「花に染む」は最後まで読むと全てが分かるという仕掛けが凄い。
最後まで読めば結末は誰も間違えようがない。
ベースにあるのが西行の「花に染む 心のいかで 残りけん 捨て果ててきと 
思ふわが身に」
意味:この俗世間をすっかり捨て切ってしまったと思う我が身に、どうして桜の花に執着する心が残っていたことであろうか。

桜の花は花乃であり、俗世は大和舞。
両親や兄が亡くなったことで全てを捨てて花染めの宮司になることを選んだ。
でも、花乃や大和舞が忘れられないという意味。
だから、陽大の好きなのは最初から最後まで花乃である。
謎なのは雛であったが、雛は王子様の心に刺さった氷の欠片を取り除いて楽にしてあげたかったのだとわかる。
氷を取り除くための雛のし掛けが三位一体を再現し、陽向を追悼するというものだった。
どう抗っても雛の思い通りにことが運んでいくとは本当にその通り。
氷の欠片が刺さっているうちは、「陽大は雛と結婚して花染めを継ぐ(それが雛の望み)」と勘違いしているが、徐々に解凍していき雛の真意を知り協力し始める。
そっけなかった楼蘭を部屋に招くのも陽向の追悼のため。
勘のいい楼蘭は途中で気がついて協力することを選ぶ。
花乃にキスしないのは、花乃は自分の気持に気がつくのを待っているから。
抱擁は、あの時点で陽大が示すこの上もない愛情表現であるということ。
楼蘭へのキスは、わかった上で協力してくれる楼蘭への最大限の感謝とお礼と敬意であり、ヒロインはあくまでも花乃である。
くらもちさんが楼蘭のキャラを好きになり、どちらのヒロインもという言い方をするから読者が混乱するが、ヒロインは1人だけである。

子どもだった陽大は、兄の陽向が大好き。
兄の好きな伯母や雛も当然大好きな兄の好きなものだから好きになる。
神社が燃えるまでは、花乃への気持ちにははっきりと気がついておらず、自分も雛を好きと錯覚していたかもしれない。
兄の記憶と自分の記憶が入れ替わっていたという下りはやや強引。
もうちょっと説得力がある描き方が欲しかった。
だが、子どもの頃のこういう記憶違いは往々にしてあるので納得は出来る。