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アドベンチャー・タイムの世界観って、アンパンマン
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0001名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/01/21(日) 09:45:28.69ID:+zmbMTOi
アドベンチャー・タイムの世界観好きだったのに…
ウイルス崩壊とはな… コピペすぎてつまらんよ
0004名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:00:10.05ID:bEZtCJey
これは丹波の国から来た男で、まだ柔かい口髭が、やつと鼻の下に、生えかかつた位の青年である。
0006名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:00:41.99ID:bEZtCJey
所が、或日何かの折に、「いけぬのう、お身たちは」と云ふ声を聞いてからは、どうしても、それが頭を離れない。
0008名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:01:14.04ID:bEZtCJey
栄養の不足した、血色の悪い、間のぬけた五位の顔にも、世間の迫害にべそを掻いた、「人間」が覗いてゐるからである。
0009名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:01:30.14ID:bEZtCJey
この無位の侍には、五位の事を考へる度に、世の中のすべてが急に本来の下等さを露すやうに思はれた。
0010名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:01:46.26ID:bEZtCJey
さうしてそれと同時に霜げた赤鼻と数へる程の口髭とが何となく一味の慰安を自分の心に伝へてくれるやうに思はれた。……
0012名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:02:18.41ID:bEZtCJey
かう云ふ例外を除けば、五位は、依然として周囲の軽蔑の中に、犬のやうな生活を続けて行かなければならなかつた。
0014名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:02:50.47ID:bEZtCJey
青鈍の水干と、同じ色の指貫とが一つづつあるのが、今ではそれが上白んで、藍とも紺とも、つかないやうな色に、なつてゐる。
0015名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:03:06.45ID:bEZtCJey
水干はそれでも、肩が少し落ちて、丸組の緒や菊綴の色が怪しくなつてゐるだけだが、指貫になると、裾のあたりのいたみ方が一通りでない。
0016名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:03:22.55ID:bEZtCJey
その指貫の中から、下の袴もはかない、細い足が出てゐるのを見ると、口の悪い同僚でなくとも、痩公卿の車を牽いてゐる、痩牛の歩みを見るやうな、みすぼらしい心もちがする。
0017名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:03:38.49ID:bEZtCJey
それに佩いてゐる太刀も、頗る覚束ない物で、柄の金具も如何はしければ、黒鞘の塗も剥げかかつてゐる。
0018名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:03:54.57ID:bEZtCJey
これが例の赤鼻で、だらしなく草履をひきずりながら、唯でさへ猫背なのを、一層寒空の下に背ぐくまつて、もの欲しさうに、左右を眺め眺め、きざみ足に歩くのだから、通りがかりの物売りまで莫迦にするのも、無理はない。
0020名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:04:26.54ID:bEZtCJey
或る日、五位が三条坊門を神泉苑の方へ行く所で、子供が六七人、路ばたに集つて、何かしてゐるのを見た事がある。
0021名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:04:42.59ID:bEZtCJey
「こまつぶり」でも、廻してゐるのかと思つて、後ろから覗いて見ると、何処かから迷つて来た、尨犬の首へ繩をつけて、打つたり殴いたりしてゐるのであつた。
0022名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:04:58.60ID:bEZtCJey
臆病な五位は、これまで何かに同情を寄せる事があつても、あたりへ気を兼ねて、まだ一度もそれを行為に現はしたことがない。
0024名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:05:30.66ID:bEZtCJey
そこで出来るだけ、笑顔をつくりながら、年かさらしい子供の肩を叩いて、「もう、堪忍してやりなされ。
0026名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:06:02.67ID:bEZtCJey
すると、その子供はふりかへりながら、上眼を使つて、蔑すむやうに、ぢろぢろ五位の姿を見た。
0028名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:06:34.68ID:bEZtCJey
「いらぬ世話はやかれたうもない。」その子供は一足下りながら、高慢な唇を反らせて、かう云つた。
0036名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:08:42.91ID:bEZtCJey
では、この話の主人公は、唯、軽蔑される為にのみ生れて来た人間で、別に何の希望も持つてゐないかと云ふと、さうでもない。
0042名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:10:19.20ID:bEZtCJey
そこで芋粥を飽きる程飲んで見たいと云ふ事が、久しい前から、彼の唯一の欲望になつてゐた。
0044名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:10:51.38ID:bEZtCJey
いや彼自身さへそれが、彼の一生を貫いてゐる欲望だとは、明白に意識しなかつた事であらう。
