和製ローマの休日の後に言うのは気がひけるんだけれど
政略結婚の身代わりとか影武者とかそういうの、厨二だなあと分かっていても好きすぎる

国境を接する巨大軍事帝国オースプレイの脅威に怯え続ける小国タケヤリ
親同士の誓約による、オースプレイ皇太子コルベットとタケヤリ王女アツタの結婚が間近に迫っていた
ところがここへ来て急転直下、アツタが流行り病であっさり鬼籍の人に
結婚をなかったことにしてくれなどとても言えぬタケヤリは、王女の死を隠し影武者を立てることに

所変わってタケヤリ辺境、ど田舎と言ってよい地を治める貧乏貴族には娘が3人
ひとりふたりと美しい娘が続いたが、末娘は何とも味つけの薄い凡庸な容姿
華やかな姉2人が注目を集めるなか、ひっそりと17年の歳月を生きてきた末娘ーその名はモージョ

影武者探しの密命を受けてこの地を訪れた王宮の使者は、当然3姉妹に目をつける
幸いにしてオースプレイに王女の容姿を知る者は誰1人としていない
となれば求められる条件は、影武者の責務に耐えられる図太い神経と健康な心身

姉2人は美しく優しくはあるが繊細で、影武者としてオースプレイを欺き続けることなど到底無理
もはや捨て鉢な気分でモージョの行動を隠密裏に監視する使者
そんな彼らの目に飛び込んできたのは
落としたパンを払って躊躇なく口に運び、日がな一日木の上で読書をし、姉たちと一緒の行儀見習い中に控えめながら堂々と居眠りをするモージョの姿

「あいつしかいない!」
「お前正気か?あんな半目で舟を漕いでいる娘にこの国を託すのか?」
「見ろ。青筋立てて周りをうろつく家庭教師の気配をものともせずに眠っている。あれこそ求めていた鋼の心」

そんなこんなでオースプレイに嫁ぐことになったアツタことモージョの影武者日記
ちなみに皇太子コルベットは朴念仁を絵に描いたような青年
無骨ぶっきらぼう、無愛想だけれど悪人ではなく文武両道のデキる奴
そういう夫を、紆余曲折ありながら支えようとするモージョ
2人の関係は蝸牛の歩みより緩やかに、けれど長く続く