時々さ、大田区と川崎市の境に流れる多摩川に架かるガス橋って所を通るんだ。
川崎に行くのに便利だしな。上流は丸子橋、下流は多摩川大橋だ。
ガス橋だけは今でも架け換えされず古いままだ。白洋舎とキヤノンが近く人通りは多いが逢魔ヶ時を過ぎて人が少なくなると静寂の帷に包まれる。
いや、逢魔ヶ時で人気がなくなるというより人種が変わる。
そう、黄昏時を過ぎると雄黄泉世界となり、冥府魔道の咆哮の勝鬨が幾重にも響く。
寒いのに肩を露出したタンクトップ姿の角刈り猪首体型兄貴や汚れたハイネックシャツ姿でニッカポッカ姿で鉢巻きして
ポッカのケツポケットに「一馬」を突っ込んだ黄色い安全第一のメット被った髭熊親父が俺に手招きするんだ。

うおっ! うおっ! こっち来いや!

と。
俺は見なかったこと、聞かなかったことにして橋をサイクリングする。
橋の上を漕ぐと、橋下から栗の花の匂いがツーンと臭ってくる。臭せえ。目に沁みるぜ。
対岸の川崎側に行くと10tダンプが路肩に停車している。ダンプがユサユサ揺れてるんだ。
ハザードの着いていない。関東武州連合と銀色に光るプレートで群馬ナンバー。
いきなりダンプの揺れが止まったかと思ったら荷台から親父4人の顔がこちらを見ている。

寄ってけよ。

そう言われて戦慄が走った。背中に冷たい電流が走った。

いいチャリンコ乗ってんな。おいらも乗せてくれや。
一緒に漕ごうや。

俺はギヤを巧みにアップさせていき離脱を試みる。
そんなスリリングなサイクリングに病みつきだぜ。