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ツンデレにこれって間接キスだよなっていったら0.9 [無断転載禁止]©2ch.net
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0001ほんわか名無しさん
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2016/12/04(日) 12:19:10.280
◆このスレは何?
ツンデレの妄想でひたすら萌え続ける場です。どんな形でもいいのでアナタのツンデレ妄想を垂れ流してください。
◆前スレ
ツンデレにこれって間接キスだよなっていったら0.8
http://tamae.2ch.net/test/read.cgi/honobono/1420015047/
◆過去ログ置き場
http://www.tndr.info/
◆Wiki(過去ログ置き場以前の過去ログ・更新停止中のまとめ等もwiki参照)
http://www45.atwiki.jp/viptndr/pages/1.html
◆ツンデレにこれって間接キスだよなって言ったら 専用掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/computer/21510/
◆うpろだ
http://tunder.ktkr.net/up/
http://www.pic.to/ (携帯用)
◆お題作成機
http://masa.s23.xrea.com/
http://maboshi.yh.land.to/tundere/
◆規制中の人向け、レス代行依頼スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/21510/1275069975/
00761/8
垢版 |
2017/02/05(日) 23:04:35.400
・ツンデレの勘違い

 そろそろ梅雨に差しかかろうという時期。帰りのホームルーム終了のチャイムと同時に
教室がバタバタとざわつき出す。私は通学用のトートバッグに教科書や筆記用具をしまい
つつ、窓の方を見やる。
――雨か…… 帰るのうっとうしいな……
『かなみ。それじゃあたし、今日は中学の時の友達と約束あるから』
『うん。じゃあね。友香ちゃん』
 ちょっと前にお友達になった子に笑顔で挨拶して、私は立ち上がった。何となく教室の
斜め後方に視線を送る。その先に座る男子が他の男子とふざけあってるのを確認して、私
は席を離れる。
『そうだ。図書館、寄ってこ』
 確か、リクエストした小説がそろそろ入っている頃だ。ちょっとだけなら、多分、時間
的にもちょうどいいかもしれない。あの分なら、アイツもすぐには帰らないだろうし。


『……しまった。もうこんな時間だ……』
 リクエストした本がまだ届いておらず、代わりに何か借りる本を探していたり雑誌をパ
ラ見していたりしたら、いつの間にか一時間近くもたってしまった。
『もうさすがにアイツも帰っただろうな……』
 ちょっと気落ちして小さく呟く。
 アイツ、というのは別府タカシというクラスメートの男子だ。私の右斜め二つ後ろの男
子で、以前一回だけ強風の日に傘に入れてもらったことがある。以来、クラスの男子では
しゃべる方になった。大抵は友香ちゃんとかが一緒だけど、二回ほど、二人だけで帰った
こともあり、今日もちょっとそういう偶然を期待していたのだ。
『自分から、一緒に帰ろう、だなんて、言えるわけないしな……』
 想像するだけで、顔が火照る。うん。絶対無理。平気で私に声かけてくる別府が憎らし
いくらいだ。
『雨の日だと、余計に思い出しちゃうのよね……』
00772/8
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2017/02/05(日) 23:05:14.100
 別府と二人で、相合傘して帰ったことを。今日の傘は折りたたみじゃないし、風もほと
んどないけど、でもあの日の記憶が鮮明によみがえる。
『私のこと……色々と気にかけてくれて、ホントおせっかいなんだけど……でも、それって……』
 あの時まで一度も話したことなかったのに、友香ちゃんや記子ちゃんが私に声かけてく
れるように手引きしたりしてくれたのは、もしかして――なんて想像をしてから、私はそ
れを自ら否定する。
『いやいやいや。ないない。だって、別府って何気に女子に人気があるしさ。イケメンっ
ていうほどじゃないけどそこそこカッコよくてオシャレで、付き合えるならいいよねって
いう感じで……だから、私なんか……』
 胸もお尻も、起伏の少ない自分の体。顔だって、友達になってくれた子は可愛いっていっ
てくれるけど、キツめで近寄りがたい雰囲気だし。
『……でも、彼女いないのよね。みんなの話だと。ということは……』
 二人で帰ろうって誘ってくれたりするのは、そんな気じゃないと思うけど、でも考えが
都合のいい方向へと傾いてしまう。
 そして、つい顔がニヤつきかけたその時だった。
「全く…… こんな時間まで付き合わせやがって。ふざけんなよな」
 私が、この学校の男子でもっとも聞きなれた声がした。
『う、うそ? 別府……まだ、いたんだ』
 ちょうど昇降口に差し掛かったところで、私はとっさに物陰に隠れた。なぜ隠れたのか
は、自分でも分からないけど、反射的にそうしてしまったのだ。
『いーじゃんいーじゃん。どうせ帰ったってゲームするか漫画読むかしかないんでしょ?
だったら、私に勉強教えたほうが、よほど社会貢献になるじゃない』
 気さくな感じで別府に答える声は、どうやら女子のようだ。私の胸に不安の影がかかる
のを感じたが、私はすぐに自分に言い聞かせる。別府はクラスでも女子と普通に話すほう
だし、女子と一緒だからといって、すぐに決め付けはよくないと。
「なにが社会貢献だ。つか、お前もテストの前日になって俺に頼るのそろそろやめろよ。
普段部活ばかりでちっとも勉強しないでよ」
『だってタカシ、要領いいから教え方も上手いんだもん。ノートもキレイだし。女子かお前は』
00783/8
垢版 |
2017/02/05(日) 23:05:56.920
「その方が楽なだけだっつーの。夜も決まった時間に勉強するクセつけとけば、ストレス
もたまんないし」
『その精神力がすごいわ。私なんて時間決めても、あと10分したらって思ってるうちに寝てるし』
 聞こえてくる会話からは、まるで恋人同士のような親しげな雰囲気。そして聞いたこと
のない声。私の不安を和らげる要素が一つとしてなく、どうしても気になった私は、我慢
しきれずに、ちょっとだけと顔を出す。そして、その相手の姿を見た瞬間、衝撃が走った。
――――!!!!
 別府タカシとしゃべっている相手の女子を、私は見たことがなかった。制服のリボンの
色から同学年だと分かるから、他のクラスの子だろう。問題はその子が――私の呼吸が止
まるくらいの、美人だということだ。
「なんなら、俺がたたき起こしてやろうか。無理矢理引きずって机に座らせてやる」
『うわ。女子の部屋に勝手に入る気? この不法侵入者。のぞき魔。チカン。変態』
「今許可取ってるだろうが。つか、やめた。想像したらめんどくさくなった」
 美人なだけじゃない。スタイルも細身なのに出るところはちゃんと出てるのが制服から
でも分かる。そして、そんな女子が親しげに会話しながら時折肘で小突いたり、肩に手を
置いたりしているのだ。
『ハァ…… なんだ。ちゃんといるんじゃん…… あんな、キレイな子がさ……』
 さっきまで、自分がはかなくも抱いていた期待がものすごく空しくなった。でも、クラ
スの女子は友香ちゃんだけじゃなくて、他の子も別府はフリーだって言ってたのに。もし
かしたら、隠しててみんな知らないのかもしれない。
『あ、そうそう。タカシさ。私今日、傘持ってないから家までよろしく』
 彼女のその言葉が、すでにショックを負っていた私の心に、槍のように突き刺さった。
「お前、ありえないだろ? 朝から曇ってて、午後から80%の雨予報になっててなんで傘
持ってないんだよ」
『いやー。だってさ。この間の日曜日に折りたたみ使って干したの忘れててさ。てっきり
リュックの中に入ってると思ってたのに』
「いや。普通大きいの持ってくるだろ。この土砂降りに折りたたみじゃ、スカート濡れるぞ」
『家出て三歩歩いてから気付いたけど、取りに戻るのがめんどくさかった』
00794/8
垢版 |
2017/02/05(日) 23:06:46.330
「どんだけめんどくさがりやなんだよ。だったら俺の傘に入るのも面倒だろ。濡れて帰れ」
『またそんな冷たいこというけど、優しいんだよね。タカシは』
「やめろバカ。くっつくな。甘えるな」
 私はその場にズルズルとくずおれた。自分の中で、あの相合傘はちょっと特別なものに
なっていたのに、別府タカシにとっては普段、恋人と普通にやるものだったのだ。
『バカだな。私は……』
 二人の声が聞こえなくなっても、しばらく私はそこを動けずにいたのだった。


 それから数日間。私は全く別府タカシと話さなかった。というか、話さずにすんだ、と
いうべきか。帰りも友香ちゃんとか他のクラスの子と同じだったり、グループで話すとき
は別府との直接の会話は避けたし、LINEでもみんなに対するような当たり前の返事しかし
なかったからだ。
「お?」
 しかし、そんな運のいい状態も終わってしまったようだった。
『げ……』
 別府に聞こえないよう小さく、私は呪いの声を上げる。まだ一週間もたってないのに、
気持ちの整理なんてつくわけないのに。
「椎水。今日は一人なのか?」
 気さくに声なんてかけてくるのがすごくイラッと来た。こっちはすごく心を痛めたのに、
脳天気に話しかけてくるなんて、無神経にもほどがある。
『そうよ。じゃね』
 一方的に会話を打ち切って、靴を履く。上履きを靴箱に放り込むと乱暴にドアを閉め、
さっさと早足で歩き出した。
「お、おい。ちょっと待てよ」
 あわてたように止める別府の声なんて聞こえなかったことにして、私はより足を速める。
なのにあっさりと別府は私の横に並んでしまった。
「どうしたんだよ。なんか機嫌悪いな」
 こっちが頑張って早足で歩いても、悠々とついて来られることに余計に苛立ちが募る。
歩幅も足の筋肉も何もかも向こうが優位なのだ。
『別に。いつもこんなもんでしょ? 特に別府といる時は』
 無視してればいいのに、ついつい答えてしまう自分までが忌まわしい。
00805/8
垢版 |
2017/02/05(日) 23:07:37.650
「口調はそうだけどさ。今日は……っていうか、ここ最近。なんか拒絶されてる雰囲気だから」
 無神経かと思ってたけど、どうやら一応空気は読めていたようだ。でもなら、何で逆に
話しかけてくるのかと、それもまたイライラする。
『分かってるなら、話しかけてこないで。隣に並ばないで。最低五メートルは離れて。前
でも後ろでもいいから』
「訳は、なんだよ?」
 帰宅する生徒達の間をぬうように足を進める私に、ちょっと急ぎ足程度で並んで歩きつ
つ、別府が聞いてくる。しかし私はそれを無視した。
「なんか俺、椎水の機嫌を損ねるようなことしたか? いや。したんだろうから怒ってる
んだろうけどさ。理由言ってくれないと、謝るにも謝れないんだけど」
『別に、怒ってないし』
 別府に悪いことなんてなにもない。傘に入れてくれて、友達を作るきっかけも用意して
くれて、むしろ感謝することしかないはずだ。悪いのは私だ。勝手な妄想で期待してた自
分に腹を立てているだけでしかない。
「いや。怒ってるだろ。明らかに先週と態度違うし。言ったところで許す気にもなれないっ
てくらいひどいことしたのか、俺?」
 これ以上黙ってると誤解が広がりそうなので、私は仕方なく答えざるを得なかった。
『なにもひどいことなんてしてないわよ。強いて言えば、わたしに話しかけたってことく
らいかしら』
「俺に対して怒ってもないし、俺もなんにもしてないっていうのか? じゃあなんで拒絶
するんだよ。せめてその理由が分かんないと納得も出来ないし」
 歩きながら私はため息をつく。そりゃ確かに、急に冷たい態度になれば別府が疑問に思
うのは無理もない。だけど、まさか内緒で彼女がいたからってそれを責めるわけにもいかないし。
『じゃあ逆に聞くけど、理由がなきゃ別府としゃべるの拒否しちゃいけないの?』
 この問いは功を奏したようで、別府からは少し答えが返ってこなかった。とはいえ諦め
るつもりはないようで、私の横に並ぶのをやめようとはしなかったが。
「最初から話す気もないってならそれでもいいけどさ。この間まで普通にしゃべってたの
に今週になったらいきなり拒否するって、やっぱりなんか理由があるとしか思えないんだけど」
『しつこいわね。アンタも』
00816/8
垢版 |
2017/02/05(日) 23:08:09.730
 いったん立ち止まると、別府を睨みつける。とにかく今はもう、どんな嫌な思いをさせ
ても別府に諦めてもらうしかない。仮に嫌われたっていい。どうせもう、好きにはなって
もらえないんだから。
「椎水が一言でいいから、こういうところがイヤだって言ってくれれば、後はもうつきま
とったりしないって。ストーカーみたいに思われるのは心外だからな。なんなら携帯のア
ドレスも消すか?」
 その一言は結構胸にズン、ときた。交換してまだそんなにも経ってないアドレスを消す
までは私は考えてなかった。けど、もういっそその方がいいのかもしれない。未練がまし
く残してるよりは、あとくされがないだろう。
『別に好きにすれば。わたしからいちいちどうこうとか言わないから』
 別府から顔を背け、早足で歩き出す。しかしすぐに別府は追いついてきて、体をやや、
私の前に回りこむように乗り出してくる。
「その前に一言言ってくれって。それが条件だったろ?」
 私はもう一つため息をつく。なにも別府が悪いわけじゃないのになじるのは気が進まな
かったが、こうなった以上は何か言わないと別府も引き下がれないだろう。私はちょっと
考えてから、適当な一言を思いつく。足を止め、別府を見上げた。
『……無神経』
「は?」
 ちゃんと言ったつもりだったのだが、別府は聞き取れなかったのか、やや唖然とした顔
で首を傾げた。こっちはその一言だって結構つらい思いで言ってるのにその態度にカチン
と来て、私は苛立ちをそのまま言葉にしてぶつける。
『だからっ!! 無神経だって言ってんのよ!! そういう人の気持ちも分からずにずけ
ずけと聞いてくるところとかが!! 大体、こうやって私に話しかけてくること自体もそ
うよ。彼女がいるくせに親しげにしてきて!! そういうのほんっと迷惑だから!!』
 感情が昂ぶるのにまかせて、私は自分が触れたくないことにまで触れてしまった。これ
じゃあ嫉妬に狂った醜い女にしか思われないかもしれない。それに気付くと私はもう、こ
の場にいたくなかった。
『だからもう、話しかけてくるのとかやめてよね!! じゃっ!!』
 くるりと身を翻したところで、足を出すよりを早くいきなり腕をつかまれた。驚いて私
は身をよじる。
00827/8
垢版 |
2017/02/05(日) 23:08:33.590
『ちょ、ちょっと!? なにすんのよ!! 離して!! 痛いから!!』
「ちょっと待てよ。よくわかんないけど、なんかお前、絶対誤解してるから。彼女とか、
意味わかんないし」
 私は抵抗をやめて別府の顔を見つめる。困惑してるようなその表情を見て、一瞬焦りに
似た感覚がかすめる。しかしすぐに思い直した。私はちゃんと見たんだ。それに、クラス
の友達とかも知らなかったんだから、付き合ってるの秘密にしててこの場でもしらばっく
れてる可能性は十分にある。
『いいわよ。別にごまかさなくたって。私、誰かに言いふらす気とかないし。けど、こう
やって二人きりで帰るとかしてると、いらないトラブルに巻き込まれかねないからイヤな
の。わかんないの?』
 こうやってる今だって、誰かが見てて別府と椎水が痴話げんかしてるとか噂立てられる
かもしれない。それで別府の彼女とかに誤解されるのは冗談じゃなかった。そういう事に
気付いていない別府はやっぱり無神経だ。
「いや。わかるもわかんないもないし。そもそも別にごまかしてなんか――」
『だからそういうのいいから!! 彼女さんとの約束かもしれないけど、それを守るより
も気を遣うことがあるでしょうが。大体私はちゃんと見たんだから。別府が目鼻立ちのくっ
きりした美人とすごく親しげにしてるのを。あれで彼女じゃないとかありえないし』
 話せば話すほど、嫌な記憶を掘り起こさざるを得なくなってくる。一言で納得してくれ
るって言ったのに、別府ってばヒドいウソつきだ。
「美人? いや、そんなのと話した記憶なんて……」
『だからいいっての!! 知らないそぶりはしなくて。同じ学年の子でさ。長い髪をポニ
テに結わえてて、体つきも細くてスタイル良さそうで…… ああもう!! 言ってるこっ
ちがみじめになるから言わせないでよ!!』
 別府は私をつかんでいた手を離すと、わざとらしく腕を組んで考え込むそぶりをした。
どこまでも身に覚えのない態度を貫くらしい。それならそれで、こっちから退路を断つだけだ。
『言っとくけど、姉とか妹とかなしだからね。私たち一年だし、その子も同学年の子だっ
たし、うちの学校の制服だったから。あと、入学式の時にもらった名簿見たけど、同じ学
年で別府って名字はあんたしかいなかったから』
00838/8
垢版 |
2017/02/05(日) 23:11:52.520
 自分でもストーカー気質かと思ったけど、姉でした妹でしたオチは鉄板過ぎるのでちゃ
んと調べたのだ。しかし、逆に別府はその言葉で思いついたものがあったらしい。
「あ、そっか。いや、アイツは――」
 また何かごまかそうとしているのか。そう思って私は、とうとう言いたくなかった記憶
を口に出してしまう。
『あのね。なにを隠そうとしてるのか知らないけどね。放課後に勉強を教えあって、雨予
報の日に傘を持ってきてない彼女に呆れつつも肩を寄せ合って相合傘で帰るとか、付き合っ
てる以外にありえないでしょ。い、言っとくけどね。別にのぞき見してたとかじゃないか
ら。たまたま昇降口での会話が聞こえてきただけだからね!!』
 気持ちが昂ぶって涙が出そうになるのを懸命にこらえる。別府の前で、こんなことで泣
いてしまったら、みっともなさすぎる。泣くのは、自分の部屋に戻ってからだ。
「あのな。椎水。なんとなく話が見えてきたけど、それは――」
『わっ!!』
 言い訳をしようとする別府の言葉は、私がそれに反応するよりも早く、別の誰かによっ
てかき消された。


