.或る都内の進学校で、ひとりの快活聡明な青年教師が、一年生を前に突然こんなことをおっしゃった。

「君たち、もしも東大に入りたいのなら読書したまえ。 但し易しい本じゃダメだ。
いいか、懸命に頭を振り絞って、ああこれは難しい、でも負けてなるかと、
そういう本を3年生の冬までに"30冊"読むんだ。
分野はなんでもいい、英語の本でももちろんよろしい。
とにかく、何度も挫折しそうになりそうな本を30冊読みたまえ」

すると、ある反抗期盛りの生徒がスッと挙手して、
「それでは名古屋大や大阪大に入るにはどうしたら…」
この教師もさるもの、ニヤリと笑うと、その生徒にすかさず言葉を返す。
「20冊だね」
更に別の生徒が挙手して、「では慶應の環境情報は?」と尋ねると、「15冊だな」

またまた別の生徒が「じゃあ上智の理工は?」ときけば、
この教師はフンと鼻を鳴らして「5冊で結構!でも、寂しいね君は」
これにはクラスがドッと沸きかえった。

その歓声に煽られ、最後列で半口開けていた生徒がおずおずと挙手して、
「め、明治に受かるには本を何冊読めばよいですか?」
「150冊だ、少年ジャンプ!」
「チッス!」とこの生徒が懸命にお辞儀を返したが、
委細構わずこの教師が授業を開始すれば、皆がしんと緊張感の佇まいを取り戻したのはさすがであった。