http://www.b-ch.com/contents/feat_creators_selection/backnumber/v42/

――ガンダムを監督する上では、かつて三部作の映画『機動戦士Zガンダム A New Translation』(05)で演出を担当された経験は
大きいですか。

松尾 あのときは、こんなにガンダムを続けるとは思わなかったですね。『Z』に参加したのはガンダムだからというよりも、
富野由悠季という人と仕事したかったからなんです。マッドハウスではりんたろう監督、川尻善昭監督と仕事をしたので、
サンライズで想い出づくりにぜひと思ってたら、えらい大変なことになりました(笑)。でも、おかげで演出の武器をたくさん
手に入れた気がしています。

――たとえばどんなことでしょうか?

松尾 マッドハウスはシートをゆったり目に作りますが、富野さんはタイムシート上であらかじめ切ってある状態で作っていくん
です。最初は「よくこれが読めるな」と思ってましたが、さすがに3年ぐらい経つと「ああ、そういうことか」って分かるように
なりました。そういう武器はガンダムをやる場合、よりガンダムらしく見えますし。

――そう言えば20年くらい前、「アクションカット(動き同士をつなぐ編集技法)は動き始めと終わりを切るから、その数コマ分、
無駄な作画するな」と、そんな富野監督の談話を拝見しました。

松尾 ええ、カット頭とカット尻です。特に「頭は原画でゼロスタートするな」って言うんです。たとえば画面の外から声をかけ
られて「えっ!」と振り向くカットがあると、アニメーターは気づかない状態の原画を始めに描くんです。次に中割りで振り向き
始め、振り向き終わって止まる。ところがこの原画って絶対に編集で切らないと、つながらないんです。たまにミスで残ったりす
るので、あらかじめタイムシート上で1番を使わないよう工夫するんですね。でも、そうすると原画のいい絵がなくなる。だったら
中割りに相当する絵から描かせたほうがいいに決まってる。だから、そもそも止まった絵をゼロスタートで描くなというのが、
富野さんの考え方です。

――富野監督は「フィルムはずっと流れ続けるもの」という考え方が強いですね。

松尾 普通は戦闘シーンでしゃべったり言い合ったりすると流れが止まるんですが、あの人のは止まらないんですね。だから
たくさんやってる感じに見えるし、いろんなエピソードが詰め込める。そう思いました。

――カットイン(モビルスーツの映像にキャラクターの映像が三角形や四角形のサブフレームで割り込んでくる技法)も、そんな
考え方からの発明でしょう。

松尾 アニメーターは大変になりますけど、『Z』のときにはキャラクター作画監督の恩田(尚之)さんとメカニカル作画監督の
仲(盛文)さんで、きっちり分担してましたね。『Z』ではジャブローの核爆発からキスシーンにつなぐみたいな編集がすごくて、
「ここから新しくシーンが始まります」というのを、いっさいやらないんです。前にある映画で何人かで分担している絵コンテを
見せてもらったら、全員BGオンリー(背景のみで見せるカット)で始めてるんです。前の担当者がどう終わるか分からないから、

――「こういう場所」という全景から始めると、説明くさくなりますよね。

松尾 これでいいのかなと、そういうことを感じてた直後が『Z』なんです。TVシリーズの映像と新作が混じるので、1本目は
自分の理解のために絵コンテ撮をつくってつないでみたら、「こんなことをやるんだ」ってものすごくビックリしたんです。
これを絵コンテで読んで想像するのは難しい。その後、それを見た富野さんがさらにカットの中ヌキも含めてツメツメに切って
いくことになり、僕が編集ソフトの使い方を教えなければならなくなりましたけどね(笑)。

――富野監督のすごさは、どの辺に感じられましたか?

松尾 タイミングやいろんな間や流れのつくり方ですね。カットインもホントにいい方法なので、みんな使えばいいのにと思いま
す。エイゼンシュタインのモンタージュ理論やオーソン・ウェルズのパンフォーカスも、発明されたころは使うと「マネした」って
感覚があったはずです。カットインも次第にみんなが慣れていった手法のひとつだと思うし、その開発者が間近にいて、「こういう
ときに使うといいんだよね」って話が聞けたのが良かったです。あの三角の頂点を、なるべくコックピットにしたりして。

――ああ、吹き出しみたいに。

松尾 そうそう。ここからしゃべってんだよと。メカが動いたら、頂点も動かしてほしいと。そんな話でも直接聞くと理解が早い
ですし。