を掻いた。
「絶対そう言われるって思いましたけどね!でも…大尉が来たからこういうことに気付けたのかもです」
「それなら私も着任した甲斐があるというものだ」

 それぞれのコックピットに乗り込み、出撃の時を待つ。まだ慣れない全天周囲モニターだが、敵は慣れるまで待ってはくれまい。
『準備はいいですか?』
 モニターにフジ中尉が映った。インカムを付けた彼を見るのは若干の違和感がある。
「いつでも」
『私もオーケーだ』
 少尉に続いて大尉からも応答がある。
『それでは簡単に説明を…。これより敵艦アレキサンドリアを背後から強襲します。敵戦力は未知数ですが、余裕があまりないことだけは確かです。間違いなく例のテスト機は出てくるかと。
 月周辺ということでデブリは比較的少ない宙域ですから、ここは正攻法で正面からぶつかる形になるでしょうね』
 中尉が淡々と述べる。とにかく叩けということだった。
『わかった。こちらも私と少尉の2機だけだ…最新鋭の機体とはいえ、油断せずいくぞ』
「了解」
 スクワイヤ少尉達は敵艦を目視しながら、それぞれ両翼のカタパルトから出撃した。
0730◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:29:56.54ID:Q4XtGfBY0
 中尉の言うとおり、そこは目立つデブリのない視野の開けた宙域だった。隠れる場所はない。
『ここでやつらを殲滅出来れば、周辺の脅威はひとまず無くなるだろう』
 大尉が言った。索敵しつつ敵艦との距離を詰めていく。
「あのテスト機、本採用されると厄介ですね」
『それなりにコストは掛かってそうだが…どうだろうな』
「あのパイロットの腕がいいだけならいいんですけど」
『そうであってほしいな…噂をすれば!』
 敵艦から機体が出撃するのが見えた。2人は速度を上げ、敵機を追い始める。敵は母艦から離れ過ぎない距離を保ちつつ2人を引きつけていた。
「アレキサンドリアはどうします!?」
『今はMSを先に叩いてください!MSを剥ぎ取れば艦はデカい的ですからね。艦砲射撃でアレキサンドリアをこちらに引きつけておきます』
 フジ中尉から指示が入る。アイリッシュ級も遅れずについてきている様だ。光る主砲を背に、少尉達はMSとの距離を縮めた。
 一定の距離になった時、ようやく敵はこちらを振り向いた。やはり例のテスト機である。
0731◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:30:48.18ID:Q4XtGfBY0
「今日は完全な2対1…。ここで落とす!」
『手筈通り、スクワイヤ少尉から仕掛けてくれ。ワーウィック大尉はサポートをお願いします』
『了解した。連携すれば叩けない相手ではないさ』
「行きます!」
 マンドラゴラはコマの様に回りながら頭から敵へ突貫する。出撃前、フジ中尉達と作戦を立てていた。
 最大の脅威は今のところ敵の携行しているライフルだ。極めて速い弾速を誇り、急所に当たればただでは済まない。これを躱しながら接近する為に、まずは運動性に優れたスクワイヤ少尉が仕掛ける。
「見てからじゃ遅いんなら!」
 敵の銃口がこちらを捉えるよりも早く機体の軌道を逸らす。通常ならば相当なGが掛かるが、過剰なGも想定しているマンドラゴラのコックピットには、対策が入念に施されている。
 少尉の技術と掛け合わせれば少しの時間ならかき乱せると判断した。
 大尉の百式にも注意しながらでは到底追いつけるスピードではない。流れ星の様にバーニアの残光が尾を引き、その幾何学模様に翻弄された敵は足を止めた。
『ここか』
 大尉はそれを見過ごさなかった。急加速をかけた百式がナギナタを携え、敵の足元から迫る。それに敵機も気付いたが、抜刀するだけの猶予を2人は与えない。
 百式は正面から袈裟に切り上げる様にしてナギナタを振り上げた。

