アクトレイザー2の採譜は相当な覚悟をせねばなるまい。
1作目に比べ、若干鳴っているパートが増えている気がするし、各々の旋律が複雑に絡み合っている。
これらの楽曲の採譜は私にとって至難の業である。おそらくライフワークになろう。

ところで、先日ミスティーブルーの楽譜を我が家で発掘したわけであるが、同じ五線ノートにアクトレイザーの「世界樹」の楽譜も見つけた。
当時X68000に打ち込んでマイコンベーシックマガジンに投稿しようとしたのである。
採譜と打ち込みに1週間程費やしデータは出来上がった。
投稿用の原稿も原稿用紙に手書きで書き、あとはフロッピーを編集部に投稿するだけだったのである。
データの出来には大変満足していた。当時X68000用のソフトとして「スターウォーズ」が発売されており、周知の通り音楽を担当したのが古代祐三氏である。
楽曲はFM6声というフルオケを再現するのには大変厳しい制約の中で、曲の特徴をよく捉えた無駄のないアレンジが施されていた。
私はそのデータの作り方を参考にして、同様のオーケストラ曲である「世界樹」のコピーを行なったのである。
ところが、当時はすでにベーマガ投稿データがmidi対応に移行していった頃であった。
私はMT-32やSC-55などの音源をとても買えなかったし、まして重厚な原曲の内蔵音源版をその時勢に敢えて投稿をする勇気もなく、結局お蔵入りにしてしまったのである。
それでも私は満足だった。あの大好きなアクトレイザーの「世界樹」を完コピしたのだ。
この「世界樹」には特別な思い入れがあるのである。

アクトレイザーをご存知の方ならお分かりだと思うが、ゲームを進めるにしたがって楽曲がより躍動的になり盛り上がっていくのである。
サントラもおそらく、ほぼゲームの進行順に曲が収録されていたと思うので、ゲームをプレイしたことにのない方にもゲーム内容の起承転結がある程度想像できるだろう。
この「世界樹」は割とゲームの後半、起承転結の「転」あたりに登場する楽曲である。
つまりプレイヤーがゲームに慣れ、感情移入をしていき佳境に入ったタイミングで耳にすることになる。
私は当時、高校の中間テスト中にもかかわらずアクトレイザーと音楽に魅了されていたのであるが、この「世界樹」を初めて聴いた時私はいてもたってもいられなくなった。
すぐに友人数名に電話をかけた。
「君、すぐに我が家に来たまえ!それがスーファミの音楽がただ事じゃないんだ。なに?明日の数学のテスト?ええい!余弦定理などは今夜覚えてしまえ」
と友人の好奇心と主体性をうまく引き出し(笑)、自宅に来てもらった。
ポーズを解除し、一時停止していたゲームを再開した。
「おおー!すげーな」「映画みたいじゃん」「かっこいい!」
そんな感嘆の声が次々と漏れていた。
その後「アクトレイザー」のサントラを発売と同時に購入したのは言うまでもない。
確かCDの広告かライナーに「これを聴け!」といった趣旨のキャッチコピー付きで、古代氏が掌を広げている写真があったが、友人と学校でよくそのポーズを真似たものである。
確かあの髪型を真似ようとしてジェルを買ったこともあったっけ。
それから3年後に、先述したとおり「世界樹」のコピーをすることになる(遅いって?)。

最近手に入れたアリコレBOXに、古代祐三氏がPC88で制作したアクトレイザーの「世界樹」の習作が収録されている。
古代氏にはいささか失礼ではあるが、それが私がコピーした「世界樹」にクリソツだったのである。
まあ、元々古代氏の「スターウォーズ」を真似たのであるから当然なのだが。

平成が終わろうとしている。
平成は私と古代氏の音楽との出会いで始まった。
あの出会いがなければ、私は音楽を続けることはなかっただろう。
私は年をとり、古代氏の楽曲をウォークマンのテープの再生速度を落としてコピーしていたことなど隔世の感があるが、あのアクトレイザーの「世界樹」(アクトレイザーとつけないと最近は紛らわしい)を初めて聴いた時の衝撃は今でもまざまざと蘇るのである。