0051名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:12:43.76ID:bEZtCJey
(臨時の客は二宮の大饗と同日に摂政関白家が、大臣以下の上達部を招いて催す饗宴で、大饗と別に変りがない。)五位も、外の侍たちにまじつて、その残肴の相伴をした。
0052名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:12:59.71ID:bEZtCJey
当時はまだ、取食みの習慣がなくて、残肴は、その家の侍が一堂に集まつて、食ふ事になつてゐたからである。
0053名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:13:15.70ID:bEZtCJey
尤も、大饗に等しいと云つても昔の事だから、品数の多い割りに碌な物はない、餅、伏菟、蒸鮑、干鳥、宇治の氷魚、近江の鮒、鯛の楚割、鮭の内子、焼蛸、大海老、大柑子、小柑子、橘、串柿などの類である。
0059名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:14:51.99ID:bEZtCJey
そこで、彼は飲んでしまつた後の椀をしげしげと眺めながら、うすい口髭についてゐる滴を、掌で拭いて誰に云ふともなく、「何時になつたら、これに飽ける事かのう」と、かう云つた。
0065名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:16:28.08ID:bEZtCJey
肩幅の広い、身長の群を抜いた逞しい大男で、これは、栗を噛みながら、黒酒の杯を重ねてゐた。
0067名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:17:00.25ID:bEZtCJey
「お気の毒な事ぢやの。」利仁は、五位が顔を挙げたのを見ると、軽蔑と憐憫とを一つにしたやうな声で、語を継いだ。
0070名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:17:48.45ID:bEZtCJey
五位は、例の笑ふのか、泣くのか、わからないやうな笑顔をして、利仁の顔と、空の椀とを等分に見比べてゐた。
0074名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:18:52.70ID:bEZtCJey
もし、その時に、相手が、少し面倒臭そうな声で、「おいやなら、たつてとは申すまい」と云はなかつたなら、五位は、何時までも、椀と利仁とを、見比べてゐた事であらう。
0078名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:19:56.66ID:bEZtCJey
所謂、橙黄橘紅を盛つた窪坏や高坏の上に多くの揉烏帽子や立烏帽子が、笑声と共に一しきり、波のやうに動いた。
0085名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:21:48.81ID:bEZtCJey
それが云はせたさに、わざわざ念を押した当の利仁に至つては、前よりも一層可笑しさうに広い肩をゆすつて、哄笑した。
0089名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:22:53.12ID:bEZtCJey
これは事によると、外の連中が、たとひ嘲弄にしろ、一同の注意をこの赤鼻の五位に集中させるのが、不快だつたからかも知れない。
0090名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:23:09.09ID:bEZtCJey
兎に角、談柄はそれからそれへと移つて、酒も肴も残少になつた時分には、某と云ふ侍学生が、行縢の片皮へ、両足を入れて馬に乗らうとした話が、一座の興味を集めてゐた。
0095名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:24:29.25ID:bEZtCJey
彼は、唯、両手を膝の上に置いて、見合ひをする娘のやうに霜に犯されかかつた鬢の辺まで、初心らしく上気しながら、何時までも空になつた黒塗の椀を見つめて、多愛もなく、微笑してゐるのである。……
0096名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:24:45.39ID:bEZtCJey
それから、四五日たつた日の午前、加茂川の河原に沿つて、粟田口へ通ふ街道を、静に馬を進めてゆく二人の男があつた。
0097名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:25:01.49ID:bEZtCJey
一人は濃い縹の狩衣に同じ色の袴をして、打出の太刀を佩いた「鬚黒く鬢ぐきよき」男である。
0098名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:25:17.54ID:bEZtCJey
もう一人は、みすぼらしい青鈍の水干に、薄綿の衣を二つばかり重ねて着た、四十恰好の侍で、これは、帯のむすび方のだらしのない容子と云ひ、赤鼻でしかも穴のあたりが、洟にぬれてゐる容子と云ひ、身のまはり万端のみすぼらしい事夥しい。
0099名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:25:33.51ID:bEZtCJey
尤も、馬は二人とも、前のは月毛、後のは蘆毛の三歳駒で、道をゆく物売りや侍も、振向いて見る程の駿足である。
0100名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:25:49.50ID:bEZtCJey
その後から又二人、馬の歩みに遅れまいとして随いて行くのは、調度掛と舎人とに相違ない。――
0102名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:26:21.43ID:bEZtCJey
冬とは云ひながら、物静に晴れた日で、白けた河原の石の間、潺湲たる水の辺に立枯れてゐる蓬の葉を、ゆする程の風もない。
0103名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:26:37.51ID:bEZtCJey
川に臨んだ背の低い柳は、葉のない枝に飴の如く滑かな日の光りをうけて、梢にゐる鶺鴒の尾を動かすのさへ、鮮かに、それと、影を街道に落してゐる。
0104名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:26:53.57ID:bEZtCJey
東山の暗い緑の上に、霜に焦げた天鵞絨のやうな肩を、丸々と出してゐるのは、大方、比叡の山であらう。
