“蒙古の怪人”キラー・カーン自伝より

鶴田選手。俺に言わせれば、彼は自分を強く見せるということに長けていた。
確かにスタミナはあったし、試合運びもそれほど下手ではない。が、自分を弱く見せるということはしなかった。
そこが「最強」と言われるゆえんだろう。少なくとも俺は鶴田を「強い」と感じたことはない。
鶴田は自分がやられているのに、ダメージのあるそぶりを見せなかった。こちらを立ててくれないのだ。こういうレスラーは嫌われる。
鶴田がインタビューで「キラー・カーンはあの顔だからアメリカでメインイベンターになれたんだ」と言っていた。
俺ははらわたが煮えくりかえった。この男は何を言っているのか。あまりに失礼な話である。
顔だけでメインイベンターになれるほど甘い世界なものか。自分はアメリカで成功できなかったからジェラシーを抱いていたのかもしれないが。
業界の先輩に発する言葉ではない。俺は彼の人間性が一発で分かった。人間としては大した男ではない。
それに比べれば、天龍選手とは気持ちよく試合ができた。プロレスにおいて重視する「重み」が鶴田とは違った。
対戦相手として鶴田より天龍を評価する選手は多いのではないだろうか。天龍は自分だけがいいカッコすることはなかった。
プロレスとはこういうところに人間性が現れるものなのだ。