>>521
4 ではVを海中に投棄した行為に別途保護責任者遺棄致死罪(219条、218条)が成立するか。
(1)まず甲はVを気絶させており「病者を保護する責任のある者」にあたる。
そして人を海に投棄する行為は「遺棄」といえ、気絶した人を海に捨てればそのまま溺れて死ぬことになる為殺「よって人を死」亡させたと言える。
(2)もっとも甲は上記行為の時点ではVは既に死んでいるものと誤信して死体を投棄したに過ぎないため死体遺棄罪(190条)の故意しか有さないため上記行為に保護責任者遺棄致死罪は成立しない。
5 もっとも上記投棄行為に死体遺棄罪が成立しないか。
(1)まず死体遺棄罪の客観的構成要件に該当するか。客観的構成要件該当性の判断基準が問題となる。
ア この点、法益保護の観点から客観的構成要件該当性も実質的に考えるべきであり、構成要件は保護法益と行為態様に着目した類型であるから保護法益と行為態様において実質的に重なり合う限度で構成要件該当性が認められると解する。
イ これを本問についてみると、確かに両罪は遺棄という行為態様では一致しているものの、保護責任者遺棄致死罪の保護法益とは人の生命の安全であるのに対して、死体遺棄罪の保護法益は国民の宗教感情であるから実質的に重なり合っているとは言えない。
ウ したがって死体遺棄罪の客観的構成要件該当性は認められず同罪は成立しない。
6 もっとも気絶したVを死体と軽信しているため過失致死罪(210条)が成立する。
7 以上より上記各行為に@殺人罪A過失致死罪が成立し、同一法益に向けられた近接した法益侵害であるからAは@に吸収され殺人罪一罪となり、甲はかかる罪責を負う。
以上