【とうとう】奈良音ゲー事情part.10【二桁】
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メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
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もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
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しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
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「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
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でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
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年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
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6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
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明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
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でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
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年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
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6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
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「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
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しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
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ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
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もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
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目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
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しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
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明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
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しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
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6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
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「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
こb黷ワたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
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松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
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しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
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「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
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年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
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松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
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もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
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つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 メジャーリーグの表現を借りるなら、4月19日の松坂大輔の敗戦は「タフ・ロス」ということになる。
直訳すれば不運な負け。
日本のファンにもすっかり定着したクオリティ・スタート(QS)、つまり6イニング以上、
自責点3以内という好投が報われず、打線に見殺しにされた敗戦を意味する。
もちろん反対語もあり、QSの条件を満たさずに勝利投手となることは「チープ・ウィン」と呼ばれる。
移籍後2試合目の阪神戦(ナゴヤドーム)での松坂は、7イニングを2失点で自責点1。
これまたMLBでの指標ではハイクオリティ・スタート(7イニング以上、自責点2以下)となる。
もっとも、ここに松坂の満足感はない。
「自分のミスからだから、悔しさしかない」と振り返ったように、自責点にならなかった1点は、
不運ではなく松坂自身の失策がからんでいるからだ。
4回、先頭の西岡の平凡なゴロを捕り損ね、グラブトスしたが間に合わなかった。
MLB挑戦前の西武での8年間で、実に7度のゴールデングラブ賞に輝いたフィールディングの名手。
しかも、最終スコアは1−2。
つまり、この1点が結果的には決勝点となったのだから、松坂本人はとても「タフ・ロス」とは思えないだろう。
もちろん、収穫が大いにあった敗戦だったのも間違いない。
最大のプラス材料は123球を投げきり、翌日以降も右肩に異変が起こっていないということだろう。
6回を終わったところで101球。試合前でのメドは100〜110球だから、交代してもおかしくないところだ。
そんなプラス1イニング、22球に至った経緯には、ちょっとした裏話がある。
明かしたのは朝倉健太投手コーチだ。
「6回を投げ終え、ベンチに帰ってきた松坂さんに近づこうとしたんです。ところが、僕と目を合わそうとしない。
こちらとしては(故障後は)投げていない領域だったので、確かめる必要がある。
でも、行けるというのなら止める必要はありません。
こちらを見ようとしないということで、思いは伝わりました。
だから『行けますか?』ではなく『行きますね』と声をかけたんです」
年齢は松坂が1歳上。野球界のルールとして、こういうケースは互いに敬語を使う。
松坂は「朝倉コーチ」と呼び、朝倉コーチは「松坂さん」と呼ぶ。
近寄ってきた年下の上司(コーチ)が聞きたいことはすぐわかる。
目をそらすのが松坂の無言の答えだった。
年上の部下(選手)の言いたいこともすぐわかる。
朝倉コーチは瞬時に忖度し、質問から確認へと言葉を変えた。
望んで「行く」と決めた以上、打たれることは許されない。
しかし1死から福留孝介に右前打を浴び、糸原健斗にはストレートの四球を与えてしまう。
セットポジションになると制球が乱れる課題は、この試合でも見られた。
大山悠輔にもカウントを悪くしたが、何とか中飛に打ち取った直後、松坂は下半身に異変を起こしたかのような仕草をした。
ベンチから朝倉コーチとトレーナーがマウンドへ駆け寄ろうとベンチを飛び出したほどだが、両手を挙げて制した。
降板後の説明によると「足がつったような感覚になったが、投げられるんでそのままいった」。
あと1人。この回だけは投げ切らせてやりたい。
誰もがそう思ったとき、ナゴヤドームに「奇跡」が起こった。
2万6904人。もちろん阪神ファンもいるのだが、黄色のはっぴを着ている彼らさえ、松坂を応援しているように聞こえた。
自然発生の拍手と歓声。「がんばれ」「負けるな」。中日のベテランが「ああいう声援は聞いたことがなかったですよね」と目を丸くしていた。
松坂の背中が、観客の心に化学変化をもたらしたのだ。
しかし梅野隆太郎に初球を中前に運ばれて2死満塁。ここで阪神は一気に試合を決めるべく、好投の小野泰己に代えて、上本博紀を送ってきた。
見逃し、ボール、ボール。「松坂が押し出しする姿だけは見たくない」という思いもあったのかもしれない。再びスタンド全体の力と声が結集した。
応援されている松坂が「最初は何でそうなったのかわからなかった」と言う一体感。人の心を引きつける人間には、計算や何かをしてもらおうという欲求がない。
声援を背に投じた137キロでファウルを打たせ、平行カウントに戻した5球目。外角に逃げていく134キロのカットボールを、上本に振らせた。
「球数はシーズンに入ってから、試合の中で増やせればと思っていたんですが、いっぱい、いっぱいという感じではなかったんですよね」
ちなみに7回終了後は森繁和監督が直接、松坂に歩み寄り降板を告げている。了解しつつも余力を感じていたという松坂。
「タフ・ロス」という言葉には周囲からの同情だったり、不運を嘆くニュアンスが込められていると思うが、松坂にとっては悔しさと手応えをつかみとれる有意義な敗北だった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています