「検査について言うと、医師を必要としているのは健康な人ではなく病気の人です。ゆえに、症状がないのなら検査を受ける必要はありません。
そのルールを守ることで、検査のリソースを症状が出ている人々が利用できるようにしてほしい」そうした方針の「実験の場」となっているのが日本だ。

見方によっては、日本は成功例と言えるだろう。日本は今のところ、韓国や欧州、アメリカを襲ったような感染者の爆発的な急増には至っていない。医療システムも現状ではパンクすることなく機能している。

しかし、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広は、検査数が不足しているせいで政府は感染の広がり具合を把握できていないし、国民に誤った安心感を与えている可能性があると指摘する。

「正確に状況を把握するすべがありません。そのために適切な措置を策定することもできません」

上が言う適切な措置とは、人と人との距離を取り接触機会を減らす「社会距離戦略(social distancing)」などの感染拡大防止のための政策だ。
現状では、そうした政策を策定できないし、ましてや強制なんてできるわけがないという。この指摘には一理ある。
3月半ば、東京では人々が花見に集まったり、飲食店が大勢の客で賑わったりしている様子が見られた。政府が緩い方針を取るなか、春の訪れとともに社会距離戦略は破綻した。

他方、韓国では政府が民間セクターによる検査を迅速に認可し、医療機関以外で検査できるサイトを何百ヵ所も準備したほか、ドライブスルー形式の検査態勢まで整えた。

「正確な診断によって患者にリスクを伝えることができます。患者はそれに従って予防措置も取れるようになるのです」と、ソウル大学のファン・スンシク教授(公衆衛生)は言う。

軽症の感染者を隔離し、彼らが他の人にうつすのを防ぐために、韓国政府は「治療センター」を400ヵ所に開設。ここで軽症患者の体調をモニタリングし、重症化したら即座に集中治療室に移送できるようにした。

「追跡して治療するというアプローチは、医療システムの重荷になることもあります。ですが、患者に対して情報を伏せておくのは倫理的にも問題ですし、医療的にも効果がありません」と、ファンは指摘する。