「僕等人間は一事件の為に容易に自殺などするものではない。
僕は三十歳以後に新たに情人をつくつたことはなかつた。これも道徳的につくらなかつたのではない。
唯情人をつくることの利害を打算した為である。

僕は、我儘らしい我儘を言つたことはなかつた。
と云ふよりも寧ろ言ひ得なかつたのである。

今僕が自殺するのは一生に一度の我儘かも知れない。
僕もあらゆる青年のやうにいろいろの夢を見たことがあつた。けれども今になつて見ると、畢竟気違ひの子だつたのであらう。」