荒木 バスがビルの屋上に乗っている浮島という場所で、主人公であるウタとヒビキ2人の心が通じ合って踊りだすんです。パルクールの延長のようなダンスです。その場面を描いたとき、自分の中で何かが開いたような感覚があったんです。アクションの技術を使って、ラブシーンをつくるなんて、自分も見たことがなかった。でもそれは、アクションスキルのある自分だからこそできたラブシーンでした。それが自分の手から生まれた瞬間に、この作品で自分がやるべきことはこれだったんだ、今回の仕事はこのためにあったんだと実感したんです

池ノ辺 まさに監督の持っている引き出しのひとつが開かれて、バーンと弾けたわけですね。

荒木 その場面の絵コンテを描いたとき、あまりに大きな手応えがあったので、映画はまだ半分以上あるけれど、この後、これ以上の場面を描くなんて不可能じゃなかろうかと自分で思ったぐらいだったんです。でも実際は、それを超える場面をもっと描けたんですけど(笑)。