――ありがとうございました。

 中嶋に向かって「なんでよけるかなあ!」という野次が飛んだとき、
「プロレスを分かってねえな」と非難されたことを思い出した。
強いレスラーばかり取材して、プロレスのなんたるかを分かっていない――。
言い返せない自分が悔しかった。
そんな自分と中嶋を重ね合わせて、どこかホッとしていた。


しかし、中嶋と私は違った。中嶋は、なに一つよけてはいない。
貧しかった子供の頃から、チャンピオンになった今に至るまで、なに一つ。
たった一人に非難されたくらいで逃げ出したくなるような私とは、違うのだ。
強くて、カッコよくて、尊い、プロレスラーなのだ。

 これからも、私は強いレスラーを取材する。
プロレスとはなにか、強さとはなにかが分かるまで、よけずに記事を書いていく。それがきっと、私にとって、強いということだから。