0105名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:27:09.53ID:bEZtCJey
二人はその中に鞍の螺鈿を、まばゆく日にきらめかせながら鞭をも加へず悠々と、粟田口を指して行くのである。
0106名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:27:25.52ID:bEZtCJey
「どこでござるかな、手前をつれて行つて、やらうと仰せられるのは。」五位が馴れない手に手綱をかいくりながら、云つた。
0110名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:28:29.75ID:bEZtCJey
利仁は今朝五位を誘ふのに、東山の近くに湯の湧いてゐる所があるから、そこへ行かうと云つて出て来たのである。
0120名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:31:10.37ID:bEZtCJey
両側の人家は、次第に稀になつて、今は、広々とした冬田の上に、餌をあさる鴉が見えるばかり、山の陰に消残つて、雪の色も仄に青く煙つてゐる。
0125名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:32:30.43ID:bEZtCJey
何かとする中に、関山も後にして、彼是、午少しすぎた時分には、とうとう三井寺の前へ来た。
0134名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:34:55.09ID:bEZtCJey
鼻の先へよせた皺と、眼尻にたたへた筋肉のたるみとが、笑つてしまはうか、しまふまいかとためらつてゐるらしい。
0136名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:35:27.26ID:bEZtCJey
「実はな、敦賀まで、お連れ申さうと思うたのぢや。」笑ひながら、利仁は鞭を挙げて遠くの空を指さした。
0139名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:36:15.33ID:bEZtCJey
利仁が、敦賀の人、藤原有仁の女婿になつてから、多くは敦賀に住んでゐると云ふ事も、日頃から聞いてゐない事はない。
0141名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:36:47.48ID:bEZtCJey
第一、幾多の山河を隔ててゐる越前の国へ、この通り、僅二人の伴人をつれただけで、どうして無事に行かれよう。
0149名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:38:55.99ID:bEZtCJey
もし「芋粥に飽かむ」事が、彼の勇気を鼓舞しなかつたとしたら、彼は恐らく、そこから別れて、京都へ独り帰つて来た事であらう。
0153名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:40:00.33ID:bEZtCJey
さうして調度掛を呼寄せて、持たせて来た壺胡」、第3水準1-89-79)を背に負ふと、やはり、その手から、黒漆の真弓をうけ取つて、それを鞍上に横へながら、先に立つて、馬を進めた。
0155名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:40:32.40ID:bEZtCJey
それで、彼は心細さうに、荒涼とした周囲の原野を眺めながら、うろ覚えの観音経を口の中に念じ念じ、例の赤鼻を鞍の前輪にすりつけるやうにして、覚束ない馬の歩みを、不相変とぼとぼと進めて行つた。
0156名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:40:48.40ID:bEZtCJey
馬蹄の反響する野は、茫々たる黄茅に蔽はれて、その所々にある行潦も、つめたく、青空を映したまま、この冬の午後を、何時かそれなり凍つてしまふかと疑はれる。
0157名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:41:04.47ID:bEZtCJey
その涯には、一帯の山脈が、日に背いてゐるせゐか、かがやく可き残雪の光もなく、紫がかつた暗い色を、長々となすつてゐるが、それさへ蕭条たる幾叢の枯薄に遮られて、二人の従者の眼には、はいらない事が多い。――
0161名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:42:08.76ID:bEZtCJey
五位は利仁の云ふ意味が、よくわからないので、怖々ながら、その弓で指さす方を、眺めて見た。
0163名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:42:40.81ID:bEZtCJey
唯、野葡萄か何かの蔓が、灌木の一むらにからみついてゐる中を、一疋の狐が、暖かな毛の色を、傾きかけた日に曝しながら、のそりのそり歩いて行く。――
0168名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:44:00.87ID:bEZtCJey
しばらくは、石を蹴る馬蹄の音が、戞々として、曠野の静けさを破つてゐたが、やがて利仁が、馬を止めたのを見ると、何時、捕へたのか、もう狐の後足を掴んで、倒に、鞍の側へ、ぶら下げてゐる。
0169名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:44:17.04ID:bEZtCJey
狐が、走れなくなるまで、追ひつめた所で、それを馬の下に敷いて、手取りにしたものであらう。
0171名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:44:49.38ID:bEZtCJey
「これ、狐、よう聞けよ。」利仁は、狐を高く眼の前へつるし上げながら、わざと物々しい声を出してかう云つた。
0177名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:46:25.56ID:bEZtCJey
やつと、追ひついた二人の従者は、逃げてゆく狐の行方を眺めながら、手を拍つて囃し立てた。
0178名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:46:41.63ID:bEZtCJey
落葉のやうな色をしたその獣の背は、夕日の中を、まつしぐらに、木の根石くれの嫌ひなく、何処までも、走つて行く。