 しかし、その刃は敵を両断することなく止まった。敵の腰部から伸びたサブアームがそのビーム刃を受け止めていた。
『隠し腕…性懲りもなく…!』
 唸る大尉。少尉は初めて見る装備だったが、それに対して大尉の対応は早かった。すぐにナギナタのビーム基部を元のサーベルとして切り離すと、逆手に持ち敵機へ突き立てに掛かった。
 その手首を両手で掴む様にして敵機が粘る。
『ライフルを捨てたか!…少尉!』
 フジ中尉の声が聞こえてか否か、掴みあいで動けない両機に向かってマンドラゴラは飛んだ。組み合いになっている以上、誤射を考えるとこちらもライフルは使えない。
 サーベルを抜刀すると、横から入り込む形で敵に飛びかかった。組み合いになっていた敵の両腕を切断する。
 間髪入れず、敵から解放された大尉の百式が突きを繰り出した。躱しきれない敵の右肩が弾け飛ぶ。
「仕留める!!」
 少尉は駄目押しの一撃を無我夢中で畳み掛ける。
0732◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:31:34.31ID:Q4XtGfBY0
 その時、敵機の熱源反応が異様に高まった。部隊に嫌な予感が走る。
『離れろ!こいつ…!』
 大尉の声とほぼ同時に敵機から光が漏れた。少尉達が退避行動をとったのも束の間、敵機は激しい閃光と共に爆裂した。強い衝撃が2人を襲う。
「うあああ!!」
 揺れる機体の中、強い光でホワイトアウトしたモニターに囲まれ、少尉は初めて恐怖を感じた。理屈ではなく本能が、忍び寄る死を感じ取っていた。目を瞑り両耳を塞ぐ様にして、少尉はただその球の真ん中で怯えるしか無かった。
 しかし、マンドラゴラは衝撃に耐え切った様だ。程なくして機器も復旧する。その作動音を聞いてようやく少尉は目を開けた。
『…自爆するとは。思い切りの良い』
 大尉の百式も無事な様だ。とはいえ機体の装甲はズタボロになっている。恐らくマンドラゴラも似たような状態だろう。
『2人とも無事ですか!?』
 フジ中尉が慌てる。
「何とか…」
 その声を聞いて、モニター越しの中尉が胸を撫でおろしたのが見えた。

『…自爆時、離脱するポットを確認しています。ガルバルディの1機が回収に出てきている様ですが、今敵艦に近づくのはあまり得策ではないでしょうね』
 中尉が口惜しそうに言う。自爆のダメージに加え、先程の高機動戦闘でかなりガタがきている。何より、少尉自身の手の震えが止まらなかった。
『うむ。作戦はここまでだな。半端に回収されるよりは自爆を選ぶか…。あの揉み合いの中でその判断が出来るのは、間違いなく手強い』
 大尉の声を聞きながら、少尉は自分の腕を抱くのが精一杯だった。

22話 ホワイトアウト
0733◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 13:33:06.60ID:Q4XtGfBY0
今回はここまでです!
だいぶ一気に投下しました笑
正直言うとストックほぼ全てを出し尽くしたので、次はもう少し遅くなるかもです…!

ゆっくり読んでてください!!
0734◆tyrQWQQxgU
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2020/01/15(水) 15:55:30.14ID:Q4XtGfBY0
お待たせしました!pixiv更新しました!!
https://www.pixiv.net/novel/series/1235721

最新話まで全て更新済ですので、こちらもチェックお願いします!
0735通常の名無しさんの3倍
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2020/01/21(火) 21:40:00.57ID:cM4+NL5O0
お疲れ様です!

