総論覚え書 10 保障人的地位の発生根拠―学説の整理・整頓(1)

1 形式的三分説
作為義務の根拠を、@法令、A契約・事務管理、B条理・慣習に求める形式的三分説は、
すでに克服された学説であるが(現在でも形式的三分説をとるものとして、大塚153頁以下、
大谷136頁以下)、近時、高山教授は、条理を除外したうえ、契約・事務管理も民法に規定
されているという意味で「法令」に含まれるという理解から、「作為義務の統一的な発生根拠は
『法規範』」であるとされており注目される(高山佳奈子「不作為犯論」山口厚編『クローズアップ
刑法総論』(2003)67頁以下)

2 先行行為説―日義博『不真正不作為犯の理論』(1979)
本説に対しては、「過失の先行行為から結果が生じた場合に、途中で結果回避可能性と結果
の認識・認容があれば、過失犯が広く不作為の故意犯に転化してしまう」という批判(佐伯仁志・
注釈〔1〕287頁)が向けられている。

3 事実上の引受け説(具体的依存説)―堀内捷三『不作為犯論』(1978)
本説には、「法益の維持に向けた行為の反復・継続は、とりわけ偶然の作為義務のケースの
もとでは過大な要求ではないか、危険源監視義務(管理者の防止義務)の類型は認めなくて
よいのかといった点で疑問が残る」という批判(塩見・道しるべ34頁)がある。