0180名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:47:13.77ID:bEZtCJey
狐を追つてゐる中に、何時か彼等は、曠野が緩い斜面を作つて、水の涸れた川床と一つになる、その丁度上の所へ、出てゐたからである。
0182名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:47:45.89ID:bEZtCJey
五位は、ナイイヴな尊敬と讃嘆とを洩らしながら、この狐さへ頤使する野育ちの武人の顔を、今更のやうに、仰いで見た。
0184名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:48:17.85ID:bEZtCJey
唯、利仁の意志に、支配される範囲が広いだけに、その意志の中に包容される自分の意志も、それだけ自由が利くやうになつた事を、心強く感じるだけである。――
0186名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:48:49.90ID:bEZtCJey
読者は、今後、赤鼻の五位の態度に、幇間のやうな何物かを見出しても、それだけで妄にこの男の人格を、疑ふ可きではない。
0187名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:49:05.95ID:bEZtCJey
抛り出された狐は、なぞへの斜面を、転げるやうにして、駈け下りると、水の無い河床の石の間を、器用に、ぴよいぴよい、飛び越えて、今度は、向うの斜面へ、勢よく、すぢかひに駈け上つた。
0188名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:49:21.99ID:bEZtCJey
駈け上りながら、ふりかへつて見ると、自分を手捕りにした侍の一行は、まだ遠い傾斜の上に馬を並べて立つてゐる。
0190名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:49:54.14ID:bEZtCJey
殊に入日を浴びた、月毛と蘆毛とが、霜を含んだ空気の中に、描いたよりもくつきりと、浮き上つてゐる。
0193名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:50:42.27ID:bEZtCJey
此処は琵琶湖に臨んだ、ささやかな部落で、昨日に似ず、どんよりと曇つた空の下に、幾戸の藁屋が、疎にちらばつてゐるばかり、岸に生えた松の樹の間には、灰色の漣をよせる湖の水面が、磨くのを忘れた鏡のやうに、さむざむと開けてゐる。――
0196名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:51:30.56ID:bEZtCJey
見ると、成程、二疋の鞍置馬を牽いた、二三十人の男たちが、馬に跨がつたのもあり徒歩のもあり、皆水干の袖を寒風に翻へして、湖の岸、松の間を、一行の方へ急いで来る。
0197名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:51:46.63ID:bEZtCJey
やがてこれが、間近くなつたと思ふと、馬に乗つてゐた連中は、慌ただしく鞍を下り、徒歩の連中は、路傍に蹲踞して、いづれも恭々しく、利仁の来るのを、待ちうけた。
0205名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:53:55.09ID:bEZtCJey
二人が、馬から下りて、敷皮の上へ、腰を下すか下さない中に、檜皮色の水干を着た、白髪の郎等が、利仁の前へ来て、かう云つた。
0206名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:54:11.07ID:bEZtCJey
「何ぢや。」利仁は、郎等たちの持つて来た篠枝や破籠を、五位にも勧めながら、鷹揚に問ひかけた。
0212名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:55:47.19ID:bEZtCJey
さて、一同がお前に参りますると、奥方の仰せられまするには、『殿は唯今俄に客人を具して、下られようとする所ぢや。
0215名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:56:35.30ID:bEZtCJey
「それは、又、稀有な事でござるのう。」五位は利仁の顔と、郎等の顔とを、仔細らしく見比べながら、両方に満足を与へるやうな、相槌を打つた。
0225名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 02:59:32.72ID:bEZtCJey
「何とも驚き入る外は、ござらぬのう。」五位は、赤鼻を掻きながら、ちよいと、頭を下げて、それから、わざとらしく、呆れたやうに、口を開いて見せた。
0228名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:00:28.10ID:bEZtCJey
五位は、利仁の館の一間に、切燈台の灯を眺めるともなく、眺めながら、寝つかれない長の夜をまぢまぢして、明してゐた。
0229名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:00:44.08ID:bEZtCJey
すると、夕方、此処へ着くまでに、利仁や利仁の従者と、談笑しながら、越えて来た松山、小川、枯野、或は、草、木の葉、石、野火の煙のにほひ、――
0231名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:01:37.30ID:bEZtCJey
殊に、雀色時の靄の中を、やつと、この館へ辿りついて、長櫃に起してある、炭火の赤い焔を見た時の、ほつとした心もち、――
0233名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:02:43.40ID:bEZtCJey
五位は綿の四五寸もはいつた、黄いろい直垂の下に、楽々と、足をのばしながら、ぼんやり、われとわが寝姿を見廻した。
0237名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:03:59.02ID:bEZtCJey
枕元の蔀一つ隔てた向うは、霜の冴えた広庭だが、それも、かう陶然としてゐれば、少しも苦にならない。
0243名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:05:35.12ID:bEZtCJey
さうして又、この矛盾した二つの感情が、互に剋し合ふ後には、境遇の急激な変化から来る、落着かない気分が、今日の天気のやうに、うすら寒く控へてゐる。
