学生の頃、レコード店でもらった鉄腕アトムのポスターを、ぼくは自分でパネルにしていた。
番組収録後、それを持っていき、「こ、こ、これにサインをいただけますか?」とお願いした
のだ。すると手怩ウん、ポスターをじっと見て、「こういうポスター、ありましたかね?」と
おっしゃったのだ。(ドキッ!)
 手怩ウんはそばにいるマネージャーさんと、「これはいつのポスター?」「先生、ほらあの時
の……」という会話をしている。横に立ってそれを聞いているぼくは、冷や汗たらたら、
(し、しまった……。手怩ウん的にお気に入りではないポスターだったのか?)
 針のむしろとはこのこと。ぼくは、職員室に呼び出されて叱られている生徒のような気分。
うなだれて、二人のやりとりを聞いていた。やがて話がとぎれた時を見計らい、言った。
「あ、あのう……サイン、駄目ですか?」すると手怩ウん、ニッコリ笑って、
「いえいえ。大丈夫ですよ」とサインペンを握った。ぼくの様子がよほど情けなく見え、悪い
と思ってくれたのか、「ヒョウタンツギも描いときましょう」とヒョウタンツギ・アトムまで
描いてくれたのだ!すごく嬉しかった。以来、このパネルはぼくの宝として、今もずっと部屋
にある。

 それから六年後。ぼくはもう一度、番組で手怩ウんにお会いする。この時、神の奇跡を目の
あたりにするのだ。1986年から87年になる大晦日。明けて早々、深夜1時から『手塚治虫の
オールナイトニッポンスペシャル』という特番があった。もちろん生放送だ。ぼくはこれを
担当した。
 なにしろ生放送だ。お祭り感がある。大きなスタジオでの公開放送で、そこにリスナーの
子供たちも遊びにいらっしゃい……という形式になった。
 スタジオの壁に大きな模造紙を張り、手怩ウんに絵を描いてもらう。スタジオに来た子供
たちにも、そこに来年の抱負やメッセージなどを書き込んでもらい、合作で一枚の絵を作ろう
という、あたたかい企画もあった。
 当日、二時間ばかり前にスタジオ入りした手怩ウんは、「絵を描く?いいですよ」と墨汁と
ペンを持って、描きはじめた。これが凄かったのだ!