続きはまた来週投下します
一応前スレの543-548、558-563の続きっぽい感じ
0084ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/02/10(金) 03:25:15.360
嫉妬するツンデレってなんでこんな可愛いんだよきゅんきゅんするわ続きはよ
GJ
00861/6
垢版 |
2017/02/12(日) 23:25:21.700
・ツンデレの勘違い〜その2〜

「どわっ!?」
 いきなり背後から目隠しされた別府が驚いて奇声を上げる。私もびっくりして体が凍り
ついた。まるで何もない空間からいきなり手だけが出て別府の目を塞いだように見えたか
らだ。しかしそんな幻は一瞬だけだった。
『あははははっ!! びっくりした? びっくりした?』
 楽しげな弾んだ声が、別府の向こうから聞こえる。パッと体をひねって、別府が視界を
塞いだ手から逃れる。すると、紛れもなくうちの学校の制服を着た女子が現れた。
「やっぱり透子かよ。お前なっ!! いい年してそういういたずらはもうやめろっつてん
だろが!! いつもいつも、心臓が止まるようなタイミングで仕掛けてきやがって」
『そーいうタイミングでやるから面白いんじゃない。大体、なんかお取り込み中みたいだっ
たからさ。普通に声かけても、気付いてくれなさそうだったし』
「そう思うなら、気を利かせて邪魔しないようにするのが普通じゃね? ホントお前って、
いつもいつも空気読まずにほいほい顔出してきやがって。迷惑にも程があるってんだよ」
 割り込んできたこの女子が誰だか、最初の驚きから立ち直るとすぐに気が付いた。この
間昇降口で見かけた、当の別府の彼女だ。いや。まだ彼女と決まったわけじゃないけど、
私の中ではほぼ間違いない。なぜなら今だって、私の入り込めない空気感を作っているのだから。
『そうは行かないわよ。タカシが修羅場ってるところに出くわすなんて、こんな楽しい事
はないもの。しかも、噂の彼女とでしょ? これは首を突っ込まないわけには行かないわよ』
 憮然とする別府に対して、彼女はあくまで楽しそうだ。どうやら私と別府が二人きりで
いること自体は不快に思ったりはしないらしい。
「そもそも、全部お前のせいだ。だから去ね。去れ。消えろ。もうこれ以上話をややこし
くされんのはゴメンだ」
 手振りで別府は彼女に対してシッシッと追い払う仕草をする。それに彼女は不満気に口
を尖らせた。
『まーた人をお邪魔虫扱いして。そりゃ、二人っきりでいたいのは分かるけどさ。せっか
く彼女さんと二人でいるのに行き会って、挨拶もなくスルーなんて出来る訳ないじゃない』
00872/6
垢版 |
2017/02/12(日) 23:26:02.050
 彼女がにこやかにこっちを見たので、私は背筋を伸ばして身を固くした。挨拶って一体
なんだろう。身の程知らずに別府に付きまとっている女ということで、文句の一言も言わ
れるのだろうか。そんな仕打ちを受ける前に、こっちから誤解を解かねば。
『あっ……あのっ!! はっ……はじめまして。その……べ、別府……ううん!! 別府……
くんっ……と、同じクラスの、椎水かなみですっ!! ご、ごめんなさい!! 私、その……
全然そんな気じゃなくって…… く、クラスメイトだからってだけで、ちょっとしゃべら
せてもらっただけっていうか…… と、とにかく、違いますから!!』
 言いたいことが全然口に出てこなくて、まとまりのない言葉を羅列して、とにかく誤解
だけは解こうと必死でしゃべって、私は体を90度以上折り曲げてお辞儀をした。出来るな
らこのままダッシュで逃げ去りたいけど、それは卑怯な気がして出来なかった。
『……どしたの? 彼女』
 キョトンとしたようなその声に違和感を覚える。ひょっとしてもしかして私ってば、そ
もそもそういう相手として見てすら貰えていないとかなのだろうか。いや。その可能性は
十分にある。だってそもそも彼女とじゃ、女子としてのスペックが違いすぎるし。
「だからお前のせいだっつーの。全部。いつも言ってただろうが。ところ構わずひっつい
て来るなって。そのせいで俺が無用な被害をこうむるんだからな」
『あたしのせい? 何で?』
「あとは自分で考えてみろ。そのアホな脳みそが働くならな」
 二人の会話を聞いても、どうもなんか、私の考えと違う方向に話が進んでいるような気
がしてならない。妙な胸騒ぎを覚えつつ体を起こした時、彼女がポン、と手を叩いて合わせた。
『おおっ!! なるほど。そっか。確かに知らなきゃ、そうも思うか』
「そんなもん、普通ならこうなる前から気付くだろうが。ましてや高校になって環境も変
わったんだしさ」
 呆れた様子の別府に、彼女はあらためてにんまりとした顔を見せる。
『じゃあ、さ。これはますます自己紹介させてもらわないとね』
 くるりん、と踊るように身を翻して、彼女は私の方に向き直った。その動きの優雅さに
は、女の私も思わず息を呑んでしまう。
00883/6
垢版 |
2017/02/12(日) 23:27:00.890
『初めまして。私、中居透子っていうの。1年H組でチア部やってます。よろしく』
 指でピースサインを作って敬礼みたいに額の横にかざし、キメ顔みたいにキリッとした
表情を彼女は作った。
『あっ……えっと……椎水かなみです。別府と同じB組で……とくに部活とかはやってま
せん。よ……よろしくお願いします』
 軽くおじぎをすると、中居さんは手を振ってそれをしりぞける。
『いいっていいって。タメなんだし、敬語なんてかたっくるしいのなしで。あたしのこと
も、透子って呼んで。その代わり、あたしもかなみって呼んでいいかな?』
『まあ、どうぞ。お好きに……』
 なんかものすごく調子が狂う。私って、中居さんの彼氏につきまとう邪魔な女じゃなかっ
たっけ? ものすごくフレンドリーだし、そこにはよくある悪意を持つ人が出すような嫌
な馴れ馴れしさは感じられない。嫉妬とかそういう感情なのとは無縁な人なのだろうか?
『お? 許可が出た。なら、かなみ。いつもいとこのタカシがお世話になってるみたいで、
ありがとね。こいつってば奥手だからさ。仲良くしてくれる女子がいると、あたしとして
も嬉しいかな、なんて』
 屈託のない笑顔でお礼を言われて、私はなんかちょっと居心地の悪さを感じつつ頭を下げる。
『あ、いえ。どうも……ってかお礼を言われるようなことはしてないし……』
 謙遜しつつ、私はさっきの言葉に首をひねる。なにか他にもっと重要な、無視しちゃい
けないキーワードがあったような気がして、もう一度透子の言葉を頭の中で反芻する。と、
ある言葉に、私の脳みそがガン!!というような衝撃を受けた。
『って、いとこ!?』
『そ。びっくりした?』
 ちょっといたずらっぽく笑う透子と仏頂面のまま横を向いている別府を、私は交互に見比べた。
「そういうことだよ。つか透子。もっとちゃんと言えよな。さりげなく会話の中に織り交
ぜてたら気付きにくいだろが」
 不満気に横から口を挟む別府に、透子はケロッとした顔で小首をかしげる。
『そぅお? かなみんが反応鈍いだけだと思うけどな』
 ごく自然に私に責任転嫁された。しかもかなみんって、呼ばれたことないし。もっとも
そういうツッコミよりも、今の私には優先順位があった。
00894/6
垢版 |
2017/02/12(日) 23:27:45.740
『えっと、いとこってことはつまり親戚同士ってことで……えっと……えっと……』
『んっと、そういうことで言うなら、あたしのお母さんとタカシのお母さんが姉妹なの。
分かるよね?』
 透子がフォローを入れてくれて、少し頭が整理できた。とはいえ、今の私は超恥ずかし
い勘違いを二人に対してやらかしてしまったんじゃないかという焦りでいっぱいいっぱい
ではあったのだが。
『ていうことは……親が1親等で、おじいちゃんおばあちゃんが2、で、その子供、つまり
親の兄弟姉妹が3、さらにその子供ってことは4親等ってことで……』
「いちいち指折って数えることなのかよ。それ……」
『うるさいな!! 今ちょっと頭回んないんだから静かにしてよね!!』
 呆れて口を挟む別府にかみついて、私は思考を巡らせ始める。すぐ横で透子が耐えかね
たように笑い出していたが、そこを気にする余裕すらなかった。
『で、確かえーっと、法律だと結婚が禁止されてるのは3親等までだから、4ってことは……』
 私の頭の中で、パチッと何かがスパークした。
『つまり、結婚できるってことじゃん!! てことは、付き合うことも出来るってことだよね!?』
「大声出すなよ。恥ずかしいな。まわりがみんな見るだろが」
 こめかみに手を当ててため息をつく別府に、私は苛立ちを覚える。
『うるっさいわね!! だってこれ、重要なことだもん。もしこれで、実は双子の姉弟だ
とか、父親が実はおんなじで血が繋がってる設定だったりしたら、私、一人で勝手に踊っ
てたことになるじゃない!!』
 ガーッてがなり立てると、別府はうるさそうに指で耳の穴にふたをする。
「いや。うるさいのは椎水の方だから。つか、結果ほとんど変わらないし……」
『誰がやかましいっていうのよ。超失礼でしょそれ? つか、今最後なんて言ったの!?』
 別府の声はちゃんと耳に届いていたけど、脳がそれを具体的に考えることを拒んでいた。
変わらないって、一体どういうことなのよって。
『まーまーまー。タカシはちょっと引っ込んでて。こっから先はあたしが説明するから』
 私と別府の前に、スッと透子が割り込んできた。そうなると私もさすがに、別府に突き
つけた矛を収めないわけには行かなくなる。
『あの。説明するって……どういうこと……?』
00905/6
垢版 |
2017/02/12(日) 23:28:32.000
 何となく嫌な予感しかしないが、それでも聞かずにはいられなかった。すると、透子は
ふっふーん、とややドヤ顔っぽい顔になる。
『つまりさ。かなみんは、あたしとタカシが付き合ってるって思ってるんでしょ? いと
こ同士だけど恋人同士みたいな』
 逆質問されて私は戸惑う。なんかどんどん、予感が的中しそうな方向に流れている気が
してならないが、答えないわけには行かなかった。
『え? だって、その……そうじゃないの? だってあんなに仲良しで……馴れ合ってる
感じだったし、相合傘して帰ってたし……』
 私のそれとは違い、透子は最初っから別府に頼った感じに見えていた。だから断定して
そうだと思っていたのだけけれど、今になって心の不安が大きくなる。だから口調も、つ
い、言い訳めいたものになった。
『うんうん。分かるよ。確かに私とタカシは超仲良いし、あたしはタカシのこと超好きだし』
 透子が別府の方に流し目っぽく視線を送ると、別府はそっぽを向きつつもいささか照れ
くさそうに頭をかく。それに何とか自分の考えを肯定する言葉を見つけたかったが、私は
何も言葉が出ず、ただ透子の次の言葉を固唾を呑んで待っていた。
『でも、ざんねーん!! かなみんの超絶な勘違いでしたー!!』
『なんでよっ!! 超絶なってなによーっ!!』
 やっぱりこの展開だった。透子が現れた最初から感じてた違和感は、徐々に不安となっ
て広がっていたが、いざこうやって当人から言われると、めちゃくちゃに恥ずかしい。し
かも透子は超楽しそうだし。それがすっごく頭にきて、私は文句を言わずにはいられなかった。
『だって、今超仲良しだって言ったじゃない!! それが何で超絶な勘違いなんて言われ
なきゃなんないのよ!! おかしいでしょ』
『いやまあ。いとこ同士なんだけどさ。あたしのお母さんとタカシのお母さんって双子で
さ。一卵性の。で、子供の時からずーっと一緒で超仲がよくて、今も隣同士で住んでんだ
よね。だから、いとこって言っても兄妹みたいな感じなの。遺伝子半分は一緒だし』
『そんな事情知るかっ!!』
00916/6
垢版 |
2017/02/12(日) 23:29:26.080
 他人からはうかがい知れない事情を明かされて、私は思わずツッコミを入れる。そんな
事情なら確かに、付き合ってなくたって仲が良いっていうのは分かるけど、知らなきゃ誰
だって勘違いするに決まってる。
『まあ、だからね。男子って言ってもタカシは別なの。こんなこと、ごく自然だし』
 透子はおもむろに別府の手を引っつかんで引き寄せると、半ば強引に抱き寄せる。
「おまっ!? いきなり何すんだよ!!」
 さすがに人前では恥ずかしいのか、別府は抵抗して体を引きはがす。
「お前な。いつも言ってるけど場所柄をわきまえろよ。だから余計な勘違いばかりされる
んだろうが」
『いやー。かなみんには言葉で説明するより、この方が分かりやすいかなって。私たちの関係』
「椎水に見せるだけならともかく、ここ通学路だぞ。いくら下校時間から大分ズレてるっ
つったって、まだ通る奴結構いるのに」
『知らない人だったら別にほっとけばいいし。知り合いなら事情知ってる子がほとんどだ
し。普通なら噂の種にするだろうから、すぐ誤解なんて解けるし。まあ、かなみんは別として』
『ちょっと!! その、別ってなによ。人を変人みたいに言わないでくれる』
 てっきり私の人付き合い苦手な性格をからかわれたのかと思って文句をつけると、透子
はちょっと申し訳なさそうに笑って、手振りでそれを否定する。
『ゴメン。そういう意味じゃなくてさ。好きな人に彼女がいるのかどうかって、誰かに確
かめるのは怖いだろうからって思って』
『むぅ…… そういう意味なら――って、はいいいいいっ!?』
 あまりに自然に言われたから思わず流しそうになって、途中で言われた意味に気付いて
私は驚きのあまり奇声を発してしまった。
『お? いいね。そのノリツッコミ。かなみんって、そういうのも出来るんだ』
 妙なことで感心する透子に、私は勢い込んで詰め寄る。
『そんなことはどーでもいい!! それより何よ!! すっ……すすすすす……きな人っ
て!! だらっ……だるがっ……誰が、その……誰を好きだってってって!!』
 動揺して噛み噛みの言葉で問うも、透子はしれっとした様子で小首をかしげた。


