大学生の頃ビジネスホテルでバイトしてた。75歳くらいの爺さんがツインルームに住んでた。
毎月1日に大体25万円払われて、10日に一回別の部屋に移動させて、週に一回娘を名乗る人が着替え持ってきた。
でも見た感じ娘以上に年離れてたし似てるとこ全然なかったから娘じゃないんやろという感じがした。
3時間くらいして帰ってくし泊まって行くことはなかった。
よくホテル近所の松屋とかローソンで飯買ってるのを見た。
爺さんからたまにフロントに電話がかかる時がある。カミソリないか?とかタオルないか?とか。朝昼晩関係なく。いつ寝てんやろという話をしてた。俺はその電話を受けたことがなかった。
俺がシフトを入ってた時に夜中2時頃に爺さんから電話があった。
「鹿児島に帰りたい」「今電車も飛行機も動いてないので難しいですよ」「タクシー呼んでくれ」「どこに行かれるんですか?」「金沢駅」「先程申した通り電車まだ動いてないですよ」「うう。」ガチャン。これが5分おきに3回続いた。
で4回目が
「うう。タクシー呼んでくれ」「ですから先ほども申しましたが電車も小松空港も動いてないので朝か昼になったらお呼びしますよ。すぐに鹿児島にはいけませんので」「うー、もう一回だめか?」ガチャン。
それでこのやりとり終わった。もう一回ってなんなんやろと思いつつ、朝の引き継ぎの時に社員さんに伝えて帰ったんだけど、鹿児島には行かずそんな電話もなかったという話を聞いた。
で2ヶ月後フロントに胸が痛いって電話があって救急車で病院運ばれてお亡くなりになった。
20年以上前の話でバイトしてたビジネスホテルはもうないんだけど、未だに爺さんは「もう一回」何を望んだんやろと思う時がある。
衝撃的ではないんだけど小骨がずっと喉に刺さってる話。