ロングホーン大佐...味方に毒を吐くし捕虜とは拳で語るし、明快に「ズケズケと踏み込んでくる男」ですねw
かといってただの無神経ではないし、生存フラグも死亡フラグも立てられる面白いキャラだと思います

ワーウィックはナギナタを握りつつメイ・ワンとの追いかけっこを笑い話にする辺り上手く前進してますね。
スギ艦長のような生き字引になってほしいものです

ニュンペー、百式改、マンドラゴラとカラフルな役者が基地前に揃ったと思えば自爆!あっけねぇ(失礼ながら苦笑)
まだまだ展開の読めない今シーズンですが、月面のみんなもSさんもご健闘を!
0737通常の名無しさんの3倍
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2020/01/22(水) 19:28:07.74ID:wOjmN8Fc0
本編だとメラニー会長の方からグワダンに出向いてたから
アクシズの使者がアナハイムに接触ということは無さそう
0738◆tyrQWQQxgU
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2020/01/24(金) 21:48:39.95ID:oR7mXlEL0
>>735
ロングホーン大佐は割とお気に入りです。
体たらくな連中が多いので、しっかりした人物も居てほしいなと…。笑
拳で語り合うのはやっぱZでは必須ですよね!笑

僕の中で、もしカミーユが女の子だったら?とか、周りの大人にしっかり者が居たら?っていうifも含んだ構成にしています。
それと、前作主人公の扱いって難しいですよね。
某准将とかに比べるとアムロは上手く立ち回った方だと言われる事も多いですが、個人的には主人公にしてはあまり活躍しなかったという印象も強くて。
(本編前からの扱いですが)Xのジャミルくらいが理想的かなと思うので、そういう塩梅でワーウィック大尉には頑張ってほしいです。

ガンガンぶっ壊すのも前作からの伝統です!笑
とはいえキチンとデータは持ち帰ったので…?
これからの展開にも期待してください!!
0739◆tyrQWQQxgU
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2020/01/24(金) 21:54:17.78ID:oR7mXlEL0
>>736
>>737
第2部ではアクシズ勢はそこまで出さない予定です。彼らとのイベントはワーウィック大尉が中心になり過ぎるので。
最初は2部で終盤まで書くつもりでしたが、色々やりたいことを考えたら3部構成が必要な気もしています。
1部と2部で書いたことの集大成として、最終章を書くのも良いかと。

まだまだ僕自身も展開が読めない部分が多いので、登場人物達がどう動いていくのか楽しみです。
0740◆tyrQWQQxgU
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2020/02/05(水) 11:27:24.02ID:35+2VBiK0
お待たせしてすみません!
最近忙しかったので筆があまり進んでおらず…。
ずっとお待たせするのも何なので、とりあえず3話だけ公開しておきます!
0741◆tyrQWQQxgU
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2020/02/05(水) 11:29:15.52ID:35+2VBiK0
 ウィード少佐の脱出ポットを回収し、オーブ中尉のガルバルディαが帰還した。それを確認したアレキサンドリアは、船速最大で宙域を離脱する。敵はこれ以上追ってこない様だ。
 戦況をブリッジからモニターしていたドレイク大尉はほっとひと息ついた。
「危なかったわね…」
『どんどん敵の動きが良くなってる…』
 オーブ中尉が悔しそうにモニターから目を逸らしていた。

 ソニック大尉を連れ帰ったのも束の間、月を離れたところをすぐに追撃された形だった。彼を取り戻し撤収に成功はしたものの、使える機体は尽く潰えている。ガルバルディも稼働こそするものの、戦場には出せる状態ではない。
 辛うじてテストのデータだけは持ち帰ることができたが、ニュンペーも失ってしまった。
「ごめん、機体は持ち帰れなかった」
 ウィード少佐がブリッジに戻った。傍にオーブ中尉もいる。
「あなたが帰ってきただけマシよ。データだってほら」
 ドレイク大尉は落ち込む少佐の肩を軽く叩いた。オーブ中尉も唇を噛んでいる。
「ラムはどうしてる?」
 顔を上げたウィード少佐が聞いた。
「まだ寝てるわ。あっちじゃまともに寝れてなかったみたいだしね…。レインメーカー少佐も今さっき自室に戻ったわ。かなり神経削がれてたみたいだから、今は休ませてあげましょ」
「皆ボロボロだけど、まだこれからが勝負よね…!もう負けられない」
 オーブ中尉が拳を固く握りしめながら言った。ドレイク大尉も同じ気持ちだった。
0742◆tyrQWQQxgU
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2020/02/05(水) 11:29:56.22ID:35+2VBiK0
「これからどうする?シロッコ大佐にデータを届けるんだったら、ドゴス・ギアだかジュピトリスだかに出向くのがいいかしら」
 近辺の宙域をマップで確認しながらドレイク大尉は話題を変えた。今は前向きに進むしかない。
「…ニュンペーを失った以上、通信で済ませるのは大佐に無礼だからね…。正直顔向け出来たもんじゃないけど、顔出さなきゃ」
 ウィード少佐が椅子に腰掛けながら溜息をついた。彼女も憔悴している様だった。
「ま、今のうちにあなたも休むと良いわ。私が後は見とくから」
「ありがとう。そうする…」
 最低限の確認事項を擦り合わせ、ウィード少佐はブリッジを後にした。その後ろ姿をオーブ中尉と2人で見送っていた。
「お嬢さんは休まなくていいの?」
「何言ってんのよ。フリード独りに任せる訳ないでしょ?」
「頼もしいわね」
 そういってオーブ中尉の頭を撫でた。彼女は腕を組んでふんと鼻を鳴らしたが、特に抵抗するでもない。