また来週に続く
0095ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/02/14(火) 18:58:39.640
今日はふんどしの日
0096ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/02/14(火) 23:24:44.640
バレンタインだしリアルではゼロだったからむしゃくしゃして久しぶりに書こうかと思ったけど
考えを文字にする難しさを再認識、全盛期はポンポン書けたのになぁ・・・

昔、自分が垂れ流した保管庫の長編とか見るとよく書いたなって思ってしまう
0097ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/02/15(水) 23:23:06.290
妄想を語るのに、別にSSにする必要はないのよって思う


お題
つ・バレンタインデーにインフルエンザに罹ってしまったツンデレ
00981/6
垢版 |
2017/02/18(土) 00:38:52.310
2月13日 夜

『つ、ついに作ってしまった…ほ、本命手作りチョコ』
『ついでにお父さんのも作ったから、間違えないように名前を書いた紙を置いて…これでよし』
『これを見れば、私が悪口言っちゃうのも照れ隠しだってわかるはず』
『後はちゃんと渡せる…うぅん、弱気になっちゃだめ!手渡しが無理でも
 靴箱にいれるとか色々やり方はあるもん!頑張らなきゃ…うん!』

2月14日 朝

『(あれ…?何か変…フラフラするし、妙に暑いし…なんだろう)』
『お母さん、おはよう…げほっげほっ』
『ちょ、ちょっと顔真っ赤じゃない!?熱でもあるんじゃないの?』
『えー…?大丈夫だよ。今日はどうしても学校行かなきゃだし』
『ちょっと熱測ってみて』
『うん…』
ピピピピ
『ちょっ39度!?びょ、病院行かないと!ちょっとお父さん!車出して!!』
『え?え…?えぇ!?』

−−−
−−
00992/6
垢版 |
2017/02/18(土) 00:39:21.230
2月17日 昼過ぎ

『(はぁ…インフルエンザ、やっと治まった。学校は月曜日から行っていいって言われたけど)』
『(バレンタイン終わっちゃった…)』
『(気持ちを伝えられないまま春休みになって…クラス替えで別々になったらどうしよう)』
『(なんで大事な時にインフルエンザなんて…もうダメなのかな…?)』
コンコン
『はーい』
ガチャ
『具合どう?お友達が会いに来てるけど…?』
『うん、大丈夫だよ』
『そう?じゃ、上がってもらうわね』
『うん(お友達…?友ちゃんかな?)』

「やっ!委員長、具合どう?」
『へ…?べべべべ別府君!?』
「そんなに驚かなくてもいいじゃん。休みの間のプリントとか持ってきたよ」
『何でよりによって別府君が来るんですか!?』
「いやまぁ…心配だったから?」
『なっ……そ、そんな心配なんていらないです』
「はいはい、元気そうで一安心だよ。プリント、机の上に置いておくね」
『用が済んだらさっさと帰ってください』
「ん?何これ?」
『別府君には関係ないものです。それにもう使えないものですし』
「あ、バレンタインチョコか。14日から休みだったもんね」
01003/6
垢版 |
2017/02/18(土) 00:40:10.280
『(はぁ…捨てる前に渡すはずの本人に見られるなんて、本当に最悪…)』
「で、これは俺が貰っていいの?」
『ふぇ…?なななな、なんで別府君にあげないといけないんですか!?』
「だって…俺の名前書いてる紙おいてあるけど?」
『う…そ…あっ…あぁ!?』
『(ずっと寝てたから、すっかり忘れてた!!!)』
「しかも、別府くん(はーと)って…これはもしかして本命って奴だったり?」
『ち、違います!それは何かの手違いっていうか…そ、そう!きっと作ってる時からぼーっとして』
「ぼーっとすると俺のために本命チョコつくっちゃうの?」
『そ、その…と、とにかく!別府君のためでも、ましてや本命でもないですからね!』
「えー、そうなの?せっかく委員長の手作りチョコ食べれると思ったのに」
『…だいたい、インフルエンザにかかった人が作ったものですよ?そんなもの−』
「食べたいけど?」
『え?う、移ったらどうするんですか!』
「大丈夫だよ、もう治ったんだろ?」
『それは治る前に作ったものですよ?』
「関係ないって」
『私が嫌なんです!もし移って、私のせいにされても嫌ですし。何より周りに迷惑が掛かります』
「自己責任だって、ね?使わないならいいでしょ?」
『ダメです』
「手作りなんでしょ?出来とか気にならないの?」
『そ、それはちょっと気になりますけど…』
「俺にくれるために作ったんだから、俺がどうしようと勝手でしょ?」
『確かに…そうですけど』
01014/6
垢版 |
2017/02/18(土) 00:40:34.610
「あ、やっぱり俺のために作ったんだ」
『え…?ち、ちがっ、違います!別府君のためじゃありません!』
「はいはい、これで安心して開けられるな。オープン」
『ちょっ、なんでここで開けるんですか!』
「ここで食べて感想言うためだよ。なんたって俺のためのチョコなんだからな」
『うぅぅ…違うって言ってるのにぃ…』
「さて見た目は…えっと…」
『何ですか?形が悪いとかケチつけるんですか?』
「いや、綺麗なハート型だよ」
『当たり前です、すっごく大変だったんですから』
「で、ホワイトチョコで大好きって書いてあるんだけど」
『えぇぇぇ!?そそそ、そういえば作ったような…作らなかったような…』
「本命…だよな?これ」
『ちちちち違います!それは大好きじゃなくて…』
「違わないよ、ほら」
『そっそれもぼーっとして作ったからです!本音とは違うの書いてるんです!』
「えー…そうなの?本命だったらすごく嬉しいのに」
『な、なんで嬉しいんですか?私なんかに本命渡されたって迷惑なだけじゃないですか』
「いや、俺、委員長の事好きだし」
『…え?今何て?』
「委員長の事、好きって言ったの」
『そ、それは…恋愛の意味で…好き…なのですか?』
「でなきゃ会いに来ないよ。委員長の事、好きだからすごく心配だった」
01025/6
垢版 |
2017/02/18(土) 00:41:04.850
『あの、えっと』
「まぁ、違うっていうんなら…ショックだけど仕方ないか」
『ちっ、違うっていうのも違うっていうか…その…あの…えーっと』
「いいよ無理しなくて、ごめんね。じゃ、俺そろそろ」
『て、手紙!』
「は?」
『箱と一緒に入ってる…手紙』
「…これか」
『…』
「えーっと、いつもひどい事いってごめんなさい」
『こ、声出して読まないでください!』
「あ、うん………」
『(あぁ…読まれてる、私の気持ち。どうしよう…これでダメだったら…)』
「……うん、読んだ」
『はっ、はい』
「…」
『…』
「…」
『な、何か言ってください』
「チョコ、食べるよ」
『えっ…は、はい』
「モグモグ…すっげー美味い。これ、本当に手作り?」
『もちろんです、一生懸命作ったんですから』
01036/6
垢版 |
2017/02/18(土) 00:41:50.800
「ふふっ、やっと笑った」
『ふぇ…?うれしくないです!別府君に褒められたって』
「それ、照れ隠しなの?」
『照れ隠しっていうか…』
「手紙に書いてあったよ?つい悪口言っちゃうのは照れ隠しだから気にしないで欲しいって」
『うぅ…弱みを握られました。最悪です』
「そんな私でも良ければお付き合いしてくださいって」
『だから声を出して読まないでください!』
「付き合おうよ、俺たち」
『ほっ本当…ですか?』
「そんな委員長だからこそ、俺は好きになったのかもしれないから」
『嘘とか冗談だったら承知しませんよ?』
「本当だって」
『じゃ、じゃぁ…証明してください』
「いいぜ…委員長」
『別府…くん…んっ…』

「どう?」
『い、いきなりキスしてくるなんて…本当に移ってもしりませんからねっ』
「その時は…今度は委員長がお見舞いに来てよ」
『…はい』
0105去年投下しそびれていたもの1/2
垢版 |
2017/02/18(土) 05:43:44.220
「……どうしたものか」
突然だが本日はバレンタインデーである。つまり、女性が想い人に、チョコレートを渡す日であるわけで。
私にもまあ、その、憎からず思っている相手がいる、ので、渡したいと思うのだが……問題は……
「……前々からわかっていたとはいえ……」
何をこんなに唸っているのかというと、本日は日曜日だ。つまり、自宅に行って直接渡す必要がある。
わざわざ自宅まで行って義理チョコを渡すような人間もいるまい。つまり、これを渡すことはそのまま告白と同義のようなものなのである。
「……やはり、今年はやめておこうか……」
正直、返事を聞くのが怖い。だから今年はもう最初から渡さないことにしようかと思っていた。それでも、もしかしたら、そう思い結局作ってしまった。
「……行こう」
そうだ、行こう。例え断られることになるとしても、せめて思いだけでもしっかりと伝えたい。本当に、もしかしたらもあるかもしれない。だから、行こう。


「……うう」
何度か挫けそうになったが、到着した。したはいいが、かれこれ5分近く家の前で動けずにいる。い、いっそポストにでも放り込んでおこうか……いやでもそれでは誰からのものかもわからないし……
「……あら?みこっちゃんじゃない。どうしたの?」
「ひぇあっ!?……お、おば様……?」
そうこうしていたらタカシのおば様が家から出てきた。び、びっくりした……
「どうしたのみこっちゃん?一緒に宿題やる約束でもしてたの?それともお見舞いに来てくれたの?」
「い、いえあのそのほほほほ本日はですねそのえーっとですから……え、お、お見舞い……?」
お見舞い、とはどういうことだろう。アイツ風邪でもひいたのだろうか……
「あれ、ひょっとして知らなかった?うちの子インフルエンザに罹っちゃってね……」
「イ、インフルエンザ!?」
確かに最近流行っているとは聞いていたが、まさかアイツが罹っているとは……
01062/3
垢版 |
2017/02/18(土) 05:44:18.770
「そういうわけでせっかく久しぶりに来てくれたところ申し訳ないんだけど……家に上がるのは、ね?」
「あ、はい……わかりました」
そういうことなら仕方ないか……
「それじゃあ、コレを渡しておいてください」
「はーい。ところでこれどうしたの?お見舞いとかじゃなかったみたいだけど」
「あ、あの、ですね、それは……」
うう、本人より先におば様に伝えることになるとは……前々から度々からかわれていたとはいえ……
「そ、その……今日、は、バ、バレンタイン、なので……」
「へ?……あ、ああっ!そういうこと!?え、じゃあひょっとして……あらぁ」
駄目だ。顔が熱い。火でも出るんじゃないかというくらいに、熱い。もう今すぐ家に帰って引きこもりたい……!
「その、災難だったわねぇ……もーう、うちの子ったら間が悪いったら……どうする?やっぱり……あがっていく?そういうことならおばさんも協力するけど」
「い、いえ、だ、大丈夫、です……多分、本人を前にすると、何も言えなくなるので……」
自分で言ってて情けないことこの上ないが、実際もし顔を見たとしてもよくて憎まれ口が出てくるくらいだ。今日だけは流石にそれは口にしたくない。
「じゃあコレ、お見舞いってことで渡しておくけどいい?」
「お願いします」
0107微妙にながかった3/3
垢版 |
2017/02/18(土) 05:44:33.990
「まあおばさんはいつでも応援してるから、なんだったらデートの協力なんかもしてあげるからね」
「デッデデデデート!?」
そ、それってつまり二人で出かけて一緒に映画を見たりしてそれが恋愛映画だったりして雰囲気がよくなってそのままもしかしてああでもでも相手がタカシならむしろ全然
「みこっちゃーん、帰っておいでー」
「ひうああっ」
「とりあえずそんなになっちゃう程度にはウチの子のこと好きなのねー」
「う……」
迂闊だった。というかなんだ、今のいかがわしい想像は。大体、アイツがそんなに積極的に動くわけないじゃないか……私相手に……
「まあデートとかは置いといて、いつでも遊びに来てね。おばさんは大歓迎だから」
「は、はい、その、機会があれば是非……さようなら」
「またねー」
遊びに、か……正直、その時点でもう随分とハードルが高い。昔は休みの日のたびにお互いの家で遊んだのに……
「はあ……」
いつからこうなったのか。最初はただ、からかわれるのが面白くないから、そう思ってアイツのことを避けだして
いつの頃からか、気弱なアイツが腹立たしくなって、イライラして、嫌いになって
今は、少し前のそういう苛立ちを引きずって、結果、本当に言いたいこと、伝えたいことが何も言えなくて
「……なんで、今日に限って病気なんてしたんだ、馬鹿……」
01101/6
垢版 |
2017/02/19(日) 21:11:36.390
・ツンデレの勘違い〜その3〜