0247名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:06:39.17ID:bEZtCJey
その乾からびた声が、霜に響くせゐか、凛々として凩のやうに、一語づつ五位の骨に、応へるやうな気さへする。
0249名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:07:11.18ID:bEZtCJey
殿の御意遊ばさるるには、明朝、卯時までに、切口三寸、長さ五尺の山の芋を、老若各、一筋づつ、持つて参る様にとある。
0251名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:07:43.32ID:bEZtCJey
それが、二三度、繰返されたかと思ふと、やがて、人のけはひが止んで、あたりは忽ち元のやうに、静な冬の夜になつた。
0256名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:09:04.33ID:bEZtCJey
さう思ふと、一時、外に注意を集中したおかげで忘れてゐた、さつきの不安が、何時の間にか、心に帰つて来る。
0257名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:09:20.30ID:bEZtCJey
殊に、前よりも、一層強くなつたのは、あまり早く芋粥にありつきたくないと云ふ心もちで、それが意地悪く、思量の中心を離れない。
0258名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:09:36.37ID:bEZtCJey
どうもかう容易に「芋粥に飽かむ」事が、事実となつて現れては、折角今まで、何年となく、辛抱して待つてゐたのが、如何にも、無駄な骨折のやうに、見えてしまふ。
0259名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:09:52.36ID:bEZtCJey
出来る事なら、突然何か故障が起つて一旦、芋粥が飲めなくなつてから、又、その故障がなくなつて、今度は、やつとこれにありつけると云ふやうな、そんな手続きに、万事を運ばせたい。――
0260名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:10:08.58ID:bEZtCJey
こんな考へが、「こまつぶり」のやうに、ぐるぐる一つ所を廻つてゐる中に、何時か、五位は、旅の疲れで、ぐつすり、熟睡してしまつた。
0261名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:10:24.65ID:bEZtCJey
翌朝、眼がさめると、直に、昨夜の山の芋の一件が、気になるので、五位は、何よりも先に部屋の蔀をあげて見た。
0263名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:10:56.69ID:bEZtCJey
広庭へ敷いた、四五枚の長筵の上には、丸太のやうな物が、凡そ、二三千本、斜につき出した、檜皮葺の軒先へつかへる程、山のやうに、積んである。
0265名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:11:28.70ID:bEZtCJey
五位は、寝起きの眼をこすりながら、殆ど周章に近い驚愕に襲はれて、呆然と、周囲を見廻した。
0266名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:11:44.67ID:bEZtCJey
広庭の所々には、新しく打つたらしい杭の上に五斛納釜を五つ六つ、かけ連ねて、白い布の襖を着た若い下司女が、何十人となく、そのまはりに動いてゐる。
0267名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:12:00.65ID:bEZtCJey
火を焚きつけるもの、灰を掻くもの、或は、新しい白木の桶に、「あまづらみせん」を汲んで釜の中へ入れるもの、皆芋粥をつくる準備で、眼のまはる程忙しい。
0268名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:12:16.75ID:bEZtCJey
釜の下から上る煙と、釜の中から湧く湯気とが、まだ消え残つてゐる明方の靄と一つになつて、広庭一面、はつきり物も見定められない程、灰色のものが罩めた中で、赤いのは、烈々と燃え上る釜の下の焔ばかり、眼に見るもの、耳に聞くもの悉く、
0270名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:12:48.87ID:bEZtCJey
五位は、今更のやうに、この巨大な山の芋が、この巨大な五斛納釜の中で、芋粥になる事を考へた。
0271名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:13:04.95ID:bEZtCJey
さうして、自分が、その芋粥を食ふ為に京都から、わざわざ、越前の敦賀まで旅をして来た事を考へた。
0275名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:14:09.11ID:bEZtCJey
前にあるのは、銀の提の一斗ばかりはいるのに、なみなみと海の如くたたへた、恐るべき芋粥である。
0276名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:14:25.50ID:bEZtCJey
五位はさつき、あの軒まで積上げた山の芋を、何十人かの若い男が、薄刃を器用に動かしながら、片端から削るやうに、勢よく切るのを見た。
0277名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:14:41.49ID:bEZtCJey
それからそれを、あの下司女たちが、右往左往に馳せちがつて、一つのこらず、五斛納釜へすくつては入れ、すくつては入れするのを見た。
0278名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:14:57.48ID:bEZtCJey
最後に、その山の芋が、一つも長筵の上に見えなくなつた時に、芋のにほひと、甘葛のにほひとを含んだ、幾道かの湯気の柱が、蓬々然として、釜の中から、晴れた朝の空へ、舞上つて行くのを見た。
0279名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:15:13.57ID:bEZtCJey
これを、目のあたりに見た彼が、今、提に入れた芋粥に対した時、まだ、口をつけない中から、既に、満腹を感じたのは、恐らく、無理もない次第であらう。――
