谷崎潤一郎17歳の作文

「爛漫たる桜花、美ならんと欲して多く狂風の散らす 所となり、皎々たる秋月、明ならんと欲して時に痴雲 の妬を免れず、柳腰花顔の佳人は去つて墓下に一片の 白骨を留め、一世の賢士は空しく世に知られずして、蓬蒿の下に老ゆ、
此に於てか、潮州の風雲、徒に志士 の跡を弔ひ、太宰府の明月、空しく忠臣の腸を断つ。 或は首陽に餓死せしめ、或は泪羅に投ぜしむ。まこと や此の世は無常なりけり、乃ち円位桃青をして瓢然と して濁世を遠離せしめし所以にあらずや。
鴨長明歌う て曰く『何処より人は来にけん真葛原秋風ぞ吹く道よ りぞ来し』」