『あれ? かなみんってタカシのこと好きなんでしょ? だから、あたしとの仲を勘違い
したままで誰にも聞けなかったんじゃないの?』
 鋭いところを突かれるが、かといってこんなところで認められるわけがない。何といっ
ても目の前には、当の別府がいるのに。私自身もまだ感情の整理が出来てないのに。
『違うっ!! なんかそういうの聞くのって、その、ゴシップ的な感じでさ。そういう話
題に興味を持ってるみたいに周りに思われるのイヤかなって……』
『普通に聞けばいいだけじゃない? 昇降口で別府と仲良さそうにしてる女の子いたけど、
あれって別府の彼女?って。友香ちゃんならすぐ教えてくれたと思うのに』
 さっきまで赤の他人だった人から、友達の名前がポンと出てきて私は驚いた。
『えっ!? 友香ちゃんが……って、なんで? 知ってるの?』
『うん。同じ中学でクラスも二年間一緒だったし。タカシも同じクラスだったんだけど、
それも聞いてない?』
 そう言われれば、友香ちゃんに仲良くなったばかりの頃に聞いたことがあった。どうし
て男子とそんなに気さくに話せるのかって。そうしたら、別府とは中学も同じクラスだっ
たから話はしやすいんだよねーとか言ってたっけ。
『……聞いてた。けど、私ってやっぱり、その……性格的にそういうの聞くのが苦手だか
らって、それだけで……』
『じゃあ、タカシ本人には? なんとも思ってないんなら聞けると思うけどな。それなら
ゴシップ的な噂振りまいてるわけでもないし。』
 徐々に私は、会話の袋小路に押し込められているような気がしてならなかった。このま
まだと答えを見失ったまま、別府のことが好きだと認めざるを得なくなってしまう。
『だ、だってほら。本人だってそっとしておいて欲しいのかなって…… なんか学校でい
ちゃつくの嫌がってるそぶりだったし、友香ちゃんたちも別府に彼女がいるなんて一言も
言ってなかったから、みんな知らないみたいだし、秘密なのかなって……』
『まあ、実際タカシに彼女いないからねぇ……。だから今のところ、かなみんが第一有力
候補だよ』
 第一有力候補とか言われて、私は思わず動揺してしまう。心臓がドクッとなって、体の
奥が熱くなるのを感じた。
01112/6
垢版 |
2017/02/19(日) 21:12:14.820
『だっ……第一有力候補だなんて、そんなことないし……私より仲良くしゃべる女子なん
て他にいっぱいいるし、みんな可愛いし……』
 あたふたしながら、思いつく限り否定の言葉を並べると、透子はクッと小さく笑って別
府に振り向いた。
『だってさー。確かにあたしの周り、可愛い友達多いのに、何でだろうかねぇ? この甲
斐性無しさん』
「うるせえよ。群れてわいわいやられても、そんな関係になれないっての。大体お前だっ
て彼氏出来たことないじゃんか。スペック無駄にしてる残念キャラのクセに」
 さっきからそばにいるだけで会話に加わることを放棄してた別府が、話を振られてめん
どくさそうに文句を言い返す。その返事に透子はちょっとだけムッとした顔をする。
『うるさいわね。誰が残念美少女よ。まあいっか。顔かたちは褒めてくれてるわけだし』
 自分で美少女とか言っちゃったり、スペック無駄にしてるってのを前向きにとらえるあ
たりも、彼女はかなりポジティブ思考な性格らしい。私とは正反対だ。
『それに、今はあたしじゃなくて、かなみんだってば。で、どうなの? 実際のところは』
『は? ど……どうって……何がどうなの? 実際のところはって言われても……』
 唐突に振られた質問に、私は戸惑った。どうと聞かれてもなにを答えればいいのか分か
らないし。すると透子はうーん、と小難しい顔で私を覗き込むように見た。
『なるほどねぇ。まあ、かなみんみたいな性格だと、そっか。自分で自分の気持ちを理解
したくないってのもあるのかなぁ?』
『は?』
 彼女の言葉が理解せずに首をひねると、透子は急にニコッと笑った。
『つまりね。かなみんは、別府に彼女がいるっていう疑いを誰かに確かめるのか怖くて、
聞けないでいたんじゃないのかなっていう』
『え……ええっ!?』
 驚きを、私は思わず声に出してしまった。心臓がまたも跳ね上がるような鼓動をする。
『だって、誰かに聞いて、そうだよって言われたら、それでタカシに彼女がいることが本
当になっちゃうじゃん。それがイヤだからさ。本当のことを知る前に、フタをして、自分
の傷が浅いうちに縁を断とうとしたんじゃないの?』
01123/6
垢版 |
2017/02/19(日) 21:12:46.070
 彼女の言葉は、まさしく私が見たくない自分の心そのものだった。一つだけ違うのは、
ちゃんと私はそれを理解していたということだ。ただ、だからといって、それを認めるわ
けにいかず、私は動揺を隠し切れないまま慌てて否定に走る。
『ちっ……ちちちちち……ちがっ……違うってば!! なんでそんな……勝手にわかった
ようなこと言って…… 私は別に、別府に彼女がいたって傷ついたりなんて……』
『かなみん、顔真っ赤』
 透子の冷静な指摘に、私の言葉が封じられる。確かに顔は熱いし、胸の動悸も激しい。
これじゃごまかしてるって言ってるようなもので、恥ずかしくて私はより顔に熱を帯びた。
『かなみんって可愛いよね。さっき言い訳してるときは目線があちこち泳いでたにの、今
はまっすぐこっち見てるし。素直じゃないかもしれないけど、正直なんだね』
 透子は笑顔で、ポンと私の頭に手を置いて軽くなでる。私はそれに抵抗が出来なかった。
『あう……』
 なんかもう、恥ずかしくってなにをどうすればいいのか分からない。これを認めちゃえ
ば、私が別府を男子として意識してたって別府本人にもバレちゃうのに、透子の前じゃも
うなにを言ってもごまかしきれない。
『でも、安心して。タカシは彼女いない歴15年8ヶ月の喪男だから。いや。あたしから見
てカッコ良くないわけじゃないし、ここは草食男子って言ってあげるべきか』
「別にどーでもいい。てか、一番の原因はお前だろ。中学の時とかみんな勘違いしてたじゃ
ねーか。中居と付き合ってんじゃないの、とかそれこそ数え切れないくらい言われたぞ。
お前だってそうだろが」
『まあ、確かにあたしがタカシと仲が良すぎるというのが一番の原因というのは否めなく
もないかも』
 うんうんと納得するようにうなずく透子を尻目に、別府が私の方に向き直った。
「だから椎水さ。別にそういう勘違いとか、して当たり前だから恥ずかしがることないっ
て。つか、最初に俺に確認してくれれば、こんな奴に混ぜっ返されたりせずにちゃんと答
えられたのに」
『あーっ!! ヒドい。タカシってば。こんな年下の美少女従兄妹をつかまえてこんな奴
呼ばわりとか』
 横で透子が文句を言うが、別府が全く無視しているので、私としても答えを返さないわ
けには行かなかった。
01134/6
垢版 |
2017/02/19(日) 21:13:37.890
『だっ……だから言ったでしょ。別府からすれば、そういうこと聞かれるのは迷惑かなっ
て思ってたから…… 実際私、全然別府のこと分かってないわけだし……』
『いや。だからその言い訳はさっきもう聞いたし』
 横から透子が、もう飽きたみたいな感じで口を挟む。
『い、言い訳って何よ!! だって本当にそう思ってたし、さっきから勝手なことばかり
言ってるけど――』
 ごまかしきれないって理屈では分かっていても、心は、感情はまだ否定に走ってしまう。
透子もそれがわかっているのか、余裕の笑みだ。
『だってそれなら、あんな風に興奮して問い詰める必要とかなかったと思うけどなー。タ
カシの無神経をとがめるにしてもさ。大丈夫? こんなところで女子と二人で話してたら
彼女に誤解されちゃうよ?って冷静に流せると思うんだけど。普通の友達なら』
 その言葉は的を得ていたし、何よりもさっき別府に対して浴びせた言葉の一つ一つが、
思い返すととってもイタくてたまらない。恥ずかしくて今すぐにでも消え去りたい。
「さすがに、そろそろ勘弁してやれよ。俺と透子が付き合ってるっていうのが椎水の勘違
いだったって理解してもらえればそれでいいだろ。あんまりイジるなっての」
 散々にやり込められる私を見かねたのか、別府が間に入ってくれる。しかしそれは、ター
ゲットが別府に変わるだけのことだった。
『お? やっぱりタカシも男の子だねぇ。気になる女子にはやさしーんだ。あたしにはそ
んなふうにかばってくれたことなんてないのにねー』
「お前は普段イジる側だろが。イジられても自分からネタにするし。椎水とは打たれ耐性
が違いすぎる」
 からかわれてもあくまで冷静に対処する別府は、ちょっとさすがだなと感心してしまう。
気になる女子とか言われても全くムキにならないし。そもそも気にしてもいないんだろうけど。
『で、タカシ的にはどうなのよ? かなみんのこと、好きだったりとかするの?』
 透子的にもムキになるのを期待していたのか、完全スルーに対して今度は直接ブッ込ん
できた。しかしそれに反応したのはむしろ私だった。
『なっ……!? そっ、そんなわけないし!! あるわけないし!! ねねね、ねえ? 別府!?』
01145/6
垢版 |
2017/02/19(日) 21:14:25.410
『……あたしはタカシに聞いたのに。なんでそこでかなみんが割り込んでくるかなぁ……
って、まあわかるけど……』
 透子の半ば呆れた呟きも私には聞こえなかった。それだけ私は動揺し、あせっていたのだ。
「いや。何で椎水がそこで全力で否定すんだよ。俺がどう思ってるかって話なのに」
 むしろ、聞かれた別府の方が冷静にツッコんで来る。しかし、今の私にそんなことおか
しいなんて思う余裕はなかった。
『だっ……だってあれだよ? 美人だし細身なのに胸も腰もほどよく肉付きよくて……
つ、付き合ってなくたって、付き合いたいとか思うでしょ? 男子なら普通!! そんな
女の子と毎日一緒にいれるのに、私なんて好きになるとか、ありえないでしょ!!』
『かなみんも十分可愛いと思うけどなぁ。仕草なんて特に。自分ディスる必要なんてない
と思うけど』
『それは持ってる人だからそういうこと言えるの!! 持たざる人間にはそんな余裕ない
んだから!!』
 透子が自分の意見を誰ともなしに言ったのは、そういって噛み付かれた経験が何度かあ
るからなのだろうか。私が文句を言っても、ただ軽く肩をすくめただけだった。
「っと。あったあった。これだ」
 別府のひとり言に反応して向き直ると、こんな時だというのに別府はスマホをいじっていた。
『何やってんの? アンタ』
 その余裕ぶった態度がムカついて、私は別府を睨みつける。しかし別府は構わずに、ス
マホの画面を私に向ける。
「いや。これ見てみ?」
 差し出されたスマホを受け取り、画面に表示された写真を勧められるがままに確認する。
そこに写っていた制服姿の男子の写真を見て、私は即座に反応を返す。
『なによこれ? 別府の写真? カッコつけてポーズとか決めちゃってるけど、何で今、
こんなものを見せるのよ。意味わかんない』
 返そうとすると、別府が手で押し止めた。
「いやいやいや。パッと見で判断しないで、ちゃんと見てみろって」
 その要求に抗うのもめんどくさくて、私は仕方なく言われたとおりにもう一度写真を見
直す。制服といっても今の高校のではないから、恐らく中学のだろう。よく見れば顔も童
顔で可愛らしく見える。
01156/6
垢版 |
2017/02/19(日) 21:15:16.530
『……これ、いつ撮ったの?』
「中2ん時。文化祭だな」
 ということは約1年半前ということか。私は目線だけ動かして今の別府と比較をする。
なんか写真の別府の方がイケメンに育つ感じがする。
『……よく見ると、ちょっと……違う、かな? もしかして弟さん……?』
 私は首をひねった。兄弟の写真かもしれないが、それを今見せる理由がどこにあるのだ
ろう。ふと、なんかくぐもった笑い声のような音がして顔を上げる。すると透子がなんか
笑いをこらえるように口元を押さえていて、別府もなんだか不自然に私を見ないようにしている。
『ちょっと。二人ともなんで笑って……』
 その時、私の脳に、パッと電流のようにひらめきが走った。
『って、まさか……これって、透子!?』


続きはまた来週で
0118ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/02/25(土) 16:12:19.080
おつんでれ!
01191/3
垢版 |
2017/02/26(日) 00:14:00.730
もうすぐひな祭り、という事で近所のさびれた神社にいる、自称400歳のお稲荷様見習い
という幼女に会いに来た。名前はまつり、というらしい。
神社の境内に入ると、どこぞの子供たちと一緒に着物のケモミミ幼女が
大きな尻尾をゆさゆさ揺らしながら駆け回っていた。
ちなみに、この幼女は俺にしか見えない。他に見えるのはこの神社の関係者くらいで
普通の人には見えないらしい。
だから一見、子供たちと一緒に遊んでる風だが実はそんなことはなく、ただただ寂しい
一人遊びに興じているのである。
そんな俺の憐みの視線に気が付いたのか、こちらにツカツカと歩み寄ってきて
脛を力いっぱい蹴られた。
「痛い!寂しい幼女に蹴られた!」
『誰が寂しいじゃ!あと幼女と呼ぶでない、この戯けが!』
そしてこの罵声も俺にしか聞こえてないので、子供たちが俺を憐みの視線を投げかけ
やばいやつだと言わんばかりに足早に立ち去った。
『むぅー…お主のせいで貴重な信者が逃げてしまったではないか』
「そいつは残念だったな。でも二人きりになれてうれしいだろ?」
『ばっ…そ、そんなわけあるか!』
軽いジョークのつもりが真に受けたのか、反対側の脛も蹴られた。