0285名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:16:50.02ID:bEZtCJey
五位は眼をつぶつて、唯でさへ赤い鼻を、一層赤くしながら、提に半分ばかりの芋粥を大きな土器にすくつて、いやいやながら飲み干した。
0292名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:18:42.56ID:bEZtCJey
これ以上、飲めば、喉を越さない中にもどしてしまふ、さうかと云つて、飲まなければ、利仁や有仁の厚意を無にするのも、同じである。
0299名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:20:35.37ID:bEZtCJey
余程弱つたと見えて、口髭にも、鼻の先にも、冬とは思はれない程、汗が玉になつて、垂れてゐる。
0307名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:22:43.82ID:bEZtCJey
もし、此時、利仁が、突然、向うの家の軒を指して、「あれを御覧じろ」と云はなかつたなら、有仁は猶、五位に、芋粥をすすめて、止まなかつたかも知れない。
0310名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:23:31.87ID:bEZtCJey
さうして、そのまばゆい光に、光沢のいい毛皮を洗はせながら、一疋の獣が、おとなしく、坐つてゐる。
0316名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:25:08.18ID:bEZtCJey
五位は、芋粥を飲んでゐる狐を眺めながら、此処へ来ない前の彼自身を、なつかしく、心の中でふり返つた。
0319名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:25:56.46ID:bEZtCJey
色のさめた水干に、指貫をつけて、飼主のない尨犬のやうに、朱雀大路をうろついて歩く、憐む可き、孤独な彼である。
0320名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:26:12.53ID:bEZtCJey
しかし、同時に又、芋粥に飽きたいと云ふ慾望を、唯一人大事に守つてゐた、幸福な彼である。――
0321名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:26:28.52ID:bEZtCJey
彼は、この上芋粥を飲まずにすむと云ふ安心と共に、満面の汗が次第に、鼻の先から、乾いてゆくのを感じた。
0326名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:27:48.87ID:bEZtCJey
泡鳴氏は昂然と洋傘の柄にマントの肘をかけて、例の如く声高に西洋草花の栽培法だの氏が自得の健胃法だのをいろいろ僕に話してくれた。
0344名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:32:37.94ID:bEZtCJey
少くとも僕の眼に映じた我岩野泡鳴氏は、殆ど荘厳な気がする位、愛すべき楽天主義者だつた。
0345名無しさん@お腹いっぱい。
垢版 |
2018/02/27(火) 03:32:54.01ID:bEZtCJey
と云ってもまだ風の寒い、月の冴えた夜の九時ごろ、保吉は三人の友だちと、魚河岸の往来を歩いていた。
0355名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:35:34.46ID:bEZtCJey
それを露柴はずっと前から、家業はほとんど人任せにしたなり、自分は山谷の露路の奥に、句と書と篆刻とを楽しんでいた。
0382名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:42:47.25ID:bEZtCJey
客は外套の毛皮の襟に肥った頬を埋めながら、見ると云うよりは、睨むように、狭い店の中へ眼をやった。
0396名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:46:32.13ID:bEZtCJey
この肥った客の出現以来、我々三人の心もちに、妙な狂いの出来た事は、どうにも仕方のない事実だった。
0424名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:54:02.01ID:bEZtCJey
然れどもこの数篇を読めるものは(僕の知れる限りにては)室生犀星、萩原朔太郎、佐佐木茂索、岸田国士等の四氏あるのみ。
0426名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:54:34.12ID:bEZtCJey
天下の書肆皆新作家の新作品を市に出さんとする時に当り、内田百間氏を顧みざるは何故ぞや。
0427名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:54:50.22ID:bEZtCJey
僕は佐藤春夫氏と共に、「冥途」を再び世に行はしめんとせしも、今に至つて微力その効を奏せず。
0428名無しさん@お腹いっぱい。
垢版 |
2018/02/27(火) 03:55:06.31ID:bEZtCJey
内田百間氏の作品は多少俳味を交へたれども、その夢幻的なる特色は人後に落つるものにあらず。
0432名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 03:56:10.62ID:bEZtCJey
僕は単に友情の為のみにあらず、真面目に内田百間氏の詩的天才を信ずるが為に特にこの悪文を草するものなり。
0486名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 04:10:37.67ID:bEZtCJey
が、一段落ついたと見え、巻煙草を口へ啣えたまま、マッチをすろうとする拍子に突然俯伏しになって死んでしまった。
0499名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 04:14:06.64ID:bEZtCJey
事務室のまん中の大机には白い大掛児を着た支那人が二人、差し向かいに帳簿を検らべている。
0528名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 04:21:52.33ID:bEZtCJey
折り目の正しい白ズボンに白靴をはいた彼の脚は窓からはいる風のために二つとも斜めに靡いている!