 それからしばらくして、友軍の通達が入った。
「うそ…!」
 ドレイク大尉は思わず声をこぼした。フォンブラウン市がエゥーゴに奪還されたとの報せだった。
「アポロ作戦は成功したんじゃ…?」
 オーブ中尉も焦りを隠さない。友軍によれば、ティターンズが地を固めるより早くエゥーゴがライフラインを抑えたという事だった。幸い旗艦含め損害はそれほど出ていない様だが、このまま引き下がる訳にも行くまい。
「やはり…性急過ぎたのでしょうな」
 後ろからレインメーカー少佐の声がした。
「良いのですか?もう少しお休みになられた方が…」
「いやいや、まだ若い者に任せる訳にはいきませんのでな。それにこの通り」
 そういって少佐は両腕の力瘤を見せる様にして笑った。
「ラムに比べたらまだまだねー」
 オーブ中尉が茶化す。そのソニック大尉はまだ休んでいる様だ。
「ソニック大尉程は無理ですなぁ…。その代わりと言っちゃなんですが、知恵はありますよ」
「その知恵を今後もあてにしてますわ」
 ドレイク大尉は腰に手を当てながら微笑んだ。
0743◆tyrQWQQxgU
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2020/02/05(水) 11:30:37.45ID:35+2VBiK0
「なるほど。なかなか渋いですが…」
 レインメーカー少佐を中心に、ブリッジの3人で戦況を確認していた。結局、主だった拠点は元通りエゥーゴの傘下にあると言っていい。
「何だかんだ言って、フォンブラウンを叩くにはグラナダやアンマンが目の上のたんこぶって感じね」
 オーブ中尉がペンを鼻の下に挟んで椅子と一緒にくるくる回っている。
「確かに、敵の主力をあまり叩かずに拠点だけ抑えたからグラナダの巻き返しも早かった…とも言えるわね」
「楽しちゃ駄目ねやっぱ!まずは裏側から抑えておかないと結局遠回りよ」
 そうしてドレイク大尉達が話しているのを、少佐は静かに聞いていた。
「じいさまはどう思う?」
「私ですか。ふーむ…」
 回るのをやめた中尉の問いにも、変わらず思考を巡らせている。
「…そうですな。お嬢さん方の言うとおり、グラナダ辺りを叩くのが良いでしょう。恐らく上層部もそのつもりかと。…しかし、上の連中は正攻法では仕掛けないと思いますがね…」
 レインメーカー少佐の笑みに、何か黒いものを感じた。
0744◆tyrQWQQxgU
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2020/02/05(水) 11:31:35.04ID:35+2VBiK0
「…何にせよ、今は報告と補給が必要だわ」
 声の方を振り返ると、ウィード少佐とソニック大尉の姿があった。
「皆…済まなかった…!俺の力不足がなければ…」
 ソニック大尉は戻った時と相変わらずうなだれている。
「もう!いいのよそれは!ラムって意外と引きずるのよねー」
 オーブ中尉が意地悪く笑っていた。
「ラムが粘ってくれなきゃ全滅してたわ。あなたのおかげよ」
 ドレイク大尉も彼を励ました。実際彼が殿を務めてくれなければかなり際どいところだったのだ。
「皆揃った事だし、そろそろ目的地を」
 そういいながら、いつもの椅子へウィード少佐が座る。その側にレインメーカー少佐も立つ。変わりない光景だった。
 この艦の行き着くところに楽園があればいいが、我々の手はあまりに血塗られてはいないだろうか。ふと、ドレイク大尉は自らの両の掌を見つめた。