『それで、今日は何をしに来たんじゃ?』
両腕を組み、警戒心ありありの表情でこちらを睨むの幼女。一方、ふわっふわの尻尾は
歓迎とばかりにフリフリ揺れていて可愛い。
「ひな祭りが近いんで、ひなまつりをと思って」
『はぁ…?お主は何を言ってるんじゃ?』
「雛鳥のように可愛いまつりを愛でる、これすなわち「ひな祭り」」
拳骨で殴られた。しかし、可愛いと言ったのがうれしかったのか、尻尾は先ほどにもまして
ぶんぶんと揺れている。
01202/3
垢版 |
2017/02/26(日) 00:14:20.130
『お主はぁ…常々思っておったが、わしを子供と思っておらんか?』
「とんでもない!自称400歳の魔法少女だろ?」
『お稲荷様!…の見習いじゃが』
後半は力ない感じのつぶやき。
どうもここは参拝客も少なく信心が足りないので、いつまでたっても見習いのまま
立派なお稲荷様になれないらしい。
「元気だそう?お供え物持ってきたからさ」
『むぅ…別に落ち込んどらんし。お主から供物を貰っても嬉しくないし』
「何だ、いらないなら捨てるか」
『ままま、待て!それは勿体ない。食べ物を粗末にしてはいかん』
帰り道に回り込んで、ばっと両手を広げ「通せんぼ」する幼女、もといお稲荷様見習い。
意地でも帰らせないとばかりにじりじりと距離を詰めてくる。
「欲しいの?」
『う…その…』
「ちゃんと言ったらお供えするから」
『ほ、欲しい…です』
「よく言えましたー」
頭をなでなでしてあげると満面の笑みではにかみ、くすぐったそうに肩をすくめ
嬉しそうな上目遣いでこっちを見上げる。
しばらくそのまま頭をなでていると、急に「はっ」とした表情になり、手を振り払った。
『じゃから子供扱いするなと言うたであろうが!』
「はいはい、じゃお供えに行こうね」
『むぅ…』
納得いかない感じの表情を浮かべる幼女とともに社へ。
袋から油揚げを取り出し、台の上へ置き、両手を合わせる。すると、隣にいた幼女が
さっと油揚げをさらい、食べ始めた。
01213/3
垢版 |
2017/02/26(日) 00:14:39.450
『もぐもぐもぐ…んぐっ、うまい!』
「あとはこれも」
『おぉ、甘酒か。お主にしては気が利くのぉ』
待ちきれないとばかりに目をキラキラさせる幼女の目の前にコップを置き、甘酒を注ぐ。
そして、手を合わせると勢いよく取りごくごくと喉を鳴らして飲み干した。
『ぷはぁ!生き返るのぉ』
「神様も生き返るんだ」
『例えじゃ、た・と・え。ほれ、空になったぞ?次を注がんか』
言われるままコップに注ぎ足すとそのまま飲み始めた。お酌はお供えになるのか疑問ではあるが
ひなまつりだし、まつりが喜んでるから良しとしよう。
「さて、せっかくだし願掛けでもしようかな。目の前に神様もいるし」
『ほほぉ、何を願うんじゃ?まぁ、お主のことじゃ、どうせろくでもない願いじゃろ?』
「えーっと、まつりが俺にべた惚れしますように」
『ぶはっー!』
勢いよく甘酒を噴出し、俺の顔と胸のあたりが甘い匂いに染まる。
「食べ物物を粗末にしちゃいけないんだろ?」
『おっ、お主がへ、変な事を願うからじゃろ!』
「あー、べたべたじゃないか。ん…これってまつりの飲み掛けだよな?」
『何じゃ?汚いとでも申すか?ふん、いい気味じゃ』
「いや、これって俺が舐めたら間接キスだよな?」
『かんせ…つ……きっ、キス!?』
甘酒でほんのり赤くなっていた顔がぱーっと朱に染まり、言葉にならない言葉が口から
二言三言こぼれる。尻尾は千切れんばかりにぶんぶんと揺れている。
「勿体ない、顔についたのだけでも舐めるか」
『だっ、ダメじゃ!そんな破廉恥な事、ダメじゃ!』
制止させようと幼女がぴょんぴょんと跳ねるが、顔には届かない。
頬についた水分を指で掬い口にいれると、うすい甘酒の味がした。
「キス…しちゃった」
『ば、ばかぁぁぁぁ!!!』
顔を真っ赤にした幼女が涙目で俺を睨みつける、そんなひな祭りとなったのだった。
0122ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/02/26(日) 10:19:40.870
乙ー
ロリツンデレいいね!
0123ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/02/26(日) 22:20:58.470
幼女お稲荷様まつりんいいね!!
尻尾で嬉しいのが隠し切れないなんてチョロいすなあwww


>>110-115の続き行きます
01241/6
垢版 |
2017/02/26(日) 22:21:34.340
・ツンデレの勘違い〜その4〜

 答えた途端、透子がパッと顔を上げると、嬉しそうに拍手してきた。
『大当たりーっ!! いやー。思ったより早く気付いたわねー』
『えっ!? ウソ? ホントに? マジで? 何で? 透子なのこれ?』
 自分で当てておきながら信じられてなくて、私はスマホの写真の人と透子を見比べた。
よくよく見てみると、パーツ単位では確かに似ている。とはいえ全体の雰囲気は全然違う。
『なになに? 自分で答えておきながら信じてないの? そうよ。正真正銘、あたしです。
よく化けてるでしょ。正直、わかんないかなーとも思ったんだけど』
『いや。二人の様子がなんか変だったから、とっさにそう思っただけで…… 写真だけじゃ、
多分わかんなかったと思う』
 正直に答えると、透子が不満そうに別府を睨みつけた。
『ほらー。アンタが原因じゃん。どうせ、ワザとらしくごまかす様なそぶりしてたんじゃ
ないの? アンタってばホント、腹芸苦手なんだから』
「お前だってごまかすの下手だろが。どうせ笑いが抑えきれてなくて、口元ひくつかせて
たんじゃねーの」
『しつれーね。それが見られないように、ちゃんと隠してたもん。手でこうやって』
「アホか。それじゃ余計変に思われるだろが。隠し事バレるといつも俺のせいにしてたけ
ど、お前の方がよっぽどごまかすの下手だかんな。脳に行く養分全部体に使いやがって」
『うわ。いやらしー。聞いた? かなみん。タカシってばいつもあたしには興味ないよう
なこと言ってるけど、しっかりエロ目線で見てるのよ。あれはむっつりだからね。気をつ
けた方がいいわよ』
「お前が見せ付けてくるんだろうが!! 男の子からの目線は重要だから、ちゃんと見て
感想聞かせろって!! むしろ被害こうむってるのはこっちだっての」
 ポンポンポンポン飛び出してくる二人の会話に、私が割って入る余地はない。小さい頃
から兄妹みたいに過ごしているからだろうけど、でも実際は兄妹じゃないわけだし、この
仲の良さにはやっぱり嫉妬みたいな感情が芽生えてしまう。
『被害とは失礼な。目の保養でしょ? これでもあたし見て下半身いきり立たせてる男子
は結構いるんだからね。その肢体を目の前で見れるんだから、これほどの贅沢はないと思
いなさいよ』
01252/6
垢版 |
2017/02/26(日) 22:22:06.720
「そういうことを道端で口に出すなよ。みっともないな。分かるだろ、椎水。俺が困る理
由。平気で下品な言葉も口にするし、スキンシップも遠慮無しだしさ。ハァ……」
『あれは困った振りして喜んでるのよ。かなみんもやってあげたら。多分あたしとは違う
意味で困ることになるから。体起こせなくなって』
 ニヤニヤといやらしく笑いながら別府を指差す透子に、別府が怒鳴り散らす。
「うるせえよっ!! だから答えに困る振りはすんなっての!!」
 苦りきった別府に対して、透子はいかにも楽しそうだった。うっかりすると、このまま
私まで巻き込まれかねないという危惧が芽生え、私はこっちから話を軌道修正しようと決
めた。実際、すでに片足突っ込まされてるし、今しないと手遅れになる。
『あのさ。話し戻すけど、この写真っていつ撮ったの? 何でこんな男装なんてしたりしたの?』
「ああ。そりゃ、中学の時の文化祭だな。最初、ミスコンやりたいって話が上がったんだ
けど、中学でそれはなしって教師から却下されてさ。で、代わりに男装女子と女装男子の
コンテストやろうって。それなら水着審査とか肌が露出する方向も行かないし、まあいっ
かって、話になって」
 渡りに舟と、別府が素早くこっちの会話に乗ってくる。すかさず透子も食いついてきた。
『あたし、これでグランプリ撮ったのよ。すごいでしょ。ちなみにタカシもやったんだけ
どね。こいつは圏外。意外と肩幅広くてごついのよ。写真、見る?』
『あ、今はいい。別府の前で大笑いしたらかわいそうだし。今度ゆっくりと』
 適当な言い訳つけて断るが、ここで見たりしたらまた流れが透子に持って行かれてしま
う。それを避けるためにも今は話を脇道にそらさないほうが重要だった。
『だってよ。タカシ。かなみんってば、優しいよねー。さっきもタカシが困ってるのを見
越して、話をそらすようにしてたしさ。あれは絶対いい奥さんになるわよ』
「やめろ。肘でつつくな。うっとうしい」
 別府が顔をしかめながら、手で透子の肘を払いのける。一方の私は、反射的に奥さんと
いう言葉に反応して否定するところだったが、すんでのところで理性が勝った。あれはか
らかってるだけだから、まともに反応しても向こうのペースに巻き込まれるだけだ。
01263/6
垢版 |
2017/02/26(日) 22:23:35.890
『と、ところでさ。別府は何で、さっきの写真を私に見せたわけ? 意味が、その……ちょっ
と、わかんないんだけど』
 あえて別府の方だけを向いて聞く。冷静さを気取ってみたが、言葉がたどたどしくなっ
てしまって却って動揺があらわになってしまいみっともなく感じてしまう。しかし別府は
何ともなかったかのように普通に答えを返してくれた。
「ああ。つまりさ。どんなに美人だろうがスタイルが良かろうが、実際俺ら、いとこって
いう割には似てるわけでさ。それを意識すると、どうしても恋人とかさ。そういうふうに
は考えられないんだよな。まあ、やっぱり兄妹っぽいイメージの方が先に来るよな」
『へー。その割には、あたしのことエロい目線でチラチラ見てるくせにねー』
 別府の言葉を、すかさず透子が割り込んで壊しに来る。意地悪なその言葉を、別府が慌
てて打ち消しに走る。
「バッ!? バカヤロー。見てねーだろうがよ!! 適当なこと言ってんな!!」
 だが透子は、今度は私の方に顔を寄せると、ひそひそ話をするように口に手をかざしつ
つ、そのくせ声だけはわざと別府に聞こえる程度の大きさを出す。
『あたしがね。部屋着でタカシの部屋に入るじゃん。そうすると、まず胸元の谷間を見て、
それから今度は太ももを見て、それからワザとらしく背中向けて怒るのよ。ホントは見た
いくせにカッコつけてんの』
『そうなの!? やっぱり別府ってエロいの?』
 パッと振り返って確認すると、別府は両手と首を大きく振って否定する。
「ふざけんなよな!! そもそも透子がノーブラタンクトップにショートパンツなんて格
好で俺の部屋に来るから悪いんだろが。そんな露出の高い格好で目の前に現れたら、本能
的に男は視線をそういうふうに向けるものなんだよ。見たいとか見たくないとかじゃなくて」
『要はそれって開き直りよね。男はみんなスケベだからそうなるのは仕方ない。むしろ見
せる女の方が悪いみたいな』
 ジロッと別府に非難の目を向けると、別府も憮然とした顔で私を見返す。
「だって実際そうだろが。別にこっちが望んで見てるわけじゃなくて、言わば無理矢理見
させられてるようなもんだからな。俺が見なくても、強引に視界に入ってくるし」
『あらら。かなみん、嫉妬しちゃった?』
01274/6
垢版 |
2017/02/26(日) 22:24:29.960
 横から透子にからかわれて、私はカッとなって透子に向き直る。
『違うっ!! 別府が自分が悪いのに自己弁護に走るからイラッとしただけで、別に嫉妬
とかじゃないし!!』
 ムキになる私に、透子はいやらしい笑みで答える。あれは絶対信じてない顔だ。
『いやー。でも、実際見せてるのはあたしなわけだし。ていうか、そういう視線向けられ
るのは全然OKてか、むしろ嬉しいしね』
『う、嬉しいの!?』
 驚いて聞き返すと、透子はこっくりとうなずく。
『まーね。本能的にそこに視線が行くってことは、女子として魅力あるってことかなって。
まあ、他の女子の前でこの話すると、大概タカシが焦って否定するから、そこがまた可愛
いんだけどね』
「チッ…… からかわれてるの分かってるのに、放置出来ない自分が情けないぜ。かといっ
て、ほっときゃほっといたでエロ野郎認定されるし、完全に罠だよ」
 苦々しげに吐き捨てる別府に、横から透子が肘で軽くつつく。
『ゴメンゴメン。あたしはちゃんと信用してるから、安心して。でも、かなみんって面白
いよね。みんな面白がってタカシのことスケベスケベってからかうけどさ。ガチで怒った
のって、かなみんが初めてじゃない?』
 それに私は返す言葉もなくうぐ、とうめき声を漏らす。ムキになったから却ってからか
いの的に自分からなってしまっていると、あらためて気付かされた思いだった。
「根が真面目なんだろ。まあ、真面目すぎて融通が利かないってのはあるだろうけど、そ
れも椎水のいいとこだと思うぜ。俺は」
 思わぬところで別府が助け舟を出してくれたが、私はそれをちょっと嬉しいと思う反面、
苦々しく思う気持ちも強かった。これじゃまた、透子の餌食にされる。
『お? やるじゃんタカシ。そこでかなみんをかばうとか、カッコいいねえ。どお? か
なみん。うちのタカシは――って、聞くまでもないか』
 軽くペロッと舌を出す透子に、私は食って掛かる。
『ちょっと待ちなさいよ。聞くまでもないってなによ!! まるで私が別府を好きなのが
規定事実みたいじゃない!! 撤回してよね!!』
『いや。だって実際そうだし。だからタカシが他の女子に気になる素振りを出すと嫉妬し
てるんでしょ?』
01285/6
垢版 |
2017/02/26(日) 22:25:09.950
『ちちちちち、違うってば!! 私はまだそんな、別府なんて知り合って全然経ってない
わけだし、好きとかだなんて――』
『はいはい。ツンデレツンデレ。かなみんってば、ホント分かりやすくて可愛いんだから』
『違うーっ!!』
 どんなに否定しようが、透子は一向にお構いなしで、むしろすればするほど向こうのペー
スに飲まれてしまっている。もういっそ、透子は無視して別府だけを相手にした方がいい
と私は決めた。
『ちっ……違うんだからね別府!! 透子が勝手に既成事実にしちゃってるだけで、私は
別にそんな……そういうわけじゃないんだから!!』
「分かってるよ。別にそんな、知り合ってまだ二ヶ月とかそんな程度でさ。ちょっと何度
か一緒に帰ったことがあるってくらいで惚れられてるとか勘違いしないし。まあ、そんな
モテるってわけでもないしな」
 笑って同意してくれる別府に、私は却って申し訳なく思ってしまう。そもそも、透子と
従兄妹なだけあって、別府はやっぱりそれなりにカッコいいと思う。それがモテないのは、
間違いなく横に透子がいるせいだ。
『そういうわけじゃないんなら、どういうわけなのかなー? とりあえず否定はするけど、
はっきりと恋愛感情はないって言えないあたりが可愛いのよねー』
 私の言葉を拾って、透子が意味ありげなイヤらしい笑みで私に囁きかけてくる。いい加
減私も遠慮無しに彼女をにらみつけた。
『う、うるさいっ!! 今、私は別府と話してるんだから邪魔しないでよ』
『ふーん。へえ。そお』
 しかし透子は全く意に介する様子もなく、今度は別府の方に視線を向ける。
「じゃ。タカシはどうなのかな? かなみんのことをさ。好きなの?」
『わわわわわーっ!! わーっ!! わーっ!! わぷっ!! むごごごご!!』
 出し抜けにとんでもない質問が飛び出して、私は動揺してそれをさえぎろうと意味不明
の大声を発する。しかし途中で透子が手で私の口をふさぎつつ体ごと抱き締められてしま
う。必死で振りほどこうともがくも、意外にも彼女は力が強く、私はわずかに頭を左右に
振りながらうめくことしか出来なくなってしまった。
『かなみん、邪魔しない。これからいいところなんだから。さあ、ほら。タカシ』
01296/6
垢版 |
2017/02/26(日) 22:25:57.130
 いいところなんかじゃない!! こんな風に告白を迫られたって、別府だって答えづら
いだろう。ましてや強制的に告白を聞かされる私は、ほぼ拷問を受けてるに等しい状態だ。
これで、面白い友達程度の返事だったら、ショック死する。
「……こりゃ、真面目に答えるまで離さないつもりだよな? お前」
『うん。もちろん』
 別府は小さく諦めのため息をつく。透子とは長い付き合いだけに、拒否しても無駄だと
悟っているのだろう。しかし、それは私にとって、地獄の扉が開いたに等しい。
『んーっ!! んん、んん!! んんーっ!!』
 なんとかやめてもらおうともがくけど、声にならない呻きが漏れるだけだ。すでに体も
めちゃくちゃ熱い。特に押さえられてる口元中心に、中からやけどしそうなほどだ。目の
前で別府が、照れくさそうに後ろ頭をかいてから、私を見た。話すぞ、という合図だ。私
は耐えられずに目を閉じ、歯をくいしばる。
「まあ、正直言えば…………」


