ホテルの客室は僕の期待を超えもせず、裏切りもしなかった。
 必要な休養は取ることができそうだったし、口述に備えた勉強にも支障をきたすおそれはなさそうだった。
 例の水も置いてあったが、僕は不思議とそこに描かれた社長の顔にこれまでのような嫌悪感を覚えなかった。
 もしかしたら、それは僕にそんな余裕がなかっただけかもしれない。
 強いて不満に近いものをいうとすれば、外国人技能実習生の研修(あるいはそれは何かのスポーツの合宿だったかもしれないが、定かではない。)とバッティングしたために、廊下がにわかにさわがしくなることがあったくらいだ。
 だが、もとより緊張ゆえ満足に眠ることができない身であったので、少々静けさがかき消されたところで、それでなにか事態が悪化したりすることはなかった。
 そもそもがどん底にいるような状態だったので、それ以上落ちようがなかったともいえる。