「満足した豚であるより,不満足な人間である方がよく,満足した馬鹿であるより,
不満足なソクラテスである方がいい」(功利主義論p470)。ジョン・スチュアート・ミルの言葉である。
ミルの有名な「他者加害原則」(危害原理ともいう)は,憲法13条の勉強でお馴染みである。



功利主義はいわゆるトロッコ問題(トロリー問題とも称される)に「一応の解答を示している」考え方である。
トロッコ問題というのは,数年前に「サンデル教授の白熱講義」で有名になったテーマであるが,
サンデル教授が提起した問題というわけではなく,もともと正義論(哲学,幸福論と言ってもよい)における古典的な課題である。

これは,こういう問題である。トロッコの軌道上で工夫が作業をしている。トロッコがそのまま軌道を前進すれば
3名の工夫を轢いてしまうが,軌道を切り替えれば1名の工夫を轢いてしまう。軌道の切り替えの操作をしている
のはあなたである。あなたはどうすべきか。


このトロッコ問題につき,もし,功利主義を個人の幸福の最大化を目指すもの(の結果として万人の幸福がもたらされる)と
理解する立場に立つならば,何が正義であり,あなたはどう行動してよいかわからず,たちまち解答に窮してしまうのである。
功利主義に立つならば,3名を救って1名を犠牲にすることは,苦渋の決断ではあるが正義に適うのである。

ミルは,ベンサムの功利主義を継承する。しかし,ミルは,ベンサムとは異なって,「質的功利主義」を唱えた。
ベンサムが快楽や苦痛に質的な差をつけない量的功利主義なのに対して,ミルは快楽や幸福の質に差を見出すのである。
ミルは,他人のために生きたり,他人が喜ぶ姿に生きがいを見出すという快楽を質の高いものと認めるわけである。

なお,ベンサムの父は弁護士であった。 ベンサム自身は,12歳からオックスフォード大学に学んだ。
これはすごい。ベンサムは,法学に関心を示し,「犯罪と刑罰」のベッカーリーアからも影響を受けている。