また続きます。
01341/7
垢版 |
2017/03/05(日) 23:26:22.100
・ツンデレの勘違い〜その5〜

「……まだちょっと、好きかどうかってのは……はっきりと言えねー」
 ズキン、と言葉が心臓に刺さる。やっぱり。そんな上手い話なんてあるわけないし。た
だ、まだ含みのある言い方に私はかろうじてショックを受けずには済んでいた。
『何よー。タカシも濁すつもり?』
 不満そうな透子の声が聞こえるが、別府の答えはない。もしかしたら、身振りで制した
のかもしれない。目を閉じているからわかんないけど。
「まあ、椎水も言ったとおり、まだ二ヶ月程度で、二人きりでしゃべったのも数える程度
だからな。つっても、気にはなってるけど」
『ほお? 気になるって、どの程度?』
 やめて欲しい。掘り下げないでよと心の中で透子に念じつつも、半分は私も別府の答え
が気になって仕方がなかった。怖いのに知りたくて、心がちぎれそうで、本当に拷問され
てる気分だ。
「まあ、家でも色々思い返す程度には……って、感じ。正直、椎水ってさ。今まで俺が知
り合った女子にはいないタイプだから、結構興味深いし。透子の周りにはこういう女子、
いないだろ?」
『そうだね。知ったのは今日だけど、かなり面白いよねー。見た目もだけど、それ以上に
反応が可愛いし』
 いやいやそんなことないし!!って叫びたいけど、まだしっかり口を塞がれているから
一言も否定できない。恥ずかしくってもう熱さのあまり、背中から腰までがじっとりと汗
ばんですらいた。
「そんなわけだからさ。うん。俺としては……もうちょっと二人で会える機会は増やした
いな、とは思ってる。二人っきりじゃなくても、クラスの連中とか一緒でもいいし。とに
かく、その……もうちょっと椎水のことを分かってから、あらためてちゃんと気持ちは伝
えたいなと、まあ、そんな感じ?」
 一気に言い終えると、別府は顔をそらす。恥ずかしいのか、それとも私の反応が怖いの
か、表情からはうかがい知れなかった。
『ハァー…… アンタも煮え切らないわねー。好きなら好きってはっきり言えばいいのに。
そんなんじゃかなみんだってがっかりしちゃうわよ』
01352/7
垢版 |
2017/03/05(日) 23:26:47.770
「うるせえな!! お前がここまで追い込むから仕方なく言ったんだよ!! 俺だってホ
ントは、もうちょっと心の整理がついてから言いたかったさ!!」
 透子の呆れたようなツッコミに、別府が怒鳴り返す。ていうか、私の気持ちを勝手に代
弁しないで欲しい。
『と、いうわけなんだけど、どお? かなみんは』
 ようやく透子が私を解放してくれて、私はプハッと息をついた。口を押さえられていた
からというよりも、緊張の方でほとんど呼吸できていなかったことに今更気付く。
「ど……どおって……言われても……」
 まさか、今度は私が別府をどう思っているのか話せというのだろうか? そんなの絶対
無理に決まってる。ましてや、別府の気持ちを知らされた以上、答えも分かっているというのに。
『んー……そうか。まあ、あんなあいまいな告白じゃあ、女子としちゃ微妙よね』
「う、うるせーな。まだ正直、知らないことが多すぎるんだし、仕方ないだろ。つか、そ
の……もうちょっと、慎重に進めたいし……」
 意味ありげな視線を送る透子に、別府は腐ったような表情で言い訳する。その態度に、
透子が面白そうにクスッと笑った。
『はいはい。気持ちはよく分かったけど、タカシとしては今後どうしたいわけよ? それ
をちゃんとかなみんに伝えないと』
「うっ…………」
 別府が渋い表情をする。どうやら、今この場では言いたくなかったことらしいが、さす
がは幼馴染の従兄妹である。そんなことはどうやらお見通しだったらしい。
「……いや。まあ、その……ちゃんと機会をつかんでから、とは思ったんだけどさ。椎水
さえ良ければ……ふ、二人でどっか遊びに行けたらな……じゃなくて、あ、遊びに行けな
いか? まあ、二人きりな嫌なら、他の連中が一緒でもいいけど……」
 照れくさそうなその申し出に、やや冷めかかっていた体の熱が、また一気に上昇する。
心臓が痛いくらいにギューッとなってクラクラしつつも、私は何とか倒れずに踏みとどまった。
『ごめんね。これ引き出さずにさっきは聞いちゃった。で、どお? うちのタカシは。と
りあえずお友達程度から付き合ってみない? 身内のひいき目抜きにしても、まあまあい
い男だと思うよ? これでもチアリーディング部1年女子では多分人気No.1の透子さんお
墨付きなんだけど』
01363/7
垢版 |
2017/03/05(日) 23:27:14.770
「多分ってなんだよ。多分って。大体普通そんなこと自分で言わないし、そもそもどこか
らそんな根拠持ってきたんだっての」
 胸をそらせて両手を腰に当てる透子に、別府が即座にツッコミを入れる。デートの申し
込みの最中に余裕があるなとかそんなんじゃなくて、多分もう条件反射なんだろう。
『裏で出回ってる写真の売れ行きとか、SNSの書き込みとか色々とねー。新聞部にも仲の良
い子がいるから、そういう情報は回ってくるのよ。それに、自信って大切なんだから』
 全く悪びれる様子もない透子に、別府は呆れてため息をつく。
「そーかいそーかい。そりゃ、良かったな」
『あ。そんな興味なさそうなこと言って。タカシだって周りの男子から言われてるくせに。
嬉しいでしょ? あたしが人気あると』
「お前は見た目と愛想の良さだけは認めてやるけどな。あとが残念だから、正直だまされ
てる奴ら見てるとかわいそうに思えてくるよ」
『あとが残念って何よそれー。すっごい失礼なんだけど』
 またしても始まった二人の漫才に、今度ばかりは私も止める気はなかった。むしろ、こ
のまま続いてくれて、返事がうやむやに出来たらな、なんて期待もしてしまう。私的には、
申し出とかなしにたまたま行き会ったときにお茶して帰る、くらいから始められたほうが
良かったのだ。別府ももしかしたら、そういうのを望んでいたのかもしれないし。
『ま、いいや。それより今はかなみんだっけ』
 残念ながら、透子の方でスパッと打ち切って、私の方に注意を戻してしまった。同時に、
別府も私の方を向く。
「いや。透子はああ言ってるけどさ。別に、今返事くれなくてもいいざ。急に振られて困っ
てるだろうし。まあその……嫌だって決まってるなら、今言ってくれたほうがいいっちゃ
いいけど……」
『い、嫌なんて、そんなことは――』
 自信なげな別府の言葉に、私はうかつにもとっさに反応してしまった。すぐに気付いて
手で口を押さえるが、もう後の祭りだ。せっかく別府が逃げ道を作ってくれたのに、自分
でそれを潰してしまうなんてバカすぎる。透子の方にチラリと目線をやると、めちゃくちゃ
ニヤニヤしてるし。すごく頭に来るけど仕方がない。
01374/7
垢版 |
2017/03/05(日) 23:27:40.390
『…………そ、その……べ、別に今ここで断るほど嫌じゃないっていうか……私だって、
まだそんなに別府のこと知らないし……だからその……もし誘ってくれるのなら、その時
都合が良くて、私が行きたいなって思えるようだったら、付き合ってもいいかなって……
い、言っとくけど、こっちから誘ったりはしないからね!!』
 最初は、と心の中でだけ付け加える。なんかすごく偉そうな物言いで別府がイヤな気分
になったりしないだろうかと心配だったが、彼は安心したように微笑んでくれた。
「分かったよ。ま、エスコートは男の仕事だしな。椎水が興味引きそうなお誘いを考えて、
あらためて申し出るから、その時はよろしくな」
 別府が差し出した手を、私は自然に握って握手した。
『フン。もし興味がわかないようなお誘いだったら、即ダメ出しだからね。しっかりと肝
に銘じておきなさいよ』
「椎水は要求厳しそうだからな。ちゃんと真面目に考えるよ」
 苦笑する別府に、私もようやく心がほどけて、笑顔を返せた。まだ体は熱いけど、今は
ドキドキよりも安堵と嬉しさの方がずっと勝っていた。
『おめでとーっ!! これでかなみんは晴れてタカシの彼女だねー!!』
 いきなり横から透子に勢いよく抱きつかれて、私は思わずよろけて倒れそうになる。
『ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!! 彼女って……まだ付き合うって決めたわけじゃ
ないし!!』
『いやいやいや。二人きりでデートするってことは、お付き合いでしょ。てことは彼女で
しょ。まだ恋人ではないけど!!』
『違うってば!! そんなので彼氏彼女になってたら、世の中もっとカップル率高くなっ
てるし!! てか抱き締めないで。熱いし重いし。てかこっちに体重かけないで。倒れるから』
「お前、そのスキンシップ癖やめろって。誰彼構わずボディータッチするから、勘違いす
る奴続出するんだっての。特に俺が!!」
『ええ〜…… 抱き締めるのは男子じゃタカシだけだし〜……握手とか背中叩いたり頭な
でたりはするけど〜』
 別府の非難に抗議する透子の口調がなんかちょっとおかしい。弱々しいというか張りが
ない。それになんか、体もすごく熱いし、抱き締められてるというより寄りかかられてい
る感じだ。
01385/7
垢版 |
2017/03/05(日) 23:28:45.020
『あれ? ちょっと、どうしたの透子。なんか変だよ』
『うん。何でだろ…… なんか、かなみんが彼女になって安心したら…… 急にクラクラ〜
って……まあ大丈夫だろうけど……』
 しかし、明らかに透子から伝わってくる熱は普通じゃなかった。さっき体押さえられて
た時に感じてた熱も、恥ずかしさより透子だったのかと今更ながらに気付く。
「あつっ!! お前、おでこすごい熱持ってるぞ。絶対具合悪いだろこれ。大丈夫じゃねーよ」
 手の平で透子のおでこを触った別府が、驚きの声を上げる。するとそれに、透子がハッ
と気付いたように返した。
『あ……そういえば、チア部の練習、早退したんだっけ…… なんかフラフラするからっ
て……保健室行って……熱測ったら……確か、38度5分って……』
「待て待て待て。38度5分って、普通にヤバい熱だろ、それ。何でこんなところでヘラヘ
ラ会話に参加してんだよ。とっとと帰らないとマズいだろが」
『いやー。そのつもりだったんだけどさ。何かタカシが噂の女子と修羅場ってるような光
景が見えてさ。これはやはり、従妹としては参加せざるをえない、みたいな』
「アホかー!! てか、アホなのは分かってはいたけど度合い超えてるだろ。そもそも普
段の通学路使うなよ。タクシー使えって。こんな状況なんだから、おばさんだって出して
くれるだろ」
『いやー。そもそも手持ちなくってさ。まあ、駅まで出れば、ほら。あとは電車とバス使
えばいいし、みたいな』
 別府は、ハー……と、大きなため息をついてから、首を大きく左右に振って私の方に向き直る。
「俺がコイツをバカだバカだって言う理由、分かったろ。後先考えないし、根拠もなくポ
ジティブだしさ。小遣いだって配分考えずに使うから、いざって時に財布に金ないし」
『失礼な。500円はあるわよ。多分、10円以下も計算に入れればだけど』
 私にもたれかかって完全に気力を喪失したように見えても、別府に言い返すのは忘れな
いらしい。もっとも、それが何の意味も持たないのが悲しいところだが。
「それじゃタクシー乗れんだろが。仕方ねーな。俺がタクシー呼ぶから待ってろ」
01406/7
垢版 |
2017/03/06(月) 06:10:52.840
 スマホを取り出していじりだした別府のそばで、私は透子の支えになりながら何にも出
来ずに状況を見守るしかなかった。すると、それに気付いた別府が軽く頭を下げる。
「悪い、椎水。透子がバカなばかりに、支え役までやってもらって。タクシー呼んだら変
わるからさ。それまで、もう少し我慢しててくれ」
『……あ、うん……』
 周りを見ても腰掛ける場所一つない。本当は横にしたほうがいいのかもしれないけど、
適当な場所がない以上、こうして私が支えてるしかなかった。
「ホント、ごめん。ここでつかまえるより駅の近く行った方が早いからさ。5分だけ我慢し
ててくれ」
 別府の頼みに、私はうなずいて見送るしかなかった。すぐ耳元で透子が呼吸を繰り返し
ている音が聞こえる。
『あー…… かなみんのほっぺた、冷たくてやわこくて気持ちいー……』
『ちょ、ちょっと!! 顔くっつけないでってば!!』
 こっちからしてみれば、当然熱いわけで、しかし病人相手に荒っぽく振りほどくわけに
も行かず、私は言葉で抵抗しつつも実際はされるがままになっていた。
『まあまあ。いいじゃない。かなみんはタカシの彼女なんだしさあ…… ていうことはも
う、身内も同然じゃない』
『その理屈、最初から最後までまるっきり意味がわからないんだけど。まず、まだ彼女に
なってないし、付き合ったからって身内になるわけでもないし、身内の人間になら熱っぽ
い顔押し付けられていいってわけでもないし』
 そう非難されても、ニャハハ、と笑うだけで一向にやめようとしない透子に、私はため
息をつく以外なすすべもないのだった。
『うーん…… とりあえず、タカシをよろしく……って感じかな?』
『より意味がわかんなくなった。だから、とりあえずちょっと……まあ、その……デート
っぽいことをしてみようかって約束しただけで、なんで結婚するみたいな感じになってん
のよ。おかしいでしょ』
『大丈夫。かなみんはきっと、タカシと上手く行くよ。だから、安心して……もうちょっ
と、素直になってもいいんじゃないかなぁ……』
『何が大丈夫なのよ。大体、別府はともかくとしても、透子は今日始めて知り合ったばか
りだし。お互い、全然知らない同士で、どうしてことが言えるのか全く理解できないんだけど』
01417/7
垢版 |
2017/03/06(月) 06:13:28.120
 ただ一つ、私は理解した。別府の言う、根拠のないポジティブってのは、間違いなく正
解なんだなと。
『さっきのやり取りで、もう十分に分かったし。かなみんはタカシの嫁!!って』
『……ダメだもう。何言っても聞かないし……』
 ハア、ともう一つ、大きくため息をつく。それにしても、黙っていればアイドルみたい
に可愛くて、ついさっきまではライバルに引っかかることすら出来ないと諦めていた対象
だったのに、まさか別府と付き合う縁結びをしてくれるなんて、ちょっと信じられない。
その点では透子の強引さっぷりに感謝しなければならない。
『……かなみんさ……タカシのこと、よろしくね。色々と口うるさいし……頭固いところ
もあるけど……女の子によく気を回すし……ホント、いい奴だから……』
『だからさ。よろしくって言われても……お互い、まだこれからなんだから――』
 否定しようとしたところで、透子が抱き締める力を強くする。同時に、不満気な顔で私を見た。
『わかってるくせに。私と一緒にいるのを見て、あれだけ嫉妬しちゃってるんだから……
もう、気持ちなんて決まってるんでしょ? タカシだってそう。ただ、かなみんの態度を
みて、急ぎ過ぎないようにって気を遣ってるだけで、一回デートすれば、次はまたその次
はってなってくのに』
 その指摘に、反論したくても私は出来なかった。透子の指摘は全く正しくて、恥ずかし
さを隠すために否定したって、何の意味も持たないことを。


