死んだと思われてた猫が帰ってきた話
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今から多分2年くらい前に死んだと思われてた猫が帰ってきた。 我が家でとらちゃんと呼ばれているその猫に出会ったのは、今から8年前
私が10歳の時だった。
私の家には洗濯物が濡れないようにガラス張りの洗濯物干場があった。
春になるとそこはポカポカ太陽をいい感じに取り込む温室のようになった。
気持ちのいい場所なので今までも色々な猫が寝に来ては、人間に気づかれて逃げる
というのを繰り返していた。 ある日学校から帰ってくると物干し場にふわふわの毛玉が見えた。
私は「にゃんこがきたんだ!」と思って覗いた。
これまでの猫と同じように、その茶トラ猫も私に気づいて一目散に逃げるんだろうと
思っていたけど、なんともゆっくりとした動きで、私が覗いている方と反対側のガラス戸が
閉まっているのを確認しただけだった。
私は咄嗟に「これは猫を観察するチャンスだ!」と思い。
猫が入ってきたガラス戸――私が猫を覗いていた戸をガラガラと閉めた。
その時猫は振り返りちょっとびっくりしたような顔をした。
そして、声は聞こえなかったけど「にゃー」と鳴き、ピンク色の肉球をガラス戸に押し付けた。
私が物干し場の周りを歩くと、猫はそれに合わせて内側から着いてきた。
結構必死にないていたので、可哀想になってガラス戸を開けてやった。 ガラス戸を開けた途端、猫は飛び出したけど逃げようとはしなかった。
私を見上げてまたにゃーとないた。
突然私の心に愛おしさが芽生た。
私は急いで家の中に入って、冷蔵庫からお魚のソーセージを取り出し
ちぎって茶トラ猫にあげた。
茶トラ猫はそれをむしゃむしゃ食べた。
そして「もっとくれよ」と言わんばかりににゃーにゃーないた。 その時の私はちょっぴり猫が怖くなって、「しっしっ」と言い。
家の中に入ってしまった。
撫でてみたかったけど、嫌がられたり引っかかれたりするのも嫌だったからやめた。
それから数ヶ月その猫とは何も無かった。 そして猫は来なくなって死んだと思ったけどまた来た
完 数ヶ月後、三月末の日差しは暖かいけど風が冷たかったある日、この前の猫が物干し場にやってきているのを見つけた。
今度もやっぱり、猫は私に気づいても逃げようとはしなかった。
私が外に出ると、猫も物干し場から出てきた。
観察しようと私が腰掛けると、猫は私に近づき、何をするのかと思ったら
体を擦り寄せてきた。
その時のふわふわの毛並みの感触は今でも忘れられない。
化繊のパジャマの上からでも毛並みのふわふわ感が伝わってきて、とても嬉しかった。
妙に人懐っこい猫だなと思った。
その日は用事で私が出かけてしまうまで、猫はスリスリしていた。
猫を見た母は私から話だけ聞いていた猫と対面できて嬉しそうだった。
昔猫を飼っていたこともあり、母は猫好きだった。 それからというもの、猫とは休みの日の昼下がりに遭遇するようになった。
私にスリスリしてきたり、体操座りした膝の下に潜り込んだり、物干し場で昼寝していたり
我が家を完全に縄張りとして、満喫していた。
私も「とらちゃん」と呼ばれるようになった猫を満喫していた。
当時私は小学五年生で中学受験を控え休みの日も家で勉強する毎日を送っていた。
友達がいないどころかいじめられていたので、かなり荒んだ心に猫のスリスリが
どれほどきいたか分からない。
とらちゃんと一緒に過ごす時間が小学五年生の私にとって1番の幸福の時間となっていた。 夏になって暑くなると、とらちゃんの来る頻度はかなり少なくなった。
ガッカリしていた私だったが、「猫は気まぐれな生き物だからね」と母に言われて、
しょうがない事だと割り切った。
それから数年間は以前の春のように頻繁には会わなくなった。
時々猫のパトロールに遭遇するとひとしきり猫は甘えてきたので、嬉しかった。 私が中学3年生の頃、町内のお祭りで会った隣の田中さん(仮名)の奥さんと話した母が
とらちゃんは隣の田中さんの家で飼われている猫だと言うことがわかったと言った。
土鳩を捕まえて軒下で食べていたり、耳穴が真っ黒に汚れていたり、毛艶がそこまで良くなかったため
それまでとらちゃんのことを元飼い猫の野良猫だと思っていたけれど違っていた。
田中さんの奥さんは「うちの茶太郎がごめんね〜。悪いことしとったら叱ったってね〜」
と言っていたそうだ。
茶 太 郎
今まで我が家では勝手にとらちゃんと呼ばれていたが彼にはれっきとした名前があった。 とらちゃんには飼い主がいたのに、私にあんなにスリスリしてきてよかったのかと思ったけど
懐かれているのは嬉しかったし、あんまり気にしないことにした。 それから時がたち、なぜかとらちゃんはぱったりと姿を見せなくなった。
前にも半年程姿を見ないことがあったから、待っていればそのうちあえるだろうと呑気に考えていた。
しかし、約1年後の町内のお祭りで茶太郎がいなくなってしまったと田中さんの奥さんが言ってたと母に聞いた。
猫は死ぬ時家を離れるという話は知っていたので、とらちゃんも帰らぬ旅に出てしまったのだと私は悲しくなった。
けれど涙は出なかった。
心のどこかでとらちゃんが帰ってくると信じていた。 それからまた半年たったある日、迎えに来てくれた母の車から降りると、隣の父の車の下に
猫の姿があるのを発見した。
しゃがんでいると黒い影は車が出てきて、茶色い影になった。
少し先の切れた左耳、ちょっぴり曲がったしっぽ、黄色い目とまん丸の顔は間違いなくとらちゃんだった。
私はとらちゃんが生きていると信じていたのは間違っていなかったと嬉しくなった。
そして思った。
茶太郎が生きていることを田中さんは知っているのだろうかと。 私は田中さん宅に行きとらちゃんが生きていることを確認しに行こうと思ったが、
夜いきなり他人の家の扉を叩く勇気が出なかった。
とらちゃんが生きていることを田中さんは知っていたら恥ずかしいと思ってしまった。
私は父に一緒に来てくれるように頼んだ。
父「ごめんください」
田中さん「はい?」
父「夜分遅くにすみません。あのえーっと、今ですね」
田中さん「はい?」
父「家に田中さんのお猫さんが来てるんですよ。あの茶トラの」
田中さん「茶太郎ですか!?」
父「はい。こっちにいるんですけど......」
私たちは田中さんについてきてもらった。
庭ではとらちゃんが母にカリカリまんまを貰っていた。(ガリガリに痩せていた時に心配になって買ったものだ)
茶太郎に気づいた田中さん
「茶太郎!!どこいっとたんだ!!」
とらちゃんは田中さんに気づくと「やべえ!!」
みたいな顔をした。 それから茶太郎は抵抗しながらも田中さんに抱き抱えられ、家に帰っていった。
茶太郎を家に返してやれて心底ほっとした。
今はよく、うちに遊びに来るようになった。
これ書いてる今も物干し場で寛いでいる。
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