AI時代にこそ「ベーシックインカム」の実現を
汎用AIの普及が人間の仕事を奪い、包括的な社会保障制度が必要になる
井上智洋 駒澤大学経済学部准教授
http://webronza.asahi.com/business/articles/2018011700007.html

ベーシックインカムとは何か?

 ベーシックインカム(BI)は、政府が国民全員に対して生活に必要な最低限のお金を給付する制度である。私はこれをよく「児童手当+大人手当、すなわちみんな手当」と言い表している。

 例えば、月7万円といったお金を老若男女を問わず給付する。個々人に対して給付するので3人家族ならば合計21万円、4人家族ならば合計28万円の所得がBIによって得られることになる。

ベーシックインカムの起源と負の所得税

 誰がBIを最初に考案したのだろうか? 起源をたどると、16世紀のトマス・モア、18世紀のトマス・ペインとトマス・スペンスという3人のトマスに行きつく。
3人はいずれもイギリスの思想家であり、ファーストネームがトマスであるのは全くの偶然に過ぎない。いずれにしても、16〜18世紀における彼らの提案がそのまま今日のBI論に繋がっているわけではない。

 BIの現代的な起源は、カナダの思想家であるクリフォード・ヒュー・ダグラスのいう「国民配当」(公的な収益の分配)やアメリカの経済学者でノーベル賞受賞者のミルトン・フリードマンが1962年の著作『資本主義と自由』で提唱した「負の所得税」にある。

 「負の所得税」は、低所得者がマイナスの徴税つまり給付が受けられる制度である。
全員が給付を受けるわけではないので、BIとは違う制度であると勘違いされることが多いが、BIと負の所得税は本質的に同じ効果を持つ。

 コストが掛かりすぎるとか、金持ちにもばらまくのは無駄ではないかといったBIに対するいわれなき批判の多くは、この同質性を理解することで消滅するだろう。その点については後で詳しく論じる。

 なお、フリードマンの負の所得税は個人ではなく世帯が対象となるが、その点はさして重要ではない。
個人ベースの負の所得税も考えられる。その場合、ほとんどの子供は所得がゼロなので税金を払わず給付のみを受けることになる。