>>292
猪木はそこは直観的に理解していたよね
「強さの幻想が失われたらプロレスは終わる」と知っていた

その猪木が去り隆盛を極めていたプロレス界でそこに対して本当の意味での危機感を持つ者もうはいなかった
ローマ帝国の末期みたいな感じだ
このヒビが盤石と思われたダムを決壊させると気づいた者はいなかった
このままだと業界が滅びるほどの大打撃になると本当に理解していた者は誰もいなかった

高田は個人的な動機でヒクソンとの再戦を実現させたが、そんな呑気なことをやっている場合では到底なかった
プロレス界全体でどうすべきか各団体の敷居を取り払ってブレインストーミングをやり、徹底的なヒクソン対策をやるべきだったのだ
そしてそこで選定された選手達を全力でバックアップして、複数人の選抜選手とヒクソンとの複数試合契約を莫大な金額を投じてでも実現させてヒクソンを追い込まなければならなかった
プロレス界の命運がかかっていたのだからここで絶対に彼を逃してはならなかったのだ

ところがあろうことか逃げたのはプロレス界の方だった
下手に首を突っ込んでこっちがケガでもしたら大変だ
高田の二の舞になるのはゴメンだ
そうやって見て見ぬ振りを決め込んだ
いま正に首を切り落とされかかっているのにそれには気づかずにだ

結局ヒクソンに挑んだ日本人選手は高田のあとは船木だけだったが、それも個人的動機の範疇を超えるものではなかった

船木がヒクソンのチョークスリーパーで失神して敗れた瞬間、プロレスは文字通り死んだのだ
その代償がプロレス界にとって計り知れないほど大きなものである事を理解している者はいなかった
そしてローマ帝国は滅んだ
当選の帰結だ