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ベーシックインカムの導入は世界的な潮流になりつつある

 このようにBIの考え方自体はかなり古くからあるが、いまだに主要国で本格的に導入されたことはない。
だからといって、夢物語というわけではなく、ここ数年欧米を中心に実現に向けての動きが巻き起こっている。

 最も早くBIの導入が実現しそうなのは、フィンランドである。政府(中央党などからなる連立政権)がBIを導入しようとしているからだ。
現在、抽選で選ばれた失業者2000人に対して月6万8千円を給付する実験を行っている段階である。

 オランダではユトレヒトなどの幾つかの都市でBIの試験的な導入が図られており、アメリカではシリコンバレーのベンチャーキャピタルYコンビネータが、大規模な実験を行っている。

 その他、カナダやインド、イタリア、ケニア、ウガンダなど世界各国でBIに関する実験が行われてきた。ただ、私はもう対象者を限定した実験は必要ないと考えている。
既に多くの実験で、受給者の労働意欲がほとんど損なわれず、メンタルヘルスが改善し、子供の学業成績が向上し、DVが減少するといった望ましい結果が示されているからである。

 BIには個々人に対するミクロ的な影響ばかりでなく、GDPやインフレ率などの国の経済全体に対するマクロ的な影響もある。
そのため、これからは国民全員に少額ずつ給付するところから始めるような試験的導入を図るべきだろう。

 スイスでは、2016年6月にBI導入の是非を問う国民投票が行われたが、否決された。特に、政界や財界からは経済が崩壊してしまうのではないかという懸念が表明された。
この時提案されたのは月額28万円弱の給付であり、この額は多過ぎるのでBI賛成派の私でも反対に回っただろう。もっと少ない給付額から始めるべきである。

 ただし、スイスのBIIに関するこの法案の背景には、人工知能(AI)の発達によって雇用が奪われるのではないかという危機感があって、その点は興味深い。
それ以降、AI時代にBIが欠かせないと主張することは一種の流行になっている。