23話 行き着くところ
0745◆tyrQWQQxgU
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2020/02/05(水) 11:32:15.55ID:35+2VBiK0
 アイリッシュ級に帰還したものの、スクワイヤ少尉はコックピットハッチを開けられなかった。
『大丈夫か!?』
「大丈夫です…。大丈夫なんですけど…」
 ワーウィック大尉の呼びかけに応えながら、少尉は自分の身体が自分のものでない様な感覚に襲われていた。あの時感じた恐怖を、身体が跳ね除けられずにいる。コックピットの中で、小さく丸まる様にしてうずくまった。
 しばらくしてコックピットが外から開けられた。覗き込み、様子に気づいた大尉が近づく。
「…どうした」
「わかりません…。ただ…恐ろしくて…」
 大尉はそれ以上は何も言わず、少尉が落ち着くまでそのまま傍に居た。

「光に包まれた時…死ぬんだと思いました。いや…身体がそう思ってしまったっていうか」
 少尉は、僅かに震える肩を手で抑えた。
「今までは被弾したって何てことは無かった…。高を括ってたんです…きっと。まさかこんなとこでやられるはず無いって。自惚れてたんです…!」
 そこまで言って、少尉は今までの自分が酷く矮小に思えてきた。噛み締めた唇から血が滴る。
「怖かった…!何も出来ないまま唐突に…!理不尽でどうしようもなくて!!頭より身体が…それを受け入れようとしたのが…どうしようもなく…怖くて…」
 昂ぶった気持ちが、喋りながら萎んでいった。涙が溢れ出す。
「死にたがりが聞いて呆れますね…」
 血と涙を拭いながら、上手く笑えない頬が引きつった。
0746◆tyrQWQQxgU
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2020/02/05(水) 11:33:10.27ID:35+2VBiK0
「そうか」
 大尉はぽつりと言った。
「前にも少し話したが…私の話を聞いてくれるか?」
 少尉が小さく頷くと、大尉はその場に座り込んだ。
「きっと、全く同じ様に感じたということは無いんだろうが…。私もある時までは自分がやられるなんて思ったことはなかった。一年戦争を戦い抜いたし、頼れる仲間も居た」
 少し上を仰ぎ見る様に、大尉は回想した。
「ニューギニア基地での戦い…ほんの少し前の話だがな。そこに至るまでの間、交戦の機会が何度かあった部隊がいた。その隊長格と決着をつけなければならなかったんだ。私は乗り慣れたマラサイ、僚機は…ガンダムだった」
「例のニュータイプの…?」
「まぁな。本人は否定的だが、私もニュータイプだと思っている。そんなやつと2人掛かりだったのに、たった1機のジムクゥエルにやられかけた。恐ろしく強くてな…」
 ニュータイプの乗るガンダムとワーウィック大尉が2人掛かりで苦戦するジムクゥエルというのは、正直イメージが沸かなかった。