0588名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 04:37:54.97ID:bEZtCJey
とにかく彼はえたいの知れない幻の中を彷徨した後やっと正気を恢復した時にはxx胡同の社宅に据えた寝棺の中に横たわっていた。
0606名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 04:42:43.55ID:bEZtCJey
常子も恐らくはこの例に洩れず、馬の脚などになった男を御亭主に持ってはいないであろう。――
0644名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 04:52:53.69ID:bEZtCJey
が、靴足袋をはいているにもせよ、この脚で日本間を歩かせられるのはとうてい俺には不可能である。……
0680名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:02:32.31ID:bEZtCJey
俺は徒らに一足でも前へ出ようと努力しながら、しかも恐しい不可抗力のもとにやはり後へ下って行った。
0698名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:07:20.89ID:bEZtCJey
わたしは馬政紀、馬記、元享療牛馬駝集、伯楽相馬経等の諸書に従い、彼の脚の興奮したのはこう言うためだったと確信している。――
0701名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:08:08.98ID:bEZtCJey
「順天時報」の記事によれば、当日の黄塵は十数年来未だ嘗見ないところであり、「五歩の外に正陽門を仰ぐも、すでに門楼を見るべからず」と言うのであるから、よほど烈しかったのに違いない。
0702名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:08:25.09ID:bEZtCJey
然るに半三郎の馬の脚は徳勝門外の馬市の斃馬についていた脚であり、そのまた斃馬は明らかに張家口、錦州を通って来た蒙古産の庫倫馬である。
0703名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:08:41.17ID:bEZtCJey
すると彼の馬の脚の蒙古の空気を感ずるが早いか、たちまち躍ったり跳ねたりし出したのはむしろ当然ではないであろうか?
0705名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:09:13.29ID:bEZtCJey
して見れば彼の馬の脚がじっとしているのに忍びなかったのも同情に価すると言わなければならぬ。……
0706名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:09:29.38ID:bEZtCJey
この解釈の是非はともかく、半三郎は当日会社にいた時も、舞踏か何かするように絶えず跳ねまわっていたそうである。
0714名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:11:37.91ID:bEZtCJey
彼女はそのためにいつものように微笑することも忘れたなり、一体細引を何にするつもりか、聞かしてくれと歎願した。
0738名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:18:02.81ID:bEZtCJey
常子は「順天時報」の記者にこの時の彼女の心もちはちょうど鎖に繋がれた囚人のようだったと話している。
0750名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:21:15.38ID:bEZtCJey
が、身震いを一つすると、ちょうど馬の嘶きに似た、気味の悪い声を残しながら、往来を罩めた黄塵の中へまっしぐらに走って行ってしまった。……
0753名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:22:03.57ID:bEZtCJey
もっとも「順天時報」の記者は当日の午後八時前後、黄塵に煙った月明りの中に帽子をかぶらぬ男が一人、万里の長城を見るのに名高い八達嶺下の鉄道線路を走って行ったことを報じている。
0755名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:22:35.67ID:bEZtCJey
現にまた同じ新聞の記者はやはり午後八時前後、黄塵を沾した雨の中に帽子をかぶらぬ男が一人、石人石馬の列をなした十三陵の大道を走って行ったことを報じている。
0756名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:22:51.75ID:bEZtCJey
すると半三郎はxx胡同の社宅の玄関を飛び出した後、全然どこへどうしたか、判然しないと言わなければならぬ。
0758名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:23:23.78ID:bEZtCJey
しかし常子、マネエジャア、同僚、山井博士、「順天時報」の主筆等はいずれも彼の失踪を発狂のためと解釈した。
0759名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:23:39.88ID:bEZtCJey
もっとも発狂のためと解釈するのは馬の脚のためと解釈するのよりも容易だったのに違いない。
0761名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:24:11.99ID:bEZtCJey
この公道を代表する「順天時報」の主筆牟多口氏は半三郎の失踪した翌日、その椽大の筆を揮って下の社説を公にした。――
0762名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:24:28.09ID:bEZtCJey
「三菱社員忍野半三郎氏は昨夕五時十五分、突然発狂したるが如く、常子夫人の止むるを聴かず、単身いずこにか失踪したり。
0763名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:24:44.15ID:bEZtCJey
同仁病院長山井博士の説によれば、忍野氏は昨夏脳溢血を患い、三日間人事不省なりしより、爾来多少精神に異常を呈せるものならんと言う。
0764名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:25:00.21ID:bEZtCJey
また常子夫人の発見したる忍野氏の日記に徴するも、氏は常に奇怪なる恐迫観念を有したるが如し。
0772名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:27:08.70ID:bEZtCJey
彼等はことごとく家族を後に、あるいは道塗に行吟し、あるいは山沢に逍遥し、あるいはまた精神病院裡に飽食暖衣するの幸福を得べし。
