その日は朝から、電話も鳴らなかった。自分の学習机と接客スペースからなる自宅の小さな一室は
いつも以上に静かだった。
「いったん、事務所を閉めようと思うんだ」
弁護士の山本浩一さん(30・仮名)が切り出すと、物心両面で支援を続けてきた母親も頷いた。
苦しい状況は、お互いにわかっていた。

昨年、弁護士として得た収入は180万円。ほとんど経費で消えた。
母親の負担を軽くするために午後6時に自宅を出て、夜11時までバイトをする毎日だ。

「こんな状況では、子どもも持てない。再就職するなら、今しかない」
自分の市場価値を知るために転職サイトに登録していたが、提示される条件は、どんどん厳しくなる。