「倒せたと思った時、背後からサーベルで貫かれた。火傷はその時のものだよ。あの時、まさしく死んだと思った。でも私は死ねなかった…仲間が帰りを待ってたからな」
 大尉はやや恥ずかしそうに鼻を擦った。
「かつての私は、恐怖などよりとにかく戦う事しか頭に無かった。だが日々の戦いの中で明確に変わっていったのは…自分の為の戦いから、仲間の為の戦いになっていった事だと思う。
 最後の最後、やつを倒した私を支えていたのは…やはり仲間の存在だったよ」
 そこまで言うと大尉は立ち上がり、少尉の正面に立った。少尉は赤くなった目でそれを見上げる。
「恐怖と向き合うことで、きっと少尉はひとつの答えを手に入れると思う。それがどんな答えなのかは私にもわからん。だがな、その過程の苦しみは私達も一緒に分かちあえる筈だ。幾らでも私達を…仲間を頼れ」
 少尉の肩を軽く叩くと、大尉は出ていった。叩かれた肩から、少しだけ荷が降りた様な気もする。しばらくコックピットの中で大尉の言った事を反芻していた。
0747◆tyrQWQQxgU
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2020/02/05(水) 11:33:41.75ID:35+2VBiK0
 これ以上の追撃は月を離れすぎてしまう為、一時中断となった。艦長達は、敵を追い払うにはこれで十分と判断した様である。少尉が気持ちを落ち着かせて表に出た頃には、もう艦が再びアンマン市へ入港するところだった。
「もういいのか?」
 機体を降りて格納庫を眺めていると、フジ中尉がやってきた。
「すみません、取り乱して…」
「気にするな。そんな時もあるだろう」
 珍しくフジ中尉の言葉には棘がなかった。
「大尉は勿論だが、艦長も心配していたぞ。後で顔を出してやるといい」
 そういいながら中尉がドリンクを手渡す。受け取りながら少尉は小さく会釈した。思い返せば、いつも中尉はぶっきらぼうでも彼女を気遣っていてくれた様に思う。
「私が思っていたより…死ぬのって穏やかじゃないかもしれません」
「それはそうだ。穏やかに死にたければベッドの上が良いに決まっている」
「確かに」
 2人はすこし笑った。わかりきったことではあったが、それを真に実感するのは難しいことかもしれない。
「…死んでいった者達の多くは…それを望んだり、望まれていた訳ではあるまいよ。敵ですら、殺したくて殺している訳ではないだろう。例えそれがエゥーゴとティターンズの関係であってもだ」
0748◆tyrQWQQxgU
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2020/02/05(水) 11:34:17.60ID:35+2VBiK0
 遠い目をしたフジ中尉を尻目に、少尉もふとこの戦いの不毛さに思いを馳せた。
 彼女は志願兵である。何故志願したのか。それを振り返るには避けて通れない男がいる。その顔が浮かぶだけで、暗い気持ちも一緒に浮かび上がってきた。
「…私、実は」
 少尉が過去について少し口にしようとしたその時、艦内放送で緊急の呼び出しがかかった。
「…何だ?」
「また後で話します」
「そうか。とりあえず行こう」
 放送に従う様にして、2人はブリッジへと向かった。

 ブリッジに到着すると、そこにはアイリッシュ級の面々が揃っていた。
「おう!元気か?」
 椅子から身を乗り出したグレッチ艦長が目に入る。
「ご心配をおかけしました」
「全くだ!次同じ様なことがあったら無理矢理でも呑ますからな!覚えてろよ」
 艦長がニヤリとしながら言った。皆の優しさが身に沁みる思いだった。
「それで?何の呼び出しです」
「それがな…」
 フジ中尉の問いかけに、モニターの前に居るワーウィック大尉が答えた。
「連邦議会でティターンズの権限を強化する法案が可決されたそうだ。これから我々の立場は尚の事厳しくなるだろう」
「馬鹿な!?只でさえ連中は軍内に幅を利かせているというのに、それだけでは物足りないと?」
 フジ中尉が少々声を荒げて詰め寄る。
「月での影響力拡大に失敗したばかりだからな。地球でも拠点を失っているし、権勢を保つには議会を抱きこむ必要があるのだろう」
「大尉の話はわかります…。しかし、エゥーゴは何の抗議も出来なかったのですか!?」
「当然、毅然とした立場で発言しただろう。我々の働きを知る官僚達も決して少なくはない。だが…」
 そこまで言って、大尉は視線を落とした。皆次の言葉を待った。
「…ブレックス准将がお亡くなりになられたそうだ」
 皆、言葉を失った。
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