毎年秋になると,米欧の大学院留学志望の学生や社会人から,推薦状を依頼されます。
John Nash の指導教官は,「この学生は天才である」という推薦状を書いたそうですが,
そこまで極端でなくとも,「今まで指導した学生の中で一番」という推薦状を私に書かせる
のが神から与えられた権利だと,多数の学生が信じているようですが,大きな誤解です。
私は Northwestern大学,Pennsylvania大学,Columbia大学で,大学院入学委員会
(Graduate AdmissionCommittee)の委員や委員長を勤めたことがあるので断言できますが,
私の強い推薦状により入学した学生がカスだとわかれば,私の推薦状はそれ以降一切信用
されません。そういうことになれば,私の推薦状によって正当な評価を受け,本人にふさわしい
大学院に留学しようとする将来の学生に重大な不利益が生じます。以下では,もしあなたの
推薦状を私が書くことになった場合の私の方針を述べます。

私は嘘・誇張は一切書きません。私の推薦状は,3つか4つのパラグラフによって構成されます。
第一パラグラフでは,あなたと私の形式上の関係について述べます。私のどのコースを履修
したのか,私のRA(研究助手)をやっていたのか,修士論文の指導を受けていたのか,
何年何ヶ月の間交渉があったのか,などについて,客観的なデータをここで挙げます。
たとえば,学部学生時代に私のコースを1ヶ月聴講した以外に私と接点がなければ,
その通りのことをここで書きます。

第二パラグラフでは,第一パラグラフで述べた関係において,あなたがどの程度の
パーフォーマンスを挙げたのかについて客観的に記述します。たとえば,私が担当する
修士1年向けのマクロ経済学(graduate core macro)のコースをあなたが履修し,36人中
14位で「優」の成績をおさめたのであれば,まさにその通りのこと(36人中14位であった
ことを含める)を書きます。授業中やオフィスアワー中に質問や授業の内容についての
コメントを頻繁にしたのであれば,その旨記します。そのようなことを全くしたことがなければ,
やはりその旨(「授業では質問をせず,オフィスアワーにも姿を見せず,成績以外情報
がない」と)述べます。あなたが私のコースのTA(教育助手)を勤めたのなら,TAとしての
あなたの学生による評価(1から5まで,学生へのアンケートにより調査)の平均点も報告
します。修士論文を私の指導のもとで書いたのであれば,@自分でテーマを見つけること
ができたか,Aテーマに関連する分野のどの論文を読んだか,Bモデルを分析するための
数学の素養はあるか,C締め切りまでに polish した論文を書くことができたか,
D論文の内容をわかりやすく英語で説明できるか,などについて報告します。なお,
もしあなたが東大大学院経済学修士課程の学生であれば,東大の修士課程で上位
10番以内の学生は一定の国際競争力があること(すなわち,
留学先の大学院で1年目で落第あるいはドロップアウトした例は過去数年間ではおそらくないこと)
を,このパラグラフの最初の文で強調しておきます。

第三パラグラフは,あなたのpersonality についてです。約束の時間を守った か,やれといったことを
忠実に行ったか,行わなかった場合は正当と思われる理 由があったか,学者になる熱意が
感じられるか,などについて二,三行です。あな たの性格や感じがよいかどうかは問題に
しません。ただ,あなたが responsible あるいは conscientious だと私が判断すれば,そう書きます。


http://iwasakiichiro.info/LLM/ProfHayashiLORPolicy.html