続く

>>139
食らいました。なので、次回で終わりかと思ってたけど、二回に分けるかもです。
0142ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/03/11(土) 18:36:00.930
おつんでれ!
01441/6
垢版 |
2017/03/20(月) 23:50:25.590
・ツンデレの勘違い〜その6〜

「悪い。お待たせ、椎水」
 不意に車道の方から声がしたので顔を上げると、タクシーの窓を開けて別府が声を掛け
てきていた。すぐにドアが開き、別府が降りてくる。
「ほら、透子。もう行くぞ」
 私に絡み付いていた手を引きはがすようにほどくと、自分の肩に掛けた。腰に手を回し
て私から離すと、そのまま車へといざなう。
『あの……とりあえず、お大事に』
 タクシーに押し込まれるように乗り込む透子に声を掛けると、手をひらひらと振って答
えてくる。透子を乗せ終えると、別府は意外にもタクシーから離れて私の方に寄って来た。
「あのさ。何か変な展開にしちゃってゴメンな。特にうちのアホが迷惑かけて」
『あ、うん。それは……大丈夫だけど……』
 頭を下げる別府に、慌てて手を振ってしりぞける。私だって勘違いで別府に冷たい態度
を取って嫌な気分にさせたので、お互い様だ。
「落ち着いたらさ。ライングループ作って招待するから。二人だけのじゃないと、連絡取
り合えないし。椎水は、その……流されて承諾したのかもしれないけどさ。とりあえず、
一度さ。ミスドとか、そういうところで軽く話そうぜ。今日のお詫びも兼ねて」
『お詫びだなんてそんな、別府は全然気にしなくていいってば。あ、その……行くのは全
然構わないけど……』
 気を遣ってくれてるのかと思い、とっさに断ってから私はすぐに言葉を付け足す。誘い
自体が嫌だと誤解されるのは冗談じゃない。せっかく上手く行きかけてる仲を自分から壊
すなんてありえないし。
「そっか。じゃ、とりあえず俺は行くから。また明日学校でな」
『うん…… それじゃあ、また明日』
 手を振ると、別府は笑顔でうなずいてタクシーに乗り込んだ。窓越しに、透子が絡んで
いるのが見える。きっと、私と何を話したのか問い詰めているのだろう。風邪でフラフラ
なのに、よくあんなバイタリティがあるなと感心する。
『じゃあね。明日から……よろしく』
01452/6
垢版 |
2017/03/20(月) 23:50:58.570
 聞こえないのに、走り去るタクシーに向かって、私は小さく挨拶をする。そして、一つ
大きなため息をついた。
――信じられない…… まだ(仮)だけど……別府と、付き合えるなんて……
 両手で頬をパン、と叩く。うん。痛い。夢じゃない。自然と顔がニヤつきそうになるの
を、他のことを考えて懸命に抑える。家に着くまでは、我慢だ。そうは言っても、私は別
府とのこれからを想像せずにはいられないのだった。


 翌日。教室のドアを開けた瞬間、友香ちゃんが飛んで来た。
『おはよーかなみん!! てかマジで!? ホントに!?』
『は? いや。マジって何が? てか、かなみんって何?』
 昨日までは普通に名前呼び捨てだった友達に、あだ名で呼ばれて私は戸惑った。こんな
呼び方、昨日透子にそう呼ばれるまでは、誰にもされていなかったはずだ。
『いやいやいや。ごまかしたい気持ちは分かるけどね。もうみんな知ってんのよ。付き合
うんでしょ? 別府と』
『は……はあああああっ!?』
 驚きのあまり大声を上げてしまう。同時に、周りにわっと5、6人の女子が群がってきた。
『聞いたよかなみん。やるじゃん。別府君となんて』
『いやいや。私は分かってたけどね。これまでもいい雰囲気っぽかったし』
『あっちから告ってきたらしいじゃん。どうなの? 男子からさ。付き合ってくれないかっ
て言われるの?』
『別府にさ。どこが好きだって言われたの? 見た目が好みとか? それとも性格?』
『うらやましー。あたしも一度でいいから男子に告白されてみたーい』
 四方八方から質問が飛んできて、どれに対処していいやら分からない。というか、一体
これはどういう事態だ。昨日の今日でなんでクラス中に噂が飛び交っているのだ。
『ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!! 何か誤解もあるし……』
 とりあえず周りを制しようとするが、それは却って質問を煽る結果になってしまう。
『誤解ってなによ。付き合い始めたんでしょ? 今更ごまかすのなしだって』
『もうね。今朝からみんな、その話で持ちきりなんだから。まさか、こんなに早く付き合
いだすなんてねー』
01463/6
垢版 |
2017/03/20(月) 23:51:39.040
『いやいや。あたしはいずれこうなるとは思ってたね。ちょっと前も二人で帰ってるの見
たし。にしても、早かったとは思うけどね』
 てんでに話す女子達を前に、私は羞恥と混乱の最中にいた。何でこんな噂になっている
のだろう? まだ実際にやったのって、昨日ラインのグループ作っただけなのに。
『待って!! 待って待って待って!! そんな、付き合うって……と、とりあえず一回
お茶しようかって誘われただけで……何でそんな噂になってんの!?』
 必死でみんなを制すると、女子達はキョトンと顔を見合わせる。それからニヤニヤした
笑みを浮かべると、一人の子がスマホをいじりだすと、画面を私に向けて差し出してきた。
『え? だって夕べ透子がさ。こんなこと書き込んできたから』
 見せられたのはラインの画面だった。そこには、大喜びのスタンプと共に[やったー!! 
ついにタカシにも彼女出来たよー!!]との書き込みがあった。
『あ……』
 あとはもう、どんな子だとかどっちが告白したのかとか質問と答えの応酬が繰り広げら
れ、昨日の経緯はほぼもうあらかた書きつくされていた。
『ちょっ……っと…… べ、別府は!? 来てる?』
 私が別府の名を出したことでわっと周りが盛り上がる。しかしそんなことに構っていら
れず、私は教室内を見回した。
『別府君ならもう来てるよー。ほら。あそこで質問攻めにあってる』
 教えてくれた子が指差すのと私が見つけるのはほぼ同時だった。男子のみならず、女子
にも周りを取り囲まれ、はやし立てられている。
『ちょっとごめん。別府!!』
 大声で呼びつつ別府の方に近づいていくと、囲んでいたクラスメート達が一斉に私を見る。
『あ。嫁が来た』
 真っ先に反応したのは、友香だった。
『誰が嫁よ!! まだ何にもなってない!!』
 ヒューヒューはやし立てる声に構わず、私は別府の方に真っ直ぐ向かう。みんなが通り
道を空けてくれたので、すんなり私は別府の前に行くことが出来た。
『どういうこと!? なんでこんなんなってんの?』
 問い詰める私に、別府は困る様子もなく軽く肩をすくめる。
01474/6
垢版 |
2017/03/21(火) 01:29:54.720
「想定内だよ。つか、昨日タクシーの中で一応釘は刺したんだけどな。あいつがそんなの
聞くわきゃねーし」
『だって昨日、透子って高熱出してフラフラだったよね? 帰ってすぐ寝たんじゃないの?』
「そう思うか? 昨日のあの様子見ても。自分の体調そっちのけで俺らに構いまくってたっ
てのに」
 そう答えられると確かにそうだ。うんざりする気分で、思わず片手で目を覆う私の背中
を誰かが軽く叩いた。
『良かったじゃん。かなみ。いろいろ誤解とかあったみたいだけどさ。最終的には上手く
行って。あたしもお似合いだと思うよ』
 友香の声に、私はパッと反応して振り向く。
『ちょっと待って!! 誤解があったみたいでって…… みんな、どこまで知ってんの!?』
『え? だってかなみって、別府と透子が恋人同士だって勘違いしてたんでしょ? それ
で嫉妬して避けてたって。確かに、最近なんかかなみが別府によそよそしいねってみんな
噂してたんだけどさ。理由を聞けば、あ〜……って』
「女子同士だけのグループだから俺はどこまで書いたのかなんて知らないけど、多分1か
ら10まで書いた上に、余計な脚色まで加えたと思うぞ」
 私の脳裏には、してやったりの顔でウインクしてくる透子の姿が浮かんだ。いずれはバ
レるにしても、せめてしばらくはこっそりと仲を深めたかったのに。これじゃあ最悪、上
手く行かなかった時なんて大恥だ。
『ちょっと別府!! 透子って何組よ!! 全く、まだ何にも始まってないのに余計なこ
とばっか言って。文句の十や二十も言ってやらないと収まらないわ』
 別府に詰め寄ると、彼は呆れて首を振った。
「今日は休みだって。ただでさえ熱あんのに、大人しく寝もしないで一晩中スマホいじっ
てたから悪化した。あいつのスマホは俺が預かってるし、今頃はおばさんにベッドに縛り
付けられてるんじゃね?」
『ホント、バカよね〜 透子ってば、いっつも後先考えずに行動してさ。大人しくしてた
ほうが絶対治り早いのに、やりたいことばかり優先するから』
01485/6
垢版 |
2017/03/21(火) 01:30:19.830
「あいつ見てると、バカは風邪引かないんじゃなくて、風邪引いてもそれに気付かないだ
けなんじゃないかって思えてくるよ」
 呆れつつ笑う二人を見て、私は友香をうらやましく思った。彼女は別府と中学も一緒だ
から、私の知らない別府も見ているのだ。そんなこと思ってもしょうがないのは分かって
いるけれど、感情というのはどうしようもないものだ。
『安心して、かなみ』
 急に友香が両肩をがしっとつかんできて、私は突然のことに驚きを隠せなかった。
『え? な、なに? 安心してって……』
 戸惑う私に、友香は真剣な眼差しで首を振る。
『透子ってば、面白いからって理由だけで絶対色々ちょっかい出してくるからね。特にか
なみはいじられる体質だし。でも、別府とのデートの時はあたしらが絶対邪魔させないよ
うにするから』
『えー……えーと、その…… いや。ありがたいけど……』
 救いを求めるように別府を見やると、おどけた表情のまま、無言で肩をすくめるだけだった。
『ちょっと!! この状況何とかしてよ!!』
 救いを求めて怒鳴りつけると、周りのクラスメートが待ってましたとばかりにはやし立
てる。恥ずかしくて別府から視線をそらすと、今度は間近に友香の顔があった。彼女は、
安心してとばかりにニッコリ笑う。
『旦那に救いを求めるのは結構だけどさ。あたしのことも信用してよ』
 そう言われると拒絶するわけにも行かず、私は戸惑い気味にうなずく。
『いや、まあ……し……信用はしてるけどさ……その……』
 すると友香は嬉しそうな顔でうなずいた。
『よしよし。だから、別府とのデートの日時はちゃんと連絡するのよ。でないと、透子の
妨害も出来ないからね』
 一瞬うなずきかけた私は、それがどれだけ恥ずかしいことかに思い至って、首を大きく振る。
『それは無理!! 絶対無理!! てか、先行きのデートなんて何にも決まってないし、
私達まだそこまでも行ってないんだから!!』
01496/6
垢版 |
2017/03/21(火) 01:30:57.910
『またまたあ。そこまで奥手にならなくてもいいんだってば!! てか、別府がそこは男
見せないと。かなみは後ろ向きな性格なんだから、ちゃんと引っ張ってあげないと』
「そこで俺に振るなよな!! 言われなくてもある程度は考えてるって。ていうか、今度
はお前らが邪魔しに来るんじゃねーだろな」
『邪魔だなんてとんでもない。大人しく見守るだけだってば。ねー』
 周りからは同意の声と笑い声が響き渡る。どうやら、どう転ぼうが別府との仲が静かに
進展していくことだけはありえないんだなと、私は絶望のため息を漏らすのだった。


