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5 間接正犯と教唆犯の錯誤 

 間接正犯の意思で客観的に教唆犯の結果を生じた場合。
たとえば、医師Aが看護師Bに毒入りの薬の投与を命じたが、Bは途中で情を知り、にもかかわらず
投薬したような場合である。この場合は、殺人の間接正犯の未遂を認め、殺人既遂教唆との観念的競合
を認める立場もあり得るが、すでに述べたように、間接正犯の実行の着手時期について被利用者行為説
を原則とすれば、設例の場合も、間接正犯の未遂成立前に被利用者は情を知るに至った(すなわち、
被教唆者に変化した)のであるから、間接正犯の未遂を認める余地はなく、結局、38条2項により軽い
殺人既遂教唆として処罰されると解すべきである。

西田典之著 橋爪隆補訂 「刑法総論[第3版]」357頁