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そうした財政ファイナンスを正当化する考え方として、急速な関心を集めている学説がある。米国の学者
が提唱する現代金融理論(MMT)だ。
独自の通貨を持つ国の政府は、通貨を限度なく発行できるため、デフォルト(債務不履行)に陥ることはなく、
過度のインフレが起きない限り、政府債務残高がどれだけ増加しても問題はないというのがその主張。6年
以上も大規模な金融緩和を継続し、政府債務残高が国内総生産(GDP)の2倍を超え、同時に低イン
フレ・低金利が続いている日本はMMTの成功事例との見方がある。

麻生財務相は「日本を実験場にするつもりはない」とMMTを一蹴し、財務省は4月17日の財政制度等
審議会の分科会に提出した資料の中で、MMTに対する海外の当局者や有識者の反論を列挙した。

黒田総裁も5月17日の講演で、「MMTと言われる理論が正しいとは思わないし、日本がMMTの政策を
実施しているとは全く思わない」と切り捨てた。日銀内には「金融緩和は(欲しがれば手に入る)フリーランチ
を提供しているわけではない」(別の日銀幹部)など、現在の金融政策と副作用の激しいMMTとの同一視
を批判する声が強い。

新たなリセッションに限られた選択肢
日銀OBでソニーフィナンシャルホールディングス・チーフエコノミストの菅野雅明氏も、次の景気後退局面で
「唯一残された手段が、財政と金融の協調だ」と指摘。日銀による国債買い入れの再拡大、新たな政府
と日銀のアコードの締結、政府がコミットする新しい形のフォワード・ガイダンスの導入などが政策の選択肢
になるとの見方を示した。

黒田総裁はかつて、大規模金融緩和からの出口戦略に前向きと市場から受けとめられたこともある。だが、
今は金融正常化への道筋が全く見えていないどころか、さらなる緩和へのプレッシャーが高まっている。