終わりです。
0152ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/08(土) 09:09:51.140
アップローダにアクセスするとファイルが破損とかサギっぽいのが出るんだけど何とかならん?
どうしても拾いたいファイルがあるんだけど
0153ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/08(土) 12:09:59.060
ろだはだいぶ前から使えなくなってるんだよなー。管理してた人とも連絡つかないしどうしようもなさそう
0154ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/08(土) 13:30:24.870
>>153
そっかぁ・・・うーん
長編倉庫で未完結の奴の続きが気になってググったら完走してたみたいで
本編とオマケと後日談がロダにアップしてあるって書いてたからぜひ見てみたかったんだけど
0155ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/08(土) 17:59:35.260
ツンデレなお姉ちゃんとお花見行きたい
ショタ俺がはぐれちゃいけないから手繋いでって言ったら

「む、仕方ないから手を繋いでやる」

「はぐれると面倒だからな」

「まったくお前はいつまで経っても、男らしさの欠片もないな」

「私としてはもう少し男らしい方が…ゴニョゴニョ…なっ、なんでもない!///」

とか言うやつ

んで、なんやかんや一悶着あってちょっとした男気の片鱗を見せると
コロッとデレちゃう感じで

俺がまた来年も来たいねーって言ったら
「お前はホントに姉離れが出来ない駄目な奴だな!」
とか言いながら手ギュッと握ってめっちゃ喜んでるみたいな妄想
0157ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/09(日) 03:26:07.060
>>154
どのSSか教えてくれれば、拾えるかもしれん
ほとんどのログは取ってるし


>>155
こんなお姉さんが欲しいです……
0158ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/09(日) 15:24:03.710
>>157
おぉぉ、まじか助かる!となりのてんしってやつなんだけど

これが最終回っぽい
ツンデレにこれって間接キスだよなって言ったら454.75
ttp://jfk.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1226176295/

792にロダの455〜458になんか全部あるって書いてる
全部入ってるのはメインだけでかもだが
0159ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/11(火) 17:45:12.230
ツン姉ちゃんいいな,,,
あとツンデレ&デレデレとかあったよねー
懐かしい,,,
0160157
垢版 |
2017/04/14(金) 02:49:39.720
>>158
ログ漁ってみたが、18が見つからず、22も規制中とかで線路に上げたのだけだったので拾えませんでした
そつぎょうしき前の最後の回も25までしか拾えずで、歯抜けじゃ意味ないかなと

期待に沿えず、申し訳ない
0161ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/14(金) 06:35:13.280
>>160
探してくれてありがとう!
さすがに7〜8年前のだし、難しいよね
読めなかったところは妄想して楽しむよ
0162ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/18(火) 22:24:19.510
無いと言われるとどうしても欲しくなるよね!
古いPCからデータをサルベージしてきた
あと需要がないだろうが黒歴史をまとめて大放出だ!

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1221928.zip.html

お探しのファイルは長編物に入ってるよ!
0167ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/04/22(土) 21:34:44.970
おお!!ありがとう!
これはいいw
01701/4
垢版 |
2017/04/30(日) 12:14:21.440
・ツンデレの目の前で他の女子の髪型を褒めたら〜その1〜

『おっはようございまーす』
 部室にハイトーンの元気良い声が響き、中にいた僕らは一斉に顔を上げた。視線の先に
はショートカットでやや色の黒い活発そうな女の子と、その後ろにコントラストのように
色の白い大人しめなイメージの女の子が立っていた。
「よお、千種ちゃん。静内も」
『あれ? 結構揃ってますね?』
 千種ちゃんが首をかしげるのも無理はない。今日は部活動の日ではないので本来は部室
に寄る必要はないからだ。今部室にいるのは、真っ先に返事をした部長の朝比奈さんと同
じ3年の広上さん、野上さん。それにさっきまで僕と一緒に授業を受けて一緒に部室に寄っ
た脇谷君と調ちゃんだ。
「ああ。俺ら、ちょっと打ち合わせがあってさ。俺と野上はどっちみちゼミもあるし」
『そなんですか。あたしら、学校来たら休講の張り紙が出とったもんで、瞳美ちゃんと学
食でお茶しとったんですけど、間が持たんくなったもんで、部室でゆっくりしよかって』
『ほお? 一年もようやく部室が落ち着ける場所になってきたか。馴染んできた証拠だねえ』
 野上さんが笑顔でうんうんとうなずく。
『アハハ。最初のうちは入るのも遠慮しいしいだったんですけど、最近はちょっと学校の
中にこういう場所があるとええなあていうのは分かってきました』
 彼女の言葉に同意するように静内も微笑んで、それから僕の方を見てほんの軽く、頭を
下げた。僕らは高校の時も部室によく集まっていたから、同意を求めるようなそんな意味
合いなのだろう。その時僕は、わずかに揺れた彼女の髪が肩先で綺麗に切り揃えられてい
ることに気が付いた。
「あれ? 静内、もしかして髪切った?」
 僕の問いに、彼女は少し笑ってうなずいた。以前は確か、肩甲骨を覆うくらいまでは伸
ばしていたはずだ。ちなみに、以前さん付けで呼んでいた彼女の苗字を呼び捨てにするよ
うにしたのは、後輩にさん付けはおかしいだろうという、周囲からの指摘によるものである。
『おー。別府君、気付くの早いじゃん。さっすがぁ』
 広上さんが揶揄してくるので、僕は抗議の視線を送る。
「何がさすがなんですか。意味分かりません」
01712/4
垢版 |
2017/04/30(日) 12:14:42.410
「いやぁ。静内のことになると早いなあって、そういうことですよね。莉緒先輩」
 隣にいた脇谷君が早速乗っかってくる。広上さんは彼の方を向いてうんうんとうなずく
と、わざとらしく意味深な顔をした。
『いーじゃんいーじゃん。いいと思うよ? 気になる女子の気を引こうと思ったらね。髪
形変えたとか、そういうところに敏感に気づいてあげるのはポイント高いよね?』
『ま、そこでくだらない指摘したら台無しだけどね』
 野上さんが冷静に口を挟みつつ、一瞬だけ視線を朝比奈さんに走らせたのを僕は見逃さ
なかった。どうやら、過去になにかあったらしい。
「いや。スッキリしていいと思うけど。静内のイメージにも合ってるし」
『ありがとう、ございます。そう言っていただければ、嬉しいです』
 控えめにお礼を言って、彼女は小さくうつむいた。それを聞いて脇谷君がさらにからかっ
てくる。
「さっすが。モテ男は違うよな。全く、世の中結局草食系かよ」
『ひがまないひがまない。そんな暇あったら、ワッキーも別府君を見習って女の子の扱い
方勉強しなよ。そうすりゃ、少しはモテるかもしれないし』
 ポムポムと頭を叩いてたしなめる調ちゃんに、脇谷君がブスッとした顔つきをする。
「そりゃそうだろうけどよ…… つか、現状、俺全くモテてないってことかよ? そりゃ
ヒドくねえ? ちょっと」
『あら? じゃあ現状、少しはモテてるとでも? 現実を客観的に見て、自分でそう言え
るのかな?』
「グフッ…… いや、その……だな。俺の前ではおくびにも出さないかもしれないけど、
もしかしたら俺のこともいいかなーとか思ってる女子がいたっていいんじゃねっていう話
で……」
『そんな可能性の話じゃ、ねえ…… 少なくともあたしは知らない、しー』
「お前、結構物言いキツいよな。なあ、別府」
 同期同士の遠慮のない会話に、僕は苦笑してみせる。
「調ちゃんはサバサバしてるから。まあ、ほら。椎水さんの毒舌に比べれば全然大したこ
とないと思うよ。いつも食らってる僕からすれば」
 つい、先輩のことを持ち出して比較対象で調ちゃんをフォローする。しかし、得てして
こういう時は話題の対象が来たりするものだ。
01723/4
垢版 |
2017/04/30(日) 12:15:03.060
『何よ? 誰の毒舌がヒドいって?』
 背中から、トゲのある声が僕の耳に飛び込んできた。
『あ、かなみさん。おはようございまーす』
『椎水さん。どうも、おはようございます』
『あ。おはよ。先輩方もおはようございまーす』
「よお、椎水。お前はどうした? 授業で来たけど、めんどくさくなってバックれたとか?」
『朝比奈さん!! あたしのことどう見てるんですかっ!! あたしはそんなダメ人間じゃ
ありません。3限は空き時間だから、ちょっと時間つぶしに来ただけです』
『あたしと同じだもんね。ていうか、ドイツ語の課題やって来たの? それともあたしの
ノート当てにしてた?』
『ちょっと。今、それ言わなくたっていいじゃないのよ!!』
 慌てる先輩に、周囲が笑う。すると先輩は、それをごまかすように僕の方に向き直って
睨みつけた。
『で、そうよ。別府君。さっきのは一体、どういう意味なのかしら? あたしの口が悪いっ
て、そう言いたいわけ?』
 高圧的な態度だが、まわりはほとんど慣れているから空気が緊張することはない。むし
ろ痴話げんかとはやし立てるくらいだ。
「比較としての話だって。脇谷君が調ちゃんの物言いに遠慮ないって言って同意を求めら
れたから、それなら椎水さんの方が厳しいよってそういう話。自分だってその程度の自覚
くらい、あるでしょ?」
 先輩はムッとした様子はそのままながらも、一瞬口をつぐんだ。ここで即座にそれを否
定しても、周囲の同意を得られないだけの自覚はあったようだ。
『確かに、口調が厳しいのは認めるわよ。だけど、基本的には言わせるアンタに問題があ
るんだからね。いちいちいちいち正論ついてムカつく言葉並べ立てるから、文句の一つも
言いたくなるのよ』
「まあねぇ。別府が理屈っぽいってのは確かだけど」
 脇谷君の控えめな同意に、先輩はパッと顔をほころばせて彼の方に向き直った。
『さすがワッキー。分かってくれるよね? そもそも別府君の方が遠慮ないのよ。さらっ
と、一番人が聞きたくないような言葉を口に出してくるんだから。そりゃこっちだって文
句の10や20も言いたくなるわよ』
01734/4
垢版 |
2017/04/30(日) 12:15:43.360
『でもさー。かなみのそれって、許されてるラインが分かってて言ってる感がするんだよ
ねー。別府君ならここまでは怒らない、みたいな。何かむしろ以心伝心って感じで』
 また調ちゃんが余計なことを挟んでくる。何もわざわざそこで先輩をいじり倒さなくて
もいいのにとちょっと苦々しく思うと、先輩は予想通りの反応を返した。
『何で以心伝心なのよ。こんな奴と気持ちが繋がってるわけないでしょ!! 気持ち悪い
こと言わないでって、いつも言ってるじゃない!!』
『でもさぁ。いずれにせよ、別府君が優しいから怒らないって分かってるからそこまで好
き放題言えるんだよね。甘えちゃってるんじゃないのかなぁ? それって。どお?』
 今度は広上さんがツッコんでくる。こうなるともう、どうしようもない。
『甘えてませんでば!! 何でそういう風に見えるんです。単純に不快なだけですから』
『どうかなあ? 実際、本当に嫌いだったらそこまでは言わないと思うよ。私なら白い目
で見るだけで、スルーするし。むしろ絡みたくない、みたいな』
 野上さんの意見に、調ちゃんが嬉しそうにうなずく。
『ほら。やっぱそうだ。構って欲しいからあえてキツいこと言って、会話しようとしてん
でしょ。やらしいな、もう』
『な、何バカなこと言ってんのよ調。そんなわけ、あり得ないでしょ。変なことばかり言
うと、縁切るわよ』
『ほう。では、ドイツ語のノートはいらないと』
『ふぐっ!! 今それ言うなんて卑怯すぎる』
 弱点を突かれてうめく先輩に周囲が笑う。そんな中、一人真顔でやり取りを見ていた朝
比奈さんがボソリと言った。
「椎水。あのな」
『はい? 何ですかもう。これ以上別府君ネタはいりませんから』
 うんざりした様子の先輩をジッと見据えつつ、朝比奈さんは表情も変えずに続けた。
「いや。お前がどう自分のことを思ってるかは知らんけどさ。はたから見れば、100パー、
ボケだから。それ、自覚しといたほうがいいと思うぞ」


中途半端ですが続きます
0175>>155
垢版 |
2017/05/02(火) 11:37:19.240
「はひ、はひ、はひ……!」
『ほれほれどうした! 良い若いもんが!』
 まつりさん家の裏山。汗はだくだく、ほうほうの体で歩き続ける俺の遥か前方から、まつりさんの叱咤する声が届く。
 突然、花見に行くと言い出したまつりさん。何の用意もせずに家を出た後を追えば、俺はこの体たらくを晒すことになってしまった。
「い、いやだって、こんな、急坂……! はぁ、はぁ……! 舗装もされてないし……! 」
『関係ない! 普段から体を動かしておればこの程度、すいすい〜のすいじゃぞ?』
 そう言って、和装で文字通りすいすいと俺の所まで駆け下りてくる。彼女、普段から体を動かしている様子は無い。天狗か?
「そうかもしれませんけど……とにかく今は、もう足腰が……」
 それほど高い山ではないが、それでも2〜30分も休み無しで歩きづめだ。貧弱な現代日本人の代表である俺には限界が見えてきた。
『全く貧弱じゃな』
「返す言葉もございません……」
 全身汗みずく、顎を突き出し歩を進める。春なのに、汗だくですね。
『……む。』
「……はい」
『仕方ないから手を繋いでやる』
 ニンマリと笑ってこちらに手を差し出すまつりさん。完全に子供扱いである。
『大分登ってきたからの、はぐれると面倒じゃからな』
「く、悔しい……!」
 と、言いつつも俺はその手を握り返し、引っ張られるように山道を登って行く。
『全くお主はいつまで経っても、男らしさの欠片もないのう?』
『儂としては、もうちょいとでも男らしい方が好みなんじゃがな〜?』
 ニヤニヤとこちらを振り仰ぎながらの台詞。小柄な体にぐいぐいと引っ張られては、立つ瀬がない。
 精神的にも肉体的にも返す言葉がないまま、顔獣道のような斜面を顔も上がらず手をひかれながら登り続ける。
 ペースの変わらない歩みに、この人本当に天狗か鬼なのでは? と何度も思ってしまう。
『ほれ、着いたぞ』
 息も絶え絶えの中聞こえた声に、俺はやっと顔を上げ……息を呑んだ。
 満開の桜の巨木。
 白に近い薄紅色は、まさにまつりさんを思わせるような無垢さで二人を出迎えてくれた。
『……酒も食い物も、いらんじゃろ?』
 舞い散る桜の下、両の手で花びらを受け止めながら言う。
 来年も、再来年も、その後も。彼女に惹かれて、俺はここに来る。
0176ほんわか名無しさん
垢版 |
2017/05/10(水) 23:09:43.970
今日はメイドの日らしいです

おっぱいと腋を堪能させてくださいメイドさん!
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