タモリの座右の銘が「適当」であることは有名だ。他にも「現状維持」「俺は努力ということをしない」などを挙げることもある。共通することは「頑張って向上する」ということを拒否した言葉だ

「なんかいつも、みんな何年後かに私はこうなりたいとかいうでしょ。目標を持って努力して頑張ることが、いいことのように言うけど、いつも違和感があったんだよね」(フジテレビ「エチカの鏡」09年2月1日)

 タモリは意外なことに中学の時、短距離走の選手になりたかったという。だが、いくら努力してもライバルに勝てなかった。そこで悟るのだ。世の中には努力ではどうにもならないことがあるのだと

大学ではマイルス・デイビスに憧れ、トランペット奏者になりたくてジャズ研究会に入るが、「マイルスのトランペットは泣いてるだろう。おまえのトランペットは笑ってるんだよ」と言われ、司会役になったことは有名な話だ

 自分としては不本意だったが、そこで彼の才能が開花し始めた。それが後に「笑っていいとも!」(フジテレビ)の司会者として花開くことになった。そうした経験からタモリの根幹には「なるようにしかならないし、なるようにはなる」という思想が形成されていったのだろう

 タモリが「反省しない」ことも、また有名だ。生放送の帯番組「笑っていいとも!」が30年以上続いたのは、反省しなかったからだと常々語っている。「人間、行き当たりバッタリがいちばんですよ」(講談社「MINE」98年9月号)と

 日々反省し、それを糧にして夢や目標に向かって向上していく。それが、立派な人間だと世間では言われている。けれど、タモリはそれを真っ向から否定する

「人間の不幸は、どだい、全体像を求めるところにあると思うんです」(飛鳥新社「話せばわかるか―糸井重里対談集」83年7月発売)

 過去を大事にし、未来を夢見るとき、人は現在を否定しがちだ。タモリは違う。赤塚不二夫イズムで「これでいいのだ!」と現在を肯定していく。そこに「自分史」のような全体像なんて関係がないのだ

「人間にとって一番恥ずかしいことは、立派になるということです。僕にダンディズムがあるとすれば、このへんですね」(「週刊読売」95年1月22日号)