0779名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:29:01.03ID:bEZtCJey
「常子夫人の談によれば、夫人は少くとも一ヶ年間、xx胡同の社宅に止まり、忍野氏の帰るを待たんとするよし。
0780名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:29:17.20ID:bEZtCJey
吾人は貞淑なる夫人のために満腔の同情を表すると共に、賢明なる三菱当事者のために夫人の便宜を考慮するに吝かならざらんことを切望するものなり。……」
0781名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:29:33.27ID:bEZtCJey
しかし少くとも常子だけは半年ばかりたった後、この誤解に安んずることの出来ぬある新事実に遭遇した。
0786名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:30:53.48ID:bEZtCJey
彼女は失踪した夫のことだの、売り払ってしまったダブル・ベッドのことだの、南京虫のことだのを考えつづけた。
0816名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:38:55.97ID:bEZtCJey
彼女が三度目にこう言った時、夫はくるりと背を向けたと思うと、静かに玄関をおりて行った。
0822名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:40:32.18ID:bEZtCJey
しかしマネエジャア、同僚、山井博士、牟多口氏等の人びとは未だに忍野半三郎の馬の脚になったことを信じていない。
0826名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:41:36.32ID:bEZtCJey
いや、最近には小説家岡田三郎氏も誰かからこの話を聞いたと見え、どうも馬の脚になったことは信ぜられぬと言う手紙をよこした。
0827名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:41:52.41ID:bEZtCJey
岡田氏はもし事実とすれば、「多分馬の前脚をとってつけたものと思いますが、スペイン速歩とか言う妙技を演じ得る逸足ならば、前脚で物を蹴るくらいの変り芸もするか知れず、それとても湯浅少佐あたりが乗るのでなければ、果して馬自身でやり了せるかどうか、
0830名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:42:40.54ID:bEZtCJey
けれどもそれだけの理由のために半三郎の日記ばかりか、常子の話をも否定するのはいささか早計に過ぎないであろうか?
0831名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:42:56.63ID:bEZtCJey
現にわたしの調べたところによれば、彼の復活を報じた「順天時報」は同じ面の二三段下にこう言う記事をも掲げている。――
0833名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:43:28.69ID:bEZtCJey
同氏は薬罎を手に死しいたるより、自殺の疑いを生ぜしが、罎中の水薬は分析の結果、アルコオル類と判明したるよし。」
0887名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:57:54.94ID:bEZtCJey
一時間ばかりたった後、手拭を頭に巻きつけた僕等は海水帽に貸下駄を突っかけ、半町ほどある海へ泳ぎに行った。
0890名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 05:58:43.06ID:bEZtCJey
僕等は弘法麦の茂みを避け避け、(滴をためた弘法麦の中へうっかり足を踏み入れると、ふくら脛の痒くなるのに閉口したから。)そんなことを話して歩いて行った。
0901名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 06:01:39.75ID:bEZtCJey
しかしMはいつのまにか湯帷子や眼鏡を着もの脱ぎ場へ置き、海水帽の上へ頬かぶりをしながら、ざぶざぶ浅瀬へはいって行った。
0906名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 06:02:59.96ID:bEZtCJey
「嫣然」と言うのはここにいるうちに挨拶ぐらいはし合うようになったある十五六の中学生だった。
0940名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 06:12:07.50ID:bEZtCJey
一人は真紅の海水着を着、もう一人はちょうど虎のように黒と黄とだんだらの海水着を着た、軽快な後姿を見送ると、いつか言い合せたように微笑していた。
0964名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 06:18:32.80ID:bEZtCJey
僕等は風の運んで来る彼等の笑い声を聞きながら、しばらくまた渚から遠ざかる彼等の姿を眺めていた。
0975名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 06:21:29.37ID:bEZtCJey
それから余り話もせず、(腹も減っていたのに違いなかった。)宿の方へぶらぶら帰って行った。
0977名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 06:22:01.44ID:bEZtCJey
僕等は晩飯をすませた後、この町に帰省中のHと言う友だちやNさんと言う宿の若主人ともう一度浜へ出かけて行った。
0979名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 06:22:33.71ID:bEZtCJey
HはS村の伯父を尋ねに、Nさんはまた同じ村の籠屋へ庭鳥を伏せる籠を註文しにそれぞれ足を運んでいたのだった。
0980名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 06:22:49.78ID:bEZtCJey
浜伝いにS村へ出る途は高い砂山の裾をまわり、ちょうど海水浴区域とは反対の方角に向っていた。
0998名無しさん@お腹いっぱい。
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2018/02/27(火) 06:27:38.67ID:bEZtCJey
その株屋は誰が何と言っても、いや、虎魚などの刺す訣はない、確かにあれは海蛇だと強情を張っていたとか言うことだった。
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