夜空を漂う雲が月の光を見え隠れさせる静かな夜、運搬用のトラックが走っている。
トラックのコンテナの中では沢山のタブンネたちがすすり泣いているが、トラックのエンジン音にかき消されて消えていく
それは町で捕まえられた野良タブンネ、或いは捨てられた元飼いタブンネたちである。

「みぃ……みぃ……」

最初は町に居たところを捕らえられ、専用の巨大なゴミ箱のような物に入れられていたタブンネたち。
最初はそこから出してくれた職員さんに泣きながら感謝したのだが、その矢先に再び大きな箱の中へ。自分達は何も悪い事をしていないと主張しても聞き入れて貰えないばかりか、最悪その場で殺されてしまう仲間さえいた。

タブンネたちは己の不遇を嘆き呪った。しかし、どれだけ己の不遇を呪おうとも、状況は変わらない。自ら状況を打破する力も無ければ伝説のポケモンが助けに来てくれるなんて奇跡も当然起こる筈がない。


「ミィ…ミィ、ミィ……?」 (ねぇ……これから、たぶんねたちはどうなっちゃうの……?)
「ミィー……ミィミィ」(みぃー…わからないわ」
自分達がどうなるのか等と言った会話が交わされる。コンテナの中はずっとこの始末。

(わたしは……しってるよ……)
コンテナの一番奥の隅っこで座っているタブンネが心の中でつぶやく。比べて小奇麗な身なりをしていた。体にはまだ艶があり、顔にも泥や埃が付着していない。
そのタブンネは静かに目を細め、過ぎた過去に思いを馳せる。
(マスター…タブンネのこと、きらいになっちゃったの…?)


飼いタブンネは、ある日突然捨てられたのだ。元は飼い主と幸せな生活を送っていた。
目を閉じればすぐに思い浮かべることのできる飼い主とその家族。みんな、とてもタブンネを可愛がっていた。
だが、幸せな生活はいきなり終わりを告げたのである。

唐突にモンスターボールに入れられ、外へ連れ出される。行き先は河川敷だった。
飼い主はタブンネをを堤防の下に向けて転がした。目は回るが草の上をころころと転がるのが実に気持ち良かった。
何度もこうやって遊んでもらっていた、だから、今日も沢山遊んでもらえると思い込んでいた。
しかし、いつまで経っても堤防の下に飼い主はやって来ない。
タブンネははずっと待っていた。日向ぼっこをし、オレンの実を探してそれを頬張ったりしながら暇をつぶしていた。
それから数時間後、夕日が山の向こうに沈んで行くのを見ながら、ようやく能天気なタブンネでも気付いたのである。

―自分は、捨てられたのだ…と

生まれてから間も無く虐待と言っても過言ではない程の学習を強要させられ自分のしたい事は何も出来ない毎日。
そうした日々を生き抜いてペットショップに売り飛ばされ、その先でようやく舞い降りてきた幸せも呆気なく無くなってしまった。
タブンネはタブ脳で必死に考えていた。自分の生きる意味、存在価値とは何なのかと。
これから行くことになるであろう“処理所”と呼ばれる施設で殺される前にどうしても、知りたいと考えている。