渋谷TSUTAYAの狭いエレベーターで私は立っていた。
すると後ろからカツンカツンと、エレベーターを階段の
ように上がってくる足音が聞こえた。
(ははあ、急いでるんだな)

私はこういう時、機転をきかし、私も前に進んであげる
ということをしない。堂々と立ち止まったままでいる。
ちょっと意地悪かもしれないが、大抵の場合、その急い
でる主が自分の後ろでシュっと足を止め、終わる。

だが今回は違った。なんとその主は私の肩をチョンと
叩き、ドケを要求してきたのだ。
私は意外なことに咄嗟に身体をどけてしまった。
相手は私の先をスタスタ進んでいく。
私は、不意のことで、どけてスペースを作ってしまった自
分に悔しくなった。負けだよ・・
「クソっ なめるな!」と急にカっときて、相手を追うように
私もエレベーターを駆け上がった。
すると私を抜いた主が「ん?」って具合に振り返ってきた。
よくみると刺青をしていた。
(かかわらない方がいい・・、刺青をしていなければ
空手に精通してるこの俺がいっちょ、ガン飛ばして
心をへし折ってやるんだが・・)

刺青輩だったので、まぁやめておいた、という話。
私は追いかけたことによって「負けたわけじゃない」。弱く
も無い。たまには君子危うきに近寄らず、ということも日常に
はある、とそれが言いたかったのでした。