昨年のオフ会での話だ。
僕は自作3Wayのパッシブネットワークに使用するコンデンサをまだ決めかねていたので、昭和爺さんにアドバイスを貰うことにした。
昭和爺さんは僕の所属するカーオーディオサークルの最古参だ。
家族はなく、セクハラが原因で地元の工場を諭旨退職後、夜勤の工員を渡り歩いているとの噂だ。
普段は穏やかではあるが、カーオーディオに関しては人一倍こだわりが強く、時折、激情に駆られて新参メンバーに差別的発言を浴びせる一面も併せ持つ。
ただサークル創設時からのメンバーでもあり、一目置かれる存在であることは確かだ。
皆はその経歴と見た目から皮肉を込めて、昭和爺さんと呼んでいる。

僕は昭和爺さんに尋ねた。
「ミッドウーファーのローパスなんですが・・・」
すると昭和爺さんは怪訝な表情で僕にこう問い質した。
「ミッドウーファー?それを言うならミッドバスだろっ!」
Morel社が自社製品の型番にも使っているミッドウーファーという名称が気に入ってはいたが、ここは昭和爺さんの顔を立てる意味を込め、ミッドバスのローパスですと訂正しようとしたところ、僕の横から怒声が上がった。
「ミッドウーファーでええんとちゃうんかい!」
声の主はカオデくんだった。
カオデくんは最新のオーディオ機器にも精通し、海外の製品を好む事から、国内メーカー信奉者である昭和爺さんとは事あるごとに衝突していた。
この二人、聞く音楽のジャンルからして真逆だ。
昭和爺さんは女性ボーカルのジャズとクラッシックのみという、型に嵌めたような昔ながらのオーディオマニア。
一方のカオデくんは音圧系のHIPHOPをメインとし、たまに取り巻きの仲間達と右手にペペロ、左手にコッカルコーンでK-POPを嗜むという、自分の好きな音楽を自由に楽しむスタイルだ。
カオデくんの怒声に周りの取り巻き達も同調する。
「ミッドバスとか聞いたことないわ、ど底辺が」
「ググったらミッドウーファーの方がメチャメチャヒットするやんけ」
「ミッドウーファーでええんちゃうんけ」