陽大の目的が花乃の笑顔とするのは、この連載期間、仕掛けを考えると解釈が浅い。
勿論、陽大の気持ちに愛する人、唯一の家族を笑顔にしたいというのはあるでしょう。
でも、笑顔になれていないのは陽大の方である。
火事によって、陽大、陽向、雛、花乃の運命は大きく拗れてしまった。
読み終えると、実際に拗れているのは陽大ひとりであり、世捨て人陽大を俗世に戻す雛の一大プロジェクトとわかる。
物語の中では、陽大は生徒会長で皆に慕われる人格者。しかし実は良い子の振りをしているからである。
勿論、振りだけで慣れるものではないので、基本的に頭もよく、いい人で同年代と比べると遥かに人間が出来ている。
しかし、真の人格者は雛であり(この事は駅5にもある)、全てを俯瞰して全体が見えているのは雛だけ(雛の父もそうかもしれない)である。
陽向と両親が事件で亡くなったのだから、単純に考えれば雛と陽向の縁組はなくなり、陽大は花染神社で修行して大和舞を継ぎ雛が花染を継ぐという図式が考えられる。
ただ、花染神社の氏子が陽大を跡継ぎと思っているという問題はある。
事件で肉親を失ったこと、自分の行動が兄を死に追いやったのではないか、絶望した気持ちのまま兄を死なせた後悔。
拗れてしまった陽大の心をもとに戻すのは単純にはいかない。
全てが雛が陽大の心を取り戻すために(胸に刺さった氷を溶かすために)考えた仕掛けであり、そうすることが雛の罪滅ぼしであり、自分もあの事件からの呪縛から解き放たれることになる。
そう考えると全てが符に落ちる。
雛は放火は不幸な事件ではあったけれど、そのことで現在生きている人たちが幸せになれないのは辛いし亡くなった人も浮かばれないと考えていたのではないかな。
文字にすると物凄く雛のご都合主義的に聞こえてしまうけれど。
だから、放火犯の扱いも物語の中での扱いは小さい。
陽大は、楼良を通じて雛のメッセージを受け取り、花乃の登場で凍った心が少しづつ溶解し、雛の真意を知る。
放火犯も捕まり、俗世に戻っても許されると思ったのではないか。
三人立ちは、やはりそのための儀式。