兵庫県篠山市内の古いマンション。笑顔で迎えてくれたのは、
タクマさん(20)と妻のサキさん(19)=いずれも仮名。
傍らで2歳になる長女がアンパンマンの縫いぐるみで遊んでいる。
三田市内の通信制高校で知り合った2人は高校時代に子どもを授かり、
結婚した。「家族を養うのは自分しかいない」とタクマさん。
日に日に責任感が強くなっていく。

出会ったのは僕が3年、サキが2年の時です。
文化祭で見かけて一目ぼれです。笑顔がかわいくて、
もう勢いですね。連絡先を聞いて、1カ月後には付き合ってました。

妊娠が分かったのはその2カ月後。
泣きそうな顔で「赤ちゃんできた」って言われたんです。
気持ち悪くなったり、ご飯を吐いたりして、妊娠検査薬で
調べたみたい。驚きはしなかった。責任もあるし、産んでほしいと
お願いしました。

親には「お前何してんねん」って怒られた。
でも「殴られる覚悟で相手の両親に会いに行け」と
後押ししてもらいました。

僕は18歳で父親になりました。サキは高校中退。
僕は卒業してから不動産会社に勤めました。働くって、
本当に大変ですね。営業だったんですけど、数字を求められる
じゃないですか。ノルマを達成できなかったら、上司にいろいろ
言われるし。お客さんに僕の休日は関係ないので、
休みの日に出勤するのも当たり前でした。

ある朝、視界がぼやけて目が回ってたんですけど、なんとか会社に
行きました。でもエレベーターで倒れたようで、そのあたりの記憶が
ありません。病院で「めまい症」と診断され、朝、起きたくても
起きられない日が続きました。会社は部署の異動を提案して
くれたんですけど、迷惑を掛けたくないので辞めました。
入社して半年でした。

かっこ悪いですよね。娘とサキを守れるのは自分しかいないのに。
たこ焼き屋でアルバイトをしながら、就職活動しました。
面接で会社を辞めた理由を話すと「今は病気は大丈夫?」と聞かれるん
です。薬を飲んでるので何も言えなくて不採用ばっかり。
親のつてで高齢者施設の調理員として働き始めました。