私は試みに次のようなものを拵えてみた。手許にある材料のうちから現代の名家と思われる十人の俳人の作品を一句ずつ選び、
それに無名あるいは半無名の人々の句を五つまぜ、いずれも作者名が消してある。
こういうものを材料にして、たとえばイギリスのリチャーズの行ったような実験を試みたならば、
いろいろ面白い結果が得られるだろうが、私はただとりあえず同僚や学生など数人のインテリにこれを示して意見を求めたのみである。
読者諸賢もどうか、ここでしばらく立ちどまり、次の十五句をよく読んだうえで」優劣の順位をつけ、どれが名家の誰の作品か推測を試みてもらいたいと、以下の15句を記した。
   1 芽ぐむかと大きな幹を撫でながら
   2 初蝶の吾を廻りていずこにか
   3 咳くとポクリッとべートヴエンひゞく朝
   4 粥腹のおぼつかなしや花の山
   5 夕浪の刻みそめたる夕涼し
   6 鯛敷やうねりの上の淡路島
   7 爰に寝てゐましたといふ山吹生けてあるに泊り
   8 麦踏むやつめたき風の日のつゞく
   9 終戦の夜のあけしらむ天の川
   10 椅子に在り冬日は燃えて近づき来
   11 腰立てし焦土の麦に南風荒き
   12 囀や風少しある峠道
   13 防風のこゝ迄砂に埋もれしと
   14 大揖斐の川面を打ちて氷雨かな
   15 柿干して今日の独り居雲もなし