自分から襲いかかるキチガイ通り魔でないのなら、
実際のケンカってのは相手側から、
「やんのかコラ! あぁ? おぉ? おあ?」
とかなんとかで、襟首を掴まれるなり、間近で顔を覗き込まれるなり、
という状況から始まる。

ここが、「格闘技試合」と「実際のケンカ」との大きな違い。
距離を取って向かい合って、礼儀正しく一礼して、審判の合図で双方が構えて、
「はじめ!」の掛け声で正々堂々と動き出し、ジリジリと間合いを取って、
まずは牽制のジャブ、ローキックから……なんてことはない。

それはケンカの風景ではない。

そしてケンカは、揺れる電車の中でも、狭苦しい路地でも、
障害物だらけのゲーセンでも、急な坂道でも、起こり得るもの。

広くて平らで安全な場所で、
前後左右へピョンピョンフットワークからジャブジャブストレートだの、
たたたたっとダッシュしてタックルだの。
そういう動きが身に染みついてる、なんて技術体系では不安だ。

実際のケンカでは、殴り合いよりも圧倒的に取っ組み合いの方が多い。
だから、格闘技マニアの間では弱い弱い言われている、
合気道や少林寺のような「取っ組み合いで使える関節技」が実際のケンカでは有効。

「格闘技試合」では、確かに弱いかもしれんがな。
「それ用の練習」はしてないから。
上で示したような、「ケンカの風景ではない風景」には慣れてないから。