>>410 続き

 昨年、東京オリンピックの選手村で発生した「走行中の車両に歩行者が自ら進行して
接触」という事故状況も想定できなかったから発生したということです。自動運転時の
事故をなくそうとしたら、2億3700万kmに1回発生する死亡事故のデータを数多く集めて
解析し、対応しなければならない。これについて飯島さんは、「膨大なデータが必要に
なります。そう簡単に対応できません」。

 一般的にこういった複雑な事故に対応できるのはAIだと説明されているものの、当然
ながら長年開発をすすめてきた飯島さん曰く、「皆さんが考えているほど簡単なものでは
ありません」。AIの研究をしているというのはウソじゃないと思うが、それをクルマに
搭載して実用化する難しさは別次元らしい。飯島さんに自動運転についての話を聞くと、
いつも目からウロコが何枚も落ちる。

■リアルワールドでの100%安全のために必要な要件とは?

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今回の技術のねらいについて国沢氏(写真左)に熱くレクチャーしてくれた日産自動車株式会社
電子技術・システム技術開発本部AD&ADAS先行技術開発部戦略企画グループ部長の飯島徹也氏

 話を変えます。今回の発表会で飯島さんが見せてくれたのは、複雑な事故パターンで
車両を緊急回避させるという技術。考えて欲しい。今までたくさんの安全技術を見てき
たけれど、基本的には「危険を感知してブレーキをかけて止まる」という内容。ボルボ
など回避操作(路地から出てきた車両を避ける)を取り入れているメーカーもあるけれど、
避けた途端に子供が飛び出したら厳しい。

 もっと言えば、現在の技術レベルだと斜め前方から飛び込んでくるタイヤや、前方に
落ちている障害物(例えば木片など)を避けることだってできない。こういったことを
ひとつずつクリアしていかないと自動運転は無理ということになります。「レベル3を
前提とするのでなく、安全性を高めるため少しずつ進化させていくことが重要」だと飯島
さんは言う。そのとおりかもしれない。

 今回のデモは複雑な事故パターンの回避能力を見せてくれた。文頭で紹介した「タイヤ
転がり」と「路地から出てきたクルマを避けたら子供が出てきた」というパターン。
どちらも最初の回避操作でひと安心したところに次の危機がやってくるのだけれど、
しっかり停止して事故を回避した。こういった危機が次々と出てきても対応できるという。
助手席に座っていると手品を見ているようだ。

 以前から私が書いているとおり、手品は「自分でもできるよ」と感じられたら意味なし。
まったくわからないうちに事象が進行していることをもって「凄い!」と思う。素晴
らしい技術は人間の対応速度より早くないとダメだと私は考えている。今回の日産の技術、
手品級に達してます。自分では想定できないし、おそらく対応もできない可能性高い。
安全技術、確実にワンステップ進む。

 続く